(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】電解装置の運転方法、および電解システム
(51)【国際特許分類】
C25B 15/00 20060101AFI20241030BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20241030BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241030BHJP
C25B 9/19 20210101ALI20241030BHJP
C25B 11/046 20210101ALI20241030BHJP
C25B 11/047 20210101ALI20241030BHJP
C25B 11/089 20210101ALI20241030BHJP
【FI】
C25B15/00 303
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/19
C25B11/046
C25B11/047
C25B11/089
(21)【出願番号】P 2020141204
(22)【出願日】2020-08-24
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100213333
【氏名又は名称】鹿山 昌代
(72)【発明者】
【氏名】内野 陽介
(72)【発明者】
【氏名】大野 純
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-206731(JP,A)
【文献】特開2000-054177(JP,A)
【文献】特開2020-012146(JP,A)
【文献】国際公開第2020/241129(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00
C25B 9/00
C25B 11/00
C25B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に隔膜で区画された、陽極を有する陽極室と陰極を有する陰極室とを備える電解装置の運転方法であって、
電源が変動電源であり、
陰極の電気容量が、陽極の電気容量の1.1倍以上であり、
前記陽極室および前記陰極室中の電解液の電気分解が行われる通電工程と、
前記陽極室および前記陰極室中の電解液の電気分解が停止している停止工程と、を有し、
前記停止工程において、
前記電解装置の電解槽を外部負荷に電気的に接続する放電工程を有する、
ことを特徴とする電解装置の運転方法。
【請求項2】
前記陽極の電気容量が、10000C/m
2以下であり、
前記陰極の電気容量が、1000C/m
2以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載の電解装置の運転方法。
【請求項3】
前記放電工程は、60分以内に対電圧を0.1V以下にする、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電解装置の運転方法。
【請求項4】
前記放電工程は、前記停止工程において、電解槽の電圧が
各電極の腐食する電位域になる前に設定される値を下回ったときに実施される、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の電解装置の運転方法。
【請求項5】
前記電解装置の電解槽が複極式であって、
1つの前記陽極室と1つの前記陰極室とで構成される電解セルを複数有し、前記放電工程を複数の電解セルのうちの一部で実施する、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の電解装置の運転方法。
【請求項6】
1つの前記陽極室と1つの前記陰極室とで構成される電解セルを30以上有する、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の電解装置の運転方法。
【請求項7】
前記陽極が、酸化ニッケル、金属ニッケル、水酸化ニッケル、およびニッケル合金からなる群から選択される少なくとも一種のニッケル化合物を含む、
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の電解装置の運転方法。
【請求項8】
前記陽極が、厚み0.1mm~3.0mmの範囲である、
ことを特徴とする請求項1~
7のいずれか1項に記載の電解装置の運転方法。
【請求項9】
前記陰極が、Ru-La-Pt系、Ru-Ce系、Pt-Ce系、およびPt-Ir系、Ir-Pt-Pd系、Pt-Pd系、Pt-Ni系からなる群から選択される少なくとも一種のPt族化合物を含む、
ことを特徴とする請求項1~
8のいずれか1項に記載の電解装置の運転方法。
【請求項10】
通電停止する工程を含む、
ことを特徴とする請求項1~
9のいずれか1項に記載の電解装置の運転方法。
【請求項11】
前記外部負荷の抵抗値が、0.02~2Ωm
2
/Cellである、
ことを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の電解装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解装置の運転方法、および電解システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素等の温室効果ガスによる地球温暖化、化石燃料の埋蔵量の減少等の問題を解決するため、再生可能エネルギーを利用した風力発電や太陽光発電等の技術が注目されている。
【0003】
再生可能エネルギーは、出力が気候条件に依存するため、その変動が非常に大きいという性質がある。そのため、再生可能エネルギーによる発電で得られた電力を一般電力系統に輸送することが常に可能とはならず、電力需給のアンバランスや電力系統の不安定化等の社会的な影響が懸念されている。
【0004】
そこで、再生可能エネルギーから発電された電力を、貯蔵および輸送が可能な形に代えて、これを利用しようとする研究が行われている。具体的には、再生可能エネルギーから発電された電力を利用した水の電気分解(電解)により、貯蔵および輸送が可能な水素を発生させ、水素をエネルギー源や原料として利用することが検討されている。
【0005】
水素は、石油精製、化学合成、金属精製等の場面において、工業的に広く利用されており、近年では、燃料電池車(FCV)向けの水素ステーションやスマートコミュニティ、水素発電所等における利用の可能性も広がっている。このため、再生可能エネルギーから特に水素を得る技術の開発に対する期待は高い。
【0006】
水の電気分解の方法としては、固体高分子型水電解法、高温水蒸気電解法、アルカリ水電解法等があるが、数十年以上前から工業化されていること、大規模に実施することができること、他の水電解システムに比べると安価であること等から、アルカリ水電解は特に有力なものの一つとされている。
【0007】
しかしながら、アルカリ水電解を今後エネルギーの貯蔵および輸送のための手段として適応させるためには、前述のとおり出力の変動が大きい電力を効率的且つ安定的に利用して水電解を行うことを可能にする必要があり、アルカリ水電解用の電解セルや装置の諸課題を解決することが求められている。
【0008】
例えば、アルカリ水電解において電解電圧を低く抑えて、水素製造の電力原単位を改善するという課題を解決するためには、電解セルの構造として、特に、隔膜と電極との隙間を実質的に無くした構造である、ゼロギャップ構造と呼ばれる構造を採用することが有効なことはよく知られている(例えば、特許文献1、2参照)。ゼロギャップ構造では、発生するガスを電極の細孔を通して電極の隔膜側とは反対側に素早く逃がすことによって、電極間の距離を低減しつつ、電極近傍におけるガス溜まりの発生を極力抑えて、電解電圧を低く抑制している。ゼロギャップ構造は、電解電圧の抑制にきわめて有効であり、種々の電解装置に採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5553605号公報
【文献】国際公開第2015/098058号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の電解装置では、太陽光や風力等の変動電源下において、電解運転時に陽極および陰極に蓄積された電荷が電解停止時に陽極および陰極に逆に流れ逆電流が生じることがあった。
その結果、このように電解停止時に逆電流が生じ、電位が収束する過程で、陽極や陰極の電位は、通常の電解運転時における陽極や陰極の酸化還元反応とは逆の反応が生じて電極自体が腐食する所定の電位域を一定の時間かけて通過することとなり、電解停止と電解運転により各電極が劣化する懸念があった[懸念1]。また、逆電流が流れ、電位が収束する過程で、陽極室で水素ガス、陰極室で酸素ガスが発生することでガス純度が悪化する懸念があった[懸念2]。特に、従来のアルカリ水電解セルでは、電解槽の電位勾配によって、中心付近に大電流が流れるため、逆電流による影響をより受けやすく、電解槽の中心付近で発生する、[懸念1]、[懸念2]の解消が課題となっていた。
【0011】
そこで、本発明は、変動電源下における電極の劣化[懸念1]とガス純度悪化[懸念2]を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)相互に隔膜で区画された、陽極を有する陽極室と陰極を有する陰極室とを備える電解装置の運転方法であって、陰極の電気容量が、陽極の電気容量の1.1倍以上であり、前記陽極室および前記陰極室中の電解液の電気分解が行われる通電工程と、前記陽極室および前記陰極室中の電解液の電気分解が停止している停止工程と、を有し、前記停止工程において、前記電解装置の電解槽を外部負荷に電気的に接続する放電工程を有する、ことを特徴とする電解装置の運転方法。
(2)前記陽極の電気容量が、10000C/m2以下であり、前記陰極の電気容量が、1000C/m2以上である、ことを特徴とする(1)に記載の電解装置の運転方法。
(3)前記放電工程は、60分以内に対電圧を0.1V以下にする、ことを特徴とする(1)又は(2)に記載の電解装置の運転方法。
(4)前記放電工程は、前記停止工程において、電解槽の電圧が所定の閾値を下回ったときに実施される、ことを特徴とする(1)~(3)のいずれか一項に記載の電解装置の運転方法。
(5)前記電解装置の電解槽が複極式であって、1つの前記陽極室と1つの前記陰極室とで構成される電解セルを複数有し、前記放電工程を複数の電解セルのうちの一部で実施する、ことを特徴とする(1)~(4)のいずれか一項に記載の電解装置の運転方法。
(6)1つの前記陽極室と1つの前記陰極室とで構成される電解セルを30以上有する、ことを特徴とする(1)~(5)のいずれか一項に記載の電解装置の運転方法。
(7)前記陽極が、酸化ニッケル、金属ニッケル、水酸化ニッケル、およびニッケル合金からなる群から選択される少なくとも一種のニッケル化合物を含む、ことを特徴とする(1)~(6)のいずれか一項に記載の電解装置の運転方法。
(8)前記陽極が、主成分をニッケルとする基材由来のニッケル化合物以外の明確な触媒層が含まれない、ことを特徴とする(1)~(7)のいずれか一項に記載の電解装置の運転方法。
(9)前記陽極が、厚み0.1mm~3.0mmの範囲である、ことを特徴とする(1)~(8)のいずれか一項に記載の電解装置の運転方法。
(10)前記陰極が、Ru-La-Pt系、Ru-Ce系、Pt-Ce系、およびPt-Ir系、Ir-Pt-Pd系、Pt-Pd系、Pt-Ni系からなる群から選択される少なくとも一種のPt族化合物を含む、ことを特徴とする(1)~(7)のいずれか一項に記載の電解装置の運転方法。
(11)電源が変動電源である、ことを特徴とする(1)~(10)のいずれか一項に記載の電解装置の運転方法。
(12)電源が変動電源であって、通電停止する工程を含む、ことを特徴とする(1)~(11)のいずれか一項に記載の電解装置の運転方法。
(13)相互に隔膜で区画された、陽極を有する陽極室と陰極を有する陰極室とを備える電解装置であって、陰極の電気容量が、陽極の電気容量の1.1倍以上であり、陽極の電気容量が、10000C/m2以下であって、陰極の電気容量が、1000C/m2以上であって、前記電解装置の電解槽が外部負荷に電気的に接続されている、ことを特徴とする電解システム。
(14)外部負荷の抵抗値が0.02~2Ωm2/Cellである、ことを特徴とする(13)に記載の電解システム。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、本発明は、変動電源下における電極の劣化[懸念1]とガス純度悪化[懸念2]を抑制することが可能な電解装置の運転方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態の電解装置の運転方法に使用することができる電解装置の概要を示す図である。
【
図2】
図1に示す電解装置の電解槽の一例の全体について示す側面図である。
【
図3】
図1に示す電解装置の電解槽の一例である、外部ヘッダー型の電解槽の電解室、ヘッダー、導管について示す斜視図である。
【
図4】
図1に示す電解装置の電解槽の一例である、外部ヘッダー型の電解槽について示す平面図である。
【
図5A】
図1の電解装置の電解槽の一例の陰極室を模式的に示す図であり、当該陰極室について、鉛直方向及び陰極に垂直な方向に沿う面での断面で示す、模式的な断面図である。
【
図5B】
図1の電解装置の電解槽の一例の陰極室を模式的に示す図であり、当該陰極室について示す模式的な平面図である。
【
図6】
図5Aおよび
図5Bに示す陰極室を変形させた例について、鉛直方向及び陰極に垂直な方向に沿う面での断面で示す、模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
図1に、本実施形態に係る電解装置の運転方法に使用可能な電解装置、および本実施形態に係る電解装置の概要を示す。
【0017】
(電解装置)
電解装置70は、例えば、
図1に示すように、電解槽50と、電解液を循環させるための送液ポンプ71と、電解液と水素および/又は酸素とを分離する気液分離タンク72と、電解により消費した水を補給するための水補給器73と、を有する。また、より具体的には、本実施形態に係る電解装置70は、相互に隔膜4で区画された、陽極2aを有する陽極室5aと陰極2cを有する陰極室5cとを備える(
図2および
図3参照)。
【0018】
初めに、電解装置70の構成要素のうち、主に電解槽50について説明する。
【0019】
(電解槽)
電解装置70における電解槽50は、特に限定されることなく、単極式としても複極式としてもよいが、
図1等に示すように、工業的に、複極式の電解槽が好ましい。
【0020】
複極式は、多数のセルを電源に接続する方法の1つであり、片面が陽極2a、片面が陰極2cとなる複数の複極式エレメント60を同じ向きに並べて直列に接続し、両端のみを電源に接続する方法である。複極式電解槽50は、電源の電流を小さくできるという特徴を持ち、電解により化合物や所定の物質等を短時間で大量に製造することができる。電源設備は出力が同じであれば、定電流、高電圧の方が安価でコンパクトになるため、工業的には単極式よりも複極式の方が好ましい。
【0021】
電解装置70の複極式電解槽50は、
図2に示すとおり、陽極2aと、陰極2cと、陽極2aと陰極2cとを隔離する隔壁1と、隔壁1を縁取る外枠3とを備える複数の複極式エレメント60が隔膜4を挟んで重ね合わせられている複極式電解槽50である。
【0022】
((複極式エレメント))
一例の電解装置70の複極式電解槽50に用いられる複極式エレメント60は、
図2に示すように、陽極2aと陰極2cとを隔離する隔壁1を備え、隔壁1を縁取る外枠3を備えている。より具体的には、隔壁1は導電性を有し、外枠3は隔壁1の外縁に沿って隔壁1を取り囲むように設けられている。
【0023】
なお、電解装置70では、複極式エレメント60は、通常、隔壁1に沿う所与の方向D1が、鉛直方向となるように、使用してよく、具体的には、
図3、
図4に示すように隔壁1の平面視形状が長方形である場合、隔壁1に沿う所与の方向D1が、向かい合う2組の辺のうちの1組の辺の方向と同じ方向となるように、使用してよい(
図2、
図3参照)。
【0024】
図2に示すとおり、複極式電解槽50は複極式エレメント60を必要数積層することで構成されている。
図2に示す一例では、複極式電解槽50は、一端からファストヘッド51g、絶縁板51i、陽極ターミナルエレメント51aが順番に並べられ、更に、陽極側ガスケット部分7、隔膜4、陰極側ガスケット部分7、複極式エレメント60が、この順番で並べて配置される。このとき、複極式エレメント60は陽極ターミナルエレメント51a側に陰極2cを向けるよう配置する。陽極側ガスケット部分7から複極式エレメント60までは、設計生産量に必要な数だけ繰り返し配置される。陽極側ガスケット部分7から複極式エレメント60までを必要数だけ繰り返し配置した後、再度、陽極側ガスケット部分7、隔膜4、陰極側ガスケット部分7を並べて配置し、最後に陰極ターミナルエレメント51c、絶縁板51i、ルーズヘッド51gをこの順番で配置される。複極式電解槽50は、全体をタイロッド方式51r(
図2参照)や油圧シリンダー方式等の締め付け機構により締め付けることによりー体化され、複極式電解槽50となる。
複極式電解槽50を構成する配置は、陽極2a側からでも陰極2c側からでも任意に選択でき、上述の順序に限定されるものではない。
【0025】
図2に示すように、複極式電解槽50では、複極式エレメント60が、陽極ターミナルエレメント51aと陰極ターミナルエレメント51cとの間に配置されている。隔膜4は、陽極ターミナルエレメント51aと複極式エレメント60との間、隣接して並ぶ複極式エレメント60同士の間、および複極式エレメント60と陰極ターミナルエレメント51cとの間に配置されている。
【0026】
また、複極式電解槽50では、
図3、
図4に示すとおり、隔壁1と外枠3と隔膜4とにより、電解液が通過する電極室5が画成されている。
【0027】
本実施形態では、特に、複極式電解槽50における、隣接する2つの複極式エレメント60間の互いの隔壁1間における部分、および、隣接する複極式エレメント60とターミナルエレメントとの間の互いの隔壁1間における部分を電解セル65と称する。電解セル65は、一方のエレメントの隔壁1、陽極室5a、陽極2a、および、隔膜4、および、他方のエレメントの陰極2c、陰極室5c、隔壁1を含む。
【0028】
詳細には、電極室5は、外枠3との境界において、電極室5に電解液を導入する電解液入口5iと、電極室5から電解液を導出する電解液出口5oとを有する。より具体的には、陽極室5aには、陽極室5aに電解液を導入する陽極電解液入口5aiと、陽極室5aから導出する電解液を導出する陽極電解液出口5aoとが設けられる。同様に、陰極室5cには、陰極室5cに電解液を導入する陰極電解液入口5ciと、陰極室5cから導出する電解液を導出する陰極電解液出口5coとが設けられる。
【0029】
陽極室5aおよび陰極室5cにおいて、電解液を電解槽50内部で、電極面内に均一に分配するための内部ディストリビュータを備えてもよい。また、電極室5は、電解槽50内部での液の流れを制限する機能を備えるバッフル板を備えてもよい。さらに、陽極室5aおよび陰極室5cにおいて、電解槽50内部での電解液の濃度や温度の均一化、および、電極2や隔膜4に付着するガスの脱泡の促進のために、カルマン渦を作るための突起物を備えてもよい。
【0030】
そして、複極式電解槽50は、外枠3の外方に、電極室5に連通するヘッダー10を備える(
図3、
図4参照)。
【0031】
図3、
図4に示す一例では、複極式電解槽50に、ガスや電解液を配液又は集液する管であるヘッダー10が取り付けられる。詳細には、ヘッダー10は、電極室5に電解液を入れるための入口ヘッダーと電極室5からガスや電解液を出すための出口ヘッダーとからなる。
一例では、隔壁1の端縁にある外枠3の下方に、陽極室5aに電解液を入れる陽極入口ヘッダー10Oaiと、陰極室5cに電解液を入れる陰極入口ヘッダー10Ociとを備えており、また、同様に、隔壁1の端縁にある外枠3の側方に、陽極室5aから電極液を出す陽極出口ヘッダー10Oaoと、陰極室5cから電解液を出す陰極出口ヘッダー10Ocoとを備えている。
また、一例では、陽極室5aおよび陰極室5cにおいて、入口ヘッダーと出口ヘッダーとが、電極室5の中央部を挟んで向かい合うように設けられている。
【0032】
特に、この一例の複極式電解槽50は、複極式電解槽50とヘッダー10とが独立している形式である外部ヘッダー10O型を採用している。
図4に、外部ヘッダー型の電解装置の電解槽の一例について平面図で示す。
【0033】
なお、
図2~
図4に示す複極式電解槽に取り付けられるヘッダー10の配設態様として、代表的には、内部ヘッダー型と外部ヘッダー10O型とがあるが、本発明では、いずれの型を採用してもよく、特に限定されない。
【0034】
さらに、
図3、
図4に示す一例では、ヘッダー10に、ヘッダー10に配液又は集液されたガスや電解液を集める管である導管20が取り付けられる。詳細には、導管20は、入口ヘッダーに連通する配液管と出口ヘッダーに連通する集液管とからなる。
一例では、外枠3のうちの下方に、陽極入口ヘッダー10Oaiに連通する陽極用配液管20Oaiと、陰極入口ヘッダー10Ociに連通する陰極用配液管20Ociとを備えており、また、同様に、外枠3のうちの側方に、陽極出口ヘッダー10Oaoに連通する陽極用集液管20Oaoと、陰極出口ヘッダー10Ocoに連通する陰極用集液管20Ocoとを備えている。
【0035】
陽極室5aおよび陰極室5cにおいて、入口ヘッダーと出口ヘッダーとは、水電解効率の観点から、離れた位置に設けられることが好ましく、電極室5の中央部を挟んで向かい合うように設けられることが好ましく、
図3、
図4に示すように隔壁1の平面視形状が長方形である場合、長方形の中心に関して対称となるように設けられることが好ましい。
【0036】
通常、
図3、
図4に示すように、陽極入口ヘッダー10Oai、陰極入口ヘッダー10Oci、陽極出口ヘッダー10Oao、陰極出口ヘッダー10Ocoは、各電極室5に1つずつ設けられるが、これに限定されず、各電極室5にそれぞれ複数設けられてもよい。
また、通常、陽極用配液管20Oai、陰極用配液管20Oci、陽極用集液管20Oao、陰極用集液管20Ocoは、各電極室5に1つずつ設けられるが、これに限定されず、複数の電極室5で兼用されてもよい。
【0037】
なお、図示した例では、平面視で長方形形状の隔壁1と平面視で長方形形状の隔膜4とが平行に配置され、また、隔壁1の端縁に設けられる直方体形状の外枠の隔壁1側の内面が隔壁1に垂直となっているため、電極室5の形状が直方体となっている。しかしながら、本発明において、電極室5の形状は、図示の例の直方体に限定されることなく、隔壁1や隔膜4の平面視形状、外枠3の隔壁1側の内面と隔壁1とのなす角度等により、適宜変形されてよく、本発明の効果が得られる限り、いかなる形状であってもよい。
【0038】
電極室5とヘッダー10との位置関係は、特に限定されず、
図3、
図4に示すように、複極式エレメント60を隔壁1に沿う所与の方向D1が鉛直方向となるように使用した場合に、入口ヘッダーは、電極室5に対して下方や側方に位置し(図示では、下方)、出口ヘッダーは、電極室5に対して上方や側方に位置していてよく(図示では、側方)、また、入口ヘッダーに連通する配液管は、電極室5に対して下方や側方に位置し(図示では、下方)、出口ヘッダーに連通する集液管は、電極室5に対して上方や側方に位置していてよい(図示では、側方)。
【0039】
ヘッダー10の延在方向は、特に限定されない。
【0040】
導管20の延在方向は、特に限定されないが、
図3、
図4に示す一例のように、本発明の効果を得られやすくする観点から、配液管(陽極用配液管20Oai、陰極用配液管20Oci)および集液管(陽極用集液管20Oao、陰極用集液管20Oco)は、ぞれぞれ、隔壁1に垂直な方向に延びることが好ましく、導管20のいずれもが、隔壁1に垂直な方向に延びることがさらに好ましい。
【0041】
なお、電解装置70の複極式電解槽50では、電解室5内における気液の流れの乱れにより電解室5に生じる対流を低減して、局所的な電解液の温度の上昇を抑制するため、隔壁1に沿う所与の方向D1に対して平行に配置される複数の整流板6を備えていてもよい。
【0042】
電解装置70の複極式電解槽50は、29~500の複極式エレメント60を有することが好ましく、50~500の複極式エレメント60を有することがより好ましく、70~300の複極式エレメント60を有することがさらに好ましく、100~200の複極式エレメント60を有することが特に好ましい。
対数が減ると、リーク電流によるガス純度の影響は緩和される一方で、対数が増加すると、電解液を各電解セル65に均一に分配することが困難になる。下限未満の場合や上限超の場合には、電力供給を停止した際に生じる自己放電を低減して、電気制御システムの安定化を可能にする効果、および、高効率での電力の貯蔵、具体的には、ポンプ動力の低減やリーク電流の低減を実現することを可能にする効果の並立が困難になる。
また、複極式エレメント60の数(対数)が増え過ぎると、電解槽50の製作が困難になるおそれがあり、製作精度が悪い複極式エレメント60を多数スタックした場合には、シール面圧が不均一になりやすく、電解液の漏れやガス漏洩が生じやすい。
【0043】
電解装置70では、複数のエレメント60は、相互に絶縁された状態で隔膜4を挟んで重ね合わせられていることが好ましい。このようにすることにより、エレメント60間では相互に絶縁された状態となるので、通電工程(電解液の電気分解が行われる工程)でそれぞれのエレメント60に蓄積された電荷が、停止工程(電解液の電気分解が停止している工程)において他のエレメント60に影響することを抑制することができる。
なお、複数のエレメント60が相互に絶縁された状態になるとは、具体的には、エレメント60の外枠3間で絶縁された状態となることが好ましく、例えば、エレメント60間に配置するガスケット7の絶縁性を高める等により行うことができる。また、ここでの絶縁とは、エレメント60間で、絶縁抵抗が1MΩ以上であることが好ましい。
【0044】
電解装置70の複極式電解槽50は、30以上の電解セル65を有することが好ましく、100以上の電解セル65を有することがより好ましく、150~200の電解セル65を有することがさらに好ましい。複数の電解セル65を有する電解装置70において、各電解セル65に流れる逆電流は、中央側の電解セル65が比較的大きくなり、端部側の電解セル65が比較的小さくなる。したがって、電解セル65が30以上の場合において、後述の本実施形態に係る電解装置70の運転方法を好適に適用することができる。
【0045】
以下、電解装置70の主に複極式電解槽50の構成要素について詳細に説明する。
また、以下では、本発明の効果を高めるための好適形態についても詳述する。
【0046】
-隔壁-
隔壁1の形状は、所定の厚みを有する板状の形状としてよいが、特に限定されない。
【0047】
なお、隔壁1は、通常、隔壁1に沿う所与の方向D1が、鉛直方向となるように、使用してよく、具体的には、
図3、
図4に示すように隔壁1の平面視形状が長方形である場合、隔壁1に沿う所与の方向D1が、向かい合う2組の辺のうちの1組の辺の方向と同じ方向となるように、使用してよい。
【0048】
隔壁1の材料としては、電力の均一な供給を実現する観点から、導電性を有する材料が好ましく、耐アルカリ性や耐熱性といった面から、ニッケル、ニッケル合金、軟鋼、ニッケル合金上にニッケルメッキを施したものが好ましい。
【0049】
-電極-
アルカリ水電解による水素製造において、エネルギー消費量の削減、具体的には電解電圧の低減は、大きな課題である。この電解電圧は電極2に大きく依存するため、両電極2の性能は重要である。
【0050】
アルカリ水電解の電解電圧は、理論的に求められる水の電気分解に必要な電圧の他に、陽極反応(酸素発生)の過電圧、陰極反応(水素発生)の過電圧、陽極2aと陰極2cとの電極2間距離による電圧とに分けられる。ここで、過電圧とは、ある電流を流す際に、理論分解電位を越えて過剰に印加する必要のある電圧のことを言い、その値は電流値に依存する。同じ電流を流すとき、過電圧が低い電極2を使用することで消費電力を少なくすることができる。
【0051】
低い過電圧を実現するために、電極2に求められる要件としては、導電性が高いこと、酸素発生能(或いは水素発生能)が高いこと、電極2表面で電解液の濡れ性が高いこと等が挙げられる。
【0052】
アルカリ水電解の電極2として、過電圧が低いこと以外に、再生可能エネルギーのような不安定な電流を用いても、電極2の基材および触媒層の腐食、触媒層の脱落、電解液への溶解、隔膜4への含有物の付着等が起きにくいことが挙げられる。
【0053】
電極2としては、電解に用いられる表面積を増加させるため、また、電解により発生するガスを効率的に電極2表面から除去するために、多孔体が好ましい。特に、ゼロギャップ電解槽の場合、隔膜4との接触面の裏側から発生するガスを脱泡する必要があるため、電極2の膜に接する面と反対に位置する面が、貫通していることが好ましい。
【0054】
多孔体の例としては、平織メッシュ、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金属発泡体等が挙げられる。
【0055】
電極2は、基材そのものとしてもよく、基材の表面に反応活性の高い触媒層を有するものとしてもよいが、基材の表面に反応活性の高い触媒層を有するものが好ましい。
【0056】
基材の材料は、特に制限されないが、使用環境への耐性から、軟鋼、ステンレス、ニッケル、ニッケル基合金が好ましい。
【0057】
陽極2aの触媒層は、酸素発生能が高いものであることが好ましく、ニッケルやコバルト、鉄もしくは白金族元素等を使用することができる。これらは、所望の活性や耐久性を実現するために、金属単体や、酸化物等の化合物、複数の金属元素からなる複合酸化物や合金、或いはそれらの混合物として、触媒層を形成できる。耐久性や基材との接着性を向上させるために高分子等の有機物が含まれていてもよい。
【0058】
陰極2cの触媒層は、水素発生能が高いものであることが好ましく、ニッケルやコバルト、鉄もしくは白金族元素等を使用することができる。これらは、所望の活性や耐久性を実現するために、金属単体や、酸化物等の化合物、複数の金属元素からなる複合酸化物や合金、或いはそれらの混合物として、触媒層を形成できる。耐久性や基材との接着性を向上させるために高分子材料等の有機物が含まれていてもよい。
【0059】
基材上に触媒層を形成させる方法としては、めっき法、プラズマ溶射法等の溶射法、基材上に前駆体層溶液を塗布した後に熱を加える熱分解法、触媒物質をバインダー成分と混合して基材に固定化する方法、および、スパッタリング法等の真空成膜法といった手法が挙げられる。
【0060】
陰極2cの電気容量は、陽極2aの電気容量より大きいことが好ましく、この場合、陰極2cの電気容量は、陽極2aの電気容量の1.1倍以上であることが好ましい。陽極2aの電気容量は、例えば、10000C/m2以下であることが好ましく、陰極2cの電気容量は、例えば、1000C/m2以上であることが好ましい。
【0061】
触媒層を形成していない場合、電解停止に伴う、逆電流による電極の過電圧の上昇は小さい。従って、触媒層を形成していないことによる、初期の過電圧が高いことが許容されれば、触媒層を形成しないことが電解槽の性能を長期的に維持する手段の一つとして取ることが出来る。
【0062】
アルカリ水電解の場合、一般に、基材上に触媒層を形成することによる、過電圧の低減効果は、酸素発生よりも、水素発生の方が容易に得られやすい。従って、陰極側に高活性な触媒を形成するのが、消費電力の低減はもちろん、経済的にも有効性が高い。
【0063】
陰極2cの電気容量が、1000C/m2未満の場合、水素発生のための反応場の実効的な面積が狭く、初期過電圧が高くなる傾向がある。そのため、アルカリ水電解による水素製造における命題である、エネルギー消費量の削減、具体的には電解電圧の低減ができない。そこで、陰極2cの電気容量は、1000C/m2以上であることが好ましい。
【0064】
陽極2aの電気容量が、10000C/m2を超えると、触媒の修飾量の割に、酸素発生の過電圧低減効果は小さいにも関わらず、本発明の効果を得るために、陰極2cの電気容量を必要以上に大きくしなければならないため、好ましくない。
【0065】
陽極側を、主成分をニッケルとする基材由来のニッケル化合物以外の明確な触媒層が含まれないものにした場合でも、陰極側に高活性な触媒層を形成し、陰極2cの電気容量は、陽極2aの電気容量の1.1倍以上にすることで本発明の効果が得られやすい。
【0066】
その場合、陽極側の基材が、電解停止に伴う、逆電流が流れる事で、若干ではあるが、腐食減耗するため、繰返しの電解停止に耐えうるためには、厚みは0.1mm以上あることが好ましく、0.4mm以上あることがより好ましい。
【0067】
また、ゼロギャップの接合面の保護の観点では、電極の剛性が高過ぎない方が好ましく、厚みは3.0mm以下が好ましく、2.0mm以下がより好ましい。
【0068】
-外枠-
外枠3の形状は、隔壁1を縁取ることができる限り特に限定されないが、隔壁1の平面に対して垂直な方向に沿う内面を隔壁1の外延に亘って備える形状としてよい。
外枠3の形状としては、特に限定されることなく、隔壁1の平面視形状に合わせて適宜定められてよい。
【0069】
外枠3の材料としては、導電性を有する材料が好ましく、耐アルカリ性や耐熱性といった面から、ニッケル、ニッケル合金、軟鋼、ニッケル合金上にニッケルメッキを施したものが好ましい。
【0070】
-隔膜-
電解装置70の複極式電解槽50において用いられる隔膜4としては、イオンを導通しつつ、発生する水素ガスと酸素ガスを隔離するために、イオン透過性の隔膜4が使用される。このイオン透過性の隔膜4は、イオン交換能を有するイオン交換膜と、電解液を浸透することができる多孔膜が使用できる。このイオン透過性の隔膜4は、ガス透過性が低く、イオン伝導率が高く、電子電導度が小さく、強度が強いものが好ましい。
【0071】
--多孔膜--
多孔膜は、複数の微細な貫通孔を有し、隔膜4を電解液が透過できる構造を有する。電解液が多孔膜中に浸透することにより、イオン伝導を発現するため、孔径や気孔率、親水性といった多孔構造の制御が非常に重要となる。一方、電解液だけでなく、発生ガスを通過させないこと、すなわちガスの遮断性を有することが求められる。この観点でも多孔構造の制御が重要となる。
【0072】
多孔膜は、複数の微細な貫通孔を有するものであるが、高分子多孔膜、無機多孔膜、織布、不織布等が挙げられる。これらは公知の技術により作製することができる。
高分子多孔膜の製法例としては、相転換法(ミクロ相分離法)、抽出法、延伸法、湿式ゲル延伸法等が挙げられる。
【0073】
多孔膜は、高分子材料と親水性無機粒子とを含むことが好ましく、親水性無機粒子が存在することによって多孔膜に親水性を付与することができる。
【0074】
---高分子材料---
高分子材料としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリビニリデンフロライド、ポリカーボネート、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロスルホン酸、パーフルオロカルボン酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等が挙げられる。これらの中でも、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、であることが好ましく、ポリスルホンであることがより好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0075】
多孔膜は、分離能、強度等適切な膜物性を得る為に、孔径を制御することが好ましい。また、アルカリ水電解に用いる場合、陽極2aから発生する酸素ガスおよび陰極2cから発生する水素ガスの混合を防止し、かつ電解における電圧損失を低減する観点から、多孔膜の孔径を制御することが好ましい。
多孔膜の平均孔径が大きいほど、単位面積あたりの多孔膜透過量は大きくなり、特に、電解においては多孔膜のイオン透過性が良好となり、電圧損失を低減しやすくなる傾向にある。また、多孔膜の平均孔径が大きいほど、アルカリ水との接触表面積が小さくなるので、ポリマーの劣化が抑制される傾向にある。
一方、多孔膜の平均孔径が小さいほど、多孔膜の分離精度が高くなり、電解においては多孔膜のガス遮断性が良好となる傾向にある。さらに、後述する粒径の小さな親水性無機粒子を多孔膜に担持した場合、欠落せずしっかりと保持することができる。これにより、親水性無機粒子が持つ高い保持能力を付与でき、長期に亘ってその効果を維持することができる。
【0076】
かかる観点から、多孔膜においては、平均孔径は、0.1μm以上1.0μm以下の範囲であることが好ましい。多孔膜は、孔径がこの範囲であれば、優れたガス遮断性と高いイオン透過性とを両立することができる。また、多孔膜の孔径は実際に使用する温度域において制御されることが好ましい。従って、例えば90℃の環境下での電解用隔膜4として使用する場合は、90℃で上記の孔径の範囲を満足させることが好ましい。また、多孔膜は、アルカリ水電解用隔膜4として、より優れたガス遮断性と高いイオン透過性とを発現できる範囲として、平均孔径が0.1μm以上0.5μm以下であることがより好ましい。
【0077】
多孔膜の平均孔径は、以下の方法で測定することができる。
多孔膜の平均孔径とは、完全性試験機(ザルトリウス・ステディム・ジャパン社製、「Sartocheck Junior BP-Plus」)を使用して以下の方法で測定した平均透水孔径をいう。まず、多孔膜を芯材も含めて所定の大きさに切り出して、これをサンプルとする。このサンプルを任意の耐圧容器にセットして、容器内を純水で満たす。次に、耐圧容器を所定温度に設定した恒温槽内で保持し、耐圧容器内部が所定温度になってから測定を開始する。測定が始まると、サンプルの上面側が窒素で加圧されていき、サンプルの下面側から純水が透過してくる際の圧力および透過流量の数値を記録する。平均透水孔径は、圧力が10kPaから30kPaの間の圧力と透水流量との勾配を使い、以下のハーゲンポアズイユの式から求めることができる。
平均透水孔径(m)={32ηLμ0/(εP)}0.5
ここで、ηは水の粘度(Pa・s)、Lは多孔膜の厚み(m)、μ0は見かけの流速であり、μ0(m/s)=流量(m3/s)/流路面積(m2)である。また、εは空隙率、Pは圧力(Pa)である。
【0078】
アルカリ水電解用隔膜4は、ガス遮断性、親水性の維持、気泡の付着によるイオン透過性低下の防止、さらには長時間安定した電解性能(低電圧損失等)が得られるといった観点から、多孔膜の気孔率を制御することが好ましい。
ガス遮断性や低電圧損失等を高いレベルで両立させるといった観点から、多孔膜の気孔率の下限は30%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましく、40%以上であることが更に好ましい。また、気孔率の上限は70%以下であることが好ましく、65%以下であることがより好ましく、55%以下であることが更に好ましい。多孔膜の気孔率が上記上限値以下であれば、膜内をイオンが透過しやすく、膜の電圧損失を抑制できる。
【0079】
多孔膜の気孔率とは、アルキメデス法により求めた開気孔率をいい、以下の式により求めることができる。
気孔率P(%)=ρ/(1+ρ)×100
ここで、ρ=(W3-W1)/(W3-W2)であり、W1は多孔膜の乾燥質量(g)、W2は多孔膜の水中質量(g)、W3は多孔膜の飽水質量(g)である。
【0080】
気孔率の測定方法としては、純水で洗浄した多孔膜を3cm×3cmの大きさで3枚に切出して、測定サンプルとする。まず、サンプルのW2およびW3を測定する。その後、多孔膜を50℃に設定された乾燥機で12時間以上静置して乾燥させて、W1を測定する。そして、W1、W2、W3の値から気孔率を求める。3枚のサンプルについて気孔率を求め、それらの算術平均値を気孔率Pとする。
【0081】
多孔膜の厚みは、特に限定されないが、100μm以上700μm以下であることが好ましく、より好ましくは100μm以上600μm以下、更に好ましくは200μm以上600μm以下である。
多孔膜の厚みが、上記下限値以上であると、突刺し等で破れにくく、電極間がショートしにくい。また、ガス遮断性が良好となる。また、上記上限値以下であると、電圧損失が増大しにくい。また、多孔膜の厚みのばらつきによる影響が少なくなる。
また、隔膜の厚みが、100μm以上であると、突刺し等で破れにくく、電極間がショートしにくい。また、ガス遮断性が良好となる。600μm以下であると、電圧損失が増大しにくい。また、多孔膜の厚みのばらつきによる影響が少なくなる。
多孔膜の厚みが、250μm以上であれば、一層優れたガス遮断性が得られ、また、衝撃に対する多孔膜の強度が一層向上する。この観点より、多孔膜の厚みの下限は、300μm以上であることがより好ましく、350μm以上であることが更に好ましく400μm以上でることがより一層好ましい。一方で、多孔膜の厚みが、700μm以下であれば、運転時に孔内に含まれる電解液の抵抗によりイオンの透過性を阻害されにくく、一層優れたイオン透過性を維持すことができる。かかる観点から、多孔膜の厚みの上限は、600μm以下であることがより好ましく、550μm以下であることが更に好ましく、500μm以下であることがより一層好ましい。
【0082】
---親水性無機粒子---
多孔膜は、高いイオン透過性および高いガス遮断性を発現するために親水性無機粒子を含有していることが好ましい。親水性無機粒子は多孔膜の表面に付着していても良いし、一部が多孔膜を構成する高分子材料に埋没していても良い。また親水性無機粒子が多孔膜の空隙部に内包されると、多孔膜から脱離しにくくなり、多孔膜の性能を長時間維持できる。
【0083】
親水性無機粒子としては、例えば、ジルコニウム、ビスマス、セリウムの酸化物又は水酸化物;周期律表第IV族元素の酸化物;周期律表第IV族元素の窒化物、および周期律表第IV族元素の炭化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機物が挙げられる。これらの中でも、化学的安定性の観点から、ジルコニウム、ビスマス、セリウムの酸化物、周期律表第IV族元素の酸化物がより好ましく、ジルコニウム、ビスマス、セリウムの酸化物が更に好ましく、酸化ジルコニウムがより更に好ましい。
【0084】
親水性無機粒子の形態は、微粒子形状であることが好ましい。
【0085】
--多孔性支持体--
隔膜4として多孔膜を用いる場合、多孔膜は多孔性支持体と共に用いてよい。好ましくは、多孔膜が多孔性支持体を内在した構造であり、より好ましくは、多孔性支持体の両面に多孔膜を積層した構造である。また、多孔性支持体の両面に対称に多孔膜を積層した構造であってもよい。
【0086】
多孔性支持体としては、例えば、メッシュ、多孔質膜、不織布、織布、不織布およびこの不織布に内在する織布とを含む複合布等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。多孔性支持体のより好適な態様としては、例えば、ポリフェニレンサルファイドのモノフィラメントで構成されるメッシュ基材、又は不織布および該不織布内に内在する織布とを含む複合布等が挙げられる。
【0087】
--イオン交換膜--
イオン交換膜としては、カチオンを選択的に透過させるカチオン交換膜とアニオンを選択的に透過させるアニオン交換膜があり、いずれの交換膜でも使用することができる。
イオン交換膜の材質としては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、含フッ素系樹脂やポリスチレン・ジビニルベンゼン共重合体の変性樹脂が好適に使用できる。特に耐熱性および耐薬品性等に優れる点で、含フッ素系イオン交換膜が好ましい。
【0088】
含フッ素系イオン交換膜としては、電解時に発生するイオンを選択的に透過する機能を有し、かつイオン交換基を有する含フッ素系重合体を含むもの等が挙げられる。ここでいうイオン交換基を有する含フッ素系重合体とは、イオン交換基、又は、加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体、を有する含フッ素系重合体をいう。例えば、フッ素化炭化水素の主鎖を有し、加水分解等によりイオン交換基に変換可能な官能基をペンダント側鎖として有し、かつ溶融加工が可能な重合体等が挙げられる。
【0089】
含フッ素系共重合体の分子量は、特に限定されないが、該前駆体を、ASTM:D1238に準拠して(測定条件:温度270℃、荷重2160g)測定されたメルトフローインデックス(MFI)の値で0.05~50(g/10分)であることが好ましく、0.1~30(g/10分)であることがより好ましい。
【0090】
イオン交換膜が有するイオン交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基等のカチオン交換基、4級アンモニウム基等のアニオン交換基が挙げられる。
【0091】
イオン交換膜は、イオン交換基の当量質量EWを調整することによって、優れたイオン交換能と親水性を付与することができる。また、より小さなクラスター(イオン交換基が水分子を配位および/又は吸着した微小部分)を数多く有するように制御でき、耐アルカリ性やイオン選択透過性を向上する傾向にある。
この当量質量EWは、イオン交換膜を塩置換し、その溶液をアルカリ又は酸溶液で逆滴定することにより測定することができる。当量質量EWは、原料であるモノマーの共重合比、モノマー種の選定等により調整することができる。
イオン交換膜の当量質量EWは、親水性、膜の耐水性の観点から300以上であることが好ましく、親水性、イオン交換能の観点から1300以下であることが好ましい。
【0092】
イオン交換膜の厚みは特に制限されないが、イオン透過性や強度の観点から、5μm~300μmの範囲が好ましい。
【0093】
イオン交換膜の表面の親水性を向上させる目的で、表面処理を施してもよい。具体的には、酸化ジルコニウム等の親水性無機粒子をコーティングする方法や、表面に微細な凹凸を付与する方法が挙げられる。
【0094】
イオン交換膜は、膜強度の観点から、補強材と共に用いることが好ましい。補強材としては、特に限定されず、一般的な不織布や織布、各種素材からなる多孔膜が挙げられる。この場合の多孔膜としては、特に限定されないが、延伸されて多孔化したPTFE系膜が好ましい。
【0095】
((ゼロギャップ構造))
ゼロギャップ型セルにおける複極式エレメント60では、極間距離を小さくする手段として、電極2と隔壁1との間に弾性体であるバネを配置し、このバネで電極2を支持する形態をとることが好ましい。例えば、第1の例では、隔壁1に導電性の材料で製作されたバネを取り付け、このバネに電極2を取り付けてよい。また、第2の例では、隔壁1に取り付けた電極リブにバネを取り付け、そのバネに電極2を取り付けてよい。なお、このような弾性体を用いた形態を採用する場合には、電極2が隔膜4に接する圧力が不均一にならないように、バネの強度、バネの数、形状等必要に応じて適宜調節する必要がある。
【0096】
-電極室-
複極式電解槽50では、
図3に示すとおり、隔壁1と外枠3と隔膜4とにより、電解液が通過する電極室5が画成されている。
【0097】
本実施形態において、複極式電解槽のヘッダー10の配設態様としては、内部ヘッダー型および外部ヘッダー10O型を採用できるところ、例えば、図示の例の場合、陽極2aおよび陰極2c自身が占める空間も電極室5の内部にある空間であるものとしてよい。また、特に、気液分離ボックスが設けられている場合、気液分離ボックスが占める空間も電極室5の内部にある空間であるものとしてよい。
【0098】
-整流板-
電解装置70の複極式電解槽50では、隔壁1に整流板6(陽極整流板6a、陰極整流板6c)が取り付けられ、整流板6が電極2と物理的に接続されていることが好ましい。かかる構成によれば、整流板6が電極2の支持体となり、ゼロギャップ構造Zを維持しやすい。
ここで、整流板6に、電極2が設けられていてもよく、整流板6に、集電体2r、導電性弾性体2e、電極2がこの順に設けられていてもよい。
前述の一例の電解装置70の複極式電解槽50では、陰極室5cにおいて、整流板6-集電体2r-導電性弾性体2e-電極2の順に重ね合わせられた構造が採用され、陽極室5aにおいて、整流板6-電極2の順に重ね合わせられた構造が採用されている。
【0099】
なお、前述の一例の電解装置70の複極式電解槽50では、陰極室5cにおいて上記「整流板6-集電体2r-導電性弾性体2e-電極2」の構造が採用され、陽極室5aにおいて上記「整流板6-電極2」の構造が採用されているが、本発明ではこれに限定されることなく、陽極室5aにおいても「整流板6-集電体2r-導電性弾性体2e-電極2」構造が採用されてもよい。
【0100】
整流板6(陽極整流板6a、陰極整流板6c)には、陽極2a又は陰極2cを支える役割だけでなく、電流を隔壁1から陽極2a又は陰極2cへ伝える役割を備えることが好ましい。
【0101】
電解装置70の複極式電解槽50では、整流板6の少なくとも一部が導電性を備えことが好ましく、整流板6全体が導電性を備えことがさらに好ましい。かかる構成によれば、電極たわみによるセル電圧の上昇を抑制することができる。
【0102】
整流板6の材料としては、一般的に導電性の金属が用いられる。例えば、ニッケルメッキを施した軟鋼、ステンレススチール、ニッケル等が利用できる。
【0103】
隣接する陽極整流板6a同士の間隔、又は隣接する陰極整流板6c同士の間隔は、電解圧力や陽極室5aと陰極室5cの圧力差等を勘案して決められる。
【0104】
整流板6(陽極整流板6a、陰極整流板6c)の長さは、隔壁1のサイズに応じて、適宜に定められてよい。
整流板6の高さは、隔壁1から各フランジ部までの距離、ガスケット7の厚さ、電極2(陽極2a、陰極2c)の厚さ、陽極2aと陰極2cとの間の距離等に応じて、適宜に定められてよい。
また、整流板6の厚みは、コストや製作性、強度等も考慮して、0.5mm~5mmとしてよく、1mm~2mmのものが用いやすいが、特に限定されない。
【0105】
-ガスケット-
電解装置70の複極式電解槽50では、隔壁1を縁取る外枠3同士の間に隔膜4を有するガスケット7が挟持されることが好ましい。
ガスケット7は、複極式エレメント60と隔膜4の間、複極式エレメント60間を電解液と発生ガスに対してシールするために使用され、電解液や発生ガスの電解槽外への漏れや両極室間におけるガス混合を防ぐことができる。
【0106】
ガスケット7の一般的な構造としては、エレメントの枠体に接する面に合わせて、電極面をくり抜いた四角形状又は環状である。このようなガスケット2枚で隔膜4を挟み込む形でエレメント間に隔膜4をスタックさせることができる。さらに、ガスケット7は、隔膜4を保持できるように、隔膜4を収容することが可能なスリット部を備え、収容された隔膜4がガスケット7両表面に露出することを可能にする開口部を備えることも好ましい。これにより、ガスケット7は、隔膜4の縁部をスリット部内に収容し、隔膜4の縁部の端面を覆う構造がとれる。したがって、隔膜4の端面から電解液やガスが漏れることをより確実に防止できる。
【0107】
ガスケット7の材質としては、特に制限されるものではなく、絶縁性を有する公知のゴム材料や樹脂材料等を選択することができる。
ゴム材料や樹脂材料としては、具体的には、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、シリコーンゴム(SR)、エチレン-プロピレンゴム(EPT)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FR)、イソブチレン-イソプレンゴム(IIR)、ウレタンゴム(UR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)等のゴム材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)等のフッ素樹脂材料や、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアセタール等の樹脂材料を用いることができる。これらの中でも、弾性率や耐アルカリ性の観点でエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FR)が特に好適である。
【0108】
ガスケット7は、補強材が埋設されていてもよい。これにより、スタック時に枠体に挟まれて押圧されたときに、ガスケット7が潰れることを抑制でき、破損を防止し易くできる。
このような補強材は公知の金属材料、樹脂材料および炭素材料等が使用でき、具体的には、ニッケル、ステンレス等の金属、ナイロン、ポリプロピレン、PVDF、PTFE、PPS等の樹脂、カーボン粒子や炭素繊維等の炭素材料が挙げられる。
【0109】
ガスケット7のサイズは、特に制限されるものではなく、電極室5や膜の寸法に合わせて設計すればよいが、幅が10mm~40mmにするのがよい。
この場合、ガスケット7がスリット部を備える場合、スリット部のサイズはスリットの内寸が膜のサイズより縦横で0.5mm~5mm大きくなるようにするのがよい。
【0110】
ガスケット7の厚みは、特に制限されるものではなく、ガスケット7の材質や弾性率、セル面積に応じて設計される。好ましい厚みの範囲としては、1.0mm~10mmが好ましく、3.0mm~10mmがより好ましい。
また、ガスケット7がスリット部を備える場合、スリット部の開口幅としては、膜の厚みの0.5倍~1.0倍としてよい。
【0111】
ガスケット7の弾性率は、特に制限されるものではなく、電極2の材質やセル面積に応じて設計される。好ましい弾性率の範囲としては、100%変形時の引張応力で、0.20MPa~20MPaの範囲がより好ましく、シーリング特性やスタック時のセル強度の観点から、1.0MPa~10MPaの範囲がより好ましい。
なお、引張応力は、JIS K6251に準拠して、測定することができる。例えば、島津製作所社製のオートグラフAGを用いてよい。
【0112】
特に、ガスケット7の厚みが3.0mm~10mmであり、100%変形時の引張応力で1.0MPa~10MPaであることが、電極たわみによるセル電圧の上昇を抑制する観点、また、シーリング特性やスタック時のセル強度の観点から、好ましい。
【0113】
電解装置70においては、ガスケット7の表面を絶縁性の樹脂シート(例えばポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂等)で覆うことが好ましい。このようにすることにより、複数のエレメント60間では相互に絶縁された状態となるので、通電工程(電解液の電気分解が行われる工程)でそれぞれのエレメント60に蓄積された電荷が、停止工程(電解液の電気分解が停止している工程)において他のエレメント60に影響することを抑制することができる。
【0114】
-ヘッダー-
電解装置70の複極式電解槽50は、電解セル65毎に、陰極室5c、陽極室5aを有する。電解槽50で、電気分解反応を連続的に行うためには、各電解セル65の陰極室5cと陽極室5aとに電気分解によって消費される原料を十分に含んだ電解液を供給し続ける必要がある。
【0115】
電解セル65は、複数の電解セル65に共通するヘッダー10と呼ばれる電解液の給排配管と繋がっている。一般に、陽極用配液管は陽極入口ヘッダー10ai、陰極用配液管は陰極入口ヘッダー10ci、陽極用集液管は陽極出口ヘッダー10ao、陰極用集液管は陰極出口ヘッダー10coと呼ばれる。電解セル65はホース等を通じて各電極用配液管および各電極用集液管と繋がっている。
【0116】
ヘッダー10の材質は特に限定されないが、使用する電解液の腐食性や、圧力や温度等の運転条件に十分耐えうるものを採用する必要がある。ヘッダー10の材質に、鉄、ニッケル、コバルト、PTFE、ETFE,PFA、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等を採用しても良い。
【0117】
電極室5の範囲は、隔壁1の外端に設けられる外枠3の詳細構造により、変動するところ、外枠3の詳細構造は、外枠3に取り付けられるヘッダー10(電解液を配液又は集液する管)の配設態様により異なることがある。複極式電解槽50のヘッダー10の配設態様としては、内部ヘッダー10I型および外部ヘッダー10O型が代表的である。
【0118】
-内部ヘッダー-
内部ヘッダー型とは、複極式電解槽50とヘッダー10(電解液を配液又は集液する管)とが一体化されている形式をいう。
【0119】
内部ヘッダー型複極式電解槽50では、より具体的には、陽極入口ヘッダーおよび陰極入口ヘッダーが、隔壁1内および/又は外枠3内の下部に設けられ、且つ、隔壁1に垂直な方向に延在するように設けられ、また、陽極出口ヘッダーおよび陰極出口ヘッダーが、隔壁1内および/又は外枠3内の上部に設けられ、且つ、隔壁1に垂直な方向に延在するように設けられる。
【0120】
内部ヘッダー型複極式電解槽50が内在的に有する、陽極入口ヘッダーと、陰極入口ヘッダーと、陽極出口ヘッダーと、陰極出口ヘッダーを総称して、内部ヘッダーと呼ぶ。
【0121】
内部ヘッダー型の例では、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの下方に位置する部分の一部に、陽極入口ヘッダーと陰極入口ヘッダーとを備えており、また、同様に、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの上方に位置する部分の一部に、陽極出口ヘッダーと陰極出口ヘッダーとを備えている。
【0122】
-外部ヘッダー-
外部ヘッダー10O型とは、複極式電解槽50とヘッダー10(電解液を配液又は集液する管)とが独立している形式をいう。
【0123】
外部ヘッダー10O型複極式電解槽50は、陽極入口ヘッダー10Oaiと、陰極入口ヘッダー10Ociとが、電解セル65の通電面に対し、垂直方向に、電解槽50と並走する形で、独立して設けられる。この陽極入口ヘッダー10Oaiおよび陰極入口ヘッダー10Ociと、各電解セル65が、ホースで接続される。
【0124】
外部ヘッダー10O型複極式電解槽50に外在的に接続される、陽極入口ヘッダー10Oaiと、陰極入口ヘッダー10Ociと、陽極出口ヘッダー10Oaoと、陰極出口ヘッダー10Ocoを総称して、外部ヘッダー10Oと呼ぶ。
外部ヘッダー10O型の例では、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの下方に位置する部分に設けられたヘッダー10用貫通孔に、管腔状部材が設置され、管腔状部材が、陽極入口ヘッダー10Oaiおよび陰極入口ヘッダー10Ociに接続されており、また、同様に、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの上方に位置する部分に設けられたヘッダー10用貫通孔に、管腔状部材(例えば、ホースやチューブ等)が設置され、かかる管腔状部材が、陽極出口ヘッダー10Oaoおよび陰極出口ヘッダー10Ocoに接続されている。
【0125】
なお、内部ヘッダー10I型および外部ヘッダー10O型の複極式電解槽50において、その内部に電解によって発生した気体と、電解液を分離する気液分離ボックスを有してもよい。気液分離ボックスの取付位置は、特に限定されないが、陽極室5aと陽極出口ヘッダー10aoとの間や、陰極室5cと陰極出口ヘッダー10coとの間に取付けられてもよい。
【0126】
気液分離ボックスの表面は、電解液の腐食性や、圧力や温度等の運転条件に十分耐えうる材質のコーティング材料で、被覆されていても良い。コーティング材料の材質は、電解槽内部での漏洩電流回路の電気抵抗を大きくする目的で、絶縁性のものを採用してもよい。コーティング材料の材質に、EPDM、PTFE、ETFE,PFA、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等を採用してもよい。
【0127】
-液面計-
電解装置70の電解槽50は、電解槽50の各電極室5a、5c内の液面を測定することができる液面計を有していてよい。特に、本実施形態(II)では、上記液面計を有することが好ましい。当該液面計により、各電極室5a、5c内の液面を監視し(電極室5a、5c内での液面の高さを監視し)、各電極室5a、5c内の隔膜4の表面が電解液に対して浸漬状態であるか、又は浸漬していない非浸漬状態であるかを把握することができる。
液面計としては、特に限定されないが例えば、直視式、接触式、差圧式の液面計を用いることができる。
【0128】
(第1の陰極保護部)
電解装置70において、供給経路および/又は排出経路を、陰極室5cに対して絶縁することが可能な第1の陰極保護部を有していてよい。特に、本実施形態(II)では、第1の陰極保護部をすることが好ましい。停止工程において、第1の陰極保護部によって供給経路および/又は排出経路を、陰極室5cに対して絶縁することにより、停止工程において、陰極2cに生じる逆電流の全体量を低減することができる。その結果として、変動電源下における陰極2cの劣化を抑制することができる。
なお、第1の陰極保護部としては、供給経路および/又は排出経路(具体的には、陰極用配液管20Oci、陰極入口ヘッダー(陰極入口側ホース)10Oci、陰極用集液管20Oco、陰極出口ヘッダー(陰極出口側ホース)10Oco等)に樹脂製のバルブを設けることが挙げられる。また、第1の陰極保護部としては、供給経路が陰極室5cに対して鉛直方向上方に位置すること、排出経路が陰極室5cに対して鉛直方向上方に位置すること、も挙げることができ、このようにすることにより、停止工程において、例えば、送液ポンプ71を停止した際、電解液が自重で流れ落ち、それにより供給経路および/又は排出経路に絶縁性のガス層を形成させることができる。
【0129】
(第2の陰極保護部)
電解装置70において、電解槽と電解電源(整流器)74とを含む電気回路が形成されているところ、当該電気回路を遮断すること可能な第2の陰極保護部を有していてよい。特に、本実施形態(II)では、第2の陰極保護部を有することが好ましい。停止工程において第2の陰極保護部によって電気回路を遮断することにより、陰極2cに生じる逆電流を低減することができる。
なお、第2の陰極保護部としては、電気回路の遮断器、断路器、開閉器、逆向きの電流を阻害するダイオードが挙げられる。
【0130】
(陰極および隔膜の鉛直方向D1の上端の位置関係について)
電解装置70において、陰極2cの少なくとも一部が、隔膜4の非被覆上端4tよりも鉛直方向D1上方に存在することが好ましい。これにより、停止工程において、
図5A、
図5B、
図6に示すように、陽極室5aおよび/又は陰極室5cの電解液の喫水線L(液面の位置)を隔膜4の非被覆上端4tよりも鉛直方向上方に位置させつつ、陰極2cの少なくとも一部を、陰極室5c中に存在させ得る水素ガス層に露出させることができる。その結果、電気分解停止時における、陰極2cの劣化を抑制するとともに、隔膜を介した各電極室5a、5c間の気体の拡散・混合を抑制することができる。
具体的には、陰極2cの劣化の抑制について、従来の電解装置の運転では、通電工程時に陰極(および陽極2a)に蓄積された電荷により停止工程時に陰極2cに逆電流が生じ、当該逆電流が生じる際には、陰極自体を酸化させることがあった(通電工程時は、陰極室では還元反応が生じる)。そして、通電工程と停止工程が繰り返し行われることで陰極2cが劣化する懸念があった。これに対して、本実施形態(特に、本実施形態(II))に係る電解装置では、停止工程において、陰極2cが、
図5A、
図5B、
図6に示すように、そのうちの一部が喫水線Lよりも上方にあり水素ガスに露出するので、陰極2cの逆電流が生じても、陰極2cに接触する当該水素が酸化し、陰極2c自体の酸化を低減させて、陰極2cの劣化を抑制することができる。
また、隔膜4を介した気体の拡散・混合の抑制について、従来の電解装置の運転では、隔膜4の両方の表面が気体中に露出すると、それぞれの電極室5a、5c中の気体がわずかに隔膜4を透過してそれぞれの電極室5a、5cに拡散することがあった。しかし、本実施形態に係る電解装置では、停止工程において、陰極2cの一部を水素ガスに露出させながら、陽極室5aおよび/又は陰極室5cの電解液の喫水線L(液面の位置)を隔膜4の非被覆上端4tよりも鉛直方向上方に位置させ、隔膜4の少なくとも一方の表面が液体に浸漬した状態にすることができる。したがって、各電極室5a、5c間の気体の拡散・混合を抑制することができる。
なお、上記の「隔膜の非被覆上端」とは、隔膜4の鉛直方向D1の上端であるか、或いは、隔膜自体のうちの鉛直方向D1の上端側の部分が、例えば、
図5Aに示すように、隔膜4を電解槽50の外枠3の間に固定する際に用いるガスケット等で隔膜4の表面の一部が覆われている場合や、
図6に示すように、ガスケット7とともに後述するように被覆材41で隔膜4の表面の一部が覆われている場合には、「隔膜の非被覆上端」とは、隔膜4のうちのガスケット7や被覆材41等で覆われていない部分についての鉛直方向D1の上端を指す。
【0131】
このような電解装置70としては、具体的には、陰極室5cを模式的に表す
図5Aおよび
図5Bに示すように、陰極2cとして、陰極本体部2c1と、陰極本体部2c1と導線部2c3で接続された陰極補助部2c2と、で形成されたものを用い、また、当該陰極補助部2c2のうち少なくとも鉛直方向D1上方の一部が、
図5Aに示すように、隔膜4の非被覆上端4tよりも鉛直方向D1上方に存在している。このように陰極2cが陰極補助部2c2を有することにより、停止工程において、電解液の喫水線Lを図示のような位置にすることで、逆電流が生じても陰極補助部2c2が水素ガスを酸化することで陰極2cの劣化を防ぎつつ、停止工程で隔膜4の表面が気体中に露出することにより生じうる陰極室5cに存在する水素中への酸素の混合を防ぐことができる。
なお、電解装置70としては、陰極2cが陰極本体部2c1から離間した陰極補助部2c2を有するものではなく、陰極2cが陰極本体部2c1のみからなり、陰極本体部2c1の鉛直方向D1の上端を、
図5Aの陰極補助部2c2の鉛直方向D1の上端の位置まで伸長させたものを用いることもできる。しかし、
図5Aのように陰極2cが陰極補助部2c2を有することにより、有しないものと比較して、メンテナンス時に陰極2cの交換をより行いやすくすることができる。また、陰極補助部2c2を用いることで陰極2c全体としての大きさを小さくすることができたり、或いは、例えば陰極補助部2c2は通電工程時の電解性能を陰極本体部2c1よりも低くする(例えば触媒量を減少させる等)ことができるので、陰極2cのコストを低減することができる。
【0132】
ここで、陰極本体部2c1は、陰極補助部2c2を有しない場合の陰極2cのように、通電工程において電解液を電気分解するための電極であり、陰極補助部2c2を有しない場合の陰極2cと同様な構成や材料を有することができる。
また、陰極補助部2c2は、陰極本体部2c1に用い得る材料で形成することができ、また、陰極本体部2c1と同じ材料とすることもできるが、逆電流が生じた際に水素と接触して酸化させることができれば特に限定されない。また、陰極補助部2c2は、
図5Bの陰極室5cの模式的な平面図に示すように、鉛直方向D1の長さ、および、鉛直方向D1に直交する方向の長さが、陰極本体部2c1の水平方向の長さ、および、鉛直方向D1に直交する方向の長さよりも小さくなっている。具体的な寸法は、陰極補助部2c2が陰極本体部2c1とともに陰極室5cに収まる大きさよりも小さければ特に限定されず、陰極補助部2c2の鉛直方向D1の長さは、90mm以下が好ましい。
また、陰極本体部2c1と陰極補助部2c2と接続する導線部2c3は、陰極2cの基材に用い得る材料で形成することができ、また陰極本体部2c1と同じ材料とすることもできる。
なお、
図5Aの例では、
図6の例で用いるような隔膜4の表面を覆う被覆材41を用いていないが、当該被覆材41を用いることもできる。
【0133】
また、陰極2cの少なくとも一部が隔膜4の非被覆上端4tよりも上方に存在する電解装置70としては、
図5Aおよび
図5Bに示す例に変えて、
図6に示す電解装置70とすることも好ましい。具体的には、
図6に示す電解装置70は、隔膜4の表面が、被覆材41により、当該被覆材41の鉛直方向下端が隔膜4の非被覆上端4tとなるように覆われている。より具体的には、ガスケット7とともに後述するように被覆材41で隔膜4の表面の一部が覆われており、それにより、陰極2cの少なくとも一部が、隔膜4の非被覆上端4tよりも上方に存在することとなっている。このようにすることにより、
図5Aおよび
図5Bに示す電解装置70と同様な効果を奏するとともに、
図5Aおよび
図5Bに示すように陰極2cが陰極補助部2c2を有する場合と比較して、陰極自体の構造を簡略にすることができる。
【0134】
ここで、上記の被覆材41としては、隔膜4の表面を覆うことが可能であるとともに、隔膜4のうち被覆材41で覆われている部分が気体中に存在した場合に、隔膜4で区画されるそれぞれの電極室5a、5cの気体が透過するのを防止することができれば、特に限定されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。
また、被覆材41は、
図6では隔膜4の両方の表面に設けているが、隔膜4のうち被覆材41で覆われている部分が気体中に存在した場合に、隔膜4で区画されるそれぞれの電極室5a、5cの気体が透過するのを防止することができれば、隔膜4の片方の表面だけに設けてもよい。なお、このように、隔膜4の一方側・他方側の表面で非被覆上端の鉛直方向の位置が異なり、それによって一方側・他方側の表面で覆っている範囲が異なる場合には、鉛直方向下方側にある表面の非被覆上端を「隔膜の非被覆上端」とする。
【0135】
また、隔膜4の表面に被覆材41を設ける場合には、隔膜4の上端より被覆材41を用いて表面を覆い(ガスケット等により隔膜4の上端側の表面が覆われる場合には、そのガスケット等の下端に隣接する位置から覆い)、被覆材41の鉛直方向D1の下端が、陰極2cの鉛直方向D1の上端の位置よりも鉛直方向D1下方となるように位置することが好ましい。また、より好ましくは、被覆材41の鉛直方向D1の下端が、陰極2cの鉛直方向D1の上端の位置よりも鉛直方向D1下方であって、陰極2cの鉛直方向D1の上端の位置よりも鉛直方向D1で20mm下方に離間した位置よりも鉛直方向D1上方にあり、さらに好ましくは、当該下端が、陰極2cの鉛直方向D1の上端の位置よりも鉛直方向D1で10mm下方に離間した位置よりも鉛直方向D1上方にあることである。
【0136】
続いて、電解装置70の構成要素のうち、主に電解槽50以外について説明する。
【0137】
-送液ポンプ-
送液ポンプ71としては、特に限定されず、適宜定められてよい。
また、本実施形態に使用することができる電解装置70の送液ポンプ71として、陰極室5cへ送液するための陰極側送液ポンプ、陽極室5aへ送液するための陽極側送液ポンプを有することができ、それぞれ別々に稼働することができる。
【0138】
-気液分離タンク-
気液分離タンク72は、電解液と水素ガスとを分離する水素分離タンク72hと、電解液と酸素ガスとを分離する酸素分離タンク72oとを含む。
水素分離タンク72hは陰極室5cに接続され、酸素分離タンク72oは陽極室5aに接続されて用いられる。
【0139】
電解装置70の気液分離タンク72は、陽極室5a用に用いられる酸素分離タンク72oと、陰極室5cに用に用いられる水素分離タンク72hの二つが備えられる。
【0140】
陽極室5a用の気液分離タンク72は、陽極室5aで発生した酸素ガスと電解液を分離し、陰極室5c用の気液分離タンク72は、陰極室5cで発生した水素ガスと電解液を分離する。
【0141】
電解セル65から電解液と発生ガスが混合した状態で排出されたものを、気液分離タンク72に流入させる。気液分離が適切に行われなかった場合は、陰極室5cと陽極室5aの電解液が混合したときに、酸素ガス、水素ガスが混合されてしまい、ガスの純度が低下する。最悪の場合、爆鳴気を形成してしまう危険性がある。
【0142】
気液分離タンク72に流入したガスと電解液は、ガスはタンク上層の気相へ、電解液はタンク下層の液相に分かれる。気液分離タンク72内での電解液の線束と、発生したガス気泡の浮遊する速度と、気液分離タンク72内の滞留時間によって、気液分離の度合いが決まる。
【0143】
ガスが分離された後の電解液は、タンク下方の流出口から流出し、電解セル65に再び流入することで循環経路を形成する。タンク上方の排出口から排出された酸素、および水素ガスは、いずれもアルカリミストを含んだ状態であるため、排出口の下流に、ミストセパレーターや、クーラー等の、余剰ミストを液化し気液分離タンク72に戻すことが可能な装置を取り付けることが好ましい。
【0144】
気液分離タンク72には、内部に貯留する電解液の液面Lの高さを把握するために、液面計を備えることも可能である。
【0145】
また、前記気液分離タンク72は、圧力解放弁を備えることが好ましい。これにより電解で発生するガスによる圧力の上昇を受けても、設計圧力を超えた場合、安全に圧力を下げることが可能となる。
【0146】
気液分離タンク72への流入口は、気液分離性を向上させる上で、電解液面よりも上面に位置することが好ましいが、これに限定されるものではない。
循環停止時の電解槽中の液面Lの低下を防ぐ目的で、気液分離タンク72内の電解液面を電解槽上面よりも高いことが好ましいが、これに限定されるものではない。
電解セル65と気液分離タンク72との間に遮断弁を付けることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0147】
気液分離タンク72の材料には、ニッケル等の耐アルカリ性金属が用いられる。一方、鉄等の汎用金属をタンク筐体材料として用いる場合においては、タンク内部の電解液接触面に、フッ素系樹脂等で被覆処理を施したものを用いることもあるが、本実施形態における気液分離タンク72の素材を限定するものではない。
【0148】
気液分離タンク72の容量は、設置容積を考慮すると、小さい方が好ましいが、容積が小さすぎると、陰極2cと陽極2aの圧力差が大きくなった場合や電解電流値に変動が生じた場合、タンク内の液面が変動するため、この変動分を考慮する必要がある。
また、タンク高さも同様に、高さが低い場合は、上記変動の影響を受けやすいため、高くすることが好ましい。
【0149】
-水補給器-
電解装置70において用いる水補給器73としては、特に限定されず、適宜定められてよい。
水としては、一般上水を使用してもよいが、長期間に亘る運転を考慮した場合、イオン交換水、RO水、超純水等を使用することが好ましい。
【0150】
-電気回路-
電解装置70は電解電源(整流器)74を備えている。さらに、電解槽50と電解電源(整流器)74とを含む電気回路Cが形成されていてよい。また、電解装置70では、電解槽50に接続される外部負荷8を備えていてよい。特に、本実施形態(I)では、電気回路Cおよび外部負荷8を備えていることが好ましい。また、外部負荷8の抵抗値は、0.02~2Ωm
2/Cellであることが好ましい。
具体的には、
図1の例では、電解槽50中の端部となる電解セル65の陽極2aと、電解電源74の正極とがケーブルで接続され、また、電解槽50中の端部となる電解セル65の陰極2cと、電解電源74の負極とがケーブルで接続されているが、当該ケーブル間を外部負荷8と開閉器9とで接続している。これにより、例えば、停止工程において、電解電源74が停止している状態で開閉器9を閉じることにより、電解槽50(全ての電解セル65)と外部負荷8との回路を形成することができる。また、
図1の例では、外部負荷8を電解槽50の電解セル65の全体と接続しているが、図示は省略するが、外部負荷8を電解槽50の電解槽50のうちの一部と接続してもよい。これにより、例えば、停止工程において、電解槽50のうちの一部の電解セル65と外部負荷8との回路を形成することができる。
【0151】
-貯留タンク-
電解装置70では、電解液を貯留する貯留タンクを有することができる。また、当該貯留タンクは、電解装置70の電解槽50よりも鉛直方向上方に位置することが好ましい。貯留タンクが電解槽50と配管等で接続することで、重力を利用して貯留タンク内の電解液を電解槽へ注入することができる。また当該配管等にバルブ等を設けることで流量を適切に調節することもできる。
【0152】
-その他-
電解装置70は、電解槽50、気液分離タンク72、水補給器73以外にも、整流器74、酸素濃度計75、水素濃度計76、流量計77、圧力計78、熱交換器、圧力制御弁80等を備えてよい。
【0153】
また、電解装置70は、さらに、電力供給の停止を検知する検知器、および、送液ポンプを自動停止する制御器を備えることが好ましい。検知器および制御器を備えることで、再生可能エネルギーのように、変動が激しい電力源下でも、人為的な操作なしに、自己放電の影響を効率的に低減することが可能になる。
【0154】
(電解装置の運転方法)
本実施形態に係る電解装置の運転方法は、上述した本実施形態に係る電解装置70を用いて、実施することができる。
具体的には、本実施形態に係る電解装置の運転方法としては、相互に隔膜4で区画された、陽極2aを有する陽極室5aと陰極2cを有する陰極室5cとを備える電解装置70を用いた電解装置70の運転方法であって、陽極室5aおよび陰極室5c中の電解液の電気分解が行われる通電工程と、陽極室5aおよび陰極室5c中の電解液の電気分解が停止している停止工程と、を有し、停止工程において、電解装置70の電解槽50を外部負荷8に電気的に接続して、5時間以内に対電圧を0.1V以下にする放電工程を有する方法が挙げられる。本実施形態に係る電解装置70の運転方法によれば、変動電源下における電極2の劣化を抑制することが可能となる。
【0155】
まず、電解装置70の運転方法の構成要素のうち、通電工程について説明する。
通電工程は、陽極室5aおよび陰極室5c中の電解液の電気分解が行われる工程である。具体的には、
図1に示すような電解装置70において、電解槽50の陽極室5aおよび陰極室5cに電解液を送液ポンプ71を用いて送液しつつ、整流器74より正通電して陽極室5aおよび陰極室5c中の電解液を電気分解する。また、電気分解より発生した酸素を含む電解液、水素を含む電解液を、それぞれ陽極室5aおよび陰極室5cから気液分離タンク72へ送液し、それぞれ気液分離する。さらに、気液分離タンク72で気液分離した電解液は水補給器73にて水が補給されつつ、送液ポンプ71に戻る。このように通電工程において電解液が循環しながら電気分解されることにより、効率よく電気分解を行うことができる。
【0156】
ここで正通電とは、電解装置70を用いた電解液の電気分解により、陽極2aで酸素、陰極2cで水素を得ることができる方向に電気を通電することを指す。
【0157】
ここで、電解液としては、アルカリ塩が溶解されたアルカリ性の水溶液としてよく、例えば、NaOH水溶液、KOH水溶液等が挙げられる。
アルカリ塩の濃度としては、20質量%~50質量%が好ましく、25質量%~40質量%がより好ましい。
上記運転方法では、イオン導電率、動粘度、冷温化での凍結の観点から、25質量%~40質量%のKOH水溶液が特に好ましい。
【0158】
通電工程において、電解セル65内にある電解液の温度は、80℃~130℃であることが好ましい。
上記温度範囲とすれば、高い電解効率を維持しながら、ガスケット7、隔膜4等の電解装置70の部材が熱により劣化することを効果的に抑制することができる。
電解液の温度は、85℃~125℃であることがさらに好ましく、90℃~115℃であることが特に好ましい。
【0159】
通電工程において、電解セル65に与える電流密度としては、4kA/m2~20kA/m2であることが好ましく、6kA/m2~15kA/m2であることがさらに好ましい。
特に、変動電源を使用する場合には、電流密度の上限を上記範囲にすることが好ましい。
なお、通電工程においては、上記の好ましい電流密度で電気分解を行うことが製造上好ましいが、当該好ましい電流密度を下回るような電流が流れる場合も通電工程に含まれる。
【0160】
通電工程において、電解セル65内の圧力(ゲージ圧)としては、3kPa~3000kPaであることが好ましく、3kPa~1000kPaであることがより好ましく、3kPa~500kPaであることがさらに好ましく、3kPa~100kPaであることがさらに好ましい。
【0161】
続いて、電解装置70の上記運転方法の構成要素のうち、停止工程について説明する。
停止工程は、陽極室5aおよび陰極室5c中の電解液の電気分解が停止している工程である。具体的には、上記通電工程では、陽極室5aにおいて電解液の電気分解により酸素が発生し、陰極室5cでは電解液の電気分解により水素が発生するが、当該停止工程では、このような電気分解が停止する。ただし、停止工程では、通電量が、電解装置70に流すことが許容される最大の正通電量(kA/m2)の1%以下となる通電量であれば正通電していてもよい。なお、最大の正通電量は使用される電解装置70において運転条件として許容される最大の正通電量を意味する。
また、停止工程において、送液ポンプ71を停止させてもよく又は動かした状態にしてもよいが、好ましくは送液ポンプ71を停止することが好ましい。
【0162】
次いで、本実施形態に係る電解装置70の運転方法の構成要素のうち、放電工程について説明する。
放電工程は、停止工程において、電解装置70の電解槽50を外部負荷8に電気的に接続して、5時間以内に対電圧を0.1V以下にする。
電解装置70の運転方法が放電工程を有する場合、変動電源下における電極2の劣化を一層抑制することが可能となる。具体的には、従来の電解装置70の運転方法では、通電工程時に陽極2aおよび陰極2cに蓄積された電荷が停止工程時に陽極2aおよび陰極2cに逆に流れ逆電流が生じ、それに併せて各電極2の電位が徐々に変化することで当該電位が収束していた。ところが、電位が収束する過程で、陽極2aや陰極2cの電位が、電極2自体が腐食する所定の電位域を一定の時間かけて通過することとなり、それ故に、変動電源下で繰り返される電解停止と電解運転により各電極2が劣化する懸念があった。
これに対して、陰極2cの電気容量を、陽極2aの電気容量の1.1倍以上にすることで電極2の劣化を抑制する事ができる。陽極2aの電気容量は、例えば、10000C/m2以下であることが好ましく、陰極2cの電気容量は、例えば、1000C/m2以上であることが好ましい。しかしながら、電解槽50中心付近は原理的に逆電流量が多いため、他の電解セルよりも逆電流の影響を長時間受け続けるため、中心付近以外のセルの陰極2cが腐食電位以下で安定していても、中心付近の陽極2aおよび陰極2cが特徴的に劣化する懸念があった[懸念1]。
また、懸念1と同じ理由で、他の電解セルよりも逆電流の影響を長時間受け続けるため、中心付近以外のセルの陰極2cが酸素発生電位に入る事で酸素が発生し、陽極2aが水素発生電位に入る事で水素が発生することで、爆発性のガスを発生する事による安全上の懸念があった[懸念2]。
電解装置70の上記運転方法において、電解装置70の電解槽50を外部負荷8に電気的に接続して、0.1V以下にする場合、陽極2aや陰極2cの電位が、全セル共通で、所定の腐食電位域を速やかに通過することとなり、懸念1と懸念2を十分に抑制することができる。
なお、上述のように、電解停止時には逆電流が生じ、各電極2の電位が収束して、対電圧が0Vに近づくところ、対電圧が0.1V以下であれば、電極2自体が腐食する所定の電位域外にすることができる。
また、対電圧0.1V以下にする時間は短いほど、電極2の劣化の抑制の観点から好ましいが、当該時間が5時間以内であれば、電極2の劣化を抑制しつつ、外部負荷8に短時間に流れる電流が大きくなりすぎず、外部負荷8の発熱およびその放熱の設計を適切にすることができる。
【0163】
また、放電工程において対電圧0.1V以下とする時間は、好ましくは60分以内であり、より好ましくは30分以内である。
対電圧は、0.1V以下が好ましく、より好ましくは0.0V以下である。
なお、対電圧とは、電解セル65の1つ分の電圧を意味する。また、対電圧は
図1に示すような外部負荷8を用いて、全部の電解セル65について放電を実施する場合には、電解槽50中の端部となる電解セル65の陽極2aと、電解槽50中の端部となる電解セル65の陰極2cと、の間の電位差を測定し(外部負荷8の両端等で測定)、電解セル65の数で除することにより、対電圧を得ることができる。又は、各電解セル65についての対電圧を測定し、それぞれの対電圧の積算値を電解セルの数で除することで得ることができる。又は、特定の1つの電解セル65の対電圧を、放電工程での基準となる対電圧とすることもできる。
【0164】
ところで、放電工程は、停止工程において、電解槽50の電圧が所定の閾値を下回ったときに実施してもよい。これにより、所定の閾値が例えば各電極2の腐食する電位域になる前に設定されることで、各電極2の腐食を抑制するとともに、外部負荷8で発生する熱量を抑制することができる。
なお、当該閾値は、外部負荷8の発熱量、その放熱設計等によって任意にすることができるが、対電圧換算で0.5V以上であることが好ましく、より好ましくは1.0V以上、更に好ましくは1.2V以上である。
【0165】
ここで、電解装置70の上記運転方法は、電解装置70の電解槽50が複極式であって、電解セル65を複数有する場合、特に、電解槽50が電解セル65を30以上有する場合により好適に適用することができる。
すなわち、従来の電解装置70の運転方法では、下記のような課題もあった。
複数の電解セル65を直列にスタックされる電解槽50においては、停止工程時において流れる逆電流は、電解槽50の中でも中央側の電解セル65で比較的大きく、端部の電解セル65で比較的小さくなっていた。このため停止工程時の電極電位の変化は中央側で顕著に進み、端部側では遅くなっていた。
したがって、従来の電解装置70の運転方法では、中央側の電解セル65の電極2と端部側の電解セル65の電極2は、停止工程時において、腐食電位に晒される時間が異なっており、電極2の劣化に電解セル65の位置による分布が生じ、また、端部側の電解セル65の電極2の劣化が顕著となっていた。
また、電極2の劣化の分布以外にも次のような課題があった。すなわち、上述のように逆電流が生じると、各電極2の電位が徐々に変化するが、陽極2aの電位が所定の水素発生電位に、陰極2cの電位が所定の酸素発生電位に達すると、陽極室5aでは水素が、陰極室5cでは酸素が発生する。そして、複数の電解セル65を直列にスタックされる電解槽50においては、中央側の電解セル65で電位が早期に所定の電位に達することとなっていた。そして、その後も、端部側の電解セル65の電圧により中央側の電解セル65にも逆電流が流れ続けることで、中央側の電解セル65において、陽極室5aでは酸素中の水素濃度、陰極室5cでは水素中の酸素濃度が局部的に高まる虞があった。
これに対して、電解装置70の上記放電工程を有する上記運転方法は、外部負荷8による放電が均一化し、それにより、電極劣化の分布を抑制するとともに、放電を促進することで腐食電位に晒される時間を短くすることができる。
また、上記の、陽極室5a内での酸素中の水素濃度、陰極室5c内での水素中の酸素濃度の上昇については、外部負荷8による放電の均一化により、中央側の電解セル65において、電極2の電位が水素発生電位や酸素発生電位に達した後の逆電流を低減することができるので、陽極室5aの水素発生量や陰極室5cの酸素発生量が抑制される。
外部負荷8を用いて電解槽50の電圧を迅速に低下させることにより、保守作業等を行う際に感電する危険性を下げ、且つ電解停止から保守作業を開始するまでの時間を短縮することができる。
【0166】
ところで、電解装置70の上記運転方法では、電解装置70の電解槽50が複極式であって、電解セル65を複数有する場合、放電工程は、
図1に示すような外部負荷8を用いて、全部の電解セル65について放電させることができる。しかし、複数の電解セル65のうちの一部(1つの電解セル65や複数の電解セル65)で実施することができる。一部の電解セル65について実施することにより、当該一部の電解セル65中の電極2をより十分に劣化から保護することができる。
なお、一部の電解セル65について実施する場合には、一部の電解セル65と外部負荷8とを含めて電気回路を形成すればよく、具体的には、正電流方向上流側の端部の電解セル65の陽極2aと、正電流方向下流側の端部の電解セル65の陰極2cとを、間に外部負荷8を介在させてケーブル等で接続することにより一部の電解セル65について実施することができる。
また、一部の電解セル65について放電を実施する場合には、対電圧は、全部の電解セル65について測定する場合と同様に、放電工程を行う対象の電解セル65についての端部となる電解セル65の陽極2aと、電解槽50中の端部となる電解セル65の陰極2cと、の間の電位差を測定し(外部負荷8の両端等で測定)、電解セル65の数で除することにより、対電圧を得ることができる。又は、各電解セル65についての対電圧を測定し、それぞれの対電圧の積算値を電解セルの数で除することで得ることができる。
【0167】
上記運転方法において、陰極2cの保有電荷量が、陽極2aの保有電荷量に対して1.1倍以上であることが好ましい。このような電極を用いて電解装置70を運転した場合に、電解装置70の運転方法を好適に適用することができる。
当該陰極2cの保有電荷量は、通電工程における電解液の電気分解を停止したとき(通電工程の終了時)に、当該保有電荷量(C)に基づき水素ガスの量を制御する陰極室5cの陰極2cが保有する電荷量である。具体的には、陰極2cの保有電荷量(C)は、陰極2cに正通電を流して十分に還元した後、正通電を停止し、逆電流を流しながら陰極2cの電位を測定して、陰極2cの電位が陽極2aの電位と等しくなるまでの逆電流の時間積算値を陰極2cが保有する保有電荷量とする。また、陽極2aの保有電荷量(c)は陰極2cの保有電荷量と同様に測定することができる。
また、上記運転方法において、陰極2cの保有電荷量を、陽極2aの保有電荷量に対して1.1倍以上にする方法としては、陽極2aや陰極2cの材料等を適宜選択することにより行うことができる。
【0168】
本実施形態では、上述の電解装置70の構成要素を用いて、例えば、
図1に示すような構成の電解装置70を作製することができるが、これに限定されるものではない。
【0169】
本実施形態に係る電解装置の運転方法では、太陽光や風力等の変動電源を使用することによって、上述の効果が顕著になる。
【0170】
以上、図面を参照して、本発明の実施形態に係る電解装置、電解装置の運転方法について例示説明したが、本発明の電解装置、電解装置の運転方法は、上記の例に限定されることはなく、上記実施形態には、適宜変更を加えることができる。
【0171】
以下、本発明を実施例、及び比較例について、表1を用いて具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されない。
【0172】
【0173】
(実施例、及び比較例に使用する電極と隔膜)
(陰極の作製)
まず、直径0.15mmのニッケルの細線を20メッシュの目開きで編んだ平織メッシュを、重量平均粒径100μm以下のアルミナ粉を用いてブラストし、次に、6Nの塩酸中にて室温で5分間酸処理した後、水洗、乾燥し、切断加工により、50cm角に調整し、陰極基材Aとした。
【0174】
直径0.15mmのニッケルの細線を40メッシュの目開きで編んだ平織メッシュを、重量平均粒径100μm以下のアルミナ粉を用いてブラストし、次に、6Nの塩酸中にて室温で5分間酸処理した後、水洗、乾燥し、切断加工により、50cm角に調整し、陰極基材Bとした。
【0175】
直径0.1mmのニッケルの細線を60メッシュの目開きで編んだ平織メッシュを、重量平均粒径100μm以下のアルミナ粉を用いてブラストし、次に、6Nの塩酸中にて室温で5分間酸処理した後、水洗、乾燥し、切断加工により、50cm角に調整し、陰極基材Cとした。
【0176】
直径0.1mmのニッケルの細線を100メッシュの目開きで編んだ平織メッシュを、重量平均粒径100μm以下のアルミナ粉を用いてブラストし、次に、6Nの塩酸中にて室温で5分間酸処理した後、水洗、乾燥し、切断加工により、50cm角に調整し、陰極基材Dとした。
【0177】
直径0.05mmのニッケルの細線を200メッシュの目開きで編んだ平織メッシュを、重量平均粒径100μm以下のアルミナ粉を用いてブラストし、次に、6Nの塩酸中にて室温で5分間酸処理した後、水洗、乾燥し、切断加工により、50cm角に調整し、陰極基材Eとした。
【0178】
次に、硝酸パラジウム溶液(田中貴金属製、パラジウム濃度:100g/L)とジニトロジアンミン白金硝酸溶液(田中貴金属製、白金濃度:100g/L)とを、パラジウムと白金のモル比が1:1となるように混合し、塗布液を調製した。
【0179】
塗布ロールの最下部に上記第一塗布液を入れたバットを設置し、EPDM製の塗布ロールに塗布液をしみこませ、その上部にロールと塗布液とが常に接するようにロールを設置し、さらにその上にPVC製のローラーを設置して、陰極基材Aに塗布液を塗布した(ロール法)。塗布液が乾燥する前に手早く、2つのEPDM製スポンジロールの間にこの基材サンプルAを通過させて、陰極基材Aのメッシュの交点に溜まる塗布液を吸い取って除いた。その後、50℃で10分間乾燥させて塗布膜を形成した後、マッフル炉を用いて500℃で10分間の加熱焼成を行って該塗布膜を熱分解させた。このロール塗布、乾燥及び熱分解のサイクルを所定回数繰返し、さらに、空気雰囲気中500℃で1時間の後加熱を行い、陰極Aを作製した。
【0180】
基材を、陰極基材Bにした以外は、陰極Aと同様の方法で、陰極Bを作製した。
【0181】
基材を、陰極基材Cにした以外は、陰極Aと同様の方法で、陰極Cを作製した。
【0182】
基材を、陰極基材Dにした以外は、陰極Aと同様の方法で、陰極Dを作製した。
【0183】
基材を、陰極基材Eにした以外は、陰極Aと同様の方法で、陰極Eを作製した。
【0184】
基材を、ロール塗布、乾燥及び熱分解のサイクルを少なくした以外は、陰極Bと同様の方法で、陰極Fを作製した。
【0185】
(陰極サンプルの酸化曲線の測定)
前記陰極A~Fを、各々一枚ずつ用意し、フッ素樹脂製ビーカーを30wt%KOHの電解液で満たした、その中に浸漬させた。KOHの水溶液の温度は90℃に維持した。陰極、白金金網(対極)及び対極の周りを覆うフッ素樹脂の筒を備え、これらの電気伝導性が確保された装置で、陰極に対して、0.4A/cm2の電流密度の還元電流を流し、30分間、水素を発生させた。その後、0.05A/cm2の酸化電流を流し、陰極の電位の変化を測定した。この電位変化を、流した電流のトータル電荷量に対してプロットして、陰極の酸化曲線とした。
【0186】
測定は、対極として、メッシュ状の白金電極を用いて、温度90℃にて行った。フッ素樹脂の筒としては、その周りに多数の1mmφの穴を開けたものを用いた。陰極の水素極電位は、液抵抗によるオーム損の影響を排除するために、ルギン管を使用する三電極法によって測定した。ルギン管の先端と陰極との間隔は、常に0.05mmに固定した。三電極法用の参照極としては、銀-塩化銀(Ag/AgCl)を用いた。
【0187】
(水素発生時に陰極室内に蓄えられる負の保有電荷量の測定)
陰極A~Fについて、測定した陰極の酸化曲線において、水素極電位が-0.8Vv.s.Ag/AgClになるまで流した電流のトータル電荷量を水素発生時に陰極室に蓄えられる負の保有電荷量とした。
【0188】
(陽極の作製)
実施例、及び比較例に使用する陽極について説明する。
【0189】
厚み0.5mm、開口率は40%のエキスパンドニッケルを、切断加工により、50cm角に調整したものを陽極Aとした。
【0190】
厚み0.5mm、開口率は40%のエキスパンドニッケルを、6Nの塩酸中にて室温で5分間酸処理した後、水洗、乾燥し、切断加工により、50cm角に調整したものを陽極Bとした。
【0191】
あらかじめブラスト処理を施した、厚みは1mm、開口率は54%のニッケルエキスパンドを、切断加工により、50cm角に調整したものを陽極Cとした。
【0192】
粒径が0.2~2μmである酸化ニッケル粉末100重量部、アラビアゴム2.25重量部、カルボキシルメチルセルロース0.7重量部、ラウリル硫酸ナトリウム0.001重量部、及び水100重量部を混合・攪拌して、懸濁液を調整した。噴霧乾燥造粒機を用いて、懸濁液から、粒径が5~50μmである造粒物を調製した。
【0193】
造粒成形物をプラズマ溶射法によって陽極Cの両面に吹き付けた。プラズマ溶射法では、プラズマガスとして、アルゴンと窒素とを1:0.8の割合で混合したガス用いた。導電性基材の表面を被覆する触媒層の前駆体の厚みは、最終的な陽極室の容量が任意の値になるように適宜調整し、陽極の前駆体D、Eとした。
【0194】
これを、石英管中に設置した。この石英管を、管状炉内に差し込んで、石英管内を200℃に加熱し、石英管内へ水素気流を2時間供給し続けることにより、触媒層の前駆体を還元した。以上の工程により、導電性基材と、導電性基材を被覆する触媒層と、を備える電極を得た。この電極を、切断加工により、50cm角に調整した。切断加工により寸法を、縦50cm×横50cmに調整した陽極C、Eとした。
【0195】
(陽極サンプルの酸素極電位の測定)
前記陽極A~Eを一枚用意し、フッ素樹脂製ビーカーを30wt%KOHの電解液で満たした、その中に浸漬させた。KOHの水溶液の温度は90℃に維持した。陽極、白金金網(対極)及び対極の周りを覆うフッ素樹脂の筒を備え、これらの電気伝導性が確保された装置で、陽極に対して、0.4A/cm2の電流密度の参加電流を流し、30分間、水素を発生させた。その後、0.05A/cm2の還元電流を流し、陽極サンプルの電位の変化を測定した。この電位変化を、流した電流のトータル保有電荷量に対してプロットして、陽極の酸化曲線とした。
【0196】
測定は、対極として、メッシュ状の白金電極を用いて、温度90℃にて行った。フッ素樹脂の筒としては、その周りに多数の1mmφの穴を開けたものを用いた。陽極の酸素極電位は、液抵抗によるオーム損の影響を排除するために、ルギン管を使用する三電極法によって測定した。ルギン管の先端と陽極との間隔は、常に0.05mmに固定した。三電極法用の参照極としては、銀-塩化銀(Ag/AgCl)を用いた。
【0197】
(酸素発生時に酸素極室内に蓄えられる正の保有電荷量の測定)
陽極A~Eについて測定した、陽極の還元曲線において、酸素極電位が0Vv.s.Ag/AgClになるまで流した電流のトータル電荷量を酸素発生時に陽極室に蓄えられる正の保有電荷量とした。
【0198】
実施例、及び比較例に使用する隔膜は以下のように作製した。酸化ジルコニウム(「EP酸化ジルコニウム」、第一稀元素化学工業社製)135gとN-メチル-2-ピロリドン(和光純薬工業社製)210gを、粒径0.5mmのSUSボールが1kg入った容量1000mLのボールミルポットに投入した。これらを回転数70rpmで25℃雰囲気下において3時間攪拌して、分散させて混合物を得た。得られた混合物を、ステンレス製のざる(網目30メッシュ)により濾過し、混合物からボールを分離した。ボールを分離した混合物にポリスルホン(「ユーデル」(商標)、ソルベイアドバンストポリマーズ社製)45g及びポリビニルピロリドン(重量平均分子量(Mw)900000、和光純薬工業社製)18gを加え、スリーワンモータを用いて60℃で12時間攪拌して溶解させ、以下の成分組成の塗工液を得た。
ポリスルホン :15質量部
ポリビニルピロリドン :6質量部
N-メチル-2-ピロリドン :70質量部
酸化ジルコニウム :45質量部
【0199】
この塗工液を、基材であるポリフェニレンサルファイドメッシュ(くればぁ社製、膜厚280μm、目開き358μm、糸径150μm)の両表面に対して、コンマコータを用いて塗工厚みが各面150μmとなるよう塗工した。塗工後直ちに、塗工液を塗工した基材を、30℃の純水/イソプロパノール混合液(和光純薬工業社製、純水/イソプロパノール=50/50(v/v))を溜めた凝固浴の蒸気下へ2分間晒した。その後直ちに、塗工液を塗工した基材を、凝固浴中へ4分間浸漬した。そして、ポリスルホンを凝固させることで基材表面に塗膜を形成させた。その後、純水で塗膜を十分洗浄して多孔膜を得た。
【0200】
この多孔膜表面の平均孔径は1.9μmであった。厚みは580μmであった。気孔率は43%であった。ZrO2のモード径は5.0μmであった。多孔膜の平均孔径に対する無機粒子のモード径の比(モード径/平均孔径)は2.6であった。この多孔膜を隔膜Aとした。
【0201】
(実施例および比較例に使用したガスケットと導電性弾性マット)
本実施例および比較例におけるガスケットは、厚み4.0mm、幅18mmの内寸504mm角の四角形状のもので、内側に隔膜を挿入することで保持するためのスリット構造を有するものを使用した。スリット構造は、隔膜の縁部を収容するためにガスケット内側に0.4mmの隙間を幅方向14mmに設けた構造とした。このガスケットは、EPDMゴムを材質とし、100%変形時の弾性率が4.0MPaである。
【0202】
導電性弾性マットは、線径0.15mmのニッケル製ワイヤーを織ったものを、波高さ5mmになるように波付け加工したものを使用した。厚みは5mmであり、50%圧縮変形時の反発力は150g/cm2、目開きは5メッシュ程度であった。
【0203】
(実施例1)
実施例1の複極式電解槽は下記のとおりの手順で作製した。
【0204】
陰極Aを複極式フレームの陰極面に取付け、陽極を複極式エレメントのフレームの陽極面に取付けたものを、複極式エレメントとした。また、陰極Aを陰極ターミナルエレメントのフレームに取付けたものを、陰極ターミナルエレメントとした。陽極Aを陽極ターミナルエレメントのフレームに取付けたものを、陽極ターミナルエレメントとした。
【0205】
上記複極式エレメントを99個用意した。また、上記陰極ターミナルエレメント、上記陽極ターミナルエレメントを、1個ずつ用意した。
【0206】
全ての複極式エレメントと、陰極ターミナルエレメントと、陽極ターミナル電解セルエレメントの、金属フレーム部分にガスケットを貼付けた。
【0207】
陽極ターミナルエレメントと、複極式エレメントの陰極側との間に、隔膜Aを1枚挟み込んだ。99個の複極式エレメントを、隣接する複極式エレメントのうちの一方の陽極側と他方の陰極側とが対向するように、直列に並べ、隣接する複極式エレメントの間に、98枚の隔膜Aを1枚ずつ挟み込んだ。更に、99個目の複極式エレメントの陽極側と、陰極ターミナルエレメントとの間に、隔膜Aを1枚ずつ挟み込んだ。これら、合計セル数100セルをファストヘッド、絶縁板、ルーズヘッドを用いたうえで、プレス機で締付けたものを、実施例1の複極式電解槽とした。
【0208】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で、実施例2の複極式電解槽を用意した。
【0209】
(実施例3)
合計セル数を200セルにした以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3の複極式電解槽を用意した。
【0210】
(実施例4)
陰極B、陽極Dに調整し、合計セル数を200セルにした以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4の複極式電解槽を用意した。
【0211】
(実施例5)
陰極C、陽極Cに調整した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例5の複極式電解槽を用意した。
【0212】
(実施例6)
陰極D、陽極Cに調整した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例6の複極式電解槽を用意した。
【0213】
(実施例7)
陰極E、陽極Cに調整した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例7の複極式電解槽を用意した。
【0214】
(比較例1)
陰極A、陽極Bに調整した以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1の複極式電解槽を用意した。
【0215】
(比較例2)
陰極F、陽極Eに調整し、合計セル数を200セルにした以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2の複極式電解槽を用意した。
【0216】
(比較例3)
実施例1と同様の方法で、比較例3の複極式電解槽を用意した。
【0217】
(比較例4)
合計セル数を200セルにした以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4の複極式電解槽を用意した。
【0218】
電解液として、30%KOH水溶液を用いた。送液ポンプにより、陽極室、酸素分離タンク(陽極用気液分離タンク)、陽極室の循環を、また、陰極室、水素分離タンク(陰極用気液分離タンク)、陰極室の循環を、行った。
電解液の温度は90℃に調整した。
【0219】
なお、循環流路として、配管の電解液に接液する部分についてSGP(配管用炭素鋼鋼管)にテフロンライニング内面処理を施した、20Aの配管を用いた。
【0220】
気液分離タンクは、高さ1400mm、容積1m3のものを用意した。気液分離タンクの液量は、それぞれ設計容積の50%程度とした。
【0221】
整流器から複極式電解槽に、各々の陰極及び陽極の面積S1に対して、6kA/m2となるように電流を流した。実施例1においては、電極の面積S1は500mm×500mmであるため、整流器から複極式電解槽に、1.5kAを通電した。
【0222】
電解槽内の圧力は、圧力計で測定し、陰極側圧力が50kPa、酸素側圧力が49kPaとなるとように調整しながら、電気分解を行った。圧力調整は、圧力計の下流に設置した圧力制御弁により行った。
【0223】
そして、実施例、比較例におけるアルカリ水電解について下記のとおり評価した。
【0224】
(電解試験)
電流密度6kA/m2で、連続で1時間通電し、水電解を行った。電解槽のセル電圧Vを測定し、電解セルの相加平均値(V)を計算により求めた。
【0225】
(電解停止)
電流密度6kA/m2で、連続で1時間通電後、整流器の電源を切り、セル電圧Vを測定し続けた。電解停止直後の時間を基準に、セル電圧Vの相加平均が、0.1V以下になる時間を、放電時間とした。
【0226】
実施例1、4、5、6、7、比較例1、2については、放電時に0.02Ωm2/Cellの外部負荷を用いて電解槽の電圧を迅速に低下させた。
【0227】
実施例2、3については、放電時に2Ωm2/Cellの外部負荷を用いて電解槽の電圧を迅速に低下させた。
【0228】
比較例3、4については、外部負荷を用いず、成り行きで放電させた。
【0229】
(SD試験)
電解試験と電解停止を、5000回繰り返した。そして、500回、1000回、5000回時で、電流密度6kA/m2で、連続で1時間通電し、電解槽のセル電圧を測定し、相加平均値Vを計算により求めた。
【0230】
(ガス濃度測定)
電解停止後の再稼働時の電解槽内の不純物ガス濃度については、陰極室側は水素中酸素濃度(H2/O2)を水素濃度計で測定し、陽極室側は酸素中水素濃度(O2/H2)を酸素中水素濃度計で常時測定した。
【産業上の利用可能性】
【0231】
本発明によれば、本発明は、変動電源下における電極の劣化[懸念1]とガス純度悪化[懸念2]を抑制することが可能な電解装置の運転方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0232】
1 隔壁
2 電極
2a 陽極
2c 陰極
2c1 陰極本体部
2c2 陰極補助部
2c3 導線部
3 外枠
4 隔膜
41 被覆材
4t 隔膜の非被覆上端
5 電極室
5a 陽極室
5c 陰極室
5i 電解液入口
5o 電解液出口
5ai 陽極電解液入口
5ao 陽極電解液出口
5ci 陰極電解液入口
5co 陰極電解液出口
6 整流板
7 ガスケット
8 外部負荷
9 開閉器
10 ヘッダー
10O 外部ヘッダー
10Oai 陽極入口ヘッダー(陽極入口側ホース)
10Oao 陽極出口ヘッダー(陽極出口側ホース)
10Oci 陰極入口ヘッダー(陰極入口側ホース)
10Oco 陰極出口ヘッダー(陰極出口側ホース)
20 導管
20Oai 陽極用配液管
20Oao 陽極用集液管
20Oci 陰極用配液管
20Oco 陰極用集液管
50 複極式電解槽
51g ファストヘッド、ルーズヘッド
51a 陽極ターミナルエレメント
51c 陰極ターミナルエレメント
51r タイロッド
51i 絶縁板
60 複極式エレメント
65 電解セル
70 電解装置
71 送液ポンプ
72 気液分離タンク
72h 水素分離タンク
72o 酸素分離タンク
73 水補給器
74 整流器
75 酸素濃度計
76 水素濃度計
77 流量計
78 圧力計
80 圧力制御弁
102a 陽極
102c 陰極
104 隔膜
104t 隔膜の非被覆上端
105a 陽極室
105c 陰極室
107 ガスケット
165 電解セル
D1 隔壁に沿う所与の方向(鉛直方向)
Z ゼロギャップ構造
L 喫水線
C 電気回路