(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】撹拌方法
(51)【国際特許分類】
B01F 23/41 20220101AFI20241029BHJP
B01F 23/43 20220101ALI20241029BHJP
B01F 23/53 20220101ALI20241029BHJP
B01F 27/111 20220101ALI20241029BHJP
B01F 27/192 20220101ALI20241029BHJP
B01F 27/171 20220101ALI20241029BHJP
B01F 27/81 20220101ALI20241029BHJP
B01F 27/117 20220101ALI20241029BHJP
B01F 27/40 20220101ALI20241029BHJP
B01F 27/808 20220101ALI20241029BHJP
B01F 27/93 20220101ALI20241029BHJP
B01F 27/94 20220101ALI20241029BHJP
【FI】
B01F23/41
B01F23/43
B01F23/53
B01F27/111
B01F27/192
B01F27/171
B01F27/81
B01F27/117
B01F27/40
B01F27/808
B01F27/93
B01F27/94
(21)【出願番号】P 2023137678
(22)【出願日】2023-08-28
【審査請求日】2024-07-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592205148
【氏名又は名称】みづほ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100195752
【氏名又は名称】奥村 一正
(72)【発明者】
【氏名】榎本 康孝
【審査官】太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】特許第7025591(JP,B1)
【文献】特開2002-058908(JP,A)
【文献】特開2019-198813(JP,A)
【文献】特開2022-133244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 21/00 - 25/90
B01F 27/00 - 27/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体と液体、液体と固体を含む液体、又は固体を含む液体と固体を含む液体を原料として撹拌してエマルション又はサスペンションを形成する撹拌装置を用いた撹拌方法であって、
前記撹拌装置は、当該原料を格納するタンクと、前記タンク内の底部に設けられて、時計方向又は反時計方向に回転可能なローティングケースと、前記ローティングケース内に収納され独立して時計方向又は反時計方向に回転可能なタービン羽根とを有し、
前
記ローティングケースは、内部が空洞の円錐台状、又は円筒状であり、下部に下液流孔を有するとともに、上部に上液流孔を有し、
前記タービン羽根は、複数の水切羽根が円筒部の周囲に斜めに設けられ、
前記下液流孔又は前記上液流孔を通過した液流が前記タービン羽根端部と前記ローティングケース内壁との隙間を通過することでエマルションやサスペンションを剪断して微細化された液流が前記上液流孔又は前記下液流孔を通過するように前記タービン羽根は前記ローティングケース内に収納され、
前記タンクに原料を格納する原料格納工程と、
前記ローティングケースの回転数を前記タービン羽根の回転数よりも大きくして、前記ローティングケースと前記タービン羽根とを同じ方向に回転させて、前記原料における固体を剪断する剪断工程と、を備えたことを特徴とする撹拌方法。
【請求項2】
前記剪断工程では、前記ローティングケースと前記タービン羽根とを共に同じ方向に回転させるとともに、前記ローティングケースの回転数を前記タービン羽根の回転数よりも大きくして、前記ローティングケースの回転数と前記タービン羽根の回転数との差を最大とすることを特徴とする請求項1に記載の撹拌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルション又はサスペンションに対する剪断力を改善した撹拌方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化粧品、食品、化学品、又は医薬品における液体や液体と固形物とを微細化、微粒化し撹拌するために撹拌装置が用いられている。撹拌装置は、回転軸に設けられた回転羽根が回転して原料を撹拌する略円筒状のタンクと当該回転軸を回転させるための駆動部等からなっている。
【0003】
従来の撹拌機におけるタンク内の撹拌液流は水平方向(撹拌羽根の旋回方向)が中心で、上下方向への液流不足による撹拌が不足し、固体粒子の微細化が十分ではなく、さらなる固体粒子の微細化が望まれている。
【0004】
特許文献1には、タンク底部にケースディスパーを備えて、タンク内における上下水流による撹拌により剪断することで乳化、溶解、分散を行い、固体粒子の均一化及び均質で微細な液滴を生成する撹拌装置の構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特許文献1:特許第7025591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の撹拌装置は、タンク底部から上部へと液流を導いて上下方向の液流を改善可能ではあるものの、ケースディスパーにおけるタービンケースとタービン羽根の回転方向や回転数の最適値が掴めていないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決して、タンク下部におけるタービンケースとタービン羽根の回転方向や回転数の最適化により、エマルション又はサスペンションのさらなる微細化、均質化を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、液体と液体、液体と固体を含む液体、又は固体を含む液体と固体を含む液体を原料として撹拌してエマルション又はサスペンションを形成する撹拌装置を用いた撹拌方法であって、
前記撹拌装置は、当該原料を格納するタンクと、前記タンク内の底部に設けられて、時計方向又は反時計方向に回転可能なローティングケースと、前記ローティングケース内に収納され独立して時計方向又は反時計方向に回転可能なタービン羽根とを有し、
前記ローティングケースは、内部が空洞の円錐台状、又は円筒状であり、下部に下液流孔を有するとともに、上部に上液流孔を有し、
前記タービン羽根は、複数の水切羽根が円筒部の周囲に斜めに設けられ、
前記下液流孔又は前記上液流孔を通過した液流が前記タービン羽根端部と前記ローティングケース内壁との隙間を通過することでエマルションやサスペンションを剪断して微細化された液流が前記上液流孔又は前記下液流孔を通過するように前記タービン羽根は前記ローティングケース内に収納され、
前記タンクに原料を格納する原料格納工程と、
前記ローティングケースの回転数を前記タービン羽根の回転数よりも大きくして、前記ローティングケースと前記タービン羽根とを同じ方向に回転させて、前記原料における固体を剪断する剪断工程と、を備えたことを特徴とする撹拌方法を提供するものである。
【0009】
この構成により、前記ローティングケースの回転数を前記タービン羽根の回転数よりも大きくして、前記ローティングケースと前記タービン羽根とを同じ方向に回転させる剪断工程により、前記ローティングケース内壁と前記タービン羽根との隙間を前記原料がより多く通過するようにして、エマルションのさらなる微細化、均質化を実現することができる。 ここで、液体とは油や水を指し、固体を含む液体とは粉体と油を分散させた溶液等を指している。 また、エマルションとは、お互いに混ざり合わない液体と液体の組合せから構成されるものをいい、サスペンションとは、液体と固体の組合せから構成されるものをいう。
【0010】
撹拌方法であって、前記剪断工程では、前記ローティングケースと前記タービン羽根とを共に同じ方向に回転させるとともに、前記ローティングケースの回転数を前記タービン羽根の回転数よりも大きくして、前記ローティングケースの回転数と前記タービン羽根の回転数との差を最大とする構成にしてもよい。
【0011】
この構成により、前記ローティングケース内壁と前記タービン羽根との隙間における剪断力が最大となり、エマルションのさらなる微細化、均質化を実現することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の撹拌方法により、タンク下部におけるタービンケースとタービン羽根の回転方向や回転数の最適化により、エマルションのさらなる微細化、均質化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例1における撹拌装置を説明する図である。
【
図2】本発明の実施例1におけるローティングケースを説明する図である。
【
図3】本発明の実施例1におけるタービンケースを説明する図である。
【
図4】本発明の実施例1におけるタービン羽根を説明する図である。
【
図5】本発明の実施例1におけるホモスタンドを説明する図である。
【
図6】本発明の実施例1におけるタービン羽根の斜視図である。
【
図7】本発明の実施例1におけるローティングケースを上からみて反時計方向に回転させた時の液流を説明する図である。
【
図8】本発明の実施例1におけるローティングケースを上からみて時計方向に回転させた時の液流を説明する図である。
【
図9】比較例1における試験結果を示すグラフである。
【
図10】比較例2における試験結果を示すグラフである。
【
図11】比較例3における試験結果を示すグラフである。
【
図12】比較例4における試験結果を示すグラフである。
【
図13】本発明の実施例1における撹拌方法の試験結果を示すグラフである。
【
図14】本発明の実施例2における撹拌方法の試験結果を示すグラフである。
【
図15】本発明の実施例3における撹拌方法の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0014】
(撹拌装置) 本発明の実施例1の撹拌装置について、
図1~
図8を参照して説明する。
図1は、本発明の実施例1における撹拌装置を説明する図である。
図2は、本発明の実施例1におけるローティングケースを説明する図であり、(a)は隙間l1を示し、(b)は隙間l2を示す。
図3は、本発明の実施例1におけるタービンケースを説明する図であり、(a)は上面図、(b)は側面断面図である。
図4は、本発明の実施例1におけるタービン羽根を説明する図であり、(a)は上面図、(b)は側面断面図である。
図5は、本発明の実施例1におけるホモスタンドを説明する図であり、(a)は上面図、(b)は側面断面図、(c)は下面図である。
図6は、本発明の実施例1におけるタービン羽根の斜視図である。
図7は、本発明の実施例1におけるローティングケースを上からみて反時計方向に回転させた時の液流を説明する図である。
図8は、本発明の実施例1におけるローティングケースを上からみて時計方向に回転させた時の液流を説明する図である。
【0015】
実施例1における撹拌装置100は、ステンレスからなる略円筒形状でありながら底面と天面とは中央部が緩やかに突出した形状のタンク1を備えている。タンク1の天面には、撹拌する一方の原料を投入する原料A投入口6と撹拌する他方の原料を投入する原料B投入口7とを有している。ここで、実施例1における原料A及び原料Bとは、液体と液体、液体と固体を含む液体、又は固体を含む液体と固体を含む液体のいずれかであり、これら原料として撹拌し乳化させてエマルション又はサスペンションを形成するものである。
【0016】
また、タンク1内の上部である天面中心から底部の底面に向けた方向に回転シャフト2が設けられている。また、回転シャフト2に水平方向に羽根状のミキサー3を上下方向に3か所取付けている。さらに、タンク1内の側面との間で液体を掻きとるための樹脂で構成されたスクレーパー5を保持するアンカー羽根4が上部から下部に向けて2ヶ所に回転可能に設けられている。
【0017】
回転シャフト2は、タンク1外に設けた図示しないモーターにより回転駆動される。回転シャフト2が回転駆動されることで、ミキサー3が水平方向に回転してタンク1内の原料を撹拌する。また、アンカー羽根4も別の図示しない駆動源により水平方向に回転駆動される。アンカー羽根4はミキサー3とは反対方向に回転することができ、これにより水平方向の撹拌が行われるとともに、タンク1内の内壁においてスクレーパー5が液体を掻きとることができる。
【0018】
なお、実施例1においては、羽根状のミキサー3を上下方向に3か所設けるようにしたが、必ずしもこれに限定されず適宜変更が可能である。例えば、2ヶ所でもよいし、4ヶ所以上であってもよく、撹拌する原料に応じた最適な数のミキサーを設ければよい。また。実施例1においては、アンカー羽根4を2ヶ所に設けるようにしたが、必ずしもこれに限定されず適宜変更が可能である。例えば、1ヶ所でもよいし、3ヶ所以上であってもよいし、又はなくてもよい。
【0019】
また、実施例1においては、回転シャフト2、ミキサー3、及びアンカー羽根4を備えるようにしたが、必ずしもこれに限定されず適宜変更が可能である。例えば、回転シャフト、ミキサー、及びアンカー羽根を備えない構成としてもよい。低粘度の撹拌材料の場合などは、タンク1底部のローティングケース8を回転することで十分に微細化できる場合がある。
【0020】
タンク1内の底部にはステンレスからなるローティングケース8を時計方向又は反時計方向に回転可能に備えている。ローティングケース8は、全体としてお椀を伏せたような略円錐台の形状で下部の側面には液体、エマルション又はサスペンションを吸込むか排出する下液流孔852(852a、852b、852c、952d)を有するとともに、上部である上面には液体、エマルション又はサスペンションを排出するか吸込む上液流孔811(811a、811b、811c、811d)を有している。また、前述した特許文献1において、ケースディスパーに設けられていたディスパー羽根は、本発明の実施例1におけるローティングケース8には備えていない。
【0021】
なお、実施例1においては、ローティングケース8は、全体としてお椀を伏せたような略円錐台の形状としたが、必ずしもこれに限定されず適宜変更が可能である。例えば、略円筒状としてもよいし、略四角柱状や略多角柱状でもよく、任意の形状を選択することができる。
【0022】
ローティングケース8の構造を詳しく説明する。タービンケース81は略円錐台形状をなし、上面には液体を排出又は吸込む上液流孔811(811a、811b、811c、811d)が貫通して設けられている。4個の上液流孔811(811a、811b、811c、811d)は、長円形で長円部分はわずかに円弧形状を有している(
図3(a)参照)。また、タービンケース81は下端部においてスタンド用ボルト孔812(812a、812b、812c、812d)にホモスタンド85が螺着されており、タービンケース81と一体に時計方向又は反時計方向に回転可能とされている。そして、ホモスタンド85の側面4ヶ所には、液体を吸込む又は排出する下液流孔852(852a、852b、852c、852d)を有している。これにより、ローティングケース8は全体として、液体を吸込むか排出する下液流孔852(852a、852b、852c、852d)を下部に有するとともに、液体を排出するか吸込む上液流孔811(811a、811b、811c、811d)を上部に有している。
【0023】
なお、実施例1においては、上液流孔811(811a、811b、811c、811d)が長円形で長円部分はわずかに円弧形状を有しており、下液流孔852(852a、852b、852c、952d)が側面を切り抜かれた形状を有しているが、必ずしもこれに限定されず適宜変更が可能である。例えば、液体を効率よく吸込むために、水切羽根等を孔の開口部分に設けてもよい。また、開口の形状は任意の形状としてよい。
【0024】
また、実施例1においては、上液流孔811及び下液流孔852をそれぞれ4個としたが、必ずしもこれに限定されず適宜変更が可能である。例えば、3個以下でもよいし5個以上であってもよい。
【0025】
タービンケース81の内部には、
図3(b)に示すように、空洞が設けられ、その内部にタービン羽根83が回転可能に収納されている。タービン羽根83は、下部シャフト84に螺着され、図示しないモーターにより上から見て時計方向又は反時計方向に回転可能とされている。タービン羽根83は、上からみて反時計方向に回転することで下から上へと液流を起こすことができ、逆に上から見て時計方向に回転することで上から下へと液流を起こすことができるように羽根形状が構成されている(
図4(a)、
図6参照)。つまり、タービン羽根83は、円筒部の周囲に4個の水切羽根831(831a、831b、831c、831d)が設けられ、水切羽根831(831a、831b、831c、831d)は前記円筒部の上から下へと斜めに構成され、回転方向に基づき、効率よく下から上へ、又は上から下へと液流を発生させることができる。
【0026】
なお、実施例1においては、タービン羽根83がモーターにより上から見て時計方向又は反時計方向に回転可能としたが、必ずしもこれに限定されず適宜変更が可能である。例えば、タービン羽根83をモーターで回転駆動せず、ローティングケース8の回転による液流によって自由回転させられるようにしてもよい。また、タービンケース81内にタービン羽根8を備えなくてもよい。
【0027】
このように、ローティングケース8は、図示しない駆動部により、時計方向又は反時計方向に単独にいずれかの方向に回転可能である。また、タービン羽根83も時計方向又は反時計方向に独立して単独にいずれかの方向に回転可能であるが、タービン羽根83はモーターで回転させずローティングケース8の回転によって起こされた液流による自由回転とすることもできる。
【0028】
ローティングケース8を上からみて反時計方向に回転させると、
図7に示すように、旋回流Aを起こすとともに、下から上への液流を起こして液体、エマルション、又はサスペンションが吸込まれる吸込み流Bが下液流孔852(852a、852b、852c、852d)からローティングケース8内に吸い込まれ、タービン羽根83端部とタービンケース81内面との隙間l1(
図2(a)参照。)と、隙間l2(
図2(b)参照。)を通過することで、これらの隙間l1及びl2にてエマルションやサスペンションを剪断して上方に押し出し、上液流孔811(811a、811b、811c、811d)から排出流Cが排出される。実施例1においては、隙間l1=1mm、隙間l2=0.5mmに設定しているが、必ずしもこれに限定されず適宜変更が可能である。例えば、隙間l1=隙間l2=0.5mmに設定してもよいし、隙間l1=0.5mm、隙間l2=1mmに設定してもよく、原料の種類に応じて任意の隙間に設定できる。
【0029】
なお、実施例1においては、ローティングケース8を上からみて反時計方向に回転させるようにしたが、必ずしもこれに限定されず適宜変更しても良い。例えば、ローティングケー
ス8を上からみて時計方向に回転させるようにして、上から下への液流を起こしてもよい。この場合は、液体、エマルション、又はサスペンションが上液流孔811(811a、811b、811c、811d)からローティングケース8内に吸い込まれ、下液流孔852(852a、852b、852c、852d)から排出される。
【0030】
また、ローティングケース8を上からみて時計方向に回転させて下から上への液流をおこすように構成してもよいし、ローティングケース8を上からみて反時計方向に回転させて上から下への液流をおこすように構成してもよい。
【0031】
(実施例1における撹拌方法) まず、撹拌対象とする原料をタンク1に格納する原料格納工程を実施する。 実施例1における原料は以下の比較例も含めて、以下の水相成分と油相成分を使用した。 つまり、水94.5kgと2.1kgのSpan80を撹拌槽にて75℃に加熱した水相成分に、サラダ油4.2kgと4.2kgのTween80を別容器にて75℃に加熱した油相成分を投入した。ここで、Span80とTween80は、界面活性剤である。
【0032】
次に、剪断工程を実施する。剪断工程は、タンク1内の底部に設けられたローティングケース8とタービン羽根83を上からみて反時計方向に回転させて、
図7に示すように、ローティングケース8の周囲に旋回流Aを起こすとともに、ローティングケース8の下部側面に設けた下液流孔852(852a、852b、852c、852d)から液体、エマルション、又はサスペンションを吸込む吸込み流Bを起こし、タービン羽根83端部とタービンケース81内面との隙間l1を通過させてエマルションやサスペンションを剪断して微細化し、ローティングケース8の上部に設けた上液流孔811(811a、811b、811c、811d)から微細化されたエマルション、サスペンションや液体を排出する排出流を起こして下から上への液流を改善する(
図7参照)。
【0033】
このとき、ローティングケース8の回転数をタービン羽根83の回転数よりも大きくして、ローティングケース8とタービン羽根83とを同じ方向に回転させて、ローティングケース8内壁とタービン羽根83端部との隙間を原料がより多く通過するようにして、エマルションのさらなる微細化、均質化を実現することができる。
【0034】
(比較例1の試験結果) 比較例1は、ローティングケース8及びタービン羽根83の両方を回転させず、アンカー羽根4のみを回転させてタンク1内を撹拌させた試験を行った例である。その試験結果を
図9に示す。
図9の縦軸は、原料に含まれる固体の粒径[μm]を示し、横軸は撹拌時間(回転時間)[分]を示す。原料に含まれる固体の粒径[μm]は、実線で示される個数平均値と破線で示される体積平均値で表現している。ここで、個数平均値は最も粒径の小さな固体の値、つまり微細化を表し、体積平均値は、ばらつき、つまり均質化を表現しており、両者とも小さい値をもつことが望ましい。
【0035】
比較例1の試験結果は、個数平均値で粒径が約2.4μm~約2.8μmであり、体積平均値で粒径が約14.9μm~約14.2μmである。つまり、ローティングケース8及びタービン羽根83の両方が回転せず、アンカー羽根4のみを30分回転させても粒径はその大きさがあまり変化せずかなり大きい。
【0036】
(比較例2の試験結果) 比較例2は、ミキサー3及びアンカー羽根4を回転させず、ローティングケース8を回転させず、タービン羽根83を反時計方向に1,800rpmで回転させた例である。このときの試験結果を
図10に示す。比較例2における個数平均値は比較例1における個数平均値とあまり変わらないが、体積平均値が約6.9μm~約4.7μmと大きく改善した。これは、タービン羽根83が回転することで、ローティングケース8内壁とタービン羽根83端部との隙間を原料が下から上に通過するようになり、エマルションやサスペンションの均質化が進んだためと思われる。
【0037】
(比較例3の試験結果) 比較例3は、ミキサー3及びアンカー羽根4を回転させず、ローティングケース8を時計方向に600rpmで回転させ、タービン羽根83を反時計方向に1,200rpmで回転させた例である。比較例3の試験結果を
図11に示す。これによると、個数平均値は比較例1、比較例2とあまり変わらず、体積平均値は約7.5μm~約5.2μmと比較例1からは改善したものの比較例2からは悪化している。
【0038】
これは、ローティングケース8は時計方向に600rpmで回転し、タービン羽根83は反時計方向に1,200rpmで回転しているので、両者の回転数の差は1,800rpmと比較例2と同じであるが、ローティングケース8がタービン羽根83とは逆方向に回転していることで、ローティングケース8内壁とタービン羽根83端部との隙間を通過する原料が減り、エマルションの均質化が進まなかったためと思われる。
【0039】
(比較例4の試験結果) 比較例4は、ミキサー3及びアンカー羽根4を回転させず、ローティングケース8を時計方向に1,800rpmで回転させ、タービン羽根83を回転させなかった例である。比較例3の試験結果を
図12に示す。これによると、個数平均値、体積平均値とも大きく改善し、個数平均値は約2.4μm~約1.1μm、体積平均値は約4.1μm~約2.0μmとなっている。また、特に体積平均値は回転時間が長くなるにしたがい小さくなっている。
【0040】
比較例4の試験結果からは、ローティングケースの回転が粒径の均質化に大きく寄与していることがわかる。
【0041】
(実施例1の試験結果) 実施例1の試験は、ミキサー3及びアンカー羽根4を回転させず、ローティングケース8を反時計方向に2,000rpmで回転させ、タービン羽根83を反時計方向に200rpmで回転させた。つまり、ローティングケース8の回転数をタービン羽根83の回転数よりも大きくして、ローティングケース8とタービン羽根83とを同じ方向に回転させ、さらに、ローティングケース8の回転数とタービン羽根83の回転数との差を最大にしたものである。
【0042】
実施例1の試験結果を
図13に示す。これによると、個数平均値は約2.4μm~約0.9μmと回転30分後には1μmより小さくなっている。また、体積平均値は約3.8μm~約1.7μmと、これも回転30分後には比較例1―4では得られなかった小さな値となっている。
【0043】
これは、ローティングケース8の回転数をタービン羽根83の回転数よりも大きくして、ローティングケース8とタービン羽根83とを同じ方向に回転させ、さらに、ローティングケース8の回転数とタービン羽根83の回転数との差を最大にしたことで、ローティングケース8内壁とタービン羽根83端部との隙間を原料がより多く通過するようになり、エマルションのさらなる微細化、均質化が実現できたと思われる。
【0044】
このように、実施例1においては、液体と液体、液体と固体を含む液体、又は固体を含む液体と固体を含む液体を原料として撹拌してエマルション又はサスペンションを形成する撹拌装置を用いた撹拌方法であって、 前記撹拌装置は、当該原料を格納するタンクと、前記タンク内の底部に設けられて、時計方向又は反時計方向に回転可能なローティングケースと、前記ローティングケース内に収納され独立して時計方向又は反時計方向に回転可能なタービン羽根とを有し、 前記タンクに原料を格納する原料格納工程と、 前記ローティングケースの回転数を前記タービン羽根の回転数よりも大きくして、前記ローティングケースと前記タービン羽根とを同じ方向に回転させて、前記原料における固体を剪断する剪断工程と、を備えたことを特徴とする撹拌方法により、前記ローティングケース内壁と前記タービン羽根との隙間を前記原料がより多く通過するようにして、エマルションのさらなる微細化、均質化を実現することができる。
【0045】
また、前記剪断工程では、前記ローティングケースと前記タービン羽根とを共に同じ方向に回転させるとともに、前記ローティングケースの回転数を前記タービン羽根の回転数よりも大きくして、前記ローティングケースの回転数と前記タービン羽根の回転数との差を最大とすることにより、前記ローティングケース内壁と前記タービン羽根との隙間における剪断力が最大となり、エマルションのさらなる微細化、均質化を実現することができる。
【実施例2】
【0046】
本発明の実施例2は、ローティングケースを時計方向に回転させるとともに、タービン羽根を時計方向にローティングケースの回転数よりも小さな回転数で回転させる点で回転方向が実施例1と異なっている。
【0047】
(実施例2における撹拌方法) まず、撹拌対象とする原料をタンク1に格納する原料格納工程を実施する。 実施例2における原料は以下の比較例も含めて、以下の水相成分と油相成分を使用した。 つまり、水94.5kgと2.1kgのSpan80を撹拌槽にて75℃に加熱した水相成分に、サラダ油4.2kgと4.2kgのTween80を別容器にて75℃に加熱した油相成分を投入した。ここで、Span80とTween80は、界面活性剤である。
【0048】
実施例2における剪断工程では、タンク1内の底部に設けられたローティングケース8を上からみて時計方向に回転させて、
図8に示すように、ローティングケース8の周囲に旋回流Aを起こすとともに、ローティングケース8の上部側面に設けた上液流孔811(811a、811b、811c、811d)から液体、エマルション、又はサスペンションを吸込む吸込み流Bを起こし、タービン羽根83をローティングケース8の回転数よりも小さな回転数でモーターにより時計方向に回転させる。これにより、タービン羽根83端部とタービンケース81内面との隙間l1を通過させてエマルションやサスペンションを微細化、均質化し、ローティングケース8の下部に設けた下液流孔852(852a、852b、852c、852d)から微細化されたエマルションや液体を排出する排出流を起こして上から下への液流を改善する(
図8参照)。
【0049】
(実施例2における試験結果) 実施例2の試験は、ミキサー3及びアンカー羽根4を回転させず、ローティングケース8を時計方向に2,000rpmで回転させ、タービン羽根83を時計方向に200rpmで回転させた。つまり、実施例1の回転方向と逆方向にローティングケース8とタービン羽根83とを回転させた。そして、ローティングケース8の回転数をタービン羽根83の回転数よりも大きくして、ローティングケース8とタービン羽根83とを同じ方向に回転させ、さらに、ローティングケース8の回転数とタービン羽根83の回転数との差を最大にしたものである。
【0050】
実施例2の試験結果を
図14に示す。これによると、個数平均値は約2.4μm~約0.8μmと回転30分後には1μmより小さくなっている。また、体積平均値は約3.9μm~約1.6μmと、これも回転30分後には比較例1―4では得られなかった小さな値となっており、実施例1と同様の結果を得ることができた。
【0051】
これは、ローティングケース8の回転数をタービン羽根83の回転数よりも大きくして、ローティングケース8とタービン羽根83とを同じ方向に回転させ、さらに、ローティングケース8の回転数とタービン羽根83の回転数との差を最大にしたことで、ローティングケース8内壁とタービン羽根83端部との隙間を原料がより多く通過するようになり、エマルションのさらなる微細化、均質化が実現できたと思われる。
【0052】
そして、ローティングケース8とタービン羽根83との回転方向は、時計方向、反時計方向のどちらであっても、ローティングケース8の回転数をタービン羽根83の回転数よりも大きくして、ローティングケース8とタービン羽根83とを同じ方向に回転させ、さらに、ローティングケース8の回転数とタービン羽根83の回転数との差を最大にすることで良い結果が得られることがわかった。
【0053】
このように、実施例2においても、液体と液体、液体と固体を含む液体、又は固体を含む液体と固体を含む液体を原料として撹拌してエマルション又はサスペンションを形成する撹拌装置を用いた撹拌方法であって、
前記撹拌装置は、当該原料を格納するタンクと、前記タンク内の底部に設けられて、時計方向又は反時計方向に回転可能なローティングケースと、前記ローティングケース内に収納され独立して時計方向又は反時計方向に回転可能なタービン羽根とを有し、
前記タンクに原料を格納する原料格納工程と、
前記ローティングケースの回転数を前記タービン羽根の回転数よりも大きくして、前記ローティングケースと前記タービン羽根とを同じ方向に回転させて、前記原料における固体を剪断する剪断工程と、を備えたことを特徴とする撹拌方法により、前記ローティングケース内壁と前記タービン羽根との隙間を前記原料がより多く通過するようにして、エマルションのさらなる微細化、均質化を実現することができる。
【0054】
また、前記剪断工程では、前記ローティングケースと前記タービン羽根とを共に同じ方向に回転させるとともに、前記ローティングケースの回転数を前記タービン羽根の回転数よりも大きくして、前記ローティングケースの回転数と前記タービン羽根の回転数との差を最大とすることにより、前記ローティングケース内壁と前記タービン羽根との隙間における剪断力が最大となり、エマルションのさらなる微細化、均質化を実現することができる。
【実施例3】
【0055】
本発明の実施例3は、ローティングケースの回転数とタービン羽根の回転数との差を最大にしていない点で実施例2と異なっている。
【0056】
(実施例3における撹拌方法) まず、撹拌対象とする原料をタンク1に格納する原料格納工程を実施する。 実施例3における原料は以下の比較例も含めて、以下の水相成分と油相成分を使用した。 つまり、水94.5kgと2.1kgのSpan80を撹拌槽にて75℃に加熱した水相成分に、サラダ油4.2kgと4.2kgのTween80を別容器にて75℃に加熱した油相成分を投入した。ここで、Span80とTween80は、界面活性剤である。
【0057】
次に、剪断工程を実施する。剪断工程は、タンク1内の底部に設けられたローティングケース8とタービン羽根83を上からみて反時計方向に回転させて、
図7に示すように、ローティングケース8の周囲に旋回流Aを起こすとともに、ローティングケース8の下部側面に設けた下液流孔852(852a、852b、852c、852d)から液体やエマルションを吸込む吸込み流Bを起こし、タービン羽根83端部とタービンケース81内面との隙間l1を通過させてエマルションを微細化し、ローティングケース8の上部に設けた上液流孔811(811a、811b、811c、811d)から微細化されたエマルション、サスペンションや液体を排出する排出流を起こして下から上への液流を改善する(
図7参照)。
【0058】
このとき、ローティングケース8の回転数をタービン羽根83の回転数よりも大きくして、ローティングケース8とタービン羽根83とを同じ方向に回転させて、ローティングケース8内壁とタービン羽根83端部との隙間を原料がより多く通過するようにして、エマルションのさらなる微細化、均質化を実現することができる。
【0059】
(実施例3における試験結果) 実施例3の試験は、ミキサー3及びアンカー羽根4を回転させず、ローティングケース8を反時計方向に2,000rpmで回転させ、タービン羽根83を反時計方向に800rpmで回転させた。つまり、ローティングケース8の回転数とタービン羽根83の回転数との差は1,200rpmであり、両者の回転数の差を最大とはしていない。つまり、ローティングケース8の回転数をタービン羽根83の回転数よりも大きくして、ローティングケース8とタービン羽根83とを同じ方向に回転させたものである。
【0060】
実施例3の試験結果を
図15に示す。これによると、個数平均値は約2.4μm~約0.8μmと回転30分後には1μmより小さくなっており、実施例1、実施例2と同様の結果が得られた。また、体積平均値は約3.9μm~約1.6μmと、実施例1、実施例2と同様の結果を得ることができた。
【0061】
これは、ローティングケース8の回転数をタービン羽根83の回転数よりも大きくして、ローティングケース8とタービン羽根83とを同じ方向に回転させれば、必ずしもローティングケース8の回転数とタービン羽根83の回転数との差を最大にしなくても、ローティングケース8内壁とタービン羽根83端部との隙間を原料がより多く通過するようになり、エマルションのさらなる微細化、均質化が実現できることがわかった。
【0062】
このように、実施例3においても、液体と液体、液体と固体を含む液体、又は固体を含む液体と固体を含む液体を原料として撹拌してエマルション又はサスペンションを形成する撹拌装置を用いた撹拌方法であって、
前記撹拌装置は、当該原料を格納するタンクと、前記タンク内の底部に設けられて、時計方向又は反時計方向に回転可能なローティングケースと、前記ローティングケース内に収納され独立して時計方向又は反時計方向に回転可能なタービン羽根とを有し、
前記タンクに原料を格納する原料格納工程と、
前記ローティングケースの回転数を前記タービン羽根の回転数よりも大きくして、前記ローティングケースと前記タービン羽根とを同じ方向に回転させて、前記原料における固体を剪断する剪断工程と、を備えたことを特徴とする撹拌方法により、前記ローティングケース内壁と前記タービン羽根との隙間を前記原料がより多く通過するようにして、エマルションのさらなる微細化、均質化を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明における撹拌方法は、液体等の原料を撹拌してエマルションを微細化、均質化する分野に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1:タンク 2:回転シャフト 3:ミキサー 4:アンカー羽根 5:スクレーパー 6:原料A投入口 7:原料B投入口 8:ローティングケース 9:洗浄用弁口 81:タービンケース 83:タービン羽根 84:下部シャフト 85:ホモスタンド 811(811a、811b、811c、811d):上液流孔 812(812a、812b、812c、812d):スタンド用ボルト孔 831(831a、831b、831c、831d):水切羽根 851(851a、851b、851c、851d):ディスパー用ボルト孔 852(852a、852b、852c、852d):下液流孔 A:旋回流 B:吸込み流 C:排出流
【要約】 (修正有)
【課題】タンク下部におけるタービンケースとタービン羽根の回転方向や回転数などの撹拌方法の最適化により、エマルションのさらなる微細化、均質化を実現することを課題とする。
【解決手段】液体を含む原料を撹拌してエマルション又はサスペンションを形成する撹拌装置を用いた撹拌方法であって、撹拌装置100は、原料を格納するタンク1と、タンク内の底部に設けられて、時計方向又は反時計方向に回転可能なローティングケース8と、前記ローティングケース内に収納され独立して時計方向又は反時計方向に回転可能なタービン羽根とを有し、タンクに原料を格納する原料格納工程と、ローティングケースの回転数をタービン羽根の回転数よりも大きくして、ローティングケースとタービン羽根とを同じ方向に回転させて、原料における固体を剪断する剪断工程と、を備えたことを特徴とする撹拌方法とした。
【選択図】
図1