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▶ シチズンホールディングス株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】輪列保持構造及び時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 31/00 20060101AFI20241029BHJP
   G04B 19/00 20060101ALI20241029BHJP
   G04B 31/004 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
G04B31/00 Z
G04B19/00 L
G04B31/004
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022545519
(86)(22)【出願日】2021-07-13
(86)【国際出願番号】 JP2021026284
(87)【国際公開番号】W WO2022044584
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2020146253
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 翔一郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 大輔
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-132267(JP,U)
【文献】特開2011-17701(JP,A)
【文献】特開昭52-151053(JP,A)
【文献】特開2019-60738(JP,A)
【文献】特開平7-159550(JP,A)
【文献】実用新案登録第2518698(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00 - 99/00
G04C 3/00 - 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の支持部材と、
第2の支持部材と、
前記第1の支持部材と前記第2の支持部材とにより支持された、指針及び軸を有する指針車と、
前記指針車を駆動する輪列と、を備え、
前記第1の支持部材は、前記指針車の前記軸を、相異なる2か所以上の位置に対応してそれぞれ支持する軸孔を、2つ以上有し、
前記第2の支持部材は、2つ以上の前記軸孔にそれぞれ対応した支持孔を有し、前記指針車が支持された前記軸孔に対応した支持孔に、前記指針車の前記軸をがたつきなく支持するブシュが設けられ、前記指針車が支持されていない前記軸孔に対応した支持孔には、前記ブシュが設けられていない輪列保持構造。
【請求項2】
前記第1の支持部材は、前記指針と前記第2の支持部材との間に配置された請求項1に記載の輪列保持構造。
【請求項3】
前記ブシュは、前記第2の支持部材よりも耐摩耗性の高い材料で形成されている請求項1又は2に記載の輪列保持構造。
【請求項4】
前記ブシュは、前記第2の支持部材よりも耐摩耗性の高い材料として、金属材料、貴石又はセラミック材料で形成されている請求項3に記載の輪列保持構造。
【請求項5】
2つ以上の前記支持孔は、前記輪列保持構造を備える時計が有する文字板における互いに異なる位置に対応して配置される請求項1から4のうちいずれか1項に記載の輪列保持構造。
【請求項6】
前記第2の支持部材は、2つ以上の前記支持孔のうち一方の支持孔が、前記文字板の周縁に相対的に近い位置となり、前記一方の支持孔とは別の支持孔が、前記文字板の周縁から相対的に遠い位置となるように配置され、
前記文字板の周縁に相対的に近い位置に対応した前記一方の支持孔は、扇状に運針する指針車を支持し、
前記文字板の周縁から相対的に遠い位置に対応した前記別の支持孔は、回転して運針する指針車を支持する、請求項5に記載の輪列保持構造。
【請求項7】
前記軸方向において、前記ブシュは他の部材に接して配置されている、請求項1から6のうちいずれか1項に記載の輪列保持構造。
【請求項8】
前記他の部材は、前記ブシュの外形よりも小さく、かつ前記ブシュに設けられた軸孔よりも大きいか又は前記軸孔と等しい大きさの開口又は凹部が設けられている、請求項7に記載の輪列保持構造。
【請求項9】
請求項1から8のうちいずれか1項に記載の輪列保持構造と、
前記ブシュが設けられた前記支持孔に対応した前記指針車及び前記輪列と、を備えた時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輪列保持構造及び時計に関する。
【背景技術】
【0002】
時計には、時針や分針等の時刻を表示するための指針の他に、様々な機能を表示するための機能針を備えたものがある。時刻表示用の通常の指針は、文字板の中心に固定されるが、機能針は、文字板の中心から外れた、いずれかの時字の側に偏って設けられた軸に固定されることが多く、小針とも称される。
【0003】
小針は、表示する機能に応じて、例えば、時刻表示用の指針と同様に回転して運針するものと扇状に運針するものとがある。回転して運針するものは、例えば、クロノグラフ等の機能針などがあり、扇状に運針するものは、例えば、動力源である電池の残量を表示するものなどがある。
【0004】
小針として扇状に運針するものは、回転して運針するものよりも、指針の固定される軸が文字板の周縁に近い配置となる。したがって、扇状に運針する小針と回転して運針する小針とでは、軸を支持する軸孔を別々に設ける必要がある。
【0005】
また、扇状に運針する小針と回転して運針する小針とでは、運針の動作が異なるため、それらの指針を動かすための輪列機構も異なる。
【0006】
ここで、扇状に運針する指針が固定される軸用の軸孔と、回転して運針する指針が固定される軸用の軸孔との2つが形成された支持部材を用いて、扇状に運針する小針用の支持部材と回転して運針する小針用の支持部材とを共用化し、扇状に運針する小針用の輪列機構と回転して運針する小針用の輪列機構とのうち、用いる輪列機構に応じて、2つの軸孔を選択的に使用する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-116435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1に開示された技術によれば、共用した支持部材に手を加えることなく、相異なる2種類の運針の態様に応じたいずれかの輪列機構を選択して、その支持部材に組み付けるだけで、各運針態様の時計を製造することができる。したがって、この技術は、運針態様ごとに専用の支持部材を用いるものに比べて、製造コストを低減することができる。
【0009】
ところで、例えば、樹脂等の、金属よりも耐摩耗性が劣る材料で形成された支持部材を用いる場合、上述した特許文献に記載の支持部材をそのまま用いたのでは、摩耗が促進し易く、耐久性の面で問題がある。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、支持部材をそのまま用いた場合よりも耐久性を向上させることができる、輪列保持構造及び時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1は、第1の支持部材と、第2の支持部材と、前記第1の支持部材と前記第2の支持部材とにより支持された、指針及び軸を有する指針車と、前記指針車を駆動する輪列とを備え、前記第1の支持部材は、前記指針車の前記軸を、相異なる2か所以上の位置に対応してそれぞれ支持する軸孔を2つ以上有し、前記第2の支持部材は、2つ以上の前記軸孔にそれぞれ対応した支持孔を有し、前記指針車が支持された前記軸孔に対応した支持孔に、前記指針車の前記軸をがたつきなく支持するブシュが設けられ、前記指針車が支持されていない前記軸孔に対応した支持孔には、前記ブシュが設けられていない輪列保持構造である。
【0012】
本発明の第2は、本発明に係る指針の輪列保持構造と、前記ブシュが設けられた前記支持孔に対応した前記指針車及び前記輪列と、を備えた時計である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る輪列保持構造及びこの輪列保持構造を備えた時計によれば、支持部材をそのまま用いた場合よりも耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る輪列保持構造を備えた時計を示す平面図であり、輪列保持構造が保持する輪列として、指針を回転して運針させる輪列(回転運針輪列)を適用したものである。
図2図1に示した時計の内部に収容されたムーブメントを、時計の裏蓋側(文字板とは反対側)から見た図である。
図3図2に示したムーブメントのうち指針車を保持する輪列保持構造の輪列受を示す模式図である。
図4】輪列保持構造が指針車及び回転運針輪列を保持した状態を示す断面図である。
図5図3に示したブシュが配置された支持孔とは別の支持孔にブシュが配置された輪列受を示す、図3相当の模式図である。
図6】本発明の一実施形態に係る輪列保持構造を備えた時計を示す平面図であり、輪列保持構造が保持する輪列として、指針を扇状の範囲で円弧状に運針させる輪列(扇状運針輪列)を適用したものである。
図7図6に示した時計の内部に収容されたムーブメントを、時計の裏蓋側(文字板とは反対側)から見た図である。
図8】輪列保持構造が指針車及び回転運針輪列を保持した状態を示す断面図である。
図9】輪列保持構造の基本的な構造(輪列受及び地板)を示す、図4,8相当の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る輪列保持構造及びこの輪列保持構造を備えた時計の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0016】
<構成>
図1は本発明の一実施形態に係る輪列保持構造80(地板78(図4)、輪列受70及びブシュ75)を備えた時計100を示す平面図であり、輪列保持構造80が保持する輪列として、指針を回転して運針させる輪列(回転運針輪列)50を適用したもの、図2図1に示した時計100の内部に収容されたムーブメントを、時計100の裏蓋側(文字板20とは反対側)から見た図である。
【0017】
図3図2に示したムーブメントのうち指針車51(図4)を保持する輪列保持構造80の輪列受70を示す模式図、図4は輪列保持構造80が指針車51及び回転運針輪列50を保持した状態を示す断面図である。図5は、図3に示したブシュ75が配置された支持孔71とは別の支持孔72に、ブシュ75が配置された輪列受70を示す、図3相当の模式図である。
【0018】
図1に示した時計100は、本発明に係る時計の一例である。時計100は、文字板20に表示された時字を、時針31及び分針32の指針30で指し示すことにより、時刻を表示する。文字板20は、ケース10の内側に配置され、円形に形成されている。時字は、数字やインデックスバー等で形成されている。時針31及び分針32の指針30は、文字板20のおもて面(時計100の使用者が視認する面(裏蓋に向いた面とは反対側の面))側で、文字板20の中心C1回りに回転する。なお、図1において、時字の表示は省略している。
【0019】
時計100は、文字板20の6時の方向の領域(図1において、文字板20の下部の領域)に円形の第1の小針領域21が形成されていて、小針領域21のおもて面側に、小針領域21の円形の中心C2回りに回転する機能針33が配置されている。機能針33は、文字板20の背面側に配置された機能針駆動輪列40により回転駆動される。
【0020】
機能針33としては、例えばクロノグラフを適用してもよいし、その他の、水深や高度、気圧等の各種物理量を表示するものを適用することができる。また、時計100は、機能針33に代えて秒針を適用してもよい。
【0021】
なお、機能針33に代えて秒針を適用した場合は、機能針駆動輪列40に代えて秒針を駆動させる秒針駆動輪列が適用される。
【0022】
時計100は、文字板20の12時の方向の領域(図1において、文字板20の上部の領域)にも、円形の第2の小針領域22が形成されていて、小針領域22のおもて面側には、小針領域22の円形の中心C3回りに回転して運針する指針52が配置されている。
【0023】
なお、文字板20の小領域22における中心C3(支持孔71の中心に該当)は、後述する中心C4(支持孔72の中心に該当)よりも、文字板20の周縁から遠い配置(文字板20の中心C1からの距離が近い配置)となる。よって、支持孔71,72のうち文字板20の周縁から相対的に遠い位置に対応した支持孔71は、回転して運針する指針車51を支持している。
【0024】
文字板20の背面側には、図4に示すように、指針車51が配置されている。指針車51は、歯車51bと歯車51bの中心C3を貫通して中心C3に沿って延びた軸51aとを有する。軸51aは歯車51bを固定し、軸51aの一部が地板78(第1の支持部材の一例)及び文字板20を貫通して文字板20のおもて面側に露出し、この文字板20のおもて面側において、指針52を固定している。
【0025】
地板78は、例えば、樹脂材料で形成されている。この地板78の、軸51aを支持している軸孔は、軸51aの直径よりわずかに大きい寸法に形成されて、軸51aの一端をほとんどがたつきなく支持する。地板78は、樹脂製に限定されず、金属製やセラミック製であってもよい。
【0026】
文字板20の背面側には、地板78と略平行に、輪列受70(第2の支持部材の一例)が配置されている。本実施形態において、地板78は、指針52と輪列受70との間に配置されている。
【0027】
輪列受70は、樹脂材料で形成されている。輪列受70には、図3に示すように、2つの支持孔71,72が形成されている。2つの支持孔71,72は、それぞれが形成されている位置は異なるが、直径は同一であって、いずれも、軸51aのほぞ部51c(後述するブッシュ75の軸孔76に支持される部分)の直径に比べて数倍の寸法に形成されている。
【0028】
つまり、支持孔71,72は、いずれも、軸51aの他端を緩く支持する。したがって、支持孔71,72は、一端が地板78の軸孔にがたつきなく支持されても、ブシュ75が無い状態では、軸51aの全体をがたつきなく支持することはできず、指針52を正常に機能させるように指針車51を正常に回転させることはできない。なお、支持孔71は、中心C3の位置に対応し、支持孔72は後述する中心C4の位置に対応する。
【0029】
2つの支持孔71,72のうち一方の支持孔71には、ブシュ75が設けられている。他方の支持孔72にはブシュ75は設けられていない。ブシュ75は、輪列受70自体を形成している樹脂材料よりも耐摩耗性の高い、例えば、金属材料で形成されている。
【0030】
なお、ブシュ75は、金属材料以外の、例えば、ルビー等の貴石やセラミック等の、樹脂材料よりも耐摩耗性の高い材料で形成されていてもよい。
【0031】
ブシュ75の中心C3には、軸51aのほぞ部51cの直径よりわずかに大きい寸法の軸孔76が形成されている。軸孔76は、軸51aの他端をほとんどがたつきなく支持する。軸51aは、地板78の軸孔と輪列受70のブシュ75の軸孔76とにより両端ががたつきなく支持されるため、指針52を正常に機能させるように指針車51を正常に回転させることができる。
【0032】
指針車51の歯車51bは、地板78と輪列受70とを有する輪列保持構造80によって支持された回転運針輪列50と噛み合い、回転運針輪列50から伝達されるトルクにより、指針車51は中心C3回りにがたつきなく回転駆動される。
【0033】
図6は本発明の一実施形態に係る輪列保持構造80′(地板78、輪列受70及びブシュ75)を備えた時計200を示す平面図であり、輪列保持構造80′が保持する輪列として、指針52を扇状の範囲で円弧状に運針させる輪列(扇状運針輪列)60を適用したものである。図7図6に示した時計200の内部に収容されたムーブメントを、時計200の裏蓋側(文字板20′とは反対側)から見た図である。
【0034】
図5は、前述したように、支持孔72にブシュ75が配置された輪列受70を示す、図3相当の模式図であり、図7に示したムーブメントのうち指針車61を保持する輪列保持構造80′の輪列受70を示す。図8は輪列保持構造80′が指針車61及び扇状運針輪列60を保持した状態を示す断面図である。
【0035】
図1に示した輪列保持構造80と図6に示した輪列保持構造80′とは、同一の輪列受70及び地板78を備えていて、輪列受70におけるブシュ75の設けられた支持孔が異なる以外、同一の構造である。
【0036】
図6に示した時計200は、本発明に係る時計の一例である。時計200は、文字板20′に表示された時字を、時針31及び分針32の指針30で指し示すことにより、時刻を表示する。文字板20′は、ケース10の内側に配置され、円形に形成されている。時字は、数字やインデックスバー等で形成されている。時針31及び分針32の指針30は、文字板20′のおもて面側で、文字板20′の中心C1回りに回転する。なお、図6においても、時字の表示は省略している。
【0037】
文字板20′の6時の方向の領域には、円形の第1の小針領域21が形成されていて、小針領域21のおもて面側には、小針領域21の円形の中心C2回りに回転する機能針33が配置されている。機能針33は、文字板20′の背面側に配置された機能針駆動輪列40により回転駆動される。
【0038】
文字板20′の12時の方向の領域(図6において、文字板20′の上部の領域)には、円弧が中心C1側で中心C4が12時の側の姿勢の扇状の第2の小針領域23が形成されている。小針領域23のおもて面側には、小針領域23の扇の中心C4回りに扇状の範囲を揺動して運針する指針62が配置されている。
【0039】
なお、文字板20′の小針領域23における中心C4(支持孔72の中心に該当)は、図1に示した文字板20における中心C3よりも、文字板20,20′の周縁に近い配置(文字板20′の中心C1からの距離が遠い配置)となる。したがって、支持孔71,72のうち文字板の周縁に相対的に近い位置に対応した支持孔72は、扇状に運針する指針車61を支持している。
【0040】
文字板20′の背面側には、図8に示すように、指針車61が配置されている。指針車61は、歯車61bと歯車61bの中心C4を貫通して中心C4に沿って延びた軸61aとを有する。軸61aは歯車61bを固定し、軸61aの一部が地板78(第1の支持部材の一例)及び文字板20′を貫通して文字板20′のおもて面側に露出し、この文字板20′のおもて面側において、指針62を固定している。
【0041】
地板78の、軸61aを支持している軸孔は、軸61aの直径よりわずかに大きい寸法に形成されていて、軸61aの一端をほとんどがたつきなく支持する。
【0042】
文字板20′の背面側には、地板78と略平行に、輪列受70(第2の支持部材の一例)が配置されている。本実施形態において、地板78は、指針62と輪列受70との間に配置されている。
【0043】
輪列受70は、図3に示した輪列受70と同じものであり、中心C3の位置に対応する支持孔71と中心C4の位置に対応する支持孔72とを有している。支持孔72には、図5に示すように、ブシュ75が設けられている。図5に示した輪列受70は、一方の支持孔71にはブシュ75は設けられていない。
【0044】
ブシュ75の中心C4には、軸61aのほぞ部61c(軸孔76に支持される部分)の直径よりわずかに大きい寸法の軸孔76が形成されている。軸孔76は、軸61aのほぞ部61cをほとんどがたつきなく支持することができる。
【0045】
軸61aは、地板78の軸孔と輪列受70のブシュ75の軸孔76とにより両端ががたつきなく支持されるため、指針62を正常に機能させるように指針車61を正常に回転させることができる。
【0046】
指針車61の歯車61bは、地板78と輪列受70とを有する輪列保持構造80′によって支持された扇状運針輪列60と噛み合い、扇状運針輪列60から伝達されるトルクにより、指針車61は中心C4回りにがたつきなく扇状の範囲を運針駆動される。
【0047】
なお、輪列保持構造80と輪列保持構造80′とは、輪列受70におけるブシュ75の設けた支持孔が、支持孔71であるか又は支持孔72であるかの差異以外には異なるところはない。
【0048】
<作用>
図9は、輪列保持構造80,80′の基本的な構造(輪列受70及び地板78)を示す、図4,8相当の断面図である。
【0049】
図1に示した時計100と図6に示した時計200とでは、文字板20,20′における差異、つまり、互いに異なる位置に形成された支持孔71に対応する中心C3と支持孔72に対応する中心C4とがあり、中心C3を有する第2の小針領域22と、中心C4を有する第2の小針領域23という差異がある。
【0050】
そして、時計100,200の内部に設けられているムーブメントにおける差異として、中心C3に軸51aを有する指針車51及び指針車51を駆動する回転運針輪列50(図4参照)と、中心C4に軸61aを有する指針車61及び指針車61を駆動する扇状運針輪列60(図8参照)という差異がある。
【0051】
一方、指針車51及び回転運針輪列50を支持する輪列保持構造80と、指針車61及び扇状運針輪列60を支持する輪列保持構造80′とは、基本的な構造要素である地板78及び輪列受70は同一であり、輪列受70に追加する1つのブシュ75の設置部位(設置位置)が異なる。
【0052】
つまり、本実施形態の輪列保持構造80,80′は、同一の地板78及び同一の輪列受70を備え、基本的な構造要素に比べてコストの低いブシュ75を、中心C3に対応する支持孔71に設置したものであるか、又は、ブシュ75を、中心C4に対応する支持孔72に設置したものであるか、が異なる。
【0053】
したがって、時計として、中心C3の小針領域22が形成された時計100を製造する場合は、文字板として、中心C3の小針領域22を有する文字板20を選択し、ムーブメントとして、小針領域22に対応した指針車51及び回転運針輪列50を選択するとともに、中心C4の小針領域23が形成された時計200を製造する場合と共通に用いられる地板78及び輪列受70(図9参照)の、支持孔71にのみブシュ75を設置した輪列保持構造80を適用すればよい。
【0054】
一方、時計として、中心C4の小針領域23が形成された時計200を製造する場合は、文字板として、中心C4の小針領域23を有する文字板20′を選択し、ムーブメントとして、小針領域23に対応した指針車61及び扇状運針輪列60を選択するとともに、中心C3の小針領域22が形成された時計100を製造する場合と共通に用いられる、地板78及び輪列受70(図9参照)の、支持孔72にのみブシュ75を設置した輪列保持構造80′を適用すればよい。
【0055】
このように、本実施形態の輪列保持構造80,80′は、中心(C3,C4)の位置が異なる2種類の文字板20,20′にそれぞれ対応する、互いに異なる運針輪列(50,60)を択一的に適用する場合に、ブシュ75の設置位置を変えるだけでよく、輪列保持構造80,80′の基本的な構造(輪列受70及び地板78)を変える必要が無い。
【0056】
つまり、本実施形態の輪列保持構造80,80′は、互いに異なる運針輪列(50,60)に対して、輪列保持構造80,80′の基本的な構造(輪列受70及び地板78)を共用化することができ、互いに異なる運針輪列(50,60)ごとに、専用の基本的な構造を適用する必要が無いため、製造コストを低減することができる。
【0057】
なお、本実施形態においては、指針車51,61を駆動する中間車として、回転運針輪列50と扇状運針輪列60との2種類を適用したが、中間車としては、回転運針輪列と扇状運針輪列との組み合わせに限定するものではなく、回転運針輪列と回転運針輪列との組み合わせや、扇状運針輪列と扇状運針輪列との組み合わせや、その他の2種類以上の中間車の組み合わせ、又は単一の種類の中間車であってもよい。
【0058】
つまり、本発明においては、中間車は、相異なる2か所以上の位置に対応して支持された指針車に噛み合って、指針車を駆動するものであればよい。
【0059】
単一の種類の中間車であっても、指針車と噛み合う位置を変えることで、中間車は、相異なる2か所以上の位置に対応して支持された指針車とそれぞれ噛み合わせることができる。
【0060】
この場合、指針車が取り付けられる2種類の位置に対して共通の中間車としつつ、指針車の支持位置を、いずれかの支持孔から選択し、その選択された支持孔にブシュを取り付けるだけで、異なる位置に指針が取り付けられた輪列保持構造及び時計を実現することができ、製造コストを一層低減するとともにし、組み立ての管理コストも低減することができる。
【0061】
また、本実施形態の時計100,200は、互いに異なる運針輪列(50,60)であっても、基本的な構造を共用化した輪列保持構造80,80′を適用することができるため、時計100,200の製造コストを低減することができる。
【0062】
なお、基本的な構造を構成する輪列受70の2つの支持孔71,72の両方にブシュ75を設置した構成としたり、輪列受70の2つの支持孔71,72に対応する部分をブシュ75と同じ形状に形成したりした構造によっても、2種類の運針輪列(50,60)に対して、輪列保持構造を完全に共用化することもできる。
【0063】
しかし、この場合、輪列受70が指針車(51,61)を直接支持する必要があり、輪列受70は、指針車(51,61)を支持するための耐久性(特に耐摩耗性。以下、同じ。)が必要である。したがって、輪列受70自体が、その耐久性に適合するように、例えば、金属材料で形成される必要がある。
【0064】
これに対して、本実施形態の輪列保持構造80,80′は、輪列受70自体が、指針車(51,61)を支持するための耐久性を有する必要はなく、輪列受70に設置されるブシュ75が耐久性を有すればよい。
【0065】
したがって、輪列受70自体は、金属材料のように耐久性を有するもの出なくてもよく、例えば、樹脂材料等で形成されてもよい。そして、輪列受70自体が樹脂材料等で形成されることにより、金属材料で形成したものよりも、軽量化、コスト低減を図ることができる。
【0066】
しかも、適用する指針車(51,61)及び運針輪列(50,60)に応じて、2つの支持孔71,72の一方にのみブシュ75を設置することにより、支持孔71,72の両方にブシュ75を設置する場合よりも、さらに軽量化、コスト低減を図ることができる。
【0067】
なお、2つの支持孔71,72の両方にブシュ75が設置されるのを確実に防止するために、輪列受70は、一方の支持孔71(又は支持孔72)にブシュ75が設置された状態では、他方の支持孔72(又は支持孔71)にもブシュ75が設置されるのを阻止する構造(双方配置阻止構造)を有していてもよい。
【0068】
双方配置阻止構造としては、例えば、以下のような構造を適用することができる。つまり、輪列受70に、支持孔71と支持孔72との間に架け渡された棒状の部材を設け、この棒状の部材の一方の端部を支持孔71にわずかに突出させた配置とする。棒状の部材は、支持孔71と支持孔72との間で移動可能に支持する。
【0069】
この棒状の部材と棒状の部材を上述した配置で支持した構造が双方配置阻止構造の一例であり、この双方配置阻止構造により、支持孔71に先にブシュ75を配置したときは、そのブシュ75の外周面が、支持孔71に突出した棒状の部材の端部を、支持孔71の内周面の輪郭まで押圧する。
【0070】
これにより、棒状の部材が他方の支持孔72の方向に変位する。この結果、棒状の部材の他方の端部が、他方の支持孔72にわずかに突出し、この突出した部分が障害物となって、支持孔72にブシュ75を配置することができなくなる。
【0071】
先に、他方の支持孔72にブシュを配置した場合は、上記とは反対に、一方の支持孔71に、棒状の部材の端部がわずかに突出し、この突出した部分が障害物となって、支持孔71にはブシュ75を配置することができなくなる。
【0072】
このように、双方配置阻止構造を備えた輪列受70は、2つの支持孔71,72の両方に同時にブシュ75を配置した状態にすることを確実に阻止することができるが、本発明の指針車保持構造は、そのような双方配置阻止構造を備えなくてもよい。
【0073】
上述した実施形態の輪列保持構造80,80′は、第1の支持部材として地板78、第2の支持部材として輪列受70を適用したものであるが、本発明に係る輪列保持構造は、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0074】
すなわち、本発明に係る輪列保持構造は、第1の支持部材と第2の支持部材とによって、ブシュを用いて、指針車を支持するものであればよく、第1の支持部材として輪列受、第2の支持部材として地板、という組み合わせを適用することもできる。
【0075】
したがって、第2の支持部材に対応した地板に、指針車の軸をがたつく程度に支持する2つ以上の支持孔を形成し、これらの支持孔のうち、指針車を支持しようとするいずれか1つの支持孔にブシュを設けて、ブシュの軸孔と、第1の支持部材に対応した輪列受けに形成された軸孔とによって指針車をがたつきなく支持する構成を採用することもできる。
【0076】
また、本発明に係る輪列保持構造は、第1の支持部材として1つの輪列受、第2の支持部材として他の輪列受、という組み合わせを適用することもでき、さらに、地板や輪列受けとは別の支持部材を、第1の支持部材、第2の支持部材として適用することもできる。
【0077】
また、本実施形態の輪列保持構造80,80′は、指針車51,61を、地板78とブシュ75を用いた輪列受70とによって軸方向の2か所で、軸51a,61aの外周面を支持するものであるが、支持する部位の数は2か所に限定されない。
【0078】
また、本実施形態の輪列保持構造80,80′は、指針車51,61の軸51a,61aの外周面を支持するものであってもよいし、いずれか一方(例えば、輪列受70)の側については、軸51a,61aの先端縁を突き当てて支持するものであってもよい。
【0079】
上述した実施形態の輪列受70は、ブシュ75が択一的に配置される支持孔が2つ(支持孔71,72)であったが、支持孔は3つ以上であってもよい。
【0080】
なお、本発明における2つ以上の支持孔は、繋がって1つの孔となっていてもよい。つまり、支持孔は、指針車を支持する中心部が相異なる位置に存在し、仮に繋がって1つの孔になっていても、各支持孔の部分がブシュを取り付けることで、相異なる2つ以上の位置に軸孔を形成することができるものであればよい。
【0081】
一例として、2つの支持孔が繋がって瓢箪状(「8」の字の中央に形成されたくびれ部分において、上下2つの円部が繋がった形状)の輪郭を有する単一の孔になっているものも、本発明における「2つ以上の支持孔」に含まれる。
【0082】
上述した実施形態の輪列保持構造80,80′は、輪列受70が樹脂材料で形成された部材であるが、輪列受70は樹脂材料に限らず、金属やセラミック等の材料で形成されていてもよい。
【0083】
上述した実施形態の輪列保持構造80は、運針輪列として回転運針輪列50を適用した時計100に用いられ、輪列保持構造80′は、運針輪列として扇状運針輪列60を適用した時計200に用いられるものであったが、輪列保持構造80と輪列保持構造80′とは、文字板における中心の位置が互いに異なる(中心C3と中心C4)ものに適用されればよく、運針輪列の運針の形態が、回転運針と扇状運針とで異なるものでなくてもよい。
【0084】
したがって、輪列保持構造80は、中心C3において回転する指針車を駆動する回転運針輪列を保持するものであり、輪列保持構造80′は、中心C4において回転する指針車を駆動する回転運針輪列を保持するものであってもよいし、又は輪列保持構造80は、中心C3において扇状に運針する指針車を駆動する扇状運針輪列を保持するものであり、輪列保持構造80′は、中心C4において扇状に運針する指針車を駆動する扇状運針輪列を保持するものであってもよい。
【0085】
また、上述した実施形態の輪列保持構造80は、中心C4が中心C3よりも、文字板20,20′の中心C1から遠い位置に形成されたものであるが、中心C1からの距離が異なるものでなく、つまり、距離が同じであっても、中心C1回りの角度位置が異なるものであってもよい。
【0086】
なお、図4,8に示すように、指針車51,61の軸方向(地板78から輪列受70に向かう向き)において、ブシュ75は、他の部材(例えば、回路基板79)に接して配置されていることが好ましい。
【0087】
輪列保持構造80がこのように構成されていることにより、指針車51,61の軸51a,61aに指針52,62を取り付ける際に、軸51a,61aに発生する軸方向の押圧力がブシュ75に作用しても、その押圧力を、ブシュ75と他の部材(例えば、回路基板79)との接触面の全体で分散させて受けることができ、ブシュ75における耐荷重を向上させることができる。
【0088】
なお、軸方向において、ブシュ75が他の部材に接して配置されている輪列保持構造については、上述した実施形態の輪列受70のように、1つのブシュ75が設けられる支持孔が2つ(支持孔71及び支持孔72)形成されているものに限定されない。
【0089】
すなわち、第1の支持部材と、第2の支持部材と、第1の支持部材と第2の支持部材とにより支持された、指針及び軸を有する指針車と、指針車を駆動する輪列と、を備え、第1の支持部材は、指針車の軸を支持する軸孔を1つ以上(1つであってもよいし、2つ以上であってもよい)有し、第2の支持部材は、第1の支持部材における1つ以上の軸孔に対応した支持孔を有し、指針車が支持された軸孔に対応した支持孔に、指針車の軸をがたつきなく支持するブシュが設けられた輪列保持構造において、軸方向において、ブシュは他の部材(回路基板79やそれ以外の部材)に接して配置されていればよい。
【0090】
このように、輪列保持構造が構成されていることにより、指針車を取り付ける際に、軸に発生する軸方向の押圧力がブシュに作用しても、その押圧力を、ブシュと他の部材(回路基板79やそれ以外の部材)との接触面の全体で分散させて受けることができ、ブシュにおける耐荷重を向上させることができる。
【0091】
なお、ブシュ75が接する他の部材(例えば、回路基板79)のブシュ75に対応する位置で軸孔76を延長した領域に、ブシュ75の外形よりも小さく、軸孔76よりも大きいか又は軸孔76と等しい大きさの開口又は凹部を設けておくことが好ましい。
【0092】
これにより、ブシュ75と他の部材(例えば、回路基板79)との接触面を確保しつつ、軸孔76に挿通される指針車51の軸51aの長さが長い場合でも軸51aと他の部材(例えば、回路基板79)が干渉するのを防ぐことができる。
【0093】
なお、ブシュ75が接する他の部材(例えば、回路基板79)に、ブシュ75の厚さの全部又は一部を収容する凹部を形成した構成とすることにより、ブシュ75の厚さ方向である輪列保持構造80の厚さを低減することができる。
【0094】
また、クロノグラフのように高速回転で使用する機能針を指針車として使用する場合は、指針車の回転に要するトルクをなるべく小さくすることが望まれるので、指針車を支持する軸孔は小さい方が望ましい。一方、指針車に取り付けられる指針が大きい(重い)場合は、指針車の大きい回転トルクに耐えられるように、軸孔は大きい方が望ましい。
【0095】
そこで、これらサイズの異なる軸孔が形成された複数種類のブシュを用意しておき、使用する指針車に応じたサイズの軸孔が形成されたブシュを選択して、軸孔のサイズに拘わらず一定のサイズの支持孔が形成された支持部材(第1の支持部材、第2の支持部材)に使用することで、サイズの異なる軸孔が形成された複数種類の支持部材を用意する場合に比べて、コストを低減することもできる。
【関連出願の相互参照】
【0096】
本出願は、2020年8月31日に日本国特許庁に出願された特願2020-146253に基づいて優先権を主張し、その全ての開示は完全に本明細書で参照により組み込まれる。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9