(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】半導体装置の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20241030BHJP
【FI】
H01L21/60 301L
(21)【出願番号】P 2023529182
(86)(22)【出願日】2021-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2021023268
(87)【国際公開番号】W WO2022264427
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2023-08-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 オンライン展示会「YAMAHA Robotics Online Expo 2021」(https://www.yamaha-motor-robotics-online-expo-2021.jp、2021年02月17日開催)にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】519294332
【氏名又は名称】株式会社新川
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠間 広幸
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-108971(JP,A)
【文献】特開平09-270440(JP,A)
【文献】特開平10-312259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤが挿通され、先端から延出する前記ワイヤを対象面に押圧して接合するキャピラリと、
前記キャピラリと連動して移動し、前記ワイヤを把持するクランパと、
1以上の駆動モータを有し、前記駆動モータの動力で前記キャピラリを移動させる移動機構と、
前記キャピラリの位置を検出位置として検出する位置センサと、
前記キャピラリ、前記クランパ、および、前記移動機構の駆動を制御するコントローラと、
を備え、前記コントローラは、
前記ワイヤの前記対象面への接合およびテールの形成を行った後、前記クランパを閉じた状態で前記キャピラリを前記
対象面から離れる方向に移動させることで前記テールを切断するテールカット処理と、
前記ワイヤの切断直後における前記キャピラリの移動の指令位置と前記検出位置との偏差のピーク値を破断指標として測定する指標測定処理と、
を実行するように構成されていることを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置の製造装置であって、
前記コントローラは、前記指標測定処理において、さらに、前記クランパを閉じてから前記ワイヤが切断されるまでの前記キャピラリの移動距離である破断距離も測定する、
ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体装置の製造装置であって、さらに、
オペレータからの操作入力を受け付けるとともに、前記オペレータに情報を出力するUI装置を備え、
前記コントローラは、前記オペレータから前記破断指標の測定が指示された場合、前記テールカット処理を、2回以上繰り返し実行し、2回以上の前記テールカット処理それぞれで得られた前記破断指標の測定値を、前記UI装置を介して前記オペレータに提示する、
ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体装置の製造装置であって、
前記コントローラは、2回以上の前記テールカット処理それぞれで得られた前記破断指標の測定値の一覧をグラフ形式で提示する、ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の半導体装置の製造装置であって、
前記コントローラは、前記破断指標が予め規定された基準範囲以外の場合、アラームを出力する、ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項6】
キャピラリの先端から延出するワイヤを対象面に押圧して接合した後、クランパを閉じて前記ワイヤを把持した状態で、前記キャピラリを前記対象面から離れる方向に移動させるテールカットステップと、
前記テールカット
ステップと並行して実行され、前記ワイヤの切断直後における前記キャピラリの移動の指令位置
と検出位置との偏差のピーク値を破断指標として測定する指標測定ステップと、
を備える、
ことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、ワイヤが挿通されるキャピラリと、前記ワイヤを把持するクランパと、を備えた半導体装置の製造装置および製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップの電極と基板の電極とを導電性のワイヤで接続して半導体装置を製造する製造装置が従来から広く知られている。例えば、特許文献1には、ワイヤが挿通されるキャピラリ(特許文献1では「ボンディングツール」と呼ぶ)と、ワイヤを把持するクランパと、を備えた半導体装置の製造装置(特許文献1では「ボンディング装置」と呼ぶ)が開示されている。
【0003】
こうした製造装置では、第1ボンド点と第2ボンド点をワイヤで接続する。また、製造装置では、第2ボンド点にワイヤをボンディングする2ndボンドが完了すれば、クランパを開いた状態でキャピラリを移動させてテールを形成したうえで、クランパを閉じた状態でキャピラリを移動させてワイヤをカットするテールカットを実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、2ndボンドおよびテールカットを実行する際の製造装置の動作条件が適切でない場合、第2ボンド点においてワイヤが十分に接合されないNSOLや、十分な長さのテールが形成されないNotail、キャピラリに挿通されたワイヤがS字状に撓むS字曲がり等の不良が発生する。しかし、従来、動作条件の適否を定量的に評価する指標がなかった。その結果、従来、オペレータは、実際に製造された半導体装置の品質検査の結果を見ながら、経験に基づいて動作条件を修正するしかなく、動作条件の絞り込みに時間がかかっていた。また、従来、不良の有無を確認するためには、実際に製造された半導体装置を検査する必要があり、製造過程で不良の有無を判断することは難しかった。
【0006】
そこで、本明細書では、製造装置の動作条件の適否を定量的に評価するための評価指標を提供する半導体装置の製造装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示する半導体装置の製造装置は、ワイヤが挿通され、先端から延出する前記ワイヤを対象面に押圧して接合するキャピラリと、前記キャピラリと連動して移動し、前記ワイヤを把持するクランパと、1以上の駆動モータを有し、前記駆動モータの動力で前記キャピラリを移動させる移動機構と、前記キャピラリの位置を検出位置として検出する位置センサと、前記キャピラリ、前記クランパ、および、前記移動機構の駆動を制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記ワイヤの前記対象面への接合およびテールの形成を行った後、前記クランパを閉じた状態で前記キャピラリを前記離れる方向に移動させることで前記テールを切断するテールカット処理と、前記ワイヤの切断直後における前記キャピラリの移動の指令位置と前記検出位置との偏差のピーク値、または、前記ワイヤの切断時における前記駆動モータの電流値を破断指標として測定する指標測定処理と、を実行するように構成されている、ことを特徴とする。
【0008】
この場合、前記コントローラは、前記指標測定処理において、さらに、前記クランパを閉じてから前記ワイヤが切断されるまでの前記キャピラリの移動距離である破断距離も測定してもよい。
【0009】
さらに、オペレータからの操作入力を受け付けるとともに、前記オペレータに情報を出力するUI装置を備え、前記コントローラは、前記オペレータから前記破断指標の測定が指示された場合、前記テールカット処理を、2回以上繰り返し実行し、2回以上の前記テールカット処理それぞれで得られた前記破断指標の測定値を、前記UI装置を介して前記オペレータに提示してもよい。
【0010】
この場合、前記コントローラは、2回以上の前記テールカット処理それぞれで得られた前記破断指標の測定値の一覧をグラフ形式で提示してもよい。
【0011】
また、前記コントローラは、前記破断指標が予め規定された基準範囲以外の場合、アラームを出力してもよい。
【0012】
本明細書で開示する半導体装置の製造方法は、キャピラリの先端から延出するワイヤを対象面に押圧して接合した後、クランパを閉じて前記ワイヤを把持した状態で、前記キャピラリを前記対象面から離れる方向に移動させるテールカットステップと、前記テールカット処理と並行して実行され、前記ワイヤの切断直後における前記キャピラリの移動の指令位置と前記検出位置との偏差のピーク値、または、前記ワイヤの切断時における前記駆動モータの電流値を破断指標として測定する指標測定ステップと、を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本明細書で開示する技術によれば、破断強度が定量的に提供されるため、オペレータは、動作条件の適否を容易に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2A】ワイヤボンディングの流れを示すイメージ図である。
【
図2B】ワイヤボンディングの流れを示すイメージ図である。
【
図2C】ワイヤボンディングの流れを示すイメージ図である。
【
図2D】ワイヤボンディングの流れを示すイメージ図である。
【
図2E】ワイヤボンディングの流れを示すイメージ図である。
【
図2F】ワイヤボンディングの流れを示すイメージ図である。
【
図3】テールカット処理の際に得られる位置偏差の経時変化の一例を示す図である。
【
図5A】オペレータに提示される破断指標のグラフ画面の一例を示す図である。
【
図5B】オペレータに提示される破断距離のグラフ画面の一例を示す図である。
【
図6】製品量産時におけるコントローラの処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して半導体装置の製造装置10について説明する。
図1は、製造装置10の構成を示す図である。この製造装置10は、第一ボンド点B1と第二ボンド点B2との間をワイヤWで接続するワイヤボンディング装置であり、一般に、第一ボンド点B1は、半導体チップ110のパッド上に設定されており、第二ボンド点B2は、半導体チップ110をマウントしたリードフレームである基板100のリード上に設定されている。
【0016】
製造装置10は、ボンディングヘッド12と、移動機構18と、ステージ14と、回転スプール42と、トーチ電極43と、コントローラ50と、UI装置60と、を備えている。
【0017】
ボンディングヘッド12は、超音波ホーン24と、クランパ34と、を備えている。超音波ホーン24は、基端から先端にかけて、基端部、フランジ部、ホーン部、および先端部の各部で構成された棒状部材である。基端部には、コントローラ50からの駆動信号に応じて振動する超音波発振器26が配置されている。フランジ部は超音波振動の節となる位置で、移動機構18に共振可能に取り付けられている。ホーン部は、基端部の径に比べて長く延在するアームであり、超音波発振器26による振動の振幅を拡大して先端部に伝える構造を備えている。先端部には、キャピラリ30が交換可能に取り付けられている。キャピラリ30は、ワイヤWが挿通される筒状部材である。超音波ホーン24は、全体として超音波発振器26の振動に共鳴する共振構造を備えており、共振時の振動の節に超音波発振器26およびフランジが位置し、振動の腹にキャピラリ30が位置するような構造に構成されている。これらの構成により、超音波ホーン24は、電気的な駆動信号を機械的な振動に変換するトランスデューサとして機能する。
【0018】
クランパ34は、コントローラ50の制御信号に基づいて開閉動作を行う圧電素子を備えており、所定のタイミングでワイヤWを把持したり解放したりできるように構成されている。このクランパ34は、キャピラリ30とともに移動できる。
【0019】
移動機構18は、ボンディングヘッド12、ひいては、キャピラリ30を水平方向および鉛直方向に移動させるもので、XYテーブルと、昇降機構(図示せず)と、を有している。移動機構18は、1以上の駆動モータ22を有しており、この駆動モータ22から出力される動力で、ボンディングヘッド12を移動させる。なお、キャピラリ30の位置は、位置センサ28により検出される。
【0020】
回転スプール42は、ワイヤWが巻回されたリールを交換可能に保持する。回転スプール42は、ボンディングの進捗に応じて、ワイヤWを繰り出すように構成されている。なお、ワイヤWの材料は、加工の容易さと電気抵抗の低さから選択される。ワイヤWの材料としては、通常、金(Au)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)又は銅(Cu)等が用いられる。
【0021】
トーチ電極43は、図示しない放電安定化抵抗を介して図示しない高電圧電源に接続されている。トーチ電極43は、コントローラ50からの制御信号に基づいてスパーク(放電)を発生し、スパークの熱によってキャピラリ30の先端から繰り出されているワイヤWの先端にボール、すなわちFAB(Free Air Ball)を形成する。
【0022】
ステージ14は、基板100を支持する。基板には、予め、半導体チップ110がマウントされている。このステージ14の内部には、ヒータ46が設けられており、基板100および半導体チップ110を、ボンディングに適する温度にまで加熱できる。
【0023】
UI装置60は、オペレータからの操作入力を受け付けるとともに、オペレータに情報を出力する装置である。このUI装置60は、入力装置62と、出力装置64と、を有する。入力装置62は、オペレータからの操作入力を受け付けるもので、例えば、キーボード、マウス、トラックボール、タッチパネル、ジョイスティック等を有する。出力装置64は、オペレータに情報を出力するもので、例えば、ディスプレイ、スピーカー、プリンタ等を有する。
【0024】
コントローラ50は、所定のソフトウェアプログラムに基づき、製造装置10の駆動を制御する。具体的には、コントローラ50は、具体的には、移動機構18を駆動制御することでキャピラリ30の位置を制御する。また、コントローラ50は、ボンディング処理の進行状況に応じて、クランパ34の開閉制御、放電電圧の印加制御、ステージ14のヒータ46の駆動制御も行なう。また、ワイヤボンディングの過程で、ワイヤWを第二ボンド点B2にボンディングする2ndボンダ処理、および、ワイヤWのテールを切断するテールカット処理を行うが、コントローラ50は、この第二ボンド処理、および、テールカット処理における動作条件の良否を示す所定の評価指標も測定する。評価指標としては、破断指標Sbおよび破断距離Dsが該当するが、これらについては、後に詳説する。なお、コントローラ50は、物理的には、各種演算を実行するプロセッサ52と、プログラムおよびデータを記憶するメモリ54と、を有したコンピュータである。
【0025】
次に、製造装置10で行うワイヤボンディングの流れについて説明する。
図2A~
図22Fは、ワイヤボンディングの流れを示すイメージ図である。ワイヤボンディングでは、第一ボンド点B1と第二ボンド点B2との間をワイヤWで接続する。第一ボンド点B1は、半導体チップ110の上面に設けられたパッドであり、第二ボンド点B2は、基板100の表面に設けられたリードである。
【0026】
ワイヤボンディングの際、コントローラ50は、
図2Aに示すように、ワイヤWの末端にFABを形成する。すなわち、キャピラリ30の先端から延出したワイヤWの一部に、所定の高電圧に印加されたトーチ電極43を近づけて、ワイヤWの先端とトーチ電極43との間で放電を発生させる。この放電により、ワイヤWの先端が溶融する。そして、溶融したワイヤ材料が表面量力によって球状のFABを形成する。
【0027】
続いて、コントローラ50は、
図2Bに示すように、FABを第一ボンド点B1にボンディングする1stボンダを実行する。すなわち、コントローラ50は、キャピラリ30を、第一ボンド点B1の真上に移動させる。その後、コントローラ50は、キャピラリ30を下降させて、FABを第一ボンド点B1に接触させるとともに、当該FABをキャピラリ30の先端面で押圧させる。また、このとき、コントローラ50は、超音波発振器26を駆動し、超音波ホーン24に超音波振動を発生させ、FABに超音波振動を付加する。さらに、コントローラ50は、ステージ14のヒータ46をONして、基板100および半導体チップ110を所定の温度に加熱する。これにより、FABには、荷重、超音波振動、および、ヒータ46による熱が作用し、これにより、FABが、第一ボンド点B1にボンディングされる。
【0028】
次に、コントローラ50は、
図2Cに示すように、キャピラリ30を予め規定された軌跡に従って移動させることで、第一ボンド点B1と第二ボンド点B2とを接続するループを形成する。すなわち、クランパ34を開いた状態で、キャピラリ30を移動させることで、ワイヤWが回転スプール42から繰り出され、ループが形成される。
【0029】
次に、コントローラ50は、
図2Dに示すように、ワイヤWを第二ボンド点B2にボンディングする2ndボンダを実行する。具体的には、コントローラ50は、キャピラリ30を第二ボンド点B2に着地させ、ワイヤWをキャピラリ30の先端面で第二ボンド点B2に押圧する。また、同時に、超音波発振器26を駆動して、キャピラリ30の先端に超音波振動を付加する。そして、この超音波振動、荷重およびヒータ46からの熱により、ワイヤWが第二ボンド点B2に接合される。
【0030】
ワイヤWが第二ボンド点B2に接合されれば、続いて、コントローラ50は、
図2Eに示すように、テールを形成する。具体的には、コントローラ50は、クランパ34を開いた状態で、キャピラリ30を、基板100から離れる方向に移動させる。この移動により、キャピラリ30の先端から延出するワイヤ部分であるテールが形成される。また、この移動量は、必要となるテールの距離に応じて決定される。
【0031】
テールが形成できれば、コントローラ50は、
図2Fに示すように、テールの切断を行う。具体的には、コントローラ50は、クランパ34を閉じた状態で、キャピラリ30を基板100から離れる方向に移動させる。これにより、ワイヤWが、引きちぎられる。以降、同様の処理が繰り返される。
【0032】
ここで、以上の説明で明らかな通り、ワイヤWは、2ndボンダ処理およびテール形成処理の後、テールカット処理において、機械的に引っ張られて引きちぎられる。この引きちぎりの際、キャピラリ30に挿通されたワイヤWには、反力が作用する。この反力が過大であると、キャピラリ30に挿通されるワイヤWがS字状に曲がるS字曲がりが生じる。また、ワイヤWの接合強度、および、テール形成処理およびテールカット処理の動作条件によっては、テールが所望の長さに満たないノーテールや、接合点が剥離するリード不着といった問題も生じる。こうしたS字曲がり、ノーテール、リード不着といった問題(以下、まとめて「切断不良」と呼ぶ)は、半導体装置の品質低下を招く。
【0033】
そのため、従来から、オペレータは、切断不良が生じないように、2ndボンダ処理、テール形成処理、テールカット処理における動作条件を調整している。ここで、動作条件としては、例えば、ワイヤWに付加する荷重値や、キャピラリ30を移動させる速度、キャピラリ30の移動軌跡、ヒータ46の加熱温度等を含む。
【0034】
オペレータは、切断不良の有無に応じて、動作条件を調整しているが、従来、この動作条件の良否を定量的に評価する指標がなかった。そのため、従来、オペレータは、実際に製造された製品を見て切断不良の有無を確認し、その確認結果に応じて動作条件を調整する必要があり、非常に手間であった。
【0035】
そこで、本明細書では、動作条件の良否、特に、2ndボンダ処理、テール形成処理、テールカット処理における動作条件の良否を定量的に評価する評価指標として、破断指標Sbおよび破断距離Dsを測定し、その測定結果をオペレータに提示している。以下、これについて詳説する。
【0036】
はじめに、破断指標Sbおよび破断距離Dsについて説明する。上述した通り、本例では、2ndボンダ処理およびテール形成処理が完了すれば、続いて、テールカット処理を行う。このテールカット処理において、コントローラ50は、クランパ34を閉じたうえで、キャピラリ30を第二ボンド点B2から離間方向に移動させることで、テールを切断する。本例では、このテールの切断に要する力を示すパラメータを破断指標Sbとして取得する。また、クランパ34を閉じてからテールが切断されるまでのキャピラリ30の移動距離を、破断距離Dsとして取得する。
【0037】
より具体的に説明すると、コントローラ50は、テールカット処理の際、キャピラリ30が徐々に離間方向に移動するような指令位置P*を生成し、移動機構18に入力する。移動機構18に設けられた駆動モータ22のドライバは、この指令位置P*と、位置センサ28で検出された検出位置Pdとの差分である位置偏差ΔPを算出し、位置偏差ΔPに応じた値の電流を駆動モータ22に印加する。駆動モータ22は、印加電流に比例したトルクを出力する。トルクの出力によりテールが切断されると、その反動で、キャピラリ30は、一時的に、離間方向に大きくオーバーシュートする。
【0038】
図3は、テールカット処理の際に得られる位置偏差ΔPの経時変化の一例を示す図である。
図3の例では、テールは、時刻t1において切断されており、この時刻t1の直後において、位置偏差ΔPがピークを取る。このピークは、切断時の反動が大きいほど、ひいては、切断に要する力が大きいほど、大きくなる。そこで、本例では、この位置偏差ΔPのピーク値を、破断指標Sbとして測定する。また、このピーク値が得られるまでのキャピラリ30の移動距離を、破断距離Dsとして測定する。この破断指標Sbや破断距離Dsは、ワイヤWの破断に要する力の大きさ、すなわち、破断強度を示す指標として用いることができる。
【0039】
ここで、この破断指標Sbおよび破断距離Dsは、接合不良の有無に大きく影響する。例えば、S字曲がりが発生する場合、S字曲がりが発生しない場合に比べて、破断指標Sbおよび破断距離Dsが大きくなる。特に、ワイヤWの種類が同じの場合、破断指標Sbが一定以上になると、S字曲がりが発生する。そのため、破断指標Sbを監視することで、S字曲がりの有無を判断できる。なお、S字曲がりが生じない破断指標Sbの最大値(以下「許容最大強度Smax」という)は、ワイヤWの種類によって異なる。この許容最大強度Smaxは、ワイヤWの組成が同じ場合、ワイヤWの径が大きいほど、大きくなる。また、ワイヤWが第二ボンド点B2に適切に接合していないリード不着が発生している場合、リード不着が発生していない場合と比べて、破断指標Sbに大きな差は生じないが、破断距離Dsが大きくなる。したがって、そのため、破断距離Dsを監視することで、リード不着の有無を判断できる。
【0040】
コントローラ50は、こうした破断指標Sbおよび破断距離Dsを測定し、測定結果を、出力装置64を介してオペレータに提示する。オペレータは、提示された破断指標Sbおよび破断距離Dsに基づいて、接合不良の有無、ひいては、動作条件の良否を判断できる。なお、接合不良が生じない破断指標Sbおよび破断距離Dsの値の範囲、すなわち、許容範囲は、ワイヤWの種類(すなわち組成や径、製法等)によって異なるため、予め実験等で求めておく。
【0041】
次に、本例の製造装置10におけるユーザインターフェースについて説明する。本例の製造装置10では、上述した動作条件の評価指標、すなわち、破断指標Sbおよび破断距離Dsを測定するための測定モードが用意されている。オペレータが測定モードを選択した場合、ディスプレイには、
図4に示す測定モード画面70が表示される。測定モード画面70において、オペレータは、評価指標の測定を開始するワイヤ番号である開始番号71と、測定を行うワイヤの本数である測定個数72と、を指定できる。また、オペレータは、予め、ワイヤ番号ごとに異なる動作条件を設定できる。
【0042】
スタートボタンを選択すると、コントローラ50は、指定されたワイヤ番号から測定個数の分だけ順に、ワイヤボンディング処理を実行する。
図4の例の場合、開始番号が81、測定個数が15であるため、コントローラ50は、ワイヤ番号81~85までの15本のワイヤWについてボンディング処理を実行する。
【0043】
コントローラ50は、ボンディング処理ごとに、評価指標として、破断指標Sbおよび破断距離Dsを測定し、結果をメモリ54に一時保存する。そして、指定された測定個数分のボンディング処理が終了すれば、コントローラ50は、その測定結果をオペレータに提示する。破断指標Sbおよび破断距離Dsは、いずれも、複数(すなわち測定個数分)得られるため、コントローラ50は、この複数の破断指標Sbおよび破断距離Dsの統計値を測定結果としてオペレータに提示する。
図4の例では、測定結果として、複数の破断指標Sbおよび破断距離Dsの最終値、最大値、最小値、平均値、標準偏差を測定結果欄73に表示する。
【0044】
また、測定モード画面70には、グラフボタン74が設けられている。このグラフボタン74を選択すると、複数の破断指標Sbおよび破断距離Dsの測定値が、グラフ形式でオペレータに提示される。
図5Aおよび
図5Bは、それぞれ、オペレータに提示される破断指標Sbおよび破断距離Dsのグラフ画面の一例を示す図である。
図5Aおよび
図5Bに示すように、グラフ画面には、表示する評価指標の種類選択欄75があり、選択された種類の評価指標のグラフが表示される。また、グラフは、横軸がワイヤ番号、縦軸が評価指標(すなわち破断指標Sbまたは破断距離Ds)の測定値となる。
【0045】
かかるグラフを参照することで、オペレータは、接合不良の生じているワイヤ番号を容易に特定できる。
図5A、
図5Bの例では、ワイヤ番号88は、破断指標Sbおよび破断距離Dsがともに高いため、S字曲がりが生じていると推測できる。また、ワイヤ番号91は、破断指標Sbは高くないが、破断距離Dsが高いため、リード不着が生じていると推測できる。そして、このように評価指標に基づいて、接合不良の有無を判断できることで、オペレータは、動作条件の適否をより簡易に判断でき、動作条件をより簡易に調整できる。なお、接合不良が生じない評価指標の範囲、すなわち、許容範囲が分かっている場合には、当該許容範囲の上限値および下限値を、グラフに表示してもよい。かかる構成とすることで、オペレータは、より直感的に、ボンディング条件の適否を判断できる。
【0046】
こうしたグラフを参考にして、動作条件の調整ができれば、オペレータは、調整後の動作条件で、製品の量産を開始する。このとき、動作条件は、接合不良が発生しない条件に調整されている。しかしながら、製品の製造を繰り返していくと、温度変化やロットごとの個体差、外乱等に起因して、接合不良が生じる場合がある。こうした接合不良の発生を検知するために、コントローラ50は、連続的、または、間欠的に評価指標の測定を行ってもよい。そして、評価指標が、規定の許容範囲から外れている場合、コントローラ50は、アラームを出力して、製品の製造を中断してもよい。
【0047】
図6は、製品量産時におけるコントローラ50の処理の流れを示すフローチャートである。
図6に示すように、コントローラ50は、オペレータにより設定された動作条件に従って、n番目のワイヤWのボンディングを実行する(S12)。そのボンディング処理の過程で、コントローラ50は、破断指標Sbを測定する。そして、得られた破断指標Sbを、予め規定された許容最大強度Smaxと比較する(S14)。比較の結果、Sb≦Smaxの場合には、問題はないとは判断し、次のワイヤWのボンディング処理を実行する(S16,S18,S12)。一方、Sb>Smaxの場合、S字曲がりが発生している可能性が高い。この場合、コントローラ50は、アラームを出力し(S20)、製品の製造を一時中断する。
【0048】
このように、製品の量産過程で破断指標Sbを監視することで、接合不良を早期に発見でき、最終的に得られる製品の品質をより向上できる。なお、
図6では、破断指標Sbのみを監視していているが、当然ながら、破断指標Sbに加えて破断距離Dsも管理してもよい。また、これまでの説明では、ワイヤボンディングを行う製造装置10を例に挙げて説明したが、本明細書で開示の技術は、テールカット処理を実行する製造装置であれば、他の種類の製造装置に適用されてもよい。したがって、本明細書で開示の技術は、半導体チップ110にバンプを形成するバンプボンディング装置に適用されてもよい。
【0049】
また、これまでの説明では、テールの切断直後における位置偏差ΔPのピーク値を破断指標Sbとして取得している。しかし、破断指標Sbは、テールの切断に要する力を表すパラメータであれば他のパラメータ、例えば、切断時における駆動モータ22の印可電流値でもよい。
【符号の説明】
【0050】
10 製造装置、12 ボンディングヘッド、14 ステージ、18 移動機構、22 駆動モータ、24 超音波ホーン、26 超音波発振器、28 位置センサ、30 キャピラリ、34 クランパ、42 回転スプール、43 トーチ電極、46 ヒータ、50 コントローラ、52 プロセッサ、54 メモリ、60 UI装置、62 入力装置、64 出力装置、70 測定モード画面、71 開始番号、72 測定個数、73 測定結果欄、74 グラフボタン、75 種類選択欄、100 基板、110 半導体チップ、B1 第一ボンド点、B2 第二ボンド点。