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特許7578897はんだ合金、はんだペースト、はんだボール、はんだプリフォーム、はんだ継手、車載電子回路、ECU電子回路、車載電子回路装置、およびECU電子回路装置
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  • 特許-はんだ合金、はんだペースト、はんだボール、はんだプリフォーム、はんだ継手、車載電子回路、ECU電子回路、車載電子回路装置、およびECU電子回路装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】はんだ合金、はんだペースト、はんだボール、はんだプリフォーム、はんだ継手、車載電子回路、ECU電子回路、車載電子回路装置、およびECU電子回路装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/26 20060101AFI20241030BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20241030BHJP
   B23K 35/14 20060101ALI20241030BHJP
   C22C 13/02 20060101ALI20241030BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
B23K35/26 310A
B23K35/22 310A
B23K35/14 Z
C22C13/02
C22C13/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024015315
(22)【出願日】2024-02-04
【審査請求日】2024-02-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180426
【弁理士】
【氏名又は名称】剱物 英貴
(72)【発明者】
【氏名】飯島 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】横山 貴大
【審査官】田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】特許第7376842(JP,B1)
【文献】特開2019-063830(JP,A)
【文献】国際公開第2020/031361(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/164171(WO,A1)
【文献】特開2013-252548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/22-35/40
C22C 13/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Ag:2.0~3.6%、Cu:0.6~0.9%、In:1.0~5.0%、Sb:3.0~5.0%、Fe:0.0010~0.0300%、Co:0.0010~0.0500%、および残部がSnからなる合金組成を有し、前記合金組成は、下記(1)式および(2)式を満たすことを特徴とするはんだ合金。
0.0020≦Ag×Cu×In×Sb×Fe×Co≦0.0090 (1)
445≦In/(Ag×Cu×Sb×Fe×Co)≦3560 (2)
上記(1)式および(2)式中、Ag、Cu、In、Sb、Fe、およびCoは、各々前記はんだ合金の質量%としての含有量である。
【請求項2】
前記合金組成は、更に、質量%で、Zr、Ge、Ga、P、As、Pb、Zn、Mg、Cr、Ti、Mo、Pt、Pd、Au、Al、およびSiの少なくとも1種を合計で0.1%以下を含有する、請求項1に記載のはんだ合金。
【請求項3】
請求項1または2に記載のはんだ合金からなるはんだ粉末を有するはんだペースト。
【請求項4】
請求項1または2に記載のはんだ合金からなるはんだボール。
【請求項5】
請求項1または2に記載のはんだ合金からなるはんだプリフォーム。
【請求項6】
請求項1または2に記載のはんだ合金を有するはんだ継手。
【請求項7】
請求項1または2に記載のはんだ合金を有することを特徴とする車載電子回路。
【請求項8】
請求項1または2に記載のはんだ合金を有することを特徴とするECU電子回路。
【請求項9】
請求項に記載の車載電子回路を備えたことを特徴とする車載電子回路装置。
【請求項10】
請求項に記載のECU電子回路を備えたことを特徴とするECU電子回路装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ合金、はんだペースト、はんだボール、はんだプリフォーム、はんだ継手、車載電子回路、ECU電子回路、車載電子回路装置、およびECU電子回路装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、プリント基板に電子部品をはんだ付けした電子回路(以下、「車載電子回路」と称する。)が搭載されている。車載電子回路は、エンジン、パワーステアリング、ブレーキ等を電気的に制御する機器に使用されおり、自動車の走行にとって非常に重要な保安部品となっている。特に、燃費向上のためにコンピュータで車を制御する電子回路のECU(Engine Control Unit)と呼ばれる車載電子回路は、長期間に渡って故障がなく安定した状態で稼働できるものでなければならない。このような車載電子回路は、搭載領域の拡大により、寒暖差、衝撃、振動などの種々の外的な負荷を受ける箇所に搭載されるようになった。
【0003】
例えば、エンジンルームに搭載された車載電子回路は、エンジン動作時には125℃以上という高温に曝されることがある。一方、エンジン停止時には、寒冷地であれば-40℃以下という低温に曝される。このように、厳しい使用環境に使用される車載電子回路には、信頼性に優れるはんだ合金が使用されている。
【0004】
従来から、汎用性の高いはんだ合金として、Sn-Ag-Cuはんだ合金が使用されている。しかし、Sn-Ag-Cuはんだ合金は、前述のように、従来では想定されていなかった過酷な環境では、接合界面に形成される金属間化合物層が厚くなり、せん断応力により電極とはんだ合金の接合界面で剥離が生じる懸念がある。このため、厳しい使用環境であっても接合強度が維持されるはんだ合金が求められており、従来から種々の検討がされている。
【0005】
特許文献1には、高い耐ヒートサイクル性を備えるはんだ合金として、Sn-Ag-Cuはんだ合金に、In、Sb、およびCoを含有するSn-Ag-Cu-In-Sb-Co-Geはんだ合金が開示されている。このはんだ合金は、耐ヒートサイクル性に加えてリフトオフを抑制することができる、とされている。この効果が発揮されるようにするため、同文献には、Sbによる融点上昇を抑えるために従来からBiが添加されていたが、リフトオフを改善するため、Biの代わりに、Inを含有することが記載されている。
【0006】
特許文献2には、高い耐ヒートサイクル性を備えるはんだ合金として、Sn-Ag-Cu-In-Sb-Ni-Coはんだ合金が開示されている。このはんだ合金は、耐ヒートサイクル性に加えて、ボイド発生の抑制、およびリフトオフを抑制することができる、とされている。同文献には、SbとInの含有量のバランスを図ることにより、耐ヒートサイクル性の向上に加えて、リフトオフとボイドの発生をも抑制することが記載されている。また、同文献には、耐ヒートサイクル性、およびボイド発生を抑制する観点から、さらにFeなどを含有してもよいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6349615号公報
【文献】特許第6420936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、特許文献1および2に記載の発明では、いずれも耐ヒートサイクル性とリフトオフの評価が行われている。特許文献2では、更にボイド発生の評価がなされている。また、リフロー温度の上昇を抑えるため、融点の評価が行われている。
【0009】
しかし、車載用の電子回路に用いるはんだ合金としては、これらの評価だけでは不十分である。例えば、車載用の電子回路では、電子回路を搭載する自動車が悪路を走行すると、電子回路には外部からの応力が加わる。このため、高いシェア強度を示すことは、はんだ継手にとって大変重要である。
【0010】
また、破断し難いはんだ継手が形成されたとしても、応力が継続的にはんだ継手に加わると、いずれ破断する。このような継続的な応力は、寒暖差が激しい環境に曝されることにより継続的に加わることが考えられる。これは、電極、接合界面に形成される金属間化合物、およびバルクの熱膨張係数の違いに起因する。特に、はんだ継手の負荷が大きくなったとしても、破断した箇所が接合界面となる破壊モードであってはならない。接合界面は電極と接合しているため、接合界面で応力を緩和することは容易ではない。ただ、物理的および電気的な負荷は主としてはんだ継手の接合界面に加わる。このため、比較的変形しやすいバルクで応力を緩和した方が、破壊を抑制することができると考えられる。
【0011】
しかし、特許文献1および2には、シェア強度と破壊モードについては一切検討されておらず、はんだ継手の使用する上での実情が反映されているとは言い難い。はんだ継手は基板等と電子部品等を電気的に接続するものであるため、接合界面での破断は極力避けられるべきである。
【0012】
一方、前述のように、応力が継続的にはんだ継手に加わる環境での検討は、ヒートサイクル試験により評価されている。この点、特許文献1および2に記載の発明では、耐ヒートサイクル性が検討されている。ただ、特許文献1では、2000サイクルでのクラックの全長を4個のサンプルの平均値で評価されている。また、特許文献2では、3000サイクルでの亀裂の発生を10個のサンプルで観察し、はんだ継手を横断した亀裂の発生有無が評価されているとも思われる。
【0013】
特許文献1に記載されているように、平均値だけで評価する場合、クラックの全長が短いサンプルとクラックの全長が長いサンプルがあったとして、平均値が小さければ、そのサンプルは優れた評価を示すものとして取り扱われてしまう。本来であれば、クラックの全長が長いサンプルが含まれていれば、はんだ継手として耐ヒートサイクル性の課題が残存しているにも関わらず、その課題が見逃されてしまう。
【0014】
特許文献2に記載されているような評価は、はんだ継手が完全に破断するような亀裂については、概ね把握されると思われる。ただ、はんだ継手を横断していないものの、もう少しで横断するようなものがあっても、そのサンプルは優れた評価を示すものとして取り扱われてしまう。10個のサンプルのうち、もう少しではんだ継手を横断するような亀裂が発生したサンプル数が多ければ、何等かの課題があると考えざるを得ないが、このようなサンプル群も優れた評価を示すものとして取り扱われてしまう。更に言えば、特許文献2に記載の発明では、たまたま3000サイクルでの亀裂を評価しているが、あと数サイクル多いとはんだ継手を横断する亀裂がいくつも発生する懸念がある場合には、耐ヒートサイクル性の課題が残ると考えなければならない。
【0015】
特に、車載用の電子回路に搭載されるはんだ継手であれば、安全性の観点から、はんだ継手の破断は極力抑制しなければならない。特許文献1および2での耐ヒートサイクル性の評価では、一部では極めて短いサイクルで破断してしまう可能性がある。すなわち、評価結果にバラツキが大きいと、問題ないと思われるサンプルであってもすぐに破断するものが含まれてしまう。
【0016】
このように、特許文献1および2には、はんだ継手として重要な特性であるシェア強度と破壊モードについては何ら検討されていない。また、近年の自動車は電気化が進み、搭載される基板数は増加し続けると考えられるため、耐ヒートサイクル性が高い確率で担保されるようなはんだ合金の開発は急務である。さらに、電子部品の耐熱性を鑑みると、従来と同程度の融点を示すことも望まれている。
【0017】
そこで、本発明の課題は、融点が低く、シェア強度が高く、破壊モードが適切であるとともに、耐ヒートサイクル性に優れるはんだ合金、はんだペースト、はんだボール、はんだプリフォーム、はんだ継手、車載電子回路、ECU電子回路、車載電子回路装置、およびECU電子回路装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、特許文献1および2に開示されているはんだ合金を再検討した。両文献に開示されているはんだ合金の中で、特許文献1の実施例12であるSn-Ag-Cu-In-Sb-Co-Geはんだ合金、および特許文献2の実施例15であるSn-Ag-Cu-In-Sb-Ni-Co-Feはんだ合金のシェア強度が従来と同程度であり、改善の余地がある知見が得られた。
【0019】
これらのはんだ合金は、シェア強度の向上を目的として設計された合金組成を有するわけではない。はんだ合金は、それぞれのはんだ合金ごとに,その組成成分の一つでも含有量等が異なれば,全体の特性が異なることが通常であって、所定の含有量を有する合金元素の組合せの全体が一体のものとして技術的に評価されると解すべきである。
【0020】
そこで、本発明者らは、融点の上昇を抑えつつ、シェア強度の向上と、破壊モードについて詳細に調査をおこなった。この結果、特許文献1の実施例12にFeを所定量添加すると、融点は8~10度程度低下する知見が得られた。これは、Sn-Ag-Cu-In-Sb-Co-Geはんだ合金において、Feを所定量添加すると、Coとの相乗効果により、更にはんだ合金の組織が微細になり、粗大な化合物の析出が抑制されるためであると推察される。
【0021】
また、Sn-Ag-Cu-In-Sb-Co-Geはんだ合金にFeを添加すると、Geの有無に寄らず、同等の融点、シェア強度、および破壊モードが得られる知見が得られた。これにともない、Sn-Ag-Cu-In-Sb-Co-Feはんだ合金において、Geは任意元素として取り扱うことができる知見が得られた。
【0022】
特許文献2の実施例15は、融点が少し高めである知見が得られた。これは、Sn-Ag-Cu-In-Sb-Co-Feはんだ合金において、Niを含有すると、凝固過程においてより高温でNiに起因する固相が析出し始めるためであると推察される。また、Cuの含有量が少ないため、Sn-Ag-Cuの共晶組成から若干ずれることにより、融点が上昇したものと考えられる。そこで、特許文献2の実施例15からNiを除き、且つCuの含有量を0.1~0.4%だけ増量すると、融点が下がるとともに、シェア強度が著しく向上する知見が得られた。
【0023】
さらに、合金組織が微細になる程度にCoやFeを含有する組成では、破断がバルクで発生するために適切な破壊モードを示す知見が得られた。ただ、CoやFeの含有量が調整されたとしても、Ag、およびSbの含有量が多すぎると、接合界面での破断が発生する知見も得られた。これは、化合物の析出によりバルクの強度が向上してしまい、CoやFeの含有量が多すぎても同様の結果になると推察される。また、Cuが多いとシェア強度が劣化するとともに破壊モードが接合界面になる知見が得られた。これは、過共晶になり接合界面に粗大なCuSnが析出するためであると推察される。
【0024】
上述の知見に加えて、特許文献1および2では、耐ヒートサイクル性を発揮できることが示されているが、本発明者らは、各特許文献の実施例であっても、中には極めて短いサイクルで破断してしまうものが確認された。すなわち、これは、評価結果のバラツキが大きいことを示す。したがって、従来の評価方法では、耐ヒートサイクル性が高いとされてきたはんだ合金であっても、中には耐ヒートサイクル性が低いものが含まれることから、より正確な評価を行う必要がある。そこで、本発明者らは、耐ヒートサイクル性の評価における破断サイクル数を標準偏差で評価することが最も有効であることに思い至った。標準偏差で評価することにより、これまで見逃されてきた耐ヒートサイクル性の低いはんだ合金を抽出することができ、より高い精度で耐ヒートサイクル性を評価することができた。
【0025】
そこで、本発明者らは、耐ヒートサイクル性の評価として、破断サイクル数を標準偏差で求めた。その結果、各構成元素が所定の範囲内であるはんだ合金は、上述のように融点が低く、シェア強度が高く、破壊モードが適切であることに加えて、破断サイクル数の標準偏差が所定値以下である知見が得られ、本発明は完成した。
これらの知見により得られた本発明は以下のとおりである。
【0026】
(0) 質量%で、Ag:2.0~3.6%、Cu:0.6~0.9%、In:1.0~5.0%、Sb:3.0~5.0%、Fe:0.0010~0.0300%、Co:0.0010~0.0500%、および残部がSnからなることを特徴とするはんだ合金。
(1) 質量%で、Ag:2.0~3.6%、Cu:0.6~0.9%、In:1.0~5.0%、Sb:3.0~5.0%、Fe:0.0010~0.0300%、Co:0.0010~0.0500%、および残部がSnからなる合金組成を有することを特徴とするはんだ合金。
【0027】
(2) 合金組成(はんだ合金)は、更に、質量%で、Zr,Ge、Ga、P、As、Pb、Zn、Mg、Cr、Ti、Mo、Pt、Pd、Au、Al、およびSiの少なくとも1種を合計で0.1%以下を含有する、上記(0)または上記(1)に記載のはんだ合金。
【0028】
(3) 合金組成(はんだ合金)は、下記(1)式および(2)式を満たす、上記(0)~上記(2)のいずれか1項に記載のはんだ合金。
0.0020≦Ag×Cu×In×Sb×Fe×Co≦0.0090 (1)
445≦In/(Ag×Cu×Sb×Fe×Co)≦3560 (2)
上記(1)式および(2)式中、Ag、Cu、In、Sb、Fe、およびCoは、各々前記はんだ合金の質量%としての含有量である。
【0029】
(4) 上記(0)~上記(2)のいずれか1項に記載のはんだ合金からなるはんだ粉末を有するはんだペースト。
【0030】
(5) 上記(0)~上記(2)のいずれか1項に記載のはんだ合金からなるはんだボール。
【0031】
(6) 上記(0)~上記(2)のいずれか1項に記載のはんだ合金からなるはんだプリフォーム。
【0032】
(7) 上記(0)~上記(2)のいずれか1項に記載のはんだ合金を有するはんだ継手。
【0033】
(8) 上記(0)~上記(2)のいずれか1項に記載のはんだ合金を有することを特徴とする車載電子回路。
【0034】
(9) 上記(0)~上記(2)のいずれか1項のはんだ合金を有することを特徴とするECU電子回路。
【0035】
(10) 上記(8)に記載の車載電子回路を備えたことを特徴とする車載電子回路装置。
【0036】
(11) 上記(9)に記載のECU電子回路を備えたことを特徴とするECU電子回路装置。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、シェア強度を測定した後におけるサンプルの光学顕微鏡写真を示し、図1(a)は実施例4であり、図1(b)は比較例19であり、図1(c)は比較例3である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明を以下により詳しく説明する。本明細書において、はんだ合金組成に関する「%」は、特に指定しない限り「質量%」である。
【0039】
1. はんだ合金
(1) Ag:2.0~3.6%
Agは、シェア強度の向上、AgSnの析出による破壊モードの適切化、融点の低下、および耐ヒートサイクル性の向上に寄与する。Agの含有量が2.0%未満であると、化合物の析出量が少なくシェア強度が低下する。Ag含有量の下限は2.0%以上であり、好ましくは2.5%以上であり、より好ましくは2.7%以上であり、更に好ましくは3.0%以上である。
【0040】
一方、Agの含有量が3.6%を超えると、過共晶になるためにAgSnが多量に析出してバルクの強度が上がるため、破壊モードが接合界面になる。また、シェア強度が低下し、化合物の多量析出により融点が上昇することがある。更に、バルクの強度が上がるため、ヒートサイクル試験中に亀裂が発生し、標準偏差が大きくなり、耐ヒートサイクル性が劣る。Ag含有量の上限は3.6%以下であり、好ましくは3.4%以下であり、より好ましくは3.2%以下である。
【0041】
(2) Cu:0.6~0.9%
Cuは、シェア強度の向上、接合界面に形成する金属間化合物の形成量を制御することによる破壊モードの適正化、融点の低下、および耐ヒートサイクル性の向上に寄与する。また、含有量が適量であれば、粗大なCuSnの析出を抑制することができる。Cuの含有量が0.6%未満であると、CuSnが十分に析出せず、シェア強度が劣る。また、融点が上昇する。Cu含有量の下限は0.6%以上であり、好ましくは0.7%以上である。
【0042】
一方、Cuの含有量が0.9%を超えると、過共晶になり接合界面に粗大なCuSnが析出するためにシェア強度が劣化する。また、破壊モードが接合界面になる。更に、シェア強度が劣化するため、ヒートサイクル試験中に亀裂が発生し、標準偏差が大きくなり、耐ヒートサイクル性が劣る。Cu含有量の上限は0.9%以下であり、好ましくは0.8%以下である。
【0043】
(3) In:1.0~5.0%
Inは、シェア強度の向上、破壊モードの適正化、および耐ヒートサイクル性の向上に寄与する。Inの含有量が1.0%未満であると、シェア強度が劣り、また、濡れ性の低下により濡れ広がりが不十分であるとともに固溶強化の効果が不十分であるため、破壊モードが不適切になり、耐ヒートサイクル性も劣る。Inの含有量の下限は1.0%以上であり、好ましくは1.5%以上であり、より好ましくは2.0%以上であり、更に好ましくは2.5%以上であり、特に好ましくは3.0%以上である。
【0044】
一方、Inの含有量が5.0%を超えると、化合物を多量に析出することにより、融点が上昇する。さらに、バルク強度が過度に向上し、シェア強度が低下する。また、接合界面もしくは部品での破壊の懸念がある。また、バルクの強度が上がるため、ヒートサイクル試験中に亀裂が発生し、標準偏差の値が大きくなり、耐ヒートサイクル性が劣る。Inの含有量の上限は5.0%以下であり、好ましくは4.5%以下であり、より好ましくは4.0%以下であり、更に好ましくは3.5%以下である。
【0045】
(4) Sb:3.0~5.0%
Sbは、融点上昇の抑制、シェア強度の向上、破壊モードの適正化、および耐ヒートサイクル性の向上に寄与する。Sbの含有量が3.0%未満であると、Snに対する固溶強化、並びにSn-Sb化合物の析出強化が十分ではないため、シェア強度が劣る。Sbの含有量の下限は3.0%以上であり、好ましくは3.5%以上であり、より好ましくは3.6%以上であり、さらに好ましくは3.8%以上であり、特に好ましくは3.9%以上であり、最も好ましくは4.0%以上である。
【0046】
一方、Sbの含有量が5.0%を超えると、粗大なSnSb化合物を形成するため、シェア強度が劣る。さらに、濡れ性が劣化し、破壊モードが接合界面または部品破壊となり、不適切になる。また、バルクの強度が上がるため、ヒートサイクル試験中に亀裂が発生し、標準偏差が大きくなり、耐ヒートサイクル性が劣る。Sbの含有量の上限は5.0%以下であり、好ましくは4.8以下であり、より好ましくは4.6%以下であり、さらに好ましくは4.5%以下であり、特に好ましくは4.3%以下であり、最も好ましくは4.1%以下である。
【0047】
(5) Fe:0.0010~0.0300%
Feは、シェア強度の向上、破壊モードの適正化、および耐ヒートサイクル性の向上に寄与する。Feの含有量が0.0010%未満であると、界面に形成される金属間化合物層の改質による界面強化の効果が十分ではないため、シェア強度が劣る。Feの含有量の下限は0.0010%以上であり、好ましくは0.0050%以上であり、より好ましくは0.0100%以上であり、更に好ましくは0.0150%以上であり、特に好ましくは0.0200%以上である。
【0048】
一方、Feの含有量が0.0300%を超えると、SnとFeの化合物が析出し、バルク強度が過度に向上するため、シェア強度が劣り、また、接合界面での破壊の懸念がある。Feの含有量の上限は0.0300%以下であり、好ましくは0.0270%以下であり、より好ましくは0.0250%以下である。
【0049】
(6) Co:0.0010~0.0500%
Coは、融点上昇の抑制、シェア強度の向上、破壊モードの適切化、および耐ヒートサイクル性の向上に寄与する。Coの含有量が0.0010%未満であると、バルクの微細化効果が十分ではないため、シェア強度が低下する。Co含有量の下限は0.0010%以上であり、好ましくは0.0030%以上であり、より好ましくは0.0060%以上であり、更に好ましくは0.0080%以上である。
【0050】
一方、Coの含有量が0.0500%を超えると、SnとCoの化合物が析出し、バルクの強度が上がるため、破壊モードが接合界面になる。また、化合物の多量析出により融点が大幅に上昇し、濡れ性が悪化するため、シェア強度が低下する。更に、バルクの強度が上がるため、ヒートサイクル試験中に亀裂が発生し、標準偏差が大きくなり、耐ヒートサイクル性が劣る。Co含有量の上限は0.0500%以下であり、好ましくは0.0300%以下であり、より好ましくは0.0100%以下である。
【0051】
(7) 残部:Sn
本発明に係るはんだ合金の残部はSnである。前述の元素の他に不可避的不純物を含有してもよい。不可避的不純物を含有する場合であっても、前述の効果に影響することはない。なお、本発明において、Niは、Sn-Ag-Cu-In-Sb-Fe-Coはんだ合金において、各々の含有量が上述の範囲内である場合には、少量の添加で融点が急激に上昇するため、含有しない方がよい。また、本発明において、Mnは、融点が上昇してしまい、濡れ性が悪化し、適切な化合物が形成できずシェア強度が低下するため、含有しない方がよい。さらに、Biは、Inと共存するとSn-In-Bi低融点相を形成する。低融点相は、クリープ変形を鑑みると、融点に対して室温環境が非常に高温環境であるため、クリープ変形し易く、強度が低下する。このため、本発明では、Biを含有しない方がよい。
【0052】
(8) Zr、Ge、Ga、P、As、Pb、Zn、Mg、Cr、Ti、Mo、Pt、Pd、Au、Al、およびSiの少なくとも1種を合計で0.1%以下
本発明に係るはんだ合金は、本発明の効果を損なわない程度において、任意元素として、Zr、Ge、Ga、P、As、Pb、Zn、Mg、Cr、Ti、Mo、Pt、Pd、Au、Al、およびSiの少なくとも1種を合計で0.1%以下の範囲で含有することができる。好ましくは、合計量が0.08%以下である。含有量の下限は特に限定されないが、0.0001%以上であればよく、0.001%以上であってもよい。
【0053】
(9) (1)式および(2)式
0.0020≦Ag×Cu×In×Sb×Fe×Co≦0.0090 (1)
445≦In/(Ag×Cu×Sb×Fe×Co)≦3560 (2)
上記(1)式および(2)式中、Ag、Cu、In、Sb、Fe、およびCoは、各々はんだ合金の質量%としての含有量である。
【0054】
(1)式は、本発明に係るはんだ合金の添加元素のバランスが考慮された式である。本発明に係るはんだ合金は、低い融点、高いシェア強度、適正な破壊モード、および高い耐ヒートサイクル性を、各構成元素の相乗効果により発揮することができる。このため、Snを除くすべての構成元素のバランスは、本発明のすべての効果を、より一層向上させることができる。(1)式の中で、Ag、Cu、In、およびSbの含有量は、FeとCoの含有量と比較して10~100倍程度である。しかし、はんだ合金への寄与度は同程度であると考えられる。したがって、本発明において低い融点、高いシェア強度、適正な破壊モード、および高い耐ヒートサイクル性を、1組成で、同時に、更に向上させるためには、均衡がとれた含有量にすることが好ましい。
【0055】
(2)式は、本発明に係るはんだ合金の添加元素の中で、Inと、その他の元素とのバランスを考慮した式である。Inは、他の添加元素と比較して、含有量の範囲の下限未満であっても上限を超えても、シェア強度が劣るとともに破壊モードが不適切になる。これは、本発明に係るSn-Ag-Cu-In-Sb-Co-Feはんだ合金において特有の現象である。この理由は定かではないが、濡れ性の低下により濡れ広がりが不十分であるとともに固溶強化の効果が不十分であると推察される。
【0056】
(1)、(2)の式の算出には、下記表1および2に示された合金組成の実測値において、表記されている数値自体が用いられる。すなわち、(1)、(2)式の算出では、下記表1および2で示された実測値において、有効数字の桁数より小さい桁をすべて0として取り扱う。例えば、Coの含有量が実測値で「0.008」質量%であった場合、(1)、(2)式の算出に用いるCoの含有量は、0.0075~0.0084%の範囲を有するのではなく、「0.008000・・・」として取り扱う。(1)式では小数点第五位まで算出し、小数点第五位を四捨五入して小数点第四位まで求め、(2)式では小数点第一位まで算出し、小数点第一位を四捨五入して一の位まで求める。
なお、本明細書に記載されている特許文献やその他の文献に具体的に開示されている合金組成から(1)、(2)式を算出する場合にも、同様にして取り扱う。
【0057】
前述のように、合金はすべての構成元素が個々に機能するのではなく、すべての構成元素が全体として1つの物を成すことから、1種の元素だけですべての優れた効果が同時に発揮されることは稀である。このため、上述のように、各構成元素の最適な含有量の範囲内において、更に優れた特性を示すようにするためには、構成元素を全体的に検討する必要がある。本発明に係るはんだ合金では、低い融点、高いシェア強度、適正な破壊モード、および高い耐ヒートサイクル性のすべてを、1組成で、更に高い水準で達成するためには、(1)式および(2)式を満たすことが好ましい。
【0058】
(1)式の下限は、好ましくは0.0020以上であり、より好ましくは0.0021以上であり、更に好ましくは0.0022以上であり、更により好ましくは0.0023以上であり、特に好ましくは、0.0024以上であり、最も好ましくは0.0028以上であり、0.0029以上、0.0033以上、0.0034以上、0.0035以上、0.0036以上、0.0038以上、0.0042以上、0.0043以上、0.0045以上、0.0046以上、0.0048以上、0.0049以上、0.0050以上、0.0057以上であってもよい。(1)式の上限は、好ましくは0.0090以下であり、より好ましくは0.0086以下であり、更に好ましくは0.085以下であり、更により好ましくは0.0083以下であり、特に好ましくは0.0076以下であり、最も好ましくは0.0073以下であり、0.0071以下、0.0069以下、0.0068以下、0.0067以下、0.0066以下、0.0065以下、0.0064以下、0.0061以下、0.0060以下であってもよい。
【0059】
(2)式の下限は、好ましくは445以上であり、より好ましくは525以上であり、更に好ましくは630以上であり、更により好ましくは700以上であり、特に好ましくは787以上であり、最も好ましくは788以上であり、840以上、1050以上、1225以上、1260以上、1261以上、1313以上、1378以上、1379以上、1400以上、1401以上、1470以上、1471以上、1488以上であってもよい。(2)式の上限は、好ましくは3560以下であり、より好ましくは3501以下であり、更に好ましくは3151以下であり、更により好ましくは2801以下であり、特に好ましくは2679以下であり、最も好ましくは2678以下であり、2626以下、2450以下、2451以下、2363以下、2143以下、2142以下、2101以下、2100以下、1970以下、1969以下、1891以下、1890以下、1838以下、1786以下、1785以下、1751以下、1750以下、1681以下、1680以下、1576以下、1575以下であってもよい。
【0060】
なお、後述する実施例において、判定結果が「◎」である場合には、「〇」と比較して実用上特に好ましいことを表す。「〇」は、従来よりも好ましい結果であるため、他の評価結果も優れている場合には本発明の範囲内であり、実施例として取り扱う。「×」は、本発明においては不十分な結果であるため、本発明の範囲外であり、比較例として取り扱う。
【0061】
本発明における耐ヒートサイクル性は、ヒートサイクル試験後におけるサンプル毎のバラツキを考慮したものであり、平均値からのずれが小さい方が高い評価となる。このため、従来から検討されてきた耐ヒートサイクル性のように、単に平均値で比較する評価とは、その意味合いが大きく異なる。
【0062】
2. はんだペースト
本発明に係るはんだペーストは、上述の合金組成からなるはんだ粉末とフラックスとの混合物である。本発明において使用するフラックスは、常法によりはんだ付けが可能であれば特に制限されない。したがって、一般的に用いられるロジン、有機酸、活性剤、チキソ剤、そして溶剤を適宜配合したものを使用すればよい。本発明において金属粉末成分とフラックス成分との配合割合は特に制限されないが、好ましくは、金属粉末成分:70~90質量%、フラックス成分:10~30質量%である。
【0063】
3. はんだボール
本発明に係るはんだ合金は、はんだボールとして使用することができる。はんだボールとして使用する場合は、本発明に係るはんだ合金を、当業界で一般的な方法である滴下法を用いてはんだボールを製造することができる。また、はんだボールを、フラックスを塗布した1つの電極上にはんだボールを1つ搭載して接合する等、当業界で一般的な方法で加工することによりはんだ継手を製造することができる。はんだボールの粒径は、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは10μm以上であり、さらに好ましくは20μm以上であり、特に好ましくは30μm以上である。はんだボールの粒径の上限は好ましくは3000μm以下であり、より好ましくは1000μm以下であり、さらに好ましくは800μm以下であり、特に好ましくは600μm以下である。
【0064】
4. はんだプリフォーム
本発明に係るはんだ合金は、プリフォームとして使用することができる。プリフォームの形状としては、ワッシャ、リング、ペレット、ディスク、リボン、ワイヤー等が挙げられる。
【0065】
5. はんだ継手
本発明に係るはんだ継手は、少なくとも2つ以上の被接合部材の接合に好適に使用される。被接合部材とは、例えば、素子、基板、電子部品、プリント基板、絶縁基板、ヒートシンク、リードフレーム、電極端子等を用いる半導体及び、パワーモジュール、インバーター製品など、本発明に係るはんだ合金を用いて電気的に接続されるものであれば特に限定されない。
【0066】
本発明に係るはんだ合金を用いた接合方法は、例えばリフロー法を用いて常法に従って行えばよい。リフローソルダリングを行う場合のはんだ合金の溶融温度は概ね液相線温度から20℃程度高い温度でよい。また、本発明に係るはんだ合金を用いて接合する場合には、凝固時の冷却速度を考慮した方がさらに合金組織を微細にすることができる。例えば2~3℃/s以上の冷却速度ではんだ継手を冷却する。この他の接合条件は、はんだ合金の合金組成に応じて適宜調整することができる。
【0067】
6. 車載電子回路、ECU電子回路、車載電子回路装置、ECU電子回路装置
本発明に係るはんだ合金は、これまでの説明からも明らかなように、融点の上昇が抑えられ、シェア強度に優れ、破壊モードが適正であり、耐ヒートサイクル性に優れている。このため、過酷な環境に曝される自動車用、つまり車載用として使用されても、はんだ継手の破断がバラツキなく抑制される。したがって、そのような特に顕著な特性を備えていることから、本発明に係るはんだ合金は、自動車に搭載する電子回路のはんだ付けに特に適していることがわかる。
【0068】
本明細書でいう「耐ヒートサイクル性に優れている」とは、後述する実施例でも示すように-40℃および+125℃で各10分保持するヒートサイクル試験を行い、はんだ継手の電気抵抗がヒートサイクル試験前から20%上昇するまでのサイクル数の標準偏差が1000以下であることを言う。このような特性は、上記ヒートサイクル試験のような非常に過酷な条件で使用されても、車載電子回路が破断する可能性を極力低減し、使用不能あるいは誤動作をもたらさないことを意味している。
【0069】
このように、本発明に係るはんだ合金は、より特定的には、車載電子回路のはんだ付けに用いられ、あるいは、ECU電子回路のはんだ付けに用いられて優れた耐ヒートサイクル性を発揮する。
【0070】
「電子回路」とは、それぞれが機能を持っている複数の電子部品の電子工学的な組み合わせによって、全体として目的とする機能を発揮させる系(システム)である。
【0071】
そのような電子回路を構成する電子部品としては、チップ抵抗部品、多連抵抗部品、QFP、QFN、パワートランジスタ、ダイオード、コンデンサ等が例示される。これらの電子部品を組み込んだ電子回路は基板上に設けられ、電子回路装置を構成するのである。
【0072】
本発明において、そのような電子回路装置を構成する基板、例えばプリント配線基板は特に制限されない。またその材質も特に制限されないが、耐熱性プラスチック基板(例:高Tg低CTEであるFR-4)が例示される。プリント配線基板はCuランド表面をアミンやイミダゾール等の有機物(OSP:OrganicSurfaceProtection)で処理したプリント回路基板が好ましい。
【0073】
7. その他
本発明に係るはんだ合金は、その原材料として低α線量材を使用することにより低α線量合金を製造することができる。このような低α線量合金は、メモリ周辺のはんだバンプの形成に用いられるとソフトエラーを抑制することが可能となる。
【実施例
【0074】
本発明を以下の実施例により説明するが、本発明が以下の実施例に限定されることはない。
本発明の効果を立証するため、表1に記載のはんだ合金を用いて、(1)融点、(2)シェア強度、(3)破壊モード、および(4)耐ヒートサイクル試験(TCT)を評価した。なお、(4)については、以下の実施例および比較例の中から実施例4と比較例19を抽出し、それらの評価結果を示す。
【0075】
(1) 融点
表1および表2に示すはんだ合金について、DSC曲線から各々の温度を求めた。DSC曲線は、セイコーインスツルメンツ社製のDSC(型番:6200)により、大気中で5℃/minで昇温して得られた。得られたDSC曲線から液相線温度を求め、融点とした。融点が232℃以下である場合には、従来と同程度の温度でリフローはんだ付けを行うことができる。融点が232℃超過である場合には、融点が高いために従来のリフローはんだ付けを行うことができない。
【0076】
(2) シェア強度
(2-1)サンプルの作製
表1および2に示すはんだ合金を鋳造し、はんだシートを作製した(直径:1mm/、厚さ0.15mm)。FR-4基板のCu-OSP電極にリフロー炉(SNR-615:千住金属工業株式会社製)を使用し、チップ抵抗器をはんだ付けした。チップ抵抗器は、3216CR(CR32-114JV:北陸電気工業社製)を用いた。リフロープロファイルは、220℃以上を40秒保持し、窒素雰囲気で、ピーク温度を245℃とした。
(2-2)シェア強度の評価
このように作製したサンプルを、シェア試験機(STR-1000:RHESCA社製)を用い、シェア速度を6mm/min.としてシェア強度を測定した。シェア強度が84.0N以上である場合には「◎」と評価した。シェア強度が70.0N以上84.0N未満である場合には「〇」と評価した。シェア強度が70.0N未満である場合には「×」と評価した。
【0077】
(3) 破壊モード
上記「(2) シェア強度」で評価したサンプルを、光学顕微鏡(VHX-5000:KEYENCE社製)を用いて破壊モードを観察した。サンプルがバルクで破壊している場合には「◎」と評価した。サンプルがバルク及び接合界面の金属間化合物(IMC)で破壊している場合には「〇」と評価した。サンプルが金属間化合物で破壊している場合には「×」と評価した。
【0078】
(4) 耐ヒートサイクル試験(TCT)
表1から実施例4、表2から比較例19を選択し、各はんだ合金をアトマイズしてはんだ粉末とした。松脂、溶剤、活性剤、チキソ剤、有機酸等からなるはんだ付けフラックス(千住金属工業株式会社製「GLV」)と混和して、各はんだ合金のはんだペーストを作製した。はんだペーストの合金粉末は88質量%とし、フラックスを12質量%とした。はんだペーストを、厚さが0.8mmのプリント基板(材質:FR-4)に厚さが100μmのメタルマスクで印刷した後、12mm×12mmのLGA(Land Grid Array)部品をマウンタで実装して、上記「(2)(2-1)」と同じリフロープロファイルでリフローはんだ付けをし、サンプルを作製した。実施例4については15個のサンプルを作製し、比較例18については14個のサンプルを作製した。
【0079】
作製したサンプルを、低温-40℃、高温+125℃、保持時間10分の条件に設定したヒートサイクル試験装置(TSA-101L-A:エスペック社製)に入れ、試験中に抵抗値を測定した。初期の抵抗値から20%上昇した場合に破断が発生したものとし、破断したサイクル数の平均値、および標準偏差を求めた。標準偏差が1000以下である場合には、実用上問題ない程度のバラツキであると評価した。一方、標準偏差が1000超過である場合には、平均値からかけ離れたサンプルが存在するため、実用的ではない程度のバラツキであると評価した。
以上のように(1)~(3)の評価結果を表1および表2に示す。また、(4)の評価結果を表3に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】

【0083】
表1および2に示すように、実施例1~62は、いずれも各構成元素の含有量が適量であるため、すべての評価が実用上耐え得る結果になった。また、(1)式および(2)式を満たす実施例1~8、10~17、19~24、27~31、38、39、42、43、46~62は、すべての評価において、極めて優れる結果を示すことがわかった。これは、実用上耐え得る結果の中でも、有意差がある程度に優れる結果であった。
【0084】
一方、表2に示すように、比較例1は、In、Sb、Fe、およびCoを含有しないため、シェア強度が劣り、破壊モードが適切ではなかった。比較例2は、Agの含有量が少ないため、シェア強度が劣った。比較例3および4は、Agの含有量が多いため、シェア強度が劣り、破壊モードが不適切であった。
【0085】
比較例5および6は、Cuの含有量が少ないため、シェア強度が劣った。特に、比較例6は、Niを含有するために破壊モードも不適切であった。比較例7は、Cuの含有量が多いため、シェア強度が劣り、破壊モードが不適切であった。
【0086】
比較例8および9は、Inの含有量が適切ではなかったため、シェア強度が劣り、破壊モードが不適切であった。比較例10は、Sbの含有量が少ないため、シェア強度が劣った。比較例11は、Sbの含有量が多いため、シェア強度が劣り、破壊モードが不適切であった。
【0087】
比較例12~14は、Feの含有量が少ないため、シェア強度が劣った。比較例15は、Feの含有量が多いため、シェア強度が劣り、破壊モードが不適切であった。
【0088】
比較例16は、Coの含有量が少ないため、シェア強度が劣った。比較例17は、Coの含有量が多いため、シェア強度が劣り、破壊モードが不適切であった。
【0089】
比較例18および20は、各々NiまたはMnを含有するため、融点が大幅に上昇し、シェア強度が劣り、破壊モードが不適切であった。比較例19は、Biを含有するため、シェア強度が劣った。
【0090】
また、表3から明らかなように、実施例4と比較例19では平均サイクル数は300サイクル程度の差であった。しかし、実施例4のサイクル数の標準偏差は1000未満であるのに対して、比較例19のサイクル数の標準偏差は1000を大幅に超える結果であった。
【0091】
したがって、実施例4では、ヒートサイクル試験におけるバラツキが小さく、平均値との差が小さいサンプルだけであった。他の実施例でも同様の結果を示すことがわかった。一方、比較例19では、ヒートサイクル試験におけるバラツキが大きく、平均値との差が極めて大きいサンプルが存在することがわかった。
【0092】
図1は、シェア強度を測定した後におけるサンプルの光学顕微鏡写真を示し、図1(a)は実施例4であり、図1(b)は比較例19であり、図1(c)は比較例3である。図1から明らかなように、実施例4では、バルク破壊によりはんだ継手が破断していることがわかった。一方、比較例19では、バルク破壊とともに接合界面の金属間化合物での破壊によりはんだ継手が破断していることがわかった。さらに、比較例3では接合界面の金属間化合物ではんだ継手が破断していることがわかった。このため、本実施例4では、破壊モードが適正であることがわかった。この結果は、他の実施例でも同様であった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明に係るはんだは、燃費向上のためにコンピュータで自動車を制御する電子回路であるECUなどの車載電子回路として利用することができるが、例えば、パソコンなどの民生電子機器にも使用して優れた効果を奏するものである。
【要約】      (修正有)
【課題】融点が低く、シェア強度が高く、破壊モードが適切であるとともに、耐ヒートサイクル性に優れるはんだ合金、はんだペースト、はんだボール、はんだプリフォーム、はんだ継手、車載電子回路、ECU電子回路、車載電子回路装置、およびECU電子回路装置を提供する。
【解決手段】はんだ合金は、質量%で、Ag:2.0~3.6%、Cu:0.6~0.9%、In:1.0~5.0%、Sb:3.0~5.0%、Fe:0.0010~0.0300%、Co:0.0010~0.0500%、および残部がSnからなる合金組成を有する。好ましくは、合金組成は、更に、質量%で、Zr、Ge、Ga、P、As、Pb、Zn、Mg、Cr、Ti、Mo、Pt、Pd、Au、Al、およびSiの少なくとも1種を合計で0.1%以下を含有する。
【選択図】図1
図1