(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】パターン入り液体の製造方法及びパターン入り液体の製造システム
(51)【国際特許分類】
A23P 10/00 20160101AFI20241029BHJP
B29C 64/106 20170101ALI20241029BHJP
B29C 64/209 20170101ALI20241029BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20241029BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20241029BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20241029BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20241029BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
A23P10/00
B29C64/106
B29C64/209
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y70/00
A23L2/00 Z
A23L2/52
(21)【出願番号】P 2023543803
(86)(22)【出願日】2022-08-10
(86)【国際出願番号】 JP2022030519
(87)【国際公開番号】W WO2023026862
(87)【国際公開日】2023-03-02
【審査請求日】2024-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2021135928
(32)【優先日】2021-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】井之上 一平
(72)【発明者】
【氏名】花▲崎▼ 逸雄
【審査官】吉澤 伸幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-207963(JP,A)
【文献】特表2020-512943(JP,A)
【文献】国際公開第2018/218264(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0247053(US,A1)
【文献】特開平06-046766(JP,A)
【文献】国際公開第2006/120227(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0115497(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23P 10/00
B29C 64/106
B29C 64/209
B33Y 10/00
B33Y 30/00
B33Y 70/00
A23L 2/00
A23L 2/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の可食性有機物を含むマイクロサイズの第一のマイクロ粒子が第一の液体中に分散されたパターン形成用材料を、
位置制御可能なノズルを用いて、
第二の可食性有機物を含むマイクロサイズの第二のマイクロ粒子が0体積%以上、74体積%以下で分散された第二の液体中に吐出し、
前記第一のマイクロ粒子からなるパターンを形成する
ものであり、
前記ノズルを前記第二の液体に入れた状態で前記ノズルから前記パターン形成用材料を前記第二の液体中に吐出することで前記パターンを形成する、パターン入り液体の製造方法。
【請求項2】
前記パターンを構成する前記第一のマイクロ粒子同士および/又は前記第二のマイクロ粒子同士は、クロスリンカーで化学的に結合されていない、請求項1に記載のパターン入り液体の製造方法。
【請求項3】
前記第一のマイクロ粒子同士および/又は前記第二のマイクロ粒子同士は、非共有結合的凝集性により凝集して
いる、請求項1又は2に記載のパターン入り液体の製造方法。
【請求項4】
前記第一および/又は第二のマイクロ粒子の直径は、0.13μm以上、1000μm以下である請求項1又は2に記載のパターン入り液体の製造方法。
【請求項5】
前記第二の液体の密度に対する前記第一および第二のマイクロ粒子の各密度の割合は、0.9以上、1.1以下であり、
前記第一の液体の密度に対する前記第二の液体の密度の割合は、0.9以上、1.1以下である、請求項1又は2に記載のパターン入り液体の製造方法。
【請求項6】
前記第一の液体と前記第二の液体の水分含有量の差の絶対値は、0%以上、50%以下である、請求項1又は2に記載のパターン入り液体の製造方法。
【請求項7】
前記第一の液体の粘度と前記第二の液体の粘度は、25℃において、各々0.8mPa・s以上、6Pa・s以下である、請求項1又は2に記載のパターン入り液体の製造方法。
【請求項8】
前記ノズルの径Lと、前記第二の液体中における前記ノズルの速度Uとが、U×L≦10
-3m
2/sの関係を満たす、請求項1又は2に記載のパターン入り液体の製造方法。
【請求項9】
前記第二の液体中における前記ノズルの速度Uに対する、前記ノズルから吐出される前記パターン形成用材料の吐出流量Xを前記ノズルの先端の開口面積Aで除算した値の割合は、0.2以上、10以下である、請求項1又は2に記載のパターン入り液体の製造方法。
【請求項10】
液体中にパターンが形成されたパターン入り液体の製造システムであって、
可食性有機物を含むマイクロサイズのマイクロ粒子が第一の液体中に分散されたパターン形成用材料を収容するタンクと、
前記パターン形成用材料を吐出するノズルと、
前記パターン形成用材料を前記ノズルに送液するポンプと、
前記ノズルの位置と、前記ノズルから吐出される前記パターン形成用材料の吐出流量とを制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記ノズルの径Lと前記ノズルの速度UとがU×L≦10
-3m
2/sの関係を満たすように、第二の液体中で前記ノズルを移動させながら前記ノズルから前記パターン形成用材料を吐出させる、パターン入り液体の製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターン入り液体の製造方法及びパターン入り液体の製造システムに関する。より詳しくは、液体中に、文字や絵図、成分の偏り等のパターンを形成可能なパターン入り液体の製造方法及びパターン入り液体の製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
三次元印刷技術は、三次元CAD(Computer-Aided Design)データを元に、材料を二次元の層として、順次積層していき、三次元構造物を形成する技術である。この技術を用いて、金属材、高分子材、食品素材、細胞等の様々な材料から三次元構造物が形成されてきた。
【0003】
これまで、液相中への三次元印刷技術の例として、印刷中に液相が交換可能なプラットフォームを用いて、目的条件に合わせて液相を交換しながら高分子材を積層し、高分子構造を構築する技術(例えば、特許文献1参照)や、ゲル中に固化材料を堆積し、固化させることで、ゲル中に浮遊した三次元物体を形成する技術(例えば、特許文献2参照)、あるいは、第1の流体中にその流体とは混合しない第2の流体を導入し、それらが混合しないことを利用して、第1の流体中にパターンを形成する技術(例えば、特許文献3参照)が提案されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2020/247053号明細書
【文献】米国特許出願公開第2018/281295号明細書
【文献】国際公開第2018/218264号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、液体中への三次元パターン生成を想定した場合、特許文献1に記載のような高分子材を積層する手法では、形成された高分子構造体は常にプラットフォームの底面や壁面に接する必要があり、三次元パターンの設計自由度が制限されていた。また、三次元パターンが形成された液体を飲料として供する場合は、その三次元パターンによって飲料としての食感が変化しないことが求められる場合が有り、特許文献1に記載の手法では、流体としての飲料中に嵩高い(一塊の)高分子構造体が形成されることになるため、飲料としての食感に当該構造体が必然的に影響を与えてしまう。同様に、三次元パターンが形成された液体を化粧品として供する場合も、その三次元パターンが肌触り(触感)に必然的に影響を与えてしまう。
【0006】
また、特許文献2や特許文献3に記載の手法では、ゲルや流体を収容する容器の底面や壁面に接することなく、ゲルや流体中に浮遊した状態で三次元パターンを生成することが可能である。しかしながら、特許文献2に記載の手法を利用すると、三次元パターン生成に固化材料を用いることになるため、特許文献1の場合と同様に、固体構造物が形成されてしまい、当該構造体が必然的に飲料としての食感や化粧品としての触感に影響を与えてしまう。そして、特許文献3に記載されているような混合しない二種類の流体の組み合わせを利用する場合でも、描画に用いた流体の親水度等の物性の違いが飲料としての食感や化粧品としての触感に影響を与えてしまう。更に、異なる物性を持つ2つの流体は、同じ流体同士が融合する一方で、異なる流体は互いに相分離する性質を持つため、線描は困難であり、描画できる三次元パターンの設計自由度が制限されていた。
【0007】
なお、上記と同様の課題は、三次元パターンに限らず、一次元パターンや二次元パターンを液体中に形成する場合も発生し得る。
【0008】
本発明は、色や味、香り、食感、触感等の感覚を生じ得るパターンの液体中での設計の自由度が高いパターン入り液体の製造方法及びパターン入り液体の製造システムを提供することを目的とする。
【0009】
また、昨今の異常気象や世界的な人口増加、消費拡大により食料資源が枯渇することが懸念されている。畜肉分野においては培養細胞で三次元印刷を行い、本物の畜肉と同様の食感を再現する試みがなされている。しかしながら植物を原料とする飲料ではこのような試みはなされていない。そこで、本発明は、パターンをミクロレベルで設計することにより、本物の牛乳やコーヒーなどの環境負荷の高い飲料と同等の食感を有する低環境負荷な植物原料飲料を提供することも目的であってもよい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、そのようなパターン入り液体の実現のため、液体中へのパターン生成にマイクロサイズの可食性のマイクロ粒子を利用することに着目した。このような可食性のマイクロ粒子は、不溶成分を包含して液体中に均一に分散されることによって、当該成分を液体とともに容易に摂取または利用可能とすることを目的に使用されることが通常であるが、本発明者らは、可食性のマイクロ粒子による大きさ依存的な拡散現象を利用すれば、液体中でも一定時間、マイクロ粒子がその場にとどまることから、場となる液体中にマイクロ粒子を配置してマイクロ粒子からなる文字や絵図等のパターンを描画し、かつその形状を維持できることを見出した。これは、マイクロ粒子は、色素等の低分子と比較して、拡散係数が小さいためである。更に、可食性のマイクロ粒子はそれ単体では、色素等の低分子と同様に口腔内で食感あるいは皮膚上での触感を感じることは難しいが、マイクロ粒子同士は非共有結合的凝集性により凝集することが可能であり、その結果として食感あるいは触感を生じ得ることから、マイクロ粒子からなるパターンの食感あるいは触感の有無や程度を自由に制御することも可能である。
【0011】
すなわち、これに限定されるものではないが、本発明は以下のパターン入り液体の製造方法及びパターン入り液体の製造システムに関する。
<1>第一の可食性有機物を含むマイクロサイズの第一のマイクロ粒子が第一の液体中に分散されたパターン形成用材料を、位置制御可能なノズルを用いて、第二の可食性有機物を含むマイクロサイズの第二のマイクロ粒子が0体積%以上、74体積%以下で分散された第二の液体中に吐出し、前記第一のマイクロ粒子からなるパターンを形成する、パターン入り液体の製造方法。
<2>前記パターンを構成する前記第一のマイクロ粒子同士および/又は前記第二のマイクロ粒子同士は、クロスリンカーで化学的に結合されていない、上記<1>に記載のパターン入り液体の製造方法。
<3>前記第一のマイクロ粒子同士および/又は前記第二のマイクロ粒子同士は、非共有結合的凝集性により凝集しており、食感を生じるものである、上記<1>又は<2>に記載のパターン入り液体の製造方法。
<4>前記第一および/又は第二のマイクロ粒子の直径は、0.13μm以上、1000μm以下である上記<1>~<3>のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
<5>前記第二の液体の密度に対する前記第一および第二のマイクロ粒子の各密度の割合は、0.9以上、1.1以下であり、前記第一の液体の密度に対する前記第二の液体の密度の割合は、0.9以上、1.1以下である、上記<1>~<4>のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
<6>前記第一の液体と前記第二の液体の水分含有量の差の絶対値は、0%以上、50%以下である、上記<1>~<5>のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
<7>前記第一の液体の粘度と前記第二の液体の粘度は、25℃において、各々0.8mPa・s以上、6Pa・s以下である、上記<1>~<6>のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
<8>前記ノズルの径Lと、前記第二の液体中における前記ノズルの速度Uとが、U×L≦10-3m2/sの関係を満たす、上記<1>~<7>のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
<9>前記第二の液体中における前記ノズルの速度Uに対する、前記ノズルから吐出される前記パターン形成用材料の吐出流量Xを前記ノズルの先端の開口面積Aで除算した値の割合は、0.2以上、10以下である、上記<1>~<8>のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
<10>液体中にパターンが形成されたパターン入り液体の製造システムであって、可食性有機物を含むマイクロサイズのマイクロ粒子が第一の液体中に分散されたパターン形成用材料を収容するタンクと、前記パターン形成用材料を吐出するノズルと、前記パターン形成用材料を前記ノズルに送液するポンプと、前記ノズルの位置と、前記ノズルから吐出される前記パターン形成用材料の吐出流量とを制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記ノズルの径Lと前記ノズルの速度UとがU×L≦10-3m2/sの関係を満たすように、第二の液体中で前記ノズルを移動させながら前記ノズルから前記パターン形成用材料を吐出させる、パターン入り液体の製造システム。
〔1〕第一の可食性有機物を含むマイクロサイズの第一のマイクロ粒子が第一の液体中に分散されたパターン形成用材料を、位置制御可能なノズルを用いて、第二の液体中に吐出し、上記第一のマイクロ粒子からなるパターンを形成する、パターン入り液体の製造方法。
〔2〕上記パターンを構成する上記第一のマイクロ粒子同士は、クロスリンカーで化学的に結合されていない、上記〔1〕に記載のパターン入り液体の製造方法。
〔3〕上記第一のマイクロ粒子の直径は、0.13μm以上、1000μm以下である上記〔1〕又は〔2〕に記載のパターン入り液体の製造方法。
〔4〕上記第二の液体の密度に対する上記第一のマイクロ粒子の密度の割合は、0.9以上、1.1以下であり、上記第一の液体の密度に対する上記第二の液体の密度の割合は、0.9以上、1.1以下である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
〔5〕上記第一のマイクロ粒子は、色素、呈味成分、栄養素及び香気成分からなる群より選択される少なくとも1の成分を含む、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
〔6〕上記第一のマイクロ粒子は、シリカ及びチタニアの少なくとも一方を含む、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
〔7〕上記第一の可食性有機物は、多糖類、ポリペプチド、高級アルコール、天然樹脂、脂質、高級脂肪酸エステル、ポリフェノール、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、及び、核酸からなる群より選択される少なくとも1の可食性有機物である、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
〔8〕上記第一のマイクロ粒子同士は、非共有結合的凝集性により凝集しており、食感を生じるものである、上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
〔9〕上記第一の液体と上記第二の液体の水分含有量の差の絶対値は、0%以上、50%以下である、上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
〔10〕上記第一の液体の粘度と上記第二の液体の粘度は、25℃において、各々0.8mPa・s以上、6Pa・s以下である、上記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
〔11〕上記第一の液体は、水溶液である、上記〔1〕~〔10〕のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
〔12〕上記ノズルは、多軸に自在に移動可能である、上記〔1〕~〔11〕のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
〔13〕上記第二の液体は、容器に収容されており、上記ノズルの長さは、少なくとも上記容器に収容された上記第二の液体の深さよりも長い、上記〔1〕~〔12〕のいずれか記載のパターン入り液体の製造方法。
〔14〕上記ノズルの径Lと、上記第二の液体中における上記ノズルの速度Uとが、U×L≦10-3m2/sの関係を満たす、上記〔1〕~〔13〕のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
〔15〕上記第二の液体中における上記ノズルの速度Uに対する、上記ノズルから吐出される上記パターン形成用材料の吐出流量Xを上記ノズルの先端の開口面積Aで除算した値の割合は、0.2以上、10以下である、上記〔1〕~〔14〕のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
〔16〕上記ノズルは、円形、楕円形、三角形、長方形、正方形、菱形、V字形、U字形、又はC字形の先端を有する、上記〔1〕~〔15〕のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
〔17〕上記第二の液体中に第二の可食性有機物を含むマイクロサイズの第二のマイクロ粒子が分散されており、上記第二のマイクロ粒子が分散された上記第二の液体中に上記パターン形成用材料を吐出する、上記〔1〕~〔16〕のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
〔18〕上記第二のマイクロ粒子同士は、クロスリンカーで化学的に結合されていない、上記〔17〕に記載のパターン入り液体の製造方法。
〔19〕上記第二のマイクロ粒子の直径は、0.13μm以上、1000μm以下である上記〔17〕又は〔18〕に記載のパターン入り液体の製造方法。
〔20〕上記第一のマイクロ粒子の密度、上記第一の液体の密度及び上記第二の液体の密度のそれぞれに対する上記第二のマイクロ粒子の密度の割合は、0.9以上、1.1以下である、上記〔17〕~〔19〕のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
〔21〕上記第二のマイクロ粒子は、色素、呈味成分、栄養素及び香気成分からなる群より選択される少なくとも1の成分を含む、上記〔17〕~〔20〕のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
〔22〕上記第二のマイクロ粒子は、シリカ及びチタニアの少なくとも一方を含む、上記〔17〕~〔21〕のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
〔23〕上記第二の可食性有機物は、多糖類、ポリペプチド、高級アルコール、天然樹脂、脂質、高級脂肪酸エステル、ポリフェノール、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、及び、核酸からなる群より選択される少なくとも1の可食性有機物を含む、上記〔17〕~〔22〕のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
〔24〕上記第二のマイクロ粒子同士は、非共有結合的凝集性により凝集しており、食感を生じるものである、上記〔17〕~〔23〕のいずれかに記載のパターン入り液体の製造方法。
〔25〕液体中にパターンが形成されたパターン入り液体の製造システムであって、可食性有機物を含むマイクロサイズのマイクロ粒子が第一の液体中に分散されたパターン形成用材料を収容するタンクと、上記パターン形成用材料を吐出するノズルと、上記パターン形成用材料を上記ノズルに送液するポンプと、上記ノズルの位置と、上記ノズルから吐出される上記パターン形成用材料の吐出流量とを制御する制御装置と、を備え、上記制御装置は、上記ノズルの径Lと上記ノズルの速度UとがU×L≦10-3m2/sの関係を満たすように、第二の液体中で上記ノズルを移動させながら上記ノズルから上記パターン形成用材料を吐出させる、パターン入り液体の製造システム。
〔26〕上記第二の液体中における上記ノズルの速度Uに対する、上記ノズルから吐出される上記パターン形成用材料の吐出流量Xを上記ノズルの先端の開口面積Aで除算した値の割合は、0.2以上、10以下である、上記〔25〕に記載のパターン入り液体の製造システム。
〔27〕第一の液体を、位置制御可能なノズルを用いて、可食性有機物を含むマイクロサイズのマイクロ粒子が分散された第二の液体中に吐出し、上記第一の液体からなるパターンを形成する、パターン入り液体の製造方法。
〔28〕液体中にパターンが形成されたパターン入り液体の製造システムであって、第一の液体を収容するタンクと、上記第一の液体を吐出するノズルと、上記第一の液体を上記ノズルに送液するポンプと、上記ノズルの位置と、上記ノズルから吐出される上記第一の液体の吐出流量とを制御する制御装置と、を備え、上記制御装置は、上記ノズルの径Lと上記ノズルの速度UとがU×L≦10-3m2/sの関係を満たすように、可食性有機物を含むマイクロサイズのマイクロ粒子が分散された第二の液体中で上記ノズルを移動させながら上記ノズルから上記第一の液体を吐出させる、パターン入り液体の製造システム。
〔29〕上記第二の液体中における上記ノズルの速度Uに対する、上記ノズルから吐出される上記第一の液体の吐出流量Xを上記ノズルの先端の開口面積Aで除算した値の割合は、0.2以上、10以下である、上記〔28〕に記載のパターン入り液体の製造システム。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、色や味、食感、触感等の感覚を生じ得るパターンの液体中での設計の自由度が高いパターン入り液体の製造方法及びパターン入り液体の製造システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、液体中に置かれたマイクロ粒子が1時間に典型的に移動する量とマイクロ粒子の直径の関係性の理論値を示すグラフである。
【
図2】
図2は、液体中でノズルを動かした場合、Reynolds数が1000以下になる範囲の理論値を示すグラフである。
【
図3】
図3は、本発明に係る液体中にパターンを形成するパターン入り液体の製造システムの概念図である。
【
図4】
図4は、本発明に係るガントリー型システムを用いたパターン入り液体の製造システムの概念図である。
【
図5】
図5は、本発明に係るロボットアームを用いたパターン入り液体の製造システムの概念図である。
【
図6】
図6は、検証実験1における10体積%マイクロ粒子懸濁液の光学顕微鏡写真である。
【
図7】
図7は、検証実験2において20体積%グリセロール水溶液中に直径1μmのマイクロ粒子懸濁液を滴下した写真である。
【
図8】
図8は、検証実験3において20体積%グリセロール水溶液中に直径1μmのマイクロ粒子懸濁液を様々な液量で滴下したときにその拡散を示すグラフである。
【
図9】
図9は、検証実験3において20体積%グリセロール水溶液中に直径1μmのマイクロ粒子懸濁液を濃度0.5体積%、0.5μL液量で滴下し、4時間放置した際の拡散を示すグラフである。
【
図10】
図10は、検証実験4において20体積%グリセロール水溶液中に直径0.2μmのマイクロ粒子懸濁液を滴下したときにその拡散を示すグラフである。
【
図11】
図11は、検証実験5において20体積%グリセロール水溶液中に直径1μmのマイクロ粒子懸濁液で像を構築した写真である。
【
図12】
図12は、検証実験6において20体積%グリセロール水溶液中に直径45μmあるいは直径90μmのマイクロ粒子懸濁液を各々濃度1.4体積%、1μL液量で滴下し、4時間放置した際の拡散を示すグラフである。
【
図13】
図13は、20体積%グリセロール水溶液中に1重量%のウラニン溶液を滴下した写真である。
【
図14】
図14は、検証実験7におけるアガロース製マイクロ粒子懸濁液の光学顕微鏡写真である。
【
図15】
図15は、検証実験7において20体積%グリセロール水溶液中に直径90μmのアガロース製マイクロ粒子懸濁液を滴下し、4時間放置した際の拡散を示すグラフである。
【
図16】
図16は、20体積%グリセロール水溶液中に1重量%のウラニン溶液を滴下し、3分間放置した際の拡散を示すグラフである。
【
図17】
図17は、検証実験8において0.5重量%又は1重量%のカルボキシメチルセルロースを含む20体積%グリセロール水溶液中に、直径1μmのマイクロ粒子を濃度0.2体積%で含む懸濁液を様々なノズル径、移動速度及び吐出流量で吐出し、長さ40mmの線を描画した際の線のずれを評価した結果を示すグラフである。
【
図18】
図18は、検証実験9において0.5重量%のカルボキシメチルセルロースを20体積%グリセロール水溶液中に、直径1μmのマイクロ粒子を濃度0.2体積%で含む懸濁液を様々な吐出流量で吐出し、長さ40mmの線を描画した際の線のずれを評価した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第一の態様に係るパターン入り液体の製造方法(以下、単に第一の態様に係る製造方法と言う場合がある)は、第一の可食性有機物を含むマイクロサイズの第一のマイクロ粒子が第一の液体中に分散されたパターン形成用材料を、位置制御可能なノズルを用いて、第二の液体中に吐出し、上記第一のマイクロ粒子からなるパターンを形成する。
【0015】
第一の態様に係る製造方法によれば、第一の可食性有機物を含むマイクロサイズの第一のマイクロ粒子が第一の液体中に分散されたパターン形成用材料を、位置制御可能なノズルを用いて、第二の液体中に吐出し、上記第一のマイクロ粒子からなるパターンを形成することから、場となる第二の液体中に第一のマイクロ粒子からなる文字や絵図等のパターンを描画し、かつその形状を維持することができる。そのため、色や味、香り、食感、触感等のパターンが自由に設計されたパターン入り液体を提供できる。例えば、第一のマイクロ粒子に色素や呈味物質、香気成分を含有させることで、第二の液体中でも空間的な色彩や味や香りのデザインを行うことができる。また、第一のマイクロ粒子の凝集性を制御することで、第二の液体中の空間的な食感あるいは触感のデザインも行うことができる。さらに、第一のマイクロ粒子からなるパターンをミクロレベルで設計することにより、本物の牛乳やコーヒーなどの環境負荷の高い飲料と同等の食感を有する低環境負荷な植物原料飲料を製造することも可能である。
【0016】
なお、本明細書において、「液体」とは、飲む行為により摂取可能、または皮膚に塗布可能な液状のものであってもよい。したがって、上記第一の液体及び第二の液体は、基本的には水溶液であることが好ましい。
【0017】
上記第一の液体及び第二の液体の種類は特に限定されず、飲料全般が挙げられる。具体的には、例えば、水;茶;コーヒー;果汁飲料、炭酸飲料、機能性飲料、スポーツ飲料、エナジードリンク、ノンアルコール飲料等の清涼飲料水;アルコール飲料;栄養ドリンク;牛乳;豆乳;スープ;スムージー;フローズンドリンク;フローズンカクテル;ミルクセーキ等が挙げられる。第一のマイクロ粒子からなるパターンを第二の液体の外から視認可能とする観点からは、第二の液体は、当該パターンが第二の液体を通して視認できる程度の透明度を有することが好ましい。同様の観点からは、第二の液体は、有色又は無色の透明であってもよい。第一の液体及び第二の液体は、互いに異なる種類の液体であってもよいし、同じ種類の液体であってもよい。また、第一の液体及び第二の液体は、各々、単一種の液体であってもよいし、複数種の液体が混合又は分離したものであってもよい。
また、上記第一の液体及び第二の液体の種類は、香水や化粧水、ローションなどの皮膚化粧品であってもいい。
さらに、上記第一の液体及び第二の液体の種類は、培地や緩衝液などの細胞の生育や維持に適した液体であってもよい。
【0018】
上記パターンは、一次元パターン(線)、二次元パターン(平面)及び三次元パターン(立体)のいずれであってもよい。パターンの種類は特に限定されず、例えば、文字等の記号や絵図といった色を生じるもの、成分の偏りといった味覚や食感、触感を生じるもの、これらの感覚を複合的に生じるものも挙げられる。
【0019】
上記第一のマイクロ粒子は、第一の可食性有機物を含むマイクロサイズの粒子である。第一のマイクロ粒子は、マイクロサイズの粒子、好ましくは後述するように直径が0.13μm以上であるため、第二の液体中に吐出された第一のマイクロ粒子は、その大きさにより拡散が制限され、大きさに依存して数十分から数十時間、吐出された場所付近に留まることができる。したがって、第二の液体の任意の位置に第一のマイクロ粒子からなるパターンが配置されたパターン入り液体を生成することができる。なお、第一のマイクロ粒子の粒子構造は、特に限定されず、例えば、均一型、コアシェル型、ヤヌス型等が挙げられる。
【0020】
上記第一のマイクロ粒子は、第一の液体及び第二の液体(水でもよい)に対して不溶性又は難溶性のものであることが好ましい。これにより、第一のマイクロ粒子を第一の液体中に分散した状態にて長期間保管できるとともに、第一のマイクロ粒子を第二の液体中で長期間維持することができる。
【0021】
上記パターンを構成する上記第一のマイクロ粒子同士は、クロスリンカーで化学的に結合されていないことが好ましい。これにより、第一のマイクロ粒子からなるパターンが塊とならず、第二の液体とともに当該パターンをより容易に飲むことが可能である。
【0022】
ここで、第一のマイクロ粒子の好ましいサイズ範囲について説明する。液体中に滴下された粒子はBrown運動により拡散する。この拡散により、ある時間tでの典型的な移動距離xは、粒子の拡散係数Dから以下の式1で計算できる。
x=√(2Dt) (式1)
この拡散係数Dは、粒子の直径d、Boltzmann定数kB、絶対温度T、系を構成する液体の粘度ηを用いてStokes-Einsteinの関係(下記式2)から算出できる。
D=(kBT)/(3πηd) (式2)
直径1μmの粒子を液体に滴下した場合、粒子が滴下される液体の粘度を20℃の水相当の粘度として、拡散係数Dは4×10-13m2/sであり、典型的には1時間で50μm、24時間で260μm、各々移動する。
【0023】
液体中に置かれたマイクロ粒子が1時間に典型的に移動する量とマイクロ粒子の直径の関係性の理論値を
図1に示す。
図1は、液体中に置かれたマイクロ粒子が1時間に典型的に移動する量とマイクロ粒子の直径の関係性の理論値を示すグラフである。
図1に示されるように、粒子のサイズが大きければ、Brown運動による拡散は抑制されている。液体中に、マイクロ粒子が含有されたパターン形成用材料を用いて線幅1mmでパターンを描画した場合、線を形成するマイクロ粒子が3次元的に拡散するとして、1時間で線の太さが30%(0.3mm)以上太くなるマイクロ粒子の直径は、0.13μm以下である。例えば、直径0.13μmのマイクロ粒子を含有するパターン形成用材料で線幅が1mmの線を間隔1mmで2本並べた場合、各線の太さが各々1.3倍になったとしても、並んだ2つの線の距離は0.3mmあり、2つの線同士を識別することは可能である。すなわち、0.13μm以上の直径のマイクロ粒子を用いれば、描画1時間後も認識可能なパターンを描画することが可能である。
【0024】
以上より、上記第一のマイクロ粒子の直径は、0.13μm以上であってもよいが、0.2μm以上、1000μm以下であることが好ましい。0.2μm以上であると、第二の液体中に、線幅1mmで描かれたパターンを1時間放置しても、そのパターンを充分に維持することが可能である。1000μm以下であると、第一のマイクロ粒子を口に入れたときにざらつき感を感じないようにすることが可能であり(例えば、下記参考文献1参照)、この観点からは、100μm以下であることがより好ましい。第一のマイクロ粒子の直径は、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。
【0025】
ここで、「マイクロ粒子の直径」とは、動的光散乱法(DLS)により測定したマイクロ粒子の粒度分布の最頻径である。
【0026】
上記第二の液体の密度に対する上記第一のマイクロ粒子の密度の割合(第一のマイクロ粒子の密度/第二の液体の密度)は、0.9以上、1.1以下であり、上記第一の液体の密度に対する上記第二の液体の密度の割合(第二の液体の密度/第一の液体の密度)は、0.9以上、1.1以下であることが好ましい。これらの割合が0.9以上、1.1以下であると、第一のマイクロ粒子からなるパターンが第一の液体とともに第二の液体中で浮揚したり、沈降したりするのを抑制することができる。この観点からは、これらの割合は、各々、0.92以上、1.08以下であることがより好ましく、0.95以上、1.05以下であることがさらに好ましい。
【0027】
ここで、「密度」とは、単位体積当たりの重さを意味し、「マイクロ粒子の密度」は、種々の濃度の溶液(例えばグリセロール水溶液)中にマイクロ粒子(パターン形成用材料でもよい)を滴下し、所定の条件(例えば18,500×gで1分間)で遠心分離し、マイクロ粒子の沈降が観察されなかった溶液の密度のうち最も小さな密度に相当するものとする。この溶液と「液体の密度」については、例えば、密度計(DMA 4500 M、Anton Paar社製)により測定することが可能である。
【0028】
上記第一のマイクロ粒子は、色素、呈味成分、栄養素及び香気成分からなる群より選択される少なくとも1の成分を含むことが好ましい。第一のマイクロ粒子がこれらの添加物を含むことによって、第一のマイクロ粒子からなるパターンによって様々な空間的な感覚のデザインが可能となる。例えば、色素が含まれる場合は第一のマイクロ粒子からなるパターンによる空間的な色彩デザインが可能となり、呈味成分が含まれる場合は第一のマイクロ粒子からなるパターンによる空間的な味のデザインが可能となり、栄養素が含まれる場合は第一のマイクロ粒子からなるパターンによる空間的な栄養のデザインが可能となり、香気成分が含まれる場合は第一のマイクロ粒子からなるパターンによる空間的な香りのデザインが可能となる。色素としては、例えば、赤色色素、緑色色素、青色色素、黒色色素、白色色素等を使用してもよい。呈味成分としては、例えば、ショ糖、果糖、食塩、グルコース、アミノ酸、核酸、酢酸、リンゴ酸、クエン酸、カフェイン、タンニン、カプサイシン、グリセロール、食品抽出物等を用いることができる。栄養素としては、例えば、ビタミン、ミネラル、脂質、脂肪酸、ポリペプチド、糖質、健康素材分子、食品抽出物等を用いることができる。香気成分としては、例えば、食品衛生法施行規則 別表第一で指定されるバニリン、オイゲノール、ゲラニオール、シトラール等を含む食品用香料化合物、食品抽出物等を用いることができる。なお、第一のマイクロ粒子は、色素の有無や、含有する色素の種類が異なる(例えば色が異なる)複数種の粒子を含むものであってもよい。呈味成分、栄養素及び香気成分のそれぞれについても同様であり、第一のマイクロ粒子は、これらの添加物の有無や、含有する添加物の種類が異なる複数種の粒子を含んでいてもよい。
【0029】
上記第一のマイクロ粒子は、シリカ(二酸化シリコン)及びチタニア(二酸化チタン)の少なくとも一方を含むことが好ましい。第一のマイクロ粒子がこれらの添加物を含むことによって、白色の表現や、その他の色の発色を良くすることが可能となる。
【0030】
上記第一のマイクロ粒子は、上述の色素やシリカといった添加物をマイクロ粒子内に維持させるための疎水性物質又は親水性物質を含んでいてもよい。また、第一のマイクロ粒子は、例えば、親水性物質/疎水性物質/親水性物質や疎水性物質/親水性物質/疎水性物質の3層構造等のように、疎水性物質を含有する層と、親水性物質を含有する層とが中心から外側に向かって交互に配置された構造を有していてもよい。
【0031】
上記第一のマイクロ粒子は、第一の可食性有機物を含む。第一の可食性有機物は、第一のマイクロ粒子の粒子としての形状を形作る主成分として機能し得る物である。なお、ここで、「可食性有機物」とは、人が食べられる有機物であるが、人が消化できるか否かと、人が吸収できるか否かはいずれも特に限定されない。また、第一の可食性有機物の分子量は特に限定されないが、第一の可食性有機物は、高分子量物質であることが好ましい。
【0032】
上記第一の可食性有機物は、多糖類、ポリペプチド、高級アルコール、天然樹脂、脂質、高級脂肪酸エステル、ポリフェノール、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、及び、核酸(DNA)からなる群より選択される少なくとも1の可食性有機物であることが好ましい。なお、ここで、「多糖類」とは、複数個(2分子以上)の単糖が結合した糖を意味する。また、「ポリペプチド」とは、多数のアミノ酸がペプチド結合によって連なった化合物を意味するが、ここではタンパク質を包含するものとする。
【0033】
上記多糖類の好適な具体例としては、デキストリン、ペクチン、寒天、アガロース、グルコマンナン、ポリデキストロース、マルトデキストリン、アルギン酸(アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム等)、セルロース、ヘミセルロース、キチン、キトサン、デンプン(スターチ等)、デキストラン、アガロース、スクロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。これらは1種又は2種以上の組み合せで用いることができる。
【0034】
上記ポリペプチドの好適な具体例としては、ゼラチン、タンパク質加水分解物、コラーゲン、アルブミン等が挙げられる。これらは1種又は2種以上の組み合せで用いることができる。
【0035】
上記高級アルコールの好適な具体例としては、ドデシルアルコール、セチルアルコール等が挙げられる。これらは1種又は2種以上の組み合せで用いることができる。
【0036】
上記天然樹脂の好適な具体例としては、アラビアガム、シェラック、ワックス、リグニン、ポリ乳酸等が挙げられる。これらは1種又は2種以上の組み合せで用いることができる。
【0037】
上記脂質の好適な具体例としては、レシチン等が挙げられる。
【0038】
なお、多糖類とポリペプチド等といった異なる分類に属する上記好適な具体例についても、2種以上の組み合せで用いることができる。
【0039】
また、第一の可食性有機物の具体例として、上述の呈味成分や栄養素といった添加物の具体例と共通のものが含まれているが、これらの共通の例は、呈味成分や栄養素等の成分としても機能し得る第一の可食性有機物である。なお、本明細書にて、「可食性有機物」はいわゆる食品および食品添加物等に限定されず、医薬品、医薬部外品などであってもよく、経口摂取可能な有機物を意味する。
【0040】
上記第一のマイクロ粒子は、ヒト由来細胞、動物細胞、植物細胞、微生物細胞などの細胞であってもよい。第一のマイクロ粒子をこれらの細胞とすることよって、第一のマイクロ粒子からなるパターンに様々な生理学的機能をもたせることが可能となる。なお、これらの細胞は第一の可食性有機物を含むものである。
【0041】
上記第一のマイクロ粒子同士は、非共有結合的凝集性により凝集しており、食感あるいは触感を生じるものであってもよい。これにより、第一のマイクロ粒子からなるパターンによる空間的な食感あるいは触感のデザインが可能となる。なお、マイクロ粒子同士を非共有結合的凝集性により凝集させる方法は特に限定されず、例えば、マイクロ粒子の表面を帯電させることによって凝集させてもよい。
【0042】
第一の態様に係る製造方法において、第一のマイクロ粒子は、第二の液体中に吐出される前、第一の液体中に分散されており、位置制御可能なノズルを用いて、パターン形成用材料として、第二の液体中に吐出される。このように、第一の液体は、ノズルを用いて第一のマイクロ粒子を第二の液体中に吐出可能とするために、第一のマイクロ粒子を含有する液状のものを構成する。第一のマイクロ粒子が色素成分を含む場合(色を呈する場合)は、第一のマイクロ粒子が分散された第一の液体、すなわちパターン形成用材料は、パターン形成用インクとして機能し得る。
【0043】
上記パターン形成用材料中の第一のマイクロ粒子の体積パーセント濃度は、特に限定されないが、0.05体積%以上、50体積%以下であることが好ましく、0.1体積%以上、40体積%以下であることがより好ましく、0.5体積%以上、30体積%以下であることがさらに好ましい。
【0044】
ここで、「パターン形成用材料中の第一のマイクロ粒子の体積パーセント濃度」は、コールターカウンター法により測定することが可能である。
【0045】
なお、第二の液体中に吐出されるパターン形成用材料の種類は、特に限定されず、1種類のパターン形成用材料のみを第二の液体中に吐出してもよいし、第一のマイクロ粒子及び第一の液体の少なくとも一方が異なる2種類以上のパターン形成用材料を第二の液体中に同時に、又は順次吐出してもよい。
【0046】
第一のマイクロ粒子からなるパターンを第二の液体中で長期間維持する観点からは、第一の液体は、第二の液体と適合されたものであることが好ましく、第二の液体と同じ液体、又は第二の液体に近い液体であってもよい。以下、この点について詳述する。
【0047】
上記第一の液体と上記第二の液体の水分含有量の差の絶対値は、0%以上、50%以下であることが好ましい。水分含量に差のない液体を組み合わせることで、食感あるいは触感を変えずに味や色を変えることが可能となる。異なる水分含量の液体を組み合わせることで、食感あるいは触感を変化させることが可能となる。この両者の差の絶対値は、25%以下であることがより好ましく、15%以下であることがさらに好ましい。なお、通常では第一の液体の水分含有量の方が第二の液体の水分含有量より小さい。
【0048】
ここで、「液体の水分含有量」は、乾燥減量法により測定することが可能である。すなわち、水分を含んだ試料(ここでは液体)の重さを計測した後、その後試料を所定の温度の恒温槽に入れ水分を蒸発させ、その試料の重さの変化を計測することで水分含有量を測定できる。
【0049】
上記第一の液体の粘度と上記第二の液体の粘度は、25℃において、各々0.8mPa・s以上、6Pa・s以下であることが好ましい。この両者の粘度が25℃において各々0.8mPa・s以上、6Pa・s以下であると、第一の液体の第二の液体中への拡散を抑えやすいため、第一のマイクロ粒子からなるパターンの形状を第二の液体中でより長期間維持することができる。この観点からは、この両者の粘度は、25℃において、各々3Pa・s以下であることがより好ましく、各々1Pa・s以下であることがさらに好ましい。また、一態様において、第一の液体の粘度と第二の液体の粘度は、25℃において、各々1mPa・s以上、100mPa・s以下であることが好ましく、各々1mPa・s以上、50mPa・s以下であることがより好ましい。なお、第一の液体の粘度と第二の液体の粘度は、いずれが大きくてもよいし、実質的に同じであってもよい。
【0050】
ここで、「液体の粘度」は、密度計(例えば、DMA 4500 M、Anton Paar社製)で測定された密度と、音叉振動式粘度計(例えば、SV-10、エー・アンド・デイ社製)の値を用いて計測することが可能である。
【0051】
また、上記第一の液体及び上記第二の液体として利用可能な食品の25℃における粘度の一例を以下に示す。水1mPa・s、牛乳2~10mPa・s、醤油5~10mPa・s、果汁飲料10mPa・s、トマトジュース19mPa・s、乳酸菌飲料原液40~50mPa・s、サラダ油50~80mPa・s、メープルシロップ200mPa・s、ヨーグルト500mPa・s、中濃ソース170~800mPa・s、卵黄500~900mPa・s、トマトケチャップ2Pa・s、マヨネーズ8Pa・s、蜂蜜10~50Pa・s、水あめ100Pa・s。
【0052】
上記ノズルは、内側が空洞でかつ両端面が開口した筒体であり、第一のマイクロ粒子が第一の液体中に分散されたパターン形成用材料がノズルの基端から導入されてノズル内の空洞を流通し、ノズルの先端から吐出される。ノズルは、通常は、後述するパターン入り液体の製造システムの制御装置によって、その三次元的な位置と、ノズルの先端から吐出されるパターン形成用材料の吐出流量が制御される。なお、使用するノズルの本数は、特に限定されず、1本でも複数本であってもよい。
【0053】
上記ノズルは、多軸(例えば3軸以上、8軸以下)に自在に移動可能であることが好ましい。これにより、第一のマイクロ粒子からなるパターンとして、三次元パターンを容易に形成することができる。なお、ノズルを動かすばかりでなく、第二の液体を収容した容器も移動させることも可能である。
【0054】
上記第二の液体は、容器(例えばグラスやカップ)に収容されており、上記ノズルの長さは、少なくとも上記容器に収容された上記第二の液体の深さよりも長いことが好ましい。これにより、ノズルを用いて第二の液体中の任意の場所に第一のマイクロ粒子からなるパターンを形成することができる。
【0055】
液体中にパターンを形成する場合、ノズルにより乱流が発生し、パターンが乱される可能性がある。一般的に、乱流は、Reynolds数(Re)が小さいほど抑えやすい。1000以下に抑えられると特に有利である。このReynolds数は、速さU、長さL、動粘性係数νを用いて下記式3で定義される。
Re=(UL)/ν (式3)
ここで、20℃の水の動粘性係数ν=1×10
-6m
2/sを基に、ノズルの径をL、第二の液体中におけるノズルの速度をUとすると、Reynolds数が1000以下になるノズル径Lとノズル速度Uの関係は
図2のグレー部分になる。
図2は、液体中でノズルを動かした場合、Reynolds数が1000以下になる範囲の理論値を示す。すなわち、上記ノズルの径L(m)と、上記第二の液体中における上記ノズルの速度U(m/s)とが、U×L≦10
-3m
2/sの関係を満たすことが好ましい。これにより、ノズルによる乱流の発生を効果的に抑制でき、所望の形状のパターンを鮮明に形成することが可能である。このような観点からは、ノズルの径L(m)と、上記第二の液体中における上記ノズルの速度U(m/s)とは、U×L≦5×10
-4m
2/sの関係を満たすことがより好ましく、U×L≦10
-4m
2/sの関係を満たすことがさらに好ましい。
【0056】
なお、ここで、「ノズルの径L」とは、ノズルの先端の開口の最も長い箇所で測定される長さを意味する。例えば、ノズルの先端の開口形状が円形の場合は直径を示し、楕円の場合は長軸の長さを示し、四角形の場合は長い方の対角線の長さを示す。また、ノズルの先端の開口形状がV字形、U字形、C字形等の凹部がある形状の場合は、その形状を囲める最小の円の直径を示す。
【0057】
上記ノズルの速度U(m/s)、上記ノズルから吐出される上記パターン形成用材料の吐出流量X(m3/s)、及び、上記ノズルの先端の開口面積A(m2)が、下記式1の関係を満たす場合、描画が安定すると考えられる。ノズルに対する吐出されるパターン形成用材料の相対速度を小さくでき、ノズルによる乱流の発生を抑制できるためである。特にノズルの移動方向とパターン形成用材料の吐出方向が同じ方向であるときに下記式1の関係が成立すると非常に安定的に描画可能である。
U=X/A・・・・・・(式1)
【0058】
このように、(X/A)/U=1の関係が成立する場合が理想的ではあるが、(X/A)/Uの割合が1からある程度ずれたとしても、ノズルによる乱流の発生を効果的に抑制し、所望の形状のパターンを鮮明に形成することができる。
【0059】
具体的には、ノズルによる乱流の発生を効果的に抑制し、所望の形状のパターンを鮮明に形成するためには、上記第二の液体中における上記ノズルの速度U(m/s)に対する、上記ノズルから吐出される上記パターン形成用材料の吐出流量X(m3/s)を上記ノズルの先端の開口面積A(m2)で除算した値の割合(X/A)/U(以下、速度の割合ともいう)が、0.2以上、10以下であることも好ましく、0.3以上、8以下であることがより好ましく、0.4以上、5以下であることがさらに好ましい。この速度の割合が0.2未満又は10を超えると、Reynolds数が大きくなり、乱流の発生原因となりうる。
【0060】
上記ノズルの先端の開口形状は、特に限定されないが、上記ノズルは、円形、楕円形、三角形、長方形、正方形、菱形、V字形、U字形、又はC字形の先端を有することが好ましい。
【0061】
上記パターン形成用材料が吐出される上記第二の液体にもマイクロ粒子が分散されていてもよい。すなわち、上記第二の液体中に第二の可食性有機物を含むマイクロサイズの第二のマイクロ粒子が分散されており、上記第二のマイクロ粒子が分散された上記第二の液体中に上記パターン形成用材料を吐出してもよい。他方、上記パターン形成用材料が吐出される上記第二の液体にはマイクロ粒子が分散されていなくてもよい。このように、上記パターン形成用材料は、第二の可食性有機物を含むマイクロサイズの第二のマイクロ粒子が0体積%以上、74体積%以下で分散された第二の液体中に吐出される。
【0062】
上記第二の液体中の第二のマイクロ粒子の体積パーセント濃度は、0体積%以上、74体積%以下であれば特に限定されないが、0.1体積%以上、70体積%以下であることが好ましく、1体積%以上、60体積%以下であることがより好ましく、5体積%以上、50体積%以下であることがさらに好ましい。なお、液体中のパターン形成は、当該液体中のマイクロ粒子の濃度に影響されないため、その濃度は自由に設定することができる。同一の粒子を液体中に最も密に配置した際の構造は六方最密充填構造となり、その時の充填率はおよそ74体積%と計算することができる。そのため、第二の液体中の第二のマイクロ粒子の最大の体積パーセント濃度は74体積%となる。
【0063】
ここで、「第二の液体中の第二のマイクロ粒子の体積パーセント濃度」は、コールターカウンター法により測定することが可能である。
【0064】
上記第二のマイクロ粒子同士は、クロスリンカーで化学的に結合されていないことが好ましい。これにより、第二のマイクロ粒子が塊とならず、第二の液体とともに第二のマイクロ粒子をより容易に飲むことが可能である。
【0065】
上記第一のマイクロ粒子の場合と同様の観点から、上記第二のマイクロ粒子の直径は、0.13μm以上であってもよいが、0.2μm以上、1000μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。また、第二のマイクロ粒子の直径は、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。
【0066】
上記第一のマイクロ粒子と上記第二の液体の場合と同様に、上記第一のマイクロ粒子の密度、上記第一の液体の密度及び上記第二の液体の密度のそれぞれに対する上記第二のマイクロ粒子の密度の割合(第二のマイクロ粒子の密度/第一のマイクロ粒子の密度、第二のマイクロ粒子の密度/第一の液体の密度、及び、第二のマイクロ粒子の密度/第二の液体の密度)は、0.9以上、1.1以下であることが好ましい。また、これらの割合は、0.92以上、1.08以下であることがより好ましく、0.95以上、1.05以下であることがさらに好ましい。
【0067】
上記第二のマイクロ粒子は、色素、呈味成分、栄養素及び香気成分からなる群より選択される少なくとも1の成分を含んでもよい。これらの成分の具体例としては、第一のマイクロ粒子で挙げたものを例示することができる。なお、第二のマイクロ粒子は、色素の有無や、含有する色素の種類が異なる(例えば色が異なる)複数種の粒子を含むものであってもよい。呈味成分、栄養素及び香気成分のそれぞれについても同様であり、第二のマイクロ粒子は、これらの添加物の有無や、含有する添加物の種類が異なる複数種の粒子を含んでいてもよい。
【0068】
上記第一のマイクロ粒子の場合と同様の観点から、上記第二のマイクロ粒子は、シリカ及びチタニアの少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0069】
上記第二のマイクロ粒子は、上述の色素やシリカといった添加物をマイクロ粒子内に維持させるための疎水性物質又は親水性物質を含んでいてもよい。
【0070】
上記第二のマイクロ粒子は、第二の可食性有機物を含む。第二の可食性有機物は、第二のマイクロ粒子の粒子としての形状を形作る主成分として機能し得る物である。第二の可食性有機物の分子量は特に限定されないが、第二の可食性有機物は、高分子量物質であることが好ましい。
【0071】
上記第二の可食性有機物は、多糖類、ポリペプチド、高級アルコール、天然樹脂、脂質、高級脂肪酸エステル、ポリフェノール、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、及び、核酸(DNA)からなる群より選択される少なくとも1の可食性有機物を含むことが好ましい。これらの可食性有機物の好適な具体例としては、第一の可食性有機物で挙げたものを例示することができる。なお、第一の可食性有機物の場合と同様に、可食性有機物の好適な具体例は1種又は2種以上の組み合せで用いることができ、多糖類とポリペプチド等といった異なる分類に属する上記好適な具体例についても、2種以上の組み合せで用いることができる。また、第一のマイクロ粒子の場合と同様に、可食性有機物の具体例には、呈味成分や栄養素といった添加物の具体例と共通のものが含まれてもよく、このような共通の例は、呈味成分や栄養素等の成分としても機能し得る可食性有機物となる。
【0072】
上記第二のマイクロ粒子同士は、非共有結合的凝集性により凝集しており、食感あるいは触感を生じるものであってもよい。これにより、第二のマイクロ粒子が分散された第二の液体に食感あるいは触感を生じさせることが可能となり、第一のマイクロ粒子からなるパターンと第二のマイクロ粒子が分散された第二の液体との間で食感あるいは触感の変化を生むことができる。
【0073】
続いて、本発明の第二の態様に係るパターン入り液体の製造システム(以下、単に第二の態様に係る製造システムと言う場合がある)について説明する。なお、第一の態様に係る製造方法と共通する構成については第二の態様に係る製造システムにも適用可能であるため、以下では適宜その説明を省略する。
【0074】
第二の態様に係る製造システムは、液体中にパターンが形成されたパターン入り液体の製造システムであって、可食性有機物を含むマイクロサイズのマイクロ粒子が第一の液体中に分散されたパターン形成用材料を収容するタンクと、上記パターン形成用材料を吐出するノズルと、上記パターン形成用材料を上記ノズルに送液するポンプと、上記ノズルの位置と、上記ノズルから吐出される上記パターン形成用材料の吐出流量とを制御する制御装置と、を備えている。そのため、ポンプによりタンクからパターン形成用材料をノズルに供給し、制御装置によりノズルの位置とパターン形成用材料の吐出流量とを制御しながらノズルから第二の液体の任意の場所にパターン形成用材料を吐出させることができる。なお、パターン形成用材料の吐出流量は、ポンプ圧力の変化や、ノズル部に設置されたピエゾ素子等の圧電素子への電圧印加によるノズル内部の圧力変化により制御することができる。したがって、CAD等のソフトウェアを用いてパターンの設計を行い、その設計に基づいてノズルを制御することによってパターン入り液体を自動的に製造することができる。すなわち、色や味、香り、食感、触感等の感覚を生じ得るパターンの液体中での設計の自由度が高いパターン入り液体を製造することができる。また、マイクロ粒子からなるパターンをミクロレベルで設計することにより、本物の牛乳やコーヒーなどの環境負荷の高い飲料と同等の食感を有する低環境負荷な植物原料飲料を製造することも可能である。
【0075】
そして、上記制御装置は、上記ノズルの径L(m)と上記ノズルの速度U(m/s)とがU×L≦10-3m2/sの関係を満たすように、第二の液体中で上記ノズルを移動させながら上記ノズルから上記パターン形成用材料を吐出させる。したがって、第一の態様に係る製造方法で説明したように、ノズルによる乱流の発生を効果的に抑制でき、所望の形状のパターンを鮮明に形成することが可能である。このような観点からは、ノズルの径L(m)と、上記第二の液体中における上記ノズルの速度U(m/s)とは、U×L≦5×10-4m2/sの関係を満たすことがより好ましく、U×L≦10-4m2/sの関係を満たすことがさらに好ましい。
【0076】
第一の態様に係る製造方法の場合と同様の観点から、上記第二の液体中における上記ノズルの速度U(m/s)に対する、上記ノズルから吐出される上記パターン形成用材料の吐出流量X(m3/s)を上記ノズルの先端の開口面積A(m2)で除算した値の割合(X/A)/Uが、0.2以上、10以下であることも好ましく、0.3以上、8以下であることがより好ましく、0.4以上、5以下であることがさらに好ましい。
【0077】
上記タンクに収容されたパターン形成用材料は、送液チューブを介してノズルに供給されてもよい。タンクは、パターン形成用材料を収容できる容器であれば特に限定されない。タンクは、ポンプ及びノズルと分離して設けられてもよいし、ポンプ及びノズルと一体的に設けられてもよい。また、タンクは、パターン形成用材料の種類に応じて複数設けられてもよい。
【0078】
上記ノズルは、第一の態様に係る製造方法で説明した通りである。また、ノズルにはピエゾ素子等の圧電素子が接続されていてもよく、この圧電素子への電圧印加によりノズル内部の圧力変化を生じさせ、ノズルからのパターン形成用材料の吐出流量を制御してもよい。
【0079】
上記ポンプは、パターン形成用材料をノズルに送液可能なものであれば特に限定されず、例えば、シリンジポンプ、ペリスタポンプ等を用いることができる。
【0080】
上記制御装置は、ノズルに接続され、その位置を移動させる多軸機構(例えば3軸以上、8軸以下の機構)を備えていてもよい。これにより、多軸でノズルを制御できるため、三次元的にノズルを移動させることができる。すなわち、三次元パターンを容易に形成することができる。多軸機構としては、例えば、ガントリー型システム(例えば3軸)や、ロボットアーム(例えば8軸)を利用することができる。
【0081】
また、上記制御装置は、パターン形成用材料の吐出流量を制御するために、ポンプ圧力を制御してもよいし、ノズル部に設置された圧電素子への印加電圧を制御してもよい。
【0082】
さらに、上記制御装置は、ノズルやポンプ、多軸機構等の制御処理を行う制御処理装置を備えていてもよい。制御処理装置は、例えば、制御処理等の各種の処理を実現するためのソフトウェアプログラムと、該ソフトウェアプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)と、該CPUによって制御される各種ハードウェア(例えば記憶装置)等によって構成されている。制御処理装置の動作に必要なソフトウェアプログラム(例えば3D-CADデータを使用した制御プログラム)やデータは記憶装置に記憶される。なお、制御処理装置は、多軸機構とともにパターン入り液体を製造する場所(例えば同一店舗内)に配置されてもよいし、制御処理装置の少なくとも一部の機能に係る装置は、パターン入り液体の製造場所とは異なる場所(例えばクラウド)に分散配置されてもよい。
【0083】
第二の態様に係る製造システムは、第二の液体を収容した容器を設置可能なステージをさらに備えていてもよい。ステージは、移動可能に構成されてもよく、制御装置は、ノズルだけでなく、ステージを移動させながら、すなわち、容器に収容された第二の液体を移動させながら、ノズルからパターン形成用材料を第二の液体中に吐出してもよい。
【0084】
図3は、本発明に係る液体中にパターンを形成するパターン入り液体の製造システムの概念図である。
図3に示すパターン入り液体の製造システム100は、マイクロ粒子11が第一の液体12中に分散されたパターン形成用材料10を収容する複数のタンク110と、パターン形成用材料10を吐出するノズル120と、パターン形成用材料10をノズル120に送液するポンプ130と、制御装置140と、第二の液体20を収容した容器40が設置されるステージ150と、タンク110とポンプ130を接続する液送チューブ151と、ポンプ130とノズル120を接続する液送チューブ152と、を備えており、制御装置140がノズル120の位置と、ノズル120から吐出されるパターン形成用材料10の吐出流量と、を制御する。製造システム100によれば、第二の液体20中にマイクロ粒子11からなるパターン30を自動的に形成することができる。複数のタンク110には異なる複数種のパターン形成用材料10を収容してもよく、複数種のパターン形成用材料10をノズル120から同時に又は順次吐出してもよい。また、製造システム100は、ノズル120を複数備えてもよく、複数のノズル120から複数種のパターン形成用材料10を同時に又は順次吐出してもよい。
【0085】
図4は、本発明に係るガントリー型システムを用いたパターン入り液体の製造システムの概念図である。
図4に示すパターン入り液体の製造システム200は、マイクロ粒子(図示せず)が第一の液体(図示せず)中に分散されたパターン形成用材料(図示せず)を収容するタンク210と、パターン形成用材料を吐出するノズル220と、第二の液体20を収容した容器40が設置されるステージ250と、制御装置(図示せず)の多軸機構としてのガントリー型システム260と、を備えている。また、タンク210には、パターン形成用材料をノズル220に送液するポンプ(図示せず)と、ガントリー型システム260のx軸駆動モータ(図示せず)とが一体的に設けられている。ガントリー型システム260は、3軸の駆動機構であり、タンク210をx軸方向で移動可能に支持するx軸レール261と、x軸レール261をz軸方向で移動可能に支持するz軸レール262と、z軸レール262に支持されたx軸レール261をz軸方向に駆動するz軸駆動モータ263と、z軸レール262をy軸方向で移動可能に支持するy軸レール264と、y軸レール264に支持されたz軸レール262をy軸方向に駆動するy軸駆動モータ265と、を備えており、制御装置の制御の下、ノズル220を3軸に自由に移動可能である。制御装置は、ガントリー型システム260によりノズル220の位置を制御するとともに、ノズル220から吐出されるパターン形成用材料の吐出流量を制御する。製造システム200によっても、第二の液体20中にマイクロ粒子からなるパターン30を自動的に形成することができる。
【0086】
図5は、本発明に係るロボットアームを用いたパターン入り液体の製造システムの概念図である。
図5に示すパターン入り液体の製造システム300は、マイクロ粒子(図示せず)が第一の液体(図示せず)中に分散されたパターン形成用材料(図示せず)を収容するタンク310と、パターン形成用材料を吐出するノズル320と、制御装置(図示せず)の多軸機構としてのロボットアーム360と、を備えている。また、タンク310には、パターン形成用材料をノズル320に送液するポンプ(図示せず)が一体的に設けられている。ロボットアーム360は、例えば8軸の駆動機構であり、制御装置の制御の下、ノズル320を8軸に自由に移動可能である。制御装置は、ロボットアーム360によりノズル320の位置を制御するとともに、ノズル320から吐出されるパターン形成用材料の吐出流量を制御する。製造システム300によっても、第二の液体20中にマイクロ粒子からなるパターン30を自動的に形成することができる。
【0087】
続いて、本発明の第三の態様に係るパターン入り液体の製造方法(以下、単に第三の態様に係る製造方法と言う場合がある)について説明する。なお、第一の態様に係る製造方法と共通する構成については第三の態様に係る製造方法にも適用可能であるため、以下では適宜その説明を省略する。
【0088】
第三の態様に係る製造方法は、第一の液体を、位置制御可能なノズルを用いて、可食性有機物を含むマイクロサイズのマイクロ粒子が分散された第二の液体中に吐出し、上記第一の液体からなるパターンを形成する。
【0089】
第三の態様に係る製造方法によれば、第一の液体を、位置制御可能なノズルを用いて、可食性有機物を含むマイクロサイズのマイクロ粒子が分散された第二の液体中に吐出し、上記第一の液体からなるパターンを形成することから、場となるマイクロ粒子が分散された第二の液体中に第一の液体からなる文字や絵図等のパターンを描画し、かつその形状を維持することができる。そのため、色や味、香り、食感、触感等のパターンが自由に設計されたパターン入り液体を提供できる。例えば、第一の液体に色素や呈味物質、香気成分を含有させることで、第二の液体中でも空間的な色彩や味や香りのデザインを行うことができる。また、第一の液体の食感あるいは触感を制御することで、第二の液体中の空間的な食感あるいは触感のデザインも行うことができる。さらに、第一の液体からなるパターンをミクロレベルで設計することにより、本物の牛乳やコーヒーなどの環境負荷の高い飲料と同等の食感を有する低環境負荷な植物原料飲料を製造することも可能である。
【0090】
上記マイクロ粒子は、可食性有機物を含むマイクロサイズの粒子である。マイクロ粒子は、マイクロサイズの粒子、好ましくは後述するように直径が0.13μm以上であるため、第二の液体中に分散されたマイクロ粒子は、その大きさにより拡散が制限される。したがって、第一の液体が第二の液体中に吐出された後も、マイクロ粒子は、大きさに依存して数十分から数十時間、従前の場所付近に留まることができる。すなわち、第二の液体中に吐出された第一の液体もまた、数十分から数十時間、吐出された場所付近に留まることができる。その結果、第二の液体の任意の位置に第一の液体からなるパターンが配置されたパターン入り液体を生成することができる。
【0091】
このように、第一の態様に係る製造方法と第三の態様に係る製造方法は、マイクロ粒子を液体中に吐出するか、又はマイクロ粒子が分散された液体中に別の液体を吐出するかが違うのみであり、第一の態様に係る製造方法で説明した各特徴については、第三の態様に係る製造方法にも適宜適用することができる。例えば、第三の態様に係る製造方法は、以下の態様を取り得る。
【0092】
上記第一の液体及び第二の液体の種類は特に限定されず、液体全般が挙げられる。具体例としては、例えば、第一の態様に係る製造方法で説明したものが挙げられる。第一の液体からなるパターンを第二の液体の外から視認可能とする観点からは、第二の液体は、当該パターンが第二の液体を通して視認できる程度の透明度を有することが好ましい。同様の観点からは、第二の液体は、有色又は無色の透明であってもよい。第一の液体及び第二液体は、互いに異なる種類の液体であってもよいし、同じ種類の液体であってもよい。また、第一の液体及び第二の液体は、各々、単一種の液体であってもよいし、複数種の液体が混合又は分離したものであってもよい。
また、上記第一の液体及び第二の液体の種類は、香水や化粧水、ローションなどの皮膚化粧品であってもいい。
さらに、上記第一の液体及び第二の液体の種類は、培地や緩衝液などの細胞の生育や維持に適した液体であってもよい。
なお、第三の態様に係る製造方法では、第一の液体は、可食性有機物を含むマイクロサイズのマイクロ粒子を含む必要はない。
【0093】
また、1種類の第一の液体のみをマイクロ粒子が分散された第二の液体中に吐出してもよいし、2種類以上の第一の液体をマイクロ粒子が分散された第二の液体中に同時に、又は順次吐出してもよい。
【0094】
上記第一の液体は、色素、呈味成分、栄養素及び香気成分からなる群より選択される少なくとも1の成分を含むことが好ましい。第一の液体がこれらの添加物を含むことによって、第一の液体からなるパターンによって様々な空間的な感覚のデザインが可能となる。例えば、色素が含まれる場合は第一の液体からなるパターンによる空間的な色彩デザインが可能となり、呈味成分が含まれる場合は第一の液体からなるパターンによる空間的な味のデザインが可能となり、栄養素が含まれる場合は第一の液体からなるパターンによる空間的な栄養のデザインが可能となり、香気成分が含まれる場合は第一の液体からなるパターンによる空間的な香りのデザインが可能となる。色素としては、例えば、赤色色素、緑色色素、青色色素、黒色色素、白色色素等を使用してもよい。呈味成分としては、例えば、ショ糖、果糖、食塩、グルコース、アミノ酸、核酸、酢酸、リンゴ酸、クエン酸、カフェイン、タンニン、カプサイシン、グリセロール、食品抽出物等を用いることができる。栄養素としては、例えば、ビタミン、ミネラル、脂質、脂肪酸、ポリペプチド、糖質、健康素材分子、食品抽出物等を用いることができる。香気成分としては、例えば、食品衛生法施行規則 別表第一で指定されるバニリン、オイゲノール、ゲラニオール、シトラール等を含む食品用香料化合物、食品抽出物等を用いることができる。なお、第一の液体は、色素の有無や、含有する色素の種類が異なる(例えば色が異なる)複数種の液体を含むものであってもよい。呈味成分、栄養素及び香気成分のそれぞれについても同様であり、第一の液体は、これらの添加物の有無や、含有する添加物の種類が異なる複数種の液体を含んでいてもよい。
【0095】
上記第一の液体が色素成分を含む場合(色を呈する場合)は、第一の液体は、パターン形成用インクとして機能し得る。
【0096】
上記パターンは、一次元パターン(線)、二次元パターン(平面)及び三次元パターン(立体)のいずれであってもよい。パターンの種類は特に限定されず、例えば、文字等の記号や絵図といった色を生じるもの、成分の偏りといった味覚や食感あるいは触感を生じるもの、これらの感覚を複合的に生じるものも挙げられる。
【0097】
上記マイクロ粒子の粒子構造は、特に限定されず、例えば、均一型、コアシェル型、ヤヌス型等が挙げられる。
【0098】
上記マイクロ粒子は、第一の液体及び第二の液体(水でもよい)に対して不溶性又は難溶性のものであることが好ましい。第一の液体からなるパターンを第二の液体の外から視認可能とする観点からは、マイクロ粒子は、当該パターンが第二の液体に分散されたマイクロ粒子を通して視認できる程度の透明度を有していてもよい。同様の観点からは、マイクロ粒子は、有色又は無色の透明であってもよい。
【0099】
上記マイクロ粒子同士は、クロスリンカーで化学的に結合されていないことが好ましい。これにより、マイクロ粒子からなるパターンが塊とならず、第二の液体とともにマイクロ粒子をより容易に飲むことが可能である。
【0100】
上記マイクロ粒子の直径は、0.13μm以上であってもよいが、0.2μm以上、1000μm以下であることが好ましい。マイクロ粒子の直径は、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。
【0101】
上記第二の液体の密度に対する上記マイクロ粒子の密度の割合(マイクロ粒子の密度/第二の液体の密度)は、0.9以上、1.1以下であることが好ましい。この割合が0.9以上、1.1以下であると、マイクロ粒子が第二の液体中で浮揚したり、沈降したりするのを抑制することができるため、第二の液体中の任意の場所に第一の液体からなるパターンを形成することができる。この観点からは、この割合は、0.92以上、1.08以下であることがより好ましく、0.95以上、1.05以下であることがさらに好ましい。
【0102】
上記マイクロ粒子は、色素、呈味成分、栄養素及び香気成分からなる群より選択される少なくとも1の成分を含んでいてもよい。色素、呈味成分、栄養素及び香気成分の具体例としては、例えば、第一の態様に係る製造方法で説明したものが挙げられる。なお、マイクロ粒子は、色素の有無や、含有する色素の種類が異なる(例えば色が異なる)複数種の粒子を含むものであってもよい。呈味成分、栄養素及び香気成分のそれぞれについても同様であり、マイクロ粒子は、これらの添加物の有無や、含有する添加物の種類が異なる複数種の粒子を含んでいてもよい。
【0103】
上記マイクロ粒子は、シリカ(二酸化シリコン)及びチタニア(二酸化チタン)の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0104】
上記マイクロ粒子は、上述の色素やシリカといった添加物をマイクロ粒子内に維持させるための疎水性物質又は親水性物質を含んでいてもよい。また、マイクロ粒子は、例えば、親水性物質/疎水性物質/親水性物質や疎水性物質/親水性物質/疎水性物質の3層構造等のように、疎水性物質を含有する層と、親水性物質を含有する層とが中心から外側に向かって交互に配置された構造を有していてもよい。
【0105】
上記マイクロ粒子は、可食性有機物を含む。可食性有機物は、マイクロ粒子の粒子としての形状を形作る主成分として機能し得る物である。可食性有機物の分子量は特に限定されないが、可食性有機物は、高分子量物質であることが好ましい。
【0106】
上記可食性有機物は、多糖類、ポリペプチド、高級アルコール、天然樹脂、脂質、高級脂肪酸エステル、ポリフェノール、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、及び、核酸(DNA)からなる群より選択される少なくとも1の可食性有機物であることが好ましい。これらの可食性有機物の好適な具体例としては、第一の態様に係る製造方法における第一の可食性有機物で挙げたものを例示することができる。なお、第一の態様に係る製造方法における場合と同様に、可食性有機物の好適な具体例は1種又は2種以上の組み合せで用いることができ、多糖類とポリペプチド等といった異なる分類に属する上記好適な具体例についても、2種以上の組み合せで用いることができる。
【0107】
上記マイクロ粒子は、ヒト由来細胞、動物細胞、植物細胞、微生物細胞などの細胞であってもよい。マイクロ粒子をこれらの細胞とすることよって、マイクロ粒子が分散された第二の液体に様々な生理学的機能をもたせることが可能となる。なお、これらの細胞は可食性有機物を含むものである。
【0108】
上記マイクロ粒子同士は、非共有結合的凝集性により凝集しており、食感あるいは触感を生じるものであってもよい。
【0109】
上記第二の液体中のマイクロ粒子の体積パーセント濃度は、特に限定されないが、0.05体積%以上、74体積%以下であることが好ましく、0.1体積%以上、60体積%以下であることがより好ましく、0.5体積%以上、50体積%以下であることがさらに好ましい。
【0110】
ここで、「第二の液体中のマイクロ粒子の体積パーセント濃度」は、コールターカウンター法により測定することが可能である。
【0111】
第一の態様に係る製造方法における場合と同様に、第一の液体からなるパターンを第二の液体中で長期間維持する観点からは、第一の液体は、第二の液体と適合されたものであることが好ましく、第二の液体と同じ液体、又は第二の液体に近い液体であってもよい。
【0112】
上記第一の液体の密度に対する上記第二の液体の密度の割合(第二の液体の密度/第一の液体の密度)は、0.9以上、1.1以下であることが好ましい。この割合が0.9以上、1.1以下であると、第一の液体からなるパターンが第二の液体中で浮揚したり、沈降したりするのを抑制することができる。この観点からは、この割合は、0.92以上、1.08以下であることがより好ましく、0.95以上、1.05以下であることがさらに好ましい。
【0113】
上記第一の液体と上記第二の液体の水分含有量の差の絶対値は、0%以上、50%以下であることが好ましい。この両者の差の絶対値は、25%以下であることがより好ましく、15%以下であることがさらに好ましい。なお、通常では第一の液体の水分含有量の方が第二の液体の水分含有量より大きい。
【0114】
上記第一の液体の粘度及び上記第二の液体の粘度は、25℃において、各々0.8mPa・s以上、6Pa・s以下であることが好ましい。この両者の粘度が25℃において各々0.8mPa・s以上、6Pa・s以下であると、第一の液体の第二の液体中への拡散を抑えやすいため、第一の液体からなるパターンの形状を第二の液体中でより長期間維持することができる。この観点からは、この両者の粘度は、25℃において、各々3Pa・s以下であることがより好ましく、各々1Pa・s以下であることがさらに好ましい。また、一態様において、第一の液体の粘度と第二の液体の粘度は、25℃において、各々1mPa・s以上、100mPa・s以下であることが好ましく、各々1mPa・s以上、50mPa・s以下であることがより好ましい。なお、第一の液体の粘度と第二の液体の粘度は、いずれが大きくてもよいし、実質的に同じであってもよい。
【0115】
上記ノズルは、内側が空洞でかつ両端面が開口した筒体であり、第一の液体がノズルの基端から導入されてノズル内の空洞を流通し、ノズルの先端から吐出される。ノズルは、通常は、後述するパターン入り液体の製造システムの制御装置によって、その三次元的な位置と、ノズルの先端から吐出される第一の液体の吐出流量が制御される。なお、使用するノズルの本数は、特に限定されず、1本でも複数本であってもよい。
【0116】
上記ノズルは、多軸(例えば3軸以上、8軸以下)に自在に移動可能であることが好ましい。なお、ノズルを動かすばかりでなく、第二の液体を収容した容器も移動させることも可能である。
【0117】
上記第二の液体は、容器(例えばグラスやカップ)に収容されており、上記ノズルの長さは、少なくとも上記容器に収容された上記第二の液体の深さよりも長いことが好ましい。
【0118】
上記ノズルの径L(m)と、上記第二の液体中における上記ノズルの速度U(m/s)とは、U×L≦10-3m2/sの関係を満たすことが好ましく、U×L≦5×10-4m2/sの関係を満たすことがより好ましく、U×L≦10-4m2/sの関係を満たすことがさらに好ましい。
【0119】
上記第二の液体中における上記ノズルの速度U(m/s)に対する、上記ノズルから吐出される上記第一の液体の吐出流量X(m3/s)を上記ノズルの先端の開口面積A(m2)で除算した値の割合(X/A)/Uが、0.2以上、10以下であることが好ましく、0.3以上、8以下であることがより好ましく、0.4以上、5以下であることがさらに好ましい。
【0120】
上記ノズルの先端の開口形状は、特に限定されないが、上記ノズルは、円形、楕円形、三角形、長方形、正方形、菱形、V字形、U字形、又はC字形の先端を有することが好ましい。
【0121】
次に、本発明の第四の態様に係るパターン入り液体の製造システム(以下、単に第四の態様に係る製造システムと言う場合がある)について説明する。なお、上述の態様に係る製造方法や製造システムと共通する構成については第四の態様に係る製造システムにも適用可能であるため、以下では適宜その説明を省略する。
【0122】
第四の態様に係る製造システムは、液体中にパターンが形成されたパターン入り液体の製造システムであって、第一の液体を収容するタンクと、上記第一の液体を吐出するノズルと、上記第一の液体を上記ノズルに送液するポンプと、上記ノズルの位置と、上記ノズルから吐出される上記第一の液体の吐出流量とを制御する制御装置と、を備え、上記制御装置は、可食性有機物を含むマイクロサイズのマイクロ粒子が分散された第二の液体中で上記ノズルを移動させながら上記ノズルから上記第一の液体を吐出させる。そのため、ポンプによりタンクから第一の液体をノズルに供給し、制御装置によりノズルの位置と第一の液体の吐出流量とを制御しながらノズルからマイクロ粒子が分散された第二の液体の任意の場所に第一の液体を吐出させることができる。なお、第一の液体の吐出流量は、ポンプ圧力の変化や、ノズル部に設置されたピエゾ素子等の圧電素子への電圧印加によるノズル内部の圧力変化により制御することができる。したがって、CAD等のソフトウェアを用いてパターンの設計を行い、その設計に基づいてノズルを制御することによってパターン入り液体を自動的に製造することができる。すなわち、色や味、香り、食感、触感等の感覚を生じ得るパターンの液体中での設計の自由度が高いパターン入り液体を製造することができる。また、第一の液体からなるパターンをミクロレベルで設計することにより、本物の牛乳やコーヒーなどの環境負荷の高い飲料と同等の食感を有する低環境負荷な植物原料飲料を製造することも可能である。
【0123】
そして、上記制御装置は、上記ノズルの径L(m)と上記ノズルの速度U(m/s)とがU×L≦10-3m2/sの関係を満たすように、上記第二の液体中で上記ノズルを移動させながら上記ノズルから上記第一の液体を吐出させる。したがって、第一の態様に係る製造方法で説明したように、ノズルによる乱流の発生を効果的に抑制でき、所望の形状のパターンを鮮明に形成することが可能である。このような観点からは、ノズルの径L(m)と、上記第二の液体中における上記ノズルの速度U(m/s)とは、U×L≦5×10-4m2/sの関係を満たすことがより好ましく、U×L≦10-4m2/sの関係を満たすことがさらに好ましい。
【0124】
第一の態様に係る製造方法の場合と同様の観点から、上記第二の液体中における上記ノズルの速度U(m/s)に対する、上記ノズルから吐出される上記第一の液体の吐出流量X(m3/s)を上記ノズルの先端の開口面積A(m2)で除算した値の割合(X/A)/Uが、0.2以上、10以下であることも好ましく、0.3以上、8以下であることがより好ましく、0.4以上、5以下であることがさらに好ましい。
【0125】
上記タンクに収容された第一の液体は、送液チューブを介してノズルに供給されてもよい。タンクは、第一の液体を収容できる容器であれば特に限定されない。タンクは、ポンプ及びノズルと分離して設けられてもよいし、ポンプ及びノズルと一体的に設けられてもよい。また、タンクは、第一の液体の種類に応じて複数設けられてもよい。
【0126】
上記ノズルは、第三の態様に係る製造方法で説明した通りである。ノズルにはピエゾ素子等の圧電素子が接続されていてもよく、この圧電素子への電圧印加によりノズル内部の圧力変化を生じさせ、ノズルからの第一の液体の吐出流量を制御してもよい。
【0127】
上記ポンプは、第一の液体をノズルに送液可能なものであれば特に限定されず、例えば、シリンジポンプ、ペリスタポンプ等を用いることができる。
【0128】
上記制御装置は、ノズルに接続され、その位置を移動させる多軸機構(例えば3軸以上、8軸以下の機構)を備えていてもよい。多軸機構としては、例えば、ガントリー型システム(例えば3軸)や、ロボットアーム(例えば8軸)を利用することができる。
【0129】
また、上記制御装置は、第一の液体の吐出流量を制御するために、ポンプ圧力を制御してもよいし、ノズル部に設置された圧電素子への印加電圧を制御してもよい。
【0130】
さらに、上記制御装置は、ノズルやポンプ、多軸機構等の制御処理を行う制御処理装置を備えていてもよい。制御処理装置は、例えば、制御処理等の各種の処理を実現するためのソフトウェアプログラムと、該ソフトウェアプログラムを実行するCPUと、該CPUによって制御される各種ハードウェア(例えば記憶装置)等によって構成されている。制御処理装置の動作に必要なソフトウェアプログラム(例えば3D-CADデータを使用した制御プログラム)やデータは記憶装置に記憶される。なお、制御処理装置は、多軸機構とともにパターン入り液体を製造する場所(例えば同一店舗内)に配置されてもよいし、制御処理装置の少なくとも一部の機能に係る装置は、パターン入り液体の製造場所とは異なる場所(例えばクラウド)に分散配置されてもよい。
【0131】
第四の態様に係る製造システムは、第二の液体を収容した容器を設置可能なステージをさらに備えていてもよい。ステージは、移動可能に構成されてもよく、制御装置は、ノズルだけでなく、ステージを移動させながら、すなわち、容器に収容された第二の液体を移動させながら、ノズルから第一の液体を第二の液体中に吐出してもよい。
【0132】
第四の態様に係る製造システムとして、例えば、
図3~
図5で示したパターン入り液体の製造システムを適用することが可能である。
【0133】
以上、マイクロサイズのマイクロ粒子を用いてパターン入り液体、例えばパターン入り飲料を製造する態様について説明したが、本発明は、飲料の製品だけでなく例えば化粧品の製造にも適用可能である。
【0134】
すなわち、本発明の他の態様に係るパターン入り化粧品の製造方法は、例えば、マイクロサイズの第一のマイクロ粒子が第一の液体中に分散されたパターン形成用材料を、位置制御可能なノズルを用いて、第二の液体中に吐出し、上記第一のマイクロ粒子からなるパターンを形成する。
【0135】
また、本発明のさらに他の態様に係るパターン入り化粧品の製造方法は、例えば、第一の液体を、位置制御可能なノズルを用いて、マイクロサイズのマイクロ粒子が分散された第二の液体中に吐出し、上記第一の溶液からなるパターンを形成する。
【0136】
なお、上記態様に係るパターン入りの液体の製造方法で説明したマイクロ粒子や液体の各特徴については、これらの態様に係るパターン入り化粧品の製造方法やパターン入り飲料の製造方法にも適宜適用することができる。
【0137】
また、これらの態様に係るパターン入り化粧品の製造方法におけるマイクロ粒子や液体には、化粧品として一般的に利用可能な材料を用いることができる。
【0138】
以下、本発明を検証実験に基づいてより具体的に説明する。なお、以下の検証実験には可食性ではない有機物を含むマイクロサイズのマイクロ粒子を用いた実験が含まれているが、液体中におけるマイクロ粒子の挙動は、可食性か否かに関わらないため、以下の結果は可食性有機物を含むマイクロサイズのマイクロ粒子を用いた場合にも同様に得られると考えられる。また、本発明はこれらの検証実験に限定されるものではない。
【0139】
<検証実験1>
光学顕微鏡を用いて、マイクロ粒子の形状を確認した。はじめに、濃度2.4体積%、直径1μmのポリスチレン製マイクロ粒子の水懸濁液(Polystyrene Red Dyed Microsphere 1.00μm、Polysciences社製)を18,500×gで1分間、遠心分離することで濃縮し、10体積%マイクロ粒子懸濁液とした。その懸濁液を、対物40倍レンズを用いた光学顕微鏡(ECLIPSE N、ニコン社製)と冷却CCDカメラ(Orca-Flash 2.8、浜松ホトニクス社製)で明視野観察した。
図6は、検証実験1における10体積%マイクロ粒子懸濁液の光学顕微鏡写真である。その結果、
図6に示すように、マイクロサイズのマイクロ粒子として、良好に分散した直径1μmの球形の構造物を確認することができた。
【0140】
<検証実験2>
マイクロ粒子と同等の密度を持つ溶液中でのマイクロ粒子の移動を調べた。はじめに、直径1μmのポリスチレン製マイクロ粒子の水懸濁液(Polystyrene Red Dyed Microsphere 1.00μm、Polysciences社製)を、終濃度0.005体積%(9.1×107個/mL)となるように各種濃度のグリセロール水溶液と混合し、18,500×gで1分間遠心分離した。その結果、20体積%よりも薄い濃度のグリセロール水溶液ではマイクロ粒子の沈降が観察され、上記マイクロ粒子の密度は20体積%グリセロール水溶液(1.06g/cm3)と同等であると考えられた。なお、溶液の密度は密度計(DMA 4500 M、Anton Paar社製)で測定された。
【0141】
そこで、上記マイクロ粒子の水懸濁液を20体積%グリセロール水溶液に0.5体積%(9.1×10
9個/mL)となるように分散させて懸濁した。そして、そのマイクロ粒子懸濁液(以下、マイクロ粒子液A1という場合がある)0.5μLを1.5mLの20体積%グリセロール水溶液中に滴下、室温で放置し、マイクロ粒子の拡散を観察した。
図7は、検証実験2において20体積%グリセロール水溶液中に直径1μmのマイクロ粒子懸濁液を滴下した写真である。その結果、
図7に示すように、4時間放置した後も、マイクロ粒子の拡散は軽微であり、マイクロ粒子懸濁液をパターン形成用材料(例えばインク)として用いて溶液中にパターン(例えば像)が形成できることが示唆された。
【0142】
<検証実験3>
検証実験2で調整されたマイクロ粒子液A1を用いて、その滴下量によるマイクロ粒子液の拡散量の依存性を調べた。このマイクロ粒子液0.5μLから10μLを各々1.5mLの20体積%グリセロール水溶液中に滴下、室温で放置し、マイクロ粒子の拡散を動画撮影した。その動画中で観察されたマイクロ粒子液A1が占める面積を画像処理ソフトウェア(ImageJ(NIH))で、解析対象の画像を閾値129で二値化し、ピクセル数を算出することで求めた。このとき各条件でマイクロ粒子液A1が占める面積は、測定開始時のマイクロ粒子濃度0.5体積%、滴下量0.5μLの面積を1として算出した。
図8は、検証実験3において20体積%グリセロール水溶液中に直径1μmのマイクロ粒子懸濁液を様々な液量で滴下したときにその拡散を示すグラフである。
図9は、検証実験3において20体積%グリセロール水溶液中に直径1μmのマイクロ粒子懸濁液を濃度0.5体積%、0.5μL液量で滴下し、4時間放置した際の拡散を示すグラフである。その結果、
図8に示すように、30分間放置後の各条件での面積の増加は最大でも初期値の7%以下であり、
図9に示すように、0.5μL滴下されたサンプルは4時間での面積増加は初期値の3%以下であった。この結果から、マイクロ粒子で形成された像は、用いられたマイクロ粒子懸濁液量にほとんど依存せず、マイクロ粒子を用いて溶液中にパターン(例えば像)を安定的に形成できることが分かった。
【0143】
<検証実験4>
異なる粒径かつ濃度のマイクロ粒子のパターン形成用材料(インク)を用いた像の形成を試みた。はじめに、直径0.2μmのポリスチレン製マイクロ粒子の水懸濁液(Polystyrene Red Dyed Microsphere 0.20μm、Polysciences社製)を、終濃度0.005体積%(9.1×107個/mL)となるように各種濃度のグリセロール水溶液と混合し、18,500×gで1分間遠心分離した。その結果、20体積%よりも薄い濃度のグリセロール水溶液ではマイクロ粒子の沈降が観察され、上記マイクロ粒子の密度は20体積%グリセロール水溶液(1.06g/cm3)と同等であると考えられた。なお、溶液の密度は密度計(DMA 4500 M、Anton Paar社製)で測定された。
【0144】
続いて、直径0.2μmの上記マイクロ粒子の水懸濁液を20体積%グリセロール水溶液に分散させて懸濁し、1体積%(2.2×10
12個/mL)のマイクロ粒子懸濁液(以下、マイクロ粒子液A2という場合がある)を調整した。そのマイクロ粒子液1μLを1.5mLの20体積%グリセロール水溶液中に滴下、室温で放置し、マイクロ粒子の拡散を動画撮影した。得られた動画中のマイクロ粒子液A2が占める面積を画像処理ソフトウェア(ImageJ(NIH))で、解析対象の画像を閾値129で二値化し、ピクセル数を算出することで求めた。このとき各条件でマイクロ粒子液A2が占める面積は、測定開始時のマイクロ粒子液を滴下して得られた面積を1として算出した。
図10は、検証実験4において20体積%グリセロール水溶液中に直径0.2μmのマイクロ粒子懸濁液を滴下したときにその拡散を示すグラフである。その結果、
図10に示すように、150分後も粒子は浮遊を維持しており、その面積は共に各初期値の14%程度であった。この結果から、直径0.2μmの小さいマイクロ粒子で形成されたパターン(例えば像)も溶液中で数時間安定的に形成されることが分かった。
【0145】
<検証実験5>
マイクロ粒子のインクを用いた像の形成を試みた。20体積%グリセロール水溶液に5体積%(9.1×10
10個/mL)となるように直径1μmのポリスチレン製マイクロ粒子の水懸濁液(Polystyrene Red Dyed Microsphere 1.00μm、Polysciences社製)を分散させて懸濁し、マイクロ粒子懸濁液を調整した。そして、そのマイクロ粒子懸濁液を用いて20体積%グリセロール水溶液中の3つのエリアを塗りつぶした。
図11は、検証実験5において20体積%グリセロール水溶液中に直径1μmのマイクロ粒子懸濁液で像を構築した写真である。
図11に示すように、マイクロ粒子懸濁液は10分後も像を維持しており、マイクロ粒子懸濁液で像を溶液中に安定的に形成できることが分かった。
【0146】
<検証実験6>
異なる粒径かつ濃度のマイクロ粒子のパターン形成用材料(インク)を用いた像の形成を試みた。はじめに、直径45μmあるいは直径90μmのポリスチレン製マイクロ粒子の水懸濁液(Fluoresbrite Plain Microspheres 45μm YG、Polysciences社製、あるいは、Fluoresbrite Plain Microspheres 90μm YG、Polysciences社製)を、終濃度1.4体積%(45μm;3.0×105個/mL、90μm;3.8×104個/mL)となるように各種濃度のグリセロール水溶液と混合し、18,500×gで1分間遠心分離した。その結果、20体積%よりも薄い濃度のグリセロール水溶液ではマイクロ粒子の沈降が観察され、上記マイクロ粒子の密度は20体積%グリセロール水溶液(1.06g/cm3)と同等であると考えられた。なお、溶液の密度は密度計(DMA 4500 M、Anton Paar社製)で測定された。
【0147】
続いて、直径45μmあるいは直径90μmの上記マイクロ粒子の水懸濁液を20体積%グリセロール水溶液に分散させて懸濁し、1.4体積%(45μm;3.0×10
5個/mL、90μm;3.8×10
4個/mL)のマイクロ粒子懸濁液(以下、マイクロ粒子液A3あるいはマイクロ粒子液A4という場合がある)を調整した。そのマイクロ粒子液1μLを1.5mLの20体積%グリセロール水溶液中に滴下、室温で放置し、マイクロ粒子の拡散を動画撮影した。得られた動画中のマイクロ粒子液A3あるいはマイクロ粒子液A4が占める面積を画像処理ソフトウェア(ImageJ(NIH))で、解析対象の画像を閾値129で二値化し、ピクセル数を算出することで求めた。このときマイクロ粒子液A3あるいはマイクロ粒子液A4が占める面積は、測定開始時のマイクロ粒子液を滴下して得られた面積を1として算出した。
図12は、検証実験6において20体積%グリセロール水溶液中に直径45μmあるいは直径90μmのマイクロ粒子懸濁液を滴下し、4時間放置した際の拡散を示すグラフである。その結果、
図12に示すように、4時間後も粒子は浮遊を維持しており、その面積は共に各初期値の10%程度であった。この結果から、直径45μmあるいは直径90μmの大きいマイクロ粒子で形成されたパターン(例えば像)も溶液中で数時間安定的に形成されることが分かった。
【0148】
<比較検証実験1>
低分子を滴下した場合では、像が維持されないことを確認した。20体積%グリセロール水溶液1.5mLに、同じ密度となるように調整された1重量%ウラニン(CAS登録番号518-47-8、分子量376)水溶液1μLを滴下した。
図13は、20体積%グリセロール水溶液中に1重量%のウラニン溶液を滴下した写真である。その結果、
図13に示すように、滴下直後は浮遊していたものの、30秒以内にすみやかに分散、移動する様子が観察された。このことから低分子の溶液では、液中に像を形成させることが難しいことが分かった。
【0149】
<検証実験7>
可食性の素材(可食性有機物)であるアガロースからなるマイクロ粒子のパターン形成用材料(インク)を用いた像の形成を試みた。なお、本検証実験は、本発明の実施例に相当する。はじめに、直径90μmのアガロース製マイクロ粒子(密度1.05g/cm3)の20%エタノール懸濁液(Blocked agarose beads (binding control)、Chromotek社製)の溶媒を置換するために、そのアガロース製マイクロ粒子懸濁液100μLを、20体積%グリセロール水溶液1mLに加え、2,000×gで10秒間遠心分離した。沈殿を20体積%グリセロール水溶液1mLに再懸濁し、そして2,000×gで10秒間遠心分離する操作を2回繰り返した。最後に沈殿を20体積%グリセロール水溶液100μLに再懸濁し、直径90μmのアガロース製マイクロ粒子の懸濁液(以下、マイクロ粒子液E1という場合がある)を得た。
【0150】
続いて、光学顕微鏡を用いて、そのアガロース製マイクロ粒子の形状を確認した。マイクロ粒子液E1を、対物10倍レンズを用いた光学顕微鏡(ECLIPSE N、ニコン社製)と冷却CCDカメラ(Orca-Flash 2.8、浜松ホトニクス社製)で明視野観察した。
図14は、検証実験7におけるアガロース製マイクロ粒子懸濁液の光学顕微鏡写真である。その結果、
図14に示すように、マイクロサイズのマイクロ粒子として、良好に分散した直径90μmの球形の構造物を確認することができた。
【0151】
続いて、上記マイクロ粒子液E1を用いて、その滴下量による可食性マイクロ粒子液の拡散量の依存性を調べた。このマイクロ粒子液1μLから10μLを各々5mLの20体積%グリセロール水溶液中に滴下、室温で放置し、マイクロ粒子の拡散を上部から画像撮影した。この画像観察されたマイクロ粒子液E1の直径を計測し、計測した直径からマイクロ粒子液E1が占める面積を算出した。このとき各マイクロ粒子液E1が占める面積は、測定開始時のマイクロ粒子液1μLを滴下して得られた面積を1として算出した。
【0152】
図15は、検証実験7において20体積%グリセロール水溶液中に直径90μmのアガロース製マイクロ粒子懸濁液を滴下し、4時間放置した際の拡散を示すグラフである。その結果、
図15に示すように、4時間でのその面積の増加は最大でも初期値の10%程度であった。この結果から、直径90μmの可食性マイクロ粒子で形成されたパターン(例えば像)も溶液中で数時間安定的に形成されることが分かった。
【0153】
<比較検証実験2>
低分子を滴下した場合では、像が維持されないことを検証実験7と同じ計測系で確認した。20体積%グリセロール水溶液5mLに、1重量%ウラニン(CAS登録番号518-47-8、分子量376)溶液(20体積%グリセロール水溶液に懸濁したもの)5μLを滴下した。
図16は、20体積%グリセロール水溶液中に1重量%のウラニン溶液を滴下し、3分間放置した際の拡散を示すグラフである。その結果、
図16に示すように、滴下直後からすみやかに分散し、3分後には初期面積の5倍以上に拡散していることが確認された。このことから低分子の溶液では、液中に像を形成させることが難しいことが分かった。
【0154】
<検証実験8>
ノズルの径Lと、液体中におけるノズルの速度UとがU×L≦10-3m2/s以下で良好な像を描けることを検証した。
【0155】
まず、ノズルの速度Uと吐出流量を制御するために、アクチュエーター(EC-DS3M-150-1-MOT、IAI社製、Japan)とポンプ(QI-5-6R-UP-S、タクミナ社製、Japan)を組み合わせて吐出装置を構築した。ノズルには、外径1mmかつ開口直径(すなわちノズルの径L)0.2mm品(PTFEニードルTNー0.2-25、岩下エンジニアリング社製)と外径5mmかつ開口直径(すなわちノズルの径L)2mm品(外径5mm、内径2mmのステンレスチューブを切断して作製)を用いた。
【0156】
そして、直径1μmのポリスチレン製マイクロ粒子の水懸濁液(Polystyrene Red Dyed Microsphere 1.00μm、Polysciences社製)を、終濃度0.2体積%となるように終濃度20体積%のグリセロール水溶液に懸濁し、インクとした。
【0157】
また、細いノズルを用いた時の描画対象の水溶液として、0.5重量%カルボキシメチルセルロースを含む20体積%グリセロール水溶液を用いた。この描画対象の水溶液の25℃における粘度は、密度計(DMA 4500 M、Anton Paar社製)で測定された密度と、音叉振動式粘度計(SV-10、エー・アンド・デイ社製)の値を用いて評価した所、17mPa・sであり、トマトジュースと同等であった。
【0158】
また、太いノズルを用いた時の描画対象の水溶液として、1重量%カルボキシメチルセルロースを含む20体積%グリセロール水溶液を用いた。この描画対象の水溶液の25℃における粘度は、密度計(DMA 4500 M、Anton Paar社製)で測定された密度と、音叉振動式粘度計SV-10(エー・アンド・デイ社製)の値を用いて評価した所、58mPa・sであり、サラダオイルと同等であった。
【0159】
ノズルの径Lとノズルの速度Uの積(U×L)が0.03×10-3m2/sから1.3×10-3m2/sとなるようにノズルを選択、様々なノズル速度で動かし、水溶液中にインクを吐出して線を描画した。
【0160】
得られた線をiPhone(登録商標) SE(Apple社製)でビデオ撮影し、目視で、描画された線長40mm当たりでの直線からのゆがみを評価した。具体的には、水溶液中に直線を書いた場合、条件によっては描画操作によって発生する乱流に起因して線が波状にゆがむ。その波の振幅の最大長さを画像処理ソフトウェア(ImageJ(NIH))で測定し、その値を線の長さ40mmで割った値を変化率(線の変位)とした。
【0161】
図17は、検証実験8において0.5重量%又は1重量%のカルボキシメチルセルロースを含む20体積%グリセロール水溶液中に、直径1μmのマイクロ粒子を濃度0.2体積%で含む懸濁液を様々なノズル径、移動速度及び吐出流量で吐出し、長さ40mmの線を描画した際の線のずれを評価した結果を示すグラフである。なお、
図17中、四角のプロットは、細いノズルを用いたときの結果を示し、円のプロットは、太いノズルを用いたときの結果を示す。その結果、
図17に示すように、U×Lが大きくなるほど、変化率が大きくなったが、0.7×10
-3m
2/sでは変化率は10%以下であり、水溶液中に直線を描けていた。また、10
-3m
2/sでも変化率はほぼ10%であり、水溶液中に直線を描けていた。一方、これは描画対象の水溶液の粘度を上げることでさらに改善することが期待される。すなわち、U×L≦10
-3m
2/s以下で良好な像が得られることが分かった。
【0162】
<検証実験9>
ノズルの速度Uに対する、ノズルから吐出されるパターン形成用材料の吐出流量Xをノズルの先端の開口面積Aで除算した値の割合((X/A)/U、速度の割合)を評価した。
【0163】
検証装置、インク及び描画対象の水溶液は検証実験8と同じものを用いた。また、ノズルは外径1mm、内径0.2mm品(PTFEニードルTNー0.2-25、岩下エンジニアリング社製)を使用した。ノズルの速度Uは102mm/sとした。すなわち、
ノズルの速度U(m/s)=102×10-3m/s
ノズルの開口面積A(m2)=0.031×10-6m2
とすると、上記式1、すなわちU=X/Aを満たす吐出流量Xは、
吐出流量X(m3/s)=U×A=3.2×10-9m3/s=3.2μL/s=192μL/min
となり、このXが本検証実験で最も安定な、すなわち計算上最も好ましい吐出流量と考えられる。
【0164】
また、ここではノズルの速度Uとノズルの開口面積Aとは固定しているので、吐出流量Xを変化させることで、速度の割合(X/A)/Uを変化させた。具体的には、本検証実験で最も安定な吐出流量192μL/minを1として、吐出流量を10倍(1916μL/min)まで増やした場合と0.2倍(38μL/min)まで減らした場合の実験を行った。すなわち、様々な吐出流量38μL/minから1916μL/minの範囲で線を描画した。
【0165】
そして得られた線のゆがみ(変化率)を検証実験8と同じ方法で評価した。すなわち、吐出流量192μL/minを1として、吐出流量と得られる線のゆがみの関係を評価した。
【0166】
図18は、検証実験9において0.5重量%のカルボキシメチルセルロースを20体積%グリセロール水溶液中に、直径1μmのマイクロ粒子を濃度0.2体積%で含む懸濁液を様々な吐出流量で吐出し、長さ40mmの線を描画した際の線のずれを評価した結果を示すグラフである。その結果、
図18に示すように、0.2から10の範囲で得られる線のゆがみ(変化率)は10%以下であり、良好に描画できることが分かった。
【0167】
この結果から、ノズルの速度Uに対する、ノズルから吐出されるパターン形成用材料の吐出流量Xをノズルの先端の開口面積Aで除算した値の割合((X/A)/U、速度の割合)は0.2から10で良好な線が描画できることが分かった。
【0168】
<参考文献>
(参考文献1)八戸工業大学紀要、2007年、第26巻、p.9-13
【符号の説明】
【0169】
10 パターン形成用材料
11 マイクロ粒子
12 第一の液体
20 第二の液体
30 パターン
40 容器
100、200、300 パターン入り液体の製造システム
110、210、310 タンク
120、220、320 ノズル
130 ポンプ
140 制御装置
150、250 ステージ
151、152 液送チューブ
260 ガントリー型システム
261 x軸レール
262 z軸レール
263 z軸駆動モータ
264 y軸レール
265 y軸駆動モータ
360 ロボットアーム