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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】固体電池、及び、固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20241029BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241029BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241029BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241029BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20241029BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241029BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20241029BHJP
   H01M 4/70 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/13
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/70 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022570042
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(86)【国際出願番号】 JP2021046318
(87)【国際公開番号】W WO2022131301
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2020207743
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021038434
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】川島 奨平
(72)【発明者】
【氏名】伊東 裕介
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-091547(JP,A)
【文献】特開2006-155959(JP,A)
【文献】特開2019-192338(JP,A)
【文献】特開2014-107163(JP,A)
【文献】特開2020-177904(JP,A)
【文献】特開2019-192563(JP,A)
【文献】特開2005-285651(JP,A)
【文献】特許第5557471(JP,B2)
【文献】特開2016-018704(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0136178(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/13 - 4/48
H01M 4/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層、固体電解質層、及び合金系負極活物質を含む負極層を備える積層体を有する固体電池であって、
前記負極層の積層方向の空隙が、前記負極層の全空隙に占める割合の55体積%以上100体積%以下であり、
前記負極層は、さらに負極集電体を有し、
前記負極集電体は、その表面粗さであるJIS B 0601:2013の最大高さRzが0.8μm以上4.0μm以下である、
固体電池。
【請求項2】
前記合金系負極活物質がシリコンを含む、請求項1に記載の固体電池。
【請求項3】
前記シリコンが粒子である、請求項2に記載の固体電池。
【請求項4】
前記シリコンの前記粒子の粒径D50が1μm以下である、請求項3に記載の固体電池。
【請求項5】
前記シリコンが薄膜である、請求項2に記載の固体電池。
【請求項6】
前記固体電解質層は硫化物固体電解質を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の固体電池。
【請求項7】
正極層、固体電解質層、及び負極層を含む積層体を準備する準備工程と、
前記積層体を積層方向に拘束して、前記積層体の初回定電流定電圧充電を行う初回充電工程と、を備え、
前記初回充電工程において、充電開始時の前記積層体の拘束圧が30MPa以上70MPa以下であり、かつ、充電終了時の前記積層体の拘束圧が40MPa以上80MPa以下であり、
前記負極層は、さらに負極集電体を有し、
前記負極集電体は、その表面粗さであるJIS B 0601:2013の最大高さRzが0.8μm以上4.0μm以下である、
固体電池の製造方法。
【請求項8】
前記初回充電工程の後、10MPa以下の拘束圧で前記積層体を拘束する、請求項7に記載の固体電池の製造方法。
【請求項9】
前記負極層が合金系負極活物質を含み、
前記合金系負極物質がシリコンを含む、請求項7又は8に記載の固体電池の製造方法。
【請求項10】
前記シリコンが粒子である、請求項9に記載の固体電池の製造方法。
【請求項11】
前記シリコンの前記粒子の粒径D50が1μm以下である、請求項10に記載の固体電池の製造方法。
【請求項12】
前記シリコンが薄膜である、請求項9に記載の固体電池の製造方法。
【請求項13】
前記固体電解質層は硫化物固体電解質を含む、請求項7~12のいずれか1項に記載の固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、全固体電池を製造する際には電池を組み立てた後に充電を行う。このとき、電池性能を向上させる観点から、電池に所定の圧力を付与しながら充電を行う技術がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、サイクル特性を向上させる観点から、全固体電池の定電圧充電工程において、0.1MPa~10MPaの拘束圧を付与する技術が開示されている。特許文献2には、全固体電池の劣化の抑制及びエネルギー密度の向上の観点から、電池積層体を、単位電池を構成する層の積層方向において、定圧拘束しながら初期充電電圧で充電する技術が開示されている。また、特許文献3には、固体/固体界面の接触状態を改善し、大気圧下における充放電性能の向上を図る観点から、電池積層体を袋状容器内に密閉した後、所定圧力下で予備充放電を少なくとも一回行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-81790号公報
【文献】特開2020-107389号公報
【文献】特開2010-272210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは、固体電池の負極層に合金系負極活物質を用いる場合、初回充電工程における電池の拘束圧が低いと、負極活物質の融着が促進されず、実際の利用時において充放電による抵抗増加率の上昇幅が極めて高くなることを知見した。
【0006】
そこで本開示は、抵抗増加率の上昇を抑制することができる固体電池を提供することを目的とする。また、固体電池の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願は、上記課題を解決するための一つの手段として、正極層、固体電解質層、及び合金系負極活物質を含む負極層を備える積層体を有する固体電池であって、負極層の積層方向の空隙が、負極層の全空隙に占める割合の36体積%より大きい、固体電池を開示する。
【0008】
上記固体電池において、積層方向の空隙が負極層の全空隙に占める割合の55体積%以上100体積%以下であってもよい。
【0009】
上記固体電池において、合金系負極活物質がシリコンを含んでもよい。
【0010】
上記固体電池において、シリコンが粒子であってもよい。
【0011】
上記固体電池において、シリコン粒子の粒径D50を1μm以下とすることができる。
【0012】
上記固体電池において、シリコンが薄膜であってもよい。
【0013】
上記固体電池において、固体電解質層は硫化物固体電解質を含んでもよい。
【0014】
上記固体電池において、負極層は、さらに負極集電体を有し、負極集電体は、その表面粗さRzを0.8μm以上4.0μm以下としてもよい。
【0015】
本願は、上記課題を解決するための一つの手段として、正極層、固体電解質層、及び負極層を含む積層体を準備する準備工程と、積層体を積層方向に拘束して、積層体の初回定電流定電圧充電を行う初回充電工程と、を備え、初回充電工程において、充電開始時の積層体の拘束圧が30MPa以上であり、かつ、充電終了時の積層体の拘束圧が40MPa以上である、固体電池の製造方法を提供する。
【0016】
上記固体電池の製造方法において、初回充填工程の後、10MPa以下の拘束圧で積層体を拘束するようにしてもよい。
【0017】
上記固体電池の製造方法において、負極層が合金系負極活物質を含み、合金系負極化物質がシリコンを含むようにしてもよい。
【0018】
上記固体電池の製造方法において、シリコンが粒子であってもよい。
【0019】
上記固体電池の製造方法において、シリコン粒子の粒径D50を1μm以下とすることができる。
【0020】
上記固体電池の製造方法において、シリコンが薄膜であってもよい。
【0021】
上記固体電池の製造方法において、固体電解質層は硫化物固体電解質を含んでもよい。
【0022】
上記固体電池の製造方法において、負極層は、さらに負極集電体を有し、負極集電体は、その表面粗さRzを0.8μm以上4.0μm以下としてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、抵抗増加率の上昇を抑制することが可能な固体電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は製造方法10のフローチャートである。
図2図2は負極合材層を含む負極層の断面画像(試験A1)である。
図3図3は負極薄膜層を含む負極層の断面画像(試験A7)である。
図4図4は試験A1~A3及び試験B1、B2について、初回充電終了時拘束圧と相対抵抗増加率との関係を示した図である。
図5図5は試験A11~A13及び試験B11、B12について、Rzと相対抵抗増加率との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.固体電池の製造方法
本開示の固体電池の製造方法について、1つ形態にかかる全固体電池の製造方法S10(以下、単に「製造方法S10」ということがある。)を参照しつつ説明する。なお、固体電池とは、固体電解質を含む電池を意味し、全固体電池とは、液系材料を含まない固体電池を意味する。図1に製造方法S10のフローチャートを示した。図1のとおり、製造方法S10は準備工程S11及び初回充電工程S12を備えている。以下、各工程について説明する。
【0026】
1.1.準備工程S11
準備工程S11は、正極層、固体電解質層、及び合金系負極活物質を含む負極層をこの順で積層された積層体を準備する工程である。
【0027】
1.1.1.正極層
正極層は正極合材層を含む。また、正極層は固体電解質層を積層する側の面とは反対側の面に正極集電体を備えていてもよい。
【0028】
正極合材層は正極活物質を含む。正極活物質はリチウムイオン全固体電池に使用可能な正極活物質であれば特に限定されない。例えば、コバルト酸リチウム、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(NCA系活物質)、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、マンガン酸リチウム、スピネル系リチウム化合物等が挙げられる。その中でも、正極活物質としてニッケル酸リチウムを用いることが好ましい。正極活物質の粒径は特に限定されないが、例えば5μm以上50μm以下の範囲である。正極合材層における正極活物質の含有量は、例えば50重量%以上99重量%以下の範囲である。また、正極活物質は表面にニオブ酸リチウム層やチタン酸リチウム層、リン酸リチウム等の酸化物層で被覆されていてもよい。
【0029】
ここで、本明細書において「粒径」とは、レーザ回折・散乱法によって測定された体積基準の粒度分布において、積算値50%での粒子径(D50)を意味する。
【0030】
正極合材層は任意に固体電解質を備えていてもよい。固体電解質としては酸化物固体電解質や硫化物固体電解質等が挙げられる。好ましくは硫化物固体電解質である。
酸化物固体電解質としては、LiLaZr12、Li7-xLaZr1-xNb12、Li7-3xLaZrAl12、Li3xLa2/3-xTiO、Li1+xAlTi2-x(PO、Li1+xAlGe2-x(PO、LiPO、又はLi3+xPO4-x(LiPON)等が挙げられる。
硫化物固体電解質としては、例えば、LiPS、LiS-P、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-SiS-P、LiS-P-LiI-LiBr、LiI-LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P-GeS等が挙げられる。
正極合材層における固体電解質の含有量は特に限定されないが、例えば1重量%以上50重量%以下の範囲である。
【0031】
正極合材層は任意に導電助剤を備えていてもよい。導電剤としては、例えば、アセチレンブラックやケッチェンブラック、気相法炭素繊維(VGCF)等の炭素材料やニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。正極合材層における導電助剤の含有量は特に限定されないが、例えば0.1重量%以上10重量%以下の範囲である。
【0032】
正極合材層は任意にバインダ(結着材)を備えていてもよい。バインダとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)、ブチレンゴム(IIR)、アクリレートブタジエンゴム(ABR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)等が挙げられる。正極合材層におけるバインダの含有量は特に限定されないが、例えば0.1重量%以上10重量%以下の範囲である。
【0033】
正極合材層の厚みは特に限定されず、所望の電池性能に応じて適宜設定すればよい。例えば、0.1μm以上1mm以下の範囲である。
【0034】
正極集電体は正極合材層の固体電解質層が積層される面の反対側の面に配置される。正極集電体の材料は特に限定されず、公知の材料から目的に応じて適宜選択することができる。例えば、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。正極集電体の厚みは特に限定されず、所望の電池性能に応じて適宜設定すればよい。例えば、0.1μm以上1mm以下の範囲である。
【0035】
正極層の製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができる。例えば、正極合材層を構成する材料を溶媒とともに混合してスラリーとし、基材又は正極集電体に当該スラリーを塗布して、乾燥させることにより正極層を製造することができる。
【0036】
1.1.2.固体電解質層
固体電解質層は固体電解質を含む。固体電解質の種類は、正極層に用いられる固体電解質と同様の種類のものを用いることができる。固体電解質層は、例えば、硫化物固体電解質を含んでいてもよい。硫化物固体電解質は、比較的柔らかく、初期活性化における負極構造の構築での体積変化を吸収しやすい。固体電解質層における固体電解質の含有量は、例えば50重量%以上99重量%以下の範囲である。
【0037】
固体電解質層は任意にバインダ(結着材)を備えていてもよい。バインダの種類は、正極層に用いられるバインダと同様の種類のものを用いることができる。固体電解質層におけるバインダの含有量は特に限定されないが、例えば0.1重量%以上10重量%以下の範囲である。
【0038】
固体電解質層の製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができる。例えば、固体電解質層を構成する材料を溶媒とともに混合してスラリーとし、基材に当該スラリーを塗布して、乾燥させることにより固体電解質層を製造することができる。
【0039】
1.1.3.負極層
負極層は負極合材層又は負極薄膜層を含む。また、負極層は固体電解質層を積層する側の面とは反対側の面に負極集電体を備えていてもよい。
【0040】
負極合材層は合金系負極活物質を含む。合金系負極活物質は、Liと結合可能な金属元素であり、具体的には、Si、Sn、Al、Mg、C、Al、Ge、Sb、In、Cu、Mn又はこれらの酸化物である。好ましくは、Si若しくはSn又はこれらの酸化物である。より好ましくは、Si若しくはSi酸化物である。負極活物質は粒子形状であることが好ましく、その粒径は1μm以下であることがさらに好ましい。負極活物質の粒径が小さくなるほど、負極合材層内の不活性界面(負極活物質-負極活物質間の界面)が増加する一方で、充電による負極活物質間の融着によって不活性界面は低減する。この不活性化界面の低減効果は、負極活物質の粒径が1μm以下である場合に顕著に大きくなり、結果として抵抗増加率の上昇を抑制することができる。負極合材層における負極活物質の含有量は、例えば30重量%以上90重量%以下の範囲である。
【0041】
負極合材層は任意に固体電解質を備えていてもよい。固体電解質は、正極層に用いられる固体電解質と同様の種類のものを用いることができる。負極合材層における固体電解質の含有量は特に限定されないが、例えば10重量%以上70重量%以下の範囲である。
【0042】
負極合材層は任意に導電助剤を備えていてもよい。導電助剤は、正極層に用いられる導電助剤と同様の種類のものを用いることができる。負極合材層における導電助剤の含有量は特に限定されないが、例えば0.1重量%以上20重量%以下の範囲である。
【0043】
負極合材層は任意にバインダ(結着材)を備えていてもよい。バインダは、正極層に用いられる導電助剤と同様の種類のものを用いることができる。負極合材層におけるバインダの含有量は特に限定されないが、例えば0.1重量%以上10重量%以下の範囲である。
【0044】
負極合材層の厚みは特に限定されず、所望の電池性能に応じて適宜設定すればよい。例えば、0.1μm以上1mm以下の範囲である。
【0045】
負極薄膜層は合金系負極活物質を含む薄膜である。負極薄膜層における合金系負極活物質の含有量は90重量%以上であることが好ましく、95重量%以上であることがより好ましく、100重量%(合金系負極活物質からなる)ことが特に好ましい。合金系負極活物質の種類は上述のものを用いることができる。負極薄膜層の厚みは特に限定されない。例えば、1μm以上10μm以下の範囲である。エネルギー密度を担保する観点から、下限値を1μmとしている。また、電池性能及び充放電による膨張率を考慮して、上限値を10μmとしている。
【0046】
負極集電体は負極合材層又は負極薄膜層の面のうち、固体電解質層が積層される側の面とは反対側の面に配置される部材である。負極集電体を構成する材料は、公知の材料から目的に応じて適宜選択することができる。例えば、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。負極集電体の厚みは特に限定されず、所望の電池性能に応じて適宜設定すればよい。例えば、0.1μm以上1mm以下の範囲である。
【0047】
また、負極集電体は、少なくとも負極合材層又は負極薄膜層に接する側の面の表面粗さがJIS B 0601:2013(ISO 4287:1997)の最大高さRzで0.8μm以上4.0μm以下とされていることが好ましい。これにより、後で説明するように負極集電体と負極合材層又は負極薄膜層との密着性を高め、平面方向への膨張を負極集電体の強度によって抑制することで、負極活物質の融着が促進され、抵抗増加率の抑制が可能となる。
【0048】
負極層の製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができる。
負極合材層を含む負極層を製造する場合には例えば、負極合材層を構成する材料を溶媒とともに混合してスラリーとし、基材又は負極集電体に当該スラリーを塗布して、乾燥させることにより負極合材層を含む負極層を製造することができる。
負極薄膜層を含む負極層を製造する場合には例えば、基材又は負極集電体に対し、負極活物質をスパッタリングすることにより負極薄膜層を含む負極層を製造することができる。スパッタリングの条件は、負極薄膜層の厚み等に応じて、適宜設定することができる。
【0049】
1.1.4.積層体
積層体は正極層、固体電解質層、及び合金系活物質を含む負極層がこの順で積層された積層体である。積層体において、正極層に対する負極層の容量比が5以下であることが好ましい。「容量比」とは、負極層の理論容量(mAh)/正極層の理論容量(mAh)から算出される値である。
負極活物質は充電時にLiを吸蔵することで柔らかさが変化する。積層体において正極層に対する負極層の容量比を5以下とすることで、充電時において負極活物質を互いに融着を起こしやすい柔らかさに調整することができる。
【0050】
正極層、固体電解質層、及び負極層を積層する方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、それぞれ別途に正極層、固体電解質層、及び負極層を作製し、正極層及び固体電解質層を所定の圧力でプレスすることにより積層し、さらに負極層を固体電解質層の正極層とは反対側の面に所定の圧力でプレスすることにより積層することで積層体を作製することができる。また、それぞれ別途に正極層、固体電解質層及び負極層を構成するスラリーを作製し、正極層、固体電解質層、及び負極層をこの順で積層し、乾燥させることにより、積層体を作製することができる。
【0051】
1.2.初回充電工程S12
初回充電工程S12は、準備工程S11の後に行われる工程であり、準備工程S11で作製された積層体を積層方向に拘束して、電池の初回定電流定電圧充電を行う。また、初回充電工程S12は、充電開始時における積層体の拘束圧が30MPa以上であり、かつ、充電終了時における拘束圧が40MPa以上である。
【0052】
なお、通常使用時は、全固体電池の取り回しの観点から、積層体の拘束圧を初回充電工程S12の拘束圧まで上げることは難しい。
【0053】
初回定電流定電圧充電の条件は特に限定されず、従来と同様でよい。すなわち、積層体の電池性能に応じて適宜設定してよい。
【0054】
充電開始時における積層体の拘束圧は30MPa以上であればよい。好ましくは40MPa以上である。一方で、積層体の耐久性を考慮して70MPa以下としてもよい。また、充電終了時の積層体の拘束圧が40MPa以上であれよい。好ましくは50MPa以上である。一方で、積層体の耐久性を考慮して80MPa以下としてもよい。ここで、負極活物質は充電によりLiを吸蔵することにより膨張するため、充電開始時よりも充電終了時の拘束圧が大きくなる。従って、充電終了時における積層体の拘束圧は、充電開始時における積層体の拘束圧よりも大きいことが前提である。
【0055】
1.3.効果等
以上、本開示の全固体電池の製造方法について、製造方法S10を参照しつつ説明した。本開示の全固体電池の製造方法では、初回充電工程において通常使用時に比べて大きな拘束圧を積層体に付与して初回充電を行うことにより、当該積層体を用いて製造される全固体電池の抵抗増加率の上昇を抑制することができる。
より具体的には、充電開始時拘束圧が30MPa以上、充電終了時拘束圧を40MPa以上の条件で初回の充電を行うことで、相対抵抗増加率の低下、すなわち耐久による電池積層体の劣化を抑制することができる。
相対抵抗増加率を低下させるためには負極活物質同士の融着の促進が必要であり、負極活物質同士の融着を促進させるためには、拘束圧が掛かる厚み方向に活物質を成長させることが重要である。負極活物質の融着が促進することにより、不活性界面(負極活物質-負極活物質間の界面)が減少し、負極層内の負極活物質の再配列が起こる。そして、負極活物質が収縮した際(例えば放電時)に発生する負極層内の空隙が積層方向に発生し易くなる。積層方向の空隙は電子パス、イオンパスの阻害になり難い。従って、初回充電工程により、負極層内に発生する空隙の配列を制御することができ、結果として抵抗増加率の上昇を抑制することができる。
【0056】
また、負極集電体の表面粗さを所定の範囲、すなわち、負極集電体の表面粗さRzを0.8μm以上4.0μm以下とすることで、上記効果がさらに顕著なものとなる。
Liの吸蔵、放出によって発生する、合金系活物質の膨張収縮を電極の厚み方向に集中させるために、上記した拘束により負極集電体と負極活物質を含む層との密着性を高めるとともに、負極集電体の表面粗さを規定の範囲とすることで、平面方向への負極活物質を含む層の膨張を負極集電体の強度によって抑制して、負極活物質の融着が促進され、抵抗増加率のさらなる抑制が可能となる。
【0057】
なお、上記した初回充填工程の後、10MPa以下の拘束圧で積層体を拘束してもよい。
また、初回充電工程S12の後に積層体を電極等の電池に必要な端子を備えたケースに収容する工程を備えてもよい。
【0058】
2.固体電池
本開示の固体電池の製造方法により製造される固体電池の1つの態様である全固体電池は、正極層、固体電解質層、及び負極層がこの順で積層された積層体を備え、負極層に存在する全空隙のうち、積層方向の空隙の占める割合が36体積%より大きくすることができる。より好ましくは55体積%以上である。一方、その上限は100体積%である。
ここで、「積層方向の空隙」とは、空隙の長軸の方向が積層方向に対して45°以下であり、かつ、長軸の長さが0.5μm以上、短軸の長さが2μm以下である空隙を意味する。
【0059】
負極層に存在する全空隙のうち積層方向の空隙の占める割合(縦割れ率)を算出する方法は、例えば次のとおりである。
まず、積層体を積層方向に割断し、走査型電子顕微鏡を用いて負極層の断面画像を取得する。断面画像は負極断面の所定の範囲を表示するものを用いる。縦割れ率の精度を担保する観点から、少なくとも負極断面の15μm×15μmの範囲を表示するものを用いる。
次に、得られた断面画像について画像解析を行い、画像に占める空隙の体積割合(=空隙率)を算出する。また、上記空隙において、積層方向に対して上下面から見た方向を水平面として、長軸が水平面に対して45°以上、かつその長さが0.5μm以上、また短軸の長さが2μm以下であるものを縦割れと定義し、全空隙の体積に占める積層方向の空隙の体積割合を縦割れ率(体積%)として算出する。
【0060】
積層方向の空隙は、それ以外の空隙に比べて負極層内の電子パス、イオンパスを阻害し難い。従って、負極層における積層方向の空隙の占める割合(縦割れ率)が36体積%より大きく、好ましくは55体積%以上である本開示の全固体電池によれば、抵抗増加率の上昇を抑制することができる。特に、膨張、収縮が大きいシリコンの場合においても、サイクル時の抵抗上昇を抑制することができる。
【0061】
3.試験
3.1.拘束力に関する試験
3.1.1.積層体の準備
以下の通りに、試験A1~試験A7、試験B1~試験B5に係る評価用の積層体を準備した。
【0062】
3.1.1a.正極層の作製
原料としてNCA系正極活物質(LiNi0.8Co0.15Al0.05)、硫化物系固体電解質(LiS-P)、気相成長法炭素繊維、PVdF系バインダ、酪酸ブチルを含む正極合剤を超音波分散装置によって攪拌することで正極スラリーを作製した。ここで、正極スラリーにおけるNCA系正極活物質:硫化物系固体電解質:気相成長法炭素繊維:PVdF系バインダの重量比は、88.2:9.8:1.3:0.7となるように調整した。この正極スラリーをブレード法によって、正極集電体(Al箔)上に塗工し、これを30分ホットプレート上にて、100℃で乾燥させることで正極層を得た。
【0063】
3.1.1b.負極合材層を含む負極層の作製
原料として粉末Si粒子、硫化物系固体電解質(LiS-P)、気相成長法炭素繊維、PVdF系バインダ、酪酸ブチルを含む負極合剤を超音波分散装置によって攪拌することで負極スラリーを作製した。Si粒子の粒径は表2~表4のとおりである。ここで、負極スラリーにおける粉末Si粒子:硫化物系固体電解質:気相成長法炭素繊維:PVdF系バインダの重量比は、47.0:44.6:7.0:1.4となるように調整した。この負極スラリーをブレード法によって、負極集電箔(Ni箔)上に塗工し、これを30分ホットプレート上にて、100℃で乾燥させることで負極層を得た。
【0064】
3.1.1c.負極薄膜層を含む負極層の作製
負極集電体として、電解法で銅を析出させることにより表面が粗面化された電解銅箔を用いた。RFスパッタリング装置を用いて、負極集電体の表面にSi薄膜を形成し、負極層を得た。ここで、Si薄膜の形成条件を表1に示す。表1において、Si薄膜の厚さは、誘導結合プラズマ発光分析によってSiの面密度を算出し、この面密度の値をSiの真密度(2.3gcm-3)で除することによって算出した。負極層におけるSiの含有量は、95質量%以上であった。
【0065】
【表1】
【0066】
3.1.1d.固体電解質層の作製
原料として硫化物系固体電解質(LiS-P)、PVdF系バインダ、酪酸ブチルを含む固体電解質合剤を超音波分散装置によって攪拌することで固体電解質スラリーを作製した。ここで固体電解質スラリーにおける硫化物系固体電解質:PVdF系バインダの重量比は、99.6:0.4となるように調整した。この固体電解質スラリーをブレード法によってAl箔上に塗工し、これを30分ホットプレート上にて、100℃で乾燥させることで剥離可能な固体電解質層を得た。
【0067】
3.1.1e.積層体の作製
作製した正極層と固体電解質層とを合材面が重なるように積層した。ロールプレス機で50kN/cmのプレス圧力及び160℃の温度でプレスした後、固体電解質層のAl箔を剥がし、1cmの大きさに打ち抜くことにより正極積層体を得た。
【0068】
作製した負極層と固体電解質層とを合材面同士又は薄膜面及び合材面が重なるように積層した。ロールプレス機で50kN/cmのプレス圧力及び160℃の温度でプレスした後、固体電解質層のAl箔を剥がすことで、負極積層体Aを得た。さらに、上記負極積層体Aの固体電解質層側に、さらに固体電解質層を合材面が重なるように積層した。この積層体を平面1軸プレス機で100MPaのプレス圧力及び25℃の温度で仮プレスした後、固体電解質層のAl箔を剥がし、1.08cmの大きさに打ち抜くことにより、負極積層体Bを得た。
【0069】
作製した正極積層体、負極積層体Bを、合材面が重なるように積層した。この積層体を平面1軸プレス機で200MPaのプレス圧力及び120℃の温度でプレスし、積層体を得た。ここで、作製した積層体の正極層に対する負極層の容量比は表2~表5のとおりである。
【0070】
3.1.2.初回充電評価
上記のようにして得られた積層体を2枚の拘束版の間に挟み、これらの2枚の拘束版を締結具によって、表2~表5に示す充電開始時拘束圧まで締め付けて、これら2枚の拘束版の間の距離を固定した。次に、積層体に1/10C、4.2Vまでの定電流充電を行い、その後、4.2V、終止電流1/100Cまでの定電圧充電を行った。そして充電終了時拘束圧を記録した。さらに、1/10C、2.5Vまで定電流放電を行い、その後、2.5V、終止電流1/100Cまでの定電圧放電を行った。
【0071】
3.1.3.縦割れ率の評価
試験A1、試験A3、試験A7、試験B1及び試験B5について縦割れ率を評価した。具体的には、まず初回充電評価を終えた積層体を分解し、イオンミリング装置によって積層体を積層方向に割断した。次に、走査型電子顕微鏡を用いて、割断された積層体の負極層断面15μm×15μmの範囲の断面画像を得た。得られた断面画像を画像解析によって、負極活物質、固体電解質、炭素繊維、空隙の4つの要素に色分けを行い、画像に占める空隙の体積割合(=空隙率)を算出した。また、上記空隙において、積層方向に対して上下面から見た方向を水平面として、長軸が水平面に対して45°以上、かつその長さが0.5μm以上、また短軸の長さが2μm以下であるものを縦割れと定義し、全空隙の体積に占める積層方向の空隙の体積割合を縦割れ率(体積%)として算出した。結果を表2、表5に示した。また、図2に負極合材層を含む負極の断面画像(試験A1)を示した。図3に負極薄膜層を含む負極の断面画像(試験A7)を示した。
【0072】
3.1.4.抵抗増加率評価
初回充電評価を終えた積層体の拘束を一度解除し、再度10MPaの拘束圧で締め付けて、これら2枚の拘束版の間の距離を固定した。次に、積層体に1/10C、3.0Vまでの定電流充電を行い、その後、3.0V、終止電流1/100Cまでの定電圧充電を行うことで、充電状態を調整した。充電状態を調整した積層体について、8.2mAh/cmの電流を10秒間流し、その前後の電圧変化を電流値で割ることによって、抵抗を得た。この抵抗の値を初期抵抗値とした。
【0073】
初期抵抗値を測定した積層体について、下記の条件で充電及び放電を300回繰り返す耐久試験を行った。
充電条件:1C、4.2Vまでの定電流充電
放電条件:1C、2.5Vまでの定電流放電
【0074】
耐久試験後の積層体に1/10C、3.0Vまでの定電流充電を行い、その後、3.0V、終止電流1/100Cまでの定電圧充電を行うことで、充電状態を調整した。充電状態を調整した積層体について、8.2mAh/cmの電流を10秒間流し、その前後の電圧変化を電流値で割ることによって抵抗を得た。この抵抗値を耐久後抵抗値とした。
【0075】
得られた初期抵抗値及び耐久後抵抗値に基づいて、下記の式から抵抗増加率を算出した。ここで、負極合材層を含む負極層を用いた積層体の試験では、試験B1の抵抗増加率を基準(100%)として、相対抵抗増加率を算出している。負極薄膜層を含む負極層を用いた積層体の試験では、試験B5の抵抗増加率を基準(100%)として、相対抵抗増加率を算出している。相対抵抗増加率が小さいことは、耐久による電池積層体の劣化が抑制されていることを示している。結果を表2~表5に示した。
抵抗増加率(%)=耐久後抵抗値(Ω)/初期抵抗値(Ω)×100
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
【表4】
【0079】
【表5】
【0080】
3.1.5.結果
表2~表4は負極合材層を含む負極層を備える積層体の試験例の結果である。
表2は、負極活物質の粒径及び積層体の容量比を固定する一方で、充電開始時拘束圧及び充電終了時拘束圧を変化させた試験例である。表2の結果に基づいて、図4に初回充電終了時拘束圧と相対抵抗増加率との関係を示した。表2、図4から、一般的に初回充電で適用される10MPa~20MPaの拘束圧で行った試験B1、試験B2に対し、充電開始時拘束圧が30MPa以上、電終了時拘束圧が40MPa以上の条件で行った試験A1~試験A3は、縦割れ率の上昇及び相対抵抗増加率の低下が確認された。この結果から、試験A1~試験A3は試験B1、試験B2に比べて、耐久試験による積層体の劣化が抑制されていることが分かる。
【0081】
表3は、負極活物質の粒径、充電開始時拘束圧、及び充電終了時拘束圧を固定する一方で、積層体の容量比を変化させた結果である。表3から、容量比が5以下の範囲において相対抵抗増加率が低下していること、すなわち耐久試験による積層体の劣化が抑制されていることが分かる。合金系負極活物質に用いたSiはLiを吸蔵することによって柔らかさが変わるものである。よって、容量比が5以下の範囲において相対抵抗増加率が低下した理由は、容量比を5以下とすることで充電時にLiSi同士が結着を起こしやすい柔らかさに到達させることができたためであると考えられる。
【0082】
表4は、積層体の容量比、充電開始時拘束圧、及び充電終了時拘束圧を固定する一方で、負極活物質の粒径を変化させた結果である。表4から、負極活物質の粒径が1μm以下の条件において相対抵抗増加率が低下していること、すなわち耐久による電池積層体の劣化が抑制されていることが分かる。これは負極活物質の粒径が小さいほど、負極内の負極活物質-負極活物質間の界面が増加することに起因しており、1μm以下の粒径の活物質を使用した場合、活物質同士の融着による不活性界面の低減効果が大きいことを示している。
【0083】
表5は、負極薄膜層を含む負極層を用いた積層体の試験例の結果である。表5から、このような積層体を用いて、充電開始時拘束圧が30MPa、充電終了時拘束圧が50MPaの条件で初回充電を行った場合であっても、縦割れ率の上昇、及び相対抵抗増加率の低下が確認されており、耐久試験による電池積層体の劣化が抑制されていることが分かる。特に、試験A7においては、縦割れ率は100%となっていることがわかる。
【0084】
3.2.負極集電体層の表面粗さの試験
3.2.1.積層体の準備
以下の通りに、試験A11~試験A16、試験B11~試験B14に係る評価用の積層体を準備した。
【0085】
3.2.1a.正極層の作製
正極層は上記試験A1~試験A7、試験B1~試験B5と同様に作製した。
【0086】
3.2.1b.負極層(負極合材層を有する負極層)の作製
原料として粉末Si粒子、硫化物系固体電解質(LiS-P)、気相成長法炭素繊維、PVdF系バインダ、酪酸ブチルを含む負極合材を超音波分散装置によって攪拌することで負極スラリーを作製した。ここで、負極スラリーにおける粉末Si粒子:硫化物系固体電解質:気相成長法炭素繊維:PVdF系バインダの重量比は、46.8:44.4:7.0:1.4となるように調整した。この負極スラリーをブレード法によって、負極集電体として表6、表7に示すRzを有する金属箔上に塗工し、これを30分ホットプレート上にて、100℃で乾燥させることで負極合材層を有する負極層を得た。
【0087】
3.2.1c.負極層(負極薄膜層を有する負極層)の作製
負極集電体として、表8に示すRzを有するNi箔を用いた。RFスパッタリング装置を用いて、負極集電体の表面にSi薄膜を形成し、負極層を得た。Si薄膜の形成条件は上記した表1と同じである。
【0088】
3.2.1d.固体電解質層の作製
固体電解質層は上記試験A1~試験A7、試験B1~試験B5と同様に作製した。
【0089】
3.2.1e.積層体の作製
積層体の作製も上記試験A1~試験A7、試験B1~試験B5と同様に行った。
【0090】
3.2.2.初回充電評価
上記のようにして得られた電池積層体を2枚の拘束版の間に挟み、これらの2枚の拘束版を締結具によって、表6~表8に示す充電開始時拘束圧まで締め付けて、これら2枚の拘束版の間の距離を固定した。次に、拘束済の積層体に1/10C、4.05Vまでの定電流充電を行い、その後、4.05V、終止電流1/100Cまでの定電圧充電を行った。そして充電終了時拘束圧を記録した。さらに、1/10C、2.5Vまで定電流放電を行い、その後、2.5V、終止電流1/100Cまでの定電圧放電を行った。
【0091】
3.2.3.抵抗増加率評価
初回充電評価を終えた積層体の拘束を一度解除し、再度10MPaの拘束圧で締め付けて、これら2枚の拘束版の間の距離を固定した。次に、積層体に1/10C、3.0Vまでの定電流充電を行い、その後、3.0V、終止電流1/100Cまでの定電圧充電を行うことで、充電状態を調整した。充電状態を調整した積層体について、8.2mAh/cmの電流を10秒間流し、その前後の電圧変化を電流値で割ることによって、抵抗を得た。この抵抗の値を初期抵抗値とした。
【0092】
初期抵抗値を測定した積層体について、下記の条件で充電及び放電を300回繰り返す耐久試験を行った。
耐久用充電:1C、4.05Vまでの定電流充電
耐久用放電:1C、2.5Vまでの定電流放電
【0093】
耐久試験後の積層体に1/10C、3.0Vまでの定電流充電を行い、その後、3.0V、終止電流1/100Cまでの定電圧充電を行うことで、充電状態を調整した。充電状態を調整した積層体について、8.2mAh/cmの電流を10秒間流し、その前後の電圧変化を電流値で割ることによって抵抗を得た。この抵抗値を耐久後抵抗値とした。
【0094】
得られた初期抵抗値及び耐久後抵抗値に基づいて、下記の式から抵抗増加率を算出した。ここで、負極合材層を含む負極層を用いた積層体の試験では、試験A11の抵抗増加率を基準(100%)として、相対抵抗増加率を算出している。負極薄膜層を含む負極層を用いた積層体の試験では、試験A16の抵抗増加率を基準(100%)として、相対抵抗増加率を算出している。相対抵抗増加率が小さいことは、耐久による電池積層体の劣化が抑制されていることを示している。結果を表6~表8に示した。
抵抗増加率(%)=耐久後抵抗値(Ω)/初期抵抗値(Ω)×100
【0095】
【表6】
【0096】
【表7】
【0097】
【表8】
【0098】
3.2.4.結果
3.2.4a.負極集電体の表面粗さと相対抵抗増加率の関係
図5には表6の試験A11~試験A13、及び、試験B11、試験B12について横軸にRz、縦軸に相対抵抗増加率をとったグラフを示した。当該表6の試験A11~試験A13、及び、試験B11、試験B12より、負極集電体の表面粗さRzが0.8μm以上4.0μm以下であるとともに、充電開始時拘束圧が30MPa、充電終了時拘束圧を40MPaの条件で初回の充電を行った場合、相対抵抗増加率が低下していること、すなわち耐久による電池積層体の劣化が抑制されていることが分かる。これは、負極集電体と負極合材の密着性が高まり、平面方向への負極活物質の膨張が負極集電体の強度によって抑制されたことで、厚み方向への活物質の融着が促進され、活物質の収縮に伴う電極内の割れを縦方向に制御できたためだと考えられる。
Rzが0.8μm未満では負極合材と負極集電体との密着性が低く、負極合材と負極集電体の界面で剥離が発生し、負極合材の平面方向への膨張の抑制ができないために割れの制御ができず、抵抗増加率が上昇したものと考えられる。
また、Rzが4.0μmより大きいと負極集電体の粗化部における谷部と山部の厚みの差が大きく、谷部における局所的な対向容量比と山部における局所的な対向容量比のズレが発生してしまい、反応ムラを引き起こすために抵抗増加率が上昇したものと考えられる。なお、負極集電体の表面粗さRzを4.0μmより大きくすることは、負極集電体の強度や、必然的に負極集電体の厚みを増やさなければならないために体積密度の観点からも好ましくない。
また、表6の試験A12及び試験B13等の結果から、負極集電体の表面粗さRzが0.8μm以上4.0μm以下であっても、充電開始時拘束圧が30MPa以上、充電終了時拘束圧を40MPa以上でなければ、相対抵抗増加率は低下しないことがわかる。
【0099】
3.2.4b.負極集電体の種類と相対抵抗増加率の関係
表7の試験A14、試験A15より、負極集電体の表面粗さRzが0.8μm以上4.0μm以下であるとともに、充電開始時拘束圧が30MPa、充電終了時拘束圧を40MPaとすれば、負極集電体の金属の種類は問わず、同様の耐久による電池積層体の劣化抑制の効果が発生することがわかる。
【0100】
3.2.4c.負極薄膜層を有する負極層の場合
表8の試験A16及び試験B14より、負極層が薄膜であった場合でも上記の合材と同様に、負極集電体の表面粗さRzが0.8μm以上4.0μm以下で、かつ、充電開始時拘束圧を30MPa以上、充電終了時拘束圧を40MPa以上で初回の充電を行った場合、相対抵抗増加率が低下していること、すなわち耐久による電池積層体の劣化が抑制されていることがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5