(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】欠陥濃度計算方法及び欠陥濃度計算プログラム
(51)【国際特許分類】
C30B 29/10 20060101AFI20241030BHJP
【FI】
C30B29/10
(21)【出願番号】P 2018188629
(22)【出願日】2018-10-03
【審査請求日】2021-08-12
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴史
(72)【発明者】
【氏名】桑原 彰秀
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】河本 充雄
【審判官】小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】J.Neugebauer,ほか,WIREs Computational Molecular Science,2013年,volume3,p.438-p.448,DOI:10.1002/wcms.1125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B29/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
解析対象とする半導体又は絶縁体の結晶構造及び電子状態の情報を結晶情報として入力する結晶情報入力工程と、
解析対象とする点欠陥又は複合欠陥の情報を欠陥情報として入力する欠陥情報入力工程と、
熱平衡条件を入力する熱平衡条件入力工程と、
占有可能格子点数及びフェルミレベルを初期化する初期化工程と、
入力された前記結晶情報、前記欠陥情報及び前記熱平衡条件に基づき、欠陥濃度の計算を行
う工程と、電気的中性条件と共に格子点総数保存条件が満たされるか否かの判定を行う
工程とを含み、前記電気的中性条件が満たされていない場合、フェルミレベルを更新し、前記欠陥濃度の計算を行う工程以下を繰り返し、前記格子点総数保存条件が満たされていない場合、占有可能格子点数を更新し、前記欠陥濃度の計算を行う工程以下を繰り返す制御工程と、
前記制御工程における計算結果を記憶装置に格納する出力工程と、
を含み、
前記熱平衡条件入力工程は、前記熱平衡条件として、原子の化学ポテンシャルを定める条件を入力することを特徴とする欠陥濃度計算方法。
【請求項2】
前記熱平衡条件入力工程は、前記熱平衡条件として、
更に、各原子の原子数密度の目的値を入力し、
前記初期化工程は、更に、原子の化学ポテンシャルを初期化し、
前記制御工程は、前記原子数密度の目的値に対する収束判定を
行う工程を含み、前記原子数密度が目的値に収束していない場合、原子の化学ポテンシャルを更新し、前記欠陥濃度の計算を行う工程以下を繰り返す請求項1記載の欠陥濃度計算方法。
【請求項3】
解析対象とする半導体又は絶縁体の結晶構造及び電子状態の情報を結晶情報として入力する結晶情報入力工程と、
解析対象とする点欠陥又は複合欠陥の情報を欠陥情報として入力する欠陥情報入力工程と、
熱平衡条件を入力する熱平衡条件入力工程と、
占有可能格子点数、フェルミレベル及び原子の化学ポテンシャルを初期化する初期化工程と、
入力された前記結晶情報、前記欠陥情報及び前記熱平衡条件に基づき、欠陥濃度の計算を行
う工程と、電気的中性条件と共に格子点総数保存条件が満たされるか否かの判定を行う
工程と、前記原子数密度の目的値に対する収束判定を行う工程とを含み、前記電気的中性条件が満たされていない場合、フェルミレベルを更新し、前記欠陥濃度の計算を行う工程以下を繰り返し、前記格子点総数保存条件が満たされていない場合、占有可能格子点数を更新し、前記欠陥濃度の計算を行う工程以下を繰り返し、前記原子数密度が目的値に収束していない場合、原子の化学ポテンシャルを更新し、前記欠陥濃度の計算を行う工程以下を繰り返す制御工程と、
前記制御工程における計算結果を記憶装置に格納する出力工程と、
を含み、
前記熱平衡条件入力工程は、前記熱平衡条件として、一部の原子種について各原子の原子数密度の目的値を入力し、その他の原子種については原子の化学ポテンシャルを定める条件を入力
することを特徴とする欠陥濃度計算方法。
【請求項4】
解析対象とする半導体又は絶縁体の結晶構造及び電子状態の情報を結晶情報として入力する結晶情報入力機能と、
解析対象とする点欠陥又は複合欠陥の情報を欠陥情報として入力する欠陥情報入力機能と、
熱平衡条件を入力する熱平衡条件入力機能と、
占有可能格子点数及びフェルミレベルを初期化する初期化機能と、
入力された前記結晶情報、前記欠陥情報及び前記熱平衡条件に基づき、欠陥濃度の計算を行い、電気的中性条件と共に格子点総数保存条件が満たされるか否かの判定を行
い、前記電気的中性条件が満たされていない場合、フェルミレベルを更新し、前記欠陥濃度の計算以下を繰り返し、前記格子点総数保存条件が満たされていない場合、占有可能格子点数を更新し、前記欠陥濃度の計算以下を繰り返す制御機能と、
前記制御機能における計算結果を記憶装置に格納する出力機能と、
をコンピュータに実行させ、
前記熱平衡条件入力機能は、前記熱平衡条件として、原子の化学ポテンシャルを定める条件を入力することを特徴とする欠陥濃度計算プログラム。
【請求項5】
前記熱平衡条件入力機能は、前記熱平衡条件として、
更に、各原子の原子数密度の目的値を入力し、
前記初期化機能は、更に、原子の化学ポテンシャルを初期化し、
前記制御機能は、前記原子数密度の目的値に対する収束判定
を行い、前記原子数密度が目的に収束していない場合、原子の化学ポテンシャルを更新し、前記欠陥濃度の計算以下を繰り返すことを含む請求項4に記載の欠陥濃度計算プログラム。
【請求項6】
解析対象とする半導体又は絶縁体の結晶構造及び電子状態の情報を結晶情報として入力する結晶情報入力機能と、
解析対象とする点欠陥又は複合欠陥の情報を欠陥情報として入力する欠陥情報入力機能と、
熱平衡条件を入力する熱平衡条件入力機能と、
占有可能格子点数、フェルミレベル及び原子の化学ポテンシャルを初期化する初期化機能と、
入力された前記結晶情報、前記欠陥情報及び前記熱平衡条件に基づき、欠陥濃度の計算を行い、電気的中性条件と共に格子点総数保存条件が満たされるか否かの判定
と、前記原子数密度の目的値に対する収束判定とを行い、前記電気的中性条件が満たされていない場合、フェルミレベルを更新し、前記欠陥濃度の計算以下を繰り返し、前記格子点総数保存条件が満たされていない場合、占有可能格子点数を更新し、前記欠陥濃度の計算以下を繰り返し、前記原子数密度が目的値に収束していない場合、原子の化学ポテンシャルを更新し、前記欠陥濃度の計算以下を繰り返す制御機能と、
前記制御機能における計算結果を記憶装置に格納する出力機能と、
をコンピュータに実行させ、
前記熱平衡条件入力機能は、前記熱平衡条件として、一部の原子種について各原子の原子数密度の目的値を入力し、その他の原子種については原子の化学ポテンシャルを定める条件を入力
することを特徴とする欠陥濃度計算プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、欠陥濃度計算方法及び欠陥濃度計算プログラムに関する。詳しくは、無機結晶中の点欠陥及び複合欠陥の熱平衡濃度を、第一原理計算に基づく計算結果などを用いて算出する欠陥濃度計算方法及び欠陥濃度計算プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
無機結晶材料中の点欠陥や点欠陥が少数集まった複合欠陥の濃度が、温度や化学ポテンシャル(ガス雰囲気や不純物濃度)によってどのように変化するかを定量的に解析することは、材料の合成条件・使用条件や不純物添加元素種の選択などに役立てられる。近年、結晶中に孤立した点欠陥や複合欠陥の形成エネルギーを、第一原理計算によりある程度保証された精度で計算する手法が確立されてきている(例えば、非特許文献1を参照)。また、これらの点欠陥計算を自動で進めるためのツールも提案・開発されている(例えば、非特許文献2を参照)。そして、このような欠陥形成エネルギーの情報をもとに、熱平衡条件における点欠陥濃度を算出することができる(例えば、非特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Y. Kumagai and F. Oba, "Electrostatics-based finite-size corrections for first-principles point defect calculations", Phys. Rev. B 89, 195205 (2014).
【文献】D. Broberg et al., Comput. "pyCDT: A Python toolkit for modeling point defects in semiconductors and insulators", Phys. Commun. 226, 165-179 (2018).
【文献】C. J. Forst, J. Slycke, K. J. Van Vliet, and S. Yip, "Point defect concentrations in metastable Fe-C alloys", Phys. Rev. Lett. 96, 175501 (2006); J. Neugebauer and T. Hickel, WIREs Comput. Mol. Sci. 3, 438 (2013).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のように、第一原理計算を用いて無機結晶中の点欠陥や複合欠陥の濃度の算出は可能となってきており、個々の材料系において解析に適用されている。しかし、多くは各々の材料系に特化した解析となっており、汎用性は高くない。また、複合欠陥を含む系や多数の点欠陥種を含む系に適用可能なスキームは構築されておらず、複合欠陥の間の競合を採り入れた欠陥濃度計算のスキームも構築されていない。そのため、自動的に多数の点欠陥の形成エネルギー計算を実施した後、得られた多数の点欠陥データをインプットとして欠陥濃度解析を実施するための方法がない。
【0005】
一般に、材料の性質は、粒径やその形状などある程度巨視的な特性に加え、単結晶領域(バルク部分)に形成される点欠陥などの微視的な欠陥特性にも支配される。特に、点欠陥は、その濃度が希薄な領域に限っても、電子伝導性やイオン伝導性、熱伝導性などの特性を制御するために積極的に活用されており、産業応用的にも重要な欠陥である。その応用例として、半導体におけるアクセプターやドナーによるキャリア制御、酸素イオン伝導体における欠陥導入によるイオン伝導性制御、遮熱コーティング材料における熱伝導率低下などが挙げられる。
また、どんなに純良な結晶であっても、エントロピーの効果により熱力学的に点欠陥が結晶中に導入されるため、欠陥挙動の制御技術の確立は産業応用上重要である。点欠陥の濃度を定量的且つ理論的に評価・解析する技術により、種々の材料開発を促進することができるものと期待される。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、どのような無機結晶系においても統一的に取り扱うことのできる、点欠陥及び複合欠陥の熱平衡濃度を算出する欠陥濃度計算プログラム及び欠陥濃度計算方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の通りである。
1.解析対象とする無機結晶の結晶構造及び電子状態の情報を結晶情報として入力する結晶情報入力工程と、解析対象とする点欠陥又は複合欠陥の情報を欠陥情報として入力する欠陥情報入力工程と、熱平衡条件を入力する熱平衡条件入力工程と、入力された前記結晶情報、前記欠陥情報及び前記熱平衡条件に基づき、欠陥濃度の計算、電気的中性条件の判定、及び格子点総数保存条件の判定を行う制御工程と、前記制御工程における計算結果を記憶装置に格納する出力工程と、を含むことを特徴とする欠陥濃度計算方法。
2.前記熱平衡条件入力工程は、前記熱平衡条件として、原子の化学ポテンシャルを定める条件を入力する前記1.記載の欠陥濃度計算方法。
3.前記熱平衡条件入力工程は、前記熱平衡条件として、各原子の原子数密度の目的値を入力し、前記制御工程は、前記原子数密度の目的値に対する収束判定を含む前記1.又は2.に記載の欠陥濃度計算方法。
4.前記熱平衡条件入力工程は、前記熱平衡条件として、一部の原子種について各原子の原子数密度の目的値を入力し、その他の原子種については原子の化学ポテンシャルを定める条件を入力し、前記制御工程は、前記原子数密度の目的値に対する収束判定を含む前記1.記載の欠陥濃度計算方法。
5.解析対象とする無機結晶の結晶構造及び電子状態の情報を結晶情報として入力する結晶情報入力機能と、解析対象とする点欠陥又は複合欠陥の情報を欠陥情報として入力する欠陥情報入力機能と、熱平衡条件を入力する熱平衡条件入力機能と、入力された前記結晶情報、前記欠陥情報及び前記熱平衡条件に基づき、欠陥濃度の計算、電気的中性条件の判定、及び格子点総数保存条件の判定を行う制御機能と、前記制御機能における計算結果を記憶装置に格納する出力機能と、をコンピュータに実行させることを特徴とする欠陥濃度計算プログラム。
6.前記熱平衡条件入力機能は、前記熱平衡条件として、原子の化学ポテンシャルを定める条件を入力する前記5.記載の欠陥濃度計算プログラム。
7.前記熱平衡条件入力機能は、前記熱平衡条件として、各原子の原子数密度の目的値を入力し、前記制御機能は、前記原子数密度の目的値に対する収束判定を含む前記5.又は6.に記載の欠陥濃度計算プログラム。
8.前記熱平衡条件入力機能は、前記熱平衡条件として、一部の原子種について各原子の原子数密度の目的値を入力し、その他の原子種については原子の化学ポテンシャルを定める条件を入力し、前記制御機能は、前記原子数密度の目的値に対する収束判定を含む前記5.記載の欠陥濃度計算プログラム。
【発明の効果】
【0008】
本発明の欠陥濃度計算方法によれば、解析対象とする無機結晶の結晶情報を入力する結晶情報入力工程と、解析対象とする点欠陥又は複合欠陥の情報を欠陥情報として入力する欠陥情報入力工程と、熱平衡条件を入力する熱平衡条件入力工程と、前記結晶情報、前記欠陥情報及び前記熱平衡条件に基づき、欠陥濃度の計算、電気的中性条件の判定、及び格子点総数保存条件の判定を行う制御工程と、前記制御工程における計算結果を記憶装置に格納する出力工程と、を含むため、結晶の種類を問わず、孤立した点欠陥や複合欠陥について熱平衡条件における欠陥濃度を統一的に算出することができ、汎用性の高い欠陥濃度解析手法を提供することができる。本欠陥濃度計算方法により、第一原理計算によって求められる欠陥形成エネルギーに基づいて、種々の熱平衡条件下における欠陥濃度の定量的な評価ができる。そして、多数の点欠陥の形成エネルギーから得られる点欠陥データを入力とすることにより、系統的な欠陥濃度解析を行うことができる。これにより、材料の電子伝導性、イオン伝導性、熱伝導性等の特性を制御して材料開発を効率的に行うことが可能になる。
【0009】
また、前記熱平衡条件入力工程は、前記熱平衡条件として、原子の化学ポテンシャルを定める条件を入力する場合には、入力される原子の化学ポテンシャル情報や、平衡相の組成とエネルギー等の情報に基づいて定まる化学ポテンシャルの条件において、欠陥濃度を算出することができる。その欠陥濃度の算出過程においては、全電荷を算出して電気的中性条件が満たされているかを判断し、また占有可能格子点数を算出して格子点総数保存条件が満たされているかを判断することができる。これにより、欠陥濃度の、ガス雰囲気や不純物濃度等の化学ポテンシャル依存性を解析することができる。
また、前記熱平衡条件入力工程は、前記熱平衡条件として、各原子の原子数密度の目的値を入力し、前記制御工程は、前記原子数密度の目的値に対する収束判定を含む場合には、各原子の原子数密度の目的値に収束する条件において、欠陥濃度を算出することができる。
更に、前記熱平衡条件入力工程は、前記熱平衡条件として、一部の原子種について各原子の原子数密度の目的値を入力し、その他の原子種については原子の化学ポテンシャルを定める条件を入力し、前記制御工程は、前記原子数密度の目的値に対する収束判定を含む場合には、原子数密度を一定としたい原子種について原子数密度が目的値に収束し、その他の原子種については化学ポテンシャルが一定となる条件において、欠陥濃度を算出することができる。
【0010】
本発明の欠陥濃度計算プログラムによれば、上記欠陥濃度計算方法に対応する機能を有するため、コンピュータ上で効率よく、孤立した点欠陥や複合欠陥について熱平衡条件における欠陥濃度を統一的、系統的に算出することができ、上記欠陥濃度計算方法の効果と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述によって更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
【
図1】2次元的に表された結晶構造の例を示す模式図である。
【
図2】欠陥濃度を計算するために入力される結晶情報の例を示す表である。
【
図3】2次元的に表された点欠陥及び複合欠陥の例を示す模式図である。
【
図4】欠陥濃度を計算するために入力される欠陥情報の例を示す表である。
【
図5】化学ポテンシャル一定の条件で欠陥濃度の計算を行う例を示すフローチャートである。
【
図6】原子数密度一定の条件で欠陥濃度の計算を行う例を示すフローチャートである。
【
図7】出力される欠陥濃度データの例を示す表である。
【
図8】欠陥濃度計算プログラムの構成例を示すブロック図である。
【
図9】Mg
2Si結晶構造と格子間Li原子の位置を示す模式図である。
【
図10】欠陥濃度の計算結果に基づいて作成されたグラフであり、(a)は各種点欠陥濃度の温度依存性を表し、(b)は各種点欠陥濃度のLi添加濃度依存性を表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図を参照しながら、本発明を詳しく説明する。
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0013】
本発明の欠陥濃度計算方法及び欠陥濃度計算プログラムは、解析対象となる結晶格子の情報、考慮する点欠陥及び複合欠陥の情報や、検討したい熱力学的条件などを入力として、目的とする無機材料中の希薄な点欠陥及び複合欠陥の熱平衡濃度を統一的に算出する。各種点欠陥の形成エネルギーや、結晶格子とその電子状態に関するデータの一部は、第一原理計算によって計算される。本実施形態においては、熱平衡条件の与え方により、以下の3つの場合(パターン)を可能とする。
(パターン1)全原子の化学ポテンシャルを与える場合(即ち、化学ポテンシャル一定の条件における欠陥濃度計算)
(パターン2)各原子の原子数密度を与える場合(即ち、原子数密度一定の条件における欠陥濃度計算)
(パターン3)上記パターン1と上記パターン2を部分的に組み合わせる場合
【0014】
上記欠陥濃度計算のため、本実施形態に係る欠陥濃度計算方法は、解析対象とする無機結晶の構造及び電子状態の情報を結晶情報として入力する結晶情報入力工程と、解析対象とする孤立点欠陥又は複合欠陥の情報を欠陥情報として入力する欠陥情報入力工程と、熱平衡条件を入力する熱平衡条件入力工程と、入力された前記結晶情報、前記欠陥情報及び前記熱平衡条件に基づき、欠陥濃度の計算、電気的中性条件の収束判定、及び格子点総数保存条件の収束判定の処理を行う制御工程と、前記制御工程による計算結果を記憶装置に格納する出力工程と、を備えている。
【0015】
ここで、前記熱平衡条件入力工程は、前記熱平衡条件として、原子の化学ポテンシャルを定める熱平衡条件を入力するように構成することができる。これによって、前記パターン1、即ち化学ポテンシャル一定の条件における計算を行うことができる。
また、前記熱平衡条件入力工程は、前記熱平衡条件として、各原子の原子数密度の目的値を入力し、前記制御工程は、前記原子数密度の目的値に対する収束判定の処理を含むように構成することができる。これによって、前記パターン2、即ち原子数密度一定の条件における計算を行うことができる。
更に、前記熱平衡条件入力工程は、前記熱平衡条件として、一部の原子種について各原子の原子数密度の目的値を入力し、その他の原子種については原子の化学ポテンシャルを定める熱平衡条件を入力し、前記制御工程は、原子数密度の目的値に対する収束判定の処理を含むように構成することができる。これによって、前記パターン3に対応する計算を行うことができる。
【0016】
前記結晶情報入力工程においては、解析対象とする無機結晶の結晶構造及び電子状態の情報が結晶情報として入力される。
欠陥を含まない完全結晶の構造は、周期的に並んだセル中に配置された原子が占有する格子点のセットによって表すことができる。実際の材料中では、完全結晶の格子点以外の、中間に位置する格子点(格子間格子点)にも原子が存在する可能性がある。
図1は、2次元的に表した結晶構造の例を示している。本例においては、単位セルU中に、原子Aが占める格子点S1と、原子Bが占める格子点S2がそれぞれ1つ存在し、格子点S1とS2の中間に位置する格子間格子点S3が2つ存在している。
【0017】
図1に示されている結晶構造の情報は、例えば、
図2のように構成することができる。本例においては、単位セルUの体積はVであり、単位セルU中に存在する格子点の種類及び各格子点数(1個の格子点S1、1個の格子点S2、2個の格子点S3)が示されている。また、格子点S1は原子A、格子点S2は原子Bによりそれぞれ占有され、格子点S3を占有する原子は存在しないことが示されている。この場合、前記結晶情報入力工程は、結晶情報(結晶パラメータ)として、単位セルのサイズ、格子点の種類、単位セル中の各格子点数、各格子点を占有する原子の識別情報等を入力するように構成することができる。
また、入力する結晶情報として、無機結晶の電子状態の情報を含むことができる。電子状態の情報としては、電子状態密度の情報、バンドギャップの値等が含まれる(後述)。
結晶情報の入力方法は特に問わず、例えば、記憶装置に格納されている結晶情報のファイルやデータを読み取って入力するようにしてもよいし、解析を行う者に入力させてもよい。以下の欠陥情報や熱平衡条件の入力方法についても同様である。
【0018】
前記欠陥情報入力工程においては、解析対象とする孤立点欠陥又は複合欠陥の情報が欠陥情報として入力される。
単純な孤立点欠陥として、完全結晶の原子が欠損した原子空孔、その原子が他の原子に置き換わった置換型原子、原子が格子間格子点に入った格子間原子の3つに類別できる。また本実施形態においては、2つ以上の点欠陥が近くに集まった欠陥状態(複合欠陥)も同時に考える。
図3は、完全結晶(
図1参照)に対して生じ得る欠陥を模式的に表した図である。
図3に示されるセルU
00には、格子点S1の原子Aが欠損した原子空孔V
Aが存在している。また、セルU
02には、格子点S2の原子Bが原子Aに置き換わった置換型原子A(A
B)が存在している。セルU
20には、原子Bが格子間格子点S3を占めた格子間原子B(B
I)が存在している。更に、セルU
22には、格子点S2の原子Bが欠損し、格子間格子点S3に原子Bが入った複合欠陥(V
B+B
I)が存在している。
【0019】
図4は、前記欠陥情報入力工程において入力する欠陥情報の例を表す表である。半導体や絶縁体では、点欠陥は価数qの電荷を帯びた状態として存在するため、任意の欠陥をD
qと表す。本例においては、欠陥情報(欠陥パラメータ)として、点欠陥の種類(D1、D2等)ごとに、電荷状態(価数q)、点欠陥導入による各原子の増減数、点欠陥が占有する格子点の種類と占有数、多重度、バルク結晶とのエネルギー差に対応する欠陥形成エネルギーを挙げている。ここで、多重度は、対称性として同じになる、即ち全ての欠陥パラメータが同じである欠陥配置の数である。
【0020】
格子上に欠陥を配置する際、欠陥がある格子点を占めることにより、その格子点を他の欠陥が占めることができないという排他的な作用が働く。その結果、実効的に欠陥が占有可能な格子点数は完全結晶における格子点の数よりも少なくなる。このとき、任意の格子点において各欠陥が占有している格子点数の総和と占有可能な格子点数とを加えた値は、完全結晶(
図1、2参照)で定義される格子点数と等しくなければならず、この条件を満たすように、欠陥により占有可能な格子点数(占有可能格子点数)が決められる。
【0021】
バンドギャップを有する半導体及び絶縁体では、欠陥濃度は、0からバンドギャップの間で変化するパラメータであるフェルミレベルにも依存する。フェルミレベルは結晶中に存在する複数の荷電欠陥と自由電子、ホールの間の電気的中性条件から決定される。ここで、自由電子、ホールの数密度については、電子状態密度D(ε)及びバンドギャップから算出することができる。電子状態密度D(ε)は、電子が取り得る、単位エネルギー当りの状態数である。電子状態密度の情報として、電子のエネルギーと電子状態密度を対応させ、例えば、電子のエネルギーεと電子状態密度D(ε)が対となったデータ列により構成することができる。
よって、解析対象とする無機結晶がバンドギャップを有する半導体及び絶縁体の場合には、入力する前記結晶情報として、完全結晶の電子状態の情報(電子状態密度の情報とバンドギャップの値を含む)も含む。
【0022】
本実施形態では、第一原理計算によって求められる欠陥形成エネルギーに基づいて、熱平衡条件下における点欠陥の濃度を理論的に評価する手法を提供する。このため、本実施形態には、熱平衡条件を入力する熱平衡条件入力工程を含んでいる。
熱平衡条件(熱平衡パラメータ)としては、温度に加え、各原子の化学ポテンシャル、もしくは原子数密度を入力する必要があり、計算の流れとして、前記パターン1~3の3つの場合に分けて説明する。
【0023】
(パターン1)全原子の化学ポテンシャルを与える場合;
各原子の化学ポテンシャルを直接的に与えるか、もしくは母結晶と平衡する相の組成とエネルギーから化学ポテンシャルを算出し、熱平衡条件として与える。ここで、平衡相が気体の場合は、理想気体近似に基づき、ガス分圧、温度をパラメータとして化学ポテンシャルを計算することも可能である。これらガス種のエネルギーの有限温度値の算出には、NIST-JANAFなどに収められている実験データベースを用いることができる(参考 M.W.Chase, NIST-JANAF Thermochemical Tables. Washington, DC: New York: American Chemical Society; American Institute of Physics for the National Institute of Standards and Technology, 1998)。
【0024】
前記パターン1における欠陥濃度計算処理(P1)の例を、
図5に示す。
本例においては、先ず、ステップS101において、解析対象とする無機結晶の結晶構造及び電子状態の情報を結晶情報として入力し(結晶情報入力工程)、解析対象とする孤立点欠陥又は複合欠陥の情報を欠陥情報として入力する(欠陥情報入力工程)。
また、ステップS103において、原子の化学ポテンシャルを定める熱平衡条件を入力する(熱平衡条件入力工程)。
そして、ステップS105において、占有可能格子点数及びフェルミレベルの初期値を設定する初期化処理を行う。占有可能格子点数の初期値は、0から完全結晶の格子点数までの範囲で任意の値とされればよい。フェルミレベルの初期値は、0からバンドギャップの間の任意の値とされればよい。
【0025】
上記工程の後、入力された結晶情報、欠陥情報及び熱平衡条件に基づき、欠陥濃度の算出を行う(制御工程)。この場合の欠陥濃度算出過程は、欠陥濃度計算処理(ステップS107)、全電荷を算出して電気的中性条件が満たされているかを判断する電気的中性条件の判定処理(ステップS109-113)、及び占有可能格子点数を算出して格子点総数保存条件が満たされているかを判定する格子点総数保存条件の判定処理(ステップS115-119)を含む。これにより、占有可能格子点数及びフェルミレベルの初期値から欠陥濃度の算出を開始し、各収束条件を満たすまで計算を繰り返すことにより、占有可能格子点数及びフェルミレベルの収束値を求め、それらに対応する欠陥濃度データを得ることができる。
【0026】
前記欠陥濃度計算処理(S107)においては、点欠陥情報や原子の化学ポテンシャル、フェルミレベルに基づいて、欠陥濃度が算出される。欠陥種をD
qと表すと、その点欠陥濃度N(D
q)は、式(1)により求められる。
【数1】
ここで、gは点欠陥の縮重度であり、N
s’は欠陥が占有可能な格子点数である。
また、欠陥種D
qの欠陥形成エネルギーE
f(D
q)は、式(2)で表される。
【数2】
ここで、E(D
q)とE(Perf)は、それぞれ第一原理計算によって算出される欠陥を含む構造セルのエネルギーと欠陥を含まない完全結晶のエネルギーである。また、Δn
α(D
q)とμ
α(D
q)は、点欠陥D
qの導入による原子αの増減数と化学ポテンシャルである。(E
VBM+ε
F)は電子1個の化学ポテンシャルに対応する。E
VBMは電子の母結晶の電子状態密度の価電子帯頂上のエネルギー、ε
Fはフェルミレベルである。ここで、入力される点欠陥の形成エネルギーは、(E(D
q)-E(Perf)+qE
VBM)に対応することとする。金属の場合は電荷qがゼロに対応し、フェルミレベルを考慮する必要はない。
【0027】
前記電気的中性条件の判定処理においては、欠陥濃度N(D
q)と電子状態密度D(ε)を入力情報として、先ず全電荷Q
totを計算する(S109)。全電荷Q
totは、次の式(3)から計算される。
【数3】
ここで、N(h
+1)とN(ε
-1)は、それぞれ母結晶の電子状態密度から計算されるホールと自由電子の濃度であり、電子状態密度D(ε)から、式(4)、(5)により計算される。
【数4】
【数5】
ここで、F(ε;ε
F)はフェルミレベルをε
Fとしたフェルミ分布関数である。
次いで、電気的中性条件が満たされているかを判定する(S111)。ここではゼロに近い任意の閾値をεとして、|Q
tot|<εを満たしていれば電気的中性条件が満たされていると判定し、そうでない場合は満たされていないと判定する。そして、電気的中性条件が満たされていない場合は、フェルミレベルを更新して(S113)、欠陥濃度の計算(S107)からやり直す。
【0028】
ステップ111において電気的中性条件が満たされていると判定した場合には、前記格子点総数保存条件の判定処理に進む。格子点総数保存条件の判定処理は、欠陥濃度N(D
q)、各欠陥の格子点占有数n
s(D
q)、及び各格子点の占有可能格子点数N
s’を入力情報とし、先ず格子点総数N
s
totを計算する(S115)。格子点総数N
s
totは、次の式(6)により計算される。
【数6】
ここで、n
s(D
q)は欠陥D
qが占める格子点s
の占有数である。
次いで、格子点総数保存条件が満たされているか、即ち各格子点sに対して格子点総数が母結晶の格子点総数N
s
0と一致するかを判定する(S117)。ここではゼロに近い任意の閾値をεとして、|N
s
tot-N
s
0|<εを満たしていれば格子点総数保存条件が満たされていると判定し、そうでない場合は満たされていないと判定する。そして、格子点総数保存条件が満たされていない場合は、占有可能格子点数を更新して(S119)、欠陥濃度の計算(S107)以下を繰り返す。
【0029】
ステップ117において格子点総数保存条件が満たされていると判定した場合には、以上の制御工程により計算された結果を記憶装置に格納して(出力工程)、前記パターン1における欠陥濃度計算処理P1を終了する。
【0030】
(パターン2)全原子の原子数密度を与える場合;
上記パターン1に、原子数密度を算出し、原子数密度の収束性を判定する処理を加えることができる。このパターン2における欠陥濃度計算処理(P2)の例を
図6に示す。
本例においては、ステップS201において、前記パターン1と同様に、必要な結晶情報、欠陥情報を入力する。
また、ステップS203において、前記熱平衡条件として、各原子の原子数密度の目的値を入力する(熱平衡条件入力工程)。
そして、ステップS205において、原子の化学ポテンシャルの初期値を設定する。初期値は任意の値とすることができる。
ステップS207においては、パターン1の欠陥濃度計算処理P1と同様の処理を行い、欠陥濃度を算出する。
【0031】
次いで、原子数密度計算処理を行う(S209)。原子数密度の計算は、欠陥濃度N(D
q)、各欠陥の原子数増減数Δn
α(D
q)を入力し、原子数密度N
α
totは次の式(7)より計算される。
【数7】
ここで、N
α
0は母結晶中の原子αの数密度である。
そして、原子数密度の収束判定処理を行う(S211)。N
α
inは、入力として与えられた原子αの目的数密度の値である。ここではゼロに近い任意の閾値をεとして、|N
α
tot-N
α
in|<εを満たしていれば原子数密度は充分収束していると判定し、そうでない場合は収束していないと判定する。そして、原子数密度が収束していないと判定された場合は、化学ポテンシャルを更新して(S213)、欠陥濃度の算出(S207)と原子数密度の収束判定を繰り返す。
ステップ211において原子数密度は収束していると判定された場合には、以上の制御工程により計算された結果を記憶装置に格納して(出力工程)、前記パターン2における欠陥濃度計算処理P2を終了する。
【0032】
以上のパターン2の処理によって、原子の任意の化学ポテンシャルの初期値から開始し、占有可能格子点数及びフェルミレベルの収束値を得るための処理と、原子数密度の収束判定を行い、原子数密度に関する収束条件を満たすまで処理を繰り返すことにより、収束条件を満たす欠陥濃度データを得ることができる。
【0033】
(パターン3)部分的に化学ポテンシャルもしくは原子数密度を与える場合;
一部の原子種については原子数密度を一定とし、残りの原子種については平衡相を与えて化学ポテンシャルを一定とすることもできる。この場合、前記熱平衡条件入力工程では、熱平衡条件として、一部の原子種について各原子の数密度の目的値を原子数密度情報として入力し、その他の原子種については原子の化学ポテンシャルを定める熱平衡条件を入力する。即ち、原子数密度一定としたい原子種に関する数密度と、残りの原子種の化学ポテンシャルを決めるために必要となる平衡相の組成とエネルギーを、熱平衡条件として与える。これにより、前記パターン2の欠陥濃度計算処理P2の流れと同様にして、熱平衡欠陥濃度を求めることができる。
【0034】
以上のような欠陥濃度の計算方法により、無機結晶の種類を問わず、孤立点欠陥及び/又は複合欠陥の濃度を算出することができる。また、原子の化学ポテンシャルや原子の数密度、それら熱平衡条件の組合せの下で欠陥濃度を算出することができる。前記出力工程において記憶装置に格納する欠陥濃度データの形式は特に限定されない。よって、入力する欠陥情報、熱平衡条件を系統的に変化させることによって、系統的な欠陥濃度解析を行うことが可能になる。
【0035】
例えば、系統的に変化する熱平衡条件に対して欠陥濃度の計算を行うことにより、
図7に示すような欠陥濃度データのテーブルを得ることができる。本テーブルは、温度、熱力学条件(熱平衡条件)、フェルミレベル、原子の数密度が異なる条件において計算された欠陥濃度データ(電子密度、ホール密度、欠陥種ごとの密度等)をまとめる例である。このようなテーブルを用いて、欠陥濃度の温度依存性や、他の熱平衡条件に対する依存性等をグラフ化したり、詳細な解析を行ったりすることが容易になる。
【0036】
別の実施形態として、以上に述べた欠陥濃度計算方法をコンピュータに実行させるための欠陥濃度計算プログラムを挙げる。
図8は、欠陥濃度計算プログラム1の構成を示している。
欠陥濃度計算プログラム1は、前記結晶情報入力工程に対応する結晶情報入力機能21と、前記欠陥情報入力工程に対応する欠陥情報入力機能23と、前記熱平衡条件入力工程に対応する熱平衡条件入力機能3と、前記制御工程に対応する制御機能4と、前記出力工程に対応する出力機能5とを含み、各機能をコンピュータ上で実行させるように構成されている。
【0037】
上記熱平衡条件入力機能3は、熱平衡条件として、原子の化学ポテンシャルを定める熱平衡条件の入力処理を行う化学ポテンシャル入力機能31、及び/又は各原子の原子数密度の目的値を入力する原子数密度入力機能32を備えることができる。
【0038】
上記制御機能4は、前記欠陥濃度計算処理を実行させる欠陥濃度計算機能41を備える。また、制御機能4は、全電荷を算出する全電荷計算機能431、及び電気的中性条件が満たされているかを判断する電気的中性条件判定機能433を備えることができる。また、制御機能4は、格子点総数を算出する格子点総数計算機能451、及び格子点総数保存条件が満たされているかを判断する格子点総数保存条件判定機能453を備えることができる。更に、制御機能4は、原子数密度を算出する原子数密度計算機能471、及び原子数密度の収束判定を行う原子数密度収束判定機能473を備えることができる。
【0039】
(実施例)
上記欠陥濃度計算プログラムを用いて欠陥濃度計算を行った例について説明する。本例では、
図9に示すような、蛍石型構造をもつMg
2Si結晶に対しLi添加をした系について欠陥濃度計算を行った。Mg
2Si結晶は0.8eV程度のバンドギャップを有する半導体である。添加元素Liを含まない真性点欠陥としては、Mg空孔、Si空孔、Si置換Mg原子、Mg置換Si原子、格子間Mg、格子間Siを考慮した。また、Li欠陥としては、Mg置換Li原子、Si置換Li原子、格子間Liを考慮した。
図9は、格子間Liが存在する欠陥構造を表している。各欠陥に対し、初期構造モデルから第一原理計算による構造緩和を実施し、欠陥形成エネルギーを算出した。第一原理計算には、平面波基底、PAW(Projector augmented wave)法によるVASPコードを用いた。交換相関汎関数にはハイブリッド汎関数HSE06を用いた。
【0040】
得られた上記欠陥形成エネルギーをもとに結晶情報や欠陥情報をまとめた入力ファイルを作成し、欠陥濃度計算プログラム1に入力して欠陥濃度計算を実施した結果を
図10に示す。同図(a)は、Mg
2SiとSiとLiSiを平衡相とした場合の単位セル当りの欠陥濃度を、各温度について計算してまとめた結果である。また、同図(b)は、温度を1200Kとし、単位セル当りのLi添加濃度(即ちLi原子数密度)を一定とした場合の、単位セル当りの欠陥濃度を計算してまとめた結果である。得られた結果から、-1価のMg置換Li原子と+1価の格子間Liが欠陥濃度としては優位になる傾向があり、これらの欠陥が電気的に打ち消し合っていることが理解される。
本欠陥濃度計算プログラムを用いることにより、上記のような熱平衡条件下での各欠陥の相対的濃度の解析を行うことができる。
【0041】
尚、本発明においては、以上に示した実施形態に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した態様とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
材料の点欠陥は、電子伝導性やイオン伝導性、熱伝導性などの特性を制御するために、産業上積極的に活用されている。例えば、半導体におけるアクセプターやドナーによるキャリア制御、酸素イオン伝導体における欠陥導入によるイオン伝導性制御、遮熱コーティング材料における熱伝導率低下などが挙げられる。どれ程純良な結晶であっても熱力学的に点欠陥が結晶中に導入されるため、欠陥挙動の制御技術の確立は産業応用上重要である。本発明は、点欠陥の濃度を定量的に理論評価・解析する技術を提供し、材料開発を促進することができる。
【符号の説明】
【0043】
1:欠陥濃度計算プログラム、21:結晶情報入力機能、23:欠陥情報入力機能、3:熱平衡条件入力機能、31:化学ポテンシャル入力機能、33:原子数密度入力機能、4:制御機能、41:欠陥濃度計算機能、431:全電荷計算機能、433:電気的中性条件判定機能、451:格子点総数計算機能、453:格子点総数保存条件判定機能、471:原子数密度計算機能、473:原子数密度収束判定機能、5:出力機能。