(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】亜鉛合金めっき鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/06 20060101AFI20241030BHJP
C23C 2/16 20060101ALI20241030BHJP
C23C 2/26 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
C23C2/06
C23C2/16
C23C2/26
(21)【出願番号】P 2020535192
(86)(22)【出願日】2018-12-13
(86)【国際出願番号】 KR2018015833
(87)【国際公開番号】W WO2019132337
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-07-07
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】10-2017-0180329
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(74)【代理人】
【識別番号】100134382
【氏名又は名称】加藤 澄恵
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 イル-リョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 テ-チョル
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジョン-グク
(72)【発明者】
【氏名】アン、 キョン-ジン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジョン-フン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、 ジョン-ウン
(72)【発明者】
【氏名】パク、 ジン-ソ
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】池渕 立
【審判官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/082678(WO,A1)
【文献】特開2006-283155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C2/00-2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鉄と、
前記素地鉄上に形成された
Zn-Al-Mg系亜鉛合金めっき層と、
前記素地鉄と亜鉛合金めっき層の間に形成された抑制層と、を含み、
前記亜鉛合金めっき層の表面のZn相は面積分率で15~90%
であり、
前記抑制層上に
2μm以下の厚さで形成されたZn/MgZn
2/Alの3元合金相層を含み、前記3元合金相層は、抑制層の表面を30~90%の面積分率で覆っている、亜鉛合金めっき鋼材。
【請求項2】
前記亜鉛合金めっき層は、Zn相及びMgZn
2相のラメラ構造を含み、前記Zn相及
びMgZn
2相の幅方向の平均厚さはそれぞれ1.5μm以下である、請求項1に記載の
亜鉛合金めっき鋼材。
【請求項3】
前記抑制層のFe-Al系金属間化合物の結晶粒サイズは300nm以下である、請求
項1又は2に記載の亜鉛合金めっき鋼材。
【請求項4】
前記亜鉛合金めっき層は、重量%で、Mg:0.5~3.5%、Al:0.5~20.
0%、残りはZn及び不可避不純物を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の亜鉛
合金めっき鋼材。
【請求項5】
請求項1に記載の亜鉛合金めっき鋼材を製造する方法であって、
素地鉄を設ける段階と、
前記素地鉄をMg及びAlを含む亜鉛合金めっき浴に浸漬してめっきする段階と、
前記めっきされた素地鉄をワイピングし、冷却する段階と、を含み、
前記冷却は下記関係式1を満たす、亜鉛合金めっき鋼材の製造方法。
[関係式1]
0.7Vc≦Vc’≦1.5Vc
但し、Vcはワイピング直後のめっき層凝固完了までの平均冷却速度であり、Vc’は
ワイピング直後のめっき層凝固開始までの平均冷却速度である。
【請求項6】
前記素地鉄を設ける段階は、
表層部の結晶粒サイズが1~100μmである熱延鋼材を設け、
前記熱延鋼材を冷間圧延して、表面粗さ0.2~1.0μm、急峻度0.2~1.2を
有する冷延鋼材を製造することを含む、請求項5に記載の亜鉛合金めっき鋼材の製造方法
。
【請求項7】
前記めっき浴の組成は、重量%で、Mg:0.5~3.5%、Al:0.5~20.0
%、残りはZn及び不可避不純物を含む、請求項5又は6に記載の亜鉛合金めっき鋼材の
製造方法。
【請求項8】
前記めっき及びワイピング工程は下記関係式2の作業因子(workingindex
)が0.5~40を満たす、請求項5から7のいずれか1項に記載の亜鉛合金めっき鋼材
の製造方法。
[関係式2]
【数1】
但し、P:ワイピングガスの圧力(KPa)、D:ワイピングノズルとめっき鋼材の距
離(mm)、t:ワイピングノズルのスロット厚さ(mm)、S:通板速度(MPM)、
T:めっき浴の温度(℃)である。
【請求項9】
前記めっき浴の温度は430~500℃である、請求項5から8のいずれか1項に記載
の亜鉛合金めっき鋼材の製造方法。
【請求項10】
前記めっき時における通板速度は60~200MPM(meter per min.
)である、請求項5から9のいずれか1項に記載の亜鉛合金めっき鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電、建材などに用いることができるめっき鋼材に関し、より詳細には、表面品質及び耐食性に優れた亜鉛合金めっき鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陰極防食を介して鉄の腐食を抑制する亜鉛めっき法は、防食性能及び経済性に優れて高耐食特性を有する鋼材を製造するために広く用いられている。特に、溶融された亜鉛に鋼材を浸漬してめっき層を形成する溶融亜鉛めっき鋼材は、電気亜鉛めっき鋼材に比べて製造工程が単純であり、製品の価格が安価であるため、自動車、家電製品、及び建材用などの産業全般にわたってその需要が増加している。
【0003】
溶融亜鉛めっき鋼材は、腐食環境に露出する際に、鉄よりも酸化還元電位が低い亜鉛が先に腐食され、鋼材の腐食が抑制される犠牲防食(Sacrificial Corrosion Protection)の特性を有する。さらに、めっき層の亜鉛が酸化されて、鋼材表面に緻密な腐食生成物を形成させ、酸化雰囲気から鋼材を遮断することにより鋼材の耐腐食性を向上させる。
【0004】
しかし、産業高度化に伴い、大気汚染及び腐食環境の悪化が増加し、資源及びエネルギー節約に対する厳格な規制により、従来の亜鉛めっき鋼材よりも優れた耐食性を有する鋼材開発の必要性が高まっている。その一環として、亜鉛めっき浴にアルミニウム(Al)及びマグネシウム(Mg)などの元素を添加して鋼材の耐食性を向上させる亜鉛合金系めっき鋼材の製造技術の研究が多様に行われている。代表的な亜鉛合金系めっき鋼材としてZn-Alめっき組成系にMgを追加的に添加したZn-Al-Mg系めっき鋼材の製造技術に関する研究が活発に進められている(特許文献1)。
【0005】
産業に用いられる多くのめっき鋼材は、切断、曲げ、引張などの様々な加工が施されて最終製品として製造される場合が多い。この場合、切断面や加工面には、素地鉄が露出したり、又はめっき層が破損して耐食性が低下するという問題がある。特に、Zn-Al-Mg系合金めっきにおいては、めっき層が一般の亜鉛めっきに比べて脆性があるため上記加工面はより弱くなりうる。しかし、従来、上記加工部の耐食性を向上させるための研究は多くはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、表面品質に優れ、断面部の優れた耐食性だけでなく、加工部における優れた耐食性を確保することができる亜鉛合金めっき鋼材及びその製造方法を提供することである。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていないさらに他の課題は以下の記載から当業者が明確に理解することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、素地鉄と、上記素地鉄上に形成された亜鉛合金めっき層と、上記素地鉄と亜鉛合金めっき層の間に形成された抑制層と、を含み、上記亜鉛合金めっき層の表面のZn相は面積分率で15~90%含み、上記抑制層上に2μm以下の厚さで形成されたZn/MgZn2/Alの3元合金相層を含み、上記3元合金相層は、全面積の30~90%の割合で形成される表面品質及び耐食性に優れた亜鉛合金めっき鋼材に関する。
【0010】
本発明の他の一態様は、素地鉄を設ける段階と、上記素地鉄をめっき浴に浸漬してめっきする段階と、上記めっきされた素地鉄をワイピングし、冷却する段階と、を含み、上記冷却は下記関係式1を満たす表面品質及び耐食性に優れた亜鉛合金めっき鋼材の製造方法に関する。
[関係式1]
0.7Vc≦Vc’≦1.5Vc
但し、Vcはワイピング直後のめっき層凝固完了までの冷却速度であり、Vc’はワイピング直後のめっき層凝固開始までの冷却速度である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、めっき層表面の変色を防止して優れた表面特性を確保し、断面部だけでなく、加工部においても優れた耐食性を有する亜鉛合金めっき鋼材及びその製造方法を提供することができる。これにより、従来使用が制限された領域まで使用領域を広げることができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例のうち発明例3のめっき層の断面を観察した写真である。
【
図2】本発明の実施例のうち比較例2のめっき層の断面を観察した写真である。
【
図3】上記
図1の写真において、抑制層上に形成されたZn/MgZn
2/Alの3元合金相層を観察した写真である。
【
図4】めっき鋼材及びワイピング
ノズルを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
通常の亜鉛めっきは、Zn単一相として凝固するのに対し、Zn-Al-Mg系亜鉛合金めっきは、Zn相、Mg及びZnの合金相、Al相などが共存するようになる。このめっき組織は、めっき浴中の微量元素や製造工程などに伴う素地鉄表面の物理的及び化学的状態に応じて非常に複雑なめっき構造を形成するようになる。
【0014】
Zn-Al-Mg系亜鉛合金めっき層(以下、亜鉛合金めっき層又はめっき層)のめっき組織のうちZn及びMgの合金相は、MgZn2、Mg2Zn11などの様々な金属間化合物からなることができ、これらの硬度はHv250~300に達する。そして、上記めっき層と素地鉄の界面には、Fe及びAlの金属間化合物からなる抑制層(Inhibition Layer)が形成されることができる。上記Fe及びAlの金属間化合物としてFe4Al13、Fe2Al5などが挙げられる。これら金属間化合物も高い脆性を有するため、物理的変形時にめっき層クラックが発生しやすい。
【0015】
本発明の亜鉛合金めっき鋼材は、素地鉄、上記素地鉄上に形成された亜鉛合金めっき層、及び上記素地鉄と亜鉛合金めっき層の間に形成された抑制層(Inhibition Layer)を含む。
【0016】
亜鉛合金めっき層の組成については特に限定しないが、好ましい一例として、重量%で、Mg:0.5~3.5%、Al:0.5~20.0%、残りはZn及び不可避不純物を含む。
【0017】
上記マグネシウム(Mg)は、亜鉛系めっき鋼材の耐食性を向上させるために非常に重要な役割を果たし、腐食環境下においてめっき層の表面に緻密な亜鉛水酸化物系腐食生成物を形成することにより、亜鉛系めっき鋼材の腐食を効果的に防止する。かかる効果を得るために、上記Mgは、0.5重量%以上含むことが好ましく、0.8重量%以上含むことがより好ましい。但し、その含有量が過多である場合には、めっき浴の表面においてMg酸化性ドロスがめっき浴の浴面に急増するという問題がある。これを防止するという側面において、上記Mgは、3.5重量%以下であることが好ましく、2.0重量%以下であることがより好ましい。
【0018】
上記アルミニウム(Al)は、めっき浴内のMg酸化物ドロスの形成を抑制し、めっき浴内のZn及びMgと反応してZn-Al-Mg系金属間化合物を形成することにより、めっき鋼材の耐腐食性を向上させる。上記効果を得るために、上記Alは、0.5重量%以上含むことが好ましく、0.8重量%以上含むことがより好ましい。但し、その含有量が過多である場合には、めっき鋼材の溶接性及びリン酸塩処理性が劣化する可能性がある。これを防止するという側面において、上記Alは、20.0重量%以下であることが好ましく、6.0重量%以下であることがより好ましく、めっき浴の凝固挙動を迅速にするためには、3.0重量%以下であることがより好ましい。
【0019】
残りは亜鉛(Zn)及び不可避不純物を含む。
【0020】
上記亜鉛合金めっき鋼板は、亜鉛合金めっき層と素地鉄の間に抑制層、いわゆるインヒビション層(Inhibition Layer)が形成される。上記抑制層は、FeとAlの金属間化合物(例えば、Fe4Al13、Fe2Al5など)で構成される。上記抑制層は、微細な結晶粒で構成されているが、上記結晶粒のサイズが粗大な場合には脆性を有するようになる。そのため、外部応力が鋼板に加わると、上記抑制層が破壊されてめっき層の剥離や加工クラックによる耐食性の低下が懸念される。したがって、上記抑制層の結晶粒サイズは300nm以下であることが好ましく、結晶粒平均サイズは100nm以下であることが好ましい。
【0021】
上記抑制層上には2μm以下の厚さで形成されたZn、MgZn2、Alの3元合金相層(layer)が形成されることが好ましい。素地鉄と亜鉛合金めっき層の界面は、腐食環境で一次的に犠牲陰極反応が開始する。素地鉄と亜鉛合金めっき層の界面部位に、かかる3元合金相が形成される場合には、製品の断面部が腐食環境に露出すると、界面から犠牲防食による効果が増大し、犠牲防食の効果が継続的に現れる。これは、犠牲防食に主に参加するZn、Mg、及び不動態皮膜の形成に有利なAlが集中的にめっき層と素地鉄の界面部位に集中するためである。上記3元合金相層(layer)は、上記抑制層上に形成されることが好ましく、全面積の30%以上形成されることが好ましい。しかし、過度に形成される場合には、めっき層上部の硬度が低減されて、めっき層の摩擦特性が低下するおそれがあるため、90%を超えないことが好ましい。上記3元合金相層を確認する方法の一例として、断面倍率を拡大して走査電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)で確認する方法が挙げられる。他の方法として、めっき層を塩酸(HCl)水溶液で溶解した後、表面を観察して、上記抑制層の上部に残存する3元合金相層を観察する方法が挙げられる。一方、上記断面を観察する場合には、断面の境界に沿って、抑制層全長さにおいて上記3元相が抑制層上に形成される長さを測定することもできる。
【0022】
Zn、MgZn2、Alの3元合金相層(layer)の厚さが抑制層上に2μmを超えて形成される場合には、素地鉄と亜鉛合金めっき層の界面部位における犠牲防食効果が減少して、断面部耐食性の向上効果も減少するようになる。したがって、上記3元合金相層の厚さが2μmを超えないように、素材状態や冷却条件を調整することが重要である。
【0023】
上記亜鉛合金めっき層は、Zn相、Mg及びZnの合金相(例えば、MgZn2、Mg2Zn11など)、Al相などを含む。本発明の亜鉛合金めっき層の表面で観察される微細組織は、Zn相を面積分率で15~90%含むことが好ましい。上記めっき層の表面に現れる微細組織は、めっき層の表面特性と非常に密接な関わりがある。上記めっき層表面のZn相の割合が少ないと、めっき鋼板の長期保管の際にMg酸化の影響によってめっき表面の色相が暗く変化するという問題があるため、上記表面のZn相は15%以上であることが好ましい。これに対し、上記Zn相の割合が90%を超えると、過度な冷却が要求されて生産性が低下するため好ましくない。
【0024】
上記亜鉛合金めっき層内には、上述のように、様々な相(phase)が含まれ、このうちZn相及びMgZn2相はラメラ(lamella)構造の2元相を含むことができる。本発明の亜鉛合金めっき層は、上記亜鉛合金めっき層内に含まれるZn相及びMgZn2相のラメラ構造における、上記Zn相及びMgZn2相の幅方向の平均厚さが1.5μm以下であることが好ましい。上記MgZn2相はZn相に比べて脆性があるため、ラメラ構造の組織が粗大に形成される場合には、外部応力による破壊可能性が高い。したがって、めっき層の表面から内部に形成されるZn相及びMgZn2相のラメラ構造におけるZn相及びMgZn2相の幅方向の厚さはそれぞれ平均1.5μm以下(0を除く)であることが好ましい。上記亜鉛合金めっき層内に含まれるZn相及びMgZn2相のラメラ構造は、亜鉛合金めっき層の表面にめっき層の70%までに存在するラメラ構造であることが好ましい。上記幅方向の厚さは、上記めっき層内に存在するラメラ構造の10ヶ所以上を測定して平均値を求める方法を用いることができる。
【0025】
以下、本発明の亜鉛合金めっき鋼材を製造する方法の一実施例について詳細に説明する。本発明の亜鉛合金めっき鋼材を製造する方法は、素地鉄を設け、設けられた素地鉄をめっき浴に浸漬してめっきした後、ワイピングしてからめっき層の厚さを調整し、冷却することを含む。
【0026】
上記素地鉄を設けるにあたり、先ず、熱延鋼材の金属組織を均一にすることが好ましい。このために、上記熱延鋼材の結晶粒平均サイズは1~100μmであることが好ましい。上記熱延鋼材の結晶粒は、表層部(表面を基準に全厚さの1/8以内)であることが好ましい。熱延鋼材の組織、特に表面組織に不均一が発生した場合、冷間圧延時の表面形状の不均一、及び抑制層の形成に必要な素地鉄からのFeの不均一拡散により、抑制層が均一に形成されず、抑制層の上部に形成される3元相も不均一に形成されて断面部耐食性が低下する可能性がある。このために、上記熱延鋼材の結晶粒平均サイズは1~100μmであることが好ましい。より好ましくは、結晶粒サイズが、1~50μmであるか、又は5~30μmであることがより好ましい。
【0027】
上記熱延鋼材の結晶粒が1μm未満の場合には、強度確保には有利であるが、冷間圧延時に結晶粒による表面粗さが大きくなる可能性がある。また、100μmを超えると、形状の均質化の面では有利であるが、過度な熱間圧延温度の上昇によりスケール欠陥が懸念され、製品の製造コストも増加するおそれがある。上記熱延鋼材の結晶粒サイズを得るための方法のうちの一例として、熱間圧延温度を最低800℃以上となるように維持するか、又は熱延後の巻取温度を550℃以上に高める方法が挙げられる。
【0028】
上記熱延鋼材を冷間圧延して冷延鋼材を製造するにあたり、冷延鋼材の表面粗さ(Ra)は0.2~1.0μmであり、急峻度は0.2~1.2となるように製造することが好ましい。
【0029】
上記表面粗さは、ロールが素材を圧延する際に、ロールの圧力及び表面形状に応じて決定される。上記表面粗さが1.0μmを超えると、粗さが大きくなってめっき層の形成時に不均一な抑制層が形成される可能性があり、めっき層内の相(phase)間の形成における不均一度が増加するおそれがある。これに対し、0.2μm未満の場合には、表面摩擦係数が減少して鋼材がロールで滑るおそれがある。
【0030】
上記急峻度の測定は、幅方向に1m以上、長さ方向に2m以上の鋼材を平らな定盤上に、鋼材表面がしっかりと密着されるように載せた後、鋼材の曲げ程度を測定する方法を用いる。上記急峻度は、曲げの高さ(H)を波長(P)で割った後、100を掛けた値で表す。すなわち、高さ(H)/波長(P)×100の式で表す。急峻度が小さいほど鋼材は平坦度に優れることを意味する。また、上記急峻度が1.2を超えると、鋼材の曲げが大きくなり、めっき浴を鋼材が通過する際に、表面流動に偏差を与えるようになって抑制層の形成及びめっき層の均質化に悪影響を与える。上記急峻度が低いほど有利であるが、0.2未満に管理するためには、一例として、冷間圧延の速度を下げる方法があるが、過度な工程コストがかかるため好ましくない。
【0031】
上記粗さ及び急峻度を適正範囲に制御するための方法はいずれか1つに限定されない。冷間圧延の最終段階の圧延における圧下率を2~5%の範囲にすることが好ましい。圧延中の鋼板に適切な張力を付加することが必要である。また、表面粗さを付与するための一例として、鋼表面にプラズマ処理を行うことができる。すなわち、上記冷間圧延時に最後の圧延ロールによって最終形状が決定され得るため、圧延率は5%以下にすることが好ましい。但し、厚さ0.5mmの薄板の場合には、前段圧延の過負荷を軽減させるために、2%以上にすることが好ましい。
【0032】
一方、上記のような冷延材を必要に応じて600~850℃の温度で焼鈍熱処理することができる。上記焼鈍の炉内雰囲気は、窒素(N2)に水素(H2)を1~10体積%含むガスを用いることが好ましい。上記水素濃度が1体積%よりも小さい場合には、鋼表面の酸化物を還元させることが難しく、10体積%を超えると、製造コストが増加するため、上記水素を1~10体積%含むことが好ましい。
【0033】
上記焼鈍時の雰囲気内の露点温度が異なることにより、素地鉄の表面に形成される酸化皮膜を構成する成分の割合が異なるだけでなく、内部酸化の割合が異なるため、上記露点温度は-60~-10℃に管理することが好ましい。上記露点温度が-60℃未満の場合には、原料ガスの純度管理に過度なコストがかかる可能性があるため好ましくない。これに対し、上記露点温度が-10℃を超えると、素地鉄表面の汚染物質の還元が円滑に行われない可能性があり、鋼中に含まれる微量元素や不純物であるB、Mnなどの酸化皮膜が形成されて、めっき濡れ性を阻害するおそれがある。
【0034】
上記のように設けられた素地鉄をめっき浴に浸漬して引き出すめっき工程を介して亜鉛合金めっき鋼材を製造する。上記めっき浴は、重量%で、Al:0.5~20.0%、Mg:0.5~3.5%、残りはZn及び不可避不純物を含むとよい。上記各成分についての説明は、上述した亜鉛合金めっき層についての説明内容と変わらない。
【0035】
上記めっき浴に浸漬された素地鉄の表面にFe及びAlの抑制層が形成され、上記抑制層上にめっき浴の成分と類似しためっき層が形成されて鋼板がめっき浴から引き出される。この際、めっき浴の温度は430~500℃であることが好ましい。上記めっき浴の温度が430℃未満の場合には、めっき浴に素地鉄を浸漬しても素地鉄の表面酸化物の分解が円滑に行われず、抑制層の形成に不利である。これに対し、めっき浴の温度が500℃を超えると、めっき浴の表面にドロスが発生し、且つMg酸化が著しく発生するため好ましくない。
【0036】
上記めっき工程は、部品を個別にめっき浴に浸漬する方法、及び鋼材(特に、鋼板)を連続的にめっき浴に通過させてめっき層を形成する連続溶融めっき方法を用いることができる。上記連続溶融めっきにおける鋼材の通板速度は60~200MPM(毎分通過距離、meter per min.)であることが好ましい。上記通板速度が60MPM未満の場合には、製品の生産性が低下し、200MPMを超えると、上記抑制層とめっき層の不均一をもたらす可能性がある。
【0037】
上記めっき浴から引き出された亜鉛合金めっき鋼材はめっき浴の上部のエアナイフ(air knife)と呼ばれるワイピングノズルによりめっき層の厚さを調整し、冷却を行う。上記ワイピングノズルは、空気や不活性ガスを噴射してめっき層の厚さを調整する。上記ワイピングノズルを通過する際のめっき層及び鋼材の温度、ワイピングノズルの調整がめっき層の組織形成に影響を与える。
【0038】
図4はめっき鋼材及びワイピングノズルを概略的に示す模式図である。
図4を参考すると、本発明は、上記ワイピングノズルにおける、ガス噴射圧力(P)、ワイピングノズルと鋼
材の距離(D)、ワイピングノズルのスロット(slot)の厚さ(t)、鋼材の通板速度(S)、及びめっき浴の温度(T)は、下記関係式
2で計算される作業因子(working index)が0.5~40の範囲を満たすことが好ましい。
[関係式2]
【数1】
但し、P:ワイピングガスの圧力(KPa)、D:ワイピングノズルとめっき鋼材の距離(mm)、t:ワイピングノズルのスロット厚さ(mm)、S:通板速度(MPM)、T:めっき浴の温度(℃)である。
【0039】
上記作業因子は、めっき前の素地鉄の形状因子であって、表面粗さ(Ra)0.2~1.0μm、急峻度0.2~1.2の状態でめっき層を生成する際における好ましいめっき構造の形成に適する。すなわち、めっき層内のラメラ組織を微細にするとともに、めっき鉄と素地鉄の界面に抑制層(inhibition layer)直上に3元共晶合金の生成を容易にすることができる。上記作業因子(working index)が0.5未満では、めっき表層のZn相の分率が減少してめっき表面の変色が起こりやすく、ラメラ組織が粗大になって加工時にめっきクラックが発生しやすくなる。これに対し、上記作業因子が40を超えると、めっき層の表面に流れ模様のような欠陥が発生しやすくなる。したがって、上記関係式2で定義される作業因子(working index)は0.5~40であることが好ましい。
【0040】
上記ワイピング工程を行った後、めっき鋼材を冷却する。上記冷却は下記関係式1を満たすことが好ましい。
[関係式1]
0.7Vc≦Vc’≦1.5Vc
但し、Vcはワイピング直後のめっき層凝固完了までの平均冷却速度であり、Vc’はワイピング直後のめっき層凝固開始までの平均冷却速度である。
ここで、好ましい組織を得るために、液相状態でめっき層の厚さを調整した後、凝固が完了した時点の平均冷却速度(Vc)に対する、液相状態でめっき層の厚さを調整した後、凝固が開始する地点の平均冷却速度(Vc’)の割合(Vc’/Vc)は0.7~1.5であることが好ましい。これは、めっき層内の相の構造及び成長に影響を与える要因として作用することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は、本発明の理解を助けるためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0042】
(実施例)
素地鉄として0.03%C-0.2%Si-0.15%Mn-0.01%P-0.01%Sを含む厚さ0.8mmの冷延鋼板で自動車外板用素地鋼板を設ける。この際、素地鋼板の表面粗さ(Ra)及び急峻度は下記表1に示したとおりである。上記冷延鋼板コイルを連続的にZn-Al-Mg合金めっき浴に浸漬して引き出した後、ワイピング工程及び冷却を経て亜鉛合金めっき鋼板を製造した。具体的な条件は下記表1に示したとおりである。
【0043】
上記製造された亜鉛合金めっき鋼板のめっき層の成分及びワイピングノズルの噴射圧力(P)、ワイピングノズルと鋼板の距離(D)、ワイピングノズルのスロット(slot)の厚さ(t)、鋼材の通板速度(S)、及びめっき浴の温度(T)を下記表1の条件にし、上記関係式2の作業因子(Working Index)を計算して下記表1に併せて示した。
【0044】
上記のように製造された亜鉛合金めっき鋼板の表面で観察したZn相の面積分率、表面からめっき層の厚さ70%まで存在するラメラ構造のZn相及びMgZn2相の幅方向の間隔、抑制層において2μm以内に含まれるZn/MgZn2/Alの3元合金相層の面積分率を測定し、下記表2に併せて示した。
【0045】
また、各亜鉛合金めっき鋼板の特性を確認するために、表面特性、断面部及び加工部の耐食性を評価して、その結果を下記表2に示した。上記表面特性は、流れ模様及び表面変色程度を測定したものであり、表面変色程度は、各試験片の表面の色差を測定した後、試験片を温度50℃、湿度(95%)の条件で24時間放置した後、試験片の色差を再び測定して、輝度値が減少した数値(dE)を評価したものである。上記断面部及び加工部の耐食性は、各試料に対してISO TC 156に規定された塩水複合腐食試験(Cyclic Corrosion Test)を行って評価した。試験片の切断面に赤錆が発生する繰り返し腐食試験回数(cycle数)、及び試験片を180°に曲げた後、腐食実験を行い、曲げられた部位において赤錆が発生する繰り返し腐食試験回数を記録した。
【0046】
【0047】
【0048】
一方、
図1は上記発明例3のめっき層の断面を観察した写真である。
図1に示すように、素地鋼板11上にめっき層が存在し、めっき層にZn単相12及びラメラ組織13が形成されており、上記ラメラ組織13が微細に形成されて加工時のクラック発生が低減されることが分かる。
図3は上記
図1における素地鋼板11とZn単相12の間の界面を観察したものであって、抑制層14及びZn/MgZn
2/Alの3元合金相が形成されることが分かる。具体的には、MgZn
2相15、Al相16、及びZn相17が形成されたことが分かる。これに対し、
図2は上記比較例2のめっき層の断面を観察した写真であって、ラメラ組織23が粗大に形成されることが分かる。したがって、加工時にクラックが発生しやすいということが分かる。
【0049】
上記表2及び
図1~3の結果から、本発明の条件を満たす発明例では、優れた表面特性を確保し、断面部及び加工部でも優れた耐食性を確保することが確認できる。