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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】高速焼結対応高透過ジルコニアブランク
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/822 20200101AFI20241030BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20241030BHJP
   C04B 35/488 20060101ALI20241030BHJP
   A61C 13/00 20060101ALN20241030BHJP
【FI】
A61K6/822
C01G25/02
C04B35/488
A61C13/00 A
A61C13/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020006968
(22)【出願日】2020-01-20
(65)【公開番号】P2020117495
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2019007411
(32)【優先日】2019-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100173657
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬沼 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】野中 和理
(72)【発明者】
【氏名】高橋 周平
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-222466(JP,A)
【文献】米国特許第07655586(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第105338948(CN,A)
【文献】特開2003-068324(JP,A)
【文献】特開2010-220779(JP,A)
【文献】特表2003-506309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/822
C01G 25/02
C04B 35/488
A61C 13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガリウム化合物を含み、原料としてのジルコニア粒子の一次粒子径が、1~500nmであり、
イットリウム化合物をイットリア換算で5.0~12.5重量%含むことを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項2】
ガリウム化合物を酸化ガリウム換算で0.20重量%~1.50重量%含むことを特徴とする請求項1に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項3】
ガリウム化合物を酸化ガリウム換算で0.30重量%~1.00重量%含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項4】
イットリウム化合物をイットリア換算で6.0~11.5重量%含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項5】
着色材及び/又は焼結助剤を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速焼結可能な歯科切削加工用ジルコニア被切削体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯科用CAD/CAMシステムを用いた切削加工により補綴装置を作製する技術が急速に普及してきている。これにより、ジルコニア、アルミナ、二ケイ酸リチウム等のセラミックス材料や、アクリルレジン、ハイブリッドレジン等のレジン材料で製造された被切削体を加工することで、容易に補綴装置を作製することが可能となってきている。
【0003】
特に、ジルコニアは、高い強度を有していることから様々な症例で臨床応用されている。一方、焼結させた口腔内で使用可能なジルコニア(以下、ジルコニア焼結体)は、硬度が非常に高いため、歯科用CAD/CAMシステムを用いて切削加工することができない。そのため、歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、完全焼結まで行わず低い焼成温度で仮焼し、切削加工可能な硬度に調整したものが用いられている。
【0004】
一般的な歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、ジルコニア粉末をプレス成形等により成形した後、800~1200℃で仮焼して製造されている。
【0005】
ジルコニア製補綴装置は、歯科切削加工用ジルコニア被切削体を、切削加工等により所望の形状に成形し、焼結温度以上の温度で焼成し、完全焼結させることで得られる。この焼成には数時間以上の昇温時間と、数時間の保持時間が必要とされているため、生産効率が低く、また患者が補綴装置を装着できるようになるまでに複数回の通院が必要となる。
【0006】
一方で、近年、数十分から数時間での焼成が可能なシンタリングファーネスが普及し始めている。しかしながら、従来の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を短時間焼結させると、透光性や強度が十分に得られないという問題があった。
【0007】
特許文献1には、歯科切削加工用ジルコニア被切削体が開示されている。しかしながら、短時間焼結させた焼結体は、透光性、強度が不十分であるため、インレー、オンレー、ベニア、前歯部など高い透光性が求められる症例や臼歯部など高強度が求められる症例への適用は困難であった。
【0008】
特許文献2には、保持時間15分で焼結した焼結体において高い透光性が得られる歯科切削加工用ジルコニア被切削体が開示されている。当該焼結体は、高い透光性を有しているため、前歯部など高い審美性が求められる症例にも用いられてきている。しかしながら、当該焼結体の透光性は、まだ不十分であった。
【0009】
特許文献3には、30分以内で焼結可能な歯科切削加工用ジルコニア被切削体が開示されている。しかしながら、当該焼結体は透光性が不十分であり、インレー、オンレー、ベニア、前歯部など高い透光性が求められる症例には不向きであった。
【0010】
特許文献4には、30分間~90分間でジルコニア焼結体を得る方法が開示されている。しかしながら、当該焼結体は透光性、もしくは強度が不十分であり、インレー、オンレー、ベニア、前歯部など高い透光性が求められる症例や臼歯部など高強度が求められる症例への適用は困難であった。
【0011】
特許文献5には、4~6.5mol%のイットリウムを含有したジルコニア粉末を用いて歯科切削加工用ジルコニア被切削体を作製し、当該ジルコニア被切削体から作製したジルコニア焼結体が開示されている。当該焼結体は、高い透光性を有しているため、前歯部など高い審美性が求められる症例にも用いられてきている。しかしながら、当該ジルコニア被切削体を短時間焼結した焼結体は、透光性が低いため、インレー、オンレー、ベニア、前歯部など高い透光性が求められる症例には不向きであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2015-098765号
【文献】国際公開第2018-056330号
【文献】国際公開第2018-029244号
【文献】中国特許第107162603号明細書
【文献】国際公開第2015-199018号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、短時間焼結においても、臨床上必要な透光性をジルコニア焼結体に付与することができる歯科切削加工用ジルコニア被切削体およびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、短時間の焼結時間であっても、427分焼結を行った場合と比較して同程度の透光性をジルコニア焼結体に付与することができる歯科切削加工用ジルコニア被切削体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、短時間焼結においても、臨床上必要な透光性をジルコニア焼結体に付与することができる歯科切削加工用ジルコニア被切削体について検討した。その結果、歯科切削加工用ジルコニア被切削体へのガリウム化合物の添加が、短時間焼結においても、ジルコニア焼結体に天然歯エナメル質同様の透光性を付与するために特に重要であることを見出した。以下に本発明の詳細を記載する。
【0015】
本発明における、短時間焼結とは、6-90分の焼結時間を意味し、特に好ましくは6-30分の焼結時間を意味する。
【0016】
本発明における焼結時間とは、焼成工程における、昇温および保持に要する時間のことを示し、焼成後の冷却に要する時間は含まない。
【0017】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、ガリウム化合物を含むものである。本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、ガリウム化合物を酸化ガリウム(Ga)換算で0.20重量%~1.50重量%で含むことが好ましい。
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、特に好ましくは、ガリウム化合物を酸化ガリウム(Ga)換算で、0.30重量%~1.00重量%含む。
また、本発明においては、歯科切削加工用ジルコニア被切削体が、イットリウム化合物をイットリア(Y)換算で5.0~12.5重量%含むことが好ましく、6.0~11.5重量%含むことがより好ましい。本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、固溶したイットリウム化合物を含むジルコニア粒子からなることが好ましい。
【0018】
本発明においては、
1560℃において、24分の焼結時間で作製した焼結体を24分焼結体とし、
1560℃において、427分の焼結時間で作製した焼結体を427分焼結体とした場合、
試料厚さ1mmにおけるコントラスト比が下記式(1)を満たす歯科切削加工用ジルコニア被切削体であることが好ましい。
(24分焼結体のコントラスト比)/(427分焼結体のコントラスト比)×100≦102(%)・・・(1)
【0019】
本発明においては、
1560℃において、6.4分の焼結時間で作製した焼結体を6.4分焼結体とし、
1560℃において、427分の焼結時間で作製した焼結体を427分焼結体とした場合、
試料厚さ1mmにおけるコントラスト比が下記式(2)を満たす歯科切削加工用ジルコニア被切削体であることが好ましい。
(6.4分焼結体のコントラスト比)/(427分焼結体のコントラスト比)×100≦102(%)・・・(2)
【発明の効果】
【0020】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、臨床上必要な透光性をジルコニア焼結体に短時間で付与することができる。加えて、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、6-90分以下という非常に短い焼結時間であっても、427分焼結を行った場合と比較して同程度の透光性をジルコニア焼結体に付与することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の構成要件について具体的に説明する。
本発明は、歯科切削加工用ジルコニア被切削体において、ガリウム化合物を有することを特徴としている。また、好ましくは、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、固溶したイットリウム化合物を含むジルコニア粒子からなる歯科切削加工用ジルコニア被切削体である。
【0022】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体に含まれるジルコニアの配合量は、任意の含有量とすることができ、例えば以下に説明する歯科切削加工用ジルコニア被切削体に含まれる他の組成の残部として含まれる。具体的にはジルコニアの配合量は80重量%~99.8重量%であることが好ましく、より好ましくは85重量%~93重量%であり、最も好ましくは86重量%~93重量%である。
【0023】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体に含まれるガリウム化合物の配合量は、酸化ガリウム量で0.20重量%~1.50重量%であることが好ましく、より好ましくは0.30重量%~1.00重量%である。酸化ガリウム量が0.20重量%未満の場合、短時間焼結したジルコニア焼結体は十分な透光性を得られない傾向にある。一方、酸化ガリウム量が1.50重量%を超える場合、ジルコニア焼結体は十分な透光性を得られない傾向にある。
【0024】
ジルコニア焼結体になる前の本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体中におけるガリウム化合物の状態に制限はない。具体的にはジルコニアに固溶していてもよいし、ガリウム化合物としてジルコニアとは別の結晶もしくは非晶質として存在していてもよい。
【0025】
ガリウム化合物としては公知のガリウム化合物であればなんら制限なく用いることができる。具体的には、本発明に用いられるガリウム化合物はガリウムの酸化物、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩などである。より具体的には酸化ガリウム、硝酸ガリウム、塩化ガリウム、硫酸ガリウムなどである。
【0026】
本発明における、ガリウム化合物を添加する方法は、規定の量を歯科切削加工用ジルコニア被切削体中に均一に添加できるものが好ましい。例えば、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の原料としてのジルコニア粒子を製造する際にガリウム化合物を添加する方法を用いてもよいし、ジルコニア成形体をガリウム化合物を含む溶液に浸漬させる方法を用いてもよい。
【0027】
ジルコニア成形体をガリウム化合物を含む溶液に浸漬させる方法を用いる場合、ガリウム溶液の溶媒は任意であるが、水、アルコール、有機溶媒などを用いることができる。入手、取り扱いが容易であることから、水またはエタノール、もしくはその混合物が特に好ましい。
【0028】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、イットリウム化合物をイットリア換算で5.0~12.5重量%含むことが好ましく、6.0~11.5重量%含むことがより好ましい。本発明における、イットリウム化合物を添加する方法は、規定の量を歯科切削加工用ジルコニア被切削体中に均一に添加できるものが好ましい。例えば、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の原料としてのジルコニア粒子を製造する際にイットリウムを添加する方法を用いてもよいし、ジルコニア成形体をイットリウムを含む溶液に浸漬させる方法を用いてもよい。イットリウム化合物は、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の原料としてのジルコニア粒子に固溶していることが好ましい。イットリア量が、5.0重量%未満の場合、ジルコニア完全焼結後に十分な透光性を付与することができないため好ましくない。一方、イットリア量が、12.5mol%を越える場合、ジルコニア完全焼結体の透光性は向上するものの十分な強度を付与することが困難となるため好ましくない。
【0029】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の原料としてのジルコニア粒子の一次粒子径は、1~500nmであることが好ましい。一次粒子径が1nm未満の場合、ジルコニア焼結体の透光性は向上するものの十分な強度を付与することが困難となる傾向にある。一方、一次粒子径が500nm以上の場合、ジルコニア焼結体に十分な強度を付与することが困難となる傾向にある。
【0030】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、着色材を含むことが好ましい。具体的には、黄色を付与するための酸化鉄や、赤色を付与するためのエルビウム等が挙げられる。また、これらの着色材に加えて、色調調整のためにコバルト、マンガン、クロムなどの元素を含有した着色材を併用しても何ら問題はない。本発明が着色材を含むことで容易に歯牙色に着色することができる。
【0031】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、焼結助剤を含んでもよい。具体的には、焼結性向上と低温劣化の抑制を目的として、0.01~0.3重量%のアルミナを含有することが好ましい。アルミナ量が、0.01重量%より低い場合、ジルコニア完全焼結後を十分に焼結させることができず、十分な強度や透光性を付与することができない傾向にある。一方、アルミナ量が、0.3重量%を越える場合、ジルコニア焼結体の強度は向上するものの十分な透光性を付与することが困難となる傾向にある。
【0032】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体を1450℃~1600℃において焼成したジルコニア焼結体の相対密度は、理論密度の98%以上であることが好ましい。相対密度は、測定密度/理論密度により求められる。相対密度が98%以下であれば強度や透光性が低下する傾向にある。
【0033】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の結晶相は、正方晶および/または立方晶であることが好ましい。結晶相が、単斜晶である場合、ジルコニア完全焼結後に十分な透光性を付与することができないため好ましくない。
【0034】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の製造方法であれば何ら問題なく使用できる。具体的には、ジルコニア粉末をプレス成形によって成形したものが好ましい。さらに、色調や組成の異なるジルコニア粉末を多段階的にプレス成形し、多層成形したものがより好ましい。
【0035】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、プレス成形後に、冷間静水等方圧加圧法(CIP処理)により等方加圧を施したものが好ましい。
【0036】
本発明におけるCIP処理の最大負荷圧力は、50MPa以上であることが好ましい。最大負荷圧力が50MPa未満の場合、ジルコニア焼結体に十分な透光性と強度を付与できないことがある。
【0037】
本発明におけるCIP処理の最大負荷圧力時の保持時間は、特に制限はないが、通常0~150秒であることが好ましく、0~60秒間であることがより好ましい。
【0038】
以下に説明する仮焼成に供される歯科切削加工用ジルコニア被切削体の未焼成体の製造の一連の工程にかかる時間に特に制限はないが、通常30秒~10分であることが好ましく、3分~7分であるとより好ましい。時間が短すぎると成型体が破壊されることがあり、長すぎると生産効率が悪くなるため好ましくない。
【0039】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の仮焼成温度は、800~1200℃が好ましい。仮焼成温度が800℃未満の場合、ビッカース硬度および/または曲げ強さが低くなりすぎるため、切削加工時にチッピングや破折が生じやすい傾向にある。一方、仮焼成温度が1200℃以上の場合、ビッカース硬度および/または曲げ強さが強くなりすぎるため、切削機のミリングバーの消耗が激しくなり、ランニングコストが高くなる傾向にある。
【0040】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、例えば上述の製造方法により得ることができる。得られた歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、必要に応じて所望の大きさに切断、切削、表面研磨が施される。
【0041】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、通常焼結(427分焼結)した場合と比較して、短時間焼結した場合においても、同程度の透光性をジルコニア焼結体に付与することが可能である。
【0042】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を焼結させる方法としては、特に限定はないが、簡便で好ましい方法は、常圧で焼成することである。
通常焼結(427分焼結)の焼成温度は1450~1600℃である。最大焼成温度での保持時間は、2~4時間である。昇温速度は1~20℃/minである。
【0043】
本発明に短時間焼結における好ましい条件として、焼成温度は、1450~1600℃である。最大焼成温度での保持時間は、特に限定はないが、1分間~1時間が好ましく、より好ましくは、2~10分間が特に好ましい。昇温速度は、特に限定はないが、30~400℃/minが好ましく、50~350℃/minが特に好ましい。
【0044】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を、1560℃において、24分の焼結時間で作製した24分焼結体と、歯科切削加工用ジルコニア被切削体を、1560℃において、427分の焼結時間で作製した427分焼結体の、試料厚さ1mmにおけるコントラスト比を比較した場合、下記式(1)が成り立つことが好ましい。
(24分焼結体のコントラスト比)/(427分焼結体のコントラスト比)×100≦102(%)・・・(1)
更に
1560℃において、6.4分の焼結時間で作製した焼結体を6.4分焼結体とし、
1560℃において、427分の焼結時間で作製した焼結体を427分焼結体とした場合、
試料厚さ1mmにおけるコントラスト比が下記式(2)を満たすことが好ましい。
(6.4分焼結体のコントラスト比)/(427分焼結体のコントラスト比)×100≦102(%)・・・(2)
【0045】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を用いて切削加工する補綴装置の種類は特に制限はなく、インレー、オンレー、べニア、クラウン、ブリッジ等のいずれの補綴装置でも何等問題はない。そのため、補綴装置を切削加工により作製する歯科切削加工用ジルコニア被切削体の形状も特に制限はなく、インレー、オンレー、べニア、クラウン等に対応したブロック形状やブリッジに対応したディスク形状など、いずれの形状の歯科切削加工用ジルコニア被切削体でも用いることができる。
【実施例
【0046】
以下、実施例により本発明をより詳細に、かつ具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
[含有量(重量%)測定]
含有量評価用試験体は、各ジルコニア被切削体を用いて、丸板状(φ14mm×1.6mm)に切削加工して作製した。蛍光X線分析装置(リガク社製)を用いて、各試験体の上面、下面の各成分の量をそれぞれ測定し、上面、下面の平均値を各成分の含有量とした。なお、各成分の含有量(重量%)は酸化物換算で示している。
【0048】
[焼結条件]
(1)6.4分焼結
焼結時間6.4分
歯科切削加工用ジルコニア被切削体を所定の形状に切削加工した各試験体を、焼成炉にて焼成(焼成温度:1560℃、昇温速度:350℃/分、保持時間:2分間)し、ジルコニア焼結体を作製した。
(2)24分焼結
焼結時間24分
歯科切削加工用ジルコニア被切削体を所定の形状に切削加工した各試験体を、焼成炉にて焼成(焼成温度:1560℃、昇温速度:70℃/分、保持時間:2分間)し、ジルコニア焼結体を作製した。
(3)427分焼結
焼結時間427分
歯科切削加工用ジルコニア被切削体を所定の形状に切削加工した各試験体を、焼成炉にて焼成(焼成温度:1560℃、昇温速度:5℃/分、保持時間:120分間)し、ジルコニア焼結体を作製した。
【0049】
[透光性の評価]
透光性評価用試験体は、各歯科切削加工用ジルコニア被切削体を用いて、丸板状(φ14mm×1.6mm)に切削加工して作製した。各試験体は、焼成炉にて焼結(24分焼結、6.4分焼結、427分焼結)した。その後、平面研削盤にて各試験体の厚さ(1.0mm)を調整した。なお、透光性の評価は、コントラスト比の測定により行った。コントラスト比は、分光測色計(コニカミノルタ社製)を用いて測定した。焼結した各試験体の下に白板を置いて測色した時のY値をYwとし、焼結した試験体の下に黒板を置いて測色した時のY値をYbとした。コントラスト比は、以下の式をより算出した。
コントラスト比が、0に近づくほど、その材料は透明であり、コントラスト比が1に近づくほどその材料は不透明である。
コントラスト比=(Yb/Yw) (式)
さらに、コントラスト比を用いて以下のABCスコアーで評価した。
6.4分または24分焼結体のコントラスト比≦0.68:A
0.68<6.4分または24分焼結体のコントラスト比≦0.72:B(ただし、Aに該当する場合を除く)
0.72<6.4分および24分焼結体のコントラスト比:C
Aの場合、6.4分および24分焼結体のいずれかが、高い透光性が求められる症例に十分適用可能な極めて高い透光性を有する。
Bの場合、6.4分および24分焼結体のいずれかが、高い透光性が求められる症例にある程度適用可能な十分高い透光性を有する。
Cの場合、6.4分および24分焼結体のいずれも、A及びBの場合に比べて透光性が低く、高い透光性が求められる症例には不向きな場合があるが、臨床上必要な透光性を有している。
【0050】
[焼結時間によるコントラスト比百分率の評価]
歯科切削加工用ジルコニア被切削体を6.4分、24分および427分焼結した場合のコントラスト比を、下記式(1)及び下記式(2)により比較した。
24分コントラスト比百分率=(24分焼結体のコントラスト比)/(427分焼結体のコントラスト比)×100(%)・・・(1)
6.4分コントラスト比百分率=(6.4分焼結体のコントラスト比)/(427分焼結体のコントラスト比)×100(%)・・・(2)
コントラスト比百分率が0に近づくほど6.4分または24分焼結体は427分焼結体に比べて透明である。100に近づくほど透光性の差が少なくなる。100を超えて数字が大きくなるほど6.4分または24分焼結体は427分焼結体に比べて不透明である。
さらに、コントラスト比百分率を用いて以下のABCスコアーで評価した。
6.4分コントラスト比百分率≦102% かつ 24分コントラスト比百分率≦102%:A
102%<6.4分コントラスト比百分率 かつ 24分コントラスト比百分率≦102%:B
102%<6.4分コントラスト比百分率 かつ 102%<24分コントラスト比百分率:C
Aの場合、焼結時間6.4分以上で焼結が可能である。
Bの場合、焼結時間24分での焼結が可能であるが、焼結時間6.4分での焼結は不可能である。
Cの場合、短時間焼結は不可能である。
【0051】
[透光性の総合評価]
透光性の評価とコントラスト比百分率の評価をもとに、以下のようにABCスコアーで透光性を総合評価した。
透光性評価Aかつコントラスト比百分率評価A=総合評価A
透光性評価Aかつコントラスト比百分率評価B=総合評価A
透光性評価Aかつコントラスト比百分率評価C=総合評価C
透光性評価Bかつコントラスト比百分率評価A=総合評価A
透光性評価Bかつコントラスト比百分率評価B=総合評価B
透光性評価Bかつコントラスト比百分率評価C=総合評価C
透光性評価Cかつコントラスト比百分率評価A=総合評価B
透光性評価Cかつコントラスト比百分率評価B=総合評価C
透光性評価Cかつコントラスト比百分率評価C=総合評価C
総合評価Aの場合、焼結時間24分でも焼結時間427分と同程度のかつ極めて高い透光性を有している、または、焼結時間6.4分でも焼結時間427分と同程度かつ十分に高い透光性を有している。
総合評価Bの場合、焼結時間24分でも焼結時間427分と同程度かつ十分に高い透光性を有している、または、焼結時間6.4分でも焼結時間427分と同程度かつ臨床上必要な透光性を有している。
総合評価Cの場合、焼結時間24分で焼結時間427分と同程度かつ臨床上必要な透光性を有しているか、焼結時間427分に比べて低い透光性を有している。
【0052】
[3点曲げ強さの評価]
3点曲げ試験体は、各歯科切削加工用ジルコニア被切削体を用いて、板状(幅:4.8mm×長さ:20mm×厚さ:1.6mm)に切削加工して作製した。各試験体は、焼成炉にて完全焼結(焼結時間427分)した。その後、平面研削盤にて各試験体のサイズ(幅:4.0mm×長さ:16mm×厚さ:1.2mm)を調整した。曲げ試験は、ISO6872に準拠して行った(スパン距離:12mm、クロスヘッドスピード:1.0mm/min)。
【0053】
[歯科切削加工用ジルコニア被切削体の作製]
実施例1:9.3重量%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製 アルミナ0.05重量%含有)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP処理(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、保持時間:1分間、繰り返し回数:10回)した。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、ジルコニア仮焼結体を作製した。前記仮焼結体を含浸液(20wt%硝酸ガリウム―エタノール溶液)に室温、大気圧下で12時間浸漬した。その後仮焼結体を溶液から取り出し、120℃の乾燥機中で完全に乾燥させ、歯科切削加工用ジルコニア被切削体を作製した。ガリウム化合物の添加により、作製した歯科切削加工用ジルコニア被切削体中のイットリア含有量は原料粉末中よりも低下し、9.2重量%であった(以下実施例では表中に記載)。
【0054】
実施例2:含浸液を22wt%硝酸ガリウム―エタノール溶液とした以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
実施例3:含浸液を27wt%硝酸ガリウム―エタノール溶液とした以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
実施例4:含浸液を30wt%硝酸ガリウム―エタノール溶液とした以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
実施例5:含浸液を35wt%硝酸ガリウム―エタノール溶液とした以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
実施例6:含浸液を28wt%硝酸ガリウム水溶液とした以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
実施例7:含浸液を8.5wt%硝酸ガリウム―エタノール溶液とした以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
実施例8:含浸液を50wt%硝酸ガリウム水溶液とした以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
【0055】
実施例9:6.9重量%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末(Zpex4:東ソー社製 アルミナ0.05重量%含有)を用いた以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
実施例10:5.2重量%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末(Zpex:東ソー社製 アルミナ0.05重量%含有)を用いた以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
実施例11:含浸液を16wt%硫酸ガリウム―エタノール溶液とした以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
実施例12:含浸液を12wt%塩化ガリウム―エタノール溶液とした以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
【0056】
実施例13:9.3重量%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末:100gと酸化ガリウム:5.8gをボールミル中で混合して作成したジルコニア粉末を用いた以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
実施例14:6.9重量%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末:100gと酸化ガリウム:5.8gをボールミル中で混合して作成したジルコニア粉末を用いた以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
実施例15:5.2重量%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末:100gと酸化ガリウム:5.8gをボールミル中で混合して作成したジルコニア粉末を用いた以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
【0057】
実施例16:10.5重量%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末を用いた以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
実施例17:着色剤としてFe、Er、Coを添加した以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
【0058】
実施例18:含浸液を3.5wt%硝酸ガリウム―エタノール溶液とした以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
実施例19:含浸液を10.3wt%硝酸ガリウム―エタノール溶液とした以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
実施例20:含浸液を51.5wt%硝酸ガリウム―エタノール溶液とした以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
実施例21:含浸液を58.5wt%硝酸ガリウム―エタノール溶液とした以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
【0059】
実施例22:4.0重量%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末(アルミナ0.05重量%含有)を用いた以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
実施例23:6.0重量%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末(アルミナ0.05重量%含有)を用いた以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
実施例24:11.5重量%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末(アルミナ0.05重量%含有)を用いた以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
実施例25:12.5重量%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末(アルミナ0.05重量%含有)を用いた以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
実施例26:14.0重量%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末(アルミナ0.05重量%含有)を用いた以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
【0060】
実施例27:9.3重量%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末(アルミナ0.01重量%含有)を用いた以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
実施例28:9.3重量%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末(アルミナ0.30重量%含有)を用いた以外は実施例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
【0061】
比較例1:9.3重量%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製 アルミナ0.05重量%含有)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP処理(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、保持時間:1分間、繰り返し回数:10回)した。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、ジルコニア仮焼結体を作製した。
【0062】
比較例2:6.9重量%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末(Zpex4:東ソー社製 アルミナ0.05重量%含有)を使用した以外は比較例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
比較例3:5.2重量%の固溶したイットリアを含むジルコニア粉末(Zpex4:東ソー社製 アルミナ0.05重量%含有)を使用した以外は比較例1と同様にジルコニア被切削体を作製した。
【0063】
実施例および比較例で製造した歯科切削加工用ジルコニア被切削体の特性試験結果を表1に示す。
実施例17により着色が可能なことを確認した。なお表中には、ジルコニア、イットリア、酸化ガリウム及びアルミナ以外のジルコニア被切削体における組成及びその量については、記載を省略している。

【0064】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は高速焼結可能な歯科切削加工用ジルコニア被切削体及びその製造方法にかかる発明であり、歯科分野において、利用可能な技術である。