(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】金属と樹脂の一体化複合体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20241030BHJP
B29K 77/00 20060101ALN20241030BHJP
B29K 105/22 20060101ALN20241030BHJP
B29L 9/00 20060101ALN20241030BHJP
B29K 105/12 20060101ALN20241030BHJP
【FI】
B29C45/14
B29K77:00
B29K105:22
B29L9:00
B29K105:12
(21)【出願番号】P 2020176274
(22)【出願日】2020-10-20
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000206141
【氏名又は名称】大成プラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001759
【氏名又は名称】弁理士法人よつ葉国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【氏名又は名称】町田 光信
(74)【代理人】
【識別番号】100168468
【氏名又は名称】富崎 曜
(72)【発明者】
【氏名】安藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山口 嘉寛
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-010856(JP,A)
【文献】特開2016-060051(JP,A)
【文献】特開2019-217704(JP,A)
【文献】特開2018-177867(JP,A)
【文献】特開2019-188651(JP,A)
【文献】特開2016-097531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合面である表面が化成処理されたアルミニウム合金片と、前記接合面にポリアミド系樹脂組成物が直接的に射出接合により接合された金属と樹脂の一体化複合体であって、
前記接合面は、電顕観察の千倍観察で数十μm周期の凹凸面が明確に観察され、1万倍観察で0.8~5μm周期の微細凹凸面が観察され、かつ、10万倍観察で30~100nm周期の超微細凹凸面が観察されるものであり、
前記ポリアミド系樹脂組成物は、従成分として樹脂分中の半芳香族ポリアミド成分が10%以上含まれ、残部が主に脂肪族ポリアミド成分からなっており、かつ、全体の25~35重量%のガラス短繊維を含んだものであり、
前記接合
面は、せん断接合強度が45MPa以上であり、前記せん断接合強度の75%以上のせん断的外力を300回繰り返し連続的に加えて破断せず、かつ、300回繰り返し外力を連続的に加えても破断しない最大のせん断的外力値であり、せん断接合粘り性値が38MPa以上である
ことを特徴とする金属と樹脂の一体化複合体。
【請求項2】
請求項1に記載の金属と樹脂の一体化複合体において、
前記金属と樹脂の一体化複合体が、国際標準規格(ISO19095)に規定された試験片において、前記試験片の全体に塗装又は油剤を塗布し、前記試験片を85℃温度、85%湿度に設定された環境に千時間晒す耐久試験を行い、前記接合
面の前記せん断接合強度の測定で、前記試験前の75%以上を示す耐湿熱性を有し、かつ、-50℃/+150℃の温度衝撃3千サイクル試験に耐えうる耐温度衝撃性が観察されるものである
ことを特徴とする金属と樹脂の一体化複合体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金属と樹脂の一体化複合体において、
前記アルミニウム合金片は、長尺の板材であるL字、U字、又は半円型断面の長尺部材(2)であり、前記長尺部材(2)の溝状凹部(3)に、前記ポリアミド系樹脂組成物が前記溝状凹部(3)を埋めて前記溝状凹部(3)の機械的な強度を高める構造(5)により、前記アルミニウム合金片と前記ポリアミド系樹脂組成物が一体に接合されている
ことを特徴とする金属と樹脂の一体化複合体。
【請求項4】
請求項3に記載の金属と樹脂の一体化複合体において、
前記金属の前記溝状凹部(3)には、前記アルミニウム合金片を貫通する貫通孔が形成され、前記貫通孔に前記ポリアミド系樹脂組成物が充填されている
ことを特徴とする金属と樹脂の一体化複合体。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の金属と樹脂の一体化複合体において、
前記金属と樹脂の一体化複合体は、
前記接合
面の中心部を成す前記ポリアミド系樹脂組成物である樹脂成形物中心部(14、15)、
前記樹脂成形物の樹脂中心部を囲み、前記樹脂中心部より肉厚が薄くなる樹脂中間部(16)、並びに、
前記樹脂成形物中心部(14、15)及び前記樹脂中間部(16)の全周囲を実質的に囲む、幅5mm以上ある樹脂薄肉部(17)とからなり、
前記樹脂薄肉部(17)は、肉厚が0.5~1.5mmであり、前記樹脂中間部(16)は、肉厚が1.0~3.0mmである
ことを特徴とする金属と樹脂の一体化複合体。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の金属と樹脂の一体化複合体において、
前記金属と樹脂の一体化複合体(30、40)は、前記アルミニウム合金片は、2枚の板材(31、35)であり、前記2枚の前記板材(31、35)の間に前記ポリアミド系樹脂組成物(32)を挟んで接合した形状であり、前記ポリアミド系樹脂組成物の厚さが1.0~2.0mmである
ことを特徴とする金属と樹脂の一体化複合体。
【請求項7】
請求項6に記載の金属と樹脂の一体化複合体において、
前記2枚の前記板材(31、35)の間に、前記2枚の前記板材(31、35)の温度差が小さくなるようにアルミニウム合金製の熱伝導用の棒材(34)が1本以上連結されている
ことを特徴とする金属と樹脂の一体化複合体。
【請求項8】
請求項1ないし7から選択される1項に記載の金属と樹脂の一体化複合体の製造方法であって、
前記金属と樹脂の一体化複合体は、化成処理済みの前記アルミニウム合金片を射出成形金型にインサートした後、前記ポリアミド系樹脂組成物を射出することにより前記アルミニウム合金片と前記ポリアミド系樹脂組成物を一体化する
ことを特徴とする金属と樹脂の一体化複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属と樹脂を一体化したものであり、金属と樹脂の一体化複合体とその製造方法に関する。更に詳しくは、樹脂が高結晶性熱可塑性樹脂の一つであるポリアミド系樹脂組成物と、特定の化成処理を施した各種アルミニウム合金とを射出接合により一体化した、金属と樹脂の一体化複合体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属と合成樹脂を強く接合する技術は、自動車、家電品、産業機器等の部品製造業だけでなく広い産業分野において求められ、このために多くの接着剤が開発されている。このような接合技術(積層技術)は、あらゆる製造業において基幹となる技術である。一方、接着剤を使用しない接合方法に関しても従来から研究され種々提案されている。その中でも金属と樹脂を射出成形で接合する技術分野に大きな影響を与えたのは、本発明の発明者等(以下、本発明者という。)が開発し、命名した「NMT(Nano Molding Technologyの略)」と「新NMT(New Nano Molding Technologyの略)」である。以下、本発明の背景、理解を容易にするために、この技術開発の経緯を説明する。
【0003】
NMTは、一定の化成処理をしたアルミニウム合金(以下「Al合金」ともいう。)片と、樹脂組成物との接合技術であり、予め射出成形金型内にインサートしたAl合金片に、溶融した結晶性熱可塑性樹脂を射出して、樹脂部分を成形すると同時に、樹脂部分であるその成形品と、Al合金片とを強く接合する方法である。新NMTは、金属種を広げてAl合金を含む汎用されている全金属種と、樹脂組成物との同様の接合技術であるが、NMTと異なる点は、射出成形金型にインサートする前に行うものである点は同一であるが、両者は金属類への表面処理法に関する基本理論(化成処理法)が異なる。このように、射出成形機を介して、金属材等の固体形状物と熱可塑性樹脂を射出成形金型内で接合する技術を、本発明者は、「射出接合」又は「射出接合技術」と命名した。
【0004】
(NMT)
Al合金使用の射出接合技術であるNMTは、本発明者はその成立の必要条件として、以下の4又は5条件を規定した。まず、Al合金側に関しては、以下(1)及び(2)が必要条件である。なお、この2条件を満足するように、Al合金の表面を化成処理することを「NMT処理」と称する。
(1)20~50nm径の超微細凹部で全表面が覆われていること。
(2)その表面層に水溶性アミン系化合物が化学吸着していること。
次に、射出する樹脂組成物側に関して、以下の2点又は3点が必要条件である。
(3)使用する樹脂組成物は、高結晶性熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂組成物である。
(4)その高結晶性熱可塑性樹脂は、高温下でアミン系分子と化学反応すること。
(5)その樹脂組成物は、従成分樹脂として、主成分樹脂に相溶し得る樹脂、又は主成分樹脂に相溶しない樹脂であっても、第3成分樹脂を加えることで主成分樹脂への相溶や部分的相溶が可能となる樹脂を含むこと。
上記(1)~(4)が必須の必要条件であり、上記(5)の条件が加われば射出接合力がより強くなる。上記(1)~(5)の条件を満たし、かつ、上記(2)のアミン系化合物として水和ヒドラジンを選択したものが、本出願人が携帯電話機器等のAl合金製の筐体と樹脂の複合体として、実施したNMTである。
【0005】
(NMT2、NMT5~NMT8)
上記したように、NMT処理したAl合金に、PBT(ポリブチレンテレフタレート)系樹脂組成物を射出接合することにより、強力な接合力が得られることを本発明者が発見した。そしてその後、同様にNMT処理したAl合金に、PPS系樹脂組成物が射出接合できることを本発明者は発見した(特許文献1)。次に、特許文献1に記載したように、Al合金の表面処理法を改良して「NMT2」処理法を開発し、この処理物と前述したPBT系樹脂、PPS系樹脂との射出接合力が向上することを発見した。特に、Al合金とPPS系樹脂組成物との接合では、そのせん断接合強度が約40MPaとなり、その射出接合物を85℃温度で85%湿度下に、6千~8千時間以上晒しても、せん断接合強度が37~40MPaに保たれ、最高度の耐湿熱性を有する金属と樹脂の一体化物が得られることを見出した。本発明者はこの技術をNMT2と命名した。
【0006】
NMT2を、本発明者は、この発明時において、Al合金とPPS系樹脂組成物との射出接合技術で最高度の技術としていたが、その後の実験で問題点が出てきた。Al合金をNMT2処理した後に1週間以上保管して、PPS系樹脂組成物の射出接合工程を行うと、せん断接合強度の耐湿熱性が低下方向に向かうことである。本出願人がNMT2を最も大規模に実施したのは、Al合金製スマートフォンのAl合金製本体の製造である。このとき、NMT2の化成処理したAl合金を1週間以上保管し続けると、所望の接合強度が得られないこと、正確には、せん断接合強度は得られるが、その長期間に対する耐熱性が低下することが判明した。本発明者は、その対策で、NMT2処理法を改善し、各種Al合金に対するNMT5、NMT7、NMT8処理法等と称する、化成処理方法を順次改良する開発を行うに至った。
【0007】
これら新規の処理法を使用すると、上記の有効保管日数は4週間以上となる。加えて、各種Al合金に対して、本発明者が命名し開発した、後述するNMT5-Oxy、NMT7-Oxy、NMT5-Ano、NMT7-Ano処理法等の新たな新NMT処理法を適用すると、前述した有効保管日数は数か月以上となり、NMT2の弱点は完全に払拭された。加えて、特許文献4に記載の表面処理をしたAl合金と、PPS系樹脂組成物の射出接合物の形状について本発明者は検討し、ある特定形状をした物の場合、その接合力には-50℃/+150℃の温度衝撃3千サイクル試験(一種のクリープ試験)を経ても、その接合部に何ら悪影響を与えない形状物(積層体)を見出した。特許文献5はこの構造例を開示したものである。
【0008】
(新NMT)
各種金属材と、樹脂組成物を射出接合させることができる新NMT(New nano molding technologyの略)を、本発明者は発明し、その原理的な処理法を各金属種類別に提案し開示した(特許文献5~9)。これらは、Mg合金、Al合金、銅、ステンレス鋼、一般鋼材(特許文献11)、特殊鋼板等の、市場に供給され汎用されている実用金属のほぼ全金属種に、対応する射出接合技術として提案し、開示した。ここで使用する高結晶性熱可塑性樹脂は、前述したNMT用の射出接合用樹脂と同じである。
【0009】
「新NMT」の成立条件は、次の5点を必要条件としている。そのうち使用金属材に関して、以下3点が必要条件となる。そして、この3点(以下の(i)~(iii))を満足するように、その表面を化学処理することを「新NMT処理」と称した。即ち、
(i)金属材は、0.8~10μm周期の粗面を有していること、
(ii)その粗面上に、5~300nm(好ましくは50~100nm)周期の超微細凹凸面形状を有すること、及び、
(iii)上記表面層は、金属酸化物、金属リン酸化物のような硬質のセラミック質の薄層で覆われていること、
そして、射出樹脂側には以下2点が必要条件となる。即ち、
(iv)高結晶性熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂組成物を使用すること、及び
(v)上記樹脂組成物は、主成分である高結晶性熱可塑性樹脂以外に、従成分樹脂として、主成分樹脂に相溶し得る樹脂か、又は、主成分樹脂に相溶せぬ樹脂であっても、更に第3成分樹脂として主成分樹脂へ部分的にでも相溶する樹脂を含むこと、である。
【0010】
新NMTは、全金属種に対して開発されたが、最も技術的成果が確認できたのはAl合金に関してであった。前記したようにAl合金に関しては、NMT5-Oxy,NMT7-Oxy、NMT5-Ano、NMT7-Ano処理法等と称する化成処理方法を改良開発し提案した。NMT処理をした後に、過酸化水素水処理を最終段に行って、水和ヒドラジンの吸着物を破壊する処理法が、NMT5-Oxy,NMT7-Oxy処理法等と命名した処理法(…Oxy)である。この超微細凹凸面を作成する工程を、アミン系分子の水溶液に浸漬する工程から、陽極酸化工程に代えたのがNMT5-Ano及びNMT7-Ano処理法等と命名した処理法(…Ano)である。これらの改良した処理法で処理されたPPS系樹脂組成物との射出接合物は、その金属と樹脂間の接合部における耐湿熱性が非常に高く、かつ、表面処理してから射出接合するまでの中間材保管時間が、NMT2の1~2週間というのではなく、数か月、半年、1年となっても所定品質のものが得られた(特許文献4)。また、チタン合金、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、一般鋼に関しては、それら各々に対する新NMT処理法が発明されていたが、更に接合力を向上すべく改善され、PBT、PPS系樹脂使用の射出接合では、高いせん断接合強度が得られるようになっていた。
【0011】
(ポリアミド系樹脂)
樹脂部分にポリアミド樹脂組成物を使用した射出接合技術の当初の開発は、前述したNMTによって開始し、開発最初はAl合金と脂肪族ポリアミド樹脂、即ちPA6(6ナイロン樹脂)、PA66(66ナイロン樹脂)、その他の脂肪族ポリアミドの群から、主成分樹脂と従成分樹脂を選んで組み合わせた樹脂組成物であった。射出接合はしたが、そのせん断接合強度は最大でも、約20MPa程度までであり接合力は弱いものだった。これは明らかにポリアミド樹脂の急冷時の結晶化速度が速すぎることを示していた。このポリアミド樹脂に異種高分子を混合して、結晶化速度を遅らせても冷却が早く追いつかない速さだったのである。射出樹脂が金型内に、インサートされた金属片の超微細凹凸面の超微細凹部の奥底まで、溶融樹脂が侵入する以前に溶融樹脂の結晶化が進行し、そのために粘度が急上昇して超微細凹部の底に侵入する前で硬化してしまったことを意味する。当然ながら、この複合体は低い接合力になる。
【0012】
そこで、半芳香族ポリアミドであるPA6T(ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸の交互共重合物)、PA6I(ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸の交互共重合物)を、「8:2」、「2:8」等の比率で混合して作成した。この混合した全てが半芳香族ポリアミド樹脂使用の樹脂組成物であり、これを射出接合試験をしたところ、得られた射出接合物のせん断接合強度は、40MPaまで向上した。ただ、この射出接合実験では、溶融樹脂を射出してから、保圧時間を約1分間程度を保持しなければ、この高強度の接合強度は得られない。この溶融樹脂の射出から、成形品の離型までの時間が短いと、溶融樹脂が完全硬化できず接合力は低く、かつ、成形品の樹脂部を手で強く握ると形状が変わった。この樹脂組成物は、この硬化が遅いという現象から推定されることは、急冷時の結晶化速度が異常に遅いという理由である。
【0013】
それ故に、この樹脂中の主成分を半芳香族ポリアミド、又は脂肪族ポリアミドの何れかにし、従成分をその逆にすること等で、急冷時の結晶化速度を遅くもなく早過ぎることもなく最適化が出来ないかを探索した。更には、その組み合わせ(混合)が、1高分子中に存在するようなブロックポリマーにして試みたらどうなるか、等の推論をした。その経過で作成した樹脂が、PA6I成分を17%、PA66成分を77%、PA6成分を6%含む形のブロックポリマーである。この半芳香族ポリアミドを含むポリアミド系樹脂100部に、GF(Glass Fiber)50部を加えてコンパウンドし、ポリアミド系樹脂組成物とした。NMT処理したA5052Al合金と、この樹脂組成物から作った射出接合物におけるせん断接合強度は26MPaを示した。この射出成形条件は、保圧時間を数十秒程度であり、通常より長く保つ必要もなく成形できた(特許文献2)。
【0014】
このせん断接合強度26MPaを示した射出接合物は、家電製品、屋内使用の雑貨品等に用いる場合は、その仕様に十分耐える接合強度を有するものである。これは、実用的な射出接合物の製造がポリアミド系樹脂組成物では、不可能と当初の考えていた本発明者にとっては新しい知見だった。しかしながら、先に開発したPPS系樹脂組成物とNMT処理済みAl合金間の射出接合物において、安定して約40MPaのせん断接合強度が得られたこともあって、ポリアミド系樹脂組成物は、基本的に接合力が低く、PPS系樹脂組成物より接合力が劣るものである、との判断になった。この結果、本発明者はその後のポリアミドに関するNMT、新NMTでの研究開発は一旦止めた。
【0015】
一方で、PPS系樹脂組成物が関わるNMT2についても、上記したような問題点が見つかり、これがNMT5、NMT7、NMT8等に改良され、Al合金とPPS系樹脂組成物からなる射出接合物には完全に近い耐湿熱性が得られた。更に、Al合金が関係する新NMTも規則的な凹凸形状を形成する陽極酸化法(特許文献6参照)により、凹凸を形成する方法から発展させて、NMT5-Ano、NMT7-Ano処理法等と命名した化成処理法を開発して提案した。更に、これを改良した前述したNMT5-Oxy、NMT7-Oxy処理法と称する化成処理法を提案した。これら処理法を使ったAl合金とPPS系樹脂組成物との射出接合物は、高い射出接合力とその接合力の耐湿熱性だけでなく、前述したように高い耐温度衝撃3千サイクル性まで得た(特許文献4、5)。
【0016】
要するに、これらの複合体は、得られる射出接合物の接合強度から、家電、スマートフォン等の電子電気機械の領域だけでなく、自動車、航空機、移動型ロボットという移動機械の領域に拡大すると期待された。しかしながら、自動車分野で使用される金属材は、基本的に鋼材、又はAl合金材であり、高強度樹脂材(結晶性熱可塑性樹脂)では、ポリアミド系樹脂組成物が好まれ使用されている。従い、PPS系樹脂組成物とAl合金とからなる射出接合物(特許文献12)だけでなく、ポリアミド系樹脂組成物と鋼材、及び、ポリアミド樹脂とAl合金の組み合わせによる(特許文献12)、実用性が期待されている射出接合物(複合体)の開発も急ぐべきとの要請がある。これが本発明のポリアミド系樹脂組成物を使用した射出接合技術の開発研究を再開する起点となった。
【0017】
上記のような背景の下で、自動車分野において、鋼材には軽量化できる高張力鋼板(ハイテン)への研究開発が進み、これを採用して自動車用の車体、パネル等については鋼材の軽量化が進んだ。しかしながら、鋼材を各種部品に使用しつつ更なる軽量化すべき課題が残っている。又、主に米国で頁岩層から、シェールオイルを生産する方法の実用化によって、世界の原油価格の高騰化の予測が消え、エンジンを搭載した自動車の将来が一挙に消え去ることもない状況が見えたことも関係している。依然として、自動車メーカーとして、車体の軽量化は間違いなく、将来を見据えて研究開発しなければならぬが、鋼材からなる車体を航空機のように、一挙にAl合金材に変更するまで急いで開発すべきことでもない状況になった。Al合金材は、シャーシー等主構造材に使うべきとするには未だ早過ぎ、むしろ、主要部品材に使用することで全体の軽量化を図るべきと考えられるようになった。
【0018】
この要求に答えるべく、本発明者は、特許文献2に開示したように、せん断接合強度26MPaを示したPA6I、PA66、PA6を含むポリアミド混合物(組成物)、そして、同じような組成のブロックポリマーであることを原点とする最適な新型ポリアミド系樹脂組成物の探索研究を再開した。前述したPPS系樹脂組成物との射出接合で良好な接合強度を示したNMT2~NMT8処理、そしてNMT5-Ano処理等と命名し、新たに得たAl合金用の新NMT処理法を採用してAl合金を処理し、これらの表面処理済みAl合金類と、最も強く射出接合する半芳香族ポリアミド含有のポリアミド系樹脂組成物を探索した。
【0019】
幸い、これらの提案から十数年の空白期間の間に、ポリアミド系樹脂組成物も多くの改良グレード品が上市されており、かつ、ナイロン樹脂メーカー各社も一般向け製品カタログには掲載していない開発グレードを有していた。要するに、これらの製品は種々のユーザー向けにメーカーが開発した結果物であり、市販品ではあるが種類が多過ぎて一般用の製品カタログには載せられていない物がある。それ故に、ポリアミド系樹脂組成物の製造メーカーに要請して、「PA6、PA66等の定番のポリアミドを含みつつも半芳香族ポリアミドも含む多種類の混合組成物、若しくは、そのような共重合ポリアミド」という組成物をイメージしつつ、市販の改良型ポリアミド系樹脂組成物を集めて、前述した表面処理済みAl合金類と最も強く射出接合する、ポリアミド系樹脂組成物を探索する作業を行った。
【0020】
要するに、上記PPS系樹脂組成物との射出接合物で最高性能を示したNMT7、NMT8処理法等をなしたAl合金片と、前述した各樹脂メーカーの市販品、開発品等のポリアミド系樹脂組成物の数種を射出接合して
図1の試験片を作成した。この試験片のせん断接合強度を測定し、約30MPa以上示すポリアミド系樹脂組成物があるかを探した結果、5種類が残った。その内の1種は、市販されている「CM3506G50(東レ株式会社(本社:日本国東京都)製)」であり、Al合金片である規格化されているA5052、A2017、A7075、A1100等と、Al合金の種類を変えても、NMT8処理した物を使用すると、せん断接合強度は45~54MPaと驚くレベルの射出接合力を示した。又、同社製の共重合ナイロンであるとして市販していた上記「CM3500」シリーズ品の中には、これ以外に30MPa以上示すものがあった。ただ、上記実験により、その中で最も射出接合技術に適しているのが「CM3506G50」だと判断した。他に残ったのは某社製の1種のみであった。
【0021】
この某社製の1種のポリアミド系樹脂組成物と、A5052Al合金との射出接合物(試験片)の接合強度は、約50MPaを示すものもあったが、確認のための再試験で、同じ射出接合物10対のせん断接合強度を測定すると、20~55MPaの間で接合強度がバラつき、正しくは10対の射出接合物で55MPaを示したのが1対、その他は20~25MPaとかなり接合強度は低かった。射出接合条件を種々変えて、再度の射出接合作業を繰り返したが、接合力のバラつきを解消させる方法の発見に、本発明者は辿り着けなかった。これを製造した樹脂メーカーは、おそらく何らかの結晶化速度抑制に効く化合物を配合したと推定される。しかしながら、その配合量、又は結晶化速度抑制材の分散工程が、本発明にとって不適だったかもしれない。勿論、その樹脂メーカーの樹脂は、本発明の複合体としての使用目的に合わせて、その樹脂成分等を調整しているわけではなく、このような事例が生じるのは致し方ない。本発明者はこの市販している某社に共同開発研究を申し込んだが不調に終わり、結局は前述した上記「CM3506G50」を、本発明者のその時点では本発明に用いる樹脂として最適であると判断した。
【0022】
そこで、市販されている上記「CM3506G50」を熱分解GCマスで分析した結果、PA66成分、PA6成分、及び、半芳香族ポリアミド成分の3種が主成分であることが判明した。但し、ガスクロマトグラフィー質量分析計(GC-MS)のチャート図からは、その半芳香族ポリアミドが、フタル酸とヘキサメチレンジアミンの共重合物であることが判明したが、これがPA6IかPA6Tかは判別できない。加えて言えば、これら各ポリアミドをコンパウンドした物(混合物)か、或いは共重合してブロックポリマー化した物かも判別できない。ただ、本発明者は前述したように、過去に本出願人は、上記「CM3506G50」の製造メーカーである東レ株式会社と、射出接合技術に関し共同で研究開発しており、その結果として前記したPA6I成分を17%、PA66成分を77%、PA6成分を6%含む形のブロックポリマーで、かつ、樹脂分100部に対しGF50部を加えた樹脂組成物を提案した。前述したNMT処理したA5052Al合金との射出接合物には前記したように、せん断接合強度26MPaを示すことが判明している(特許文献2)。
【0023】
それ故に、本発明者の前述したNMT理論に従えば、射出接合に適したポリアミド系樹脂組成物として、半芳香族ポリアミドを10%以上で、PA66及びPA6の混合物を90%以下含むコンパウンド樹脂、又は、連結したそのブロックポリマーが基本的に有効である。その各成分での量的関係(混合)で言えば、主成分がPA66とPA6の混合樹脂成分であって、従成分が半芳香族ポリアミド樹脂成分である混合した樹脂組成物である。この樹脂組成物は、従成分比率を増やすと、急冷時の結晶化速度が低下し、従成分比率を減らすと急冷時の結晶化速度が高まる。この知見を前提にすると、最適な品質の射出接合物を製造するための樹脂組成物の混合比を調整できる。又、別の言い方では、主成分がPA66樹脂成分であって、従成分がPA6と半芳香族ポリアミドの混合成分である樹脂組成物であり、従成分比率を25%付近に保った上で、従成分樹脂中のPA6成分を増やすと、急冷時の結晶化速度が向上し、従成分樹脂中の半芳香族成分を増やすと、急冷時の結晶化速度が低下することを知見を前提で、最高度の射出接合物を与えるための樹脂組成比を調整できることが分かる。
【0024】
また、上記製造メーカーが公開しているカタログによれば、上記「CM3506G50」は、融点が228℃温度、HDT(Heat Distortion Temperature)240℃温度と優れた耐熱性があり、引張り強さ245MPa、引張り破断伸び0.2%と硬く剛性のある樹脂であり、樹脂組成物全体に対し、GF33.3%と多めに含むが良外観でもある(GFが表面に剥き出しになっていない)。この公開技術資料には、この樹脂の使用目的も射出成形に用いる、GFが多量に含まれて硬くて剛性のある樹脂であるのに良外観であり、光沢感ある丈夫な構造用樹脂を目指したコンパウンド樹脂であるとしている。一般に、GF含量の大きい樹脂は、GF端が剥き出しになり易く良外観にならない。しかし、この樹脂について、射出接合技術に関しての記述はない。この特性から言えることは、良外観にできるということは、急冷時の結晶化速度が抑制された樹脂であり、GF端も包み込んで、成形品が平滑な外観になるものとみられる。要するに、特許文献2で示したPA6I成分を17%、PA66成分を77%、PA6成分を6%含む形のブロックポリマーは、前述のNMT理論に該当するポリアミド系の樹脂組成物であり、それは主成分がPA66とPA6の混合樹脂成分であって、従成分が半芳香族ポリアミド樹脂成分である樹脂組成物である。
【0025】
一方、前述したNMT7処理、NMT8処理、NMT5-Ano処理等の化成処理を施したAl合金と、上記「CM3506G50」とを射出接合した
図1に示した形状物(試験片)は、その樹脂部と金属部間のせん断接合強度を測定すると、50MPa以上という高強度の接合力を示した。この試験片は、せん断接合粘り性値(後述する)も38MPa以上の強値を示し、ポリアミド系樹脂組成物として、最適な射出接合用の樹脂と判断された。念のために、熱分解ガスマスで上記「CM3506G50」を分析すると、樹脂分中に半芳香族ポリアミド成分が少なくとも10%以上含まれ、かつ、その他はPA6及びPA66の脂肪族ポリアミド成分が主体の脂肪族ポリアミド成分からなっていることが判明した。このことは、上記した「主成分がPA66とPA6の混合樹脂成分であって従成分が半芳香族ポリアミド樹脂成分である樹脂組成物であること」に適合し、上記「CM3506G50」が特許文献2において開示したポリアミド系樹脂組成物が、本発明者自身が提唱したポリアミド樹脂の組成範囲の条件に適合していものである。
【0026】
要するに、上記「CM3506G50」の正確な樹脂組成分の構造は、概要が判明しただけで詳細は全く不明であるし、その詳細な組成が特許文献2で示した「PA6I成分を17%、PA66成分を77%、PA6成分を6%含む形のブロックポリマー」に近いか遠いか、更にはPA6Iが使われているのかPA6Tが使われているのかさえも全く判明できなかった。何れにしろ、本発明において使用でききる樹脂組成物は、後述する「樹脂分中に半芳香族ポリアミド成分が少なくとも10%以上含まれ、かつ、その他はPA6及びPA66の脂肪族ポリアミド成分が主体の脂肪族ポリアミド成分からなっている」ものが使用され、かつ、NMT7処理した各種Al合金との射出接合力が、せん断接合強度で45MPa以上であり、かつ、せん断接合粘り性値としてこれが38MPa以上であれば使用できる、と定義した。
【0027】
結論的には、樹脂分を構成するPA66、PA6、そして半芳香族ポリアミドという数種のポリアミド間の組成比であり、これは特許文献2の組成比を中心に数十種類を作成し、この作成物がコンパウンド物であれブロックポリマーであれ、得られた樹脂でAl合金との射出接合物を作り、これを引張り破断させて、最適な強いものを選び出せばよい。本発明者としては、NMT7処理等をしたAl合金と、ポリアミド系樹脂とで射出接合物を作り、その接合力が50MPa程度という、過去に得られなかった高性能の接合強度を示す物が発見できた、ことが最高の成果である。例え、これを実証する樹脂が上記「CM3506G50」の1種類であっても、この発見後は、上記メーカー等に本発明を開示することにより、更にAl合金、及び、その他金属材の新NMT処理品に対して、より高射出接合力を示す改良型樹脂の製造が容易になるはずであり、ここに本発明の開発経緯の詳細を開示した理由である。
【0028】
要するに、ポリアミド系樹脂組成物として、上記「CM3506G50」の樹脂組成と見られる大きな範囲、即ち、樹脂分中に半芳香族ポリアミド成分が少なくとも従成分として10%以上含まれ、かつ、その他はPA6及びPA66中の脂肪族ポリアミド成分が主成分として占める組成物である。そして、この組成物は、全体の25~35重量%のGFを含んだ物である。このようなポリアミド系樹脂組成物を用いることを前提として、本発明の一体化複合体におけるAl合金片の表面処理(化成処理)は、ポリフェニレンサルファイド樹脂(Poly Phenylene Sulfide Resin、以下、「PPS」という。)系樹脂組成物である「例えば、『SGX120』(東ソー株式会社(本社:日本国東京都)製)」(以下、「SGX120」という。)の接合技術を転用したものである。本発明は、PPS系樹脂組成物とAl合金との射出接合技術で、その表面形状に最高度の機械的特性を与えたAl合金用の表面処理技術を転用したことで、自動車、航空機、移動型ロボット、その他の屋外用設備、機械の部品部材として、最適な金属・樹脂一体化物を提供できると判断し、本発明に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【文献】WO2004/041532
【文献】特開2007-182071
【文献】WO2012/070654
【文献】特開2019-188651
【文献】特開2019-217704
【文献】特開2007-050630
【文献】WO2008/069252
【文献】WO2008/081933
【文献】WO2008/047811
【文献】WO2008/078714
【文献】WO2009/011398
【文献】特開2006-315398
【文献】特開2010-064496
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
金属と樹脂が一体に接合した接合物において、この樹脂組成物の耐湿性等の不足を油剤塗布や塗装で補えるなら、PPS等の高価なスーパーエンジニアリングプラスチックを使用せず、安価で親水性が残るがポリアミド系樹脂も使用できる可能性がある。それ故、鋼材やAl合金材を金属材とし、ポリアミド系樹脂組成物を樹脂材とした射出接合物を得て、その一体化物における金属・樹脂間の接合力が十分に高ければ、その射出接合物に油剤塗布、塗装等を加えた上で、その射出接合物が使用される環境を考慮するならば、高温高湿試験を行い、同時に、厳しい温度衝撃3千サイクル試験も行って、双方に耐え得る物を探し出すことが必要だと判断した。自動車等の移動機械に錆び易いアルミ材、鋼材を使用する場合には、金属材等には油剤塗布か塗装処理するのが常法であるから、この条件を付けた上で、この表面処理を前提で、使用できる射出接合物の範囲を拡げようとした。要するに、本発明は、そのうちのAl合金材とポリアミド系樹脂組成物に関するものである。本発明は、以上のような開発経緯、及び背景から発明されてものであり、以下の目的を達成するものである。
【0031】
本発明の目的は、アルミニウム合金とポリアミド系樹脂組成物が直接的に接合した一体化複合体において、耐高温・高湿性と同時に、耐温度衝撃性が高い、金属と樹脂の一体化複合体とその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、アルミニウム合金とポリアミド系樹脂組成物が直接的に接合した一体化複合体において、生産性の高いインサート成形である射出接合により生産できる、金属と樹脂の一体化複合体とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明は、前記課題を解決するために次の手段を採る。即ち、
本発明1の金属と樹脂の一体化複合体は、
接合面である表面が化成処理されたアルミニウム合金片と、前記接合面にポリアミド系樹脂組成物が直接的に射出接合により接合された金属と樹脂の一体化複合体であって、
前記接合面は、電顕観察の千倍観察で数十μm周期の凹凸面が明確に観察され、1万倍観察で0.8~5μm周期の微細凹凸面が観察され、かつ、10万倍観察で30~100nm周期の超微細凹凸面が観察されるものであり、
前記ポリアミド系樹脂組成物は、従成分として樹脂分中の半芳香族ポリアミド成分が10%以上含まれ、残部が主に脂肪族ポリアミド成分からなっており、かつ、全体の25~35重量%のガラス短繊維を含んだものであり、
前記接合面は、せん断接合強度が45MPa以上であり、前記せん断接合強度の75%以上のせん断的外力を300回繰り返し連続的に加えて破断せず、かつ、300回繰り返し外力を連続的に加えても破断しない最大のせん断的外力値であり、せん断接合粘り性値が38MPa以上であることを特徴とする。
【0033】
本発明2の金属と樹脂の一体化複合体は、本発明1に記載の金属と樹脂の一体化複合体であって、前記金属と樹脂の一体化複合体が、国際標準規格(ISO19095)に規定された試験片において、前記試験片の全体に塗装又は油剤を塗布し、前記試験片を85℃温度、85%湿度に設定された環境に千時間晒す耐久試験を行い、前記接合面の前記せん断接合強度の測定で、前記試験前の75%以上を示す耐湿熱性を有し、かつ、-50℃/+150℃の温度衝撃3千サイクル試験に耐えうる耐温度衝撃性が観察されるものである、ことを特徴とする。
【0034】
本発明3の金属と樹脂の一体化複合体は、本発明1又は2の金属と樹脂の一体化複合体であって、前記アルミニウム合金片は、長尺の板材であるL字、U字、又は半円型断面の長尺部材(2)であり、前記長尺部材(2)の溝状凹部(3)に、前記ポリアミド系樹脂組成物が前記溝状凹部(3)を埋めて前記溝状凹部(3)の機械的な強度を高める構造(5)により、前記アルミニウム合金片と前記ポリアミド系樹脂組成物が一体に接合されている、ことを特徴とする。
【0035】
本発明4の金属と樹脂の一体化複合体は、本発明3の金属と樹脂の一体化複合体であって、前記金属の前記溝状凹部(3)には、前記アルミニウム合金片を貫通する貫通孔が形成され、前記貫通孔に前記ポリアミド系樹脂組成物が充填されているものである、ことを特徴とする。
【0036】
本発明5の金属と樹脂の一体化複合体は、本発明1又は2に記載の金属と樹脂の一体化複合体であって、前記接合面の中心部を成す前記ポリアミド系樹脂組成物である樹脂成形物中心部(14、15)、前記樹脂成形物の樹脂中心部を囲み、前記樹脂中心部より肉厚が薄くなる樹脂中間部(16)、並びに、前記樹脂成形物中心部(14、15)及び前記樹脂中間部(16)の全周囲を実質的に囲む、幅5mm以上ある樹脂薄肉部(17)とからなり、前記樹脂薄肉部(17)は、肉厚が0.5~1.5mmであり、前記樹脂中間部(16)は、肉厚が1.0~3.0mmであることを特徴とする。
【0037】
本発明6の金属と樹脂の一体化複合体は、本発明1又は2の金属と樹脂の一体化複合体であって、前記金属と樹脂の一体化複合体(30、40)は、前記アルミニウム合金片は、2枚の板材(31、35)であり、前記2枚の前記板材(31、35)の間に前記ポリアミド系樹脂組成物(32)を挟んで接合した形状であり、前記ポリアミド系樹脂組成物(32)の厚さが1.0~2.0mmである、ことを特徴とする。
【0038】
本発明7の金属と樹脂の一体化複合体は、本発明6の金属と樹脂の一体化複合体であって、前記2枚の前記板材(31、35)の間に、前記2枚の前記板材(31、35)の温度差が小さくなるようにアルミニウム合金製の熱伝導用の棒材(34)が1本以上連結されていることを特徴とする。
【0039】
本発明8の金属と樹脂の一体化複合体の製造方法は、本発明1ないし7の一体化複合体の製造方法であって、前記金属と樹脂の一体化複合体は、化成処理済みの前記アルミニウム合金片を射出成形金型にインサートした後、前記ポリアミド系樹脂組成物を射出することにより前記アルミニウム合金片と前記ポリアミド系樹脂組成物を一体化することを特徴とする。
【0040】
以下、本発明が上記構成、製造方法となった理由、背景等について説明する。
[アルミニウム合金片(Al合金片)とその表面処理]
本発明で用いるAl合金片は、展伸用Al合金、及び、鋳造用Al合金に分類されJIS(日本工業規格)等で規定されている全種のAl合金を対象とする。展伸用Al合金は、JISの規定では1000番台から8000番台まであり、これと同様に日本国以外の諸国でも対応する合金番号で規定されており、世界共通でほぼ同じ組成のAl合金材が入手できる。一方、鋳造用Al合金も分類数は、展伸用Al合金種より少ないがJISに規定されており、これらも本発明のAl合金に含まれる。ただ、鋳造用Al合金として使用されている約90%がADC12である。少なくともADC12に関しては、既に最適な表面処理法が提案されており、後述する実施例にも示した。
【0041】
Al合金片の表面の化成処理法は、特許文献1、2に示された前述のNMT処理法、特許文献3に示されたNMT2処理法、特許文献4に示されたNMT5、NMT7、NMT8処理法等が使用できる。そしてその他に、新NMT型処理法として特許文献13に記載のNMT-Ano処理法があり、その改善が進んだのが特許文献4に示されたNMT5-Oxy、NMT7-Oxy、NMT5-Ano、NMT7-Ano処理法である。Al合金の表面の化成処理法は、本発明の発明者が開発し提案した、これらの中のどの表面処理法を用いてもよい。これらの方法で化成処理された外観は、通常、目視観察した場合に艶消し感のある表面である。本発明の金属と樹脂の一体化複合体に代わるものとして、
図1に示す形状物(試験片)の射出接合物を用いて試験した。この試験片を引張り破断機にセットし、せん断接合強度を測定した。この測定値から、各Al合金に関し最も高い数値を示した処理法を選び、これを最適処理法とする。
【0042】
その理由は、各金属種に対して提案した表面処理法は、本発明者が主にPPS系樹脂組成物である前述した「SGX120」を使用しつつ進めたものである。このPPS系樹脂組成物を、本発明の半芳香族ポリアミド含むポリアミド系樹脂組成物に代えたとき、この処理方法で形成された表面形状が、PPS使用時と同傾向の表面微細・超微細凹凸面形状が形成されるとは限らない。それ故に、ポリアミド系樹脂組成物に最適な化成処理方法は、本発明の発明者が既にに提唱した、全ての化成処理をした結果の試験片で良否を判断した。更に言えば、樹脂の親水性が強くて高温高湿試験にかけると数週間で剥がれることもある。当初の接合力では、例えば、せん断接合強度で50MPa示す物があったとした場合、それを温度85℃、85%湿度の高温高湿試験千時間という超過酷な加速試験にかけると、弱くなり、製品としては使えない。
【0043】
しかしながら、試験片の全体をエポキシ系の焼き付け塗料で塗装、又はエンジンオイル等の油剤塗布する等により、複合体を空気、湿気等から保護すれば、上記耐久試験に適合する複合体が出来ると推定した。別素材であるが、予備試験的に上記試験片を乾燥空気で満たされた箱の中に入れて、本発明の試験をした同じ工場(日本国群馬県太田市)内で、作業机の引き出しに1年(春夏秋冬)置いた物では接合力は低下しなかった。要するに、移動機械用の部品であっても、上述したような乾燥空気下で使用されることもあり、耐高温高湿性に対し必要以上に厳しく過ぎる基準は、本発明を適用できる産業分野の領域を狭めると判断した。敢えて言えば、耐高温高湿性を満足するものは、本発明では、本発明で提唱する温度衝撃数千サイクル試験(後述する。)に適合すればよいとした。
【0044】
[ポリアミド系樹脂組成物]
本発明でいうポリアミド系樹脂組成物は、樹脂分中の半芳香族ポリアミド成分が10%以上含まれ、残部が主に脂肪族ポリアミド成分からなっており、かつ、全体の25~35重量%のガラス短繊維を含んだものである。以下、このポリアミド系樹脂組成物について説明する。前項の説明した通り、Al合金とポリアミド系合成樹脂組成物の射出接合物をどのように選択したかという手順は明確である。本発明で好ましく使用できるポリアミド系樹脂組成物は、市販品では具体的には上記「CM3506G50」か、又は、従成分として市販されている半芳香族型ポリアミド系樹脂組成物、又は、半芳香族ポリアミド含むポリアミド系樹脂組成物の中で、上記「CM3506G50」と同等以上の性能を示す別樹脂でも良い。又は、上記「CM3506G50」の樹脂組成の中で使用されている1種又は複数種の高分子を確定し、その上で適当な類似物の数種と入れ替えて混合した組成物を作成して、この組成物で射出接合物を作成して、各種の試験をして有効な樹脂組成物の成分を探索する方法を採用した。
【0045】
この探索の考え方としては、脂肪族ポリアミド2種の組み合わせで、急冷時の結晶化速度を抑制する手段を先ず取り、その結晶化速度を更に遅くするために、適当な半芳香族ポリアミドを加えるという方法である。これが特許文献2に示されたPA6、PA66、PA6Iという3者の組み合わせから実験を行って探索したが、前述したNMT7、NMT8の化成処理法が開発する以前は、所望の接合力は得られなかった。それ故、本発明で好ましく使用できるポリアミド系樹脂組成物は、上記「CM3506G50)」であり、更に改良すべきポリアミド系樹脂組成物も上記「CM3506G50」を基に、構成する各ポリアミド比を多少変化させた組成物になると推定した。
【0046】
(ポリアミド系樹脂組成物の線膨張率)
一方、上記「CM3506G50」は、強化繊維としてGFが全樹脂分を100重量部として50重量部含まれている。ということは、全樹脂組成物の33.3%がGFである。上記「CM3506G50」を選択した理由は、前述したように高い射出接合力を示した故だが、GFが33%余も含まれていることも射出接合技術にとって非常に重要な要素である。射出接合力を獲得する原動力は樹脂分が持つ結晶性であり、更に言えば、射出成形時間との関係で、急冷時の結晶化速度が適合する硬化速度が必要である。簡単に言えば、強化繊維として含まれるGFは、その含有量が多きに過ぎると当然ながら樹脂分含量は減り射出接合力は低下する。その一方でGF含量がゼロ、即ち、樹脂分だけの樹脂組成物を使用した場合には、高い射出接合力が得られるものの線膨張率が8~10×10-5K-1と非常に高くなり、Al合金の線膨張率が2.3×10-5K-1であるから、この線膨張率差は大きい。この線膨張率差は、接合力の低下を招く。
【0047】
よって、両者から得られた
図1に示す形状の射出接合物(試験片)は、金属と樹脂間は高いせん断接合強度を示すものの、この
図1の試験片を-50℃/+150℃の温度衝撃試験機にかけると、百サイクル程度で自己破断する。要するに、この温度衝撃試験の結果から、金属材と樹脂の間の線膨張率の差を小さくして、激しい温度変化(温度衝撃)に耐えるには、GF含量は多い方がよく、かつ、GF含量の多い方が樹脂自体は機械的な強度が高くなる。結局、GFの含有量と樹脂分とのバランスが重要であるが、PBT系樹脂組成物、PPS系樹脂組成物の場合は、GF含量が全体の15~25%の数値で、実質的なせん断接合強度が最も高くなった。このポリアミド系樹脂組成物である上記「CM3506G50」のGF含有率は33.3%であり、PPS系樹脂組成物から見るとGF含量が多すぎると思われたが、実際に行った射出接合力の測定では、高いせん断接合強度が保たれた。そして、その理由は樹脂とGFとの接着力高さにあると推定された。ポリアミドのペプチド結合部分とガラスとの親和性が高い故だと推定される。
【0048】
GF含量が33%程度まで増えると、線膨張率は大きく低下して約2.5×10
-5K
-1程度まで下がる。一方、Al合金の線膨張率は、2.3×10
-5K
-1であるから、GFを含有した上記「CM3506G50」の線膨張率はそれにごく近く、この両者の射出接合物は、温度衝撃試験で、数千サイクル試験に対しても問題なく耐えられるという利点を持っている。更に言えば、GF含有率を33%から20%近くまで下げたとしても、線膨張率は前述した「SGX120」と同等になるだけであり、特許文献5に記載の-50℃/+150℃の温度衝撃試験で、3千サイクル試験に耐えられる射出接合物として示された形状(そのモデルは
図4、
図5)は、GF含有率が33.3%の「CM3506G50」であり、その温度衝撃に容易に耐えることができる。
【0049】
[射出接合操作とアニール処理について]
本発明では、射出成形機を使用する射出接合操作時の樹脂成形条件として、通常の射出成形時と比較して注意すべきことがある。金型温度と射出前時間と保圧時間に留意すべきであり、そのうちの金型温度については、樹脂メーカーが指定した温度範囲もあるが基本的には高めに設定する。即ち、射出成形金型の温度が低いと、この射出成形金型にインサートした金属面上の超微細凹部に樹脂が侵入し難くなる。具体的に言えば、上記「CM3506G50」使用時には、金型温度として140℃付近が好ましい。この成形時の射出前時間とは、Al合金片を金型内にインサートから射出するまでの時間を指すが、本発明において、射出前時間はインサートするAl合金片が小物であれば無視してもよい。しかし、例えば、1kgもある大物であれば、射出前時間を1~1.5分は置かないと、インサート物の温度が金型温度近くまで上昇せず、予期された射出接合力が確保できない。そして、射出開始から保圧終了までの時間は、上記「CM3506G50」の場合、急冷時の結晶化速度に要する理想時間から考慮して、少し遅いものと推定されるので、約20~30秒後に射出成形金型を開き離型操作を進めるのがよい。後述した実施例では、射出開始から射出成形金型を開くまでの時間を全て30秒とした。
【0050】
射出成形金型から離型後に得た射出接合物は、そのまま放冷して最終品とするのではなく、好ましくは数時間以内に、150℃×1時間程度の加熱処理(アニール処理)をして、樹脂結晶化を十分に進めた上で射出接合工程の全工程を終えると良い。本発明の実験では、射出時間と保圧時間の合計時間を、20~30秒として多数の
図1に示した試験片を作り、最低必要な保圧時間を決めるべきとしたが、この後、射出接合物(複合体)は更にアニール処理をして放冷して、最終品とするのが良い。
【0051】
[せん断接合強度、せん断接合粘り性値の測定]
ISO19095には、射出接合物における金属部と樹脂成形物間のせん断接合強度(tensile lap-shear strength)、引張り接合強度(tensile strength)の測定法が規定されている。この規定によると、
図1に示した試験片を引張り試験機で引張り破断させて、そのせん断接合強度を測定すること、及び、
図2に示した試験片を引張り試験機で引張り破断させて、その引張り接合強度を測定することが規定されている。このせん断接合強度測定法は、本発明者が特許文献6~10で使用したものであり、引張り接合強度の測定法は、本発明者が、種々の経過の上で2015年頃から使用し始めたものである。何れも従来の接着力や接合力の測定法とされた従来のJISK6849、JISK6850等に規定された手法では正確な測定ができず、新たに新規定を本出願人(大成プラス株式会社)が提案し、この提案を基に日本国の政府関係機関等でも検討され、そしてISO関係の各国政府機関の審議を経て、ISO19095として認められたものである。
【0052】
この前提で更に本発明者は、このせん断接合強度だけでなく新たに「せん断接合粘り性」値という接合力の測定法を案出し、この「せん断接合粘り性」値をせん断接合強度の値より重視するようにした。これはPPS系樹脂組成物である「SGX120」を使用して射出接合物(
図1形状)を作成し、そのせん断的外力に対する耐性を測定したときの経験によっている。この場合、せん断接合強度が最高で40~42MPaとなり、それ以上の数値は基本的に観察されない。要するに、一定の射出接合用樹脂を使用して射出接合物(
図1)得た場合、使用した金属の種類、化成表面処理法等が変わっても、
図1に示した試験片で破断試験を行い改良を進めていくと、上限値らしいものに行き着く。それ故、ある種の金属合金片の表面処理法を更に改善しても、そのせん断接合強度値を見て、改善がなされたか、又はなされずに反って悪化したかは、せん断接合強度が約40MPaに近づくと分かり難くなる。それ故に、本発明者は新たに「せん断接合粘り性」値という測定を行い、その値が高くなればより良い表面処理法が達成できたと判断することにした。これと同様の見方で、上記「CM3506G50」使用の射出接合物を引張り試験機にかけた。
【0053】
以上の経緯から、本発明でいう「せん断接合ねばり性」とは、以下の実験方法で得た結果をいう。せん断接合ねばり性の測定を行うときは、引張り試験機で試験片(
図1に示す形状物)を用いて、「せん断接合強度」を前もって測定する。そして、同時期に作成した同じ試験片に、この「せん断接合強度」の約75%程度の引張り力を300回だけ連続的に繰り返し与える試験を与える。この試験方法による引張り試験機による荷重のかけ方は、その試験機が有している制御装置の運転ソフトで設定する。この設定は、最大引張り力を上記「せん断接合強度」値の約75%、最小引張り力を前記最大引張り力の約2/3とし、かつ、引張り速度を±10mm/分を1サイクルとして、300サイクルの繰り返し連続運転をする。この繰り返しの引張り荷重で、せん断破断しなければ、約2MPaだけ最大引張り荷重を大きくして、同じ繰り返し負荷を加える試験をする。それでも破断しない場合は、更に、約2MPa程を加えて同操作を繰り返し、この繰り返しを
図1に示した試験片が破断するまで続ける。破断したら、破断前の最大引張り力をもって、本発明の試験では、その力量を試験機のkg/0.5cm
2の表示をMPaに変換し、本発明ではこれを「せん断接合ねばり性」値とした。
【0054】
[射出接合物の耐高湿性試験]
自動車が地球環境から受ける最高湿度は、例えば、熱帯地方において、雨季乾季の狭間期の約40℃となった時の降雨時(湿度100%)だと推定される。このような地域で、例えば自動車の構成部品に本発明の複合体を使用するとした場合、実際に自動車内で最も高温高湿度になるのは雨で濡れた雨具、衣料等が車内に持ち込まれ、その後にこれらが車内に残されたままドアが閉められ無人となり、更に、車内に強い陽光がさし、車内温度が高温に達するときである。このような場合の車内温度は、持ち込まれた水分量が非常に多い場合は、最高で60℃、水分が少ないと100℃にもなることが想定される。この想定で、自動車の車内で湿度が最高になった時とは、60℃温度で95%湿度くらいかと推定される。処がこの温度と湿度値は、確かに高湿度試験として自動車座席のカバー材等の試験法として使用できるが、本発明の金属と樹脂の一体化複合体の耐高湿度試験としては相応しくない。自動車が最大20年間使われるとして、そのような高温高湿下での試験時間をどれくらい取ればよいのか、当該分野の基準はなく誰も明確には答えられない。それ故、結局は、一般的に採用されている85℃温度で、85%湿度下に千時間晒して評価することにした。要するに、実際に使用される環境から離れ、あり得ない厳しい高温、高湿に晒した加速試験である。それ故に、千時間とした時間がそれでよいのか、本発明者も躊躇したが特許文献4に記載した実験における経験があり、本発明では千時間(42日)で十分に問題が発生するか否かを判断できるとした。
【0055】
以下、別の射出接合物(金属と樹脂の複合体)に関する物も含むが、射出接合用の表面処理をした各種Al合金材、鋼材(使用したのはSPCC)、ステンレス鋼、チタン材等と、上記「CM3506G50」との射出接合物(
図1の試験片)を作成した。この試験片、又はこれに塗装、油剤処理した物ものを、85℃温度で、85%湿度下に千時間晒す試験を行った。これらの実験において、これらの試験片は、油剤塗布なしでは、SPCC(冷間圧延鋼板)は僅か1日で激しく発錆し、アルミニウム合金片も外観部で発錆したらしい色調変化があった。そして、油剤塗布物であっても、約3日間も置けばSPCCにて油剤が剥がれたような、小さな箇所で発色して錆模様が出現した。又、油剤塗布したAl合金、SUS304、SUS430等のステンレス鋼、及びTi合金の金属片では、高温、高湿に晒す試験で、百時間後も外観上で異常は見られなかった。要するに、親水性を有するポリアミド系樹脂組成物と射出接合されたた金属の中で、水中に放置すれば間違いなく錆を生じるものは、Al合金と、フェライト系ステンレス鋼のSUS430である。しかしながら、これらもこの実験で油剤塗布した場合は、外観上で変化は見られなかった。それ故に、接合力に関し、油剤塗布品であれば、その射出接合物の金属と樹脂間の接合力に耐湿熱性があるものと推定した。
【0056】
Al合金と上記「CM3506G50」との射出接合物に、市販のエンジンオイルを塗り付けた油剤処理品について言えば、上述した高温、高湿下で千時間試験を終了した後に、80℃温度で48時間の乾燥工程を行い、この乾燥に加えて150℃温度で4時間の環境下で高温乾燥を行い、そのせん断接合強度を求めた。この2段階の乾燥工程を経た上で、そのせん断接合強度が最初の射出接合物が示した値と比較し、小さな減少レベルであれば実質的にその射出接合物における接合力に耐湿熱性があるという判断にした。このように2段階で乾燥工程を行う理由は、85℃温度で85%湿度下での試験は、あくまで加速試験であり、実用上ではあり得ない高温、高湿度の環境である。この環境において、僅かではあるが吸水性を有するポリアミド系樹脂組成物に対して行うと、樹脂成形物自体が水分を最大含有量を吸収して、そのまま安定する。80℃程度で加熱して動きやすい水分は揮発させ、次に、150~170℃でポリアミド中に取り込まれてやや安定していた水分子を追い出し、元のポリアミド系樹脂組成物に戻す操作が必要と判断した故である。この実験結果は、後述する実施例で示したが、Al合金に関してNMT7、NMT8処理した物の中には、上記「CM3506G50」との射出接合力として高い物が多く、それらでは十分実用可能とみられる耐高湿性があった。
【0057】
[射出接合物の-50℃/+150℃温度衝撃3千サイクル試験]
使用した上記「CM3506G50」は、GF33.3重量%含む樹脂組成物である。それ故に、その線膨張率は、一般的な強化繊維を含まない樹脂組成物の(8~10)×10
-5℃
-1よりかなり低く、2.5×10
-5K
-1近傍である。一方のAl合金材は、2.3×10
-5K
-1の線膨張率を有しており、両者の線膨張率差は非常に近い。しかしながら、本発明において、使用する半芳香族型ポリアミド系樹脂組成物として、上記「CM3506G50」に限定されるわけではない。本発明として定義し、限定しているのは、
図1に示した試験片である射出接合物にした場合のせん断接合強度であり、そしてせん断接合粘り性値の高さである。それ故に、この条件を満たす半芳香族型ポリアミドを主成分とするポリアミド系樹脂組成物のGF含量が、20~35%の範囲であれば十分に高いせん断接合強度を与えうる。
【0058】
要するに、半芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドからなるポリアミド系樹脂組成物に、20~35%のGFが含まれた物であればその平均の線膨張率は(4.0~2.5)×10-5K-1となる。その場合、Al合金との線膨張率差は(1.7~0.2)×10-5K-1になり、それ故、-50℃/+150℃の温度衝撃試験機に入れられて、上下の温度差で200℃の温度変化があれば、200℃×(1.7~0.2)×10-5K-1=(3.4~0.4)×10-3=0.34%~0.04% の長さの差が、温度変化毎に両材間に生じることになる。0.04%は小さいが、0.34%は、樹脂とAl合金材の接合面が破断するか、弱くなるに十分な値である。
【0059】
樹脂とAl合金材の接合面近傍は、両者の強い接合力により、接合が保持されており、
図1に示された射出接合物である試験片では、主には樹脂部の下面層(接着面付近の樹脂層)が、強制的にAl合金材に伸び縮みさせられる。人工的な温度衝撃ではなく、季節による気温変化のような緩やかな温度変化であれば、樹脂部は僅かな変形をして、線膨張率差による内部応力の発生は許容弾性限度内に収まるが、温度衝撃サイクル試験では許容弾性限度内に収まることはない。但し、上記の温度変化の中で最も小さい、0.04%の場合であるが、実際に実用される射出接合物が大きく、かつ樹脂材の厚さが3mmを超えるような構造材形状でなければ、どのような形状の射出接合物であっても問題はない。敢えて設計上で留意すべき点があるとすれば、温度の急上昇や急冷時に、Al合金材は熱伝達性がよいので、樹脂部より早く環境温度に達するので、その影響につき対処すべきである。樹脂部を薄くするか、若しくは熱回廊(熱伝導)を意識的に作った構造設計として、両材間の温度差を常に小さくすべく務めることである。
【0060】
一方、GF含量が20%程度と低い場合、即ち、長さの伸び差が最大の0.34%の場合は、当然であるが射出接合物の構造設計に注意しなければならない。例えば、
図1に示した試験片のように、接着面積が10mm×5mmという小物の複合体であっても、接着面の最長部は11.2mmあり、その0.34%は0.038mmとなる。この僅かな長さの差であっても、-50℃/+150℃の温度衝撃3千サイクル試験にかけると、最も弱い接合面の4隅(角)の端部で剥がれが生じる可能性は十分ある。
図1のような試験片で樹脂部厚さは3mmであり、樹脂部の厚さが厚いほど温度衝撃数千サイクル試験で、接合面の4隅をスタートとする剥がれ現象が生じ易い。逆に言えば、樹脂部の厚さが薄いほど温度衝撃を数千サイクル以上かけようと、金属の伸縮に樹脂部が追従するので全く金属板から樹脂部が剥がれなくなる。
【0061】
本発明者は、樹脂部の厚さを薄くした場合の効果を立証するために、特許文献5に記載したように、
図1に示した試験片である射出接合物の接合部の樹脂部をルーターで削り、厚さ3mmであった物を厚さ2mm、厚さ1mmの物としたものを用意し、これを前述した温度衝撃3千サイクル試験にかけた。その時の射出接合物はAl合金とPPS系樹脂組成物「SGX120」であり、金属・樹脂間の線膨張率差は1.7×10
-5℃
-1もある物であったが、樹脂厚さを1mmにした物では全く剥がれは確認されず、樹脂厚さ2mmにした物でも4隅の内の1又は2隅でごくごく小さい剥がれが認められたに過ぎなかった。このことから、PPS系樹脂組成物の樹脂厚が1.5mm以下であれば、接合面積は無限大(実用的な面積)にしても前記のAl合金片と、上記「SGX120」の射出接合物は、前記温度衝撃3千サイクル試験に耐え得るとしたのが特許文献5に記載された複合体である。
【0062】
上記特許文献5に記載された結果から見れば、本発明の射出接合物(複合体)においては、その線膨張率差が最大でも1.7×10-5K-1程度に留まるだろうから、これだけ見ればAl合金とPPS系樹脂組成物「SGX120」との射出接合物(複合体)と同様であり、射出接合物の設計方法も特許文献5に示されたのと似たような構造と推定される。何れにしても、GF含量が33.3%にしても射出接合力が十分に高い上記「CM3506G50」であるから、GF含有量を意図的に下げて使用することもない。GF含有量を減らせば、樹脂自体の引張り強さも低下し、吸水性も増加するので、樹脂組成物として好ましいことではない。
【発明の効果】
【0063】
本発明の金属と樹脂の一体化複合体とその製造方法は、アルミニウム合金とポリアミド系樹脂組成物が直接的に接合した接合物において、耐高温、高湿性と同時に、耐温度衝撃性の高いものがえられる。また、この金属と樹脂の一体化複合体の製造方法は、インサート射出成形であるので生産性も高い。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】
図1は、ISO19095で規定する金属と樹脂の接合一体化物であり、金属部と樹脂部間の「せん断接合強度」を測定する目的の射出接合物(試験片)の形状を示す外観図である。
【
図2】
図2は、ISO19095で規定する金属と樹脂の接合一体化物であり、金属部と樹脂部間の「引張り接合強度」を測定する目的の射出接合物(試験片)の外観図である。
【
図3】
図3は、ISO19095に規定する金属と樹脂の接合一体化物であり、
図1の試験片のせん断接合強度を測定するときに使用する補助治具の外観を示す外観図である。
【
図4】
図4は、上記
図1の試験片にある樹脂部の接合面上部を機械加工で削り、元の厚さ3mmを2mmに薄くして変形させた試験片である。
【
図5】
図5は、上記
図1の試験片にある樹脂部の接合面上部を機械加工で削り、元の厚さ3mmを1mmに薄くして変形させた試験片である。
【
図6】
図6は、NMT7処理したA5052Al合金の電顕写真であり、
図6(a)が各千倍、
図6(b)が1万倍、
図6(c)が10万倍写真である。
【
図7】
図7は、本発明の金属と樹脂の一体化複合体の構造例であり、断面がL字状のAl合金製の長尺部材に、樹脂組成物を裏打ちして、補強した構造例を示す外観図である。
【
図8】
図8は、本発明の金属と樹脂の一体化複合体の構造例であり、
図7に示した物の変形例を示す外観図である。
【
図9】
図9は、本発明の金属と樹脂の一体化複合体の構造例であり、剛性のあるAl合金平板上に樹脂組成物のボスを立設し、この外周を薄肉の樹脂組成物で補強した構造例を示す外観図であり、
図9(a)は平面図、
図9(b)は正面図である。
【
図10】
図10は、本発明の金属と樹脂の一体化複合体の構造例であり、2枚のAl合金製の板部材の間に、樹脂組成物を接合して一体化した構造例を示す外観図である。
【
図11】
図11は、本発明の金属と樹脂の一体化複合体の構造例であり、
図10に示したものの変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
以下、本発明の実施の形態を具体的な射出接合物で説明する。
図7に示す金属と樹脂の一体化複合体(以下、「複合体」という。)1は、等辺、又は不等辺山形鋼であるL字状のアングル材2の強度を強化するために、インサート成形によりポリアミド系樹脂組成物4を接合した例である。アングル材2は、一般に断面性能(断面係数)があまり高くなく、荷重の向きによっては断面性能が低下するので、Al合金製のL字状アングル材2の内側隅部(凹部)3に沿って、ポリアミド系樹脂組成物4を一体に接合した例である。この金属と樹脂の一体化複合体1は、斜めに入れた補強壁5を有しているので、曲げ、捩じり等に強く断面性能が高くなる。
【0066】
図8に示す複合体10は、基本的な構成、成形方法は
図7に示した金属と樹脂の一体化複合体1と同一である。異なる点は、Al合金からなるアングル材2の内側隅部3に複数の貫通孔6を開けて、この断面形状が円形の貫通孔6にポリアミド系樹脂組成物4をインサート成形により流し込むものである。この金属と樹脂の一体化複合体10に曲げモーメント、ねじりモーメント等の外力がかかった場合に、形状を保持できるように剛性を高めたものである。なお、貫通孔6の例は、この断面が円形に限らず、矩形等でも良く、位置もアングル材2の隅部に限らず他の位置であっても良い。
【0067】
図9は、アルミニウム合金板12に、柱状の突起物である樹脂本体13を射出成形して、成形した複合体20の例である。複合体20は、Al合金板製の金属矩形板12、及びこれと一体に接合された樹脂成形物本体部13からなる。金属矩形板12は、本例では縦横100mmで厚さ3mmである。樹脂本体13は、中心が円柱部(ボス、軸受等)14であり、この外周面に等角度に4つのリブ15が円柱部14に沿って、これを支えるように立設されている。樹脂成形物樹脂本体13の外周は、厚さ1.5~3.0mmで、一辺が50mmの矩形の中心台座16で支承されている。更に、この中心台座16の外周を取り巻くように、矩形の外周台座17が形成されている。外周台座17は、幅5~10mm、厚さ0.8~1.5mmで、一辺が70mmの矩形に形成されている。即ち、複合体20は、中心部の円柱部14、リブ15と金属矩形板12との接合力を維持するために、中心台座16及びこれより薄肉の外周台座17が形成されている。溶融樹脂は、金属矩形板12の裏面からピンゲート18から射出注入される。この複合体20は、中心部が肉厚が2mm程度の中心台座16、及びこの外周部が1mm程度の外周台座17と、中心を厚くこの外周を薄く、異なる肉厚を形成することにより、樹脂と金属の線膨張係数の違いを吸収できる。
【0068】
図10は、二枚の板部材をポリアミド系樹脂組成物で接合した例を示す複合体30の斜視図である。2枚のアルミニウム合金からなる板部材31、35の間には、ポリアミド系樹脂組成物32がサンドウィッチ状に挟まれている。ポリアミド系樹脂組成物32は、板部材31に通孔として開けられたゲート33から注入される。ゲート33から注入された溶融樹脂は、2枚の板部材31、35の隙間に流れ固化する。ポリアミド系樹脂組成物32の肉厚は、1.0~2.0mm程度である。
図11に示す複合体40は、基本的には
図10に示した複合体30と同一構造である。複合体40が一面から加熱されたとき、2枚の板部材31、35の間の温度差を少なくするために熱伝導体34を配置したものである。熱伝導体34は、円柱状の形をしたものであり、2枚の板部材31、35をリベットのように締まり嵌めで固定されている。板部材31、又は板部材35が加熱されたときは、この熱は、熱伝導体34を通して伝導するので、2枚の板部材31、35の温度は平均化される。本例の熱伝導体34は、アルミニウム合金のJISA6063を用いたものであるが、熱伝導性に優れたものであれば、銅等であっても良い。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の実施例を詳記する。
(a)電子顕微鏡観察
主に基材表面の観察のために電子顕微鏡を用いた。この電子顕微鏡は、走査型(SEM)の電子顕微鏡「SSM-7000F(製品名)」(日本国東京都、日本電子社製)を使用し、1~2kVにて観察した。
(b)接合強度の測定
本実施例では、引張り試験機で射出接合物(
図1の試験片)を引張り破断するときの破断力をせん断接着強度とした。なお、このせん断接合強度測定には、
図3に示す形状の補助治具を使用する。この測定手法は、ISO19095に規定された測定手法である。本実施例では、引張り試験機で射出接合物(
図2の試験片)を、引張り破断するときの破断力を引張り接合強度とした。引張り試験機は「AG-500N/1kN(株式会社 島津製作所(本社:日本国京都府)製)」を使用し、引張り速度10mm/分で測定した。
【0070】
(c)せん断接合ねばり性値の測定
本発明でいう「せん断接合ねばり性値」とは、以下の試験で行った値をいう。上記引張り試験機で、射出接合物(
図1に示す試験片)を引張り破断するのではなく、その試験片の引張り接合強度を前もって測定しておき、その力量(せん断接合強度)の75%程度の力を300回だけ連続的に繰り返し与える試験である。引張り試験機の運転ソフトのモードをこの操作が出来るようにセットし、最大引張り力を上記の力量、最小引張り力を前記最大引張り力量の約2/3とし、かつ、引張り速度を±10mm/分として、300サイクル連続運転する。この負荷で破断しなければ、約2MPaほどを前記最大引張り力に加えて、同じ300回の繰り返し負荷を与える試験をする。この負荷でも破断しない場合は、更に約2MPa程を加えて同操作を繰り返し、
図1に示した試験片が破断するまで続ける。破断したら、破断前の最大引張り力を得て、その力量をMPa表示し、これを「せん断接着ねばり性」値とする測定法である。使用した引張り試験機は、上記「AG-500N/1kN」である。
【0071】
(d)温度衝撃サイクル試験
温度衝撃サイクル試験は、温度衝撃サイクル試験機「小型冷熱衝撃装置TSE-12-A(エスペック株式会社(本社:日本国大阪府)製)」を使用して行った。標準的に行った温度衝撃サイクル試験の条件は、冷室温度-50℃、高温室温度+150℃とし、各室の滞在時間30分、移動による室内空気温度の安定化時間は約5分とした。温度衝撃サイクルの時間は、自動で行う氷塊成長防止用の冷却システム運転停止を除けば、1サイクルで65分となる。
(e)高温高湿試験
高温高湿試験は、85℃温度、85%湿度の高温高湿の環境に、射出接合物(
図1に示した試験片等)を入れて、通常は千時間晒して試験を行った。使用した高温高湿試験機は、型式「1H400」(ヤマト科学株式会社(本社:日本国東京都)製)である。
【0072】
[実験例A]各素材の表面処理
[実験例A1-1]JIS規格A5052のアルミニウム合金(以下、「アルミニウム合金」を「Al合金」という。)の表面処理(NMT処理):参考例
厚さ1.5mmのA5052Al合金板を入手し、45mm×18mmに切断しAl合金片とした。浸漬槽に、アルミ用脱脂剤「NA-6(メルテックス株式会社(本社:日本国東京都)製)」(以下、「NA-6」という。)10%を含む水溶液を60℃温度にし、上記Al合金片を5分間浸漬した後、これを水道水で水洗した(群馬県太田市の公共水道水による水洗、以下、単に「水洗」という。)。次に、別の浸漬槽に、40℃温度とした1%濃度の塩酸水溶液を用意し、これにAl合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。
【0073】
次に、別の浸漬槽に、40℃温度とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにAl合金片を4分間浸漬した後、これを水洗した。次に、別の浸漬槽に、40℃温度とした3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これにAl合金片を3分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、60℃温度とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意して、これに1分間浸漬した後、次に別の浸漬槽に、33℃温度とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に、0.5分間浸漬した後、これを水洗した。次に、67℃温度に設定した温風乾燥機に、15分間入れて上記処理を終えたAl合金片を乾燥した後、これを清浄なアルミ箔でまとめて包み保管した。
【0074】
[実験例A1-2]A5052Al合金の表面処理(NMT7処理)
厚さ1.5mmのA5052Al合金板を入手し、45mm×18mmに切断し、これをAl合金片とした。浸漬槽に、アルミ用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液を60℃温度とし、前記Al合金片を5分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした10%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにAl合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした1%濃度の水和塩化アルミニウムと5%濃度の塩酸を含む水溶液を用意し、これにAl合金片を6分間浸漬した後、これを水洗した。
【0075】
次に別の浸漬槽に、40℃温度とした2%濃度の1水素2弗化アンモンと10%濃度の硫酸含む水溶液を用意し、これにAl合金片を4分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにAl合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これにAl合金片を1.5分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、60℃温度とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意して、これに1分間浸漬した後、次に別の浸漬槽に、33℃温度とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に6分間浸漬した後、これを水洗した。次に、67℃温度に設定した温風乾燥機に、15分間入れて上記化成処理を終えたAl合金片を乾燥した後、これを清浄なアルミ箔でまとめて包み保管した。
【0076】
上記NMT7処理である化成処理でえられたAl合金片の表面を、電子顕微鏡で観察した。千倍の電顕写真を
図6(a)、1万倍の電顕写真を
図6(b)、10万倍の電顕写真を
図6(c)に示した。千倍の写真で判明したのは、小山の連山状に繋がっており、この連山で高く見える部分と広い平地部分が観察され、数十μm周期の山地部分と平野部分が大きな凹凸面をなしていることが判明した。実際には、上記NMT7で化成処理されたAl合金片の外観を目視で観察すると、一般的に梨地と呼ばれている艶消し面が観察され、この艶消し面は上記NMT7で化成処理された粗面の存在が要因である。1万倍電顕写真では、数μm周期の微細凹凸面の存在であり、これは金属結晶の結晶粒界が侵食されたように凹部となっている。そして、10万倍電顕写真で判明したのは、30~100nm周期の超微細凹凸面であり、結局、NMT7処理後の表面は、全体で言えば3重の凹凸面形状が形成されている。
【0077】
[実験例A1-3]A5052Al合金の表面処理(NMT8処理)
厚さ1.5mmのA5052Al合金板を入手し、45mm×18mmに切断しAl合金片とした。その後は前述した実験例A1-1と全く同じ化成処理を行い、その最後に次の処理工程を加えた。即ち、33℃温度とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に、6分間浸漬した後、これを水洗した。更に、NMT8処理は、以下の化成処理を追加したものである。即ち、別の浸漬槽で、1.5%濃度の過酸化水素水に、1分間浸漬した後、これをよく水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした0.2%濃度のトリエタノールアミンの水溶液を用意し、これに上記処理後の前記Al合金片を4分間浸漬した後、これをよく水洗した。次に、67℃温度に設定した温風乾燥機に、15分間入れて上記化成処理を終えたAl合金片を乾燥した後、これを清浄なアルミ箔でまとめて包み保管した。
【0078】
[実験例A2]A6061Al合金の表面処理(NMT8処理)
上記実験例A1-3と異なる材質の厚さ1.5mmのA6061Al合金板を入手し、45mm×18mmに切断しAl合金片とした。浸漬槽に、アルミ用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液である60℃温度ものを用意し、前記Al合金片を5分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした10%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにAl合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした1%濃度の水和塩化アルミニウムと5%濃度の塩酸を含む水溶液を用意し、これにAl合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした2%濃度の1水素2弗化アンモンと10%濃度の硫酸含む水溶液を用意し、これにAl合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。
【0079】
次に別の浸漬槽に、40℃温度とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにAl合金片を2分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これにAl合金片を1.5分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、60℃温度とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意して、これに1分間浸漬した後、次に別の浸漬槽に、33℃温度とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に4.5分間浸漬した後、これを水洗した。次に1.5%濃度の過酸化水素水を用意し、これに1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした0.2%濃度のトリエタノールアミンの水溶液を用意し、これに上記Al合金片を5分間浸漬した後、これを水洗した。次に、67℃温度に設定した温風乾燥機に、15分間入れて上処理を終えたAl合金片を乾燥した後、これを清浄なアルミ箔でまとめて包み保管した。
【0080】
[実験例A3]A2017Al合金の表面処理(NMT8処理)
上記実験例A2及び上記実験例A1-3と異なる材質の厚さ1.5mmのA2017Al合金板を入手し、45mm×18mmに切断しAl合金片とした。浸漬槽に、アルミ用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液を60℃温度とし、前記Al合金片を5分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした10%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにAl合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした1%濃度の水和塩化アルミニウムと5%濃度の塩酸を含む水溶液を用意し、これに上記Al合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした2%濃度の1水素2弗化アンモンと10%濃度の硫酸含む水溶液を用意し、これにAl合金片を4分間浸漬した後、これを水洗した。
【0081】
次に別の浸漬槽に、40℃温度とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにAl合金片を2分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これにAl合金片を2.5分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、60℃温度とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意して、これに1分間浸漬した後、次に別の浸漬槽に、33℃温度とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に3分間浸漬した後、これを水洗した。そして1.5%濃度の過酸化水素水に1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした0.2%濃度のトリエタノールアミンの水溶液を用意し、これに前記Al合金片を4分間浸漬した後、これを水洗した。次に、67℃温度に設定した温風乾燥機に、15分間入れて上記化成処理を終えたAl合金片を乾燥した後、これを清浄なアルミ箔でまとめて包み保管した。
【0082】
[実験例A4]A2024Al合金の表面処理(NMT8処理)
同様に、上記実験例と異なる材質の厚さ1.5mmのA2024Al合金板を入手し、45mm×18mmに切断しAl合金片とした。浸漬槽に、アルミ用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液を60℃温度とし、前記Al合金片を5分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした10%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにAl合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした1%濃度の水和塩化アルミニウムと5%濃度の塩酸を含む水溶液を用意し、これにAl合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした2%濃度の1水素2弗化アンモンと10%濃度の硫酸含む水溶液を用意し、これにAl合金片を3分間浸漬した後、これを水洗した。
【0083】
次に別の浸漬槽に、40℃温度とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにAl合金片を2分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これにAl合金片を2.5分間浸漬して水洗した。次に別の浸漬槽に、60℃温度とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意して、これに1分間浸漬し、次に別の浸漬槽に、33℃温度とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に3分間浸漬した後、これを水洗した。そして、1.5%濃度の過酸化水素水に1分間浸漬した後、これを水洗した。次いで別の浸漬槽に、40℃温度とした0.2%濃度のトリエタノールアミンの水溶液を用意し、これに前記Al合金片を4分間浸漬し、よく水洗した。次に67℃温度に設定した温風乾燥機に、15分間入れて前記処理を終えたAl合金片を乾燥した後、これを清浄なアルミ箔でまとめて包み保管した。
【0084】
[実験例A5]A7075Al合金の表面処理(NMT8処理)
厚さ1.5mmのA7075Al合金板を入手し、45mm×18mmに切断しAl合金片とした。浸漬槽に、アルミ用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液を60℃温度とし、前記Al合金片を5分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした10%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにAl合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした1%濃度の水和塩化アルミニウムと5%濃度の塩酸を含む水溶液を用意し、これにAl合金片を2分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした2%濃度の1水素2弗化アンモンと10%濃度の硫酸含む水溶液を用意し、これにAl合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。
【0085】
次に別の浸漬槽に、40℃温度とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにAl合金片を2分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これにAl合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、60℃温度とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意して、これに1分間浸漬した後、次に別の浸漬槽に、33℃温度とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に2.5分間浸漬した後、これを水洗した。更に、別の浸漬槽に、1.5%濃度の過酸化水素水に1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした0.2%濃度のトリエタノールアミンの水溶液を用意し、これに上記Al合金片を10分間浸漬した後、これを水洗した。次に、67℃温度に設定した温風乾燥機に、15分間入れて上記化成処理を終えたAl合金片を乾燥した後、これを清浄なアルミ箔でまとめて包み保管した。
【0086】
[実験例A6]ADC12Al合金の表面処理(NMT5’処理)
鋳造したADC12Al合金片を入手し、これを45mm×18mm×1.5mmの板状片のAl合金片とした。浸漬槽に、アルミ用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液を60℃温度とし、上記Al合金片を5分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬に、40℃温度とした10%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにAl合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした1%濃度の水和塩化アルミニウムと5%濃度の塩酸を含む水溶液を用意し、これに上記Al合金片を2分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした2%濃度の1水素2弗化アンモンと10%濃度の硫酸含む水溶液を用意し、これに上記Al合金片を0.5分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにAl合金片を4分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃温度とした3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これにAl合金片を3分間浸漬した。
【0087】
次に、これを超音波発振端付きの水洗槽に5分入れて、Al合金片の表面のスマットを分離し、次に別の浸漬槽に、40℃温度とした3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これにAl合金片を0.5分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、60℃温度とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意してこれに2分間浸漬した後、次に別の浸漬槽に、33℃温度とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に0.5分間浸漬した後、これを水洗した。そして、1.5%濃度の過酸化水素水に1分間浸漬した後、これを水洗した。そして、これを67℃温度に設定した温風乾燥機に15分間入れて乾燥し、更に100℃に設定した熱風乾燥機に15分間入れて熱処理した後、これを超音波発振端付きの水洗槽に7分入れてスマットを分離した。更に、これを67℃温度に設定した温風乾燥機に15分間入れて乾燥し、清浄なアルミ箔でまとめて包み保管した。
【0088】
[実験例B]射出接合力の測定
[実験例B1]各種射出接合物に於けるせん断接合強度の測定
せん断接合強度の測定は、前述した実験例A1~A6で説明した化成処理を行った45mm×18mm×1.5mm厚を有する各種Al合金片に、ポリアミド系樹脂組成物を射出により接合した複合体を成形した(
図1に示した試験片)。このポリアミド系樹脂組成物として、上記「CM3506G50」を使用して成形した試験片を、本実験例の射出接合物(本発明でいう複合体である。)とした。射出接合条件は、金型温度140℃、射出温度280℃とし、この実験で留意したのは、保圧時間を通常の成形より延長して射出してから離型までの時間を30秒とした。試験片である離型物は、数時間以内に150℃温度にセットした熱風乾燥機に入れて、1時間加熱してから放冷し、翌日に引張り試験機でせん断接合強度を測定し、その結果を表1に示す。表1に示したせん断接合強度で理解されるように、実験例A1-1(参考例)を除いて、全ての金属片で接着力は50MPa以上であり、接合力は強い。
【0089】
[実験例B2]各種射出接合物に於けるせん断接合粘り性値の測定
前記した実験例A1-2~A6と同じ化成処理を行った各種Al合金片を使用し、ポリアミド樹脂である上記「CM3506G50」を使用して、
図1に示した形状の試験片を射出接合物とした。せん断接合強度とそのせん断接合粘り性値を表1に示した。
【表1】
【0090】
表1に記載の数値は、引張り試験機の数値の表記がkg(重力単位)である。
図1に示した試験片の接合面積は、10mm×5mmの0.5cm
2であった故に、kg/0.5cm
2で表示した。この引張り試験機で、300回の連続的繰り返し負荷を与える強度表示、及び、次第に強度を上げて行く力量も約2MPa毎とあるが、実際には10kg/0.5cm
2(1.96MPa)毎に行った。それ故に、せん断接合粘り性値も10kg/0.5cm
2の倍数になっている。このせん断接合粘り性は、6種類のAl合金でほぼ220kg/0.5cm
2程度あり、参考例(A1-1)を除いて、せん断接合強度の80%程度もあって驚く強さだった。
【0091】
[実験例C]温度衝撃3000サイクル試験
前述したNMT8処理したAl合金が、ポリアミド系樹脂組成物である「CM3506G50」との射出接合物で、概して高い射出接合力を示した。そこで、表1でせん断接合粘り性値が210kg/0.5cm
2以上示したものの射出接合物(
図1に示す試験片)を再び作成し、これに油剤(市販のエンジンオイルの「30W10」(SAE規格))を塗布した上で、-50℃/+150℃の温度衝撃3千サイクル試験にかけた。その結果を表2に示す。但し、この試験では毎週末の土日、そして夏休み、日本国で法定されている正月休み、5月連休、更に加えて、新型コロナウイルス禍にて、2020年の4月と5月は、金曜日を休業日とする工場、研究所において、温度衝撃サイクル試験機の稼働を一時的に止めた。
【0092】
更に、試験機内の-60℃冷却システム近傍に、氷付着が進むことによる機構的な作動機構の事故発生を防ぐための操作(作動)を加えた。それ故に、この温度衝撃サイクル試験は、1サイクル65分の連続稼働と、自動で行う氷塊成長防止用の冷却システム運転停止を含む、フル自動運転法で行った。このために運転停止していた日数は多く、これらの試験には1年近い時間を消費した。ただ、温度衝撃サイクル試験機は、約23℃温度が年中保たれる工場内の1室に放置していたので、上記休業期間の運転停止時間中の試料箱の環境は、10~20℃温度、90%湿度程度の環境下にあったと推定した。この試験機休止期間における樹脂部と対峙しているAl合金表面部への水分子の侵入量は、元々油剤塗布が金属樹脂の接合面外周部になされていることもあって、試験を停止した休止期間は試験結果に大きな影響はなかったと判断した。
【表2】
【0093】
[実験例D]高温高湿1000時間試験
表1において、せん断接合粘り性値が210kg/0.5cm
2以上示したNMT7、8処理品使用の射出接合物(
図1に示す試験片)を再び作成し、これに油剤(市販のエンジンオイルの「10W30」(SAE規格))を塗布した上で、85℃温度、85%湿度の高温高湿試験機に、千時間置く耐久試験にかけた。その結果を表3に示す。表3において、高温高湿試験機から取り出した各種2対の試験片を温度80℃で、24時間の乾燥後に、その1対を引張試験で、破断させてせん断接合強度を測り、残った1対を温度150℃で4時間だけ更に乾燥させて、樹脂中に分散しポリアミド樹脂内で落ち着いていた(含有)水分子をも追い出した。そして、そのせん断接合強度を測定した。この実験結果から、せん断接合強度は、試験前のせん断接合強度の80~88%になり、高温、高湿に晒しても十分に接合強度が保持されていると判断した。
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の金属と樹脂の一体化複合体は、エンジン、モーター等の駆動機械、又、発光器、各種電池、電気機械等のように、発熱、高湿度に晒される自動車、航空機等の移動機械用部品部材として適している。要するに本発明は、厳しい自然環境に晒される各種用途の機械、設備等に使え、特に屋外で使用されるものにも使える。
【符号の説明】
【0095】
1、10、20、30、40…金属と樹脂の一体化複合体(複合体)
2…アングル材
4…ポリアミド系樹脂組成物
5…補強壁
6…貫通孔
12…金属矩形板
13…樹脂成形物本体部
14…円柱部
15…リブ
16…中心台座
17…外周台座
31、35…板部材
33…ゲート
34…熱伝導体