(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20241030BHJP
F16H 57/029 20120101ALI20241030BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20241030BHJP
【FI】
F16H1/32 A
F16H57/029
F16J15/3204 201
(21)【出願番号】P 2020195859
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2023-05-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】村越 温子
(72)【発明者】
【氏名】石塚 正幸
(72)【発明者】
【氏名】南雲 稔也
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 純
(72)【発明者】
【氏名】門井 幸太
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-199981(JP,A)
【文献】特開2019-97363(JP,A)
【文献】特開2020-85017(JP,A)
【文献】特開2020-16262(JP,A)
【文献】特開2004-360802(JP,A)
【文献】特開2019-167966(JP,A)
【文献】特開2002-2509(JP,A)
【文献】特開平10-96417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 57/029
F16J 15/3204
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部をホロー構造とされる歯車装置であって、
前記ホロー構造のホロー部を構成し、本歯車装置の歯車に環囲される筒状部材と、前記筒状部材の径方向外側に隙間を有して配置される外側部材と、を有し、
前記筒状部材の比重は、前記外側部材の比重より小さく、
前記筒状部材の線膨張係数は、前記外側部材の線膨張係数よりも小さ
く、
前記筒状部材は、樹脂材料で構成されており、
前記外側部材は、鉄系金属で構成されていることを特徴とする歯車装置。
【請求項2】
前記筒状部材と前記外側部材との間にオイルシールが配置され、
前記筒状部材は、本体部と、前記オイルシールのリップ部が当接する当接部と、を有し、
前記当接部は、前記本体部よりも表面粗さが小さいことを特徴とする請求項1に記載の歯車装置。
【請求項3】
前記当接部は、前記本体部よりも硬度が高いことを特徴とする請求項2に記載の歯車装置。
【請求項4】
前記当接部は、前記本体部とは別体に構成され、
前記筒状部材と前記外側部材との間に、前記当接部に隣接する軸受が配置され、
前記本体部は、前記当接部が外嵌される第1外周面部と、前記軸受が外嵌される第2外周面部と、を有し、
前記第1外周面部の外径は、前記第2外周面部の外径よりも小さいことを特徴とする請求項2または3に記載の歯車装置。
【請求項5】
前記筒状部材と前記外側部材との間にオイルシールが配置され、
前記オイルシールのリップ部は、前記外側部材側に設けられることを特徴とする請求項1に記載の歯車装置。
【請求項6】
前記筒状部材と前記外側部材との間に、前記オイルシールに隣接する軸受が配置され、
前記外側部材の前記リップ部が当接する第1内周面部の内径は、前記外側部材の前記軸受が嵌合する第2内周面部の内径よりも小さいことを特徴とする請求項5に記載の歯車装置。
【請求項7】
前記歯車装置は、揺動歯車を揺動させる偏心体を有する偏心体軸を備えた偏心揺動型の歯車装置であり、
前記偏心体軸が、前記外側部材を構成することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の歯車装置。
【請求項8】
前記筒状部材は、前記外側部材の径方向内側に収まる収納部と、前記外側部材から軸方向に突出する突出部を有し、
前記突出部の内径は、前記収納部の内径よりも大きいことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の歯車装置。
【請求項9】
前記突出部の最大内径は、前記外側部材の内径よりも大きいことを特徴とする請求項8に記載の歯車装置。
【請求項10】
前記突出部の最大内径は、前記外側部材の外周を支持する入力軸受の外径よりも大きいことを特徴とする請求項9に記載の歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、中空の筒状部材を有する直交軸減速機が記載されている。この直交軸減速機は、中空の入力軸を有する第1減速部と、入力軸の軸線に直交する軸線を中心周りに設けられる第2減速部と、入力軸を同軸で貫通する筒状部材と、これらの減速部を内蔵する筐体とを有する。この筒状部材は筐体に片持ち状態で固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
装置の中に筒状部材が設けられている歯車装置では、筒状部材の重量に応じて、歯車装置全体が重くなる。特許文献1に記載の減速機では、装置全体の軽量化の観点で十分に対応できていなかった。
【0005】
本発明の目的は、このような課題に鑑み、装置全体の軽量化に有利な歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の歯車装置は、中心部をホロー構造とされる歯車装置であって、ホロー部を構成する筒状部材と、筒状部材の径方向外側に隙間を有して配置される外側部材と、を有する。筒状部材の比重は、外側部材の比重より小さく、筒状部材の線膨張係数は、外側部材の線膨張係数よりも小さい。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、装置全体の軽量化に有利な歯車装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る歯車装置の全体構成を示す断面図である。
【
図2】
図1の歯車装置の要部を拡大して示す断面図である。
【
図3】第2実施形態に係る歯車装置の全体構成を示す断面図である。
【
図4】
図3の歯車装置の要部を拡大して示す断面図である。
【
図5】第3実施形態に係る歯車装置の全体構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0011】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0012】
[第1実施形態]
図1、
図2を参照して、本開示の第1実施形態に係る歯車装置100の構成を説明する。
図1は、本実施形態に係る歯車装置100の全体構成を示す断面図である。
図2は、
図1の要部を拡大して示す断面図である。
【0013】
本実施形態の歯車装置100は、中心部をホロー構造とされる歯車装置であって、ホロー部を構成する筒状部材82と、筒状部材82の径方向外側に隙間を有して配置される外側部材32とを有する。外側部材32は、筒状部材82と隙間を介して配置される部材を意味し、限定されるものではない。外側部材32は、筒状部材82の周りを回転してもよいし、回転しなくてもよい。この例の外側部材32は、後述する入力軸34と出力部材22とを含む。外側部材32は、後述する外歯歯車44、46を含んでもよい。筒状部材82の中空部82aには、電力ケーブルや信号ケーブルを含む複数の電気配線が通される。中空部82aには、電気配線の他に空気を供給するためのエア配管が通される。筒状部材82は、センターパイプと称されることがある。
【0014】
先に、歯車装置100の全体構成を説明する。歯車装置100は、モータ(不図示)からの駆動力を受けて初段減速を行う第1減速機16と、第1減速機16の出力を受けて後段減速を行う第2減速機18とを備える。第2減速機18は、外側ケーシング20に対して出力部材22を相対的に回転駆動する。
【0015】
(第1減速機)
第1減速機16は、直交減速機であって、モータと一体的に回転するピニオン部材24と、ギヤ部材26を備える。ピニオン部材24は、一対の軸受28、30を介して外側ケーシング20に回転自在に支持される。ピニオン部材24は、反モータ側の端部にベベルピニオン部24aが直切り形成される。
【0016】
ギヤ部材26は、該ベベルピニオン部24aと噛合するベベルギヤ部26aを軸方向反第2減速機側に備える。ギヤ部材26は、ボルトB1を介して第2減速機18の入力軸34の端部に連結される。
【0017】
(第2減速機)
図1を参照して、第2減速機18を説明する。本実施形態の第2減速機18は、偏心揺動型の遊星歯車減速機である。以下、後述する第2減速機18の内歯歯車48の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。また、以下、便宜的に、軸方向の一方側(図中左側)を入力側といい、他方側(図中右側)を反入力側という。
【0018】
第2減速機18の入力軸34は、中心軸線Laに沿って配置され、中空部34aを有するホロー軸である。入力軸34には、外周に2個の偏心体36、38が一体的に形成され、入力軸34は偏心体軸を兼ねている。各偏心体36、38の軸心は、互いに180度の位相差にて偏心している。偏心体36、38の外周には、ころ軸受40、42を介して外歯歯車44、46が組み込まれる。外歯歯車44、46は、内歯歯車48に内接噛合する。
【0019】
この例の内歯歯車48は、内側ケーシング50と一体化された内歯歯車本体48aと、内歯歯車本体48aに回転自在に支持され、内歯歯車48の内歯を構成する外ピン48bとで構成される。外歯歯車44、46の歯数は内歯歯車48の歯数(外ピン48bの本数)よりも僅かだけ(この例では1だけ)少ない。外歯歯車44、46には、内ピン孔44a、46aが形成されており、この内ピン孔44a、46aをスリーブ52の被せられた内ピン53が貫通する。内ピン孔44a、46aの内径は、スリーブ52の外径よりも大きく、スリーブ52は、外歯歯車44、46が偏心揺動する際に、常に内ピン孔44a、46aと接触する。
【0020】
外歯歯車44、46の軸方向両側には、第1、第2キャリヤ54、56が設けられ、それぞれアンギュラころ軸受58、60を介して内側ケーシング50に回転自在に支持される。内ピン53は、この第1、第2キャリヤ54、56に圧入により固定される。
【0021】
外歯歯車44、46には、キャリヤピン孔44b、46bが形成されており、このキャリヤピン孔44b、46bをキャリヤピン62が貫通する。キャリヤピン62は、キャリヤピン孔44b、46bに対して隙間を持って遊嵌する。キャリヤピン62は、そのねじ部62aが第1キャリヤ54にねじ込まれるとともに、ナット64が螺合される。この構成により、キャリヤピン62は、第1、第2キャリヤ54、56と連結され、一体化される。
【0022】
入力軸34は、第1、第2キャリヤ54、56に一対のシール玉軸受(入力軸受)66、68を介して回転自在に支持される。一対のシール玉軸受66、68はそれぞれの外輪66a、68aが第1、第2キャリヤ54、56の段部54a、56aに当接する。また、それぞれの内輪66b、68bがリング70、72を介して入力軸34に形成された段部34c、34bに当接する。リング70、72は、ころ軸受40、42の位置決めを行うための押さえリングとして機能する。このため、第2減速機18の入力軸34は、第1、第2キャリヤ54、56に一対のシール玉軸受66、68を介して軸方向に移動が制限され、円周方向に回転可能に支持される。
【0023】
内側ケーシング50は、ボルトB2を介して外側ケーシング20と連結される。また、第2キャリヤ56は、ボルトB4を介して出力部材22と連結される。なお、出力部材22は、ボルト孔78を利用して被駆動装置(不図示)と連結される。出力部材22は、径方向中央に貫通孔22hを有し、全体がリング状に形成される。
【0024】
ギヤ部材26と入力軸34の近傍の構成を説明する。入力軸34の端部にはギヤ部材26がボルトB1を介して設けられる。ギヤ部材26の外周には、ピニオン部材24のベベルピニオン部24aと噛合するベベルギヤ部26aが形成される。ギヤ部材26には、ギヤ部材26を支持する内側軸受80が配置される。内側軸受80の外輪80aは、ギヤ部材26に形成された段部26cと該ギヤ部材26に嵌め込まれた止め輪90との間に挟まれる。内側軸受80の内輪80bは、筒状部材82の段部82cと当接する。内側軸受80の内周に、筒状部材82が嵌入される。
【0025】
筒状部材82は、中空部82aを有し、第2減速機18の径方向中央を、軸方向に貫通する。筒状部材82は、入力側の端部にフランジ部82bを有し、このフランジ部82bの外周付近でボルトB3を介して外側ケーシング20に固定され、一体化される。筒状部材82は、第2減速機18を貫通して出力部材22の貫通孔22h内に挿入される。筒状部材82は、出力部材22の貫通孔22h内において軸受86によって支持される。筒状部材82は、入力側の端部がボルトB3を介して外側ケーシング20に固定され、反入力側の端部が軸受86を介して出力部材22に回転自在に支持される。
【0026】
筒状部材82の反入力側の先端部には、筒状部材82と出力部材22との間を封止するオイルシール88が配置される。上述したように出力部材22は外側部材に含まれる。
【0027】
図2を参照して、本実施形態の特徴構成を説明する。筒状部材82を有する歯車装置100では、筒状部材82の重量に応じて、装置全体が重くなる。歯車装置100が重いと、歯車装置100を搭載可能な機器の範囲が制限される。このため、筒状部材82を比重の小さい材料で形成することが考えられる。しかし、筒状部材82の線膨張係数が外側部材32の線膨張係数より大きいと、温度が上昇したときに両者の隙間が小さくなり、接触する可能性が高まる。両者の間に大きな隙間を設けることも考えられるが、それに応じて歯車装置100が大きくなる。
【0028】
このため、本実施形態では、筒状部材82の比重は、外側部材32の比重より小さくされ、筒状部材82の線膨張係数は、外側部材32の線膨張係数よりも小さい。外側部材32である出力部材22および入力軸34は、例えば、炭素鋼やステンレス鋼等の鉄系金属で構成できる。この場合、筒状部材82は、鉄系金属よりも比重および線膨張係数が小さい炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)等の樹脂材料や、チタン等の軽金属(比重が4ないし5以下の金属)で構成できる。
【0029】
図2を参照してオイルシール88を説明する。オイルシール88は、内側の筒状部材82と外側の出力部材22との間に配置される。オイルシール88は、出力部材22に内嵌されるリング部88bと、筒状部材82に当接するリップ部88dと、リング部88bとリップ部88dとを接続する接続部88cとを有する。オイルシール88は、リップ部88dが筒状部材82に当接することにより、筒状部材82と出力部材22との間の隙間をシールする。出力部材22が回転するとき、オイルシール88は出力部材22と一体的に回転する。このとき、リップ部88dは筒状部材82に対して摺動しながら回転する。オイルシール88と軸受86とは互いに隣接しており、軸方向に並んで配置される。互いに隣接することは、直接的に隣接している場合に限定されず、間に空間や他の部材が介在している場合も含む。
【0030】
リップ部88dが当接する部分の表面粗さが大きい(表面の凹凸が大きい)場合、リップ部88dの摩耗が早くなり、寿命が短くなる。一方、筒状部材82全体の表面粗さを小さく加工すると、加工工数が多くかかりコスト的に不利になる。そこで、本実施形態の筒状部材82は、本体部81と、オイルシール88のリップ部88dが当接する当接部83とを有し、当接部83は、本体部81よりも表面粗さが小さく構成される。本体部81と当接部83とを別ピース(別体)にすることにより、筒状部材82のコストアップを抑えつつ、当接部83の表面粗さを小さくできる。ここで、表面粗さを示す指標としては、例えば算術平均粗さRaを用いることができる。
【0031】
当接部83が軟らかいと、摺動抵抗が増え摩耗しやすくなる。一方、筒状部材82全体を硬くすると、加工工数が多くかかりコスト的に不利になる。そこで、本実施形態の当接部83は、本体部81よりも硬度が高く構成される。この場合、筒状部材82のコストアップを抑えつつ、当接部83の摩耗を低減できる。また、当接部83の比重は本体部81の比重以上であってもよいし、未満であってもよい。当接部83の線膨張係数は、外側部材32の線膨張係数以上であってもよいし、未満であってもよい。本実施形態の当接部83は、鉄系金属で形成される。
【0032】
当接部83の形状に限定はないが、本実施形態の当接部83は、薄肉のパイプ状部材である。当接部83の軸方向幅は、リップ部88dが当接する軸方向範囲にマージンを加えた大きさに設定される。
【0033】
上述したように、当接部83の入力側に隣接して軸受86が配置されている。本体部81の当接部83が嵌合する第1外周面部81aの外径Dg1が、本体部81の軸受86が嵌合する第2外周面部81bの外径Dg2よりも大きいと、当接部83の位置決めが難しい。そこで、本実施形態では、第1外周面部81aの外径Dg1は、第2外周面部81bの外径Dg2よりも小さくされる。当接部83は、第1外周面部81aと第2外周面部81bとの外径差により位置決めされる。
【0034】
図1を参照して、歯車装置100の動作を説明する。モータが回転して第1減速機16のピニオン部材24が回転すると、ピニオン部材24の端部に形成されているベベルピニオン部24aが一体的に回転する。ベベルピニオン部24aが回転すると、ベベルピニオン部24aとベベルギヤ部26aが噛合しているギヤ部材26と入力軸34とが一体的に回転する。
【0035】
入力軸34の回転に伴い偏心体36、38が回転すると、ころ軸受40、42を介して外歯歯車44、46が内歯歯車48に内接噛合しながら揺動する。外歯歯車44、46の歯数は、内歯歯車48の歯数(外ピンの本数)より1だけ少ないため、入力軸34が1回回転して外歯歯車44、46が1回揺動する毎に、外歯歯車44、46は、内歯歯車48に対して1歯分だけ円周方向の位相がずれるように自転する。外歯歯車44、46の自転成分が内ピン孔44a、46aとスリーブ52および内ピン53との当接を介して第1、第2キャリヤ54、56に伝達される。
【0036】
第1、第2キャリヤ54、56は、内ピン53およびキャリヤピン62を介して強固に連結されているため、内側ケーシング50に対して相対的に回転する。外側ケーシング20はボルトB2を介して内側ケーシング50に固定されており、出力部材22は、ボルトB4を介して第2キャリヤ56に固定されている。第1、第2キャリヤ54、56が内側ケーシング50に対して回転することにより、出力部材22が外側ケーシング20に対して相対回転する。出力部材22が回転すると、出力部材22に連結された被駆動装置は、出力部材22と一体的に回転する。
【0037】
歯車装置100の特徴を説明する。筒状部材82の比重は、外側部材32(出力部材22)の比重より小さく、筒状部材82の線膨張係数は、外側部材32(出力部材22)の線膨張係数よりも小さいため、軽量化に有利である。また、温度が上昇しても両者の隙間が確保され、両者が接触する可能性を低減できる。
【0038】
以下、本開示の第2、第3実施形態を説明する。第2、第3実施形態の図面および説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。したがって、第2、第3実施形態における第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、第1実施形態の説明が適用される
【0039】
[第2実施形態]
図3、
図4を参照して、本開示の第2実施形態に係る歯車装置100の構成を説明する。
図3は、本実施形態に係る歯車装置100の全体構成を示す断面図である。
図4は、
図3の要部を拡大して示す断面図である。
【0040】
第2実施形態は、筒状部材82が当接部83を有せず、オイルシール88のリップ部88dが出力部材22(外側部材32)側に設けられる点で第1実施形態と異なり、他の構成は共通である。したがって、主にオイルシール88の構成を説明する。
図4に示すように、本実施形態のオイルシール88は、筒状部材82に外嵌されるリング部88bと、出力部材22に当接するリップ部88dと、リング部88bとリップ部88dとを接続する接続部88cとを有する。
【0041】
本実施形態のオイルシール88は、リップ部88dが出力部材22に当接することにより、筒状部材82と出力部材22との間の隙間をシールする。出力部材22が回転するとき、オイルシール88は回転せず、リップ部88dに対して摺動しながら出力部材22が回転する。リップ部88dを径方向外側に配置することで、リップ部88dが、筒状部材82を外側部材32より比重が小さい素材にした影響を受けにくくなる。例えば、筒状部材82が樹脂で、出力部材22が鉄系金属の場合は、硬度が不足するという不具合を防止できる。また、筒状部材82のコストアップを抑えつつ、リップ部88dに当接する出力部材22の表面粗さを小さくできる。
【0042】
オイルシール88のシール性を確保する観点から、リップ部88dが当接する部分の周方向の長さは小さいことが望ましい。このため、本実施形態では、出力部材22(外側部材32)のリップ部88dが当接する第1内周面部22aの内径Dn1は、出力部材22の軸受86が嵌合する第2内周面部22bの内径Dn2よりも小さい。この場合、リップ部88dが当接する部分の周方向の長さが小さくなるため、シール性の確保が容易になる。
【0043】
本実施形態は、第1実施形態と同様の作用と効果を奏する。
【0044】
[第3実施形態]
図5を参照して、本開示の第3実施形態に係る歯車装置100の構成を説明する。
図5は、本実施形態に係る歯車装置100の全体構成を示す断面図である。第3実施形態は、オイルシール88のリップ部88dが出力部材22(外側部材32)側に設けられ、筒状部材82にラッパ状部82eが設けられ、ギヤ部材26のベベルギヤ部26aが反入力側に寄って配置される点で第1実施形態と異なり、他の構成は共通である。したがって、これらの構成を説明する。
【0045】
図5に示すように、本実施形態のオイルシール88は、当接部83に外嵌されるリング部88bと、出力部材22に当接するリップ部88dと、リング部88bとリップ部88dとを接続する接続部88cとを有する。
【0046】
本実施形態のオイルシール88は、リップ部88dが出力部材22に当接することにより、筒状部材82と出力部材22との間の隙間をシールする。出力部材22が回転するとき、オイルシール88は回転せず、リップ部88dに対して摺動しながら出力部材22が回転する。
【0047】
図5に示すように、筒状部材82にラッパ状部82eは、内側軸受80の入力側からフランジ部82bに向かって徐々に拡径し、フランジ部82bに接続される。ラッパ状部82eの曲率半径は、第1実施形態のフランジ部82bの内周側の接続部の曲率半径より大きい。
【0048】
図5に示すように、ギヤ部材26のベベルギヤ部26aが反入力側に寄って配置されるため、装置の小型化と、筒状部材82の入力側の大中空径化を実現できる。また、内側軸受80をボルトB1の頭の近傍に配置したため、ボルトB1が緩んだ場合でもボルトB1の落下を防げる。また、内側軸受80の外輪80aをベベルギヤ部26aのインローとして用いるため、専用の部材を設ける場合より、コスト的に有利である。また、ベベルギヤ部26aの反入力側に空間を設けたので、アンギュラころ軸受58から排出された潤滑剤が第2減速機18の内部方向に案内される。
【0049】
本実施形態は、筒状部材82は、外側部材32の径方向内側に収まる収納部82sと、外側部材32から軸方向に突出する突出部82gを有し、突出部82gの内径は、収納部82sの内径よりも大きい。この例では、突出部82gはラッパ状部82eを含んでいる。突出部82gの最大内径は、外側部材32の内径よりも大きい。突出部82gの最大内径は、外側部材32の外周を支持する入力軸受66、68の外径よりも大きい。また、本実施形態では、突出部82gの内径が主軸受58の内径やキャリヤ54の外径よりも大きい。筒状部材82の突出部82gの内径が収納部82sの内径よりも大きいことにより、突出部82gの内径側の空間をより大きく使用できる。
【0050】
本実施形態は、第1実施形態と同様の作用と効果を奏する。加えて、本実施形態によれば、ベベルギヤ部26a周辺の強度を維持しながら装置の軸方向長を短縮し、軽量化を実現できる。
【0051】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明するが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0052】
以下、変形例を説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0053】
[変形例]
第1実施形態の説明では、第1減速機16を備える例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1減速機16を備えず、モータから第2減速機18に直接回転が伝達されてもよい。
【0054】
第1実施形態の説明では、第2減速機18がセンタークランクタイプの偏心揺動型減速装置である例を示したが、本発明はこれに限定されない。第2減速機18は、中心部をホロー構造とされる歯車装置であればよく、減速機構の種類は特に限定されない。例えば、中心からオフセットした位置に複数のクランク軸が配置されるいわゆる振り分けタイプの偏心揺動型減速装置、撓み噛み合い式減速装置、単純遊星減速装置などであってもよい。また、偏心体により内歯歯車(揺動歯車)を揺動させる内歯揺動タイプの偏心揺動型減速装置であってもよい。
【0055】
実施形態の説明では、外歯歯車の数が2である例を示したが、外歯歯車の数は、1または3以上であってもよい。
【0056】
実施形態の説明では、第1、第2キャリヤ54、56を接続するためのピン部材として、外歯歯車44、46の駆動力の伝達に寄与する内ピン53と、駆動力の伝達に寄与しないキャリヤピン62とを備える例を示したが、キャリヤピン62を備えることは必須ではない。
【0057】
上述の各変形例は実施形態と同様の作用および効果を奏する。
【0058】
上述した実施形態の構成要素と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0059】
16 第1減速機、 18 第2減速機、 22 出力部材、 22a 第1内周面部、 22b 第2内周面部、 32 外側部材、 34 入力軸、 34a 中空部、 44 外歯歯車、 48 内歯歯車、 53 内ピン、 54 第1キャリヤ、 56 第2キャリヤ、 81 本体部、 81a 第1外周面部、 81b 第2外周面部、 82 筒状部材、 82a 中空部、 82b フランジ部、 83 当接部、 86 軸受、 88 オイルシール、 88d リップ部、 100 歯車装置。