(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】ブロックポリマーとリチウム化、その製造方法と応用
(51)【国際特許分類】
C08F 293/00 20060101AFI20241029BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
C08F293/00
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2023543272
(86)(22)【出願日】2021-02-08
(86)【国際出願番号】 CN2021076031
(87)【国際公開番号】W WO2022160381
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-07-18
(31)【優先権主張番号】202110117682.4
(32)【優先日】2021-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】株式会社AESCジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(74)【代理人】
【識別番号】100204490
【氏名又は名称】三上 葉子
(72)【発明者】
【氏名】魏 迪鋒
(72)【発明者】
【氏名】李 昊
(72)【発明者】
【氏名】李 若楠
(72)【発明者】
【氏名】孫 化雨
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108306021(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108470884(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106433530(CN,A)
【文献】特開2012-204303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
H01M
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
B-C-B-Aで表される構造を有し、
Aは、ポリマーブロックAを表し、Bは、ポリマーブロックBを表し、Cは、ポリマーブロックCを表し、
前記ポリマーブロックAは、アルケニルギ酸モノマーから重合されてなり、
前記ポリマーブロックBは、芳香族ビニルモノマーから重合されてなり、
前記ポリマーブロックCは、アクリレートモノマーから重合されてなることを特徴とする、ブロックポリマー
のリチウム化物である、リチウム化ブロックポリマー。
【請求項2】
前記アルケニルギ酸モノマーの構造が次の通りであり、
【化1】
式中、R11、R12は、独立して、水素又はC
1~4アルキル基であり、
及び/又は、芳香族ビニルモノマーの構造は次の通りであり、
【化2】
式中、R21、R22、R23、R24、R25、R26は、独立して、水素又はC
1~4アルキル基であり、
及び/又は、前記アクリレートモノマーの構造は次の通りであり、
【化3】
式中、R31は、直鎖又は分岐鎖のC
1~10アルキル基であることを特徴とする、請求項1に記載の
リチウム化ブロックポリマー。
【請求項3】
前記アルケニルギ酸モノマーがアクリル酸であり、
及び/又は、前記芳香族ビニルモノマーはスチレンであり、
及び/又は、前記アクリレートモノマーの構造は次の通りであることを特徴とする、請求項2に記載の
リチウム化ブロックポリマー。
【化4】
式中、R31は、直鎖又は分岐鎖のC
4~8アルキル基である。
【請求項4】
前記ブロックポリマーにおいて、
前記ポリマーブロックAの重合度が10~50であり、
前記ポリマーブロックBの重合度は200~500であり、
前記ポリマーブロックCの重合度は400~1000であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の
リチウム化ブロックポリマー。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウム化ブロックポリマーの製造方法であって、
ブロックポリマーの製造方法が、以下:
(1)RAFT試薬と開始剤の存在下で、前記ポリマーブロックAと前記ポリマーブロックBを
構成するモノマーを重合反応させて、ポリマーブロックB-Aを得る工程と、
(2)RAFT試薬と開始剤の存在下で、前記ポリマーブロックC
を構成するモノマーと前記ポリマーブロックB-Aを重合反応させて、ポリマーブロックC-B-Aを得る工程と、
(3)RAFT試薬と開始剤の存在下で、前記ポリマーブロックB
を構成するモノマーと前記ポリマーブロックC-B-Aを反応させて、前記ブロックポリマーを得る工程と、
を含むことを特徴とする、
リチウム化ブロックポリマーの製造方法。
【請求項6】
前記リチウム化ブロックポリマーは、一般式(I)で表される構造を有することを特徴とする、請求項
1~4のいずれか一項に記載のリチウム化ブロックポリマー。
【化5】
式中、nは10~50であり、xは200~500であり、yは400~1000である。zは200~500である。R41はC
4~8アルキル基である。R42及びR43はフェニル基又はC
1~4アルキル基で置換されたフェニル基である。
【請求項7】
前記リチウム化ブロック
ポリマーが次の通りである、請求項6に記載のリチウム化ブロックポリマー。
【化6】
式中、nは10~50であり、xは200~500であり、yは400~1000である。zは200~500である。
【請求項8】
リチウム化ブロックポリマーの製造方法であって、
(1)ポリアクリル酸-スチレン-
アクリル酸2-エチルヘキシル(PAA-PSt-PEHA)とスチレンモノマーを重合反応させて、ポリアクリル酸-スチレン-
アクリル酸2-エチルヘキシル-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)を得る工程と、
(2)水酸化リチウムを用いて、ポリアクリル酸-スチレン-
アクリル酸2-エチルヘキシル-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)を処理し、前記リチウム化ブロックポリマーを得る工程と、
を含むことを特徴とする、リチウム化ブロックポリマーの製造方法。
【化7】
ここで、工程(1)及び工程(2)において、nは10~50であり、xは200~500であり、yは400~1000である。工程(2)において、zは200~500である。
【請求項9】
前記ポリアクリル酸-スチレン-
アクリル酸2-エチルヘキシル-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)と前記スチレンモノマーの質量比が(0.01~0.3):1であり、
及び/又は、工程(1)において、前記重合反応は開始剤の存在下で行われ、
及び/又は、工程(1)において、前記重合反応の温度が50~90℃であり、
及び/又は、工程(1)において、前記重合反応の時間が2~8時間であり、
及び/又は、工程(1)において、前記重合反応後、さらに、脱イオン水を用いて、重合反応の生成物をpH3~6まで洗浄することを含み、
及び/又は、工程(2)において、前記水酸化リチウムは水酸化リチウムの水溶液であり、前記水酸化リチウム水溶液において、水酸化リチウムの質量分率は、5%~15%であることを特徴とする、請求項
8に記載の製造方法。
【請求項10】
(A)ポリアクリル酸-スチレン(PAA-PSt)とアクリル酸2-エチルヘキシルモノマーを重合反応させて、ポリアクリル酸-スチレン-
アクリル酸2-エチルヘキシル(PAA-PSt-PEHA)を得る工程を含むことを特徴とする、請求項
8に記載の製造方法。
【化8】
ここで、工程(A)中、nは10~50であり、xは200~500である。
【請求項11】
工程(A)において、前記ポリアクリル酸-スチレン(PAA-PSt)と前記アクリル酸2-エチルヘキシルの質量比が(0.6~0.9):1であり、
及び/又は、工程(A)において、前記重合反応は開始剤の存在下で行われ、
及び/又は、工程(A)において、前記重合反応の温度が50~90℃であり、
及び/又は、工程(A)において、前記重合反応の時間が2~8時間であることを特徴とする、請求項
10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記ポリアクリル酸-スチレン(PAA-PSt)の製造は、
(I)ポリアクリル酸とスチレンモノマーを重合反応させて、ポリアクリル酸-スチレン(PAA-PSt)を得る工程を含むことを特徴とする、請求項
10に記載の製造方法。
【化9】
式中、nは10~50であり、xは200~500である。
【請求項13】
工程(I)において、前記ポリアクリル酸と前記スチレンモノマーの質量比が1:(3~90)であり、
及び/又は、工程(I)において、前記重合反応は開始剤の存在下で行われ、
及び/又は、工程(I)において、前記重合反応の温度が50~90℃であり、
及び/又は、工程(I)において、前記重合反応の時間が2~10時間であることを特徴とする、請求項
12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記ポリアクリル酸の製造方法は、RAFT試薬と開始剤の存在下でアクリル酸モノマーを重合反応させて、ポリアクリル酸を得る方法であることを特徴とする、請求項
12に記載の製造方法。
【請求項15】
前記重合反応において、前記RAFT試薬、前記開始剤と前記アクリル酸モノマーの質量比が(0.5~1.0):(0.2~0.5):(10~20)であり、
及び/又は、前記重合反応の温度が50~90℃であり、
及び/又は、前記重合反応の時間が10~22時間であり、
及び/又は、前記開始剤が、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム又は過硫酸アンモニウムであり、
及び/又は、
前記RAFT試薬が、次の通りであることを特徴とする、請求項
14に記載の製造方法。
【化10】
式中、Rはイソプロピオン酸基、酢酸基、2-シアノ酢酸基又は2-アミノ酢酸基;ZはC
4~12アルキル基、C
4~12アルキルチオ基、フェニル基又はベンジル基である。
【請求項16】
請求項1~4、6および7のいずれか一項に記載のリチウム化ブロックポリマーのリチウムイオン電池のバインダーとしての用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互引用
【0002】
本願は、2021年01月28日に出願された、出願番号が2021101176824、発明の名称が“ブロックポリマーとリチウム化、その製造方法と応用”の中国出願の優先権を主張し、前記出願の全文を引用する方法で、本文中に併合する。
【0003】
本発明の実施形態は、リチウムイオン電池の分野に関し、特に、ブロックポリマー及びリチウム化ブロックポリマー、並びにその製造方法及び応用に関する。
【背景技術】
【0004】
負極バインダーは、リチウムイオン電池の重要な補助機能材料の1つであり、電極の内部の力学的性能の主な出所であり、その主な作用は、活物質と活物質、集電体と活物質を結合することである。従来のバインダーは、スチレン-ブタジエンゴム、アクリルポリマー、アクリレートなどが主で、これらの材料は相対的に強い接着性を有し、相対的に好ましい電気化学的安定性を有しているものの、非導電性のため、負極の内部インピーダンスが上昇しやすく、その結果、リチウムイオン電池の急速充電性能が劣っていた。
【0005】
前記課題を解決するために、従来技術では主に次の2つの方法が使用されている。第1に、まず、活物質とバインダーの親和性を向上させる方法である。例えば、登録番号JP5373388B2の特許書類には、黒鉛粒子の機械化学的処理方法が記載されており、この方法では、黒鉛粒子の表面を親水性にし、粒子径を均一にし、平均粒子径を小さくし、表面の湿潤性を改善する性能を向上させ、水系バインダーとの親和性を向上させるので、リチウムイオン電池の充電効率の向上に貢献する。ただし、この方法では、特殊な黒鉛粒子処理装置が必要で、コストが高いほか、黒鉛以外の負極活物質(シリコンなど)を使用した電池システムでは、同一の効果を達成することができない。
【0006】
第2に、従来のバインダーをより優れたイオン伝導性バインダーに置換する方法である。例えば、登録番号CN105489898Bの特許書類には、グラフェン、カーボンナノチューブ、架橋ポリマー、多価金属イオン水溶性塩溶液を含む、電池全体の導電性を向上させることができる導電性水性バインダーが記載されており、ここでは、グラフェンとカーボンナノチューブはそれぞれ架橋ポリマーと化学的に結合して、三次元導電性ネットワーク構造を形成し、架橋ポリマーは多価金属イオン水溶性塩溶液で架橋されて三次元結合ネットワーク構造を形成する。しかし、導電性水性バインダーは、主に既存の様々な材料を組み合わせたものであるため、その組成が複雑であり、導電性水性バインダーを製造するための原料コストが相対的に高く、大規模な普及が困難であるほか、導電性水性バインダーをシリコン系負極に使用する場合には、適合性の問題があった。
【0007】
また、本発明者は、研究の結果、従来技術において、分子構造設計の観点から負極バインダーを改良し、リチウムイオン電池の急速充電性能を向上させる記載が少ないことを見出した。
【発明の概要】
【0008】
本発明の実施形態の目的は、ブロックポリマー及びリチウム化ブロックポリマー、並びにその製造方法及び応用を提供することである。
【0009】
前記技術的課題を解決するために、本発明の第1の態様は、B-C-B-Aで示される構造を有するブロックポリマーを提供する。ここで、AはポリマーブロックAを表し、BはポリマーブロックBを表し、CはポリマーブロックブロックCを表す。
【0010】
前記ポリマーブロックAは、アルケニルギ酸モノマーから重合されてなる。
【0011】
前記ポリマーブロックBは、芳香族ビニルモノマーから重合されてなる。
【0012】
前記ポリマーブロックCは、アクリレートモノマーから重合されてなる。
【0013】
いくつかの好ましい技術的試案において、前記ポリマーブロックAの重合度は10~50であり、前記ポリマーブロックBの重合度は200~500であり、前記ポリマーブロックCの重合度は400~1000である。
【0014】
いくつかの好ましい技術的試案において、前記アルケニルギ酸モノマーの構造は次の通りである。
【化1】
式中、R11、R12は、独立して、水素又はC
1~4アルキル基であり、前記C
1~4アルキル基は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基又はtert-ブチル基から選択される。好ましくは、前記アルケニルギ酸はアクリル酸である。
【0015】
いくつかの好ましい技術的試案において、前記芳香族ビニルモノマーの構造は、次の通りである。
【化2】
式中、R21、R22、R23、R24、R25、R26は、独立して、水素又はC
1~4アルキル基であり、前記C
1~4アルキル基は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基又はtert-ブチル基から選択される。好ましくは、R21、R22、R23、R24、R25、R26は水素又はメチル基であり、より好ましくは、前記芳香族ビニル
モノマーはスチレンである。
【0016】
いくつかの好ましい技術的試案において、前記アクリレートモノマーの構造は次の通りである。
【化3】
式中、R31は直鎖又は分岐鎖のC
1~10アルキル基である。より好ましくは、R31は直鎖又は分岐鎖のC
4~8アルキル基であり、さらに好ましくは、R31は次の通りである。
【化4】
【0017】
本発明のブロックポリマーは、当該技術分野における従来の段階的重合方法によって製造することができ、前記段階的重合方法は、前記ブロックポリマーの具体的ブロック構造に従って、段階的に、各ポリマーブロックA、ポリマーブロックB又はポリマーブロックCを追加し、各ポリマーブロックの段階的な重合を実現する。
【0018】
本発明の第2の態様は、前記ブロックポリマーの製造方法であって、前記製造方法は、次の工程を含む。ポリマーブロックC-B-AとポリマーブロックBを構成するモノマーを重合反応させて、前記ブロックポリマーを得る。ここで、Aは、ポリマーブロックAを表し、Bは、前記ポリマーブロックBを表し、Cは、前記ポリマーブロックCを表す。
【0019】
いくつかの好ましい技術的試案において、前記ポリマーブロックC-B-Aは、次の工程を含む下記方法によって製造される。ポリマーブロックB-AとポリマーブロックCを構成するモノマーを重合反応させて、ブロックポリマーC-B-Aを得る。前記ポリマーブロックC-B-Aにおいて、Aは、前記ポリマーブロックAを表し、Bは、前記ポリマーブロックBを表し、Cは、前記ポリマーブロックCを表す。
【0020】
いくつかの好ましい技術的試案において、前記ポリマーブロックB-Aは、次の工程を含む下記方法によって製造される。前記ポリマーブロックBを構成するモノマーと前記ポリマーブロックAを重合反応させて、ブロックポリマーB-Aを得る。前記ポリマーブロックB-Aにおいて、Aは、前記ポリマーブロックAを表し、Bは、前記ポリマーブロックBを表す。
【0021】
いくつかの好ましい技術的試案において、前記重合反応はRAFT試薬と開始剤の存在下で行われる。
【0022】
具体的には、前記ブロックポリマーの製造方法は、工程(1)RAFT試薬と開始剤の存在下で、前記ポリマーブロックAと前記ポリマーブロックBを構成するモノマーを重合反応させて、ポリマーブロックB-Aを得る。(2)RAFT試薬と開始剤の存在下で、前記ポリマーブロックCを構成するモノマーと前記ポリマーブロックB-Aを重合反応させて、ポリマーブロックC-B-Aを得る。(3)RAFT試薬と開始剤の存在下で、前記ポリマーブロックBを構成するモノマーと前記ポリマーブロックC-B-Aを反応させて、前記ブロックポリマーを得る、ことを含む。
【0023】
本発明の第3の態様は、前記ブロックポリマーのリチウム化物であるリチウム化ブロックポリマーを提供する。
【0024】
いくつかの好ましい技術的試案において、前記リチウム化ブロックポリマーは、一般式(I)で表される構造を有する。
【化5】
式中、nは10~50であり、xは200~500であり、yは400~1000である。zは200~500である。R41はC
4~8アルキル基である。好ましくは、R41は次の通りである。
【化6】
R42及びR43はフェニル基又はC
1~4アルキル基で置換されたフェニル基であり、前記C
1~4アルキル基のフェニル基は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基又はtert-ブチル基で置換されたフェニル基から選択される。好ましくは、R42及びR43はフェニル基である。
【0025】
いくつかの好ましい技術的試案において、前記リチウム化ブロックポリマーは、次の通りである。
【化7】
式中、nは10~50であり、xは200~500であり、yは400~1000である。zは200~500である。
【0026】
本発明の第4の態様は、リチウム化ブロックポリマーの製造方法を提供する。この製造方法は、以下の工程を含む。
【0027】
(1)ポリアクリル酸-スチレン-アクリル酸2-エチルヘキシル(PAA-PSt-PEHA)とスチレンモノマーを重合反応させて、ポリアクリル酸-スチレン-アクリル酸2-エチルヘキシル-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)を得る。
【0028】
(2)水酸化リチウムを用いて、ポリアクリル酸-スチレン-
アクリル酸2-エチルヘキシル-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)を処理し、前記リチウム化ブロックポリマーを得る。
【化8】
【0029】
ここで、工程(1)及び工程(2)中、nは10~50であり、xは200~500であり、yは400~1000であり、工程(2)において、zは200~500である。
【0030】
工程(1)において、前記ポリアクリル酸-スチレン-アクリル酸2-エチルヘキシル-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)と前記スチレンモノマーの質量比は、好ましくは(0.01~0.3):1である。より好ましくは(0.02~0.27):1である。
【0031】
工程(1)において、前記重合反応は開始剤の存在下で行うことが好ましく、前記開始剤は、好ましくは、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム又は過硫酸アンモニウムである。
【0032】
工程(1)において、前記重合反応の温度は、好ましくは50~90℃であり、より好ましくは60~80℃である。
【0033】
工程(1)において、前記重合反応の時間は、好ましくは2~8時間である。
【0034】
工程(1)において、前記重合反応後、さらに、脱イオン水を用いて、重合反応の生成物であるポリアクリル酸-スチレン-アクリル酸2-エチルヘキシル-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)をpH3~6まで洗浄することを含む。
【0035】
工程(2)において、前記水酸化リチウムとしては、水酸化リチウムの水溶液が好ましく、前記水酸化リチウム水溶液において、水酸化リチウムの質量分率は、好ましくは5%~15%である。
【0036】
工程(1)において、前記ポリアクリル酸-スチレン-アクリル酸2-エチルヘキシル(PAA-PSt-PEHA)の製造は、以下の工程を含む。
(A)ポリアクリル酸-スチレン(PAA-PSt)とアクリル酸2-エチルヘキシルモノマーを重合反応させて、ポリアクリル酸-スチレン-アクリル酸2-エチルヘキシル(PAA-PSt-PEHA)を得る。
【0037】
工程(A)において、前記ポリアクリル酸-スチレン(PAA-PSt)と前記アクリル酸2-エチルヘキシルの質量比は、好ましくは(0.6~0.9):1であり、より好ましくは(0.6~0.7):1である。
【0038】
工程(A)において、前記重合反応は開始剤の存在下で行うことが好ましく、前記開始剤は、好ましくは、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム又は過硫酸アンモニウムである。例えば、過硫酸カリウムである。
【0039】
工程(A)において、前記重合反応の温度は、好ましくは50~90℃であり、より好ましくは60~80℃である。
【0040】
工程(A)において、前記重合反応の時間は、好ましくは2~8時間であり、より好ましくは2~6時間である。
【0041】
工程(A)において、前記ポリアクリル酸-スチレン(PAA-PSt)の製造は、次の工程を含む。
【0042】
(I)ポリアクリル酸とスチレンモノマーを重合反応させて、ポリアクリル酸-スチレン(PAA-PSt)を得る。
【化10】
式中、nは10~50であり、xは200~500である。
【0043】
工程(I)において、前記ポリアクリル酸と前記スチレンモノマーの質量比は、好ましくは1:(3~90)であり、より好ましくは1:(5~75)である。
【0044】
工程(I)において、前記重合反応は開始剤の存在下で行うことが好ましく、前記開始剤は、好ましくは、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム又は過硫酸アンモニウムである。
【0045】
工程(I)において、前記重合反応の温度は、好ましくは50~90℃であり、より好ましくは60~80℃である。
【0046】
工程(I)において、前記重合反応の時間は、好ましくは2~10時間であり、より好ましくは2~8時間である。
【0047】
工程(I)において、前記ポリアクリル酸の製造方法は限定されないが、好ましくは、前記ポリアクリル酸の製造方法は、RAFT試薬と開始剤の存在下でアクリル酸モノマーを重合反応させれば、前記ポリアクリル酸を得ることができる。前記重合反応において、前記RAFT試薬、前記開始剤と前記アクリル酸モノマーの質量比は、好ましくは(0.5~1.0):(0.2~0.5):(10~20)である。前記重合反応の温度は、好ましくは50~90℃であり、より好ましくは60~80℃である。前記重合反応の時間は、好ましくは10~22時間であり、より好ましくは12~20時間である。前記開始剤は、好ましくは、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムである。前記RAFT試薬は、好ましくは、次の通りである。
【化11】
式中、Rはイソプロピオン酸基、酢酸基、2-シアノ酢酸基又は2-アミノ酢酸基である。ZはC
4~12アルキル基、C
4~12アルキルチオ基、フェニル基又はベンジル基であり、例えば、2-メルカプト-S-チオベンゾイル酢酸である。
【0048】
本発明の第4の態様は、上記リチウム化ブロックポリマーのリチウムイオン電池バインダーとしての用途を提供する。
【0049】
本分野における一般知識に反しないことに基づいて、上記各好ましい条件は、任意に組み合わせて、本発明の好ましい例を得ることができる。
【0050】
本発明で使用する試薬及び原料はいずれも市販されている。
【0051】
本発明が提供するリチウム化ブロックポリマーは、従来技術に対して、少なくとも以下の利点を有する。
【0052】
(1)本発明は、分子構造設計の観点から、より優れたイオン伝導性を有し、電極の内部インピーダンスを低減するのに貢献する、リチウム化ブロックポリマーを提供する。
【0053】
(2)本発明のリチウム化ブロックポリマーのコストは低廉であると同時に、さまざまな負極システムと相溶性を有し、普及も容易である。
【0054】
(3)本発明のリチウム化ブロックポリマーをバインダーとして使用した場合、その粘着性はより好ましく、製造されるリチウムイオン電池は負極剥離強度がより高い。
【0055】
(4)本発明のリチウム化ブロックポリマーをバインダーとして使用した場合、製造されるリチウムイオン電池は、より好ましい急速充電能力を有し、より優れた低温放電能力を有し、そして高温でのガス発生がより少ない。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本発明の実施形態の目的、技術的解決策及び利点をより明確にするために、以下では、本発明の様々な実施形態を特定の実施形態と併せて詳細に説明する。しかしながら、当業者であれば、本発明の様々な実施形態において、第三者が本出願をよりよく理解できるように多くの技術的詳細が提供されることを理解できることを理解されたい。しかしながら、これらの技術的詳細や以下の実施形態に基づく様々な変更や修正がなくても、本願で主張する技術的解決策は実現可能である。以下の実施例において特に条件を示さない実験方法については、通常、慣用の条件又は製造業者が推奨する条件に従う。パーセンテージ及び部数は、別段の指示がない限り重量によるものである。
【0057】
実施例1 リチウム化ポリアクリル酸-スチレン-アクリル酸2-エチルヘキシル-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)の製造
【0058】
工程1:ポリアクリル酸(PAA)の製造
【化12】
【0059】
2-メルカプト-S-チオベンゾイル酢酸(分子量が212.3g/mol)1.0g、精製アクリル酸モノマー3.0~17.0gを量り、混合し、500mLの三口フラスコに注ぎ、さらに過硫酸カリウム 0.2~0.5gを量り、脱イオン水 5~10gに溶解して低温保存し、湯せんに置き、磁石を加えて室温で撹拌溶解し、窒素ガスを30分間流して酸素を除去し、60~80℃まで加熱し、前記過硫酸カリウム水溶液を加え、12~20時間反応させて、前記ポリアクリル酸(PAA)を得る。
【0060】
工程2:ポリアクリル酸-スチレン(PAA-PSt)の製造
【化13】
【0061】
スチレンモノマー 98.0~245.0gを量り、工程1の反応後のフラスコにシリンジでゆっくりと加え、60~80℃で連続して2~8時間反応させて、前記ポリアクリル酸-スチレン(PAA-PSt)を得る。
【0062】
工程3:ポリアクリル酸-スチレン-アクリル酸2-エチルヘキシル(PAA-PSt-PEHA)の製造
【化14】
【0063】
アクリル酸2-エチルヘキシルモノマー 347.0~866.0gを量り、工程2の反応後のフラスコにシリンジでゆっくりと加え、60~80℃で連続して2~6時間反応させて、前記ポリアクリル酸-スチレン-アクリル酸2-エチルヘキシル(PAA-PSt-PEHA)を得る。
【0064】
工程4:ポリアクリル酸-スチレン-アクリル酸2-エチルヘキシル-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)の製造
【化15】
【0065】
スチレンモノマー 98.0~245.0gを量り、工程3の反応後のフラスコにシリンジでゆっくりと加え、60~80℃で連続して2~8時間反応させて、脱イオン水で、反応後の生成物をpH3~6まで洗浄し、前記ポリアクリル酸-スチレン-アクリル酸2-エチルヘキシル-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)を得る。
【0066】
工程5:リチウム化ポリアクリル酸-スチレン-アクリル酸2-エチルヘキシル-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)の製造
【化16】
【0067】
工程4で得られたポリアクリル酸-スチレン-アクリル酸2-エチルヘキシル-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)500gを量り、質量分率が5%~15%の水酸化リチウム溶液(水酸化リチウム 0.75~3.75gを含む)15~25gを、300rpm/hの回転速度で60分間攪拌反応させ、前記リチウム化ポリアクリル酸-スチレン-アクリル酸2-エチルヘキシル-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)を得る。
【0068】
実施例2 リチウムイオン電池の製造
【0069】
実施例1で製造したリチウム化ポリアクリル酸-スチレン-アクリル酸2-エチルヘキシル-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)を電池バインダーとして用いて、1Ahのソフトパックバッテリーを製造する。
【0070】
正極シートの製造
【0071】
正極活性材料NCM811、導電性カーボンブラックSuper-P、バインダーであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を質量比96:2:2の割合で混合し、その後、それらをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散させ、正極スラリーを得る。スラリーをアルミニウム箔の両面に均一に塗布し、乾燥、圧延及び80°で真空乾燥し、超音波溶接機を用いてアルミニウムリード線を溶接して、厚さ120~150μmの正極板を得る。
【0072】
負極シートの製造
【0073】
複合負極活物質(人造黒鉛98%+酸化ケイ素2%である負極)、導電性カーボンブラックSuper-P、実施例1で製造したリチウム化ポリアクリル酸-スチレン-アクリル酸2-エチルヘキシル-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)、増粘剤であるカルボキシメチルセルロースナトリウムを質量比95:2:2:1の割合で混合し、その後、それらを脱イオン水に分散させて,負極スラリーを得る。このスラリーを銅箔の両面に塗布し、乾燥、圧延及び真空乾燥し、超音波溶接機を用いてニッケルリード線を溶接して、厚さ80~100μmの負極板を得る。
【0074】
セルの製造
【0075】
正極板と負極板との間に厚さ20μmのセパレータを配置し、その後、正極板、負極板、セパレータからなるサンドイッチ構造を巻回した後、巻回体を平らにしてアルミホイルの包装袋に入れ、85℃で48時間真空焼成し、注液待ちのセルを得る。
【0076】
セルの注入液による化成
【0077】
グローブボックス内でセルに電解液を注入し、真空密閉して24時間放置する。次に、以下の工程に従って初回充電のルーチン化成を実行する。0.02C定電流で3.05Vまで充電し、0.05C定電流で3.75Vまで充電し、0.2C定電流で4.05Vまで充電し、真空密閉する。その後、さらに、0.33Cの定電流で4.2Vまで充電し、室温で24時間放置した後、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電する。
【0078】
実施例3では、実施例2と同一の方法でリチウムイオン電池を製造するが、差異は、負極シートの製造において、負極活物質に人造黒鉛を用いることである。
【0079】
比較例1 従来のSBRバインダーを応用したリチウムイオン電池の製造
【0080】
正極シートの製造
【0081】
正極活物質NCM811、導電性カーボンブラックSuper-P、バインダーであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を質量比96:2:2の割合で混合し、その後、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散させ、正極スラリーを得る。ススラリーをアルミニウム箔の両面に均一に塗布し、乾燥、圧延及び80°で真空乾燥し、超音波溶接機を用いてアルミニウムリード線を溶接して、厚さ120~150μmの正極板を得る。
【0082】
負極シートの製造
【0083】
複合負極活物質(人造黒鉛98%+酸化ケイ素2%である負極)、導電性カーボンブラックSuper-P、SBR、増粘剤であるカルボキシメチルセルロースナトリウムを質量比95:2:2:1の割合で混合し、その後、それらを脱イオン水に分散させて、負極スラリーを得る。このスラリーを銅箔の両面に塗布し、乾燥、圧延及び真空乾燥し、超音波溶接機を用いてニッケルリード線を溶接して、厚さ80~100μmの負極板を得る。
【0084】
セルの製造
【0085】
正極板と負極板との間に厚さ20μmのセパレータを配置し、正極板、負極板、セパレータからなるサンドイッチ構造を巻回した後、巻回体を平らにしてアルミホイルの包装袋に入れ、48時間真空焼成し、注液待ちのセルを得る。
【0086】
セルの注入液による化成
【0087】
グローブボックス内でセルに電解液を注入し、真空密閉して24時間放置する。次に、以下の工程に従って初回充電のルーチン化成を実行する。0.02C定電流で3.05Vまで充電し、0.05C定電流で3.75Vまで充電し、0.2C定電流で4.05Vまで充電し、真空密閉する。その後、さらに、0.33Cの定電流で4.2Vまで充電し、室温で24時間放置した後、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電する。
【0088】
比較例2は、比較例1と同一の方法でリチウムイオン電池を製造するが、差異は、負極シートの製造において、負極活物質に人造黒鉛を使用することである。
【0089】
試験例1 ポリアクリル酸-スチレン-アクリル酸2-エチルヘキシル-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)の表現
【0090】
ポリアクリル酸-スチレン-アクリル酸2-エチルヘキシル-スチレン 0.01gを、テトラヒドロフラン溶媒 5mlに溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、その分子量及び分子量分布曲線を測定し、結果を表1に示す。
【0091】
【0092】
試験例2 リチウムイオン電池性能試験
【0093】
(1)急速充電能力試験
25℃で、実施例および比較例で製造した電池に対して2Cの倍率を採用して定電流充電試験を行い、その倍率充電容量維持率を算出し、電池の2Cでの倍率充電保持率=電池の2Cの倍率における充電後に放出される容量/電池の1/3Cの倍率における充電後に放出される容量であり、得られた結果を表2に示す。
【0094】
【0095】
(2)剥離強度試験
実施例及び比較例で製造した負極シートを幅2cm×幅10cmの短冊状に切り、同サイズの長方形のステンレス板に同サイズの3M VHB両面粘着テープを貼り付け(貼り付ける前にアルコールできれいに拭いてから貼り付ける)、一定の重さのローラーで往復3回転がして、テープと鋼板を密着させ、さらにシート(活物質面)とテープの他面を正確に貼り付け、ローラーで同様に3回転がし、最後に万能材料試験機に置き、剥離強度を試験する。
【0096】
鋼板の一部を機械下方のクランプに置き、鋼板を地面に対して垂直にクランプし、下方からシートの中央の位置までそっと引き裂き、機械の上方まで180°曲げてクランプし、機械を制御して、上部クランプの位置を調整し、試験ソフトウェアを開き、試験条件を引張速度50mm/分に設定し、全ての初期パラメータをゼロにリセットし、試験を開始する。得られた結果を表3に示す。
【0097】
【0098】
(3)高温ガス発生性能試験
実施例および比較例で製造した電池の初期重量および初期体積(水抜き法による測定)を測定し、60℃の環境下に置き、28日目で終了するまで、7日ごとに取り出し、室温に降下させて体積を測定し、体積増加率を算出し、測定が終わる度に60℃に戻し、0.03Cの電流で充電する。得られた結果を表4に示す。
【0099】
【0100】
(4)低温放電能力試験
実施例及び比較例で製造した電池を使用し、その-20℃での放電容量維持率を測定する。25℃で、満充電状態の電池を1Cで3.0Vまで放電し、初回放電容量をDC(25℃)と記録する。その後、25℃で、1Cの定電流及び定電圧で4.2Vまで充電し、カットオフ電流は0.05Cである。次に、-20°Cまで冷却して4時間放置し、1Cで3.0Vまで放電し、放電容量DC(-20°C)を記録する。-20℃における放電容量保持率=100%*DC(-20℃)/DC(25℃)である。得られた結果を表5に示す。
【0101】
【0102】
当業者であれば、上記した実施の形態は本発明を実現するための具体例であり、実際の実施においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でその形状や詳細を種々変更することが可能であることを理解することができる。