(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】ヘッドレスト支持構造及び乗り物用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/897 20180101AFI20241030BHJP
【FI】
B60N2/897
(21)【出願番号】P 2020130645
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-04-28
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521452902
【氏名又は名称】アディエント ユーエス エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】小澤 元彦
(72)【発明者】
【氏名】ノヴィツキー、 トーマス デイビッド
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-003584(JP,A)
【文献】特開2009-183695(JP,A)
【文献】特表2016-523762(JP,A)
【文献】特開2014-008335(JP,A)
【文献】特開2003-164352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/80-2/897
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートバックフレームの上部において幅方向に延在し、上下に対向する上壁部と下壁部とを含んで縦断面形状が着座面とは反対側に開放したコ字状のスリーブ支持部を有する上部パネルと、
前記上壁部に形成された上部孔及び前記下壁部において前記上部孔に対応した位置に形成された下部孔と、
貫通孔を有する管状であって、前記上壁部と前記下壁部との間に、前記貫通孔が前記上部孔及び前記下部孔に連通する
と共に、上端面が前記上壁部の下面と当接又は近接対向し、下端面が前記下壁部の上面と当接又は近接対向して、前記上壁部と前記下壁部との接近変形を規制するよう配置されたカラーと、
前記上部孔と前記貫通孔と前記下部孔とに対し上方から挿通され、ヘッドレストの棒状脚部を挿入可能なスリーブと、を備えたヘッドレスト支持構造。
【請求項2】
クッションシートと、シートバックフレーム及びヘッドレスト支持構造を有するシートバックと、前記ヘッドレスト支持構造に装着されたヘッドレストと、を備えた乗り物用シートにおいて、
前記ヘッドレスト支持構造は、
前記シートバックフレームの上部において幅方向に延在し、上下に対向する上壁部と下壁部とを含んで縦断面形状が着座面とは反対側に開放したコ字状のスリーブ支持部を有する上部パネルと、
前記上壁部に形成された上部孔及び前記下壁部において前記上部孔に対応した位置に形成された下部孔と、
貫通孔を有する管状であって、前記上壁部と前記下壁部との間に、前記貫通孔が前記上部孔及び前記下部孔に連通する
と共に、上端面が前記上壁部の下面と当接又は近接対向し、下端面が前記下壁部の上面と当接又は近接対向して、前記上壁部と前記下壁部との接近変形を規制するよう配置されたカラーと、
前記上部孔と前記貫通孔と前記下部孔とに対し上方から挿通され、ヘッドレストの棒状脚部を挿入可能なスリーブと、を備えていることを特徴とする乗り物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドレスト支持構造と、それを備えた乗り物用シートとに関する。
【背景技術】
【0002】
シートバックフレームを、軽量化のため、パイプ状フレームではなくパネル状フレームとし、ヘッドレスト支持部を、パネル状フレームにサポートブラケットを組み合わせて縦断面形状が後方側に開放したコ字状になるよう構成した乗り物用シートが特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
乗り物用シート(以下、単にシートと称する)が車両の前席の場合、ヘッドレスト支持部を、上述のように、縦断面形状が後方側に開放するコ字状に形成すると、得られた空間に後部座席の乗員が利用可能な画像表示装置などの種々のユニットが収容できるので望ましい。
その場合、コ字状をなす上壁及び下壁それぞれに同心の孔を形成すると共に、両方の孔に、ヘッドレストの棒状脚部を挿し込むスリーブを挿通した構造にすることが行われる。
【0005】
しかしながら、この構造は、車両追突時などにおいて、乗員の頭部によりヘッドレストに対し後方への大きな力が加わった際に、コ字状の開口上下間隔を縮めるように、上壁の後方側が下方に向かう曲げ変形を生じてスリーブの傾きが大きくなり易い。
従って、ヘッドレストに加わる後方への力が著しく大きい場合には、上壁の曲げ変形が過度に生じてヘッドレストが大きく後ろに傾倒する可能性も否定できず、改善の余地があった。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ヘッドレストに対し後方へ力が加わっても、ヘッドレスト支持部の変形が良好に抑制されヘッドレストが後方へ大きく傾倒することがないヘッドレスト支持構造及び乗り物用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は次の構成を有する。
1) シートバックフレームの上部において幅方向に延在し、上下に対向する上壁部と下壁部とを含んで縦断面形状が着座面とは反対側に開放したコ字状のスリーブ支持部を有する上部パネルと、
前記上壁部に形成された上部孔及び前記下壁部において前記上部孔に対応した位置に形成された下部孔と、
貫通孔を有する管状であって、前記上壁部と前記下壁部との間に、前記貫通孔が前記上部孔及び前記下部孔に連通すると共に、上端面が前記上壁部の下面と当接又は近接対向し、下端面が前記下壁部の上面と当接又は近接対向して、前記上壁部と前記下壁部との接近変形を規制するよう配置されたカラーと、
前記上部孔と前記貫通孔と前記下部孔とに対し上方から挿通され、ヘッドレストの棒状脚部を挿入可能なスリーブと、を備えたヘッドレスト支持構造である。
2) クッションシートと、シートバックフレーム及びヘッドレスト支持構造を有するシートバックと、前記ヘッドレスト支持構造に装着されたヘッドレストと、を備えた乗り物用シートにおいて、
前記ヘッドレスト支持構造は、
前記シートバックフレームの上部において幅方向に延在し、上下に対向する上壁部と下壁部とを含んで縦断面形状が着座面とは反対側に開放したコ字状のスリーブ支持部を有する上部パネルと、
前記上壁部に形成された上部孔及び前記下壁部において前記上部孔に対応した位置に形成された下部孔と、
貫通孔を有する管状であって、前記上壁部と前記下壁部との間に、前記貫通孔が前記上部孔及び前記下部孔に連通すると共に、上端面が前記上壁部の下面と当接又は近接対向し、下端面が前記下壁部の上面と当接又は近接対向して、前記上壁部と前記下壁部との接近変形を規制するよう配置されたカラーと、
前記上部孔と前記貫通孔と前記下部孔とに対し上方から挿通され、ヘッドレストの棒状脚部を挿入可能なスリーブと、を備えていることを特徴とする乗り物用シートである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ヘッドレストに対し後方へ力が加わっても、ヘッドレスト支持部の変形が良好に抑制されヘッドレストが後方へ大きく傾倒することがない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る乗り物用シートの実施例であるシートSTを説明するための斜視図である。
【
図2】
図2は、シートSTにおける支持部HSを説明するための組立図である。
【
図3】
図3は、ヘッドレストST3を外した状態の支持部HSを説明するための斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3におけるS4-S4位置での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態に係る乗り物用シートを、実施例であるヘッドレスト支持構造HKと、ヘッドレスト支持構造HKを備えたシートSTにより説明する。
図1は、シートSTの外観斜視図である。以下の説明において、前後左右上下の各方向を、
図1に示される矢印により、シートSTが車両Cに搭載された状態に基づいて規定する。また、左右方向は幅方向とも称する。
【0011】
図1に示されるように、シートSTは、クッションシートST1,シートバックST2,及びヘッドレストST3を有する。
シートSTは、乗り物の車両Cの床面C1に設置された固定部材としての一対のレール91,91に対し、周知のスライド構造により前後方向に移動可能に取り付けられている。
【0012】
シートバックST2の内部に収容されたシートバックフレーム1は、上部に、ヘッドレストST3を支持する支持部HSを含むヘッドレスト支持構造HKを備えている。ヘッドレストST3は、支持部HSに対して上方から装脱可能となっている。
【0013】
次に、
図2~
図4を参照して、支持部HSについて説明する。
図2は、シートバックST2の上部を右後斜め上方(
図1の矢視Y)から見た組立図である。
図3は、ヘッドレストST3を外した状態のシートバックST2を、
図2と同じ右後斜め上方から見た斜視図である。
図4は、
図3におけるS4-S4位置での断面図であり、ヘッドレストST3を付記し
た図である。
図2~
図4において、シートバックフレーム1を包むクッション体2の外形が2点鎖線で示されている。
【0014】
シートバックフレーム1は、パイプ状フレームではなくパネル状フレームとして形成されている。
シートバックフレーム1は、通常姿勢のシートバックST2の左側及び右側において、それぞれ上下方向に延びる左サイドパネル3及び右サイドパネル4を有する。
左サイドパネル3と右サイドパネル4とは、上部において、左右に延びる上部パネル5により連結一体化されている。
【0015】
上部パネル5は、縦断面形状において、
図4にも示されるように、乗員の着座面側とは反対側の、後方を開放側とするコ字状に形成されたスリーブ支持部5dを有している。ここで、縦断面形状とは、シートバックST2の根本と先端とに延びる長手方向に沿った断面形状を意味する。
具体的には、上部パネル5は、上端において前後左右方向に延在する上壁部5aと、上壁部5aの前端から下斜め前方に向け上下左右方向に延在する前壁部5bと、前壁部5bの下端から後方に向け前後左右方向に延在する下壁部5cと、を含むスリーブ支持部5dを有する。
上壁部5aと下壁部5cとは、例えば、概ね平行に形成されている。
【0016】
上壁部5aには、左右方向に離隔して一対の上部孔5a1及び上部孔5a2が形成されている。
下壁部5cには、上部孔5a1及び上部孔5a2に対応した位置に下部孔5c1及び下部孔5c2が形成されている。
より詳しくは、上部孔5a1と下部孔5c1とを貫く軸線CL1と、軸線CL1に対し概ね平行で上部孔5a2と下部孔5c2とを貫く軸線CL2と、が設定可能とされている。
【0017】
上部パネル5には、上壁部5aと下壁部5cとの間の軸線CL1及び軸線CL2上に、それぞれカラー61及びカラー62が配置されている。カラー61,62は、貫通孔61
a,62aを有する管状部材である。
カラー61は、貫通孔61aが上部孔5a1と下部孔5c1とに連通するように配置されている。
カラー62は、貫通孔62aが上部孔5a2と下部孔5c2とに連通するように配置されている。
カラー61,62は、
図4に示されるように、上下両端面が上壁部5aの下面5a3と下壁部5cの上面5c3とに、当接又はわずかな隙間をもって近接対向するようになっている。
カラー61,62は、金属や硬質の樹脂により形成され、高い曲げ剛性及び圧縮剛性を有する。
【0018】
軸線CL1にカラー61が配置された状態で、スリーブ71の基部71aが、上壁部5aの上部孔5a1,カラー61の貫通孔61a,及び下壁部5cの下部孔5c1を貫くように上方から差し込まれている。
スリーブ71は、上下方向に延びる環状の基部71aと、基部71aの上端に形成された径方向外側に張り出したフランジ部71bと、を有する。
軸線CL2上においても同様に、スリーブ71と実質的に同形状のスリーブ72が、上部孔5a2,カラー62の貫通孔62a,及び下部孔5c2を貫くように上方から差し込
まれている。
スリーブ71,72は、それぞれ基部71a,72a及びフランジ部71b,72bを
貫く貫通孔71c,72cを有する。
スリーブ71,72は、例えば樹脂により形成される。
【0019】
上述の、上部パネル5と、カラー61,62と、スリーブ71,72とを含み、シートSTが備えるヘッドレスト支持構造HKの支持部HSが構成されている。
【0020】
ヘッドレストST3は、一対の突出した棒状脚部81,82を有し、乗員などによって、棒状脚部81,82がそれぞれスリーブ71,72の貫通孔71c,72cに挿抜されることで、シートバックST2に対しての取り付け及び取り外しがなされる。
また、例えばスリーブ71には、挿入された棒状脚部81をロックして抜けを防止するロック機構(不図示)が備えられている。
【0021】
以上詳述したように、ヘッドレスト支持構造HK及びそれを備えたシートSTは、ヘッドレストST3を、シートバックフレーム1の上部パネル5に対し、棒状脚部81,82がそれぞれ挿入されたスリーブ71,72のみを介して支持するものではない。
すなわち、ヘッドレスト支持構造HK及びそれを備えたシートSTは、ヘッドレストST3を、シートバックフレーム1の上部パネル5に対し、棒状脚部81,82が挿通されたスリーブ71,72と、スリーブ71,72が挿入された高剛性のカラー61,62と、の両部材を介して支持するようになっている。
【0022】
従って、スリーブ71,72とそれらが挿通されたカラー61,62とにより、曲げ剛性及び圧縮剛性が高い管状体KTを構成しており、ヘッドレストST3に力が加わったときの管状体KTの変形は、小さく抑えられる。
また、カラー61,62は、上部パネル5の上壁部5aと下壁部5cとの間に、隙間なく又は微小隙間をもって装着されている。
これにより、上壁部5aの後端部5a4と、下壁部5cの後端部5c4との上下方向に接近する変形を良好に規制する。
また、カラー61,62がこの規制で受ける力の方向は、ほぼ軸方向(圧縮方向)となるため、上壁部5aと下壁部5cとの上下方向に接近をより高い強度で防止することができる。
また、カラー61,62は、板状ではなく管状であるから、上壁部5aと下壁部5cとの間の後方に開放する空間Vaは十分確保される。
これにより、シートSTは、カラー61,62を有していても、空間Vaに、画像表示装置などの種々のユニットを収容できる。
【0023】
上述のように、ヘッドレスト支持構造HK及びそれを備えたシートSTは、ヘッドレストST3に対し後方へ力が加わって上壁部5aが下方へ(下壁部5cに接近する方向へ)曲げ変形しようとした場合に、下壁部5cとの間に介装されている高剛性のカラー61,62によってその変形が規制される。
また、カラー61,62には、スリーブ71,72が挿通されて、より高剛性の管状体KTを形成している。
上部パネル5の変形はより高度に規制され、元の形状を維持する。
【0024】
このように、シートSTは、ヘッドレストST3に後方への力が付与された場合に、支持部HS自体の変形が良好に抑制される。特に、上壁部5aと下壁部5cとの間隔が維持されてヘッドレストST3の棒状脚部81,82が傾きにくくなっている。そのため、シートバックST2に対しヘッドレストST3が後方へ大きく傾倒することがない。
【0025】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形可能である。
【0026】
カラー61,62は、上部パネル5に固定されていてもよく、上述のように固定されていなくてもよい。
カラー61,62は、
図4に示されるように、上壁部5aの後端部5a4と、下壁部5cの後端部5c4との接近変形を規制するものであるから、上壁部5aの下面5a3及び下壁部5cの上面5c3と面で当接するものでなくてもよく、点当たりで当接するものであってもよい。
【0027】
カラー61,62及びスリーブ71,72の基部71a,72aの形状は、
図2及び
図3に示されるような円形管状でなくてもよい。矩形管状、楕円管状、など種々の態様をとり得る。
【0028】
シートバックフレーム1は、全体がフレーム状に構成されていなくてもよい。
例えば、上部が上述のパネル状の上部パネル5とされ、他の部分がパイプ状フレームであってもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 シートバックフレーム
2 クッション体
3 左サイドパネル、 4 右サイドパネル
5 上部パネル
5a 上壁部、
5a1,5a2 上部孔、 5a3 下面、 5a4 後端部
5b 前壁部、 5c 下壁部、 5c1,5c2 下部孔
5c3 上面、 5c4 後端部、 5d スリーブ支持部
61,62 カラー、 61a,62a 貫通孔
71,72 スリーブ
71a,72a 基部、 71b,72b フランジ部
71c,72c 貫通孔
81,82 棒状脚部
91 レール
C 車両、 C1 床面
CL1,CL2 軸線
HK ヘッドレスト支持構造
HS 支持部
KT 管状体
ST シート
ST1 クッションシート、 ST2 シートバック
ST3 ヘッドレスト