(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】移動体
(51)【国際特許分類】
B64U 10/16 20230101AFI20241030BHJP
B63H 7/02 20060101ALN20241030BHJP
【FI】
B64U10/16
B63H7/02
(21)【出願番号】P 2024033626
(22)【出願日】2024-03-06
【審査請求日】2024-03-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518135179
【氏名又は名称】株式会社ロックガレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岩倉 大輔
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/140184(WO,A1)
【文献】特開2017-081544(JP,A)
【文献】特開2010-149662(JP,A)
【文献】米国特許第11565808(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64U 10/16
B63H 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準面を有する本体部と、
前記基準面に対して傾斜した向きの推力であって、前記基準面上の力成分の向きが互いに異なる前記推力をそれぞれ発生させる少なくとも3つの推力発生部と、
前記本体部に収容され、前記本体部の下部に鉛直方向下向きの空気流を生成することにより、前記本体部が水上または陸上から浮上するための浮力を発生させる第1補助推力発生装置と、を有
し、水上または陸上を浮上して移動可能な移動体であって、
前記少なくとも3つの推力発生部のそれぞれは、
前記本体部に取り付けられ、前記推力を発生させる
2つの推力発生装置を含み、
前記
2つの推力発生装置の推力軸は、前記移動体の重心位置を通り前記基準面に直交する重心軸と交差
せず、
各前記推力発生装置は、前記基準面に対して同じ角度で、前記本体部の内側に向かって推力軸が傾斜するように前記本体部に取り付けられた軸流式の回転翼であり、
前記本体部の各側部に、推力軸が互いに平行な一対の回転翼がそれぞれ配置されており、
前記回転翼のそれぞれの対は、前記本体部の側部から斜め下方外向きの空気流を生成する、移動体。
【請求項2】
前記移動体は、4つの前記推力発生部を有し、
直方体形状の前記本体部の4つの側部に、推力軸が互いに平行な一対の回転翼がそれぞれ配置されている、請求項1に記載の移動体。
【請求項3】
前記本体部の下部に取り付けられるスカート部材をさらに有する、請求項1または2に記載の移動体。
【請求項4】
前記スカート部材により画定される空間は複数に分割されており、
前記第1補助推力発生装置により生成される空気流は、複数の空間を通じて外部に放出される、請求項3に記載の移動体。
【請求項5】
前記本体部の下部に取り付けられるフロート部材をさらに有する、請求項1または2に記載の移動体。
【請求項6】
前記第1補助推力発生装置により生成される空気流は、前記フロート部材の複数の空間を通じて外部に放出される、請求項5に記載の移動体。
【請求項7】
前記フロート部材は、中央開口を有する複数のフロート部材を含み、
前記第1補助推力発生装置により生成される空気流は、前記複数のフロート部材の各前記中央開口を通じて外部に放出される、請求項6に記載の移動体。
【請求項8】
前記少なくとも3つの推力発生部は、前記重心軸を基準として、前記本体部の周囲に均等な角度間隔で配置されている、請求項1
または2に記載の移動体。
【請求項9】
前記第1補助推力発生装置は
、回転翼である、請求項1または2に記載の移動体。
【請求項10】
前記基準面上の特定向きの推力を発生させる第2補助推力発生装置をさらに有する、請求項1または2に記載の移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6自由度で飛行可能な移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ドローンのような無人移動体の活躍の場が広がっている。
【0003】
これに関連して、下記の特許文献1には、6つの回転翼を有する飛行体が提案されている(段落[0064]~[0066]、
図9参照)。特許文献1に開示される飛行体は、中心軸周りに対向配置される3対の回転翼について、一の回転翼の回転軸が中心軸に向かって所定角度だけ傾斜している一方で、他の回転翼の回転軸が中心軸から離れる向きに所定角度だけ傾斜しているものである。
【0004】
このように構成される飛行体によれば、各回転翼の回転面が同一平面上に配置されないことによって、X軸、Y軸、およびZ軸の各軸に関して並進運動・回転運動が独立に制御可能となり、飛行体は6自由度で飛行可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の飛行体では、一の回転翼の回転軸が中心軸に向かって傾斜している一方で、他の回転翼の回転軸が中心軸から離れる向きに傾斜している。このため、上記の飛行体では、6つの回転翼のうち、3つの回転翼が飛行体の中央部内側を向くことになり、飛行体の中央部の上部空間に制約が生じてしまうという問題がある。加えて、上記の飛行体では、中心軸周りに隣接する回転翼の回転軸の傾きが交互に逆になるため、構造が複雑であり、好ましくない。
【0007】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものである。したがって、本発明の目的は、制約が少ないシンプルな構造により6自由度の飛行を実現可能な移動体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0009】
本発明の移動体は、基準面を有する本体部と、前記基準面に対して傾斜した向きの推力であって、前記基準面上の力成分の向きが互いに異なる前記推力をそれぞれ発生させる少なくとも3つの推力発生部と、前記本体部に収容され、前記本体部の下部に鉛直方向下向きの空気流を生成することにより、前記本体部が水上または陸上から浮上するための浮力を発生させる第1補助推力発生装置と、を有し、水上または陸上を浮上して移動可能な移動体であって、前記少なくとも3つの推力発生部のそれぞれは、前記本体部に取り付けられ、前記推力を発生させる2つの推力発生装置を含み、前記2つの推力発生装置の推力軸は、前記移動体の重心位置を通り前記基準面に直交する重心軸と交差せず、各前記推力発生装置は、前記基準面に対して同じ角度で、前記本体部の内側に向かって推力軸が傾斜するように前記本体部に取り付けられた軸流式の回転翼であり、前記本体部の各側部に、推力軸が互いに平行な一対の回転翼がそれぞれ配置されており、前記回転翼のそれぞれの対は、前記本体部の側部から斜め下方外向きの空気流を生成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の移動体によれば、制約が少ないシンプルな構造により6自由度の飛行を実現可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る移動体の概略構成を示す斜視図である。
【
図3】移動体における空気流の向きを説明するための図である。
【
図4】移動体の使用環境を説明するための図である。
【
図6】姿勢を維持しつつ水平方向に移動する動作原理を説明するための図である。
【
図7】変形例1に係る移動体を説明するための図である。
【
図8】変形例2に係る移動体を説明するための図である。
【
図9】変形例3に係る移動体を説明するための図である。
【
図10】変形例4に係る移動体を説明するための図である。
【
図11】変形例5に係る移動体を説明するための図である。
【
図12】変形例6に係る移動体を説明するための図である。
【
図13】変形例7に係る移動体を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、以下では、本発明の移動体を水陸空兼用の小型無人機に適用した場合を例に挙げて説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る移動体1の概略構成を示す斜視図であり、
図2は、移動体1の概略構成を示す底面図である。
【0014】
図1および
図2に示すとおり、本実施形態に係る移動体1は、基準面10Sを有する本体部10と、互いに異なる向きの推力をそれぞれ発生させる第1~第4推力発生部20a~20dと、本体部10に浮力を付与する第1~第4浮力発生部材30a~30dとを有する。なお、以下では、「第1~第4推力発生部20a~20d」を「推力発生部20」と総称し、「第1~第4浮力発生部材30a~30d」を「浮力発生部材30」と総称する場合がある。
【0015】
<本体部10>
本体部10は、略直方体形状を有し、移動体1の動作を制御するための各種機器(不図示)を内部に収容している。また、本体部10は、鉛直方向上向きの推力を発生させる第1補助推力発生装置40を内部に収容している。第1補助推力発生装置40は、遠心式の回転翼(遠心ファン)であり、本体部10の上部から空気を取り込み、本体部10の下部に鉛直方向下向きの空気流を生成する。なお、移動体1が水平に載置された状態において、本体部10の基準面10Sは水平面と平行となる。
【0016】
<推力発生部20>
第1~第4推力発生部20a~20dは、互いに異なる第1~第4向きの推力をそれぞれ発生させる。第1推力発生部20aは、第1向きの推力を発生させるための第1および第2推力発生装置21,22を含む。また、第2推力発生部20bは、第2向きの推力を発生させるための第3および第4推力発生装置23,24を含む。第3推力発生部20cは、第3向きの推力を発生させるための第5および第6推力発生装置25,26を含み、第4推力発生部20dは、第4向きの推力を発生させるための第7および第8推力発生装置27,28を含む。第1~第4向きの推力は、基準面10Sに対して傾斜した向きの推力である。
【0017】
第1~第8推力発生装置21~28は、速度調整可能な軸流式の回転翼であり、回転軸(推力軸)に沿った空気流を生成する。第1~第8推力発生装置21~28は、回転軸が移動体1の中央部に向かって傾斜するように本体部10の側部に2つずつ取り付けられており、各回転翼の回転面は、移動体1の中央部から離れる向きに傾斜している。第1~第8推力発生装置21~28は、本体部10の側部から斜め下方外向きの空気流をそれぞれ発生する。第1~第8推力発生装置21~28により生成される空気流についての詳細な説明は後述する。
【0018】
<浮力発生部材30>
第1~第4浮力発生部材30a~30dは、本体部10の下部に設けられ、本体部10に浮力を付与する。第1~第4浮力発生部材30a~30dは、中央開口30hを有するドーナツ形状のフロート式弾性部材であり、内部に空気を収容している。本体部10の底面には、第1補助推力発生装置40により生成される空気流を放出する開口10hが設けられており、開口10hは、第1~第4浮力発生部材30a~30dの中央開口30hから外部に露出している。したがって、第1補助推力発生装置40により生成される鉛直方向下向きの空気流は、第1~第4浮力発生部材30a~30dの中央開口30hからそれぞれ放出される。つまり、移動体1は、本体部10の下部4カ所から下向きの空気流を放出する。
【0019】
次に、
図3を参照して、移動体1における空気流の向きについて説明する。
図3(A)は、平面視における空気流の向きを模式的に示す図であり、
図3(B)は、側面視における空気流の向きを模式的に示す図である。図中の黒点は、推力発生装置を示し、破線は、推力発生装置の推力軸を示す。細線矢印は、推力発生装置により生成される空気流を示し、太線矢印は、推力発生装置により発生される推力を示す。空気流の向きと推力の向きとは互いに反対である。なお、
図3では、鉛直方向をZ軸として、Z軸に垂直な水平面において互いに直交するX軸およびY軸が設定される。
【0020】
上述したとおり、本実施形態の移動体1は、第1~第4向きの推力をそれぞれ発生させる第1~第4推力発生部20a~20dを有する。第1~第4推力発生部20a~20dは、移動体1の重心軸GX(鉛直軸)を基準として、本体部10の周囲に90度間隔で配置されている。第1推力発生部20aは、第1向き(+X方向/+Z方向)の推力を発生させる。第2推力発生部20bは、第2向き(+Y方向/+Z方向)の推力を発生させる。第3推力発生部20cは、第3向き(-X方向/+Z方向)の推力を発生させる。第4推力発生部20dは、第4向き(-Y方向/+Z方向)の推力を発生させる。ここで、水平面(基準面10S)上での第1向きの推力の力成分は+X方向であり、第2向きの推力の力成分は+Y方向である。第3向きの推力の力成分は-X方向であり、第4向きの推力の力成分は-Y方向である。つまり、第1~第4推力発生部20a~20dがそれぞれ発生させる推力の水平面上の力成分の向きは互いに異なる。
【0021】
<第1推力発生部20a>
第1推力発生部20aは、第1推力軸TX1を有する第1推力発生装置21と、第2推力軸TX2を有する第2推力発生装置22とを含む。第1および第2推力発生装置21,22は、本体部10の第1側部11の両端に配置されている。第1および第2推力軸TX1,TX2は、水平面(基準面10S)に対して所定角度θ(0<θ<90度)だけ傾斜しており、互いに平行にX軸およびZ軸方向に延びている。
【0022】
第1および第2推力発生装置21,22は、回転軸と推力軸とが一致する回転翼である。第1および第2推力発生装置21,22は、鉛直方向斜め下方外向き(-X方向/-Z方向)の空気流Af1,Af2を生成して、鉛直方向斜め上方内向き(+X方向/+Z方向)の推力Th1,Th2を発生させる。
【0023】
なお、第1および第2推力軸TX1,TX2は、本体部10の第1側部11の中点から外れた位置でX軸およびZ軸方向に延びているため、重心軸GXとは交差しない。
【0024】
<第2推力発生部20b>
第2推力発生部20bは、第3推力軸TX3を有する第3推力発生装置23と、第4推力軸TX4を有する第4推力発生装置24とを含む。第3および第4推力発生装置23,24は、本体部10の第2側部12の両端に配置されている。第3および第4推力軸TX3,TX4は、水平面に対して所定角度θ(0<θ<90度)だけ傾斜しており、互いに平行にY軸およびZ軸方向に延びている。
【0025】
第3および第4推力発生装置23,24は、回転軸と推力軸とが一致する回転翼である。第3および第4推力発生装置23,24は、鉛直方向斜め下方外向き(-Y方向/-Z方向)の空気流Af3,Af4を生成して、鉛直方向斜め上方内向き(+Y方向/+Z方向)の推力Th3,Th4を発生させる。
【0026】
なお、第3および第4推力軸TX3,TX4は、本体部10の第2側部12の中点から外れた位置でY軸およびZ軸方向に延びているため、重心軸GXとは交差しない。
【0027】
<第3推力発生部20c>
第3推力発生部20cは、第5推力軸TX5を有する第5推力発生装置25と、第6推力軸TX6を有する第6推力発生装置26とを含む。第5および第6推力発生装置25,26は、本体部10の第3側部13の両端に配置されている。第5および第6推力軸TX5,TX6は、水平面に対して所定角度θ(0<θ<90度)だけ傾斜しており、互いに平行にX軸およびZ軸方向に延びている。
【0028】
第5および第6推力発生装置25,26は、回転軸と推力軸とが一致する回転翼である。第5および第6推力発生装置25,26は、鉛直方向斜め下方外向き(+X方向/-Z方向)の空気流Af5,Af6を生成して、鉛直方向斜め上方内向き(-X方向/+Z方向)の推力Th5,Th6を発生させる。
【0029】
なお、第5および第6推力軸TX5,TX6は、本体部10の第3側部13の中点から外れた位置でX軸およびZ軸方向に延びているため、重心軸GXとは交差しない。
【0030】
<第4推力発生部20d>
第4推力発生部20dは、第7推力軸TX7を有する第7推力発生装置27と、第8推力軸TX8を有する第8推力発生装置28とを含む。第7および第8推力発生装置27,28は、本体部10の第4側部14の両端に配置されている。第7および第8推力軸TX7,TX8は、水平面に対して所定角度θ(0<θ<90度)だけ傾斜しており、互いに平行にY軸およびZ軸方向に延びている。
【0031】
第7および第8推力発生装置27,28は、回転軸と推力軸とが一致する回転翼である。第7および第8推力発生装置27,28は、鉛直方向斜め下方外向き(+Y方向/-Z方向)の空気流Af7,Af8を生成して、鉛直方向斜め上方内向き(-Y方向/+Z方向)の推力Th7,Th8を発生させる。
【0032】
なお、第7および第8推力軸TX7,TX8は、本体部10の第4側部14の中点から外れた位置でY軸およびZ軸方向に延びているため、重心軸GXとは交差しない。
【0033】
以上のとおり構成される本実施形態の移動体1によれば、本体部10の4つの側部11~14の両端に斜めに取り付けられた4対の推力発生装置21~28により、6自由度の飛行が実現される。このような構成によれば、6つの推力発生装置(回転翼)により6自由度の飛行を実現する場合と比べて、制約が少ないシンプルな構造により6自由度の飛行を実現できる。具体的には、本実施形態の移動体1によれば、回転翼からなる8つの推力発生装置21~28が、移動体1の中央部から離れる向きに同様に傾斜しているため、本体部10の上部空間を活用することが可能になる。また、重心軸GX周りに隣接する推力発生装置21~28の傾きがすべて同じであり、シンプルな構造を実現できる。その結果、たとえば、回転翼のガードによるモノコック構造を容易に実現できる。
【0034】
なお、本明細書において、用語「平行」は、2つの軸や面が実質的に平行であることを意味し、用語「平行」には、2つの軸や面が±2度程度傾斜している場合も含まれる。また、用語「重心軸」は、飛行体1の実質的な重心位置を通る軸(鉛直軸)を意味し、用語「重心軸」には、軸の位置が重心位置から僅かにずれている場合も含まれる。
【0035】
次に、
図4および
図5を参照して、移動体1の動作について説明する。上述したとおり、本実施形態の移動体1は、水陸空兼用の小型無人機である。なお、
図4および
図5では、説明の便宜上、移動体1の一部の推力発生装置の記載を省略している。
【0036】
図4は、移動体1の使用環境を説明するための図である。
図4に示すとおり、本実施形態の移動体1は、たとえば、橋梁100の上のような高所と水上/陸上との間を移動する。具体的には、移動体1は、たとえば、橋梁100の上から飛行して、水上に着水する。そして、移動体1は、水上を浮上しながら移動する。その後、移動体1は、水上から飛行して上昇し、橋梁100の上まで飛び戻る。移動体1の動作(第1~第8推力発生装置21~28の動作)は、コンピュータ制御される。
【0037】
図5は、水上を浮上しながら移動する移動体1の動作を説明するための図である。
【0038】
図5に示すとおり、本実施形態の移動体1では、8つの推力発生装置21~28により、移動体1の斜め下方外側に向かって空気流Afa~Afcが生成される。また、本実施形態の移動体1では、本体部10の内部に備えられた第1補助推力発生装置40により、本体部10の下部4カ所において下向きの空気流Afdが生成される。
【0039】
したがって、本実施形態の移動体1によれば、水上を浮上しながら、低摩擦で高速に水平移動することが可能になる。とりわけ、第1~第8推力発生装置21~28により生成される斜め下方外向きの空気流Afa~Afcは水面に当たるため、空中を飛行している場合と比較して、より大きな水平方向の推力を得ることができる。さらに、浮力発生部材30近傍の水面では、空気流Afcがよどむため、空中を飛行している場合よりも圧力が高まり、水平方向の推力がより一層強化される。
【0040】
加えて、本実施形態の移動体1によれば、第1補助推力発生装置40から放出される空気により、浮力発生部材30の中央開口30h(
図2参照)により画定される空間の圧力が高まるため、浮力が強化される。また、本実施形態の移動体1によれば、4つの浮力発生部材30の中央開口30hによりそれぞれ画定される4つの空間に空気が供給されるため、空気が水面(または地面)から漏れたときに生じる移動体1の姿勢のアンバランスが低減される。
【0041】
次に、
図6を参照して、移動体1の姿勢を維持したまま水平方向に移動する動作原理について説明する。
図6(A)は、移動体1に作用する力を説明するための概念図であり、
図6(B)は、力の発生個所を説明するための図である。なお、以下では、説明の簡略化のため、
図6の紙面上で移動体1に作用する時計回り/反時計回りのモーメントをキャンセルする場合を例に挙げて説明する。
【0042】
図6(B)に示すとおり、本体部10の第2側部12に配置された一対の推力発生装置23,24を「A群」、第1側部11および第3側部13にそれぞれ配置された2つの推力発生装置21,26を「B群」、第1側部11および第3側部13にそれぞれ配置された残りの2つの推力発生装置22,25を「C群」、第4側部14に配置された一対の推力発生装置27,28を「D群」と仮定する。そして、
図6(A)に示すとおり、「A群」の推力発生装置23,24により発生される紙面上の推力を推力Fa、「B群」の推力発生装置21,26により発生される紙面上の推力を推力Fb、「C群」の推力発生装置22,25により発生される紙面上の推力を推力Fc、「D群」の推力発生装置27,28により発生される紙面上の推力を推力Fdと仮定すると、推力Fa~Fdには、下記の式(1)および式(2)の関係が成立する。
【0043】
-Fd・cosθ+Fa・cosθ=Fy …(1)
Fd・sinθ+Fb+Fc+Fa・sinθ=Fz …(2)
ここで、Fyは、紙面左方向の推力であり、Fzは、紙面上方向の推力である。
【0044】
そして、移動体1に作用するモーメントをキャンセルするには、下記の式(3)が成立する必要がある。
【0045】
(Fd-Fa)×La+(Fb-Fc)×Lb=0 …(3)
ここで、移動体1の紙面左方向のみの移動を仮定し、Fd=0とすると、下記の式(4)~(6)の関係が得られる。
【0046】
Fa・cosθ=Fy …(4)
Fb+Fc+Fa・sinθ=Fz …(5)
-Fa×La+(Fb-Fc)×Lb=0 …(6)
式(4)~(6)をFa~Fcについて解けば、紙面左右方向の推力と紙面上下方向の推力を得るための条件が得られる。したがって、移動体1は、姿勢を維持したまま、水平方向に移動できる。なお、実際には、紙面上の推力やモーメントのみならず、種々の推力やモーメントを考慮する必要があるため、行列演算が行われる。
【0047】
[変形例]
以下、本実施形態の変形例について説明する。なお、上述した実施形態と同様の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0048】
(変形例1)
上述した実施形態では、平面視で正方形形状を有する本体部10に8つの推力発生装置21~28が取り付けられた(
図3(A)参照)。しかしながら、たとえば、
図7に示すとおり、平面視で長方形形状を有する本体部10に8つの推力発生装置21~28が取り付けられてもよい。このとき、本体部10の同一の側部11~14に取り付けられる2つの推力発生装置21~28同士の間隔d1~d4は、隣接する側部11~14間で異なっていてもよく、すべての側部11~14で同一であってもよい。
【0049】
(変形例2)
上述した実施形態では、各推力発生部20a~20dに含まれる一対の推力発生装置21~28は、推力軸が互いに平行になるように配置された。しかしながら、
図8に示すとおり、一対の推力発生装置21~28は、推力軸(空気流Af1~Af8に平行)が互いに交差するように配置されてもよい。
【0050】
(変形例3)
各推力発生部20a~20dに含まれる推力発生装置の数は2つに限定されるものではなく、たとえば、
図9に示すとおり、各推力発生部20a~20dが3つの推力発生装置21~28,41~44を含んでいてもよい。この場合、本体部10の各側部11~14の中点に位置する推力発生装置41~44の推力軸(空気流Af9~Af12に平行)は、両端に位置する推力発生装置21~28の推力軸(空気流Af1~Af8に平行)とは異なり、重心軸GXと交差する。
【0051】
(変形例4)
上述した実施形態では、各推力発生部20a~20dに含まれる一対の推力発生装置は、矩形状の本体部10の同一の側部に配置された。しかしながら、一対の推力発生装置は、本体部10の異なる側部に配置されてもよい。
【0052】
図10は、変形例4に係る移動体における空気流の向きを示す図である。
図10(A)は、平面視における空気流の向きを模式的に示す図であり、
図10(B)は、側面視における空気流の向きを模式的に示す図である。
図10(A)に示すとおり、本変形例に係る移動体1では、第1推力発生部20aは、本体部10の第1側部11と第3側部13にそれぞれ設けられた一対の推力発生装置21,22を含む。また、第2推力発生部20bは、本体部10の第2側部12と第4側部14にそれぞれ設けられた一対の推力発生装置23,24を含む。同様に、第3推力発生部20cは、本体部10の第1側部11と第3側部13にそれぞれ設けられた一対の推力発生装置25,26を含み、第4推力発生部20dは、第2側部12と第4側部14にそれぞれ設けられた一対の推力発生装置27,28を含む。この場合、同一の側部に配置される2つの推力発生装置(たとえば、第1および第5推力発生装置21,25)は、単一の推力発生ユニットの形で構成され得る。
【0053】
(変形例5)
図11(A)および
図11(B)に示すとおり、移動体1は、水平方向の推力を発生させる第2補助推力発生装置50をさらに有していてもよい。第2補助推力発生装置50は、たとえば、回転翼であり、水平方向外向きの空気流Af13を発生する。このような構成によれば、移動体1の水平方向の移動能力が向上する。
【0054】
(変形例6)
上述した実施形態では、本体部10の下部に4つの浮力発生部材30a~30dが設けられ、第1補助推力発生装置40により生成された空気流が、4つの浮力発生部材30a~30dの中央開口30hを通って合計4カ所から放出された。しかしながら、
図12に示すとおり、第1補助推力発生装置40により生成された空気流Afdは、本体部10の下部の中央1カ所のみから放出されてもよい。
【0055】
(変形例7)
なお、
図13に示すとおり、移動体1は、第1補助推力発生装置40を備えていなくともよい。
【0056】
以上、実施形態および変形例を通じて本発明に係る移動体を説明したが、本発明は説明した各構成のみに限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0057】
たとえば、上述した実施形態では、移動体が4つの推力発生部20a~20dを有する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、移動体に備えられる推力発生部の数は4つに限定されるものではない。本発明に係る移動体は、8つの推力発生部を備え、各推力発生部が2つの推力発生装置(回転翼)を有していてもよい。この場合、8つの推力発生部は、本体部の周囲に45度間隔で配置され得る。あるいは、本発明に係る移動体は、3つの推力発生部を備え、各推力発生部が2つの推力発生装置を有していてもよい。この場合、3つの推力発生部は、本体部の周囲に120度間隔で配置され得る。
【0058】
また、上述した実施形態では、8つの推力発生装置が、移動体1の重心軸GXを基準に互いに対称的に設けられる場合を例に挙げて説明した。しかしながら、8つの推力発生装置は互いに対称的に設けられる必要はなく、非対称的に設けられてもよい。たとえば、一対の推力発生装置は、本体部の側部の中点から互いに異なる距離に配置されてもよい。また、重心軸GXを挟んで対向する側部に配置される2対の推力発生装置は、同一の側部の推力発生装置同士の間隔が互いに異なるように配置されてもよい。
【0059】
また、上述した実施形態では、移動体1を水陸空兼用の無人移動体に適用する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、移動体1は水上や陸上で使用されなくともよい。移動体1が水上や陸上で使用されない場合、本体部10の下部には、浮力発生部材30a~30dに代わり、着陸用脚部が設けられる。
【0060】
また、上述した実施形態では、各推力発生装置は、鉛直方向に同じ高さに配置された。しかしながら、複数の推力発生装置は、互いに異なる高さに配置されてもよい。
【0061】
また、上述した実施形態では、複数の推力発生装置は、基準面10Sに対して同じ角度θだけ傾斜するように本体部10に取り付けられた。しかしながら、複数の推力発生装置の傾斜角度は互いに異なっていてもよい。たとえば、各推力発生部が3つの推力発生装置を含む場合、各側部の中点に位置する推力発生装置の傾斜角度が、両端に位置する残りの2つの推力発生装置の傾斜角度と異なっていてもよい。
【0062】
また、上述した実施形態では、推力発生装置として、軸流式の回転翼(プロペラ、ダクテッドファン)が用いられる場合を例に挙げて説明した。しかしながら、推力発生装置は、遠心式の回転翼(ターボファン、シロッコファン)であってもよい。また、第1補助推力発生装置40には、二重反転ロータ方式の回転翼が用いられてもよい。さらに、推力発生装置は、回転翼に限定されず、推力発生装置には、ジェット推進機やイオン推進機等の種々の推進機が用いられ得る。
【0063】
また、上述した実施形態では、第1補助推力発生装置40は、本体部10の内部に収容された。しかしながら、上述した実施形態とは異なり、第1補助推力発生装置40は、たとえば、本体部10の下部または上部に露出するように設けられてもよい。
【0064】
また、上述した実施形態では、浮力発生部材として、内部に空気を収容するフロート式弾性部材が用いられる場合を例に挙げて説明した。しかしながら、浮力発生部材は、フロート式弾性部材に限定されるものではなく、スカート式の部材であってもよい。浮力発生部材として、スカート式の部材が用いられる場合、たとえば、スカート式の部材により画定される空間を複数に分割することにより、第1補助推力発生装置40により生成される空気流が、複数の空間を通じて外部に放出される。
【符号の説明】
【0065】
1 移動体、
10 本体部、
10S 基準面、
11,12,13,14 側部、
20,20a~20d 推力発生部、
21~28,41~44 推力発生装置、
30,30a~30d 浮力発生部材、
40 第1補助推力発生装置、
50 第2補助推力発生装置、
Af1~Af13,Afa~Afd 空気流、
GX 重心軸、
Th1~Th8 推力、
TX1~TX8 推力軸。
【要約】
【課題】制約が少ないシンプルな構造により6自由度の飛行を実現可能な移動体を提供する。
【解決手段】本発明の移動体1は、基準面10Sを有する本体部10と、基準面10Sに対して傾斜した向きの推力であって、基準面10S上の力成分の向きが互いに異なる推力をそれぞれ発生させる少なくとも3つの推力発生部20a~20dと、を有する移動体1であって、少なくとも3つの推力発生部20a~20dのそれぞれは、本体部10に取り付けられ、推力を発生させる複数の推力発生装置21~28を含み、複数の推力発生装置21~28のうち少なくとも2つの推力発生装置の推力軸は、移動体1の重心位置を通り基準面10Sに直交する重心軸と交差しない。
【選択図】
図1