(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】焼き菓子用組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 2/14 20060101AFI20241029BHJP
A21D 2/36 20060101ALI20241029BHJP
A21D 10/00 20060101ALI20241029BHJP
A21D 13/047 20170101ALI20241029BHJP
A21D 13/066 20170101ALI20241029BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20241029BHJP
【FI】
A21D2/14
A21D2/36
A21D10/00
A21D13/047
A21D13/066
A21D13/80
(21)【出願番号】P 2023093930
(22)【出願日】2023-06-07
(62)【分割の表示】P 2021146145の分割
【原出願日】2018-03-29
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100181869
【氏名又は名称】大久保 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】井口 有紗
(72)【発明者】
【氏名】土屋 邦保
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-125168(JP,A)
【文献】特開2013-233143(JP,A)
【文献】特開2013-070663(JP,A)
【文献】"小麦アレルギーでも大丈夫! 新食材「ライスジュレ」で期待される安全な食のイノベーション,2017年12月15日,[2019年4月5日検索]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20171215061012/https:/w
【文献】"グルテンフリーの新食品素材「米ゲル」の本格販売を開始"、[online],2017年12月11日,[2019年4月8日検索]、インターネット<URL:https://www.yanmar.com/jp/agri/news/2017/12/11/3700
【文献】"澤田農産のお米のジュレーゼ"、[online],2015年11月19日,[2019年4月8日検索]、インターネット<URL:https://www.youtube.com/watch?v=itaCEjIxTq4>
【文献】柴田真理朗 ほか,攪拌処理による高アミロース米の ゲル物性の変化,日本食品科学工学会誌,2012年,Vol.59,No.5,pp.220-224,DOI:10.3136/nskkk.59.220
【文献】中野明日香、粉川美踏、北村豊,米ゲルと米粉によるグルテンフリーパンの開発及び特性の検討,日本食品科学工学会誌,vol. 65, no. 3,2018年03月15日,p. 124-129
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 10/00
A21D 2/14
A21D 2/36
A21D 13/047
A21D 13/066
A21D 13/80
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高アミロース米に水分を加えて炊飯した炊飯米、米粉、及び油脂を含有する焼き菓子用組成物
の製造方法であって、
前記組成物中、前記高アミロース米を1.0~10質量%、前記米粉を5~15質量%、前記油脂を10~30質量%の量で含有
し、
前記組成物において、前記炊飯米は、ゲル状物を加熱してゾル状物とした後に、前記油脂と混合され、その後に前記米粉と混合される、焼き菓子用組成物
の製造方法。
【請求項2】
前記組成物中の前記油脂の質量%に対する前記組成物中の前記高アミロース米の質量%の比率は、5.0%以上である、請求項1記載の焼き菓子用組成物
の製造方法。
【請求項3】
前記組成物中の前記油脂の質量%に対する前記組成物中の前記米粉の質量%の比率は、40.0%以上である、請求項1又は2記載の焼き菓子用組成物
の製造方法。
【請求項4】
前記高アミロース米、米粉、及び油脂以外の残余の成分として、砂糖を10~40質量%の量で含有する、請求項1~3の何れかに記載の焼き菓子用組成物
の製造方法。
【請求項5】
前記高アミロース米、米粉、及び油脂以外の残余の成分として、卵白を15~30質量%の量で含有する、請求項1~4の何れかに記載の焼き菓子用組成物
の製造方法。
【請求項6】
前記焼き菓子が、フィナンシェ、マドレーヌ、パウンドケーキ、バターケーキのいずれかである、請求項1~5の何れかに記載の焼き菓子用組成物
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼き菓子用組成物に関するものであり、より詳細には、高アミロース米を含有する米加工素材及び米粉を含有するグルテンフリーの焼き菓子を製造可能な焼き菓子用組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、マドレーヌ、パウンドケーキ等の焼き菓子においては、小麦粉、卵、必要により膨張剤等が含有されており、卵白や膨張剤による膨らみと共に、小麦粉に含まれるグルテンによる粘りや弾性によって、しっとり感やふっくら感が得られている。しかしながら、グルテンは食物アレルギーの原因となるタンパク質であることから、グルテンアレルギーのある人は喫食することができない。
このような観点から、焼き菓子においても小麦粉の代わりに米粉を用いることが提案されている。しかしながら、小麦粉の代わりに米粉を使用した焼き菓子は、老化しやすく(硬くなりやすく)、製造当初の膨らみを長期にわたって維持することができないことから、小麦粉を使用した焼き菓子に比して賞味期限が短くなるという問題がある。そのため、焼き菓子に使用する小麦粉の全量を米粉に変えたグルテンフリーの焼き菓子においては、しっとり感やふんわり感を維持させるために、増粘剤や膨張剤等の食品添加物が使用されることが多い。あるいは、製造直後に冷凍(緩慢・急速)させることで、しっとり感やふんわり感を維持させている。
【0003】
米粉が有する上記のような問題を解決するものとして、下記特許文献1には、高アミロース米のゲル状の米加工素材が開示されており、この米加工素材によれば、形状維持性、難離水性、膨張性、高粘弾性等の物性を被添加食品に付与できることが開示されている。また下記特許文献1には、この米加工素材を使用した一例として、焼成菓子(スポンジケージやシュー生地等)の原料となる小麦粉に代えて米粉加工素材を用いた焼き菓子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたスポンジケーキやシュー生地等では、発泡剤や膨化剤、あるいは増粘剤が使用されており、このような焼き菓子においても、食品添加物である発泡剤や膨化剤(以下、これらを総称して膨張剤という)あるいは増粘剤を使用することなく、良好な食味(しっとり感、ふんわり感)を維持できることが望まれている。
【0006】
従って本発明の目的は、小麦粉を用いて製造された焼き菓子と同等以上の食味(しっとり感、ふんわり感)及び賞味期間を有するグルテンフリーの焼き菓子を製造可能な焼き菓子用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、高アミロース米の炊飯米、米粉、及び油脂を含有し、比容積が0.2~1.5mL/gの範囲にある焼き菓子用組成物であって、前記組成物中、前記高アミロース米を0.1~10質量%、前記米粉を5~15質量%、前記油脂を10~30質量%の量で含有することを特徴とする焼き菓子用組成物が提供される。
【0008】
上記焼き菓子用組成物においては、
(1)前記高アミロース米の含有量が1~2質量%であること、
(2)前記高アミロース米、米粉、及び油脂以外の残余の成分として、砂糖を10~40質量%の量で含有すること、
(3)前記高アミロース米、米粉、及び油脂以外の残余の成分として、卵白を15~30質量%の量で含有すること、
(4)前記焼き菓子が、フィナンシェ、マドレーヌ、パウンドケーキ、バターケーキのいずれかであること、
が好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の焼き菓子用組成物においては、グルテンフリーの焼き菓子用組成物でありながら、膨張剤や増粘剤等の食品添加物を用いることなく、小麦粉を用いた場合と同等以上の食味(しっとり感、ふんわり感)を有する焼き菓子を製造可能である。また、かかる焼き菓子は老化しにくく(硬くなりにくく)、常温保存でも長期にわたって良好な食味を維持することができる。尚、本明細書において、焼き菓子の「老化」とは、保水性が低下して、しっとり感やふんわり感が失われ、硬くなった状態を意味する。
また本発明の焼き菓子用組成物によれば、膨張剤を使用しなくても十分な膨らみを有する焼き菓子を製造することができると共に、この膨らみを長期にわたって維持可能な焼き菓子を提供することが可能である。
更に、高アミロース米の炊飯米を含有することにより、焼き菓子にもっちりとした新食感を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の焼き菓子用組成物は、比容積が0.2~1.5mL/gの範囲にある焼き菓子を製造するためのものであり、前記組成物中に、高アミロース米が0.1~10質量%、米粉が5~15質量%、油脂が10~30質量%の量で含有されていることが重要な特徴である。
尚、比容積が0.2~1.5mL/gの範囲にある焼き菓子とは、前述した、フィナンシェ、マドレーヌ、パウンドケーキ、バターケーキ等に代表される、しっとり感やふんわり感等が食味の要素として重視される焼き菓子を意味する。すなわち、本発明の目的とする焼き菓子は、上記範囲よりも比容積が小さく、ふんわり感が問題とならないものや、上記範囲より比容積が大きく、製造後の膨らみの保持が問題とならないものは含まない趣旨である。
【0011】
本発明においては、高アミロース米の炊飯米は、機械的撹拌処理に付することにより、糊化物(ゾル状)からゲル状への相転移を生じさせたゲル状物の状態で使用することが望ましい。これにより、高アミロース米に含まれるアミロースが、網目状のゲルの状態で焼き菓子用組成物中に含有され、この網目内に形成される多数の小空間に水分や油分が入り込み、アミロースの網目により物理的に囲まれることによって、水分や油分は離脱され難くなる。そのため、本発明の焼き菓子用組成物においては、老化が抑制され、保水性や乳化性の機能が顕著に向上している。
また焼き菓子用組成物中の油脂を乳化させることにより、油脂が気泡の周りにコーティングされることから、生地を膨らませる際に気泡がつぶれにくくなる。そのため、膨張剤等を使用しなくても、きめ細かく、ふっくらとした焼き上がりが可能になると共に、この焼き上がりが上述した保水性の向上により、長期にわたって実現できる。
【0012】
(高アミロース米)
本発明の焼き菓子用組成物においては、高アミロース米を組成物中0.1~10質量%で含有し、特に1~2質量%の量で含有することが望ましい。
高アミロース米とは、デンプンに占めるアミロース含量が高い米であり、一般にアミロース含量が25質量%以上の米を意味するが、アミロース含量は天候等によって変更する場合がある。
高アミロース米の品種としては、ジャポニカ種およびインディカ種のいずれでもよく、例えばモミロマン、夢十色、ホシユタカ、ホシニシキ、ミレニシキ、中国134号、越のかおり、ミズホチカラなどが挙げられる。上記品種の中でも、モミロマンまたは夢十色が好適に使用される。高アミロース米は、精米の程度は問わず、玄米、分搗き米、白米のいずれの状態でもよい。また品種の異なる2種以上の高アミロース米の混合物であってもよい。
【0013】
[高アミロース米の炊飯米]
本発明の焼き菓子用組成物においては、高アミロース米を炊飯(加熱)した炊飯米を、機械的撹拌処理を経て得られたゲル状物の状態で使用することが望ましい。このような状態の高アミロースの炊飯米を使用することにより、目的とする焼き菓子にもっちりとした新食感を付与することができる。
高アミロース米を炊飯(加熱)する際に用いる水分の量は、米のアミロース含量に依存するが、通常、高アミロース米に対し1倍量以上であり、特に1~6倍量であることが好ましく、2~4倍量であることがより好ましい。水分量が上記範囲にあることにより、炊飯米のゲル状物の粘度を適切な範囲に維持できると共に、得られる焼き菓子にもっちり感を付与できる。
炊飯に先立って、高アミロース米を水に浸漬してもよい。浸漬時間に特に制限はなく、通常10~120分程度であるが、米の吸水性又は含水率が比較的低い冬季の場合には、上記範囲を超える時間浸漬することが望ましい場合もある。
【0014】
高アミロース米の炊飯には、炊飯器、鍋、圧力鍋、電磁調理器(IH調理器等)、電子レンジ、スチームオーブン等、公知の加熱手段を使用することができる。
温度、圧力、時間等の加熱条件は、加熱手段や水量等によっても異なり、一義的に特定することは困難であるが、米が焦げ付かず糊化が十分に進む時間に適宜調整する。例えば、加熱手段内に内蔵された条件モード(例えば、お粥モード)に従って調整してもよい。加熱温度は、通常、下限が25℃以上、好ましくは60℃以上であり、80℃以上であることがより好ましい。上限は130℃以下、好ましくは120℃以下であり、100℃以下であることがより好ましい。加熱処理は、加熱だけでなく加圧とともに行ってもよく、この場合の温度条件は、上記の範囲を外れる条件が好ましい場合もある。
【0015】
炊飯(加熱)に用いる水分は、液状であればよく、水、水以外の成分(例:牛乳、豆乳(無調整豆乳、調整豆乳)、ココナツミルク、アーモンドミルク等の植物乳、植物性タンパク)及びそれらの混合液を、目的とする焼き菓子の種類に応じて適宜選択して使用することができる。
【0016】
炊飯(加熱)の後、機械的撹拌処理を行う前に、冷却処理を行ってもよい。これにより、冷却処理を行わない場合よりも粘度の低いゲル状物を得ることができる。冷却処理の際の冷却後の温度は、通常は60℃以下である。
【0017】
[炊飯米のゲル状物]
炊飯(加熱)処理により得られる糊化状(ゾル状)の炊飯米を機械的撹拌処理に供することにより、高アミロース米の炊飯米のゲル状物への相転移が生じる。そのため、機械的撹拌処理の条件を調整することにより、目的とする焼き菓子に合う硬さ及び質感を調整することができる。
機械的撹拌処理とは、物理運動により組織を破壊し得る撹拌を意味し、単なる混合処理とは異なる。機械的撹拌処理は、例えばフードプロセッサ、ホモジナイザー、ミキサー、ニーダー、混練機、押出機等の撹拌機器を用いて行えばよい。撹拌機器はトルクが大きいことが、機械的撹拌処理中に糊化物の粘度が上昇しても撹拌が妨げられることがないため、好ましい。トルクの大きい撹拌機器としては、例えば、カッターミキサー(例:ロボクープ、BLIXER-5Plus、(株)エフ・エム・アイ)が挙げられる。
【0018】
機械的撹拌処理の条件は、炊飯米の状態、撹拌機器の種類等によって適宜定めることができる。例えば、無負荷時の回転数で1000~3000rpmであることが好ましく、1200~2000rpmであることがより好ましく、1500~1800rpmであることがより好ましい。また回転数を落として、その分、長時間かけたり、60rpm程度の低速スクリューで撹拌しながら圧力成形をしたり、適宜、最適な条件を選択することができる。
これにより、高アミロース米の炊飯米のゲル状物が得られ、良好な質感とゲルとして適度な硬さを有している。尚、良好な質感とは、所謂ぷるぷる感を意味する。またゲルとして適度な硬さとは、例えば、寒天より柔らかい程度の硬さを意味する。
【0019】
ゲル状物の硬さは、複素弾性率により総合的に評価することができる。複素弾性率G*は、特許第5840904 B2で説明されているように、弾性成分と粘性成分の和であり、総合的な硬さを意味する。複素弾性率G*は具体的には、貯蔵弾性率G’をX軸、損失弾性率G”をY軸に取ったときのベクトルの長さにより示される。貯蔵弾性率G’は、弾性情報である。損失弾性率G”は、粘性情報である。
【0020】
本発明で用いる炊飯米のゲル化物の複素弾性率G*は、好ましくは1000Pa以上であり、特に好ましくは1500Pa以上である。複素弾性率G*が小さすぎると、ゲル状物の硬さが不十分であるため、もっちりとした食感を焼き菓子に付与できない場合がある。一方、複素弾性率G*が大きすぎると、ゲル状物が過度に硬く、他の材料とゲル状物が均一に混合できない、均一に混合できたとしても撹拌装置に大きな負荷がかかる等の不都合が生じる虞がある。
本発明で用いる炊飯米のゲル状物の質感は、粘性/弾性の比率により総合的に評価することができる。粘性/弾性の比率tanδは、いわゆるぷるぷる感、ぐにゃ感の指標である。tanδが小さいほどぷるぷる感があり、tanδが大きいほどぐにゃ感がある。
【0021】
粘性/弾性の比率tanδは、具体的には、式tanδ=G”/G’で算出される。δは複素弾性率G*のベクトルと貯蔵弾性率G’(X軸)との間の角度を意味する。
ゲル状物の粘性/弾性の比率tanδは、好ましくは0.3以下であり、特に好ましくは0.2以下である。粘性/弾性の比率tanδが大きすぎると、ゲル状物は、ぷるぷる感に欠け、ぐにゃ感が支配的なゾル状(ペースト状)である。このようなゲル状物は、焼き菓子にもっちりとした食感を十分に付与することができない場合がある。
【0022】
ゲル状物は、保存後にも良好な硬さ及び質感が保持されている。例えば、4~25℃で3日~2週間程度経過しても上記した良好な硬さ及び質感が保持される。
【0023】
(米粉)
本発明の焼き菓子用組成物においては、米粉を5~15質量%の量で含有する。従来の焼き菓子に使用されていた小麦粉に代えて米粉を使用することにより、グルテンフリーの焼き菓子を提供することが可能になる。
米粉は、生米を粉砕して得られた粉末である。米粉の原料となる米は、うるち米、もち米のいずれを用いることもできるが、特にうるち米が好ましい。うるち米は、例えば、ジャポニカ米、インディカ米、又はジャバニカ米であってよく、さらに、それらに属する様々な品種の米であってよい。米の品種としては、以下に限定するものではないが、例えば、タカナリ、ミズホチカラ、ゆめふわりなどの、米粉用米として好適とされる品種であってもよいし、コシヒカリ、あきたこまちなどの普通品種であってもよい。また前述した高アミロース米の他、アミロース含量が中程度、又は低い品種などであってもよい。米粉は、様々な品種の米粉の混合物であってもよい。また米粉は、米を加熱によりα化した後に乾燥及び粉末化して得られるα化米粉であってもよい。
【0024】
(油脂)
本発明の焼き菓子用組成物においては、油脂を10~30質量%の量で含有する。
油脂は、植物性油脂及び動物性油脂のいずれでもよい。植物性油脂は、植物由来の油脂であればよく、その製法は特に限定されない。植物性油脂としては例えば、菜種油(キャノーラ油、サラダ油)、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、紅花油、米油(米ぬか油)、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、ココナッツ油、パーム油、パーム核油、シア油、サル脂、カカオ脂、ヤシ油、シソ油、ラベンダー油、マンゴー核油、これらの少なくとも1つを原料とする加工油脂等が挙げられる。動物性油脂は、動物由来の油脂であればよく、その製法は特に限定されない。動物性油脂としては例えば、牛脂、ラード、魚油、鯨油、乳原料由来のバター、生クリーム等の乳脂肪分、これらの少なくとも1つを原料とする加工油脂が挙げられる。加工油脂としては、硬化油、エステル交換油、分別油が挙げられる。これらのうち植物性油脂、又は機能性油脂が好ましい。機能性油脂としては例えば、オリーブ油、ココナッツ油等の機能性を有する植物性油脂、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)等の動物性油脂が挙げられ、これらの2種以上を組み合わせで用いることもできる。
【0025】
前述した油脂の中から目的とする焼き菓子の種類に応じて適宜選択することができるが、特にバター(無塩又は有塩)、マーガリン、ショートニング等の従来より焼き菓子に使用されていた油脂の他、米油等を好適に使用できる。特にバターを用いることが、焼き菓子にしっとり感等の優れた風味を付与できることから望ましい。
本発明の焼き菓子用組成物においては、高アミロース米の炊飯米を含有することにより、油脂(バター)の量を一般的な使用量に比して、最大で60質量%低減させた場合にも、しっとり感を損なうことがなく、また卵白等の臭いがある成分のマスキング効果が得られるので、食味を損なうことなくカロリーダウンを図ることが可能になる。
【0026】
(残余の成分)
本発明の焼き菓子用組成物においては、高アミロース米の炊飯米、米粉、及び油脂を必須の成分とし、高アミロース米を0.1~10質量%、米粉を5~15質量%、油脂を10~30質量%の量で含有するものであり、組成物を構成する残余の成分は、目的とする焼き菓子によって適宜決めることができる。
従って、組成物の残余の成分としては、目的とする焼き菓子の種類によるが、甘味料、卵、粉類等の他、高アミロース米の炊飯米に含まれる水分なども残余の成分として含有することになる。尚、例えば、パウンドケーキ(フルーツケーキ)等におけるドライフルーツやナッツ類のように、焼き菓子の生地(ベース)とならない成分は、本発明の組成物の構成成分としない。
【0027】
甘味料としては、砂糖(ショ糖、スクロース)、ブドウ糖(D-グルコース)、果糖(D-フラクトース)、麦芽糖(マルトース)、乳糖(ラクトース)、D-ガラクトース、D-マンノース、D-リボース、D-キシロース、L-アラビノース、希少糖に分類される単糖(L-アロース、L-グロース、L-グルコース、L-ガラクトース、L-アルトロース、L-イドース、L-マンノース、L-タロース、D-タロース、D-イドース,D-アルトース、D-グロース、D-アロース、L-ブシコース、L-ソルボース、L-フルクロース、L-タガトース、D-タガトース、D-ソルボース、D-ブシコース、L-リボース等)、トレハロース、デキストリン、水飴、はちみつ、メープルシロップ、オリゴ糖、異性化糖等の糖類;ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、希少糖に分類される単糖から誘導される糖アルコール(キシリトール、エリスリトール等)等の糖アルコール類;アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムK、ステビオサイド、ソーマチン、グリチルリチン、サッカリン、ジヒドロカルコン等の非糖質甘味料等を例示できる。
上記の中でも、砂糖を用いることが好ましい。砂糖の量は、これに限定されないが、組成物中に10~40質量%の量で含有されていることが望ましい。
【0028】
卵は、全卵の他、卵白、卵黄のそれぞれを、目的とする焼き菓子の種類によって使い分けることができる。本発明においては、前述したとおり、高アミロース米の炊飯米をゲル状物の状態で含有することにより、膨張剤を使用しなくても、卵白による泡を保持できることから、卵白を含有している場合に効果的である。
卵の量は、目的とする焼き菓子の種類等によって一概に規定できないが、卵白の場合で組成物中に15~30質量%の量で含有されていることが望ましい。
【0029】
上述した粉類とは、必須成分である米粉以外の、小麦粉を除く粉類であり、例えばアーモンドプードル(アーモンドパウダー)、ココアパウダー、抹茶パウダー、香辛料等を例示できる。
また、高アミロース米の炊飯米中に含まれる水分や、必要に応じて、フルーツのピューレ又はペースト、果汁、リキュール等の液体分を、目的とする焼き菓子の種類に応じて、組成物中に適宜含有させることができる。
【0030】
本発明の焼き菓子用組成物においては、高アミロース米の炊飯米、米粉、油脂を必須の成分とし、高アミロース米0.1~10質量%、米粉5~15質量%、油脂10~30質量%の範囲で含有する。これに限定されるものではないが、焼き菓子の具体例における好適な成分組成を以下に例示する。
[フィナンシェ]
高アミロース米0.1~2.0質量%、米粉5~15質量%、バター13~30質量%、アーモンドプードル6~18質量%、砂糖16~33質量%、卵白15~30質量%の組成であることが好適である。
【0031】
(焼き菓子及びその製造法)
本発明の焼き菓子用組成物を用いて製造可能な、比容積が0.2~1.5mL/gの範囲にあり、ふっくら感やしっとり感が重要な食味である焼き菓子としては、前述したフィナンシェ、マドレーヌ、パウンドケーキ、バターケーキ等以外にも、ダックワース、ワッフル、バームクーヘン等を例示できる。
【0032】
本発明の焼き菓子用組成物を用いて製造される焼き菓子は、目的とする焼き菓子に応じた従来公知の手順で製造することができるが、高アミロース米の炊飯米が有する優れた作用効果を得るためには、高アミロース米の炊飯米をゲル状物の状態で使用することが好ましい。
またこのゲル状物と、他の成分との混合に際しては、高アミロース米の炊飯米のゲル状物を80~90℃の温度で1分以上加熱してその粘度を低下させておくことが好ましい。加熱することにより、高アミロース米の炊飯米のゲル状物がゾル状(流動性を有するペースト状)となり、他の成分と混合した時にダマが発生することを回避することができる。
【0033】
高アミロース米の炊飯米は、米粉等の粉類と混合する前に、組成物中の油脂となじませ、乳化させておくことが望ましい。これにより、高アミロース米の炊飯米(ゾル状)を米粉等の粉類と混合する際に、両者がよくなじんで、油脂と粉が非常に細かく混ざる。そのため、焼成すると、大きく膨らみ、きめ細かでふっくらとした食感の焼き菓子を得ることができる。またかかる食感は持続性にも優れている。
油脂と混合されることにより乳化された高アミロース米の炊飯米と粉類を混合した後、砂糖、卵(卵白)等と混合して生地を調製する。調製された生地を型に入れて、焼成することにより、目的とする焼き菓子を製造することができる。尚、焼成温度は、組成及び型の大きさ等によって異なり、これに限定されないが、150~200℃の温度で15~20分程度行うことが好ましい。
【実施例】
【0034】
本発明を以下の実験例により具体的に説明するが、本発明は、以下の実験例に限定されるものではない。
【0035】
(実験例1)
フィナンシェ用組成物として、卵白、グラニュー糖、アーモンドプードル(アーモンドパウダー)、米粉、無塩バター、高アミロース米の炊飯米を機械的撹拌して得られたゲル状物を用意した。
尚、高アミロース米の炊飯米の機械的撹拌によるゲル状物として、アミロース含量25%以上の白米と水とを1:2の割合で炊飯した炊飯米を機械的撹拌してゲル状に相転移させたもの(製品名:ライスジュレ白米ハードタイプ、製造元:ライステクノロジーかわち株式会社、以下「ハードタイプ」という)と、アミロース含量25%以上の白米と水とを1:4の割合で炊飯した炊飯米を機械的撹拌してゲル状に相転移させたもの(製品名:ライスジュレ白米ソフトタイプ、製造元:ライステクノロジーかわち株式会社、以下「ソフトタイプ」という)との2種類を用意し、試料No.2~4のフィナンシェ用組成物には、ハードタイプのゲル状物を使用し、試料No.5のフィナンシェ用組成物にはソフトタイプのゲル状物を使用した。これらのゲル状物は、いずれも使用直前まで0~10℃の温度で冷蔵保管されていた。
表1にフィナンシェ用組成物の組成(試料No.1~6)を示す。
【0036】
【0037】
[製造手順]
(1)高アミロース米の炊飯米のゲル状物を冷蔵庫とから取り出し、湯煎にて加温した。湯煎は、ゲル状物の芯温が85℃に到達し、その状態が5分以上維持されるまで行い、ゲル状物を、流れ出るような柔らかさのゾル状物(ペースト状)とした。
(2)米粉及びアーモンドプードルを、それぞれ製菓用の篩にかけ、ダマを取り除いた。
(3)卵白とグラニュー糖をすり混ぜた後、上記(2)の篩にかけた米粉及びアーモンドプードルを添加し、混合した。
(4)バターを溶かしながら、上記(1)のゾル状物を添加して混合し、高アミロース米の炊飯米を含有する焦がしバターにした。
(5)上記(3)と(4)を合わせて混合し、型に流し込んだ。
(6)170に予熱したオーブンに、生地が流し込まれた型を入れて、15~20分間焼いた。
【0038】
[比容積の測定]
得られたフィナンシェについて、白米の体積重量を利用した方法で比容積(mL/g)を測定した。方法としては、同一産地・品種・精米時期・保存状態が同じ白米の体積重量(本実験例においては、2017年産大阪産キヌヒカリ/12.08(mL/g))を用いて、一定の容積の容器に満杯に詰めた白米の体積から、同じ容器に試料(フィナンシェ)と白米を詰めて容器を満たしたときの白米の体積を差し引き、試料(フィナンシェ)の体積を求めた。
【0039】
[官能評価]
得られたフィナンシェについて、製造直後及び室温で10日間保管した後のしっとり感及びふんわり感を評価した。高アミロース米の炊飯米を添加していない試料No.1を基準とし、試料No.1と対比する官能評価を試料No.2~7について行った。評価基準は下記表2のとおりであり、その結果を表3に示す。
【0040】
【0041】
【0042】
(実験例2)
高アミロース米の炊飯米が配合されていない上記試料No.1のフィナンシェと、バターの配合量を50%に低減した以外は試料No.1と同じ配合量である上記試料No.6(高アミロース米の炊飯米0%)のフィナンシェ、及びバターの配合量を50%に低減すると共に、高アミロース米の炊飯米を1.5%配合した以外は、試料No.1と同じ配合量である上記試料No.4のフィナンシェとを対比し、その風味を官能評価した。高アミロース米の炊飯米を配合していない試料No.8のフィナンシェは、バターの量が少ないため、試料No.1のフィナンシェに比して卵白臭さを感じた。これに対して、高アミロース米の炊飯米を1.5%の量で配合したNo.4のフィナンシェは、バターの量が少なくとも卵白臭さを感じることがなく、風味がよいことが分かった。