(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】コイル部品
(51)【国際特許分類】
H01F 17/00 20060101AFI20241030BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20241030BHJP
H01F 1/26 20060101ALI20241030BHJP
H01F 37/00 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
H01F17/00 D
H01F17/04 F
H01F1/26
H01F37/00 A
(21)【出願番号】P 2020062176
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-03-02
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 奈津子
(72)【発明者】
【氏名】新井 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】笠原 敦子
(72)【発明者】
【氏名】柏 智男
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/088914(WO,A1)
【文献】特開2019-165169(JP,A)
【文献】国際公開第2008/004633(WO,A1)
【文献】特開2005-268455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00
H01F 17/04
H01F 1/26
H01F 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料からなる磁性体部、及び、前記磁性材料よりも低い比透磁率を有する低透磁率材料から成る磁気ギャップ部を有する絶縁性の本体と、
コイル軸の周りに延びる周回部を有しており前記本体内に配置されているコイル導体
であって、前記周回部は前記コイル軸に沿って配された複数の導体パターンを含み、前記複数の導体パターンは、前記周回部の上端の第1導体パターンと、前記周回部の下端の第2導体パターンと、前記第1導体パターンと前記第2導体パターンとの間に配された第3導体パターンとを含む、コイル導体と、
を備え、
前記磁気ギャップ部は、前記コイル軸の方向から見てリング状の形状を有しており、その外周面が前記周回部の上端の
第1導体パターンの内周面のみ、前記周回部の下端の
第2導体パターンの内周面のみ、又は前記周回部の上端の
第1導体パターン及び下端の
第2導体パターンの内周面
のみに接するように前記周回部の内側に設けられ、
前記磁性体部は、前記周回部の内側にある第1領域と、前記コイル軸に沿う方向において前記磁気ギャップ部に対して前記第1領域と反対側にある第2領域と、前記ギャップ部の内周面で画定される貫通孔の内部に前記ギャップ部の内周面に接するように設けられており前記第1領域と前記第2領域とを接続する第3領域と、を有する、
コイル部品。
【請求項2】
前記コイル軸の方向から見たときに、前記周回部の内側の領域の面積に対する前記磁気ギャップ部の面積の比が0.1から0.95の範囲にある、
請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記コイル軸の方向から見たときに、前記周回部の内側の領域の面積に対する前記磁気ギャップ部の面積の比が0.55から0.95の範囲にある、
請求項2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記コイル軸の方向から見たときに前記周回部の幾何中心が前記貫通孔の内側に配置されている、
請求項1から3のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記低透磁率材料の比透磁率は、前記磁性材料の比透磁率の1/10以下である
請求項1から4のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記磁性体部は、複数の金属磁性粒子を含む、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記磁気ギャップ部は、第1磁気ギャップ層と、前記コイル軸に沿う方向において前記第1磁気ギャップ層から離間している第2
磁気ギャップ層と、を有する、
請求項1から6のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のコイル部品を備える回路基板。
【請求項9】
請求項8に記載の回路基板を備える電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、磁性材料から成る磁性基体と、当該磁性基体の表面に設けられた外部電極と、当該磁性基体内においてコイル軸の周りに延びるコイル導体と、を備えるコイル部品が知られている。
【0003】
コイル部品の一つの例としてインダクタが挙げられる。インダクタは、電子回路において用いられる受動素子である。インダクタは、例えば、電源ラインや信号ラインにおいてノイズを除去するために用いられる。
【0004】
特開2013-236050号公報及び特開2018-121023号公報に記載されているように、基体における磁気飽和を抑制して直流重畳特性を改善するために、基体内に磁気ギャップ層が設けられることがある。磁気ギャップ層は、基体を構成する磁性材料よりも低い比透磁率を有する低透磁率材料から成る。特開2018-121023号公報に記載されているコイル部品は、非磁性材料から成る非磁性フェライト部を有しており、この非磁性フェライト部が磁気ギャップとして機能する。非磁性フェライト部は、コイル軸と直交する方向に延びる層形状の部材であり、平面視においてコイルの周回部の内側の領域の全体を覆っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-236050号公報
【文献】特開2018-121023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁気ギャップ層は、基体を構成する磁性材料の比透磁率よりも低い比透磁率を有する材料から作製されるため、磁気ギャップ層によりコイル部品のインダクタンスが劣化する。
【0007】
本明細書で開示される発明の目的の一つは、コイル部品のインダクタンスの劣化を抑制しつつ直流重畳特性を改善することである。本明細書に開示される発明の前記以外の目的は、本明細書全体を参照することにより明らかになる。本明細書に開示される発明は、前記の課題に代えて又は前記の課題に加えて、本明細書の記載から把握される課題を解決するものであってもよい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一又は複数の実施形態によるコイル部品は、絶縁性の本体と、コイル軸の周りに延びる周回部を有しており前記本体内に配置されているコイル導体と、を備える。絶縁性の本体は、磁性材料からなる磁性体部、及び、前記磁性材料よりも低い比透磁率を有する低透磁率材料から成る磁気ギャップ部を有する。一又は複数の実施形態において、前記磁気ギャップ部は、コイル軸の方向から見てリング状の形状を有しており、その外周面が前記周回部の上端又は下端の少なくとも一方において前記周回部の内周面に接するように前記周回部の内側に設けられる。一又は複数の実施形態において、前記磁性体部は、前記周回部の内側にある第1領域と、前記コイル軸に沿う方向において前記磁気ギャップ部に対して前記第1領域と反対側にある第2領域と、前記ギャップ部の内周面で画定される貫通孔の内部に前記ギャップ部の内周面に接するように設けられており前記第1領域と前記第2領域とを接続する第3領域と、を有する。
【0009】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記コイル軸の方向から見たときに、前記周回部の内側の領域の面積に対する前記磁気ギャップ部の面積の比は、0.1から0.95の範囲にある。
【0010】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記コイル軸の方向から見たときに、前記周回部の内側の領域の面積に対する前記磁気ギャップ部の面積の比は、0.55から0.95の範囲にある。
【0011】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記コイル軸の方向から見たときに前記周回部の幾何中心が前記貫通孔の内側に配置されている。
【0012】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記低透磁率材料の比透磁率は、前記磁性材料の比透磁率の1/10以下である。
【0013】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記基体は、複数の金属磁性粒子を含む。
【0014】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記磁気ギャップ部は、第1磁気ギャップ層と、前記コイル軸に沿う方向において前記第1磁気ギャップ層から離間している第2ギャップ層と、を有する。
【0015】
本発明の一実施形態は、回路基板に関する。本発明の一実施形態による回路基板は、上記のコイル部品を備える。
【0016】
本発明の一実施形態は、電子機器に関する。本発明の一実施形態による電子機器は、上記の回路基板を備える。
【発明の効果】
【0017】
本明細書に開示された発明の実施形態によれば、コイル部品のインダクタンスの劣化を抑制しつつ直流重畳特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態によるコイル部品の斜視図である。
【
図3】
図1のI-I線断面を模式的に示す断面図である。
【
図5】コア面積に対する磁気ギャップ層の面積の比とシミュレーションにより算出したインダクタンスとの関係を示すグラフである。
【
図6】コア面積に対する磁気ギャップ層の面積の比とシミュレーションにより算出した直流重畳特性との関係を示すグラフである。
【
図7】コア面積に対する磁気ギャップ層の面積の比とシミュレーションにより算出したエネルギー特性との関係を示すグラフである。
【
図8】シミュレーションにより算出したコア領域における磁束密度の分布を示すグラフである。
【
図9】本発明の別の実施形態によるコイル部品の模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。なお、複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0020】
図1から
図3を参照して、本発明の一実施形態によるコイル部品1について説明する。コイル部品1は、本発明が適用されるコイル部品の一例である。図示の実施形態において、コイル部品1は、積層インダクタである。この積層インダクタは、電源ラインに組み込まれるパワーインダクタ及びそれ以外の様々なインダクタとして使用され得る。本発明は、図示されている積層インダクタ以外の様々なコイル部品に適用され得る。
【0021】
図示の実施形態において、コイル部品1は、絶縁性の本体5と、コイル軸Axの周りに延びる周回部25aを有しており本体5内に設けられたコイル導体25と、本体5の表面に設けられた外部電極21と、本体5の表面において外部電極21から離間した位置に設けられた外部電極22と、を備える。本発明の一又は複数の実施形態において、本体5は、磁性材料から成るほぼ直方体形状を有する磁性体部10と、磁性体部10の内部に配置されている第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32と、を備える。第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32は、コイル軸Axの方向から見たときに周回部25aの内側に配置されている。
図3においては、第1磁気ギャップ部31と磁性体部10の隣接する部分(具体的には、後述する磁性体層11及び上部カバー層18)との間の境界及び第2磁気ギャップ部32と磁性体部10の隣接する部分(具体的には、後述する磁性体層15、16)が示されているが、本発明が適用された実際のコイル部品においては第1磁気ギャップ部31及び第1磁気ギャップ部32と磁性体部10の隣接する部分との境界は視認できないこともある。
【0022】
コイル部品1は、実装基板2aに実装されている。回路基板2は、コイル部品1と、このコイル部品1が実装される実装基板2aと、を備える。実装基板2aには、2つのランド部3が設けられている。コイル部品1は、外部電極21、22のそれぞれと実装基板2aの対応するランド部3とを接合することで実装基板2aに実装されている。回路基板2は、コイル部品1及びコイル部品1以外の様々な電子部品を備えることができる。
【0023】
回路基板2は、様々な電子機器に搭載され得る。回路基板2が搭載され得る電子機器には、スマートフォン、タブレット、ゲームコンソール、自動車の電装品及びこれら以外の様々な電子機器が含まれる。コイル部品1が搭載される電子機器は、本明細書で明示されるものには限定されない。
【0024】
磁性体部10は磁性材料からおおむね直方体形状に形成される。磁性体部10は、第1の主面10a、第2の主面10b、第1の端面10c、第2の端面10d、第1の側面10e、及び第2の側面10fを有する。本体10は、これらの6つの面によってその外面が画定される。第1の主面10aと第2の主面10bとは互いに対向し、第1の端面10cと第2の端面10dとは互いに対向し、第1の側面10eと第2の側面10fとは互いに対向している。
図1において第1の主面10aは本体10の上側にあるため、第1の主面10aを「上面」と呼ぶことがある。同様に、第2の主面10bを「下面」と呼ぶことがある。磁気結合型コイル部品1は、第2の主面10bが回路基板2と対向するように配置されるので、第2の主面10bを「実装面」と呼ぶこともある。コイル部品1の上下方向に言及する際には、
図1の上下方向を基準とする。本明細書においては、文脈上別に理解される場合を除き、コイル部品1の「長さ」方向、「幅」方向、及び「高さ」方向はそれぞれ、
図1の「L軸」方向、「W軸」方向、及び「T軸」方向とする。L軸、W軸、及びT軸は互いに直交している。コイル軸Axは、T方向に沿って延びている。コイル軸Axは、例えば、平面視で長方形形状を有する第1の主面10aの対角線の交点を通り第1の主面10aに垂直な方向に延びる。
【0025】
本発明の一又は複数の実施形態において、コイル部品1は、長さ寸法(L軸方向の寸法)が0.2~6.0mm、幅寸法(W軸方向の寸法)が0.1~4.5mm、高さ寸法(T軸方向の寸法)が0.1~4.0mmとなるように形成される。これらの寸法はあくまで例示であり、本発明を適用可能なコイル部品1は、本発明の趣旨に反しない限り、任意の寸法を取ることができる。一又は複数の実施形態において、コイル部品1は、低背に形成される。例えば、コイル部品1は、その幅寸法が高さ寸法よりも大きくなるように形成される。
【0026】
上述したように、磁性体部10は、磁性材料から成る。例えば、磁性体部10は、複数の磁性体粉末を含む。磁性体粉末は、例えば金属磁性粒子であってもよいし、フェライト粉末であってもよい。金属磁性粒子は、軟磁性金属材料から成る粒子又は粉末である。金属磁性粒子用の軟磁性金属材料は、例えば、(1)金属系のFeもしくはNi、(2)合金系のFe-Si-Cr、Fe-Si-AlもしくはFe-Ni、(3)非晶質のFe―Si-Cr-B-CもしくはFe-Si-B-Cr、(4)またはこれらの混合材料の粒子である。金属磁性粒子の平均粒径は、例えば、1μm~10μmとされる。金属磁性粒子の平均粒径は、1μm~10μmの範囲には限定されず適宜変更可能である。金属磁性粒子におけるFeの含有比率は、85wt%以上とされてもよい。磁性体部10に含まれる金属磁性粒子の表面には絶縁膜が設けられる。金属磁性粒子の表面の絶縁膜は、例えば、金属磁性粒子の表面が酸化されることで形成される酸化膜であってもよい。金属磁性粒子の表面には、絶縁性のコーティング膜が設けられてもよい。このコーティング膜は、例えばシリカから成る又はシリカを含む薄膜であってもよい。磁性体部10の材料として用いられる磁性体粉末には、Ni-Cu-Zn系フェライト、Ni-Cu-Zn-Mg系フェライト、Cu-Zn系フェライト、Ni-Cu系フェライト、又はこれら以外の公知のフェライト粉末が含まれる。
【0027】
磁性体部10には、金属磁性粒子同士の結合を強化するための結合材が含まれていてもよい。磁性体部10に含まれる結合材は、絶縁性に優れた熱硬化性樹脂であってもよく、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)樹脂、フェノール(Phenolic)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリベンゾオキサゾール(PBO)樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂、又はアクリル樹脂である。
【0028】
図2及び
図3に示されているように、磁性体部10は、積層された複数の磁性体層を有する。図示のように、磁性体部10は、本体部20、この本体部20の上面に設けられた上部カバー層18、この本体部20の下面に設けられた下部カバー層19を備えてもよい。本体部20は、積層された磁性体層11~16を含む。磁性体部10においては、
図2の上から下に向かって、上部カバー層18、磁性体層11、磁性体層12、磁性体層13、磁性体層14、磁性体層15、磁性体層16、磁性体層17、下部カバー層19の順に積層されている。
【0029】
上部カバー層18は、4枚の磁性体層18a~18dを含む。この上部カバー層18においては、
図2の下から上に向かって、磁性体層18a、磁性体層18b、磁性体層18c、磁性体層18dの順に積層されている。
【0030】
下部カバー層19は、4枚の磁性体層19a~19dを含む。この下部カバー層19においては、
図2の上から下に向かって、磁性体層19a、磁性体層19b、磁性体層19c、磁性体層19dの順に積層されている。
【0031】
コイル部品1は、磁性体層11~磁性体層16、磁性体層18a~18d、及び磁性体層19a~19d以外にも、必要に応じて、任意の数の磁性体層を含むことができる。磁性体層11~磁性体層16、磁性体層18a~18d、及び磁性体層19a~19dの一部は、適宜省略することができる。
図3においては、磁性体層間の境界が示されているが、本発明が適用された実際のコイル部品の磁性体部10においては磁性体層間の境界は視認できないこともある。
【0032】
導体パターンC11~C16の各々は、隣接する導体パターンとビアV1~V6を介して電気的に接続される。このようにして接続された導体パターンC11~C16が、スパイラル状の周回部25aを形成する。すなわち、コイル導体25の周回部25aは、導体パターンC11~C16及びビアV1~V6を有する。
【0033】
磁性体層11~磁性体層16の各々には、対応する導体パターンC11~C16が設けられている。これらの導体パターンC11~C16により、周回部25aが構成される。各導体パターンC11~C16は、コイル軸Axの周りに延伸するように形成される。図示の実施形態において、コイル軸Axは、T軸方向に延伸しており、磁性体層11~磁性体層16の積層方向と一致する。
【0034】
導体パターンC11のビアV1に接続されている端部と反対側の端部は、引出導体25b2を介して外部電極22に接続される。導体パターンC16のビアV5に接続されている端部と反対側の端部は、引出導体25b1を介して外部電極21に接続される。このように、コイル導体25は、周回部25aと、引出導体25b1と、引出導体25b2と、を有する。図示の実施形態では、引出導体25b1は、コイル導体25のうち導体パターンC16の一端と外部電極21とを接続する直線状の部位であり、同様に、引出導体25b2は、コイル導体25のうち導体パターンC11の一端と外部電極22とを接続する直線状の部位である。本発明の一又は複数の実施形態において、引出導体25b1及び引出導体25b2は、コイル軸Axの周りに巻回する湾曲する湾曲部部を有していてもよいし、かかる湾曲部を有していなくともよい。引出導体25b1又は引出導体25b2が湾曲部を有する場合には、当該湾曲部はコイル軸Axの周りに1/4ターン未満だけ巻回されている。本明細書では、コイル導体25のうち、ある磁性体層上でコイル軸Axの周りに1/4ターン以上巻回されている部位は周回部25aの一部とされる。引出導体25b2は、導体パターンC11が設けられている磁性体層とは別の磁性体層に設けられてもよい。例えば、磁性体層11の上に磁性体層をもう1層設け、この追加された磁性体層に引出導体25b2を設けてもよい。この追加された磁性体層には、周回部25aを構成する導体パターンは設けられない。同様に、引出導体25b1は、導体パターンC16が設けられている磁性体層とは別の磁性体層に設けられてもよい。例えば、磁性体層16の下に磁性体層をもう1層設け、この追加された磁性体層に引出導体25b1を設けてもよい。この追加された磁性体層には、周回部25aを構成する導体パターンは設けられない。
【0035】
導体パターンC11~C16は、対応する磁性体層11~磁性体層16上にそれぞれ形成される。導体パターンC11~C16は、スクリーン印刷等の印刷、メッキ、エッチング、又はこれら以外の任意の公知の手法を用いて形成される。磁性体層11~磁性体層15の所定の位置には、ビアV1~V5がそれぞれ形成される。ビアV1~V5は、磁性体層11~磁性体層15の所定の位置に、磁性体層11~磁性体層15をT軸方向に貫く貫通孔を形成し、当該貫通孔に導電性材料を埋め込むことにより形成される。導体パターンC11~C16及びビアV1~V5は、導電性に優れた金属、例えば、Ag、Pd、Cu、Al又はこれらの合金を含んでいる。
【0036】
このように、コイル導体25は、コイル軸Axの周りに延びる周回部25aを有しており、磁性体部10内に配置されている。コイル導体25は、その引出導体25b1及び引出導体25b2の端部が磁性体部10から外に向かって露出しているが、それ以外の部分は磁性体部10内に配置されている。
【0037】
図3及び
図4を参照して、第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32について説明する。本発明の一又は複数の実施形態において、第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32は、低透磁率材料から板状に形成された部材である。本明細書において、第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32の材料となる低透磁率材料は、磁性体部10の比透磁率の1/10以下の比透磁率を有する。第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32用の低透磁率材料は、非磁性材料であってもよい。第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32用の低透磁率材料は、例えば、ガラス、セラミックス、非磁性フェライト、及びこれら以外の比透磁率が磁性体部10の磁性材料の比透磁率の1/10以下である公知の材料、前記の材料の混合物、又は前記の材料と磁性材料との混合物であってもよい。例えば、第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32は、金蔵磁性粒子と樹脂とを混合した混合樹脂材料から作製されてもよい。本発明の一又は複数の実施形態において、基体10の比透磁率は、例えば10から50の間の範囲とされる。磁性体部10の比透磁率は、35以上とされてもよい。第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32の比透磁率はそれぞれ、例えば1から10の間の範囲とされる。
【0038】
本発明の一又は複数の実施形態において、第1磁気ギャップ部31は、低透磁率材料をバインダ樹脂及び溶剤と混練して得られる樹脂ペーストを磁性体層11の上面に印刷することによって得られてもよい。また、第2磁気ギャップ部32は、低透磁率材料をバインダ樹脂及び溶剤と混練して得られる樹脂ペーストを磁性体層16の上面に印刷することによって得られてもよい。第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32は、低透磁率材料をバインダ樹脂及び溶剤と混練して得られる樹脂ペーストからドクターブレード法等の公知の手法によって低透磁率材料から成るシートを作製し、当該シートを磁性体層11及び磁性体層16の各々の上面に載置することで形成されてもよい。
【0039】
本発明の一又は複数の実施形態において、第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32は、コイル軸Axに沿う方向(T軸方向)において互いから離間した位置に設けられている。
図3に最も明瞭に示されているように、本発明の一又は複数の実施形態において、コイル軸Axに沿う方向における第1磁気ギャップ部31の位置は、周回部25aを構成する導体パターンC11からC16のうち最も上側にある導体パターンC11の位置と重複している。つまり、W軸、L軸、及びT軸により表現される3次元座標空間において、第1磁気ギャップ部31のT軸における座標は、導体パターンC11のT軸における座標と等しい。同様に、コイル軸Axに沿う方向における第2磁気ギャップ部32の位置は、周回部25aを構成する導体パターンC11からC16のうち最も下側にある導体パターンC16の位置と重複している。つまり、W軸、L軸、及びT軸により表現される3次元座標空間において、第2磁気ギャップ部32のT軸における座標は、導体パターンC16のT軸における座標と等しい。
【0040】
図示の実施形態では、第1磁気ギャップ部31の上面31aが導体パターンC11の上面(すなわち、周回部25aの上端)と面一になるように、第1磁気ギャップ部31が配置されている。第1磁気ギャップ部31の配置は図示されたものには限られない。本発明の一又は複数の実施形態において、第1磁気ギャップ部31は、その上面31aのT軸における座標が導体パターンC11の上面のT軸における座標と下面のT軸における座標の間に配置されていてもよい。つまり、第1磁気ギャップ部31は、その上面31aが導体パターンC11の上面よりもT軸方向の負方向に導体パターンC11の厚さ以下だけシフトした位置に配置されてもよい。本発明の一又は複数の実施形態において、第1磁気ギャップ部31は、その下面31bのT軸における座標が導体パターンC11の上面のT軸における座標と下面のT軸における座標の間に配置されていてもよい。つまり、第1磁気ギャップ部31は、その下面31bが導体パターンC11の下面よりもT軸方向の正方向に導体パターンC11の厚さ以下だけシフトした位置に配置されてもよい。
【0041】
図示の実施形態では、第2磁気ギャップ部32の下面32bが導体パターンC16の下面(すなわち、周回部25aの下端)と面一になるように、第2磁気ギャップ部32が配置されている。第2磁気ギャップ部32の配置は図示されたものには限られない。本発明の一又は複数の実施形態において、第2磁気ギャップ部32は、その下面32bのT軸における座標が導体パターンC16の上面のT軸における座標と下面のT軸における座標の間に配置されていてもよい。つまり、第2磁気ギャップ部32は、その下面32bが導体パターンC16の下面よりもT軸方向の正方向に導体パターンC16の厚さ以下だけシフトした位置に配置されてもよい。本発明の一又は複数の実施形態において、第2磁気ギャップ部32は、その上面32aのT軸における座標が導体パターンC16の上面のT軸における座標と下面のT軸における座標の間に配置されていてもよい。つまり、第2磁気ギャップ部32は、その上面32aが導体パターンC16の上面よりもT軸方向の負方向に導体パターンC16の厚さ以下だけシフトした位置に配置されてもよい。
【0042】
上述したように、引出導体25b2は、周回部25aの最上層である導体パターンC11が設けられている磁性体層11よりも上にある磁性体層に設けられることがある。この場合、第1磁気ギャップ部31は、コイル軸Axに沿う方向において、引出導体25b2と重複する位置ではなく、周回部25aの上端に相当する導体パターンC11と重複する位置に設けられる。同様に、引出導体25b1は、周回部25aの最下である導体パターンC16が設けられている磁性体層16よりも下にある磁性体層に設けられることがある。この場合、第2磁気ギャップ部32は、コイル軸Axに沿う方向において、引出導体25b1と重複する位置ではなく、周回部25aの上端に相当する導体パターンC11と重複する位置に設けられる。
【0043】
本明細書においては、磁性体部10のうち、コイル軸Axの方向から見たときに(つまり、
図4の視点から見たときに)周回部25aの内側にあり、且つ、コイル軸Axを通る断面において(例えば、
図3に示す断面において)第1磁気ギャップ部31の下面31bと第2磁気ギャップ部32の上面32aとの間にある領域をコア領域10Aとする。コア領域10Aは、T軸方向においては、第1磁気ギャップ部31の下面31bから第2磁気ギャップ部32の上面32aとの間に延在している。第1磁気ギャップ部31が存在しない場合、コア領域10Aは、周回部25aの最上層にある導体パターンC11の上面から、第2磁気ギャップ部32の上面32aとの間に延在する。同様に、第2磁気ギャップ部32が存在しない場合、コア領域10Aは第1磁気ギャップ部31の下面31bから、周回部25aの最下層にある導体パターンC16の下面との間に延在する。また、磁性体部10のうち導体パターンC11の上面よりも上側(T軸方向における正側の領域)を上部カバー領域10Bとし、導体パターンC16の下面よりも下側(T軸方向における負側の領域)を下部カバー領域10Cとする。図示の実施形態においては、上部カバー領域10Bは上部カバー層18と一致し、下部カバー領域10Cは下部カバー層19と磁性体層16とを含む。上部カバー領域10Bは、第1磁気ギャップ部31に対してコア領域10Aと反対側にある。下部カバー領域10cは、第2磁気ギャップ部32に対してコア領域10Aと反対側にある。
【0044】
本発明の一又は複数の実施形態において、第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32の厚さ(T軸方向に沿った寸法)は、コア領域10Aの厚さ(T軸に沿った寸法)の1/10以下であってもよい。第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32の厚さのコア領域10Aの厚さに対する比を小さくすることにより、周回部25a内において磁性材料から成るコア領域10Aの体積比率を高めることができるので、第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32によるコイル部品1のインダクタンスの劣化を抑制することができる。特に、磁性体部10の比透磁率を40以上とする場合には、第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32の各々の厚さのコア領域10Aの厚さに対する比を1/10以下とすることができる。第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32の各々の厚さは、10μm以下とすることができる。第1磁気ギャップ部31の厚さを10μm以下とすること、及び/又は、第2磁気ギャップ部32の厚さを10μm以下とすることでインダクタンスが低下することを抑制できる。
【0045】
本発明の一又は複数の実施形態において、第1磁気ギャップ部31は、コイル軸Axに沿った方向に延びる貫通孔41を有している。貫通孔41は、第1磁気ギャップ部31を貫通している。この貫通孔41は、第1磁気ギャップ部31の内周面31cによって画定される。第1磁気ギャップ部31は、内周面31cと対向する外周面31dを有しており、この外周面31dにおいて導体パターンC11の内周面と接している。このように、第1磁気ギャップ部31は、導体パターンC11の内周面との間に隙間がないように配置される。貫通孔41は、磁性体部10の一部である接続領域10Dにより閉塞されている。接続領域10Dは、磁性体部10の一部であり、コア領域10Aと上部カバー領域10Bとを接続する。つまり、磁性体部10のコア領域10Aと上部カバー領域10Bとは、貫通孔41を閉塞する接続領域10Dにより接続されている。接続領域10Dは、第1磁気ギャップ部31の内周面31cに接するように設けられる。接続領域10Dは、コイル軸Axの方向から見たときに(
図4に示されている平面視において)、貫通孔41内に配置される。
【0046】
本発明の一又は複数の実施形態において、第2磁気ギャップ部32は、コイル軸Axに沿った方向に延びる貫通孔42を有している。貫通孔42は、第2磁気ギャップ部32を貫通している。この貫通孔42は、第1磁気ギャップ部32の内周面32cによって画定される。第2磁気ギャップ部32は、内周面32cと対向する外周面32dを有しており、この外周面32dにおいて導体パターンC16の内周面と接している。このように、第2磁気ギャップ部32は、導体パターンC16の内周面との間に隙間がないように配置される。貫通孔42は、磁性体部10の一部である接続領域10Eによりにより閉塞されている。接続領域10Eは、磁性体部10の一部であり、コア領域10Aと下部カバー領域10Cとを接続する。つまり、磁性体部10のコア領域10Aと下部カバー領域10Eとは、貫通孔42を閉塞する接続領域10Eにより接続されている。接続領域10Eは、第2磁気ギャップ部32の内周面32cに接するように設けられる。接続領域10Eは、コイル軸Axの方向から見たときに、貫通孔42内に配置される。
【0047】
上記のように、磁性体部10は、複数の領域に区画される。本発明の一又は複数の実施形態において、接続領域10D及び接続領域10Eの比透磁率は35以上である。接続領域10D及び接続領域10Eの比透磁率を35以上とすることにより、第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32の厚さを厚くしても、コイル部品1に要求される高い実効透磁率を実現しやすくなる。コア領域10Aの比透磁率を35以上とすることにより、第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32の厚さを例えば5μm以上とすることができる。第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32の厚さを厚くすることにより(例えば、5μm以上とすることにより)、製造時に不可避的に生じる第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32の厚さのバラツキによるコイル部品1の実効透磁率の変化を小さくすることができる。
【0048】
このように、平面視において(すなわち、コイル軸Axの方向から見たときに)、第1磁気ギャップ部31は、その外周面が導体パターンC11の内周面に接するリング形状を有しており、第2磁気ギャップ部32は、その外周面が導体パターンC16の内周面に接するリング形状を有している。
【0049】
本発明の一又は複数の実施形態において、第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32の少なくとも一方は、複数の層に跨がる形状を有していてもよい。
図9に、2層に跨がった形状を有する配置第1磁気ギャップ部を備えるコイル部品1の平面図を示す。
図9に示されているコイル部品1は、第1磁気ギャップ部31に代えて第1磁気ギャップ部131を備え、導体パターンC11及び導体パターンC12に代えてそれぞれ導体パターンC111及び導体パターンC112を備える点で
図4のコイル部品1と異なっている。より具体的には、
図4に示されている最上層の導体パターンC11がコイル軸Axの周りに約1ターン巻回されているのに対して、
図9に示されている最上層の導体パターンC111は、約3/4ターンだけコイル軸Axの周りに(つまり、コイル軸Axの周りに約270°だけ)巻回されている。導体パターンC112は、導体パターンC111とビアV1を介して接続されている。一又は複数の実施形態において、導体パターンC112は、導体パターンC111と同じターン数だけコイル軸Axの周りに巻回される。
図9に示されている例では、導体パターンC112は、コイル軸Axの周りに3/4ターンだけ巻回される。
【0050】
本発明の一又は複数の実施形態において、上側第1磁気ギャップ部131aは、その外周面が導体パターンC111の内周面に接するように、コイル軸Axの周りに3/4ターンだけ巻回する形状を有している。つまり、上側第1磁気ギャップ部131aは、周方向の一部が破断された部分リング形状を有する。
【0051】
第1磁気ギャップ部131は、コイル軸Axに沿う方向において導体パターンC111と重複する位置に設けられている上側第1磁気ギャップ部131aと、コイル軸Axに沿う方向において導体パターンC112と重複する位置に設けられている下側第1磁気ギャップ部131bと、を有する。つまり、上側第1磁気ギャップ部131aのT軸における座標は、導体パターンC111のT軸における座標と等しく、下側第1磁気ギャップ部131bのT軸における座標は、導体パターンC112のT軸における座標と等しい。このように、上側第1磁気ギャップ部131aと下側第1磁気ギャップ部131bとは、T軸方向において互いに異なる位置に設けられている。
【0052】
本発明の一又は複数の実施形態において、下側第1磁気ギャップ部131bは、その外周面が導体パターンC112の内周面の一部又は全部に接するように、コイル軸Axの周りに延びている。本発明の一又は複数の実施形態において、下側第1磁気ギャップ部131bは、コイル部品1をコイル軸Axの方向から平面視したときに(すなわち、
図9の視点において)、上側第1磁気ギャップ部131aとともにコイル軸Axの周りを一周するリング形状を構成する。例えば、
図9に示されているように、上側第1磁気ギャップ部131aが3/4ターンだけコイル軸Axの周りに延びている場合には、下側第1磁気ギャップ部131bは、平面視において上側第1磁気ギャップ部131aによってカバーされていない残りの1/4ターンの領域に配置される。これにより、コイル部品1を平面視したときに、上側第1磁気ギャップ部131a及び下側第1磁気ギャップ部131bから成る第1磁気ギャップ部131は、コイル軸Axの周りを一周している。、第1磁気ギャップ部131を構成する上側第1磁気ギャップ部131a及び下側第1磁気ギャップ部131bの各々が1ターン未満だけコイル軸Axの周りに延びている場合であっても、
図9に示されているようにコイル軸Axの方向から見たときに第1磁気ギャップ部131がコイル軸Axの周りを一周している場合には、第1磁気ギャップ部131がコイル軸Axの方向から見て(又は平面視で)リング状の形状を有するという。
【0053】
本発明の一又は複数の実施形態において、第2磁気ギャップ部は、第1磁気ギャップ部と同様に、複数の層に跨がる形状を有していてもよい。第1磁気ギャップ部31に関する説明は、矛盾を生じさせない限り、第1磁気ギャップ部131にも当てはまる。第2磁気ギャップ部32に関する説明は、矛盾を生じさせない限り、2層に跨がって構成された第2磁気ギャップ部にも当てはまる。
【0054】
図示の実施形態において、第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32の外周面31dは、平面視において矩形形状を呈しており、その内周面31c、32cも矩形形状を呈している。第1磁気ギャップ部31の内周面31c及び第2磁気ギャップ層32の内周面32cが矩形形状を有することから、接続領域10D及び接続領域10Eも同様に矩形形状を呈している。図示されている第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32の平面視における形状は例示であり、本発明を適用可能な第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32の平面視における形状は、図示されたものには限られない。例えば、第1磁気ギャップ部31の外周面31dの平面視における形状は、矩形以外に、楕円形、長円形、円形、矩形以外の多角形、及びこれら以外の形状を取り得る。また、第1磁気ギャップ部31の内周面31c及び第2磁気ギャップ層32の内周面32cの形状、すなわち貫通孔41及び貫通孔42の平面視における形状も例示である。本発明を適用可能な第1磁気ギャップ部31の内周面31c及び第2磁気ギャップ層32の内周面32cの平面視における形状、すなわち貫通孔41及び貫通孔42の平面視における形状は、図示されたものには限られず、例えば、これらの平面視形状は、矩形以外に、楕円形、長円形、円形、矩形以外の多角形、及びこれら以外の形状を取り得る。平面視における第1磁気ギャップ部31の外周面31dの形状と内周面31cの形状とは、相似形であってもよいし、相似形でなくともよい。同様に、平面視における第2磁気ギャップ部32の外周面32dの形状と内周面32cの形状とは、相似形であってもよいし、相似形でなくともよい。外周面31dと内周面31cとを互いに相似形とすることにより、コア領域10Aにおいて磁束の分布を一様にすることができる。外周面32dと内周面32cとを互いに相似形とすることにより、コア領域10Aにおいて磁束の分布を一様にすることができる。
【0055】
本発明の一又は複数の実施形態において、周回部25aの内周面の内側の領域の面積であるコア面積に対する第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32の各々の面積の比は、0.1から0.95の範囲とされる。本発明の一又は複数の実施形態において、周回部25aの内周面の内側の領域の面積に対する第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32の各々の面積の比は、0.55から0.95の範囲とされる。本発明の一又は複数の実施形態において、周回部25aの内周面の内側の領域の面積に対する第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32の各々の面積の比は、0.8から0.95の範囲とされる。周回部25aの内周面の内側の領域の面積及び第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32の面積は、特に断りのない限り、平面視における(T軸の方向からみたときの)面積を意味する。第1磁気ギャップ部31の面積は、外周面31dの内側の領域から貫通孔41を除外した領域の面積に等しく、第2磁気ギャップ部32の面積は、外周面32dの内側の領域から貫通孔42を除外した領域の面積に等しい。
【0056】
本発明の一又は複数の実施形態において、磁気ギャップ部31における貫通孔41の配置は、コイル軸Axの方向から見たときに周回部25aの幾何中心が貫通孔41の中に存在するように定められる。例えば、図示の実施形態においては、第1磁気ギャップ部31が長方形の形状を有する。長方形の幾何中心は長方形の対角線の交点であるから、貫通孔41は、コイル軸Axの方向から見たときに第1磁気ギャップ部31の幾何中心である対角線の交点が貫通孔41の内部に存在するように第1磁気ギャップ部31に形成される。第1磁気ギャップ部31が楕円形状を有する場合には、その幾何中心は、当該楕円の2つの焦点の中点である。第1磁気ギャップ部31の幾何中心は、第1磁気ギャップ部31の形状に応じて定められる。第1磁気ギャップ部31の幾何中心は、第1磁気ギャップ部31を通りコイル軸Axに垂直な面でコイル部品1を切断した断面を撮像し、撮像した画像を画像解析することによって求めることができる。貫通孔42の配置も貫通孔41の配置と同様に定められる。すなわち、第2磁気ギャップ部32における貫通孔42の配置は、本発明の一又は複数の実施形態において、コイル軸Axの方向から見たときに周回部25aの幾何中心が貫通孔42の中に存在するように定められる。
【0057】
本発明の一又は複数の実施形態において、第1磁気ギャップ部31の外周面31dに囲まれた領域と貫通孔41とは相似形であってもよい。本発明の一又は複数の実施形態において、第1磁気ギャップ部31の外周面31dに囲まれた領域の幾何中心は、貫通孔41の幾何中心と一致またはほぼ一致していてもよい。第1磁気ギャップ部31の外周面31dに囲まれた領域の幾何中心と貫通孔41の幾何中心との間の距離が、磁気ギャップ部31のL軸方向における寸法の10%以下である場合に、第1磁気ギャップ部31の外周面31dに囲まれた領域の幾何中心と貫通孔41の幾何中心とはほぼ一致ということができる。上記の第1磁気ギャップ部31の外周面31dに囲まれた領域と貫通孔41との関係は、第2磁気ギャップ部32の外周面32dに囲まれた領域と貫通孔42との関係にも当てはまる。つまり、本発明の一又は複数の実施形態において、第2磁気ギャップ部32の外周面32dに囲まれた領域の幾何中心は、貫通孔42の幾何中心と一致またはほぼ一致していてもよい。
【0058】
次に、コイル部品1の製造方法の一例を説明する。本発明の一又は複数の実施形態において、コイル部品1は磁性体シートを用いたシート製法により作製される。シート製法によりコイル部品1を作製する場合には、まず、上部カバー層18となる上部積層体、中間積層体、及び下部カバー層19となる下部積層体を形成する。上部積層体は磁性体層18a~18dとなる複数の磁性体シートを積層することによって形成され、下部積層体は磁性体層19a~19dとなる複数の磁性体シートを積層することによって形成され、中間積層体は磁性体層11~16となる複数の磁性体シートを積層することによって形成される。磁性体シートは、例えば金属磁性粒子を樹脂と混練して得られたスラリーを成型金型に入れて所定の成形圧力を加えることで作製される。金属磁性粒子と混練される樹脂としては、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂、エポキシ樹脂等の絶縁性に優れた樹脂が用いられ得る。
【0059】
中間積層体は、導体パターンC11~C16に対応する未焼成導体パターンが形成された複数の磁性体シートを積層することによって形成される。中間積層体用の磁性体シートの各々には積層方向に貫通する貫通孔が形成され、この貫通孔が形成された磁性体シートにスクリーン印刷等により導体ペーストを塗布することにより、焼成後に導体パターンC11~C16となる未焼成導体パターンが形成される。このとき、導体ペーストが磁性体シートの貫通孔内に埋め込まれ、ビアV1~V5となる未焼成ビアが形成される。
【0060】
導体パターンC11となる未焼成導体パターンが形成される磁性体シートには、第1磁気ギャップ部31となる未焼成磁気ギャップ層が設けられ、導体パターンC16となる未焼成導体パターンが形成される磁性体シートには、第2磁気ギャップ部32となる未焼成磁気ギャップ層が設けられる。これらの未焼成磁気ギャップ層は、低透磁率材料をバインダ樹脂及び溶剤と混練して得られる樹脂ペーストをスクリーン印刷等により磁性体シートに塗布することによって当該磁性体シート上に形成される。未焼成ギャップ層は、導体パターンC11、C16となる未焼成導体パターンより先に磁性体シートに形成されてもよいし、未焼成導体パターンより後に磁性体シートに形成されてもよい。未焼成磁気ギャップ層の形成方法は、スクリーン印刷には限られない。例えば、低透磁率材料からシート状のシート部材(低透磁率シート)を予め成型しておき、この低透磁率シートを磁性体シートの所定の位置に載置してもよい。この低透磁率シートは、低透磁率材料をバインダ樹脂及び溶剤と混練して得られる樹脂ペーストを用いてドクターブレード法等の公知の手法によって作製され得る。この低透磁率シートが、加熱後に第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32となる。低透磁率材料としては、既述のとおり、ガラス、セラミックス、非磁性フェライト、及びこれらの混合物、又は前記の材料と磁性材料との混合物を用いることができる。以上のようにして、未焼成導体パターン、未焼成ビア、及び未焼成磁気ギャップ層が形成された磁性体シートを積層することで中間積層体が得られる。
【0061】
次に、上記のように作製された中間積層体を上下から上部積層体及び下部積層体で挟み込み、この上部積層体及び下部積層体を中間積層体に熱圧着して本体積層体を得る。次に、ダイシング機やレーザ加工機などの切断機を用いて当該本体積層体を所望のサイズに個片化することでチップ積層体が得られる。
【0062】
次に、このチップ積層体を脱脂し、脱脂されたチップ積層体を加熱処理する。チップ積層体への加熱処理は、例えば400℃~900℃で20分間~120分間行われる。
【0063】
次に、加熱処理されたチップ積層体の表面に導体ペーストを塗布することにより、外部電極21及び外部電極22を形成する。以上の工程により、コイル部品1が得られる。
【0064】
コイル部品1は、シート製法以外の当業者に知られている方法、例えばスラリービルド法や薄膜プロセス法により作製されてもよい。
【0065】
図示されている積層インダクタは本発明が適用可能なコイル部品の例であり、本発明は積層インダクタ以外の様々な種類のコイル部品に適用され得る。例えば、本発明は、平面コイルにも適用され得る。
【0066】
本発明によるコイル部品は、積層プロセスではなく圧縮成形プロセスにより作製されてもよい。コイル部品1を圧縮成形プロセスにより製造する場合には、まず金属磁性粒子とバインダ樹脂とを混練してスラリーを作成する。また、低透磁率材料からシート状の低透磁率シートを作成する。低透磁率シートは、積層インダクタの製造方法において説明したのと同様に、低透磁率材料をバインダ樹脂及び溶剤と混練して得られる樹脂ペーストを用いてドクターブレード法等の公知の手法によって作製され得る。次に、コイル導体が設置された成形金型内にコイル導体の下端付近まで当該スラリーを入れ、この型内のスラリーの上面に第2磁気ギャップ部32となる低透磁率シートを載置する。低透磁率シートは、コイル導体の周回部の中に配置する。次に、形金型内へのスラリーの注入を再開する。スラリーは、コイル導体の上端付近まで注入される。次に、この型内のスラリーの上面のコイル導体の周回部の内部に相当する位置に第1磁気ギャップ部31となる低透磁率シートを載置する。次に、スラリーをさらに型内に注入する。次に、成型金型に成形圧力を加えることで内部にコイル導体を含む成形体が得られる。次に、加熱処理を行うことで磁性体部10が得られる。次に、磁性体部10に導体ペーストを塗布することにより、磁性体部10の表面に外部電極21及び外部電極22が形成される。以上のようにして、圧縮成形プロセスによりコイル部品1が作製される。
【0067】
続いて、コイル部品1のインダクタ特性について説明する。インダクタ特性のシミュレーションのために、10個の評価用モデル(評価用モデル#1~評価用モデル#10)を構成した。評価用モデル#1~評価用モデル#10の各々は、コイル部品1をモデル化したものである。各評価用モデルは、コイル部品1をモデル化するために、以下のように構成された。すなわち、評価用モデル#2~評価用モデル#10は、磁性体部10に相当する磁性材料から成る磁性体部、コイル導体25に相当するコイル導体、第1磁気ギャップ部31に相当する第1磁気ギャップ層、及び第2磁気ギャップ部32に相当する第2磁気ギャップ層を有する。磁性体部の比透磁率を40とし、第1磁気ギャップ部及び第2磁気ギャップ部の比透磁率を1とした。評価用モデル#1には、比較のために、第1磁気ギャップ層及び第2磁気ギャップ層を設けなかった。各評価用モデルにおいて、磁性体部の長さ寸法(X方向の寸法)を1.5mm、幅寸法(Y方向の寸法)を1.35mm、高さ寸法(Z方向の寸法)を0.5mmとした。各評価用モデルにおいて、コイル導体25に相当するコイル導体は、コイル軸Axに相当するコイル軸の周りに3.5ターンだけ巻回されており、コイル軸の方向から見たときに楕円形状の外周面及び内周面を有する周回部を備える。各評価用モデルにおいて、周回部25aの内側の領域の面積を0.74mm
2とした。評価用モデル#2~評価用モデル#10において、第1磁気ギャップ層及び第2磁気ギャップ部32の厚さを5.75μmとし、第1磁気ギャップ層の上面がコイル軸方向においてコイル導体の周回部の上面と面一となり、第2磁気ギャップ層の下面がコイル軸方向においてコイル導体の周回部の下面と面一となるように第1磁気ギャップ層及び第2磁気ギャップ層を配置した。評価用モデル#2~評価用モデル#10においては、第1磁気ギャップ層及び第2磁気ギャップ層をコイル導体の周回部の内側に配置した。第1磁気ギャップ層及び第2磁気ギャップ層は、コイル導体の周回部の内周面に沿った楕円形状の外周面を有している。評価用モデル#2~評価用モデル#9においては、第1磁気ギャップ層及び第2磁気ギャップ層の幾何中心付近に、貫通孔41及び貫通孔42にそれぞれ相当する楕円形の貫通孔を設けた。この貫通孔は、この貫通孔の楕円形状を規定する2つの焦点の中点がコイル導体の周回部の幾何中心とほぼ一致するように設けた。評価用モデル#10においては、比較のために第1磁気ギャップ層及び第2磁気ギャップ層に貫通孔を設けなかった。第1磁気ギャップ層及び第2磁気ギャップ層に設けられた貫通孔の大きさは、評価用モデルごとに異なっている。各評価用モデルにおける貫通孔の短軸寸法、長軸寸法、及び貫通孔の面積は、表1に示すとおりである。表1には、コイル導体の周回部の内側の面積であるコア面積に対する貫通孔の面積の比及びコア面積に対する第1磁気ギャップ層の面積の比も示されている。第2磁気ギャップ層の面積は、第1磁気ギャップ層の面積と等しくしたため、記載を省略する。
【表1】
【0068】
以上のように構成した評価用モデル#1~評価用モデル#10のそれぞれについて、インダクタンスL、直流重畳特性Idc、及びエネルギー特性LI
2/2をシミュレーションにより算出した。直流重畳特性Idcは、インダクタンスが初期値より一定割合(例えば、30%)低下するときの直流電流値を表す。コイル部品のインダクタンスの初期値は、コイル導体に直流電流が流れていないときの当該コイル部品のインダクタンスである。直流重畳特性は、直流重畳定格電流又は直流重畳許容電流と呼ばれることもある。エネルギー特性LI
2/2は、コイル部品に蓄えられるエネルギーを表す。このシミュレーション結果を表2及び
図5から
図7に示す。表2には、各評価用モデルについて算出されたインダクタンスL、直流重畳特性Idc、エネルギー特性LI
2/2に加え、評価用モデル#1を基準としたインダクタンスL、直流重畳特性Idc、及びエネルギー特性LI
2/2の変化率を示す。
図5から
図7のそれぞれは、評価用モデル#1を基準とした各評価用モデルのインダクタンスL、直流重畳特性Idc、及びエネルギー特性LI
2/2の変化率のシミュレーション結果を示すグラフである。各グラフの横軸は、コア面積に対するギャップ層の面積の比を示す。
図5の縦軸は、評価用モデル#1を基準とした各評価用モデルのインダクタンスLの変化率を示し、
図6の縦軸は、評価用モデル#1を基準とした各評価用モデルの直流重畳特性Idcの変化率を示し、
図7の縦軸は、評価用モデル#1を基準とした各評価用モデルのエネルギー特性LI
2/2の変化率を示す。
【表2】
【0069】
図5のグラフから、コア面積に対する第1磁気ギャップ層の面積の比が大きくなるほど、インダクタンスLが減少することが確認された。
【0070】
図6のグラフから、貫通孔を有する磁気ギャップ層を有する評価用モデル#2~#9における直流重畳特性Idcは、第1磁気ギャップ層及び第2磁気ギャップ層を有しない評価用モデル#1の直流重畳特性Idcよりも優れていることが確認された。評価用モデル#2~#9における直流重畳特性Idcが評価用モデル#1の直流重畳特性Idcよりも優れているのは、評価用モデル#2から評価用モデル#9が備える第1磁気ギャップ層及び第2磁気ギャップ層によって磁気飽和が抑制されたためと考えられる。また、
図5を参照して説明したとおり、評価用モデル#2~#9のインダクタンスは、評価用モデル#10のインダクタンスよりも優れている。このように、貫通孔を有する磁気ギャップ層を有する評価用モデル#2~#9は、磁気ギャップ層を有しない評価用モデル#1よりも優れた直流重畳特性Idcを有しており、この優れた直流重畳特性Idcを、コイル導体の周回部の内側の全領域が磁気ギャップ層で覆われている従来のコイル部品よりもインダクタンスの劣化を抑制して実現している。この評価結果から、コア面積に対する磁気ギャップ層の面積の比が0.1から0.95の範囲にある場合には、コイル部品のインダクタンスの劣化を抑制しつつ、磁気ギャップ層を備えていない従来のコイル部品よりも直流重畳特性を改善できることが確認された。
【0071】
評価用モデル#10は、貫通孔がない第1磁気ギャップ層及び第2磁気ギャップ層を有しているため、優れた直流重畳特性Idcを有しているが、評価用モデル#6~#9の直流重畳特性Idcは、評価用モデル#10の直流重畳特性Idcよりもさらに優れていることが確認された。評価用モデル#10の第1磁気ギャップ層及び第2磁気ギャップ層には貫通孔がないため、周回部の内側の領域における比透磁率が当該周回部からの距離にかかわらず一様である。このため、評価用モデル#10においては、コイル導体の周回部の幾何中心近辺を通過する磁束が少ない。これに対し、評価用モデル#6~#9においては第1磁気ギャップ層及び第2磁気ギャップ層の幾何中心付近に貫通孔が設けられているため、磁束がコイル導体の周回部の幾何中心近辺を通過しやすくなっている。このように、評価用モデル#6~#9においては磁束がコイル導体の周回部の幾何中心近辺を通過しやすいので、コア領域における磁束密度の分布がより均一になり、このためコア領域でさらに磁気飽和が起こりにくくなっている。このため、評価用モデル#6~#9においては評価用モデル#10よりも優れた直流重畳特性Idcが得られると考えられる。この評価結果から、コア面積に対する磁気ギャップ層の面積の比が0.8から0.95の範囲にある場合には、コイル導体の周回部の内側の全領域を覆う磁気ギャップ層を有する従来のコイル部品よりもインダクタンスの劣化を抑制しつつ直流重畳特性を改善できることが確認された。
【0072】
磁気ギャップ層に設けられた貫通孔が磁性体部のコア領域における磁束密度の分布に与える影響をシミュレーションにより算出した結果を
図8に示す。
図8は、評価用モデル#1、評価用モデル#8、及び評価用モデル#10のそれぞれについて、コア領域における磁束密度の分布をシミュレーションにより算出したグラフである。
図8のグラフがシャープであるほど、磁束密度の分布が均一であることになる。図示されているように、評価用モデル#8の磁束密度の分布は、評価用モデル#1及び評価用モデル#10のいずれよりもシャープになっているので、評価用モデル#8がコア領域において最も均一な磁束密度を有することが分かる。このように、貫通孔を有する磁気ギャップ層を有するコイル部品においては、磁気ギャップ層を有していないコイル部品(例えば、評価用モデル#1)や貫通孔を有していない磁気ギャップ層を有するコイル部品(例えば、評価用モデル#10)よりもコア領域における磁束密度の分布がより均一であることが分かる。
【0073】
図7のグラフから、評価用モデル#2~#9におけるエネルギー特性は、評価用モデル#1のエネルギー特性よりも優れていることが確認された。これは、
図5のグラフに示されているように評価用モデル#2~#9においては評価用モデル#1よりもインダクタンスが低下しているが、
図6のグラフに示されているように評価用モデル#2~#9においては評価用モデル#1よりも優れた直流重畳特性Idcを有しており、直流重畳特性Idcの相違の方がインダクタンスLの相違よりもエネルギー特性に与える影響が大きいためと考えられる。また、評価用モデル#4~#9におけるエネルギー特性は、評価用モデル#10のエネルギー特性よりも優れていることが確認された。より具体的には、エネルギー特性のピークが、評価用モデル#7近辺(コア面積に対するギャップ部の面積の比が0.85付近)にあることが確認された。これは、コア面積に対するギャップ部の面積の比が概ね0.85となるまでは、
図5に示されているようにインダクタンスが緩やかに減少するのに対して
図6に示されているように直流重畳特性Idcが大きく改善する一方、コア面積に対するギャップ部の面積の比が概ね0.85を超えて1.0となるまでは、
図5に示されているようにインダクタンスが大きく減少するのに対して
図6に示されているように直流重畳特性Idcがほとんど改善しないか又は劣化しているためと考えられる。この評価結果から、コア面積に対する磁気ギャップ層の面積の比が0.55から0.95の範囲にある場合には、コイル導体の周回部の内側の全領域を覆う磁気ギャップ層を有する従来のコイル部品よりもインダクタンスの劣化を抑制しつつエネルギー特性を改善できることが確認された。
【0074】
続いて、上記の実施形態による作用効果について説明する。本発明の一又は複数の実施形態によるコイル部品1によれば、低透磁率材料からなる第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32が貫通孔41、42をそれぞれ有しているため、かかる低透磁率材料から成る磁気ギャップを備えない従来のコイル部品と比べて直流重畳特性を改善することができる。また、上記のコイル部品1においては、第1磁気ギャップ部31及び第2磁気ギャップ部32が貫通孔41、42を有しており、磁束が貫通孔41、42を通過することができるため、コイル部品1は、磁気ギャップ層がコイル導体の周回部の内周面の全領域を覆う従来のコイル部品よりもインダクタンスの劣化を抑制することができる。このように、本発明の一又は複数の実施形態によるコイル部品1によれば、インダクタンスの劣化を抑制しつつ直流重畳特性を改善することができる。
【0075】
本発明の一又は複数の実施形態によるコイル部品1によれば、周回部25aの幾何中心が貫通孔41、42の内側に配置されているので、磁束が周回部25aの幾何中心近辺を通過しやすくなる。これにより、コイル部品1では、コア領域10Aにおける磁束密度の分布をより均一にすることができるので、貫通孔を有しない磁気ギャップ層を備える従来のコイル部品と比べて直流重畳特性を改善することができる。
【0076】
磁気ギャップ層を有する従来のコイル部品においては、磁性体部と磁気ギャップ部とは互いに異なる材料で形成されていることから、磁性体部と磁気ギャップ層との熱膨張率の違いにより、製造工程における加熱時や使用時に高温になった場合に磁気ギャップ層が磁性体部から剥離しやすくなる。このため、従来のコイル部品においては、磁気ギャップ層が磁性体部から剥離して磁気ギャップ装置と磁性体部との間にマイクロクラックが発生しやすい。マイクロクラックは、コイル部品のインダクタンス及び機械的強度の低下要因となる。これに対して、本発明の一又は複数の実施形態によれば、第1磁気ギャップ部31の貫通孔41が磁性体部10の一部である接続部によって閉塞されているため、第1磁気ギャップ部31の下方にあるコア領域10Aと第1磁気ギャップ部31の上方にある上部カバー層18とが貫通孔41を閉塞している接続部によって接続されている。このため、第1磁気ギャップ部31が磁性体部10から剥離しにくい。同様に、第2磁気ギャップ部32の貫通孔42が磁性体部10の接続部によって閉塞されているため、第2磁気ギャップ部32も磁性体部10から剥離しにくい。これにより、磁性体部10と第1磁気ギャップ部31との間及び磁性体部10と第2磁気ギャップ部32との間におけるマイクロクラックの発生が抑制されるので、磁気ギャップ部に起因するコイル部品のインダクタンスの劣化及び機械的強度の劣化を抑制又は防止することができる。
【0077】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれ得る任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【符号の説明】
【0078】
1 コイル部品
10 磁性体部
21、22 外部電極
25 コイル導体
25a 周回部
31 第1磁気ギャップ層
32 第2磁気ギャップ層
41、42 貫通孔
Ax コイル軸