(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】ウェザーストリップ
(51)【国際特許分類】
B60J 10/15 20160101AFI20241029BHJP
B60J 10/50 20160101ALI20241029BHJP
B60J 10/84 20160101ALI20241029BHJP
B60J 10/86 20160101ALI20241029BHJP
【FI】
B60J10/15
B60J10/50
B60J10/84
B60J10/86
(21)【出願番号】P 2024134712
(22)【出願日】2024-08-10
【審査請求日】2024-08-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000196107
【氏名又は名称】西川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105175
【氏名又は名称】山広 宗則
(74)【代理人】
【識別番号】100105197
【氏名又は名称】岩本 牧子
(72)【発明者】
【氏名】村井 友亮
(72)【発明者】
【氏名】松本 圭吾
【審査官】高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-313234(JP,A)
【文献】特開2009-1710(JP,A)
【文献】特開2024-106084(JP,A)
【文献】特許第7418641(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 10/00-10/90
B60R 13/06
E06B 7/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の開閉体周縁又はボディ開口周縁に取付けられる取付基部と、前記取付基部に一体成形され前記開閉体の閉時にボディ開口周縁又は開閉体周縁に弾接するシール部を備えたウェザーストリップであって、
前記シール部の表面には、ベースにフィラーが添加された塗膜が形成されており、
前記フィラーはその平均粒子径が15~20μmで、かつその10%変形強度が0.1MPa以下であることを特徴とするウェザーストリップ。
【請求項2】
前記ベースはナノインデンテーションテスタで圧子の最大押込み荷重を20μNに設定して計測した場合の硬度が46MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載のウェザーストリップ。
【請求項3】
前記ベースの厚みは20μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のウェザーストリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のサイドドア,バックドア,トランクリッド,フード等の開閉体の周縁又はボディの開口周縁に取付けられ、開閉体の閉時にボディ側又は開閉体に弾接して開閉体とボディとの間をシールするウェザーストリップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、
図1及び
図2に示すように、車両のドアなどの開閉体1の周縁に取付けられる取付基部10と、その取付基部10に一体成形され開閉体1の閉時にボディ2側の開口周縁に弾接する、表面に塗膜50が形成された中空シール部20を備えたウェザーストリップ(ドアウェザーストリップ)200が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、自動車用ウェザーストリップの塗膜50には異音防止性向上を目的にシリコーン粒子やポリウレタンゲル粒子といったフィラーが添加されることも知られている(特許文献2、特許文献3参照)。ここでいう異音とは、走行時の振動等によってボディとウェザーストリップが摺動する際に生じるきしみ音のことであり、特に雨天などでウェザーストリップがやや濡れた状態、いわゆるセミウェットで生じやすく、車両品質を悪化させる一因となる。フィラーを添加することで滑り性が向上し、きしみ音の発生が低減できる。
一方、表1に示すように、粒子径の大きなフィラーは、異音防止性は向上するのに対して、粒子径の小さなフィラーと比較して止水性が悪化する傾向にある。
これは開閉体1が閉じられてウェザーストリップ200がボディ2に接触すると、シール部20の塗膜50の表面に存在するフィラーとボディ2との間に微小な隙間が生じることによる影響と考えられる。つまり、
図3(a)に示すように、粒子径の小さなフィラーが添加されている場合は、粒子径の大きなフィラーと比較して隙間が小さいので浸入可能な水量が少なく止水性が良好であるのに対し、
図3(b)に示すように、粒子径の大きなフィラーが添加されている場合は、粒子径の小さなフィラーと比較して隙間が大きいので止水性が悪化していると考えられる。
【0004】
【0005】
このように、従来、シール部の表面にフィラーが添加された塗膜が形成されている自動車用ウェザーストリップは、異音防止性と止水性が背反性能となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第7418641号公報
【文献】特開2009-1710号公報
【文献】特開2000-313234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的とするところは、シール部の表面に形成された塗膜にフィラーが存在しても、異音防止性を維持しつつ、かつ止水性を確保できるウェザーストリップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明のウェザーストリップは、車両の開閉体(1)周縁又はボディ(2)開口周縁に取付けられる取付基部(10)と、前記取付基部(10)に一体成形され前記開閉体(1)の閉時にボディ(2)開口周縁又は開閉体(1)周縁に弾接するシール部(20)を備えたウェザーストリップ(200)であって、
前記シール部(20)の表面には、ベース(60)にフィラー(70)が添加された塗膜(50)が形成されており、 前記フィラー(70)はその平均粒子径が15~20μmで、かつその10%変形強度が0.1MPa以下であることを特徴とする。
【0009】
また本発明は、前記ベース(60)はナノインデンテーションテスタで圧子の最大押込み荷重を20μNに設定して計測した場合の硬度が46MPa以下であることを特徴とする。
【0010】
また本発明は、前記ベース(60)の厚み(S)は20μm以下であることを特徴とする。
【0011】
なお、括弧内の記号は、図面および後述する発明を実施するための形態に記載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車両の開閉体周縁又はボディ開口周縁に取付けられる取付基部と、前記取付基部に一体成形され前記開閉体の閉時にボディ開口周縁又は開閉体周縁に弾接する、ベースにフィラーが添加された塗膜が表面に形成されたシール部を備えたウェザーストリップにおいて、前記フィラーの平均粒子径が15~20μmと大きいので、前記シール部の異音防止性を向上させることができる。
それに加えて、フィラーの10%変形強度が0.1MPa以下と小さいので、シール部とそれが相対向する相手部品(ウェザーストリップがドアなどの車両の開閉体周縁に取付けられた場合はボディ開口周縁、逆にウェザーストリップがボディ開口周縁に取付けられた場合は開閉体周縁)との間に挟まれた前記フィラーが変形することで、フィラーと相手部品との間の隙間が小さくなり、これにより止水性の悪化を防止することができる。
このように、粒子径が大きくかつ10%変形強度の小さいフィラーを用いることで、異音防止性と止水性を両立させることができる。
【0013】
また本発明によれば、ベースをナノインデンテーションテスタで圧子の最大押込み荷重を20μNに設定して計測した場合の硬度が46MPa以下としたので、さらに異音防止性を向上させることができる。
【0014】
また本発明によれば、フィラーの平均粒子径が15~20μmであるのに対して、ベースの厚みを20μm以下としたので、塗膜の表面に露出しないフィラーの量が減り、フィラーの能力を十分発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係るウェザーストリップ200を示す断面図である。
【
図2】
図1に示すウェザーストリップ200が撓んだ状態を示す断面図である。
【
図3】従来例に関する塗膜が形成されたウェザーストリップ200の要部を模式的に示した、
図2のA-A線拡大断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に関する塗膜が形成されたウェザーストリップ200の要部を模式的に示した、
図2のA-A線拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係るウェザーストリップ200について、
図1,
図2及び
図4を参照して説明する。
このウェザーストリップ200は、車両の開閉体1、ここではサイドドア1に取付けられる取付基部10と、その取付基部10に一体成形されサイドドア1の閉時に、ボディ2開口周縁に弾接する、スポンジゴム製で、しかも表面に塗膜50が形成された中空シール部20を備えたものである。
なお、図面上の塗膜50の厚みは分かりやすくするためのイメージであり、実際の塗膜の厚みはμm(ミクロン)単位で、中空シール部20の厚みはmm(ミリ)単位のため、塗膜の厚みは中空シール部20の厚みの約1000分の1のオーダーになる。
【0017】
本発明の実施形態に係るウェザーストリップ200の中空シール部20を構成するスポンジゴムとしては、比重0.40のものを使用した。
【0018】
比重はウェザーストリップ200の中空シール部20を切り取る等して分離し、水中置換法によって求めることができる。
【0019】
中空シール部20は、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)を主体とするゴム材料を使用したものであるが、EPDMに限らず、他の合成ゴムを主体とするゴム材料や、各種熱可塑性エラストマーでもよい。
【0020】
そして、中空シール部20の表面に形成された塗膜50は、
図4に示すように、ベース60にフィラー70が添加されたもので、塗膜50のフィラー70の平均粒子径を15~20μmとし、かつフィラー70の10%変形強度を0.1MPa以下のものとした。ここでは、フィラー70の粒子の平均粒子径が20μm、かつ10%変形強度が0.1MPaのものを使用した。
【0021】
これは、次に示す表2のように、フィラーの平均粒子径が、8μm→15μm→20μmと大きくなる程、異音防止性が良く、表3のように、10%変形強度が、25.0MPa→10.0MPa→0.5MPa→0.1MPaと小さくなる程、止水性能が良いことが評価により判明したためである。
【0022】
なお、フィラーの10%変形強度の測定は、微小粒子圧壊力測定装置 NS-A300型(株式会社ナノシーズ製)を用い、JISZ8844:2019 微小粒子の破壊強度及び変形強度の測定方法に準拠して行った。粒子径は画像解析ソフトウェアを用い、測定時の画像から、圧子と粒子を付着させる平面によって挟まれた粒子の径(長さ)を計測した。
【0023】
フィラー70はシリコーン粒子を使用したが、10%変形強度が0.1MPa以下であればシリコーンに限らず、ポリエチレン,ナイロン,アクリル,ウレタン,フッ素のような他の材質によるものでもよい。
【0024】
ベース60は水性ポリウレタン樹脂(固形分30%)にカルボジイミド系の硬化剤を配合したものを用いたが、とくに限定されるものではない。
【0025】
また、ベース60の硬度は46MPa以下のものが好ましく、ここでは46MPaのものを使用した。
【0026】
これは、次に示す表4のように、ベース60の硬度が、205MPa→122MPa→46MPa→26MPaと低くなる程、異音防止性が良いことが評価により判明したためである。
【0027】
なお、ベース60の硬度の測定は、試験機(ナノインデンテーションテスタ)としてアントンパール社製の「UNHT3」、圧子としてバーコビッチ圧子を使用して、圧子の最大押込み荷重を20μNに設定し、負荷/除荷速度を600μN/minに設定し、ISO14577に準拠して行った。中空シール部20を縦10mm、横10mmの正方形に切り出し、それを測定検体とした。測定検体の厚みは約1.8mmである。
【0028】
フィラー70とベース60の重量比は、フィラー70が1に対してベース60が6以下となることが好ましく、ここではフィラー70が1に対してベース60が2になるように配合した。
【0029】
なお、表2、表4における異音防止性評価は、セミウェット時のきしみ音の発生を官能評価したものであり、「○」は異音がしないと評価した場合、「△」は異音が僅かにすると評価した場合、「×」は異音がすると評価した場合を示した。
また、表3における止水性評価は、雨天時を再現してウェザーストリップが相対向する面に弾接したときの水漏れを評価したものであり、弾接部に水を供給して通過するまでの時間を測定し、「○」は30分以上の場合、「△」は10~30分未満の場合、「×」は10分未満の場合を示した。
【0030】
ベース60の厚みSは、フィラー露出の観点から、20μm以下とすることが好ましい。より好ましくは17μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。ここではベース60の厚みSを20μmとした。厚みSの下限は特に限定されないが、中空シール部20の耐久性能を維持する観点から、1μm以上であることが好ましく、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは3μm以上である。
【0031】
なお、ベース60の厚みSは、画像解析ソフトウェアを用い、中空シール部20の断面の表面をデジタルマイクロスコープによって拡大表示させた画像から、測定地点におけるベース60の中空シール部20に対する垂直方向の長さを計測した。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
このように構成されたウェザーストリップ200によれば、中空シール部20の表面に形成される塗膜50のフィラー70の平均粒子径が15~20μmと大きいので、中空シール部20がボディ2開口周縁に弾接しているときの異音防止性を向上させることができる。
それに加えて、フィラー70の10%変形強度が0.1MPa以下と小さいので、
図4に示すように、中空シール部20とそれが相対向する相手部品(ボディ2開口周縁)との間に挟まれたフィラー70が変形することで、フィラーと相手部品(ボディ2開口周縁)との間の隙間が小さくなり、これにより止水性の悪化を防止することができる。
このように、粒子径が大きくかつ10%変形強度の小さいフィラーを用いることで、異音防止性と止水性を両立させることができる。
【0036】
また、ベース60の硬度を46MPa以下としたので、さらに異音防止性を向上させることができる。
【0037】
また、フィラー70の平均粒子径が15~20μmであるのに対して、ベースの厚みを20μm以下としたので、塗膜の表面に露出しないフィラー70の量が減り、フィラー70の能力を十分発揮させることができる。
【0038】
なお、本実施形態では、サイドドア1の周縁に沿って取付けられ、ボディ2開口周縁に弾接するドアウェザーストリップ200を例に説明したが、それとは逆に、ボディ2開口周縁に沿って取付けられ、ドア閉時にサイドドア1の周縁に弾接するドアウェザーストリップでもよい。また、中空シール部20はリップのような中実でもよい。また、中空シール部20はスポンジゴムに限らず、ソリッドゴムの単層やソリッドゴムとスポンジゴムが複層になるように構成していてもよい。また、スポンジゴムの比重は0.40より高くても低くてもよい。また、自動車のバックドア,トランクリッド,フード等の開閉体に取付けられるウェザーストリップなど、どのようなウェザーストリップにも適用可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 開閉体(サイドドア)
2 ボディ
10 取付基部
20 中空シール部
50 塗膜
60 ベース
70 フィラー
200 ウェザーストリップ
W 水
【要約】
【課題】表面に形成された塗膜にフィラーが存在しても異音防止性を維持しつつ、かつ止水性を確保できるウェザーストリップを提供する。
【解決手段】車両の開閉体1周縁又はボディ2開口周縁に取付けられる取付基部10と、その取付基部10に一体成形され前記開閉体1の閉時にボディ2側の開口周縁又は開閉体1側の開口周縁に弾接する、ベース60にフィラー70が添加された塗膜50が表面に形成されたシール部20を備えたウェザーストリップ200であって、フィラー70はその平均粒子径が15~20μmで、かつその10%変形強度が0.1MPa以下である。
【選択図】
図4