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特許7579047有床義歯の製造方法、成型用型および有床義歯製造用のキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】有床義歯の製造方法、成型用型および有床義歯製造用のキット
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/007 20060101AFI20241030BHJP
   A61C 13/01 20060101ALI20241030BHJP
   A61C 13/14 20060101ALI20241030BHJP
   A61C 13/20 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
A61C13/007
A61C13/01
A61C13/14 Z
A61C13/20 B
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019027387
(22)【出願日】2019-02-19
(65)【公開番号】P2020130570
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】317009525
【氏名又は名称】DGSHAPE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【弁理士】
【氏名又は名称】古市 昭博
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 浩史
(72)【発明者】
【氏名】磯部 佐智乃
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-136520(JP,A)
【文献】特許第6379345(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0245891(US,A1)
【文献】特開2017-035458(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0042705(US,A1)
【文献】特表2016-517308(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105407833(CN,A)
【文献】独国実用新案第202010001125(DE,U1)
【文献】米国特許第6149427(US,A)
【文献】国際公開第2018/029164(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/20-5/35;5/70-5/88;8/00-13/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
義歯床と前記義歯床に配置された人工歯とを備えた有床義歯の製造方法であって、
前記義歯床に配置された前記人工歯の歯型である人工歯型の3次元データを準備する3次元データ準備工程と、
切削装置に直接的または間接的に取り付けられる被保持部と、前記切削装置によって切削される被切削面と、を有する成型用型を準備する成型用型準備工程と、
前記被保持部を介して前記成型用型を前記切削装置に直接的または間接的に取り付け、前記人工歯型の3次元データに基づいて、前記成型用型の前記被切削面に前記人工歯を嵌め込むための配置溝を切削する成型用型切削工程と、
前記配置溝に前記人工歯を嵌合する人工歯配置工程と、
前記配置溝に前記人工歯が配置された状態で義歯床用材料を注入し、前記成型用型と前記人工歯と前記義歯床用材料の硬化物とが一体化された一体物を作製する義歯床用材料硬化工程と、
を包含する、製造方法。
【請求項2】
前記3次元データ準備工程では、前記有床義歯の3次元データをさらに用意し、
前記義歯床用材料硬化工程の後、前記被保持部を介して前記一体物を前記切削装置に直接的または間接的に取り付け、前記有床義歯の3次元データに基づいて、少なくとも前記硬化物を加工する一体物加工工程を、さらに含む、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記成型用型準備工程では、前記被切削面と前記被切削面から上方に延びる側壁とで囲まれ、前記義歯床用材料が注入される造形空間を有する前記成型用型を準備し、
前記義歯床用材料硬化工程では、前記造形空間に前記義歯床用材料を注入し、前記義歯床用材料を硬化させる、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記成型用型準備工程では、前記側壁の高さが、前記義歯床の最大厚みよりも高い前記成型用型を準備し、
前記義歯床用材料硬化工程では、一回の前記硬化で前記一体物を作製する、
請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記人工歯配置工程では、接着剤を介在させずに前記配置溝に前記人工歯の歯冠部側を嵌め合わせる、
請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記成型用型準備工程では、前記被切削面が樹脂製である前記成型用型を準備し、
前記義歯床用材料硬化工程では、前記義歯床用材料として、前記被切削面を構成する樹脂と同種の樹脂を含む重合レジンを用いる、
請求項1から5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記成型用型の前記被切削面はアクリル系樹脂製であり、
前記義歯床用材料として、アクリル系樹脂組成物を用いる、
請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記成型用型準備工程では、前記被保持部に突起部を有する前記成型用型を準備し、
前記成型用型切削工程では、前記突起部が嵌め合わされる嵌合溝を有するアダプタを準備し、前記アダプタの前記嵌合溝に前記被保持部の前記突起部を嵌め合わせることによって、前記成型用型を前記アダプタに取り付け、前記アダプタを介して前記成型用型を間接的に前記切削装置に取り付ける、
請求項1から7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記成型用型準備工程では、第1突起部を有する第1被保持部と、前記第1被保持部と対向する位置に形成され、第2突起部および第3突起部を有する第2被保持部と、を有する前記成型用型を準備し、
前記成型用型切削工程では、前記第1突起部と前記第2突起部と前記第3突起部とがそれぞれ嵌め合わされる3つ以上の前記嵌合溝を有する前記アダプタを準備する、
請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
義歯床と前記義歯床に配置された人工歯とを備えた有床義歯を製造するための成型用型であって、
切削装置に直接的または間接的に取り付けられる被保持部と、
前記切削装置で切削されて前記人工歯を嵌め込むための配置溝が形成される被切削面と、
前記被切削面と前記被切削面から上方に延びる側壁とで囲まれ、義歯床用材料が注入される造形空間と、
を有する、成型用型。
【請求項11】
前記成型用型の前記被切削面はアクリル系樹脂製であり、
前記造形空間には、前記義歯床用材料としてアクリル系樹脂組成物が注入される、
請求項10に記載の成型用型。
【請求項12】
前記側壁の高さが、前記義歯床の最大厚みよりも高い、
請求項10または11に記載の成型用型。
【請求項13】
請求項10から12のいずれか一項に記載の成型用型と、
前記成型用型が取り付けられ、前記切削装置に保持されるアダプタと、
を備える、有床義歯製造用のキット。
【請求項14】
前記成型用型は、前記被保持部に突起部を有し、
前記アダプタは、前記突起部が嵌め合わされる嵌合溝を有し、
前記アダプタの前記嵌合溝に前記被保持部の前記突起部を嵌め合わせることによって、前記成型用型を前記アダプタに取り付け可能に構成されている、
請求項13に記載の有床義歯製造用のキット。
【請求項15】
前記成型用型は、第1突起部を有する第1被保持部と、前記第1被保持部と対向する位置に形成され、第2突起部および第3突起部を有する第2被保持部と、を有し、
前記アダプタは、前記第1突起部と前記第2突起部と前記第3突起部とがそれぞれ嵌め合わされる3つ以上の前記嵌合溝を有する、
請求項14に記載の有床義歯製造用のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有床義歯の製造方法、成型用型および有床義歯製造用のキットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、患者の欠損した歯を代替するために、有床義歯が用いられている。有床義歯を作製する場合は、例えばまず、歯科用樹脂材料等を所望の形状に切削して義歯床を作製する。次に、別途用意した人工歯を、義歯床に接合する。近年、コンピュータ支援設計(Computer-aided design:CAD)およびコンピュータ支援製造(Computer aided manufacturing:CAM)技術の導入により、義歯床の作製は、コンピュータで設計した切削加工用のデータに基づいて切削装置で機械的に行われるようになってきている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一方、人工歯を義歯床に接合する作業は、依然として技工士が手作業で行うことが一般的である。すなわち、接着剤又は重合材料を用いて人工歯を一本ずつ地道に義歯床に接着することが一般的である。しかし、人工歯を一本ずつ義歯床に接着する作業は、例えば総義歯のように人工歯の本数が多い場合に、多大な時間や手間を要する。また、人工歯を接着する際、技工士は対合歯に対する位置合わせを行う必要があり、高度な技能が要求される。このため、技工士にとって負担が大きかった。さらに、技工士の技能に左右されて、有床義歯の品質にばらつきを生じるおそれがあった。
【0004】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、技工士の作業負担を軽減し、有床義歯を容易に作製することができる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態により、義歯床と前記義歯床に配置された人工歯とを備えた有床義歯の製造方法が提供される。この製造方法は、前記義歯床に配置された前記人工歯の歯型である人工歯型の3次元データを準備する3次元データ準備工程と、切削装置に直接的または間接的に取り付けられる被保持部と、前記切削装置によって切削される被切削面と、を有する成型用型を準備する成型用型準備工程と、前記被保持部を介して前記成型用型を前記切削装置に直接的または間接的に取り付け、前記人工歯型の3次元データに基づいて、前記成型用型の前記被切削面に前記人工歯の配置溝を切削する成型用型切削工程と、前記配置溝に前記人工歯を配置する人工歯配置工程と、前記配置溝に前記人工歯が配置された状態で義歯床用材料を注入し、前記成型用型と前記人工歯と前記義歯床用材料の硬化物とが一体化された一体物を作製する義歯床用材料硬化工程と、を包含する。
【0006】
ここに開示される製造方法では、人工歯型の3次元データに基づき、切削装置を用いて成型用型に配置溝を形成する。技工士は、配置溝に人工歯を配置するだけで対合歯に対する位置合わせを行うことができる。このため、例えば経験の浅い技工士であっても、適切な位置に人工歯を配置することができる。また、ここに開示される製造方法では、人工歯が配置溝に配置された状態で義歯床用材料を注入し、義歯床用材料の硬化物と人工歯とを一体化する。このため、技工士は複数の人工歯を一気に義歯床の前駆物質と一体化させることが可能となり、人工歯を一本ずつ義歯床に接着する必要がなくなる。以上のように、ここに開示される製造方法では、人工歯の接合に要する時間や手間を削減することができ、効率化を図ることができる。また、技工士の作業負担を軽減して、容易に有床義歯を作製することができる。このため、有床義歯の品質が技工士個人の技能に左右されにくく、品質の安定した有床義歯を作製することができる。
【0007】
本発明の一実施形態により、義歯床と前記義歯床に配置された人工歯とを備えた有床義歯を製造するための成型用型が提供される。この成型用型は、切削装置に直接的または間接的に取り付けられる被保持部と、前記切削装置で切削されて前記人工歯の配置溝が形成される被切削面と、を有する。
【0008】
ここに開示される成型用型を用いることで、技工士は容易かつ効率的に有床義歯を作製することができる。また、品質の安定した有床義歯を作製することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、技工士の作業負担を軽減し、有床義歯を容易に作製することができる製造方法、成型用型および有床義歯製造用のキットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る有床義歯を示す斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係る有床義歯の製造方法を示すフローチャートである。
図3】本発明の一実施形態に係る有床義歯のSTLデータである。
図4】本発明の一実施形態に係る人工歯型のSTLデータである。
図5】一実施形態に係る成型用型の上面図である。
図6】一実施形態に係る成型用型の下面図である。
図7】本発明の一実施形態に係るアダプタを示す平面図である。
図8】アダプタの本体部の平面図である。
図9】アダプタの本体部に成型用型が保持された状態を示す平面図である。
図10】アダプタの保持板の平面図である。
図11】本発明の一実施形態に係る切削装置の正面図である。
図12】ツールマガジンの斜視図である。
図13】回転支持部材およびクランプの斜視図である。
図14】制御部のブロック図である。
図15】成型用型に切削された人工歯型を示す平面図である。
図16】成型用型に配置された人工歯を示す平面図である。
図17】一体物を示す平面図である。
図18】切削物を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る有床義歯の製造方法、成型用型および有床義歯製造用のキットについて説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら本発明を特に限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。また、図面中のF、Rr、L、R、U、Dは、それぞれ前、後、左、右、上、下を意味する。ただし、これらの方向は、便宜上定めた方向であり、本実施形態を何ら限定するものではない。また、本明細書において範囲を示す「A~B」」(A,Bは任意の数字)の表記は、A以上B以下の意と共に、「好ましくはAより大きい」および「好ましくはBより小さい」の意を包含する。
【0012】
図1は、有床義歯10を示す斜視図である。有床義歯10は、上顎用の総義歯(全部床義歯)である。有床義歯10は、義歯床20と、義歯床20に接合された複数の人工歯15と、を備えている。なお、図1には、人工歯15の側を上方に向けた状態、即ち患者に装着されるときとは上下が反転された状態を示している。人工歯15は、ここでは複数(合計14本)である。人工歯15は、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂、ジルコニア、グラスセラミックス、グラスファイバー、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ハイブリッドレジン等の各種材料から形成されている。義歯床20は、例えば、歯科用樹脂材料や歯科用セラミック材料等の義歯床用材料から形成されている。以下では、一例として有床義歯10を製造する手順を説明する。
【0013】
図2は、有床義歯10を製造する手順を示したフローチャートである。本実施形態の製造方法(以下、有床義歯製造方法という。)は、3次元データ準備工程(ステップS10)と、成型用型準備工程(ステップS20)と、成型用型切削工程(ステップS30)と、人工歯配置工程(ステップS40)と、義歯床用材料硬化工程(ステップS50)と、一体物加工工程(ステップS60)と、を包含する。なお、任意の段階においてその他の工程を含むことは妨げられない。また、3次元データ準備工程(ステップS10)と、成型用型準備工程(ステップS20)と、の順番は逆であってもよい。以下、各工程について詳述する。
【0014】
まず、3次元データ準備工程(ステップS10)では、少なくとも2種類の3次元データを準備する。3次元データは、例えばSTL(Standard Triangulated Language)データである。本工程は、第1のSTLデータの準備工程(ステップS11)と、第2のSTLデータの準備工程(ステップS12)と、を包含する。STLデータは、例えば、コンピュータ支援設計装置(CAD装置)によって作成される。CAD装置は、ソフトウェアによって構成されていてもよいし、ハードウェアによって構成されていてもよい。CADソフトの一例として、3Shape社製の3shape dental system(商標)が挙げられる。
【0015】
ステップS11では、第1のSTLデータとして、有床義歯10を表すSTLデータ(以下、有床義歯10のSTLデータという。)10Aを準備する。有床義歯10のSTLデータ10Aは、後述するステップS60で一体物13を切削する際に用いられる。図3は、有床義歯10のSTLデータ10Aの一例である。有床義歯10のSTLデータ10Aは、義歯床20を表すSTLデータ20Aと、義歯床20に配置された人工歯15を表すSTLデータ15Aと、を含んでいる。有床義歯10のSTLデータ10Aは、通常、患者ごとに作成される。ただし、例えば用途等によっては、市販されている模擬的な有床義歯10のSTLデータをそのまま利用することもできる。
【0016】
有床義歯10のSTLデータ10Aは、例えば次のようにして作成される。まず、医者や技工士等が患者の口腔内を口腔内スキャナ等でスキャンして、患者の残存歯と欠損歯部分の顎堤粘膜との形状を表すスキャンデータを取得する。次に、取得したスキャンデータからCADソフトで義歯床20のSTLデータ20Aを作成する。次に、例えば市販されている人工歯15のSTLデータ15Aを取得する。そして、義歯床20のSTLデータ20Aと人工歯15のSTLデータ15Aとを合成し、有床義歯10のSTLデータ10Aを作成する。
【0017】
ステップS12では、第2のSTLデータとして、人工歯15の歯並び(歯列)を表す、人工歯型46のSTLデータ(以下、人工歯型46のSTLデータという。)16Aを準備する。人工歯型46のSTLデータ16Aは、後述するステップS30で成型用型40を切削する際に用いられる。人工歯型46のSTLデータ16Aは、成型用型40に人工歯15を配置するための人工歯型46(図15参照)を形成する際に用いられる。図4は、人工歯型46のSTLデータ16Aの一例である。人工歯型46のSTLデータ16Aは、複数の配置溝のSTLデータ17Aを含んでいる。配置溝のSTLデータ17Aには、配置される人工歯15のサイズ、位置、向き等が反映されている。人工歯型46のSTLデータ16Aには、有床義歯10に含まれる全ての人工歯15(ここでは合計14個)が現れている。人工歯型46のSTLデータ16Aは、典型的には有床義歯10のSTLデータ10Aに基づいて作成される。有床義歯10のSTLデータ10Aと、人工歯型46のSTLデータ16Aとは、人工歯15の配置位置の情報が共通している。
【0018】
人工歯型46のSTLデータ16Aは、例えば次のようにして作成される。まず、有床義歯10のSTLデータ10Aを、人工歯15の延伸方向と垂直な断面で切断する。有床義歯10のSTLデータ10Aは、例えば任意の人工歯15を基準として、歯冠部分の先端(即ち、下歯と接する方の端部)から数mmの位置で輪切りになるように切断される。一例では、3番(犬歯)の人工歯15を基準として、人工歯15の歯冠部分の先端から概ね1~10mm、典型的には3~6mm、例えば5.5mmの位置で輪切りになるように切断される。これにより、後述するステップS40において、前歯(1~3番)を含む人工歯15を安定的に配置可能な配置溝46Aを形成することができる。次に、3D編集機能のオフセットによって、人工歯15の歯冠部分を予め定められたギャップ(概ね0.1~0.5mm、例えば0.2mm)で外方に広げるように、配置溝のSTLデータ17Aを調整する。これにより、後述するステップS40において、例えば前歯のように湾曲した形状の人工歯15であっても、ぐらつきや傾きが生じにくい配置溝46Aを形成することができる。したがって、種々の形状の人工歯15を所望の位置に所望の向きで安定して配置することができる。
【0019】
次に、成型用型準備工程(ステップS20)では、成型用型40を準備する。図5は、成型用型40の上面図である。図6は、成型用型40の下面図である。成型用型40は、有床義歯10を製造するための型枠である。成型用型40は、アダプタ30(図7参照)を介して、切削装置60(図11参照)に間接的に取り付け可能なように構成されている。ただし、成型用型40は、切削装置60に直接的に取り付け可能なように構成されていてもよい。成型用型40は、後述するステップS30において、それ自体が切削装置60で切削加工される消耗品である。成型用型40は、後述する有床義歯製造用のキットに含まれうる。
【0020】
成型用型40は、成形容易性や軽量性等の観点から、例えば樹脂材料で構成されている。樹脂は、熱硬化性であってもよく熱可塑性であってもよい。特に限定されるものではないが、樹脂材料としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、等が例示される。これらの樹脂材料は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上の樹脂材料は、ブレンドして用いてよく、あるいは別々の箇所を構成する材料として用いてもよい。また、成型用型40は、セラミック材料や金属材料から形成されていてもよい。図6に示すように、成型用型40の下面には、材質を表す表示がなされている。本実施形態では、成型用型40は、PMMA樹脂からなるメイン部材40Aと補強部材40Bとの組合せで構成されている。メイン部材40Aと、補強部材40Bとは、インサート成形の手法によって一体化されている。
【0021】
図5に示すように、メイン部材40Aは、底壁45と、第1側壁41と、第2側壁42と、第3側壁43と、第4側壁44と、を備えている。底壁45の表面は、平坦である。本実施形態において、底壁45は被切削面の一例である。第1側壁41は、底壁45の後部から上方に延びている。第2側壁42は、底壁45の前部から上方に延びている。第1側壁41および第2側壁42は、相互に対向している。第3側壁43は、底壁45の左部から上方に延びている。第3側壁43は、第1側壁41の左端と第2側壁42の左端とを接続している。第3側壁43は、第4側壁44から離れる方向に湾曲している。第4側壁44は、底壁45の右部から上方に延びている。第4側壁44は、第1側壁41の右端と第2側壁42の右端とを接続している。第4側壁44は、第3側壁43から離れる方向に湾曲している。第3側壁43および第4側壁44は、相互に対向している。第1側壁41の上面41Aと、第2側壁42の上面42Aと、第3側壁43の上面43Aと、第4側壁44の上面44Aとは面一に形成されている。即ち、底壁45から上面41A~44Aの高さは相互に同じである。本実施形態において、第1側壁41~第4側壁44は、底壁45(被切削面)から上方に延びた側壁の一例である。
【0022】
図5に示すように、メイン部材40Aは、開口47と造形空間48とを備えている。開口47は、底壁45と対向する位置に形成されている。即ち、メイン部材40Aは、上方が開口している。造形空間48は、底壁45と、第1側壁41と、第2側壁42と、第3側壁43と、第4側壁44と、によって囲まれた空間である。造形空間48は、平面視において有床義歯10よりも大きい。造形空間48の深さ、即ち、底壁45から第1側壁41~第4側壁44の上面41A~44Aまでの長さは、有床義歯10の最大厚み(人工歯15の延伸方向の最大長さ)よりも長い。特に限定されるものではないが、第1側壁41~第4側壁44の高さ(底壁45からの長さ)は、概ね10~50mm、例えば20~30mm程度である。造形空間48の底壁45には、後述するステップS30で人工歯型46が形成される。底壁45には、後述するステップS40で人工歯15が配置される。造形空間48には、後述するステップS50で、後述する義歯床用材料が注入される。造形空間48の内壁面は、義歯床用材料と同種の樹脂材料で形成されているとよい。特に、底壁45は、義歯床用材料と同種の樹脂材料で形成されているとよい。これにより、後述するステップS50で義歯床用材料の硬化物21(図17参照)との接合性が高められる。
【0023】
図5に示すように、メイン部材40Aは、第1被保持部51と、第2被保持部52と、を備えている。第1被保持部51と、第2被保持部52とは、アダプタ30に支持される部位である。第1被保持部51と、第2被保持部52とは、アダプタ30を介して切削装置60に保持される。第1被保持部51は、第1側壁41の後部に接続されている。第2被保持部52は、第2側壁42の前部に接続されている。第1被保持部51の上面と、第2被保持部52の上面とは、同一平面内にある。第1被保持部51の下面と、第2被保持部52の下面とは、同一平面内にある。第1被保持部51の左右方向の長さL51と、第2被保持部52の左右方向の長さL52とは、それぞれ、概ね1cm以上、好ましくは2cm以上、例えば3cm以上、さらには4cm以上であるとよい。これにより、アダプタ30との一体性を高めて、切削加工時の位置ずれを抑制することができる。本実施形態では、第1被保持部51の長さL51と、第2被保持部52の長さL52とが、相互に異なっている。第1被保持部51の長さL51は、第2被保持部52の長さL52よりも長い。ただし、長さL51、L52は、同じであってもよい。
【0024】
図5に示すように、第1被保持部51には、第1凹部51Aが形成されている。第1凹部51Aは、第1側壁41の略中央に形成されている。第1凹部51Aは、第2側壁42に向かって突出している。第1凹部51Aは、上下方向に貫通している。第1凹部51Aには、後述するステップS30において、ねじ33(図7参照)が挿入される。第2被保持部52には、第2凹部52Aと、第3凹部52Bと、が形成されている。第2凹部52Aは、第3凹部52Bよりも左方に形成されている。第2凹部52Aは、第1凹部51Aよりも左方に位置している。第3凹部52Bは、第1凹部51Aよりも右方に位置している。第2凹部52Aと、第3凹部52Bとは、第1側壁41に向かって突出している。第2凹部52Aと、第3凹部52Bとは、上下方向に貫通している。第2凹部52Aと、第3凹部52Bには、後述するステップS30において、ねじ33が挿入される。
【0025】
図6に示すように、第1被保持部51の下面には、2つの突起部51Xが設けられている。2つの突起部51Xは、第1凹部51Aの左右に形成されている。突起部51Xは、第1被保持部51から離れるように下方に延びている。突起部51Xは、後述するステップS30において、アダプタ30の嵌合溝32X(図8参照)にそれぞれ嵌め込まれる。第2被保持部52の下面には、突起部52Xが設けられている。突起部52Xは、第2凹部52Aと第3凹部52Bとの略中間に形成されている。突起部52Xは、第2被保持部52から離れるように下方に延びている。突起部52Xは、後述するステップS30において、アダプタ30の嵌合溝32Y(図8参照)に嵌め込まれる。
【0026】
図6に示すように、補強部材40Bは、メイン部材40Aの下面に取り付けられている。補強部材40Bは、平面視で略U字形状に形成されている。補強部材40Bは、底壁45の下面に沿って配置されている。補強部材40Bは、造形空間48の内壁面を構成せず、後述する義歯床用材料とは接触しない。本実施形態では、補強部材40Bは、メイン部材40Aと同種の材料(例えば同種の樹脂材料)で構成されている。ただし、補強部材40Bは、メイン部材40Aと異なる樹脂材料で構成されていてもよい。補強部材40Bは、メイン部材40Aに比べて、耐衝撃性、硬度および寸法安定性のうちの少なくとも1つが優れている部材で構成されていてもよい。また、補強部材40Bは必須ではなく、省略することもできる。成型用型40は、一つの部材(メイン部材40Aのみ)で構成されていてもよい。
【0027】
次に、成型用型切削工程(ステップS30)では、切削装置60を用いて、成型用型40の底壁45を切削し、底壁45に人工歯型46の形状を切削する。本工程は、例えば、切削データの作成工程(ステップS31)と、成型用型40のアダプタ30への取り付け工程(ステップS32)と、切削装置60の準備工程(ステップS33)と、成型用型40の切削加工工程(ステップS34)と、を包含する。なお、任意の段階においてその他の工程を含むことは妨げられない。
【0028】
ステップS31では、3次元データ準備工程(ステップS10)で準備した人工歯型46の3次元データ(典型的にはSTLデータ)16Aに基づいて、人工歯型46の切削データを作成する。切削データは、いわゆる、NCデータである。人工歯型46の切削データは、切削装置60がどのような手順で成型用型40の底壁45を切削し、人工歯型46の形状を削り出すか、を示したプログラムのデータである。切削データは、例えば、CAD装置と通信可能に接続されたコンピュータ支援製造装置(CAM装置)によって作成される。CAM装置は、ソフトウェアによって構成されていてもよいし、ハードウェアによって構成されていてもよい。CAMソフトの一例として、CIM system社製のMillbox(商標)が挙げられる。
【0029】
ステップS32では、成型用型40をアダプタ30に取り付ける。図7は、アダプタ30を示す平面図である。アダプタ30は、成型用型40を切削装置60に取り付けるための取付具である。アダプタ30は、本体部32と、保持板37と、を備えている。成型用型40は、本体部32と保持板37との間に挟持される。図8および図9は、本体部32の平面図である。なお、図9は、本体部32に成型用型40が保持された状態を示している。図10は、保持板37の平面図である。成型用型40は、第1被保持部51および第2被保持部52を介してアダプタ30に保持される。アダプタ30は、後述する有床義歯製造用のキットに含まれうる。
【0030】
図8に示すように、本体部32は、第1部分32Aと、第2部分32Bと、第3部分32Cと、第4部分32Dと、を有している。第1部分32Aには、第2部分32Bから離れる方向に凹む2つの嵌合溝32Xが形成されている。2つの嵌合溝32Xには、成型用型40の2つの突起部51X(図6参照)が嵌め込まれる。第2部分32Bには、第1部分32Aから離れる方向に凹む嵌合溝32Yが形成されている。嵌合溝32Yには、成型用型40の突起部52X(図6参照)が嵌め込まれる。第3部分32Cは、第1部分32Aの左端と第2部分32Bの左端とを接続している。第4部分32Dは、第1部分32Aの右端と第2部分32Bの右端とを接続している。第1部分32Aおよび第2部分32Bは、第3部分32Cおよび第4部分32Dより下方に位置する。第1部分32A~第4部分32Dの内部には、開口32Hが形成されている。成型用型40の造形空間48(図5参照)は、開口32H内に配置される。
【0031】
図8に示すように、第1部分32Aの左右方向の長さL32Aと、第2部分32Bの左右方向の長さL32Bとは、それぞれ、本体部32の左右方向の全長L32の概ね1/5以上、好ましくは1/4以上、例えば1/3以上であるとよい。これにより、成型用型40がより安定的に保持され、切削加工時の位置ずれを抑制することができる。第1部分32Aには、成型用型40の第1被保持部51(図5参照)が対向される。第1部分32Aの長さL32Aは、第1被保持部51の長さL51と同じかそれよりも長い。第2部分32Bには、成型用型40の第2被保持部52(図5参照)が対向される。第2部分32Bの長さL32Bは、第2被保持部52の長さL52と同じかそれよりも長い。本実施形態では、第1部分32Aの長さL32Aと、第2部分32Bの長さL32Bとが、相互に異なっている。第1部分32Aの長さL32Aは、第2部分32Bの長さL32Bよりも長い。これにより、前後方向を誤った状態では成型用型40をアダプタ30に取り付けることができないため、取付時のミスを未然防止することができる。
【0032】
図9に示すように、本体部32の第1部分32Aには、1つのねじ孔34Aが形成されている。本体部32に成型用型40が保持されたとき、ねじ孔34Aは、平面視で成型用型40の第1被保持部51(図5参照)に形成された第1凹部51Aに重なる。本体部32の第2部分32Bには、2つのねじ孔34Bが形成されている。本体部32に成型用型40が保持されたとき、2つのねじ孔34Bは、平面視で、成型用型40の第2被保持部52(図5参照)に形成された第2凹部52Aおよび第3凹部52Bに重なる。このため、成型用型40(詳しくは、第1被保持部51および第2被保持部52)は、ねじ33で締結されない。
【0033】
図10に示すように、保持板37の外形は、リング状である。保持板37は、本体部32に着脱自在に取り付けられる。保持板37は、第1部分37Aと、第2部分37Bと、第3部分37Cと、第4部分37Dと、を有している。第1部分37Aは、本体部32の第1部分32Aと対向する部位である。第1部分37Aは、成型用型40の第1被保持部51(図5参照)を本体部32に向かって押圧する部位である。第2部分37Bは、本体部32の第2部分32Bと対向する部位である。第2部分37Bは、成型用型40の第2被保持部52(図5参照)を本体部32に向かって押圧する部位である。第3部分37Cは、本体部32の第3部分32Cと対向する部位である。第4部分37Dは、本体部32の第4部分32Dと対向する部位である。第1部分37A~第4部分37Dの内部には、開口37Hが形成されている。成型用型40の造形空間48(図5参照)は、開口37H内に配置される。
【0034】
保持板37の第1部分37Aには、平面視で本体部32のねじ孔34Aと重なる位置に、ねじ孔38Aが形成されている。保持板37の第2部分37Bには、平面視で本体部32のねじ孔34Bと重なる位置に、ねじ孔38Bが形成されている。
【0035】
図7に示すように、本体部32に成型用型40を保持し、保持板37で押圧した状態で、本体部32のねじ孔34A、34Bと、保持板37のねじ孔38A、38Bとを貫通させるように、ねじ33を挿入し、合計3箇所のねじ孔34にそれぞれ、ねじ33を締結する。これにより、本体部32と保持板37とが締結される。成型用型40の第1被保持部51は、本体部32の第1部分32Aと保持板37の第1部分37Aとに挟持される。成型用型40の第2被保持部52は、本体部32の第2部分32Bと保持板37の第2部分37Bとに挟持される。本実施形態では、成型用型40をアダプタ30で安定して保持することができるため、切削加工時の位置ずれ、特にはクランプ66のXY平面(図13参照)内での位置ずれを抑制することができる。
【0036】
ステップS33では、切削装置60を準備する。図11は、切削装置60の正面図である。図11は、カバー62を開けた状態を示している。以下の切削装置60に関する説明において、左方、右方とは、切削装置60の正面にいる作業者(技工士)から見た左方、右方をそれぞれ意味する。また、切削装置60から作業者に近づく方を前方、遠ざかる方を後方とする。切削装置60は、相互に直交する軸を、X軸、Y軸、Z軸としたとき、X軸とY軸とで構成される平面に配置されている。X軸は左右方向に延びた軸である。Y軸は前後方向に延びた軸である。Z軸は上下方向に延びた軸である。また、符号θx、θy、θzは、それぞれX軸回り、Y軸回り、Z軸回りの回転方向を示している。ただし、これらは説明の便宜上の方向に過ぎず、切削装置60の設置態様を何ら限定するものではない。
【0037】
図11に示すように、切削装置60は、ケース本体61と、カバー62と、スピンドル63と、ツールマガジン64(図12も参照)と、回転支持部材65(図13も参照)と、クランプ66(図13参照)と、制御部100と、を備えている。ケース本体61は、箱状に形成されており、内部に加工空間61Aを有している。ケース本体61の前部は開口している。カバー62は、ケース本体61の前端に沿って上下方向に移動可能に構成されている。カバー62は、加工空間61Aを開閉自在に構成されている。カバー62が上方に移動することで、ケース本体61の加工空間61Aと外部とが連通される。カバー62には、窓62Aが設けられている。作業者は、例えば切削加工時に、窓62Aから内部の加工空間61Aを視認することができる。
【0038】
スピンドル63は、切削加工時に加工ツール78を把持する。スピンドル63は、加工ツール78を回転させて、成型用型40の底壁45(図5参照)を切削する。スピンドル63および加工ツール78は、成型用型40を切削する切削部の一例である。スピンドル63は、ツール把持部71と、ツール把持部71の上端に設けられた回転部72と、を備えている。ツール把持部71は、加工ツール78の上端部を把持するものである。回転部72は、ツール把持部71に把持された加工ツール78を回転させるものである。回転部72は、上下方向に延びている。回転部72には、第1駆動モータ72a(図14参照)が接続されている。第1駆動モータ72aは、制御部100に接続されており、制御部100によって制御される。第1駆動モータ72aが駆動することで、回転部72は、Z軸回りθzに回転可能に構成されている。回転部72の回転に伴い、ツール把持部71に把持された加工ツール78はZ軸回りθzに回転する。また、回転部72には、図示しない第1駆動機構が設けられている。回転部72は、第1駆動機構によって左右方向および上下方向に移動するように構成されている。
【0039】
図12は、ツールマガジン64の斜視図である。図12に示すように、ツールマガジン64は、箱状に形成されている。ツールマガジン64の上面64Aには、加工ツール78を収容する複数の孔81が形成されている。加工ツール78は、その上部が露出された状態で孔81に挿通されている。加工ツール78を交換する際には、ツール把持部71によって把持されている加工ツール78を空いている孔81に戻す。そして、ツール把持部71および回転部72を次に使用する加工ツール78の上方の位置まで移動させ、加工ツール78の上端をツール把持部71が把持する。
【0040】
図13は、回転支持部材65およびクランプ66の斜視図である。図13に示すように、ツールマガジン64には、回転支持部材65を回転可能に支持する第1回転軸83が設けられている。第1回転軸83は左右方向に延びており、回転支持部材65に連結している。ツールマガジン64には、図示しない第2駆動機構が設けられている。第1回転軸83は、第2駆動機構によって、X軸回りθxに回転可能に構成されている。第1回転軸83がX軸回りθxに回転することに伴って、回転支持部材65はX軸回りθxに回転する。回転支持部材65は、クランプ66を回転可能に支持している。回転支持部材65は、平面視で略U字形状に形成されている。回転支持部材65は、第1回転軸83と連結されている。回転支持部材65は、前後方向に延びた第1部分91と、第1部分91の後端から左方に延びた第2部分92と、第1部分91の前端から左方に延びた第3部分93とを備えている。クランプ66は、第2部分92および第3部分93に回転可能に支持されている。第3部分93には、クランプ66をY軸回りθyに回転させる第2駆動モータ95が設けられている。
【0041】
クランプ66は、切削加工時に成型用型40を保持する部材である。クランプ66は、切削保持部の一例である。本実施形態では、クランプ66は、成型用型40に取り付けられたアダプタ30を保持する。クランプ66は、アダプタ30を介して、成型用型40を間接的に保持する。なお、図13では、アダプタ30の図示は省略している。成型用型40は、クランプ66によって保持された状態で、切削装置60によって切削加工される。
【0042】
図14は、制御部100のブロック図である。制御部100について説明する。制御部100は、切削に関する制御を行う装置である。図11に示すように、制御部100は、本実施形態では、ケース本体61の内部に設けられている。ただし、制御部100の一部は、ケース本体61の外部に配置され、有線または無線を介して切削装置60と通信可能に接続された汎用パーソナルコンピュータ等であっていてもよい。制御部100のハードウェア構成は特に限定されない。制御部100は、例えば、制御プログラムの命令を実行する中央演算処理装置(CPU:central processing unit)と、CPUが実行するプログラムを格納したROM(read only memory)と、プログラムを展開するワーキングエリアとして使用されるRAM(random access memory)と、上記プログラムや各種データを格納するメモリ等の記憶部と、を備えている。
【0043】
制御部100は、第1駆動モータ72aと第2駆動モータ95とに通信可能に接続され、それらを制御可能に構成されている。制御部100は、第1駆動モータ72aの駆動を制御することで、スピンドル63の回転部72の回転を制御する。制御部100は、回転部72を左右方向および上下方向に移動するように制御する。制御部100は、第2駆動モータ95の駆動を制御することで、クランプ66のY軸回りθyの回転を制御する。制御部100は、第1回転軸83をX軸回りθxに回転するように制御する。
【0044】
制御部100は、記憶部101と、切削制御部102と、を備えている。制御部100は、ソフトウェアによって構成されていてもよいし、ハードウェアによって構成されていてもよい。記憶部101は、CAM装置と通信可能に接続されている。CAM装置によって作成された切削データは、記憶部101に記憶される。切削データには、スピンドル63の動作、および、成型用型40を保持するクランプ66の動作を座標値によって定義した加工工程が、典型的には複数記録されている。
【0045】
ステップS34では、成型用型40を切削装置60で切削加工する。切削制御部102は、記憶部101に記憶された切削データに基づいて、スピンドル63およびクランプ66の動作を制御し、切削加工の制御を行う。切削制御部102は、スピンドル63によって回転する加工ツール78の先端78a(図11参照)を、成型用型40の底壁45に接触させることで、人工歯型46の形状を切削する。図15は、成型用型40の底壁45に切削された人工歯型46を示す平面図である。人工歯型46は、人工歯15を嵌め合わせるための複数の(ここでは合計14個の)配置溝46Aを備えている。人工歯型46の配置溝46Aは、例えば、2~5mm程度の深さを有している。
【0046】
次に、人工歯配置工程(ステップS40)では、人工歯型46が削り出された成型用型40を切削装置60から取り出し、成型用型40に人工歯15を配置する。なお、本工程は、成型用型40にアダプタ30を取り付けたまま行ってもよいし、アダプタ30を取り外してから行ってもよい。人工歯15としては、従来この種の用途に用いられているものを、特に限定なく使用することができる。人工歯型46の材質は、例えば、後述する義歯床用材料と同種の樹脂材料であってもよい。人工歯15は、例えば、市販のレジン歯、硬質レジン歯、陶歯等であってもよい。人工歯15は、複数の人工歯が一体化されたブリッジの形態であってもよい。人工歯15やブリッジは、例えばディスク状やブロック状の市販の人工歯形成用材料を、切削装置60で切削加工することによって作製してもよい。人工歯15やブリッジは、例えば、別途用意した三次元造形装置(3Dプリンタ)等を用いて作製してもよい。人工歯15やブリッジは、後述する有床義歯製造用のキットに含まれうる。
【0047】
図16は、成型用型40に配置された人工歯15を示す平面図である。図16に示すように、複数の人工歯15は、ステップS34で成型用型40の底壁45に切削された人工歯型46に配置される。詳しくは、複数の人工歯15は、人工歯型46に形成された複数の配置溝46Aに合うように、それぞれ配置される。これにより、それぞれの人工歯15が予め定められた位置に所定の向きで嵌め込まれる。切削装置60で配置溝46Aを切削することにより、技工士が人工歯15の配列や配置の向きを間違うリスクを軽減することができる。本実施形態では、人工歯15は、歯根の側を上方に向けて配置溝46Aに配置される。言い換えれば、人工歯15は、歯冠の側(下歯と接する方)を下側に向けて配置溝46Aに配置される。人工歯15は、接着剤等の化学物質は使用せず、配置溝46Aに嵌め合わせるだけでよい。これにより、後述するステップS50で、気泡の発生量を低減することができる。
【0048】
次に、義歯床用材料硬化工程(ステップS50)では、義歯床用材料を注入し硬化させることによって、成型用型40と人工歯15と義歯床用材料の硬化物21とを一体化する。なお、本工程は、成型用型40にアダプタ30を取り付けたまま行ってもよいし、アダプタ30を取り外してから行ってもよい。本工程は、例えば、義歯床用材料の準備工程(ステップS51)と、義歯床用材料の注入工程(ステップS52)と、一体物の作製工程(ステップS53)と、を包含する。本実施形態では、ステップS52とステップS53とを各1回行うことで、成型用型40と人工歯15と義歯床用材料の硬化物21とを一体化する。なお、任意の段階においてその他の工程を含むことは妨げられない。
【0049】
ステップS51では、義歯床用材料を準備する。義歯床用材料としては、従来から義歯床の成型に用いられている公知の材料を、特に限定なく使用することができる。義歯床用材料としては、例えば、義歯床用レジン(義歯床用樹脂組成物ともいう。)等の歯科用樹脂材料、歯科用ワックス、歯科用セラミック材料、石膏等が挙げられる。義歯床用材料は、歯科用硬化性組成物であってもよい。義歯床用レジンは、重合性化合物を含みうる。義歯床用レジンとしては、例えば、65℃未満の温度で重合が開始される常温重合レジン、65℃以上の加熱にて重合が開始される加熱重合レジン、光照射によって重合が開始される光重合レジン等が挙げられる。なかでも、加熱重合レジンに比べて重合時の収縮率が小さいことや、比較的安価でかつ入手容易なこと等から、常温重合レジンを好ましく使用することができる。
【0050】
義歯床用レジンは、成型用型40の材質と同種の樹脂を含むとよい。例えば成型用型40の造形空間48がPMMA等のアクリル系樹脂製である場合は、義歯床用レジンとしてアクリル系レジンを用いることが好ましい。ただし、義歯床用レジンとしては、例えばポリカーボネート系レジン、ポリアミド系レジン、ポリエステル系レジン等を用いることもできる。アクリル系レジンは、日本工業規格JIS T6501:2012に規定されるように、例えば、(1)メタクリル酸エステルの単独重合体およびメタクリル酸エステルを含む共重合体のうちの少なくとも一方を主成分(質量比で最も割合の高い成分。以下同じ。)とする粉末、(2)メタクリル酸エステルの単量体を主成分とする液体、または(1)と(2)との混合物である。アクリル系レジンは、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)とアクリル酸2-エチルヘキシルとの共重合体を主成分とする粉末と、メタクリル酸メチル(MMA)を主成分とする液体と、の組合せであってもよい。アクリル系レジンは、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂を主成分とする粉末と、メタクリル酸メチル(MMA)を主成分とする液体と、の組合せであってもよい。アクリル系レジンは、上記以外の成分、例えば、反応開始剤、着色剤、安定剤、可塑剤、滑剤、界面活性剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0051】
アクリル系レジンとして、上記(1)と上記(2)との混合物を用いる場合は、まず、上記(1)の粉末と上記(2)の液体とを予め定められた比率で混和し、流動性の組成物を調製する。組成物には、(1)の粉末と上記(2)の液体とが反応することによって発生した気泡が混在しうる。このため、好適な一態様では、組成物から気泡を除去(脱泡)する。脱泡は、例えば、バイブレーターで組成物に振動を照射すること、超音波照射装置で組成物に超音波を照射すること、等によって行いうる。
【0052】
ステップS52では、成型用型40の造形空間48に人工歯15が配置された状態で、上記用意した義歯床用材料を造形空間48に注入する。本実施形態では、成型用型40の開口47から義歯床用材料を流し入れ、造形空間48に充填する。義歯床用材料の注入量は、造形空間48内に配置された全ての人工歯15の少なくとも一部に接触する量であるとよい。義歯床用材料の注入量は、義歯床用材料の液面が第1側壁41~第4側壁44の上面41A~44Aよりも下方に位置する量である。本実施形態において、義歯床用材料の注入量は、製造する有床義歯10の義歯床20よりも大きな硬化物を形成できる量である。即ち、義歯床用材料の液面が第1側壁41~第4側壁44の上面41A~44Aよりも僅かに下方に位置する量である。義歯床用材料の注入量は、造形空間48内に配置された全ての人工歯15が完全に埋没する量である。
【0053】
ステップS53では、義歯床用材料を硬化させて、一体物13(図17参照)を作製する。一体物13は、成型用型40と、人工歯15と、義歯床用材料の硬化物21と、を含み、これらが一体化されたものである。一体物13の作製は、例えば義歯床用材料(詳しくは、義歯床用材料に含まれる重合性化合物)を重合させることによって行われる。義歯床用材料の重合は、例えば、次のようにして行われる。
【0054】
まず、加圧式の重合器(例えば、プレッシャーポット)を用意する。次に、ステップS52で義歯床用材料を注入した状態の成型用型40を、重合器内に静置する。次に、重合器と成型用型40との間に水を注入する。注入する水の量は、成型用型40の造形空間48に水が浸入しないように調整する。注入する水の量は、例えば、成型用型40の一部、例えば第1側壁41~第4側壁44の1/4~3/4程度、一例では第1側壁41~第4側壁44の1/2、が浸漬する量である。注入する水の量は、例えば、水位が成型用型40の上面(即ち、第1側壁41~第4側壁44の上面41A~44A)よりも下方に位置する量である。注入する水の量は、例えば、水位が義歯床用材料の液面よりも下方になるような量である。次に、重合器の蓋を閉じて、重合器内を密閉空間とする。このとき、成型用型40の開口47の少なくとも一部は塞がれず、解放された状態である。これにより、重合時に気泡が発生しても、発生した気泡が成型用型40の外部に排出されやすくなる。したがって、硬化物21の内部に気泡が閉じ込められてボイドが発生することを抑えられる。
【0055】
次に、義歯床用材料が重合反応を生じるように、重合器内を所定の条件に調整する。例えば義歯床用材料が義歯床用レジンの場合、重合器内の加圧条件は、概ね0.01~0.5MPa、例えば0.1~0.3MPa、一例では0.2MPaとしてもよい。また、例えば義歯床用材料が常温重合レジンの場合、重合器内の水は、室温よりも高い温度、例えば30~60℃程度、一例では50℃にまで加温してもよい。例えば義歯床用材料が加熱重合レジンの場合、重合器内の水は、概ね65℃以上、例えば65~80℃程度にまで加温してもよい。そして所定の時間、上記条件のまま重合器を保持する。保持する時間は、概ね10分以上、例えば30~60分程度、一例では30分としてもよい。これにより、義歯床用材料が重合して、曲げ強度および硬度のうちの少なくとも一方が向上する。また、義歯床用材料の硬化物21と人工歯15とが強固に接合される。また、義歯床用材料の硬化物21と成型用型40の底壁45および第1側壁41~第4側壁44とが強固に接合される。その結果、一体物13が作製される。
【0056】
図17は、一体物13の一例である。一体物13は、例えば切削加工時に分離しない程度の一体性を有する。なお、義歯床用材料の硬化物21は、後述するステップS60で加工され、義歯床20となる部位である。義歯床用材料の硬化物21と成型用型40とは、結合力(日本工業規格JIS T6506:2005に準拠した値をいう。)が、概ね10N以上、好ましくは30N以上、例えば50N以上であるとよい。
【0057】
次に、一体物加工工程(ステップS60)では、一体物13を加工して、有床義歯10を得る。加工は、切削加工、研磨加工、研削加工、および切断加工、のうちの1つまたは2つ以上を含みうる。本工程は、例えば、切削データの作成工程(ステップS61)と、一体物13のアダプタ30への取り付け工程(ステップS62)と、切削装置60の準備工程(ステップS63)と、一体物13の切削加工工程(ステップS64)と、有床義歯10の作製工程(ステップS65)と、を包含する。なお、任意の段階においてその他の工程を含むことは妨げられない。また、他の実施形態において、ステップS61~S64は必須ではなく、省略することもできる。すなわち、本工程は、全てを技工士が手作業で行うこともできる。
【0058】
ステップS61では、3次元データ準備工程(ステップS10)で準備した有床義歯10の3次元データ(典型的にはSTLデータ)10Aに基づいて、有床義歯10の切削データを作成する。有床義歯10の切削データは、切削装置60がどのような手順で一体物13を切削し、有床義歯10の形状を削り出すか、を示したプログラムのデータである。作成された切削データは、記憶部101に記憶される。切削データは、ステップS31の人工歯型46の切削データと同様に準備することができる。ステップS62では、成型用型40をアダプタ30に取り付ける。成型用型40のアダプタ30への取り付けは、ステップS32と同様に行うことができる。
【0059】
ステップS63では、切削装置60を準備する。切削装置60は、ステップS33で準備した装置と同じであってもよいし、異なっていてもよい。ステップS64では、一体物13を切削装置60で切削加工する。切削制御部102は、スピンドル63によって回転する加工ツール78の先端78a(図11参照)を、一体物13の硬化物21の部分に接触させることで、余分な硬化物を削り取る。また、切削制御部102は、加工ツール78の先端78aを、一体物13の成型用型40に接触させることで、成型用型40の一部、例えば底壁45と第1側壁41~第4側壁44のうちの一部または全部を、削り取ってもよい。ただし、成型用型40の第1被保持部51と第2被保持部52とは、少なくとも一部が削り取られずに、切削加工の後においてもアダプタ30に支持されている。
【0060】
図18は、切削装置60で一体物13を切削加工することによって得られた切削物11の一例である。切削物11は、成型用型40の第1被保持部51と第2被保持部52と、義歯床20様に切削加工された硬化物と、硬化物に接合された人工歯15と、第1被保持部51と硬化物とを連結する第1連結部12Aと、第2被保持部52と硬化物とを連結する第2連結部12Bと、を含んでいる。
【0061】
ステップS65では、切削物11から有床義歯10を得る。例えば、切削物11から、成型用型40の第1被保持部51と第2被保持部52とを除去する。一例では、技工士が刃を有するカッター等の道具を利用して、切削物11の第1被保持部51と第2被保持部52とを切り離す。例えば切削物11のように第1、第2連結部12A、12Bを有する場合は、これらを取り除くことで第1被保持部51と第2被保持部52とを除去する。好適な一態様では、例えば第1被保持部51と第2被保持部52とを除去した部分の断面等を研磨して、さらに硬化物21の表面を均す。このように、上述した各工程を順に行うことによって、義歯床20と人工歯15とを備える有床義歯10(図1参照)を作製することができる。
【0062】
以上のように、本実施形態の製造方法によれば、人工歯型の3次元データ16Aに基づき、成型用型40に切削装置60で人工歯型46を形成する。人工歯型46には、人工歯15を配置するための配置溝46Aが含まれる。技工士は、配置溝46Aに人工歯15を配置するだけで、対合歯に対する位置合わせを行うことができる。このため、例えば経験の浅い技工士であっても、適切な位置に人工歯15を迅速に配置することができる。また、ここに開示される製造方法では、配置溝46Aに人工歯15が配置された状態で義歯床用材料を注入し、義歯床用材料の硬化物21と人工歯15とを一体化する。このため、複数の人工歯15を一気に硬化物21で一体化させることが可能となる。以上のように、ここに開示される製造方法では、人工歯15の接合に要する時間や手間を削減して、効率化を図ることができる。また、技工士の作業負担を軽減して、有床義歯10を容易に作製することができる。このため、有床義歯10の品質が技工士個人の技能に左右されにくく、品質の安定した有床義歯10を作製することができる。
【0063】
本実施形態の製造方法によれば、3次元データ準備工程(ステップS10)では、有床義歯の3次元データ10Aをさらに用意し、義歯床用材料硬化工程(ステップS50)の後、第1被保持部51および第2被保持部52を介して一体物13を切削装置60に間接的に取り付け、有床義歯の3次元データ10Aに基づいて、少なくとも硬化物21を加工する一体物加工工程(ステップS60)を、さらに含む。これにより、一体物13の硬化物21を容易に義歯床20様の形状に加工することができる。したがって、義歯床20の加工に要する時間や手間を削減して、効率化を図ることができる。また、一体物13を第1被保持部51および第2被保持部52を介して切削装置60に取り付けることにより、成型用型切削工程(ステップS30)との位置ずれが生じにくく、精度よく加工を行うことができる。
【0064】
本実施形態の製造方法によれば、成型用型準備工程(ステップS20)では、底壁45と底壁45から上方に延びる側壁41~44とで囲まれ、義歯床用材料が注入される造形空間48を有する成型用型40を準備し、義歯床用材料硬化工程(ステップS50)では、造形空間48に義歯床用材料を注入し、義歯床用材料を硬化させる。成型用型40が造形空間48を有することにより、成型用型40内で義歯床用材料を硬化させることができる。
【0065】
本実施形態の製造方法によれば、成型用型準備工程(ステップS20)では、第1側壁41~第4側壁44の高さが、義歯床20の最大厚みよりも高い成型用型40を準備し、義歯床用材料硬化工程(ステップS50)では、一回の硬化で一体物13を作製する。
これにより、一層効率よく有床義歯10を作製することができる。
【0066】
本実施形態の製造方法によれば、人工歯配置工程(ステップS40)では、接着剤を介在させずに、配置溝46Aに人工歯15の歯冠部側を嵌め合わせる。これにより、義歯床用材料硬化工程(ステップS50)で気泡の発生量を低減することができる。
【0067】
本実施形態の製造方法によれば、成型用型準備工程(ステップS20)では、底壁45が樹脂製である成型用型40を準備し、義歯床用材料硬化工程(ステップS50)では、義歯床用材料として、底壁45を構成する樹脂と同種の樹脂を含む重合レジンを用いる。これにより、義歯床用材料硬化工程(ステップS50)で、成型用型40と義歯床用材料の硬化物21との接合性が高められる。また、本実施形態の製造方法によれば、成型用型40の底壁45はアクリル系樹脂製であり、義歯床用材料として、アクリル系レジンを用いる。アクリル系レジンが重合するときに、メタクリル酸エステルが成型用型40の分子鎖の内部にも浸透、拡散し、重合反応を生じる。そのため、成型用型40が義歯床用材料の硬化物21と化学的に結合され、成型用型40と義歯床用材料の硬化物21との一体性が高められる。
【0068】
本実施形態の製造方法によれば、成型用型準備工程(ステップS20)では、被保持部に突起部を有する成型用型40を準備する。また、成型用型切削工程(ステップS30)では、突起部が嵌め合わされる嵌合溝を有するアダプタ30を準備し、アダプタ30の嵌合溝に被保持部の突起部を嵌め合わせることによって、成型用型40をアダプタ30に取り付け、アダプタ30を介して成型用型40を間接的に切削装置60に取り付ける。例えば、成型用型準備工程(ステップS20)では、2つの突起部51Xを有する第1被保持部51と、第1被保持部51と対向する位置に形成され、突起部52Xを有する第2被保持部52と、を有する成型用型40を準備する。また、成型用型切削工程(ステップS30)では、前記第1突起部と前記第2突起部と前記第3突起部とがそれぞれ嵌め合わされる3つ以上の前記嵌合溝を有するアダプタ30を準備する。これにより、切削加工時の位置ずれ、特にはXY平面(図13参照)内での位置ずれをより良く低減あるいは防止することができる。
【0069】
本実施形態の製造方法によって製造された有床義歯10は、患者の総義歯として用いることができる。
【0070】
本実施形態の製造方法では、成型用型40を好適に用いることができる。また、成型用型40を備える有床義歯製造用のキットを好適に用いることができる。一実施形態に係る有床義歯製造用のキットは、例えば、1つまたは複数の成型用型40と、アダプタ30と、を備えている。他の実施形態に係る有床義歯製造キットは、1つまたは複数の成型用型40と、1本または複数本の人工歯15と、を備えている。
【0071】
成型用型40は、第1被保持部51と第2被保持部52とを有し、アダプタ30に取り付け可能に構成されている。第1被保持部51と第2被保持部52とは、義歯床用材料の硬化物21よりも固く、形状安定性に優れた材料で形成されていてもよい。第1被保持部51と第2被保持部52とは、例えば、義歯床用材料の硬化物21よりも曲げ強さ(日本工業規格JIS T6501:2012に準拠した値をいう。以下同じ。)が大きくてもよい。第1被保持部51と第2被保持部52とは、曲げ強さが、概ね50~200MPa、例えば70~150MPa程度であってもよい。第1被保持部51と第2被保持部52とは、例えば、義歯床用材料の硬化物21よりも破壊靱性(日本工業規格JIS T6501:2012に準拠した値をいう。単位は以下同じ。)が大きくてもよい。
【0072】
なお、本実施形態では、被保持部が2つであるが、被保持部の数は、例えばアダプタ30の形状等に応じて、適宜変更することが可能である。また、被保持部の形状は、例えば、アダプタ30の開口32Hに沿ったリング状や枠状等であってもよい。被保持部の形状は、例えば第1被保持部51と第2被保持部52とが連結されたL字型やコの字型のような形状であってもよい。また、成型用型40は、切削装置60に直接的に取り付け可能なように構成されていてもよい。
【0073】
成型用型40は、切削装置60での被削性(切削加工の容易性)を有する材料で構成されている。成型用型40は、熱変形が生じにくい材料で構成されている。成型用型40は、例えば、熱変形温度(日本工業規格JIS K7191:2007に準拠した値をいう。)が、概ね55℃以上、例えば60~150℃であってもよい。成型用型40は、ステップS50で造形空間48に注入された義歯床用材料が硬化物となるまで安定に保持するように構成されている。成型用型40は、例えばステップS50で加圧および/または加熱したときにも、上面41A~44Aが面一の状態を維持するように構成されているとよい。成型用型40は、例えばステップS50で加圧および/または加熱したときにも、造形空間48の体積変化率が1%以下、例えば0.5%以下となるように構成されているとよい。成型用型40は、例えば、加圧条件0.2MPa、加熱条件50℃で、30分間保持した後も、造形空間48の体積変化率が1%以下、例えば0.5%以下となるように構成されていてもよい。
【0074】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。しかし、上述の各実施形態は例示に過ぎず、本発明は他の種々の形態で実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記した実施形態の一部を、他の変形態様に置き換えることも可能であり、上記した実施形態に他の変形態様を追加することも可能である。また、上記した実施形態と以下の変形態様とを適宜組み合わせることもできる。また、その技術的特徴が必須なものとして説明されていなければ、適宜省略あるいは削除することも可能である。
【0075】
上述した実施形態では、成型用型40を用いて、上顎用の総義歯である有床義歯10を製造する方法を説明した。しかし、これには限定されない。ここに開示される製造方法は、例えば、下顎用の総義歯の製造や部分義歯の製造にも適用することができる。ここに開示される製造方法は、例えば、弾力性の高い熱可塑性樹脂で構成され、金属製のクラスプを有しない、所謂、ノン・クラスプデンチャーの製造にも適用することができる。また、成型用型40の材質、形状等は、適宜に変形、変更することができる。
【0076】
上述した実施形態では、成型用型40の造形空間48がアクリル系樹脂製であり、義歯床用材料としてアクリル系レジンを用いる場合を例に説明したが、これには限定されない。例えば、成型用型40の造形空間48がポリカーボネート等のポリカーボネート系樹脂製であり、義歯床用材料がポリカーボネート系レジンである場合も、義歯床用材料の硬化物21と成型用型40とを強固に接合することができる。同様に、例えば、成型用型40の造形空間48がポリアミド等のポリアミド系樹脂製であり、義歯床用材料がポリアミド系レジンである場合も、義歯床用材料の硬化物21と成型用型40とを強固に接合することができる。
【0077】
上述した実施形態では、成型用型40の第1被保持部51に1つの凹部(第1凹部51A)が形成され、第2被保持部52に2つの凹部(第2凹部52Aおよび第3凹部52B)が形成され、成型用型40が合計3つの凹部を有していた。しかしこれには限定されない。凹部の位置や数は、例えばアダプタ30の形状等に応じて、適宜変更することができる。また、上述した実施形態では、第1被保持部51の凹部の数と、第2被保持部52の凹部の数と、が異なっていた。ただし、第1被保持部51と、第2被保持部52とで、凹部の数が同じであってもよい。
【0078】
上述した実施形態では、成型用型40の第1被保持部51に2つの突起部51Xが形成され、第2被保持部52に1つの突起部52Xが形成され、成型用型40が合計3つの突起部を有していた。しかしこれには限定されない。突起部の位置や数は、例えばアダプタ30の形状等に応じて、適宜変更することができる。また、上述した実施形態では、第1突起部の数と、第2被保持部52の突起部の数と、が異なっていた。ただし、第1被保持部51と、第2被保持部52とで、突起部の数が同じであってもよい。
【0079】
上述した実施形態では、成型用型40が、底壁45から上方に延びる側壁41~44と、底壁45と側壁41~44とで囲まれる造形空間48と、を有していた。しかしこれには限定されない。例えば成型用型40が、側壁を有しない、あるいは側壁の高さが義歯床20の最大厚みよりも低い場合には、別途外装容器を用意し、当該外装容器と成型用型40とを組み合わせて用いることもできる。外装部材は、側壁41~44を代替しうる部材であり、例えば底壁45の形状に沿った筒状の部材であってもよい。外装部材の材質や性状は、成型用型40と同じであってもよい。
【0080】
上述した製造方法では、義歯床用材料の注入(ステップS52)と義歯床用材料の硬化(ステップS53)とを各1回行うことで、一体物13を作製していたが、これには限定されない。義歯床用材料の注入は、複数回に分けて行ってもよい。この場合、ステップS52とステップS53とを繰り返し行ってもよい。例えば、まず人工歯と底壁45との界面を覆う程度の少量の義歯床用材料を造形空間48に注入し、これを硬化させた後、残りの義歯床用材料を造形空間48に注入し、これを硬化させてもよい。
【符号の説明】
【0081】
10 有床義歯
13 一体物
15 人工歯
20 義歯床
30 アダプタ
40 成型用型
45 底壁(被切削面)
46 人工歯型
46A 配置溝
51 第1被保持部
52 第2被保持部
60 切削装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図13
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