(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】鞍乗型車両
(51)【国際特許分類】
F02D 29/02 20060101AFI20241029BHJP
F02D 17/00 20060101ALI20241029BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
F02D29/02 321A
F02D17/00 Q
F02D29/00 F
(21)【出願番号】P 2023550920
(86)(22)【出願日】2021-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2021036164
(87)【国際公開番号】W WO2023053354
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚田 善昭
(72)【発明者】
【氏名】古谷 昌志
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】石川 潤
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼▲崎▼ 篤志
(72)【発明者】
【氏名】安達 惇
(72)【発明者】
【氏名】福吉 康弘
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-72427(JP,A)
【文献】特開2006-194141(JP,A)
【文献】特開2006-46214(JP,A)
【文献】特開2013-11180(JP,A)
【文献】特開2001-55939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/00
F02D 17/00
F02D 45/00
B60W 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンの回転を変速して駆動輪に伝達するマニュアル式の変速機と、
車両状態についての第1の条件が成立すると前記エンジンを自動停止するアイドルストップ制御を行うアイドルストップ制御手段と、を備えた鞍乗型車両であって、
前記鞍乗型車両が渋滞路を走行中であるか否かを判断する判断手段を備え、
前記アイドルストップ制御手段は、前記第1の条件が成立している場合において、前記判断手段により前記鞍乗型車両が渋滞路を走行中であると判断されたときは、前記変速機がニュートラルであれば前記エンジンを自動停止する一方、前記変速機がインギヤであれば前記エンジンを自動停止しない、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
【請求項2】
請求項1に記載の鞍乗型車両であって、
ライダのブレーキ操作を検出する検出手段をさらに備え、
前記アイドルストップ制御手段は、前記渋滞路を走行中かつ前記変速機がインギヤであることにより前記エンジンの自動停止が行われていない場合において、前記ブレーキ操作の継続時間が第1の閾値以上となったときは、前記エンジンを自動停止する、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
【請求項3】
請求項1に記載の鞍乗型車両であって、
ライダのブレーキ操作を検出する検出手段をさらに備え、
前記アイドルストップ制御手段は、前記渋滞路を走行中かつ前記変速機がインギヤであることにより前記エンジンの自動停止が行われていない場合において、前記ブレーキ操作が複数回行われたときは、前記エンジンを自動停止する、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の鞍乗型車両であって、
前記アイドルストップ制御手段は、前記渋滞路を走行中かつ前記変速機がインギヤであることにより前記エンジンの自動停止が行われていない場合において、前記鞍乗型車両の停車時間が第2の閾値以上となったときは、前記エンジンを自動停止する、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
【請求項5】
請求項4に記載の鞍乗型車両であって、
第1の条件は、少なくともスロットルが閉じていることを含む車両状態が第3の閾値以上の時間継続することを含み、
前記第2の閾値は前記第3の閾値よりも長い、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の鞍乗型車両であって、
前記アイドルストップ制御手段は、前記渋滞路を走行中かつ前記変速機がインギヤであることにより前記エンジンの自動停止が行われていない場合において、前記変速機が前記インギヤからニュートラルに切り替えられた場合には、前記エンジンを自動停止する、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鞍乗型車両において、所定の条件が満たされると車両のエンジンを自動停止する一方、このエンジンの自動停止中に発進操作が検知されるとエンジンを再始動することで燃費の改善や環境負荷の低減等を図るアイドルストップ制御が知られている。特許文献1では、アイドルストップ制御を行う車両において、車両停止時に渋滞路上にあると判断された場合にエンジンの自動停止を禁止する機能を有する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、渋滞路の走行中には一律にエンジンの自動停止を禁止するため、アイドルストップ制御による燃費低減が図れない場合がある。一方で、渋滞路の走行中にエンジンの自動停止を行うと、停止状態からの発進がスムーズに行えなくなる恐れがある。よって、渋滞路の走行においては燃費低減とスムーズな発進の両立が望まれる。
【0005】
本発明は、渋滞路の走行中における燃費低減とスムーズな発進を両立する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
エンジンと、
前記エンジンの回転を変速して駆動輪に伝達するマニュアル式の変速機と、
車両状態についての第1の条件が成立すると前記エンジンを自動停止するアイドルストップ制御を行うアイドルストップ制御手段と、を備えた鞍乗型車両であって、
前記鞍乗型車両が渋滞路を走行中であるか否かを判断する判断手段を備え、
前記アイドルストップ制御手段は、前記第1の条件が成立している場合において、前記判断手段により前記鞍乗型車両が渋滞路を走行中であると判断されたときは、前記変速機がニュートラルであれば前記エンジンを自動停止する一方、前記変速機がインギヤであれば前記エンジンを自動停止しない、
ことを特徴とする鞍乗型車両が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、渋滞路の走行中における燃費低減とスムーズな発進を両立することができる。
【0008】
本発明のその他の特徴及び利点は、添付図面を参照とした以下の説明により明らかになるであろう。なお、添付図面においては、同じ若しくは同様の構成には、同じ参照番号を付す。
【図面の簡単な説明】
【0009】
添付図面は明細書に含まれ、その一部を構成し、本発明の実施の形態を示し、その記述と共に本発明の原理を説明するために用いられる。
【
図3】
図1の鞍乗型車両のハードウェア構成の一例を示す図。
【
図4】アイドルストップECUが行う処理の例を示すフローチャート。
【
図5】アイドルストップECUが行う処理の例を示すフローチャート。
【
図6】アイドルストップECUが行う処理の例を示すフローチャート。
【
図7】アイドルストップECUが行う処理の例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴は任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
<自動二輪車の概要>
図1は、鞍乗型車両10の左側面図、
図2は、鞍乗型車両10の上面図である。なお、発明の理解を容易にするために、特に指示のない限り、
図1及び
図2に示す矢印方向に従って、前後、上下、及び左右の方向を説明する。
【0012】
鞍乗型車両10は、ダブルクレードル型の車体フレーム12を有する。この車体フレーム12は、ヘッドパイプ14と、左右一対のメインフレーム16と、ダウンフレーム18とを有する。左右一対のメインフレーム16は、ヘッドパイプ14から左右に分岐して緩やかに後ろ下がりで後方に延びた後、湾曲部16aを介して下方に延びている。ダウンフレーム18は、ヘッドパイプ14から左右に分岐してメインフレーム16の下方を、後ろ斜め下方に延びた後、湾曲部18aを介して略水平に後方に延び、メインフレーム16の後端部に接続される。
【0013】
車体フレーム12は、更に、左右一対のシートフレーム20と、左右一対のピボットプレート22と、左右一対の補強ステー24とを有する。左右一対のシートフレーム20は、左右一対のメインフレーム16の湾曲部16a近傍から後方にやや後ろ上がりに延びている。左右一対のピボットプレート22は、メインフレーム16の後端部付近に配置される。左右一対の補強ステー24は、メインフレーム16のピボットプレート22が設けられている付近から斜め後ろ上がりに延びてシートフレーム20に接続される。左右一対のピボットプレート22には、ピボット26が設けられている。
【0014】
左右一対のフロントフォーク28は、ヘッドパイプ14によって回転自在に軸支され、左右一対のフロントフォーク28の上端には、トップブリッジ30aを介して、操舵用のハンドルバー32が取り付けられている。
【0015】
トップブリッジ30aには、スピードメータ等を有するメータ部34が取り付けられている。ヘッドパイプ14及びボトムブリッジ30bの前方には、鞍乗型車両10の前方を照射するヘッドライト36と、左右一対のフロントウインカ37が設けられている。前輪WFは、左右一対のフロントフォーク28によって回転自在に軸支され、前輪WFの上部には、フロントフェンダ38が設けられている。
【0016】
メインフレーム16とダウンフレーム18との間には、エンジン40及びマニュアル変速機42が設けられ、エンジン40の上方であって、メインフレーム16の前側上方には、燃料タンク44が取り付けられている。エンジン40には、排気管46が取り付けられ、排気管46にはマフラー48が接続されている。オイルクーラ50は、エンジン40の前方であってダウンフレーム18の前側に設けられ、スロットルボディ52及びエアクリーナ54は、エンジン40の後方に設けられている。
【0017】
左右一対のピボットプレート22には、ピボット26を介してスイングアーム56が略上下方向に揺動自在に軸支され、スイングアーム56の後端部上側とシートフレーム20との間には、リアクッション58が介装されている。スイングアーム56の後端には、駆動輪である後輪WRが回転可能に軸支されている。エンジン40の動力は、チェーン60を介して後輪WRに伝達される。左右一対のピボットプレート22には、後方に延びる左右一対のステップホルダ62が固定されており、左右一対のステップホルダ62の前部と後部には、運転者用、同乗者用のステップ64、66が左右に取り付けられている。
【0018】
燃料タンク44の後方且つシートフレーム20の上部には、運転者及び同乗者が着座する(跨る)ためのシート68が取り付けられており、シート68は、運転者が乗車する運転者用シート68aと、同乗者が乗車する同乗者用シート68bからなるタンデムシートである。シートフレーム20の後部には、同乗者が把持するグラブバー70、及び、リアウインカ72が取り付けられている。シートフレーム20の後方にはリアフェンダ74が設けられており、リアフェンダ74には、テールランプ76が取り付けられている。
【0019】
図2に示すように、ハンドルバー32の右端側には、ハンドルバー32に対して回動可能な加速を指示するスロットルグリップ80が設けられている。ハンドルバー32には、スロットルグリップ80の前方に、鞍乗型車両10の前輪に制動力を与えるための前輪制動用のブレーキレバー(ブレーキ操作子)82が設けられている。運転者がブレーキレバー82を右手で操作することで、前輪WFに設けられた図示しないブレーキ装置が作動し、前輪WFに制動力が与えられる。
【0020】
右側のステップ64の前方には、鞍乗型車両10の後輪に制動力を与えるための後輪制動用のフットブレーキペダル(ブレーキ操作子)84が設けられている。運転者が右側のステップ64に右足を置いて、フットブレーキペダル84を右足で操作することで、後輪WRに設けられた図示しないブレーキ装置が作動し、後輪WRに制動力が与えられる。
【0021】
また、ハンドルバー32には、ハンドルバー32の左端側の前方にクラッチレバー86が設けられている。このクラッチレバー86は、エンジン40の駆動力のマニュアル変速機42への伝達を遮断するクラッチ43(
図3参照)を作動させるためのものである。左側のステップ64の前方には、マニュアル変速機42の変速比の異なる変速ギヤを選択的に切り換えるためのシフトペダル88が設けられている。運転者が左側のステップ64に左足を置いて、ギアチェンジペダル88を左足で操作することで、マニュアル変速機42の変速ギヤが切り換わる。
【0022】
<ハードウェア構成>
図3は、鞍乗型車両10のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図3では、後述するアイドルストップ制御の処理例に必要な構成要素を中心に示している。
【0023】
アイドルストップECU(Electronic Control Unit)102は、CPUに代表されるプロセッサ、半導体メモリ等の記憶デバイス、外部デバイスとのインタフェース等を含む。記憶デバイスにはプロセッサが実行するプログラムやプロセッサが処理に使用するデータ等が格納される。
【0024】
鞍乗型車両10は、アイドルストップECU102の他、各種制御を行う複数のECUを有していてもよい。各ECUはプロセッサ、記憶デバイスおよびインタフェース等を複数有していてもよい。また、各ECUは、CAN(Controller Area Network)等の不図示のネットワークを介して相互に接続し、データの授受を行うことができる。
図3では、後述する処理例に関係するアイドルストップECU102のみを示している。しかしながら、アイドルストップECU102及び図示しない他のECUが担当する機能については適宜設計可能であり、本実施形態よりも細分化したり、あるいは、統合したりすることが可能である。
【0025】
アイドルストップECU102は、アイドルストップ制御を実行する。詳しくは後述するが、アイドルストップECU102は、所定のアイドルストップ条件が成立するとエンジン40を自動停止する。また、アイドルストップECU102は、所定のアイドルストップ終了条件が成立すると、スタータモータ92により自動停止しているエンジン40を再始動する。
【0026】
鞍乗型車両10は、車両自体或いは周辺環境の状態を検出する各種のセンサを含み得る。本実施形態では、鞍乗型車両10は、スロットル開度センサ104、クラッチ検出センサ105、車速センサ106、ギヤポジションセンサ107、及びブレーキセンサ109を含む。スロットル開度センサ104は、ライダのスロットル操作によるスロットル開度を検出する。クラッチ検出センサ105は、クラッチ43の接続状態を検出する。車速センサ106は、鞍乗型車両10の車速を検出するセンサであり、本実施形態では変速ギヤ列421内の所定のギヤの回転数から車速を検出する。ギヤポジションセンサ107は、マニュアル変速機42のギヤポジションを検出するセンサであり、本実施形態ではシフトドラム422の回転角度に基づいてライダが選択するギヤ段(例:1速~4速及びニュートラルのいずれか)を検出する。ブレーキセンサ109は、ライダのブレーキレバー82又はフットブレーキペダル84の操作状態を検出する。
【0027】
<処理例>
(アイドルストップ制御)
図4及び5は、アイドルストップECU102が行う処理の例を示すフローチャートである。詳細には、
図4及び
図5は、アイドルストップECU102が所定の条件に基づきエンジン40を自動停止する際の処理を示している。本実施形態では、アイドルストップECU102は、マニュアル変速機42がインギヤ(1速)の状態でもエンジン40を自動停止するインギヤアイドルストップ制御を行う。
【0028】
また、
図4のフローチャートは、鞍乗型車両10の車両状態に応じてエンジンの自動停止を行うか否かを判断するためのものである。一方で、
図5のフローチャートは、鞍乗型車両10の周辺環境及び車両状態、詳細には走行路の渋滞の発生有無及びマニュアル変速機42のギヤポジションに応じてエンジンの自動停止を行うか否かを判断するためのものである。別の観点から見れば、
図4のフローチャートは、エンジンの自動停止を行うための基本条件が成立しているかを判断するものであると言うことができる。また、
図5のフローチャートは、上記基本条件が成立する場合であっても自動停止を行わない例外条件が成立しているか判断するものであると言うことができる。
【0029】
図4及び
図5のフローチャートは、例えば、アイドルストップ制御が有効であり、かつ、エンジン40が自動停止していない場合に並列或いは直列的に周期的に実行される。なお、以下の説明では、フローチャートの各ステップについて単にS101等と表記する。また、初期状態において後述するアイドルストップフラグ(ISフラグ)は0であるとする。
【0030】
まず、
図4のフローチャートについて説明する。
S101において、アイドルストップECU102は、各種センサのセンサ値を取得する。ここでは、アイドルストップECU102は、スロットル開度センサ104、クラッチ検出センサ105、車速センサ106、ギヤポジションセンサ107及びブレーキセンサ109のセンサ値を取得する。
【0031】
S102において、アイドルストップECU102は、マニュアル変速機42の変速ギヤ列421のギヤポジションがニュートラル又は1速であればS103に進み、そうでなければS110に進む。アイドルストップECU102は、S101で取得したギヤポジションセンサ107の検出結果に基づいてギヤポジションを確認する。
【0032】
S103において、アイドルストップECU102は、クラッチ43が開放されていればS104に進み、そうでなければS110に進む。アイドルストップECU102は、S101で取得したクラッチ検出センサ105の検出結果に基づいてクラッチ43の接続状態を確認する。なお、ここでは、クラッチ43が開放されている状態は、いわゆる半クラッチの状態を含まず、クラッチ43により動力伝達が完全に遮断されている状態を指すものとする。
【0033】
S104において、アイドルストップECU102は、ブレーキ操作量が閾値以上であればS105に進み、そうでなければS110に進む。アイドルストップECU102は、S101で取得したブレーキセンサ109の検出結果に基づいてブレーキ操作量を確認する。ここでの閾値は適宜設定可能であるが、ライダの明確なエンジン40の停止意思を確認する観点から、ライダがブレーキレバー82を強く握ったことを確認できる値に設定され得る。例えば、ライダによるブレーキレバー82の操作量が、ブレーキレバー82のストロークの5~9割以上である場合にブレーキ操作量が閾値以上となるように設定され得る。
【0034】
S105において、アイドルストップECU102は、スロットルが閉じていればS106に進み、そうでなければS110に進む。アイドルストップECU102は、S101で取得したスロットル開度センサ104の検出結果に基づいてスロットル開度を確認する。
【0035】
S106において、アイドルストップECU102は、鞍乗型車両10の車速が閾値以下であればS107に進み、そうでなければS110に進む。アイドルストップECU102は、S101で取得した車速センサ106の検出結果に基づいて鞍乗型車両10の車速を確認する。車速の閾値は、例えば0~5km/hの間の値に設定され得る。すなわち、車速の条件は、鞍乗型車両10が完全に停車していることであってもよいし、鞍乗型車両10が所定の車速以下であることであってもよい。
【0036】
S107において、アイドルストップECU102は、タイマをスタートさせる。なお、前回以前の本フローチャートの実行時にすでにタイマがスタートしている場合は、タイマによる計測を継続する。
【0037】
S108において、アイドルストップECU102は、タイマがスタートしてから所定時間が経過していればS109に進み、そうでなければS111に進む。所定時間は、例えば1~5秒の間の値に設定されてもよい。
【0038】
S109において、アイドルストップECU102は、ISフラグを1に設定してフローチャートを終了する。例えば、アイドルストップECU102は、自身の記憶デバイスにISフラグを記憶可能に構成されており、記憶されているISフラグの値を1に更新する。
【0039】
S110において、アイドルストップECU102は、タイマをリセットしてS111に進む。S111において、アイドルストップECU102は、ISフラグを0に設定してフローチャートを終了する。
【0040】
本フローチャートによれば、アイドルストップの基本条件が成立した状態が所定時間継続した場合(S102~S108)に、ISフラグが1に設定される(S109)。なお、ここでは、アイドルストップの基本条件は、
(1)ギヤポジションがニュートラル又は1速
(2)クラッチが開放されている(クラッチレバー86が握られている)
(3)ブレーキ操作量閾値以上
(4)スロットルが開状態
(5)車速が閾値以下
の(1)~(5)の全てが満たされることに対応する。しかしながら、アイドルストップの基本条件には、エンジン40の冷却水温等が閾値以上等、他の条件が含まれてもよい。また、
図4の例ではギヤポジションがニュートラルでも1速でもその他の条件は同じであるが、ニュートラルの場合と1速の場合とで他の条件が異なっていてもよい。例えば、ギヤポジションがニュートラルの場合は、クラッチ43が接続していてもエンジン40の駆動力が後輪WRに伝達されないので、上記(2)をアイドルストップの基本条件から除いてもよい。すなわち、アイドルストップECU102は、S102でギヤポジションがニュートラルであることを確認した場合はS104に進んでもよい。また、本実施形態では、ギヤポジションがニュートラル又は1速であることをアイドルストップの基本条件の一つとしているが、これに代えてギヤポジションが1速であることをアイドルストップの基本条件の一つとしてもよい。すなわち、マニュアル変速機42がインギヤ(1速)の場合にのみアイドルストップの基本条件が成立してもよい。
【0041】
次に
図5のフローチャートについて説明する。
S121において、アイドルストップECU102は、現在のISフラグが1であればS122に進み、0であればフローチャートを終了する。換言すれば、アイドルストップECU102は、
図4のフローチャートに基づきアイドルストップの基本条件が成立していると判断された場合はS122に進み、そうでない場合はフローチャートを終了する。例えば、アイドルストップECU102は、自身の記憶デバイスに記憶されているISフラグの情報を読み出して現在のISフラグを確認する。
【0042】
S122において、アイドルストップECU102は、渋滞判断処理を行う。渋滞判断処理の方法としては公知の技術を適宜採用可能である。例えば、アイドルストップECU102は、車速センサ106の検出結果に基づき車速が閾値以下の状態が所定時間継続した場合に、鞍乗型車両10が渋滞路を走行中であると判断する。また例えば、アイドルストップECU102は、鞍乗型車両10の減速度(負の加速度)を取得し、減速度が閾値以下であれば鞍乗型車両10が渋滞路を走行中であると判断する。アイドルストップECU102は、鞍乗型車両10に加速度センサが設けられる場合はその検出結果を取得してもよいし、車速センサ106の検出結果から鞍乗型車両10の加速度を算出してもよい。さらに例えば、アイドルストップECU102は、GPSからの情報等に基づいて鞍乗型車両10が渋滞路を走行中であるか否かを判断してもよい。或いは、これらの組み合わせにより渋滞路の走行中であるか否かが判断されてもよい。
【0043】
S123において、アイドルストップECU102は、S122の判断結果に基づき、鞍乗型車両10が渋滞路を走行中であればS124に進み、そうでければS125に進む。
【0044】
S124において、アイドルストップECU102は、マニュアル変速機42のギヤポジションがニュートラルの場合にはS125に進みエンジン40を自動停止し、インギヤの場合にはフローチャートを終了する。
【0045】
図5のフローチャートによれば、アイドルストップECU102は、アイドルストップの基本条件が成立している場合において(S121)、鞍乗型車両10が渋滞路を走行中であるか否かを判断する(S122)。そして、アイドルストップECU102は、鞍乗型車両10が渋滞路を走行中であると判断されたときは、マニュアル変速機42がニュートラルのときはエンジン40を自動停止する一方、インギヤであればエンジン40を自動停止しない(S123-S125)。ライダが渋滞路においてインギヤで停止するような場合、ライダには比較的短い時間で発進する意思があると考えられる。よって、そのような場合にはエンジン40を自動停止しないことで、渋滞路におけるスムーズな停止からの発進を実現することができる。一方で、ライダが渋滞路においてニュートラルで停止するような場合、ライダには鞍乗型車両10の明確な停止意思があると考えられる。よって、そのような場合にはエンジン40を自動停止させることで、燃費低減を図ることができる。
【0046】
図6は、アイドルストップECU102が行う処理の例を示すフローチャートである。具体的には、本フローチャートは、
図5のフローチャートにおいて鞍乗型車両10が渋滞路を走行中であり、かつマニュアル変速機42がインギヤあることによりエンジン40を自動停止しないと判断された場合に、所定の条件に応じてエンジン40を自動停止させるものである。さらに言えば、本フローチャートは、アイドルストップの基本条件が成立したにも関わらず(
図4)、例外条件(
図5)によりエンジン40の自動停止が行われていない場合に、さらなる条件のもとエンジン40の自動停止を許容するための処理である。すなわち、本フローチャートは、渋滞路の走行中にライダの明確な停止意思が確認できずにエンジン40を自動停止しなかった場合でも、その後のライダの操作により明確な停止意思が確認できたときはエンジン40を停止するためのものである。本フローチャートは、例えば
図4及び
図5のフローチャートと直列又は並列的に実行される。
【0047】
S131において、アイドルストップECU102は、現在のISフラグが1であればS132に進み、0であればフローチャートを終了する。例えば、アイドルストップECU102は、自身の記憶デバイスに記憶されているISフラグの情報を読み出して現在のISフラグを確認する。
【0048】
S132において、アイドルストップECU102は、エンジン40が稼働中であればS133に進み、そうでない場合はフローチャートを終了する。S131~S132により、アイドルストップの基本条件が成立しているものの例外条件によりエンジン40が自動停止していない場合はS133に進むこととなる。
【0049】
S133で、アイドルストップECU102は、所定の条件が成立していればS134に進みエンジン40を自動停止し、そうでない場合はフローチャートを終了する。ここでの所定の条件としては、例えば、ブレーキ操作の継続時間が閾値以上であること、ブレーキの操作が複数回行われたこと、鞍乗型車両10の停車時間が閾値以上であること等が挙げられる。アイドルストップECU102は、ブレーキセンサ109の検出結果に基づいてブレーキ操作の回数や継続時間を取得してもよい。ブレーキ操作の継続時間の閾値は数秒、例えば1~5秒であってもよい。また、ブレーキ操作の継続時間は、鞍乗型車両10の走行中を含む継続時間でもよいし、鞍乗型車両10が停止してからの継続時間でもよい。また、ブレーキの操作が複数回行われたこととは、例えばブレーキ操
作が2回以上或いは3回以上行われたことであってもよい。また、アイドルストップECU102は、車速センサ106の検出結果に基づいて鞍乗型車両10の停車時間を取得してもよい。停車時間の閾値は数秒、例えば1~5秒であってもよい。なお、停車時間の閾値は、
図4のS108の所定時間より長い時間であってもよい。これにより、ライダの停止意思をより明確に確認できてからエンジン40の停止を行うことができる。
【0050】
なお、
図4~
図6のフローチャートに基づき一旦エンジン40が自動停止した後は、(自動停止のための全ての条件が満たされた状態が継続しなくても、
図7で説明する再始動の条件が成立するまではエンジンの自動停止状態が継続し得る。例えば、エンジン40が自動停止した後は、ライダが握っていたクラッチレバー86を離してもエンジン40の自動停止が継続し得る。
【0051】
図7は、アイドルストップECU102が行う処理の例を示すフローチャートである。具体的には、
図7は、アイドルストップECU102が所定の条件に基づき自動停止したエンジン40を再始動する際の処理を示している。本フローチャートは、例えば、
図4~
図6のフローチャートに基づきエンジン40が自動停止した場合に周期的に実行される。
【0052】
S201において、アイドルストップECU102は、各種センサのセンサ値を取得する。ここでは、アイドルストップECU102は、スロットル開度センサ104、クラッチ検出センサ105、及びギヤポジションセンサ107のセンサ値を取得する。
【0053】
S202において、アイドルストップECU102は、マニュアル変速機42の変速ギヤ列421のギヤポジションがニュートラル又は1速であればS203に進み、そうでなければ本フローチャートを終了する。アイドルストップECU102は、S201で取得したギヤポジションセンサ107の検出結果に基づいてギヤポジションを確認する。
【0054】
S203において、アイドルストップECU102は、クラッチ43が開放されていればS204に進み、そうでなければ本フローチャートを終了する。アイドルストップECU102は、S201で取得したクラッチ検出センサ105の検出結果に基づいてクラッチ43の接続状態を確認する。なお、クラッチ43が開放されているかどうかの判断は、
図4のS103と同様であり得る。
【0055】
S204において、アイドルストップECU102は、スロットルが開いていればS205に進み、そうでなければフローチャートを終了する。アイドルストップECU102は、S201で取得したギヤポジションセンサ107の検出結果に基づいてスロットル開度を確認する。
【0056】
S205において、アイドルストップECU102は、エンジン40を再始動する。アイドルストップECU102は、スタータモータ92により自動停止しているエンジン40を再始動する。
【0057】
なお、エンジン40の再始動条件は適宜設定可能である。例えば、スロットルの開度は条件とせずに、ギヤポジションがニュートラル又は1速であり、かつ、エンジン40の自動停止後に離されたクラッチレバー86が再度握られた場合に、エンジン40を再始動してもよい。
【0058】
<実施形態のまとめ>
上記実施形態は、以下の鞍乗型車両を少なくとも開示する。
【0059】
1.上記実施形態の鞍乗型車両(例えば10)は、
エンジン(例えば40)と、
前記エンジンの回転を変速して駆動輪に伝達するマニュアル式の変速機(例えば42)と、
車両状態についての第1の条件が成立すると前記エンジンを自動停止するアイドルストップ制御を行うアイドルストップ制御手段(例えば102)と、を備えた鞍乗型車両であって、
前記鞍乗型車両が渋滞路を走行中であるか否かを判断する判断手段(例えば102,S122)を備え、
前記アイドルストップ制御手段は、前記第1の条件が成立している場合において、前記判断手段により前記鞍乗型車両が渋滞路を走行中であると判断されたときは、前記変速機がニュートラルであれば前記エンジンを自動停止する一方(例えばS123-S125)、前記変速機がインギヤであれば前記エンジンを自動停止しない(例えばS123-S124)、
ことを特徴とする鞍乗型車両。
【0060】
この実施形態によれば、アイドルストップ制御において、変速機がインギヤである場合にはエンジンを自動停止しないことで渋滞路における停止からの発進をスムーズに行い、変速機がニュートラルである場合にはエンジンを自動停止することで燃費を低減する。よって、渋滞路の走行中における燃費低減とスムーズな発進を両立することができる。
【0061】
2.上記実施形態によれば、
ライダのブレーキ操作を検出する検出手段をさらに備え、
前記アイドルストップ制御手段は、前記渋滞路を走行中かつ前記変速機がインギヤであることにより前記エンジンの自動停止が行われていない場合において、前記ブレーキ操作の継続時間が第1の閾値以上となったときは、前記エンジンを自動停止する(例えばS133-S134)。
【0062】
この実施形態によれば、渋滞中に変速機がインギヤであることによってエンジンを自動停止しなかった場合でも、ライダの継続的な停止意思を確認した上でエンジンを自動停止することができる。
【0063】
3.上記実施形態によれば、
ライダのブレーキ操作を検出する検出手段(例えば109)をさらに備え、
前記アイドルストップ制御手段は、前記渋滞路を走行中かつ前記変速機がインギヤであることにより前記エンジンの自動停止が行われていない場合において、前記ブレーキ操作が複数回行われたときは、前記エンジンを自動停止する(例えばS133-S134)。
【0064】
この実施形態によれば、渋滞中に変速機がインギヤであることによってエンジンを自動停止しなかった場合でも、ライダの継続的な停止意思を確認した上でエンジンを自動停止することができる。
【0065】
4.上記実施形態によれば、
前記アイドルストップ制御手段は、前記渋滞路を走行中かつ前記変速機がインギヤであることにより前記エンジンの自動停止が行われていない場合において、前記鞍乗型車両の停車時間が第2の閾値以上となったときは、前記エンジンを自動停止する(例えばS133-S134)。
【0066】
この実施形態によれば、渋滞中に変速機がインギヤであることによってエンジンを自動停止しなかった場合でも、ライダの継続的な停止意思を確認した上でエンジンを自動停止することができる。
【0067】
5.上記実施形態によれば、
アイドルストップ条件は、所定の状態の継続時間が第3の閾値以上であることを含み、
前記第2の閾値は前記第3の閾値よりも長い。
【0068】
この実施形態によれば、渋滞中に変速機がインギヤであることによってエンジンを自動停止しなかった場合でも、ライダの継続的な停止意思を確認した上でエンジンを自動停止することができる。
【0069】
6.上記実施形態によれば、
前記アイドルストップ制御手段は、前記渋滞路を走行中かつ前記変速機がインギヤであることにより前記エンジンの自動停止が行われていない場合において、前記変速機が前記インギヤからニュートラルに切り替えられた場合には、前記エンジンを自動停止する。
【0070】
この実施形態によれば、渋滞中に変速機がインギヤであることによってエンジンを自動停止しなかった場合でも、ライダの継続的な停止意思を確認した上でエンジンを自動停止することができる。
【0071】
この実施形態によれば、変速機が1速の状態でエンジンを自動停止することができる。
【0072】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0073】
10:鞍乗型車両、40:エンジン、42:マニュアル変速機、102:アイドルストップECU