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  • 特許-フェライト系ステンレス鋼材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】フェライト系ステンレス鋼材
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241030BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20241030BHJP
   C22C 38/50 20060101ALI20241030BHJP
   C23C 8/14 20060101ALN20241030BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20241030BHJP
   C21D 1/76 20060101ALN20241030BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/54
C22C38/50
C23C8/14
C21D9/46 R
C21D1/76 F
C21D1/76 G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020218548
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022103735
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2023-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100182925
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 明弘
(72)【発明者】
【氏名】田井 善一
(72)【発明者】
【氏名】若村 麻衣
【審査官】田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-178392(JP,A)
【文献】特開2018-135591(JP,A)
【文献】特開2020-063499(JP,A)
【文献】特開2020-132975(JP,A)
【文献】特開平11-061376(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0070936(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C23C 8/10- 8/18
C21D 9/46- 9/48
C21D 1/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.100%以下、Si:1.00%以下、Mn:0.04~1.00%、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Cr:16.00~25.00%、Ni:1.00%以下、Cu:0.60%以下、Mo:2.00%以下、N:0.030%以下、Ti:0.080~0.500%、Nb:0.500%以下、Al:0.100%以下であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有するフェライト系ステンレス鋼を素地として、明度指数L≦45.0、クロマネチックス指数-5.0≦a≦5.0、-5.0≦b≦5.0、厚みが0.20~1.00μm、Ti分率が0.20以上を満たす黒色の酸化皮膜が表面に形成されており、
前記素地の表面から0.3μm深さにおいて1μm×1μmの範囲に存在する円相当直径0.04μm以上の内部酸化物の個数が5~30個である
ここで、前記酸化被膜中のTi分率が、Ti分率=Ti濃度/(Fe濃度+Cr濃度+Mn濃度+Ti濃度)で表される、フェライト系ステンレス鋼材。
【請求項2】
前記フェライト系ステンレス鋼は、さらに、質量%で、Zr:1.00%以下、Co:1.00%以下、V:1.0%以下及びW:1.00%以下からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼材。
【請求項3】
前記フェライト系ステンレス鋼は、さらに、質量%で、REM:0.100%以下及びCa:0.100%以下からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1又は2に記載のフェライト系ステンレス鋼材。
【請求項4】
前記フェライト系ステンレス鋼は、さらに、Sn:0.100%以下及びB:0.0100質量%以下からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に黒色の酸化皮膜を有する研磨性に優れたフェライト系ステンレス鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼は耐食性に優れた素材であるだけでなく、ステンレス鋼が有する光沢のある銀白色の地肌を活かして内装及び外装建材等に使用されている。さらにステンレス鋼の意匠性を高める目的で化学発色法、塗装法、酸化処理法などの方法を用いて、黒色を代表とする色調が付与されることも多い。
【0003】
さらに、着色されたステンレス鋼に部分的に研磨あるいはエッチングを施すことで部分的にステンレス鋼素地を露出させ、模様を付与する場合もある。特許文献1には化学発色法を用いて表面に色調を付与されたステンレス鋼表面に機械研磨を施して所定の模様に粗面化する模様形成方法が記載されている。また、特許文献2には酸化処理法によって黒色酸化皮膜を形成したZnめっき鋼板表面を機械研磨することで模様を付与する手法が記載されている。
【0004】
また、特許文献3及び特許文献4には、酸化処理法によってステンレス鋼表面に黒色酸化皮膜が形成された黒色ステンレス鋼材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭61-213380号公報
【文献】特開2017-218647号公報
【文献】特開2019-178392号公報
【文献】特開2018-135591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ステンレス鋼を素地として表面に黒色の酸化皮膜を形成した後に、その一部を研磨し銀白色の素地を露出させることで模様を形成しようとする場合、以下のような研磨性に関する課題が存在する。
(1)酸化処理法によって形成されたステンレス鋼材表面の酸化皮膜は主に硬質なCrからなるため、酸化皮膜が厚く形成されていると、それを研磨によって除去するのに時間を要する。
(2)また、ステンレス鋼素地表層にはTiOやAlを含む内部酸化物が多数存在する内部酸化物層が形成されているが、露出させた素地表面に内部酸化物が存在すると、それを起点として錆が発生しやすく意匠性を損なうおそれがある。このため、模様を形成する際には、黒色の酸化皮膜に加えて、素地表層の内部酸化物層も除去する必要があるが、硬質なTiOやAlを含む内部酸化物が多数存在すると、それを研磨によって除去するのに時間を要する。
【0007】
黒色の酸化皮膜が形成されたステンレス鋼材の表面に研磨による模様を形成しやすくする、すなわち、研磨性を向上するには、酸化皮膜を薄くすることや、ステンレス鋼材素地表層の内部酸化物の析出量を低減することが有効である。しかし、酸化皮膜の厚みを薄くすると黒色の色調を担保できず、また内部酸化物を低減すると酸化皮膜の剥離を招きやすくなるといった問題があった。
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、黒色の酸化皮膜を有し研磨性に優れたフェライト系ステンレス鋼材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、酸化皮膜中に占めるTiとCrの複合酸化物の割合を高めることで酸化皮膜の厚みが薄い状態でも黒色の色調を担保可能であり、また酸化皮膜直下の素地表層に形成される内部酸化物のうち、特に硬質な粒状の酸化物であるAl、TiOの析出量を一定の範囲にすることで研磨性を向上させつつ酸化皮膜の剥離を抑制することが可能であることを明らかにした。そしてフェライト系ステンレス鋼の組成及び酸化処理条件を制御することによって、上記目的を達成できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
上記知見に基づき完成された本発明の要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係るフェライト系ステンレス鋼材は、質量%で、C:0.100%以下、Si:1.00%以下、Mn:0.04~1.00%、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Cr:16.00~25.00%、Ni:1.00%以下、Cu:0.60%以下、Mo:2.00%以下、N:0.030%以下、Ti:0.080~0.500%、Nb:0.500%以下、Al:0.100%以下であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有するフェライト系ステンレス鋼を素地として、明度指数L≦45.0、クロマネチックス指数-5.0≦a≦5.0、-5.0≦b≦5.0、厚みが0.20~1.00μm、Ti分率が0.20以上を満たす黒色の酸化皮膜が表面に形成されており、前記素地の表面から0.3μm深さにおいて1μm×1μmの範囲に存在する円相当直径0.04μm以上の内部酸化物の個数が5~30個を満たす。
【0011】
(2)上記(1)に記載のフェライト系ステンレス鋼材は、前記フェライト系ステンレス鋼の組成において、さらに、質量%で、Zr:1.00%以下、Co:1.00%以下、V:1.00%以下及びW:1.00%以下からなる群から選択される1種以上の元素を含有してもよい。
【0012】
(3)上記(1)又は(2)に記載のフェライト系ステンレス鋼材は、前記フェライト系ステンレス鋼の組成において、さらに、質量%で、REM:0.100%以下及びCa:0.100%以下からなる群から選択される1種以上の元素を含有してもよい。
【0013】
(4)上記(1)~(3)のいずれか一に記載のフェライト系ステンレス鋼材は、前記フェライト系ステンレス鋼の組成において、さらに、質量%で、Sn:0.100%以下及びB:0.0100%以下からなる群から選択される1種以上の元素を含有してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の上記態様によれば、黒色の酸化皮膜を有し研磨性に優れたフェライト系ステンレス鋼材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ステンレス鋼材の表層近傍を模式的に示す板厚方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0017】
<1.フェライト系ステンレス鋼材>
(1.1 化学組成)
本実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼材(以下、単に「ステンレス鋼材」と記載することがある。)の素地は、質量%で、C:0.100%以下、Si:1.00%以下、Mn:0.04~1.00%、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Cr:16.00~25.00%、Ni:1.00%以下、Cu:0.60%以下、Mo:2.00%以下、N:0.030%以下、Ti:0.080~0.500%、Nb:0.500%以下、Al:0.100%以下であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有する。すなわち、本実施形態に係るステンレス鋼材の素地は、常温での金属組織が主としてフェライト相となる化学組成を有している。
ここで、「不純物」とは、素地のフェライト系ステンレス鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップなどの原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。例えば、不純物には、不可避的不純物も含まれる。
【0018】
また、本実施形態に係るステンレス鋼材の素地は、さらに、質量%で、Zr:1.00%以下、Co:1.00%以下、V:1.00%以下及びW:1.00%以下からなる群から選択される1種以上の元素を含んでもよい。
また、本実施形態に係るステンレス鋼材の素地は、さらに、質量%で、REM:0.100%以下及びCa:0.100%以下からなる群から選択される1種以上の元素を含んでもよい。
本実施形態に係るステンレス鋼材の素地は、さらに、質量%で、Sn:0.100%以下及びB:0.0100%以下からなる群から選択される1種以上の元素を含んでもよい。
各元素の含有量の限定理由について説明する。
【0019】
(C:0.100質量%以下)
Cは、ステンレス鋼材の耐粒界腐食性(鋭敏化抑制作用)や加工性などの特性に影響を与える元素である。Cの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性及び耐粒界腐食性が低下してしまう。そのため、Cの含有量の上限値は、0.100質量%、好ましくは0.080質量%、より好ましくは0.050質量%である。一方、Cの含有量の下限値は、特に限定されないが、Cの含有量を少なくすることは精練コストの上昇につながる。そのため、Cの含有量の下限値は、好ましくは0.0005質量%、好ましくは0.001質量%である。
【0020】
(Si:1.00質量%以下)
Siは、ステンレス鋼材の耐酸化皮膜剥離性や耐高温酸化性を向上させる元素である。Siの含有量が多すぎると、加工性及び靭性が低下する。そのため、Siの含有量の上限値は、1.00質量%、好ましくは0.90質量%、より好ましくは0.80質量%である。一方、Siの含有量の下限値は、特に限定されないが、ステンレス鋼材製造時の酸化皮膜剥離による表面品質低下を抑制する観点から、好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.10質量%、更に好ましくは0.15質量%である。
【0021】
(Mn:0.04~1.00質量%)
Mnは、脱酸元素として有用な元素であるとともに耐酸化皮膜剥離性等の耐高温酸化性の向上に有効な元素である。また、MnはCrとの複合酸化物を形成することで、黒色の色調形成に有効である。Mnの含有量が多すぎると、腐食起点となるMnSを生成し易くなるとともに、フェライト相を不安定化させる。そのため、Mnの含有量の上限値は、1.00質量%、好ましくは0.95質量%、より好ましくは0.90質量%である。一方、Mnの含有量が少なすぎると、上記の効果が十分に得られないことがある。そのため、Mnの含有量の下限値は0.04質量%、好ましくは0.05質量%である。
【0022】
(P:0.050質量%以下)
Pは、ステンレス鋼材の溶接性や加工性などの特性に影響を与える元素である。Pの含有量が多すぎると、上記の特性が低下する恐れがある。そのため、Pの含有量の上限値は、0.050質量%、好ましくは0.045質量%、より好ましくは0.040質量%である。一方、Pの含有量の下限値は、特に限定されないが、Pの含有量を少なくすることは精練コストの上昇につながる。そのため、Pの含有量の下限値は、好ましくは0.001質量%、より好ましくは0.010質量%である
【0023】
(S:0.030質量%以下)
Sは、腐食起点となるMnSを生成し、ステンレス鋼材の靭性などの特性に影響を与える元素である。Sの含有量が多すぎると、上記の特性が低下する恐れがある。そのため、Sの含有量の上限値は、0.030質量%、好ましくは0.025質量%、より好ましくは0.020質量%である。一方、Sの含有量の下限値は、特に限定されないが、Sの含有量を少なくすることは精練コストの上昇につながる。そのため、Sの含有量の下限値は、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.0005質量%以上である。
【0024】
(Cr:16.00~25.00質量%)
Crは、ステンレス鋼材の耐食性及び耐酸化性を向上させるのに有効な元素である。Crの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の靭性が低下するとともに、酸化皮膜の成長を阻害し、黒色の色調を有する酸化皮膜を形成できない。そのため、Crの含有量の上限値は、25.00質量%、好ましくは24.50質量%、より好ましくは24.00質量%である。一方、Crの含有量が少なすぎると、上記の効果が十分に得られないことがある。そのため、Crの含有量の下限値は、16.00質量%、好ましくは16.50質量%である。
【0025】
(Ni:1.00質量%以下)
Niは、ステンレス鋼材の耐食性及び靭性を向上させるのに有効な元素である。Niの含有量が多すぎると、フェライト相が不安定化するとともに、製造コストも上昇する。そのため、Niの含有量の上限値は、1.00質量%、好ましくは0.90質量%、より好ましくは0.80質量%である。一方、Niの含有量の下限値は、特に限定されないが、上記の効果を得る観点から、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.05質量%である。
【0026】
(Cu:0.60質量%以下)
Cuは、ステンレス鋼材の耐食性を向上させるのに有効な元素である。Cuの含有量が多すぎると、フェライト相が不安定化するとともに、製造コストも上昇する。そのため、Cuの含有量の上限値は、0.60質量%、好ましくは0.55質量%、より好ましくは0.50質量%である。一方、Cuの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.001質量%、好ましくは0.01質量%である。
【0027】
(Mo:2.00質量%以下)
Moは、ステンレス鋼材の耐食性及び耐酸化性を向上させるのに有効な元素である。Moの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性の低下、製造コストの上昇を招くとともに、耐酸化性向上が向上し黒色の酸化皮膜の形成が困難になる。そのため、Moの含有量の上限値は、2.00質量%、好ましくは1.90質量%である。一方、Moの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.001質量%、好ましくは0.01質量%である。
【0028】
(N:0.030質量%以下)
Nは、耐粒界腐食性(鋭敏化抑制作用)や加工性などの特性に影響を与える元素である。Nの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の耐粒界腐食性や加工性が低下する。また、後記するように、黒色の酸化皮膜の形成には、Tiを必要とするが、Nの含有量が多くなると、TiNが析出するため鋼中の固溶Ti量が減少し、黒色の酸化皮膜の形成が阻害される。また、形成された窒化物は、腐食の起点になりやすく、耐食性、特に耐孔食性を低下させる。そのため、Nの含有量の上限値は、0.030質量%、好ましくは0.028質量%、より好ましくは0.025質量%である。一方、Nの含有量の下限値は、特に限定されないが、Nの含有量を少なくすることは精練コストの上昇につながる。そのため、Nの含有量の下限値は、好ましくは0.0005質量%、好ましくは0.001質量%である。
【0029】
(Ti:0.080~0.500質量%以下)
Tiは、耐粒界腐食性(鋭敏化抑制作用)に影響を与える元素である。さらにTiはCrとの複合酸化物を形成することで、酸化皮膜に黒色の外観を付与するとともに、素材表面にTi酸化物(TiO)を形成することで酸化皮膜の剥離を抑制するのに有効に働く元素である。Tiの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性及び表面品質が低下する。そのため、Tiの含有量の上限値は、0.500質量%、好ましくは0.480質量%、より好ましくは0.450質量%である。また、Tiの含有量が少なすぎると、上記の効果が十分に得られないことがある。そのため、Tiの含有量の下限値は、0.080質量%、好ましくは0.090質量%以上、より好ましくは0.100質量%である。
【0030】
(Nb:0.500質量%以下)
Nbは耐粒界腐食性(鋭敏化抑制作用)などの特性に影響を与える元素である。他方、Nbの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性及び靭性が低下するとともにTiの酸化を阻害する。そのため、Nbの含有量の上限値は、0.500質量%、好ましくは0.480質量%、より好ましくは0.450質量%である。
【0031】
(Al:0.100質量%以下)
Alは、黒色の酸化皮膜を形成した際に素材表面にAl酸化物を形成することで酸化皮膜の剥離を抑制するのに有効に働く元素である。他方、素材表面のAl酸化物(Al)は硬質であり研磨性を阻害する。そのため、Alの含有量の上限値は、0.100質量%、好ましくは0.950質量%、より好ましくは0.900質量%である。一方、Alの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.001質量%、好ましくは0.010質量%である。
【0032】
(Zr:1.00質量%以下、Co:1.00質量%以下、V:1.00質量%以下、W:1.00質量%以下)
Zr、Co、V及びWは、ステンレス鋼材の耐酸化性を向上させるのに有効な元素である。Zr、Co、V及びWの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性及び靭性が低下するとともに、製造コストの上昇につながる。そのため、Zr、Co、V及びWの含有量の上限値はいずれも、1.00質量%、好ましくは0.80質量%、更に好ましくは0.50質量%である。一方、Zr、Co、V及びWの含有量の下限値はいずれも、特に限定されないが、好ましくは0.001質量%、より好ましくは0.01質量%である。
【0033】
(REM:0.100質量%以下、Ca:0.100質量%以下)
REM及びCaは、ステンレス鋼材の耐酸化性を向上させるのに有効な元素である。REM及びCaの含有量が多すぎると、ステンレス鋼の製造コストの上昇につながる。そのため、REM及びCaの含有量の上限値はいずれも、0.100質量%、好ましくは0.080質量%、更に好ましくは0.050質量%である。一方、REM及びCaの下限値はいずれも、特に限定されないが、好ましくは0.0001質量%、より好ましくは0.003質量%である。なお、REMは、Sc、Y及びランタノイドの合計17元素の総称であり、希土類金属を意味する。具体的には、La、Ce、Nd等が挙げられ、これらのうち1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて含有させることができる。含有される希土類元素が2種類以上である場合、上記REM含有量は、これら希土類元素の総含有量を意味する。添加の方法としては、例えば、希土類元素の混合物であるミッシュメタル(MM)を用いて、REM含有量が上記の範囲となるように含有させてもよい。
【0034】
(Sn:0.100質量%以下)
Snは、ステンレス鋼材の耐食性を向上させるのに有効な元素である。Snの含有量が多すぎると、Snが偏析し、製造性が低下する。そのため、Snの含有量の上限値は、0.100質量%、好ましくは0.080質量%、より好ましくは0.050質量%である。一方、Snの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.001質量%、より好ましくは0.005質量%である。
【0035】
(B:0.0100質量%以下)
Bは、ステンレス鋼材の二次加工性を向上させるのに有効な元素である。Bの含有量が多すぎると、ステンレス鋼の疲労強度が低下する。そのため、Bの含有量の上限値は、0.0100質量%、好ましくは0.0080質量%、より好ましくは0.0050質量%である。一方、Bの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.0001質量%、より好ましくは0.0005質量%である。
【0036】
(1.2 フェライト系ステンレス鋼材の構成)
図1は、本実施形態に係るステンレス鋼材を板厚方向に切断した断面における表層近傍を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施形態に係るステンレス鋼材10は、フェライト系ステンレス鋼素地15(以下、単に「素地」と記す。)と、素地15の表面に形成された酸化皮膜11と、を有する。また、素地15の酸化皮膜11との界面近傍(すなわち素地15の表層)には、内部酸化物13が多数存在する内部酸化物層12を有する。
【0037】
(酸化皮膜)
本実施形態に係るステンレス鋼材10における酸化皮膜11の素地側15は、主としてCrが形成されたCr酸化物領域111であり、酸化皮膜11の表面側は、CrとTiの複合酸化物の割合が高いTi濃化領域112である。このように酸化皮膜11の表面側にTi濃化領域112が存在することで、黒色の色調が付与されている。
【0038】
(酸化皮膜の色調)
本実施形態に係るステンレス鋼材10は、酸化皮膜11が形成された表面の色調に関して、明度指数L、クロマネティクス指数a、bが特定の範囲にある。本実施形態に係る色調を示す数値は、JIS Z 8722:2009に準拠する色調測定を任意の5点で行い、平均した数値を、JIS Z 8781-4:2013に準拠するCIELAB(L表色系)である明度指数L、クロマネティクス指数a、bで示した値である。本発明に係るステンレス鋼板の酸化皮膜は、その表面がL≦45.0、-5.0≦a≦5.0、-5.0≦b≦5.0の範囲を有している。
【0039】
(酸化皮膜の厚み)
本実施形態に係るステンレス鋼材10の酸化皮膜11は研磨性のしやすさの観点から、酸化皮膜11の厚みの上限が1.00μm以下、好ましくは0.95μm以下、より好ましくは0.90μm以下である。他方、酸化皮膜11の厚みが薄すぎると黒色の色調が担保できないため酸化皮膜11の厚みの下限が0.20μm、好ましくは0.25μm、より好ましくは0.30μmである。本実施形態に係る上記の酸化皮膜11の厚みは、グロー放電発光分光法(GDS)を用いて得られたプロファイルにおいて表面からO(酸素)が最大値の2分の1となる点までの深さに相当する数値であるとした。
【0040】
(酸化皮膜のTi分率)
本実施形態に係るステンレス鋼材10は酸化皮膜11の厚みを薄くすることで研磨性を担保している。しかし、酸化皮膜11の厚さを薄くすることで黒色の色調が薄くなる。そこで、黒色の色調を担保するため酸化皮膜11中に占めるTiとCrの複合酸化物の割合を高めている。すなわち、酸化皮膜中のTi分率(Ti分率=Ti濃度/(Fe濃度+Cr濃度+Mn濃度+Ti濃度))が0.20以上、好ましくは0.25以上、より好ましくは0.30以上の範囲にある。ここで、酸化皮膜11中のTi分率は、グロー放電発光分光法(GDS)を用いた分析により得られる。
【0041】
本実施形態に係る上記酸化皮膜中のTi分率は、JIS K 0144:2018に準拠するグロー放電発光分光分析法(GD-OES)(Glow Discharge Optical Emission Spectrometry)により各元素の濃度プロファイルを測定し、O(酸素)ピーク強度が最大値のポイントにおける「Ti濃度」を「Fe濃度+Cr濃度+Mn濃度+Ti濃度」で除して算出された割合である。
【0042】
なお、O(酸素)ピーク強度が最大値のポイントは、酸化皮膜11の表面側である。酸化皮膜中のTi分率がこの範囲であれば、酸化皮膜中11の表面側はTiとCrの複合酸化物の割合が多くなっている、すなわち、Ti濃化領域112が形成されているので、酸化皮膜11の厚みが薄くとも、L≦45.0、-5.0≦a≦5.0、-5.0≦b≦5.0の範囲の色調を得ることができる。したがって、研磨性に優れ、かつ、所望の黒色色調を有するステンレス鋼材10を得ることができる。
【0043】
(内部酸化物層)
本実施形態に係るステンレス鋼材10は、酸化皮膜11と素地15との界面近傍の素地側(素地表層)に内部酸化物層12を有する。内部酸化物層12は、素地表層のTiOやAlなどの内部酸化物13が多数存在する領域であり、その厚さは、0.4μm~1.0μm程度である。
内部酸化物13としては、例えば、Ti 酸化物(TiO)、Al酸化物(Al)、Mn酸化物(MnO)、Si酸化物(SiO)が考えられる。
【0044】
(内部酸化物の個数)
本実施形態に係るステンレス鋼材10は、素地表層の内部酸化物層12における内部酸化物13の個数が所定の範囲にあるため良好な皮膜密着性を有しつつ優れた研磨性を有する。内部酸化物には硬質なTiOやAlが含まれるため、内部酸化物13の個数が多すぎると、素地15の表層が硬くなることからグラインダー等による機械研磨が困難になる。逆に、内部酸化物13の個数が少なすぎると酸化皮膜11が剥離しやすくなり、皮膜密着性が低くなるという問題が生ずる。したがって、素地表面から0.3μm深さにおいて1μm×1μmの範囲に存在する円相当直径0.04μm以上の内部酸化物13の個数は5~30個、好ましくは6~28個、より好ましくは7~25個である。
【0045】
本実施形態に係る上記の内部酸化物13の個数は、以下の測定方法で得られる。
ステンレス鋼材10から採取した断面サンプルの素地側を、TEM(走査透過電子顕微鏡)を用いて倍率4万倍にて観察し、素地表面(酸化皮膜11と素地15との界面)から0.3μm深さの位置において、1μmの視野を観察したときに存在していた、円相当直径0.04μm以上の粒状領域を目視で数えて個数を求め、この作業を3視野で行い、その算術平均を内部酸化物13の個数とした。なお、円相当直径は、観察される個々の粒状領域の面積を、同じ面積を有する円に換算した場合の円の直径を意味する。
【0046】
ここでの測定に際しては、粒状の酸化物であるTiO、Al及びMnOを数えている。TiOとAlとMnOとは区別しないが、MnOは存在するとしてもTiO、Alに比して極めて少ない個数であるため、かかる測定の結果得られた内部酸化物の個数は、実質的には、研磨性に影響を与える硬質な粒状の酸化物である、Al、TiOの合計にほぼ等しいと考えることができる。また、上記測定条件において目視で観察される粒状の酸化物のほとんどは円相当直径0.04μm以上と考えることができる。
本実施形態に係る内部酸化物の個数は、上記の測定方法によって得られる数値に相当するとした。
【0047】
(ステンレス鋼材の応用)
本実施形態に係るステンレス鋼材10は、素地15の化学組成、酸化皮膜11の色調、厚み、Ti分率、内部酸化物13の個数を所定の範囲にしているため、所望の黒色色調を有しつつ研磨性に優れている。例えば、本実施形態に係るステンレス鋼材10を用い、黒色の酸化皮膜11の一部を研磨により除去して、光沢のある銀白色の素地15を露出させることで、模様を形成することができ、意匠性に優れた鋼材の提供が可能となる。そのため、このステンレス鋼材10は、意匠部材に用いるのに適しており、特に限定されないが、建材(特に、化粧板などの内装部材)、配管などにおいて意匠性が要求される各種部材に応用される。
【0048】
<2.フェライト系ステンレス鋼材の製造方法>
以上説明した本実施形態に係るステンレス鋼材10は、例えば以下に説明する方法により製造することができる。
本実施形態に係るステンレス鋼材10の好ましい製造方法は、上述した化学組成を有するフェライト系ステンレス鋼素材(素地15)を、酸化性雰囲気において、加熱温度が1000℃以上1100℃以下、加熱時間が60秒以上300秒以下、500℃~800℃における平均昇温速度が18℃/秒以上で加熱することにより酸化皮膜11を形成する酸化処理工程を有する。
以下、製造条件について説明する。
【0049】
(ステンレス鋼材の準備)
まず、上述した酸化処理工程に先立ち、フェライト系ステンレス鋼素材を準備する。素材としては、上述した化学組成のものを用いることができ、公知の方法により製造されたものを用いることができる。例えば、上述した化学組成を有するフェライト系ステンレス鋼スラブを熱間圧延し、得られた熱延コイルを焼鈍、酸洗した後に、冷延率50%以上で冷間圧延することにより冷延板を作成する。次に、得られた冷延板の表面を#180以上の研磨ベルトで仕上げ研磨を施すことにより、素地15を得ることができる。このように表面を研磨した素地15を用いることにより、その後の工程で素地表面に形成される黒色の酸化皮膜11の外観ムラが抑制される。
【0050】
(酸化処理工程)
本工程は、熱処理により素地15の表面に黒色の酸化皮膜11を形成する工程である。素地15に、酸化性雰囲気において1000℃以上1100℃以下の温度で60秒以上300秒以下の時間加熱し、かつ、500℃~800℃における昇温速度の平均を18℃/秒以上とする酸化処理(焼鈍)を施すことによって、素地15表面上に厚み0.30以上1.00μm以下の黒色の酸化皮膜11が形成される。
【0051】
酸化処理時の加熱温度が高すぎる、もしくは加熱時間が長すぎると、酸化皮膜11の厚みが厚くなりすぎ、また、素地表層における内部酸化物13の個数も多くなることから、優れた研磨性が得られない。よって、加熱温度は1100℃以下である。また、加熱時間は、300秒以下である。一方、酸化処理時の加熱温度が低すぎると、酸化皮膜11中のTi分率が低くなり、所望の黒色色調が得られない。よって、加熱温度は1000℃以上である。また、加熱時間が短すぎると酸化皮膜が十分に発達せず、所望との厚みが得られない。よって、加熱時間は、60秒以上である。好ましい加熱温度は1050~1080℃であり、好ましい加熱時間は120~180秒である。
【0052】
また、昇温速度を速くすることで、酸化皮膜11の表面側にTiとCrの複合酸化物が優先的に形成される。これにより、酸化皮膜11中にTiが濃化されるとともに、素地表層におけるTiOの形成が抑制される。その結果、酸化皮膜11のTi分率が0.20以上となり、所望の黒色色調を有する厚みの薄い酸化皮膜11が得られる。また、素地表層における円相当直径0.04μm以上の内部酸化物13の個数が5~30個となり、研磨性に優れる。一方、昇温速度が遅いと、酸化皮膜11のTi分率が低くなるため、薄い酸化皮膜11では所望の黒色色調が得られない。また、素地表層にTiOが多数存在するため、優れた研磨性が得られない。よって、500℃~800℃における昇温速度の平均は18℃/秒以上である。また、昇温速度の上限は、特に限定されないが、実施可能な実質的な上限は50℃/秒である。
【0053】
以上の工程により、本実施形態に係る表面に黒色の酸化皮膜11を有する研磨性に優れたステンレス鋼材10が製造される。また、例えば、本実施形態に係るステンレス鋼材10は研磨性に優れるため、このステンレス鋼材10を用いることで、黒色の酸化皮膜の一部を研磨により除去して、光沢のある銀白色の素地を露出させて模様を形成した、意匠性に優れた鋼材を製造することができる。そのため、意匠部材に用いるのに適しており、建材(特に、化粧板などの内装部材)、配管などにおいて意匠性が要求される各種部材に応用される
【実施例
【0054】
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0055】
表1の化学組成を有するフェライト系ステンレス鋼を熱間圧延し、板厚3.0mmの熱延板を作製した。この熱延板に1050℃で3分間焼鈍を施した後、ドライホーニングを用いて表面の酸化スケールを除去した。その後、板厚1.0mmまで冷間圧延し、1000℃で1分間の仕上焼鈍を施した後、120番、240番の乾式研磨紙を順次用いて手研磨を行い、鋼板表面の酸化スケールを除去した。表1の化学組成は、質量%で示されており、残部がFe及び不純物である。なお、表中のREMは希土類元素を意味し、ここでは、La、Ce、Ndを含むミッシュメタル(MM)を用いた。また、下線は、本発明の範囲外であることを示している。
【0056】
【表1】
【0057】
そして、得られた上記のステンレス鋼板の表面に黒色の酸化皮膜を形成するため、大気雰囲気下で表2に示す500~800℃の昇温速度(℃/秒)、加熱温度(℃)、加熱時間(分)で酸化処理を施した。その後、鋼板の端部を除く板幅方向中央部から、幅50mm、長さ100mmの試験片を切り出した。また、同様に、酸化処理を施した後の鋼板の端部を除く板幅方向中央部から、幅15mm、長さ15mmの断面サンプル用試験片を切り出した。
【0058】
【表2】
【0059】
以下に、測定方法を説明する。
【0060】
(色調の測定方法)
上記試験片を用いて、表面の酸化皮膜部の5箇所について、測定径3mmφの分光測色計を用いてJIS Z8722:2009に準拠した色調測定を行い、平均値をJIS Z 8781-4:2013に準拠するCIELAB(L表色系)である明度指数L、クロマネティクス指数a、bで示した。
【0061】
色調の測定条件は、以下の通りである。
装置:コニカミノルタ 分光測色計 CM-700d
光源:パルスキセノンランプ
受光素子:デュアル36素子シリコンフォトダイオードアレイ
ターゲットマスク:Φ3mm
測定:10°視野
補助イルミナント:D65 昼光、色温度6504K
正反射処理モード:SCI
【0062】
(酸化皮膜の厚み及びTi分率)
上記の試験片を用いて素地露出部のGDS(グロー放電発光分光法)分析を行い、JIS K0144:2018に準拠するグロー放電発光分光分析法(GD-OES)にて酸化皮膜の構造を分析した。GDS分析(GD-OES)では、表層からO(酸素)ピーク強度が最大値の1/2となったポイントまでの深さを酸化皮膜の厚みとした。また、O(酸素)ピーク強度が最大値のポイントにおけるTi濃度/(Fe濃度+Cr濃度+Mn濃度+Ti濃度)を酸化皮膜のTi分率とした。
【0063】
GDSの測定条件は、以下の通りである。
装置:株式会社リガク GDA750
分析径(アノード径):Φ4mm
電圧:650V
Ar圧力:2.8hPa
【0064】
(内部酸化物の個数)
上記の断面サンプル用試験片からFIB(集束イオンビーム)加工により断面サンプルを作成し、断面サンプルの素地側をTEM(日本エフイー・アイ株式会社製の電解放出型透過電子顕微鏡:TalosF200X、加速電圧200V)により観察することで内部酸化物の個数を測定した。観察位置は、素地表面(酸化皮膜/素地界面)から深さ0.3μm、観察範囲は面積で1μm、倍率は4万倍とし、観察された円相当直径0.04μm以上の粒状領域の個数を数えた。そして、3箇所測定して得られた粒状領域の個数から平均値を導出し、内部酸化物個数(個数)とした。
【0065】
なお、FIB加工は、日立ハイテクノロジーズ社(現:株式会社日立ハイテク)製の
収束イオンビーム加工装置(FB-2000A)を使用し、加速電圧30kV、イオン源Gaとした。また、試料最表面保護のため、タングステン膜をコーティングした後、FIBμサンプリングにより断面サンプルを摘出した。
【0066】
以下、評価項目の測定結果について説明する。
(研磨性)
上記色調評価を行った試験片に対してハンドグラインダーを用いて研磨評価を行った。♯40のフラップホイールを取り付けたハンドグラインダーを回転数7000rpm、荷重500gで60秒間試験片に押し当てて研磨を行った。研磨部について色調測定を行い、得られた明度指数LがL≧70を満たす場合を研磨性に優れる(○)、L<70の場合を研磨性が不十分である(×)と評価した。評価結果を表3に示す。なお、下線は、本発明の範囲外であることを示している。
【0067】
【表3】
【0068】
表3に示すように、本発明の範囲に含まれる実施例1~6のステンレス鋼板は素地の化学組成及び酸化皮膜の厚み、酸化皮膜のTi分率を満たしていたことから色調基準を満たしていた。また、酸化皮膜の厚みと内部酸化物の個数が基準を満たしていたことから、良好な研磨性を示した。
【0069】
それに対し、比較例1~8のステンレス鋼板は、色調または研磨性のいずれかで実施例よりも劣っていた。比較例1、2は酸化処理の温度が高いもしくは時間が長いため、厚い酸化皮膜が形成されるとともに多量の内部酸化物が形成されたことにより、研磨性が不十分であった。比較例3、4は酸化処理の温度が低いもしくは昇温速度が遅いため、酸化皮膜のTi分率が低く、明度指数Lが色調基準を満たしていなかった。比較例5、6はそれぞれ素地のTi含有量、Al含有量が多いため、内部酸化物(硬質なTiOやAl)が多く形成されたことにより、研磨性が不十分であった。また比較例7は素地のCr含有量が少ないため、Fe主体の厚い酸化皮膜が形成されたことにより、酸化皮膜の色調基準を満たさず研磨性が不十分であった。比較例8は素地としてTiを添加していないため、TiとCrの複合酸化物が形成されず、酸化皮膜の色調基準を満たさなかった。
【0070】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、研磨性及び意匠性に優れる黒色のフェライト系ステンレス鋼材を提供することができる。
【符号の説明】
【0071】
10 ステンレス鋼材
11 酸化皮膜
111 Cr酸化物領域
112 Ti濃化領域
12 内部酸化物層
13 内部酸化物
15 素地
図1