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  • 特許-水処理方法および水処理装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】水処理方法および水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20230101AFI20241030BHJP
   B01D 61/04 20060101ALI20241030BHJP
   B01D 61/12 20060101ALI20241030BHJP
   B01D 61/08 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
C02F1/44 D
C02F1/44 A
B01D61/04
B01D61/12
B01D61/08
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021002144
(22)【出願日】2021-01-08
(65)【公開番号】P2022107286
(43)【公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】田熊 康秀
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-513009(JP,A)
【文献】特開2014-133214(JP,A)
【文献】特開2006-082027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00 - 67/00
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に薬剤を注入する工程と、前記薬剤が注入された被処理水を逆浸透膜に供給して透過水と濃縮水とに分離する工程と、を含む水処理方法であって、
前記薬剤を注入する工程が、
前記逆浸透膜に供給される被処理水と、前記逆浸透膜から流出する透過水と、前記逆浸透膜から流出する濃縮水とのいずれかの現在の水温を検出する工程と
記逆浸透膜に供給される被処理水の現在の供給圧力、または、前記現在の供給圧力と前記逆浸透膜から流出する濃縮水の現在の流出圧力との差圧を検出する工程と、
前記逆浸透膜の使用開始時に予め検出した前記いずれかの水温の初期値と、前記逆浸透膜の使用開始時に予め検出した前記供給圧力または差圧の初期値と、前記検出した現在の水温と、前記検出した現在の供給圧力または差圧とに基づいて、前記被処理水への前記薬剤の注入量を調整する工程と、を含み、
前記薬剤の注入量を調整する工程が、前記供給圧力または差圧の初期値を、前記検出した現在の水温における値に換算し、該換算した供給圧力または差圧の初期値と、前記検出した現在の供給圧力または差圧とに基づいて、前記被処理水への前記薬剤の注入量を調整することを含む、水処理方法。
【請求項2】
前記薬剤の注入量を調整することが、前記換算した供給圧力または差圧の初期値と、前記検出した現在の供給圧力または差圧とを比較した結果に基づいて、前記薬剤の注入量を決定することを含む、請求項に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記薬剤を注入する工程が、前記逆浸透膜から流出する透過水の現在の流量を検出する工程をさらに含み、
前記薬剤の注入量を調整することが、前記検出した現在の流量と、前記逆浸透膜の使用開始時に予め検出した前記流量の初期値とに基づいて、前記換算した供給圧力または差圧の初期値を補正し、該補正した供給圧力または差圧の初期値と、前記検出した現在の供給圧力または差圧とを比較した結果に基づいて、前記薬剤の注入量を決定することを含む、請求項に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記供給圧力または差圧の初期値は、前記検出した現在の水温における温度補正係数と、前記いずれかの水温の初期値における温度補正係数とに基づいて、前記検出した現在の水温における値に換算される、請求項からのいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項5】
被処理水に薬剤を注入する工程と、前記薬剤が注入された被処理水を逆浸透膜に供給して透過水と濃縮水とに分離する工程と、を含む水処理方法であって、
前記薬剤を注入する工程が、
前記逆浸透膜に供給される被処理水と、前記逆浸透膜から流出する透過水と、前記逆浸透膜から流出する濃縮水とのいずれかの現在の水温を検出する工程と、
前記逆浸透膜に供給される被処理水の現在の供給圧力、または、前記現在の供給圧力と前記逆浸透膜から流出する濃縮水の現在の流出圧力との差圧を検出する工程と、
前記逆浸透膜の使用開始時に予め検出した前記いずれかの水温の初期値と、前記逆浸透膜の使用開始時に予め検出した前記供給圧力または差圧の初期値と、前記検出した現在の水温と、前記検出した現在の供給圧力または差圧とに基づいて、前記被処理水への前記薬剤の注入量を調整する工程と、を含み、
前記薬剤の注入量を調整する工程が、前記検出した現在の供給圧力または差圧を標準温度における値に換算し、該換算した現在の供給圧力または差圧と、標準温度における値に換算した前記供給圧力または差圧の初期値とに基づいて、前記被処理水への前記薬剤の注入量を調整することを含む、水処理方法。
【請求項6】
前記薬剤の注入量を調整することが、前記換算した供給圧力または差圧の初期値と、前記換算した現在の供給圧力または差圧とを比較した結果に基づいて、前記被処理水への前記薬剤の注入量を決定することを含む、請求項に記載の水処理方法。
【請求項7】
前記薬剤を注入する工程が、前記逆浸透膜から流出する透過水の現在の流量を検出する工程をさらに含み、
前記薬剤の注入量を調整することが、前記検出した現在の流量と、前記逆浸透膜の使用開始時に予め検出した前記流量の初期値とに基づいて、前記換算した供給圧力または差圧の初期値を補正し、該補正した供給圧力または差圧の初期値と、前記換算した現在の供給圧力または差圧とを比較した結果に基づいて、前記薬剤の注入量を決定することを含む、請求項に記載の水処理方法。
【請求項8】
前記検出した現在の供給圧力または差圧は、前記検出した現在の水温における温度補正係数に基づいて、標準温度における値に換算され、前記供給圧力または差圧の初期値は、前記いずれかの水温の初期値における温度補正係数に基づいて、標準温度における値に換算される、請求項からのいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項9】
前記温度補正係数は、任意の温度で測定された前記逆浸透膜の透過流束を、標準温度の値に補正するための係数である、請求項またはに記載の水処理方法。
【請求項10】
前記供給圧力を調整し、前記逆浸透膜から流出する透過水の流量を設定流量に調整する工程をさらに含む、請求項1からのいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項11】
被処理水を透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜を有する逆浸透膜装置と、
前記逆浸透膜装置に供給される被処理水に薬剤を注入する薬剤注入装置と、
前記逆浸透膜装置に供給される被処理水と、前記逆浸透膜装置から流出する透過水と、前記逆浸透膜装置から流出する濃縮水とのいずれかの水温を検出する温度センサと、
前記逆浸透膜装置に供給される被処理水の供給圧力、または、前記供給圧力と前記逆浸透膜装置から流出する濃縮水の流出圧力との差圧を検出する圧力センサと
記逆浸透膜の使用開始時に前記温度センサにより予め検出された前記いずれかの水温の初期値と、前記逆浸透膜の使用開始時に前記圧力センサにより予め検出された前記供給圧力または差圧の初期値と、前記温度センサにより検出された現在の前記いずれかの水温と、前記圧力センサにより検出された現在の前記供給圧力または差圧とに基づいて、前記薬剤注入装置による前記薬剤の注入量を調整する制御装置と、を有し、
前記制御装置は、前記供給圧力または差圧の初期値を、前記検出された現在のいずれかの水温における値に換算し、該換算した供給圧力または差圧の初期値と、前記検出された現在の供給圧力または差圧とに基づいて、前記薬剤注入装置による前記薬剤の注入量を調整する、水処理装置。
【請求項12】
被処理水を透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜を有する逆浸透膜装置と、
前記逆浸透膜装置に供給される被処理水に薬剤を注入する薬剤注入装置と、
前記逆浸透膜装置に供給される被処理水と、前記逆浸透膜装置から流出する透過水と、前記逆浸透膜装置から流出する濃縮水とのいずれかの水温を検出する温度センサと、
前記逆浸透膜装置に供給される被処理水の供給圧力、または、前記供給圧力と前記逆浸透膜装置から流出する濃縮水の流出圧力との差圧を検出する圧力センサと、
前記逆浸透膜の使用開始時に前記温度センサにより予め検出された前記いずれかの水温の初期値と、前記逆浸透膜の使用開始時に前記圧力センサにより予め検出された前記供給圧力または差圧の初期値と、前記温度センサにより検出された現在の前記いずれかの水温と、前記圧力センサにより検出された現在の前記供給圧力または差圧とに基づいて、前記薬剤注入装置による前記薬剤の注入量を調整する制御装置と、を有し、
前記制御装置は、前記検出された現在の供給圧力または差圧を標準温度における値に換算し、該換算した現在の供給圧力または差圧と、標準温度における値に換算した前記供給圧力または差圧の初期値とに基づいて、前記薬剤注入装置による前記薬剤の注入量を調整する、水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理方法および水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理水に含まれる不純物を除去する水処理装置として、逆浸透膜(RO膜)を有するものが知られている。この装置では、所定の供給圧力でRO膜に供給された被処理水(原水)が、RO膜により透過水と濃縮水とに分離される。これにより、不純物が除去された処理水(透過水)を得ることができる。
【0003】
RO膜を有する水処理装置では、従来から、RO膜の膜面にスケールやスライムが発生することによる目詰まり(ファウリング)を抑制するために、原水にスケール防止剤やスライムコントロール剤などの薬剤を注入することが行われている。このような薬剤注入においては、過剰な薬剤注入によるRO膜の劣化を抑制しながら、ファウリングを効果的に抑制するという観点から、ファウリングの程度に応じて薬剤の注入量を調整することが求められる。こうした要求に対し、RO膜の通水差圧(RO膜に供給される原水の供給圧力とRO膜から流出する濃縮水の流出圧力との差圧)の上昇を検出し、その検出結果に基づいて、薬剤の注入量を調整する方法が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-224543号公報
【文献】国際公開第2020/158645号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、RO膜の通水差圧の上昇を監視するだけでは、ファウリングの影響を適切に考慮しているとは言えず、上述した要求に対する解決策として十分であるとは言えない。
【0006】
そこで、本発明の目的は、逆浸透膜の劣化を抑制しながら、ファウリングを効果的に抑制する水処理方法および水処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明の水処理方法は、被処理水に薬剤を注入する工程と、薬剤が注入された被処理水を逆浸透膜に供給して透過水と濃縮水とに分離する工程と、を含み、薬剤を注入する工程が、逆浸透膜に供給される被処理水と、逆浸透膜から流出する透過水と、逆浸透膜から流出する濃縮水とのいずれかの現在の水温を検出する工程と、逆浸透膜に供給される被処理水の現在の供給圧力、または、現在の供給圧力と逆浸透膜から流出する濃縮水の現在の流出圧力との差圧を検出する工程と、逆浸透膜の使用開始時に予め検出したいずれかの水温の初期値と、逆浸透膜の使用開始時に予め検出した供給圧力または差圧の初期値と、検出した現在の水温と、検出した現在の供給圧力または差圧とに基づいて、被処理水への薬剤の注入量を調整する工程と、を含んでいる。一態様では、薬剤の注入量を調整する工程が、供給圧力または差圧の初期値を、検出した現在の水温における値に換算し、換算した供給圧力または差圧の初期値と、検出した現在の供給圧力または差圧とに基づいて、被処理水への薬剤の注入量を調整することを含み、他の態様では、薬剤の注入量を調整する工程が、検出した現在の供給圧力または差圧を標準温度における値に換算し、換算した現在の供給圧力または差圧と、標準温度における値に換算した供給圧力または差圧の初期値とに基づいて、被処理水への薬剤の注入量を調整することを含んでいる
【0008】
また、本発明の水処理装置は、被処理水を透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜を有する逆浸透膜装置と、逆浸透膜装置に供給される被処理水に薬剤を注入する薬剤注入装置と、逆浸透膜装置に供給される被処理水と、逆浸透膜装置から流出する透過水と、逆浸透膜装置から流出する濃縮水とのいずれかの水温を検出する温度センサと、逆浸透膜装置に供給される被処理水の供給圧力、または、供給圧力と逆浸透膜装置から流出する濃縮水の流出圧力との差圧を検出する圧力センサと、逆浸透膜の使用開始時に温度センサにより検出されたいずれかの水温の初期値と、逆浸透膜の使用開始時に圧力センサにより予め検出された供給圧力または差圧の初期値と、温度センサにより検出された現在のいずれかの水温と、圧力センサにより検出された現在の供給圧力または差圧とに基づいて、薬剤注入装置による薬剤の注入量を調整する制御装置と、を有している一態様では、制御装置は、供給圧力または差圧の初期値を、検出された現在のいずれかの水温における値に換算し、換算した供給圧力または差圧の初期値と、検出された現在の供給圧力または差圧とに基づいて、薬剤注入装置による薬剤の注入量を調整し、他の態様では、制御装置は、検出された現在の供給圧力または差圧を標準温度における値に換算し、換算した現在の供給圧力または差圧と、標準温度における値に換算した供給圧力または差圧の初期値とに基づいて、薬剤注入装置による前記薬剤の注入量を調整する。
【0009】
このような水処理方法および水処理装置によれば、逆浸透膜に供給される被処理水の経時的な圧力変化のうちファウリングに起因する上昇分を正確に把握することができ、ファウリングの影響を適切に反映した注入量で薬剤の注入を行うことができる。
【発明の効果】
【0010】
以上、本発明によれば、逆浸透膜の劣化を抑制しながら、ファウリングを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る水処理装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
本実施形態の水処理装置10は、原水(被処理水)に含まれる不純物を除去して処理水を生成する装置であり、逆浸透膜(RO膜)装置11を有している。RO膜装置11は、原水を、不純物を含む濃縮水と、不純物が除去された透過水とに分離するRO膜を有している。RO膜装置11には、RO膜装置11に原水を供給する原水ラインL1と、RO膜装置11から流出する透過水を処理水タンクまたはユースポイントに供給する透過水ラインL2と、RO膜装置11から流出する濃縮水を外部に排出する排水ラインL3とが接続されている。
【0014】
また、水処理装置10は、原水ラインL1に設けられた加圧ポンプ12と、同じく原水ラインL1に設けられた圧力センサ13および温度センサ14と、透過水ラインL2に設けられた流量センサ15とを有している。加圧ポンプ12は、インバータ(図示せず)によって回転数が制御されることで、原水ラインL1を通じてRO膜装置11に供給される原水の供給圧力(原水圧力)を調整する機能を有し、圧力センサ13は、その原水圧力を検出する機能を有している。温度センサ14は、RO膜装置11に供給される原水の水温(原水温度)を検出する機能を有し、流量センサ15は、RO膜装置11から流出して透過水ラインL2を流れる透過水の流量を検出する機能を有している。なお、温度センサ14は、RO膜装置11から流出する透過水および濃縮水のいずれかの水温を検出するようになっていてもよく、すなわち、透過水ラインL2または排水ラインL3に設けられていてもよい。
【0015】
さらに、水処理装置10は、RO過装置11に供給される原水にスケール防止剤やスライムコントロール剤などの薬剤を注入する薬剤注入装置16と、薬剤注入装置16による薬剤の注入量の調整を含め、水処理装置10の運転を制御する制御装置17とを有している。
【0016】
薬剤注入装置16は、薬剤を貯留する薬剤タンク21と、薬剤供給ラインL4を介して原水ラインL1に接続され、薬剤タンク21に貯留された薬剤を原水ラインL1に注入する薬注ポンプ22とを有している。なお、薬剤の添加位置は、膜ろ過装置2の上流側であれば図示した位置に限定されず、例えば、加圧ポンプ12と圧力センサ13との間であってもよい。また、添加される薬剤の種類も、上述したスケール防止剤やスライムコントロール剤の他、pH調整剤や還元剤であってもよい。
【0017】
制御装置17は、水処理装置10の通常運転時に、流量センサ15により検出された透過水の流量が一定(予め設定された目標流量)になるように加圧ポンプ12を制御する流量制御を実行する。例えば、水温が変化すると、水の粘性が変化することで、RO膜で分離される透過水の流量も変化するが、この変化に応じて、制御装置17は、インバータを通じて加圧ポンプ12の回転数を制御する。すなわち、水温が低くなると、水の粘性は高くなり、その結果、RO膜で分離される透過水の流量は減少する。そのため、制御装置17は、この減少分を補うように、加圧ポンプ12の回転数を上げることで、原水圧力を増加させる。また、水温が高くなると、水の粘性は低くなり、その結果、RO膜で分離される透過水の流量は増加する。そのため、制御装置17は、この増加分を打ち消すように、加圧ポンプ12の回転数を下げることで、原水圧力を低下させる。このように、制御装置17は、加圧ポンプ12の回転数、すなわち原水圧力を調整することで、透過水ラインL2を流れる透過水の流量を設定流量に調整する。
【0018】
加えて、制御装置17は、圧力センサ13による検出値と、温度センサ14による検出値と、流量センサ15による検出値とに基づいて、薬剤注入装置16による薬剤の注入量の調整を実行する。以下、制御装置17により実行される薬剤の注入量の2つの調整方法について説明する。
【0019】
(第1の調整方法)
RO膜のファウリングの発生は、膜の細孔を閉塞させるため、通常は透過水の流量変化として現れるが、上述したように、透過水ラインL2を流れる透過水の流量を一定に維持する流量制御が実行されている場合には、原水圧力の変化(上昇)として現れる。そのため、その上昇分を算出することで、ファウリングの程度を正確に把握することができ、それに応じた適切な注入量で薬剤を注入することが可能になる。しかしながら、原水圧力は、RO膜のファウリングの程度によって変化するだけでなく、上述したように、水温によっても変化する。そのため、ファウリングに起因する原水圧力の上昇分を正確に算出するには、現在の原水圧力を、RO膜の使用開始時の原水圧力(初期原水圧力)と直接比較するのではなく、初期原水圧力を水温の変動による影響を考慮して補正した値、すなわち、初期原水圧力を現在の水温における圧力に換算した値と比較する必要がある。
【0020】
そこで、第1の調整方法による薬剤の注入量の調整は、以下のように行われる。前提として、制御装置17には、RO膜の使用開始時に圧力センサ13により予め検出された原水圧力の初期値(初期原水圧力)と温度センサ14により予め検出された原水温度の初期値(初期原水温度)とが記憶されている。なお、初期原水圧力および初期原水温度は、RO膜の使用開始直後のものであってもよいが、使用開始直後から一定時間経過して性能が安定した後に取得したものであることが好ましく、その移動平均値であってもよい。また、初期原水圧力および初期原水温度は、RO膜が新品に交換されるたびに新たに取得され、制御装置17に記憶されて更新される。
【0021】
まず、圧力センサ13により現在の原水圧力が検出され、それと同時に、温度センサ14により現在の原水温度が検出される。実際には、各センサ13,14による検出値の移動平均が算出され、それらが現在の原水圧力および原水温度として取得(検出)される。そして、内部の記憶装置や外部のサーバなどに予め記憶された温度補正係数の情報(テーブルや関数など)を用いて、検出された現在の原水温度における温度補正係数と、制御装置17に予め記憶された初期原水温度における温度補正係数とが取得される。温度補正係数とは、任意の温度で測定されたRO膜の透過流束を、標準温度(例えば、25℃)の値に補正するための係数であり、RO膜の型式ごとに各温度に対する温度補正係数がメーカーによって提供されている。なお、初期原水温度における温度補正係数は、RO膜の使用開始時に予め取得されて制御装置17に記憶されていてもよい。それぞれの温度補正係数が取得されると、取得された温度補正係数に基づいて、初期原水圧力が、現在の原水温度における値に換算される。具体的には、初期原水圧力をPとすると、初期原水圧力を現在の原水温度における値に換算した換算初期圧力PR0は、以下の式(1)によって与えられる。
R0=P×(K/K) (1)
ここで、Kは現在の原水温度における温度補正係数であり、Kは初期原水温度における温度補正係数である。
【0022】
そして、上記式(1)で算出された換算初期圧力と、検出された現在の原水圧力とが比較され、その結果に基づいて、薬剤注入装置16による薬剤の注入量が決定される。具体的には、現在の原水圧力が換算初期圧力よりも高い場合に、ファウリングが発生していると判定され、その差に応じた注入量で薬剤が注入される。すなわち、現在の原水圧力と換算初期圧力との圧力差がファウリングに起因する原水圧力の上昇分に対応し、その圧力差が大きいほど、ファウリングがより進行していると判定され、より多くの注入量で薬剤が注入される。このときの注入量は、上述の圧力差に応じて連続的に増減させてもよく、段階的に増減させてもよい。一方、現在の原水圧力が換算初期圧力に等しいかそれよりも低い場合には、ファウリングが発生していないと判定され、薬剤の注入が停止されるか、あるいは、予め設定された最低注入量で薬剤が注入される。こうして、原水圧力の経時変化のうちファウリングに起因する上昇分が正確に把握され、ファウリングの影響を適切に反映した注入量で薬剤の注入が行われる。
【0023】
ところで、ユースポイントでの処理水(透過水)の使用状況などによっては、例えば、上述した透過水の流量制御における目標流量(設定流量)がRO膜の使用開始時から変更されることもある。そのような場合を想定し、上記式(1)で算出された換算初期圧力を、透過水の流量変化による影響を考慮してさらに補正し、補正された換算初期圧力と、検出された現在の原水圧力とが比較されてもよい。その前提として、制御装置17には、RO膜の使用開始時に流量センサ15により予め検出された透過水の流量(初期透過水流量)が記憶されており、好ましくは、RO膜の使用開始直後から一定時間経過して性能が安定した後に移動平均値として算出された初期透過水流量が記憶されている。なお、この場合も、制御装置17に記憶された初期透過水流量は、RO膜が交換されるたびにリセットされて更新される。
【0024】
圧力センサ13および温度センサ14により現在の原水圧力および原水温度がそれぞれ検出されると、それと同時に、流量センサ15により現在の透過水の流量も検出される。実際には、現在の原水圧力および原水温度と同様に、流量センサ15による検出値の移動平均が算出され、それが現在の透過水の流量として取得(検出)される。そして、検出された現在の透過水の流量と、制御装置17に予め記憶された初期透過水流量とに基づいて、上記式(1)で算出された換算初期圧力が補正される。具体的には、初期透過水流量をQとし、流量センサ15により検出された現在の透過水の流量をQとすると、補正された換算初期圧力PC0は、以下の式(2)によって与えられる。
C0=PR0×(Q/Q) (2)
なお、式(2)中のQおよびQとして、実際に検出される流量の代わりに、上述した流量制御における目標流量(設定流量)を用いることもできる。
【0025】
こうして得られた補正された換算初期圧力と、検出された現在の原水圧力とが比較され、その結果に基づいて、薬剤注入装置16による薬剤の注入量が調整されるが、その具体的な調整方法は、上述したものと同様である。
【0026】
(第2の調整方法)
第2の調整方法は、原水圧力に対する水温変動の影響を相殺するために、第1の調整方法のように初期原水圧力を現在の水温における圧力に換算するのではなく、初期原水圧力と現在の原水圧力のそれぞれを標準温度(例えば、25℃)における圧力に換算し、それらを比較した結果に基づいて、薬剤注入装置16による薬剤の注入量を調整する方法である。これにより、第1の調整方法と同様に、原水圧力の経時変化のうちファウリングに起因する上昇分を正確に把握することができ、ファウリングの影響を適切に反映した注入量で薬剤の注入を行うことが可能になる。なお、第2の調整方法においても、以下に示すように、薬剤の注入量の調整には各センサ13~15による検出値が用いられるが、実際にはそれぞれの移動平均値を用いることが好ましいことは、第1の調整方法と同様である。
【0027】
第2の調整方法では、まず前提として、制御装置17には、初期原水圧力を標準温度における値に換算した換算初期圧力が記憶されている。この場合、換算初期圧力PR0’は、初期原水圧力をPとし、初期原水温度における温度補正係数をKとすると、以下の式(3)によって与えられる。
R0’=P/K (3)
なお、この換算初期圧力は、第1の調整方法における初期原水圧力および初期原水温度と同様に、RO膜が新品に交換されるたびに新たに取得され、制御装置17に記憶されて更新される。
【0028】
そして、圧力センサ13および温度センサ14により現在の原水圧力および原水温度がそれぞれ検出されると、検出された現在の原水温度における温度補正係数が取得され、取得された温度補正係数に基づいて、現在の原水圧力が標準温度における値に換算される。具体的には、現在の原水圧力をPとし、現在の原水温度における温度補正係数Kをとすると、現在の原水圧力を標準温度における値に換算した換算原水圧力PRiは、以下の式(4)によって与えられる。
Ri=P/K (4)
【0029】
こうして算出された換算原水圧力と、制御装置17に予め記憶された換算初期圧力(上記式(3)参照)とが比較され、その結果に基づいて、薬剤注入装置16による薬剤の注入量が調整される。すなわち、換算原水圧力が換算初期圧力をどの程度上回るかに応じて薬剤の注入量が決定されるが、その具体的な決定方法は、第1の調整方法の場合と同様である。
【0030】
また、第2の調整方法では、透過水の流量変化による影響を考慮し、第1の調整方法と同様に、RO膜の使用開始時と現在との透過水の流量比に基づいて、制御装置17に予め記憶された換算初期圧力(上記式(3)参照)が補正され、補正された換算初期圧力と、上記式(4)で算出された換算原水圧力とが比較されてもよい。この場合、補正された換算初期圧力PC0’は、初期透過水流量(またはRO膜の使用開始時の透過水の目標流量)をQとし、流量センサ15により検出された現在の透過水の流量(または現在の透過水の目標流量)をQとすると、以下の式(5)によって与えられる。
C0’=PR0’×(Q/Q) (5)
【0031】
こうして得られた補正された換算初期圧力と、上記式(4)で算出された換算原水圧力とが比較され、その結果に基づいて、薬剤注入装置16による薬剤の注入量が調整される。すなわち、換算原水圧力が補正された換算初期圧力をどの程度上回るかに応じて薬剤の注入量が決定されるが、その具体的な決定方法は、第1の調整方法の場合と同様である。
【0032】
上述した2つの調整方法ではいずれも、圧力センサ13による原水圧力の検出値を用いて、ファウリングに起因する原水圧力の上昇分が算出されるが、原水圧力の代わりに、RO膜の通水差圧(原水の供給圧力と濃縮水の流出圧力との差圧)の検出値を用いてもよい。すなわち、第1の調整方法では、RO膜の使用開始時の通水差圧を現在の原水温度における値に換算し、その換算値と、現在のRO膜の通水差圧とを比較することでも、ファウリングに起因する原水圧力の上昇分を正確に算出することができる。また、第2の調整方法では、RO膜の使用開始時の通水差圧と現在の通水差圧のそれぞれを標準温度における値に換算し、それらを比較することでも、ファウリングに起因する原水圧力の上昇分を正確に算出することができる。ただし、RO膜の通水差圧を検出するには、原水ラインL1に設置された圧力センサ13に加えて、さらに別の圧力センサを排水ラインL3に設置する必要があり、追加のコストが発生してしまう。このような点から、上述したように、圧力センサ13による原水圧力の検出値を用いて、ファウリングに起因する原水圧力の上昇分を算出することが好ましい。
【符号の説明】
【0033】
10 水処理装置
11 逆浸透膜(RO膜)装置
12 加圧ポンプ
13 圧力センサ
14 温度センサ
15 流量センサ
16 薬剤注入装置
17 制御装置
21 薬剤タンク
22 薬注ポンプ
L1 原水ライン
L2 透過水ライン
L3 排水ライン
L4 薬剤供給ライン
図1