(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】匂い検出装置及び匂い検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20241030BHJP
G01N 27/04 20060101ALN20241030BHJP
G01N 27/22 20060101ALN20241030BHJP
【FI】
G01N5/02 A
G01N27/04 A
G01N27/22 A
(21)【出願番号】P 2020214802
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 将志
(72)【発明者】
【氏名】村井 佑多
(72)【発明者】
【氏名】槇 恒
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-012732(JP,A)
【文献】特開2013-200146(JP,A)
【文献】特開2020-176989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/02
G01N 27/04
G01N 27/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定開始時刻から測定終了時刻までの間に匂い成分を検出する匂いセンサと、
前記測定開始時刻から前記測定終了時刻までの間に湿度を検出する湿度センサと、
前記測定開始時刻後の時刻であ
って前記湿度センサが検出する湿度の変化量が小さくなる算出開始時刻を
ユーザからの指定、記憶部に記憶された情報、または前記湿度センサによって検出された湿度に基づいて特定し、前記算出開始時刻から前記測定終了時刻までの前記湿度センサの出力に基づいて、前記算出開始時刻から前記測定終了時刻までの前記匂いセンサの出力を補正する演算部と、
前記演算部により補正された前記匂いセンサの出力に基づいて前記匂い成分を判定する判定部と
を具備する匂い検出装置。
【請求項2】
測定開始時刻から測定終了時刻までの間に匂い成分を検出する匂いセンサと、
前記測定開始時刻から前記測定終了時刻までの間に湿度を検出する湿度センサと、
前記測定開始時刻後の時刻である算出開始時刻を特定し、前記算出開始時刻から前記測定終了時刻までの前記湿度センサの出力に基づいて、前記算出開始時刻から前記測定終了時刻までの前記匂いセンサの出力を補正する演算部と、
前記演算部により補正された前記匂いセンサの出力に基づいて前記匂い成分を判定する判定部と
を具備し、
前記演算部は、前記湿度センサによって検出された湿度の出力に基づいて前記算出開始時刻を特定する
匂い検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の匂い検出装置であって、
前記演算部は、前記湿度センサの出力の変化量が十分小さくなった時刻を前記算出開始時刻とする
匂い検出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の匂い検出装置であって、
前記演算部は、前記測定開始時刻後に、前記湿度の時間に対する傾きが最初に所定の値となった時刻を前記算出開始時刻とする
匂い検出装置。
【請求項5】
請求項4に記載の匂い検出装置であって、
前記演算部は、前記測定開始時刻後に、前記傾きが最初に0となった時刻を前記算出開始時刻とする
匂い検出装置。
【請求項6】
請求項3に記載の匂い検出装置であって、
前記演算部は、前記測定開始時刻後に、前記湿度の所定時間当たりの変化量の比率が最初に所定の値となった時刻を前記算出開始時刻とする
匂い検出装置。
【請求項7】
請求項1に記載の匂い検出装置であって、
前記演算部は、
前記ユーザ
からの指定に基づいて前記算出開始時刻
を特定する
匂い検出装置。
【請求項8】
請求項
1から7のうちいずれか1項に記載の匂い検出装置であって、
前記匂いセンサは、匂い成分の吸着により共振周波数が変動する水晶振動子マイクロバランスセンサであ
る
匂い検出装置。
【請求項9】
請求項
8に記載の匂い検出装置であって、
前記湿度センサは静電容量式湿度センサである
匂い検出装置。
【請求項10】
請求項
8に記載の匂い検出装置であって、
前記湿度センサは抵抗式湿度センサである
匂い検出装置。
【請求項11】
請求項
8に記載の匂い検出装置であって、
前記匂いセンサは、吸着する匂い成分が互いに異なる複数の匂いセンサを含む
匂い検出装置。
【請求項12】
測定開始時刻から測定終了時刻までの間に匂い成分を検出する匂いセンサと、前記測定開始時刻から前記測定終了時刻までの間に湿度を検出する湿度センサの出力を取得する取得部と、
前記測定開始時刻後の時刻であ
って前記湿度センサが検出する湿度の変化量が小さくなる算出開始時刻を
ユーザからの指定、記憶部に記憶された情報、または前記湿度センサによって検出された湿度に基づいて特定し、前記算出開始時刻から前記測定終了時刻までの前記湿度センサの出力に基づいて、前記算出開始時刻から前記測定終了時刻までの前記匂いセンサの出力を補正する演算部と、
前記演算部により補正された前記匂いセンサの出力に基づいて前記匂い成分を判定する判定部と
を具備する匂い検出装置。
【請求項13】
測定開始時刻後の時刻であ
って湿度センサが検出する湿度の変化量が小さくなる算出開始時刻を
ユーザからの指定、記憶部に記憶された情報、または前記湿度センサによって検出された湿度に基づいて特定し、前記算出開始時刻から測定終了時刻までの
前記湿度センサの出力に基づいて、前記算出開始時刻から前記測定終了時刻までの匂いセンサの出力を補正し、
補正された前記匂いセンサの出力に基づいて匂い成分を判定する
匂い検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体中の匂い成分を検出する匂い検出装置及び匂い検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
匂いセンサは、気体中の匂い成分を吸着する感応膜を備える。感応膜を所定の周波数で振動させ、匂い成分の吸着による周波数変動を観測することで匂い成分を検出することができる。匂いセンサでは、気体の湿度によって匂い成分の検出結果に影響が生じるため、湿度の影響を補正する必要がある。
【0003】
これまでの匂いセンサやガスセンサにおいても、湿度の影響を除外するため、様々な手法が検討されている。例えば、特許文献1にはガス感知層のヒーター加熱を繰り返し、その際の昇温の度合いから湿度の影響を判断する手法が開示されている。また、特許文献2には、ガスセンサの加熱温度を2段階で切り替え、それによるガスセンサの抵抗値の変動から湿度の影響を見積もる手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-45546号公報
【文献】特開2013-200145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では湿度センサの応答が、ガスセンサの応答より遅れを生じるため、精度よく湿度の影響を補正することができない。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、湿度による影響を抑制し、高精度に匂い成分を検出することが可能な匂い検出装置及び匂い検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る匂い検出装置は、匂いセンサと、湿度センサと、演算部と、判定部とを具備する。
上記匂いセンサは、測定開始時刻から測定終了時刻までの間に匂い成分を検出する。
上記湿度センサは、上記測定開始時刻から上記測定終了時刻までの間に湿度を検出する。
上記演算部は、上記測定開始時刻後の時刻であって上記湿度センサが検出する湿度の変化量が小さくなる算出開始時刻をユーザからの指定、記憶部に記憶された情報、または上記湿度センサによって検出された湿度に基づいて特定し、上記算出開始時刻から上記測定終了時刻までの上記湿度センサの出力に基づいて、上記算出開始時刻から上記測定終了時刻までの上記匂いセンサの出力を補正する。
上記判定部は、上記演算部により補正された上記匂いセンサの出力に基づいて上記匂い成分を判定する。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る匂い検出装置は、匂いセンサと、湿度センサと、演算部と、判定部とを具備する。
上記匂いセンサは、測定開始時刻から測定終了時刻までの間に匂い成分を検出する。
上記湿度センサは、上記測定開始時刻から上記測定終了時刻までの間に湿度を検出する。
上記演算部は、上記測定開始時刻後の時刻である算出開始時刻を特定し、上記算出開始時刻から上記測定終了時刻までの上記湿度センサの出力に基づいて、上記算出開始時刻から上記測定終了時刻までの上記匂いセンサの出力を補正する。
上記判定部は、上記演算部により補正された上記匂いセンサの出力に基づいて上記匂い成分を判定する。
上記演算部は、上記湿度センサによって検出された湿度の出力に基づいて上記算出開始時刻を特定する。
【0009】
上記演算部は、上記湿度センサの出力の変化量が十分小さくなった時刻を上記算出開始時刻としてもよい。
【0010】
上記演算部は、上記測定開始時刻後に、上記湿度の時間に対する傾きが最初に所定の値となった時刻を上記算出開始時刻としてもよい。
【0011】
上記演算部は、上記測定開始時刻後に、上記傾きが最初に0となった時刻を上記算出開始時刻としてもよい。
【0012】
上記演算部は、上記測定開始時刻後に、上記湿度の所定時間当たりの変化量の比率が最初に所定の値となった時刻を上記算出開始時刻としてもよい。
【0013】
上記演算部は、上記ユーザからの指定に基づいて上記算出開始時刻を特定してもよい。
【0015】
上記匂いセンサは、匂い成分の吸着により共振周波数が変動する水晶振動子マイクロバランスセンサであってもよい。
【0016】
上記湿度センサは静電容量式湿度センサであってもよい。
【0017】
上記湿度センサは抵抗式湿度センサであってもよい。
【0018】
上記匂いセンサは、吸着する匂い成分が互いに異なる複数の匂いセンサを含んでもよい。
【0019】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る匂い検出装置は、取得部と、演算部と、判定部とを具備する。
上記取得部は、測定開始時刻から測定終了時刻までの間に匂い成分を検出する匂いセンサと、上記測定開始時刻から上記測定終了時刻までの間に湿度を検出する湿度センサの出力を取得する。
上記演算部は、上記測定開始時刻後の時刻であって上記湿度センサが検出する湿度の変化量が小さくなる算出開始時刻をユーザからの指定、記憶部に記憶された情報、または上記湿度センサによって検出された湿度に基づいて特定し、上記算出開始時刻から上記測定終了時刻までの上記湿度センサの出力に基づいて、上記算出開始時刻から上記測定終了時刻までの上記匂いセンサの出力を補正する。
上記判定部は、上記演算部により補正された上記匂いセンサの出力に基づいて上記匂い成分を判定する。
【0020】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る匂い検出方法は、測定開始時刻後の時刻であって湿度センサが検出する湿度の変化量が小さくなる算出開始時刻をユーザからの指定、記憶部に記憶された情報、または上記湿度センサによって検出された湿度に基づいて特定し、上記算出開始時刻から測定終了時刻までの上記湿度センサの出力に基づいて、上記算出開始時刻から上記測定終了時刻までの匂いセンサの出力を補正し、補正された上記匂いセンサの出力に基づいて匂い成分を判定する。
【発明の効果】
【0021】
以上のように本発明によれば、湿度による影響を抑制し、高精度に匂い成分を検出することが可能な匂い検出装置及び匂い検出方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態に係る匂い検出装置の模式図である。
【
図2】上記匂い検出装置の測定フローを示す模式図である。
【
図3】上記匂い検出装置のクリーニングフローを示す模式図である。
【
図4】上記匂い検出装置の第1ポンプ及び第2ポンプの動作タイミングを示すタイミングチャートである。
【
図5】上記匂い検出装置の動作を示すフローチャートである。
【
図6】上記匂い検出部が備える匂いセンサの出力(周波数変動)と湿度センサの出力(相対湿度)の時間変化を示すグラフである。
【
図7】
図6に示すグラフを、算出開始時刻を原点としてオフセットしたグラフである。
【
図8】
図7における周波数変動(ch3)の最大値及び最小値を示すグラフである。
【
図9】
図7における相対湿度の変化量を示すグラフである。
【
図10】
図6における周波数変動(ch3)の最大値及び最小値を示すグラフである。
【
図11】
図6における相対湿度の変化量を示すグラフである。
【
図12】
図6における相対湿度の変化量が十分小さくなったときの時刻である変動時刻を示すグラフである。
【
図13】
図6の一部拡大図であり、傾きによる算出開始時刻の特定方法を示すグラフである。
【
図14】
図6の一部拡大図であり、変化量による算出開始時刻の特定方法を示すグラフである。
【
図15】周波数変動と相対湿度の時間変化であり、湿度による影響を示すグラフである。
【
図16】周波数変動と相対湿度の時間変化であり、匂いセンサと湿度センサの湿度に対よる影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態に係る匂い検出装置について説明する。
【0024】
[匂い検出装置の構成]
図1は本実施形態に係る匂い検出装置100の構成を示すブロック図である。同図に示すように匂い検出装置100は、匂い検出部110と制御部120を備える。
【0025】
匂い検出部110は、チャンバ111、匂いセンサ112、湿度センサ113、温度センサ114、第1ポンプ115、第2ポンプ116及びフィルタ117を備える。
【0026】
チャンバ111は、匂いセンサ112、湿度センサ113及び温度センサ114を収容する。チャンバ111には第1吸入口111a、第2吸入口111b及び排出口111cが設けられている。
【0027】
匂いセンサ112はチャンバ111内に収容され、チャンバ111内に供給された気体に含まれる匂い成分を検出する。匂いセンサ112は、匂い成分が吸着することにより匂い成分を検出可能なセンサであり、例えばQCM(Quartz Crystal Microbalance:水晶振動子マイクロバランス)センサとすることができる。QCMセンサは、水晶振動子の電極表面に検出対象成分を吸着するための感応膜が設けられた構成を有する。水晶振動子の電極表面に匂い成分が吸着すると、その質量に応じて共振周波数が変動する(下がる)ため、微量な質量変化を検出することができる。
【0028】
なお、匂いセンサ112に用いる振動素子として水晶振動子を例にあげたが、水晶振動子以外にセラミック振動子、表面弾性波素子、カンチレバー、ダイヤフラム等、吸着膜の匂い物質吸着による重量増加や膨張応力増加といった物理変化を判定し電気信号に変換できる他の振動素子も適用可能である。また、匂いセンサ112として、吸着膜としての半導体の匂い物質吸着による抵抗値変化、すなわち出力信号変化を用いた半導体式センサを用いてもよい。
【0029】
匂いセンサ112が検出する匂い成分は、典型的には高分子化合物等の空気中において比較的重い分子であるが、特に限定されない。匂いセンサ112が検出する匂い成分は人間が嗅覚で感知可能な成分に限られず、気体中に存在する化学種であればよい。
【0030】
図1に示すように匂い検出装置100は、チャンネル1(ch1)からチャンネル16(ch16)まで16個の匂いセンサ112を備える。各匂いセンサ112はそれぞれが異なる感応膜を備え、それぞれに異なる匂い成分が吸着するものとすることができる。匂い検出装置100が備える匂いセンサ112の数は特に限定されず、1つ以上であればよい。また、匂いセンサ112は、QCMセンサ以外にも匂い成分が吸着し、それを検出可能なものであればよい。
【0031】
湿度センサ113はチャンバ111内に収容され、チャンバ111内の湿度を検出する。湿度センサ113は、湿度の変化によるセンサ素子の静電容量の変化を検出する静電容量式の湿度センサとすることができる。また、湿度センサ113は湿度の変化によるセンサ素子の抵抗値の変化を検出する抵抗式の湿度センサであってもよい。
【0032】
温度センサ114はチャンバ111内に収容され、チャンバ111内の温度を検出する。温度センサ114の種類は特に限定されない。
【0033】
第1ポンプ115は、第1吸入口111aに接続され、第1吸入口111aを介してチャンバ111内に気体を送出する。第1ポンプ115は例えばダイアフラムポンプとすることができるが他のポンプであってもよい。
【0034】
第2ポンプ116は、第2吸入口111bに接続され、第2吸入口111bを介してチャンバ111内に気体を送出する。第2ポンプ116は例えばダイアフラムポンプとすることができるが他のポンプであってもよい。
【0035】
フィルタ117は、第2吸入口111bに接続され、第2吸入口111bを介してチャンバ111内に流入する気体から匂い成分を除去する。フィルタ117は少なくともの各匂いセンサ112の検出対象である匂い成分を除去可能な構成を有する。また、フィルタ117は水分子を除去可能なものが好適である。
【0036】
制御部120は、匂い検出部110と接続され、匂い検出部110の出力を演算処理する。
図1に示すように制御部120は、取得部121、演算部122、判定部123及び記憶部124を備える。
【0037】
取得部121は、
図1に示すように各匂いセンサ112、湿度センサ113及び温度センサ114と接続され、各センサの出力を取得する。取得部121と各センサの接続は有線でも無線でもよい。取得部121は、取得した各センサの出力を演算部122に供給する。
【0038】
演算部122は、取得部121から供給された各センサの出力を用いて、後述するように演算処理を実行し、算出結果を判定部123に供給する。
【0039】
判定部123は、演算部122から供給された算出結果を用いて匂い成分の判定を実行する。判定部123は匂い成分の有無、匂い成分の濃度、匂いの種類及び匂いの強度のうち少なくともいずれか一つを判定することができる。判定部123は判定結果と匂い検出部110による測定結果を記憶部124に供給する。
【0040】
記憶部124は、判定部123による判定結果と匂い検出部110による測定結果を記憶する。また、記憶部124は後述する算出待機時間を記憶していてもよい。
【0041】
上述した制御部120の各構成は、ハードウェアとソフトウェアの協働により実現される機能的構成であり、その実現態様は特に限定されない。即ち制御部120は、匂い検出部110と一体的に構成された情報処理ユニットによって実現されてもよく、匂い検出部110とは独立した情報処理ユニットによって実現されてもよい。また、制御部120の各機能的構成はネットワークを介して接続された複数の情報処理ユニットによって実現されてもよい。
【0042】
[匂い検出部の動作]
匂い検出部110の動作について説明する。
図2及び
図3は匂い検出装置100の動作を示す模式図である。匂い検出装置100は、匂い検出用の第1の状態とクリーニング用の第2の状態をとる。
図2は第1の状態を示し、
図3は第2の状態を示す。
【0043】
第1の状態では、第1ポンプ115を駆動し、第2ポンプ116を停止させる。
図2に矢印F1で示すように、第1ポンプ115により匂い検出装置100の近傍の外気が第1吸入口111aからチャンバ111の室内に流入し、チャンバ111から排出口111cを通過して排出される。以下、この気体の流れを「測定フロー」とする。
【0044】
第2の状態では、第1ポンプ115を停止させ、第2ポンプ116を駆動する。
図3に矢印F2で示すように、第2ポンプ116により匂い検出装置100の近傍の外気が第2吸入口111bからチャンバ111の室内に流入し、チャンバ111から排出口111cを通過して排出される。第2吸入口111bにはフィルタ117が設けられているため、チャンバ111には匂い成分が除去された外気が流入する。以下、この気体の流れを「クリーニングフロー」とする。
【0045】
図4は、匂い検出装置100における第1ポンプ115及び第2ポンプ116の動作状態を示すタイミングチャートである。同図に示すように、まず、「プリペアリング」ステップを実行する。プリペアリングステップでは匂い検出装置100を第2の状態とし、即ち第1ポンプ115を停止させ、第2ポンプ116を駆動させる。これにより、上記クリーニングフロー(
図3参照)が発生し、チャンバ111に匂い成分が除去された外気が流入する。これにより、各匂いセンサ112の感応膜に吸着していた匂い成分及び水分子が除去される。
【0046】
続いて「測定」ステップを実行する。測定ステップでは匂い検出装置100を第1の状態とし、即ち第1ポンプ115を駆動し、第2ポンプ116を停止させる。これにより、上記測定フロー(
図2参照)が発生し、チャンバ111に外気が流入する。外気に含まれる匂い成分は匂いセンサ112の感応膜に吸着し、匂いセンサ112により検出される。同時に湿度センサ113によりチャンバ111内の湿度が測定され、温度センサ114によりチャンバ111内の温度が測定される。
【0047】
続いて、「クリーニング」ステップを実行する。クリーニングステップでは匂い検出装置100を第2の状態とし、即ち第1ポンプ115を停止させ、第2ポンプ116を駆動させる。これにより、上記クリーニングフロー(
図3参照)が発生し、チャンバ111に匂い成分が除去された外気が流入する。これにより、各匂いセンサ112の感応膜に吸着していた匂い成分及び水分子が除去される。
【0048】
図4に示すように、測定ステップの開始時刻を測定開始時刻T
sとし、測定ステップの終了時刻を測定終了時刻T
eとする。また、測定開始時刻T
sの後の時刻を算出開始時刻T
mとし、測定開始時刻T
sと算出開始時刻T
mの間の時間を算出待機時間Wとする。
【0049】
以上のようにして、匂い検出部10により匂い成分の検出が行われる。
図4に示すように次回の測定を行う場合、再度、プリペアリングステップ、測定ステップ、クリーニングステップが順に実行される。なお、測定を連続して実行する場合等、プリペアリングステップとクリーニングステップは一つのステップであってもよい。言い換えると、クリーニングステップ、測定ステップ、クリーニングステップと順番に繰り返されてもよい。
【0050】
[制御部の動作]
制御部120の動作について説明する。
図5は制御部120の動作を示すフローチャートである。同図に示すように匂い検出部110において測定ステップが開始(St101)されると、取得部121は各匂いセンサ112から出力を取得する(St102)。匂いセンサ112の出力は上記のように共振周波数の変動(Hz)である。また、取得部121は、湿度センサ113から出力を取得(St103)する。湿度センサ113の出力は相対湿度(RH%)である。
【0051】
図6は、取得部121が取得する共振周波数の変動(以下、周波数変動)と相対湿度の時間変化の一例を示すグラフであり、周波数変動は左目盛り、相対湿度は右目盛りである。周波数変動は各匂いセンサ112から出力され、それぞれの匂いセンサ112の出力をチャンネル1(ch1)からチャンネル(ch16)で示す。また、同図において測定開始時刻T
s、測定終了時刻T
e及び算出開始時刻T
mを示す。匂い検出部110において測定が終了する(St104)すると、取得部121は取得した測定結果(
図6に示すような周波数変動と相対湿度の時間変化)を演算部122に供給する。
【0052】
演算部122は、取得部121から測定結果の供給を受けると算出開始時刻T
mを特定する(St105)。算出開始時刻T
mは、
図4に示すように測定開始時刻T
sの後の時刻であり、湿度センサ113から出力される相対湿度の変化量が十分小さくなった時刻である。演算部122は、後述する手法により算出開始時刻T
mを特定することができる。
【0053】
続いて、演算部122は算出開始時刻Tmから測定終了時刻Teまでの湿度センサ113の出力に基づいて、算出開始時刻Tmから測定終了時刻Teまでの匂いセンサ112の出力を補正する(St106)。
【0054】
具体的には演算部122は、算出開始時刻T
mから測定終了時刻T
eまでの周波数変動の時間変化を算出する(St106a)。
図7は算出開始時刻T
mから測定終了時刻T
eまでの周波数変動と相対湿度の時間変化を示すグラフである。
図7は、
図6に示すグラフにおいて、算出開始時刻T
mを周波数変動及び相対湿度の原点(ゼロポイント)とし、周波数変動及び相対湿度を原点にオフセットしたグラフである。
【0055】
演算部122は、
図7に示すような算出開始時刻T
mから測定終了時刻T
eまでの周波数変動の最大値と最小値を算出する。
図8は、
図7のうち一つのチャンネル(ch3)を示すグラフである。演算部122は、各チャンネルの周波数変動(△f)において同図に示すように、オフセット後の最大値△f
maxと最小値△f
minを算出する。
【0056】
また、演算部122は、算出開始時刻T
mから測定終了時刻T
eまでの相対湿度の時間変化を算出する(St106b)。
図9は、
図7のうち相対湿度を示すグラフである。演算部122は同図に示すように、オフセット後の相対湿度の変化量△humを算出する。
【0057】
続いて演算部122は、各チャンネルの周波数変動を相対湿度の変化量△humを用いて補正する(St106c)。演算部122は、既存の手法によりこの補正を行うことができる。演算部122は補正した各チャンネルの周波数変動の最大値△fmax´及び最小値△fmin´を判定部123に供給する。
【0058】
判定部123は、演算部122により補正された匂いセンサ112の出力に基づいて匂い成分を判定する(St107)。具体的には判定部123は、演算部122により補正された各チャンネルの最大値△fmax´及び最小値△fmin´から、各チャンネルの検出対象である匂い成分の濃度を判定することができる。また、判定部123は、補正された各チャンネルの最大値△fmax´及び最小値△fmin´と学習データを比較し、外気中に含まれる匂いの種類(例えば、油)を判定することも可能である。
【0059】
判定部123は、判定結果と測定結果(
図6参照)を保存する(St108)。判定部123は判定結果及び測定結果を記憶部124に供給し、記憶部124に記憶させることができる。
【0060】
制御部120は以上のように動作を行う。演算部122は上記のように、算出開始時刻T
mから測定終了時刻T
eまでの周波数変動の最大値△f
maxと最小値△f
minを算出する(St106a)。
図10は、参考として、測定開始時刻T
sから測定終了時刻T
eまでの周波数変動における最大値△f
max(s)と最小値△f
min(s)を示すグラフであり、
図6のうちチャンネル3(ch3)を示すグラフである。同図に示すように、このグラフには測定開始時刻T
s近傍の周波数変動の変化が含まれるため、最大値△f
max(s)と最小値△f
min(s)はこの変化を含んだ値となる。一方、△f
maxと最小値△f
minはこの変化を含まない値となる。
【0061】
また、演算部122は上記のように、算出開始時刻T
mから測定終了時刻T
eまでの相対湿度の時間変化△humを算出する(St106b)。
図11は、参考として、測定開始時刻T
sから測定終了時刻T
eまでの相対湿度の時間変化△hum(s)を示すグラフであり、
図6のうち相対湿度を示すグラフである。同図に示すように、このグラフには測定開始時刻T
s近傍の相対湿度の変化が含まれるため、時間変化△hum(s)はこの変化を含んだ値となる。一方、時間変化△humはこの変化を含まない値となる。
【0062】
[算出開始時刻の特定について]
演算部122は上述のように算出開始時刻T
mを特定する。算出開始時刻T
mは、湿度センサ113から出力される湿度の変化量が十分小さくなった時刻である。
図12は、湿度センサ113の出力である相対湿度を示すグラフであり、
図6のうち相対湿度のみを示すグラフである。
【0063】
図12に示すように、湿度センサ113から出力される相対湿度は、第2の状態(
図3参照)から第1の状態(
図2参照)への切り替わりにより、測定開始時刻T
sの直後から大きく変化し、その後に小さくなる。以下、測定開始時刻T
sからから出力される相対湿度の変化が十分小さくなるまでの時間を「変化時間D
h」とする。湿度センサ113が静電容量式湿度センサや抵抗式湿度センサである場合、変化時間D
hは数秒程度であり、チャンバ111の容積に依存するが、例えば7~8秒である。
【0064】
演算部122は測定開始時刻T
sから変化時間D
hが経過した時刻を算出開始時刻T
mとして特定する。演算部122は、ユーザによる指定を受けて算出開始時刻T
mを特定することができる。ユーザは各匂いセンサ112が備える感応膜の材料種から、変化時間D
hを予測することができる。また、ユーザは匂い検出部110による測定結果(
図6参照)を参照して変化時間D
hを判断してもよい。
【0065】
ユーザは算出待機時間Wを制御部120に指示することができる。算出待機時間Wは変化時間Dhと同一の時間であってもよく、変化時間Dhより長い時間であってもよい。演算部122は、算出待機時間Wが指定されると、測定開始時刻Tsから算出待機時間Wが経過した時刻を算出開始時刻Tmとして特定することができる。具体的には演算部122は、測定開始時刻Tsに算出開始時刻Wを加算した時刻を算出開始時刻Tmとすることができる。また、ユーザは、算出開始時刻Tmを指定して算出開始時刻Tmを特定することもできる。例えばユーザは、湿度センサ113の応答速度が既知の場合、その応答速度に応じた時刻を算出開始時刻Tmとして指定することができる。
【0066】
さらに、演算部122は、匂いセンサ112が備える感応膜の材料種を取得すると、感応膜の材料種毎にプリセットされている算出待機時間Wを記憶部124等から取得し、算出開始時刻Tmを特定してもよい。匂いセンサ112が備える感応膜の材料種は、匂いセンサ112の型番の選択等によってユーザが指定してもよい。また、演算部122は、各匂いセンサ112との通信によってそれぞれの匂いセンサ112が備える感応膜の材料種を取得してもよい。
【0067】
さらに、演算部122は、湿度センサ113によって検出された相対湿度に基づいて算出開始時刻T
mを特定してもよい。演算部122は、相対湿度の変化量が十分小さくなった時刻を算出開始時刻T
mとすることができる。
図13は、演算部122による算出開始時刻T
mの特定方法を示す図であり、
図12の一部拡大図である。
【0068】
演算部122は、同図に示すように、相対湿度のプロットにおいて測定開始時刻Tsの後、最初に傾きが0となる時刻Tpを特定する。演算部122は、この時刻Tpを算出開始時刻Tmとすることができる。また、演算部122は、時刻Tpから所定時間経過後の時刻を算出開始時刻Tmとしてもよい。また、演算部122は、最初に傾きが0となる時刻の他にも、最初に傾きが所定値となる時刻やその時刻から所定時間経過後の時刻を算出開始時刻Tmとしてもよい。
【0069】
さらに演算部122は、
図12に示す相対湿度の波形を時間微分した波形を生成してもよい。演算部122は、この時間微分した波形において、傾きが最初に所定の値となった時刻を算出開始時刻T
mとしてもよく、傾きが最初に所定の値となった時刻から所定時間経過後の時刻を算出開始時刻T
mとしてもよい。なお、上記の「傾き」は数学的な傾きであり、時刻の変化量を分母、相対湿度の変化量を分子とした値である。
【0070】
また、演算部122は、相対湿度の変化量に基づいて算出開始時刻T
mを特定してもよい。
図14は、相対湿度の変化量による算出開始時刻T
mの特定方法を示す図であり、
図12の一部拡大図である。同図において、ある時刻T
nの前の時間P
n-1における相対湿度の変化量を変化量H
n-1とし、時刻T
nの次の時間P
nにおける相対湿度の変化量を変化量H
nとする。演算部122は、測定開始時刻T
sの後、変化量H
n-1と変化量H
nの比率が最初に所定の値となった時刻T
nを算出開始時刻T
mとすることができる。また、演算部122はこの時刻T
nから所定時間経過後の時刻を算出開始時刻T
mとしてもよい。
【0071】
このように演算部122は、各種の算出方法により、湿度センサ113によって検出された相対湿度に基づいて算出開始時刻Tmを算出することができる。算出開始時刻Tmの算出方法は上述のものに限られず、演算部122は相対湿度の変化量が十分小さくなった時刻を算出開始時刻Tmとして算出することが可能である。
【0072】
以上説明したように演算部122は、ユーザによる指定、プリセットからの取得又は相対湿度からの算出のいずれかの方法により、算出開始時刻Tmを特定することが可能である。また演算部122は、これら以外の方法で測定開始時刻Tsから変化時間Dhが経過した時刻を特定し、その時刻を算出開始時刻Tmとすることも可能である。
【0073】
[匂い検出装置の効果]
匂い検出装置100による効果について説明する。
図15は周波数変動と相対湿度の時間変化を示すグラフであり、
図6と同じグラフである。上述したように、湿度センサ113から出力される相対湿度は第1の状態(
図2参照)への切り替わりにより、測定開始時刻T
sの直後から大きく変化する(
図15、範囲A)。
【0074】
また、匂いセンサ112から出力される周波数変動も測定開始時刻T
sの直後から大きく変化する(
図15、範囲B)。これは、各匂いセンサ112が備える感応膜に水分子が吸着するためである。感応膜への水分の吸着量は、感応膜の材料種によって異なり、感応膜が親水性の場合には特に大きくなる。水分子の吸着による周波数変動は、本来の検出対象である匂い成分による周波数変動に重複するため、水分子の吸着による周波数変動を除去する補正が必要となる。
【0075】
ここで、匂いセンサ112と湿度センサ113の検出速度の差が問題となる。
図16は周波数変動と相対湿度の時間変化を示すグラフであり、
図6及び
図15と同じグラフである。同図において、変化時間D
hと変化時間D
aを示す。変化時間D
hは上述したように、測定開始時刻T
sから、湿度センサ113により出力される相対湿度の変化が十分小さくなるまでの時間である。変化時間D
aは測定開始時刻T
sから、各匂いセンサ112により出力される周波数変動の変化が十分小さくなるまでの時間である。
【0076】
匂いセンサ112と湿度センサ113は検出原理上、検出速度が異なり、変化時間Dhは変化時間Daより長くなる。例えば、湿度センサ113が高分子膜湿度センサである場合、高分子膜の水分の吸収・放出に伴う誘電率変化から雰囲気の相対湿度を測定する。基本的には、電極-高分子膜-電極のコンデンサを作れば湿度センサとなり、高分子膜の誘電率変化はコンデンサの容量変化として測定できる。電極は極めて薄い金属の蒸着膜であり、電極を通して高分子膜は水分を吸収・放出する。高分子膜湿度センサには、容量タイプと抵抗タイプの2種類があるが、メカニズムは同様である。このように高分子膜湿度センサでは、電極を介して水分吸着するので、匂いセンサ112(QCM)のように感応膜に直接水分が吸着し、水分による重量変化を検知するよりも応答時間に遅れが生じる。このため、変化時間Dhは変化時間Daより長くなる。
【0077】
これにより、
図16に示すように、匂いセンサ112から出力される周波数変動の変化が十分小さくなった後、湿度センサ113から出力される相対湿度の変化が十分小さくなるまでの時間D
cが発生する。この時間D
cにおいて相対湿度による匂いセンサ出力の補正を実行すると、補正値が異常となり、判定部123による誤判定の原因となる。
【0078】
これに対し、匂い検出装置100では上述のように、演算部122が算出開始時刻T
m(
図6参照)を特定し、算出開始時刻T
mから測定終了時刻T
eまでの湿度センサ113の出力(
図7参照)に基づいて、算出開始時刻T
mから測定終了時刻T
eまでの匂いセンサ112の出力を補正する。
【0079】
算出開始時刻T
mは湿度センサ113から出力される相対湿度の変化が十分小さくなった時刻以後の時刻であるため、匂いセンサ112の出力から湿度変化による周波数変動の変化を除去することが可能となる。特に水よりも重い異臭系の高分子化合物や濃度の薄い分子の場合、
図15に矢印Cで示すように、匂いセンサ112おいて湿度による周波数変動の変化の後で徐々に共振周波数が変化する傾向があり、オフセット(
図7参照)の影響を受けず、より高精度に匂い成分の判定が可能である。
【0080】
このように匂い検出装置100では、匂いセンサ112において匂い成分による周波数変動の変化のみを抽出することができ、湿度変化のある環境でも精度よく匂い成分の判定が可能となる。この際、匂い検出装置100では、上記のようにデータ解析の起点となるゼロポイント位置を変更することで、測定条件(加熱温度や再測定)を大きく変更せずに湿度による影響の抑制が実現可能である。
【符号の説明】
【0081】
100…検出装置
110…匂い検出部
111…チャンバ
112…匂いセンサ
113…湿度センサ
114…温度センサ
115…第1ポンプ
116…第2ポンプ
117…フィルタ
120…制御部
121…取得部
122…演算部
123…判定部
124…記憶部