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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】経口ゲル状組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/51 20060101AFI20241030BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20241030BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20241030BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
A61K31/51
A61K9/06
A61K47/36
A61P3/02 105
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019002532
(22)【出願日】2019-01-10
(65)【公開番号】P2019123706
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2019-12-25
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2018002867
(32)【優先日】2018-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】521357375
【氏名又は名称】アリナミン製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000118615
【氏名又は名称】伊那食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 祐子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 翔
【合議体】
【審判長】原田 隆興
【審判官】前田 佳与子
【審判官】井上 千弥子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-137268(JP,A)
【文献】国際公開第2005/084461(WO,A1)
【文献】国際公開第99/034690(WO,A1)
【文献】寒天の科学|寒天のゼリー強度,Internet Archive: Wayback Machine[online],2016年10月4日, [2020年11月13日検索],<URL:https://web.archive.org/web/20161004082226/http://www.kantenpp.co.jp/kanten/science_old/0207.html>
【文献】Journal of Food Engineering,2011, Vol.102, No.3,pp.287-292
【文献】寒天ハンドブック,株式会社光琳書院,1970年,第363頁
【文献】栄養学雑誌, 2008, Vol.66, No.5, p.231-240
【文献】日本食生活学会誌, 2014, 第25巻 第3号, p.171-183
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンB類、及びゼリー強度が700~1500g/cmの範囲内にある寒天を含有し、pHが2.8~3.8の範囲内であり、且つ寒天の配合量が0.08~8w/w%であって、ビタミンB類が、チアミン塩酸塩、チアミン硝酸塩、ビスチアミン硝酸塩、チアミンジスルフィド、チアミンジセチル硫酸エステル塩、ジセチアミン塩酸塩、フルスルチアミン、フルスルチアミン塩酸塩、オクトチアミン、シコチアミン、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン、プロスルチアミン、及びベンフォチアミンからなる群より選択される1種以上であり、寒天の還元糖含量が0.02重量%~0.05重量%であって、硬さが0.08~0.35Nの範囲内である(ここでの硬さは直径20mmの円形プランジャーを使用して測定されたものである)、経口ゲル状組成物。
【請求項2】
医薬品または医薬部外品として用いられる、請求項1に記載の経口ゲル状組成物。
【請求項3】
パウチタイプの容器に包装されている、請求項1又は2に記載の経口ゲル状組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンB類を含有する経口ゲル状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンB類は、生体に対する様々な有用性を有することが知られており、経口摂取される医薬品、医薬部外品及び食品等において広く用いられている。
ビタミンB類を十分量で摂取可能にする形態としては、主に錠剤や飲料などの形態が好適に採用されているが、近年、流動性のある粘稠なゲル状の経口製剤もその形態として採用される場合が増加している。
このようなゲル状製剤が採用される背景には、特に先進国における高齢者の増加に伴う嚥下障害者の増加に関連して、投与若しくは摂取及び嚥下が容易である形態が消費者に好まれていることや、短時間で簡便に摂取が可能でありながら、空腹感を軽減できる形態が好まれていること等の理由が存在していると考えられる。
【0003】
ビタミンB類を含有する経口ゲル状製剤に近い公知技術としては、0.01~0.5重量%のビタミンB類、及び0.5~30重量%のコンドロイチン硫酸塩を含有する経口ゼリー剤(特許文献1)が挙げられるが、該経口ゼリー剤は、流動性の無い成形したゲル状の製剤であり、液状または流動性のある粘稠なゲル状の製剤ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-231051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討によれば、ビタミンB類を安定に含有する経口ゲル状組成物(本明細書において「ゲル状組成物」とは、固体であるゲル組成物ではなく、流動性のある粘稠な液体組成物をいう)の実現、及びゲル状形態が安定なビタミンB類を含有する経口ゲル状組成物の実現はそれぞれ困難であり、ビタミンB類を安定に含有し、尚且つゲル状形態も安定な経口ゲル状組成物の実現は更に困難である。
【0006】
従い、本発明においては、ビタミンB類を安定に含有し、且つゲル状形態も安定な経口ゲル状組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ビタミンB類、及びゼリー強度が700~1500g/cmの範囲内にある粘稠剤を含有し、且つpHが2.8~3.8の範囲内である経口ゲル状組成物によって、前記した課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
[1] ビタミンB類、及びゼリー強度が700~1500g/cmの範囲内にある粘稠剤を含有し、pHが2.8~3.8の範囲内である経口ゲル状組成物。
[2] ビタミンB類が、チアミン塩酸塩、チアミン硝酸塩、ビスチアミン硝酸塩、チアミンジスルフィド、チアミンジセチル硫酸エステル塩、ジセチアミン塩酸塩、フルスルチアミン、フルスルチアミン塩酸塩、オクトチアミン、シコチアミン、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン、プロスルチアミン、及びベンフォチアミンからなる群より選択される1種以上である、上記[1]に記載の経口ゲル状組成物。
[3] 粘稠剤が寒天である、上記[1]又は[2]に記載の経口ゲル状組成物。
[4] 寒天の還元糖含量が0.02重量%~0.05重量%である、上記[3]に記載の経口ゲル状組成物。
[5] 硬さが0.08~0.35Nの範囲内である、上記[1]~[4]いずれか一項に記載の経口ゲル状組成物。
[6] 医薬品または医薬部外品として用いられる、上記[1]~[5]いずれか一項に記載の経口ゲル状組成物。
[7] パウチタイプの容器に包装されている、上記[1]~[6]いずれか一項に記載の経口ゲル状組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ビタミンB類を安定に含有し、且つゲル状形態も安定な経口ゲル状組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
用語
本明細書中、用語「ゲル状組成物」とは、固体であるゲル組成物と区別して、流動性のある粘稠な液体組成物を意味する。
本明細書中、用語「粘稠剤」とは、当業者が通常理解する通り、液体の粘性を高めるために混入する添加物の総称で、水性液体(例:水、水溶液、水分散液)に溶解または分散して当該水性液体を高粘度化(粘稠化)させる物質を意味する。
【0011】
本明細書中、用語「ゼリー強度(jelly strength)」は、寒天に関する技術分野の慣用に従い、粘稠剤の一性質を表す。念のために記載するに過ぎないが、当該用語は、ゲルの一性質を表す用語「ゲル強度(gel strength)」とは区別して用いられる。 本明細書中、粘稠剤の「ゼリー強度」は、本発明に用いられる粘稠剤の種類によらず共通して、寒天についてのJIS K 8263:2015に記載の測定方法で決定されるゼリー強度である。すなわち、粘稠剤の「ゼリー強度」とは、水に粘稠剤を1.5wt%の濃度で溶解させて作製したゲルの強度である。ここで水としては、精製水を用いる。
【0012】
本明細書中の記号及び略号は、特に限定のない限り、本発明が属する技術分野において通常用いられる意味に理解される。
本明細書中に記載されている工程、処理、又は操作は、特に限定されない限り、室温で実施される。本明細書中、室温は、10~35℃の範囲内の温度を意味する。
【0013】
経口ゲル状組成物
本発明の経口ゲル状組成物は、ビタミンB類、及びゼリー強度が700~1500g/cmの範囲内にある粘稠剤を含有する。
以下、本発明の経口ゲル状組成物に含有する成分、及び含有してもよい成分について説明する。
【0014】
ビタミンB
本発明において用いられるビタミンB類の例は、チアミン、ビスチアミン、チアミンジスルフィド、ジセチアミン、フルスルチアミン、オクトチアミン、シコチアミン、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン、プロスルチアミン、及びベンフォチアミン、並びにそれらの塩、溶媒和物(例:水和物)、並びに塩の溶媒和物(例:水和物)を包含する。当該塩の例は、塩酸塩、硝酸塩、及びセチル硫酸塩を包含する。
【0015】
当該ビタミンB類は、好適に、チアミン塩酸塩、チアミン硝酸塩、ビスチアミン硝酸塩、チアミンジスルフィド、チアミンジセチル硫酸エステル塩、ジセチアミン塩酸塩、フルスルチアミン、フルスルチアミン塩酸塩、オクトチアミン、シコチアミン、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン、プロスルチアミン、及びベンフォチアミンからなる群より選択される1種以上であることができる。
本発明において特に好適に用いられるビタミンB類は、フルスルチアミン又はその塩酸塩である。
【0016】
本発明の経口ゲル状組成物におけるビタミンB類の配合量は、組成物全体に対して、約0.00005~0.5w/v%、好ましくは約0.0002~0.25w/v%、より好ましくは約0.0005~0.05w/v%、さらに好ましくは約0.001~0.03w/v%である。
【0017】
ビタミンB 類以外の有効成分
本発明の経口ゲル状組成物においては、本発明の効果を阻害しない限り、ビタミンB類以外の有効成分、例えばビタミンB類以外のビタミン類、アミノ酸類等をはじめとする、医薬品、医薬部外品、保健機能食品(例:機能性表示食品、栄養機能食品、特定保健用食品)、又は一般食品(例:栄養補助食品、健康補助食品、栄養調整食品)等において用いられる、その他の有効成分の一種以上をさらに含有してもよい。
【0018】
前記ビタミンB類以外のビタミン類の例は、ビタミンA類(例:レチノール、レチノイン酸、レチナール、レチノール酢酸エステル、レチノールパルミチン酸エステル、ビタミンA油、肝油、強肝油)、ビタミンB類[例:リボフラビン、リボフラビン誘導体(例:リボフラビンリン酸エステル、リボフラビン酢酸エステル、リボフラビン酪酸エステル等のリボフラビンエステル;フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム等)及びその塩(例:リボフラビンリン酸エステルナトリウム)]、ビタミンB類[例:ピリドキシン、ピリドキサミン、ピリドキサール、それらの誘導体(例:ピリドキシンリン酸エステル、ピリドキサールリン酸エステル水和物、ピリドキサミンリン酸エステル、ピリドキシンパルミチン酸エステル)及びその塩(例:ピリドキシン塩酸塩、ピリドキサール塩酸塩、ピリドキサミン二塩酸塩)]、ビタミンB12類(例:コバラミン、シアノコバラミン、メチルコバラミン、アデノシルコバラミン、ヒドロキソコバラミン、ヒドロキソコバラミン塩酸塩、ヒドロキソコバラミン酢酸塩)、ビタミンC類(例:アスコルビン酸、アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム、酢酸トコフェロールアスコルビン酸エステル)、ビタミンD類(例:エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール)、ビタミンE類(例:コハク酸d-α-トコフェロール、コハク酸dl-α-トコフェロール、コハク酸dl-α-トコフェロールカルシウム、コハク酸d-α-トコフェロールカルシウム、コハク酸トコフェロールカルシウム、酢酸d-α-トコフェロール、酢酸dl-α-トコフェロール、d-α-トコフェロール、dl-α-トコフェロール)、ナイアシン類(例:ニコチン酸、ニコチン酸アミド)、パントテン酸類(例:パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム)、及びその他のビタミン類(例:ビタミンK類、ビオチン、葉酸、γ-オリザノール)、並びにそれらの組合せを包含する。
【0019】
前記アミノ酸類の例は、アスパラギン酸(例:L-アスパラギン酸、L-アスパラギン酸カリウム、L-アスパラギン酸ナトリウム、L-アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カリウム・マグネシウム等量混合物)、グルタミン酸(例:L-グルタミン酸)、アルギニン(例:L-アルギニン、L-アルギニン塩酸塩)、トリプトファン(例:L-トリプトファン)、リシン(例:L-リシン塩酸塩、L-リシン酢酸塩)、グリシン、ロイシン(例:L-ロイシン)、イソロイシン(例:L-イソロイシン)、トレオニン(例:L-トレオニン)、システイン(例:L-システイン、L-システイン塩酸塩、L-システイン塩酸塩水和物)、バリン(例:L-バリン)、ヒスチジン(例:L-ヒスチジン、L-ヒスチジン塩酸塩、L-ヒスチジン塩酸塩水和物)、及びメチオニン(例:DL-メチオニン)、並びにそれらの組合せを包含する。
【0020】
前記その他の有効成分の他の例は、タウリン(アミノエチルスルホン酸)、ウルソデスオキシコール酸、塩化カルニチン、オロチン酸、オロチン酸コリン、ガンマ-オリザノール、クエン酸カルシウム、グリセリン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン、炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、クエン酸鉄アンモニウム、フマル酸第一鉄、グルクロノラクトン、グルクロン酸、グルクロン酸アミド、カフェイン、無水カフェイン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、イノシトール、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、重酒石酸コリン、炭酸マグネシウム、チオクト酸、チオクト酸アミド、デヒドロコール酸、パンテチン、ヨークレシチン、ルチン、及び生薬(例:アセンヤク、ウイキョウ、エゾウコギ、オウセイ、加工ダイサン、ガラナ、カンゾウ、クコシ、ケイヒ、コウジン、サフラン、サンザシ、サンヤク、シャクヤク、シュクシャ、ショウキョウ、ジョテイシ、セイヨウサンザシ、タイソウ、チョウジ、チンピ、トウキ、トシシ、トチュウ、ニクジュヨウ、ニンジン、ニンニク、ブクリョウ、ムイラブアマ、モッコウ、ヤクチ、ヨクイニン、リュウガンニク、ロクジョウ、カイバ、ニクジュヨウ、ハゲキテン、オウギ、ビャクジュツ、ローヤルゼリー)、並びにそれらの組合せを包含する。
【0021】
これらビタミンB類以外の有効成分の量は、その種類、及び目的等に応じて、適宜設定される。
【0022】
粘稠剤
本発明者らは鋭意検討の結果、「粘稠剤」のゼリー強度が700g/cm未満では、耐酸性が悪いので、ビタミンB類が安定な低pH領域では、ゲル状組成物の経時的な離水の増加や、硬さの低下などにつながってしまうことを見出した。
また、「粘稠剤」のゼリー強度が1500g/cmを超えると、使用濃度(ゲル状組成物における粘稠剤の配合量)が減るため、所望の物性にならず、やはりゲル状組成物の経時的な離水の増加などにつながってしまうことを見出した。
従って、本発明の経口ゲル状組成物において用いられる「粘稠剤」のゼリー強度は、700~1500g/cmの範囲内であり、好ましくは900~1200g/cmの範囲内、より好ましくは950~1150g/cmの範囲である。
【0023】
本発明の経口ゲル状組成物における「粘稠剤」として、好ましくは「寒天(カンテンを粉末としたカンテン末を含む)」である。
本明細書中、寒天は、通常理解される通り、テングサ属の海藻、オゴノリ属の海藻、及びオバクサ属の海藻からなる群より選択される一種以上の海藻から得られる多糖類である。
【0024】
本発明においては、700~1500g/cmの範囲内のゼリー強度を有する寒天である限り、様々な寒天を好適に使用し得る。
このような寒天は、商業的に入手可能であり、具体例としては、カンテン末 PS-88(製品名、伊那食品工業)、カンテン末 T-1(製品名、伊那食品工業)などが挙げられる。
【0025】
寒天は、ガラクトースとアンヒドロガラクトースが繋がった高分子構造で、分子末端の糖は還元糖(reducing sugar)として存在しており、還元糖としての活性を示す。還元糖とは、塩基性溶液中でアルデヒド基又はケトン基を形成する糖のことで、酸化剤によって酸化されてアルドン酸、アルダル酸を与える。還元糖には、例えば、グルコース、フルクトース、グリセルアルデヒド等の全ての単糖、ラクトース、アラビノース、マルトース等のマルトース型二糖・オリゴ糖が含まれる。
本発明者らは鋭意検討の結果、ビタミンB類の安定性の観点から、寒天の還元糖含量は0.02重量%以上であることが望ましいこと、さらに糖の褐変反応によって褐色に変化するのを防止する観点から、寒天の還元糖含量は0.05重量%以下であることが望ましいことを見出した。
従い、本発明で用いられる寒天としては、還元糖含量が0.02重量%~0.05重量%の寒天が好適に使用される。
なお、寒天中の還元糖含量は、Park-Johnson法(例、糖質の科学(下)第368頁)などの公知の方法により、測定することができる。
【0026】
本発明の経口ゲル状組成物における粘稠剤の配合量は、組成物全体に対して、好ましくは0.008~85w/w%、より好ましくは0.03~40w/w%、更に好ましくは0.08~8w/w%である。
【0027】
本発明の経口ゲル状組成物では、さらに粘度を上げることを目的として、必要に応じて、前記した寒天に加えて、キサンタンガム(伊那食品工業、ウルトラキサンタン)、グァーガム(伊那食品工業、グァーガム)などを含有してもよい。
本発明の経口ゲル状組成物における寒天と、キサンタンガム及び/又はグァーガムの質量比は、寒天1質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.1~2質量部がより好ましい。
【0028】
粘稠剤以外の添加成分
本発明の経口ゲル状組成物においては、本発明の効果を阻害しない限り、前記成分に加えて、他の成分、例えば、一般的に経口ゲル状組成物に添加可能な成分(例:甘味剤、矯味剤、防腐剤、保存剤、着香剤、芳香剤、清涼化剤、界面活性剤、可溶化剤、乳化剤、溶剤、pH調節剤、緩衝剤、懸濁剤、着色剤、安定化剤、消泡剤、溶解補助剤、苦味マスキング剤)の一種以上を含有してもよい。
【0029】
甘味剤の例は、糖類(例:ブドウ糖、ガラクトース、果糖、ショ糖、乳糖、麦芽糖、異性化糖、液糖、転化型液糖、トレハロース)、多糖類(例:オリゴ糖、デンプン)、糖アルコール類(例:エリスリトール、キシリトール、マルチトール、ソルビトール、還元麦芽糖水飴、粉末還元麦芽糖水飴)、高甘味度甘味料(例:アセスルファムカリウム)及び非糖質甘味料(例:スクラロース、ステビア抽出物、サッカリン、アスパルテーム)、並びにそれらの組合せを包含する。
矯味剤の例は、クエン酸又はその水和物、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸(例:DL-リンゴ酸)等の酸味剤、及び果汁、並びにそれらの組合せを包含する。
防腐剤又は保存剤の例は、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、及びパラベン類(例:パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル)、並びにそれらの組合せを包含する。
着香剤、芳香剤又は清涼化剤の例は、オレンジ油、メントール、バニリン及びその誘導体(例:エチルバニリン)、及び各種香料(例:ストロベリーフレーバー、チェリーフレーバー、オレンジフレーバー、グレープフルーツフレーバー、アップルフレーバー、レモンフレーバー、グレープフレーバー、コーヒーフレーバー、ブラックティーフレーバー、ビターフレーバー、ハーブミントフレーバー、チョコレートフレーバー、薬味酒フレーバー)、並びにそれらの組合せを包含する。
界面活性剤の例は、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール(ポロクサマー188)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類(例:ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)、ポリソルベート20、及びポリソルベート80、並びにそれらの組合せを包含する。
可溶化剤の例は、精製大豆レシチン、大豆レシチン、ダイズ油、中鎖脂肪酸トリグリセリド、マクロゴール4000、マクロゴール6000、流動パラフィン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、及びポリソルベート80、並びにそれらの組合せを包含する。
乳化剤の例は、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリソルベート20、ポリソルベート80、精製大豆レシチン、大豆レシチン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、及び流動パラフィン、並びにそれらの組合せを包含する。
溶剤の例は、水(例:精製水)、エタノール、プロピレングリコール、オリーブ油、ゴマ油、ヒマシ油、ダイズ油、及び流動パラフィンを包含する。
pH調節剤又は緩衝剤の例は、リン酸、乳酸、酢酸、炭酸及びそれらの塩、塩酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、クエン酸緩衝液(0.2M)、及び炭酸水素ナトリウム、並びにそれらの組合せを包含する。
懸濁剤の例は、アラビアゴム、結晶セルロース、ビーガム、キサンタンガム、グァーガム、ゼラチン、メトロース及びその塩、カルメロース及びその塩、並びにそれらの組合せを包含する。
着色剤の例は、カラメル、β-カロチン、及び各種食用色素(例:食用黄色1号、食用赤色2号)、並びにそれらの組合せを包含する。
安定化剤の例は、シリコーン樹脂、グリセリン、エデト酸の塩、塩化ナトリウム、及びピロ亜硫酸の塩、並びにそれらの組合せを包含する。
消泡剤の例は、シリコーン樹脂、シリコーン油、エタノール、グリセリン脂肪酸エステル、ジメチルポリシロキサン、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリル酸ポリオキシル、ソスルビタン脂肪酸エステル、トリオレイン酸ソルビタン、及びポリソルベート80、並びにそれらの組合せを包含する。
溶解補助剤の例は、プロピレングリコール、シクロデキストリン、及びアルギニン、並びにそれらの組合せを包含する。
苦味マスキング剤の例は、フォスファチジル類[例:BMI-60(製品名、花王)]を包含する。
【0030】
これらの粘稠剤以外の添加成分の量は、その種類、及び目的等に応じて、適宜設定される。
【0031】
経口ゲル状組成物のpH
本発明者らは、ビタミンB類(例、フルスルチアミン又はその塩酸塩)を安定に含有し、尚且つゲル状形態を安定に保持する経口ゲル状組成物を提供するためには、該組成物のpHの上限を3.8以下、より好ましくは3.6以下、さらに好ましくは3.5以下とすることを見出した。また、該組成物のpHの下限を2.8以上、より好ましくは3.1以上、さらに好ましくは3.3以上とすることを見出した。
即ち、本発明の経口ゲル状組成物におけるpHは、2.8~3.8の範囲内、より好ましくは3.1~3.6の範囲内、さらに好ましくは3.3~3.5の範囲内である。
【0032】
pHの調整は、例えば、上記したpH調節剤又は緩衝剤の使用により行えばよい。
本発明における経口ゲル状組成物のpHを測定するにあたっては、当該組成物を市販の食品用ミキサーを用いて微細化し、均質な溶液とした上で、日局・一般試験法に記載のpH測定法に従い、試験を実施すればよい。
【0033】
経口ゲル状組成物の形態
本発明の経口ゲル状組成物は、例えば、第十七改正日本薬局方の製剤総則に規定される経口液剤、すなわち『経口投与する、液状又は流動性のある粘稠なゲル状の製剤』として好適に用いることができる。
製剤が、ゲル等の固形製剤ではなく、液状又は流動性のある粘稠なゲル状の製剤であることは、技術常識に照らして判断される。
【0034】
ゲル状組成物の粘稠さは、ゲル状組成物の硬さによって示すことができ、硬さが大きいゲル状組成物は、粘稠性が高いということができる。
本発明の経口ゲル状組成物は、例えば、後記の試験方法によって測定される硬さが、好ましくは0.05N以上、より好ましくは0.08N以上、更に好ましくは0.10N以上である。このような硬さを有することにより、本発明の経口ゲル状組成物は、誤嚥を防止できるし、投与又は摂取も容易である。
本発明の経口ゲル状組成物は、当該硬さが、好ましくは0.50N以下、より好ましくは0.35N以下、更に好ましくは0.30N以下である。このような硬さを有することにより、本発明の経口ゲル状組成物は、投与又は摂取が容易である。
本発明の経口ゲル状組成物は、当該硬さが、好ましくは0.05~0.50Nの範囲内、より好ましくは0.08~0.35Nの範囲内、更に好ましくは0.10~0.30Nの範囲内ある。
【0035】
本発明の経口ゲル状組成物は、経口投与、又は経口摂取される。
本発明の経口ゲル状組成物は、医薬品、医薬部外品、保健機能食品(例:機能性表示食品、栄養機能食品、特定保健用食品)、又は一般食品(例:栄養補助食品、健康補助食品、栄養調整食品)等として用いることができる。
【0036】
本発明の経口ゲル状組成物は、そのゲル状形態が高い安定性を有する。
本発明において、ゲル状形態が高い安定性を有することとは、物性的には、
(1)苛酷な条件下(例:高温、及び/又は長期間)での保存後も、離水が抑制されていること、及び/又は
(2)苛酷な条件下(例:高温、及び/又は長期間)での保存後も、その硬さの低下が抑制されていること、を意味する。
また、官能的には、ゲル状組成物の食感が維持されていることを意味する。
【0037】
ここで、ゲル状組成物の離水量の測定、及び離水率の算出は、次の測定方法により、実施される。
<ゲル状組成物の離水の測定方法>
当該測定方法では、ふるいとして、目開き2mmのメッシュ[第十七改正日本薬局方、ふるい番号8.6号(2000μm)]、且つ直径200mmのふるいを使用する。
試験されるゲル状組成物を容器に入れて所定の保存条件に曝露した後、容器の内容物の全量を、ふるい下を敷いたふるい上に入れ、その質量を測定し、該質量をA(g)とする。次に、前記ふるいを45度傾けて1分間保持した後、当該ふるいから前記ふるい下に落ちた液体(離水)の質量を測定して、これをB(g)とし、次式により離水率を算出する。
離水率(%)=B(g)/A(g)×100
【0038】
本発明の経口ゲル状組成物において、ゲル状形態の高い安定性は、苛酷な条件下(例:高温、及び/又は長期間)の保存後においても、ゲル状組成物の適当な硬さが維持されている。
【0039】
本発明の経口ゲル状組成物は、好ましくは、冷蔵庫内で(すなわち、約4℃で)8週間保存した場合の硬さに対する、50℃で同期間保存した場合の硬さの比(本明細書中、これを「硬さの残存率」と称する場合がある。当該硬さの残存率は、この定義から理解される通り、100%を超える場合がある。)が、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上である。
【0040】
本発明の経口ゲル状組成物の硬さの測定については、前記ゲル状組成物の離水の測定方法で、ふるいに残ったゲル状組成物を試料として使用して、次の測定方法により、実施される。
<ゲル状組成物の硬さの試験方法>
当該試験には、材料試験機として、直線運動により物質の圧縮応力を測定することが可能な材料試験機 EZ-SX(製品名、島津製作所)(ロードセル:50N、試験治具:ユニバーサルデザインフード試験セット、ソフトウェア : TRAPEZIUM X テクスチャー、恒温装置 : 冷熱恒温器)、又はその同等品を使用する。
試料を容器(直径40mm、高さ20mm)に高さ15mmまで充填し、前記材料試験機を用いて、樹脂性の円形プランジャー(直径20mm、高さ8mm)により、圧縮速度10mm/秒、及びクリアランス5mmの条件で2回圧縮し、その時の圧縮応力を測定する。測定は、20±2℃で行う。
2回の圧縮における圧縮応力の最大値を、試料の硬さとする。
【0041】
当該試験における試料としては、前記ゲル状組成物の離水の測定方法で、ふるいに残ったゲル状組成物を使用して実施する。
従って、ふるいにゲル状組成物が残らない場合は、当該硬さを測定できないが、当業者が通常理解する通り、ふるいにゲル状組成物が残らない場合、その硬さは、ふるいに残ったゲル状組成物の硬さよりも低いことが合理的に推定される。
【0042】
本発明において、ゲル状組成物の硬さの高い安定性は、苛酷な条件下(例:高温、及び/又は長期間)での保存後も、当該組成物の食感が維持されている。
当該組成物の食感は、前記離水の抑制、及び前記硬さの維持と、密接に関連する。
【0043】
経口ゲル状組成物の製造方法
本発明の経口ゲル状組成物は、公知の経口ゲル状組成物の製造方法を採用して製造すればよく、具体的には、例えば、
(1)前記粘稠剤及び水(例:精製水)を混合した後、加熱して、前記粘稠剤を溶解させる工程、
(2)前記粘稠剤及び水以外の成分を前記工程(1)で得られた液体と混合して液状組成物を得る工程、を含む製造方法により、製造できる。
前記粘稠剤及び水以外の成分は、適宜、前記工程(1)で得られた液体と混合する前に、予め混合されていてもよい。
【0044】
経口ゲル状組成物の包装
本発明の経口ゲル状組成物には、経口投与又は経口摂取されるゲル状組成物に通常採用される包装が施される。当該包装は、その形態に応じて、慣用の方法により実施すればよい。
特に、本発明の経口ゲル状組成物は、苛酷な条件下でも、ゲル状形態が高い安定性を有し、且つビタミンB類を安定に含有できるので、包装工程の条件の制限も小さい。
従って、本発明の経口ゲル状組成物には容易且つ好適に様々な包装方法を採用できる。
【0045】
経口ゲル状組成物の包装は、例えば、前記経口ゲル状組成物の製造方法で得られた液状組成物を容器に充填することにより、実施できる。
このような包装の好適な例として、パウチタイプの容器による包装が挙げられる。
【0046】
前記パウチタイプの容器としては、汎用されているものを使用でき、例えば、アルミ箔、及び樹脂フィルム(例:ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、及びポリエチレン、並びにこれらの組合せ)が積層されているフィルム素材から形成された容器を使用できる。
前記パウチタイプの容器は、レトルト殺菌可能な容器、すなわちレトルトパウチ容器である。
前記パウチタイプの容器は、スタンディング袋型、ガゼット袋型、又は三方袋型等の任意のタイプである。
前記パウチタイプの容器は、好適にスパウトを備えている。これによれば、簡便に、経口投与又は経口摂取できる。
1個のパウチタイプの容器に封入されている本発明の経口ゲル状組成物は、例えば、80mL~300mLの範囲内である。
【0047】
前記の説明から理解される通り、パウチタイプの容器に包装されている、本発明の経口ゲル状組成物もまた提供する。
特に、本発明の経口ゲル状組成物は、苛酷な条件下でも、ゲル状形態が高い安定性を有し、且つビタミンB類を安定に含有できるので、包装工程の条件の制限も小さく、容易且つ好適にパウチタイプの容器に包装される。
【0048】
これから理解される通り、本発明は、本発明の経口ゲル状組成物、及び当該経口ゲル状組成物を内封するパウチタイプの容器を備えるバック製剤(パウチ製剤、又はパウチ型製剤)もまた提供する。
【0049】
当該バック製剤は、好適には、液体を実質的に含有しない。
具体的には、当該パウチ製剤、パウチ型製剤、又はバック製剤においては、その内容物全体にする液体の量が、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【実施例
【0050】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例中、特に記載が無い限り、「%」は「w/w%」を意味する。
【0051】
以下の材料を用いて、経口ゲル状組成物を調整した。なお、ゼリー強度は、前記に記載したJIS K 8263:2015に従って測定した値である。
[材料]
・粘稠剤としての寒天:
カンテン末 PS-88(製品名、伊那食品工業)
(ゼリー強度:950~1150g/cm
カンテン末 PS-6 (製品名、伊那食品工業)
(ゼリー強度:600~ 660g/cm
・フルスルチアミン塩酸塩(以下、TTFDともいう)
・クエン酸緩衝液 0.2M
【0052】
1袋当たりの量として、1.5mgのフルスルチアミン塩酸塩(TTFD)と、pH2.8、3.1、3.4、3.8の50mLのクエン酸緩衝液(0.2M)、及び粘稠剤として300mgの寒天[カンテン末 PS-88(実施例1)、カンテン末 PS-6(比較例1)]を加熱および撹拌混合し、TTFDおよび寒天を溶解させ、精製水を加えて100mLにした。
得られた溶液を口栓付きアルミパウチに充填し、pH2.8、3.1、3.4、及び3.8の各ゲル状組成物を得た。
【0053】
試験例(保存試験)
[1]フルスルチアミン塩酸塩(TTFD)の安定性
実施例1として製造した、pH2.8、3.1、3.4、及び3.8の各ゲル状組成物を、それぞれ50℃で、8週間保存した。
50℃、8週間保存後のTTFD量を測定し、その残存率(製造直後の初期含量と比較した残存率)を算出した。当該残存率(%)を表1に示した。
【0054】
【表1】
【0055】
表1の結果より、50℃で8週間の苛酷な条件での保存において、TTFD量はいずれのpHでも高い割合で残存し、特にpH3.1~3.4の範囲においては、より高い割合(80%以上)で残存した。
【0056】
[2]ゲル状組成物の離水
各ゲル状組成物を、50℃および4℃(対照)で8週間保存後、後述する測定方法により、離水量を測定した後、離水率を算出し、これから[(50℃で8週間保存後の離水率)-(4℃で8週間保存後の離水率)]の差を算出した。
当該離水率の差を表2に示した。
【0057】
<ゲル状組成物の離水の測定方法>
当該測定方法では、ふるいとして目開き2mmのメッシュ[第十七改正日本薬局方、ふるい番号8.6号(2000μm)]、且つ直径200mmのふるいを使用した。 試験されるゲル状組成物を容器に入れて所定の保存条件に曝露した後、容器の内容物の全量を、ふるい下を敷いたふるい上に入れ、その質量を測定し、当該質量をA(g)とした。 前記ふるいを45度傾けて1分間保持した後、当該ふるいから前記ふるい下に落ちた液体(離水)の質量を測定し、これをB(g)とし、次式により離水率を算出した。
離水率(%)=B(g)/A(g)×100
【0058】
【表2】
【0059】
表2の結果より、本発明のゲル状組成物では、いずれのpHでも、離水が抑制され、特にpH3.1以上で離水が高度に抑制された。
【0060】
[3]ゲル状組成物の硬さ
各ゲル状組成物の保存後[50℃又は4℃(対照)で8週間保存後]の硬さを以下の方法で測定し、その比(50℃/対照)を算出し、硬さ及びその比を表3に示した。
【0061】
<ゲル状組成物の硬さの試験方法>
当該試験には、材料試験機として、直線運動により物質の圧縮応力を測定することが可能な材料試験機 EZ-SX(製品名、島津製作所)(ロードセル:50N、試験治具:ユニバーサルデザインフード試験セット、ソフトウェア : TRAPEZIUM X テクスチャー、恒温装置 : 冷熱恒温器)を使用した。
試料を容器(直径40mm、高さ20mm)に高さ15mmまで充填し、前記材料試験機を用いて、樹脂性の円形プランジャー(直径20mm、高さ8mm)により、圧縮速度10mm/秒、及びクリアランス5mmの条件で2回圧縮し、その時の圧縮応力を測定した。測定は、ゲルを20℃の恒温槽に入れ、20℃に安定させた後、20±2℃で行った。
2回の圧縮における圧縮応力の最大値を、試料の硬さとした。
【0062】
ゲル状組成物について、保存後[50℃又は4℃(対照)で8週間保存後]の硬さを上記方法により測定し、その比(50℃で8週間保存後/対照)を算出した。
当該硬さ、及びその比を表3に示した。
表中、「ND」は、ふるい上にゲル状組成物が残らず、その硬さを測定できなかったことを表す。このことは、ゲル状組成物のゲル様の形態、特にその適度な硬さが全く、又はほとんど維持されなったことを示す。
【0063】
【表3】
【0064】
表3の結果より、本発明の経口ゲル状組成物では、50℃で8週間の苛酷な条件での保存において、いずれのpHにおいても、比較例のゲル状組成物に比べて、その適度な硬さが高度に維持された。特にpH3.1以上で離水が極めて高度に抑制された。
さらにpH3.1~pH3.4の範囲では、50℃で8週間の苛酷な条件での保存についても、TTFD、及びゲル状形態が、ともに高度に維持されることが示された。
【0065】
製剤例1
表4の処方に従い、ビタミンB類として「フルスルチアミン塩酸塩(TTFD)」、粘稠剤として「カンテン末 PS-88(伊那食品工業)」を含有する、容器詰の経口ゲル状組成物(pHは3.4に調整)を調製した。
【0066】
【表4】
【0067】
製剤例1の経口ゲル状組成物について、前記の測定方法により硬さを測定した結果、0.11~0.20N(実測値は0.113N、0.162N、0.137N)であった。
【0068】
製剤例2
表5の処方に従い、ビタ
ミンB類として「フルスルチアミン塩酸塩」、粘稠剤として「カンテン末 T-1(伊那食品工業)」を含有する、容器詰の経口ゲル状組成物(pHは3.1に調整)を調製した。
なお、カンテン末 T-1のゼリー強度は、約950g/cmである。
【0069】
【表5】
【0070】
製剤例3
表6の処方に従い、ビタミンB類として「フルスルチアミン塩酸塩」、粘稠剤として「カンテン末 S-6(伊那食品工業)」を含有する、容器詰の経口ゲル状組成物(pHは3.1に調整)を調製した。
【0071】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、ビタミンB類、及びゼリー強度が700~1500g/cmの範囲内にある粘稠剤を含有し、pHを2.8~3.8の範囲内に調整することによって、ビタミンB類を安定に含有し、且つゲル状形態も安定な経口ゲル状組成物が提供される。