(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】転炉における精錬方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/28 20060101AFI20241030BHJP
【FI】
C21C5/28 B
(21)【出願番号】P 2021069563
(22)【出願日】2021-04-16
【審査請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】三浦 槙也
(72)【発明者】
【氏名】田村 鉄平
【審査官】隅川 佳星
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-60004(JP,A)
【文献】特開平10-219329(JP,A)
【文献】特開2010-95785(JP,A)
【文献】特開2013-36055(JP,A)
【文献】特開2015-108180(JP,A)
【文献】特開2015-206091(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/209579(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/00 - 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉に溶銑が装入された状態で、上吹きランスから酸化性のガスを前記溶銑に向けて吹き付ける際に、以下の(1)式及び(2)式で算出される、前記ガスの吹き付けによる前記溶銑の静止浴面からのくぼみの深さL(mm)と前記溶銑の静止浴深さL
0(mm)との比L/L
0が0超0.30未満で、前記上吹きランスは、中心軸の周囲に配置されているノズルの孔数を7~13個とし、以下の(3)式で算出されるジェットへの周囲流体の巻き込み流量比Q'/Qが30.0以上で、かつランス前圧が0.70~2.00MPaGとなる条件で吹錬を行うことを特徴とする転炉における精錬方法。
L=L
h×exp(-0.78×H/L
h) ・・・(1)
L
h=54.1×(Q/(n×d))
2/3 ・・・(2)
Q'/Q=0.32×H/d ・・・(3)
ここで、Hは前記溶銑の静止浴面から前記上吹きランスのノズル先端までの距離(mm)を表し、Qは上吹き噴射流量(Nm
3/hr)を表し、Q'は周りの流体を巻き込んだときの流量(Nm
3/hr)を表し、nは前記ノズルの孔数(個)を表し、dはノズル出口径(mm)を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォーミングを鎮静させることが可能な転炉における精錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉での操業においては、炉内に酸素を吹き込むことによって溶銑中の不純物を除去しながら昇温し、吹錬後の成分濃度および温度が指定された範囲内に収まるように制御される。このとき、上吹きランスから吹き付けられた酸素と溶銑中の炭素が反応して一酸化炭素のガスが発生するが、このガスによってスラグが泡立つ現象(以下、フォーミング)が発生する。フォーミングが増大しすぎると、転炉からスラグが溢出する現象(以下、スロッピング)が発生してしまう。スロッピングが発生すると鉄歩留りの低下を引き起こすだけではなく、操業中断を招くため、スラグのフォーミングを鎮静または抑制する方法が検討されている。スラグのフォーミングを鎮静させる方法としては、一般的には、フォーミングしたスラグに鎮静材を投入することが行われている。
【0003】
特許文献1には、スラグのフォーミングを抑制する方法として、上吹きランスから送酸開始後3分以内に炭材を投入する方法が開示されている。また、特許文献2には、スラグのフォーミングを鎮静させる方法として、スラグの上部から棒体の挿入及び引抜きを行うことで、スラグにガス抜き用の開口を形成する方法が開示されている。
【0004】
さらに、特許文献3には、フォーミングの鎮静方法として、ジェット流をスラグ表面に衝突させ、その時に生じる衝突力によってスラグ表層部分にガス気泡抜気孔を形成し、スラグ中に滞留したガス気泡を抜気する方法が開示されている。さらに、特許文献4には、吹錬処理が行われていない待機状態でフォーミングを鎮静させる方法として、フォーミングした場合に、上吹きランスからガスを吹き込む方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3888313号公報
【文献】特開平10-183217号公報
【文献】特許第6221705号公報
【文献】特開2019-94522号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】瀬川清:鉄冶金反応工学p.94(1977)
【文献】N.ラジャラトナム:噴流p.46(1981)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
吹錬が行われていない間もフォーミングは発生するが、特に脱燐吹錬中は精錬反応が活発に進行しており、このようなガスの吹き付けが比較的弱い操業では、フォーミングも激しい状態となっている。そのため、鎮静材を投入して脱燐吹錬中のフォーミングを鎮静させるためには、大量の鎮静材が必要となり、多くのコストがかかってしまう。
【0008】
また、特許文献1に記載の方法では、スラグのフォーミングを未然に抑える方法であるが、実際にフォーミングが発生した場合には対応することができない。また、特許文献3に記載の方法では、フォーミングを鎮静させるために、高圧でガスを吹き付けることが可能な通常とは異なる上吹きランスを設置しなければならない。そのため、多くのコストがかかってしまう。さらに、特許文献4に記載の方法は、吹錬処理が行われていない状態でフォーミングを鎮静させる方法であるため、吹錬時に発生するフォーミングには対応することができない。
【0009】
本発明は前述の問題点を鑑み、脱燐処理のような比較的ガスの吹き付けが弱い操業において、吹錬中のフォーミングを安価に低く抑えることができる転炉における精錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、まず、スラグのフォーミングが抑制されるメカニズムについて検討した。転炉型の精錬処理において上吹きランスからガスを吹き付けると、ジェットはスラグを貫通して溶銑に衝突する。このとき、ジェット流の側面からスラグが巻き込まれ、巻き込まれたスラグ中の気泡がジェットによって物理的に破壊される。このため、上吹きランスからガスを吹き付けることによって、ある程度のフォーミング抑制効果があると考えられる。そこで、本発明者らは、ジェット流にスラグが巻き込まれる現象に着目し、上吹きランス先端のノズルの孔数を増やし、より多くのスラグを巻き込むことで、フォーミング抑制効果を増大させることができる点に着目した。
【0011】
そこで本発明者らは、フォーミングを抑制できる詳細な条件について検討した。その結果、ノズルの孔数を増やす際に、溶銑面に向けてガスを吹き付けることによってできるくぼみの深さと溶銑の静止浴深さとの比が大きく、さらにその比と上吹きランス内での前圧との関係で好適な条件があることを見出した。
【0012】
しかしながら、上記好適な条件は、脱炭吹錬のようなガスの吹き付けが比較的強い操業に限られており、一般的な脱燐吹錬のようにガスの吹き付けが比較的弱くくぼみの深さが浅いときはフォーミングを抑えられないことがわかった。そこで、ジェット流への周囲流体の巻き込み比を定量化し検討することで、くぼみの深さと溶銑の静止浴深さとの比が小さいときでもフォーミングを抑制できるようなジェット流への周囲流体の巻き込み比に関する好適な条件を見出し、本発明に至った。
【0013】
本発明は以下の通りである。
(1)
転炉に溶銑が装入された状態で、上吹きランスから酸化性のガスを前記溶銑に向けて吹き付ける際に、以下の(1)式及び(2)式で算出される、前記ガスの吹き付けによる前記溶銑の静止浴面からのくぼみの深さL(mm)と前記溶銑の静止浴深さL0(mm)との比L/L0が0超0.30未満で、前記上吹きランスは、中心軸の周囲に配置されているノズルの孔数を7~13個とし、以下の(3)式で算出されるジェットへの周囲流体の巻き込み流量比Q'/Qが30.0以上で、かつランス前圧が0.70~2.00MPaGとなる条件で吹錬を行うことを特徴とする転炉における精錬方法。
L=Lh×exp(-0.78×H/Lh) ・・・(1)
Lh=54.1×(Q/(n×d))2/3 ・・・(2)
Q'/Q=0.32×H/d ・・・(3)
ここで、Hは前記溶銑の静止浴面から前記上吹きランスのノズル先端までの距離(mm)を表し、Qは上吹き噴射流量(Nm3/hr)を表し、Q'は周りの流体を巻き込んだときの流量(Nm3/hr)を表し、nは前記ノズルの孔数(個)を表し、dはノズル出口径(mm)を表す。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、脱燐処理のような比較的ガスの吹き付けが弱い操業において、フォーミングを安価に低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】上吹きランスから溶銑に向けてガスを吹き付けている様子を説明するための図である。
【
図2】上吹きランスの先端部分の詳細な構造例を示す模式図である。
【
図3】ノズルの孔数とスロッピングの発生率との関係を示す図である。
【
図4】比Q'/Qとスロッピングの発生率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、上吹きランスから溶銑に向けてガスを吹き付けている様子を説明するための図である。
図1において、炉体1の内側は耐火物で覆われており、炉体1の底部には、複数の底吹き羽口(不図示)が設けられている。この底吹き羽口から攪拌用の不活性ガスが炉体1内に吹き込まれる。
【0017】
上吹きランス2は、炉体1の開口部において鉛直方向(
図1の上下方向)に昇降可能であり、上端側に接続されるガス供給経路(不図示)から供給される酸化性のガス3が、スラグ4及び溶銑5に向けて上吹きランス2から吹き付けられる。
【0018】
図2は、上吹きランス2の先端部分の詳細な構造例を示す模式図である。
図2(a)は、上吹きランス2の先端部分の断面構造例を示し、
図2(b)は、上吹きランス2を鉛直方向の下側から見た構造例を示している。
図2(a)において、上吹きランス2は外筒、中管および内管の三重管で構成され、範囲21はノズル出口径を表している。なお、
図2(a)では、ラバールノズルの例を示しているが、ストレートノズルであってもよい。本実施形態において、ノズル傾斜角22は特に規定はしないが、大きすぎるとジェットが炉壁に衝突し、耐火物の損耗が激しくなり、小さすぎるとジェット同士が近すぎるまたは合体し、ジェットへのスラグ巻き込み効果が小さくなるため、15°~30°とすることが好ましい。
【0019】
また、
図2(b)に示すように、中心孔を有しておらず、中心軸の周囲には、複数のノズルの出口である複数の周縁孔23があり、同心円状に配置されている。なお、周縁孔23は必ずしも同一円周上に配置する必要はなく、また、必ずしも等間隔に配置する必要もない。さらに、
図2(b)では中心孔を有していないノズルを例示したが、中心孔を有していてもよい。
【0020】
図1において、ガスの吹き付けによる溶銑の静止浴面からのくぼみの深さL(mm)は、非特許文献1に記載された計算方法に基づいて、以下の(1)式及び(2)式によって定義する。本実施形態においては、非特許文献1に記載されている補正項kを0.8(一定値)とした場合のL値を用いている。
L=L
h×exp(-0.78×H/L
h) ・・・(1)
L
h=54.1×(Q/(n×d))
2/3 ・・・(2)
【0021】
ここで、Hは溶銑の静止浴面から上吹きランスのノズル先端までの距離(ランス高さ)(mm)を表し、Qは上吹き噴射流量(Nm3/hr)を表す。nは上吹きランスのノズル孔数(個)を表し、dはノズル出口径(mm)を表す。
【0022】
次に、本発明の実施形態におけるフォーミングを抑制するための条件について説明する。本実施形態では、くぼみの深さL(mm)と溶銑の静止浴深さL0(mm)との比L/L0において、主に脱燐処理(脱珪も含む)の操業を想定した条件に着目する。ここで、比L/L0は、ガス(ジェット)の溶銑への侵入比であり、炉内反応を適切に制御する上で重要なパラメータである。
【0023】
本発明者らは、まず、比L/L0とスロッピングの発生率との関係を調べるために実験を行った。実験では、ノズル孔数nを5個、ノズル出口径dを5.3mm、静止浴深さL0を200mmで固定し、ランス高さHと上吹き噴射流量とを変化させて、様々な比L/L0でスロッピング発生率を算出した。その結果、脱燐吹錬の一般的な条件である比L/L0が0.30未満では、スロッピングの発生率が高くなることが確認された。このように比L/L0が小さいとスロッピング発生率が高くなるが、本実施形態では、脱燐処理での操業条件を想定し、比L/L0は0超0.30未満とすることを前提とする。なお、実際の脱燐吹錬の操業を考慮すると、比L/L0は0.04以上0.25以下に制御することが好ましい。
【0024】
次に、上吹きランスの先端部におけるノズルの孔数について説明する。ノズルの孔数が異なる上吹きランスに変更する場合には、前述の比L/L0が一定値となるようにノズルの孔数を増加させることが好ましい。比L/L0は、炉内の脱燐反応といった精錬挙動の指標として考えられており、ノズルの孔数が異なる上吹きランスに変更した時に比L/L0の値が異なると、それに応じてオペレーターが上吹きランスを上げたり、下げたりして調整しなければならず、安定操業を行う上で好ましくない。
【0025】
本発明者らは比L/L0の値を0.17に固定した条件で、ノズルの孔数を変更した実験を行った。実験では、溶銑の静止浴深さL0は2000mmで固定し、前述の(1)式及び(2)式からわかるとおり、くぼみの深さLが各サンプルで同じになるようにすることによって、比L/L0の値を0.17に固定した。つまり、ランス高さHを3500mmで固定し、(2)式において、上吹き噴射流量Qを40000Nm3/hrで固定し、ノズル孔数nの増加に伴ってノズル出口径dを小さくし、スロッピング発生率を算出した。
【0026】
図3は、ノズルの孔数とスロッピングの発生率との関係を示す図である。
図3に示すように、ランス孔数が7個以上の条件ではスロッピングの発生率が低くなることを確認した。以上の結果から、上吹きランスの中心軸の周囲に配置されるノズル孔の数は7以上とする。また、ノズル孔の数が14個以上では、詳細は後述するがランス前圧が大きくなり過ぎ、さらにノズル出口径dも小さくなるため、ノズル閉塞を起こす可能性がある。したがって、上吹きランスの中心軸の周囲に配置されるノズル孔の数は7~13とする。
【0027】
次に、ジェット流への周囲流体の巻き込み流量比について説明する。本発明者らは、ジェット流への周囲流体(空気)の巻き込み流量比に着目し、この周囲流体の巻き込み流量比と実際のスラグの巻き込み量との間で相関関係を見出した。そして、この周囲流体の巻き込み量比を制御することによって、比L/L0が0.30よりも小さい場合であってもフォーミングを抑制できることを見出した。ジェット流への周囲流体の巻き込み流量比は非特許文献2に記載された軸対称噴流がまわりの流体を引きずることを意味するエントレンメントの式に基づいて、以下の(3)式によって定義する。
Q'/Q=0.32×H/d ・・・(3)
【0028】
ここで、Hは前記溶銑の静止浴面から前記上吹きランスのノズル先端までの距離(mm)を表し、Qは上吹き噴射流量(Nm3/hr)を表し、Q'は周りの流体を巻き込んだときの流量(Nm3/hr)を表し、dはノズル出口径(mm)を表す。
【0029】
次に、本発明者らは比L/L
0の値を0.23、上吹き噴射流量Qを35000Nm
3/hrに固定した条件で、ノズルの孔数とノズル出口径とランス高さを変更して、比Q'/Qがスロッピング発生率に及ぼす影響を調査した。
図4は、比Q'/Qとスロッピングの発生率との関係を示す図である。
図4に示すように、比Q'/Qの値が30.0を境に、スロッピング発生率が急激に減少することが確認された。したがって、本実施形態では、ジェットへの周囲流体の巻き込み流量の比Q'/Qは30.0以上とする。
【0030】
次に、ランス前圧の条件について説明する。ランス前圧は、ガスが上吹きランスの中央部からノズルへ分岐する際のノズル入口圧である。以下、ランス前圧についてはゲージ圧(MPaG)で示すが、絶対圧(MPa)に換算する場合には0.101MPaを加算した値となる。前述したように比L/L0を固定してノズル孔数およびランス高さを増加させると、ランス出口径(ラバールノズルの場合はさらにスロート径)も小さくなることから、ノズル孔数およびランス高さの増加に伴い、ランス前圧も増加傾向にある。
【0031】
ここで、ランス前圧は0.70MPaG~2.00MPaGとする。比L/L0が0.30以上の範囲ではランス前圧は1.00MPaG以上で十分な物理的破泡効果が得られるが、比L/L0が0.30未満の範囲では、そもそもソフトブローであり、かつ上吹き噴射流量も小さいため、先の範囲と比較してランス前圧が低くなる傾向がある。そのため、0.70MPa以上で十分な物理的破泡効果が得られる。一方、ランス前圧が2.00MPaGより大きい場合には、ガスの吹き付けが強すぎるため、炉壁の耐火物を破損する可能性が高くなる。
【0032】
なお、
図3及び
図4に示した例では、スロッピングの発生率を指標としたが、スロッピングの発生率を低下させるには、フォーミングによるスラグ高さを低くすることを考慮すればよい。脱燐処理では、例えば、炉内のスラグ高さをスラグレベル計で測定し、測定結果に応じてスラグの塩基度(CaO/SiO
2)や上吹きランスからの上吹き噴射流量(送酸速度)Q、上吹きランスのランス高さH等を調整したり、鎮静材を添加したりすることによって吹錬の操業が行われる。スラグレベル計は、スラグの鉛直方向の高さが測定できるものであればよく、例えばマイクロ波式のレベル計が用いられてもよい。
【実施例】
【0033】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0034】
ヒートサイズが280トンの転炉に最大容量の溶銑を装入し、脱燐処理を行うために生石灰などを装入した。この時の溶銑の静止浴深さL0は2000mmとした。そして、表1に示す上吹きランスを用いて脱燐吹錬を行った。これらの上吹きランスは、複数のノズル孔が上吹きランスの中心軸の周囲に等間隔で配置されたものである。脱燐吹錬では、上吹きランスから酸素99.9vol%以上含まれるガスを溶銑面に向けて吹き付け、噴射流量(送酸速度)Qを表1に示す条件とした。また、上吹きランスのランス高さH及び比L/L0についても表1に示す条件とした。
【0035】
そして吹錬中において、マイクロ波レベル計を用いてスラグの鉛直方向の高さを測定した。表1中の「スラグ高さ」は、(「マイクロ波レベル計で測定された平均(1点を所定の時間間隔で測定した平均)スラグ高さ(m)」-「溶銑の静止浴深さ(m)」)÷「溶銑の静止浴面から炉口までの高さ(m)」×100(%)であり、60%以下である場合は、フォーミングの抑制効果があるものとして評価した。なお、平均スラグ高さ(m)は、マイクロ波レベル計とスラグ表面との間の測定距離から、予め測定したマイクロ波レベル計と炉口との間の距離を差し引いて求めたスラグ高さの平均である。
【0036】
【0037】
表1中の下線は、本発明の条件から外れていることを示している。表1に示すように、実施例であるNo.1~9では、スラグ高さを60%以下に抑えることができ、フォーミング抑制効果があることが確認できた。
【0038】
一方、比較例であるNo.10、No.11およびNo.15は、いずれもノズルの孔数が4個のみで、さらにランス前圧が低すぎで、かつ比Q'/Qが30.0未満であったため、いずれもスラグ高さが80%以上となり、フォーミング抑制効果を確認できなかった。また、比較例であるNo.12は、ランス前圧が低すぎで、かつ比Q'/Qが30.0未満であったため、スラグ高さが76%となり、フォーミング抑制効果を確認できなかった。
【0039】
比較例であるNo.13およびNo.14は、いずれも比Q'/Qが30.0未満であったため、実施例に比べてスラグ高さが大きく、フォーミング抑制効果が不十分であった。比較例であるNo.16およびNo.18は、ノズルの孔数が4個のみで、比Q'/Qが30.0未満であったため、実施例に比べてスラグ高さが大きく、フォーミング抑制効果が不十分であった。一方、比較例であるNo.17およびNo.19では、ランス前圧が大きすぎた例である。この例では、スラグ高さを60%以下に抑えることができ、フォーミング抑制効果があることが確認できたが、炉壁の耐火物が一部損傷しており、操業条件としては困難な条件であることが確認できた。