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特許7578916放電ランプおよび放電ランプの寿命評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】放電ランプおよび放電ランプの寿命評価方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 61/073 20060101AFI20241030BHJP
【FI】
H01J61/073 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021124161
(22)【出願日】2021-07-29
(65)【公開番号】P2023019441
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2024-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 圭逸
(72)【発明者】
【氏名】山口 明康
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-075149(JP,A)
【文献】特開2005-071927(JP,A)
【文献】特表2010-537385(JP,A)
【文献】特表2015-520850(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0258762(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0044609(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 61/073
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管と、
前記発光管の内部に対向して配置された一対の電極と、
前記一対の電極のうち少なくとも一方の外表面に配置されたランプ寿命インジケータと、を備え、
前記ランプ寿命インジケータは、金属酸化物を含む薄膜であり、ランプの点灯時間の経過につれて色味が変化する、放電ランプ。
【請求項2】
前記ランプ寿命インジケータは、ランプの点灯時間の経過につれて明度が低下し、明度の高い領域と明度の低い領域との境界位置が、対向する前記電極から離れる方向に移動する、請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項3】
前記放電ランプを定格電力で点灯させたときの前記ランプ寿命インジケータの少なくとも一部の温度は、1000℃以上である、請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項4】
前記放電ランプが非点灯状態であるときの前記発光管の内部の酸素濃度は、100volppm以下である、請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項5】
前記ランプ寿命インジケータは、前記電極の外表面の周方向全体に亘って設けられている、請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項6】
前記ランプ寿命インジケータは、前記電極の前端面からの距離L(mm)よりも後端側に形成されており、前記ランプ寿命インジケータの厚みをt(μm)としたときに、L、tが下記の関係式(1)及び(2)を満たす、請求項1に記載の放電ランプ。
t/L≦50 (1)
t≦200 (2)
【請求項7】
前記金属酸化物は、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化チタン(TiO)、および酸化アルミニウム(Al)からなる群より選ばれる1種又は2種以上である、請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項8】
請求項1に記載の放電ランプの寿命を評価する方法であって、
予め評価基準となる前記放電ランプを定格で所定時間点灯させ、前記ランプ寿命インジケータの色味が変化した範囲を基準範囲とする工程と、
任意の点灯時間を経過した評価対象の前記放電ランプにおいて、前記ランプ寿命インジケータの色味が変化した範囲が、前記基準範囲を超えているとき前記所定時間を超えて点灯されていると判断し、前記基準範囲を超えていないとき前記所定時間を超えて点灯されていないと判断する工程と、を含む放電ランプの寿命評価方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電ランプおよび放電ランプの寿命評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放電ランプ(以下、単にランプともいう)は、産業上広く利用されており、その用途としては、半導体素子又は液晶表示素子の製造工程に用いられる露光装置の光源、映写機の投影用光源が挙げられる。
【0003】
放電ランプは、その点灯時間に応じて劣化する。放電ランプの劣化度合いが大きくなって、例えば、所望の光出力が得られなくなったり、許容範囲を超えたちらつきが発生するようになったりした場合には、そのランプの寿命が末期に達したとして、ランプの交換がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-166513号公報
【文献】特開2007-95327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ランプの寿命(ランプの劣化度合い)を評価する方法としては、特許文献1に記載されているように、点灯したランプの電圧の変動を測定する方法が知られている。また、別の方法としては、特許文献2に記載されているように、点灯したランプの照度値を測定して、初期照度値と比較する方法が知られている。
【0006】
しかしながら、上記のいずれの方法も、ランプを点灯させたときの特性でランプ寿命を評価しているため、評価の際にはランプを点灯させ、ランプ特性を測定する必要があり、ランプ寿命を容易に評価することができない。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ランプ寿命を容易に評価できる放電ランプおよび放電ランプの寿命評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る放電ランプは、発光管と、
前記発光管の内部に対向して配置された一対の電極と、
前記一対の電極のうち少なくとも一方の外表面に配置されたランプ寿命インジケータと、を備え、
前記ランプ寿命インジケータは、金属酸化物を含む薄膜であり、ランプの点灯時間の経過につれて色味が変化する。
【0009】
この構成によれば、ランプ寿命インジケータの色味の変化によってランプの点灯時間を推定し、ランプ寿命を評価できる。また、ランプ寿命インジケータを観察するためにランプを点灯させる必要がないため、ランプ寿命を容易に評価することができる。
【0010】
本発明の放電ランプにおいて、前記ランプ寿命インジケータは、ランプの点灯時間の経過につれて明度が低下し、明度の高い領域と明度の低い領域との境界位置が、対向する前記電極から離れる方向に移動する、という構成でもよい。
【0011】
この構成によれば、ランプ寿命インジケータの明度が低下した領域の拡大を観察することによって、ランプの点灯時間を推定し、ランプ寿命を評価できる。
【0012】
本発明の放電ランプにおいて、前記放電ランプを定格電力で点灯させたときの前記ランプ寿命インジケータの少なくとも一部の温度は、1000℃以上である、という構成でもよい。
【0013】
ランプ寿命インジケータが、金属酸化物の色味が変化することでインジケータとして機能するためには、1000℃以上の熱負荷がかかる領域に設けられる必要がある。
【0014】
また、本発明の放電ランプにおいて、前記放電ランプが非点灯状態であるときの前記発光管の内部の酸素濃度は、100volppm以下である、という構成でもよい。
【0015】
発光管の内部を十分に酸素が少ない雰囲気にすることで、金属酸化物からの酸素の脱離が適度に進み、ランプ寿命インジケータの色味の変化を観察しやすくなる。
【0016】
また、本発明の放電ランプにおいて、前記ランプ寿命インジケータは、前記電極の外表面の周方向全体に亘って設けられている、という構成でもよい。
【0017】
この構成によれば、電極の周方向の何れの位置からもランプ寿命インジケータを観察しやすい。
【0018】
また、本発明の放電ランプにおいて、前記ランプ寿命インジケータは、前記電極の前端面からの距離L(mm)よりも後端側に形成されており、前記ランプ寿命インジケータの厚みをt(μm)としたときに、L、tが下記の関係式(1)及び(2)を満たす、という構成でもよい。
t/L≦50 (1)
t≦200 (2)
【0019】
この構成によれば、ランプ寿命インジケータは、ランプ寿命を評価するためのインジケータとしての機能を発揮しつつ、電極から剥離しにくい。
【0020】
また、本発明の放電ランプにおいて、前記金属酸化物は、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化チタン(TiO)、および酸化アルミニウム(Al)からなる群より選ばれる1種又は2種以上である、という構成でもよい。
【0021】
この構成によれば、金属酸化物からなるランプ寿命インジケータがインジケータとして機能することができる。
【0022】
本発明の放電ランプの寿命評価方法は、上記の放電ランプの寿命を評価する方法であって、
予め評価基準となる前記放電ランプを定格で所定時間点灯させ、前記ランプ寿命インジケータの色味が変化した範囲を基準範囲とする工程と、
任意の点灯時間を経過した評価対象の前記放電ランプにおいて、前記ランプ寿命インジケータの色味が変化した範囲が、前記基準範囲を超えているとき前記所定時間を超えて点灯されていると判断し、前記基準範囲を超えていないとき前記所定時間を超えて点灯されていないと判断する工程と、を含む。
【0023】
この構成によれば、ランプ寿命インジケータの色味の変化によってランプの点灯時間を推定し、ランプ寿命を評価できる。また、ランプ点灯時にランプ寿命インジケータを観察する必要がないため、ランプ寿命を容易に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態に係る放電ランプの構成を示す説明図
図2図1に示す放電ランプの陽極の拡大図
図3】他の実施形態に係る陽極の正面図
図4】他の実施形態に係る陽極の正面図
図5】他の実施形態に係る陽極の正面図
図6】他の実施形態に係る陽極の正面図
図7A】3時間点灯後のランプ寿命インジケータの状態を模式的に示した図
図7B】200時間点灯後のランプ寿命インジケータの状態を模式的に示した図
図7C】500時間点灯後のランプ寿命インジケータの状態を模式的に示した図
図7D】800時間点灯後のランプ寿命インジケータの状態を模式的に示した図
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る放電ランプの実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比は必ずしも実際の寸法比と一致しておらず、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0026】
以下において、XYZ座標系を適宜参照して説明される。また、本明細書において、方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。
【0027】
図1は、本実施形態に係る放電ランプの構成を示す説明図である。放電ランプ1(以下、「ランプ1」という)は、発光管2と、発光管2の内部に対向配置された陽極3および陰極4と、を備える。陽極3および陰極4は、それぞれリード棒5により支持されている。
【0028】
本実施形態のランプ1は、半導体素子または液晶表示素子の製造工程で使用される露光装置において用いられる大型のランプであり、例えば定格電力が2kW~35kWである。
【0029】
発光管2は、ガラス管の中央を膨らませて形成される。発光管2は、X方向の両端から、それぞれ中央に向かうにつれて、その内径が大きくなるガラス管の領域である。発光管2の外形は、球体または楕円球体である。
【0030】
発光管2は、発光管2のX方向の両端からそれぞれ反対方向に連続して延びる一対の封止管部21を有する。発光管2は、封止管部21とともに例えば石英ガラスにより一体として形成される。一対の封止管部21がそれぞれ有する中心軸は互いに重なり、図1の軸X1で示される。
【0031】
発光管2の内部には、発光空間S1が形成される。発光空間S1には、発光物質として水銀が封入されている。
【0032】
発光管2の内部には、陽極3および陰極4がX方向に互いに対向して配置されている。本実施形態において、陽極3の材質はタングステン、陰極4の材質はトリエーテッドタングステンである。
【0033】
リード棒5は、陽極3および陰極4に接続され、封止管部21内をX方向に延びる。陽極3および陰極4は、リード棒5の先端に固定されている。リード棒5の中心軸は、軸X1と重なるとよい。リード棒5には、高融点金属、例えばタングステンを含む材料が使用される。
【0034】
口金8は、封止管部21の陽極3および陰極4から遠ざかる側を覆う。口金8は、リード棒5に電気的に接続される。
【0035】
図2は、図1に示すランプ1の陽極3の拡大図である。陽極3は、円柱状の胴部3aと、前端に向かうにつれて外径が小さくなる円錐台状の前部3bと、後端に向かうにつれて外径が小さくなる円錐台状の後部3cとを有する。本明細書において、陽極3における前端とは、陰極4に向かう方向(-X方向)の端であり、陽極3における後端とは、陰極4から離れる方向(+X方向)の端である。
【0036】
陽極3の外表面には、ランプ寿命インジケータ6が設けられている。ランプ寿命インジケータ6は、金属酸化物を含む薄膜である。金属酸化物としては、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム(Al)が例示され、これらの材料が複数用いられても構わない。本実施形態におけるランプ寿命インジケータ6は、酸化ジルコニウムを主成分とする薄膜である。本明細書において、「主成分」とは、質量基準で含有率が最大となる成分を意味する用語として用いられる。
【0037】
金属酸化物を含む薄膜からなるランプ寿命インジケータ6は、ランプ1の点灯時間の経過につれて色味が変化する。これは、金属酸化物が、高温にさらされる領域では酸素が脱離していき、黒っぽく変色するためである。つまり、より詳細には、ランプ1の点灯時間の経過につれて、高温にさらされる領域におけるランプ寿命インジケータ6の明度が低下する。本発明は、この現象に着目し、ランプ寿命インジケータ6を金属酸化物で構成することで、ランプ1の点灯時間を推定し、ランプ寿命を容易に評価可能にしたものである。
【0038】
なお、金属酸化物からの酸素の脱離が適度に進むためには、発光管2の内部を十分に酸素が少ない雰囲気にしておく必要がある。そのため、ランプ1が非点灯状態であるときの発光管2の内部の酸素濃度は、100volppm以下であることが好ましく、60volppm以下であることがより好ましい。なお、この酸素濃度であれば、ランプ点灯には影響しない。
【0039】
ランプ寿命インジケータ6は、陽極3の前部3bから胴部3aに亘って連続して設けられている。ランプ寿命インジケータ6は、前部3bの前端である前端面3dからの距離Lよりも後端側に設けられている。前端面3dからの距離Lは、1mm以上が好ましく、3mm以上がより好ましい。距離Lが1mmよりも小さいと、陽極3とランプ寿命インジケータ6の熱膨張差のため、ランプ寿命インジケータ6が剥離しやすくなる。また、距離Lは、20mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましい。距離Lが20mmよりも大きいと、ランプ寿命インジケータ6が設けられた部分の陽極3の温度が低くなるため、ランプ寿命インジケータ6の色味の変化が生じにくくなる。
【0040】
また、ランプ寿命インジケータ6は、胴部3aの後端よりも前端側に設けられており、後部3cには設けられていない。
【0041】
ランプ寿命インジケータ6の厚みtは、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。厚みtが200μmよりも大きいと、ランプ寿命インジケータ6が剥離しやすくなる。また、厚みtは、3μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。ランプ寿命インジケータ6を陽極3の外表面に形成させる際、ランプ寿命インジケータ6が陽極3の外表面に密着しやすくなるように、陽極3の外表面に切削加工又はブラスト加工による凹凸を形成させる。厚みtが3μmよりも小さいと、陽極3の外表面に形成された凹凸との関係で、陽極3の外表面の一部がランプ寿命インジケータ6に覆われずに露出するため、色味の変化が確認しにくくなる。
【0042】
ランプ寿命インジケータ6の形成は、例えば、ランプ寿命インジケータ6を構成する材料の粒子(例えば、粒径10μm以下の酸化ジルコニウムの粒子)を溶媒(例えば、ニトロセルロースと酢酸ブチルからなる溶媒)に分散させて、これを陽極3の外表面に筆で塗布し、150℃で30分間乾燥した後、真空雰囲気中で1900℃、120分の熱処理を行うことにより行われる。
【0043】
ランプ1を点灯させると、陽極3の前端付近は高温(1000℃以上)となり、高温にさらされた酸化ジルコニウムからは、少しずつ酸素が脱離していく。これにより、当初は灰白色であった酸化ジルコニウムの薄膜は、酸素の脱離とともに、少しずつ黒っぽくなっていく。また、ランプ1の点灯時間が長くなるとともに、黒く変色する領域が拡大(後退)していく。これにより、ランプ寿命インジケータ6の色味の変化および変色領域の拡大を観察することで、ランプ1の点灯時間を推定し、ランプ1の寿命を評価することができる。
【0044】
ランプ1の寿命を評価する具体的な方法は、以下の通りである。まず、予め、評価対象のランプ1と同仕様のランプ1(評価基準となるランプ1)を定格で所定時間(例えば3000時間)点灯させ、ランプ寿命インジケータ6の色味が変化した範囲を確認する。このときのランプ寿命インジケータ6の色味が変化した範囲を基準範囲とする。
【0045】
次いで、任意の点灯時間を経過した評価対象のランプ1のランプ寿命インジケータ6を観察する。ランプ寿命インジケータ6の観察は、目視でもよいし、カメラなどの機器を用いてもよい。観察の結果、ランプ寿命インジケータ6の色味が変化した範囲が、基準範囲を超えているとき所定時間を超えて点灯されていると判断し、基準範囲を超えていないとき所定時間を超えて点灯されていないと判断する。
【0046】
なお、ランプ寿命インジケータ6は、陽極3の外表面の一部のみに設けられていてもよい。所定の部分に設けられたランプ寿命インジケータ6が、所定の色に変色したかどうかで寿命を評価することができる。図3に示す例では、胴部3aの前端側に円形のランプ寿命インジケータ6が一つ設けられている。
【0047】
また、ランプ寿命インジケータ6は、図2のように前部3bから胴部3aに亘って連続して設けられる必要はなく、途切れていてもよい。図4に示す例では、胴部3aに軸方向に沿って断続的に複数のランプ寿命インジケータ6が設けられている。
【0048】
また、ランプ寿命インジケータ6は、陽極3の外表面の周方向全体に亘って設けられていてもよい。例えば、ランプ1の点灯姿勢が水平点灯の場合、すなわち、軸X1が水平となる姿勢でランプ1が点灯される場合、陽極3の重力方向上方と下方ではランプ点灯時の温度に差があり、陽極3の外表面の周方向の一部だけにランプ寿命インジケータ6を設けると、周方向のどの位置にランプ寿命インジケータ6があるかで色味の変化の仕方が変わってしまう。ランプ寿命インジケータ6を陽極3の外表面の周方向全体に亘って設けることで、周方向の所望の位置に必ずランプ寿命インジケータ6が配置されることになる。図5に示す例では、胴部3aの前端側の外表面に周方向全体に亘ってランプ寿命インジケータ6が設けられている。また、図6に示す例では、ランプ寿命インジケータ6は、前部3bから胴部3aに亘って連続して設けられ、かつ前部3b及び胴部3aの外表面の周方向全体に亘って設けられている。
【0049】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0050】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上記した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。さらに、下記する各種の変更例に係る構成や方法等を任意に一つ又は複数選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよい。
【0051】
上記の実施形態では、陽極3の外表面のみにランプ寿命インジケータ6が設けられているが、陰極4の外表面のみにランプ寿命インジケータ6を設けてもよく、陽極3及び陰極4の外表面にランプ寿命インジケータ6を設けてもよい。ただし、一般的に陰極4は陽極3に比べて小さく、目視でのランプ寿命インジケータ6の観察がしにくくなるため、少なくとも陽極3にランプ寿命インジケータ6を設けることが好ましい。
【実施例
【0052】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。
【0053】
(1)ランプ寿命インジケータとしての効果を確認するための実験を実施した。
【0054】
実験に使用したランプの仕様は以下の通りである。
[発光管]
材質=石英ガラス、最大外径=95mm、最大内径=85mm、全長=120mm
[陽極]
材質=タングステン、外径=35mm、全長50mm
[陰極]
材質=トリエーテッドタングステン、外径=12mm、全長35mm
[発光物質]
水銀量=32g
[バッファガス]
クリプトンガス:封入圧=4×10Pa
[極間]
陽極前端と陰極前端の離間距離=7mm
[ランプ寿命インジケータ]
酸化ジルコニウムを主成分とする被膜を陽極の前部から胴部に亘って外表面の周方向全体に形成(図6を参照)
[電気特性]
定格電力=4.5kW、定格電圧=145V、定格電流=31A
[点灯姿勢]
垂直点灯
【0055】
所定時間点灯後にランプ寿命インジケータ6の外観を目視で確認した。図7A図7Dは、各点灯時間経過後の陽極3の状態を模式的に示した図であり、図7Aは3時間経過後、図7Bは200時間経過後、図7Cは500時間経過後、図7Dは800時間経過後の状態を示す。61は灰白色の領域を示し、62は灰白色よりも黒い色(黒灰色とも呼ばれる)の領域を示している。図7A図7Dに示すように、点灯時間の経過につれて灰白色の領域61と黒灰色の領域62との境界位置が、陰極4から離れる方向に移動しており、黒灰色の領域62が拡大している。これにより、ランプ寿命インジケータ6がランプ1の寿命を評価するためのインジケータとして使用できることが確認された。
【0056】
(2)ランプ寿命インジケータ6の厚みt(μm)と、陽極3の前端面3dからの距離L(mm)の関係に関する実験を実施した。
【0057】
タングステンからなる陽極3と金属酸化物からなるランプ寿命インジケータ6では、熱膨張係数が大きく異なるため、陽極3の前端にまでランプ寿命インジケータ6を形成させると、ランプ1の点灯と消灯による陽極3の膨張及び収縮によりランプ寿命インジケータ6が剥離し、脱落してしまい、インジケータとして機能しない場合がある。
一方で、陽極3は前端に近づくほど温度が高いため、色味の変化が見やすく、前端に近い部分にランプ寿命インジケータ6を設けることが望ましい。
以上の観点から、ランプ寿命インジケータ6の剥離が生じないような条件を検討した。ランプ寿命インジケータ6の剥離は、その厚みt(μm)が大きいほど生じやすい。すなわち、ランプ寿命インジケータ6が薄ければ、陽極3の前端近傍までランプ寿命インジケータ6を設けても、剥離は生じない。
【0058】
以下の実験を行い、ランプ寿命インジケータ6の剥離が生じない条件を見いだした。
【0059】
(a)サンプルの作成
ランプ寿命インジケータ6の厚みt(μm)と、陽極3の前端面3dからの距離L(mm)とをそれぞれ異ならせた複数のサンプルを作成した。ランプ寿命インジケータ6の後端は、陽極3の胴部3aの後端とした。また、ランプ寿命インジケータ6は、陽極3の外表面に周方向全体に亘って設けた。サンプルとなる陽極3のサイズは、胴部3aの直径がφ25mmで長さが40mmである。作成したサンプルの厚みt、距離L、及びt/Lの値を表1に示す。
【0060】
金属酸化物を含む薄膜の形成は、次のようにして行った。粒径10μm以下の酸化ジルコニウムの粒子をニトロセルロースと酢酸ブチルからなる溶媒に加えて良く混合した後、陽極3の外表面に筆で塗布した。そして、150℃で30分間乾燥した。乾燥後、真空雰囲気中で1900℃、120分の熱処理を行い、薄膜を形成させた。
なお、ランプ寿命インジケータ6の厚みtは、酸化ジルコニウムの粒子を分散させる溶媒の粘度を変えることで調整できる。
【0061】
(b)サンプルの評価
各サンプルを模擬灯具に配置し、下記条件にて点灯させた。なお、模擬灯具とは、アルゴンガス雰囲気下でサンプルの陽極3と陰極4を対向して配置し、両電極間に電圧を印加して電流を流すことで、ランプとして点灯させたときと同等の熱負荷を電極に与えることができる実験装置のことである。
【0062】
[実験条件]
電流値:150A(電力は2.5kWに相当)
点灯時間:30分
電極間の距離:3mm
電極間の雰囲気:大気圧のアルゴンガス
【0063】
点灯後、模擬灯具からサンプルを取り出し、ランプ寿命インジケータ6の剥離の有無を目視で確認した。実験結果を表2に示す。表2において、「A」とはランプ寿命インジケータ6の剥離が無かったことを意味し、「B」とはランプ寿命インジケータ6の剥離が有ったことを意味する。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
表2の結果から、ランプ寿命インジケータ6の剥離が生じない条件として、以下の式(1)及び(2)を見出した。
t/L≦50 (1)
t≦200 (2)
【符号の説明】
【0067】
1 :放電ランプ(ランプ)
2 :発光管
3 :陽極
3a :胴部
3b :前部
3c :後部
3d :前端面
4 :陰極
6 :ランプ寿命インジケータ
L :電極の前端面からの距離
t :ランプ寿命インジケータの厚み


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D