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特許7578780スクリューヘッド構造体および射出成形機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】スクリューヘッド構造体および射出成形機
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/48 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
B29C45/48
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023177528
(22)【出願日】2023-10-13
【審査請求日】2024-04-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000168551
【氏名又は名称】鋼鈑工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】広政 勝汰
(72)【発明者】
【氏名】大毛 敏一
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-276616(JP,A)
【文献】実開平03-019018(JP,U)
【文献】実開昭61-056017(JP,U)
【文献】特開平05-057767(JP,A)
【文献】特開2022-093594(JP,A)
【文献】特開2019-171784(JP,A)
【文献】特開平11-129299(JP,A)
【文献】特開平05-269810(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0232106(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/00-11/14
B29B 13/00-15/06
B29C 31/00-31/10
B29C 37/00-37/04
B29C 45/00-45/24
B29C 45/46-45/63
B29C 45/70-45/72
B29C 45/74-45/84
B29C 48/00-48/96
B29C 71/00-71/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料を加熱して溶融する加熱シリンダ内で回転可能に配置されて、前記加熱シリンダ内で軸方向に沿って進退可能なスクリューシャフトと、
前記スクリューシャフトの先端側に取り付けられ、溶融された前記樹脂材料を成形型内に押し出すスクリューヘッドと、
前記スクリューヘッドの後側周囲に配置されて、前記スクリューヘッドの外周面に対向して環状の樹脂流路を形成可能な逆止リングと、を有し、
前記スクリューヘッドは、
前記成形型に近い側から順に、円錐部と、前記円錐部の後段に配置されて外周面を前記樹脂材料が流通する大径部と、前記大径部の後段に配置されて前記逆止リングの内周面と対向する小径部と、で構成され、
前記大径部のうち前記小径部と接する後側外周面には、前記環状の樹脂流路を通過した前記樹脂材料を径方向外側に向けて溢出させる溢出溝が形成されてなり、
前記後側外周面には、前記溢出溝と隣接して、前記スクリューシャフトの周方向における断面積が前記溶融された樹脂材料の流れる方向に沿って縮小される周方向絞り溝がさらに設けられてなる、ことを特徴とするスクリューヘッド構造体。
【請求項2】
前記溢出溝は、前記スクリューシャフトの中心軸を基準として内側から外側にかけて径方向における断面積が縮小されるように形成されてなる、請求項1に記載のスクリューヘッド構造体。
【請求項3】
前記溢出溝の外形は、前記軸方向における長さLsと前記周方向における長さLθとが実質的に等しい半円状又は楕円状である、請求項2に記載のスクリューヘッド構造体。
【請求項4】
前記溢出溝は、前記大径部における後側外周面において、前記周方向に関して所定間隔毎に複数設けられてなる、請求項1~3のいずれか一項に記載のスクリューヘッド構造体。
【請求項5】
前記周方向に関して隣り合う前記溢出溝の間に前記周方向絞り溝が配置されてなる、請求項に記載のスクリューヘッド構造体。
【請求項6】
請求項1に記載のスクリューヘッド構造体を備え、前記スクリューヘッド構造体を介して、加熱シリンダ内で溶融された樹脂材料を成形型に押し出すことを特徴とする射出成形機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱及び溶融した樹脂材料を成形型(金型)内に押し出して射出成形するスクリューヘッド構造体および当該スクリューヘッド構造体を備えた射出成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダ内で加熱を受けて溶融された樹脂(「溶融樹脂」とも称する)を高圧で金型内に射出する射出成形機が知られている。かような射出成形機ではスクリューシャフトが回転および進退自在にシリンダ内へ設置されて、射出成形時にはこのスクリューシャフトを前進させることによって加熱溶融した樹脂が金型へ射出される。
【0003】
例えば特許文献1の図1などに記載されるとおり、シリンダ内で樹脂を金型へ押し出すために、スクリューの先端にはスクリューヘッドが設けられる。かようなスクリューヘッドは、一例として、上記したスクリューシャフトに対してネジなど公知の締結手段によって取り付けられる。
【0004】
ここで、一般的に射出成形では連続して多くの成形品が成形されることから、金型内に溶融樹脂を射出(溶融樹脂を金型内に射出することを「ショット」とも称する)した後で次の射出成形を行うための溶融樹脂の再充填(いわゆる計量動作)が実行される。かような射出成形機では、スクリューヘッドとスクリューシャフトの間において、計量時にはヘッド側へスライドする一方で射出時にはシールリング側へスライドする逆止リングが用いられる。このとき下記の特許文献でも指摘されるとおり、スクリューヘッドの後端面と逆止リング(下記特許文献2では「チェックリング」とも称されるが、本明細書ではこれらの名称を統一して「逆止リング」と称する)の先端面とは、スクリューの回転に伴って互いに摺動されるために摺動部位において摩耗や傷が発生してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-57767号公報
【文献】特開2017-56655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した各特許文献に限らず現在の技術では市場のニーズを適切に満たしているとは言えず、上記各手法では以下に述べるごとき課題が存在する。
すなわち上記した特許文献に示される構成では、上記した計量時にシャフトの回転によってヘッド先端側に移動する溶融樹脂が周方向に沿って流動するときの樹脂の流れによってスクリューヘッドと逆止リングとの間の隙間を保つことが提案されている。
【0007】
換言すれば、計量開始時で溶融樹脂が未だに周方向への流動を開始しない初期の段階においては、溶融樹脂がバッファとして機能せずスクリューヘッドの後退によって逆止リングとスクリューヘッドとが接触してしまうことを抑制しきれない。
このように既存の技術では、計量動作の初期から計量完了までスクリューヘッドの後端部と逆止リングの先端部との間隙を維持することには難があり、未だに改善の余地が大きくあると言える。
【0008】
本発明は、上記した課題を一例に鑑みて為されたものであり、計量動作の初期から計量完了までスクリューヘッドと逆止リングとの接触を高い信頼性で抑制可能なスクリューヘッド構造体およびこのスクリューヘッド構造体を備えた射出成形機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の一実施形態にかかるスクリューヘッド構造体は、(1)樹脂材料を加熱して溶融する加熱シリンダ内で回転可能に配置されて、前記加熱シリンダ内で軸方向に沿って進退可能なスクリューシャフトと、前記スクリューシャフトの先端側に取り付けられ、溶融された前記樹脂材料を成形型内に押し出すスクリューヘッドと、前記スクリューヘッドの後側周囲に配置されて、前記スクリューヘッドの外周面に対向して環状の樹脂流路を形成可能な逆止リングと、を有し、前記スクリューヘッドは、前記成形型に近い側から順に、円錐部と、前記円錐部の後段に配置されて外周面を前記樹脂材料が流通する大径部と、前記大径部の後段に配置されて前記逆止リングの内周面と対向する小径部と、で構成され、前記大径部のうち前記小径部と接する後側外周面には、前記環状の樹脂流路を通過した前記樹脂材料を径方向外側に向けて溢出させる溢出溝が形成されてなり、前記後側外周面には、前記溢出溝と隣接して、前記スクリューシャフトの周方向における断面積が前記溶融された樹脂材料の流れる方向に沿って縮小される周方向絞り溝がさらに設けられてなる、ことを特徴とする。
【0010】
なお、上記した(1)に記載のスクリューヘッド構造体においては、(2)前記溢出溝は、前記スクリューシャフトの中心軸を基準として内側から外側にかけて径方向における断面積が縮小されるように形成されてなることが好ましい。
【0011】
また、上記した(2)に記載のスクリューヘッド構造体においては、(3)前記溢出溝の外形は、前記軸方向における長さLsと前記周方向における長さLθとが実質的に等しい半円状又は楕円状であることが好ましい。
【0013】
また、上記した(1)~(3)のいずれかに記載のスクリューヘッド構造体においては、()前記溢出溝は、前記大径部における後側外周面において、前記周方向に関して所定間隔毎に複数設けられてなることが好ましい。
【0014】
また、上記した()に記載のスクリューヘッド構造体においては、()前記周方向に関して隣り合う前記溢出溝の間に前記周方向絞り溝が配置されてなることが好ましい。
【0015】
また上記課題を解決するため、本発明の一実施形態にかかる射出成形機は、上記した(1)に記載のスクリューヘッド構造体を備え、前記スクリューヘッド構造体を介して溶融された樹脂材料を成形型に押し出すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、計量動作の初期から計量完了までのトータルにおいてスクリューヘッドと逆止リングとの接触を高い信頼性で抑制することができ、とりわけ計量初期に生じ得るスクリューヘッドの摩耗や損傷を大幅に抑制することが可能となっている。
またスクリューシャフトの後退に伴う樹脂の流れによって逆止リングが前方に移動したときにスクリューヘッドの後部へ流れる樹脂によって逆止リングに後退力が発生するが、本発明によれば計量動作の初期から溢出溝を流れる樹脂圧によって上記した後退力が早期に発生するため安定したフロート効果を発揮することができる。
また、かようなフロート効果を有する本発明によれば、逆止リングとスクリューヘッドとの間に隙間が生じ、樹脂の充填時に発生する樹脂圧を逆止リングの端面全面で受けることが可能となる。これにより本発明では、上記した充填時において相対的に高い樹脂圧で逆止リングが素早く移動することから、樹脂の流路を閉じる時間が結果として早くなり逆止リングの応答性を向上させることができる。
さらに本発明によれば、上記した溢出溝を備えることで、従来構造のスクリューヘッドに比して成形温度(樹脂の粘性)に依らず最小クッション値を安定して確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態における射出成形機の要部を模式的に示す図である。
図2】実施形態における射出成形機に搭載されるスクリューヘッド構造体を示す模式図である。
図3図2に示すスクリューヘッド構造体の分解図である。
図4】実施形態におけるスクリューヘッド構造体のうち溢出溝と周方向絞り溝とが形成された大径部を斜め後方から見た斜視図である。
図5】実施形態におけるスクリューヘッド構造体のうち溢出溝と周方向絞り溝とが形成された大径部を側方から見た側面図である。
図6】溢出溝と周方向絞り溝とが形成された大径部の後端面を後方から見た模式図である。
図7】実施形態におけるスクリューヘッド構造体の断面を示す模式図である。
図8】計量初期における溶融樹脂の流れとスクリューヘッド及び逆止リングへの作用を説明する模式図である。
図9】計量初期を経た中期以降における溶融樹脂の流れとスクリューヘッド及び逆止リングへの作用を説明する模式図である。
図10】従来品と本実施形態のスクリューヘッド構造体での摩耗試験の比較結果を示す図である。
図11】従来品と本実施形態のスクリューヘッド構造体でのリング応答性試験の比較結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための実施形態について説明する。なお、以下の図で例示するように、スクリューシャフト10の軸方向をスラスト方向Stとして当該スラスト方向Stと交差する径方向をラジアル方向Rdと便宜的に定義して説明する。しかしながら本発明は上述した方向の規定に左右されるものではなく、特許請求の範囲を不当に減縮するものでないことは言うまでもない。また、以下で詳述する以外の構成については、上記した特許文献を含む公知の射出成形機の構造や要素部品を適宜補完して実施してもよい。
【0019】
<射出成形機300>
図1に示すように本実施形態の射出成形機300は、金型内に溶融樹脂を押し出すスクリューヘッド構造体100と、このスクリューヘッド構造体100を内部に収容する加熱シリンダ200と、を含んで構成されている。射出成形機300は、加熱シリンダ200内で溶融された樹脂材料をこのスクリューヘッド構造体100を介して成形型(金型)内に押し出す機能を有する。
【0020】
なお、射出成形機300は、上記したスクリューヘッド構造体100や加熱シリンダ200を含む射出ユニットに加え、それぞれ公知の型締ユニットおよび制御コントローラーを備えて構成されている。加熱シリンダ200は、スクリューヘッド構造体100を収容するシリンダ内空間201を備えて構成されている。かような加熱シリンダ200は、原料である粒状の樹脂材料(ペレット)が投入される投入口としてのホッパー(不図示)が接続される公知の加熱シリンダが適用できる。
【0021】
<スクリューヘッド構造体100>
次に図1図6も参照しつつ、本実施形態におけるスクリューヘッド構造体100の詳細な構成について説明する。これらの図から理解されるとおり、本実施形態のスクリューヘッド構造体100は、スクリューシャフト10、スクリューヘッド20、及び、逆止リング30などを含んで構成されている。なおスクリューヘッド構造体100を構成可能な材料としては、特に制限はなく公知の種々の鋼材を適用してもよい。
【0022】
スクリューシャフト10は、粒状など固形状の樹脂材料(「樹脂ペレット」とも称される)を加熱溶融する加熱シリンダ200内で回転可能に配置される。また、スクリューシャフト10は、前記した射出ユニットにおいて加熱シリンダ200内で軸方向(スラスト方向St)に沿って進退可能に構成されている。
【0023】
かようなスクリューシャフト10は、一例として、後述するスクリューヘッド20の側から順に、均一となるように混練されて前方に送られる計量部、送られた原料が加熱と圧縮混練される圧縮部、および、公知のホッパーを介して自重落下してきた原料をスクリュー回転によって前方へ送る供給部、の3パートで構成されていてもよい。
【0024】
スクリューヘッド20は、前記したスクリューシャフト10の先端側に取り付けられる。スクリューヘッド20は、前段部で溶融された樹脂材料(溶融樹脂)を金型内に押し出す機能を有して構成されている。
【0025】
図3(a)などから理解されるとおり、本実施形態のスクリューヘッド20は、成形型(金型)に近い側から順に、スクリューヘッドの先端を構成する円錐部21と、この円錐部21の後段(スラスト方向Stに関して円錐部21より後ろ側)に配置されて外周面を樹脂材料(溶融樹脂)が流通する大径部22と、この大径部22の後段に配置されて逆止リング30と対向する小径部23と、上記したスクリューシャフト10が接続される接続端26と、で構成されている。
【0026】
また本実施形態のスクリューヘッド20においては、図4などから理解されるとおり、前記した大径部22のうち小径部23と接する後側外周面22sには、上述した環状の樹脂流路RCを通過した樹脂材料(溶融樹脂)を径方向外側に向けて溢出させる溢出溝24が形成されている。かような溢出溝24は、スクリューヘッド20の後側外周面22sの一部が先端側(St方向)に向けて窪む溝状の構造を為しており、大径部22の後端側面から見た場合には当該後端側面の一部が先端側(St方向)に向けて張り出すように一部が切り欠かれた凹部であると言える(図4図6など参照)。
【0027】
図5に示すように、本実施形態の溢出溝24の外形は、後側外周面22sの周縁を基準として前方(円錐部21側)に張り出した半円状又は楕円状であることが好ましい。換言すれば、後側外周面22sの周縁に形成される溢出溝24は、前記した軸方向であるスラスト方向における長さLsと周方向であるラジアル方向Rdにおける長さLθとが実質的に等しいことが好ましいと言える。なお、溢出溝24の径方向の長さである溝長Ltは、一例として、大径部22の外周面から小径部23の外周面までの長さであってもよい。
【0028】
さらに図6及び図7を参照して理解されるとおり、本実施形態の溢出溝24は、スクリューシャフト10やスクリューヘッド20の中心軸Cを基準として内側から外側にかけて径方向における断面積が縮小されるように形成されている。すなわち図7に示すように、まず後側外周面22sのうち溢出溝24が形成されていない領域については、計量時における後側外周面22sと逆止リング30との隙間はほぼ一様となっている。
【0029】
これに対して後側外周面22sのうち溢出溝24が形成されている領域については、溶融樹脂の入口側である流入側断面積CSが、溶融樹脂の出口側である流出側断面積CSよりも大きくなるように設定されている。これにより溶融樹脂の入口側から出口側にかけて(すなわち径方向外側に向かう)溶融樹脂の圧力(樹脂圧)を増加させることが可能となっている。
【0030】
また、図6などに示すように、溢出溝24は、前記した大径部22における後側外周面22sにおいて、周方向(スラスト方向St周りあるいは中心軸C周り)に関して所定間隔毎に複数設けられていることが好ましい。なお図示では第1溢出溝24a~第4溢出溝24dまで合計4つの溢出溝24が90度間隔で後側外周面22sに形成されているが、本開示はこの例に限定されず4つ以外の複数の溢出溝24が後側外周面22sに形成されていてもよい。また、上記した複数の溢出溝24は、周方向に沿って等間隔で設置されていることが好ましい。
【0031】
さらに本実施形態のスクリューヘッド20における後側外周面22sにおいては、周方向に関して溢出溝24と隣接する位置(例えば溢出溝24の下流側)に周方向絞り溝25が形成されている。より具体的に図4及び図6などから理解されるとおり、本実施形態の周方向絞り溝25は、前記した周方向に関して隣り合う溢出溝24の間に配置されることが好ましい。
【0032】
かような周方向絞り溝25は、上述した溢出溝24と隣接して、周方向における断面積が溶融樹脂の流れる方向に沿って(より具体的には下流側に向けて)縮小されるように形成されることが好ましい。これにより、上記した計量初期より後において、スクリューシャフト10の回転によってスクリューヘッド20の先端側且つ周方向に沿って流動する溶融樹脂が、周方向絞り溝25内を移動する。このとき周方向絞り溝25の周方向における断面積が徐々に縮小されることから、溶融樹脂の周方向への樹脂圧が増加してスクリューヘッド20と逆止リング30との間の隙間を保つことが可能となる。
【0033】
逆止リング30は、前記したスクリューヘッド20の後側周囲に配置されて、スクリューヘッド20の外周面に対向して環状の樹脂流路を形成可能に構成されている。より具体的には図3などに示すように、本実施形態の逆止リング30は、スクリューヘッド20のうち小径部23の周囲を覆うように設けられている。
【0034】
なお逆止リング30の具体的な構造としては、上記した樹脂流路を形成可能な限りにおいて、特許文献1や2に例示されるような公知の種々の逆止リングやチェックリングを適用してもよい。
【0035】
シールリング40は、前記したスクリューヘッド20のうち逆止リング30の後端側(逆止リング30を基準にして円錐部21とは反対側)に配置されて、金型への射出時に逆止リング30と協働して溶融樹脂の逆流を防止する機能を有して構成されている。より具体的にシールリング40は、溶融樹脂を金型内へ射出する際に逆止リング30がその反動でスラスト方向Stに沿って後退してシールリング40と当接することでシール作用を発揮する。
【0036】
なおシールリング40の具体的な構造としては、上記した逆止リング30と協働してシール作用を奏する限りにおいて、特許文献1や2に例示されるような公知の種々のシールリングを適用してもよい。
【0037】
<計量時における溶融樹脂の流れとスクリューヘッドの作用>
図7~9も参照しつつ、本実施形態で実行される射出成形のうち計量時における溶融樹脂の流れとスクリューヘッドの作用について説明する。
一例として、射出成形に際しては、スクリューシャフト10が軸周りに回転しつつ、上記した加熱シリンダ200の供給部において公知のホッパーを介してシリンダ内に原料であるペレットが投入される。
【0038】
次いで、この投入されたペレットは、加熱シリンダ200の圧縮部において加熱と圧縮の作用を受けて混練されながら溶融樹脂となる。その後に加熱シリンダ200の計量部において溶融樹脂がムラ無く均一に混練されて前方に送られる。
【0039】
このように溶融樹脂の計量動作においては、スクリューシャフト10が軸周りに回転しつつ規定量の溶融樹脂が円錐部21の前方に形成されたシリンダ内の樹脂留空間RAC(図1参照)に貯留される。このとき図7に示すように、溶融樹脂は、スクリューヘッド構造体100のうち小径部23と逆止リング30との間で形成された樹脂流路RC内を流通して前方の樹脂留空間RACに移動する。
【0040】
規定量の溶融樹脂が樹脂留空間RACに貯留された後は、スクリューシャフト10が金型方向へ移動することで当該規定量の溶融樹脂が金型内へ射出される。すなわち逆止リング30は小径部23の周囲に静止しているため、円錐部21や大径部22に対して相対的に離間しながらシールリング40と当接する。これにより溶融樹脂の後方への移動がシールリング40で抑制されながら、円錐部21を介して樹脂留空間RAC内の溶融樹脂が金型内へ射出される。次いで射出された溶融樹脂が金型内で所定時間だけ冷却された後、完成品が金型から取り出される。
【0041】
通常は、上記した処理を複数回連続して繰り返されることで所定量の完成品が射出成形される。従って2回目以降の射出成形では再び上記した計量動作が実施される。すなわち金型方向へ移動したスクリューヘッド20(円錐部21や大径部22など)が逆方向へ反転して移動することで、逆止リング30と大径部22との距離が縮まることになる。このときスクリューシャフト10が軸周りに回転を再開しているものの、特に計量動作の初期においては軸周りの溶融樹脂の流れはほとんどなく、スラスト方向Stに沿って溶融樹脂の流動が開始される。
【0042】
そして従来構造のスクリューヘッドでは、上記特許文献に例示されるように、軸周りの溶融樹脂の流れの作用によって大径部22と逆止リング30との間隔を維持する構成であるため、特に計量動作の初期において大径部22の後端部と逆止リング30の前端部とが接触してしまう。そしてそのような計量動作を複数回繰り返すことで、大径部22の後端部と逆止リング30の前端部の少なくとも一方に摩耗や傷あるいは打痕などの損傷が発生してしまう。かような損傷が発生してしまうと、樹脂流路RC内を流通する溶融樹脂が適正に樹脂留空間RACへ供給されないなどの問題が発生し得る。
【0043】
これに対して本実施形態のスクリューヘッド構造体100では、大径部22のうち小径部23と接する後側外周面22sには上述した溢出溝24を備えてなる。これにより図8に示すように、未だ周方向への溶融樹脂の流れが発生していない計量動作の初期においても、スラスト方向Stへ移動する溶融樹脂が溢出溝24を介して径方向(ラジアル方向Rd)へ樹脂圧を高めて移動可能となる。このとき溢出溝24から径方向外側に向けて溢出する溶融樹脂の一部が、大径部22と逆止リング30の間に介在するクッションとなって、逆止リング30の前端部を押し返すように作用する。
【0044】
従って本実施形態のスクリューヘッド構造体100を用いた計量動作の初期においても、上記した溢出溝24を介した中心軸Cから径方向外側へ流れ出る溶融樹脂の作用によって大径部22の後端部と逆止リング30の前端部との接触が抑制され、その結果としてこれらの間隔の維持が可能となっている。
【0045】
さらに本実施形態のスクリューヘッド構造体100では、溢出溝24と隣接して(本例では周方向に関して溢出溝24の下流側に)上記した周方向絞り溝25を備えてなる。これにより図9に示すように、スクリューシャフト10が軸周りに回転を再開して周方向への溶融樹脂の流れが発生する計量動作の中期以降(初期より後)においても、中心軸C周りに移動する溶融樹脂が周方向絞り溝25を介して樹脂圧を高めて移動可能となっている。このとき周方向絞り溝25から周方向に沿って移動する溶融樹脂の一部が、大径部22と逆止リング30の間に介在するクッションとなって、逆止リング30の前端部を押し返すように作用する。
【0046】
従って本実施形態のスクリューヘッド構造体100を用いた計量動作の中期以降においても、上記した周方向絞り溝25を介した中心軸C周りに流れる溶融樹脂の作用によって、大径部22の後端部と逆止リング30の前端部との接触が抑制されてこれらの間隔を継続して維持可能となっている。このように本実施形態のスクリューヘッド構造体100では、計量動作の初期と中期以降の二段階において溶融樹脂による逆止リング30への押出し作用を発揮することが可能となっており、高い信頼性で計量動作中におけるスクリューヘッドと逆止リングとの接触回数を大幅に抑制することが実現できる。
【0047】
<従来品と本発明品との比較実験とその効果>
図10に、上記した溢出溝24を備えていない従来品と、この溢出溝24を備える本発明品とを比較した摩耗試験の実験結果を示す。当該実験においては、パージを500ショット行うこととし、パージ前後でスクリューヘッドの重量を測定して摩耗量を比較することとした。そしてパージ終了後に摺動部位での最深部と非摺動部位の距離を、軸周りで4点(図中のA~D)測定してその平均値も算出した。
【0048】
射出成形に際しては、住友重機械工業社製の射出成形機(SE75EV-A)を用いた。また、従来品に相当するスクリューヘッドとしては、標準品として搭載されるφ25標準スクリューヘッドを用いた。 また、一例として、上記したパージの条件は次のとおりとした。
計量:50mm
シリンダ温度:220℃
回転数:200rpm
背圧:2MP
射出速度:50m/s
【0049】
同図に添付した試験結果から明らかなとおり、本発明品と従来品とを比較した場合、本発明品の方は従来品に比して概ね50%程度の摩耗量の削減が実現されている。すなわち本発明品は、従来品に比して上記で説明した有利なフロート効果を発揮できる。
【0050】
また図11に、上記した溢出溝24を備えていない従来品(上記した標準スクリューヘッド)と、この溢出溝24を備える本発明品とを比較したリング応答性試験の結果を示す。一例として本試験では、上記摩耗試験と同じ射出成形機を用い、下記の成形条件によって成形安定後の30ショットを連続成形し、その最小クッション量と計量時間をそれぞれ記録した。すなわち本実施形態では、これら最小クッション量と計量時間に基づいて逆止リングのリング応答性を評価した。
【0051】
なおリング応答性試験での射出成形においては、成形温度を2種類(220℃、240℃)設定して樹脂の粘度を変えてそれぞれ結果を記録した。
計量:20mm
回転数:50rpm
回転数:200rpm
射出速度:30m/s
【0052】
同図に添付した試験結果から明らかなとおり、本発明品と従来品とを比較した場合、本発明品の方は従来品に比して成形温度に依らず安定したリング応答性を示していることが確認できる。換言すれば、上記した溢出溝を備える本発明品は、従来構造に比して成形温度(樹脂の粘性)に依らず最小クッション値を安定して確保することができる。
【0053】
以上説明したとおり、本開示のスクリューヘッド構造体および射出成形機によれば、計量動作の初期から計量完了までのトータルにおいてスクリューヘッドの摩耗や損傷を大幅に抑制することが実現される。
【0054】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態やその変形例について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0055】
例えば図6において、ヘッド後端側(接続端26側)から見た溢出溝24の幅は径方向内側から外側にかけてほぼ一様であるが、径方向内側から外側にかけて狭小化するように幅が狭くなっていってもよい。これによっても、スラスト方向Stへ移動する溶融樹脂が溢出溝24を介して径方向(ラジアル方向Rd)へ樹脂圧を高めて移動可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のスクリューヘッド構造体によれば、耐久性に優れたスクリューヘッドを備えた射出成形機を実現するのに適している。
【符号の説明】
【0057】
100 スクリューヘッド構造体
10 スクリューシャフト
20 スクリューヘッド
30 逆止リング
40 シールリング
200 加熱シリンダ
300 射出成形機
【要約】
【課題】計量動作の初期から計量完了までスクリューヘッドと逆止リングとの接触を高い信頼性で抑制可能なスクリューヘッド構造体およびこのスクリューヘッド構造体を備えた射出成形機を提供する。
【解決手段】本発明のスクリューヘッド構造体に含まれるスクリューヘッドは、成形型に近い側から順に、円錐部と、この円錐部の後段に配置されて外周面を樹脂材料が流通する大径部と、この大径部の後段に配置されて逆止リングと対向する小径部と、で構成され、大径部のうち小径部と接する後側外周面には、環状の樹脂流路を通過した樹脂材料を径方向外側に向けて溢出させる溢出溝が形成されている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11