(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】電磁波吸収体
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20241030BHJP
C08K 3/18 20060101ALI20241030BHJP
C08K 7/22 20060101ALI20241030BHJP
C08L 33/00 20060101ALI20241030BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H05K9/00 W
C08K3/18
C08K7/22
C08L33/00
H01Q17/00
(21)【出願番号】P 2022048404
(22)【出願日】2022-03-24
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000242231
【氏名又は名称】北川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 啓介
(72)【発明者】
【氏名】董 書臣
(72)【発明者】
【氏名】石原 太一
(72)【発明者】
【氏名】祐岡 輝明
(72)【発明者】
【氏名】近藤 康雄
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-68660(JP,A)
【文献】特開2001-156487(JP,A)
【文献】特開2011-192714(JP,A)
【文献】特開2022-24470(JP,A)
【文献】特開2018-98367(JP,A)
【文献】特開2019-57730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
C08K 3/18
C08K 7/22
C08L 33/00
H01Q 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂に、
カルボニル鉄粉と、
中空粒子とを含む電磁波吸収体であって、
前記アクリル系樹脂100体積部に対し、
平均粒径1~10μmの前記カルボニル鉄粉70~80体積部と、
平均粒径10~60μmの前記中空粒子40~150体積部とをそれぞれ含み、
比誘電率が10~20であり、10~15GHzの周波数帯域において、反射損失量が20dB以上となる帯域幅が1.5GHz以上であり、体積抵抗値が10
12Ω・m以上であるシート状の電磁波吸収体。
【請求項2】
前記中空粒子は平均粒径10~60μmの中空シリカであり、
前記アクリル系樹脂100体積部に対し、
前記中空シリカを40~150体積部含む請求項1に記載の電磁波吸収体。
【請求項3】
前記中空粒子は平均粒径30~60μmの中空ポリマーであり、
前記アクリル系樹脂100体積部に対し、
前記中空ポリマーを40~100体積部含む請求項1に記載の電磁波吸収体。
【請求項4】
アスカーCでの硬度が15~25であり、
厚さ0.5~2.0mmのシート状である請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の電磁波吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、特定の周波数帯域における電磁波(ノイズ)を抑制するための電磁波吸収体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁波吸収体が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の電磁波吸収体では、抵抗層と、誘電体層と、抵抗層よりも低いシート抵抗を有する導電層とが積層されている。また、特許文献1に記載の電磁波吸収体は、60GHzを超える高周波帯域の電磁波対策を実施することができる。
【0003】
従来、電磁波を情報通信媒体としたレーダを利用するシステム(例えば、自動車の衝突予防システムなど。)では、システムの検知性能を向上させるため、レーダの分解能を上げることが求められている。このようなシステムでは、例えば、76.5GHzや79GHzなどの60GHzを超える高周波帯域の電磁波対策が要求されることがある。したがって、このような要求がある場合には、上記特許文献1に記載の電磁波吸収体を利用できる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光信号を活用し、光電変換を行う情報通信装置では、例えば、10~15GHzの周波数帯域の電磁波対策が求められている。しかしながら、前記の対策部材は60GHz以上の周波数帯域では、その効果を発揮するものの、10~15GHzの周波数帯域の電磁波対策において有効かどうかは不明である。
【0006】
本開示は、前記の10~15GHzという周波数帯域において、広い帯域幅で高い電磁波吸収特性を有する電磁波吸収体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の電磁波吸収体は、アクリル系樹脂に、カルボニル鉄粉と、中空粒子とを含む電磁波吸収体であり、前記アクリル系樹脂100体積部に対し、平均粒径1~10μmの前記カルボニル鉄粉70~80体積部と、平均粒径10~60μmの前記中空粒子40~150体積部とをそれぞれ含む。また、本開示の電磁波吸収体は、比誘電率が10~15であり、10~15GHzの周波数帯域において、反射損失量が20dB以上となる帯域幅が1.5GHz以上であり、体積抵抗値が1012Ω・m以上のシート状の電磁波吸収体である。
【0008】
前記中空粒子が平均粒径10~60μmの中空シリカである場合は、前記アクリル系樹脂100体積部に対し、前記中空シリカを40~150体積部含み、前記中空粒子が平均粒径30~60μmの中空ポリマーである場合は、前記アクリル系樹脂100体積部に対し、前記中空ポリマーを40~100体積部含む電磁波吸収体である。
【0009】
前記電磁波吸収体は、アスカーCにおける硬度が15~25であり、厚さ0.5~2.0mmのシートである。
【発明の効果】
【0010】
本開示の電磁波吸収体は、配合されたカルボニル鉄粉および中空粒子により、適度な比誘電率に調整され、10~15GHzという特定の周波数帯域において高い電磁波吸収特性を有する。
【0011】
また、本開示の電磁波吸収体はアクリル系樹脂を主材とした単層のシートであり、一般的に電気絶縁性を有するといわれる1012Ω・m以上の高い体積抵抗値を有する。それにより、電磁波吸収体それ自体がアンテナとなりにくいため、自家中毒を起こしにくいという特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】比較例1~比較例4の電磁波吸収特性を示すグラフである。
【
図2】実施例1、実施例2、比較例5の電磁波吸収特性を示すグラフである。
【
図3】実施例3~実施例5の電磁波吸収特性を示すグラフである。
【
図4】実施例6~実施例8の電磁波吸収特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本開示は、この実施の形態に限定されるものではない。
本開示の電磁波吸収体は、マトリックスであるアクリル系樹脂に対して、カルボニル鉄粉と、中空シリカまたは中空ポリマーである中空粒子を配合し、所定の厚みを有するシート状に成形してなる。
【0014】
本開示の電磁波吸収体におけるアクリル系樹脂は、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルから選ばれる(メタ)アクリレートを含むモノマーを重合してなるポリマーと、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルから選ばれる(メタ)アクリレートを含むモノマーと、を含むものが使用される。
【0015】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、i-アミル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、i-オクチル(メタ)アクリレート、i-ミリスチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、i-ノニル(メタ)アクリレート、i-デシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、i-ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、(共)重合する際に単独で用いる他、2種類以上を併用することもできる。
【0016】
また、本開示の電磁波吸収体で使用されるアクリル系樹脂は、カルボニル鉄粉や中空粒子の他、シート状に成形するための添加剤として、重合開始剤および多官能モノマー等の添加剤を配合した後、加熱をして硬化される。添加剤としては、前記の物の他にも、可塑剤、酸化防止剤、難燃剤、滑剤、紫外線吸収剤、安定剤、分散剤、着色剤、帯電防止剤、防腐剤などを配合することで、アクリル系樹脂の成形性や反応性などを調整することができる。
【0017】
重合開始剤は、過酸化物からなり、所定温度以上に加熱されると、ラジカルを発生してラジカル重合を開始させる。重合開始剤としては、例えば、ジ-(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ラウロイルパーオキサイド、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等の有機過酸化物が挙げられる。
【0018】
多官能モノマーは、分子内に2つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーからなり、硬度調整や耐熱性、耐薬品性などに影響する。分子内に2つの(メタ)アクリロイル基を有する2官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、2-エチル-2-ブチル-プロパンジオール(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ステアリン酸変性ペンタエリスリトールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(メタ)アクリロキシテトラエトキシフェニル]プロパン等が挙げられる。
【0019】
分子内に3つの(メタ)アクリロイル基を有する3官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス[(メタ)アクリロキシエチル]イソシアヌレート等が挙げられる。4官能以上の(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0020】
カルボニル鉄粉は、Fe(CO)5で表されるペンタカルボニル鉄を熱分解して得られる。カルボニル鉄粉は、粒度分布が均質な純鉄粉であり、本開示の電磁波吸収体で使用されるカルボニル鉄粉は、平均粒径が1~7μmのものを使用した。本開示の電磁波吸収体においては、アクリル系樹脂100体積部に対し、好ましくは70~80体積部、より好ましくは73~76体積部のカルボニル鉄粉を配合すると、電磁波吸収体は良好な電磁波特性を得ることができる。
【0021】
本開示の電磁波吸収体において、中空粒子としては中空ポリマーと中空シリカの2種類を使用した。中空粒子はシェル状であり、中空ポリマーは前記シェルがアクリル系樹脂からなり、中空シリカは前記シェルがシリカからなる。
【0022】
本開示の電磁波吸収体で使用される中空ポリマーは、平均粒径が35~55μmのものを使用した。本開示の電磁波吸収体においては、アクリル系樹脂100体積部に対し、好ましくは40~150体積部、より好ましくは43~140体積部の中空ポリマーを配合すると、電磁波吸収体の比誘電率を良好な範囲に調整することができる。
【0023】
本開示の電磁波吸収体で使用される中空シリカは、平均粒径が10~20μmの物と、平均粒径が30~50μmの物とを使用した。本開示の電磁波吸収体においては、どちらの粒径の物でも、アクリル系樹脂100体積部に対し、好ましくは40~150体積部、より好ましくは43~140体積部の中空シリカを配合すると、電磁波吸収体の比誘電率を良好な範囲に調整することができる。
【実施例】
【0024】
本実施例では、下記の材料を配合した後、所定の金型に入れ、65℃で10minの加熱硬化処理をすることで、シート状の電磁波吸収体を得た。なお、平均粒径はレーザー回折装置の粒度分布測定器で測定されたものである。
・アクリル系樹脂
アクリキュアー(登録商標)HD-A218(株式会社日本触媒製)
・重合開始剤
PERKADOX(登録商標)16(化薬アクゾ株式会社製)
・多官能モノマー
ライトアクリレート(登録商標)1.6HX-A(共栄社化学株式会社製)
・カルボニル鉄粉
S-1651(Ashland社製)、平均粒径:1~7μm
・中空粒子(中空ポリマー)
Expancel(登録商標)920DE40d30(日本フィライト株式会社製)、平均粒径:35~55μm
・中空粒子(小粒径中空シリカ)
グラスバブルズiM30K(3M社製)、平均粒径:10~20μm
・中空粒子(大粒径中空シリカ)
グラスバブルズS38(3M社製)、平均粒径:30~50μm
得られた電磁波吸収体のシートに対し、電磁波吸収特性に加えて、比誘電率、誘電損失、体積抵抗値について、下記の装置を用いて測定を行った。電磁波吸収体の配合と、それぞれの測定結果とを表1に示す。なお、電磁波吸収体の配合において、重合開始剤および多官能モノマーはシートを成形するための添加剤であり、電磁波吸収特性にはほぼ影響を与えないと考えられるため、表1への記載は省略する。また、本開示における電磁波吸収特性の帯域幅とは、反射損失量が20dB以上となる周波数帯域の幅のことを示す。なお、一般的に良好な電磁波吸収特性とされる基準は、電磁波の反射損失量が20dB以上とされることが多い。
・比誘電率、誘電損失
RF Impedance/Material Analyzer E4991A(Keysight社製)
・体積抵抗値
Hiresta-UP MCP-HT450(三菱ケミカル株式会社製)
・電磁波吸収特性(ピーク周波数、反射損失量、帯域幅)
NETWORK ANALYZER 8720D(Keysight製)
【0025】
【0026】
一般的に高周波帯になるほど、信号に対して誘電損失の影響が出やすくなる。そのため、誘電損失を如何に小さくするか、ということも電磁波対策の1つとして考えることができる。誘電損失は、比誘電率と誘電正接とに比例するため、誘電損失を小さくするためには、比誘電率または誘電正接の値を小さくするとよい。誘電正接は主材の物性に依存するものであるため、本開示の電磁波吸収体において、誘電損失を小さくする場合には、比誘電率の値を小さくするとよい。
【0027】
表1に記載される実施例1~実施例8および比較例1~比較例5から下記の傾向が読み取れる。
・比較例1~比較例4の比較…カルボニル鉄粉の配合割合が小さくなるほど、電磁波吸収体の比誘電率の値は小さくなる。
・比較例1と実施例1、実施例3、実施例6との比較…中空粒子を追加することで、電磁波吸収体の比誘電率の値は小さくなる。
・実施例1、実施例2、比較例5と実施例6~実施例8との比較…中空粒子の平均粒径が同程度の場合、中空ポリマーを使用した方が中空シリカを使用するよりも、電磁波吸収体の比誘電率の値は小さくなる。
・実施例3~実施例5と実施例6~実施例8との比較…中空粒子の材質が同じ場合、平均粒径の大きい中空粒子を使用した方が、比誘電率の値は小さくなる。
<体積抵抗値について>
電磁波吸収体は、その体積抵抗値が高いほど自家中毒を発生させにくい。自家中毒とは、情報通信装置などの装置内で発生した電磁波が、外部の他の装置だけでなく、同じ装置内に対しても影響を及ぼす現象である。従来の電磁波対策の1つとして、例えば金属筐体などの導電材で電磁波発生源を囲い、電磁波を外部に漏らさないように反射させる方法が挙げられる。しかし、近年の装置において、従来の電磁波対策は前記の自家中毒を発生させるリクスを高めてしまう可能性がある。本開示の電磁波吸収体は、導電層を有しておらず、単層の樹脂シートであるため、その体積抵抗値は従来の電磁波対策部材よりも高いことが予想される。そのため、本開示の電磁波吸収体は、特定の周波数帯域で高い電磁波吸収特性を発揮しつつ、上記の自家中毒は発生させにくいという優れた性質を有すると考えられる。
【0028】
カルボニル鉄粉は導電性の物質であるため、カルボニル鉄粉の配合割合が多いほど電磁波吸収体の体積抵抗値が低下することは、比較例1~比較例4からも明らかである。また、実施例1~実施例8および比較例5より、中空粒子を含む場合には、電磁波吸収体の体積抵抗値が上昇していることがわかる。一般的に「電気絶縁性」とは1012Ω・m以上(「帯電防止性」は106~1012Ω・m)の体積抵抗値を有することを示すため、わずかな差ではあるが、中空粒子を含むことで、本開示の電磁波吸収体は「電気絶縁性」を有するといえる。なお、中空粒子の配合により、電磁波吸収体に含まれるカルボニル鉄粉の配合割合は低下する。そのため、体積抵抗値の変化に対し、カルボニル鉄粉と中空粒子とで、どちらの影響が強いのかは不明である。
【0029】
次に、
図1、
図2、
図3、
図4にて示される各実施例および各比較例の電磁波吸収特性について比較を行った。
<比較例1~比較例4の電磁波吸収特性>
比較例1~比較例4には中空粒子が配合されていない。その結果、これらの電磁波吸収体においては、カルボニル鉄粉の配合割合が少なくなるほど、ピーク周波数は高周波側にシフトし、反射損失量は減少することがわかった。その結果、反射損失量が20dB以上となる帯域幅は狭く、体積抵抗値も10
12Ω・mに満たないことから、本開示における課題を解決することは難しいとわかる。
<実施例1、実施例2、比較例5の電磁波吸収特性について>
実施例1、実施例2、比較例5は、平均粒径35~55μmの中空ポリマーを含む。その結果、中空ポリマーの配合割合が多くなるほど、ピーク周波数は高周波側にわずかにシフトし、反射損失量は大きく減少することがわかった。実施例1と比較例5とを比べると、反射損失量には最大約18dBの差があり、後述の中空シリカを配合した実施例における反射損失量の変化と比較して、中空ポリマーは狭い周波数帯域での反射損失量への影響が大きいという傾向が見られた。また、中空ポリマーの追加により、中空粒子を配合していない電磁波吸収体よりも体積抵抗値は大きく向上し、10
12Ω・m以上となることがわかった。
<実施例3~実施例5の電磁波吸収特性について>
実施例3~実施例5は、平均粒径10~20μmの小粒径の中空シリカを含む。その結果、中空シリカの配合割合が多くなるほど、ピーク周波数は高周波側にシフトしたが、反射損失量の規則性は見られなかった。また、中空ポリマーと同様に、中空粒子を配合していない電磁波吸収体よりも体積抵抗値は大きく向上し、10
12Ω・m以上となることがわかった。
<実施例6~実施例8の電磁波吸収特性について>
実施例6~実施例8は、平均粒径30~50μmの大粒径の中空シリカを含む。その結果、小粒径の中空シリカを配合した実施例と同様の電磁波吸収体の特性が見られた。また、小粒径の中空シリカを配合した実施例よりもピーク周波数はわずかに低周波側になる傾向が見られた。
<本開示における電磁波吸収特性について>
図1~
図4の電磁波吸収特性の測定結果から、本開示の電磁波吸収体においては、下記の傾向があると考えられる。
・中空粒子を配合することで反射損失量を大きく向上させることができる。
・中空粒子を配合することで体積抵抗値を大きく向上させることができる。
・中空粒子として中空ポリマーを配合する場合、その配合割合は反射損失量に対する影響が大きく、ピーク周波数に対する影響は比較的小さい。
・中空粒子として中空シリカを配合する場合、その配合割合はピーク周波数に対する影響が大きく、反射損失量に対する影響は比較的小さい。
【0030】
以上の結果から、カルボニル鉄粉に加え、中空粒子を配合することにより、電磁波吸収体に「電気絶縁性」を備えさせつつ、カルボニル鉄粉のみの場合と比較して反射損失量を大きく向上させることが可能である。その際、10~15GHzの周波数帯域において、なるべく広い帯域幅で20dB以上の反射損失量を有するためには、カルボニル鉄粉に加え、中空シリカを配合することが効果的と考えられる。また、10~15GHzの周波数帯域において、限定的な周波数帯で20dB以上の反射損失量を有するためには、カルボニル鉄粉に加え、中空ポリマーを配合することが効果的と考えられる。
【0031】
次に本開示の電磁波吸収体に対し、単層の樹脂シートの特性として、硬度および粘着性を測定した。それらの測定結果を表2および表3に記載する。表2に記載の実施例および比較例は、中空粒子として中空ポリマーを用いた組成のものである。また、表3に記載の実施例は、中空粒子として大粒径の中空シリカを用いた組成のものである。
(硬度)
アスカーゴム硬度計C型(高分子計器株式会社製)を使用し、JIS K7312に準拠して、本開示の電波吸収体のシートに対して測定を行った。なお、本開示の電磁波吸収体のシートは厚くても数mm程度の厚さであり、そのままでは硬度を測定できない。そのため、硬度の測定時には、JIS K7312に記載されるように、同じ配合のシートを重ねて10mmにして対応した。
(粘着性)
本開示の電磁波吸収体のシートの粘着性については、シートをステンレス鋼板の表面に配置した後、その貼付け面が垂直または下向きになるようにし、シートが剥がれるかどうかを評価した。粘着性の評価基準は下記の3段階として、その結果を表2および表3に記載した。
【0032】
◎…貼付け面を下向きにしても剥がれない
○…貼付け面を垂直にしても剥がれない、貼付け面を下向きにすると剥がれる
×…貼付け面を垂直にすると剥がれる(固定には両面テープなどが必要)
【0033】
【0034】
【0035】
本開示の電磁波吸収体のASKER Cの硬度については、中空粒子が20vоl%含まれるシートは10以下となり、中空粒子が34vоl%含まれるシートは25以下となることがわかった。また、中空粒子の材質については、あまり大きな差はないことがわかった。なお、一般的にASKER Cの硬度は、20で「手のひら」程度の柔らかさであることが知られている。そのため、本開示の電磁波吸収体のシートは、どのシートも「手のひら」程度の柔らかさであり、シートを配置する際に応力がかかった場合でも、シートに歪みは発生しにくいことが予想される。
【0036】
本開示の電磁波吸収体の粘着性については、中空粒子が20vоl%含まれるシートは、そのシートの貼付け面を下向きにしても剥がれない程に高い粘着性を有し、中空粒子が34vоl%含まれるシートでも、その貼付け面を垂直にしても剥がれない程に比較的高い粘着性を有していることがわかった。粘着性については、どのシートも一定以上の効果を有し、中空粒子の材質や配合などでは大きな差は出ないことがわかった。
【0037】
以上の結果から、本開示の電磁波吸収体は、単層の樹脂シートとしても優れた物理的特性を有していることがわかる。厚みが薄く、別途粘着剤を塗布する必要なく貼付け可能である、といった特徴を有する本開示の電磁波吸収体は、例えば、光トランシーバーを搭載する小型装置内への配置に適していると考えられる。