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特許7578846多彩な流雲表面装飾効果のある陶磁器プレートの製造方法
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  • 特許-多彩な流雲表面装飾効果のある陶磁器プレートの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】多彩な流雲表面装飾効果のある陶磁器プレートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/89 20060101AFI20241029BHJP
   C04B 33/34 20060101ALI20241029BHJP
   E04F 13/14 20060101ALI20241029BHJP
   C04B 41/86 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
C04B41/89 D
C04B33/34
E04F13/14 103A
E04F13/14 103C
C04B41/86 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023554912
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-29
(86)【国際出願番号】 CN2021135283
(87)【国際公開番号】W WO2022213633
(87)【国際公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-09-07
(31)【優先権主張番号】202110381419.6
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】515266393
【氏名又は名称】蒙娜麗莎集団股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】謝 志軍
(72)【発明者】
【氏名】▲ぱん▼ 偉科
(72)【発明者】
【氏名】欧陽 成
(72)【発明者】
【氏名】黄 玲艷
(72)【発明者】
【氏名】肖 偉榮
(72)【発明者】
【氏名】巫 資徳
(72)【発明者】
【氏名】盧 海鵬
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109455934(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111039697(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111847877(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106631172(CN,A)
【文献】特開2000-319082(JP,A)
【文献】特開2019-218242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/80-41/91
C04B 33/34
E04F 13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陶磁器基材をプレス成形して陶磁器プレートの素地が得られる、ステップと、
素地の表面に下釉を施釉して素地の地色及び欠陥をカバーする、ステップと、
下釉を施釉した素地の表面に上釉を施釉し、そのうち、鮮やかに発色するように前記上釉に0.2~0.7wt%の発色金属酸化物を導入し、前記上釉の化学組成は、発色金属酸化物の他、質量百分率で、強熱減量:6.5~7.5%、SiO2:48~53%、Al2O3:8~10%、TiO2:7~8%、CaO:10~13%、MgO:2.0~3.0%、K2O:3.0~4.0%、ZnO:9~11%をさらに含み、前記上釉の比重は1.55~1.58 g/cm3、施釉量は380~410 g/m2である、ステップと、
上釉を施釉した素地の表面にローラー効果釉薬を施釉し、ローラー印刷によって雲模様のパターンを上釉の表面に印刷し、前記ローラー効果釉薬の化学組成は、質量百分率で、SiO2:47~50%、Al2O3:7~9%、TiO2:12~13%、CaO:10~13%、MgO:2.0~3.0%、K2O:2.0~3.0%、Na2O:3.0~4.0%、ZnO:10~12%を含み、比重は1.28~1.32 g/cm3、施釉量は40~50g/m2であり、上釉の初期溶融温度がローラー効果釉薬よりも 5~10℃高いため、ローラー効果釉薬が上釉と接触するエッジには模様の浮き沈みのある浸透過渡特性を有する、ステップと、
ローラー印刷後の素地を乾燥し、窯に入れて焼成し、焼成時に金属光沢液を750~850℃の素地の表面にスプレーして金属光沢液膜層を形成し、前記金属光沢液の施用量は50~60 g/m2であり、形成された金属光沢液膜層の厚さは5~6 mmである、ステップと、
を含むことを特徴とする、多彩な流雲表面装飾効果のある陶磁器プレートの製造方法。
【請求項2】
前記発色金属酸化物は、酸化銅、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化マンガンのうち1つまたは複数の混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
最高焼成温度は1210~1230 ℃、焼成時間は90~100minであることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記下釉の化学組成は、質量百分率で、SiO2:65~67%、Al2O3:15~17%、MgO:1.0~1.2%、K2O:1.0~1.2%、Na2O:1.7~2.0%、ZrO2:8~10%を含み、前記下釉の施釉方法は吹き掛け施釉であり、下釉の比重は1.35~1.38 g/cm3、施釉量は200~230 g/m2であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築用陶磁器分野に属し、具体的には多彩な流雲表面装飾効果のある陶磁器プレート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、陶磁器プレートの製造技術の成熟に伴い、陶磁器プレートの応用市場はますます拡大し、顧客に愛顧されている。しかしながら、既存の生産技術に限界があるため、陶磁器プレートの表面装飾効果にも限界がある。現在、市場に出回っているほとんどの陶磁器製品は、インクジェット技術によるものであり、且つ主に研磨製品と、自然な表面を有する乾粒製品であり、全体的に装飾効果が比較的単一である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】中国特許出願公開第109455934号明細書
【文献】中国特許出願公開第102515876号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記欠陥に対して、本発明は、多彩な流雲表面装飾効果のある陶磁器プレート及びその製造方法を提案している。本発明の製造方法は、インクジェット印刷を使用することがなく、且つ、従来の多彩効果(光が媒体に直接照射され、屈折や反射することで彩光が発生する現象)と違い、鮮やかに発色する上釉を用いて、白い雲模様のパターンを上釉の上面にローラー印刷することで、上釉の表面に流雲効果を形成する。さらに、金属光沢液(着色光沢液)を利用して着色金属を陶磁器プレートの表面に付着させて、光に照射されると虹色効果を形成する。流雲効果と着色光沢液の虹色効果を重ね合わせて、光に直接照射されると多彩な流雲を形成する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の側面において、本発明は、
陶磁器基材をプレス成形して陶磁器プレートの素地が得られるステップと、
素地の表面に下釉を施釉して素地の地色及び欠陥をカバーするステップと、
下釉を施釉した素地の表面に、鮮やかに発色するように0.2~0.7wt%の発色金属酸化物が導入されている上釉を施釉するステップと、
上釉を施釉した素地の表面にローラー印刷するステップと、
ローラー印刷後の素地を乾燥し、窯炉に入れて焼成するステップと、
を含む、多彩な流雲表面装飾効果のある陶磁器プレートの製造方法を提供している。
【0006】
前記上釉は、好ましく高ケイ素上釉である。幾つかの技術案において、前記上釉の化学組成は、発色金属酸化物の他、質量百分率で、強熱減量:6.5~7.5%、SiO2:48~53%、Al2O3:8~10%、TiO2:7~8%、CaO:10~13%、MgO:2.0~3.0%、K2O:3.0~4.0%、ZnO:9~11%をさらに含む。上釉における発色金属酸化物の含有量は0.2~0.6wt%であることがさらに好ましい。
【0007】
好ましくは、前記上釉の比重は1.55~1.58 g/cm3、施釉量は380~410 g/m2である。
【0008】
好ましくは、前記発色金属酸化物は、酸化銅、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化マンガンのうち1つまたは複数の混合物である。
【0009】
素地の表面にローラー効果釉薬を施釉してローラー印刷してもよい。幾つかの技術案において、前記ローラー効果釉薬の化学組成は、質量百分率で、SiO2:47~50%、Al2O3:7~9%、TiO2:12~13%、CaO:10~13%、MgO:2.0~3.0%、K2O:2.0~3.0%、Na2O:3.0~4.0%、ZnO:10~12%を含む。
【0010】
好ましくは、前記ローラー効果釉薬の流速は17~20秒、比重は1.28~1.32 g/cm3、施釉量は40~50g/m2である。
【0011】
好ましくは、最高焼成温度は1210~1230℃、焼成時間は90~100minである。
【0012】
好ましくは、焼成時に金属光沢液を750~850℃の素地の表面にスプレーして金属光沢液膜層を形成する。前記金属光沢液の施用量は50~60 g/m2であってもよい。形成された金属光沢液膜層の厚さは5~6mmであってもよい。
【0013】
好ましくは、前記下釉の化学組成は、質量百分率で、SiO2:65~67%、Al2O3:15~17%、MgO:1.0~1.2%、K2O:1.0~1.2%、Na2O:1.7~2.0%、ZrO2:8~10%を含み、前記下釉の施釉方法は吹き掛け施釉であり、下釉の比重は1.35~1.38 g/cm3、施釉量は200~230 g/m2である。
【0014】
第2の側面において、本発明は、上記いずれか1項に記載の製造方法によって得られる多彩な流雲表面装飾効果のある陶磁器プレートを提供している。好ましくは、前記陶磁器プレートの規格は、長さ1800~3600mm×幅900~1600mm×高さ5.5~10.5mmである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は下記の有益な効果を有する。
【0016】
革新性として、本発明の製造方法では、鮮やかに発色する上釉を結びつけて、異なるパターンテクスチャのローラーを利用し、特別に開発されたローラー効果釉薬を陶磁器製品の表面に印刷して異なるテクスチャ効果を形成し、最後に、高温焼成の冷却時の所定温度下で金属光沢液を陶磁器タイルの表面にスプレーすることにより、立体感の強い多彩な流雲効果を有する陶磁器プレートを形成する。
【0017】
優れた装飾効果として、インクジェットによる一般的な陶磁器プレートと比較すると、本発明の陶磁器プレートは、表面の色が特に鮮やかで、階層感が特に強く、金属光沢液をスプレーした陶磁器プレートの表面には多彩な金属効果が発生し、光線によって独特の多彩な流雲効果を形成することができる。
【0018】
幅広い用途として、本発明は、環境要因に影響されず、様々な内外壁、地面装飾、大型板背景壁などに広く使用できる。
【0019】
清潔にしやすいこととして、本発明の陶磁器プレートは、完全に焼結されて吸水率が0.5wt%以内に制御され、光沢度の高い陶磁器タイルに属し、研磨プロセスが必要なく、タイルの表面にほとんど細孔が見えず、金属光沢液をスプレーした後、金属テクスチャの薄膜が形成され、汚れがつきにくくて清潔にしやすい。
【0020】
耐久性及び耐用性として、本発明の陶磁器プレートは、性能が安定し、時間や環境による影響が少なく、耐摩耗性が高く、新品のように長時間維持でき、使用寿命が長く、広闊な市場経済的利益を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施例1に係る多彩な流雲表面装飾効果のある陶磁器プレートのタイル表面効果図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施形態を結びつけて、本発明をさらに説明する。下記の実施形態は本発明を説明するためのものであり、本発明を制限するものではない。以下、各「%」は特に断りのない限り「質量%」を意味する。
【0023】
以下、本発明に係る多彩な流雲表面装飾効果のある陶磁器プレートの製造方法を例示的に説明する。
【0024】
陶磁器基材(「素地粉状材料」とも称される)をプレス成形して陶磁器プレートの素地を得る。前記陶磁器基材の化学組成及び原料組成は限定されず、本分野によく使用される陶磁器基材を使用すればよい。例示として、前記陶磁器基材の化学組成は、質量百分率で、強熱減量(IL):3.5~4.5%、SiO2:58~63%、Al2O3:25~30%、Fe2O3:0.5~0.8%、TiO2:0.3~0.6%、CaO:0.3~0.5%、MgO:1.1~1.5%、K2O:2.0~2.5%、Na2O:2.3~2.7%を含んでもよい。一部の実施形態において、前記陶磁器基材の原料組成は、質量百分率で、ナトリウム粉末18~21%、金砂15~18%、韶関産粘土5~8%、水洗粘土10~13%、黒滑石2~3%、焼成ボーキサイト13~18%、カリウム・アルミニウム砂20~25%、ベントナイト2~3%、中山産黒泥5~8%を含んでもよい。
【0025】
素地を乾燥する。乾燥窯で乾燥してもよい。前記乾燥プロセスは具体的な要件によって決められる。例えば、乾燥時間は1~1.2hであってもよく、乾燥後の素地の水分は0.5wt%以内に制御される。
【0026】
乾燥後の素地の表面に下釉を施釉する。それは、主に、素地の地色及び欠陥をカバーするためである。同時に、素地と下釉とは膨張係数が適合すること、即ち下釉の膨張係数は素地の膨張係数に近いことを確保必要がある。ジルコニウム白色下釉が好ましい。
【0027】
一部の実施形態において、前記下釉の化学組成は、質量百分率で、SiO2:65~67%、Al2O3:15~17%、 MgO:1.0~1.2%、K2O:1.0~1.2%、Na2O:1.7~2.0%、ZrO2:8~10%を含んでもよい。例えば、前記下釉の化学組成は、質量百分率で:IL:2.5~4.5%、SiO2:65~67%、Al2O3:15~17%、Fe2O3:0.3~0.5%、TiO2:0.05~0.3%、CaO:0.2~0.3%、MgO:1.0~1.2%、K2O:1.0~1.2%、Na2O:1.7~2.0%、ZrO2:8~10%を含んでもよい。
【0028】
上記下釉の原料組成は、質量百分率で、カリ長石30~35%、霞石17~20%、石英30~35%、仮焼滑石1~1.5%、カオリン10~12%、焼土3~4%、酸化アルミニウム1.0~2.0%、ケイ酸ジルコニウム8~10%を含んでもよい。
【0029】
前記下釉の施釉方法は吹き掛け施釉であってもよい。下釉比重は1.35~1.38g/cm3、施釉量は200~230g/m2であってもよい。
【0030】
下釉を施釉した素地の表面に上釉を施釉する。鮮やかに発色するように、前記上釉に適量の発色金属酸化物を導入する。下釉を施釉するプロセスを省略して素地の表面に上釉を直接施釉すれば、同じ上釉施釉量の場合でも、発色が暗くなって鮮やかさが低下する。
【0031】
上記上釉における発色金属酸化物の含有量は0.2~0.7wt%であることが好ましい。発色金属酸化物を過量に使用すると、上釉の発色が暗くなり、釉薬層の光沢が失われ、多彩な流雲効果が得られなくなる。上記発色金属酸化物は、酸化銅、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化マンガンなどが挙げられるが、これらに限定されない。異なる発色金属酸化物は、当該上釉系において異なる色を呈し、例えば、酸化銅を使用するときは新緑色、酸化コバルトを使用するときは青色、酸化マンガンを使用するときは赤褐色を呈する。
【0032】
上記上釉の化学組成は、質量百分率で、IL:6.5~7.5%、SiO2:48~53%、Al2O3:8~10%、TiO2:7~8%、CaO:10~13%、MgO:2.0~3.0%、K2O:3.0~4.0%、ZnO:9~11%、発色金属酸化物 0.2~0.7%を含んでもよい。上記上釉は高ケイ素上釉であり、主に高ケイ素且つ低アルミニウム成分であり、同時に、釉薬の粘度を低下させて釉薬の流動性及び光沢度を向上させるように、大量の酸化カルシウムを(例えばフリットによって)導入する。また、酸化物の発色の安定性を高めるように、上釉に酸化チタンと酸化亜鉛を添加する。
【0033】
一部の実施形態において、前記上釉の化学組成は、質量百分率で、IL:6.5~7.5%、SiO2:48~53%、Al2O3:8~10%、Fe2O3:0.1~0.2%、TiO2:7~8%、CaO:10~13%、MgO:2.0~3.0%、K2O:3.0~4.0%、Na2O:0.2~0.3%、CuO 0.3~0.5%、ZnO 9~11%、CoO 0.15~0.2%を含む。
【0034】
実験の結果、上記高ケイ素上釉を汎用の上釉(即ち、ケイ酸ジルコニウムを加入して汎用の顔料の発色を助けるもの)に変更したが、色がくすんで見えて鮮やかに発色することが実現できず、釉薬の流動性が悪く、全体的な階層感に影響を与ることが判明した。
【0035】
一部の実施形態において、前記上釉の原料組成は、質量百分率で、カリ長石25~30%、石英10~15%、方解石10~15%、焼成酸化亜鉛7~10%、中山黒泥5~8%、酸化チタン6~8%、仮焼滑石5~8%、フリットA 23~28%、フリットB 5~8%、発色酸化物0.2~0.5%を含んでもよい。フリットAの化学組成は、質量百分率で、IL:0.5~1.5%、SiO2:27~30%、Al2O3:8~10%、Fe2O3:0.1~0.2%、TiO2:0.2~0.5%、CaO:25~35%、MgO:0.5~1.0%、K2O:2.0~3.0%、Na2O:0.2~0.3%、ZnO:27~30%を含む。フリットBの化学組成は、質量百分率で、IL:0.5~1.5%、SiO2:48~50%、Al2O3:9~12%、Fe2O3:0.1~0.2%、TiO2:1~2%、CaO:23~28%、MgO:1.5~2.0%、K2O:3.0~4.0%、Na2O:2.0~3.0%、ZnO:8~10%を含む。
【0036】
上記上釉の初期溶融温度は950~1100℃である。上釉の初期溶融温度を上記範囲に制御することにより、焼結プロセスに有害なガスを完全に排出するとともに、釉薬層は相互浸透することなくブレンドされることができ、釉薬表面の平坦度を向上させて、多彩な流雲の階層感の維持に有利する。
【0037】
上記上釉の施釉方法は吹き掛け施釉であってもよい。上釉の比重は1.55~1.58 g/cm3、施釉量は380~410 g/m2であってもよい。上釉の施釉量を上記範囲に制御することにより、上釉の施釉量が少なすぎて発色が鮮やかでないことや、上釉の施釉量が多すぎで発色が暗くなることを防ぐことができる。また、上釉の施釉量が多すぎると、釉薬の熟成温度が高くなるため、窯の所定焼成温度下で熟成できず、くすみなどの欠陥が現れ、かつ、釉薬中の酸化物が多くなると釉薬層の透明度が低下し製品の階層感にさらに影響する。
【0038】
上釉を施釉した素地の表面にローラー印刷する。浮き沈みが異なるパターンテクスチャをローラー印刷することにより、鮮やかに発色する上釉と組み合わせて様々な模様効果を呈する。このローラー印刷は単ロール又はマルチロールの組み合わせを採用することができる。インクジェット印刷は、インクが上釉の表面で発色せず、且つ反発するため、階層感が悪くなる。さらに、本発明の上釉及びローラー効果釉薬では、二酸化チタンが乳白剤として使用され、この釉薬系においてインクが発色できず、多彩な流雲効果を実現できない。よって、インクジェット印刷の方法は本発明に適用しない。シルクスクリーン印刷によるパターンは単一で固定されており、パターンを柔軟に変更することができない。本発明は、ローラー印刷によってパターンを形成し、模様の浮き沈みのある過度性効果に優れ、連続生産時にパターンのランダムな組み合わせを実現でき、より芸術的になる。
【0039】
このローラー印刷効果は、素地の表面にローラー効果釉薬(「効果釉薬」又は「ローラー効果模様釉薬」とも称される)を施釉することで実現されている。前記ローラー効果釉薬の化学組成は、質量百分率で、SiO2:47~50%、Al2O3:7~9%、TiO2:12~13%、CaO:10~13%、MgO:2.0~3.0%、K2O:2.0~3.0%、Na2O:3.0~4.0%、ZnO:10~12%を含んでもよい。ローラー効果釉薬は、主に、酸化チタンの乳白効果を利用して雲模様を作り出す。
【0040】
ローラー効果釉薬と上釉の化学組成の差が大きすぎてはならず、両方の組成系が近くて反発することがなく、よりよくブレンドされることができるように、上記上釉とローラー効果釉薬は協同して明確的な階層感のある群雲効果を実現する。好ましくは、上釉の初期溶融温度はローラー効果釉薬よりも5~10℃高い。それは、ローラー効果釉薬が上釉と接触するエッジの浸透過渡特性より良くさせるためである。使用される上釉の初期溶融温度が効果釉薬よりも低い場合、上釉が効果釉薬の上面を局所的にカバーし、効果釉薬が上釉に沈み込んで、本発明の目的を実現できなくなる。さらに、気を付けるべきことは、ローラー効果釉薬に発色金属酸化物を添加すると、マルチロールの組合せを使用するとき、釉薬中における酸化物の重なりにより、上釉とローラー効果釉薬とのエッジ過度性が悪くなり、多彩な流雲効果が低下する。本発明は、ローラー印刷によって雲模様のパターンを上釉の表面に印刷し、上釉の色とはっきりとしたコントラストを形成し、視覚的に明確な効果をより良く形成できる。
【0041】
一部の実施形態において、前記ローラー効果釉薬の化学組成は、質量百分率で、IL:5.5~7.0%、SiO2:47~50%、Al2O3:7~9%、Fe2O3:0.1~0.2%、TiO2:12~13%、CaO:10~13%、MgO:2.0~3.0%、K2O:2.0~3.0%、Na2O:3.0~4.0%、ZnO:10~12%を含む。
【0042】
上記ローラー効果釉薬の原料組成は、質量百分率で、カリ長石10~15%、曹長石15~20%、石英12~15%、方解石10~12%、焼成酸化亜鉛(calcined zinc oxide)10~13%、中山黒泥5~8%、酸化チタン12~15%、仮焼滑石5~6%、フリットA 15~20%、フリットB 3~5%を含んでもよい。フリットAの化学組成は、質量百分率で、IL:0.5~1.5%、SiO2:27~30%、Al2O3:8~10%、Fe2O3:0.1~0.2%、TiO2:0.2~0.5%、CaO:25~28%、MgO:0.5~1.0%、K2O:2.0~3.0%、Na2O:0.2~0.3%、ZnO:27~30%を含んでもよい。フリットBの化学組成は、質量百分率で、IL:0.5~1.5%、SiO2:48~50%、Al2O3:9~12%、Fe2O3:0.1~0.2%、TiO2:1~2%、CaO:23~25%、MgO:1.5~2.0%、K2O:3.0~4.0%、Na2O:2.0~3.0%、ZnO:8~10%を含んでもよい。
【0043】
実験の結果、上記ローラー効果釉薬の原料組成に大量の焼成酸化亜鉛及び酸化チタンを導入することでローラー効果釉薬の流動性が劣ることが判明した。従って、本発明では、ローラー効果釉薬の釉薬スラリーの比率を調整することにより、ローラー効果釉薬の性能を著しく改善し、ローラー印刷によってパターンを素地の表面に完璧に印刷して多彩な流雲を形成することができる。一部の実施形態において、前記ローラー効果釉薬の釉薬スラリーは、重量部で、100重量部のローラー効果釉薬、100~150重量部の印刷インク、10~30重量部の接着剤除去剤、0.1~0.5重量部のカルボキシメチルセルロースナトリウム、0.1~0.5重量部のトリポリリン酸ナトリウム、 1~10重量部の水を含む。このように、ローラー効果のパターンの流動性に優れ、明確さが高く、立体感が良好で、ロールに粘着することがなく、連続生産することができる。一部の実施形態において、前記ローラー効果釉薬の流速は17~20秒、比重は1.28~1.32 g/cm3、施釉量は40~50g/m2であってもよい。ローラー効果釉薬の流速も比重も低くて、施釉量が同じである場合、雲模様はぼやけることがある。逆に、ローラー効果釉薬の比重も流速も高い場合、高温溶融時に効果釉薬の過度性が悪いため、境界が明確になり、多彩な流雲効果を形成することができなくなる。且つ、ローラー効果釉薬の施釉量が多すぎると、釉薬面に光沢がなくなることもある。
【0044】
本発明の上記化学組成の上釉とローラー効果釉薬とは、高温溶融時に光沢度の高い釉薬層を形成することができるとともに、ガラス化度が良好で表面にピンホールなどの欠陥がない。よって、本発明の製造方法では、多彩な流雲パターンを形成する陶磁器素地の表面に透明フリット層を施す必要がない。
【0045】
高屈折率の透明釉薬を使用して多彩な真珠光沢を形成することと異なり、本発明は、鮮やかに発色する上釉を使用し、異なるパターンをローラー印刷して流雲効果を形成し、最後に金属光沢液をスプレーし、高温作用により釉薬層の表面に焼き付けて、光の照射下で、真珠のように多彩感のある多彩な流雲表面装飾効果を形成する。そのうち、多彩な流雲を形成するために主な技術的課題は、第一に、釉薬層が、着色光沢液の釉薬層表面への付着に有利な高ケイ素且つ低アルミニウム系を満たす必要があることと、第二に、上釉とローラー効果釉薬の配合が近い、効果釉薬と上釉とは互いに反発することなくブレンドされて、階層が明確な群雲効果(層状雲効果)を実現することである。
【0046】
ローラー印刷後の素地を乾燥し窯に入れて焼成する。
【0047】
当該焼成プロセスにおいて、最高焼成温度は1210~1230℃、焼成時間は90~100minである。好ましくは、焼成時に金属光沢液を750~850℃の素地表面にスプレーする。金属光沢液を釉薬表面に施すことにより、750~800℃の温度で焼成すると金属や真珠の光彩を呈する。前記光沢液は市販品から得られることができ、例えば、樹脂にビスマスや各種金属塩を混合して金属石鹸とし、油混合物に溶解させて製造される有機液体顔料が用いられる。発明を実施するための形態では、金属光沢液は、仏山市森彩亮装飾材料有限公司から購入されたものであり、品番が25Aである。
【0048】
金属光沢液の施用量は50~60 g/m2であってもよい。このように、金属光沢液の彩色効果が鮮やかで、視覚効果が良好であり、生産要件を満たすことができる。
【0049】
一部の実施形態において、窯の頂部にスイングアーム式自動スプレーガンを設置し、焼成時の高温冷却段階で、例えば750~850℃まで冷却する際に、金属光沢液をスイングアーム自動スプレーガンによって陶磁器プレートの表面にスプレーする。スプレーガンの移動速度及び金属光沢液の施用量を調整することで金属光沢液膜層の厚さを制御する。プレーガンの移動速度は55~65m/minであってもよい。金属光沢液膜層の厚さは5~6mmであってもよい。
【0050】
最後にエッジ研磨及び等級付けを行って梱包する。当該製品は、明るい鏡面効果があり、釉薬表面にはピンホールがなく滑らかであり、同時に、光沢液が素地の表面に膜を形成して陶磁器プレートの表面に付着し、ローラー効果釉薬によって形成される流雲効果と組み合わせて、最終的に多彩な流雲効果のある陶磁器プレートを形成する。上記製品は研磨が不要なため、製造時に研磨によるエネルギー消費を回避することができる。
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。下記の実施例は本発明に対する更なる説明に過ぎず、本発明の保護範囲を限定するものではなく、当業者が本発明の上記内容に基づいてなされる非本質的な改良と変更は、共に本発明の保護範囲に属する。下記の例における具体的な工程パラメータなども適合範囲内の一例に過ぎず、即ち、当業者が本発明の説明に基づいて適当な範囲内で選択できるものであり、下記例の具体的な数値に限定されるものではない。
【0052】
実施例1
多彩な流雲表面装飾効果のある陶磁器プレートの製造方法は、
陶磁器基材をプレス成形して素地が得られ、素地を乾燥窯に入れて乾燥するステップ1と、
乾燥後の素地の表面に比重が1.35 g/cm3、施釉量が200~230 g/m2である下釉を吹き掛けるステップ2と、
下釉を吹き掛けた素地の表面に比重が1.56 g/cm3、施釉量が380~410 g/m2である上釉を吹き掛けるステップ3と、
上釉を吹き掛けた素地の表面にローラー印刷し、ローラーのテクスチャ及びローラー効果釉薬の印刷により、異なるパターンの模様を呈し、前記ローラー効果釉薬の比重は1.28~1.32 g/cm3であステップ4と、
ローラー印刷後の素地を窯に入れて焼成し、焼成温度が750~800℃までに冷却される窯の頂部にスイングアーム式自動スプレーガンを設置し、自動スプレーガンの移動速度及び金属光沢液のスプレー量を調整することで金属光沢液の膜層の厚さを制御し、金属光沢液のスプレー量は50~60g/m2であるステップ5と、
エッジ研磨を行って梱包するステップ6と、を含む。
【0053】
比較例1
当該比較例は、実施例1と基本的に同じであり、その違いは、前記上釉の化学組成が、IL:2.5~4.5%、SiO2:60~63%、Al2O3:12~15%、Fe2O3:0.3~0.5%、TiO2:0.05~0.3%、CaO:7.5~10.5%、MgO:2.0~4.5%、K2O:1.0~2.0%、Na2O:0.5~1.0%、ZrO2:8~10%を含み、前記上釉の原料組成が、質量百分率で、フリットC:15~18%、カリ長石:35~38%、方解石:12~16%、滑石:8~10%、カオリン:8~10%、中山黒泥:3~5%、酸化亜鉛:3~5%、霞石:8~10%、ケイ酸ジルコニウム:8~10%、炭酸バリウム:3~5%を含み、フリットCの化学組成が、質量百分率で、IL:0.3~0.5%、SiO2:55~58%、Al2O3:13~15%、Fe2O3:0.1~0.2%、TiO2:0.02~0.05%、CaO:10~12%、MgO:2.0~2.5%、K2O:5.0~6.5%、Na2O:0.3~0.6%、ZnO:3~5%を含み、上記上釉を使用するとき、発色を補助するために、上釉に汎用の顔料、具体的にはゴールデンブラウン816、バナジウムジルコニウム青またはコバルトブルーを1~10%添加することのみにある。
【0054】
しかしながら、当該比較例で得られた陶磁器プレートは十分に鮮やかに発色できず、流動性が悪く、明確な階層感を実現できない。
【0055】
比較例2
当該比較例は、実施例1と基本的に同じであり、その違いは、前記ローラー効果釉薬の化学組成が、質量百分率で、IL:0.3~0.5%、SiO2:56~59%、Al2O3:12~15%、Fe2O3:0.1~0.2%、TiO2:0.02~0.05%、CaO:8~10%、MgO:2.0~2.5%、K2O:3.0~3.5%、Na2O:0.3~0.6%、ZnO:3~5%、ZrO2:5~8%を含むことのみにある。この場合、ローラー効果釉薬の流動性が良くなったものの、発色が悪く、ピンホールが発生しやすく、階層感も良くなくなる。また、発色の弱い汎用の顔料は、高カルシウム及び高マグネシウムの光沢釉薬において黄色に且つ暗く発色し、同時に、初期融点が低く、上釉との成分の差が大きいため、異なる成分が反応してブレンドされ、階層感効果が悪くなり、局所的に釉薬の乾燥及びピンホールなどの現象が発生する。
【0056】
比較例3
当該比較例は、実施例1と基本的に同じであり、その違いは、上釉の化学組成が、質量百分率で、IL:0.5~1.5%、SiO2:52~55%、Al2O3:5~8%、Fe2O3:0.1~0.2%、TiO2:1~2%、CaO:23~28%、MgO:1.5~2.0%、K2O:3.0~4.0%、Na2O:2.0~3.0%、ZnO:8~10%を含み、ローラー効果釉薬の化学組成が、質量百分率で、IL:0.5~1.5%、SiO2:48~50%、Al2O3:9~12%、Fe2O3:0.1~0.2%、TiO2:1~2%、CaO:23~25%、MgO:1.5~2.0%、K2O:3.0~4.0%、Na2O:2.0~3.0%、ZnO:8~10%を含むことのみにある。当該上釉の初期溶融温度が低く調整され、酸化アルミニウムの含有量が減少されることにより、得られた上釉の発色がよくて、結晶花も明らかであるものの、釉薬が素地のエッジに粘着しやくなる。かつ、この場合、ローラー効果釉薬と上釉が多くブレンドされ、タイル面の流雲効果がぼやけ、局所的にピンホールの膨れや釉薬の乾燥等の現象が発生する。これは、主に、上釉の初期融点の低下により、上釉がローラー効果釉薬と不適合なためである。
【0057】
比較例4
当該比較例は、実施例1と基本的に同じであり、その違いは、上釉の化学組成が、質量百分率で、IL:1.5~4.5%、SiO2:58~65%、Al2O3:13~20%、 Fe2O3:0.1~0.3%、TiO2:0.01~0.02%、CaO:10~15%、MgO:2.5~4.0%、K2O:2.0~4.0%、Na2O:1.0~3.0%、ZnO:3~4%,BaO:3.0~5.0%,P2O5:0.2~0.3%を含み、ローラー効果釉薬の化学組成が、質量百分率で,IL:0.5~1.5%、SiO2:48~50%、Al2O3:9~12%、Fe2O3:0.1~0.2%、TiO2:1~2%、CaO:23~25%、MgO:1.5~2.0%、K2O:3.0~4.0%、Na2O:2.0~3.0%、ZnO:8~10%を含むことのみにある。当該比較例では、上釉系と効果釉薬とが大きく異なり、上釉に添加された酸化物がこの実験で呈色できない、または明らかに発色できないため、要件を満たすことができず、且つ効果釉薬が上釉に沈み込んで、局所的に釉薬の乾燥及び膨れなどの現象が発生する。
図1