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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】舶用電源システム
(51)【国際特許分類】
   B63H 21/17 20060101AFI20241030BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20241030BHJP
   H02J 7/10 20060101ALI20241030BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20241030BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20241030BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20241030BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20241030BHJP
   B63H 21/20 20060101ALI20241030BHJP
   B60L 50/75 20190101ALI20241030BHJP
   B60L 58/40 20190101ALI20241030BHJP
   B60L 58/18 20190101ALI20241030BHJP
   B60L 58/12 20190101ALI20241030BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20241030BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
B63H21/17
H02J3/38 170
H02J7/10 A
H02J7/00 A
H01M8/00 A
H01M8/00 Z
H01M8/04537
H01M8/04858
B63H21/20
B60L50/75
B60L58/40
B60L58/18
B60L58/12
B60L50/60
H02J3/32
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020129935
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022026455
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】檜野 武憲
(72)【発明者】
【氏名】原田 芳輝
(72)【発明者】
【氏名】林 正人
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/190094(WO,A1)
【文献】特開2015-003658(JP,A)
【文献】特開2002-110210(JP,A)
【文献】特開2001-095107(JP,A)
【文献】特開2013-243009(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0049248(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 21/17
H02J 3/38
H02J 7/10
H02J 7/00
H01M 8/00
H01M 8/04537
H01M 8/04858
B63H 21/20
B60L 50/75
B60L 58/40
B60L 58/18
B60L 58/12
B60L 50/60
H02J 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷が接続される船内配線部と、
前記船内配線部に接続される電力変換装置と、
前記電力変換装置を介して前記船内配線部に電力を供給する電源と、
前記電力変換装置を制御する制御器と、を備えた舶用電源システムであって、
前記電源は、第1蓄電装置、第2蓄電装置および燃料電池を含み、
前記第1蓄電装置は、出力密度が前記第2蓄電装置の出力密度よりも高いように構成され、かつ、前記第2蓄電装置は、エネルギ密度が前記第1蓄電装置のエネルギ密度よりも高いように構成され、
前記電力変換装置は、
前記第1蓄電装置と前記船内配線部との間に設けられた第1電力変換装置と、
前記第2蓄電装置と前記船内配線部との間に設けられた第2電力変換装置と、
前記燃料電池と前記船内配線部との間に接続された第3電力変換装置と、を含み、
前記制御器は、前記船内配線部で要求される電力値のうちの第1周波数帯域に含まれる電力値を指令値とする第1電力指令信号を生成し、前記船内配線部で要求される電力値のうちの前記第1周波数帯域より低い周波数領域を含む第2周波数帯域に含まれる電力値を指令値とする第2電力指令信号を生成する電力指令信号生成部を含み、
前記第1電力変換装置は、前記第1電力指令信号に基づいて前記第1蓄電装置の充放電を行い、
前記第2電力変換装置は、前記第2電力指令信号に基づいて前記第2蓄電装置の充放電を行い、
前記制御器は、前記船内配線部で要求される電力値から前記第1蓄電装置および前記第2蓄電装置から供給される電力値を差し引いた電力値が前記燃料電池から供給されるように、前記第3電力変換装置を制御する、または、前記第2蓄電装置のSOCが所定値になるように前記第3電力変換装置を制御し、
前記電力指令信号生成部は、
前記船内配線部で要求される電力値のうちの前記第1周波数帯域を通過させる第1フィルタと、
前記船内配線部で要求される電力値のうちの前記第2周波数帯域を通過させる第2フィルタと、を含む、舶用電源システム。
【請求項2】
負荷が接続される船内配線部と、
前記船内配線部に接続される電力変換装置と、
前記電力変換装置を介して前記船内配線部に電力を供給する電源と、
前記電力変換装置を制御する制御器と、を備えた舶用電源システムであって、
前記電源は、第1蓄電装置、第2蓄電装置および燃料電池を含み、
前記第1蓄電装置は、出力密度が前記第2蓄電装置の出力密度よりも高いように構成され、かつ、前記第2蓄電装置は、エネルギ密度が前記第1蓄電装置のエネルギ密度よりも高いように構成され、
前記電力変換装置は、
前記第1蓄電装置と前記船内配線部との間に設けられた第1電力変換装置と、
前記第2蓄電装置と前記船内配線部との間に設けられた第2電力変換装置と、
前記燃料電池と前記船内配線部との間に接続された第3電力変換装置と、を含み、
前記制御器は、前記船内配線部で要求される電力値のうちの第1周波数帯域に含まれる電力値を指令値とする第1電力指令信号を生成し、前記船内配線部で要求される電力値のうちの前記第1周波数帯域より低い周波数領域を含む第2周波数帯域に含まれる電力値を指令値とする第2電力指令信号を生成する電力指令信号生成部を含み、
前記第1電力変換装置は、前記第1電力指令信号に基づいて前記第1蓄電装置の充放電を行い、
前記第2電力変換装置は、前記第2電力指令信号に基づいて前記第2蓄電装置の充放電を行い、
前記制御器は、前記船内配線部で要求される電力値から前記第1蓄電装置および前記第2蓄電装置から供給される電力値を差し引いた電力値が前記燃料電池から供給されるように、前記第3電力変換装置を制御する、または、前記第2蓄電装置のSOCが所定値になるように前記第3電力変換装置を制御し、
前記電力指令信号生成部は、
前記船内配線部で要求される電力値のうちの前記第1周波数帯域を通過させることにより前記第1電力指令信号を生成する第1フィルタと、
前記船内配線部で要求される電力値のうちの交流成分を含む変動電力信号から前記第1電力指令信号を差し引いて前記第2電力指令信号を生成する減算器と、を含む舶用電源システム。
【請求項3】
負荷が接続される船内配線部と、
前記船内配線部に接続される電力変換装置と、
前記電力変換装置を介して前記船内配線部に電力を供給する電源と、
前記電力変換装置を制御する制御器と、を備えた舶用電源システムであって、
前記電源は、第1蓄電装置、第2蓄電装置および燃料電池を含み、
前記第1蓄電装置は、出力密度が前記第2蓄電装置の出力密度よりも高いように構成され、かつ、前記第2蓄電装置は、エネルギ密度が前記第1蓄電装置のエネルギ密度よりも高いように構成され、
前記電力変換装置は、
前記第1蓄電装置と前記船内配線部との間に設けられた第1電力変換装置と、
前記第2蓄電装置と前記船内配線部との間に設けられた第2電力変換装置と、
前記燃料電池と前記船内配線部との間に接続された第3電力変換装置と、を含み、
前記制御器は、
前記船内配線部で要求される電力値のうちの第1周波数帯域に含まれる電力値を指令値とする第1電力指令信号を生成し、前記船内配線部で要求される電力値のうちの前記第1周波数帯域より低い周波数領域を含む第2周波数帯域に含まれる電力値を指令値とする第2電力指令信号を生成する電力指令信号生成部と、
前記船内配線部で要求される電力値から交流成分を抽出して変動電力信号を生成する変動電力信号生成部と、を含み、
前記第1電力変換装置は、前記第1電力指令信号に基づいて前記第1蓄電装置の充放電を行い、
前記第2電力変換装置は、前記第2電力指令信号に基づいて前記第2蓄電装置の充放電を行い、
前記制御器は、前記船内配線部で要求される電力値から前記第1蓄電装置および前記第2蓄電装置から供給される電力値を差し引いた電力値が前記燃料電池から供給されるように、前記第3電力変換装置を制御する、または、前記第2蓄電装置のSOCが所定値になるように前記第3電力変換装置を制御し、
前記電力指令信号生成部は、前記変動電力信号に基づいて前記第1電力指令信号および前記第2電力指令信号を生成する舶用電源システム。
【請求項4】
前記第3電力変換装置は、前記船内配線部を経由して第2蓄電装置を充電可能に構成され、
前記制御器は、前記第2蓄電装置のSOCが所定値になるように前記第3電力変換装置を制御する、請求項1から3の何れかに記載の舶用電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、舶用電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の電源として燃料電池を用いることが検討されている。一般的に、燃料電池は、負荷追随性能に課題があり、特に、燃料電池に対して負荷変動を生じる運転を行うと、燃料電池の電極の傷みが早くなり、性能劣化の要因となる。このような燃料電池の性能劣化を抑制するために、燃料電池と蓄電池とを組み合わせて、負荷変動分を蓄電池に負担させる電源システムが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-243009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来の電源システムには、船舶特有のより複雑な負荷変動を生じ得る船舶の電源として用いるに際して、改善の余地がある。
【0005】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものであり、船舶に生じ得る負荷変動による燃料電池の性能劣化を適切に抑制することができる舶用電源システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る舶用電源システムは、負荷が接続される船内配線部と、前記船内配線部に接続される電力変換装置と、前記電力変換装置を介して前記船内配線部に電力を供給する電源と、前記電力変換装置を制御する制御器と、を備えた舶用電源システムであって、前記電源は、第1蓄電装置、第2蓄電装置および燃料電池を含み、前記第1蓄電装置は、出力密度が前記第2蓄電装置の出力密度よりも高いように構成され、かつ、前記第2蓄電装置は、エネルギ密度が前記第1蓄電装置のエネルギ密度よりも高いように構成され、前記電力変換装置は、前記第1蓄電装置と前記船内配線部との間に設けられた第1電力変換装置と、前記第2蓄電装置と前記船内配線部との間に設けられた第2電力変換装置と、前記燃料電池と前記船内配線部との間に接続された第3電力変換装置と、を含み、前記制御器は、前記船内配線部で要求される電力値のうちの第1周波数以上に含まれる第1周波数帯域成分を含む第1電力指令信号を生成し、前記船内配線部で要求される電力値のうちの第2周波数未満に含まれる第2周波数帯域を含む第2電力指令信号を生成する電力指令信号生成部を含み、前記第1電力変換装置は、前記第1電力指令信号に基づいて前記第1蓄電装置の充放電を行い、前記第2電力変換装置は、前記第2電力指令信号に基づいて前記第2蓄電装置の充放電を行い、前記制御器は、前記船内配線部で要求される電力値から前記第1蓄電装置および前記第2蓄電装置から供給される電力値を差し引いた電力値が前記燃料電池から供給されるように、前記第3電力変換装置を制御する。
【0007】
これに代えて、前記制御器は、前記第2蓄電装置のSOC(State Of Charge)が所定値になるように前記第3電力変換装置を制御してもよい。この場合、前記第3電力変換装置は、前記船内配線部を経由して第2蓄電装置を充電可能に構成されてもよい。
【0008】
前記電力指令信号生成部は、前記船内配線部で要求される電力値のうちの前記第1周波数以上に含まれる前記第1周波数帯域を通過させる第1フィルタと、前記船内配線部で要求される電力値のうちの前記第2周波数未満に含まれる前記第2周波数帯域を通過させる第2フィルタと、を含んでもよい。
【0009】
前記電力指令信号生成部は、前記船内配線部で要求される電力値のうちの前記第1周波数以上に含まれる前記第1周波数帯域を通過させることにより前記第1電力指令信号を生成する第1フィルタと、前記船内配線部で要求される電力値のうちの交流成分を含む変動電力信号から前記第1電力指令信号を差し引いて前記第2電力指令信号を生成する減算器と、を含んでもよい。
【0010】
前記制御器は、前記船内配線部で要求される電力値から交流成分を抽出して変動電力信号を生成する変動電力信号生成部を含み、前記電力指令信号生成部は、前記変動電力信号に基づいて前記第1電力指令信号および前記第2電力指令信号を生成してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、船舶に生じ得る負荷変動による燃料電池の性能劣化を適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本開示の実施の形態1に係る舶用電源システムの概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、船舶における負荷変動の時間的変化の一例を示すグラフである。
図3図3は、船舶における負荷変動の時間的変化の他の例を示すグラフである。
図4図4は、実施の形態1における舶用電源システムにおいて適用される電力指令信号生成部の他の例を示す図である。
図5図5は、本開示の実施の形態2に係る舶用電源システムの概略構成を示すブロック図である。
図6図6は、第2蓄電装置における負荷電流およびSOCの時間的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態を、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下では全ての図面を通じて同一または相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0014】
(実施の形態1)
本開示の実施の形態1に係る舶用電源システムの構成について説明する。図1は、本開示の実施の形態1に係る舶用電源システムの概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施の形態における舶用電源システム1は、船内配線部2と、電力変換装置3と、電源4と、制御器5とを備えている。
【0015】
船内配線部2には、負荷6が接続される。負荷6は、例えば、船舶の推進用モータ6a等を含む。推進用モータ6aは、出力軸にスクリュ7が接続される。推進用モータ6aは、インバータ8を介して船内配線部2に接続される。船内配線部2は、交流系統でも直流系統でもよい。推進用モータ6aが1つの船内配線部2に対して複数接続されていてもよい。さらに、船内配線部2に接続される負荷6には、例えば、推進用の補機、船内電気機器等の推進用モータ6a以外の機器を含み得る。
【0016】
電源4は、電力変換装置3に接続され、電力変換装置3を介して船内配線部2に電力を供給する。電力変換装置3は、船内配線部2と電源4との間に設けられ、電源4が出力する電力を船内配線部2に出力する。
【0017】
制御器5は、電力変換装置3を制御する。これにより、電源4から出力(放電)または入力(充電)される電力が制御される。制御器5は、例えばマイクロコントローラ、パーソナルコンピュータ等のコンピュータを備えている。さらに、制御器5は、制御プログラムや各種データを記憶する図示しない記憶部を備えている。なお、制御器5は、コンピュータに加えて、所定の演算等を行う電子回路等の周辺機器を備えていてもよい。
【0018】
電源4は、第1蓄電装置4a、第2蓄電装置4bおよび燃料電池4cを含む。燃料電池4cは、水素ガス供給装置12から供給される水素ガスと酸素とを反応させて発電する。
【0019】
電力変換装置3は、第1蓄電装置4aに接続された第1電力変換装置3aと、第2蓄電装置4bに接続された第2電力変換装置3bと、燃料電池4cに接続された第3電力変換装置3cと、を含む。
【0020】
制御器5は、船内配線部2で要求される電力値Pのうちの第1周波数以上に含まれる第1周波数帯域成分を含む第1電力指令信号P1oを生成し、船内配線部2で要求される電力値Pのうちの第2周波数未満に含まれる第2周波数帯域を含む第2電力指令信号P2oを生成するように構成される。このために、電源システム1は、船内配線部2における電力値Pを計測する電力検出器9および船内配線部2における電圧(電源電圧)Vを計測する電圧検出器10を備えている。
【0021】
制御器5は、変動電力信号生成部5aと、電力指令信号生成部11とを含む。変動電力信号生成部5aは、船内配線部2で要求される電力値Pから交流成分を抽出して変動電力信号ΔPを生成する。変動電力信号生成部5aは、船内配線部2の電源電圧Vを設定電圧Vrefに維持するための第1制御器C(s)を有している。第1制御器C(s)は、電圧検出器10で検出された船内配線部2の電源電圧Vと予め定められた船内配線部2の設定電圧Vrefとの偏差ΔV(=Vref-V)からベース負荷電力信号(ベース負荷電力値の時間的変化を示す信号)Poを算出する。ベース負荷電力信号Poには、計画的な負荷変更分(出力変更等による変更分)の電力が含まれる。
【0022】
変動電力信号生成部5aは、電力検出器9で検出された電力値(船内配線部2で要求される電力値)Pとベース負荷電力値(ベース負荷電力信号Poの各値)との偏差を負荷変動に基づく変動電力信号(変動電力指令値の時間的変化を示す信号)ΔP(=P-Po)として生成する。このように、変動電力信号ΔPは、直流成分(ベース負荷電力)を含む船内配線部2における総電力値Pから外因の負荷変動に基づく電力成分を抽出した電力の振動成分に基づいて生成された指令値信号である。
【0023】
変動電力信号ΔPは、第1蓄電装置4aに対応する第1電力変換装置3aを制御するための第1電力指令信号P1oおよび第2蓄電装置4bに対応する第2電力変換装置3bを制御するための第2電力指令信号P2oの基になる。
【0024】
ここで、第1蓄電装置4aは、出力密度が第2蓄電装置4bの出力密度よりも高い高出力型蓄電デバイスであるように構成され、かつ、第2蓄電装置4bは、エネルギ密度が第1蓄電装置4aのエネルギ密度よりも高い大容量型蓄電デバイスであるように構成される。例えば、第1蓄電装置4aの出力密度は、3000W/Kg以上であり、第2蓄電装置4bの出力密度はそれ未満である。また、第1蓄電装置4aのエネルギ密度は、数10Wh/Kg程度であり、第2蓄電装置4bの蓄電容量は、それより大きい。また、第1蓄電装置4aおよび第2蓄電装置4bは、船内配線部2との間で充放電可能に構成されている。
【0025】
第1蓄電装置4aには、例えばリチウムイオンキャパシタのような、電荷を予め蓄電する蓄電能力を有しているキャパシタが好ましい。また、第2蓄電装置4bには、例えば、リチウムイオン電池(LIB)、ニッケル水素電池および鉛蓄電池のような2次電池が用いられる。
【0026】
本実施の形態において、電力指令信号生成部11は、変動電力信号生成部5aにより生成された変動電力信号ΔPのうちの第1周波数以上に含まれる第1周波数帯域を含む第1電力指令信号P1oを生成し、変動電力信号ΔPのうちの第2周波数未満に含まれる第2周波数帯域を通過させることにより第2電力指令信号P2oを生成する。電力指令信号生成部11は、第1電力指令信号P1oを生成する第1フィルタ11aと、第2電力指令信号P2oを生成する第2フィルタ11bとを含む。
【0027】
第1フィルタ11aは、変動電力信号ΔPのうちの第1周波数以上に含まれる第1周波数帯域を通過させることにより第1電力指令信号P1oを生成する。例えば第1フィルタ11aは、ハイパスフィルタ(HPF)により構成される。
【0028】
なお、本実施の形態では、変動電力信号ΔPを第1フィルタ11aの入力としたが、船内配線部2で要求される電力値Pが第1フィルタ11aにそのまま入力されてもよい。
【0029】
第2フィルタ11bは、変動電力信号ΔPのうちの第2周波数未満に含まれる第2周波数帯域を通過させることにより第2電力指令信号P2oを生成する。例えば第2フィルタ11bは、ローパスフィルタ(LPF)により構成される。なお、第2周波数帯域は、上限値だけ設定されてもよいし、上限値および下限値が設定されてもよい。すなわち、第1フィルタ11aは、LPFに代えて帯域通過フィルタ(BPF)により構成されてもよい。また、第1周波数と第2周波数とは同じ値でもよいし、異なる値でもよい。第1周波数と第2周波数とが異なる値である場合、第1周波数より第2周波数が大きくてもよいし、第2周波数が第1周波数より大きくてもよい。
【0030】
第1電力変換装置3aは、電力指令信号生成部11(第1フィルタ11a)から出力される第1電力指令信号P1oに基づいて第1蓄電装置4aの充放電を行う。第2電力変換装置3bは、電力指令信号生成部11(第2フィルタ11b)から出力される第2電力指令信号P2oに基づいて第2蓄電装置4bの充放電を行う。
【0031】
より詳しくは、第1電力指令信号P1oと、第1電力変換装置3aを通じて第1蓄電装置4aが出力する第1電力P1との差分が第1電力変換装置3aに入力される。同様に、第2電力指令信号P2oと、第2電力変換装置3bを通じて第2蓄電装置4bが出力する第2電力P2との差分が第2電力変換装置3bに入力される。
【0032】
制御器5は、船内配線部2で要求される電力値Pから第1蓄電装置4aおよび第2蓄電装置4bから出力される電力の合計値(P1+P2)を差し引いた電力値P3(=P-P1-P2)を船内配線部2に供給するように、第3電力変換装置3cを制御する。より具体的には、第3電力変換装置3cは、制御器5から出力されるベース負荷電力信号Poに基づいて燃料電池4cの出力制御を行う。より詳しくは、ベース負荷電力信号Poと第3電力変換装置3cを通じて燃料電池4cが出力する第3電力P3との差分が第3電力変換装置3cに入力される。
【0033】
図2は、船舶における負荷変動の時間的変化の一例を示すグラフである。図2においては、負荷6自体の出力変動がない状態(推進用モータ6aの出力を一定制御している状態)を示している。図2の一番上のグラフは、船内配線部2における電力値Pの時間変化を示すグラフである。図2のその他のグラフは、電力値Pを3つの成分に分割してそれぞれ表したグラフである。
【0034】
船舶の負荷変動には、操船による負荷の時間的変化が比較的に小さい(負荷の変動速度が遅い)低周波数の負荷変動と、波浪による負荷の時間的変化が比較的に大きい(負荷の変動速度が速い)高周波数の負荷変動とが含まれる。すなわち、船内配線部2における電力値Pは、負荷6の制御値(ベース負荷電力値)に、低周波数の負荷変動成分と、高周波数の負荷変動成分とを加えたものとなる。
【0035】
そこで、上記構成によれば、電力指令信号生成部11により、船内配線部2における変動成分の電力(変動電力信号ΔPo)が高周波数の周波数成分(第1電力指令信号P1o)と低周波数の周波数成分(第2電力指令信号P2o)とに分けられる。このようにして分けられた変動成分の電力のうち、変動速度が速く、短時間の変化となる高周波数の変動成分は、出力密度がより高い高出力型蓄電デバイスである第1蓄電装置4aが負担し、変動速度が遅く、比較的長い時間の変化となる低周波数の変動成分は、エネルギ密度がより高い大容量型蓄電デバイスである第2蓄電装置4bが負担する。
【0036】
なお、第1電力指令信号P1oおよび第2電力指令信号P2oは、いずれも0を中心とする振動波形となる。図2において、第1電力指令信号P1oおよび第2電力指令信号P2oが正の値の場合、対応する蓄電装置4a,4bに蓄えられた電荷を放電する放電指令となる。第1電力指令信号P1oおよび第2電力指令信号P2oが負の値の場合、船内配線部2から対応する蓄電装置4a,4bに電荷を充電する充電指令となる。
【0037】
この結果、燃料電池4cは、これらの負荷変動を負担する必要がなくなり、ほとんどベース負荷電力のみを負担すればよくなる。したがって、燃料電池4cに対して急峻な負荷変動を生じる運転を行う必要がなくなる。言い換えると、上記構成によれば、船内配線部2で要求される電力値Pのうちの直流成分をベース負荷電力信号Poとし、電力値Pのうちの高周波数交流成分を第1電力指令信号P1oとし、電力値Pのうちの低周波数交流成分を第2電力指令信号P2oとすることで、燃料電池4c、第1蓄電装置4a、および第2蓄電装置4bが船内配線部2で要求される電力値Pを分担して負担する。
【0038】
このように、2種類の特性の異なる蓄電装置4a,4bを用いてそれぞれの特性に応じた周波数帯の負荷変動を各蓄電装置4a,4bの充放電により負担することで、船舶に特有の2種類の負荷変動による燃料電池4cへの影響を低減することができる。これにより、燃料電池4cの電極寿命を延ばし、船舶に生じ得る負荷変動による燃料電池4cの性能劣化を適切に抑制することができる。
【0039】
なお、ベース負荷電力は、負荷6の出力変更等により設定電圧Vrefが変化し得る。図3は、船舶における負荷変動の時間的変化の他の例を示すグラフである。図3に示すようにベース負荷電力の比較的に緩やかな変化(直流的変化)は、燃料電池4cが負担する。このようなベース負荷電力の直流的変化は、燃料電池4cの性能劣化に与える影響が小さいため、許容される。
【0040】
(変形例)
図4は、実施の形態1における舶用電源システムにおいて適用される電力指令信号生成部の他の例を示す図である。図1における舶用電源システム1において、図4に示す電力指令信号生成部11Bを、図1に示す電力指令信号生成部11の代わりに適用することが可能である。
【0041】
図4に示す電力指令信号生成部11Bは、第1フィルタ11aと、減算器11cとを含んでいる。第1フィルタ11aは、図1に示す第1フィルタ11aと同様の構成(例えばハイパスフィルタ)である。すなわち、第1フィルタ11aは、変動電力信号ΔPのうちの第1周波数以上に含まれる第1周波数帯域を通過させることにより第1電力指令信号P1oを生成する。減算器11cは、変動電力信号ΔPから第1電力指令信号P1oを差し引いて第2電力指令信号P2oを生成する。
【0042】
電力指令信号生成部11Bをこのような構成とすることにより、1つのフィルタ(第1フィルタ11a)で2つの電力変換装置3a,3bに対する電力指令信号P1o、P2oを生成することができる。すなわち、第2フィルタ11bを不要とすることができる。また、本構成によれば、負荷変動成分のうち、第1蓄電装置4aが負担する電力以外の変動成分を第2蓄電装置4bに負担させることができる。これにより、2つの蓄電装置4a,4bに負荷変動成分を適切に分担させることができる。
【0043】
なお、本変形例では、電力指令信号生成部11Bを、第1フィルタ11aと減算器11cとで構成する例を示したが、これに代えて、電力指令信号生成部11Bを、第2フィルタ11b(例えばローパスフィルタ)と減算器11cとで構成してもよい。この場合、減算器11cは、変動電力信号ΔPから第2電力指令信号P2o(第2フィルタ11bの出力)を差し引いて第1電力指令信号P1oを生成する。
【0044】
(実施の形態2)
次に、本開示の実施の形態2に係る舶用電源システムの構成について説明する。図5は、本開示の実施の形態2に係る舶用電源システムの概略構成を示すブロック図である。図5において、図1に示す実施の形態1における舶用電源システム1と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0045】
本実施の形態における舶用電源システム1Bが実施の形態1における舶用電源システム1と異なる点は、燃料電池4cに対応する第3電力変換装置3cの接続態様およびそれに対する制御器5Bによる制御態様が実施の形態1とは異なることである。
【0046】
本実施の形態において、船内配線部2で要求される電力値Pは、第1蓄電装置4aおよび第2蓄電装置4bにより分担され、燃料電池4cは、船内配線部2で要求される電力値Pを直接的には負担しない。その代わりに、燃料電池4cは、第2蓄電装置4bのSOCが所定値を維持するように、第2蓄電装置4bを充電する。
【0047】
第3電力変換装置3cは船内配線部2に接続されている。このため、燃料電池4cは船内配線部2を経由して、第2蓄電装置4bのSOCを所定値にするための充電電力を第2蓄電装置4bに供給できる。制御器5Bは、第2蓄電装置4bのSOCが所定値になるように第3電力変換装置3cによって燃料電池4cを放電制御する。舶用電源システム1Bは、第2蓄電装置4bのSOCを計測するSOC計測器13を備えている。
【0048】
制御器5Bは、第3電力変換装置3cの制御指令値を含む第3電力指令信号P3oを生成するSOC制御部5bを含んでいる。SOC制御部5bは、SOC計測器13で計測された第2蓄電装置4bのSOCと予め定められたSOC設定値SOCrefとの偏差ΔS(=SOCref-SOC)から第2蓄電装置4bのSOCをSOC設定値SOCrefに維持するための第2蓄電装置4bへの充電電力を算出する。制御器5Bは、SOC制御部5bで算出された第2蓄電装置4bへの充電電力を第3電力変換装置3cの制御指令値とする第3電力指令信号P3oを出力する。
【0049】
電力指令信号生成部11Bは、実施の形態1と同様に、第1フィルタ11aおよび第2フィルタ11bを含んでいる。さらに、電力指令信号生成部11Bは、第2フィルタ11bの出力信号P2aにベース負荷電力信号Poを加える加算器11dを含んでいる。電力指令信号生成部11Bは、第1フィルタ11aの出力を第1電力指令信号P1oとして出力し、加算器11dの出力を第2電力指令信号P2o(=Po+P1a)として出力する。
【0050】
上記構成によれば、電力指令信号生成部11Bにより、船内配線部2における電力値Pが高周波数の周波数成分(第1電力指令信号P1o)と、低周波数の周波数成分および直流成分を含む成分(第2電力指令信号P2o)とに分けられる。このようにして分けられた変動成分の電力のうち、変動速度が速く、短時間の変化となる高周波数の変動成分は、出力密度がより高い高出力型蓄電デバイスである第1蓄電装置4aが負担し、変動速度が遅く、比較的長い時間の変化となる低周波数の変動成分と、直流成分とは、エネルギ密度がより高い大容量型蓄電デバイスである第2蓄電装置4bが負担する。
【0051】
すなわち、第1電力指令信号P1oは、図2および図3に示すP1oのグラフと同様に、0を中心とする振動波形となる。一方、第2電力指令信号P2oは、図2および図3に示すP2oのグラフとPoのグラフとを足し合わせた波形となる。第2電力指令信号P2oも負荷変動によっては負の値を取り得るが、第2蓄電装置4bがベース負荷電力を負担しているため、第2蓄電装置4bにおける放電量の平均値は、第2蓄電装置4bにおける充電量の平均値に比べて大きくなる。
【0052】
そのため、第2蓄電装置4bのSOCは変動する可能性(低下傾向)がある。本実施の形態における電源システム1Bは、このようにして生じる第2蓄電装置4bのSOCの変動を監視して、燃料電池4cが出力する電力により、第2蓄電装置4bを充電するようにしている。
【0053】
図6は、第2蓄電装置における負荷電流およびSOCの時間的変化を示すグラフである。なお、図6においては、燃料電池4cによる第2蓄電装置4bへの充電を行わない状態における第2蓄電装置4bのSOCの時間的変化が示されている。第2蓄電装置4bは、上述の通り、第2電力指令信号P2oに基づいて第2電力P2を船内配線部2に出力する。第2電力指令信号P2oにおける振動成分P2aは、図2および図3のグラフにおけるP2oに相当するため、第2蓄電装置4bに入力される電流I2は、0を中心に振動的となる。なお、図6においては充電時の電流を正の値とし、放電時の電流を負の値としている。
【0054】
これに対して、第2蓄電装置4bのSOCは、電流I2の変化に比べて変化が比較的緩やかである。図6は、第2蓄電装置4bのSOCが、第2蓄電装置4bの船内配線部2への電力供給により緩やかに減少していく傾向を示している。本実施の形態において、燃料電池は、負荷6における電力変動に比べて比較的に変化の緩やかな第2蓄電装置4bのSOCの変化に応答するように制御される。したがって、燃料電池4cに対して急峻な負荷変動を生じる運転を行う必要がなくなる。
【0055】
このように、燃料電池4cに第2蓄電装置4bを充電するための電力のみを発電させることにより、船舶に特有の2種類の負荷変動による燃料電池4cへの影響を低減することができる。これにより、燃料電池4cの電極寿命を延ばし、船舶に生じ得る負荷変動による燃料電池4cの性能劣化を適切に抑制することができる。
【0056】
なお、本実施の形態では、変動電力信号ΔPを第2フィルタ11bに通過させることにより得られた出力信号P2aにベース負荷電力信号Poを加えて第2電力指令信号P2oを生成する態様を例示したが、これに限られない。例えば、船内配線部2で要求される電力値Pがローパスフィルタとして構成される第2フィルタ11bに直接入力されてもよい。この場合でも、第2フィルタ11bは、直流成分であるベース負荷電力信号Poに低周波数成分P2aを加えた信号を、第2電力指令信号P2oとして出力し得る。
【0057】
また、本実施の形態においても、実施の形態1と同様に、船内配線部2で要求される電力値Pが第1フィルタ11aにそのまま入力されることで、電力値Pにおける高周波数成分が抽出された第1電力指令信号P1oが生成され得る。
【0058】
また、本実施の形態においても、実施の形態1と同様に、第1フィルタ11aおよび第2フィルタ11bの代わりに、第1フィルタ11aまたは第2フィルタ11bと減算器11cとを用いて電力指令信号生成部11Bを構成してもよい。
【0059】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本開示の電源システムは、船舶に生じ得る負荷変動による燃料電池の性能劣化を適切に抑制するために有用である。
【符号の説明】
【0061】
1,1B 舶用電源システム
2 船内配線部
3 電力変換装置
3a 第1電力変換装置
3b 第2電力変換装置
3c 第3電力変換装置
4 電源
4a 第1蓄電装置
4b 第2蓄電装置
4c 燃料電池
5,5B 制御器
5a 変動電力信号生成部
6 負荷
11,11B 電力指令信号生成部
11a 第1フィルタ
11b 第2フィルタ
11c 減算器
図1
図2
図3
図4
図5
図6