(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】抗菌陶磁器タイルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 41/86 20060101AFI20241029BHJP
B01J 35/39 20240101ALI20241029BHJP
B01J 35/54 20240101ALI20241029BHJP
C04B 41/89 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
C04B41/86 B
B01J35/39
B01J35/54 301Z
C04B41/89 A
(21)【出願番号】P 2023554073
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(86)【国際出願番号】 CN2021135274
(87)【国際公開番号】W WO2022205989
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】202110352934.1
(32)【優先日】2021-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】515266393
【氏名又は名称】蒙娜麗莎集団股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】劉 一軍
(72)【発明者】
【氏名】張 克林
(72)【発明者】
【氏名】楊 元東
(72)【発明者】
【氏名】黄 秋立
(72)【発明者】
【氏名】曹 国芹
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-147973(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112194476(CN,A)
【文献】特表2009-525251(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112062470(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112159217(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112551907(CN,A)
【文献】特開2019-218240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/80-41/91
C03C 8/00-8/24
B01J 35/39
B01J 35/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイル素地の表面に烏蘭茶晶石が含まれている抗菌保護釉薬を施釉し、前記抗菌保護釉薬の鉱物の組成は、質量百分率で、烏蘭茶晶石35~45%、粘土15~25%、カルシウム・マグネシウム・バリウム・亜鉛の融剤鉱物30~42%、酸化アルミニウム5~8%を含み、カルシウム・マグネシウム・バリウム・亜鉛の融剤鉱物は、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化バリウム及び酸化亜鉛を含む融剤系鉱物であり、釉薬の高温粘度、光沢、釉面平坦度を調整するために使用され、粘土は、粘着性と可塑性とを有するケイ酸アルミニウム塩であることと、
前記抗菌保護釉薬の化学組成は、質量百分率で、SiO
2:40%~50%、Al
2O
3:16%~20%、アルカリ金属酸化物3%~6%、アルカリ土類金属酸化物15%~23%、酸化亜鉛3~5%、希土類酸化物17ppm~45ppmを含み、前記アルカリ金属酸化物は、酸化ナトリウム、及び酸化カリウムであり、前記アルカリ土類金属酸化物は、酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び酸化バリウムであることと、
焼成して、大腸菌の抗菌率及び黄色ブドウ球菌の抗菌率がともに90%以上である抗菌陶磁器タイルが得られることと、
を含むことを特徴とする、抗菌陶磁器タイルの製造方法。
【請求項2】
前記抗菌保護釉薬の化学組成は、質量百分率で、SiO
2:40%~50%、Al
2O
3:16%~20%、Fe
2O
3:0.21~0.31%、TiO
2:0.21~0.31%、CaO:1.5~3.0%、MgO:3.0~5.0%、BaO:11~15%、ZnO:3~5%、K
2O:2.0~3.0%、Na
2O:1.3~2.3%、La
2O
3:4~9ppm、CeO
2:9~20ppm、Nd
2O
3:2~6ppm、Sm
2O
3:0.03~1.5ppm、Eu
2O
3:0.09~0.35ppm、Gd
2O
3:0.3~1.5ppm、Tb
4O
7:0.03~0.15ppm、Ho
2O
3:0.06~0.15ppm、Er
2O
3:0.12~0.35ppm、Tm
2O
3:0.01~0.05ppm、Yb
2O
3:0.12~0.35ppm、Lu
2O
3:0~0.15ppm、Y
2O
3:1.8~4.5ppm、強熱減量:8~10%を含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記抗菌保護釉薬の施釉方法は、吹き掛け施釉であり、比重が1.35~1.40 g/cm
3、重量が250~300 g/m
2であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
最高焼成温度は1200~1220℃、焼成周期は60~70minであることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
タイル素地の表面に烏蘭茶晶石が含まれている抗菌保護釉薬を施釉する前に、タイル素地の表面に上釉を施釉することをさらに含
み、
前記上釉の化学組成は、質量百分率で、SiO
2
:60%~68%、Al
2
O
3
:20%~24%、アルカリ金属酸化物:4~7%、ZrO
2
:3.2~9.6%を含み、
前記上釉の施釉方法は、吹き掛け施釉であり、比重が1.40~1.50 g/cm
3
、重量が500~600 g/m
2
であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌陶磁器タイル及びその製造方法に関し、陶磁器タイル製造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
家庭環境の浄化ときれいな室内空気は人々の日常生活にとって非常に重要である。陶磁器タイルは住宅装飾材として使用されており、日常生活で接触する機会が多いため、業界内のいくつかの大手陶磁器ブランドは抗菌機能を備えた陶磁器の開発に力を入れている。現在、一部の陶磁器メーカーは、マイナスイオン粉末を添加して殺菌することなどにより抗菌機能を持たせた陶磁器タイルを発売しているが、マイナスイオン粉末が主に放射性元素によって励起されるため、陶磁器製品はある程度の放射能を有する。例えば、光触媒作用による殺菌は、主に製品の表面にナノ二酸化チタンを塗布することによるものであり、紫外線によって励起されるため、活性を維持するように300℃の低温処理が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】中国特許出願公開第112062470号明細書
【文献】中国特許出願公開第107043249号明細書
【文献】中国特許出願公開第112194476号明細書
【文献】中国特許出願公開第112194478号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、当該陶磁器製品は耐久性の向上が必要であり、且つ紫外線は人体に有害である。例えば、銀又はナノ酸化亜鉛などの抗菌剤を釉薬に添加して直接焼成すると、高温環境下では銀又はナノ酸化亜鉛が酸化反応して抗菌力が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の側面において、本発明は、抗菌陶磁器タイルの製造方法を開示している。前記方法は、タイル素地の表面に烏蘭茶晶石(ウラン茶水晶)が含まれている抗菌保護釉薬を施釉することと、焼成して抗菌陶磁器タイルが得られることとを含む。そのうち、抗菌保護釉薬に対する烏蘭茶晶石の質量百分率含有量は35~45%であり、前記抗菌保護釉薬に対するアルカリ土類金属酸化物の含有量は10%以上である。抗菌保護釉薬に対する烏蘭茶晶石の質量百分率含有量を上記範囲に制御することにより、優れた抗菌性能が得られるだけでなく、陶磁器釉面の光沢度が高すぎること、手触りが粗いこと、平坦性が悪いことも回避できる。
【0006】
既存の抗菌陶磁器タイルの製造方法では、幾つかの技術案において、ナノ酸化亜鉛と単一希土類イオンを殺菌剤として使用し、優れた殺菌効果を実現するために、焼成して釉薬層に特定の微多孔構造を形成する必要があるが、微多孔構造に対する制御は困難である。また、希土類イオンを二酸化チタンと結合させて、希土類イオンにより二酸化チタンの結晶粒径を制御し、ナノ二酸化チタンの光触媒作用によって殺菌する技術案もある。本発明は、複数の希土類イオンの複合殺菌効果を利用し、微多孔構造を形成する必要がなく、ナノ二酸化チタンの光触媒作用に頼る必要もない。上記製造方法において、烏蘭茶晶石にはさまざまな希土類元素が含まれており、希土類金属自身が無機抗菌材料であるため、細菌との接触により、希土は膜貫通作用により輸送チャネルを介して細胞内部に進入し、反応性が高い希土類イオンは細胞内の有機高分子と反応し、細菌の増殖に影響することができる。陶磁器釉薬におけるアルカリ土類金属酸化物(例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム及び比較的大きな原子量を持つ幾つかの微量酸化物)の含有量が高く、これらの酸化物は希土類元素の励起下で表面エネルギーが高くなり、光の作用下で金属イオンが励起されて電子移動を起こし、釉薬層の表面に吸着された水と空気中のO2と、化学的活性の高いマイナス酸素イオン及びフリーラジカル-OH基を大量に生成する。このマイナス酸素イオン及びフリーラジカルが微生物と接触すると、微生物内の有機物をCO2とH2Oに酸化分解して短時間で殺菌作用を発揮する。
【0007】
既存の抗菌陶磁器タイルの製造過程では、幾つかの技術案において、亜鉛含有塩溶液と希土類イオン含有塩溶液を混合して抗菌塩溶液を形成し、透明釉薬表面に吹き掛けて抗菌層を形成する。当該方法では、既存の製造設備により抗菌剤をタイル表面に均一に吹き掛けることが難しく、且つ、吹き掛ける量が多すぎると釉薬層の膨れや窯内タイルの爆破などの問題を起こす可能性があるため、当該方法は、実験室のサンプル調製に適するが、大量生産に適しない。また、当該方法によって得られた陶磁器では、抗菌剤がタイル表面に分布しているため、タイル表面の傷や摩耗は抗菌効果に大きく影響する。本発明は、烏蘭茶晶石により希土類イオンを導入することで、希土類イオンを釉薬層に均一に分布させ、即ち、釉薬層全体には希土類イオンが存在し、施釉が便利になり、イル表面の傷や摩耗があっても抗菌効果に大きな影響を与えないようにできる。
【0008】
好ましくは、前記抗菌保護釉薬の鉱物組成は、質量百分率で、烏蘭茶晶石35~45%、粘土15~25%、カルシウム・マグネシウム・バリウム・亜鉛融剤鉱物30~42%、酸化アルミニウム5~8%を含む。そのうち、カルシウム・マグネシウム・バリウム・亜鉛融剤鉱物とは、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化バリウム及び酸化亜鉛を高含有量で含む融剤系鉱物であり、釉薬の高温粘度、光沢、釉面平坦度を調整するために使用される。粘土とは、粘着性と可塑性とを有するケイ酸アルミニウム塩である。例示として、前記抗菌保護釉薬の鉱物組成は、質量百分率で、烏蘭茶晶石35~45%、酸化亜鉛3~5%、炭酸バリウム15~20%、仮焼滑石7~9%、カオリン15~25%、酸化アルミニウム5~8%、苦灰石5~8%を含む。
【0009】
烏蘭茶晶石が含まれているスラリーの流動性を利用し、硫酸バリウムの導入による釉薬スラリーのチキソトロピーの問題を改善し、素地と釉薬の結合性を高め、釉薬を滑らかにし、絹釉面効果のある釉薬を作ることとは異なり、本発明は、烏蘭茶晶石における酸化アルミニウムの含有量が低い特徴を利用するとともに、大量のカルシウム・マグネシウム・バリウム・亜鉛融剤鉱物を導入することにより、陶磁器釉面の光沢度が高すぎること、手触りが粗いこと、平坦性が悪いことを回避する。また、絹釉面効果のある釉薬における烏蘭茶晶石の質量百分率含有量が低く、曹長石を導入して釉薬の高温粘度を低下させ、釉面の結晶化を軽減し、釉薬の流動性を高める必要がある。しかしながら、本発明に係る抗菌保護釉薬は、大量のカルシウム・マグネシウム・バリウム・亜鉛融剤鉱物を使用することにより、抗菌性能と高釉面品質とを同時に確保する。
【0010】
好ましくは、前記抗菌保護釉薬の化学組成は、質量百分率で、SiO2:40%~50%、Al2O3:16%~20%、アルカリ金属酸化物3%~6%、アルカリ土類金属酸化物15%~23%、酸化亜鉛3~5%、希土類酸化物17ppm~45ppmを含む。
【0011】
好ましくは、前記抗菌保護釉薬の化学組成は、質量百分率で、SiO2:40%~50%、Al2O3:16%~20%、Fe2O3:0.21~0.31%、TiO2:0.21~0.31%、CaO:1.5~3.0%、MgO:3.0~5.0%、BaO:11~15%、ZnO:3~5%、K2O:2.0~3.0%、Na2O:1.3~2.3%、La2O3:4~9ppm、CeO2:9~20ppm、Nd2O3:2~6ppm、Sm2O3:0.03~1.5ppm、Eu2O3:0.09~0.35ppm、Gd2O3:0.3~1.5ppm、Tb4O7:0.03~0.15ppm、Ho2O3:0.06~0.15ppm、Er2O3:0.12~0.35ppm、Tm2O3:0.01~0.05ppm、Yb2O3:0.12~0.35ppm、Lu2O3:0~0.15ppm、Y2O3:1.8~4.5ppm、強熱減量:8~10%を含む。
【0012】
好ましくは、前記抗菌保護釉薬の施釉方法は、吹き掛け施釉であり、比重が1.35~1.40 g/cm3、重量が250~300 g/m2である。
【0013】
好ましくは、最高焼成温度は1200~1220℃、焼成周期は60~70minであってもよい。
【0014】
好ましくは、タイル素地の表面に烏蘭茶晶石が含まれている抗菌保護釉薬を施釉する前に、前記製造方法は、タイル素地の表面に上釉を施釉することをさらに含む。
【0015】
好ましくは、前記上釉の化学組成は、質量百分率で、SiO2:60%~68%、Al2O3:20%~24%、アルカリ金属酸化物:4~7%、ZrO2:3.2~9.6%を含む。
【0016】
好ましくは、前記上釉の施釉方法は、吹き掛け施釉であり、比重が1.40~1.50 g/cm3、重量が500~600 g/m2である。
【0017】
第2の側面において、本発明は上記いずれか1項に記載の製造方法によって得られた抗菌陶磁器タイルを提供している。前記抗菌陶磁器タイルの大腸菌の抗菌率と黄色ブドウ球菌の抗菌率はともに90%以上である。
【0018】
第3の側面において、本発明は、烏蘭茶晶石の抗菌陶磁器タイルでの用途を開示している。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明実施例1に係る抗菌陶磁器タイルの製造フローチャートである。
【
図2】本発明実施例1に係る抗菌陶磁器タイルのタイル面効果図。
【
図3】本発明比較例3に係る抗菌陶磁器タイルのタイル面効果図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、下記の実施形態を結びつけて、本発明を更に説明する。下記の実施形態は本発明を説明するためのものであり、本発明を制限するものではない。以下、各「%」は特に断りのない限り「質量%」を意味する。以下、本発明の所述抗菌陶磁器タイルの製造方法を例示して説明する。
【0021】
タイル素地を製造する。素地粉状材料を乾式プレス成形してタイル素地を形成する。前記素地粉状材料の組成は限定されず、本分野によく使用される陶磁器タイルの素地粉状材料を使用してもよい。例えば、前記素地粉状材料の化学組成は、質量百分率で、SiO2:63.5~65%、Al2O3:19~22%、Fe2O3:0.4~0.7%、TiO2:0.25~0.35%、CaO:0.25~0.35%、MgO:0.5~0.80%、K2O:2.0~2.4%、Na2O:2.6~3.0%、強熱減量:4.5~5.5%を含む。
【0022】
タイル素地を乾燥する。乾燥後のタイル素地の水分は0.3~0.5wt%に制御される。上記乾燥時間は50~60minであってもよい。
【0023】
上釉を製造する。前記上釉の化学組成は、質量百分率で、SiO2:60%~68%、Al2O3:20%~24%、アルカリ金属酸化物:4~7%、ZrO2:3.2~9.6%を含んでもよい。
【0024】
前記上釉の鉱物組成は、質量百分率で、カリ長石:30%~40%、曹長石:15~25%、カオリン5%~15%、石英砂10%~20%、けい酸ジルコニウム5%~15%、か焼カオリン(Calcinated Kaolin)5%~10%,酸化アルミニウム5%~10%を含んでもよい。
【0025】
上記原料比率に従って上釉を混合してボールミルで粉砕し、ふるいにかけて、上釉の釉薬スラリーが得られる。ボールミルで粉砕する際に、混合後の原料に補助材料と水を加える。一部の実施形態において、前記上釉の釉薬スラリーの配合率は、質量百分率で、上釉の乾燥原料(即ち「上釉原料の質量合計」)70.4%~72.4%、トリポリリン酸ナトリウム0.11~0.16%、カルボキシメチルセルロースナトリウム0.14~0.21%、水28.5~29.5%である。前記上釉の325メッシュのふるい残分は≦0.6wt%である。
【0026】
一部の実施形態において、前記上釉の化学組成は、質量百分率で、SiO2:60%~68%、Al2O3:20%~24%、Fe2O3:0.3~0.6%、TiO2:0.20~0.30%、CaO:0.3~0.6%、MgO:0.1~0.3%、K2O:1.5~2.5%、Na2O:3.0~4.0%、ZrO2:3.2~9.6%、強熱減量:1.3~1.7%を含む。
【0027】
上釉の40℃~400℃での線膨張係数は8.1716×10-6/K~8.3916×10-6/Kであってもよい。上釉の線膨張係数は、焼成過程におけるタイル形状の調整に有利するために、素地の線膨張係数よりもできるだけ近く又は大きいことが好ましい。
【0028】
乾燥後のタイル素表面に上釉を施釉する。吹き掛け施釉方法を利用して上釉を施釉してもよい。例えば、前記吹き掛け施釉の工程パラメータは、比重が1.40~1.50 g/cm3、重量が500~600 g/m2である。
【0029】
上釉を施釉したタイル素地の表面にパターンをインクジェット印刷する。インクジェット印刷されるパターンの色や模様は、レイアウトデザインの効果に応じて変化する。
【0030】
保護釉薬(「抗菌保護釉薬」とも称する)を製造する。前記抗菌保護釉薬の化学組成は、質量百分率で、SiO2:40%~50%、Al2O3:16%~20%、アルカリ金属酸化物3%~6%、アルカリ土類金属酸化物15%~23%、酸化亜鉛3~5%、希土類酸化物17ppm~45ppmを含んでもよい。
【0031】
上記抗菌保護釉薬における烏蘭茶晶石の質量百分率含有量は35~45%である。烏蘭茶晶石が遠赤外線機能を発揮するメカニズムは、釉薬のMgO~SiO2~Al2O3の格子にドープされるランタニド系希土類イオンを提供し、高度に非対称なケイ酸マグネシウムアルミニウム化合物を形成し、釉薬が高い遠赤外線放射機能を持たせることである。本発明は、烏蘭茶晶石により抗菌機能を実現する。烏蘭茶晶石にはさまざまな希土類元素が含まれており、希土類金属自身が無機抗菌材料であるため、細菌との接触により、希土類元素は膜貫通作用により輸送チャネルを介して細胞内部に進入し、反応性が高い希土類イオンは細胞内の有機高分子と反応し、細菌の増殖に影響することができる。陶磁器釉薬におけるアルカリ土類金属酸化物(例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム及び比較的に大きな原子量を持つ幾つかの微量酸化物)の含有量が高く、これらの酸化物は希土類元素の励起下で表面エネルギーが高くなり、光の作用下で金属イオンが励起されて電子移動を起こし、釉薬層の表面に吸着された水と空気中のO2と、化学的活性の高いマイナス酸素イオン及びフリーラジカル-OH基を大量に生成し、このマイナス酸素イオン及びフリーラジカルが微生物と接触すると、微生物内の有機物をCO2とH2Oに酸化分解して短時間で殺菌作用を発揮する。
【0032】
烏蘭茶晶石の化学組成は、質量百分率で、SiO2:70~80%、Al2O3:10~15%、Fe2O3:0.05~0.15%、P2O5:0.25~0.35%、CaO:0.5~1.0%、MgO:0.1~0.3%、K2O:4.0~6.0%、Na2O:3.0~5.0%、La2O3:14~17ppm、CeO2:35~40ppm、Nd2O3:9~12ppm、Sm2O3:1~3ppm、Eu2O3:0.3~0.7ppm、Gd2O3:1~3ppm、Tb4O7:0.1~0.3ppm、Ho2O3:0.2~0.3ppm、Er2O3:0.4~0.7ppm、Tm2O3:0.05~0.1ppm、Yb2O3:0.4~0.7ppm、Lu2O3:0~0.3ppm、Y2O3:6~9ppm、強熱減量:0.5~1.0%を含んでもよい。烏蘭茶晶石は、さまざまな希土類金属元素を微量に含み、銀や酸化亜鉛等の抗菌剤を含まず、且つ、放射能が低く、高温耐性があり、効果が長く持続し、優れた抗菌機能があり、人体や環境に無毒で無害である。烏蘭茶晶石粉を釉薬に加えることで、陶磁器タイルに抗菌機能を持たせることができる。
【0033】
前記抗菌保護釉薬の鉱物組成は、質量百分率で、烏蘭茶晶石35~45%、粘土15~25%,カルシウム・マグネシウム・バリウム・亜鉛融剤鉱物30~42%、酸化アルミニウム5~8%を含んでもよい。当該抗菌保護釉薬の配合に強力フラックスの炭酸リチウムを大量に導入することを避けることで、炭酸リチウムの強力フラックス特性が希土類元素の抗菌作用に大きく影響する可能性を防ぐ。
【0034】
発明に使用される烏蘭茶晶石は多種の希土類イオンを含み、異なる希土類イオン同士は協働して抗菌作用を発揮することにより、抗菌陶磁器タイルの抗菌範囲を更に広げ、抗菌安定性をより良くさせるとともに、希土類イオンは釉薬層に均一に存在することにより、抗菌陶磁器タイルがある程度摩耗されても強力な抗菌効果を有する。
【0035】
一部の実施形態において、前記抗菌保護釉薬の鉱物組成は、質量百分率で、烏蘭茶晶石35~45%、酸化亜鉛3~5%、炭酸バリウム15~20%、仮焼滑石7~9%、カオリン15~25%,酸化アルミニウム5~8%、苦灰石5~8%を含んでもよい。
【0036】
素地に烏蘭茶晶石を使用しても、素地が釉薬で覆われると陶磁器タイル表面の抗菌性が低くなるため、陶磁器タイルの表面に抗菌性釉薬を施釉して抗菌性を付与する必要があり、そうすると間違いなくプロセスの複雑さと生産コストを増やす。さらに、実験から分かるように、烏蘭茶晶石は陶磁器素地の中に激しく反応することがなく、希土類元素の抗菌作用も低下しないものの、烏蘭茶晶石は保護釉薬の中に激しく反応し、希土類元素の抗菌作用を低下させる。これに対して、本発明は、特定含有量の烏蘭茶晶石と、アルカリ金属酸化物の含有量が高いカルシウム・マグネシウム・バリウム・亜鉛融剤鉱物とを組み合わせて、抗菌効果及び釉面品質を向上させることを提案している。
【0037】
上記原料の割合に従って抗菌保護釉薬を混合してボールミルで粉砕し、ふるいにかけて、保護釉薬の釉薬スラリーが得られる。ボールミルで粉砕する際に、混合後の原料に補助材料と水を加える。一部の実施形態において、前記保護釉薬の釉薬スラリーの配合率は、質量百分率で、保護釉薬の乾燥原料(即ち「保護釉薬原料の質量合計」)71.5%~73.5%,トリポリリン酸ナトリウム0.14~0.21%,カルボキシメチルセルロースナトリウム0.10~0.12%,水27~29%である。前記保護釉薬の325メッシュのふるい残分は ≦0.3wt%である。
【0038】
一部の実施形態において、前記抗菌保護釉薬の化学組成は、質量百分率で、SiO2:40%~50%、Al2O3:16%~20%、Fe2O3:0.21~0.31%、TiO2:0.21~0.31%、CaO:1.5~3.0%、MgO:3.0~5.0%、BaO:11~15%、ZnO:3~5%、K2O:2.0~3.0%、Na2O:1.3~2.3%、La2O3:4~9ppm、CeO2:9~20ppm、Nd2O3:2~6ppm、Sm2O3:0.03~1.5ppm、Eu2O3:0.09~0.35ppm、Gd2O3:0.3~1.5ppm、Tb4O7:0.03~0.15ppm、Ho2O3:0.06~0.15ppm、Er2O3:0.12~0.35ppm、Tm2O3:0.01~0.05ppm、Yb2O3:0.12~0.35ppm、Lu2O3:0~0.15ppm、Y2O3:1.8~4.5ppm,強熱減量:8~10%を含む。
【0039】
抗菌保護釉薬の40℃~400℃での線膨張係数は、6.0416×10-6/K~6.3516×10-6/Kであってもよい。抗菌保護釉薬の線膨張係数を当該範囲内に制御することにより、抗菌保護釉薬の線膨張係数が低いことによる陶磁器タイルのタイル形状への影響を避けるとともに、抗菌保護釉薬の配合に適応して抗菌保護釉薬の抗菌性能及び高釉面品質を確保することができる。
【0040】
パターンをインクジェット印刷したタイル素地の表面に抗菌保護釉薬を施釉する。吹き掛け施釉方法を利用して保護釉薬を施釉してもよい。一部の実施形態において、前記吹き掛け施釉の工程パラメータは、比重が1.35~1.40 g/cm3、重量が 250~300 g/m2である。
【0041】
本発明によれば、抗菌保護釉薬により陶磁器タイルに優れた抗菌性能を付与することができる。当該陶磁器タイルの大腸菌の抗菌率は≧90%、黄色ブドウ球菌の抗菌率は≧90%である。
【0042】
最後に、抗菌保護釉薬を施釉したタイル素地を焼成する。例示として、最高焼成温度は1220℃、焼成周期は70minである。
【0043】
従来の技術では、層状粘土を利用して粘土結晶層間にストロンチウムイオンと単一希土類イオンを吸着させることにより、希土類イオンで活性化される抗菌効果を実現し、抗菌粒子の耐熱性を向上させる。しかしながら、この粘土水溶液を使用する技術では、タイル表面に開気孔が多く発生し、タイルの焼結度も悪くなり、釉薬層の耐摩耗性が低下してしまう。本発明は、多種の希土類イオンの複合殺菌機能を利用し、層状粘土を使用する必要がなく、陶磁器タイルの耐摩耗性が比較的に優れている。
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。下記の実施例は本発明に対する更なる説明に過ぎず、本発明の保護範囲を限定するものではなく、当業者が本発明の上記内容に基づいてなされる非本質的な改良と変更は共に本発明の保護範囲に属する。下記の例における具体的な工程パラメータなども適合範囲内の一例に過ぎず、即ち、当業者が本発明の説明に基づいて適当な範囲内で選択できるものであり、下記例の具体的な数値に限定されるものではない。
【0045】
上釉及び抗菌保護釉薬の線膨張係数は、「陶磁器タイルの試験方法第8部分:線熱膨張の測定」(GB/T 3810.8-2016)に従って試験されている。陶磁器タイルの抗菌性試験方法は、「抗菌陶磁器製品の抗菌性能」(JC/T897-2014)規格に従って試験されている。陶磁器の耐摩耗性試験方法は、施釉タイル表面の耐摩耗性GB/T3810.7-2016規格に従って試験されている。
【0046】
実施例1
ステップ1では、素地粉状材料をプレス機で成形してタイル素地が得られる。
【0047】
ステップ2では、タイル素地を乾燥する。
【0048】
ステップ3では、乾燥後のタイル素地の表面に上釉を吹き掛け施釉する。上釉配合の鉱物組成は、質量百分率で、カリ長石35%、曹長石:20%、カオリン10%、石英砂10%、けい酸ジルコニウム10%、か焼カオリン10%、酸化アルミニウム5%を含む。上釉の化学組成は、質量百分率で、SiO2:64.65%、Al2O3:21.13%、Fe2O3:0.32%、TiO2:0.23%、CaO:0.44%、MgO:0.15%、K2O:2.14%、Na2O:3.37%、ZrO2:6.37%、強熱減量:1.5%を含む。上釉の40℃~400℃での線膨張係数は、8.1716×10-6/K~8.3916×10-6/Kである。
【0049】
ステップ4では、上釉を吹き掛け施釉したタイル素地の表面にパターンをインクジェット印刷する。
【0050】
ステップ5では、パターンをインクジェット印刷したタイル素地の表面に抗菌保護釉薬を吹き掛け施釉する。抗菌保護釉薬の鉱物組成は、質量百分率で、烏蘭茶晶石41%、酸化亜鉛4%、炭酸バリウム15%、仮焼滑石7%、カオリン20%、酸化アルミニウム5%、苦灰石8%を含む。前記抗菌保護釉薬の化学組成は、質量百分率で、SiO2:46.16%、Al2O3:17.37%、Fe2O3:0.25%、TiO2:0.24%、CaO:2.92%、MgO:4.09%、BaO:11.63%、ZnO:3.97%、K2O:2.60%、Na2O:1.74%、La2O3:7ppm、CeO2:15ppm、Nd2O3:4ppm、Sm2O3:1ppm、Eu2O3:0.18ppm、Gd2O3:0.77ppm、Tb4O7:0.07ppm、Ho2O3:0.09ppm、Er2O3:0.22ppm、Tm2O3:0.02ppm、Yb2O3:0.25ppm、Lu2O3:0.07ppm、Y2O3:2.9ppm、強熱減量:9.48%を含む。抗菌保護釉薬の40℃~400℃での線膨張係数は、6.0416×10-6/K~6.3516×10-6/Kである。
【0051】
ステップ6では、窯に入れて焼成する。最高焼成温度は1200~1220℃、焼成周期は60~70minである。
【0052】
試験によると、本実施例に係る陶磁器タイルの大腸菌の抗菌率は93.3%、黄色ブドウ球菌の抗菌率は91.8%、耐摩耗性能は2100rpm でレベル4である。
【0053】
比較例1
実施例1と基本的に同じであり、その違いは、抗菌保護釉薬の鉱物組成が、質量百分率で、烏蘭茶晶石20%、カリ長石粉21%、酸化亜鉛4%、炭酸バリウム15%、仮焼滑石7%、カオリン20%、酸化アルミニウム5%、苦灰石8%を含み、前記抗菌保護釉薬の化学組成が、質量百分率で、化学成分SiO2:44.57%、Al2O3:17.72%、Fe2O3:0.23%、TiO2:0.22%、CaO:2.77%、MgO:4.20%、BaO:11.67%、ZnO:3.97%、K2O:4.18%、Na2O:1.36%、La2O3:3.5pm、CeO2:7.5ppm、Nd2O3:2ppm、Sm2O3:0.5ppm、Eu2O3:0.09ppm、Gd2O3:0.38ppm、Tb4O7:0.03ppm、Ho2O3:0.05ppm、Er2O3:0.11ppm、Tm2O3:0.01ppm、Yb2O3:0.13ppm、Lu2O3:0.04ppm、Y2O3:1.5ppm、強熱減量:9.29%を含むことのみにある。
【0054】
試験によると、陶磁器タイルの大腸菌の抗菌率は40.7%、黄色ブドウ球菌の抗菌率は68.5%である。これは、烏蘭茶晶石の用量が低くて、抗菌効果が著しく低下するためである。
【0055】
比較例2
実施例1と基本的に同じであり、その違いは、抗菌保護釉薬の鉱物組成が、質量百分率で、烏蘭茶晶石41%、曹長石粉24%、炭酸バリウム5%、仮焼滑石2%、カオリン20%、酸化アルミニウム5%、苦灰石3%を含み、前記抗菌保護釉薬の化学組成が、質量百分率で、 SiO2:59.96%、Al2O3:20.37%、Fe2O3:0.24%、TiO2:0.23%、CaO:1.36%、MgO:1.79%、BaO:3.89%、K2O:3.93%、Na2O:3.47%、La2O3:7pm、CeO2:15ppm、Nd2O3:4ppm、Sm2O3:1ppm、Eu2O3:0.18ppm、Gd2O3:0.77ppm、Tb4O7:0.07ppm、Ho2O3:0.09ppm、Er2O3:0.22ppm、Tm2O3:0.02ppm、Yb2O3:0.25ppm、Lu2O3:0.07ppm、Y2O3:2.9ppm、強熱減量:4.91%を含むことのみにある。
【0056】
試験によると、陶磁器タイルの大腸菌の抗菌率は66.3%、黄色ブドウ球菌の抗菌率は77.5%である。当該比較例において、烏蘭茶晶石の用量が十分であるが、釉薬における酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、ジルコニア及び比較的大きな原子量を持つ幾つかの微量酸化物が少なく、特にアルカリ土類金属酸化物の含有量が10%以下となるため、抗菌釉薬が発生するマイナス酸素イオン及びフリーラジカル-OH基が少なくなり、抗菌効果も低下する。
【0057】
比較例3
実施例1と基本的に同じであり、その違いは、抗菌保護釉薬の鉱物組成が、質量百分率で、烏蘭茶晶石42%、曹長石粉20%、仮焼滑石5%、カオリン18%、酸化アルミニウム10%,苦灰石3%、酸化亜鉛:2%を含み、前記抗菌保護釉薬の化学組成が、質量百分率で、SiO2:58.71%、Al2O3:24.11%、Fe2O3:0.22%、TiO2:0.21%、CaO:1.35%、MgO:2.76%、K2O:3.96%、Na2O:3.13%、La2O3:7pm、CeO2:15ppm、Nd2O3:4ppm、Sm2O3:1ppm、Eu2O3:0.18ppm、Gd2O3:0.77ppm、Tb4O7:0.07ppm、Ho2O3:0.09ppm、Er2O3:0.22ppm、Tm2O3:0.02ppm、Yb2O3:0.25ppm、Lu2O3:0.07ppm、Y2O3:2.9ppm、強熱減量:3.62%を含むことのみにある。
【0058】
当該比較例において、烏蘭茶晶石長石の用量が十分であるが、カルシウム・マグネシウム・バリウム・亜鉛融剤鉱物の用量が少なく、且つ酸化アルミニウムを利用して釉面の光沢度を調整するため、釉面効果は
図3のように粗くて繊細感がない。また、釉面効果が悪いため、その抗菌性能も検出できなかった。