(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】光デバイス及びレーザ装置
(51)【国際特許分類】
G02B 6/02 20060101AFI20241030BHJP
H01S 3/10 20060101ALN20241030BHJP
【FI】
G02B6/02 416
H01S3/10 D
(21)【出願番号】P 2021010504
(22)【出願日】2021-01-26
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 研資
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/171152(WO,A1)
【文献】特開2002-131550(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109149329(CN,A)
【文献】特開2003-050322(JP,A)
【文献】特開平09-304622(JP,A)
【文献】特開昭57-089706(JP,A)
【文献】特開2017-223897(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0111851(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02-6/036
6/10
6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、
前記コアを覆い、前記コアよりも低い屈折率を有するクラッドと、
前記クラッドを覆う保護被覆と、
前記保護被覆が除去された除去部分における前記コアに形成され、前記コアを伝搬するSRS光を前記クラッドに結合させるスラント型FBGと、
を備え、
前記除去部分における前記クラッドの外周面の少なくとも一部は、粗面化された粗面化部とされて
おり、
前記粗面化部は、前記スラント型FBGを覆うように形成されている、
光デバイス。
【請求項2】
前記粗面化部は、前記保護被覆に接していない、請求項1記載の光デバイス。
【請求項3】
前記スラント型FBGは、光の反射位置が前記光の波長に応じて異なるようにグレーティングの周期が変化しているチャープFBGである、請求項1又は請求項2記載の光デバイス。
【請求項4】
少なくとも前記除去部分を収容する収容部を備えた筐体と、
前記収容部に収容された前記除去部分の両側における前記保護被覆を有する部分を前記筐体に固定する樹脂と、
を更に備え、
前記筐体の前記除去部分に対向する面は、少なくとも前記SRS光を吸収する光吸収部とされている、
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の光デバイス。
【請求項5】
励起光を射出する励起光源と、
前記励起光源から射出された励起光によってレーザ光である信号光を生成する共振器と、
前記共振器と前記信号光の出力端との間に配置される請求項1から請求項4の何れか一項に記載の光デバイスと、
を備えるレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光デバイス及びレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、レーザ装置は、加工分野、自動車分野、医療分野等の様々な分野で用いられている。近年、例えば、加工分野においては、従来のレーザ装置(例えば、炭酸ガスレーザ装置)に比べて、ビーム品質及び集光性が優れているファイバレーザ装置が注目されている。このようなファイバレーザ装置の最高出力は、レーザ出力に対して非線形に発生する誘導ラマン散乱(SRS:Stimulated Raman Scattering)による制限を受ける。
【0003】
以下の特許文献1には、ファイバレーザ装置等で発生するSRS光を除去する光デバイスが開示されている。この光デバイスは、光ファイバのコアにスラント型FBG(Fiber Bragg Grating)が形成されており、クラッドの外周面が高屈折率樹脂で覆われたものである。この光デバイスによれば、コア内を伝搬する光からSRS光が選択的に除去され、除去されたSRS光を含むクラッドモード光が高屈折率樹脂を介して外部に放出される。これにより、コア内を伝搬する信号光を安定させたり、励起光源の損傷を防いだりすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した特許文献1に開示された光デバイスは、クラッドの外周面が高屈折率樹脂で覆われているため、スラント型FBGによってコアからクラッドに結合したSRS光を含むクラッドモード光を効率的に外部に放出することができる。しかしながら、クラッドモード光のパワーやNA(Numerical Aperture:開口数)によっては、クラッドの外周面を覆っている高屈折率樹脂や保護被覆(光ファイバの保護被覆)が発熱してしまい、信頼性が低下する可能性が考えられる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、クラッドモード光に起因する発熱による信頼性の低下を防止することができる光デバイス及びレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様による光デバイス(1)は、コア(10a)と、前記コアを覆い、前記コアよりも低い屈折率を有するクラッド(10b)と、前記クラッドを覆う保護被覆(10c)と、前記保護被覆が除去された除去部分(RP)における前記コアに形成され、前記コアを伝搬するSRS光を前記クラッドに結合させるスラント型FBG(11)と、を備え、前記除去部分における前記クラッドの外周面の少なくとも一部は、粗面化された粗面化部(12)とされている。
【0008】
本発明の一態様による光デバイスでは、保護被覆が除去された除去部分におけるコアにスラント型FBGが形成されており、除去部分におけるクラッドの外周面の少なくとも一部に粗面化部が形成されている。そして、コアを伝搬するSRS光をスラント型FBGで反射してクラッドに結合させ、クラッドに結合したSRS光を含むクラッドモード光を、クラッドの外周面に形成された粗面化部で散乱させることによって除去している。このように、コアからクラッドに結合したSRS光を含むクラッドモード光を、樹脂を用いること無く、クラッドに形成された粗面化部で散乱させて除去しているため、クラッドモード光に起因する発熱による信頼性の低下を防止することができるという効果がある。
【0009】
また、本発明の一態様による光デバイスは、前記粗面化部が、前記保護被覆に接していない。
【0010】
また、本発明の一態様による光デバイスは、前記スラント型FBGが、光の反射位置が前記光の波長に応じて異なるようにグレーティングの周期が変化しているチャープFBGである。
【0011】
また、本発明の一態様による光デバイスは、少なくとも前記除去部分を収容する収容部(21)を備えた筐体(20)と、前記収容部に収容された前記除去部分の両側における前記保護被覆を有する部分を前記筐体に固定する樹脂(30)と、を更に備え、前記筐体の前記除去部分に対向する面が、少なくとも前記SRS光を吸収する光吸収部(22)とされている。
【0012】
本発明の一態様によるレーザ装置(40)は、励起光を射出する励起光源(41a、41b)と、前記励起光源から射出された励起光によってレーザ光である信号光を生成する共振器(43)と、前記共振器と前記信号光の出力端との間に配置される上記の何れかに記載の光デバイスと(1)、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、クラッドモード光に起因する発熱による信頼性の低下を防止することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態による光デバイスの要部構成を示す断面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態による光デバイスが備える光ファイバの断面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態によるレーザ装置の要部構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態による光デバイス及びレーザ装置について詳細に説明する。尚、以下の説明で用いる図面は、特徴を分かりやすくするために、便宜上、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0016】
〔第1実施形態〕
〈光デバイス〉
図1は、本発明の第1実施形態による光デバイスの要部構成を示す断面図である。
図1に示す通り、本実施形態の光デバイス1は、光ファイバ10、筐体20、及びファイバ固定樹脂30(樹脂)を備えており、光ファイバ10内を伝搬するクラッドモード光(SRS光を含む)を除去するものである。このような光デバイス1は、所謂クラッドモードストリッパとも呼ばれる。尚、以下では、光ファイバ10の長手方向(紙面左右方向)を「X方向」とし、紙面右側を「+X側」といい、紙面左側を「-X側」という。
【0017】
図2は、本発明の第1実施形態による光デバイスが備える光ファイバの断面図である。
図2に示す通り、光ファイバ10は、スラント型FBG11が形成されたコア10aと、クラッド10bと、保護被覆10cとを備える。つまり、光ファイバ10は、スラント型FBG11が形成されたコア10aを有するシングルクラッドファイバである。尚、光ファイバ10は、クラッド10bが2つのクラッド、又は3つのクラッドから形成されていても良い。つまり、光ファイバ10は、スラント型FBG11が形成されたコア10aを有するダブルクラッドファイバ又はトリプルクラッドファイバであっても良い。
【0018】
光ファイバ10のコア10aは、円筒形状に形成された長尺部材であり、所定波長の光(以下、信号光という)を光ファイバ10の長手方向に沿って伝搬させる。このコア10aとしては、例えば、シリカガラス等を用いることができる。クラッド10bは、コア10aを覆い、コア10aよりも低い屈折率を有する。このクラッド10bとしては、コア10aと同様に、例えば、シリカガラス等を用いることができる。保護被覆10cは、クラッド10bを覆い、光ファイバ10を側圧等の外力から保護する。保護被覆10cとしては、アクリル樹脂やシリコーン樹脂等の樹脂材料を用いることができる。保護被覆10cとして用いられるこれらの樹脂材料は、一般的に、光を吸収して発熱する。
【0019】
スラント型FBG11は、光ファイバ10のコア10aに形成され、コア10aを伝搬するSRS光をクラッド10bに結合(モード結合)させるためのものである。スラント型FBG11は、光ファイバ10のコア10aに、部分的に加工用光線(紫外線レーザ光等)を照射し、長手方向におけるコア10aの屈折率を変調することで形成される。本実施形態では、スラント型FBG11を形成するために、保護被覆10cを部分的に除去し、保護被覆10cが除去された部分(除去部分RP)を通じて加工用光線をコア10aに照射している。このため、スラント型FBG11は、保護被覆10cが除去された除去部分RPにおけるコア10aに形成されている。
【0020】
スラント型FBG11は、信号光の波長帯(例えば、1070nm)の光を透過し、且つ、SRS光の波長帯(例えば、1125nm)の光をコア10aからクラッド10bに向けて逃がすように構成されている。ここで、スラント型FBG11は、コア10aを伝搬する信号光の殆どを透過させるが、信号光の一部を反射する。スラント型FBG11で反射された信号光は、クラッド10bに結合する。
【0021】
スラント型FBG11は、長手方向における屈折率変調部同士の間隔が不均一になっていることが望ましい。例えば、スラント型FBG11は、コア10aを伝搬する光の反射位置が、その光の波長に応じて異なるようにグレーティングの周期が変化しているチャープFBGであることが望ましい。これにより、スラント型FBG11でコア10aから取り除かれる光の波長帯が大きくなる。このようにすることで、SRS光をクラッド10bに向けてより確実に逃がすことができる。このように、SRS光をコア10aから選択的に除去してクラッド10bに結合させることで、信号光の品質を安定させたり、SRS光がコア10aを伝搬することによって生ずる不具合を防止したりすることができる。
【0022】
上記の保護被覆10cが除去された除去部分RPにおけるクラッド10bの外周面の少なくとも一部には、クラッド10bの外周面を粗面化した粗面化部12が形成されている。この粗面化部12は、光ファイバ10のコア10aからクラッド10bに結合したSRS光を含むクラッドモード光を散乱させてクラッド10bから除去するためのものである。つまり、粗面化部12は、所謂クラッドモードストリッパとして機能する部位である。クラッドモード光が粗面化部12で散乱されることにより、クラッドモード光のエネルギー密度が低下するため、クラッドモード光に起因する発熱(例えば、クラッドモード光が保護被覆10cに照射されることによる発熱)を抑制することができる。
【0023】
粗面化部12は、例えば、
図2に示す通り、保護被覆10cの近傍領域R1を除いて、除去部分RPにおけるクラッド10bの外周面の全面に亘って形成されている。ここで、保護被覆10cの近傍領域R1は、例えば、保護被覆10cの端部E1から+X側に5[mm]程度以上離れた位置までの領域、及び保護被覆10cの端部E2から-X側に5[mm]程度以上離れた位置までの領域である。つまり、粗面化部12は、保護被覆10cに接しないようにされている。これは、粗面化部12を保護被覆10cから遠ざけることで、粗面化部12で散乱されたクラッドモード光が保護被覆10cに入射して保護被覆10cが発熱するのを抑制するためである。
【0024】
粗面化部12は、除去部分RPにおけるスラント型FBG11の中心位置P0から-X側の領域であって、保護被覆10cの近傍領域R1を除いた領域R21の全体又は一部に形成されていても良い。また、粗面化部12は、除去部分RPにおけるスラント型FBG11の中心位置P0から+X側の領域であって、保護被覆10cの近傍領域R1を除いた領域R22の全体又は一部に形成されていても良い。或いは、粗面化部12は、光ファイバ10の長手方向にスラント型FBG11を挟むように、上記の領域R21と領域R22とに形成されていても良い。
【0025】
粗面化部12が領域R21に形成されている場合には、光ファイバ10のコア10aを-X側から+X側に伝搬して、スラント型FBG11によって反射されたSRS光を含むクラッドモード光を除去することができる。粗面化部12が領域R22に形成されている場合には、光ファイバ10のコア10aを+X側から-X側に伝搬して、スラント型FBG11によって反射されたSRS光を含むクラッドモード光を除去することができる。
【0026】
粗面化部12の表面粗さ(クラッド10bの外周面の表面粗さ)は、例えば、スラント型FBG11の反射角度、クラッドモード光のエネルギー密度等を考慮して設定される。粗面化部12の表面粗さは、均一であっても、場所によって異なっていても良い。例えば、スラント型FBG11の中心位置P0から離れるにつれて粗面化部12の表面粗さが大きくなる構成であっても良い。かかる構成の場合において、粗面化部12の表面粗さは、段階的に大きくなっても良く、徐々に大きくなっても良い。このような構成にすることで、光ファイバ10の長手方向における発熱を均一に近づけることができる。
【0027】
また、粗面化部12の表面粗さは、例えば、発熱しやすい部分であるか否かに応じて異なるようにしても良い。例えば、スラント型FBG11がチャープFBGである場合には、光ファイバ10の長手方向におけるスラント型FBG11の位置に応じて反射される波長が異なる。このため、例えば、SRS光の中心波長が反射される部分は発熱しやすく、SRS光の中心波長からずれた波長が反射される部分は発熱しにくい状況になる。このような状況では、例えば、発熱しやすい部分における粗面化部12の表面粗さを小さくし、発熱しにくい部分における粗面化部12の表面粗さを大きくしても良い。このようにすることで、光ファイバ10の長手方向における発熱を均一に近づけることができる。
【0028】
粗面化部12は、例えば、クラッド10bの外周面をエッチングすることによって、或いはパルスレーザを用いたレーザ加工を行うことによって形成される。クラッド10bの外周面をエッチングする方法は、エッチング液を用いた化学的エッチングであっても良く、サンドブラストによる物理的エッチングであっても良い。尚、光ファイバ10がダブルクラッドファイバ又はトリプルクラッドファイバの場合には、最外層に位置するクラッドの外周面に粗面化部12が形成される。
【0029】
尚、保護被覆10cが除去された除去部分RPは、樹脂によるリコート(再被覆)は行われない。このため、保護被覆10cが除去された除去部分RPにおいては、クラッド10bの外周面(粗面化部12が形成されている部分及び粗面化部12が形成されていない部分を含む)が外部に露出した状態とされる。
【0030】
筐体20は、少なくとも光ファイバ10の保護被覆10cが除去された部分(除去部分RP)を収容する収容部21を備える。この筐体20は、保護被覆10cが除去された光ファイバ10を補強し、クラッド10bに対する異物(例えば、塵や埃等)の付着による発熱を防止し、光ファイバ10から除去されたクラッドモード光を吸収するために設けられる。
【0031】
つまり、光ファイバ10の除去部分RPは、保護被覆10cが除去されているため、強度が低下している。このような強度が低下している光ファイバ10の除去部分RPを筐体20の収容部21に収容することで、保護被覆10cが除去された光ファイバ10を補強している。
【0032】
また、クラッド10bの外周面に形成された粗面化部12に異物が付着すると、粗面化部12で散乱されたクラッドモード光が異物に吸収されて発熱してしまう。光ファイバ10の除去部分RPを筐体20の収容部21に収容することで、クラッド10bに対する異物の付着による発熱を防止している。
【0033】
また、光ファイバ10から除去されたクラッドモード光が光デバイス1の外部に放出されると、光デバイス1以外の部材に光が入射し、意図しない発熱が生ずる可能性が考えられる。光ファイバ10の除去部分RPを筐体20の収容部21に収容し、粗面化部12で散乱されたクラッドモード光を筐体20で吸収することで、クラッドモード光が光デバイス1の外部に放出されないようにしている。
【0034】
筐体20は、例えば、角筒形状又は円筒形状の部材であり、収容部21に収容された光ファイバ10の除去部分RPの周囲を取り囲むように配置される。筐体20の内表面(光ファイバ10の除去部分RPに対向する面)は、光吸収部22とされている。具体的に、筐体20は、内表面が黒アルマイト処理、レイデント処理(登録商標)、又は低温黒色メッキされたアルミニウム等の金属により形成されている。筐体20の内表面が、黒アルマイト処理等されるのは、内表面に入射したSRS光を含むクラッドモード光の反射を防止しつつ吸収するためである。尚、筐体20の材料としては、例えば、放射率(物体の放射の能率を表す尺度)が0.7以上の金属を用いることができる。
【0035】
尚、筐体20は、光ファイバ10の除去部分RPを収容部21に容易に収容できるように、複数(例えば、2つ)の部材から形成されていても良い。例えば、一側面が開口された角筒形状の第1筐体と、第1筐体の開口された一側面を覆う平板状の第2筐体とから形成されていても良い。尚、筐体20が複数の部材からなる場合であっても、内部に収容される光ファイバ10の除去部分RPに対向する面(内表面)が、光吸収部22とされている必要がある。
【0036】
ファイバ固定樹脂30は、除去部分RPが筐体20の収容部21に収容されている光ファイバ10を筐体20に固定するためのものである。ファイバ固定樹脂30は、筐体20の両端部(-X側の端部、+X側の端部)に充填されており、筐体20の収容部21に収容された除去部分RPの両側における保護被覆10cを有する部分を筐体20に固定する。ファイバ固定樹脂30としては、例えば、シリコーン樹脂を用いることができる。ファイバ固定樹脂30を構成するシリコーン樹脂は、光透過性を有していてもよいし、光透過性を有していなくてもよい。
【0037】
いま、SRS光を含む信号光が、光ファイバ10のコア10aを-X側から+X側に伝搬する場合を考える。光ファイバ10のコア10aを伝搬するSRS光を含む信号光がスラント型FBG11に入射すると、信号光の殆どはスラント型FBG11を透過する一方で、信号光の一部及びSRS光はスラント型FBG11によって反射されてクラッド10bに結合されてクラッドモード光となる。
【0038】
このクラッドモード光は、クラッド10bの外周面に粗面化部12bが形成されていない場合には、クラッド10bの外周面で反射されながらクラッド10b内を+X側から-X側に進むことになる。しかしながら、本実施形態では、クラッド10bの外周面に粗面化部12bが形成されているため、クラッドモード光がクラッド10bの外周面に入射すると、クラッド10bの外周面に形成された粗面化部12で散乱されて光ファイバ10から除去される。
【0039】
光ファイバ10から除去されたクラッドモード光の殆どは筐体20で吸収される。これにより、クラッドモード光が光ファイバ10の保護被覆10cやファイバ固定樹脂30に照射されることによる発熱を抑制することができる。このようにして、クラッドモード光に起因する発熱による信頼性の低下を防止することができる。
【0040】
尚、ここでは、SRS光を含む信号光が、光ファイバ10のコア10aを-X側から+X側に伝搬する場合について説明した。SRS光を含む信号光が、光ファイバ10のコア10aを+X側から-X側に伝搬する場合についても同様に、光ファイバ10の保護被覆10cやファイバ固定樹脂30の発熱を伴うことなくクラッドモード光を除去することができる。
【0041】
〈レーザ装置〉
図3は、本発明の第1実施形態によるレーザ装置の要部構成を示す図である。
図3に示す通り、本実施形態のレーザ装置40は、励起光源41a、励起光源41b、第1コンバイナ42a、第2コンバイナ42b、共振器43、光デバイス1、及び出力端44を備える。このようなレーザ装置40は、励起光源41a及び励起光源41bを備える双方向励起型のファイバレーザ装置である。
【0042】
尚、以下では、共振器43の増幅用ファイバ43aから見て、励起光源41a側を「前方」といい、励起光源41b側を「後方」という場合がある。また、
図3では、各種ファイバの融着接続部を×印で示している。この融着接続部は、実際には、補強部(図示省略)の内部に配置されて保護される。補強部は、例えば、光ファイバを収容可能な溝が形成されたファイバ収容体と、融着接続部がファイバ収容体の溝に収容された状態で各種ファイバをファイバ収容体に固定する樹脂とを備えるものである。
【0043】
図3に示す通り、励起光源41a及び励起光源41bは、共振器43を挟んで、それぞれ複数配置されている。励起光源41aは励起光(前方励起光)を共振器43に向けて射出し、励起光源41bは励起光(後方励起光)を共振器43に向けて射出する。これら励起光源41a及び励起光源41bとしては、例えばレーザダイオードを用いることができる。
【0044】
第1コンバイナ42a及び第2コンバイナ42bは、共振器43を挟んだ両側に配置されている。第1コンバイナ42aは、励起光源41aの各々が射出した励起光を、1本の光ファイバに結合して共振器43に向かわせる。第2コンバイナ42bは、励起光源41bの各々が射出した励起光を、1本の光ファイバに結合して共振器43に向かわせる。
【0045】
共振器43は、増幅用ファイバ43aと、HR-FBG(High Reflectivity-Fiber Bragg Grating)43b及びOC-FBG(Output Coupler-Fiber Bragg Grating)43cとから構成される。共振器43は、励起光源41a及び励起光源41bから射出された励起光によってレーザ光である信号光を生成する。
【0046】
増幅用ファイバ43aは、1種類又は2種類以上の活性元素が添加されたコアと、コアを覆う第1クラッドと、第1クラッドを覆う第2クラッドと、第2クラッドを覆う保護被覆とを有する。つまり、増幅用ファイバ43aは、ダブルクラッドファイバである。コアに添加される活性元素としては、例えばエルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、或いはネオジム(Nd)等の希土類元素が使用される。これらの活性元素は、励起状態で光を放出する。コア及び第1クラッドとしてはシリカガラス等を用いることができる。第2クラッドとしては、ポリマー等の樹脂を用いることができる。保護被覆としては、アクリル樹脂やシリコーン樹脂等の樹脂材料を用いることができる。
【0047】
HR-FBG43bは、増幅用ファイバ43aの前方の端部に融着接続された光ファイバのコア内に形成されている。HR-FBG43bは、励起状態にされた増幅用ファイバ43aの活性元素が放出する光のうち、信号光の波長の光をほぼ100%の反射率で反射するように調整されている。HR-FBG43bは、その長手方向に沿って一定の周期で高屈折率の部分が繰り返される構造となっている。
【0048】
OC-FBG43cは、増幅用ファイバ43aの後方の端部に融着された光ファイバのコア内に形成されている。OC-FBG43cは、HR-FBG43bとほぼ同様の構造を有しているが、HR-FBG43bよりも低い反射率で、光を反射するように調整されている。例えば、OC-FBG43cは、信号光の波長の光に対する反射率が10~20%程度となるように調整されている。
【0049】
増幅用ファイバ43a内では、HR-FBG43b及びOC-FBG43cで反射した信号光が、増幅用ファイバ43aの長手方向で往復する。信号光は、この往復に伴って増幅されてレーザ光となる。このように、共振器43内では、光が増幅されてレーザ光が生成される。レーザ光の一部は、OC-FBG43cを透過し、光デバイス1を介して出力端44に到達して外部に出力される。
【0050】
ここで、増幅用ファイバ43aで生成されてOC-FBG43cを透過したレーザ光(信号光)にSRS光が含まれていても、SRS光が含まれる信号光が光デバイス1を通過する際に、光デバイス1によってSRS光が除去される。このため、レーザ装置40の出力端44からは、安定した品質の信号光が出力される。尚、レーザ装置40から出力された信号光の戻り光(出力端44から入力されて共振器43に向かって進む光)に起因するSRS光も発生することがある。このようなSRS光も戻り光が光デバイス1を通過する際に、光デバイス1によって除去される。
【0051】
以上の通り、本実施形態では、保護被覆10cが除去された除去部分RPにおけるコア10aにスラント型FBG11が形成されており、除去部分RPにおけるクラッド10bの外周面の少なくとも一部に粗面化部12が形成されている。そして、コア10aを伝搬するSRS光をスラント型FBG11で反射してクラッド10bに結合させ、クラッド10bに結合したSRS光を含むクラッドモード光を、クラッド10bの外周面に形成された粗面化部12で散乱させることによって除去している。
【0052】
このように、本実施形態では、コアからクラッドに結合したSRS光を含むクラッドモード光を、樹脂を用いること無く、クラッド10bに形成された粗面化部12で散乱させて除去している。このため、クラッドモード光に起因する発熱による信頼性の低下を防止することができる。また、本実施形態では、スラント型FBG11と、所謂クラッドモードストリッパとして機能する粗面化部12とがデバイス1に形成されているため、これらが別々に設けられている構成と比較すると部品点数を減らすことができる。
【0053】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態によるレーザ装置について説明する。本実施形態のレーザ装置は、増幅用ファイバ43aの励起方法が異なる。上述した第1実施形態によるレーザ装置40は、励起光源41a及び励起光源41bを備えており、励起光源41aから出力される励起光と励起光源41bから出力される励起光とを用いて励起を行う双方向励起型のレーザ装置であった。
【0054】
これに対し、本実施形態のレーザ装置は、励起光源41a及び励起光源41bの何れか一方を備えており、励起光源41aから出力される励起光と励起光源41bから出力される励起光との何れか一方を用いて励起を行う片側励起型のレーザ装置である。具体的には、
図3に示す励起光源41b及び第2コンバイナ42bが省略され、励起光源41aから出力される励起光を用いて励起を行う前方励起型のレーザ装置である。或いは、
図3に示す励起光源41a及び第1コンバイナ42aが省略され、励起光源41bから出力される励起光を用いて励起を行う後方励起型のレーザ装置である。
【0055】
本実施形態のレーザ装置は、第1実施形態のレーザ装置40とは励起方法が異なるのみで、第1実施形態のレーザ装置40と同様に、共振器43と出力端44との間に配置される光デバイス1を備える。このため、本実施形態のレーザ装置は、第1実施形態のレーザ装置40と同様に、クラッドモード光に起因する発熱による信頼性の低下を防止することができ、また、部品点数を減らすことができる。
【0056】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態によるレーザ装置について説明する。本実施形態のレーザ装置は、増幅用ファイバ43aに対する励起光の供給方法が異なる。上述した第1実施形態によるレーザ装置40は、励起光源41aから出力される励起光を第1コンバイナ42aによって供給し、励起光源41bから出力される励起光を第2コンバイナ42bによって供給していた。
【0057】
これに対し、本実施形態のレーザ装置は、サイドポンプにより励起光を供給する。ここで、サイドポンプとは、励起光が供給される供給用ファイバのクラッドと、励起光を供給すべき被供給用ファイバのクラッドとの側面を部分的に接触させ、或いは部分的に融着接続し、供給用ファイバに供給される励起光を、接触部を介して被供給用ファイバに供給する方式である。
【0058】
具体的に、本実施形態のレーザ装置は、
図3に示す第1コンバイナ42a及び第2コンバイナ42bが省略されている。そして、励起光源41aから出力される励起光が、サイドポンプにより、例えば、HR-FBG43bと、HR-FBG43bの後方に位置する融着接続部との間に供給される。励起光源41bから出力される励起光が、サイドポンプにより、例えば、OC-FBG43cと、OC-FBG43cの前方に位置する融着接続部との間に供給される。
【0059】
本実施形態のレーザ装置は、第1実施形態のレーザ装置40とは増幅用ファイバ43aに対する励起光の供給方法が異なるのみで、第1実施形態のレーザ装置40と同様に、共振器43と出力端44との間に配置される光デバイス1を備える。このため、本実施形態のレーザ装置は、第1実施形態のレーザ装置40と同様に、クラッドモード光に起因する発熱による信頼性の低下を防止することができ、また、部品点数を減らすことができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されることなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上述した実施形態のレーザ装置は、1つの出力端44を有するものであったが、出力端44の先に更に光ファイバ等を接続してもよい。また、出力端44の先にビームコンバイナを接続し、複数のレーザ装置からのレーザ光を束ねるように構成されていてもよい。
【0061】
また、上述した光デバイス1を、MOPA(Master Oscillator Power Amplifier)方式のレーザ装置に採用してもよい。更に、光デバイス1は、半導体レーザ(DDL:Direct Diode Laser)やディスクレーザのように、共振器が光ファイバ以外で構成され、共振器から射出されるレーザ光を光ファイバに集光するレーザ装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1…光デバイス、10a…コア、10b…クラッド、10c…保護被覆、11…スラント型FBG、12…粗面化部、20…筐体、21…収容部、22…光吸収部、30…ファイバ固定樹脂、40…レーザ装置、41a,41b…励起光源、43…共振器、44…出力端、RP…除去部分