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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/16 20160101AFI20241030BHJP
【FI】
H02P6/16
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021030398
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022131446
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2024-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】510123839
【氏名又は名称】ニデックモビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100145241
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康裕
(72)【発明者】
【氏名】山田 佳央
(72)【発明者】
【氏名】坂田 友洋
(72)【発明者】
【氏名】松川 二郎
(72)【発明者】
【氏名】山中 智哉
(72)【発明者】
【氏名】冨田 大貴
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-143603(JP,A)
【文献】特開2019-097257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流電流が流れるコイルが巻回されたステータと、前記ステータの内部に設けられたロータとを有するモータにおける前記ロータの回転角を検出し、前記モータの駆動を制御するモータ制御装置であって、
前記ロータを貫通する出力軸の端部に取り付けられた回転角検出用磁石と、
前記回転角検出用磁石に対向して設けられ、前記回転角検出用磁石の回転に伴う磁界の変化を検出し、電気信号を出力する磁気センサと、
前記磁気センサと電気的に接続されている基板に取り付けられ、前記ロータの回転を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記磁気センサが出力した電気信号に基づき前記回転角検出用磁石の回転角を前記ロータの回転角として演算し、演算された回転角に応じて前記コイルへの給電を制御する場合において、式(1)により算出される相電流磁場補正量(θc1)により前記演算された回転角を補正して制御し、さらに、
前記制御部は、前記基板上の回路を流れる直流電流による外乱磁束に起因する誤差角度として式(2)により算出される電源電流磁場補正量(θc2)により前記演算された回転角を補正して制御する
ことを特徴とするモータ制御装置。
θc1=Asin(N1*θαβ_me+B)+Csin(N2*θαβ_me+D) …式(1)
なお、N1およびN2は、三相交流電流による外乱磁束に起因する誤差角度の主成分次数、
AおよびCは、次数N1および次数N2における誤差振幅、
BおよびDは、次数N1および次数N2における初期位相ずれ角度、
θαβ_meは、前記コイルに流れる三相の電流値をαβ変換して得られる二相の電流に基づき演算した位相角を機械角に変換した角度である。
θc2=Esin(θmr+F) …(2)
なお、Eは、1次における誤差振幅、
Fは、1次における初期位相ずれ角度、
θmrは、前記磁気センサが出力した電気信号に基づき演算した前記ロータの回転角である。
【請求項2】
前記制御部は、式(1)におけるBおよびDを式(3)により算出することを特徴とする請求項に記載のモータ制御装置。
B=b+Δθ、D=d-Δθ …式(3)
なお、Δθは、前記出力軸に取付けられた前記回転角検出用磁石の磁極方向と前記ロータの磁極方向との取付け誤差角、
bおよびdは、次数N1および次数N2におけるΔθ=0での誤差成分位相ずれ角度である。
【請求項3】
前記制御部は、式(2)におけるFを式(4)により算出することを特徴とする請求項1または2に記載のモータ制御装置。
F=f-Δθ …式(4)
なお、Δθは、前記出力軸に取付けられた前記回転角検出用磁石の磁極方向と前記ロータの磁極方向との取付け誤差角、
fは、1次におけるΔθ=0での誤差成分位相ずれ角度である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、モータのロータの回転角を検出するために磁気感応素子(たとえば、磁気抵抗効果素子)を採用し、モータを適切に制御するモータ制御装置が知られている。かかるモータ制御装置では、磁気感応素子がステータのコイルを流れる電流に起因して発生する外乱磁束の影響を受け、磁気感応素子により生成される電気信号の位相が理想的な電気信号の位相に対してずれることにより、検出されるロータの回転角と実際の回転角との間に誤差が生じる恐れがある。そのため、モータ制御装置は、ロータの回転角を如何に正確に検出するかが課題となる。
【0003】
その課題に対応するため、たとえば、特許文献1は、モータの回転角をより適切に検出することを目的とした回転角検出装置を開示する。この回転角検出装置は、磁気抵抗効果素子であるMRセンサ(Magneto Resistive Sensor)を用いてモータの出力軸に取り付けられた磁石の磁界の変化に基づきモータ駆動を制御すると共に、コイル等に流れる電流による外乱磁束に起因する誤差角度を補正角度として演算し、当該補正角度を、MRセンサを通じて検出される回転角から減算することにより回転角を補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-143603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、外乱磁束に起因する回転角の演算精度の低下を抑制し、モータの回転角をより適切に検出し制御することができるモータ制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、三相交流電流が流れるコイルが巻回されたステータと、ステータの内部に設けられたロータとを有するモータにおけるロータの回転角を検出し、モータの駆動を制御するモータ制御装置であって、ロータを貫通する出力軸の端部に取り付けられた回転角検出用磁石と、回転角検出用磁石に対向して設けられ、回転角検出用磁石の回転に伴う磁界の変化を検出し、電気信号を出力する磁気センサと、磁気センサと電気的に接続されている基板に取り付けられ、ロータの回転を制御する制御部と、を備え、制御部は、磁気センサが出力した電気信号に基づき回転角検出用磁石の回転角をロータの回転角として演算し、演算された回転角に応じてコイルへの給電を制御する場合において、式(1)により算出される相電流磁場補正量(θc1)により演算された回転角を補正して制御し、さらに、制御部は、基板上の回路を流れる直流電流による外乱磁束に起因する誤差角度として式(2)により算出される電源電流磁場補正量(θc2)により演算された回転角を補正して制御するモータ制御装置が提供される。
θc1=Asin(N1*θαβ_me+B)+Csin(N2*θαβ_me+D) …式(1)
なお、N1およびN2は、三相交流電流による外乱磁束に起因する誤差角度の主成分次数、
AおよびCは、次数N1および次数N2における誤差振幅、
BおよびDは、次数N1および次数N2における初期位相ずれ角度、
θαβ_meは、コイルに流れる三相の電流値をαβ変換して得られる二相の電流に基づき演算した位相角を機械角に変換した角度である。
θc2=Esin(θmr+F) …(2)
なお、Eは、1次における誤差振幅、
Fは、1次における初期位相ずれ角度、
θmrは、前記磁気センサが出力した電気信号に基づき演算した前記ロータの回転角である。
これによれば、コイルに流れる三相の電流値をαβ変換して得られる二相の電流に基づき演算した位相角に基づいて式(1)により相電流磁場補正量を算出し、回転角を補正して制御することで、外乱磁束に起因する回転角の演算精度の低下を抑制し、モータの回転角をより適切に検出し制御することができるモータ制御装置を提供することができる。また、基板上の回路を流れる直流電流による外乱磁束に起因する誤差角度として算出される電源電流磁場補正量を考慮して回転角を補正することで、モータの回転角をより適切に検出することができる。
【0008】
さらに、制御部は、式(1)におけるBおよびDを式(3)により算出することを特徴としてもよい。なお、
B=b+Δθ、D=d-Δθ …式(3)
なお、Δθは、出力軸に取付けられた回転角検出用磁石の磁極方向とロータの磁極方向との取付け誤差角、
bおよびdは、次数N1および次数N2におけるΔθ=0での誤差成分位相ずれ角度である。
これによれば、回転角検出用磁石の磁極方向とロータの磁極方向との取付け誤差角を考慮して相電流磁場補正量を算出し回転角を補正することで、モータの回転角をより適切に検出することができる。
【0009】
さらに、制御部は、式(2)におけるFを式(4)により算出することを特徴としてもよい。なお、
F=f-Δθ …式(4)
なお、Δθは、出力軸に取付けられた回転角検出用磁石の磁極方向とロータの磁極方向との取付け誤差角、
fは、1次におけるΔθ=0での誤差成分位相ずれ角度である。
これによれば、回転角検出用磁石の磁極方向とロータの磁極方向との取付け誤差角を考慮して電源電流磁場補正量を算出し回転角を補正することで、モータの回転角をより適切に検出することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、外乱磁束に起因する回転角の演算精度の低下を抑制し、モータの回転角をより適切に検出し制御することができるモータ制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る第一実施例のモータ制御装置の機能ブロック図。
図2】本発明に係る第一実施例のモータ制御装置の断面図。
図3】本発明に係る第一実施例のモータ制御装置における磁気センサと回転角検出用磁石の構成を示す斜視図。
図4】本発明に係る第一実施例のモータ制御装置の補正角度演算方法(相電流磁場補正)を示すフローチャート。
図5】本発明に係る第一実施例のモータ制御装置において基板上の回路を流れる直流電流による外乱磁束を説明するための説明図。
図6】本発明に係る第一実施例のモータ制御装置の補正角度演算方法(電源電流磁場補正)を示すフローチャート。
図7】本発明に係る第一実施例の変形例のモータ制御装置における回転角検出用磁石の磁極方向とロータの磁極方向との取付け誤差角を説明するための説明図。
図8】本発明に係る第一実施例の変形例のモータ制御装置の機能ブロック図。
図9】本発明に係る第二実施例のモータ制御装置の補正角度演算方法(相電流磁場補正)を示すフローチャート。
図10】本発明に係る第一実施例のモータ制御装置の補正角度演算方法(電源電流磁場補正)を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、図面を参照し、各実施例について説明する。
<第一実施例>
図1乃至図6を参照し、本実施例におけるモータ制御装置100を説明する。モータ制御装置100は、三相電動モータMを駆動制御する装置であり、三相電動モータMの出力軸M4の端部に取り付けられた回転角検出用磁石40と、回転角検出用磁石40に対向して設けられた基板90と、を備える。
【0013】
三相電動モータM(以下、モータM)は、三相ブラシレスモータである。モータMは、円筒状のケースM5、ケースM5の内周面に取り付けられたステータM1、ステータM1のコアに巻回され三相交流電流が流れるステータコイルM2、ステータM1の内部に設けられたロータM3、ロータM3を貫通する出力軸M4を有している(図2)。出力軸M4は、2つの軸受を介してケースM5に対して回転可能に支持され、2つの端部はそれぞれケースM5を貫通している。ロータM3は、出力軸M4の外周面に固定された円筒状の永久磁石を有している。この永久磁石は、その円周方向に沿って極性の異なる複数の磁極(N極、S極)が交互に着磁された多極磁石であり、たとえば本実施例の永久磁石は4組の磁極(4極対、8極)を有している。
【0014】
回転角検出用磁石40は、ロータM3を貫通する出力軸M4の基板90側の端部に取り付けられている。回転角検出用磁石40は、円柱形を有し、半円柱の一方がN極、他方がS極となるように着磁されている。基板90は、回転角検出用磁石40に対向して設けられ、磁気センサ30と制御部10を備える。磁気センサ30は、回転角検出用磁石40に対向して出力軸M4軸線上に設けられ、回転角検出用磁石40の回転に伴う磁界の変化を検出し、電気信号(S1、S2、S3、S4)を出力する。磁気センサ30は、MRセンサ(磁気抵抗効果センサ)である。磁気センサ30は、回転角検出用磁石40の磁界(磁極方向)をロータM3の磁界(磁極方向)の代用として検出する。
【0015】
半径方向にN極およびS極が着磁された2極磁石である回転角検出用磁石40は、図3に示すように、N極から出て、S極に入る磁界(一点鎖線)を形成する。磁気センサ30は基板90に固定され、回転角検出用磁石40は出力軸M4の先端に固定されているので、モータMが稼働し出力軸M4が回転すると、回転角検出用磁石40の磁場は磁気センサ30に対して回転し、磁束の密度や方向において変化を生じさせる。すなわち、永久磁石である回転角検出用磁石40による磁界が、出力軸M4が回転することによって回転することになる。そうすると、磁気センサ30は、磁束が横切ることで磁界の変化を検知する。なお、本図に示す磁場/磁界は、一部を模式的に示したものである。
【0016】
回転角検出用磁石40によって磁気センサ30にはN極からS極へ向かう点線矢印D1で示される方向の磁界が付与されている。たとえば出力軸M4が回転方向へ回転角θだけ回転したとき、回転角検出用磁石40も磁極方向も点線矢印D2で示される方向へ回転角θだけ回転する。これにより、磁気センサ30に付与される磁界の向きが点線矢印D1で示される方向から軸線を中心として回転角θだけ回転した点線矢印D2で示される方向に変化する。このように、磁気センサ30に付与される磁界の方向は出力軸M4の回転角θに応じて変化する。
【0017】
磁気センサ30は、それぞれ4つの磁気抵抗素子から構成される2つのブリッジ回路を備える。それぞれ4つの磁気抵抗素子は、ホイートストンブリッジを構成するように接続されている。磁気抵抗素子は、磁場が作用していない場合には、同じ抵抗値を示す。磁気抵抗素子は、磁界の変化に応じて電気抵抗が変化するので磁界の変化があるとそれに応じて電圧を変化させて出力する。2つのブリッジ回路の間では、全体として磁気抵抗素子の磁極方向が全体として90度ずれるように配置されており、磁気の検出方向が90度異なっている。そうすると、2つのブリッジ回路が出力する電圧の波形は、互いに90度位相の異なるSin波形とCos波形となる。また、それぞれのブリッジ回路の出力は、それぞれにおける2つの磁気抵抗素子の中点電位の電圧である。したがって、磁気センサ30は、回転角検出用磁石40から付与される磁界の向き(回転角θ)に応じて、Sin波形によるSin信号(S1)と-Sin信号(S2)、およびCos波形によるCos信号(S3)と-Cos信号(S4)の4つの電気信号を出力する。これらの電気信号は、制御部10に入力される。
【0018】
制御部10は、磁気センサ30と電気的に接続されている基板90に取り付けられ、インバータ(モータ駆動回路)20とマイクロプロセッサを備えている。インバータ20は、三相(U、V、W)のステータコイルM2に接続されている。インバータ20は、2つの電界効果型トランジスタなどのスイッチング素子が直列に接続されたアームが3つ並列接続されている。各スイッチング素子がマイクロプロセッサにより生成されるデューティ比を規定するスイッチング指令Scに基づいてスイッチングすることにより、バッテリなどの直流電源から供給される直流電流が三相の交流電流に変換される。インバータ20は、バスバーを介してモータMの各相のステータコイルに接続されている。当該交流電力は、バスバーを介してステータコイルM2に供給される。
【0019】
マイクロプロセッサは、外部から供給される目標トルクT*に対応する電流指令値を演算し、磁気センサ30を通じて検出されるロータM3の回転角などに基づきフィードバック制御を行い、スイッチング指令Scを生成し、ロータM3の回転を制御する。インバータ20を通じてスイッチング指令Scに応じた電流がモータMに供給されることにより、モータMは目標トルクT*に応じた回転力を発生する。マイクロプロセッサの機能についてより詳細に説明する。
【0020】
マイクロプロセッサは、図1に示すように、電流指令値演算部11、電流フィードバック(F/B)制御部12、2相/3相変換部13、PWM変換部14、3相/2相変換部15、補正角度演算部16、回転角度演算部17、および減算器18を備える。
【0021】
回転角度演算部17は、磁気センサ30が出力した4つの電気信号に基づきロータM3の回転角θを演算する。回転角度演算部17は、磁気センサ30が出力した電気信号S1~S4を、それぞれ所定のサンプリング周期で取り込む。回転角度演算部17は、たとえば電気信号S1と電気信号S2との差分、および電気信号S3と電気信号S4との差分をそれぞれ演算し、これら2つの差分値に基づき逆正接値(arctan)を演算することによりロータM3の回転角θを検出する。
【0022】
3相/2相変換部15は、インバータ20とモータMとの間の給電経路に設けられたシャント抵抗を介して、ステータコイルM2に供給される実際の電流値Iu、Iv、Iwを検出する。3相/2相変換部15は、ロータM3の回転角θを使用して3相の電流値Iu、Iv、Iwを2相のベクトル成分に変換する。すなわち、3相/2相変換部15は、U相軸とα軸を一致させた固定座標のα/β座標系におけるα軸電流値Iαとβ軸電流値Iβ、および、α軸電流値Iαとβ軸電流値IβからモータMの回転角θに従う回転座標のd/q座標系におけるd軸電流値Idとq軸電流値Iqに変換する。α軸電流値Iαとβ軸電流値Iβは、α/β座標系におけるモータMへ供給される実際の電流値である。また、d軸電流値Idおよびq軸電流値Iqは、d/q座標系におけるモータMへ供給される実際の電流値である。
【0023】
電流指令値演算部11は、外部から与えられる目標トルクT*に基づきd軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*を演算する。d軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*は、d/q座標系におけるモータMへ供給する電流の目標値に対応する。
【0024】
電流F/B制御部12は、電流指令値演算部11により生成されるd軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*と、3相/2相変換部15により生成されるd軸電流値Idおよびq軸電流値Iqをそれぞれ入力される。電流F/B制御部12は、d軸電流指令値Id*からd軸電流値Idを減算することによりd軸電流偏差を求めるとともに、q軸電流指令値Iq*からq軸電流値Iqを減算することによりq軸電流偏差を求める。電流F/B制御部12は、d軸電流値Idをd軸電流指令値Id*に追従させるべくd軸電流偏差に基づく電流フィードバック制御を実行することによりd軸電圧指令値Vd*を生成する。また、電流F/B制御部12は、q軸電流値Iqをq軸電流指令値Iq*に追従させるべくq軸電流偏差に基づく電流フィードバック制御を実行することによりq軸電圧指令値Vq*を生成する。
【0025】
2相/3相変換部13は、電流F/B制御部12により生成されるd軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*を入力される。2相/3相変換部13は、ロータM3の回転角θを使用してd軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*を3相座標系における3相各相の電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*に変換する。
【0026】
PWM変換部14は、2相/3相変換部13により生成される3相各相の電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を取り込む。PWM変換部14は、3相各相の電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*に対応する3相各相のデューティ指令値を生成し、このデューティ指令値に基づきインバータ20の各スイッチング素子に対するスイッチング指令Scを生成する。スイッチング指令Scに応じてインバータ20がスイッチングすることにより、モータMに目標トルクT*を発生させるために必要とされる3相の交流電流がステータコイルM2に供給される。
【0027】
マイクロプロセッサは、モータ制御装置100において利用している磁気センサ30(MRセンサ)が近傍の構成要素により発生する漏れ磁束の影響を受けるおそれがあるため、その影響を抑制することを目的として補正角度演算部16と減算器18を備える。漏れ磁束を発生させるおそれがある構成要素は、たとえば、インバータ20からステータコイルM2に三相の交流電流が流れるバスバーやステータコイルM2、基板90に配され直流電流が流れる回路やバッテリから電源が供給されるパワーラインなどである。これらの構成要素から発生する漏れ磁束は、外乱磁束として磁気センサ30に印加される。また、これらの構成要素から発生する磁束が回転角検出用磁石40から発生する磁束に干渉することによって回転角検出用磁石40の磁界が歪められ、磁気センサ30を通じて検出されるロータM3の回転角と実際の回転角との間に誤差が生じるおそれがある。
【0028】
補正角度演算部16は、3相/2相変換部15により生成されるα軸電流値Iα、β軸電流値Iβ、q軸電流値Iq、回転角度演算部17により演算される補正前の回転角θ、および電源電流値Ipをそれぞれ入力され、生じ得る誤差を補正する角度として相電流磁場補正量θc1を演算する。なお、出力軸M4が1回転する間に、磁気センサ30では1周期分の電気信号(S1~S4)が生成される。一方、ステータコイルM2には、出力軸M4の1回転あたりロータM3の永久磁石の極対数個の正弦波の電圧が印加されるため、出力軸M4の1回転あたりロータM3の永久磁石の極対数個の正弦波の電流が流れる。したがって、本実施例の場合極対数が4であるとすると出力軸M4の1/4の電気角となり、外乱磁束は、出力軸M4の1回転に対して4回回転することになる。
【0029】
外乱磁束に起因する誤差角度は、所定の理論式に基づく正弦関数を使用して近似的に表すことができる。このことを利用して、補正角度演算部16は、三相電流による外乱磁束に起因する誤差角度を、磁気センサ30を通じて検出される回転角θに対する補正角度として演算する。補正角度は、相電流磁場補正量θc1として式(1)により演算する。

θc1=Asin(N1*θαβ_me+B)+Csin(N2*θαβ_me+D) …式(1)
【0030】
なお、N1およびN2は、三相交流電流による外乱磁束に起因する誤差角度の主成分の次数である。主成分とは、他の周波数成分の振幅に対して、その次数における振幅が大きなものをいう。次数N1および次数N2は、モータMの構造に起因して一義的に決まる定数である。次数N1および次数N2は、回転角検出用磁石40から発生する磁束とバスバーなどから発生する磁束(外乱磁束)との合成ベクトルに基づき所定の理論式を使用することにより求められる。ロータM3の永久磁石が4極対である場合、次数N1は「3」、次数N2は「5」となる。3次の周波数成分および5次の周波数成分の影響が回転角θの誤差として現れる。本例では、式(1)において、右辺第1項は角度誤差の3次の周波数成分を、右辺第2項は角度誤差の5次の周波数成分を表している。
【0031】
Aは次数N1における誤差振幅、Cは次数N2における誤差振幅である。これら誤差振幅A、Cは、モータMに供給される電流の大きさによって決まる変数である。Bは次数N1における初期位相ずれ角度、Dは次数N2における初期位相ずれ角度である。初期位相ずれ角度とは、正弦波で表される角度誤差のN1次成分およびN2次成分の基準波形に対する位相のずれ量である。初期位相ずれ角度は、モータMの構造に起因して一義的に決まる定数であって、メモリ(図示せず)などの記憶装置に格納されている。なお、本明細書では、回転角検出用磁石40による磁界の方向変化に応じて磁気センサ30により生成される電気信号(たとえば、sin信号)の波形を基準波形とする。
【0032】
θαβ_meは、ステータコイルM2に流れる三相の電流値Iu、Iv、Iwを3相/2相変換部15によりαβ変換して得られる二相の電流すなわちα軸電流値Iαとβ軸電流値Iβに基づき演算した位相角(電気角)を機械角に変換した角度である。すなわち、ロータM3の永久磁石が4極対である場合、α軸電流値Iαとβ軸電流値Iβに基づき演算した位相角の4倍の角度である。
【0033】
なお、モータ制御装置100が車両の電動パワーステアリング装置に使用される場合、アシスト方向によって3相通電パターンが変わる。モータMをベクトル制御する場合、発生するモータトルクはq軸電流値Iqに比例し、モータトルクの方向はq軸電流の符号(正、負)に関係するため、補正角度演算部16は、q軸電流値Iqの符号に応じて補正量を変えることが好ましい。すなわち、q軸電流値Iqが正(またはゼロ)の場合はθαβ(電気角)をAtan(Iα/Iβ)、q軸電流値Iqが負の場合にはθαβ(電気角)をAtan(Iα/-Iβ)、のように演算することで通電パターンが切替わったとしても適切な補正量を演算する。
【0034】
減算器18は、回転角度演算部17により演算される補正前の回転角θから補正角度演算部16により補正角度として演算される相電流磁場補正量θc1を減算することにより、最終的な回転角θ(補正後)を演算する。相電流磁場補正量θc1は、外乱磁束に起因する誤差でもあるため、磁気センサ30を通じて検出される回転角θから補正角度として相電流磁場補正量θc1を減算することにより、検出される回転角θに含まれる角度誤差が除去される。
【0035】
図4のフローチャートを参照し、制御部10における相電流磁場補正量の演算方法を説明する。なお、フローチャートにおけるSはステップを意味する。補正角度演算部16は、S100において、メモリ(図示せず)などの記憶装置に格納されている初期位相B、Dを読み出す。
【0036】
3相/2相変換部15は、S102において、3相電流からαβ電流すなわちα軸電流値Iα、β軸電流値Iβ、その合成電流値Iαβを算出する。補正角度演算部16は、S104において、合成電流値Iαβの大きさから次数N1における誤差振幅のAと、次数N2における誤差振幅のCを演算する。補正角度演算部16は、S106において、αβ電流から、αβ電流及びq軸電流値Iqの符号から電流位相を演算する。補正角度演算部16は、S108において、回転角度演算部17が出力した回転角θ(補正前)と電流位相からθαβ_meを演算する。補正角度演算部16は、S110において、式(1)により補正角度としての相電流磁場補正量θc1を演算する。減算器18は、S112において、補正前の回転角θから相電流磁場補正量θc1を減算し、最終的な回転角θ(補正後)を演算する。
【0037】
このように、制御部10は、磁気センサ30が出力した電気信号に基づき回転角検出用磁石40の回転角θをロータM3の回転角として演算し、演算された回転角に応じてステータコイルM2への給電を制御する場合において、式(1)により算出される相電流磁場補正量(θc1)により演算された回転角を補正して制御する。これによれば、ステータコイルM2に流れる三相の電流値をαβ変換して得られる二相の電流(Iα、Iβ)に基づき演算した位相角に基づいて式(1)により相電流磁場補正量を算出し、回転角θを補正して制御することで、外乱磁束に起因する回転角の演算精度の低下を抑制し、モータMの回転角をより適切に検出し制御することができるモータ制御装置100を提供することができる。
【0038】
以上では、漏れ磁束を発生させるおそれがある構成要素の内、三相の交流電流が流れるバスバーやステータコイルM2などから発生する漏れ磁束が外乱磁束となる場合を説明した。以下では、漏れ磁束を発生させるおそれがある構成要素の内、基板90に配され直流電流が流れる回路などから発生する漏れ磁束が、外乱磁束として磁気センサ30に印加される場合を説明する。
【0039】
図5に示すように、モータ制御装置100が電動パワーステアリング装置として車両に搭載される場合、省スペースのために、磁気センサ30と制御部10は同一基板90上に配置され、互いに電気的に接続されていることがある。基板90に設けられた配線には、外部のバッテリからインバータ20へ直流電流(電源電流)が流れており、近傍の磁気センサ30に対して外乱磁束を与える場合がある。この場合、制御部10は、相電流磁場補正量(θc1)に加えて、式(2)により算出される電源電流磁場補正量(θc2)により回転角θを補正して制御することが好ましい。

θc2=Esin(θmr+F) …(2)
【0040】
なお、Eは1次(直流)における誤差振幅である。この誤差振幅Eは、電源電流値Ipの大きさによって決まる変数である。電源電流値Ipと誤差振幅Eの関係は、予め把握され、メモリ(図示せず)などの記憶装置に格納されている。Fは1次における初期位相ずれ角度である。初期位相ずれ角度とは、正弦波で表される角度誤差の1次成分(直流成分)の基準波形に対する位相のずれ量である。初期位相ずれ角度は、モータMの構造に起因して一義的に決まる定数であって、メモリ(図示せず)などの記憶装置に格納されている。
【0041】
θmrは、磁気センサ30が出力した電気信号(S1、S2、S3、S4)に基づき回転角度演算部17が演算したロータM3の回転角θである。このように、補正角度演算部16は、回転角度演算部17により演算される補正前の回転角θ、および電源電流値Ipをそれぞれ入力され、生じ得る誤差を補正する角度として電源電流磁場補正量(θc2)を演算する。
【0042】
図6のフローチャートを参照し、制御部10における電源電流磁場補正量θc2の演算方法を説明する。補正角度演算部16は、S200において、メモリ(図示せず)などの記憶装置に格納されている初期位相ずれ角度Fを読み出す。補正角度演算部16は、S202において、電源電流値Ipからメモリを参照して誤差振幅Eを算出する。補正角度演算部16は、S204において、回転角度演算部17により演算される補正前の回転角θ得て式(2)により補正角度としての電源電流磁場補正量θc2を演算する。減算器18は、S206において、補正前の回転角θから電源電流磁場補正量θc2を減算し、最終的な回転角θ(補正後)を演算する。
【0043】
このように、基板上の回路などを流れる直流電流による外乱磁束に起因する誤差角度として算出される電源電流磁場補正量θc2を考慮して回転角θを補正することで、モータMの回転角をより適切に検出することができる。
【0044】
<第一実施例の変形例>
図7乃至図10を参照し、本実施例におけるモータ制御装置100を説明する。モータ制御装置100は、モータMを駆動制御する装置であり、上記実施例と同じ構成を備える。回転角検出用磁石40は、モータMの出力軸M4の端部に取り付けられているが、図7に示すように、製造過程において回転角検出用磁石40の磁極方向とロータM3の磁極方向とが一致せず、取付け誤差角Δθが生ずる場合がある。そうすると、ロータM3の実際の回転角がθrotorであったとしても、磁気センサ30は、本図の場合は取付け誤差角Δθが加算されたθSensorMagとして検出する。取付け誤差角Δθは、逆に減算される場合もある。このように、出力軸M4に取付けられた回転角検出用磁石40の磁極方向とロータM3の磁極方向との間に取付け誤差角Δθがゼロでない場合は、磁気センサ30はモータMの回転角θを正確に検出することができないため補正して制御する必要が生ずる。なお、取付け誤差角Δθは、モータ制御装置毎に検査し、自身のメモリ(図示せず)に記憶される。
【0045】
補正角度演算部16は、式(1)におけるBおよびDを式(3)により算出することにより、取付け誤差角Δθを考慮して相電流磁場補正量θc1を演算することが好ましい。なお、bおよびdは、次数N1および次数N2におけるΔθ=0での誤差成分位相ずれ角度である。

B=b+Δθ、D=d-Δθ …式(3)
【0046】
誤差成分位相ずれ角度は、出荷前に確認することにより取得する。たとえば、誤差成分位相ずれ角度は、ロータM3が基準角度(たとえば、ゼロ度)に位置するように制御した場合に磁気センサ30が出力した回転角θにより取得される。取得した誤差成分位相ずれ角度は、制御部10の記憶装置に記憶され、補正角度演算部16が式(1)により相電流磁場補正量θc1を演算する際に組み入れられる。
【0047】
このように、回転角検出用磁石40の磁極方向とロータM3の磁極方向との取付け誤差角Δθを考慮して相電流磁場補正量θc1を算出し、回転角θを補正することで、モータMの回転角θをより適切に検出することができる。
【0048】
また、補正角度演算部16は、式(2)におけるFを式(4)により算出することにより、取付け誤差角Δθを考慮して電源電流磁場補正量θc2を演算することが好ましい。なお、fは、1次(直流)におけるΔθ=0での誤差成分位相ずれ角度である。

F=f-Δθ …式(4)
【0049】
このように、回転角検出用磁石40の磁極方向とロータM3の磁極方向との取付け誤差角Δθを考慮して電源電流磁場補正量θc2を算出し回転角を補正することで、モータMの回転角θをより適切に検出することができる。この方法を用いることによって、センサマグネットの取付け角度誤差を電気的・ソフト的に補正することができるので、機械的に補正(例えば、センサマグネットの取付けをやり直す)することに比較して、補正作業が効率的に実施できる。
【0050】
なお、外乱磁束を考慮した相電流磁場補正量θc1および電源電流磁場補正量θc2による補正と、取付け誤差角Δθを考慮した補正とは、図8に示すように、組み合わせて補正することができる。本図(A)では、最初に取付け誤差角Δθを考慮した補正を行い、次に外乱磁束を考慮した補正を行う。磁気センサ30が回転角θSensorMagを検出すると、補正角度演算部16は、式(5)によりθ’を算出する。

θ’=θSensorMag±Δθ …式(5)
【0051】
その後、補正角度演算部16は式(6)と式(7)を演算することで、モータ制御装置100は、外乱磁束を考慮した相電流磁場補正量θc1および電源電流磁場補正量θc2による補正と、取付け誤差角Δθを考慮した補正を取り入れた制御を行うことができる。

θ’’=θ’+θc1 …式(6)
θout=θ’’+θc2 …式(7)
【0052】
なお、本図(B)のように、最初に外乱磁束を考慮した補正を行い、次に取付け誤差角Δθを考慮した補正を行う場合は、式(3)において、以下の式(3’)のように変更する必要がある。なお、Pnは、ロータM3の極対数である。

B=b+Pn*Δθ、D=d-Pn*Δθ …式(3’)
【0053】
図9のフローチャートを参照し、制御部10における相電流磁場補正量の演算方法を説明する。なお、フローチャートにおけるSはステップを意味する。補正角度演算部16は、S300において、メモリ(図示せず)などの記憶装置に格納されている初期位相b、dと、取付け誤差角Δθから、次数N1における初期位相ずれ角のBと、次数N2における初期位相ずれ角度のDを演算する。S302~S312は、前述したS102~S112と同じなので説明を省略する。
【0054】
図10のフローチャートを参照し、制御部10における電源電流磁場補正量θc2の演算方法を説明する。補正角度演算部16は、S400において、メモリ(図示せず)などの記憶装置に格納されている初期位相fと、取付け誤差角Δθから、1次における初期位相ずれ角のFを演算する。S402~S406は、前述したS202~S206と同じなので説明を省略する。
【0055】
なお、本発明は、例示した実施例に限定するものではなく、特許請求の範囲の各項に記載された内容から逸脱しない範囲の構成による実施が可能である。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
【符号の説明】
【0056】
100 モータ制御装置
10 制御部
11 電流指令値演算部
12 電流F/B制御部
13 2相/3相変換部
14 PWM変換部
15 3相/2相変換部
16 補正角度演算部
17 回転角度演算部
20 インバータ
30 磁気センサ
40 回転角検出用磁石
90 基板
91 コネクタ
M 三相電動モータ
M1 ステータ
M2 ステータコイル
M3 ロータ
M4 出力軸
M5 ケース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10