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特許7578969顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法、顕微鏡観察用細胞サンプルの作製キット、及び培養容器
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  • 特許-顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法、顕微鏡観察用細胞サンプルの作製キット、及び培養容器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法、顕微鏡観察用細胞サンプルの作製キット、及び培養容器
(51)【国際特許分類】
   C12N 11/08 20200101AFI20241030BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
C12N11/08
C12M1/00 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020177341
(22)【出願日】2020-10-22
(65)【公開番号】P2022068581
(43)【公開日】2022-05-10
【審査請求日】2023-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山岡 英彦
(72)【発明者】
【氏名】永田 晃基
(72)【発明者】
【氏名】八谷 如美
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-068761(JP,A)
【文献】特開2011-155945(JP,A)
【文献】特開2020-136052(JP,A)
【文献】特開2014-167393(JP,A)
【文献】特開2020-080722(JP,A)
【文献】特表2009-523447(JP,A)
【文献】特開2012-149992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養容器であって、内面上に配置された疎水性樹脂の層と、前記疎水性樹脂の層の上に配置されたマトリックスと、を備える培養容器を用意することと、
前記培養容器内に培地を入れ、細胞を培養することと、
前記培養容器から前記培地を除去することと、
前記マトリックスの前記細胞に隣接する部分を切削により除去することと、
前記培養容器の細胞を、液状の包埋樹脂に浸すことと、
前記包埋樹脂を硬化することと、
前記細胞を内包する前記硬化した包埋樹脂を、前記培養容器から剥離することと、
を含む、顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法。
【請求項2】
前記疎水性樹脂が、シリコーン及びフッ素からなる群の少なくとも1つを含む、請求項に記載の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法。
【請求項3】
前記包埋樹脂が、エポキシ樹脂を含む、請求項1又は2に記載の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法。
【請求項4】
前記培養容器の前記疎水性樹脂の層に、複数の溝が形成されている、請求項1からのいずれか1項に記載の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法。
【請求項5】
前記切削がレーザー光によりなされる、請求項1から4のいずれか1項に記載の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法。
【請求項6】
前記培養容器の少なくとも底面の一部が、ガラスからなっている、請求項1からのいずれか1項に記載の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法、顕微鏡観察用細胞サンプルの作製キット、及び培養容器に関する。
【背景技術】
【0002】
培養された細胞を電子顕微鏡で観察する際、細胞を樹脂で包埋する(例えば、特許文献1参照。)。樹脂を重合により硬化した後、細胞を内包している樹脂ブロックを、細胞を培養していた容器から剥離する必要がある。細胞を培養する容器の多くは、プラスチック製である。この樹脂ブロックを、例えばプラスチック製の容器から剥離する際、容器が破損し、その破片が樹脂ブロックに混入したり、また樹脂ブロックそのものが破損したりして、樹脂ブロック内の細胞試料に悪影響を与えるなどということがあり、樹脂ブロックが容器から良好に剥離できないことが多いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-138697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、顕微鏡観察用細胞サンプルを容易に作製可能な顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法、顕微鏡観察用細胞サンプルの作製キット、及び培養容器を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の態様によれば、疎水性処理された培養容器の面上で培養されている細胞を、液状の包埋樹脂に浸すことと、包埋樹脂を硬化することと、細胞を内包する硬化した包埋樹脂を、培養容器から剥離することと、を含む、顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法が提供される。
【0006】
上記の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法において、疎水性樹脂をコーティングすることにより、培養容器の面が疎水性処理されていてもよい。
【0007】
上記の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法において、疎水性樹脂が、シリコーン及びフッ素からなる群の少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0008】
上記の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法において、培養容器の疎水性処理された面の上に、親水性処理がされていてもよい。
【0009】
上記の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法において、プラズマにより親水性処理がされていてもよい。
【0010】
上記の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法において、培養容器の疎水性処理された面上に、マトリックスが形成されていてもよい。
【0011】
上記の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法において、包埋樹脂が、エポキシ樹脂を含んでいてもよい。
【0012】
上記の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法において、培養容器の疎水性処理された部分に、複数の溝が形成されていてもよい。
【0013】
上記の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法が、細胞に隣接する培養容器の部分を、切削することをさらに含んでいてもよい。
【0014】
上記の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法において、切削がレーザー光によりなされてもよい。
【0015】
上記の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法において、培養容器の少なくとも底面の一部が、ガラスからなってもよい。
【0016】
また、本発明の態様によれば、疎水性処理された面を備える培養容器と、液状の包埋樹脂と、を含む、顕微鏡観察用細胞サンプルの作製キットが提供される。
【0017】
上記の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製キットにおいて、培養容器の内面の少なくとも一部が、疎水性樹脂で覆われていてもよい。
【0018】
上記の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製キットにおいて、疎水性樹脂が、シリコーン及びフッ素からなる群の少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0019】
上記の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製キットにおいて、培養容器の疎水性処理された面の上に、親水性処理がされていてもよい。
【0020】
上記の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製キットにおいて、培養容器の疎水性処理された面の上に、マトリックスが配置されていてもよい。
【0021】
上記の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製キットにおいて、包埋樹脂が、エポキシ樹脂を含んでいてもよい。
【0022】
上記の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製キットにおいて、培養容器の疎水性処理された部分に、複数の溝が設けられていてもよい。
【0023】
上記の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製キットにおいて、培養容器の少なくとも底面の一部が、ガラスからなってもよい。
【0024】
また、本発明の態様によれば、顕微鏡観察用細胞サンプルの作製用の培養容器であって、疎水性処理された面を備える培養容器が提供される。
【0025】
上記の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製用の培養容器において、培養容器の内面の少なくとも一部が、疎水性樹脂で覆われていてもよい。
【0026】
上記の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製用の培養容器において、疎水性樹脂が、シリコーン及びフッ素からなる群の少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0027】
上記の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製用の培養容器において、培養容器の疎水性処理された面の上に、親水性処理がされていてもよい。
【0028】
上記の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製用の培養容器において、培養容器の疎水性処理された面の上に、マトリックスが配置されていてもよい。
【0029】
上記の顕微鏡観察用細胞サンプルの作製用の培養容器において、培養容器の少なくとも底面の一部が、ガラスからなってもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、顕微鏡観察用細胞サンプルを容易に作製可能な顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法、顕微鏡観察用細胞サンプルの作製キット、及び培養容器を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施形態に係る培養容器の模式的断面図である。
図2】実施形態に係る培養容器の模式的断面図である。
図3】実施形態に係る培養容器の模式的断面図である。
図4】実施形態に係る培養容器の模式的断面図である。
図5】実施形態に係る培養容器の模式的上面図である。
図6】実施形態に係る培養容器の模式的断面図である。
図7】実施形態に係る培養容器の模式的断面図である。
図8】実施形態に係る包埋樹脂と細胞の模式的断面図である。
図9】実施例に係る培養容器とエポキシ樹脂の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。ただし、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0033】
図1に示す実施形態に係る培養容器10は、顕微鏡観察用細胞サンプルの作製用の培養容器10であって、内面の少なくとも一部が疎水性処理された培養容器10である。培養容器10の材料は任意である。培養容器10の材料としては、樹脂及びガラスが挙げられる。培養容器10は、少なくとも底面の一部がガラスからなっていてもよい。培養容器10は、ガラスボトムディッシュであってもよい。少なくとも底面の一部がガラスからなることにより、細胞を培養容器10内で培養中に、光学顕微鏡による細胞の観察が容易となる。
【0034】
培養容器10の内面の少なくとも一部は、疎水性処理されて、疎水性樹脂11で覆われていてもよい。培養容器の内面の少なくとも一部に、疎水性樹脂をコーティングすることにより、疎水性樹脂11の層を形成してもよい。コーティングは、スプレーコーティングであってもよいし、スピンコーティングであってもよい。疎水性樹脂11の材料は、特に限定されないが、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂が挙げられる。培養容器の内面の少なくとも一部を、疎水性処理することにより、後述する包埋樹脂との剥離性が提供される。例えば、疎水性樹脂11の層の材料、厚みは、疎水性樹脂11の層が透明になるよう設定される。これにより、細胞を培養容器10内で培養中に、光学顕微鏡による細胞の観察が容易となる。
【0035】
疎水性樹脂11の層の表面に、凹凸を設けてもよい。これにより、疎水性樹脂11の層の表面に疎水性及び撥水性をさらに付与することが可能である。また、凹凸の数、大きさを設定することにより、疎水性樹脂11の層の表面の疎水性及び撥水性を設定することが可能である。
【0036】
疎水性樹脂11の層の表面に、同一方向に延伸する複数の溝を設けてもよい。これにより、培養容器10内で培養される細胞を、同一方向に並べることが可能となる。疎水性樹脂11の層に溝を設ける方法の例としては、ナノインプリントが挙げられる。
【0037】
培養容器10の疎水性処理された内面の上に、親水性処理がさらにされていてもよい。親水性処理の例としては、プラズマ処理が挙げられる。親水性処理によって、培養容器10の疎水性処理された内面に、水酸基を導入してもよい。例えば、疎水性樹脂11の層の表面に、水酸基を導入してもよい。親水性処理をすることによって、培養容器10の内面と、培養容器10内で培養される細胞と、の親和性が向上する。
【0038】
培養容器10の疎水性処理された内面の上に、図2に示すように、細胞と親和性のあるマトリックス12が配置されていてもよい。マトリックス12の材料の例としては、細胞外基質タンパク質が挙げられる。細胞外基質タンパク質の例としては、プロテオグリカン及び線維状タンパク質が挙げられる。線維状タンパク質の例としては、コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、及びフィブロネクチンが挙げられる。マトリックス12を配置することによって、培養容器10の内面と、培養容器10内で培養される細胞と、の親和性が向上する。
【0039】
培養容器10の疎水性処理された内面の上に、アミノ酸重合体を配置してもよい。アミノ酸重合体の例としては、ポリリジン及びポリオルニチンが挙げられる。アミノ酸重合体を配置することによって、培養容器10の内面と、培養容器10内で培養される細胞と、の親和性が向上する。
【0040】
実施形態に係る顕微鏡観察用細胞サンプルの作製キットは、上記の培養容器10と、液状の包埋樹脂と、を備える。包埋樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、グリコールメタクリレート等の親水性樹脂、ポリエステル樹脂、及びアクリル樹脂を含む。アクリル樹脂の包埋剤の例としては、LRホワイト(登録商標)、Lowicryl HM20(登録商標)及びUNICRYL(登録商標)が挙げられる。包埋樹脂は、培養容器10内で培養された細胞を包埋するために用いられる。
【0041】
次に、実施形態に係る顕微鏡観察用細胞サンプルの作製方法について説明する。まず、上述したような培養容器10を用意し、図3に示すように、培養容器10内に培地30を入れ、細胞20を播種し、培養容器10内で細胞20を培養する。
【0042】
細胞20を所望の状態まで培養した後、培地30を培養容器10内から除去し、任意で、図4及び図5に示すように、細胞20に隣接する培養容器10の疎水性処理された部分あるいは親水性処理された部分を、切削する。切削は、レーザーマイクロダイセクターが発するレーザー光によりなされてもよい。これにより、切削部位13により、後の顕微鏡観察時において、細胞20が配置されている場所の確認が容易になる。レーザー光の波長は特に限定されないが、例えば266nmである。
【0043】
図6に示すように、培養容器10内の細胞を、液状の包埋樹脂40に浸す。さらに、包埋樹脂40を硬化する。その後、図7に示すように、細胞20を内包する硬化した包埋樹脂40を、培養容器10から剥離する。さらに、包埋樹脂40で包埋されている細胞20を切断し、顕微鏡観察用切片を作製してもよい。例えば、図8に示す破線に沿って、包埋樹脂40で包埋されている細胞20を切断する。顕微鏡観察用切片には、切削部位13が残るため、切削部位13を参照して、顕微鏡に観察対象の細胞20を配置することが可能である。包埋樹脂40で包埋されている細胞20を観察する顕微鏡は限定されず、光学顕微鏡であってもよいし、電子顕微鏡であってもよい。
【0044】
上記のように本発明を実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす記述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかになるはずである。
【0045】
(実施例)
培養容器(MatTek、ガラスボトムディッシュ、型番:P50G-1.5-30-F)を用意し、培養容器の底面をシリコーン樹脂(デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル、SILPOT184)でコーティングした。その後、培養容器内のシリコーン樹脂層の上を、液状のエポキシ樹脂で満たした後、エポキシ樹脂を硬化させた。硬化したエポキシ樹脂は、図9に示すように、培養容器の底面から容易に剥離した。
【符号の説明】
【0046】
10・・・培養容器、11・・・疎水性樹脂、12・・・マトリックス、13・・・切削部位、20・・・細胞、30・・・培地、40・・・包埋樹脂
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9