(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】マイクロ流体チップの使用方法およびマイクロ流体デバイス
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20241029BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20241029BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20241029BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12Q1/6806 Z
C12Q1/02
G01N37/00 101
(21)【出願番号】P 2022530682
(86)(22)【出願日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 CN2020126616
(87)【国際公開番号】W WO2021103970
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】201911168937.9
(32)【優先日】2019-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】523381413
【氏名又は名称】▲蘇▼州▲徳▼▲運▼康瑞生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼ 朝勇
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 明霞
(72)【発明者】
【氏名】▲鄒▼ ▲遠▼
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107012067(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105498871(CN,A)
【文献】特表2015-534193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流体チップを使用する方法であって、
ガスを前記マイクロ流体チップ内に導入し、前記マイクロ流体チップ内に注入されていた液体を置き換えることと、
前記マイクロ流体チップ内に、一つ以上のマイクロ反応室を、ガスの中に液体が含まれたかたちで形成することと、
を有し、
前記マイクロ流体チップは、捕獲層を備え、
前記捕獲層は、粒子捕獲流路を備え、
前記粒子捕獲流路は、1つ以上の単粒子捕獲単位を有し、
前記単粒子捕獲単位のそれぞれは、流路と、貯蔵室と、捕獲流路と、を備えており、
前記粒子捕獲流路には、前記マイクロ流体チップに流体を注入するための1つ以上の入口及び出口が設けられており、
前記貯蔵室は、前記流路の二つの端部の間に位置し、前記流路の流体導入端と接続し、
前記捕獲流路は、前記貯蔵室を、前記流路の流体吐出端に接続し、
前記捕獲流路の直径は、捕獲対象の粒子の直径よりも小さい、方法。
【請求項2】
前記マイクロ流体チップ内に注入された前記液体は、複数の粒子を含む、または含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数の粒子は、複数の細胞、複数の細胞集合体、複数の微生物、複数の微生物集合体、複数のファージ、複数のエクソソーム、複数のミセル、および複数の人工ミクロスフェアを含み、
前記複数の人工ミクロスフェアは、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸、ポリメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエステル、シリカ、およびグラフェンからなるミクロスフェアを好ましくは含み、
前記複数の人工ミクロスフェアは、目的とする検出を実現するために、その複数の表面物質上に複数の核酸、複数の核酸アプタマー、複数のタンパク質、および複数のポリペプチドを好ましくは有し、
前記複数の人工ミクロスフェアは、好ましくは、RNAを捕獲するための核酸配列により改質された複数のミクロスフェア、遺伝子を捕獲するための核酸配列により改質された複数のミクロスフェア、または複数の核酸アプタマーあるいは複数の抗体のような一つ以上の分子により改質された複数のミクロスフェアである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ガスは、空気、窒素、酸素、ヘリウム、水素、二酸化炭素、ネオン、アルゴンおよびキセノンからなる群から選択される一種類のガスまたは複数種類のガスの組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ガスは、前記液体を前記マイクロ流体チップ内に注入する複数の注入口と同じ複数の注入口、またはそれらとは異なる複数の注入口を通して、前記マイクロ流体チップ内に導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ガスは、0.02L/minから1.00L/minの範囲内、または0.05L/minから0.70L/minの範囲内のガス流量で前記マイクロ流体チップ内に導入され、
前記ガスは、好ましくは0.04L/minのガス流量で前記マイクロ流体チップ内に導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ガスを導入するのに要する時間は、10分から90分、10分から40分、または15分から25分の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記マイクロ流体チップは、捕獲層と、制御層と、スライドと、を備え、
前記捕獲層は、互いに平行な2セットの
粒子捕獲流路(10、11)と、前記2セットの
粒子捕獲流路(10、11)同士を接続する接続流路(13)と、を備え、前記
粒子捕獲流路(10、11)は、その始端および終端のそれぞれにより直列接続された複数の捕獲単位(8、9)を有し、
前記複数の捕獲単位のそれぞれは、流路(101、111)と、貯蔵室(14、15)と、捕獲流路(16、17)と、を備えており、前記流路(101、111)はU字状管を備え、前記複数の捕獲単位のうちの前者の捕獲単位が有する、前記U字状管の左腕部の一端は、前記複数の捕獲単位のうちの後者の捕獲単位が有する、前記U字状管の右腕部の一端に接続され、
前記貯蔵室は、前記捕獲単位(8、9)における前記U字状管の前記左腕部と前記右腕部との間に位置し、第1流路、第2流路および第3流路からなる三つの流路のそれぞれが接続されており、前記第1流路は、前記U字状管の流体導入端につながり、捕獲対象の単粒子よりも大きな直径を有し、前記第2流路は、前記捕獲流路(16、17)であって、前記U字状管の流体吐出端につながり、前記捕獲対象の単粒子よりも小さな直径を有し、前記第3流路は、前記接続流路(13)であって、平行に配置された別の捕獲単位の前記貯蔵室につながり、前記捕獲対象の単粒子よりも小さな直径を有しており、
前記接続流路(13)は、前記二つの捕獲単位(8、9)それぞれにおける前記貯蔵室(14、15)同士を互いに接続しており、
前記
粒子捕獲流路(10、11)のそれぞれには、検体導入口(1、2)、ガス流入口(4、5)、および検体吐出口(6、7)が設けられており、
前記制御層は、前記接続流路(13)の下方または上方に配置され、前記接続流路(13)と交差し、膜(18)を介して前記接続流路(13)から分離されている、閉塞流路(12)を備えており、
前記閉塞流路(12)には流入口(3)が設けられている、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記2セットの粒子捕獲流路
(10、11)それぞれの寸法、ならびに前記粒子捕獲流路
(10、11)に含まれる前記捕獲単位の形状およびサイズは、互いに同じであるか、または互いに異なる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記2セットの
粒子捕獲流路(10、11)は、5~500μmの幅および5~500μmの深さを有し、前記接続流路(13)は、3~100μmの幅および3~100μmの深さを有する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記複数の粒子は、5~200μmの範囲内の直径を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記複数の粒子は、0.005mL/hから10mL/hの範囲内の流量で導入される
、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記マイクロ流体チップは、前記複数の貯蔵室(14、15)の容積を変化させる駆動ポンプ部をさらに備え、前記駆動ポンプ部は、接続された駆動ポンプ制御網流路(21、22)と、駆動ポンプ変形室(23、24)とをそれぞれ有し、前記駆動ポンプ制御網流路(21、22)には、駆動ポンプ導入口(19、20)がさらに設けられており、前記駆動ポンプ変形室(23、24)はそれぞれ、前記貯蔵室(14、15)の上端または下端に設けられ、かつ膜(25、26)により互いに分離されている、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
アッセイデータを得る方法であって、
アッセイの対象となる検体をマイクロ流体チップ内に投入し、前記マイクロ流体チップ内にガスを導入することにより、一つ以上のマイクロ反応室を、ガスの中に液体が含まれたかたちで形成することと、測定により前記アッセイデータを得ることと、を有し、
前記アッセイデータを、例えば標準曲線のような、データベースに格納された対応するデータと比較することと、前記アッセイされた検体が有する特性について定量化したデータを得ることと、をさらに有し、
前記マイクロ流体チップは、捕獲層を備え、
前記捕獲層は、粒子捕獲流路を備え、
前記粒子捕獲流路は、1つ以上の単粒子捕獲単位を有し、
前記単粒子捕獲単位のそれぞれは、流路と、貯蔵室と、捕獲流路と、を備えており、
前記粒子捕獲流路には、前記マイクロ流体チップに流体を注入するための1つ以上の入口及び出口が設けられており、
前記貯蔵室は、前記流路の二つの端部の間に位置し、前記流路の流体導入端と接続し、
前記捕獲流路は、前記貯蔵室を、前記流路の流体吐出端に接続し、
前記捕獲流路の直径は、捕獲対象の粒子の直径よりも小さい、方法。
【請求項15】
コンピュータにより読取可能な記録媒体に記録されるかたちで実現されるコンピュータプログラム製品であって、
コンピュータ上で実行される際に、実行する工程は、マイクロ流体チップ内にガスを制御して導入することを含み、
前記マイクロ流体チップは、捕獲層を備え、
前記捕獲層は、粒子捕獲流路を備え、
前記粒子捕獲流路は、1つ以上の単粒子捕獲単位を有し、
前記単粒子捕獲単位のそれぞれは、流路と、貯蔵室と、捕獲流路と、を備えており、
前記粒子捕獲流路には、前記マイクロ流体チップに流体を注入するための1つ以上の入口及び出口が設けられており、
前記貯蔵室は、前記流路の二つの端部の間に位置し、前記流路の流体導入端と接続し、
前記捕獲流路は、前記貯蔵室を、前記流路の流体吐出端に接続し、
前記捕獲流路の直径は、捕獲対象の粒子の直径よりも小さい、コンピュータプログラム製品。
【請求項16】
マイクロ流体チップと、
コンピュータにより読取可能な記録媒体に記録されるかたちで実現される、請求項15に記載のコンピュータプログラム製品と、
を備える、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体および分子生物学の分野に関し、具体的には、マイクロ流体チップを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞は、生物活動および生命活動の基本単位である。従来の方法により膨大な数の細胞を平均化された信号として分析・処理を行うと、人体内の各種生体系およびそれらの生体系を構成する細胞間の異種性への理解度の低下を招く。高スループットのシーケンシング技術の開発に伴い、単細胞・単粒子シーケンシング技術は、単細胞分析を実行する最も重要なツールの一つとなっている。その結果、単細胞・単粒子分析の効率・精度の飛躍的向上が実現されている。
【0003】
マイクロ流体チップは、生物学、化学およびその他関連する分野における基本的な操作単位である、検体の調整、反応、単離、検出ならびに細胞培養、分類および溶解をマイクロチップ上に一体化したものであり、系全体を流れる制御された流体を用いた微小流路を用いてネットワークを形成することにより、従来の化学的実験または生物学的実験の微細化・一体化を可能にする。マイクロ流体チップは、反応試薬の消費量が少なく、かつ活動時間が短いため、単細胞・単粒子分析に特に好適である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、この技術分野におけるマイクロ流体チップの分析プラットフォームによれば、多数の生化学的反応において適正な成果を挙げることを目的として、チップの流路内への各種試薬の添加が必要になることが多い。各種試薬を添加した後で、複数の隣接する反応単位間の信号干渉を防止し、高スループットな単細胞分析を実現すべく、油相(すなわち油封止)を用いて複数の連続する反応室を分離させることが多い。しかしながら、当然油と水とは相容れないものであるから、油相を用いると、以下に記す諸問題が発生し、高スループットで、多数の反応を含む処理を一枚のチップ上に一体的に実現することが難しくなる。具体的には、油と水の液滴が不安定に形成されるため、その後の細胞融合・溶解が難しくなる。また、油相がチップの流路内に残存して、流路を詰まらせ、チップの再利用を困難にすることもある。さらに、形成された油と水の液滴はカプセル化・解乳化の効果が低い。加えて、コストも高く、回収効率が低い点も問題である。
【0005】
本発明は従来技術のこのような問題を解決するためになされたものであり、その目的は、マイクロ流体チップを使用する方法を提供することにある。本発明の方法は、操作が容易であり、コストが低く、多種多様な用途に適用可能である。また本発明の方法によれば、流体を迅速に交換することが可能であり、高純度な単粒子を効率よく分離し、捕獲することも可能になる。さらに本発明の方法によれば、チップの詰まりを回避し、再利用を容易化することも可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のこれらの目的は、以下に記す解決手段により達成される。
【0007】
マイクロ流体チップを使用する方法であって、ガスを前記マイクロ流体チップ内に導入し、前記マイクロ流体チップ内に注入されていた液体を置き換えることと、前記マイクロ流体チップ内に、一つ以上のマイクロ反応室を、ガスの中に液体が含まれたかたちで形成することと、を有する、方法。
【0008】
本発明のいくつかの実施形態において、前記マイクロ流体チップ内に注入された前記液体は、複数の粒子を含む。本発明のいくつかの実施形態において、前記マイクロ流体チップ内に注入された前記液体は、複数の粒子を含まない。
【0009】
本発明のいくつかの実施形態において、前記複数のマイクロ反応室は、複数の粒子を含む。本発明の別のいくつかの実施形態において、前記複数のマイクロ反応室は、複数の粒子を含まない。
【0010】
ここで、本発明による「粒子」とは、当該技術分野において周知の粒子であり、捕獲し、分析し、反応させる必要がある粒子である。それらの粒子は、5μm~1000μmの範囲内(例えば、5μm~200μmの範囲内)の粒径を有する。当該技術分野において周知の粒子は、複数の細胞、複数の細胞集合体、複数の微生物、複数の微生物集合体、複数のファージ、複数のエクソソーム、複数のミセル、および複数の人工ミクロスフェアを含むが、それらに限定されるわけではない。ここで、それら複数の人工ミクロスフェアは、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸、ポリメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエステル(例えばPLGAおよびPLA)、シリカ、およびグラフェンのようなミクロスフェアを含むが、それらに限定されるわけではない。ここで、それら複数の人工ミクロスフェアは、目的とする検出を実現するその複数の表面物質上に、複数の核アプタマーのような各種化合物や、複数の核酸、複数のタンパク質、および複数のペプチドのような生体高分子を含むが、それらに限定されるわけではない。いくつかの実施形態において、前記複数の人工ミクロスフェアは、RNAを捕獲するための核酸配列により改質された複数のミクロスフェアである。別のいくつかの実施形態において、前記複数の人工ミクロスフェアは、遺伝子を捕獲するための核酸配列により改質された複数のミクロスフェアである。別のいくつかの実施形態において、前記複数の人工ミクロスフェアは、複数の核酸アプタマーあるいは複数の抗体のような複数の分子により改質された複数のミクロスフェアである。別のいくつかの実施形態において、前記複数の人工ミクロスフェアは、それら複数のミクロスフェア分子のうちの二つ以上で改質された複数のミクロスフェアである。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記マイクロ反応室は、単ミクロスフェアを含む。いくつかの実施形態において、前記マイクロ反応室は、単細胞を含む。いくつかの実施形態において、前記マイクロ反応室には、粒子が存在しない。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記ガスは、当該技術分野において従来から用いられている、どのガスであってもよく、空気、窒素、酸素、ヘリウム、水素、二酸化炭素、ネオン、アルゴンおよびキセノン等を含むが、それらに限定されるわけではない。これらのガスはいずれも単体で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。当業者であれば、実際の生化学的反応における相溶性の要件に応じて、適切なガスを選択して使用可能であろう。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記ガスは、前記液体を前記マイクロ流体チップ内に注入する注入口と同じ注入口を通して、前記マイクロ流体チップ内に導入される。いくつかの実施形態において、前記ガスは、前記液体を前記マイクロ流体チップ内に注入する複数の注入口とは異なる、複数の流入口を通して、前記マイクロ流体チップ内に導入される。いくつかの実施形態において、前記ガスは、異なる複数の流入口を通して、前記マイクロ流体チップ内に導入される。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態において、前記マイクロ流体チップのある開口部からガスが導入される時に、前記マイクロ流体チップ内に注入されていた前記液体は、そのガスに置き換えられ、別の開口部から流出する。
【0015】
本発明によるガスは、ガスボンベからガス管線を介して前記マイクロ流体チップ内に導入され得る。いくつかの実施形態において、ガスを同一の気相流入口または異なる気相流入口に導入するにあたって、同一のガスボンベを用いてもよい。別のいくつかの実施形態においては、ガスを同一の気相流入口または異なる気相流入口に導入するにあたって、異なる複数のガスボンベを用いてもよい。ガスボンベおよび接続配管の従来の使用方法については、当業者には既知であろう。
【0016】
いくつかの実施形態において、前記ガスは、0.02L/minから1.0L/minの範囲内のガス流量で前記マイクロ流体チップ内に導入される。いくつかの実施形態において、前記ガスは、0.05L/minから0.7L/minの範囲内のガス流量で前記マイクロ流体チップ内に導入される。いくつかの実施形態において、前記ガスは、0.06L/min、0.07L/min、0.08L/min、0.09L/min、または0.1L/minのガス流量で前記マイクロ流体チップ内に導入される。
【0017】
本発明において、前記ガスを導入するのに要する時間は、前記マイクロ流体チップ内に注入されている液体の全部またはその一部を前記ガスにより置き換える際の、実用上の必要性に応じて調整可能である。いくつかの実施形態において、前記ガスを導入するのに要する時間は、10分~90分である。いくつかの実施形態において、前記ガスを導入するのに要する時間は、10分~40分である。いくつかの実施形態において、前記ガスを導入するのに要する時間は、15分~25分である。
【0018】
ここで、本発明において使用されるマイクロ流体チップは、当該技術分野において従来から使用されているもので良い。例えばレビュー文献(Shembekar、Chaipanら、2016)あるいは教科書(Bing Seung Lin著「マイクロ・ナノ流体チップ研究室」)で例示されている各種マイクロ流体チップを、本発明により提供されるマイクロ流体チップの使用方法(すなわち、ガス封止方法)に適用可能である。また、本発明による方法は、特に、中華人民共和国特許出願CN107012067Aに記載のマイクロ流体チップと同様のチップに適用可能である。CN107012067Aにおいて、油相の流入口を気相の流入口に置き換え可能である。
【0019】
いくつかの実施形態において、前記マイクロ流体チップは、三つの部分、すなわち、捕獲層、制御層、およびスライドを備える。前記捕獲層は、互いに平行な2セットの粒子捕獲流路と、それら2セットの粒子捕獲流路同士を接続する接続流路と、を備える。前記複数の粒子捕獲流路は、複数の単粒子捕獲単位を有する。前記複数の捕獲単位は、それぞれ、流路と、貯蔵室と、捕獲流路と、を備える。前記捕獲流路の直径は、前記捕獲対象の粒子の直径よりも小さい。これにより単粒子を捕獲することが可能になる。前者の捕獲単位が有する流路の左端は、後者の捕獲単位が有する流路の右端に接続される。前記貯蔵室は、前記流路の前記二つの端部の間に位置し、第1流路、第2流路および第3流路からなる三つの流路を備える。前記第1流路は、前記流路の流体導入端につながり、捕獲対象の単粒子よりも大きな直径を有する。前記第2流路は、前記捕獲流路であって、前記流路の流体吐出端につながり、前記捕獲対象の単粒子よりも小さな直径を有する。前記第3流路は、前記接続流路であって、平行に配置された別の捕獲単位の前記貯蔵室につながり、前記捕獲対象の単粒子よりも小さな直径を有する。前記接続流路は、前記対をなす二つの捕獲単位それぞれの前記貯蔵室を互いに接続する。
【0020】
前記捕獲流路のそれぞれには、その前端部に粒子流入口が、前記端部に気相流入口が、および前記端部に粒子吐出口が設けられる。
【0021】
前記2セットの粒子捕獲流路それぞれの寸法(長さ、幅および高さ)、ならびに前記粒子捕獲流路に含まれる前記捕獲単位の形状およびサイズは、互いに同じであるか、または互いに異なる。
【0022】
前記制御層は、前記捕獲層の前記接続流路の直下または直上に配置され、膜を介して前記接続流路から分離されている、閉塞流路を備える。その閉塞流路には流入口が設けられる。
【0023】
前記捕獲層および前記制御層は、前記スライドの上方に位置する。
【0024】
いくつかの実施形態において、前記マイクロ流体チップは、前記粒子捕獲単位の前記貯蔵室の容積を変化させる駆動ポンプ部をさらに備える。前記駆動ポンプ部は、駆動ポンプ制御網流路と、駆動ポンプ変形室の組み合わせを有する。前記駆動ポンプ制御網流路には、駆動ポンプ導入口がさらに設けられる。前記駆動ポンプ変形室は、前記捕獲層の前記単粒子捕獲単位の前記貯蔵室の上方または下方に位置し、かつ前記膜により前記貯蔵室から分離される。
【0025】
いくつかの実施形態において、前記流路のサイズは、具体的に使用し、分析する対象の粒子のサイズにより決定される。一般に、前記捕獲流路の幅は、5μmから500μmの範囲内であり、例えば、5~100μm、100~300μm、300~500μm、5~50μm、50~200μm、200~400μm、10μm、20μm、50μm、80μm、100μm、200μm、300μmまたは400μmであり得るが、これらに限定されるわけではない。前記捕獲流路の深さは、5μmから500μmの範囲内であり、例えば、5~100μm、100~300μm、300~500μm、5~50μm、50~200μm、200~400μm、10μm、20μm、50μm、80μm、100μm、200μm、300μmまたは400μmであり得るが、これらに限定されるわけではない。前記接続流路の幅は、3μmから100μmの範囲内であり、例えば、3~30μm、30~50μm、50~100μm、10~40μm、40~80μm、5μm、10μm、20μm、50μm、60μm、70μm、80μmまたは90μmであり得るが、これらに限定されるわけではない。前記接続流路の深さは、3μmから100μmの範囲内であり、例えば、3~30μm、30~50μm、50~100μm、10~40μm、40~80μm、5μm、10μm、20μm、50μm、60μm、70μm、80μmまたは90μmであり得るが、これらに限定されるわけではない。
【0026】
いくつかの実施形態において、前記複数の粒子は、5μmから200μmの範囲内の直径を有し、ミクロンオーダーのミクロスフェアまたは細胞であり得る。複数のミクロスフェア同士、複数の細胞同士、または複数のミクロスフェアと複数の細胞とをペアリングする目的で、前記マイクロ流体チップを使用しても良い。
【0027】
いくつかの実施形態において、前記複数のミクロスフェアは、例えば5μmから200μmの範囲内の直径を有し得、5μm、10μm、15μm、20μm、30μm、70μm、80μm、90μm、100μm、120μm、150μmまたは180μmの直径を有し得るが、これらに限定されるわけではない。
【0028】
いくつかの実施形態において、前記複数の細胞は、例えば5μmから100μmの範囲内の直径を有し得、5μm、10μm、15μm、20μm、30μm、70μm、80μm、または90μmの直径を有し得るが、これらに限定されるわけではない。
【0029】
いくつかの実施形態において、本発明によるマイクロ流体チップにおいて用いられる、前記捕獲層および前記スライドの材料は、シリコンウエハ、ガラス、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルクロリド、ポリエステル等であり得る。前記制御層の材料は、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルクロリド、ポリエステル等であり得る。
【0030】
いくつかの実施形態において、前記捕獲層および前記制御層の材料は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)であり得、前記スライドの材料はガラスであり得る。
【0031】
いくつかの実施形態において、前記捕獲層および前記制御層は、サーマルキャリブレーションにより可逆的に結合された後、前記スライドにプラズマ結合される。
【0032】
いくつかの実施形態において、前記捕獲層および前記制御層は、プラズマ表面活性化により結合された後、前記スライドにプラズマにより結合される。
【0033】
いくつかの実施形態において、前記複数の粒子は、例えば0.005mL/hから10mL/hの範囲内の流量で導入され、0.005mL/h~0.05mL/h、0.05mL/h~0.1mL/h、0.1mL/h~0.5mL/h、0.5mL/h~2mL/h、2mL/h~6mL/h、6mL/h~10mL/h、0.05mL/h~0.5mL/h、0.5mL/h~3mL/h、3mL/h~8mL/h、0.01mL/h、0.05mL/h、0.1mL/h、0.2mL/h、0.5mL/h、0.8mL/h、1mL/h、2mL/h、4mL/h、6mL/h、または8mL/hの流量で導入され得るが、これらに限定されるわけではない。
【0034】
いくつかの実施形態において、前記閉塞ポンプは、流体の導入を通して変形することにより、前記捕獲層の接続流路に対する障壁のはたらきをする。前記閉塞ポンプ内に充填される流体は、水溶液、油、または空気であり、それらはシリンジポンプにより導入され得る。シリンジポンプの圧力を制御することにより、前記閉塞ポンプの圧力が制御される。すなわち、前記捕獲層の接続流路に対する閉塞の度合いが制御される。
【0035】
いくつかの実施形態において、前記マイクロ流体チップの基本的な動作の流れは、以下のとおりである。
【0036】
工程A:前記閉塞ポンプの圧力を上昇させ前記障壁流路を変形させることにより、前記互いに平行な2セットの粒子捕獲流路間の接続流路が完全に閉塞されるまで、その接続流路の最上層を前記膜に圧搾させ、それにより、複数の粒子を含む液体を、1セットの粒子捕獲流路の流入口から導入する。単粒子が捕獲単位に入るとき、その粒子はまず貯蔵室内に入る。なぜなら、前記流路を通る流体の経路は、貯蔵室を通る経路よりも長いからである。前記捕獲流路の幅(管の直径)は粒子の直径よりも小さいので、粒子は捕獲流路の正面で動けなくなり、捕獲流路を閉塞させる。これにより、前記貯蔵室を通る流体の流量がゼロに近づくことになる。この時点で、それに続く粒子は、前記貯蔵室に再び入ることはできなくなり、前記流路を通して次の捕獲単位に入ることしかできなくなる。これにより、単粒子の捕獲が実現される。後に続く複数の粒子捕獲単位においても同様のプロセスが繰り返されることにより、高スループットな単粒子捕獲が実現される。
【0037】
工程B:前記粒子捕獲流路により単粒子捕獲を実現させるために、気相流入口を通してガスを導入する。このガスが捕獲単位に入るとき、ガスは前記貯蔵室には入らず、前記捕獲流路に入る。なぜなら、捕獲流路の幅は、流路の幅よりも大幅に小さいので、結果的に毛細血管抵抗が高くなるからである。このとき、貯蔵室内の液体が保持されることにより、液体内にガスがカプセル封入されたマイクロ反応室が形成される。前記ガスが前記チップの全体を流れるとき、前記流路内の全捕獲単位が互いに単離され、ガスの中に液体の含まれた個々の液滴を生成する。これにより、ガスの中に液体の含まれた個々のマイクロ反応室を互いに分離することが可能になる。
【0038】
前記捕獲流路の幅が前記流路の幅よりも大幅に小さいため、前記ガスが前記捕獲単位に入るとき、その毛細血管抵抗が増大する。これにより、そのガスは前記貯蔵室には入らず、前記捕獲流路に入る。このとき、前記貯蔵室内の液体が保持されることにより、ガスの中に液体が含まれたかたちのマイクロ反応室が形成される。前記ガスが前記チップの全体を流れるとき、前記粒子捕獲流路内の全捕獲単位が互いに単離され、ガスの中に液体の含まれた個々の液滴を生成する。これにより、ガスの中に液体の含まれた個々のマイクロ反応室を互いに分離することが可能になる。
【0039】
いくつかの実施形態において、この動作の流れは、前記工程Bの前に以下の工程A-1をさらに含んでもよい。
【0040】
工程A-1:粒子捕獲を実現する、前記粒子捕獲流路の検体導入口を通した次の工程を実行するのに必要な液体を導入し、前記流路内の残留粒子を含む液体を溶離する。
【0041】
いくつかの実施形態において、工程A-1および/または工程Bは、実用上必要な回数だけ繰り返し実行しても良い。工程A-1および/または工程Bが実行されるたびに、同じ液体および/またはガスを用いても良いし、異なる液体および/またはガスを用いても良い。
【0042】
いくつかの実施形態において、工程Bの後、工程C、工程C-1および工程Dを、それぞれ工程A、工程A-1および工程Bと同様に実行することにより、単粒子捕獲をまだ達成していない、別セットの粒子捕獲流路について、高スループットな単粒子捕獲を実現する。いくつかの実施形態において、工程C-1および/または工程Dは、実用上必要な回数だけ繰り返し実行しても良い。工程C-1および/または工程Dが実行されるたびに、同じ液体および/またはガスを用いても良いし、異なる液体および/またはガスを用いても良い。その後、この動作の流れは、さらに以下の工程を含む。
【0043】
工程E:前記閉塞ポンプを減速させるか、完全に停止させる。この時点において、互いに平行な2セットの粒子捕獲流路間の接続流路が開放される。これら互いに平行な2セットの粒子捕獲流路をペアリングするための、ガスの中に液体の含まれたマイクロ反応室は、相互接続状態にある。拡散により、前記二つの貯蔵室内の、ガスの中に液体の含まれたマイクロ反応室は、物質を相互交換することが可能になる。十分な反応期間を経た後、高スループットな独立した反応が、これらのペアリングされた粒子間に実現される。
【0044】
いくつかの実施形態において、工程Eでは、前記2セットの粒子捕獲流路の各捕獲単位に含まれる前記貯蔵室の底部に位置する駆動ポンプを用いて、前記複数の貯蔵室の容積を交互に変化させ、前記二つの捕獲単位の前記二つの貯蔵室内の物質の迅速な交換を容易化してもよい。
【0045】
いくつかの実施形態において、工程Eの後、上記工程A~Dのうちいずれか一つの工程またはそのうちのいくつかの工程を繰り返し実行してもよい。例えば、工程Bおよび工程A-1を繰り返してもよく、工程Aおよび工程B、ならびに必要な場合は、工程A-1および工程Cを繰り返しても良いし、あるいは工程B、ならびに必要な場合には、工程A-1および工程Cを繰り返しても良い。液体の置換を繰り返して実行し、ガスの中に液体の含まれたマイクロ反応室を形成することにより、多種多様な反応粒子および試薬の添加・置換のような多機能な操作を実現し、複数の反応室を形成することが可能になる。
【0046】
いくつかの実施形態において、この動作の流れの最終工程は、以下の工程Fである。
【0047】
工程F:前記制御層から前記捕獲層を引きはがし、かつ前記チップの表面に露出し、前記貯蔵室内に含まれる、捕獲または反応済の複数の粒子を、緩衝溶液で溶離させ、その後の分析研究に回す。
【0048】
また、本発明によれば、ガスの中に液体の含まれたかたちの、一つ以上のマイクロ反応室を含むマイクロ流体チップも提供される。ここで、ガスの中に液体の含まれたかたちの、一つ以上のマイクロ反応室は、既に規定したとおりのものである。
【0049】
また、本発明によれば、アッセイデータを得る方法も提供される。この方法は、アッセイの対象となる検体をマイクロ流体チップ内に投入し、前記マイクロ流体チップ内にガスを導入することにより、一つ以上のマイクロ反応室を、ガスの中に液体が含まれたかたちで形成することと、測定により前記アッセイデータを得ることと、を有する。
【0050】
また、アッセイデータを得る前記方法は、前記アッセイデータを、例えば標準曲線のような、データベースに格納された対応するデータと比較することと、前記アッセイされた検体を定量化するデータを得ることと、をさらに有する。
【0051】
さらに、本発明によれば、コンピュータにより読取可能な媒体のかたちで実現されるコンピュータプログラム製品も提供される。このコンピュータプログラム製品がコンピュータ上で実行される際に、実行する工程は、前記マイクロ流体チップ内にガスを制御して導入することを含む。
【0052】
さらに、本発明によれば、コンピュータにより読取可能な媒体のかたちで実現される別のコンピュータプログラム製品も提供される。そのコンピュータプログラム製品がコンピュータ上で実行される際に、実行する工程は、アッセイの対象となる検体が装填された、前記マイクロ流体チップ内にガスを導入することと、ガスの中に液体の含まれたかたちの一つ以上のマイクロ反応室が形成されるのを待つことと、その後、前記検体用にアッセイデータを測定して得ることと、を含む。
【0053】
さらに、本発明によれば、マイクロ流体チップと、コンピュータにより読取可能な媒体のかたちで実現されるコンピュータプログラム製品と、を備える、キットも提供される。
【0054】
本発明により実現される有益な効果は、以下のとおりである。
【0055】
1. 本発明の方法によれば、ガスの中に液体の含まれたマイクロ反応室を安定的に形成することが可能になる。これにより、マイクロ流体チップにおいて「油封止」法を用いた場合、乳化が難しく、油と水がその界面上で分離してしまい、油・水の液滴を効果的に形成できない課題が解決可能となる。
【0056】
2. 本発明による方法において用いられるガスは安価で入手も容易であり、バッチ間の差も無く、システムは安定している。これにより、「油封止」法においては、表面活性剤を含む油相が高価であり、バッチ間の差も大きいため結果が不安定になるという課題が解決可能になる。
【0057】
3. 本発明の方法によれば、前記マイクロ流体チップの流路から溶液の試薬を容易に除去可能になる。これにより、従来の「油封止」法で見られる、マイクロ流体チップの流路上のマイクロ乳濁液の液滴の残留が回避可能となり、新たな試薬を個々の液滴に置換可能となり、多数の試薬を順次添加することが可能となる。その結果、マイクロ流体チップに対して実行可能な単粒子依存試験の範囲を大幅に拡大することができ、実験、試験および分析の効率を向上させることができる。
【0058】
4. 従来の「油封止」法では、「油の中に水が含まれた」かたちの捕獲された粒子の乳濁液を分離させる乳濁液分離剤の使用が必要になる。これはしばしば有効性の低下とコストの上昇を招く。これに対して、本発明の方法によれば、「バックグラウンドでの差し引き」が効果的に実現可能となり、捕獲した粒子の破壊を100パーセント回避して回収可能となる。これにより、従来の「油封止」法において油を用いたカプセル化により発生する、粒子汚染の問題が解決可能となり、ミクロスフェアを抽出・回収する際に、ミクロスフェア損失率が高くなる問題も解決可能となる。
【0059】
5. 捕獲した粒子のペアリングを可能にするマイクロ流体チップにおいて、本発明の方法によれば、液滴を安定的に混合し、試薬を安定的に置換することが可能になる。その結果、従来の「油封止」法では、有効にペアリング可能な液滴の割合が低い問題が解決可能となる。また、従来の「油封止」法では、油の膜を用いてペアリングされた液滴を単離するため、ペアリングされた液滴を溶融させることが難しくなり、その結果、粒子(例えば細胞)を溶解させることができないという問題も解決可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】
図1は、マイクロ流体チップの全体構造を示す上面図であり、1および2は検体導入口、3は閉塞ポンプ導入口、4および5はガス流入口、6および7は検体取り出し口を示す図である。
【
図2】
図2は、同上のマイクロ流体チップを拡大した構造を示す模式図であり、8および9は粒子捕獲単位、10および11は粒子捕獲流路、12は閉塞流路、13は接続流路を示す図である。
【
図3】
図3は、同上の粒子捕獲単位を示す上面図であり、10および11は粒子捕獲流路、12は閉塞流路、13は接続流路、14および15は貯蔵室、16および17は粒子捕獲流路をそれぞれ示す図である。
【
図4】
図4は、同上の粒子捕獲単位の断面図であり、13は接続流路、14および15は貯蔵室、12は閉塞流路、18は膜を示す図である。
【
図5】
図5は、圧力駆動マイクロ流体チップの全体構造を示す上面図であり、19および20は駆動ポンプ導入口を示す図である。
【
図6】
図6は、同上の圧力駆動マイクロ流体チップを拡大した構造を示す模式図であり、21および22は駆動ポンプ制御網流路を示す図である。
【
図7】
図7は、同上の圧力駆動マイクロ流体チップが有する粒子・細胞ペアリング捕獲単位を示す上面図であり、23および24は、同上の粒子捕獲単位の駆動ポンプ変形室を示す図である。
【
図8】
図8は、同上の圧力駆動マイクロ流体チップが有する粒子・細胞ペアリング捕獲単位の断面図であり、25および26は膜を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明による方法を用いて、同上のマイクロ流体チップ内にガスを導入した後、顕微鏡を通して観察された、ガス内に水が含まれる形に形成されたマイクロ反応室を示す図である。
【
図10】
図10は、本発明による方法を用いて、同上のマイクロ流体チップ内にガスを導入した後、ガス内に水が含まれる形(粒子を含む)に形成されたマイクロ反応室を示す図である。
【
図11】
図11は、本発明による方法を用いて、同上のマイクロ流体チップ内にガスを導入した後、顕微鏡を通して蛍光視野内に観察された、複数のペアリングされたマイクロ反応室の混合工程を示す図である。
【
図12】
図12は、本発明による方法を用いて、同上のマイクロ流体チップ内にガスを導入した後で、そのチップ内の溶液を置換する様子を示す、模式図および顕微鏡写真である。
【
図13】
図13は、本発明による方法(気相置換)を用いてチップ内にガスを導入した場合と、従来技術による方法(油相置換)を用いた場合とで、ミクロスフェアを捕獲し、反応させた後にミクロスフェアを回収した結果がどのように異なるかを統計データに基づいて比較して示すグラフである。
【
図14】
図14は、本発明による方法を用いて、同上のチップ内にガスを導入した後、同上の粒子を捕獲し、反応させ、回収した前後の、同上のチップを示す、顕微鏡による上面図である。
【
図15】
図15は、従来技術による油相を用いて、油の中に水の含まれたマイクロ反応室を形成した場合の、同上のチップの顕微鏡写真を示す図である。
【
図16】
図16は、従来技術による油相を用いて、油の中に水の含まれたマイクロ反応室を形成した場合の、同上のチップの顕微鏡蛍光イメージング写真を示す図である。
【
図17】
図17は、従来技術による油相を用いて、油の中に水の含まれたマイクロ反応室を形成した場合の、同上のチップのチップ上顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
(実施例1)
本発明のマイクロ流体チップ使用方法によれば、高いスループットで単粒子をペアリングし、捕獲することが可能になる。ここで使用するチップを
図1~4に示す。捕獲層と、制御層と、スライドとを備えたチップは、標準的なソフトリソグラフィ技術により準備される。捕獲層は、捕獲流路10、捕獲流路11、および接続流路13から構成される。制御層は、閉塞流路12からなる。捕獲流路10は、始端と終端とにおいて直列に接続された、複数の粒子捕獲単位8をさらに備える。各粒子捕獲単位は、流路101と、貯蔵室14と、捕獲流路16と、備える。
図3に示すように、流路101は、U字状管(他の実施形態では、円弧状でもジグザグ状でもよい)を備え、前者の捕獲単位のU字状管の左腕部の一端は、後者の捕獲単位が有する、U字状管の右腕部の一端に接続され、U字状管同士の間の接続部は、直線状である。貯蔵室14は、U字状管の二つの腕部の間に位置し、三つの流路が設けられる。第1流路は、U字状管の右腕部につながり、捕獲対象の単粒子よりも大きな直径を有する。第2流路(捕獲流路16)は、U字状管の左腕部につながり、捕獲対象の単粒子よりも小さな直径を有する。第3流路は、接続流路13であって、平行に配置された別の粒子捕獲単位9の貯蔵室15につながり、捕獲対象の単粒子よりも小さな直径を有する。
【0062】
捕獲流路11は、その始端および終端において直列接続された、複数の捕獲単位9を有する。粒子捕獲単位9と、粒子捕獲単位8とは対称的に配置される。粒子捕獲単位9は、流路111と、貯蔵室15と、捕獲流路17と、備える。
図3に示すように、流路111は、U字状管を備え、前者の捕獲単位のU字状管の左腕部の一端は、後者の捕獲単位が有する、U字状管の右腕部の一端に接続され、U字状管同士の間の接続部は、直線状である。貯蔵室15は、U字状管の二つの腕部の間に位置し、三つの流路が設けられる。第1流路は、U字状管の右腕部につながり、捕獲対象の単粒子よりも大きな直径を有する。第2流路(捕獲流路17)は、U字状管の左腕部につながり、捕獲対象の単粒子よりも小さな直径を有する。第3流路は、接続流路13であって、平行に配置された別の粒子捕獲単位8の貯蔵室14につながり、捕獲対象の単粒子よりも小さな直径を有する。
【0063】
捕獲流路10には、検体導入口1、ガス流入口4、および吐出口7が設けられる。捕獲流路11には、検体導入口2、ガス流入口5、および吐出口6が設けられる。
【0064】
制御層には閉塞流路12が設けられる。閉塞流路12は、接続流路13の下方に接続流路13に対して垂直に(別の実施形態では、ある角度をなして)配置され、膜18を介して接続流路13から分離される。
【0065】
閉塞流路12は閉塞ポンプに接続される。閉塞ポンプにより閉塞流路12の圧力を変化させることにより、接続流路を選択的に閉塞または接続する(
図4参照)。閉塞流路12には、流入口3が設けられる。
【0066】
本発明のある好ましい実施形態において、前記複数の流路の幅は60μmであり、前記複数の貯蔵室の直径は100μmであり、前記複数の粒子捕獲流路の幅は6μmまたは15μmであり、前記複数の流路の深さは46μmであり、複数の粒子捕獲単位の個数は720である。
【0067】
本発明のある好ましい実施形態において、使用する粒子は、細胞直径が10~20μmのA549細胞である。
【0068】
本発明のある好ましい実施形態において、使用する粒子は、直径が40μmのポリスチレン・ミクロスフェアである。
【0069】
本発明のある好ましい実施形態において、使用するポリスチレン・ミクロスフェアは、mRNA捕獲配列T30を含む。mRNA捕獲配列T30は、ポリA鎖を有するmRNAと雑種核酸を形成する。
【0070】
本発明のある好ましい実施形態において、前記制御層に含まれる前記閉塞流路および前記駆動ポンプ変形室の幅は30μmであり、高さは30μmである。
【0071】
本発明のある好ましい実施形態において、前記流入口はすべて、直径1.00mmの円筒形状の穴である。
【0072】
本発明のある好ましい実施形態において、前記捕獲層および制御層の材料は、ともにポリジメチルシロキサン(PDMS)である。
【0073】
本発明のある好ましい実施形態において、前記スライドの材料はガラスである。
【0074】
本発明のある好ましい実施形態において、前記閉塞流路および前記駆動ポンプ変形室にはともに水溶液が充填され、その圧力は、シリンジポンプの駆動圧力を制御することにより制御される。
【0075】
本発明のある好ましい実施形態において、採用する細胞流量は0.04mL/hである。
【0076】
本発明のある好ましい実施形態において、採用するミクロスフェア流量は0.2mL/hである。
【0077】
本発明のある好ましい実施形態において、採用する気相流量は0.04mL/minである。
【0078】
本発明のある好ましい実施形態において、本発明による具体的な動作の流れは以下のとおりである。
【0079】
工程A:閉塞ポンプを開き、閉塞流路12の圧力を上昇させる。膜18は、上向きに変形する。このとき、接続流路13は閉塞される。A549細胞の懸濁液が、検体導入口1より、シリンジポンプを用いて注入される。単細胞が粒子捕獲単位8に入るとき、その細胞はまず貯蔵室14に入る。捕獲流路は、その細胞よりもサイズが小さいので、細胞は、捕獲流路を閉塞しつつ、捕獲流路16の正面で動けなくなる。この時点で、貯蔵室14を通る流体の流量がゼロに近づくことになる。それに続く粒子は、粒子貯蔵室に再び入ることはできなくなり、流路101を通して次の捕獲室に入ることしかできなくなる。これにより、単細胞の捕獲が実現される。後に続く複数の粒子室においてもこのプロセスが繰り返されることにより、高スループットな単細胞捕獲が実現される。
【0080】
工程A-1:接続流路13を閉鎖したままとし、PBS溶液が検体導入口1より導入されることにより、流路101を通して余剰細胞をチップから溶離する。
【0081】
工程B:検体導入口1の管を除去し、吐出口7をふさいだ上で、シリンジポンプシステムを用いて、ガス流入口4を通して空気を導入する。この空気が粒子捕獲室8に入るとき、空気は捕獲流路16には入らず、流路101に入る。なぜなら、捕獲流路16のサイズは、流路101のサイズよりも大幅に小さいので、結果的に毛細血管抵抗が高くなるからである。このとき、粒子貯蔵室内の溶液が保持されることにより、各マイクロ反応室が単細胞を含むように、ガスの中に水が含まれたマイクロ反応室が形成される。これにより、貯蔵室内において単細胞を単離する。前記空気流がチップの全体を流れるとき、ガスの中に水の含まれた複数のマイクロ反応室において、すべての単細胞が個別に単離される。
【0082】
工程C:エンコードされたミクロスフェアの懸濁液(MACOSKO-2011-10(V+)、バーコード付きのオリゴdTプライマーONビーズ)が、検体導入口2において、シリンジポンプを用いて0.2mL/hの流量で注入される。単ミクロスフェアがミクロスフェア捕獲単位9に入るとき、そのミクロスフェアはまず貯蔵室15に入る。捕獲流路17の直径は、そのミクロスフェアよりもサイズが小さいので、ミクロスフェアは、捕獲流路17を閉塞しつつ、捕獲流路17の正面で動けなくなる。この時点で、貯蔵室15を通る液体の流量がゼロに近づくことになる。それに続くミクロスフェアは、ミクロスフェア貯蔵室に再び入ることはできなくなり、流路111を通して次の捕獲単位に入ることしかできなくなる。これにより、単ミクロスフェアの捕獲が実現される。後に続く複数の室においてもこのプロセスが繰り返されることにより、高スループットな単ミクロスフェア捕獲が実現される。
【0083】
工程C-1:接続流路13を閉鎖したままとし、細胞溶解液(0.2%Triton X-100)が検体導入口2より導入されることにより、流路を通して余剰ミクロスフェアをチップから溶離し、捕獲流路における溶液を細胞溶解液で置換する。
【0084】
工程D:粒子流入口2の管を除去し、吐出口6をふさいだ上で、シリンジポンプシステムを用いて、ガス流入口5を通して空気が導入される。この空気が粒子捕獲単位9に入るとき、空気は捕獲流路17には入らず、流路111に入る。なぜなら、捕獲流路17のサイズは、流路111のサイズよりも大幅に小さいので、結果的に毛細血管抵抗が高くなるからである。このとき、粒子貯蔵室内の溶液が保持されることにより、各マイクロ反応室が単ミクロスフェアを含むように、ガス内に液体が含まれたマイクロ反応室が形成される。これにより、貯蔵室内において個々のミクロスフェアを単離する。前記空気流がチップの全体を流れるとき、ガスの中に水の含まれた(前記液滴が細胞溶液を含む)複数のマイクロ反応室において、すべての単ミクロスフェアが単離される。
【0085】
工程E:閉塞流路12を閉鎖し、その時点において、接続流路13を開放する。カプセル封入された細胞とミクロスフェアのペアリングされた液滴が互いに接続された時点において、ミクロスフェア貯蔵室15内の細胞溶解液は、細胞貯蔵室14に入り、拡散による細胞溶解が可能な状態になる。細胞溶解後、細胞溶解液に含有される細胞の内容物は、拡散によりミクロスフェア貯蔵室15に入ることが可能になる。ここで、細胞の内容物に含まれる、ポリA鎖を有するmRNAは、ミクロスフェア上のT30と雑種核酸を形成可能である。一定期間の後、二つのペアリングされた室間で物質の十分な交換がなされ、完全な細胞溶解と単細胞mRNA抽出が実現される。ペアリングされた単ミクロスフェアあるいは単細胞はFC40により単離されるので、それらの細胞とミクロスフェアとの間で物理的な接触が起こることは無く、相互汚染が生じることも無い。したがって、複数の単ミクロスフェアを有する複数の単細胞からmRNAを高いスループットで捕獲することが可能になる。
【0086】
工程F:捕獲層を引きはがし、かつ前記室内に捕獲された複数のミクロスフェアまたは複数の細胞をチップの表面に露出させる。それら複数のミクロスフェアまたは複数の細胞を、緩衝溶液で溶離させる。このようにして抽出した単細胞mRNAは、その後の分析・研究に回されることになる。
【0087】
(実施例2)
実施例1では、二つのペアリングされた液滴間の物質の交換は受動的拡散により達成されるので、その交換率は低い。そこで、二つのペアリングされた液滴間における物質の交換を加速させるために、実施例1で例示したチップに対して、駆動ポンプ部を追加することにより、二つの液滴間の混合を制御し、二つのペアリングされた室間の液滴の分布を制御する。
【0088】
以下、添付の図面を参照し、複数のミクロスフェアと複数の細胞とをペアリングして捕獲する具体的な実施形態を一例として述べることにより、本発明をより詳細に説明する。
【0089】
図5~8に示すように、前記チップは、実施例1の各要素に加えて、駆動ポンプ制御網流路21と、駆動ポンプ制御網流路22と、駆動ポンプ変形室23と、駆動ポンプ変形室24と、をさらに備える。駆動ポンプ制御網流路21、22には、駆動ポンプ導入口19、20がそれぞれ設けられる。駆動ポンプ制御網流路21、22は、駆動ポンプ変形室23、24にそれぞれ接続される。駆動ポンプ変形室23、24は、それぞれ貯蔵室14、15の底部に位置し、膜25、26により貯蔵室14、15から隔てられている。
【0090】
本発明の好ましい実施形態によれば、具体的な動作の流れは以下のとおりである。
【0091】
実施例1と同様に、工程Eにおいて、閉塞流路12を閉鎖する時点において、接続流路13を開放する。その時点において、複数の細胞と複数のミクロスフェアをカプセル封入した、ペアリングされた液滴が互いに接続される。駆動ポンプ制御網流路22の圧力を上昇させる。駆動ポンプ変形室24が膨張すると、膜26が上向きに突出する。粒子貯蔵室15の容積を低下させ、その室15内の細胞溶解液を粒子貯蔵室14内にポンプにより導入させる一方で、駆動ポンプ制御網流路21の圧力を低下させる。この時点で、駆動ポンプ変形室23は縮小し、膜25は下向きに凹む。粒子貯蔵室14の容積が増加するにつれて、粒子貯蔵室15内の細胞溶解液がポンプにより粒子貯蔵室14内に導入される。駆動ポンプ制御網流路22の圧力を低下させると、駆動ポンプ変形室24は縮小し、膜25は下向きに凹む。粒子貯蔵室15の容積が増加するにつれて、粒子貯蔵室15内の溶液がポンプにより粒子貯蔵室14内に導入される。一方、駆動ポンプ制御網流路21の圧力を上昇させると、駆動ポンプ変形室23は膨張し、膜25は下向きに凹む。これにより、粒子貯蔵室15内の溶液はポンプにより粒子貯蔵室14内に導入される。室23が膨張するにつれて、膜25は上向きに突出する。粒子貯蔵室14の容積が減少するにつれて、室14内の溶液もまたポンプにより粒子貯蔵室15内に導入される。このサイクルを何回か繰り返すことにより、粒子貯蔵室14および粒子貯蔵室15に含まれる物質を迅速に交換可能となる。粒子貯蔵室15内の細胞溶解液は、それとペアリングされた細胞を溶離し得る。細胞が溶離された後、分離されたポリA鎖を有するmRNAは、粒子捕獲室に入り、複数のミクロスフェア上のT30と雑種核酸を形成可能である。ペアリングされた単ミクロスフェアあるいは単細胞はFC40により単離されるので、それらの細胞とミクロスフェアとの間で物理的な接触が起こることは無く、相互汚染が生じることも無い。したがって、複数の単ミクロスフェアを有する複数の単細胞からmRNAを高いスループットで捕獲することが可能になる。これにより得られた結果を表す顕微鏡写真を
図9~11に示す。
【0092】
(実施例3)
実施例1~2においては、流路において、溶液または試薬の置換を一回だけ行ったが、本発明の気相置換法によれば、流路において流体を複数回置換し、複数の独立したマイクロ反応室を複数回形成することも可能である。これにより、捕獲した複数のミクロスフェアおよび/または複数の細胞を、異なる複数の溶液において個別または同時に相互作用させたり、複数の化学反応を起こさせたりすることも可能となる。
【0093】
実施例2と同様に、工程Eの後、以下の工程が行われる。
【0094】
工程E-1:駆動ポンプ制御網流路22の圧力を上昇させる。その時点において、駆動ポンプ変形室24が膨張すると、膜26が上向きに突出する。粒子貯蔵室15の容積を低下させ、ペアリングされた捕獲単位内の溶液をすべて細胞捕獲室内に排出させる。閉塞流路12を開放する時点において、接続流路13を閉鎖し、二つの検体導入口1および2より、1×PBSを0.2mL/hの流量で注入することにより、複数のミクロスフェアを完全に洗浄する。このとき、それらのミクロスフェアがフリーRNAで洗浄中に汚染されないようにする。
【0095】
工程E-2:閉塞流路12を閉鎖する時点において、接続流路13を開放する。RT混合物(1×Maxima RT緩衝液、1mMのdNTP(Clontech製、参照番号639125))、1U/μLのRNAase阻害剤(Lucigen製、参照番号30281-2)、2.5μMのテンプレート_スイッチ_オリゴ、および10U/μLのMaxima H-RT(ThermoScientific製、参照番号EP0751)を検体導入口1および2の両方において0.2mL/hの流量で注入することにより、捕獲流路における溶液をRT混合物で置換する。その後、工程Dと同様の工程を繰り返し実行し、貯蔵室内に、空気の中に水の含まれた液滴を形成する。そのプロセスは以下のとおりである。閉塞流路12を開放する時点において、接続流路13を閉塞する。検体導入口1および2の管を除去し、吐出口6および7をふさいだ上で、シリンジポンプを用いて、ガス流入口4および5を通して空気を注入する。ガスの中に液体の含まれた、複数のマイクロ反応室が、粒子捕獲室14および粒子捕獲室15にそれぞれ形成される。各マイクロ反応室は、単ミクロスフェアを含む。したがって、そのミクロスフェアは、貯蔵室内で単離される。空気の流れがチップ全体にいきわたると、複数単ミクロスフェアのすべてが、RT混合物を含む、水が空気の中に含まれた単一のマイクロ反応室内で個別に単離され、複数のミクロスフェアがすべてRT混合溶液に含まれるようになる。マイクロ流体チップを42℃で1.5時間保持することにより、mRNAを逆転写させ、各ミクロスフェアに担持された単細胞内のmRNA情報をcDNA情報に変換させる。
【0096】
工程E-3:逆転写の後、TE/SDS(10mMのTris-HCl、1mMのEDTA、0.1%のSDS,pH=8.0)、TE/TW(10mMのTris-HCl,1mMのEDTA、0.01%のTween、pH=8.0)およびTE(10mMのTris-HCl、1mMのEDTA、pH=8.0)緩衝液を二つの検体導入口1および2において、各溶液を20μL、流量0.2mL/hで順次注入することにより、複数のミクロスフェアを洗浄する。続いて、20μLのエキソヌクレアーゼIの混合溶液(2μLのエキソヌクレアーゼI(NEW ENGLAND BioLabs社製、商品番号M0293)、4μLの10×エキソヌクレアーゼI緩衝液(NEW ENGLAND BioLabs社製、商品番号M0293)および34μLのddH
2Oを、チップの二つの検体導入口1および2のそれぞれから流量0.2mL/hで注入する。複数のチップを37℃で45分培養した後、10μLのTE/SDS、10μLのTE/TWおよび10μLのddH
2Oをチップの二つの検体導入口1および2のそれぞれから流量0.2mL/hで注入する。このプロセス全体の最後に、粒子気相流入口6および7において、窒素をチップ内に注入し、チップ内の微視的乱流と合流させ、チップ内の複数のミクロスフェアのすべてを非破壊的に回収し、その後行われる増幅ライブラリーの構築およびシーケンシング等の一連の反応に回す。その結果得られた顕微鏡写真を
図12~14に示す。
【0097】
(比較例1)
中華人民共和国特許出願CN107012067Aの実施例2に記載の方法を参照して、複数の細胞および複数のミクロスフェアを個別に捕獲し、ペアリングした。それにより得られた結果を
図15~17に示す。従来の技術による油相置換法を採用した場合、液滴の安定的形成は不可能であり、ペアリングした液滴の安定的混合も不可能であり、溶媒を置換した後もしばしば乳濁液の残留が発生し、ミクロスフェアの回収効率は低い結果となった。
【符号の説明】
【0098】
1、2 検体導入口
3 流入口
4、5 ガス流入口
6、7 検体吐出口
8、9 捕獲単位
10、11 捕獲流路
12 閉塞流路
13 接続流路
14、15 貯蔵室
16、17 捕獲流路
101、111 流路