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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】LED素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/02 20100101AFI20241030BHJP
   H01L 33/10 20100101ALI20241030BHJP
   H01L 33/16 20100101ALI20241030BHJP
   H01L 33/30 20100101ALI20241030BHJP
   H01L 33/38 20100101ALI20241030BHJP
【FI】
H01L33/02
H01L33/10
H01L33/16
H01L33/30
H01L33/38
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020199363
(22)【出願日】2020-12-01
(65)【公開番号】P2022087435
(43)【公開日】2022-06-13
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 邦亮
【審査官】佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-186539(JP,A)
【文献】特開2008-227071(JP,A)
【文献】特開2007-194247(JP,A)
【文献】特開2005-005318(JP,A)
【文献】特開2007-158122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siからなる支持基板と、
前記支持基板の上層に形成され、金属材料からなる接合層と、
前記接合層の上層に形成された、n型又はp型の第一半導体層と、
前記第一半導体層の上層に形成された活性層と、
前記活性層の上層に形成され、前記第一半導体層とは導電型の異なる第二半導体層とを備え、
前記支持基板は、(001)面を一方の主面とし、[110]方向に実質的に平行な辺、及び[1-10]方向に実質的に平行な辺を有した矩形板状を呈し、
前記第二半導体層は、(001)面を一方の主面とし、当該第二半導体層の[110]方向又は[1-10]方向と、前記支持基板の[110]方向とのなす角度が1.7°以下であることを特徴とする、LED素子。
【請求項2】
前記支持基板の主面のうち、前記接合層が形成されている側とは反対側の主面に形成された第一電極と、
前記第二半導体層の上層に形成された第二電極とを備えることを特徴とする、請求項1記載のLED素子。
【請求項3】
前記接合層の上層の位置、且つ前記第一半導体層の下層の位置に形成され、前記活性層で生成される光に対する反射率が前記接合層よりも高い材料からなる反射層と、
前記反射層の上層の位置、且つ前記第一半導体層の下層の位置に形成された誘電体層と、
前記誘電体層の一部領域において、前記誘電体層内を前記支持基板の主面に直交する方向に貫通し、前記反射層と前記第一半導体層とを電気的に連絡するコンタクト電極とを備ることを特徴とする、請求項に記載のLED素子。
【請求項4】
前記第一半導体層、前記活性層、及び前記第二半導体層は、いずれもInPからなる成長基板に格子整合可能な材料で構成されていることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載のLED素子。
【請求項5】
前記第一半導体層、前記活性層、及び前記第二半導体層は、いずれもInP、GaInAsP、AlGaInAs、AlInAs、及びInGaAsからなる群に属する一種又は二種以上で構成されることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載のLED素子。
【請求項6】
前記活性層は、ピーク波長が1000nm以上、2000nm未満の赤外光を生成することを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載のLED素子。
【請求項7】
請求項1に記載のLED素子の製造方法であって、
(001)面を一方の主面とする成長基板を準備する工程(a)と、
前記成長基板の(001)面上に、前記第二半導体層、前記活性層、及び前記第一半導体層を順にエピタキシャル成長させてエピタキシャル層を形成する工程(b)と、
(001)面を一方の主面とする前記支持基板を準備する工程(c)と、
前記支持基板の[110]方向と、前記成長基板の[110]方向又は[1-10]方向とを実質的に平行に保持しながら、前記成長基板上に形成された前記エピタキシャル層を前記支持基板側に向けた状態で、前記支持基板と前記成長基板とを貼り合わせる工程(d)と、
前記工程(d)の後に前記成長基板を剥離する工程(e)と、
前記支持基板側を固定した状態で、前記支持基板とは反対側に位置する前記エピタキシャル層の側から、前記第二半導体層の[110]方向に対して実質的に平行な方向、及び前記第二半導体層の[1-10]方向に対して実質的に平行な方向に沿ってダイシングする工程(f)とを有することを特徴とする、LED素子の製造方法。
【請求項8】
前記工程(d)は、前記支持基板に形成されたオリエンテーションフラットと、前記成長基板に形成されたオリエンテーションフラット又はインデックスフラットとを同方向に向けた状態で保持しながら、前記支持基板と前記成長基板とを貼り合わせることを特徴とする、請求項に記載のLED素子の製造方法。
【請求項9】
前記工程(d)よりも前に、前記エピタキシャル層の上層、及び前記支持基板の上層に前記接合層を形成する工程(g)を有し、
前記工程(d)は、
押し当て部材及び位置決め部材を準備する工程(d1)と、
前記支持基板の[110]方向と、前記成長基板の[110]方向又は[1-10]方向とが実質的に平行になるように、前記支持基板及び前記成長基板の向きの調整をする工程(d2)と、
前記工程(d2)によって調整された向きを保持するために、前記支持基板及び前記成長基板を、前記押し当て部材によって前記位置決め部材に向けて押し当てる工程(d3)と、
前記工程(d3)を実行しながら、重ね合わせられた前記支持基板及び前記成長基板を加圧することで、前記接合層を介して前記支持基板と前記成長基板を貼り合わせる工程(d4)とを有することを特徴とする、請求項7又は8に記載のLED素子の製造方法。
【請求項10】
前記成長基板は、InP基板であり、
前記第一半導体層、前記活性層、及び前記第二半導体層は、いずれもInPからなる前記成長基板に格子整合可能な材料で構成されていることを特徴とする、請求項7~9のいずれか1項に記載のLED素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、波長1000nm以上の赤外領域を発光波長とする半導体発光素子は、防犯・監視カメラ、ガス検知器、医療用のセンサや産業機器等の用途で幅広く用いられている。
【0003】
発光波長が1000nm以上の半導体発光素子は、これまで以下の手順で製造されるのが一般的であった(下記、特許文献1参照)。すなわち、成長基板としてのInP基板上に、InP基板に格子整合する、第一導電型の半導体層、活性層(「発光層」と称されることもある。)、及び第二導電型の半導体層を順次エピタキシャル成長させる。その後、半導体ウエハ上に電流注入のための電極を形成し、チップ状に切断して製造される。
【0004】
従来、発光波長が1000nm以上の半導体発光素子としては、半導体レーザ素子の開発が先行して進められてきた経緯がある。一方で、LED素子については、その用途があまりなかったこともあり、レーザ素子よりは開発が進んでいなかった。
【0005】
しかしながら、近年、アプリケーションの広がりを受け、赤外LED素子についても光出力の向上が求められるようになってきている。InP基板は、可視光領域で用いられるGaAs基板と同様に、屈折率が3以上と高い値を示す。このため、InP基板を通じて光を取り出そうとすると、空気との界面における屈折率差に起因した全反射が生じ、光取り出し効率が低く制限されてしまう。更に、InP基板は熱抵抗が大きいため、大電流駆動において光出力が飽和状態になりやすい。このような事情から、特許文献1に開示されている構造は、高い光出力を得るLED素子を実現するには不向きであった。
【0006】
特許文献1に開示された構造よりも高い光出力を得る方法として、例えば、特許文献2に開示された構造の採用が考えられる。すなわち、高い放熱性を示す導電性の支持基板(Bなどが高濃度にドープされたSi基板等)に、エピタキシャル層が形成された成長基板を貼り合わせた後、成長基板を除去することで実現した構造が有効であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平4-282875号公報
【文献】特開2013-030606号公報
【文献】特開2011-198962号公報
【文献】特開2007-194247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者の鋭意研究によれば、エピタキシャル層が形成されたInP基板(成長基板)と、支持基板としてのSi基板とを貼り合わせた後、InP基板を除去し、その後に、チップ化のためのダイシングを行うと、特にSi基板の裏面側に、チッピングと称される小片の脱落痕が複数確認された。特に、大型や多数のチッピングが生じると、チップ化された複数のLED素子の間に形状の相違が生じてしまい、製品の外観歩留まりが低下するおそれがある。
【0009】
なお、異種基板の貼り合わせる際に、ウェハレベルで生じる割れやクラックを抑制する方法として、上記特許文献3及び特許文献4の技術が開示されている。しかしながら、これらの文献は、いずれもウェハレベルの割れやクラックの抑制を対象としており、特にエピタキシャル層内の割れやクラックに対して着目した技術である。これらの方法を採用しても、チップ化後のSi基板の裏面側のチッピングを抑制する効果は期待できない。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑み、成長基板とは別の支持基板上にエピタキシャル層が形成されてなるLED素子において、支持基板の裏面側におけるチッピングの発現を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るLED素子は、
Siからなる支持基板と、
前記支持基板の上層に形成され、金属材料からなる接合層と、
前記接合層の上層に形成された、n型又はp型の第一半導体層と、
前記第一半導体層の上層に形成された活性層と、
前記活性層の上層に形成され、前記第一半導体層とは導電型の異なる第二半導体層とを備え、
前記支持基板は、(001)面を一方の主面とし、[110]方向に実質的に平行な辺、及び[1-10]方向に実質的に平行な辺を有した矩形板状を呈し、
前記第二半導体層は、(001)面を一方の主面とし、当該第二半導体層の[110]方向又は[1-10]方向が、前記支持基板の[110]方向に対して実質的に平行であることを特徴とする。
【0012】
本明細書及び図面内において、3つの整数h,k,lを用いて表記される(hkl)は面方位を示す。また、[hkl]は面(hkl)の法線方向を示す。ここで、h、k及びlは、同じ又は異なる整数でありミラー指数と呼ばれる。ミラー指数の前に表される「-」は、本来数字の頭上に表されるものであり、「バー」と呼ばれるものであるが、表記の都合上、本明細書及び図面ではミラー指数の前に表記している。
【0013】
本明細書において、ある方向d1と別の方向d2とが「実質的に平行」とは、方向d1に平行な直線Ld1と、方向d2に平行な直線Ld2とが完全に平行である場合、すなわちこれら2つの直線(Ld1,Ld2)のなす角度が0°である場合は勿論のこと、これらの2つの直線のなす角度が2°以下であることを意味する。なお、方向d1と方向d2とが「実質的に平行」である場合、方向d1に平行な直線Ld1と、方向d2に平行な直線Ld2とがなす角度は、好ましくは1.5°以下であり、より好ましくは1°以下である。
【0014】
本明細書において、「GaInAsP」という記述は、GaとInとAsとPの混晶であることを意味し、組成比の記述を単に省略して記載したものである。「AlGaInAs」等の他の記載も同様である。
【0015】
本明細書において、「ピーク波長」とは発光スペクトルにおいて光出力が最も高い波長を指す。
【0016】
従来の方法で、成長基板と支持基板を貼り合わせ、成長基板を剥離した後、チップ化のためにダイシングを行うと、支持基板の裏面側に大型のチッピングが生じた理由について、本発明者は以下のように考察している。
【0017】
エピタキシャル層が形成された成長基板(例えばInP基板)と、支持基板としてのSi基板とを貼り合わせるに際しては、安定した貼り合わせ強度と導電性の確保の観点から、両基板にそれぞれハンダ等の金属からなる接合層を成膜した状態で、これらの接合層同士を接合させるのが通常である。この貼り合わせ工程の際、両基板には回転方向の自由度が存在する。
【0018】
成長基板と支持基板とが貼り合わせられた後、エピタキシャル層を残して成長基板が除去される。その後、ダイシングによりウェハがチップ化される。ここで、エピタキシャル層は、膜厚が薄く機械的に脆弱であることから、エピタキシャル層に対して切削が施されると、エピタキシャル層に対して膜剥がれ等、デバイスに対して致命的なダメージが生じる可能性がある。このため、ダイシング工程の前に、ダイシング該当箇所に形成されているエピタキシャル層を、事前にエッチング等によって除去するのが通常である(メサエッチング)。
【0019】
InP基板からなる成長基板の主面に成長されたエピタキシャル層は、その化学的性質から、もとのInP基板の[110]方向及び[1-10]方向に沿って、言い換えれば、エピタキシャル層の[110]方向及び[1-10]方向に沿ってエッチングすると、直線性の高い形状が得られる。つまり、メサエッチング工程の後には、[110]方向及び[1-10]方向に沿ったダイシングラインが形成されている。よって、ダイシング工程は、このダイシングラインに沿って行われる。
【0020】
なお、成長基板としてGaAs基板を用いた場合であっても、同様に[110]方向及び[1-10]方向に沿ってエピタキシャル層をエッチングすると、直線性の高い形状が得られる。よって、この場合も、ダイシング工程は[110]方向及び[1-10]方向に沿って実行されることになる。
【0021】
ダイシング工程は、支持基板を高速に回転するブレード(典型的にはダイヤモンドブレード)で切削することで行われる。このとき、支持基板の裏面側に不可避的にチッピングが発生する。チッピングの発生理由としてはいくつか考えられるが、例えば、ブレードの砥粒(典型的にはダイヤモンドの微粉末)が高速で支持基板に接触すること、切削屑が切削界面に巻き込まれること、ブレードに回転ゆらぎ(偏芯)があること、異なる材料(例えばSi基板とダイシングテープ等)を一緒に切断すること等が理由として考えられる。
【0022】
支持基板としては、高い導電性と高い熱伝導率が得られるという観点から、Siの単結晶基板を用いることが一般的である。単結晶基板は劈開性があり、原子配列の揃った面に沿った方向(すなわち所定の結晶方位)に劈開しやすい。このため、ひとたび小さなチッピングが発生すると、機械的切断を生じさせる力が分散されず、結晶方位に沿って亀裂が進展してしまう。従って、基板の切削方位によっては小さなチッピングがきっかけとなって大きなチッピング(脱落痕、欠け)が発生し、外観の不良を招く。
【0023】
本発明に係るLED素子によれば、エピタキシャル層を形成する第二半導体層と、支持基板とが同じ(001)面を主面とした状態であって、第二半導体層の[110]方向又は[1-10]方向が、支持基板の[110]方向に対して実質的に平行に構成されている。上述したように、チップ化の前に行われるメサエッチング工程において、第二半導体層を含むエピタキシャル層には、[110]方向及び[1-10]方向に沿ったダイシングラインが形成される。
【0024】
ここで、第二半導体層の[110]方向又は[1-10]方向が、支持基板の[110]方向に対して実質的に平行に構成されていることから、ダイシングラインの方向は、支持基板の[110]方向及び[1-10]方向に対して実質的に平行となる。Siの結晶構造はダイヤモンド構造であり、(001)面に直交する2つの面である、(110)面と(100)面を比較すると、(110)面は(100)面よりも劈開性が高い。なお、(110)面と、(-1-10)面、(1-10)面、及び(-110)面とは、結晶の対称性に鑑みると等価であり、{110}面と総称できる。同様に、(100)面と、(-100)面、(010)面、及び(0-10)面とは、結晶の対称性に鑑みると等価であり、{100}面と総称できる。この総称表記を用いると、Siからなる支持基板において、{110}面は{100}面よりも劈開性が高い。
【0025】
つまり、支持基板の[110]方向及び[1-10]方向に対して実質的に平行に形成されたダイシングラインに沿って、Siからなる支持基板がダイシングされると、このダイシングの方向は、劈開性の高い{110}面に平行な方向となる。この結果、仮に微小なチッピングが発生し、このチッピングを起点として亀裂が生じたとしても、この亀裂は、ダイシング方向と同方向の[110]方向及び[1-10]方向に進展しやすい。つまり、チッピングは、ダイシングによって現れる切断面に平行な方向に進展しやすく、チップの内側に向けて進展しにくくなる。この結果、チッピングの大きさや数を抑制することができる。
【0026】
ところで、成長基板や支持基板には、結晶方位の確認のためのオリエンテーションフラット(以下、「OF」と略記することがある。)が形成されているのが一般的である。従来、成長基板と支持基板を貼り合わせる際には、このOFを用いて向きを揃える工程が行われる場合もある。ただし、この工程は、特に意図が存在しているわけではなく、ある程度の向きを揃えるという程度の処理に過ぎない。
【0027】
上述したように、これら2つの異種基板の貼り合わせの際には、回転方向の自由度が存在するため、単にOFの向きを揃えた程度では、厳密な意味で方向を同方向にすることができない。なお、「発明の詳細な説明」の項で後述されるが、単に2つの基板のOF同士の向きを揃えただけで貼り合わせを行った場合には、貼り合わせ後の支持基板の[110]方向と成長基板の[110]とは、4°の角度ずれが確認された。この角度ずれが生じた状態でメサエッチングが行われると、メサエッチング後に形成されるダイシングラインの一つの方向、すなわち第一半導体層(エピタキシャル層)の[110]方向は、支持基板の[110]方向に対して実質的に平行ではなく、4°程度の角度ずれが生じた状態となる。
【0028】
なお、ここで「4°程度」と記載しているのは、エピタキシャル層上に形成されるメサエッチングの方向(ダイシングラインの方向)が、厳密には[110]方向(及び[1-10]方向)に一致せず、±0.3°以内の範囲でずれる可能性があるためである。
【0029】
この状態でダイシングラインに沿ってダイシングが行われると、チッピングが進展しやすい、支持基板の[110]方向及び[1-10]方向が、ダイシング方向から4°程度の角度を有していることから、ダイシング方向よりもチップの内側にチッピングが進展しやすくなる。
【0030】
これに対し、本発明に係る構成によれば、支持基板が(001)面を一方の主面とし、[110]方向に実質的に平行な辺、及び[1-10]方向に実質的に平行な辺を有した矩形板状を呈しており、且つ、第一半導体層が(001)面を一方の主面とし、[110]方向又は[1-10]方向が、支持基板の[110]方向に対して実質的に平行である。つまり、この構成によって、ダイシング工程の際に生じるチッピングを起点とした亀裂の進展方向が、支持基板の辺の方向に沿わせられるため、チッピングがチップ内部の方向に進展しにくくなり、チッピングの規模や発現数の拡大が抑制できる。
【0031】
なお、上記の観点に立てば、エピタキシャル層を成長させる成長基板がInPである場合に限らず、劈開方位がInPと同様の結晶構造を有する成長基板上に成長したエピタキシャル層を備えたLED素子に対しても、同様の効果が実現できる。一例として、成長基板としては、InPの他、GaAs、GaPを利用できる。つまり、本発明に係るLED素子において、第一半導体層、活性層、及び第二半導体層としては、上記の成長基板に対して格子整合が可能な材料であればよい。そして、LED素子の発光波長は、活性層の構成材料のバンドギャップエネルギーに依存することから、本発明のLED素子は、赤外LED素子には限定されず、一部の可視域のLED素子にも適用が可能である。
【0032】
一例として、成長基板をInP基板とした場合には、前記第一半導体層、前記活性層、及び前記第二半導体層は、いずれもInP、GaInAsP、AlGaInAs、AlInAs、及びInGaAsからなる群に属する一種又は二種以上で構成できる。これらの材料は、いずれもInP基板に対して格子整合可能な材料である。この構成により、ピーク波長が1000nm以上、2000nm未満の赤外光を生成するLED素子を実現できる。
【0033】
別の一例として、成長基板をGaAs基板とした場合には、前記第一半導体層、前記活性層、及び前記第二半導体層は、いずれもGaAs、AlGaInAs、AlGaAs、GaAsP、GaPからなる群に属する一種又は二種以上で構成できる。これらの材料は、いずれもGaAs基板に対して格子整合可能な材料である。この構成により、ピーク波長が600nm以上、1000nm未満の可視光又は近赤外光を生成するLED素子を実現できる。
【0034】
前記第二半導体層の[110]方向又は[1-10]方向と、前記支持基板の[110]方向とのなす角度は2°以下とするのが好適である。なおこの角度は、1.5°以下であるのがより好ましく、1°以下であるのが特に好ましい。この角度を小さくすればするほど、チッピングをチップ内側に進展させにくくできる。
【0035】
前記LED素子は、前記支持基板の主面のうち、前記接合層が形成されている側とは反対側の主面に形成された第一電極と、前記第二半導体層の上層に形成された第二電極とを備えるものとしても構わない。
【0036】
前記LED素子は、
前記接合層の上層の位置、且つ前記第一半導体層の下層の位置に形成され、前記活性層で生成される光に対する反射率が前記接合層よりも高い材料からなる反射層と、
前記反射層の上層の位置、且つ前記第一半導体層の下層の位置に形成された誘電体層と、
前記誘電体層の一部領域において、前記誘電体層内を前記支持基板の主面に直交する方向に貫通し、前記反射層と前記第一半導体層とを電気的に連絡するコンタクト電極とを備るものとしても構わない。
【0037】
この構成によれば、活性層から出射した光のうち、支持基板側に進行した光を、光取り出し面に対応する第二半導体層側に戻すことができるため、光取り出し効率が向上する。
【0038】
なお、単に支持基板側に進行する光を光取り出し面側に戻す目的であれば、反射層を直接第一半導体層(より詳細にはコンタクト層)の全面に接触させる構造を採用してもよさそうに思われる。しかしながら、半導体材料からなるコンタクト層と金属材料からなる反射層との接触抵抗を低下させるためには、両者に対して熱処理を行う必要がある。この熱処理により、半導体材料からなるコンタクト層と金属材料からなる反射層とを接触して熱処理を行うと、反射層を構成する金属材料とコンタクト層とが合金化し、反射率が低下してしまう。かかる観点から、反射層はコンタクト層に対して直接接触させることはできない。そこで、反射層とコンタクト層との電気的接続を確保する観点から、上記の構造のように、反射層を誘電体層の下層に形成しつつ、第一半導体層と反射層とを電気的に接続するために、誘電体層内を貫通するコンタクト電極が設けられている。
【0039】
コンタクト電極は、反射層よりは反射率が低いものの、コンタクト層との間で容易に合金化して低い接触抵抗が実現できる材料で構成される。一例として、コンタクト電極は、AuZn、AuBe、Au/Zn/Au層構造等を用いることができる。また、誘電体層としては、絶縁性を示し、熱的な安定性が高く、且つ活性層から出射される光に対する透過率が高い材料から適宜選択される。一例として、誘電体層は、SiO2、SiN、Al23等が利用できる。これにより、活性層から出射されて支持基板側に進行した光は、コンタクト電極が形成されていない誘電体内の領域を通過した後、その下層に形成された反射層で反射して光取り出し面に導かれる。
【0040】
光取り出し効率を高める観点からは、支持基板の主面である(001)面に平行な方向(以下、単に「面方向」という。)に関して、コンタクト電極が形成される領域の面積をなるべく小さくするのが好ましい。一方で、この面積をあまりに小さくすると、半導体層内を流れる電流の経路が一部の箇所に集中すると共に、抵抗が大きくなってしまう。かかる観点から、コンタクト電極は、面方向に関して離散した複数の箇所に形成されるのが好ましい。
【0041】
また、本発明は、上記構成を示すLED素子の製造方法であって、
(001)面を一方の主面とする成長基板を準備する工程(a)と、
前記成長基板の(001)面上に、前記第二半導体層、前記活性層、及び前記第一半導体層を順にエピタキシャル成長させて前記エピタキシャル層を形成する工程(b)と、
(001)面を一方の主面とする前記支持基板を準備する工程(c)と、
前記支持基板の[110]方向と、前記成長基板の[110]方向又は[1-10]方向とを実質的に平行に保持しながら、前記成長基板上に形成された前記エピタキシャル層を前記支持基板側に向けた状態で、前記支持基板と前記成長基板とを貼り合わせる工程(d)と、
前記工程(d)の後に前記成長基板を剥離する工程(e)と、
前記支持基板側を固定した状態で、前記支持基板とは反対側に位置する前記エピタキシャル層の側から、前記第二半導体層の[110]方向に対して実質的に平行な方向、及び前記第二半導体層の[1-10]方向に対して実質的に平行な方向に沿ってダイシングする工程(f)とを有することを特徴とする。
【0042】
これにより、工程(f)のダイシング工程におけるダイシング方向を、支持基板の劈開性の高い{110}面に平行な方向にできるため、このダイシングの際に生じるチッピングを起点とした亀裂の進展方向を、支持基板の辺の方向に沿わせられる。これにより、チッピングがチップ内部の方向に進展しにくくなり、チッピングの規模や発現数の拡大が抑制できる。
【0043】
前記工程(d)は、前記支持基板に形成されたオリエンテーションフラットと、前記成長基板に形成されたオリエンテーションフラット又はインデックスフラットとを同方向に向けた状態で保持しながら、前記支持基板と前記成長基板とを貼り合わせるものとしても構わない。
【0044】
また、前記LED素子の製造方法は、前記工程(d)よりも前に、前記エピタキシャル層の上層、及び前記支持基板の上層に前記接合層を形成する工程(g)を有し、
前記工程(d)は、
押し当て部材及び位置決め部材を準備する工程(d1)と、
前記支持基板の[110]方向と、前記成長基板の[110]方向又は[1-10]方向とが実質的に平行になるように、前記支持基板及び前記成長基板の向きの調整をする工程(d2)と、
前記工程(d2)によって調整された向きを保持するために、前記支持基板及び前記成長基板を、前記押し当て部材によって前記位置決め部材に向けて押し当てる工程(d3)と、
前記工程(d3)を実行しながら、重ね合わせられた前記支持基板及び前記成長基板を加圧することで、前記接合層を介して前記支持基板と前記成長基板を貼り合わせる工程(d4)とを有するものとしても構わない。
【0045】
この方法により、両基板を重ね合わせた状態での回転方向に関する自由度が抑制されるため、工程(d2)で調整された向きを保持したまま、ダイシングを行うことができる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、成長基板とは別の支持基板上にエピタキシャル層が形成されてなるLED素子において、支持基板の裏面側に生じるチッピングの発現が抑制でき、製品の外観歩留まりを向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】本発明のLED素子の一実施形態の構造を模式的に示す断面図である。
図2図1から支持基板11のみを抜き出して+Y側から見たときの平面図を、ミラー指数を用いた結晶方位を付記した状態で示す図面である。
図3A図1から第二クラッド層27のみを抜き出して+Y側から見たときの平面図を、ミラー指数を用いた結晶方位を付記した状態で示す図面である。
図3B図1から第二クラッド層27のみを抜き出して+Y側から見たときの平面図を、ミラー指数を用いた結晶方位を付記した状態で示す別の図面である。
図4A図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図4B】成長基板3の(001)面を上面にした平面図である。
図5A図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図5B図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図5C図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図6A図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図6B】支持基板11の(001)面を上面にした平面図である。
図7図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図8A図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図8B】成長基板3と支持基板11の位置合わせの状態を保持するための方法の一例を模式的に示す図面である。
図9A図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図9B図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図9C図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図9D図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図9E図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図10A図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図10B図1に示すLED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図11A】実施例1のLED素子の支持基板11の裏面側の写真である。
図11B】実施例2のLED素子の支持基板11の裏面側の写真である。
図11C】比較例1のLED素子の支持基板11の裏面側の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明に係るLED素子及びその製造方法の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の図面は模式的に示されたものであり、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しない。また、図面間においても寸法比が一致していない場合がある。
【0049】
本明細書内において、「層Aの上層に層Bが形成されている」という表現は、層Aの面上に直接層Bが形成されている場合はもちろん、層Aの面上に薄膜を介して層Bが形成されている場合も含む意図である。なお、ここでいう「薄膜」とは、膜厚10nm以下の層を指し、好ましくは5nm以下の層を指すものとして構わない。
【0050】
図1は、本実施形態のLED素子の構造を模式的に示す断面図である。図1に示すLED素子1は、支持基板11の上層に形成されたエピタキシャル層20を備える。図1に示すLED素子1は、所定の位置においてXY平面に沿って切断したときの模式的な断面図に対応する。以下の説明では、適宜、図1に付されたXYZ座標系が参照される。
【0051】
以下の説明では、方向を表現する際に正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。
【0052】
本実施形態のLED素子1は、エピタキシャル層20内(より詳細には後述される活性層25内)で、赤外光Lが生成される。より詳細には、図1に示すように、赤外光L(L1,L2)は、活性層25を基準としたときに+Y方向に取り出される。赤外光Lは、一例として、ピーク波長が1000nm以上、2000nm以下の光である。
【0053】
[素子構造]
以下、LED素子1の構造について詳細に説明する。
【0054】
(支持基板11)
支持基板11はSiからなり、導電性を示すように高濃度にドーパントがドープされている。一例として、B(ホウ素)が1×1019/cm3以上のドーパント濃度でドープされた、抵抗率が10mΩcm以下のSi基板が利用される。ドーパントとしては、B(ホウ素)以外には、例えば、P、As、Sb等が利用できる。高濃度にドーパントがドープされることで導電性が確保される。また、Si基板を用いることで、高い放熱性が確保できると共に、製造コストを低廉化できる。
【0055】
支持基板11の厚み(Y方向に係る長さ)は、特に限定されないが、例えば50μm以上、500μm以下であり、好ましくは100μm以上、300μm以下である。
【0056】
支持基板11は、一方の主面が(001)面である。
【0057】
(接合層13)
図1に示すLED素子1は、支持基板11の上層に形成された接合層13を備える。接合層13は低融点のハンダ材料からなり、例えばAu、Au-Zn、Au-Sn、Au-In、Au-Cu-Sn、Cu-Sn、Pd-Sn、Sn等で構成される。図8Aを参照して後述されるように、この接合層13は、エピタキシャル層20が上面に形成された成長基板3と、支持基板11とを貼り合わせるために利用される。接合層13の厚みは、特に限定されないが、例えば0.5μm以上、5.0μm以下であり、好ましくは1.0μm以上、3.0μm以下である。
【0058】
(バリア層14,バリア層16)
図1に示すLED素子1は、バリア層(14,16)を備える。バリア層(14,16)は、接合層13を構成するハンダ材料の拡散を抑制する目的で設けられており、かかる機能を実現する限りにおいて材料には限定されない。例えば、Ti、Pt、W、Mo、Ni等を含む材料で実現できる。一例として、Ti/Pt/Auの積層体で構成される。
【0059】
バリア層(14,16)の厚みは、特に限定されないが、例えば0.05μm以上、3μm以下であり、好ましくは0.2μm以上、1μm以下である。
【0060】
なお、図1に示すLED素子1では、バリア層(14,16)が形成されているが、本発明においてバリア層(14,16)を備えるか否かは任意である。
【0061】
(反射層15)
図1に示すLED素子1は、接合層13の上層に形成された反射層15を備える。反射層15は、活性層25内で生成された赤外光Lのうち、支持基板11側(-Y方向)に進行する赤外光L2を反射させて、+Y方向に導く機能を奏する。反射層15は、導電性材料であって、且つ、赤外光Lに対して高い反射率を示す材料で構成される。反射層15の赤外光Lに対する反射率は、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが特に好ましい。
【0062】
赤外光Lのピーク波長が1000nm以上、2000nm以下である場合においては、反射層15はAg、Ag合金、Au、Al、Cu等の金属材料を用いることができる。反射層15を構成する材料は、活性層25で生成される光の波長に応じて適宜選択される。
【0063】
反射層15の厚みは、特に限定されないが、例えば0.1μm以上、2.0μm以下であり、好ましくは0.3μm以上、1.0μm以下である。
【0064】
図1に示すように、反射層15と接合層13の間にバリア層14が形成されることで、接合層13を構成する材料が反射層15側に拡散して反射層15の反射率を低下させることが抑制できる。
【0065】
なお、光取り出し効率を向上させる観点からは、図1に示すように、LED素子1が反射層15を備えるのが好適であるが、本発明において、LED素子1が反射層15を備えるか否かは任意である。
【0066】
(誘電体層17)
図1に示すLED素子1は、反射層15の上層に形成された誘電体層17を備える。誘電体層17は、電気的絶縁性を示し、且つ赤外光Lに対する透過性の高い材料で構成される。誘電体層17の赤外光Lに対する透過率は、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが特に好ましい。
【0067】
赤外光Lのピーク波長が1000nm以上、2000nm以下である場合においては、誘電体層17はSiO2、SiN、Al23等の材料を用いることができる。誘電体層17を構成する材料は、活性層25で生成される光の波長に応じて適宜選択される。
【0068】
(エピタキシャル層20)
図1に示すLED素子1は、誘電体層17の上層に形成されたエピタキシャル層20を有する。エピタキシャル層20は、複数の層の積層体で構成される。具体的には、エピタキシャル層20は、コンタクト層21と、第一クラッド層23と、活性層25と、第二クラッド層27とを含む。エピタキシャル層20を構成する各半導体層(21,23,25,27)は、後述される成長基板3と格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料で構成される。
【0069】
《コンタクト層21,第一クラッド層23》
本実施形態において、コンタクト層21は例えばp型のGaInAsPで構成される。コンタクト層21の厚みは限定されないが、例えば、10nm以上、1000nm以下であり、好ましくは50nm以上、500nm以下である。また、コンタクト層21のp型ドーパント濃度は、好ましくは5×1017/cm3以上、3×1019/cm3以下であり、より好ましくは、1×1018/cm3以上、2×1019/cm3以下である。
【0070】
本実施形態において、第一クラッド層23はコンタクト層21の上層に形成されており、例えばp型のInPで構成される。第一クラッド層23の厚みは限定されないが、例えば、1000nm以上、10000nm以下であり、好ましくは2000nm以上、5000nm以下である。第一クラッド層23のp型ドーパント濃度は、活性層25から離れた位置において、好ましくは1×1017/cm3以上、3×1018/cm3以下であり、より好ましくは、5×1017/cm3以上、3×1018/cm3以下である。
【0071】
コンタクト層21及び第一クラッド層23に含まれるp型ドーパントとしては、Zn、Mg、Be等を利用することができ、Zn又はMgが好ましく、Znが特に好ましい。本実施形態では、コンタクト層21及び第一クラッド層23が「第一半導体層」に対応する。
【0072】
《活性層25》
本実施形態において、活性層25は、第一クラッド層23の上層に形成された半導体層で構成される。活性層25は、狙いとする波長の光を生成可能であり、且つ図4A及び図4Bを参照して後述される成長基板3と格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料から適宜選択される。
【0073】
例えば、ピーク波長が1000nm以上、2000nm以下の赤外光Lを出射するLED素子1を実現したい場合に、活性層25は、GaInAsP、AlGaInAs、又はInGaAsの単層構造としても構わないし、GaInAsP、AlGaInAs、又はInGaAsからなる井戸層と、井戸層よりもバンドギャップエネルギーの大きいGaInAsP、AlGaInAs、InGaAs、又はInPからなる障壁層とを含むMQW(Multiple Quantum Well:多重量子井戸)構造としても構わない。
【0074】
活性層25の膜厚は、活性層25が単層構造の場合は、50nm以上、2000nm以下であり、好ましくは、100nm以上、300nm以下である。また、活性層25がMQW構造の場合は、膜厚5nm以上20nm以下の井戸層及び障壁層が、2周期以上50周期以下の範囲で積層されて構成される。
【0075】
活性層25は、n型又はp型にドープされていても構わないし、アンドープでも構わない。n型にドープされる場合には、ドーパントとしては、例えばSiを利用することができる。
【0076】
《第二クラッド層27》
本実施形態において、第二クラッド層27は、活性層25の上層に形成されており、例えばn型のInPで構成される。第二クラッド層27の厚みは限定されないが、例えば100nm以上、10000nm以下であり、好ましくは、500nm以上、5000nm以下である。第二クラッド層27のn型ドーパント濃度は、好ましくは1×1017/cm3以上、5×1018/cm3以下であり、より好ましくは、5×1017/cm3以上、4×1018/cm3以下である。第二クラッド層27にドープされるn型不純物材料としては、Sn、Si、S、Ge、Se等を利用することができ、Siが特に好ましい。第二クラッド層27が「第二半導体層」に対応する。
【0077】
第一クラッド層23及び第二クラッド層27は、活性層25で生成された赤外光Lを吸収しない材料であって、且つ、成長基板3(後述する図4A及び図4B参照)と格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料から適宜選択される。成長基板3としてInP基板を採用する場合には、第一クラッド層23及び第二クラッド層27としては、InPの他、GaInAsP、AlGaInAs等の材料を利用することが可能である。
【0078】
(コンタクト電極31)
図1に示すLED素子1は、誘電体層17内の複数の箇所においてY方向に誘電体層17を貫通して形成された、コンタクト電極31を有する。コンタクト電極31は、誘電体層17の+Y側に形成されているコンタクト層21と、誘電体層17の-Y側に形成されている反射層15とを連絡する。つまり、コンタクト電極31を介して、反射層15と第一クラッド層23(第一半導体層)とが電気的に接続される。
【0079】
コンタクト電極31は、コンタクト層21に対してオーミック接触が可能な材料で構成される。コンタクト電極31は、一例として、Au/Zn/Au、AuZn、AuBe等の材料からなり、これらの材料を複数備えるものとしても構わない。これらの材料は、反射層15を構成する材料と比較して、赤外光Lに対する反射率が低い。
【0080】
Y方向に見た場合の、コンタクト電極31のパターン形状は任意である。ただし、支持基板11の主面(XZ平面、(001)面)に平行な方向(以下、「面方向」という。)に関して活性層25内の広い範囲に電流を流す観点からは、コンタクト電極31は面方向に分散して複数配置されるのが好ましい。
【0081】
Y方向に見たときの、全てのコンタクト電極31の総面積は、エピタキシャル層20(例えば活性層25)の面方向に係る面積に対して、30%以下であるのが好ましく、20%以下であるのがより好ましく、15%以下であるのが特に好ましい。コンタクト電極31の総面積が比較的大きくなると、活性層25から支持基板11側(-Y方向)に進行する赤外光L2がコンタクト電極31に吸収されてしまい、取り出し効率が低下してしまう。一方で、コンタクト電極31の総面積が小さすぎると、抵抗値が高くなって順方向電圧が上昇してしまう。
【0082】
(第一電極33)
図1に示すLED素子1は、支持基板11のエピタキシャル層20とは反対側(-Y側)の面上に形成された、第一電極33を備える。第一電極33は支持基板11に対してオーミック接触が実現されている。第一電極33は、一例として、AuGe/Ni/Au、Pt/Ti、Ge/Pt等の材料で構成され、これらの材料を複数備えるものとしても構わない。第一電極33は、支持基板11の裏面側の所定の位置に形成され、必ずしも裏面全面に形成されなくて構わない。
【0083】
(第二電極32)
図1に示すLED素子1は、第二クラッド層27の上層に形成された、第二電極32を備える。第二電極32は、Y方向に見たときに、第二クラッド層27の上層において、格子状に延伸して形成されるのが好ましい。これにより、活性層25内を流れる電流を面方向に広げることができ、活性層25内の広い範囲で発光させることができる。ただし、本発明において、第二電極32のパターン形状は任意である。
【0084】
第二電極32は、一例として、Au/Zn/Au、AuZn、AuBe等の材料で構成され、これらの材料を複数備えるものとしても構わない。
【0085】
(パッド電極34)
図1に示すLED素子1は、第二電極32の上面に形成されたパッド電極34を有する。なお、図1では、第二電極32の上面全面にパッド電極34が形成されているように図示されているが、これは図示の都合によるものである。実際には、面方向に延伸する第二電極32の一部の面上に、パッド電極34が形成されるものとして構わない。パッド電極34は、例えばTi/Au、Ti/Pt/Au等で構成される。
【0086】
このパッド電極34は、給電のためのボンディングワイヤを接触させる領域を確保する目的で設けられているが、本発明においてパッド電極34を備えるか否かは任意である。
【0087】
[方向]
図1に示すLED素子1は、チップ化された状態の構造である。すなわち、図10Bを参照して後述されるように、支持基板11を含むウェハに対してダイシングが行われた状態の構造である。
【0088】
図2は、図1に示すLED素子1から支持基板11のみを抜き出して、+Y側から見たときの平面図を、ミラー指数を用いた結晶方位を付記した状態で示す図面である。上述したように、支持基板11は、(001)面を一方の主面とするSi基板である。ここでは、エピタキシャル層20が、支持基板11の(001)面上に形成されている場合が想定されている。つまり、図2では、支持基板11の(001)面が+Y側を向いている状態の平面図が図示されている。
【0089】
図2に示すように、支持基板11は、[110]方向に実質的に平行な辺と、[1-10]方向に実質的に平行な辺を有した矩形板状を呈している。すなわち、支持基板11を構成する4辺のうち、向かい合う一対の2辺は、支持基板11の[110]方向に対して2°以下の範囲内の角度であり、他の向かい合う一対の2辺は、支持基板11の[1-10]方向に対して2°以下の範囲内の角度である。
【0090】
図3Aは、図1に示すLED素子1から第二クラッド層27(第二半導体層)のみを抜き出して、+Y側から見たときの平面図を、ミラー指数を用いた結晶方位を付記した状態で示す図面である。
【0091】
図5Aを参照して後述されるように、第二クラッド層27を含むエピタキシャル層20は、(001)面を主面とする成長基板3上にエピタキシャル成長されることで形成される。つまり、エピタキシャル層20を構成する各半導体層は、成長基板3の結晶方位を維持した状態で成長する。その後、図8A及び図8Bを参照して後述されるように、この成長基板3は、エピタキシャル層20を支持基板11側に向けた状態で、支持基板11と貼り合わせられた後、除去される。つまり、エピタキシャル層20の主面は、成長基板3と同じく(001)面であり、この面は支持基板11側を向いている。このため、図3Aには、第二クラッド層27の(001)面に対して裏側の(00-1)面が+Y側を向いている状態の平面図が図示されている。ただし、成長基板3の(00-1)面上にエピタキシャル層20が形成されるものとしても構わない。
【0092】
図2及び図3Aに示すように、本実施形態のLED素子1は、第二クラッド層27の[110]方向が、支持基板11の[110]方向に対して実質的に平行である。つまり、第二クラッド層27の[110]方向と、支持基板11の[110]方向とがなす角度は、2°以下の範囲内である。なお、方向同士の角度を評価する場合には、各方向の正負の向きは問わないものとする。すなわち、[110]方向と[-1-10]方向とは同方向であるものとし、同様に、[1-10]方向と[-110]方向とは同方向であるものとする。
【0093】
なお、第二クラッド層27の[110]方向と、支持基板11の[110]方向とがなす角度は、例えばX線回折法(XRD法)を用いて測定できる。
【0094】
上記の内容は、言い換えれば、エピタキシャル層20を構成する各半導体層の[110]方向が、支持基板11の[110]方向に対して実質的に平行になっていることを意味する。Siからなる支持基板11において、{110}面は{100}面よりも劈開性が高い。そして、エピタキシャル層20を構成する各半導体層の一辺の方向である[110]方向が、支持基板11の[110]方向に対して実質的に平行になっていることは、チップ化のためのダイシング工程の際に、支持基板の[110]方向に沿ってダイシングされることを意味する。従って、ダイシング工程において生じる支持基板11の裏面側に生じるチッピングを起点とした亀裂の進展を、ダイシング方向に沿わせることができる。これにより、チップ内部に向かう亀裂の進展が抑制でき、チッピングの大きさや量を抑制できる。詳細については後述される。
【0095】
なお、ダイシング方向を、支持基板11の劈開性の高い方向に実質的に平行にするという観点からは、図3Bに示すように、第二クラッド層27(すなわちエピタキシャル層20)の[1-10]方向と、支持基板11の[110]方向(図2参照)とが2°以下の範囲内の角度となるように配置されていても構わない。
【0096】
[製造方法]
上述したLED素子1の製造方法の一例について、図4A図10Bの各図を参照して説明する。図4A図5A図5C図6A図7図8A図9A図9E図10A図10Bは、いずれも製造プロセス内における一工程における断面図である。他の図面については、以下において後述される。
【0097】
(ステップS1)
図4Aに示すように、成長基板3を準備する。本実施形態では、(001)面を一方の主面とするInP基板が好適に利用される。図4Bは、成長基板3の(001)面を上面にした平面図である。ここでは、一例として、成長基板3として、オリエンテーションフラット(OF)と、インデックスフラット(IF)が設けられたInP基板が利用される。OFは、成長基板3の(110)面に形成されており、IFは、成長基板3の(1-10)面に形成されている。
【0098】
なお、成長基板3としては、次の工程で形成したいエピタキシャル層20を成長できる基板であれば、InPには限定されず、GaAsや、GaPを利用できる。
【0099】
このステップS1が、工程(a)に対応する。
【0100】
(ステップS2)
図5Aに示すように、成長基板3をMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置内に搬送し、成長基板3の(001)面上に、バッファ層29、エッチングストップ層(ES層)28、第二クラッド層27、活性層25、第一クラッド層23及びコンタクト層21を順次エピタキシャル成長させて、エピタキシャル層20を形成する。本ステップS2において、成長させる層の材料や膜厚に応じて、原料ガスの種類及び流量、処理時間、環境温度等が適宜調整される。
【0101】
一例として、Siをドーパントしたn型のInPを所定膜厚(例えば500nm程度)成膜することでバッファ層29が形成され、その後、バッファ層29とは異なる材料の層(ここでは、InGaAs層)を所定膜厚(例えば200nm程度)成膜することでES層28が形成される。その後、上述した膜厚や組成となるように成長条件が設定された状態で、第二クラッド層27、活性層25、第一クラッド層23及びコンタクト層21が順次形成される。
【0102】
このステップS2が、工程(b)に対応する。
【0103】
(ステップS3)
エピタキシャル層20が形成されたウェハが、MOCVD装置から取り出された後、プラズマCVD法によって例えばSiO2からなる誘電体層17が成膜される(図5B参照)。次に、誘電体層17の表面に、フォトリソグラフィ法によってパターニングされたレジストマスクが形成される。バッファードフッ酸などの所定の薬剤を用いたエッチング法により、レジスト開口部に形成された誘電体層17が除去された後、EB蒸着装置によって、例えば、Au/Zn/Auからなるコンタクト電極31の材料膜が成膜される。
【0104】
次に、レジストマスクが除去された後、不要領域(ただし下記のアライメントマーク形成予定領域を除く)に形成された材料膜がリフトオフされることでコンタクト電極31が形成される。このとき、成長基板3に形成されたOFを基準として、コンタクト電極31と同材料からなるアライメントマークが、エピタキシャル層20の一部上面に形成される。好ましくは、アライメントマークは、成長基板3の面方向に関して、LEDの形成予定領域から充分に離れた2箇所又は3箇所以上の位置に設けられる。その後、例えば、450℃、10分間の加熱処理によってアロイ処理(アニール処理)が施されることで、コンタクト層21とコンタクト電極31との間のオーミック接触が実現される。
【0105】
(ステップS4)
図5Cに示すように、反射層15、バリア層14、及び接合層13aが順次形成される。例えば、EB蒸着装置によって、Al/Auが所定の膜厚で成膜されることで反射層15が形成され、引き続き、Ti/Pt/Auが所定の膜厚で成膜されることでバリア層14が形成され、引き続き、Ti/Auが所定の膜厚で成膜されることで接合層13aが形成される。接合層13aは上述した接合層13と同一の材料として構わない。
【0106】
(ステップS5)
図6Aに示すように、成長基板3とは別の支持基板11が準備される。本実施形態では、(001)面を一方の主面とし、B(ホウ素)が高濃度にドープされた導電性を示すSi基板が利用される。支持基板11の電気抵抗率は、100mΩ・cm(=1mΩ・m)未満とするのが好適である。
【0107】
図6Bは、支持基板11の(001)面を上面にした平面図である。ここでは、支持基板11として、(110)面にオリエンテーションフラット(OF)が形成されたSi基板が一例として利用される。
【0108】
このステップS5が、工程(c)に対応する。
【0109】
(ステップS6)
図7に示すように、支持基板11の主面上に、バリア層16及び接合層13bが形成される。バリア層16及び接合層13bは、ステップS4で上述した、バリア層14、及び接合層13aと同様の方法で形成できる。
【0110】
このステップS6が、工程(g)に対応する。なお、バリア層16を形成するか否かは任意である。
【0111】
(ステップS7)
図8Aに示すように、接合層13(13a,13b)を介して、成長基板3と支持基板11とが貼り合わせられる。好ましくは、それぞれの接合層13(13a,13b)の表面を洗浄した状態で重ね合わせられる。
【0112】
この重ね合わせの工程の際に、成長基板3と支持基板11の位置関係がずれないよう、調整される。図8Bは、この位置合わせの状態を保持するための方法の一例を模式的に示す図面である。板バネ等からなる押し当て部材52と、ピン等からなる位置決め部材51が準備される(工程(d1))。そして、成長基板3(InP)のOFと、支持基板11(Si)のOFとが同じ向きになるように調整される(工程(d2))。この状態で、押し当て部材52によって位置決め部材51側に向けて外力f52によって押し当てる。これにより、成長基板3の[110]方向と、支持基板11の[110]方向とが実質的に平行となるように保持される(工程(d3))。
【0113】
この押し当てを行うことで、成長基板3の[110]方向と支持基板11の[110]方向とを実質的に平行に保持しながら、ウェハボンディング装置で加圧しながら昇温する(工程(d4))。これにより、成長基板3上の接合層13aと支持基板11上の接合層13bとが、溶融されて一体化され(接合層13)、両基板が接合される。この結果、成長基板3と支持基板11とが貼り合わせられた後においても、成長基板3の[110]方向と支持基板11の[110]方向とが実質的に平行となる。
【0114】
このステップS7が、工程(d)に対応する。
【0115】
(ステップS8)
図9Aに示すように、成長基板3が除去される。一例としては、接合した状態の基板を塩酸系のエッチャントに浸漬することで、成長基板3が除去される。このとき、成長基板3やバッファ層29とは異なる材料で形成されたES層28は、塩酸系のエッチャントに不溶であるため、ES層28が露出した時点でエッチング処理が停止する。
【0116】
このステップS8が、工程(e)に対応する。
【0117】
(ステップS9)
図9Bに示すように、ES層28を除去して第二クラッド層27を露出させる。例えば、必要に応じて純水で洗浄後、ES層28に対しては可溶で、第二クラッド層27に対しては不溶な所定の薬液に浸漬することで、ES層28が除去される。一例として、硫酸と過酸化水素水の混合溶液(SPM)を利用できる。
【0118】
(ステップS10)
図9Cに示すように、露出した第二クラッド層27の表面に対して第二電極32が形成される。より具体的には、ステップS3で形成されたアライメントマークを基準として、第二クラッド層27の表面に、フォトリソグラフィ法によってパターニングされたレジストマスクが形成される。次に、EB蒸着装置によって、第二電極32の形成材料(例えば、Au/Ge/Au)が成膜された後、リフトオフすることで、第二電極32が形成される。その後、第二電極32のオーミック性を実現するために、例えば450℃、10分間の加熱処理によってアロイ処理(アニール処理)が施される。
【0119】
次に、第二電極32の上面の所定位置にパッド電極34が形成される。この場合も、第二電極32と同様に、EB蒸着装置による成膜、及びリフトオフ工程によって実現できる。
【0120】
(ステップS11)
図9Dに示すように、エピタキシャル層20に対してメサエッチングが行われる。より具体的には、ステップS3で形成されたアライメントマークを基準として、フォトリソグラフィ法でパターニングされたレジストが形成される。具体的には、第二クラッド層27の[110]方向及び[1-10]方向に沿った開口領域を有するレジストが形成される。次に、このレジストをマスクとして所定のエッチャントでエッチングが行われることで、エピタキシャル層20の所定箇所がエッチングされて、誘電体層17が露出する。その後、アセトン等の洗浄液でレジストが除去される。
【0121】
この工程により、エピタキシャル層20には、[110]方向及び[1-10]方向に沿ったダイシングラインが形成される。
【0122】
(ステップS12)
図9Eに示すように、支持基板11の裏面側の厚みが調整された後、支持基板11の裏面側に第一電極33が形成される。第一電極33の具体的な形成方法としては、第二電極32と同様に、EB蒸着装置によって第一電極33の形成材料(例えばTi/Pt/Au)を成膜後、リフトオフすることで形成できる。
【0123】
なお、支持基板11の裏面側の厚みの調整は、必要に応じて行えばよく、必ずしも必須な工程ではない。また、厚みの程度も用途等に応じて適宜設定される。
【0124】
(ステップS13)
支持基板11ごとダイシングされることで、チップ化される。この工程について、図10A及び図10Bを参照して説明する。
【0125】
図10Aは、ステップS12が完了した時点におけるウェハの断面を模式的に示す図面である。ステップS11におけるメサエッチング工程が行われたことで、エピタキシャル層20には、素子毎を区別するためのダイシングライン38が形成されているが、各エピタキシャル層20は、それぞれ共通の支持基板11上に形成されている。
【0126】
この状態において、例えばダイヤモンドブレード等を用いて、ステップS11で形成されたダイシングライン38に沿って、支持基板11と共にダイシングが行われる(図10B参照)。より具体的には、支持基板11の裏面側(第一電極33側)をダイシングテープ40に貼り付けて固定した状態で、ブレード41が挿入されてダイシングが行われる。その際、ダイシングテープ40の切り込み厚(カット深さwd40)が適宜設定される。
【0127】
カット後は、適宜洗浄等の工程によって、ダイシングの切削ゴミが除去される。
【0128】
ステップS13の開始前の時点で、エピタキシャル層20には、[110]方向及び[1-10]方向に沿ったダイシングライン38が形成されている。そして、ステップS7において、支持基板11と成長基板3とは、成長基板3の[110]方向と支持基板11の[110]方向とが実質的に平行となるように貼り合わせられている。つまり、エピタキシャル層20の[110]方向と支持基板11の[110]方向とが、実質的に平行な状態で、エピタキシャル層20の[110]方向及び[1-10]方向に沿ってダイシングが行われる。
【0129】
これにより、支持基板11に対しても、支持基板11の[110]方向及び[1-10]方向に対して実質的に平行に形成されたダイシングライン38に沿って、ダイシングが行われる。支持基板11の[110]方向及び[1-10]方向は、劈開性の高い{110}面に平行な方向であるため、仮に、ステップS13の実行時に、支持基板11の裏面側にチッピングが生じたとしても、このチッピングを起点とした亀裂をダイシング方向に沿わせることができる。これにより、ステップS13の実行後に得られるチップには、チップ内部に向かう亀裂の進展が抑制できている。
【0130】
このステップS13が、工程(f)に対応する。
【0131】
[検証]
以下、上記LED素子によればチッピングが抑制できる点につき、実施例を用いて検証する。
【0132】
(実施例1)
上述したステップS1~S13の方法で製造されたLED素子を実施例1とした。ここで、ステップS7においては、成長基板3(InP)のOFと、支持基板11(Si)のOFとが同じ向きになるように調整・保持された状態で、貼り合わせが行われた。このとき、成長基板3の[110]方向と、支持基板11の[110]方向のなす角度は0.4°であった。この角度は、座標測定機能が搭載された金属顕微鏡によって測定された。
【0133】
また、ステップS13では、ダイシングピッチ(すなわちチップ幅に対応)が350μmとされた。ステップS13完了後に支持基板11に形成されたカーフ(ダイシング切断溝)の幅は平均30μmであった。
【0134】
なお、ステップS11では、ステップS3においてエピタキシャル層20に対して付されたアライメントマークに基づいてメサエッチングが行われているため、メサエッチングの方向(ダイシングラインの方向)は、成長基板3の[110]方向及び[1-10]方向に対して±0.3°以内の範囲内のずれに留められており、成長基板3の[110]方向及び[1-10]方向に対して同方向とみなせる。
【0135】
(実施例2)
ステップS7において、成長基板3(InP)のIFと、支持基板11(Si)のOFとが同じ向きになるように調整・保持された状態で貼り合わせが行われた点を除けば、実施例1と同様の方法で製造されたLED素子を実施例2とした。このとき、成長基板3のの[1-10]方向と、支持基板11の[110]方向のなす角度は、0.6°であった。
【0136】
(実施例3)
ステップS7における位置合わせの調整の精度を緩和した以外は、実施例1と同様の方法で製造されたLED素子を実施例2とした。このとき、成長基板3の[110]方向と、支持基板11の[110]方向のなす角度は、1.7°であった。
【0137】
(比較例1)
ステップS7において、位置決め部材51や押し当て部材52といった治具を用いることなく、単に、成長基板3(InP)のOFと、支持基板11(Si)のOFとが同じ向きになるようにした後に、貼り合わせを行った点を除けば、実施例1と同様の方法で製造されたLED素子を比較例1とした。このとき、成長基板3の[110]方向と、支持基板11の[110]方向のなす角度は、4.0°であった。
【0138】
図11A図11Cは、それぞれ実施例1、実施例2、及び比較例1のLED素子が備える支持基板11の裏面側の写真である。詳細には、LED素子のパッド電極34側をステップS13で用いられたダイシングテープ40とは別のダイシングテープに貼り付けた後、ダイシングテープ40を剥離し、第一電極33側から各LED素子を測長顕微鏡で観察したときの写真である。
【0139】
いずれの写真においても、矩形状の領域がチップ部分であり、それらの境界が、ダイシングされた後の隣接チップ間同士の間隙に対応する。図11A及び図11Bの写真と比較して、図11Cの写真によれば、ダイシング後のチップ同士の境界領域からチップの内側に間隙が入り込んでいることが確認される。この入り込みの程度が、チッピング進入長c1に対応する。
【0140】
図11Cの写真によれば、ダイシング後のチップ同士の境界領域によって形成されるラインの方向と、支持基板11の[110]方向とがある程度傾いていることから(傾斜角4°)、チッピングがチップ内部に向かって侵入したものと考えられる。
【0141】
下記表1は、実施例1~3、及び比較例1の評価をまとめた表である。評価基準としては、それぞれのサンプルにおけるチッピング進入長c1が、カーフ幅の50%以上、すなわち15μm以上であるものを不良とみなして、外観不良率を算定した。
【0142】
【表1】
【0143】
表1によれば、成長基板3の[110]方向又は[1-10]方向と、支持基板11の[110]方向が、支持基板11の[110]方向に対して殆ど平行である、言い換えれば、第二クラッド層27の[110]方向又は[1-10]方向が、支持基板11の[110]方向に対して殆ど平行である、実施例1及び実施例2においては、不良率がそれぞれ0%、2%であり、チッピングのチップ内部への進行が抑制できたことが確認される。また、成長基板3の[110]方向と支持基板11の[110]方向なす角度が1.7°、言い換えれば、第二クラッド層27の[110]と支持基板11の[110]方向が1.7°±0.3°であった実施例3についても、比較例1と比べると、不良率を1/4以下に低減できており、チッピングのチップ内部への進行が抑制できたことが確認される。
【0144】
上述したように、比較例1のLED素子は、単に成長基板3(InP)のOFと、支持基板11(Si)のOFとを同じ向きにしたものの、両者の[110]方向が平行となるように方向を保持することなく貼り合わせたことで、成長基板3と支持基板11との相対的な位置関係が回転方向に移動した結果、成長基板3(InP)の[110]方向と支持基板11の[110]方向とがなす角度が4°となったものと考えられる。言い換えれば、単に位置合わせをする程度では、第二クラッド層27の[110]方向又は[1-10]方向と、支持基板11の[110]方向とを実質的に平行することはできないと考えられる。つまり、貼り合わせの際に、支持基板11の[110]方向と、成長基板3の[110]方向又は[1-10]方向とを実質的に平行に調整し、且つその関係を保持しながら、貼り合わせることで、ダイシング後に得られるLED素子の第二クラッド層27の[110]方向又は[1-10]方向と、支持基板11の[110]方向とが実質的に平行となり、チッピングの発現が抑制される。
【0145】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0146】
〈1〉図1に示すLED素子1において、第二クラッド層27の+Y側の表面に凹凸部が形成されていても構わない。凹凸部が形成されることで、活性層25から+Y方向に進行した赤外光L(L1,L2)が第二クラッド層27の表面で活性層25側に反射される光量が低下され、光取り出し効率が高められる。
【0147】
この凹凸部は、例えばステップS10の後、第二電極32が形成されていない領域内の第二クラッド層27の表面に対してウェットエッチングを行うことで形成される。
【0148】
〈2〉上述した各ステップS1~S13は、LED素子1の製造に影響のない範囲であれば、その順序が適宜前後しても構わない。
【0149】
〈3〉上述したステップS7では、位置決め部材51と押し当て部材52とを用いて、位置合わせの状態を保持しながら貼り合わせを行うものとした。しかし、位置合わせの状態の保持方法は、この方法には限定されない。他の方法としては、単なる目視による位置合わせよりも高精度に位置合わせができる方法であればよく、例えば、ボンドアライナーを用いてオリエンテーションフラットやアライメントマークの位置合わせを行う方法などが利用できる。
【符号の説明】
【0150】
1 :LED素子
3 :成長基板
11 :支持基板
13 :接合層
13a :接合層
13b :接合層
14 :バリア層
15 :反射層
16 :バリア層
17 :誘電体層
20 :エピタキシャル層
21 :コンタクト層
23 :第一クラッド層
25 :活性層
27 :第二クラッド層
28 :ES層
29 :バッファ層
31 :コンタクト電極
32 :第二電極
33 :第一電極
34 :パッド電極
38 :ダイシングライン
40 :ダイシングテープ
41 :ブレード
51 :位置決め部材
52 :押し当て部材
c1 :チッピング進入長
f52 :外力
L :赤外光
wd40 :カット深さ
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C