(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】バイオチップおよび検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20241030BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20241030BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20241030BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
G01N33/543 525U
G01N33/543 525W
G01N37/00 102
G01N33/53 M
G01N33/53 D
C12M1/34 Z ZNA
(21)【出願番号】P 2020561102
(86)(22)【出願日】2020-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2020040595
(87)【国際公開番号】W WO2021085526
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2019198466
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019206942
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若山 翔
(72)【発明者】
【氏名】古志 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】馬場 剛史
(72)【発明者】
【氏名】川上 智教
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正照
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-040729(JP,A)
【文献】特開2003-175668(JP,A)
【文献】特開2018-034395(JP,A)
【文献】国際公開第10/001876(WO,A1)
【文献】国際公開第10/123039(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に、式(Ia)又は式(Ib)で示されるユニットを含むポリマーを介して、測定対象物質に対して選択的に結合可能な選択結合性物質が固定化された、バイオチップ。
【化1】
式(Ia)及び式(Ib)中、R
1は炭素数1~4のアルキレン基を示し、R
2はR
3、OR
4またはNHR
5を示し、R
3およびR
5は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示し、R
4は炭素数1~4のアルキル基を示し、R
6は炭素数1~2のアルキレン基を示し、R
7およびR
8はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示す。
【請求項2】
前記ポリマーが前記式(Ia)(式中、R
1及びR
2は請求項1記載の定義と同じ)で表される請求項1記載のバイオチップ。
【請求項3】
前記ポリマーが前記式(Ib)(式中、R
6、R
7及びR
8は請求項1記載の定義と同じ)で表される請求項1記載のバイオチップ。
【請求項4】
前記ポリマーがヘテロポリマーである、請求項1~3のいずれか1項に記載のバイオチップ。
【請求項5】
前記ヘテロポリマーが化学式(II)で示されるユニットとのヘテロポリマーである、請求項4に記載のバイオチップ。
【化2】
式中、R
1は炭素数1~4のアルキレン基を示す。
【請求項6】
前記ポリマーの数平均分子量が300~1000000である、請求項1~5のいずれか1項に記載のバイオチップ。
【請求項7】
前記選択結合性物質が核酸またはタンパク質である、請求項1~6のいずれかに記載のバイオチップ。
【請求項8】
基板の表面に、測定対象物質に対して選択的に結合可能な選択結合性物質が固定化された、請求項1~7に記載のバイオチップを使用する測定対象物質の検出方法であって、当該測定対象物質を含む検体を基板表面に接触させ、形成された選択結合性物質との複合体を検出する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板表面に測定対象物質と選択的に結合する物質(本明細書において「選択結合性物質」という)が固定化されたバイオチップおよび当該バイオチップを用いる測定対象物質の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に核酸、タンパク質等の選択結合性物質を固定化させたバイオチップは、測定対象物質との選択的な結合の後に蛍光を検出し、その強度変化やパターンから分子識別や診断を行うことができる。バイオチップによる正確な分子識別や診断には、バイオチップの性能として、測定対象物質に対する検出感度が高いことが望ましい。具体的には、測定対象物質の蛍光検出時にシグナル値が高く、シグナル値/ノイズ値の比(以下、「SN比」という。)が高いことが望ましい。
【0003】
バイオチップでは、核酸、タンパク質等の選択結合性物質を基板に固定化する方法の相違によって、測定対象物質の検出感度が変動することがある。例えば、ポリマーを介して選択結合性物質を基板表面に固定化することで、検出感度の高いバイオチップの製造が可能になるとの報告がある(特許文献1、2)。この際に使用されるポリマーとしては、ポリエチレンイミンやポリアリルアミン、ポリ-L-リジンといった化学構造中にアミノ基を有する「アミノ基含有ポリマー」がよく用いられる。特許文献1には、アミノ基含有ポリマーの1種であるポリエチレンイミンを介して基板表面に選択結合性物質を固定化したバイオチップが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第01/70641号
【文献】国際公開第01/70851号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、高いSN比で検出できるバイオチップを開発するため、特許文献1を参考に選択結合性物質の基板への固定化を行い、バイオチップを作製した。具体的には、アミノ基含有ポリマーの一種であるポリエチレンイミンを介して選択結合性物質を基板表面に固定化したバイオチップを作製した(後述する比較例2)。そのシグナル値は、選択結合性物質をポリマーを介さず直接基板表面に縮合させて固定化したバイオチップ(後述する比較例1)と比較して向上したものの、そのノイズ値も上昇し、SN比の向上は見られなかった。そこで、別のアミノ基含有ポリマーとして、ポリアリルアミンを介した選択結合性物質の基板への固定化を検討した(後述する比較例3)。そのシグナル値はポリエチレンイミンを介して選択結合性物質を固定化したバイオチップよりもさらに向上したものの、ノイズ値もさらに上昇し、SN比の向上は十分ではなかった。つまり、単にアミノ基含有ポリマーを介して選択結合性物質を固定化するだけでは、必ずしもシグナル値およびSN比の向上につながるわけではなく、シグナル値およびSN比のいずれも優れたバイオチップを得るためには、アミノ基含有ポリマーの構造、特にポリマーの側鎖構造を検討する必要があるという課題があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を克服するために、本発明者らは、バイオチップに適したポリマー構造について検討した結果、側鎖構造を改変したポリマーを用いることで、シグナル値が高く、SN比が高いバイオチップが得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は以下の(1)~(8)を提供する。
(1)基板の表面に、式(Ia)又は式(Ib)で示されるユニットを含むポリマーを介して、測定対象物質に対して選択的に結合可能な選択結合性物質が固定化された、バイオチップ。
【0008】
【0009】
式(Ia)及び式(Ib)中、R1は炭素数1~4のアルキレン基を示し、R2はR3、OR4またはNHR5を示し、R3およびR5は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示し、R4は炭素数1~4のアルキル基を示し、R6は炭素数1~2のアルキレン基を示し、R7およびR8はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示す。
(2)前記ポリマーが前記式(Ia)(式中、R1及びR2は(1)記載の定義と同じ)で表される(1)記載のバイオチップ。
(3)前記ポリマーが前記式(Ib)(式中、R6、R7及びR8は(1)記載の定義と同じ)で表される(1)記載のバイオチップ。
(4)前記ポリマーがヘテロポリマーである、(1)~(3)のいずれか1項に記載のバイオチップ。
(5)前記ヘテロポリマーが式(II)で示されるユニットとのヘテロポリマーである、(4)に記載のバイオチップ。
【0010】
【0011】
式中、R1は炭素数1~4のアルキレン基を示す。
(6)前記ポリマーの数平均分子量が300~1000000である、(1)~(5)のいずれか1項に記載のバイオチップ。
(7)前記選択結合性物質が核酸またはタンパク質である、(1)~(6)のいずれかに記載のバイオチップ。
(8)基板の表面に、測定対象物質に対して選択的に結合可能な選択結合性物質が固定化された、(1)~(7)に記載のバイオチップを使用する測定対象物質の検出方法であって、当該測定対象物質を含む検体を基板表面に接触させ、形成された選択結合性物質との複合体を検出する工程を含む、方法。
【発明の効果】
【0012】
式(Ia)又は式(Ib)で示されるユニットを含むポリマー、特に式(Ia)又は式(Ib)で示されるユニットと式(II)で示されるユニットとのヘテロポリマーを介して選択結合性物質を基板に固定化することにより、測定対象物質を高感度に検出可能なバイオチップを提供することができる。本発明のバイオチップを用いることで、より精度の高い分子識別や診断が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のバイオチップは、式(Ia)又は式(Ib)で示されるユニットを含むポリマーを介して、測定対象物質に対する選択結合性物質が基板に固定化されていることを特徴とする。
【0014】
式(Ia)及び式(Ib)中のR1は炭素数1~4のアルキレン基を示す。R1は、炭素数1のメチレン基および炭素数2のエチレン基が好ましく、炭素数1のメチレン基がより好ましい。
【0015】
式(Ia)中のR2はR3、OR4またはNHR5を示す。R3およびR5は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示し、R4は炭素数1~4のアルキル基を示す。R3は、炭素数1のメチル基および炭素数2のエチル基が好ましく、炭素数1のメチル基がより好ましい。R4は、炭素数1のメチル基および炭素数2のエチル基が好ましく、炭素数1のメチル基がより好ましい。R5は、水素原子が好ましい。
【0016】
式(Ib)中のR6は炭素数1~2のアルキレン基を示す。R6は、炭素数2のエチレン基が好ましい。
【0017】
式(Ib)中のR7およびR8はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~4のアルキル基を示す。R7およびR8は、水素原子および炭素数1のメチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0018】
上記ポリマーは、式(Ia)又は(Ib)で示されるユニットを含んでいればよく、式(Ia)又は(Ib)で示されるユニット以外のユニットを含むヘテロポリマーであってもよい。ヘテロポリマーの場合であって、当該ポリマーを基板表面に共有結合による固定化する場合には、式(Ia)又は(Ib)で示されるユニット以外のユニットは、反応性官能基を有していることが好ましい。反応性官能基としては、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、ハロゲノ基、トシル基、エポキシ基、アシル基、アジド基が挙げられるが、好ましくはアミノ基である。ヘテロポリマーの場合、式(Ia)又は(Ib)(以下、便宜的にこれらを総称して式(I)と呼ぶことがある)で表されるユニットの、全ユニットに対する比率は、好ましくは5モル%以上95モル%以下、より好ましくは10モル%以上90モル%以下、さらに好ましくは30モル%以上70モル%以下である。
【0019】
式(Ia)又は(Ib)で示されるユニットを含むポリマーは、ヘテロポリマーである場合には、式(II)で示されるユニットとのヘテロポリマーであることが好ましい。式(II)中のR1は、式(Ia)又は(Ib)中のR1と同様、炭素数1~4のアルキレン基を示す。また、このヘテロポリマーにおける、式(I)で示されるユニットと式(II)で示されるユニットとの合計に対する式(I)で示されるユニットの比率(後述する(m/(m+n))は、好ましくは5モル%以上95モル%以下、より好ましくは10モル%以上90モル%以下、さらに好ましくは30モル%以上70モル%以下である。
【0020】
式(I)で示されるユニットを含むポリマーの製造方法としては、次のスキームに示すように、式(III)で示されるモノマーを原料とし、これを重合した後に側鎖アミノ基を修飾する方法(A)、同じく式(III)で示されるモノマーを原料とし、この側鎖アミノ基を修飾した後に重合する方法(B)、が挙げられるが、前者の方法(A)が好ましい。
【0021】
【0022】
式(III)中のR1は、式(Ia)及び(Ib)中のR1と同様、炭素数1~4のアルキレン基を示す。式(III)で示されるモノマーは、試薬メーカー(例えば、メルク社、エナミン社など)より入手することができる。
【0023】
上記方法(A)の式(III)で示されるモノマーの重合は、ラジカル重合を使用することができる。例えば、10~80重量%のモノマー溶液に、モノマーに対して0.1~30モル%のアゾ系ラジカル重合開始剤(例えば、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩等)を添加し、室温~80℃の条件で、3~100時間反応させればよい。また、式(III)中のR1が炭素数1のメチレン基であるモノマーの単重合体は、試薬メーカー(例えば、ニットーボーメディカル社など)より入手することもできる。
【0024】
式(III)で示されるモノマーの重合後に側鎖アミノ基を修飾する方法としては、以下のように、アミノ基修飾用の試薬と反応させる方法が挙げられる。
【0025】
式(Ia)中のR2がR3であって、R3が水素原子である場合には、アミノ基修飾用の試薬として1-ホルミルピペリジンなどのホルミル化試薬を用いることができる。R3が炭素数1~4のアルキル基である場合には、アミノ基修飾用の試薬として無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸および無水吉草酸などの酸無水物(R3CO2COR3)を使用することができる。
【0026】
式(Ia)中のR2がOR4である場合には、アミノ基修飾用の試薬として炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピルおよび炭酸ジブチル等の炭酸ジエステル(R4OCO2R4)を使用することができる。
【0027】
式(Ia)中のR2がNHR5である場合には、アミノ基修飾用の試薬としてイソシアネート誘導体(R5-NCO)を使用することができる。
【0028】
式(Ib)中のR6が炭素数1のメチレン基である場合には、アミノ基修飾用の試薬としては、2-ブロモアセトアミド、2-ブロモ-N-メチルアセトアミド、2-ブロモ-N-エチルアセトアミド、2-ブロモ-N-プロピルアセトアミド、2-ブロモ-N-イソプロピルアセトアミド、2-ブロモ-N-ブチルアセトアミド、2-ブロモ-N,N-ジメチルアセトアミド、2-ブロモ-N,N-ジエチルアセトアミドなどのブロモアセトアミド誘導体(BrCH2CONR7R8)を使用することができる。
【0029】
式(Ib)中のR6が炭素数2のエチレン基である場合には、アミノ基修飾用の試薬としては、アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-プロピルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-ブチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミドなどのアクリルアミド誘導体(CH2=CHCONR7R8)を使用することができる。
【0030】
上記アミノ基修飾用の試薬と式(III)で示されるモノマーの重合体との反応は、例えば、10~50重量%の重合体溶液にアミノ基修飾用の試薬を添加し、室温~80℃の条件で、3~100時間反応させればよい。
【0031】
上記方法(B)における式(III)で示されるモノマーの側鎖修飾は、上記と同様にアミノ基修飾用の試薬を用いて行うことができる。また、当該修飾されたモノマーの重合も、上記同様の一般的条件により行うことができる。
【0032】
式(Ia)又は式(Ib)で示されるユニットと式(II)で示されるユニットとのヘテロポリマーの製造は、上記の側鎖アミノ基の修飾工程において、側鎖アミノ基の一部のみを修飾すればよい。特に、上記の方法(A)において、式(III)で示されるモノマーの重合体に対して、その側鎖アミノ基の一部のみを修飾する方法を用いることが好ましい。この場合、式(Ia)又は式(Ib)で示されるユニットと式(II)で示されるユニットとの比率は、重合体中の側鎖アミノ基と、使用するアミノ基修飾用の試薬のモル比の調節により行うことができる。式(Ia)又は式(Ib)で示されるユニットと式(II)で示されるユニットとの比率は、1H-NMR測定により算出できる。
【0033】
本発明のバイオチップにおける上記ポリマーの分子量は、数平均分子量で300~1000000が好ましく、1000~100000がさらに好ましく、1600~25000がより好ましい。上記ポリマーの分子量は、例えば、ゲルパーミッションクロマトグラフィー(GPC)法により、ポリエチレングリコールを標準品として用いることで、算出できる。
【0034】
本発明のバイオチップの基板の材質は、樹脂、ガラス、金属、シリコンウェハのいずれであってもよいが、表面処理の容易性、量産性の観点から樹脂が好ましい。
【0035】
基板の材質となる樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル等が挙げられ、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステルが好ましい。このうち、ポリメタクリル酸エステルとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチルメタクリレート(PEMA)またはポリプロピルメタクリレート等のポリメタクリル酸アルキル(PAMA)が挙げられるが、好ましくはPMMAである。
【0036】
また、樹脂としては、公知の共重合体も用いることができる。例えば、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル・エチレン-プロピレン-ジエン・スチレン共重合体(AES樹脂)、ポリメタクリル酸エステルを含む共重合体としては、メタクリル酸メチル・アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(MABS樹脂)、メタクリル酸メチル・ブタジエン・スチレン共重合体(MBS樹脂)、メタクリル酸メチル・スチレン共重合体(MS樹脂)等が挙げられる。
【0037】
基板表面への上記ポリマーの固定化様式は、物理吸着であっても共有結合であってもよいが、基板洗浄時の上記ポリマーの基板からの剥離や溶出を抑止する観点から共有結合が望ましい。
【0038】
上記ポリマーを物理吸着により基板表面に固定化する方法としては、有機溶剤にポリマーを0.05~10重量%濃度になるように溶解したポリマー溶液を調製し、浸漬、吹きつけ等の公知の方法で基材表面に塗布した後、室温下ないしは加温下にて乾燥させる方法が挙げられる。有機溶剤としてはエタノール、メタノール、t-ブチルアルコール、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、メチルエチルケトン等の単独溶媒またはこれらの混合溶剤が使用される。基板の材質が樹脂の場合は、有機溶剤としてエタノール、メタノールを使用する方法が、基板を変性させず、乾燥させやすいため好ましい。
【0039】
上記ポリマーを共有結合により基板表面に固定化する方法としては、ポリマー中に存在する官能基を基板表面に存在する官能基に対して反応させて共有結合を形成させる方法を用いることができる。基板表面に存在する官能基としては、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、ハロゲノ基等が挙げられ、共有結合の様式としては、アミド結合、エステル結合、エーテル結合等のいずれであってもよいが、結合形成の容易さと強固さの観点からアミド結合が好ましい。
【0040】
上記ポリマーをアミド結合により基板表面に固定化する方法としては、ポリマー中に存在するアミノ基を基板表面に存在するカルボキシル基に対して反応させる方法を用いてもよいし、ポリマー中に存在するカルボキシル基を基板表面に存在するアミノ基に対して反応させる方法を用いてもよいが、ポリマー中に存在するアミノ基を基板表面に存在するカルボキシル基に対して反応させる方法がより好ましい。
【0041】
基板表面に存在するカルボキシル基との縮合反応によるアミノ基を有するポリマーの固定化は、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド(別名:1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC))や4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM)等の縮合剤を用いて、基板表面のカルボキシル基とポリマー中のアミノ基を直接反応させてもよいし、基板表面のカルボキシル基をN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)等を用いて一旦活性化エステルに変換した後にポリマー中のアミノ基と反応させてもよい。
【0042】
基板表面にポリマーと反応し得る官能基が存在しない場合には、基板の材質に適した方法で基板表面にポリマーと反応し得る官能基を生成させることができる。
【0043】
樹脂製基板表面に官能基を生成させる方法としては、目的の官能基を有する化合物を含む溶液中に基板を浸漬する方法、UV、放射線、オゾン、プラズマの暴露により基板表面の樹脂を酸化する方法等が挙げられる。官能基の中でもカルボキシル基を樹脂製基板表面に生成させる方法としては、基板表面をアルカリ、酸等で加水分解処理する方法、温水中で基板表面を超音波処理する方法、基板表面にUVまたはオゾンを照射する方法、基板表面を酸素プラズマ、アルゴンプラズマまたは放射線に晒す方法等が挙げられる。樹脂が、ポリアクリル酸エステルまたはポリメタクリル酸エステル等の、側鎖にエステル構造を有する樹脂である場合は、アルカリまたは酸に基板を漬け込んで、樹脂表面のエステル構造を加水分解することにより、基板表面にカルボキシル基を生成させることができる。具体的な例としては、水酸化ナトリウムや硫酸の水溶液(好ましい濃度は、1N~20N)に樹脂製基板を漬け込み、好ましくは30℃から80℃の温度にして、1時間から100時間の間保持すればよい。側鎖にエステル構造を有さない樹脂である場合には、酸素存在下でのプラズマ処理により、樹脂表面の炭素原子を酸化することで、基板表面にカルボキシル基を生成させることができる。
【0044】
ガラス製基板表面に官能基を生成させる方法としては、目的の官能基を有するシランカップリング剤を反応させる方法等が挙げられる。また、シランカップリング剤との反応で導入した官能基を別の官能基を有する化合物と反応させることで、別の官能基へ変換する方法を用いることもできる。官能基の中でもカルボキシル基をガラス製基板表面に生成させる方法としては、基板表面のシラノール基に3-アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤を反応させることで生成させたアミノ基に対して、無水コハク酸等のジカルボン酸無水物を反応させる方法を用いることができる。
【0045】
金属製基板表面に官能基を生成させる方法としては、目的の官能基を有するシランカップリング剤を反応させる方法、目的の官能基を有するアルカンチオールを反応させる方法等が挙げられる。官能基の中でもカルボキシル基を金属製基板表面に生成させる方法としては、ガラス製基板表面にカルボキシル基を生成させる上記の方法の他、5-カルボキシ-1-ペンタンチオール等のカルボキシル基を有するアルカンチオールを基板に対して反応させる方法を用いることができる。
【0046】
シリコンウェハ製基板表面に官能基を生成させる方法としては、ガラス製基板表面に官能基を生成させるのと同様の方法を用いることができる。
【0047】
本発明のバイオチップは、基板の表面に上記ポリマーを介して選択結合性物質が固定化されている。ここでいう「選択結合性物質」とは、測定対象物質と直接的または間接的に、選択的に結合し得る物質を意味し、代表的な例として、核酸、タンパク質、糖類および他の抗原性化合物を挙げることができる。核酸としては、DNAやRNAのほか、PNAでもよい。特定の塩基配列を有する一本鎖核酸は、当該塩基配列またはその一部と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸と選択的にハイブリダイズして結合するので、選択結合性物質に該当する。また、タンパク質としては、抗体、FabフラグメントやF(ab’)2フラグメント等の抗体の抗原結合性断片、種々の抗原を挙げることができる。抗体やその抗原結合性断片は、対応する抗原と選択的に結合し、抗原は対応する抗体と選択的に結合するので、選択結合性物質に該当する。糖類としては、多糖類が好ましく、種々の抗原を挙げることができる。また、タンパク質や糖類以外の抗原性を有する物質を固定化することもできる。本発明に用いる選択結合性物質は、市販のものでもよく、また、生細胞等から得られたものでもよい。選択結合性物質として、特に好ましいものは、核酸である。核酸の中でも、オリゴ核酸と呼ばれる、長さが10塩基から100塩基までの核酸は、合成機で容易に人工的に合成が可能であり、また、核酸末端のアミノ基修飾が容易であるため、基板表面への固定化が容易となることから好ましい。また、ハイブリダイゼーションの安定性という観点から20~100塩基長であることがより好ましい。核酸の末端を修飾可能な官能基としては、アミノ基の他、ホルミル基、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基またはチオール基(スルファニル基)も好ましく用いることができる。これらのうち、アミノ基が好ましい。核酸の末端にこれらの官能基を結合する方法は周知であり、例えば、核酸の末端にアミノ基を結合することは、アミノ基を含有するアミダイト試薬を結合することにより行うことができる(参考文献:国際公開2013/024694号)。
【0048】
本発明のバイオチップにおいて、選択結合性物質は、上記のような方法により基板上に結合された上記ポリマーとの共有結合を介して基板表面へ固定化される。選択結合性物質と上記ポリマーの共有結合は、ポリマー中の反応性の官能基と直接結合させてもよいし、公知の架橋剤を用いて結合させてもよい。公知の架橋剤としては、例えば、1,4-フェニレンジイソシアナート、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,4-フェニレンジイソチオシアナート等のホモリンカー、または、4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボン酸N-スクシンイミジル(SMCC)やマレイミド酢酸N-スクシンイミジル(AMAS)等のヘテロリンカーが挙げられる。選択結合性物質とポリマーとの共有結合は、より具体的には、例えば、1,4-フェニレンジイソチオシアネートのジメチルスルホキシド溶液(好ましい濃度は、10~50重量%)に上記ポリマーを固定化した基板を漬け込み、好ましくは0℃から40℃の温度にして、1時間から10時間の間保持した後に、上記基板を上記選択結合性物質の水溶液((好ましい濃度は、0.1~10重量%)と接触させ、好ましくは0℃から40℃の温度にして、1時間から100時間の間保持することにより行うことができる。
【0049】
本発明のバイオチップの測定対象物質は、上記選択結合性物質により選択的に結合される物質であり、例えば、核酸やタンパク質、ペプチドが挙げられる。核酸としては、セルフリーDNAやゲノムDNA、メッセンジャーRNA、マイクロRNAのほか、人工的に合成した核酸であってもよい。タンパク質としては、抗体や抗原、サイトカイン、アレルゲンが挙げられる。また、測定対象物質は蛍光物質等により事前に標識化されたものでもよい。
【0050】
本発明のバイオチップによる測定対象物質の測定は、公知の方法で行えばよい。通常、測定対象物質を含む検体を基板表面に接触させ選択結合性物質との複合体を形成させる工程、および形成させた複合体を検出する工程を含む。なお、この検出工程の前に、通常、基板表面の洗浄が行われる。検体は、測定対象物質を含むものまたは測定対象物質を含む可能性があるものであればよく、具体的には、血液、血漿、血清等の体液および測定対象物質を含有する緩衝液等である。上記複合体の検出方法は特に限定されず、蛍光や化学発光等の公知の方法で行えばよい。測定対象物質が蛍光物質等で標識化されている場合は、それを上記複合体の検出に用いてもよく、上記複合体を別の蛍光物質等で標識化してから検出を行ってもよい。また、選択結合性物質が固定化された領域から上記複合体に由来するシグナル値を測定する際に、選択結合性物質が固定化されていない領域から基板上へ非特異結合した選択結合性物質に由来するノイズ値を合わせて測定しノイズレベルの判定に用いてもよい。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を示すが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0052】
実施例1
部分メトキシカルボニル化ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板2~6)を用いたバイオチップ
(1)部分メトキシカルボニル化ポリアリルアミン(式(IV))の合成
フラスコに15重量%のポリアリルアミン水溶液(数平均分子量 15,000、ニットーボーメディカル PAA-15C)100mL(263mmol)を入れ、温度を50℃に保ち、その水溶液に炭酸ジメチル2.4g(富士フイルム和光純薬社製、26.3mmol)を15分掛けて滴下した。滴下終了後も温度を50℃に保ちながら、12時間反応を続けた。反応後、ポリマー溶液を透析膜(スペクトラ社製ポア3、分画分子量 3,500)に入れ、水中での透析操作により副生成物を除去した。精製後、凍結乾燥により水分を除去することで、10mol%メトキシカルボニル化ポリアリルアミンを得た。重水中で1H-NMRを測定し、メトキシカルボニル化されたアリルアミンユニット由来のピーク(2.91ppm)と未修飾のアリルアミンユニット由来のピーク(2.45ppm)の面積の比から、メトキシカルボニル化の比率(m/(m+n))が10mol%であることを確認した。
【0053】
同様の方法で、炭酸ジメチル7.1g(富士フイルム和光純薬社製、78.9mmol)を用いることで30mol%メトキシカルボニル化ポリアリルアミンを、炭酸ジメチル11.9g(富士フイルム和光純薬社製、132mmol)を用いることで50mol%メトキシカルボニル化ポリアリルアミンを、炭酸ジメチル16.6g(富士フイルム和光純薬社製、184mmol)を用いることで70mol%メトキシカルボニル化ポリアリルアミンを、炭酸ジメチル21.3g(富士フイルム和光純薬社製、237mmol)を用いることで90mol%メトキシカルボニル化ポリアリルアミンを、それぞれ得た。
【0054】
【0055】
式中、mおよびnは、互いに独立して正の数を示す。したがって、m/(m+n)およびn/(m+n)が各ユニットのモル比率を示す。
【0056】
(2)NHSエステル化PMMA製基板(基板1)の作製
ポリメチルメタクリレート(PMMA)製の平板(75mm×25mm×1mm)を10Nの水酸化ナトリウム水溶液に70℃で15時間浸漬した。次いで、純水、0.1N HCl水溶液、純水の順で洗浄した。このようにして、基板表面のPMMAの側鎖を加水分解して、カルボキシル基を生成した。
【0057】
次いで、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)100mg、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)350mgを2-モルホリノエタンスルホン酸一水和物(MES)緩衝液(0.1N水酸化ナトリウムでpH5.0に調整)400mLに溶解させた。これらの混合溶液に上記加水分解後のPMMA製基板を浸漬し、マイクロスターラーで1時間撹拌し、NHSエステル化されたPMMA製基板(基板1)を得た。
【0058】
(3)部分メトキシカルボニル化ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板2~6)の作製
上記(2)で得られたNHSエステル化PMMA製基板(基板1)を、上記(1)で得られた10mol%メトキシカルボニル化ポリアリルアミンを1重量%となるように溶解させたホウ酸緩衝液(100mM、1N水酸化ナトリウムでpH10に調整)400mLに浸漬し、マイクロスターラーで1時間撹拌した。攪拌後、架橋剤として1,4-フェニレンジイソチオシアネート100mgを溶解させたジメチルスルホキシド溶液400mLに浸漬し、マイクロスターラーで1時間撹拌し、10mol%メトキシカルボニル化ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板2)を得た。
【0059】
同様の方法で、30mol%メトキシカルボニル化ポリアリルアミンを用いることで30mol%メトキシカルボニル化ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板3)を、50mol%メトキシカルボニル化ポリアリルアミンを用いることで50mol%メトキシカルボニル化ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板4)を、70mol%メトキシカルボニル化ポリアリルアミンを用いることで70mol%メトキシカルボニル化ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板5)を、90mol%メトキシカルボニル化ポリアリルアミンを用いることで90mol%メトキシカルボニル化ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板6)を、それぞれ得た。
【0060】
(4)基板へのプローブDNAの固定化
プローブDNAとして、以下の配列番号1の塩基配列からなるDNAを合成した。
5'-AACTATACAACCTACTACCTCA-3'(配列番号1:23塩基、5’末端アミノ化)。
このDNAを純水に100μMの濃度で溶解し、ストック溶液とした。ストック溶液をPBS(NaCl 8g、Na2HPO4、12H2O 2.9g、KCl 0.2g、K2PO4 0.2gを純水に溶かし1リットルにメスアップしたもの。pH7.4)で5倍希釈して、スポット溶液とした。スポット溶液をおよそ40μl取り出して、スポッティング用ロボット(日本レーザー電子(株)、GTMASStamp-2)を用い、上記(3)で作製した各基板(基板2~6)の中央部に6×4=24個のDNAのスポットを行った。スポット後、基板を密閉したプラスチック容器に入れて、37℃、湿度100%の条件で20時間程度インキュベートし、プローブDNAを固定化した。インキュベーション後、基板を純水で洗浄した。
【0061】
(5)プローブDNAを固定化した基板へのハイブリダイゼーション
前立腺組織由来のtotalRNA(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)に対して、3D-Gene(登録商標) miRNA Labeling kit(東レ株式会社)を用いて同社が定めるプロトコールに基づいてmiRNAを蛍光標識し、ストック溶液とした。ストック溶液を、1重量%BSA(ウシ血清アルブミン)、5×SSC(5×SSCとは、NaClを43.8g、クエン酸3ナトリウム水和物を22.1gの純水にとかし、200mlにメスアップしたもの。また、NaClを43.8g、クエン酸3ナトリウム水和物を22.1g純水にとかし、1lにメスアップしたものを1×SSCと表記し、これの10倍濃縮液を10×SSC、5倍希釈液を0.2×SSCと表記する。)、0.1重量%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、0.01重量%サケ精子DNAの溶液(各濃度はいずれも終濃度)で50倍希釈したハイブリダイゼーション溶液とした。ハイブリダイゼーション溶液100μlを、プローブDNAを固定化した各基板(基板2~6)へ滴下し、その上にカバーガラスをかぶせた。また、カバーガラスの周りをペーパーボンドでシールし、ハイブリダイゼーションの溶液が乾燥しないようにした。これを、プラスチック容器の中に入れ、35℃、湿度100%の条件で12時間インキュベートし、ハイブリダイゼーションを行った。インキュベート後、カバーガラスを剥離後に洗浄、乾燥した。
【0062】
(6)ハイブリダイゼーションしたバイオチップの蛍光測定
「“3D-Gene”(登録商標)Scanner」(東レ株式会社)にハイブリダイゼーションをした基板をセットし、励起光635nm、レーザー出力100%、PMT30に設定した状態で測定を行った。その結果を表1に示した。
【0063】
実施例2
部分アセチル化ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板7~9)を用いたバイオチップ
(1)部分アセチル化ポリアリルアミン(式(V))の合成
フラスコに15重量%のポリアリルアミン水溶液(数平均分子量 15,000、ニットーボーメディカル PAA-15C)100mL(263mmol)を入れ、温度を50℃に保ち、その水溶液に無水酢酸8.1g(富士フイルム和光純薬社製、78.9mmol)を15分掛けて滴下した。滴下終了後も温度を50℃に保ちながら、12時間反応を続けた。反応後、水酸化ナトリウム水溶液(富士フイルム和光純薬社製、8規定)をpH11となるまで添加した後に、ポリマー溶液を透析膜(スペクトラ社製ポア3、分画分子量 3,500)に入れ、水中での透析操作により副生成物を除去した。精製後、凍結乾燥により水分を除去することで、30mol%アセチル化ポリアリルアミンを得た。重水中で1H-NMRを測定し、アセチル化されたアリルアミンユニット由来のピーク(2.87ppm)と未修飾のアリルアミンユニット由来のピーク(2.45ppm)の面積の比から、アセチル化の比率(m/(m+n))が30mol%であることを確認した。
【0064】
同様の方法で、無水酢酸13.5g(132mmol)を用いることで50mol%アセチル化ポリアリルアミンを、無水酢酸18.8g(184mmol)を用いることで70mol%アセチル化ポリアリルアミンを、それぞれ得た。
【0065】
【0066】
式中、mおよびnは、互いに独立して正の数を示す。したがって、m/(m+n)およびn/(m+n)が各ユニットのモル比率を示す。
【0067】
(2)部分アセチル化ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板7~9)の作製
実施例1の(2)、(3)と同様の方法で、30mol%アセチル化ポリアリルアミンを用いることで30mol%アセチル化ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板7)を、50mol%アセチル化ポリアリルアミンを用いることで50mol%アセチル化ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板8)を、70mol%アセチル化ポリアリルアミンを用いることで70mol%アセチル化ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板9)を、それぞれ得た。
【0068】
(3)基板へのプローブDNAの固定化と評価
上記(2)で得られた各基板に対し、実施例1の(4)と同様にしてプローブDNAの固定化を行い、バイオチップを得た。得られたバイオチップについて、実施例1の(5)、(6)と同様にして、ハイブリダイゼーション後の蛍光測定を行った。その結果を表1に示した。
【0069】
実施例3
部分カルバモイル化ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板10~12)を用いたバイオチップ
【0070】
(1)部分カルバモイル化ポリアリルアミン(式(VI))の合成
フラスコに15重量%のポリアリルアミン水溶液(数平均分子量 15,000、ニットーボーメディカル PAA-15C)100mL(263mol)を入れ、氷冷却下、濃塩酸(富士フイルム和光純薬社製)21.9g(263mol) を滴下した。引き続き、50℃に加温し、7.5重量%のシアン酸ナトリウム水溶液68.4 g(富士フイルム和光純薬社製、78.9mmol)を滴下し、24時間の反応を行なった。反応後、水酸化ナトリウム水溶液(富士フイルム和光純薬社製、8規定)をpH11となるまで添加した後に、ポリマー溶液を透析膜(スペクトラ社製ポア3、分画分子量 3,500)に入れ、水中での透析操作により副生成物を除去した。精製後、凍結乾燥により水分を除去することで、30mol%カルバモイル化ポリアリルアミンを得た。重水中で1H-NMRを測定し、カルバモイル化されたアリルアミンユニット由来のピーク(2.88ppm)と未修飾のアリルアミンユニット由来のピーク(2.51ppm)の面積の比から、カルバモイル化の比率(m/(m+n))が30mol%であることを確認した。
【0071】
同様の方法で、7.5重量%のシアン酸ナトリウム水溶液114.4g(132mmol)を用いることで50mol%カルバモイル化ポリアリルアミンを、7.5重量%のシアン酸ナトリウム水溶液159.5g(184mmol)を用いることで70mol%カルバモイル化ポリアリルアミンを、それぞれ得た。
【0072】
【0073】
式中、mおよびnは、互いに独立して正の数を示す。したがって、m/(m+n)およびn/(m+n)が各ユニットのモル比率を示す。
【0074】
(2)部分カルバモイル化ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板10~12)の作製
実施例1の(2)、(3)と同様の方法で、30mol%カルバモイル化ポリアリルアミンを用いることで30mol%カルバモイル化ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板10)を、50mol%カルバモイル化ポリアリルアミンを用いることで50mol%カルバモイル化ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板11)を、70mol%カルバモイル化ポリアリルアミンを用いることで70mol%カルバモイル化ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板12)を、それぞれ得た。
【0075】
(3)基板へのプローブDNAの固定化と評価
上記(2)で得られた各基板に対し、実施例1の(4)と同様にしてプローブDNAの固定化を行い、バイオチップを得た。得られたバイオチップについて、実施例1の(5)、(6)と同様にして、ハイブリダイゼーション後の蛍光測定を行った。その結果を表1に示した。
【0076】
比較例1
NHSエステル化PMMA製基板(基板1)を用いたバイオチップ
実施例1の(2)で得られたNHSエステル化PMMA製基板(基板1)に対し、実施例1の(4)と同様にしてプローブDNAの固定化を行い、バイオチップを得た。得られたバイオチップについて、実施例1の(5)、(6)と同様にして、ハイブリダイゼーション後の蛍光測定を行った。その結果を表1に示した。
【0077】
比較例2
ポリエチレンイミン結合PMMA製基板(基板13)
(1)ポリエチレンイミン結合PMMA製基板(基板13)の作製
実施例1の(2)、(3)と同様の方法で、ポリエチレンイミン(数平均分子量 10,000、日本触媒 SP-200)を用いることでポリエチレンイミン結合PMMA製基板(基板13)を得た。
【0078】
(2)基板へのプローブDNAの固定化と評価
上記(1)で得られた基板に対し、実施例1の(4)と同様にしてプローブDNAの固定化を行い、バイオチップを得た。得られたバイオチップについて、実施例1の(5)、(6)と同様にして、ハイブリダイゼーション後の蛍光測定を行った。その結果を表1に示した。
【0079】
比較例3
ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板14)の用いたバイオチップ
(1)ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板14)の作製
実施例1の(2)、(3)と同様の方法で、ポリアリルアミン(数平均分子量 15,000、ニットーボーメディカル PAA-15C)を用いることでポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板14)を得た。
【0080】
(2)基板へのプローブDNAの固定化と評価
上記(1)で得られた基板に対し、実施例1の(4)と同様にしてプローブDNAの固定化を行い、バイオチップを得た。得られたバイオチップについて、実施例1の(5)、(6)と同様にして、ハイブリダイゼーション後の蛍光測定を行った。その結果を表1に示した。
【0081】
比較例4
部分カルボキシメチル化ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板15)を用いたバイオチップ
(1)部分カルボキシメチル化ポリアリルアミン(式(VII))の合成
フラスコに15重量%のポリアリルアミン水溶液(数平均分子量 15,000、ニットーボーメディカル PAA-15C)100mL(263mol)を入れ、50℃に加温し、ブロモ酢酸9.1 g(富士フイルム和光純薬社製、65.8mmol) を滴下し、24時間の反応を行なった。反応後、水酸化ナトリウム水溶液(富士フイルム和光純薬社製、8規定)をpH11となるまで添加した後に、ポリマー溶液を透析膜(スペクトラ社製ポア3、分画分子量 3,500)に入れ、水中での透析操作により副生成物を除去した。精製後、凍結乾燥により水分を除去することで、25mol%カルボキシメチル化ポリアリルアミンを得た。重水中で1H-NMRを測定し、カルボキシメチル化されたアリルアミンユニット由来のピーク(2.61ppm)と未修飾のアリルアミンユニット由来のピーク(2.51ppm)の面積の比から、カルボキシメチル化の比率(m/(m+n))が25mol%であることを確認した。
【0082】
【0083】
式中、mおよびnは、互いに独立して正の数を示す。したがって、m/(m+n)およびn/(m+n)が各ユニットのモル比率を示す。
【0084】
(2)部分カルボキシメチル化ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板15)の作製
実施例1の(2)、(3)と同様の方法で、25mol%カルボキシメチル化ポリアリルアミンを用いることで25mol%カルボキシメチル化ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板15)を得た。
【0085】
(3)基板へのプローブDNAの固定化と評価
上記(2)で得られた基板に対し、実施例1の(4)と同様にしてプローブDNAの固定化を行い、バイオチップを得た。得られたバイオチップについて、実施例1の(5)、(6)と同様にして、ハイブリダイゼーション後の蛍光測定を行った。その結果を表1に示した。
【0086】
【0087】
表1は、ハイブリダイゼーションした基板中の、プローブDNAが固定化された部分の蛍光値(シグナル値)、プローブDNAが固定化されていない部分の蛍光値(ノイズ値)、およびシグナル値に対するノイズ値の比(SN比)を示したものである。ここで検出される蛍光は、標識キットに含まれる蛍光色素および標識キットにより蛍光標識されたRNAに由来するものあり、これらの結合量が多いほど高い値を示す。シグナル値は、プローブDNAとハイブリダイゼーションにより結合したプローブDNAと相補的な配列を有する蛍光標識されたRNAの量に対応する。一方、ノイズ値は、基板に非特異結合した蛍光色素および蛍光標識されたRNAの量に対応する。SN比は、プローブDNAへのハイブリダイゼーションによるRNAの結合が多いほど、基板へのRNAおよび蛍光色素の非特異結合が少ないほど、高い値を示すことから、バイオチップの検出感度の指標とした。
【0088】
ポリアリルアミンの側鎖アミノ基の修飾により得られた部分メトキシカルボニル化ポリアリルアミンを結合した基板(実施例1、基板2~6)は、ポリマーを結合していない基板(比較例1、基板1)のみならず、ポリエチレンイミンを結合した基板(比較例2、基板13)、ポリアリルアミンを結合した基板(比較例3、基板14)と比較しても、高いSN比を示した。これはメトキシカルボニル基の修飾により、ノイズノイズ値が上昇する原因である蛍光色素の非特異吸着を抑制した効果、および基板表面の反応性の官能基の密度の調節によりハイブリダイゼーションの効率が向上した結果と推察される。
【0089】
同様の効果は、部分アセチル化ポリアリルアミンを結合した基板(実施例2、基板7~9)および部分カルバモイル化ポリアリルアミンを結合した基板(実施例3、基板10~12)でも観察された。その一方、部分カルボキシメチル化ポリアリルアミンを結合した基板(比較例4、基板15)を結合した基板では観察されなかった。以上の結果から、シグナル値およびSN比のいずれも優れたバイオチップを得るためには、ポリマーに修飾する官能基の種類が重要であることが分かった。
【0090】
実施例4
部分プロパンアミド修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板16~18)を用いたバイオチップ
【0091】
(1)部分プロパンアミド修飾ポリアリルアミン(式(VIII))の合成
フラスコに15重量%のポリアリルアミン水溶液(数平均分子量 15,000、ニットーボーメディカル PAA-15C)100mL(263mmol)を入れ、温度を50℃に保ち、その水溶液に、蒸留水50mLにアクリルアミド5.6g(富士フイルム和光純薬社製、78.9mmol)を溶解させた水溶液を、15分掛けて滴下した。滴下終了後も温度を50℃に保ちながら、12時間反応を続けた。反応後、ポリマー溶液を透析膜(スペクトラ社製ポア3、分画分子量 3,500)に入れ、水中での透析操作により副生成物を除去した。精製後、凍結乾燥により水分を除去することで、30mol%プロパンアミド修飾ポリアリルアミンを得た。重水中で1H-NMRを測定し、プロパンアミド修飾されたアリルアミンユニット由来のピーク(2.62ppm)と未修飾のアリルアミンユニット由来のピーク(2.45ppm)の面積の比から、プロパンアミド修飾の比率(m/(m+n))が30mol%であることを確認した。
【0092】
同様の方法で、アクリルアミド9.4g(富士フイルム和光純薬社製、132mmol)を用いることで50mol%プロパンアミド修飾ポリアリルアミンを、アクリルアミド13.1g(富士フイルム和光純薬社製、184mmol)を用いることで70mol%プロパンアミド修飾ポリアリルアミンを、それぞれ得た。
【0093】
【0094】
式中、mおよびnは、互いに独立して正の数を示す。したがって、m/(m+n)およびn/(m+n)が各ユニットのモル比率を示す。
【0095】
(2)NHSエステル化PMMA製基板(基板1)の作製
実施例1の(2)と同じ方法によりNHSエステル化PMMA製基板(基板1)を作製した。
【0096】
(3)部分プロパンアミド修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板16~18)の作製
(2)で作製したNHSエステル化PMMA製基板(基板1)を、上記(1)で得られた30mol%プロパンアミド修飾ポリアリルアミンを1重量%となるように溶解させたホウ酸緩衝液(100mM、1N水酸化ナトリウムでpH10に調整)400mLに浸漬し、マイクロスターラーで1時間撹拌した。攪拌後、架橋剤として1,4-フェニレンジイソチオシアネート100mgを溶解させたジメチルスルホキシド溶液400mLに浸漬し、マイクロスターラーで1時間撹拌し、30mol%プロパンアミド修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板16)を得た。
【0097】
同様の方法で、50mol%プロパンアミド修飾ポリアリルアミンを用いることで50mol%プロパンアミド修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板17)を、70mol%プロパンアミド修飾ポリアリルアミンを用いることで70mol%プロパンアミド修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板18)を、それぞれ得た。
【0098】
(4)基板へのプローブDNAの固定化
実施例1の(4)と同様、配列番号1(23塩基、5’末端アミノ化)の塩基配列から成るDNAをプローブDNAとし、実施例1と同じ方法により、各基板に固定化した。
【0099】
(5)プローブDNAを固定化した基板へのハイブリダイゼーション
実施例1の(5)と同じ方法により、プローブDNAを固定化した基板へのハイブリダイゼーションを行った。
【0100】
(6)ハイブリダイゼーションしたバイオチップの蛍光測定
実施例1の(6)と同じ方法により、ハイブリダイゼーション後のバイオチップの蛍光測定を行った。その結果を表2に示した。
【0101】
実施例5
部分N,N-ジメチルプロパンアミド修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板19)を用いたバイオチップ
(1)部分N,N-ジメチルプロパンアミド修飾ポリアリルアミン(式(IX))の合成
フラスコに15重量%のポリアリルアミン水溶液(数平均分子量 15,000、ニットーボーメディカル PAA-15C)100mL(263mmol)を入れ、温度を50℃に保ち、その水溶液に、蒸留水50mLにN,N-ジメチルアクリルアミド13.1g(富士フイルム和光純薬社製、132mmol)を溶解させた水溶液を、15分掛けて滴下した。滴下終了後も温度を50℃に保ちながら、12時間反応を続けた。反応後、ポリマー溶液を透析膜(スペクトラ社製ポア3、分画分子量 3,500)に入れ、水中での透析操作により副生成物を除去した。精製後、凍結乾燥により水分を除去することで、50mol%N,N-ジメチルプロパンアミド修飾ポリアリルアミンを得た。重水中で1H-NMRを測定し、N,N-ジメチルプロパンアミド修飾されたアリルアミンユニット由来のピーク(2.62ppm)と未修飾のアリルアミンユニット由来のピーク(2.45ppm)の面積の比から、N,N-ジメチルプロパンアミド修飾の比率(m/(m+n))が50mol%であることを確認した。
【0102】
【0103】
式中、mおよびnは、互いに独立して正の数を示す。したがって、m/(m+n)およびn/(m+n)が各ユニットのモル比率を示す。
【0104】
(2)部分N,N-ジメチルプロパンアミド修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板19)の作製
実施例4の(2)、(3)と同様の方法で、50mol%N,N-ジメチルプロパンアミド修飾ポリアリルアミンを用いることで50mol%N,N-ジメチルプロパンアミド修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板19)を得た。
【0105】
(3)基板へのプローブDNAの固定化と評価
上記(2)で得られた各基板に対し、実施例4の(4)と同様にしてプローブDNAの固定化を行い、バイオチップを得た。得られたバイオチップについて、実施例4の(5)、(6)と同様にして、ハイブリダイゼーション後の蛍光測定を行った。その結果を表2に示した。
【0106】
実施例6
部分N,N-ジエチルプロパンアミド修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板20)を用いたバイオチップ
(1)部分N,N-ジエチルプロパンアミド修飾ポリアリルアミン(式(X))の合成
フラスコに15重量%のポリアリルアミン水溶液(数平均分子量 15,000、ニットーボーメディカル PAA-15C)100mL(263mmol)を入れ、温度を50℃に保ち、その水溶液に、蒸留水50mLにN,N-ジエチルアクリルアミド16.8g(富士フイルム和光純薬社製、132mmol)を溶解させた水溶液を、15分掛けて滴下した。滴下終了後も温度を50℃に保ちながら、12時間反応を続けた。反応後、ポリマー溶液を透析膜(スペクトラ社製ポア3、分画分子量 3,500)に入れ、水中での透析操作により副生成物を除去した。精製後、凍結乾燥により水分を除去することで、50mol%N,N-ジエチルプロパンアミド修飾ポリアリルアミンを得た。重水中で1H-NMRを測定し、N,N-ジエチルプロパンアミド修飾されたアリルアミンユニット由来のピーク(2.64ppm)と未修飾のアリルアミンユニット由来のピーク(2.45ppm)の面積の比から、N,N-ジエチルプロパンアミド修飾の比率(m/(m+n))が50mol%であることを確認した。
【0107】
【0108】
式中、mおよびnは、互いに独立して正の数を示す。したがって、m/(m+n)およびn/(m+n)が各ユニットのモル比率を示す。
【0109】
(2)部分N,N-ジエチルプロパンアミド修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板20)の作製
実施例4の(2)、(3)と同様の方法で、50mol%N,N-ジエチルプロパンアミド修飾ポリアリルアミンを用いることで50mol%N,N-ジエチルプロパンアミド修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板20)を得た。
【0110】
(3)基板へのプローブDNAの固定化と評価
上記(2)で得られた各基板に対し、実施例4の(4)と同様にしてプローブDNAの固定化を行い、バイオチップを得た。得られたバイオチップについて、実施例4の(5)、(6)と同様にして、ハイブリダイゼーション後の蛍光測定を行った。その結果を表2に示した。
【0111】
実施例7
部分N-イソプロピルプロパンアミド修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板21を用いたバイオチップ
(1)部分N-イソプロピルプロパンアミド修飾ポリアリルアミン(式(XI))の合成
フラスコに15重量%のポリアリルアミン水溶液(数平均分子量 15,000、ニットーボーメディカル PAA-15C)100mL(263mmol)を入れ、温度を50℃に保ち、その水溶液に、蒸留水50mLにN-イソプロピルアクリルアミド14.9g(富士フイルム和光純薬社製、132mmol)を溶解させた水溶液を、15分掛けて滴下した。滴下終了後も温度を50℃に保ちながら、12時間反応を続けた。反応後、ポリマー溶液を透析膜(スペクトラ社製ポア3、分画分子量 3,500)に入れ、水中での透析操作により副生成物を除去した。精製後、凍結乾燥により水分を除去することで、50mol%N-イソプロピルプロパンアミド修飾ポリアリルアミンを得た。重水中で1H-NMRを測定し、N-イソプロピルプロパンアミド修飾されたアリルアミンユニット由来のピーク(2.60ppm)と未修飾のアリルアミンユニット由来のピーク(2.45ppm)の面積の比から、N-イソプロピルプロパンアミド修飾の比率(m/(m+n))が50mol%であることを確認した。
【0112】
【0113】
式中、mおよびnは、互いに独立して正の数を示す。したがって、m/(m+n)およびn/(m+n)が各ユニットのモル比率を示す。
【0114】
(2)部分N-イソプロピルプロパンアミド修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板7)の作製
実施例4の(2)、(3)と同様の方法で、50mol%N-イソプロピルプロパンアミド修飾ポリアリルアミンを用いることで50mol%N-イソプロピルプロパンアミド修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板21)を得た。
【0115】
(3)基板へのプローブDNAの固定化と評価
上記(2)で得られた各基板に対し、実施例4の(4)と同様にしてプローブDNAの固定化を行い、バイオチップを得た。得られたバイオチップについて、実施例4の(5)、(6)と同様にして、ハイブリダイゼーション後の蛍光測定を行った。その結果を表2に示した。なお、比較を容易にするため、表2には、表1に示した比較例1~4の結果も併せて示す。
【0116】
【0117】
実施例8
部分メトキシカルボニル修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板3~5)に卵白アレルゲンを固定化したバイオチップ
(1)基板への卵白アレルゲンの固定化
卵白アレルゲンは凍結乾燥粉末としてGREER社より入手し、凍結乾燥粉末を純水にてタンパク質濃度が1.0mg/mLとなるように溶解し、スポット溶液とした。スポッティング用ロボット(日本レーザー電子(株)、GTMASStamp-2)を用いて、実施例1の(3)で作製した各基板(基板3~5)の中央部に6×4=24個の卵白アレルゲンのスポットを行った。スポット後、基板を密閉したプラスチック容器に入れて、37℃、湿度100%の条件で20時間程度インキュベートし、卵白アレルゲンを固定化した。インキュベーション後、基板をリン酸緩衝生理食塩水(0.05% Tween20(商品名))で洗浄した。
【0118】
(2)卵白アレルゲンを固定化した基板への卵白アレルギー陽性ヒト血清の接触
卵白アレルギー陽性ヒト血清は、PlasmaLab社より入手し、リン酸緩衝生理食塩水で3倍に希釈し、その希釈液50μLを、(1)で作製した基板に滴下し、ギャップカバーグラス(松波硝子工業株式会社製:24mm×25mm、ギャップサイズ20μm)を被せて封止した。37℃で2時間反応させた後、ギャップカバーグラスを外し、リン酸緩衝生理食塩水(0.05% Tween20(商品名))で基板を洗浄した。
【0119】
(3)卵白アレルゲン特異的IgE抗体の検出
Dylight-650色素標識抗ヒトIgEヤギポリクローナル抗体(Novus biologicals社製)1.0mg/mL溶液を、ウシ血清アルブミンを1重量%含むリン酸緩衝生理食塩水(0.05% Tween20(商品名))で1000倍に希釈した。この希釈液50μLを、(2)でヒト血清と接触させた基板に滴下し、ギャップカバーグラスを被せて室温で1時間反応させた。その後、ギャップカバーグラスを外し、リン酸緩衝生理食塩水(0.05% Tween20(商品名))で基板を洗浄した。
【0120】
「“3D-Gene”(登録商標)Scanner」(東レ株式会社)に基板をセットし、励起光635nm、レーザー出力100%、PMT30に設定した状態で測定を行った。その結果を表3に示した。
【0121】
実施例9
部分エトキシカルボニル修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板22~24)に卵白アレルゲンを固定化したバイオチップ
(1)部分エトキシカルボニル修飾ポリアリルアミン(化学式(XII))の合成
フラスコに15重量%のポリアリルアミン水溶液(数平均分子量 15,000、ニットーボーメディカル PAA-15C)100mL(263mmol)を入れ、温度を50℃に保ち、その水溶液に炭酸ジエチル9.32g(富士フイルム和光純薬社製、78.9mmol)を15分掛けて滴下した。滴下終了後も温度を50℃に保ちながら、12時間反応を続けた。反応後、ポリマー溶液を透析膜(スペクトラ社製ポア3、分画分子量 3,500)に入れ、水中での透析操作により副生成物を除去した。精製後、凍結乾燥により水分を除去することで、30mol%エトキシカルボニル化ポリアリルアミンを得た。重水中で1H-NMRを測定し、エトキシカルボニル化されたアリルアミンユニット由来のピーク(2.87ppm)と未修飾のアリルアミンユニット由来のピーク(2.47ppm)の面積の比から、エトキシカルボニル修飾の比率(m/(m+n))が30mol%であることを確認した。
【0122】
同様の方法で、炭酸ジエチル15.6g(富士フイルム和光純薬社製、132mmol)を用いることで50mol%エトキシカルボニル修飾ポリアリルアミンを、炭酸ジエチル21.8g(富士フイルム和光純薬社製、184mmol)を用いることで70mol%エトキシカルボニル修飾ポリアリルアミンを、それぞれ得た。
【0123】
【0124】
(2)部分エトキシカルボニル修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板22~24)の作製
実施例1の(2)、(3)と同様の方法で、30mol%エトキシカルボニル修飾ポリアリルアミンを用いることで30mol%エトキシカルボニル修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板22)を、50mol%エトキシカルボニル修飾ポリアリルアミンを用いることで50mol%エトキシカルボニル修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板23)を、70mol%エトキシカルボニル修飾ポリアリルアミンを用いることで70mol%エトキシカルボニル修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板24)を、それぞれ得た。
【0125】
(3)基板への卵白アレルゲンの固定化と評価
上記(2)で得られた各基板に対し、実施例8の(1)と同様にして卵白アレルゲンの固定化を行い、バイオチップを得た。得られたバイオチップについて、実施例8の(2)、(3)と同様にして、卵白アレルギー陽性ヒト血清との接触後の蛍光測定を行った。その結果を表3に示した。
【0126】
実施例10
部分プロピロキシカルボニル修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板25~27)に卵白アレルゲンを固定化したバイオチップ
(1)部分プロピロキシカルボニル修飾ポリアリルアミン(化学式(XIII))の合成
フラスコに15重量%のポリアリルアミン水溶液(数平均分子量 15,000、ニットーボーメディカル PAA-15C)100mL(263mmol)を入れ、温度を50℃に保ち、その水溶液に炭酸ジプロピル11.5g(シグマアルドリッチ社製、78.9mmol)を15分掛けて滴下した。滴下終了後も温度を50℃に保ちながら、12時間反応を続けた。反応後、ポリマー溶液を透析膜(スペクトラ社製ポア3、分画分子量 3,500)に入れ、水中での透析操作により副生成物を除去した。精製後、凍結乾燥により水分を除去することで、30mol%プロピロキシカルボニル化ポリアリルアミンを得た。重水中で1H-NMRを測定し、プロピロキシカルボニル化されたアリルアミンユニット由来のピーク(2.85ppm)と未修飾のアリルアミンユニット由来のピーク(2.50ppm)の面積の比から、プロピロキシカルボニル修飾の比率(m/(m+n))が30mol%であることを確認した。
【0127】
同様の方法で、炭酸ジプロピル19.3g(シグマアルドリッチ社製、132mmol)を用いることで50mol%プロピロキシカルボニル修飾ポリアリルアミンを、炭酸ジプロピル26.9g(シグマアルドリッチ社製、184mmol)を用いることで70mol%プロピロキシカルボニル修飾ポリアリルアミンを、それぞれ得た。
【0128】
【0129】
(2)部分プロピロキシカルボニル修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板25~27)の作製
実施例1の(2)、(3)と同様の方法で、30mol%プロピロキシカルボニル修飾ポリアリルアミンを用いることで30mol%プロピロキシカルボニル修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板25)を、50mol%プロピロキシカルボニル修飾ポリアリルアミンを用いることで50mol%プロピロキシカルボニル修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板26)を、70mol%プロピロキシカルボニル修飾ポリアリルアミンを用いることで70mol%プロピロキシカルボニル修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板27)を、それぞれ得た。
【0130】
(3)基板への卵白アレルゲンの固定化と評価
上記(2)で得られた各基板に対し、実施例8の(1)と同様にして卵白アレルゲンの固定化を行い、バイオチップを得た。得られたバイオチップについて、実施例8の(2)、(3)と同様にして、卵白アレルギー陽性ヒト血清との接触後の蛍光測定を行った。その結果を表3に示した。
【0131】
実施例11
部分プロパンアミド修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板17)に卵白アレルゲンを固定化したバイオチップ
(1)基板への卵白アレルゲンの固定化と評価
実施例4の(3)で得られた基板17に対し、実施例8の(1)と同様にして卵白アレルゲンの固定化を行い、バイオチップを得た。得られたバイオチップについて、実施例8の(2)、(3)と同様にして、卵白アレルギー陽性ヒト血清との接触後の蛍光測定を行った。その結果を表3に示した。
【0132】
実施例12
部分N,N-ジメチルプロパンアミド修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板19)に卵白アレルゲンを固定化したバイオチップ
(1)基板への卵白アレルゲンの固定化と評価
実施例5の(3)で得られた基板19に対し、実施例8の(1)と同様にして卵白アレルゲンの固定化を行い、バイオチップを得た。得られたバイオチップについて、実施例8の(2)、(3)と同様にして、卵白アレルギー陽性ヒト血清との接触後の蛍光測定を行った。その結果を表3に示した。
【0133】
実施例13
部分N,N-ジエチルプロパンアミド修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板20)に卵白アレルゲンを固定化したバイオチップ
(1)基板への卵白アレルゲンの固定化と評価
実施例6の(3)で得られた基板20に対し、実施例8の(1)と同様にして卵白アレルゲンの固定化を行い、バイオチップを得た。得られたバイオチップについて、実施例8の(2)、(3)と同様にして、卵白アレルギー陽性ヒト血清との接触後の蛍光測定を行った。その結果を表3に示した。
【0134】
実施例14
部分N-イソプロピルプロパンアミド修飾ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板21)に卵白アレルゲンを固定化したバイオチップ
(1)基板への卵白アレルゲンの固定化と評価
実施例7の(3)で得られた基板21に対し、実施例8の(1)と同様にして卵白アレルゲンの固定化を行い、バイオチップを得た。得られたバイオチップについて、実施例8の(2)、(3)と同様にして、卵白アレルギー陽性ヒト血清との接触後の蛍光測定を行った。その結果を表3に示した。
【0135】
比較例5
NHSエステル化PMMA製基板(基板1)に卵白アレルゲンを固定化したバイオチップ
実施例1の(2)で得られた基板1に対し、実施例8の(1)と同様にして卵白アレルゲンの固定化を行い、バイオチップを得た。得られたバイオチップについて、実施例8の(2)、(3)と同様にして、卵白アレルギー陽性ヒト血清との接触後の蛍光測定を行った。その結果を表3に示した。
【0136】
比較例6
ポリアリルアミン結合PMMA製基板(基板14)に卵白アレルゲンを固定化したバイオチップ
【0137】
比較例3の(1)で得られた基板14について、実施例8の(1)と同様にして卵白アレルゲンの固定化を行い、バイオチップを得た。得られたバイオチップについて、実施例8の(2)、(3)と同様にして、卵白アレルギー陽性ヒト血清との接触後の蛍光測定を行った。その結果を表3に示した。
【0138】
【0139】
表3は、卵白アレルギー陽性ヒト血清および色素標識抗ヒトIgEヤギポリクローナル抗体と接触させた基板中の、卵白アレルゲンが固定化された部分の蛍光値(シグナル値)、卵白アレルゲンが固定化されていない部分の蛍光値(ノイズ値)、およびシグナル値に対するノイズ値の比(SN比)を示したものである。ここで検出される蛍光は、色素標識抗ヒトIgEヤギポリクローナル抗体に由来するものあり、色素標識抗ヒトIgEヤギポリクローナル抗体の結合量が多いほど高い値を示す。シグナル値は、ヒトIgE抗体(測定対象物質)と卵白アレルゲン(選択結合性物質)との複合体に結合した、色素標識抗ヒトIgEヤギポリクローナル抗体の量に対応する。一方、ノイズ値は、基板に非特異結合した色素標識抗ヒトIgEヤギポリクローナル抗体の量に対応する。SN比は、上記複合体への色素標識抗ヒトIgEヤギポリクローナル抗体の結合が多いほど、基板への色素標識抗ヒトIgEヤギポリクローナル抗体の非特異結合が少ないほど、高い値を示すことから、バイオチップの検出感度の指標とした。
【0140】
ポリアリルアミンの側鎖アミノ基の修飾により得られた部分メトキシカルボニル修飾ポリアリルアミンを結合した基板(実施例8、基板3~5)は、ポリマーを結合していない基板(比較例5、基板1)のみならず、ポリアリルアミンを結合した基板(比較例6、基板14)と比較しても、高いSN比を示した。これはメトキシカルボニル基の修飾により、ノイズ値が上昇する原因である色素標識抗ヒトIgEヤギポリクローナル抗体の非特異吸着を抑制した効果、および、基板表面の反応性の官能基の密度の調節により上記複合体の形成効率が向上した結果と推察される。
【0141】
同様の効果は、部分エトキシカルボニル修飾ポリアリルアミンを結合した基板(実施例9、基板22~24)、部分プロピロキシカルボニル修飾ポリアリルアミンを結合した基板(実施例10、基板25~27)、部分プロパンアミド修飾ポリアリルアミン(実施例11、基板17)、部分N,N-ジメチルプロパンアミド修飾ポリアリルアミン(実施例12、基板19)、部分N,N-ジエチルプロパンアミド修飾ポリアリルアミン(実施例13、基板20)および部分N-イソプロピルプロパンアミド修飾ポリアリルアミン(実施例14、基板21)でも観察された。また、SN比は、ポリマーに修飾する官能基の種類により異なることから、シグナル値およびSN比のいずれも優れたバイオチップを得るためには、ポリマーに修飾する官能基の種類が重要であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明により、測定対象物質を高感度に検出可能なバイオチップを提供される。本発明のバイオチップを用いることで、より精度の高い分子識別や診断が可能になる。
【配列表】