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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】積層鉄心用の溶接カバー
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20060101AFI20241030BHJP
【FI】
H02K15/02 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021019820
(22)【出願日】2021-02-10
(65)【公開番号】P2022122530
(43)【公開日】2022-08-23
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 剛之
(72)【発明者】
【氏名】浦野 雅春
【審査官】北川 大地
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-106813(JP,A)
【文献】実開平01-118878(JP,U)
【文献】実開昭54-171107(JP,U)
【文献】実開平03-047666(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/02
B23K 9/32
B23K 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層鉄心を溶接する際に用いる積層鉄心用の溶接カバーであって、
前記積層鉄心は、外周面から窪んだ状態で積層方向に延びている溶接溝が形成されており、
前記溶接溝と外周面との境界位置を含む所定の範囲で当該外周面を覆う本体部と、
前記本体部に着脱可能に取り付けられ、前記溶接溝の溶接位置の側方の表面に積層方向に沿って接触するカバー部と、を備え、
前記溶接溝の表面に接触する部位を有し、当該溶接溝内に形成されている溶接位置を露出させつつ、当該溶接溝の縁から当該溶接溝の側方の外周面の所定の範囲を前記本体部が接触した状態で覆う積層鉄心用の溶接カバー。
【請求項2】
前記本体部に、前記カバー部を取り付ける位置を決める位置決め構造を設けた請求項1記載の積層鉄心用の溶接カバー。
【請求項3】
前記カバー部は、銅材料、銅合金材料、銅メッキ材料、金メッキ材料、銀メッキ材料、錫メッキ材料、クロームメッキ材料、チタン材料、ステンレス材料、あるいは、それらの材料の組み合わせにより形成されている請求項1または2記載の積層鉄心用の溶接カバー。
【請求項4】
前記溶接溝の側方の外周面を覆う部位に、当該外周面との間の隙間を塞ぐパッキンを設けた請求項1から3のいずれか一項記載の積層鉄心用の溶接カバー。
【請求項5】
前記溶接位置を露出させつつ前記溶接溝の表面から当該溶接溝の側方の外周面までを連続的に覆う請求項1から4のいずれか一項記載の積層鉄心用の溶接カバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、積層鉄心用の溶接カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薄板状の鉄心片を積層した積層鉄心が知られている。このような積層鉄心は、外周面から窪んだ状態で積層方向に延びている溶接溝が形成されており、その溶接溝内に設定されている溶接位置を溶接することにより鉄心片を積層状態で固定している。このとき、溶接する際にスパッタが発生することから、例えば特許文献1では、溶接溝に溶接カバーを配置することにより、溶接時に発生したスパッタの積層鉄心への付着を防止することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-87386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した溶接カバーを用いることにより、溶接位置から飛散したスパッタが積層鉄心の表面に付着することを抑制できると考えられる。
しかしながら、溶接位置で溶融した材料が溶接カバーを回り込んでしまうと、溶接溝の近傍の外周面にスパッタとして付着するおそれがある。
【0005】
そこで、溶接溝の近傍の積層鉄心の外周面にスパッタが付着するおそれを抑制することができる積層鉄心用の溶接カバーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態による積層鉄心用の溶接カバーは、積層鉄心を溶接する際に用いる積層鉄心用のものであって、積層鉄心は外周面から窪んだ状態で積層方向に延びている溶接溝が形成されており、溶接溝の表面に接触する部位を有し、当該溶接溝内に形成されている溶接位置を露出させつつ当該溶接溝の側方の外周面を所定の範囲で覆う。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】積層鉄心の構成の一例を模式的に示す図
図2】溶接溝の構成の一例および溶接態様の一例を模式的に示す図
図3】溶接カバーを積層鉄心に装着した状態の一例を模式的に示す図
図4】溶接カバーの構成の一例を模式的に示す図
図5】カバー部の構成の一例を模式的に示す図
図6】本体部の構成の一例を模式的に示す図
図7】本体部の形状の一例を模式的に示す図
図8】ベース部の構成の一例を模式的に示す図
図9】溶接カバーを装着した状態での溶接態様の一例を模式的に示す図
図10】カバー部の他の構成例を模式的に示す図
図11】溶接カバーの他の構成例を模式的に示す図その1
図12】溶接カバーの他の構成例を模式的に示す図その2
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について説明する。まず、図1および図2を参照しながら、溶接対象となる積層鉄心1の構成例と、溶接の態様とについて説明する。図1に示すように、積層鉄心1は、例えば薄い帯状の電磁鋼板を図示しないプレス機により環状に打ち抜くこと等によって形成した鉄心片2を積層することにより形成されている。以下、鉄心片2の積層方向において、図示上側を積層鉄心1の上端、図示下側を積層鉄心1の下端とも称する。
【0009】
電磁鋼板は、例えばシリコン含有量が比較的高く、高周波特性を改善するために板厚が比較的薄く形成されているもの等を採用することができる。また、電磁鋼板は、周知のようにその表面が絶縁皮膜によって覆われている。
【0010】
本実施形態の場合、積層鉄心1は、概ね円環状に形成された複数枚の鉄心片2を重ねて例えば3個のブロック2A~2Cを形成し、各ブロック2A~2Cを周方向に相対的にずらしながら積層するいわゆる回し積みによって形成されている。これにより、母材となる電磁鋼板の厚みの偏りによって生じる周方向における高さのずれや重量のばらつきを抑制している。なお、鉄心片2の積層態様はこれに限定されない。
【0011】
積層鉄心1には、その内周側に図示しない回転子を収容するための中空部4、および、その中空部4側に開口しており、図示しない巻線を収容するための複数のスロット5が形成されている。一方、積層鉄心1の外周側には、積層鉄心1を図示しない筐体に固定するための複数の耳部6が、積層鉄心1の周方向に等間隔となる3箇所に設けられている。ただし、中空部4、スロット5および耳部6の形状や数および位置は一例であり、図1に示した構成例に限定されるものではない。
【0012】
また、積層鉄心1の外周面には、積層された鉄心片2を互いに溶接するための複数の溶接溝7が、積層方向に沿って積層鉄心1の上端から下端まで延びて形成されている。本実施形態では、溶接溝7は、積層鉄心1の周方向において等間隔となる6箇所に形成されている。
【0013】
この溶接溝7は、図2に示すように、積層鉄心1の外周面を延長した仮想線(CL)よりも内周側になる状態、つまりは、全体として積層鉄心1の外周面から窪んだ状態で形成されている。以下、積層鉄心1の外周に概ね沿った向きを溶接溝7の幅方向と称する。そして、溶接溝7は、幅方向の概ね中央に、相対的に外周側に凸になっている凸部8が形成されている。この凸部8は、溶接位置に相当する。
【0014】
凸部8の側方の両側の部位は、相対的に内周側に凹んでおり、溶接溝7の側方の外周面まで繋がった凹部9を形成している。本実施形態では、凹部9が滑らかな曲線状に形成されており、溶接溝7が概ねω字状になっている。ただし、溶接溝7は、凸部8が形成されていない形状、例えば外周面から曲面状に窪んだ形状や部分的に平坦な部位を有する形状に形成することもできる。その場合には、幅方向の概ね中央が溶接位置になる。
【0015】
これら溶接溝7の幅(W7)、凸部8の幅(W8)および各凹部9の幅(W9)は適宜設定することができる。ただし、凸部8の先端と仮想線(CL)との間の隙間(ΔL)は、凸部8の先端に溶接時に形成される溶接ビード10が、仮想線(CL)よりも突出しない長さに設定されている。
【0016】
そして、本実施形態では、溶接トーチ11を用い、いわゆるMAG(Metal Active Gas)溶接により積層鉄心1を溶接する。このMAG溶接では、溶接位置側に開口している有底円筒状の本体11aの中を通して電極材料としての磁性材料12を供給し、シールドガス(G)を供給しながら磁性材料12および溶接位置をシールドしながら溶接トーチ11を溶接溝7に沿って移動させることにより溶接が行なわれる。また、磁性材料12は、溶接に必要な量がその都度回転リール13によって供給される。また、シールドガス(G)は、例えば炭酸ガス単体、あるいは、炭酸ガスと不活性ガスの混合物で構成されている。
【0017】
ところで、溶接中には、鉄心片2や磁性材料12が溶融することから、スラグや金属粒等のスパッタが発生することがある。そして、スパッタが飛散して積層鉄心1に付着すると、溶接の後工程となる巻線工程やワニス含浸工程において異物として混入するおそれがある。また、外周面に付着したスパッタは積層鉄心1の外形に影響を与えることから、筐体に収納する際に不具合が生じるおそれがある。
【0018】
そのため、積層鉄心1にスパッタが付着した場合には、付着したスパッタを除去する作業が必要になる。しかし、付着したスパッタは、その大きさにもよるものの、概ね0.5mm以上の場合には積層鉄心1に強固に固着してしまう。その場合、スパッタを取り除く作業に多大な労力が必要になる。
【0019】
そこで、本実施形態では、積層鉄心1を溶接する際、積層鉄心1へのスパッタの付着、特に溶接溝7の近傍における積層鉄心1の外周面へのスパッタの付着を防止するために、図3に示すように積層鉄心1の溶接溝7に対応する位置に、溶接カバー20を装着している。
【0020】
溶接カバー20は、本実施形態では、溶接時に積層鉄心1が載置され、積層鉄心1よりもその直径が大きい載置部14と、積層鉄心1の上端側に配置される上蓋15とを利用して積層鉄心1に装着される。この上蓋15は、打ち抜きで生じたバリの除去や積層鉄心1の高さ(H1)の寸法決めを行うための加圧機の一部を構成している。なお、積層鉄心1は、積層方向の上端側と下端側にそれぞれ押え板16が装着された状態で載置部14に載置される。この押え板16は、積層工程から溶接工程へと積層鉄心1を移送する際に鉄心片2がずれたりすることを防止するためのものである。
【0021】
より具体的には、溶接カバー20は、溶接時において、載置部14の外周面から窪んだ収容部14a内に固定されている支持部30によって下端側が支持される。この支持部30は、溶接カバー20のベース部23の図示下端側を両側から挟む部位にシャフト31を有しており、そのシャフト31を軸として溶接カバー20を回動可能な状態で支持するものである。本実施形態の場合、溶接カバー20は、基本的に載置部14に取り付けられた状態となっており、溶接時に積層鉄心1に装着され、溶接が終わると装着が解除される構成となっている。
【0022】
また、溶接カバー20は、その上端側が、上蓋15に設けられている押圧部40によって積層鉄心1に押しつけられた状態で固定される。この押圧部40は、溶接カバー20のベース部23を外側から覆う板部41と、その板部41を積層鉄心1側に押圧するためのローラー42を有する押圧バー43とを備えている。また、板部41には、その表面に、図示下方に向かって徐々に図示手前側に傾斜している坂部44が形成されている。
【0023】
そして、溶接時には、ベース部23の上端が板部41の裏面側になる位置まで溶接カバー20を回動させ、その状態で上蓋15を図示下方に移動させる。このとき、押圧部40では、上蓋15の移動に伴って押圧バー43に設けられているローラー42が坂部44を徐々に昇ることになり、それによって板部41は積層鉄心1側に押圧される。その結果、溶接カバー20は、積層鉄心1に押し付けられ状態で装着される。
【0024】
なお、図示は省略するが、載置部14には、溶接溝7に対応する数の収容部14aが形成されており、それぞれの収容部14aに支持部30が配置されている。そのため、溶接時には複数の溶接溝7をそれぞれ溶接カバー20で覆うことができ、複数個所の溶接溝7を同時に溶接する状況に対応することができる。
【0025】
この溶接カバー20は、カバー部21、本体部22およびベース部23を備えており、溶接溝7内に設定されている溶接位置を露出しつつ、溶接溝7の側方の外周面を覆う形状に形成されている。より詳細には、溶接カバー20は、図4に示すように、溶接溝7の側方において溶接溝7内の溶接位置と対向する側に配置される2つのカバー部21と、それぞれのカバー部21が交換可能且つ着脱可能にそれぞれ取り付けられる2つの本体部22と、積層鉄心1の溶接溝7の全体を露出させる開口部23aが形成されていて、開口部23aを挟んで2つの本体部22が交換可能且つ着脱可能に取り付けられるベース部23とにより構成されている。
【0026】
カバー部21は、図5に示すように、銅材料により平角板状に形成されている。つまり、カバー部21は、カバー部21を製造する際の加工が比較的容易になる単純形状に形成されている。ただし、カバー部21は、銅材料に限らず、例えば銅合金材料、銅メッキ材料、金メッキ材料、銀メッキ材料、錫メッキ材料、クロームメッキ材料、チタン材料、ステンレス材料、あるいはそれらの組み合わせにより形成することができる。
【0027】
また、カバー部21には、本体部22にねじ止めするための貫通孔21aが例えば長手方向の2箇所に設けられている。なお、カバー部21は、本実施形態ではSUSのねじによって本体部22に取り付けられる。また、カバー部21の長さ(L21)は、溶接溝7の積層方向の長さ、つまりは、積層鉄心1の高さ(H1)より長く設定されている。また、カバー部21の幅(W21)および厚み(D21)は、後述するように、カバー部21を本体部22に取り付けた際、カバー部21の長手方向の端部が溶接溝7の表面に接触するように設定されている。
【0028】
本体部22は、図6に正面視として示すように、ベース部23に取り付けるための平坦な取付部22aと、取付部22aから溶接溝7側に向かって傾斜している平坦な傾斜面を有する傾斜部22bとを備えている。取付部22aには、本体部22をベース部23にねじ止めするための貫通孔22cが例えば長手方向の2箇所に形成されており、傾斜部22bには、カバー部21をねじ止めするためのねじ穴22dが、カバー部21の貫通孔21aに対応する位置に例えば2箇所に形成されている。なお、本体部22は、本実施形態ではSUSのねじによってベース部23に取り付けられる。
【0029】
この本体部22は、本実施形態では軟鉄材料により形成されている。つまり、本体部22は、その形状を加工することが比較的容易となる材料により形成されている。ただし、軟鉄材料に限らず、他の材料を用いることもできる。また、本体部22の長さ(L22)は、溶接溝7の積層方向の長さよりも長く設定されている。また、取付部22aの幅(W22a)は、ベース部23に取り付け可能な範囲で適宜設定されている。
【0030】
傾斜部22bの幅(W22b)は、カバー部21の幅(W21)よりも短く、且つ、カバー部21を取り付けた際にカバー部21の端部が溶接溝7の表面に接触するように設定されている。また、この傾斜部22bは、図7に拡大した状態で示すように、その下端面22eが、溶接溝7から外周面に繋がる部位の表面形状に応じた形状に形成されている。なお、図7には溶接溝7の一部を示している。
【0031】
本実施形態では、下端面22eは、溶接溝7と積層鉄心1の外周面との境界位置(P)を含んだ状態であって、溶接溝7内に若干かかった位置から、溶接溝7の側方の外周面の所定の範囲までを覆う幅(W22e)で形成されている。ただし、下端面22eは、境界位置(P)を含んでいればよく、溶接溝7に掛からない形状や、溶接溝7により掛かる形状に形成することができる。なお、本体部22は軟鉄材料により形成されているため、積層鉄心1の外周面の形状や溶接溝7の形状に応じた形状に形成することは製造上もコスト的にも容易となる。
【0032】
また、取付部22aの傾斜部22b側の端部、つまり、傾斜部22bの上端には、壁部22fが形成されている。この壁部22fは、カバー部21を本体部22に取り付ける際に、カバー部21の短手側の端部が接触する部位となる。そして、カバー部21の短手側の端部が壁部22fに接触した状態で取り付けることにより、カバー部21と本体部22との相対位置が位置決めされる。
【0033】
つまり、傾斜部22bの傾斜面および壁部22fは、カバー部21の取り付け位置を位置決めする位置決め構造として機能する。また、貫通孔22cも位置決め構造として機能する。これにより、傾斜部22bの下端面22eを積層鉄心1の表面に接触させることにより、傾斜部22bから突出しているカバー部21の端部の位置が、溶接溝7の表面に接触する状態に位置決めされる。
【0034】
ベース部23は、図8に示すように、概ね平板状に形成されている。このベース部23は、例えばステンレス等により形成されており、カバー部21および本体部22が取り付けられた状態で積層鉄心1の溶接溝7に対応する位置に装着される。ベース部23の大きさは任意であるが、中央部分に形成されている開口部23aについては、その幅(W23a)が溶接溝7の幅(W7)よりも大きく、且つ、その長さ(L23a)が溶接溝7の長さつまりは積層鉄心1の高さ(H1)よりも大きく設定されている。
【0035】
この開口部23aの図示左右には、本体部22を取り付けるためのねじ穴23bがそれぞれ例えば2箇所ずつ形成されている。そして、ベース部23は、図示上端側に、上記した押圧部40によって押さえられることになる押圧面23cが形成されており、図示下端側に、上記した支持部30によって支持されるブロック部23dが形成されている。押圧面23cは、開口部23aとは重ならない位置に形成されており、側面視にて示すように、図示左方側の表面側および図示右方側の裏面側が平坦になっている。
【0036】
ブロック部23dは、例えばブロック状に形成されており、側面視にて示すようにシャフト31を通すための貫通孔23eと、裏面側に開口していて、図示しないバネが取り付けられるバネ溝23fが形成されている。このバネは、溶接カバー20を積層鉄心1から離間する向きに押すものである。そのため、溶接終了後に上蓋15を上部に移動っせることにより、溶接カバー20が開放される。すなわち、積層鉄心1への装着状態が解除される。
【0037】
次に、上記した溶接カバー20の作用について説明する。
前述のように、溶接時にスパッタが発生して積層鉄心1に付着すると、付着したスパッタを取り除く作業が必要になる。このとき、スパッタの飛散を抑制することができれば、スパッタが積層鉄心1に付着することを抑制できると考えられる。
【0038】
しかし、溶接時の熱により溶融した部材が溶接カバー20を回り込んで積層鉄心1に付着する可能性が考えられる。また、積層鉄心1は、複数の鉄心片2を積層しているため、溶接溝7内において若干の凹凸が生じ、溶接カバー20との間に若干の隙間が形成される可能性がある。そして、本実施形態のようにMAG溶接により溶接する場合には、シール後ガス(G)によって溶融した部材の移動が促されることがある。
【0039】
そこで、本実施形態では、積層鉄心1を溶接する際、上記した構成の溶接カバー20を、図9に示すようにカバー部21の端部が溶接溝7の溶接位置の側方の表面に接触した状態、且つ、本体部22の傾斜部22bの下端面22eが溶接溝7の縁から外周面まで連続する形に覆う状態で積層鉄心1に装着する。このとき、溶接カバー20は、上記した押圧部40によってカバー部21が溶接溝7の表面に密に接触した状態、且つ、本体部22の下端面22eが溶接溝7の縁から外周面の所定の範囲に密に接触した状態で装着される。なお、図9では、説明の簡略化のためにベース部23の図示を省略している。
【0040】
これにより、溶接トーチ11を用いて溶接する際、溶接位置から直接的に飛散するスパッタは、カバー部21によって積層鉄心1の外周面に付着することが抑制される。そして、溶融した部材が自重やシールドガス(G)によってカバー部21を回り込んだとしても、本体部22が溶接溝7との境界位置を含めて溶接溝7の近傍の外周面を覆っていることから、スパッタが外周面に付着することが抑制される。
【0041】
ところで、溶接カバー20は、溶接時に高温に曝されることから耐熱性等が必要になるものの、繰り返し使用していると、消耗することが想定される。そのため、溶接カバー20の全体を例えば銅材料により形成すると、溶接溝7や外周面に対応した形状に形成するためには削り出し加工が必要になり、消耗品としては高価になってしまうことが想定される。
【0042】
そのため、本実施形態では、溶接カバー20のうち、溶接位置に対向しており、耐熱性が必要とされるとともに溶接時の熱や接触による摩耗により消耗する可能性のある部位を、カバー部21として独立させて交換可能にしている。また、そのカバー部21を概ね平角板状に形成することにより、カバー部21の加工を容易にしている。
【0043】
これらにより、削り出し加工が不要なことから、また、交換する場合にはカバー部21のみを交換すればよいことから、消耗品として実用的な範囲内で溶接カバー20を製造および利用することができる。また、カバー部21を銅部材等で形成することにより、耐久性が低下することも抑制される。
【0044】
以上説明した実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
溶接カバー20は、外周面から窪んだ状態で積層方向に延びている溶接溝7が形成されている積層鉄心1を溶接する際に用いるものであって、溶接溝7の表面に接触する部位としてのカバー部21を有し、当該溶接溝7内に形成されている溶接位置を露出させつつ、当該溶接溝7の側方の外周面を所定の範囲で覆う本体部22を有している。
【0045】
これにより、溶接する際には、溶接カバー20を積層鉄心1に装着することにより、溶接位置の側方においてはカバー部21が溶接溝7の表面に接触し、溶接溝7の縁から外周面の所定の範囲においては本体部22によって覆われる。したがって、溶接時に発生したスパッタが溶接溝7の近傍の外周面に付着したり、溶融した部材が回り込んでスパッタとして付着したりすることを抑制することができる。
【0046】
また、溶接カバー20は、溶接溝7と外周面との境界位置(P)を含む所定の範囲で当該外周面を覆う本体部22と、本体部22に着脱可能に取り付けられ、溶接溝7の溶接位置の側方の表面に積層方向に沿って接触するカバー部21と、を備えている。これにより、カバー部21が溶接時の熱や接触による摩耗により消耗したとしても、カバー部21を取り換えれば、本体部22やベース部23を取り換える必要が無くなる。したがって、消耗品として実用的な範囲内で溶接カバー20を製造および利用することができる。
【0047】
このとき、溶接カバー20では、カバー部21が平角板状に形成されている。これにより、カバー部21を製造する際に切り出し加工などが不要となり、カバー部21の製造コストを抑制することができる。
【0048】
また、溶接カバー20は、本体部22に、カバー部21を取り付ける位置を決める位置決め構造としての傾斜面や壁部22fが設けられている。これにより、カバー部21を交換した際に同じ位置に位置決めすること、つまりは、カバー部21が溶接溝7の表面に接触する位置に取り付けることが容易になる。
【0049】
また、溶接カバー20は、カバー部21を銅材料、銅合金材料、銅メッキ材料、金メッキ材料、銀メッキ材料、錫メッキ材料、クロームメッキ材料、チタン材料、ステンレス材料、あるいは、それらの材料の組み合わせにより形成している。これにより、溶接時の高温への耐熱性や飛散したスパッタが衝突する際の耐破損性を得ることができる。
【0050】
また、溶接カバー20は、上記した構成例に限定されず、他の構成とすることができる。例えば、カバー部21について、図10に形状例その1として示すように溶接溝7に接触する側の端部を曲面状に形成したり、形状例その2として示すように溶接溝7に接触する側の端部に面取り加工を施したり、形状例その3として示すように溶接溝7に接触する側の端部を尖らせたりする形状とすることができる。
【0051】
このような形状であっても、溶接溝7の表面に接触させることで回り込みによるスパッタの付着を抑制できるなど、実施形態と同様の効果を得ることができる。また、端部が比較的単純な形状であることから、加工作業の負荷や製造コストが過度に増加することを抑制することができる。
【0052】
また、実施形態ではカバー部21を溶接位置側から本体部22ねじ止めする構成を例示したが、カバー部21を溶接位置とは逆側から本体部22に取り付ける構成とすることができる。これにより、カバー部21の溶接位置側の面が平坦な状態となり、スパッタがねじや孔部に付着することを抑制することができる。
【0053】
また、溶接カバー20は、図11に示すように、本体部22の下端面22eにパッキン50を設ける構成とすることができる。この場合、パッキン50は、例えばフッ素系やシリコン系のゴム材料で形成することができる。このような構成により、溶接カバー20と積層鉄心1の外周面との間に僅かな隙間があったとしても、その隙間がパッキン50により埋められることから、溶接溝7の近傍の外周面へのスパッタの付着を抑制することができる。なお、図11では、ベース部23の図示を省略している。
【0054】
また、溶接カバー20は、図12に示すように、溶接位置を露出させつつ、溶接溝7の溶接位置の側方の表面から当該溶接溝7の側方の外周面までを連続的に覆う形状の本体部22を備える構成とすることができる。つまり、例えば溶接溝7の側方の外周面から実施形態の図9においてカバー部21が溶接溝7の表面に接触する位置までを、本体部22の底面22gで覆う構造、換言すると、本体部22単独で覆う構成とすることができる。なお、図12では、ベース部23の図示を省略している。
【0055】
このような構成によっても、溶接溝7の近傍の外周面へのスパッタの付着を抑制することができる。この場合、本体部22の溶接位置側の表面に薄いカバー部21を設けることで、本体部22の消耗を抑制することもできる。また、本体部22の底面22gにパッキン50を設ける構成とすることもできる。
【0056】
実施形態では固定子用の積層鉄心1を例示したが、溶接カバー20は、例えば回転子用の鉄心を溶接する際にも適用することができる。また、積層鉄心1は、モータ用に限らず発電機用のものも対象とすることができる。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
図面中、1は積層鉄心、7は溶接溝、20は溶接カバー、21はカバー部、22は本体部、23はベース部、50はパッキンを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12