(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】椅子の肘掛け装置
(51)【国際特許分類】
A47C 7/54 20060101AFI20241030BHJP
【FI】
A47C7/54 F
(21)【出願番号】P 2018210908
(22)【出願日】2018-11-08
【審査請求日】2021-10-27
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2018190577
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000139780
【氏名又は名称】株式会社イトーキ
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】河本 誠太郎
【合議体】
【審判長】筑波 茂樹
【審判官】草野 顕子
【審判官】澤崎 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-529144(JP,A)
【文献】特開2009-254880(JP,A)
【文献】特開2001-204582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 7/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
椅子本体に取付けられる肘掛け装置であって、
前記椅子本体に固定されるベース体と、平行リンク機構を介して前記ベース体に上下動可能に取付けられたフロント支持体と、前記フロント支持体に取付けられた肘当てと、前記平行リンク機構
を回動可能な状態と回動不能な状態とに切替える機構部材とを有しており、
前記平行リンク機構は、強度メンバーとしての前後長手のメインリンクと、前記肘当ての
水平状の姿勢を保持するための補助リンクとから成っていて、前記両リンクは、それぞれ前記ベース体とフロント支持体とに相対回動可能に連結されている構成であって、
前記メインリンクは、
座の側の外観を構成した垂直姿勢の基板と該基板から左右方向の外側に張り出した水平部とを有して左右方向の外側に開口した略L形部を有する断面形状を成していて、前記メインリンクに外側からカバーが装着されており、前記メインリンクとカバーとの間の空間に、前記補助リンクと機構部材とが配置されている、
椅子の肘掛け装置。
【請求項2】
前記ベース体は、前記椅子本体に固定された第1ベース体と、前記第1ベース体に水平回転自在に装着した第2ベース体とで構成されており、前記第2ベース体に、前記メインリンクと補助リンクとが連結されている、
請求項1に記載した椅子の肘掛け装置。
【請求項3】
前記メインリンクのL形部は、前記基板の上端に前記水平部として天板が一体に形成されている形態である、
請求項1又は2に記載した椅子の肘掛け装置。
【請求項4】
前記第2ベース体に、水平状の支軸が左右方向の外向きに突設されていて、前記支軸に、前記メインリンクの基板が回動可能に連結されていると共に、前記メインリンクの基板の外側において固定ギアが回転不能に装着されている一方、
前記メインリンクの基板に、レバー操作によって前記固定ギアに係脱する可動ギアが回動可能に連結されている、
請求項
2に記載した椅子の肘掛け装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、椅子の肘掛け装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
椅子の肘掛け装置は、肘当ての高さや位置が一定になっている固定式と、肘当ての高さや姿勢を変更可能な可動式とに大別される。可動式の肘掛け装置においては、一般に、高さ調節可能な肘支柱に、肘当てを水平旋回等できるように取り付けた構造になっていることが多い。
【0003】
これに対して特許文献1には、椅子本体に固定される第1ベース体と、第1ベース体に水平回転自在に装着された第2ベース体と、前後長手で上下回動するように後端部が前記第2ベース体に連結された平行リンク機構と、平行リンク機構の前端部に水平回動可能に連結された肘当てとを有する構成が開示されている。
【0004】
この特許文献1では、平行リンク機構は上下回動自在でかつ水平回動自在であるため、肘当ては、平面視で座の内外に大きく横移動させつつ、高さを調節できる。従って、肘当ての可動範囲は、肘支柱方式のものに比べて大幅に広くなる。
【0005】
また、この特許文献1では、平行リンク機構は、強度メンバーとしてのメインリンクと、肘当てを水平姿勢に保持するための補助リンクとから成っており、メインリンクを下向きに開口した断面コ字形に形成して、メインリンクの内部に、補助リンクと高さ調節のための機構部材とを配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既述のとおり、特許文献1の肘掛け装置は、肘当ての移動範囲が大きくなるため、使用者の好みの違いや体格の違いなどへの適応性に優れている。しかし、補助リンクや機構部材は、メインリンクの上下開口の空間内に配置されているため、補助リンクや機構部材の組み付け・取り外しが厄介であり、組み立てやメンテナンスの作業性が悪いという問題がある。また、メインリンクは上下のカバーで覆われているため、部材点数が多くなってコストが嵩むおそれもある。
【0008】
また、特許文献1では、メインリンクの姿勢を保持するための手段として、固定ギアとこれに係脱する可動ギアとの組み合わせを採用しており、レバーを操作して可動ギアを固定ギアから離脱させることにより、メインリンクの上下回動を可能にしているが、特許文献1では、固定ギアは水平回転する第2ベース体に形成されていることから、第2ベース体は、ギアの歯欠けが生じないように固い素材で製造しなければならないため、コストや重量が嵩むおそれもあった。
【0009】
本願発明は、このような現状を契機として成されたものであり、特許文献1と同様に水平回動自在及び上下回動自在なメインリンクを有する肘掛け装置を、より改善された形態で提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、椅子本体に取付けられる肘掛け装置であり、この肘掛け装置は、請求項1のとおり、
「前記椅子本体に固定されるベース体と、平行リンク機構を介して前記ベース体に上下動可能に取付けられたフロント支持体と、前記フロント支持体に取付けられた肘当てと、前記平行リンク機構を回動可能な状態と回動不能な状態とに切替え機構部材とを有しており、
前記平行リンク機構は、強度メンバーとしての前後長手のメインリンクと、前記肘当ての水平状の姿勢を保持するための補助リンクとから成っていて、前記両リンクは、それぞれ前記ベース体とフロント支持体とに相対回動可能に連結されている」
という構成において、
「前記メインリンクは、座の側の外観を構成した垂直姿勢の基板と該基板から左右方向の外側に張り出した水平部とを有して左右方向の外側に開口した略L形部を有する断面形状を成していて、前記メインリンクに外側からカバーが装着されており、前記メインリンクとカバーとの間の空間に、前記補助リンクと機構部材とが配置されている」
という構成になっている。
【0011】
本願発明は、様々に展開できる。その例として請求項2では、
「前記ベース体は、前記椅子本体に固定された第1ベース体と、前記第1ベース体に水平回転自在に装着した第2ベース体とで構成されており、前記第2ベース体に、前記メインリンクと補助リンクとが連結されている」
という構成になっている。
【0012】
また、請求項3の発明は、請求項1又は2において、
「前記メインリンクのL形部は、前記基板の上端に前記水平部として天板が一体に形成されている形態である」
という構成になっている。
【0013】
更に、請求項4では、請求項2において、
「前記第2ベース体に、水平状の支軸が左右方向の外向きに突設されていて、前記支軸に、前記メインリンクの基板が回動可能に連結されていると共に、前記メインリンクの基板の外側において固定ギアが回転不能に装着されている一方、
前記メインリンクの基板に、レバー操作によって前記固定ギアに係脱する可動ギアが回動可能に連結されている」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0014】
本願発明では、メインリンクとカバーとで囲われていて補助リンクと機構部材が配置されている空間は、左右方向の外側に開口しているため、それら補助リンクや機構部材の取付け・取り外しを容易に行うことができる。従って、肘掛け装置の組み付けやメンテナンスの作業性を格段に向上できる。
【0015】
また、本願発明では、メインリンクは1枚のカバーを備えるだけで中空構造に形成できるため、構造をシンプル化できる。また、メインリンク自身が外観を構成するため、厚肉化することが可能であり、そのため、強度アップにも貢献できる。
【0016】
請求項2の構成を採用すると、肘当ては左右方向に大きく旋回させることができるため、肘当ての可動範囲を広げて使い勝手を大きく向上できる。
【0017】
メインリンクは、基板の下端に底板を有するL字形に形成することも可能であるが、請求項3のように、基板の上に天板を設けた逆L形に形成すると、メインリンクの上面は強度が高い天板で構成されるため、メインリンクに上から物が当たるなどしても、変形を防止できる。
【0018】
請求項4の構成を採用すると、固定ギアは第2ベース体と別体であるため、例えば、第2ベース体はアルミダイキャスト品や樹脂の成型品を採用して、固定ギアは鉄製とするというように、第2ベース体は軽量化や製造の容易性を優先できる素材を選択して、固定ギアは強度を優先した素材を選択できる。これにより、軽量化と強度の確保とを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態を適用した椅子を示す図で、(A)は前方斜視図、(B)は後方斜視図、(C)は背部のみの後方斜視図である。
【
図2】実施形態の肘掛け装置を示す図で、(A)は側面図、(B)は分離側面図である。
【
図3】(A)は肘掛け装置の平面図、(B)は肘掛け装置の分離平面図である。
【
図5】(A)はメインリンクを中心にした分離斜視図、(B)は第1ベース体に第2ベース体を装着した状態での平面図である。
【
図6】(A)はメインリンク及びベース体の分離斜視図、(B)は
図10(B)のVIB-VIB 視方向から見た断面図、(C)はメインリンクの部分的な斜視図である。
【
図7】(A)はメインリンク及びベース体の分離斜視図、(B)は
メインリンクの前端部を裏側から見た斜視図である。
【
図8】(A)はベース体を中心にした分離斜視図、(B)は
図3(A)の VIII-VIII視断面図である。
【
図9】(A)はベース体の分離斜視図、(B)はバックフレームへの取付け状態を示す図、(C)は第1ベース体の斜視図、(D)はバックフレームへの取付け状態を示す平断面図である。
【
図10】(A)はカバーを省略した一部分離側面図、(B)は分離側面図である。
【
図11】(A)は調節機構を説明するための分離斜視図、(B)も調節機構を説明するための分離斜視図、(C)は構成部材を前方から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下では、方向を特定するため前後・左右の文言を使用するが、これらの方向は、普通に着座した人から見た状態として特定している。正面視方向は、着座者と対向した方向である。
【0021】
(1).椅子の概要
まず、本実施形態の肘掛け装置が適用された椅子の概要を、主として
図1を参照して説明する。この椅子は、オフィス等で多用されている回転椅子であり、主要部材として、座1と背もたれ2、背もたれ2が取り付けられたバックフレーム3、及びキャスタ付きの脚装置4を備えている。背もたれ2の後ろには、ランバーサポート装置5が配置されている。椅子は、オプション品として、本実施形態の肘掛け装置6とヘッドレスト(或いはショルダーレスト)7を備えている。
【0022】
バックフレーム3は、左右中間部に位置した背支柱8と、背支柱8の上端に取り付けた左右長手のアッパサポート9と、背支柱8の下端から左右に張り出したロアサポート10とを備えており、背もたれ2は、アッパサポート9の左右両端及びロアサポート10の左右両端に連結されている。従って、背もたれ2は、4点支持の状態でバックフレーム3に連結されている。
【0023】
アッパサポート9は、背支柱8とは別体に製造されており、背支柱8には、図示しない軸支手段により、水平回動可能に取付けられている。他方、背もたれ2は、
図1(C)のとおり、背板(インナーシェル)2aと、その表裏に張られたクッション材11とを有しており、表裏のクッション材11は袋状の表皮材で覆われている。なお、背もたれ2は、前後に開口した背フレームにメッシュ材が張られているタイプなど、各種の構造のものを採用できる。
【0024】
図示は省略するが、バックフレーム3の下端には前向き
部が一体に形成されており、
図2に示すように、前向き部に固定された傾動部材12が、脚装置4の状態に固定されたベース13に後傾動可能に連結されている。従って、本実施形態の椅子は、背もたれ2がばね手段に抗して後傾するロッキング椅子であり、肘掛け装置6は、背もたれ2と一緒に後傾する。
【0025】
ロアサポート10は、平面視では座1の後部を囲うように湾曲している。すなわち、
図3に明示するように、湾曲した状態で左右外側と手前側とに向けて延びている。また、
図1(B)に明示されているように、手前に行くに従って高さが高くなるように傾斜している。更に、
図3に明示されているように、ロアサポート10は、先端に行くに従って横幅が小さくなっている。すなわち、ロアサポート10は、平面視で先窄まりになっている。
【0026】
さて、肘掛け装置6はロアサポート10に取付けられているため、肘掛け装置6に作用した下向きの荷重は、ロアサポート10に対しては、これを捩じるような外力として作用する。この場合、ロアサポート10が真横に延びていると、ロアサポート10に対して強い捩じり力が作用するため、ロアサポート10を大型化する必要がある。
【0027】
これに対して、本実施形態では、ロアサポート10は平面視で湾曲しつつ左右外側と手前とに向けて延びているため、ロアサポート10に曲げ力と捩じりとの複合した力が作用することになり、高い抵抗を発揮する。従って、ロアサポート10は、できるだけ細くしつつ、必要な強度を確保することができる。
【0028】
また、
図1(B)(C)から理解できるように、ロアサポート10は、先端に向けて上下幅が小さくなっている。逆に見ると、背支柱8に向けて上下幅が大きくなっている。従って、肘掛け装置6
に作用した荷重を的確に支持できる。
【0029】
背支柱8及びアッパサポート9は合成樹脂製であるが、アルミダイキャスト品としたり,金属板で製造したりすることも可能である。背支柱8及びロアサポート10の背面には、センターカバー14及びサイドカバー15を装着している。すなわち、センターカバー14は、背支柱8の全体とロアサポート10の略半分程度を覆って、サイドカバー15は、ロアサポート10のうち先端側の略半分程度を覆っている。肘掛け装置6を取り付ける場合は、取付け穴が空いたサイドカバー15が使用されている。
【0030】
(2).肘掛け装置の概要・旋回機構部
次に、肘掛け装置6の構造を、
図2以下の図面を参照して説明する。まず、概要を説明する。
【0031】
図4,5から理解できるように、肘掛け装置6は、バックフレーム3におけるロアサポート10の先端部に固定された第1ベース体21と、第1ベース体21に水平回転自在に装着された第2ベース体22と、前後長手で後端部が第2ベース体22に連結されたメインリンク23及び補助リンク24と、メインリンク23及び補助リンク24の前端部に連結されたフロント支持体25と、フロント支持体25に前後動自在及び水平回動自在に取付けられた肘当て26とを有している。
【0032】
メインリンク23の前後連結部と補助リンク24の前後連結部とは上下に離れている。従って、メインリンク23と補助リンク24とで平行リンク機構が構成されている。従って、メインリンク23と補助リンク24とがその後端を支点にして上下回動すると、フロント支持体25は、鉛直姿勢を保持した状態で上下動する。従って、肘当て26は、水平状の姿勢を保持して高さ調節できる。
【0033】
また、肘当て26は、メインリンク23及び補助リンク24の水平旋回によって左右位置を大きく変更できると共に、肘当て旋回機構部により、平面視姿勢と前後位置とを調節することができる。
【0034】
肘当て26は前後に長い形態であり、その長手方向に移動可能でかつ水平旋回可能になっている。この動きを実現するための肘当て旋回機構部は、
図4に表示されている。この点を次に説明する。
【0035】
肘当て旋回機構部は、フロント支持体25の上に、指挟み防止板27を介して、前後長手で上向きに開口した受け枠28が配置されている。肘当て26は、受け枠28に装着されている。フロント支持体25の中心位置には円形のボス体29を設けており、受け枠28には、ボス体29が貫通する長穴が空いている。従って、受け枠28は、その長手方向にスライド可能になっている。
【0036】
受け枠28の内部には、当該受け枠28の長手方向に長いスライド補助体30が配置されており、スライド補助体30には蓋部材31が上から重なっており、蓋部材31には、上フランジ付きの姿勢保持体32が上から嵌まっている。スライド補助体30と蓋部材31とは、フロント支持体25のボス体29に対してスライド不能で回転可能に嵌まっており、姿勢保持体32は、ビス33により、ボス体29に回転不能に固定されている。
【0037】
受け枠28の内側面には、前後位置調節用の凹凸部34が形成されている一方、スライド補助体30には、凹凸部34に当接する係止部35が水平回動可能に形成されていると共に、係止部35の内向き回動に抵抗を付与する下ゴム36が内蔵されている。従って、肘当て26は、下ゴム36の弾性に抗して前後位置を調節できる。
【0038】
また、スライド補助体30は上向きに開口しており、上ゴム37で外側から支持された当接子38が、軸心を挟んだ両側に配置されている一方、姿勢保持体32の外周部には、当接子38が当たる凹凸部39が形成されている。従って、肘当て26は、上ゴム37の弾性に抗して水平旋回(回動)させることができる。
【0039】
(3).ベース部の構造
次に、第1ベース体21及び第2ベース体22を、主として
図5~9を参照して説明する。なお、第1ベース体21及び第2ベース体22はアルミダイキャスト品であるが、樹脂の成型品を使用することも可能である。
【0040】
図7,8に示すように、第1ベース体21は、下向きに窄まったカップ状に形成されており、その上側の部位(略上半部)に、バックフレーム3のロアサポート10に向けて延びる腕部43を一体に設け、腕部43に下向き突設したフランジ44を、ボルト45でロアサポート10に固定している。
【0041】
この場合、
図6や
図9(B)(D)に示すように、ロアサポート10に、外向きに開口した係合穴46を設けている一方、腕部43に、係合穴46にきっちり嵌合する係合突起47を形成している。従って、肘当て26に作用した下向きの荷重は、係合突起47と係合穴46との嵌合部によって支持されている。このため、1本のボルト45による締結であっても、高い支持強度を得ることができる。
【0042】
図8(B)に明示するように、第1ベース体21には、下窄まりの軸受け穴48が上向きに開口しており、軸受け穴48に、第2ベース体22を構成する下窄まりのボス部49が、合成樹脂製のブッシュ50を介して嵌め入れられている。また、第1ベース体21には、ストレート状の下向き開口穴51が開口している。下向き開口穴51には抜け止めリング52が配置されており、抜け止めリング52は、ボルト53によって、第2ベース体22のボス部49に固定されている。抜け止めリング52は、上向き環状溝54を有する二重筒状に形成されており、上向き環状溝54にカラー55を嵌め入れている。
【0043】
図8(A)及び
図9(A)に示すように、第2ベース体22は、第
1ベース体21の上部に嵌り込むフランジ22aを備えており、フランジ22aの下面に一対の突起56を形成して、これらの突起56に、ブッシュ50に形成した切欠き57が嵌合している。従って、ブッシュ50は第2ベース体22と一体に回転する。
図9(D)に示すように、第1ベース体21の内部にも、突起56が嵌まる切欠き溝57aを形成している。
【0044】
第2ベース体22は、第1ベース体21の上に露出したブラケット部58を備えている。ブラケット部58は、第2ベース体22の回転中心よりもバックフレーム3の側にずらして(オフセットして)形成されており、板状の形態を成している。また、例えば
図7に示すように、ブラケット部58には、ボス部49に繋がった補強リブ58aを設けている。
【0045】
図5(B)に明示するように、ブラケット部58のうち座1と反対側の外側面は、第2ベース体22の回転軸心O1の近傍に位置しており、ブラケット部58の外側面に、メインリンク23を連結するための水平姿勢の支軸59が一体に形成されている。従って、メインリンク23の基端部(後端部)には、支軸59に嵌まる軸受け穴23aが空いている。
【0046】
支軸59は、平面視で第1ベース体21のエリアに収まっている。従って、背支柱8に作用した下向きの荷重が第2ベース体22及び第1ベース体21に対して大きなモーメントとして作用することを防止できる。その結果、第1ベース体21による荷重の支持強度を向上できる。
【0047】
例えば
図7に示すように、第2ベース体22のブラケット部58は、ロアサポート10の側からフード60で覆われている。フード60の下端には、ブラケット部58を手前から囲うリング部60aが形成されており、リング部60aの外径は、第1ベース体21の上端の外径と同じになっている。従って、フード60の外面と第1ベース体21との外面とは、一連に連続するように揃っている。従って、美観に優れている。
【0048】
(4).平行リンク機構・姿勢保持機構
次に、メインリンク23を中心にした構造を説明する。例えば
図5に示すように、メインリンク23のうち前部と後部とを除いた大部分は、鉛直姿勢の基板63の上端に天板64を一体に形成したL形部になっている。従って、左右外側と下方とに開口した空間があり、この空間を、外側からL形のカバー65で塞いでいる。天板64の後端は、下方に曲がった後面板64aになっている。
図7に示すように、基板63の側面には、軽量化のための凹所66を形成している。他方、
図7に示すように、天板64の下面には補強リブ67を形成している。
天板64は水平部の一例である。
【0049】
支軸59はメインリンク23の後端部を貫通して手前に露出しており、この露出端部に、固定ギア68が回転不能に連結されている。つまり、例えば
図7に示すように、支軸59の先端部を角形部59aに形成する一方、固定ギア68には、角形部59aときっちり嵌合する角形穴69を形成することにより、固定ギア68を回転不能に保持している。固定ギア68は図示しないビスによって支軸59に抜け不能に保持されており、メインリンク23は、固定ギア68によって、支軸59から抜け不能に保持されている。
【0050】
メインリンク23の先端部は二股状に分岐しており、この二股状先端部70に、フロント支持体25の下部に設けた連結部71が水平姿勢の上ピン72で連結されている。すなわち、フロント支持体25の連結部71も二股状になっているが、メインリンク23の二股状先端部70でフロント支持体25の連結部71を挟んでおり、その状態で、上ピン72によって連結している。上ピン72は、フード60によって抜け不能に保持されている。
【0051】
更に、フロント支持体25の連結部71と第2ベース体22のブラケット部58とが、補助リンク24によって連結されている。すなわち、補助リンク24の前端部は、フロント支持体25における二股状連結部71の内部に配置されていて、連結部71に対して水平状の下ピン74によって相対動可能に連結されている一方、補助リンク24の後端は、第2ベース体22のブラケット部58から外向きに突設した横向きピン75に連結されている。
【0052】
図6(C)に示すように、メインリンク23の基部のうち軸受け穴23aの下方に、ブラケット部58の横向きピン75が嵌挿する長穴23bが空いている。従って、メインリンク23は、長穴23bが横向きピン75と相対動する範囲で上下回動し得る。従って、例えはギア部68a,76aの噛み合いが何らかの理由で外れるような事態があっても、肘当て26が過剰に下降するようなことはない。すなわち、長穴23bは、安全装置として機能している。
【0053】
既述の固定ギア68は、手前側の面に固定ギア部68aが形成されている。そして、固定ギア68の手前側には、メインリンク23の回動軸心と平行な軸心回りに回動する可動ギア76が配置されている。例えば
図5(A)に示すように、可動ギア76に後部には、固定ギア68のギア部68aに係脱する可動ギア部76aが形成されており、可動ギア76が回動することにより、メインリンク23が回動可能な状態と回動不能な状態とに切替えられる。可動ギア76は、メインリンク23の基板63に突設したボス77(例えば
図5参照)に連結されており、図示しないビスによって抜け不能に保持されている。
【0054】
可動ギア76の回動操作は、例えば
図11に示す操作レバー78によって行われる。操作レバー78は、フロント支持体25を下から抱持するケース79の手前に露出した指掛け部を有している。また操作レバー78は、左右外向きに突出した支持ピン78aを有しており、支持ピン78aは、フロント支持体25に設けた軸受け凹所81(
図11(C))に嵌め込まれている。従って、操作レバー78は、支持ピン78aを支点にして上下回動する。
図11(A)(B)のとおり、ケース79には、操作レバー78の指掛け部を露出させるための切欠き79aを形成している。
【0055】
操作レバー78の回動は、中間レバー82を介して可動ギア76の回動に伝達される。中間レバー82は、その前後中途部が、メインリンク23の基板63に設けたボス83に連結されており、前端部に、操作レバー78の下向き傾斜部78bが上から当接している(中間レバー82は、ビスにより、ボス83に回転可能で抜け不能に保持されている。)。また、メインリンク23に設けた後ろ向き開口の筒部82aに、可動ギア76に設けた前向きアーム76bを挿入している。更に、中間レバー82には、メインリンク23の天板64に当たるばね片82bが形成されている。
【0056】
従って、操作レバー78に指を掛けていない状態では、可動ギア76は、ばね片82bにより、固定ギア68に噛み合った状態が保持されている。従って、メインリンク23は角度が保持されて、肘当て26の高さは保持されている。そして、操作レバー78に指を掛けて上に引くと、メインリンク23は回動して可動ギア76は固定ギア68から離脱し、メインリンク23を上下回動させることができる。
【0057】
カバー65は既述のとおりL形になっており、
図7に明示するように、下端に水平片65a有している。そして、カバー65の前端部65b,65cがメインリンク23の前端部に重なった状態で、ケース79によって覆われている。このため、カバー65の前端部はメインリンク23から離脱不能に保持されている。
【0058】
他方、図示していないが、カバー65の後端部76dは、図示しない爪手段により、メインリンク23の後端部に係合されている。従って、メインリンク23の後端部には、係合溝のような係合手段を設けている。カバー65の上端縁及び後端縁に、メインリンク23の方に向いたリブを形成する一方、メインリンク23の外面には、リブが嵌合する溝を形成することにより、カバー65をしっかりと位置決めすることも可能である。また、カバー65は、水平片65aをビスでメインリンク23に固定することも可能である。
【0059】
(5).まとめ
メインリンク23が連結されている支軸59は、第2ベース体22に設けたブラケット部58に突設しているため、
図3(A)に示すように、メインリンク23の長手中心線O2は、第2ベース体22の回転軸心O1よりも外側(座1と反対側)に位置している。このため、第1ベース体21をできるだけバックフレーム3のロアサポート10にずらして、肘掛け装置6の全体をコンパクト化できる。
【0060】
また、
図5(B)に明示するように、支軸59は、平面視で第1ベース体21の範囲に収まっているため、第2ベース体22及び第1ベース体21に大きな曲げモーメントが作用することはない。このため、メインリンク23の長手中心線O2が第2ベース体22及びメインリンク23の水平回動軸心O1の外側にはみ出ていても、第1ベース体21に対する負担を軽減できる。
【0061】
更に、肘当て26に作用した荷重は、メインリンク23を介して第2ベース体22に作用するが、メインリンク23の基板63は第2ベース体22のブラケット部58に寄っているため、荷重の作用点をできるだけ第1ベース体21及び第2ベース体22の軸心部に寄せることができる。これにより、高い支持強度を確保できる。
【0062】
補助リンク24はメインリンク23とカバー65との間の空間に配置されている。また、固定ギア68、可動ギア76、補助リンク24、中間レバー82といった姿勢保持部材(機構部材)も、メインリンク23における基板63の外側に配置されているため、これらの部材の取付けを容易に行える。すなわち、基板63の外側は広い空間として開放されているため、補助リンク24の連結や、固定ギア68等の部材のセットやビスのねじ込みのような作業を、容易に行える。従って、肘掛け装置6の組み立ての手間やメンテナンスの手間を軽減できる。
【0063】
図7(A)を引用して述べたように、メインリンク23の内面(座1に向いた面)に凹所66を形成すると、必要な強度は確保しつつ材料の使用量を低減できるため、コスト面で有利である。また、ひずみの発生を防止できる利点もある。
【0064】
本実施形態のメインリンク23は、基本的には、逆L形になっていると云えるが、凹所66を考慮すると、鉛直姿勢の基板63と、その上端と下端とに設けた水平部とで構成されており、上下の水平部は、少なくとも左右いずれかの方向に張り出している、という形態として特定することも可能である。いずれにしても、L形部を有している。
【0065】
以上、本願各発明の実施形態を説明したが、本願の各発明は、他にも様々に具体化できる。例えば、メインリンク23を外向きに開口したコ字形に形成して、開口部をカバーで塞ぐことも可能である。また、実施形態では、肘掛け装置はバックフレームのロアサポートに取付けられているが、肘掛け装置は、バックフレームのうちの他の部位や、脚支柱の上端に設けたベース、或いは座アウターシェル(座受け部材)など、椅子本体を構成する各部位に取り付けることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本願発明は、椅子の肘掛け装置に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0067】
1 座
2 背もたれ
3 バックフレーム
6 肘掛け装置
8 背支柱
10 ロアサポート
21 第1ベース体
22 第2ベース体
23 メインリンク
24 補助リンク
25 フロント支持体
26 肘当て
58 ブラケット部
59 支軸
63 メインリンクの基板
64 メインリンクの天板
65 カバー
68 固定ギア
76 可動ギア
78 操作レバー
82 中間レバー