(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】HBVの抗RNAウイルス粒子抗体
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20241030BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20241030BHJP
G01N 33/576 20060101ALI20241030BHJP
C07K 16/08 20060101ALN20241030BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20241030BHJP
【FI】
A61K39/395 S
G01N33/569 L
G01N33/576 B
C07K16/08 ZNA
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2022529168
(86)(22)【出願日】2020-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2020021721
(87)【国際公開番号】W WO2021245776
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】522410031
【氏名又は名称】株式会社RCMG
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】成松 久
(72)【発明者】
【氏名】安形 清彦
(72)【発明者】
【氏名】米山 博之
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/235584(WO,A1)
【文献】特開2004-290013(JP,A)
【文献】特表2017-538445(JP,A)
【文献】J. Hepatol.,2014年,Vol.60,p.S127 (P182)
【文献】Clinica Chimica Acta,2019年,Vol.493,p.S760
【文献】J. Virol.,2018年,Vol.92, Issue 24,e00798-18 (pp.1-24)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS (STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
B型肝炎ウイルス(HBV)のRNAウイルス粒子を特異的に識別す
るHBVの抗RNAウイルス粒子抗体
を含む、HBV診断のための医薬組成物であって、
抗RNAウイルス粒子抗体は、配列番号1に示される重鎖及び配列番号2に示される軽鎖を含
み、
試料は、Dnaseで処理されている、
HBV診断のための医薬組成物。
【請求項2】
試料をDnaseで処理する工程;及び
配列番号1に示される重鎖及び配列番号2に示される軽鎖を含むHBVの抗RNAウイルス粒子抗体を試料と接触させる工程を含む、HBVのRNAウイルス粒子の検出方法。
【請求項3】
試料が、核酸アナログ製剤治療を受けている又は受けていた患者に由来する、請求項
2記載の検出方法。
【請求項4】
試料が、血中HBV-DNAの抑制が確認された患者に由来する、請求項
2又は3記載のHBVのRNAウイルス粒子の検出方法。
【請求項5】
請求項
1記載の
医薬組成物を含む、HBVのRNAウイルス粒子を検出するためのキット。
【請求項6】
請求項
1記載の
医薬組成物を試料と接触させる工程を含
み、
試料は、Dnaseで処理されている、
HBVの予防又は治療を計画するためのデータの提供方法。
【請求項7】
請求項
1記載の
医薬組成物を試料と接触させる工程を含
み、
試料は、Dnaseで処理されている、
HBVの予防又は治療のための医薬をスクリーニングする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B型肝炎ウイルス(HBV)のRNAウイルス粒子(RNA virion)抗体、それを用いたHBVのRNAウイルス粒子の検出方法、及びHBVのRNAウイルス粒子を検出するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
全世界で約20億人の既感染者、約3億人の慢性感染患者が存在するB型肝炎ウイルス(HBV)は、慢性肝炎、肝硬変、肝癌を引き起こし、肝癌の原因のうち20-30%を占め、年間88万人が死亡する感染症である(非特許文献1-5)。1970年に感染の本体であるDane paticle(Dane粒子)が発見されたことを機に、1972年にそのenvelopeであるHBs抗原(Hepatitis B virus surface antigen)の定性検査による診断が可能となった後、1979年にHBV-DNAのクローニングによってDane粒子の本体がDNA含有virion(complete virionもしくはDNA virion)であると判明し、1980年にはPCR法でHBV-DNA検査での診断が広く行われるようになった(非特許文献6)。以降、HBe抗原・抗体など種々の検査法により、感染状態をより詳細に把握し得るようになってきたが、感染有無を知るために、HBV-DNAがモニタリングの主流であることは今日も変わりはない。
【0003】
治療においては、抗ウイルス活性を要するインターフェロン・アルファ(IFN-α)が1990年に、初の核酸アナログ治療薬であるLamivudineが1998年に登場し、2000年以降ペグ化インターフェロン(Peg-IFN)や種々の核酸アナログ製剤(NUC)が治療の花形となった(非特許文献6)。HBVマーカーであるB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)やHBV-DNAを抑制し得ることから、HBV感染はコントロール可能な感染症として考えられるようになってきた。しかし、一方では、既存検査陰性の献血ドナーからの輸血や針刺し事故等によりHBVが感染する現象が存在していた。HBVの場合のより深刻な問題は、無症状の感染者がそれと知らずに健常者に感染させ、しかも劇症化することである。既存の検査で十分なのか、が新たな疑問となった。そこで、2010年代になり、検出感度を増強するため、HBsAgの定量化(qHBsAg)や次世代PCR法によるHBV-DNAを検出する方法の開発が着目されてきた。
【0004】
そのような中、2012年にHBVが肝細胞に感染するための受容体が初めて明らかにされた(非特許文献7)。肝細胞におけるHBVのライフサイクル研究が可能となったことから試験管内の実験系がようやく確立され、一気にその解明が進んた。HBVは、核内に移行してヒト遺伝子に組み込まれる(integrated DNA)だけでなく、核内で完全閉鎖二本鎖DNA(convalently closed circular deoxyribonucleis acis: cccDNA)として長期間に渡り肝臓内に残存することが判明した。このcccDNAがHBV再活性化を引き起こす本質と考えられる。しかしながら、現状のIFN及びNUC治療では完全排除が不可能である(非特許文献8-11)。
【0005】
HBVに対するワクチンも存在するが、未だに年間約3000万人が新たに感染し、450万人が慢性肝炎に対する治療を継続している(非特許文献1, 2)。HBV治療の目標は生命予後とQOLの改善であることは疑いの余地はないが、臨床における具体的な治療目標は、1)短期目標として血中HBV-DNAの陰性化又は抑制、2) 長期目標として血中qHBsAgの消失、となる(非特許文献9-11)。これにより臨床的治癒の状態になり、発癌のリスクが減少する。cccDNAの測定は、侵襲的な肝生検を実施しない限りできないため、実臨床としては現実的ではなく、血中qHBsAgの消失により肝臓内のcccDNAをほぼ完全に排除し得たと考えることができる。現在の新たな治療ゴールは、血中HBV-DNAの陰性化又は抑制)から、qHBsAg消失(HBsAg loss)へとパラダイム・シフトが起こった(非特許文献9-11)。
【0006】
近年著しく進歩したNUC治療により、Sustained virological resoponse (SVR: 持続的ウイルス抑制)の達成、さらには血中HBV-DNAの陰性化をも比較的迅速に獲得できるようになってきた。しかし、「陰性化」とは正確には「測定検出限界以下までの抑制」であり、実際にはNUC治療中に血中HBV-DNAが陰性化している患者血清は感染能力があるという、非常にセンセーショナルな事実が2019年に実験的に初めて立証された(非特許文献12)。血中HBV-DNAが陰性化した以降、血中qHBsAgが消失するまでには、通常極めて長期間を要するか、生涯に渡り消失しない症例がほとんどである(非特許文献13)。そのような長期にわたる血中HBV-DNAの抑制、又は血中HBV-DNAの陰性化期間に感染能力が消失しているかどうかを測る方法がないため、NUCをいつ休薬して良いかについての判定が困難であり、患者はほぼ生涯の長期服用を余儀なくされる。したがって、長期服用に伴う副作用や医療経済の圧迫も新たに、深刻な課題として浮上している。それにも関わらず、その長期の間も血中HBV-DNA測定を3か月に1回程度の頻度で実施して再活性化の兆候などをモニタリングしなければならない。PCR検査が高価であることから、同じく医療経済の圧迫が問題となっている。また、PCR機器やリソースが限定されている多くの地域・施設においては、血中HBV-DNA測定自体へのアクセスが極めて困難という問題もある。更に、如何に検出感度を進化させてもほぼ限界のレベルまできており、かつ、PCRエラーによる偽陽性、偽陰性の問題も完全に払拭しきれていない。
【0007】
新規治療の必要性においても、cccDNAとHBVライフサイクルの解明から、cccDNA本体やその転写活性(
図1)を標的とした本質的な新規治療薬の開発が極めて活発化している(非特許文献9-11)。しかしながら、こうした新規作用薬の効果を検証するには、従来の血中DNA陰性化又は抑制後qHBsAg消失を目指すまでの極めて長期の間に、感染能力を検証できる指標が現時点で不足していることも大きな阻害要因になってきた。qHBsAgはHBV感染の存在確認となる広い指標ではあるが、その99%以上は感染能力のないSVP(subviral particle)であり、(実際に感染力のあるDNA particleの100,000倍以上)、その中から感染能力の高いDNA paricleを効率よく検出することができない(非特許文献14)。更に、SVR長期症例の主体でもあるHBe抗原陰性肝炎においては、cccDNAよりもintegrated DNA由来のenvelopeが主体である事も判明した(非特許文献15)。すなわち、HBV存在有無を確認するための決定的な指標が必要不可欠であるところ、生涯にわたる感染能力の把握が困難であるため、別指標が切望されている。
【0008】
血中HBV-DNAが陰性化又は抑制した以降、血中qHBsAgが消失するまでの長期間に、HBV感染能力を検出する指標、とりわけ生検を要しない非侵襲的な血中マーカーを確立することが、健常者への水平・垂直感染(伝染)の防止のみならず、医療コストの視点でも極めて喫緊の課題となった。そのような背景の中、cccDNAの転写活性を反映し得る指標として(
図1)、HBコア関連抗原(HBcrAg)と、2018年以降はHBV-RNAが新たに注目を浴びつつある(非特許文献13)。HBcrAgは、cccDNA転写産物であるコア関連抗原、すなわち、HBe抗原、p22r抗原、pregenomic RNA(pgRNA)、HBc抗原、の4種を検出する優れた理論に基づいたマーカーであり、発癌との相関があるとの報告から注目されている(非特許文献16)。しかしながら、コア関連抗原をenvelope粒子や免疫複合体からリリースさせるというアーティフィシャルな前処置が必須であること、また測定レンジが3-7 logU/mLと狭いことから、7を超える高値症例では追加希釈が必要になったり、3を下回る低値症例(DNA陰性化のほとんどの症例が相当する)では、正確な病勢を反映するモニタリングができないという欠点は克服されていない。(非特許文献13-14)。
【0009】
2016年、HBV pgRNAが血中ではenvelopeに被覆されたvirion(ウイルス粒子)として存在することが実験的に証明された(非特許文献17)。cccDNAの転写活性及びリザーバーサイズを反映する新規マーカーとしてにわかに注目され始め、現在非常にホットな新研究領域になっている。HBe抗原セロコンバージョンの予測マーカー、NUC中止判定マーカーとしての可能性や、リザーバーサイズをより反映するHBe抗原陰性肝炎におけるIFNの効果判定や中止判定として有用であることを示唆する報告が相次いでいる(非特許文献18-20)。肝生検によるcccDNA測定による継続的病勢モニタリングは現実的には不可能であることから、最も期待される血中マーカーとして台頭してきたのである。しかしながら研究レベルでは盛んである一方で、臨床診断薬としての実用性に課題が残っている。RACE法からPCR法に置き換わってきているが、未だ十分なコンセンサスをされたPCR法が存在せず、ラボレベルで混在しているため、今後の調整が大きなハードルである(非特許文献13-14)。また、PCR法が確立された後も、HBV-DNAと同様に、コストやリソース限定の問題が生じてくると容易に予測でき、むしろ血清の保存条件がDNAより厳しいことから、その点でのハードルも加わってくると予測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
WO2019/235584効果的な肝炎ウイルスの抗体誘導法、抗体および検出系
【非特許文献】
【0011】
1) WHO. Guidelines for the prevention, care and treatment of persons with chronic hepatitis B infection. March 2015.
2) WHO. Guidelines on hepatitis B and C testing. February 2017.
3) Terrault NA, Loch ASF, McMahon BJ et al. Update on prevention, diagnosis, and treatment of chronic hepatitis B: AASLD 2018 hepatitis B guidance. Hepatol 67: 1560, 2018.
4) European association foe the study of the liver. EASL 2017 clinical practice guideline on the management of hepatitis B virus infection. J Hepatol 67: 370, 2017.
5) 日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会。B型肝炎治療ガイドライン(第3.1版)。2019年3月。
6) Marzio DH, Hann H. Then and now: The progress in hepatitis B treatment over the past 20 years. WJG 20: 401, 2014.
7) Yan H, Zhong G, Xu G et al. Sodium taurocholate cotransporting polypeptide is a functional receptor for human hepatitis B and D virus. eLife 1: e00049, 2012.
8) Nassal M. HBV cccDNA: viral persistence reservoir and ley obstacle for a cure of chronic hepatitis B. Gut 64: 1972, 2015.
9) Lok AS, Zoulim F, Dusheiko G et al. Hepatitis B cure: From discovery to regulatory approval. J Hepatol 66: 1296, 2017.
10)Revill PA, CHisari FV, Block jM et al. A global scientific strategy to cure hepatitis B. Lancet Gastroenterol Hepatol. 4: 545, 2019.
11)Cornberg M, Lok AS. Terrault NA et al. Guidance for design and endpoints of clinical trials in chronic hepatitis B - Report from the 2019 EASL-AASLD HBV treatment endpoints conference. J Hepatol 72: 539, 2020.
12)Burdette D. Evidence for the presence of infectious virus in the serum from chronic hepatitis B patients suppressed on nucleos(t)ide therapy with detectable but not quantitative HBV DNA. J Hepatol 70: suppl e95, 2019.
13)Charre C, Levrero M, Zoulin F, et al. Non-invasive biomarkers for chronic hepatitis B virus infection management. Antiviral Res 169: 104553, 2019.
14)Hu J, Liu K. Complete and incomplete hepatitis B virus particles: Formation, function, and application. Viruses 9: 56, 2017.
15)Wooddell CI, Yuen MF, Chan HLY et al. RNAi-based treatment of chronically infected patients and chimpanzees implicates integrated hepatitis B virus DNA as a source of HBsAg. Sci Trans Med 9: 409, 2017.
16)Inoue T, Tanaka Y. The role of hepatitis B core-related antigen. Genes 10: 357, 2019.
17)Wang J, Shen T, Huang X et al. Serum hepatitis B virus RNA is encapsidated pregenome RNA that may be associated with persistence of viral infection and rebound. J Hepatol 65: 700, 2016.
18)Liu S, Zhouu B, Valdes JD et al. Serum HBV RNA: a new potential biomarker for chronic hepatitis B virus infection. Hepatol 69: 1816, 2019.
19)Liu YY, Liang XS. Progression and status of antiviral monitoring in patients with chronic hepatitis B: From HBsAg to HBV RNA. WJG 10: 603, 2018.
20)Farag MS, van Campenhout MJH, Pfefferkorn M et al. Hepatitis B virus RNA as early predictor for response to pegylated interferon alpha in HBeAg-negative chronic hepatitis B. Clin Infect Dis pil: ciaa013, 2020.
21)Wagatsuma T, Kuno A, Angata K et al. Highly sensitive glycan profiling of hepatitis B viral particle and a simple methods for Dane particle enrichment. Anal Chem 90: 10196, 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、B型肝炎ウイルス(HBV)のRNAウイルス粒子(RNA virion)を特異的に識別することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
HBsAgは、感染能力のないSVP(1014/mL)、DNA及びRNAの入っていない空粒子(Empty virion: 1011/mL)、感染能力の本体であるDNAを含有するcomplete virion(Dane particle:109/mL)、及び近年存在が証明されたRNAを含有するvirion(RNA virion:106/mL)から構成されている。しかし、その血中での存在比率は()内で示した通り、RNA virionを1とすると、DNA virionが1,000倍、Empty virionが100,000倍、SVPが100,000,000倍と試算される(非特許文献14)。qHBsAgやHBcrAgも理論的にはRNA virionに反応し得るものの、このようにRNA virionの存在比率が極小である。たとえ、qHBsAgの測定感度を増強しても、課題解決できるというレベルでは無い。
【0014】
HBsAgのenvelopeは、その内部にRNAを含有しているか否かに関わりなく、Sタンパク質、Mタンパク質、Lタンパク質で構成されている。これまで同じ構成タンパクでも糖鎖付加パターンが異なることが見出されており、膨大なHBsAgの中から効率よくvirionを検出する方法が探索されてきた(非特許文献21)。
【0015】
O型糖鎖付加Pre-S2タンパク質(O-glycosylated Pre-S2)を認識する抗体(以下:「Hepatitis B surface antigen glycan isomer:HBsAgGi」という)は知られており、試験管内におけるHBVウイルスの感染阻害実験を実施したところ、中和活性を有することが判明している(特許文献1)。
【0016】
本発明は、HBsAgGiがRNA virionを特異的に認識することを発見したことに基づくものである。HBsAgGiを用いて、実際の生体における血液サンプルにおいてRNA virionに結合する可能性については全く予測できないことであった。とりわけヒト血液中には食事由来の糖鎖も含めて極めて膨大・多彩な糖鎖が存在するため、一般に糖タンパク質に対する抗体を使用しても血液サンプルから目的の糖タンパク質を検出することは容易ではないためである。
【0017】
発明者らは、実際の慢性B型肝炎患者血清を用いて、HBsAgGiによる免疫沈降試験を実施し、HBsAgGiに結合する分画において何が認識されているのか鋭意調べたところ、驚くべきことに血中のHBV-RNAを認識していることが明らかになった(
図2)。この発見は、RNAを含有するvirionのenvelopeに結合することを意味し、まさにRNA virionを捕獲するという全く予想外の作用を有することが判明した。しかも、NUC治療前のHBV-DNA高値の状態でのみならず、NUC治療により血中HBV-DNAが陰性化した患者において、血中RNA virionを検出できていた。
【0018】
さらに、免疫沈降前のHBV-RNA値、HBsAgGiに結合しない分画におけるHBV-RNA値も測定することにより、RNA virionとfree RNAの識別も可能であることも分かった(
図2)。
【0019】
NUC治療により血中HBV-DNAが陰性化又はSVR化する患者において、HBsAg lossを目指し治療を継続する長期間に、感染能力を把握し、薬剤の中止・再開の目安となりうるマーカーとして血中HBV-RNAが重要視されつつある中、PCRによる診断方法が確立されておらず、また測定可能な領域・施設が限定的であるという課題が克服されていなかった。
【0020】
本願は、HBsAgGiは、免疫的手法で簡便にRNA virionを検出・測定できる分子を用いて、Point-of-care的に、ベッドサイドレベルでの測定をも可能にする方法を提供する。
【0021】
これまでウイルスDNAやRNAの量の測定はPCRでコピーを増幅して測定する方法が主流であったが、本発明は、そうした現状を一気に様変わりさせる画期的な技術である。Silent epidemic virusとして全世界で広く感染者の存在するHBVであるがゆえに、高価で装置も必要なPCR検査だけでは感染能力を有する患者の拾い上げが十分に行き渡らず、感染が後を絶えない。簡便迅速検査を可能とする本発明は、これまで拾い上げできていない地域への展開とそれによる世界規模の無症候性感染者から健常者への感染予防にも貢献するものである。
【0022】
より具体的には、本発明は以下の〔1〕~〔5〕を提供するものである
[1] B型肝炎ウイルス(HBV)のRNAウイルス粒子を特異的に識別する、HBVの抗RNAウイルス粒子抗体。
[2] 配列番号1に示される重鎖のアミノ酸配列におけるCDR配列及び配列番号2に示される軽鎖のアミノ酸配列におけるCDR配列、
配列番号3に示される重鎖のアミノ酸配列におけるCDR配列及び配列番号4に示される軽鎖のアミノ酸配列におけるCDR配列、
配列番号5に示される重鎖のアミノ酸配列におけるCDR配列及び配列番号6に示される軽鎖のアミノ酸配列におけるCDR配列、
配列番号7に示される重鎖のアミノ酸配列におけるCDR配列及び配列番号8に示される軽鎖のアミノ酸配列におけるCDR配列、又は
それらとそれぞれ70%の同一性を有する重鎖CDR配列及び軽鎖CDR配列
を含む、前記[1]記載のHBVの抗RNAウイルス粒子抗体。
[3] 配列番号1に示される重鎖のアミノ酸配列におけるCDR配列及び配列番号2に示される軽鎖のアミノ酸配列におけるCDR配列を含む、前記[2]記載のHBVの抗RNAウイルス粒子抗体。
[4] 配列番号1に示される重鎖及び配列番号2に示される軽鎖、
配列番号3に示される重鎖及び配列番号4に示される軽鎖、
配列番号5に示される重鎖及び配列番号6に示される軽鎖、
配列番号7に示される重鎖及び配列番号8に示される軽鎖、又は
それらとそれぞれ70%の同一性を有する重鎖及び軽鎖
を含む、前記[1]~[3]のいずれか一項記載のHBVの抗RNAウイルス粒子抗体。
[5] 配列番号1に示される重鎖及び配列番号2に示される軽鎖を含む、前記[4]記載のHBVの抗RNAウイルス粒子抗体。
【0023】
本発明はさらに以下に関する。
[6] 前記[1]~[5]のいずれか一項記載の抗体を試料と接触させる工程を含む、HBVのRNAウイルス粒子の検出方法。
[7] 試料をDnaseで処理する工程を含む、前記[6]記載の検出方法。
[8] 試料が、核酸アナログ製剤治療を受けている又は受けていた患者に由来する、前記[6]又は[7]記載の検出方法。
[9] 試料が、血中HBV-DNAの抑制が確認された患者に由来する、前記[6]~[8]のいずれか一項記載のHBVのRNAウイルス粒子の検出方法。
[10] 前記[1]~[5]のいずれか一項記載の抗体を含む、HBVのRNAウイルス粒子を検出するためのキット。
[11] 前記[1]~[5]のいずれか一項記載の抗体を試料と接触させる工程を含む、HBVの予防又は治療を計画するためのデータの提供方法。
【発明の効果】
【0024】
慢性B型肝炎(CHB)患者において、NUCにより従来の治療目標の主体であったHBV-DNA陰性化または持続的抑制が実現できる時代になってきた一方、そのような患者血清に感染力が残っていることが明らかになり、従来の検査だけでは全く対応ができない状況になってきた。そのような中、未だに毎年新たに3000万人にのぼるHBV感染患者が出現している。そのため、感染能力の把握や治療継続・中止の決定において、新たなHBVマーカーが切望されており、とりわけ血中HBV-RNAを測定する重要性が極めて高まっている。HBV-RNAを検出する分子生物学的手法は、RACE法やPCR法しかなく、実用的な診断の手法がなく、未だ研究室レベルの展開にとどまっている。
【0025】
本発明の免疫学的手法、すなわち抗原-抗体反応によれば、HBV-RNAの中でもenvelopeに被覆されたRNA virionを迅速簡便に検出できること、さらにはRNA virionとフリーのRNA(ヌクレオカプシドRNA)を識別し得ること、が初めて明らかになった。
【0026】
従来では、RNA virionをPCR以外の手法で捕獲することは考えられていなかったが、本発明によれば、画期的に、汎用されている簡便な免疫法でRNA virionを検出することができる。
【0027】
本発明によれば、高価な試薬・装置を必要とし、測定できる施設・地域が限定されていたPCR法によらずとも、安価にかつどのような環境下においても、HBV感染能力の判定が可能となり、CHB患者のQOL、さらには医療経済効果を促進するとともに、silent endemic virusの新規感染者の減少に貢献することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】HBV感染の本体であるcccDNAの転写産物がどのような各種血中HBVマーカーと関連するかを示した図である。4種のウイルス粒子(virion)、すなわちSVP、empty virion、DNA virion、RNA virion、のCHB患者血中における存在量の典型的な比較を血中1 mL中のコピー数で記す。
【
図2】NUC治療開始前のCHB患者血清、および、NUC治療48週間後に血中HBV-DNAが陰性化(検出限界以下に抑制)されたCHB患者血清を、HBsAgGi(Gi)で免疫沈降した後のGi結合分画及び非結合分画におけるHBV-RNA数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者は、O型糖鎖付加Pre-S2タンパク質(O-glycosylated Pre-S2)を認識する抗体(HBsAgGi)を作成し、HBsAgGiを識別することにより、血中RNA virionを検出できることを見出した。
【0030】
本発明において、「B型肝炎」とは、HBVとも表現され、慢性B型肝炎、急性B型肝炎、劇症B型肝炎のいずれであってもよく、「B型肝炎ウイルス」とは、それらのB型肝炎を発症させる能力を有するウイルスを意味する。本発明は、有利には、慢性B型肝炎(CHB)のRNAウイルス粒子を特異的に識別する抗体を提供する。
【0031】
本発明において、「RNAウイルス粒子」とは、RNAを含むHBV粒子であればよい。
【0032】
本発明における抗体は、B型肝炎ウイルスのRNAウイルス粒子抗原を特異的に識別するHBVの抗RNAウイルス粒子抗体であれば、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよい。また、本発明の抗体は、当該技術分野における慣用の方法により作成することができるいかなる抗体であってもよい。
【0033】
特には、本発明の抗体は、
配列番号1に示される重鎖のアミノ酸配列におけるCDR配列及び配列番号2に示される軽鎖のアミノ酸配列におけるCDR配列、
配列番号3に示される重鎖のアミノ酸配列におけるCDR配列及び配列番号4に示される軽鎖のアミノ酸配列におけるCDR配列、
配列番号5に示される重鎖のアミノ酸配列におけるCDR配列及び配列番号6に示される軽鎖のアミノ酸配列におけるCDR配列、
配列番号7に示される重鎖のアミノ酸配列におけるCDR配列及び配列番号8に示される軽鎖のアミノ酸配列におけるCDR配列、又は
それらにおける3つの重鎖CDR配列及び軽鎖CDR配列のそれぞれに対し、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するCDR配列を含む抗体であることが好ましく、配列番号1に記載されるアミノ酸配列における3つの重鎖CDR配列、及び配列番号2に記載されるアミノ酸配列における3つの軽鎖CDR配列を含むことがより好ましい。
【0034】
さらには、本発明の抗体は、
配列番号1に示される重鎖及び配列番号2に示される軽鎖、
配列番号3に示される重鎖及び配列番号4に示される軽鎖、
配列番号5に示される重鎖及び配列番号6に示される軽鎖、
配列番号7に示される重鎖及び配列番号8に示される軽鎖、又は
それら重鎖及び軽鎖のそれぞれに対し、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖及び軽鎖を含む抗体であることが好ましい。
なお、重鎖CDR配列及び軽鎖CDR配列の組み合わせは、前記したCDR配列のどのような組み合せであってもよい。
【0035】
本発明は、より有利には、HBVのRNAウイルス粒子を特異的に識別する、HBVの抗RNAウイルス粒子抗体に関するが、特にはHBVのRNAウイルス粒子に特異的なO型糖鎖付加Pre-S2タンパク質を認識する抗体、より特には配列番号1に示される重鎖のアミノ酸配列におけるCDR1配列、CDR2配列、及びCDR3配列を含む重鎖、配列番号2に示される軽鎖のアミノ酸配列におけるCDR1配列、CDR2配列、及びCDR3配列を含む軽鎖を含む、HBVの抗RNAウイルス粒子抗体に関する。
【0036】
本発明は、さらに有利には、配列番号1に示される重鎖及び配列番号2に示される軽鎖を含む、抗体に関する。
【0037】
本発明は、前記抗体のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸にも関する。有利には、本発明は、配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードする配列番号9に示される塩基配列、配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードする配列番号10に示される塩基配列、配列番号3に示されるアミノ酸配列をコードする配列番号11に示される塩基配列、配列番号4に示されるアミノ酸配列をコードする配列番号12に示される塩基配列、配列番号5に示されるアミノ酸配列をコードする配列番号13に示される塩基配列、配列番号6に示されるアミノ酸配列をコードする配列番号14に示される塩基配列、配列番号7に示されるアミノ酸配列をコードする配列番号15に示される塩基配列、又は配列番号8に示されるアミノ酸配列をコードする配列番号16に示される塩基配列を有する、核酸に関する。
【0038】
本発明は、前記核酸を含む発現ベクターにも関する。
【0039】
本発明における抗体は、当該技術分野で知られる一般的な方法により、作製することができる。
【0040】
本発明は、前記抗体を試料と接触させる工程を含む、HBVのRNAウイルス粒子の検出方法を提供する。
【0041】
本発明の検出方法では、有利には、試料をDnaseで処理する工程を含む。
【0042】
本発明の上記抗体の作製方法及び検出方法は、当該技術分野における慣用の方法であればよい。HBsAgGiの作製、及びこれを用いたELISA法、化学発光法は、当該技術分野における一般的な免疫学的検査方法を、当業者により適宜実施することが可能である。また、本発明を種々の測定機器へ適宜適合させることも、当業者であれば容易に可能である。さらにフィンガー・スティック法などにより簡便迅速検査キットを作製することも、当業者であれは容易に可能である。特には、本発明のHBsAGgGiの作製、及び検査方法は、例えばWO2019/235584の記載により行うことができる。
【0043】
本発明において検査の対象となるのは、HBVに感染している個体すべてである。HBV治療薬で治療を継続している患者はもちろんのこと、治療を中止して経過を観察されている患者、無症候性キャリア、すべてに適用される。
HBV感染能力の把握により、治療効果の判定、治療薬の選択、治療方針の決定、治療の継続・中止の判断、など、HBV診療全般に用いることができる。
【0044】
本発明において検査の対象となるのは、HBV感染のリスクが高い健常者に対しても用いることができる。具体的には、ヘルスケアワーカー、HBV感染者の家族などが該当する(WHO guidelines on hepatitis B and C testing 2017、にリストアップされている集団すべて)。
【0045】
本発明において検査の対象となるのは、献血ドナーに対しても用いることができる。水辺感染の予防などに貢献する。
【0046】
本発明において検査の対象となるのは、妊婦に対しても用いることができる。垂直区感染の予防などに貢献する。
【0047】
本発明において検査の対象となるのは、外科手術の術前検査や、内視鏡検査の検査前検査などに対しても用いることができる。実施する検査や手術により水平感染のリスクが生じるか否かを判定するのに貢献する。
【0048】
本発明において検査の対象となるのは、脂肪肝などの肝障害を呈した患者に対して用いることができる。肝障害の陰にHBV感染がオーバラップしていたり隠れていたりする患者を鑑別することにより、治療方針の修正と患者QOLの向上に貢献する。
【0049】
本発明において検査の対象となるのは、全成人である。従来技術では、HBV感染と診断できるのは、真のHBV感染者の10%にしか過ぎないと報告されていることから(文献:Polaris Observatory Collborators Global prevalence, treatment, and prevention of hepatitis B virus infection in 2016: a modeling study. Lancet Gastrotenreol Hepatol 3: 383-403, 2018)、全成人に対して、オプション的に検査をすることも非常に有意義である。
【0050】
本発明における前記対象、患者、感染者に由来する試料は、いかなる生体試料であってもよく、B型肝炎ウイルスへの感染が疑われる被検体の血液、血清、唾液、精液、膣分泌液、傷口滲出液をはじめとする体液あるいは組織抽出物が挙げられるが、試料取得及び取り扱いの簡便性を考慮すると、血液、血清、唾液が好ましい。
【0051】
本発明の検出方法によれば、有利には、慢性B型肝炎ウイルスの患者、核酸アナログ治療の開始前、開始後、開始から1週間、2週間、4週間、8週間、16週間、48週間後、48週後以降のHBV患者、血中HBV-DNAの抑制が確認された患者、HBs抗原が消失した患者、生涯においてHBs抗原が消失しない患者、インターフェロン治療前後の患者、開発段階の新薬の投与前後の患者に由来する試料におけるRNAウイルス粒子を検出することができる。試料は、いかなる生体試料であってもよい。試料が、核酸アナログ製剤治療を受けている又は受けていた患者に由来するばあいには、特に有利である。
【0052】
本発明の検出方法によれば、血中HBV-DNAの抑制が確認された患者における、ウイルス粒子の検出も精度よく、簡便に、かつ短時間で行うことができ、非常に有利である。
【0053】
本発明における血中HBV-DNAの抑制が確認された患者とは、HBVの治療過程で、任意の検出方法、例えばPCR法や従来の抗体検出法により、血中HBV-DNAの低減が確認された患者、持続的抑制(SVR)が確認された患者、血中HBV-DNAの陰性化が確認された患者であればよい。本明細書において、HBV-DNA陰性化(HBV-DNA undetectable)というときは、検出されるDNAコピー数が0であることをいい、HBV-DNA抑制(HBV-DNA suppression)というときは、検出されるDNAコピー数が、例えば4.0 log copies/mL以下、好ましくは3.0 log copies/mL以下、より好ましくは2.1 log copies/mL以下をいう。本明細書ではHBV-DNA陰性化とHBV-DNA抑制の両者は、互換的に使われることもある。
【0054】
本発明は、前記抗体を試料と接触させる工程を含む、HBVの予防又は治療を計画するためのデータの提供方法に関する。本発明によれば、症状の再発生や、感染性の有無といった、従来技術では困難であった、HBVの予防又は治療を計画するための指標となるデータを提供することができる。
【0055】
本発明は、さらに前記抗体を試料と接触させる工程を含む、HBVの予防又は治療のための医薬をスクリーニングする方法に関する。本発明によれば、cccDNAの転写活性を反映し得るより正確な指標に基づいて、HBVの予防又は治療のための候補となる医薬をスクリーニングすることができる。
【0056】
なお、本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
<実施例1>
【0059】
HBsAgGiを用いた免疫沈降実験には、CHB患者血清を用いた。
<使用した抗体>
HBsAgGi: 配列番号1に示される重鎖及び配列番号2に示される軽鎖を有する抗体
<患者属性>
CHB(慢性患者血清):
未治療(核酸アナログによる治療暦の無い)の慢性B型肝炎(HBs抗原陽性が6か月以上持続)患者(n=47)を対象に、核酸アナログ治療前(0週)と治療後48週の血清を用いた。
治療前の血中HBV-DNA数値は、6.6 +/- 1.0 (平均 +/- SD) Log Copies/mL(n=47)と、高い血中ウイルス量を呈していた。
<免疫沈降>
Protein LoBind Tube (Eppendorf)にBiotinylated HBsAgGi(1μg/μL)を2 μLとStreptavidin-conjugated magnetic beads 10 μLの比で混合し4℃で30 min撹拌した。HBsAgGi-magnetic beads10 μLにHBV血清サンプル 10 μL, TBS-T 80 μLを加えて4℃で混合した。
16時間後にチューブを回収しスピンダウンを続けてマグネットスタンドに静置した。上清を新しいチューブに移し、サンプルとした。
また、RNAウイルス粒子とFreeのRNA画分をあわせた総RNA成分の量をベースラインとするため、PCR検出系も実施した。PCR検出系では、HBV RNAをRNeasy Mini Kit (QIAGEN)を用いて抽出した(40 μLで溶出)。
患者血清サンプルから抽出したRNAの8 μLをDNase (Promega)で処理した後に、SuperScript IV (ThermoFisher) とH-RT (5’- GACGTTGTAAAACGACGGCCAGGCCTCAAGGTCGGTCGTTGAC -3’)を用いてRT反応を行い、cDNA(患者血清由来cDNAサンプルとして)を合成した。
患者血清由来cDNAサンプルを用いて、PCR反応を実施した。PCR反応におけるプライマーはH-F (5’- CTGTGCCTTCTCATCTGCCG-3’)、 M13-F (5’- GACGTTGTAAAACGACGGCCAG-3’)を用いて実施し、Applied Biosystems 7500 Real-Time PCR system (ThermoFisher)を用いて測定した。
【0060】
詳細は、以下の通りである。
ステップ1:HBV-RNAの調整
HBV RNAをRNeasy Mini Kit (QIAGEN)を用いて抽出した。
1) 600 μL RLT plus buffer (1% 2-Me) でHBVを含む画分を溶解した。
2) gDNA Eliminator spin columnに移した。
3) 微量遠心機にて、室温、8000×gで30秒間遠心分離した。
4) カラム通過溶液に、70%エタノール600 μLを添加し、混和した。
5) RNeasy spin columnに移して、室温、8000×gで30秒間遠心分離した。
6) カラム上層に、RW1 buffeを700 μL添加した。
7) 室温、8000×gで15秒間遠心分離した。
8) カラム上層に、RPE buffeを500 μL添加した。
9) 室温、8000×gで15秒間遠心分離した。
10) カラム上層に、RPE bufferを500 μL添加した。
11) 室温、8000×gで2分間遠心分離した。
12) カラム上層に、RNase-free Waterを40 μL添加した。
13) 室温、8000×gで1分間遠心分離し、HBV RNAを溶出した。
【0061】
ステップ2:HBV-RNAの測定(RT反応)
1)DNAを除くため、下表に示す反応液を調製し、37°Cで30分反応させた。
【表1】
【0062】
2)その後、RQ1 DNase Stop Solution 1 μLを加え65°C 10分反応させた。これにより、DNaseを失活させた。
3)下表に示す反応液を調製し、65°Cで5分反応させる逆転写反応(RT)を行った。
【表2】
【0063】
4)RT反応後、サンプルを氷上に1分静置した。
5)4)のサンプルに、下表に示す反応液を添加した。
【表3】
【0064】
6)添加されたサンプルを、50°Cで15分反応した後に、80°Cで10分加熱し反応を停止した。30 μLのDDWを加えて計50 μLのHBV cDNA サンプルとした。
【0065】
ステップ3:HBV-RNAの測定(PCR反応)
7) 下表に示すqPCR反応液を調製した。
【表4】
【0066】
8) 6) で得たcDNA サンプル10 μL(1 ウェルあたり)に上記qPCR反応液10 μLを加え、以下の条件でリアルタイムqPCR(Applied Biosystems 7500 Real-Time PCR system, ThermoFisher)を実施し、増幅Ct値及びTm値を測定した。
【表5】
【0067】
HBV RNA量は2 wellのCt値の平均と、Standard curve (M-HBsAgのcDNA) の相対的な数値(コピー数)として算出した。結果を
図2に示す。
NUC治療前の活動性CHB患者血清(HBV-DNA = 6.5 logcopies/mL)においては、血中HBV-RNA = 1,043,842 copies/mLであり、免疫沈降後のHBsAgGi結合分画のHBV-RNAが440,416 copies/m L(65%)、非結合分画のHBV-RNAが237,094 copies/mL(35%)であった。
NUC治療48週後にDNA陰性化したCHB患者血清(HBV-DNA = 0 logcopies/mL)においては、血中HBV-RNA = 873,953 copies/mLであり、免疫沈降後のHBsAgGi結合分画のHBV-RNAが207,817 copies/m L(37.8%)、非結合分画のHBV-RNAが341,766 copies/mL(62.2%)であった。
【0068】
上記結果より、本発明によれば、血中のHBVウイルス粒子のうち、100,000,000分の1しか存在しないHBVのRNAウイルス粒子を効果的に検出できることがわかる。特には、治療前、及び治療計画において重要な時点である核酸アナログ投与後48時間後、さらには、血中DNAが検出限界以下の場合でも、本発明によれば、HBVのRNAウイルス粒子を検出することにより、効果的なHBVの予防又は治療又は診断のための指標を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のHBsAgGiは、免疫学的手法で血中RNA virionを検出することが判明した。これは従来PCRなどの分子生物学手法による測定法しか考案しえてこなかったHBV感染において画期的な方法であり、しかも、フリーのHBV-RNAとの識別も可能であった。これらの結果により、HBsAgGiはHBV感染能力に案する診断薬として有用であることが示唆された。
【配列表】