(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】植物栽培装置および植物の栽培方法
(51)【国際特許分類】
A01G 31/00 20180101AFI20241029BHJP
【FI】
A01G31/00 601D
(21)【出願番号】P 2024531309
(86)(22)【出願日】2024-02-16
(86)【国際出願番号】 JP2024005536
【審査請求日】2024-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2023038056
(32)【優先日】2023-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】石原 良行
(72)【発明者】
【氏名】中南 暁夫
(72)【発明者】
【氏名】安部 常浩
(72)【発明者】
【氏名】相澤 航一
【審査官】小林 直暉
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-149962(JP,U)
【文献】特開平04-023927(JP,A)
【文献】特開2019-205426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物体を載置する底面を有し、当該底面を傾斜させた栽培槽と、
前記栽培槽内に養液を供給するための第1の給液部材と、
前記底面の傾斜方向に沿って延設された第2の給液部材と、を備え、
前記第2の給液部材は、前記養液を吐出するための複数の吐出孔を備え、
前記複数の吐出孔は、前記底面の傾斜方向に沿って配置されて
おり、
前記底面に、前記第2の給液部材が載置される凸部が設けられ、
前記凸部の上に前記第2の給液部材が載置されている、
植物栽培装置。
【請求項2】
前記凸部は、前記底面に向かって傾斜する傾斜部を有している、請求項
1に記載の植物栽培装置。
【請求項3】
前記底面に、植物体が載置される溝が設けられている、請求項1に記載の植物栽培装置。
【請求項4】
前記溝は、前記底面の傾斜方向に沿って延設されている、請求項
3に記載の植物栽培装置。
【請求項5】
前記溝を複数備え、
前記第2の給液部材は、隣り合う前記溝の間に配置されている、
請求項
3に記載の植物栽培装置。
【請求項6】
前記植物体の位置決め部材をさらに備え、
前記位置決め部材は、前記栽培槽の上に配置されたときの前記溝に対応する位置に、複数の植え穴を有している、請求項
3に記載の植物栽培装置。
【請求項7】
前記底面の傾斜方向に沿って隣り合う前記植え穴同士の間隔が、150mm以上、250mm以下である、
請求項
6に記載の植物栽培装置。
【請求項8】
前記栽培槽の外寸幅が250mm以上、400mm以下である、
請求項1に記載の植物栽培装置。
【請求項9】
前記底面は長手方向に傾斜している、請求項1に記載の植物栽培装置。
【請求項10】
イチゴ栽培用装置である、請求項1に記載の植物栽培装置。
【請求項11】
前記養液の供給量を制御するための養液供給量制御装置を備え、
当該養液供給量制御装置は、前記第1の給液部材からの単位時間当たりの養液供給量と前記第2の給液部材からの単位時間当たりの養液供給量の合計に対する、前記第2の給液部材からの単位時間当たりの養液供給量の比率が、0.2以上、0.4以下となるように、前記第1の給液部材および前記第2の給液部材からの養液の供給量を制御する、
請求項1に記載の植物栽培装置。
【請求項12】
請求項1から
11のいずれか1項に記載の植物栽培装置を用いる植物の栽培方法であって、
前記底面上に、または当該底面に植物体が載置される溝が設けられている場合は前記溝の底面上に、植物体を配置する配置工程と、
前記第1の給液部材および前記第2の給液部材のそれぞれから前記栽培槽の底面上に養液を供給する養液供給工程と、を含み、
前記養液供給工程では、前記第1の給液部材からの単位時間当たりの養液供給量と前記第2の給液部材からの単位時間当たりの養液供給量の合計に対する、前記第2の給液部材からの単位時間当たりの養液供給量の比率が、0.2以上、0.4以下となるように、前記第1の給液部材および前記第2の給液部材から養液を供給する、植物の栽培方法。
【請求項13】
前記植物体の少なくとも一部が、透水部を有する容器に収容されている、請求項
12に記載の植物の栽培方法。
【請求項14】
前記植物体の根鉢部と、前記容器の内壁との間に、透水性を有するシート部材を有する、請求項
13に記載の植物の栽培方法。
【請求項15】
前記容器および前記シート部材の少なくとも1つは、生分解性を有する材料から形成されている、請求項
14に記載の植物の栽培方法。
【請求項16】
前記養液は、電気伝導度が0.2dS/m以上、1.0dS/m以下である、請求項
12に記載の植物の栽培方法。
【請求項17】
前記植物はイチゴである、請求項
12に記載の植物の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物栽培装置および植物の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の栽培法として、薄膜水耕法(NFT法)が知られている。特許文献1には、植物体を保持し、該植物体の根系へ培養液を供給する、少なくとも二方向以上の傾斜面を有する栽培ベッドと、該栽培ベッドの傾斜面に該培養液を供給する培養液供給手段と、該栽培ベッドから、培養液を排出する培養液回収手段を有することを特徴とする水耕栽培装置が開示されている。
【0003】
特許文献2には、底面に勾配をもたせた栽培ベッド槽と、該栽培ベッド槽の上に配置された、複数の植え穴が穿設された定植パネル板とを有し、該植え穴の下方の前記栽培ベッド槽の底面に苗架台が設けられており、該苗架台の下面側と該栽培ベッド槽の底面との間に通気空間が形成され、該苗架台上に植物が配置される養液栽培用部材において、該苗架台上の植物の根または苗架台の上面に養液が掛かるように散水する散水部材を備えたことを特徴とする養液栽培用部材が開示されている。
【0004】
特許文献3には、透水性を有するシート部材、および、容器の底と前記シート部材との間に養液の流路となる隙間を形成するように前記シート部材を支持する支持部材、を備える、植物栽培装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2007-89489号公報
【文献】日本国特開2019-205426号公報
【文献】日本国特開2022-171427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えばイチゴの栽培において、生産性向上の観点から、栽植密度を高めたいという要求がある。このため、単位面積あたりに設置できる栽培槽の数を増やすために、キュウリなどの他の植物栽培用の栽培槽よりも小さい栽培槽が用いられることがある。小さい栽培槽では、ルートマットが栽培槽の底面上に広がる余地が少ないため、ルートマットが高さ側に成長し、厚さが厚くなる傾向がある。また、イチゴのように栽培期間が長期間(例えば、6~12か月間)にわたる場合にも、ルートマットの厚さが厚くなる傾向がある。その結果、形成されたルートマットによって下流に向かう養液の流れがせき止められて、養液の流れの上流と下流との間で養液の濃度および温度の勾配がつきやすいという問題がある。
【0007】
本発明の一態様は、養液の流れの上流と下流との間での養液の濃度および温度の勾配を小さくすることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の態様1に係る植物栽培装置は、植物体を載置する底面を有し、当該底面を傾斜させた栽培槽と、前記栽培槽内に養液を供給するための第1の給液部材と、前記底面の傾斜方向に沿って延設された第2の給液部材と、を備え、前記第2の給液部材は、前記養液を吐出するための複数の吐出孔を備え、前記複数の吐出孔は、前記底面の傾斜方向に沿って配置されている構成である。栽培槽内に供給された養液は、前記底面上を前記底面の傾斜方向に沿って流れる。上記の構成とすることにより、本発明の態様1に係る植物栽培装置では、養液の流れの上流と下流との間での養液の濃度および温度の勾配を小さくすることができる。
【0009】
本発明の態様2に係る植物栽培装置は、上記の態様1において、前記底面に、前記第2の給液部材が載置される凸部が設けられ、前記凸部の上に前記第2の給液部材が載置されていることが好ましい。これにより、第2の給液部材から吐出された養液を凸部の側面を沿わせて給液出来るため、第2の給液部材から離間する方向に養液を良好に拡散させることができる。
【0010】
本発明の態様3に係る植物栽培装置は、上記の態様2において、前記凸部は、前記底面に向かって傾斜する傾斜部を有していることが好ましい。凸部が傾斜部を有していることで、第2の給液部材から離間する方向への養液の拡散がより良好になる。
【0011】
本発明の態様4に係る植物栽培装置は、上記の態様1~3のいずれか1つにおいて、前記底面に、植物体が載置される溝が設けられていることが好ましい。底面に溝を設けることによって、栽培槽の底面と溝の底面との間に高低差が生じ、養液が溝内に流れ込むことで、溝内に養液を効率良く導くことができる。その結果、溝内に置かれた植物体に対して、養液を首尾よく供給することができる。
【0012】
本発明の態様5に係る植物栽培装置は、上記の態様4において、前記溝は、前記底面の傾斜方向に沿って延設されていることが好ましい。溝が前記底面の傾斜方向に沿って延設されることで、溝の中の養液の流れが良好になる。
【0013】
本発明の態様6に係る植物栽培装置は、上記の態様4または5において、前記溝を複数備え、前記第2の給液部材は、隣り合う前記溝の間に配置されていることが好ましい。溝を複数備える場合に、隣り合う前記溝の間に第2の給液部材が配置されることで、溝毎の養液の濃度および温度の差を小さくすることができる。
【0014】
本発明の態様7に係る植物栽培装置は、上記の態様4~6のいずれか1つにおいて、前記植物体の位置決め部材をさらに備え、前記位置決め部材は、前記栽培槽の上に配置されたときの前記溝に対応する位置に、複数の植え穴を有していることが好ましい。これにより、植物体を植え穴に挿入して定植することで、植物体を植え穴の下に対峙する溝上に載置することができる。また、溝上の前記底面の傾斜方向の植物体の位置も決まる。
【0015】
本発明の態様8に係る植物栽培装置は、上記の態様7において、前記底面の傾斜方向に沿って隣り合う前記植え穴同士の間隔が、150mm以上、250mm以下である構成としてもよい。これにより、例えば前記植物がイチゴである場合に、受光体制および受光効率を良好にすることができる。
【0016】
本発明の態様9に係る植物栽培装置は、上記の態様1~8のいずれか1つにおいて、前記栽培槽の外寸幅が250mm以上、400mm以下である構成としてもよい。これにより、単位面積あたりに設置できる栽培槽の数を増やすことができ、その結果、栽植密度を高めることによって植物栽培の生産性を向上させることができる。
【0017】
本発明の態様10に係る植物栽培装置は、上記の態様1~9のいずれか1つにおいて、前記底面は長手方向に傾斜していることが好ましい。これにより、第1の給液部材から養液を吐出する幅を狭くしても、栽培槽の幅方向の養液の均一供給を可能とすることができる。
【0018】
本発明の態様11に係る植物栽培装置は、上記の態様1~10のいずれか1つにおいて、イチゴを栽培用装置としてもよい。本発明の一態様に係る植物栽培装置は、栽培期間が比較的長期間にわたり厚いルートマットが形成されるイチゴの栽培用装置として好適に用いることができる。
【0019】
本発明の態様12に係る植物栽培装置は、上記の態様1~11のいずれか1つにおいて、前記養液の供給量を制御するための養液供給量制御装置を備え、当該養液供給量制御装置は、前記第1の給液部材からの単位時間当たりの養液供給量と前記第2の給液部材からの単位時間当たりの養液供給量の合計に対する、前記第2の給液部材からの単位時間当たりの養液供給量の比率が、0.2以上、0.4以下となるように、前記第1の給液部材および前記第2の給液部材からの養液の供給量を制御することが好ましい。第1の養液供給量および第2の養液供給量を上記の範囲に制御することにより、養液の流れ方向の上流と下流との間での養液の濃度および温度の勾配を小さくすることができる。
【0020】
本発明の態様13に係る植物の栽培方法は、上記の態様1~12のいずれか1つの植物栽培装置を用いる植物の栽培方法であって、前記底面上に、または当該底面に植物体が載置される溝が設けられている場合は前記溝の底面上に、植物体を配置する配置工程と、前記第1の給液部材および前記第2の給液部材のそれぞれから前記栽培槽の底面上に養液を供給する養液供給工程と、を含み、前記養液供給工程では、前記第1の給液部材からの単位時間当たりの養液供給量と前記第2の給液部材からの単位時間当たりの養液供給量の合計に対する、前記第2の給液部材からの単位時間当たりの養液供給量の比率が、0.2以上、0.4以下となるように、前記第1の給液部材および前記第2の給液部材から養液を供給する方法である。本発明の態様13に係る植物の栽培方法は、養液の流れの上流と下流との間での養液の濃度および温度の勾配を小さくすることができる。
【0021】
本発明の態様14に係る植物の栽培方法は、上記の態様13において、前記植物体の少なくとも一部が、透水部を有する容器に収容されていてもよい。本発明の一態様に係る植物の栽培方法において、植物体は、NFTの養液の流れる底面上または当該底面に設けられた溝内に、容器に収容された状態で定植される。容器を用いることで、養液の流れに従って培地が流出することを防止できるため、植物体の姿勢を保持できる。その結果、例えば、均一な受光を促進することができる。後述する位置決め部材を有する場合は、当該位置決め部材と容器を一体化して固定できるため、簡便である。
【0022】
本発明の態様15に係る植物の栽培方法は、上記の態様14において、前記植物体の根鉢部と、前記容器の内壁との間に、透水性を有するシート部材を有していることが好ましい。これにより、養液の流れによって透水部から培地が流出することを防ぐことができる。
【0023】
本発明の態様16に係る植物の栽培方法は、上記の態様15において、前記容器および前記シート部材の少なくとも1つは、生分解性を有する材料から形成されていることが好ましい。これにより、使用後の片付けで分別が不要になり、作業負荷を軽減することができる。また、環境負荷を低減することも可能である。
【0024】
本発明の態様17に係る植物の栽培方法は、上記の態様13~16のいずれか1つにおいて、前記養液は、電気伝導度が0.2dS/m以上、1.0dS/m以下としてもよい。上記範囲の電気伝導度を有する養液は肥料成分の濃度が薄いため、養液の濃度差が植物の生育に顕著に影響し易い。本発明の一態様に係る植物の栽培方法によれば、養液の流れの上流と下流との間での養液の濃度の勾配を小さくすることができるので、肥料成分の濃度が比較的薄い養液を用いた植物の栽培にも適している。
【0025】
本発明の態様18に係る植物の栽培方法は、上記の態様13~17のいずれか1つにおいて、前記植物はイチゴであってもよい。本発明の一態様に係る植物の栽培方法は、栽培期間が比較的長期間にわたり厚いルートマットが形成されるイチゴの栽培方法として好適である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様によれば、養液の流れの上流と下流との間での養液の濃度および温度の勾配を小さくすることができる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態1に係る植物栽培装置の構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す植物栽培装置において、定植パネル板を外した構成の一部を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態1に係る植物栽培装置の構成を示す断面図であり、
図1に示すA-A’線に沿う矢視断面図である。
【
図4】定植パネル板の構成の一例を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<1.植物栽培装置>
〔概要〕
本発明の一態様に係る植物栽培装置は、植物体を載置する底面を有し、当該底面を傾斜させた栽培槽と、前記栽培槽内に養液を供給するための第1の給液部材と、前記底面の傾斜方向に沿って延設された第2の給液部材と、を備え、前記第2の給液部材は、前記養液を吐出するための複数の吐出孔を備え、前記複数の吐出孔は、前記底面の傾斜方向に沿って配置されている、構成である。
【0029】
また、本発明の別の一態様に係る植物栽培装置は、底面を傾斜させた栽培槽と、前記栽培槽内に養液を供給するための第1の給液部材と、前記底面の傾斜方向に沿って延設された第2の給液部材と、を備え、前記底面に、植物体が置かれる溝が設けられており、前記第2の給液部材は、前記養液を吐出するための複数の吐出孔を備え、前記複数の吐出孔は、前記底面の傾斜方向に沿って配置されている、構成としてもよい。
【0030】
本発明の一態様に係る植物栽培装置は、NFT法によって植物を栽培する用途に特に適している。本発明の一態様によれば、NFT法による植物栽培装置において、形成されたルートマットによって下流に向かって養液の流れがせき止められることに起因して生じる、養液の流れの上流と下流との間での養液の濃度および温度の勾配を小さくすることができる。その結果、栽培槽内の養液の流れの全域にわたって植物を良好に生育させることができ、植栽される植物全体の生育の均一性を高めることができる。
【0031】
(養液)
本発明の一態様に係る植物栽培装置において、栽培槽内に供給される養液は、植物の栽培に用いられる水であれば特に限定されないが、例えば、窒素、リン、カリウムなど何れかの肥料成分を含有する水であることが好ましい。
【0032】
本発明の一態様に係る植物栽培装置において、第1の給液部材から供給される養液と、第2の給液部材から供給される養液とは、組成が同一であってもよく、異なっていてもよい。栽培槽を流れ終わった養液を回収し、栽培槽に戻して再循環させる場合は、組成が同一の養液を、第1の給液部材および第2の給液部材からそれぞれ供給することが好ましい。
【0033】
(植物体)
本発明の一態様に係る植物栽培装置において、栽培槽の底面上または当該底面に設けられた溝内に置かれる植物体は、植物の種子または植物の苗である。培地を用いて育苗した場合、培地ごと苗を定植に用いることができることから、植物体は、セル成型苗であることが好ましい。本発明の一態様において、植物体は、養液の流れるところに定植される。このため、植物体の少なくとも一部が、透水部を有する容器に収容されていることが好ましい。従って、本発明において、「植物体が置かれる」とは、植物体の少なくとも一部が収容された前記容器が置かれることも含む意味である。
【0034】
容器は、植物栽培に通常用いられるポットなどの容器を好適に用いることができる。容器の形状は特に限定されない。容器内に養液が浸透できるように、容器は透水部を有することが好ましい。透水部は、水や養液が出入りでき、発根可能な構造であれば特に限定されない。例えば、適度な間隔を有する開口を有する構造や、メッシュ構造とすることができる。透水部は、水深が浅いときにも植物に給水できるようにすることから、底面に設けられることが好ましく、発根のしやすさ、側根の発生の促進の観点で、さらに容器の側面に設けられることが好ましい。
【0035】
養液の流れによって透水部から培地が流出することを防ぐ観点から、植物体の根鉢部と、前記容器の内壁との間に、透水性を有するシート部材を有することが好ましい。透水性を有するシート部材としては、培地を透過せず且つ水分や養液が含有する成分を透過可能なシート部材であれば特に限定されない。透水性を有するシート部材は、透水性に加えて、シート内に水分を保持することができる保水性、またはシートの表面に水分が濡れ広がることができる親水性の少なくとも一方の性質をさらに有していてもよく、保水性および親水性の両方の性質をさらに有していてもよい。透水性を有するシート部材が保水性をさらに有することで、透水性を有するシート部材が養液を吸い上げて保持することができるため、植物体に対して、養液を効率よく供給することができる。また、透水性を有するシート部材が親水性をさらに有することで、透水性を有するシート部材が養液とよく馴染むため、透水性を有するシート部材の全面にわたってより均一に養液を行き渡らせることができる。
【0036】
透水性を有するシート部材としては、例えば、公知の農業用の遮根シート又は根切りシート;衣類等の生地として通常使用される織布(例えば、綿製、ポリエステル製、または麻製の織布等);農業用不織布(例えば、綿、レーヨン、アクリル、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエステル等の繊維を含む不織布)などを好適に使用することができるが、使用後の片付けで分別が不要になり、作業負荷を軽減することができること、また、環境負荷を低減することも可能であることから、ポリ乳酸(PLA)シートなどの生分解性プラスチック製のものも挙げることができる。生分解性プラスチックとしては、PLA、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)、バイオPBS、ポリブチレンアジペートテレフタラート(PBAT)、澱粉ポリエステル樹脂、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)およびポリエチレンテレフタラートサクシネート(PETS)からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、バイオ由来であることから、PLAがより好ましい。
【0037】
環境への負荷を軽減する観点から、前記容器および前記透水性を有するシート部材の少なくとも1つは、生分解性を有する材料から形成されていることが好ましい。生分解性を有する材料としては、例えば、PLA、PHBH、バイオPBS、PBAT、澱粉ポリエステル樹脂、酢酸セルロース、PVA、PGA、PBS、PBSAおよびPETSからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、バイオ由来であることから、PLAがより好ましい。PLAは、生分解性を有しており、且つ植物由来の原料から製造することができることから、前記容器および前記透水性を有するシート部材の材料として好適に用いることができる。
【0038】
本発明の一態様に係る植物栽培装置において栽培できる植物としては、特に限定されない。本発明の一態様に係る植物栽培装置において、あらゆる植物を栽培することができ、そのような植物として、例えば、イチゴ、ハーブ類、葉茎菜類、マメ類などが挙げられる。上述のとおり、本発明の一態様に係る植物栽培装置は、厚いルートマットが形成される植物の栽培にも適している。厚いルートマットが形成される植物としては、例えば、イチゴ、ハーブ類、葉茎菜類、マメ類などを挙げることができる。本発明の一態様に係る植物栽培装置は、イチゴ栽培用装置とすることができる。
【0039】
〔実施形態1〕
以下に、本発明の一実施形態に係る植物栽培装置について、
図1~
図4を用いて説明する。
図1は、本発明の実施形態1に係る植物栽培装置1の構成を示す斜視図である。
図2は、
図1に示す植物栽培装置1において、定植パネル板40を外した構成の一部を示す斜視図である。
図3は、本発明の実施形態1に係る植物栽培装置1の構成を示す断面図であり、
図1に示すA-A’線に沿う矢視断面図である。
図4は、定植パネル板40の構成の一例を示す上面図である。実施形態1では、栽培槽の底面に、植物体が載置される溝が設けられ、当該溝内に植物体が載置される態様について説明する。
【0040】
図1に示すように、実施形態1に係る植物栽培装置1は、栽培槽10と、吐水口(第1の給液部材)20と、ドリップチューブ(第2の給液部材)30と、定植パネル板(位置決め部材)40と、を備えている。
【0041】
(栽培槽10)
栽培槽10は、植物の栽培が行なわれる場である。栽培槽10の底面10aは長手方向に傾斜している。栽培槽10の最上流端(栽培槽10において水平面からの高さが最も高い位置にある端部)には、栽培槽10内に養液を供給するための吐水口20が設けられている。
【0042】
栽培槽10の底面10aが特定の方向に傾斜していることにより、吐水口20から栽培槽10に供給された養液は、底面10a上を、自重によって栽培槽10内を上流から下流へと流れる。本明細書において、栽培槽10において吐水口20から供給された養液が底面10a上を流れる方向を、「養液の流れ方向」という。図中の矢印F1は、底面10aの傾斜方向を表す。栽培槽10内を上流から下流へと向かう養液の流れ方向は、この底面10aの傾斜方向F1と同じである。栽培槽10の底面10aを長手方向に傾斜させることで、第1の給液部材から養液を吐出する幅を狭くしても、栽培槽の幅方向の養液の均一供給を可能とすることができ、また、第1の給液部材の養液の吐出口を栽培槽の短手方向に設けられることから、配管の長さを短くすることができる。
【0043】
栽培槽10の底面10aの傾斜面の傾きは、吐水口20から栽培槽10内に供給された養液が長手方向の最上流端から最下流端に向けて流水勾配を有するように適宜設定される。例えば、本実施形態では、栽培槽10の底面10aは、水平面に対して約1/100の勾配で傾斜させているが、本発明はこれに限定されない。例えば、底面10aを水平面に対して約1/80~1/200の範囲で勾配をもたせて傾斜させることができる。なお、本実施形態では、栽培槽10全体を水平面に対して傾斜させて設置することで、底面10aを傾斜させているが、底面10aが傾斜するように栽培槽10の底板の上面を成形することで、栽培槽10を水平に設置する形態としてもよい。
【0044】
図2に示すように、栽培槽10の底面10aには、2つの溝11と、1つの凸部12とが設けられている。溝11および凸部12は、底面10aの傾斜方向F1に沿って延設されている。凸部12は、隣り合う2つの溝11の間に設けられている。
【0045】
図3に示すように、溝11の底面11a上には、植物体Pが置かれる。底面10aに溝11を設けることによって、栽培槽10の底面10aと溝11の底面11aとの間に高低差が生じ、養液が溝11内に流れ込むことで、溝11内に養液を効率良く導くことができる。その結果、溝11内に置かれた植物体Pに対して、養液を首尾よく供給することができる。また、溝11が底面10aの傾斜方向F1に沿って延設されることで、溝11内の養液の流れが良好になる。
【0046】
凸部12上には、ドリップチューブ30が載置される。凸部12の上面には、ドリップチューブ30の位置決め用の溝12bが設けられており、ドリップチューブ30は溝12b上に配置される。さらに、凸部12は、底面10aに向かって傾斜する傾斜部12aを有している。凸部12の形状は特に限定されないが、凸部12が底面10aに傾斜部12aを有していることにより、凸部12上に載置されたドリップチューブ30からの、ドリップチューブ30から離間する方向(例えば、栽培槽10の短手方向)への養液の拡散がより良好になる。
【0047】
なお、
図3には、一例として、栽培槽10の底面10aに2つの溝11が設けられ、凸部12は、隣り合う2つの溝11の間に設けられた構成を図示しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、栽培槽10の底面10aに設けられる溝11の数は、1つであってもよく、または2つよりも多くてもよい。また、凸部12の数は、植物栽培装置1が備えるドリップチューブ30の数に応じて決定すればよい。また、凸部12を設ける底面10a上の位置は、ドリップチューブ30を配置する位置に応じて決定すればよい。
【0048】
栽培槽10の大きさは任意に決定することができる。一例として、栽培槽10を複数個連結した一つのベッドの長手方向の長さは、10m以上が好ましく、15m以上がより好ましい。また、ベッドを構成する各栽培槽10の長手方向の長さは、1500mm以下が好ましく、1200mm以下がより好ましく、1000mmが特に好ましい。
【0049】
栽培槽10の外寸幅W1は、250mm以上が好ましく、280mm以上がより好ましい。また、外寸幅W1は、400mm以下とすることができ、350mm以下が好ましく、320mm以下がより好ましい。栽培槽10の外寸幅W1が上記範囲であることにより、単位面積あたりに設置できる栽培槽の数を増やすことができ、その結果、栽植密度を高めることによって単位面積当たりの植物栽培の生産性を向上させることができる。
【0050】
また、栽培槽10の内寸幅W2は、システムのコンパクト化の観点から、200mm以上が好ましく、220mm以上がより好ましい。内寸幅W2の上限は特に限定されないが、外寸幅W1の90%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましい。
【0051】
栽培槽10の底板の下面から定植パネル板40の下面までの高さH1は、システムのコンパクト化の観点から、50mm以上が好ましく、60mm以上がより好ましい。また、高さH1は、75mm以下が好ましく、70mm以下がより好ましい。
【0052】
また、溝11の底面11aから定植パネル板40の下面までの高さH2は、苗の根鉢部との関係性の観点から、28mm以上が好ましく、32mm以上がより好ましい。高さH2の上限は特に限定されないが、強度と断熱性の観点から、高さH1の60%以下であることが好ましく、55%以下であることがより好ましい。
【0053】
また、栽培槽10の底面10aから定植パネル板40の下面までの高さH3は、根鉢部への通気の確保の観点から、35mm以上が好ましく、40mm以上がより好ましい。高さH3の上限は特に限定されないが、栽培初期の養液の流れの確保の観点から、高さH2の90%以下であることが好ましく、88%以下であることがより好ましい。
【0054】
溝11の大きさは特に限定されず、植物体Pを配置することができる程度の大きさに適宜設定することができる。溝11の開口の幅W3は、確実な養液の供給の観点から、65mm以上が好ましく、70mm以上がより好ましい。幅W3の上限は特に限定されないが、湿気空間の確保の観点から、栽培槽10の内寸幅W2の35%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。
【0055】
また、溝11の底面11aの幅W4は、養液の流れを確実に確保する観点から、40mm以上が好ましく、45mm以上がより好ましい。幅W4の上限は特に限定されないが、定植直後の水深の確保の観点から、幅W3の90%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましい。
【0056】
凸部12の大きさは特に限定されず、適宜設定することができる。凸部12の幅W5は、ドリップチューブ30からの養液の拡散性の観点から、100mm以上が好ましく、108mm以上がより好ましい。幅W5の上限は特に限定されないが、栽培初期の養液の流れの確実な確保の観点から、栽培槽10の内寸幅W2の55%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。なお、ここでいう「凸部12の幅」は、凸部12の底面における幅を意味する。
【0057】
また、溝11の底面11aから凸部12の最も高い位置までの高さH4は、ドリップチューブ30からの養液の拡散性の観点から、5mm以上が好ましく、8mm以上がより好ましい。高さH4の上限は特に限定されないが、栽培中期・後期における有効な養液の流れの確保の観点から、栽培槽10の底面10aから定植パネル板40の下面までの高さH3の40%以下であることが好ましく、35%以下であることがより好ましい。
【0058】
栽培槽10は、断熱材で形成されていることが好ましい。これにより、栽培槽10の内部が外温の影響を受けにくくなる。断熱材としては、例えば、ポリスチレンフォームなどの公知の断熱材を挙げることができる。中でも、ポリスチレンフォームは、安価且つ軽量であることから、栽培槽10を形成する材料として好適に使用することができる。栽培槽10から養液が漏れ出すことを防止する目的で、栽培槽10の内面の少なくとも養液と接する部分を防水シートまたは遮水シート(図示しない)で被覆することが好ましい。防水シートまたは遮水シートとしては、水分を透過しにくいか、または全く透過しない材質のものであれば特に限定されず、公知の防水シートまたは遮水シートを好適に使用することができる。
【0059】
(吐水口20)
吐水口20は、栽培槽10内に養液を供給する。吐水口20には、栽培槽10の底面10a上を流れるように養液を供給可能であれば、その構成は特に限定されない。
【0060】
本実施形態では、栽培槽10の最上流端に吐水口20が設けられている構成について例を挙げて説明を行ったが、本発明はこれに限定されない。栽培槽10の底面10a上に極力均一に養液を供給可能であれば、吐水口20が設けられる位置は特に限定されない。
【0061】
(ドリップチューブ30)
ドリップチューブ30は、栽培槽10の底面10a上に養液を供給する。
図2に示すように、ドリップチューブ30は、底面10aの傾斜方向F1に沿って延設されている。ドリップチューブ30は、養液を吐出するための複数の吐出孔31を備え、複数の吐出孔31は、底面10aの傾斜方向F1に沿って配置されている。ドリップチューブ30は、凸部12上に載置されている。
【0062】
図2に示すように、ドリップチューブ30の各吐出孔31から吐出された養液は、凸部12の傾斜部12aに沿って流れて(
図2に破線矢印で示す流れF2)、溝11内に流れ込む。このように、ドリップチューブ30を備えることで、養液の流れ方向に沿って養液を供給することができるため、栽培槽10の下流側にも養液を供給することができる。その結果、養液の流れ方向の養液の濃度および温度の勾配を小さくすることができる。
【0063】
ドリップチューブ30は、底面10aの傾斜方向F1に沿って延設されていればよく、底面10a上の配置位置は特に限定されない。しかし、栽培槽10の底面10aに溝11を複数設ける場合には、ドリップチューブ30は、隣り合う溝11の間に配置されることが好ましい。これにより、ドリップチューブ30から隣り合う2つの溝11に対して同じように養液を給液することができるため、隣り合う2つの溝11間の養液の濃度および温度の差を小さくすることができる。
【0064】
また、ドリップチューブ30を凸部12上に載置することで、ドリップチューブ30の吐出孔31と溝11の底面11aとの間に高低差をより生じさせることができるため、吐出孔31から供給された養液が自重によって溝11内に流れ込み易くなる。
【0065】
また、凸部12の側面(傾斜部12a)を沿わせて養液を給液できるため、ドリップチューブ30から離間する方向(例えば、栽培槽10の短手方向)への養液の拡散が良好となる。その結果、栽培槽10の短手方向の養液の濃度および温度の勾配をより小さくすることができる。
【0066】
ドリップチューブとしては、点滴灌水用に通常用いられるものを使用することができる。例えば、ネタフィム製、ストリームラインなどを挙げることができる。
【0067】
なお、本実施形態では、第2の給液部材の一例としてドリップチューブ30を用いているが、底面10aの傾斜方向F1に沿って養液を供給することができるものであれば、ドリップチューブに限定されない。第2の給液部材としては、管状部材であり、且つ管の長手方向に沿って複数の吐出孔が配置されているものを好適に用いることができ、例えば、三菱ケミカルアグリドリーム株式会社製、エバフローTMなど、通常用いられる散水チューブを用いることができる。
【0068】
また、本実施形態では、2つの溝11に対して、1つのドリップチューブ30を配置した構成について例を挙げて説明をおこなったが、本発明はこれに限定されない。ドリップチューブ30の数は、溝11の数に対して適宜決定することができる。
【0069】
また、本実施形態では、栽培槽10が複数の溝11を備える場合に、隣り合う溝11の間にドリップチューブ30を配置した構成について例を挙げて説明をおこなったが、本発明はこれに限定されない。ドリップチューブ30を配置する位置は適宜決定することができ、ドリップチューブ30と隣り合わない溝11が存在するようにドリップチューブ30を配置してもよい。
【0070】
また、本実施形態では、1つのドリップチューブ30について、1つの凸部12が設けられ、ドリップチューブ30が凸部12上に載置される構成について例を挙げて説明をおこなったが、本発明はこれに限定されない。ドリップチューブ30が溝11の底面11aよりも高い位置から給液できればよいため、栽培槽10の底面10aに凸部12を設けず、底面10a上に直接、ドリップチューブ30を載置してもよい。また、ドリップチューブ30を栽培槽10の底面10a上に配置せずに、定植パネル板40に吊支してもよい。
【0071】
(定植パネル板40)
定植パネル板40は、栽培槽10の開放上部に載置されている。定植パネル板40は、栽培槽10と同じ断熱材で形成されていることが好ましい。これにより、栽培槽10の内部が外温の影響を受けにくくなり、栽培槽10内の養液の温度を一定温度に保つことが可能となる。また、栽培槽内を流れる養液の水深を浅くし、水面と定植パネル板の下面との間に空間を設けることで、この空間を湿気空間とすることができ、湿気空間で生育する、植物の根への酸素供給を可能とする。
【0072】
図4に示すように、定植パネル板40には、底面10aの傾斜方向F1に沿って複数個の植え穴41が一定間隔で穿設されている。
図3に示すように、定植パネル板40の植え穴41は、定植パネル板40が栽培槽10の上に配置されたときの溝11に対応する位置に設けられている。これにより、植物体Pを植え穴41に挿入して定植することで、植物体Pを植え穴41の下に対峙する溝11上に載置することができる。
【0073】
底面10aの傾斜方向F1(
図4に示す定植パネル板40の長手方向)に沿って隣り合う植え穴41同士の間隔は特に限定されず、栽培される植物の種類などにより適宜設計することができる。底面10aの傾斜方向F1に沿って隣り合う植え穴41同士の間隔S1は、例えば植物がイチゴの場合は、良好な受光体制の観点から、150mm以上であることが好ましく、180mm以上であることがより好ましい。また、受光効率の観点から、間隔S1は、250mm以下であることが好ましく、220mm以下であることがより好ましい。ここで、間隔S1は、隣り合う植え穴41の中心間の距離を意味する。
【0074】
また、植え穴41の形状は、
図4に図示するような円筒形状の他に、角柱形状や、その他のいかなる形状であってもよい。本発明の一態様に係る植物栽培装置1では、
図3に示すように、植物体Pは、セル成型苗P1がポット(容器)P2に収容された状態で溝11に置かれる。このため、植え穴41の形状は、ポットP2の外周形状の相似形であることが好ましい。これにより、植え穴41におけるポットP2との隙間を小さくすることができ、湿気空間の気密性を向上させられる。また、植え穴41の大きさは、ポットP2の外周形状より若干(例えば、1mm~2mm程度)大きくすることが好ましい。これにより、植物体Pを植え穴41に挿入して定植し易くすることができる。例えば、植え穴41の形状が、
図4に図示するような円筒形状である場合に、植え穴41の直径D1は、40mm以上、55mm以下とすることが好ましい。
【0075】
本実施形態では、植え穴41の列を2列設けた構成について例を挙げて説明をおこなったが、本発明はこれに限定されない。植え穴41の列の数は、溝11の数に応じて決定すればよい。植え穴41の列を複数列設ける場合、隣り合う植え穴41の列間の間隔S2は、効率的な受光とパネル強度の観点から、160mm以上であることが好ましく、165mm以上であることがより好ましい。また、栽植株数を確保する観点から、間隔S2は、185mm以下であることが好ましく、180mm以下であることがより好ましい。ここで、間隔S2は、隣り合う植え穴41の中心間の距離を意味する。
【0076】
定植パネル板40の大きさは特に限定されず、栽培槽10の開放上部の大きさに応じて適宜決定することができる。
【0077】
(その他の構成)
吐水口20およびドリップチューブ30には、それぞれ、養液供給量制御装置(図示しない)および養液貯留タンク(図示しない)が接続されている。養液貯留タンクは、栽培槽10に供給するための養液を貯留しておくためのものであり、養液を貯留することができれば、その構成は特に限定されない。養液貯留タンク内には、養液の電気伝導度(EC)値を計測するセンサ(図示しない)、pH値を計測するセンサ(図示しない)、養液の温度を測定するセンサ(図示しない)などが装備されていてもよい。これにより、養液のEC値、pH値、および温度が所定の範囲となるように制御することができる。
【0078】
養液供給量制御装置は、養液の供給量を制御するための装置である。養液供給量制御装置は、送液ポンプ(図示しない)およびバルブ(図示しない)を制御する。送液ポンプは養液貯留タンク内の養液を吐水口20およびドリップチューブ30に供給する。吐水口20およびドリップチューブ30にはそれぞれバルブが設けられており、バルブの開度により、吐水口20およびドリップチューブ30から供給する養液の供給量を所定の供給量に調節することができる。
【0079】
養液供給量制御装置は、吐水口20からの単位時間当たりの養液供給量(第1の養液供給量)とドリップチューブ30からの単位時間当たりの養液供給量(第2の養液供給量)の合計に対する、第2の養液供給量の比率が、0.2以上、0.4以下となるように、第1の養液供給量および第2の養液供給量を制御することが好ましい。第1の養液供給量および第2の養液供給量を上記の範囲に制御することにより、養液の流れ方向の上流と下流との間での養液の濃度および温度の勾配を小さくすることができる。養液供給量制御装置は、第1の養液供給量および第2の養液供給量を入力できる端末であってもよく、吐水口20およびドリップチューブ30にそれぞれ設けられたバルブの開閉を制御してもよい。
【0080】
栽培槽10の最下流端(栽培槽10において水平面からの高さが最も低い位置にある端部)には、栽培槽10を流れ終わった養液を回収するための回収部材(図示しない)が設けられている。回収された養液は養液貯留タンクに戻され、再び栽培槽10に供給されてもよい。
【0081】
(変形例)
前述の説明では、植物栽培装置1が位置決め部材として定植パネル板40を備える構成について例を挙げて説明をおこなったが、本発明はこれに限定されない。本発明の一態様に係る植物栽培装置は、定植パネル板40を備えていない構成としてもよい。植物栽培装置1が定植パネル板40を備えていない構成としても、吐水口20およびドリップチューブ30の2つの給液部材を併用して給液することによる効果を十分に発現することができる。
【0082】
〔実施形態2〕
本発明の実施形態2に係る植物栽培装置2について、
図3を参照して以下に説明する。実施形態2に係る植物栽培装置2については、
図3における参照符号「1」を「2」と読み替えて説明する。
【0083】
前述の実施形態1では、植物栽培装置1の栽培槽10の底面10aに、植物体が載置される溝11が設けられ、当該溝11内に植物体Pが載置される態様について説明をおこなったが、本発明はこれに限定されない。本発明の実施形態2に係る植物栽培装置2は、栽培槽10の底面10aに、植物体が載置される溝11が設けられておらず、栽培槽10の底面10aに凹部が無い構成とすることができる。この場合、植物体Pは、底面10a上に載置すればよい。
【0084】
ドリップチューブ30は凸部12上に載置されているため、植物体Pが載置される位置である底面10aよりも高い位置から養液を給液することができる。これにより、ドリップチューブ30から離間する方向(例えば、栽培槽10の短手方向)へと底面10a上に養液を拡散させることができ、吐水口20およびドリップチューブ30の2つの給液部材を併用して給液することによる効果を十分に発現することができる。なお、実施形態2に係る植物栽培装置2が備える各構成のうち、溝11が設けられていないこと以外の構成は、実施形態1に係る植物栽培装置1が備える各構成と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0085】
<2.植物の栽培方法>
本発明の一態様に係る植物の栽培方法は、本発明の一態様に係る植物栽培装置を用いる植物の栽培方法であって、前記底面上に、または当該底面に植物体が載置される溝が設けられている場合は前記溝の底面上に、植物体を配置する配置工程と、前記第1の給液部材および前記第2の給液部材のそれぞれから前記栽培槽の底面上に養液を供給する養液供給工程と、を含む構成である。本発明の一態様に係る植物栽培装置については、既に説明したとおりであるのでここでは繰り返さない。
【0086】
(実施形態1に係る植物の栽培方法)
以下に、本発明の植物の栽培方法の一態様として、実施形態1に係る植物栽培装置1を用いる植物の栽培方法を、
図3を参照して説明する。実施形態1に係る植物栽培装置1を用いる植物の栽培方法を、「実施形態1に係る植物の栽培方法」ともいう。
【0087】
(配置工程)
実施形態1に係る植物栽培装置1は、栽培槽10の底面10aに、植物体Pが載置される溝11が設けられている。このため、実施形態1に係る植物の栽培方法において、配置工程は、植物栽培装置1の栽培槽10の溝11の底面11a上に植物体Pを配置する工程である。植物体Pは、セル成型苗P1が、透水部(図示しない)を有するポット(容器)P2に収容されたものである。配置工程では、定植パネル板40が有している植え穴41に植物体PのポットP2部分を挿入して定植することで、植え穴40の真下にある、溝11の底面11a上に植物体Pを載置することができる。
【0088】
(養液供給工程)
養液供給工程は、吐水口20およびドリップチューブ30のそれぞれから栽培槽10の底面10a上に養液を供給する工程である。
【0089】
(給液方式)
吐水口20からの養液の供給は、栽培槽10の底面10a上に薄膜状に養液が流れるように(つまり、NFT)おこなえばよい。ドリップチューブ30からの養液の供給は、点滴灌水方式(例えば、ドリップ給液方式)によっておこなわれる。しかし、本発明はこれに限定されない。第2の給液部材からの養液の供給は、底面10aの傾斜方向F1に沿って養液が供給されるようにおこなわれればよいため、第2の給液部材としてドリップチューブに代えて散水チューブを採用することも可能である。第2の給液部材として散水チューブを用いる場合は、散水方式によって養液の供給がおこなわれる。
【0090】
散水方式は、点滴灌水方式よりも広い範囲に養液を放出することができる。これに対して、点滴灌水方式では、栽培槽内の空間の小さい栽培槽を用いる場合に、養液による栽培槽内外の汚れが付きにくく、長期間の継続使用が可能になる、養液の吐出量を正確に制御することができる、などの利点を有する。従って、栽培槽内の空間の小さい栽培槽を用いて長期間の栽培を行う場合は、第2の給液部材としてドリップチューブを用いて、点滴灌水方式によって養液を供給することが好ましい。
【0091】
(養液の供給量)
養液供給工程では、吐水口20からの単位時間当たりの養液供給量(第1の養液供給量)とドリップチューブ30からの単位時間当たりの養液供給量(第2の養液供給量)の合計に対する、前記第2の養液供給量の比率が、0.2以上、0.4以下となるように、吐水口20およびドリップチューブ30から養液を供給することが好ましい。吐水口20およびドリップチューブ30から供給する養液の供給量を上記の比率とすることで、養液の流れの上流と下流との間での養液の濃度および温度の勾配を小さくすることができる。
【0092】
(養液の水位)
養液供給工程において栽培槽10を流れる養液の水位が栽培対象植物の生育に適した水位となるように、第1の養液供給量および第2の養液供給量の合計量を適宜調整すればよい。例えば、栽培対象植物がイチゴである場合、栽培のごく初期においては、確実な養液供給の観点から、溝11の底面11aから養液の水面までの高さが、1.5mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがより好ましい。また、苗の根鉢部での湿気空間の確保の観点から、溝11の底面11aから養液の水面までの高さが、25mm以下であることが好ましく、20mm以下であることがより好ましい。なお、養液供給工程における養液の水位は設定値であるため、実際の制御において、養液の水位が部分的または一時的に上記の範囲から外れることがあってもよい。
【0093】
(養液の温度)
養液の温度は、栽培対象植物の生育に適した温度となるように適宜調整すればよい。例えば、栽培対象植物がイチゴである場合、根の生理、すなわち根の成長に係る全般的な活動の観点から、養液供給工程において栽培槽10に供給する養液の温度は、13℃以上であることが好ましく、15℃以上であることがより好ましい。また、イチゴに高温障害が発生することを防ぐ観点から、養液供給工程において栽培槽10に供給する養液の温度は、25℃以下であることが好ましく、20℃以下であることがより好ましい。
【0094】
(養液の電気伝導度)
養液の電気伝導度は、栽培対象植物の生育に適した電気伝導度となるように適宜調整すればよい。例えば、栽培対象植物がイチゴである場合、養液供給工程において栽培槽10に供給する養液の電気伝導度は、0.2dS/m以上、1.0dS/m以下であることが好ましい。0.2dS/m以上、0.8dS/m以下であることがより好ましく、0.2dS/m以上、0.6dS/m以下がさらに好ましい。本明細書において、前記「電気伝導度」は、電気伝導度測定メータにより、電気伝導率セルを被検液に浸漬して抵抗値を測定し、その逆数を算出した値である。上記範囲の電気伝導度を有する養液は肥料成分の濃度が薄いため、養液の濃度差が植物の生育に顕著に影響し易い。本発明の一態様に係る植物の栽培方法によれば、養液の流れの上流と下流との間での養液の濃度の勾配を小さくすることができるので、肥料成分の濃度が比較的薄い養液を用いた植物の栽培にも適している。
【0095】
(実施形態2に係る植物の栽培方法)
以下に、本発明の植物の栽培方法の別の一態様として、実施形態2に係る植物栽培装置を用いる植物の栽培方法を、
図3を参照して説明する。実施形態2に係る植物栽培装置を用いる植物の栽培方法を、「実施形態2に係る植物の栽培方法」ともいう。
【0096】
(配置工程)
実施形態2に係る植物の栽培方法において、配置工程は、植物栽培装置2の栽培槽10の底面10a上に植物体Pを配置する工程である。植物体Pを配置する場所が異なること以外は、実施形態1に係る植物の栽培方法における配置工程と同様である。
【0097】
(養液供給工程)
養液供給工程は、吐水口20およびドリップチューブ30のそれぞれから栽培槽10の底面10a上に養液を供給する工程である。実施形態1に係る植物の栽培方法と同様に、実施形態2に係る植物の栽培方法においても、養液供給工程において栽培槽10を流れる養液の水位が栽培対象植物の生育に適した水位となるように、第1の養液供給量および第2の養液供給量の合計量を適宜調整すればよい。但し、実施形態1に係る植物の栽培方法では、好ましい養液の水位を、溝11の底面11aから養液の水面までの高さに基づき決定すればよいのに対して、実施形態2に係る植物の栽培方法では、底面10aから養液の水面までの高さに基づき決定すればよい。この点以外は、実施形態1に係る植物の栽培方法における養液供給工程と同様である。
【0098】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、例えば、ルートマットを形成するイチゴなどの植物の栽培に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0100】
1 植物栽培装置、10 栽培槽、10a 栽培槽の底面、11 溝、11a 溝の底面、12 凸部、12a 凸部の傾斜部、20 吐水口(第1の給液部材)、30 ドリップチューブ(第2の給液部材)、31 吐出孔、40 定植パネル板(位置決め部材)、41 植え穴、F1 底面10aの傾斜方向、P 植物体、P1 セル成型苗(植物体)、P2 ポット(容器)
【要約】
植物栽培装置の一実施形態である植物栽培装置(1)は、植物体を載置する底面を有し、当該底面(10a)を傾斜させた栽培槽(10)と、第1の給液部材(20)と、底面(10a)の傾斜方向(F1)に沿って延設された第2の給液部材(30)と、を備え、第2の給液部材(30)は、前記方向(F1)に沿って配置されている、複数の養液吐出孔を備えている。