IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナブテスコ株式会社の特許一覧

特許7579176風車装置、風車用制御装置、駆動方法及びプログラム
<>
  • 特許-風車装置、風車用制御装置、駆動方法及びプログラム 図1
  • 特許-風車装置、風車用制御装置、駆動方法及びプログラム 図2
  • 特許-風車装置、風車用制御装置、駆動方法及びプログラム 図3
  • 特許-風車装置、風車用制御装置、駆動方法及びプログラム 図4
  • 特許-風車装置、風車用制御装置、駆動方法及びプログラム 図5
  • 特許-風車装置、風車用制御装置、駆動方法及びプログラム 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】風車装置、風車用制御装置、駆動方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   F03D 7/04 20060101AFI20241030BHJP
【FI】
F03D7/04 K
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021028675
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2022129836
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2024-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(72)【発明者】
【氏名】野原 修
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-013085(JP,A)
【文献】特開2006-057469(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0211961(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102019000719(DE,A1)
【文献】国際公開第2015/083633(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リングギアと、
前記リングギアと噛み合うピニオンギアを有し、前記ピニオンギアを回転させる駆動部と、
前記リングギアの回転を抑制するための制動力を発生させる制動部と、
前記リングギアにかかる外部負荷を取得する負荷情報取得部と、
前記リングギアを静止状態から回転状態に移行させる際に、前記駆動部によって前記リングギアに発生させた回転トルクが、前記負荷情報取得部が取得した前記外部負荷よりも大きくなったときに前記制動部の前記制動力を解除する制御部と、
を備える風車装置。
【請求項2】
前記制動部は、前記リングギアに制動力を発生させる第1ブレーキと、前記駆動部に制動力を発生させる第2ブレーキとを有し、
前記制動力は、前記第1ブレーキによる第1制動力と、第2ブレーキによる第2制動力とを合わせた力であり、
前記制御部は、前記第2制動力を解除した後、前記回転トルクが前記外部負荷よりも大きくなるまで第1制動力を維持する、
請求項1に記載の風車装置。
【請求項3】
前記負荷情報取得部は、風向き及び風速に基づいて前記外部負荷を推定する、
請求項1又は請求項2に記載の風車装置。
【請求項4】
前記負荷情報取得部は、前記駆動部に設けられたセンサから前記部負荷を取得する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の風車装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記外部負荷が所定の閾値以下であるときに前記駆動部を駆動させる、
請求項3又は4に記載の風車装置。
【請求項6】
前記第1ブレーキは、常に一定の制動力を発生させるものであり、
前記駆動部の稼働情報に基づいて現在の前記駆動部が発生可能な最大の回転トルクを推定する回転トルク推定部を備え、
前記制御部は、前記最大の回転トルクが前記外部負荷と前記第1制動力との合計より大きくなる場合には前記駆動部を駆動させる、
請求項2に記載の風車装置。
【請求項7】
風車に設けられたリングギアと噛み合うピニオンギアを有し、前記ピニオンギアを回転させる駆動部と、
前記リングギアの回転を抑制するための制動力を発生させる制動部と、
前記リングギアにかかる外部負荷を取得する負荷情報取得部と、
前記リングギアを静止状態から回転状態に移行させる際に、前記駆動部によって前記リングギアに発生させた回転トルクが、前記負荷情報取得部が取得した前記外部負荷よりも大きくなったときに前記制動部の制動力を解除する制御部と、
を備える風車用制御装置。
【請求項8】
風車装置が実行する駆動方法であって、
ピニオンギアと噛み合うリングギアの回転を抑制するための制動力を発生させるステップと、
前記リングギアにかかる外部負荷を取得するステップと、
前記リングギアを静止状態から回転状態に移行させる際に、前記ピニオンギアを回転させる駆動部によって前記リングギアに発生させた回転トルクが、前記外部負荷よりも大きくなったときに前記制動力を解除するステップと、
を含む駆動方法。
【請求項9】
風車装置のコンピュータに、
ピニオンギアと噛み合うリングギアの回転を抑制するための制動力を発生させるステップと、
前記リングギアにかかる外部負荷を取得するステップと、
前記リングギアを静止状態から回転状態に移行させる際に、前記ピニオンギアを回転させる駆動部によって前記リングギアに発生させた回転トルクが、前記外部負荷よりも大きくなったときに前記制動力を解除するステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風車装置、風車用制御装置、駆動方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電装置として、風向きに応じてタワーの上部に設置されたナセルを旋回させる風車装置がある。この風車装置は、タワーに固定されたリングギアと、ナセルに内蔵されたリングギアに回転力を発生させる駆動部と、を備える。風車装置は、駆動部によってリングギアに回転力を発生させてナセルを旋回させる。
【0003】
風車装置は、ナセルをある停止位置で停止させる場合には、リングギアに対して制動力を付与することでリングギアを静止状態に制御する。そして、風車装置は、ナセルを旋回させる場合には、制動力を解除して駆動部によってリングギアを回転させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-13085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、駆動部によってリングギアを回転させる際には制動力が解除されているため、風のモーメントなどによってリングギアに外部負荷が作用していると、ナセルが旋回方向とは逆方向に回転してしまう場合がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、ナセルを旋回させる際にナセルが旋回方向とは逆方向に回転することを防止する風車装置、風車用制御装置、駆動方法及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の一態様は、リングギアと、前記リングギアと噛み合うピニオンギアを有し、前記ピニオンギアを回転させる駆動部と、前記リングギアの回転を抑制するための制動力を発生させる制動部と、前記リングギアにかかる外部負荷を取得する負荷情報取得部と、前記リングギアを静止状態から回転状態に移行させる際に、前記駆動部によって前記リングギアに発生させた回転トルクが、前記負荷情報取得部が取得した前記外部負荷よりも大きくなったときに前記制動部の前記制動力を解除する制御部と、を備える風車装置である。
【0008】
(2)上記(1)の風車装置であって、前記制動部は、前記リングギアに制動力を発生させる第1ブレーキと、前記駆動部に制動力を発生させる第2ブレーキとを有し、前記制動力は、前記第1ブレーキによる第1制動力と、第2ブレーキによる第2制動力とを合わせた力であり、前記制御部は、前記第2制動力を解除した後、前記回転トルクが前記外部負荷よりも大きくなるまで第1制動力を維持してもよい。
【0009】
(3)上記(1)又は上記(2)の風車装置であって、前記負荷情報取得部は、風向き及び風速に基づいて前記外部負荷を推定してもよい。
【0010】
(4)上記(1)から上記(3)のいずれかの風車装置であって、前記負荷情報取得部は、前記駆動部に設けられたセンサから前記前記外部負荷を取得してもよい。
【0011】
(5)上記(3)又は上記(4)の風車装置であって、前記制御部は、前記外部負荷が所定の閾値以下であるときに前記駆動部を駆動させてもよい。
【0012】
(6)上記(2)の風車装置であって、前記第1ブレーキは、常に一定の制動力を発生させるものであり、前記駆動部の稼働情報に基づいて現在の前記駆動部が発生可能な最大の回転トルク値を推定する回転トルク推定部を備え、前記制御部は、前記最大の回転トルク値が前記外部負荷と前記第1制動力との合計より大きくなる場合には前記駆動部を駆動させてもよい。
【0013】
(7)本発明の一態様は、風車に設けられたリングギアと噛み合うピニオンギアを有し、前記ピニオンギアを回転させる駆動部と、前記リングギアにかかる外部負荷を取得する負荷情報取得部と、前記リングギアを静止状態から回転状態に移行させる際に、前記駆動部によって前記リングギアに発生させた回転トルクが、前記負荷情報取得部が取得した前記外部負荷よりも大きくなったときに制動部の制動力を解除する制御部と、を備える風車用制御装置である。
【0014】
(8)本発明の一態様は、風車装置が実行する駆動方法であって、ピニオンギアと噛み合うリングギアの回転を抑制するための制動力を発生させるステップと、前記リングギアにかかる外部負荷を取得するステップと、前記リングギアを静止状態から回転状態に移行させる際に、前記ピニオンギアを回転させる駆動部によって前記リングギアに発生させた回転トルクが、前記外部負荷よりも大きくなったときに前記制動力を解除するステップと、
を含む駆動方法である。
【0015】
(9)本発明の一態様は、風車装置のコンピュータに、ピニオンギアと噛み合うリングギアの回転を抑制するための制動力を発生させるステップと、前記リングギアにかかる外部負荷を取得するステップと、前記リングギアを静止状態から回転状態に移行させる際に、前記ピニオンギアを回転させる駆動部によって前記リングギアに発生させた回転トルクが、前記外部負荷よりも大きくなったときに前記制動力を解除するステップと、を実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、ナセルを旋回させる際にナセルが旋回方向とは逆方向に回転することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1の実施形態に係る風車装置の構成例を示す斜視図である。
図2】第1の実施形態に係る駆動装置ユニットの構成例を示す図である。
図3】第1の実施形態におけるナセルの旋回を開始させる際の風車装置の動作のフローチャートである。
図4】第1の実施形態におけるナセルの旋回を開始させる際の風車装置の動作のタイミングチャートである。
図5】第2の実施形態に係る風車装置が備える駆動装置ユニットの構成例を示す図である。
図6】第2の実施形態におけるナセルの旋回を開始させる際の風車装置の動作のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本実施形態に係る風車装置、風車制御装置、駆動方法及びプログラムを、図面を用いて説明する。
【0019】
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態に係る風車装置1の構成例を示す斜視図である。図1に示すように、風車装置1は、例えば、ナセル10と、タワー20と、ブレード30と、ハブ40とを備える。風車装置1は、ブレード30の回転による動力をハブ40からナセル10内の発電機(不図示)に伝達し、発電機により動力を電力に変換する。これにより、風車装置1は、風力発電を行う。
【0020】
ナセル10は、タワー20の上部において回転可能に取り付けられる。ナセル10には、ハブ40を介してブレード30が取り付けられる。ナセル10は、ブレード30およびハブ40の向きをヨー方向で調整するために旋回駆動する。風車装置1は、ナセル10をヨー方向に回転させる駆動装置ユニット100を備える。駆動装置ユニット100は、風車制御装置の一例です。
【0021】
タワー20は、例えば地上又は海上に設置される。タワー20は、例えば、地上又は海上から鉛直方向上向きに延在する形状を有する。
【0022】
ブレード30は、風力を受けて回転力を発生する羽である。図1に示す例では、風車装置1は、三枚のブレード30を備えるが、その枚数には特に限定されない。
【0023】
ハブ40は、ナセル10に取り付けられ、複数のブレード30が取り付けられる。ハブ40は、ブレード30が受けた風力による動力を回転軸に伝達する。ハブは、回転軸を介してナセル10に風力に基づく動力を伝達する。
【0024】
ハブ40には、各ブレード30をピッチ方向に回転させるピッチ駆動力を発生するピッチ駆動機構が内蔵される。ピッチ駆動力を発生する駆動機構は、ブレード30ごとに設けられる。ピッチ駆動機構は、風速に応じて各ブレード30をピッチ方向に回転させることで各ブレード30の角度を制御する。
【0025】
図2は、第1の実施形態に係る駆動装置ユニット100の構成例を示す図である。
駆動装置ユニット100は、例えば、リングギア110と、駆動部120と、第1ブレーキ130と、第2ブレーキ140と、風センサ150と、制御装置160とを備える。ここで、第1ブレーキ130と第2ブレーキ140とのうち、いずれか一方又は両方は、「制動部」の一例である。
【0026】
リングギア110は、タワー20の上部に備えられる。リングギア110は、ナセル10をヨー方向に旋回駆動させるためのギアである。
【0027】
駆動部120は、ナセル10内に内蔵される。駆動部120は、リングギア110に回転トルクを発生させてナセル10を旋回させる。なお、駆動装置ユニット100には、複数の駆動部120を備えてもよい。駆動部120は、例えば、ナセル10に、N本のボルトで固定される。
【0028】
駆動部120は、例えば、モータ200と、減速機210と、出力軸220と、ピニオンギア230と、を備える。
【0029】
モータ200は、制御装置160から供給される電圧に応じて、出力軸220の長手方向を回転軸として出力軸220に対して駆動力を発生させる。
【0030】
減速機210は、減速機210に備えられたギアを用いて、出力軸220の回転速度を定める。
【0031】
出力軸220は、モータ200に駆動されることによって、減速機210によって減速された回転速度で回転する。出力軸220は、モータ200に駆動されることによって、所定のトルク(軸トルク)で回転する。
【0032】
ピニオンギア230は、リングギア110と噛み合うように出力軸220の端部に設けられる。ピニオンギア230は、出力軸220の回転に応じて、リングギア110と噛み合いながら回転する。これによって、リングギア110に回転力が付与され、この回転力が、リングギア110にかかる外部負荷よりも大きくなった場合にナセル10は、タワー20に対してヨー方向に回転する。ここで、リングギアにかかる外部負荷とは、風によるモーメントなどの外部要因によってリングギア110に発生する負荷である。
【0033】
第1ブレーキ130は、リングギア110に制動力(以下、「第1制動力」という。)を発生させる。例えば、第1ブレーキ130は、常に一定の第1制動力をリングギア110に発生させる。一例として、図2に示す例では、第1ブレーキ130は、油圧式ブレーキであるが、機械式ブレーキであってもよいし、その他のブレーキであってもよい。第1ブレーキ130は、制御装置160からの制御信号によって第1制動力を発生させる。例えば、第1ブレーキ130は、油圧ブレーキ駆動部131と、摩擦体132とを備える。油圧ブレーキ駆動部131は、制御装置160から供給された制御信号に応じて摩擦体132を図2中のZ方向に移動させる。油圧ブレーキ駆動部131は、摩擦体132をリングギア110に押し当てることでリングギア110に対して第1制動力を発生させる。
【0034】
第2ブレーキ140は、例えば、ナセル10に内蔵される。第2ブレーキ140は、駆動部120に制動力(以下、「第2制動力」という。)を発生させる。例えば、第2ブレーキ140は、電磁ブレーキであって、出力軸220に対して第2制動力を発生させる。第2ブレーキ140は、制御装置160からの制御信号によって第2制動力を発生させる。
【0035】
風センサ150は、例えばナセル10の上面に設けられる。風センサ150は、風速及び風向きを検出し、その検出結果を制御装置160に出力する。なお、風センサ150は、風速センサ及び風向センサとから構成されてもよい。
【0036】
制御装置160は、例えば、ナセル10に内蔵される。制御装置160は、例えば、ヨー制御指令部300と、負荷情報取得部310と、制御部320と、を備える。これらの構成要素は、これらの構成要素は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integrated circuit)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等の記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROM等の着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることで記憶装置にインストールされてもよい。記憶装置は、例えば、HDD、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ROM(Read Only Memory)、またはRAM(Random Access Memory)等により構成される。
【0037】
ヨー制御指令部300は、風センサ150で検出された風向に基づいて風向偏差を求める。そして、ヨー制御指令部300は、求めた風向偏差に基づいて、ナセル10を旋回させる旋回指令を制御部320に出力する。風向偏差とは、風センサ150で検出された風向とブレード30の面との角度差である。
【0038】
負荷情報取得部310は、リングギア110にかかる外部負荷を取得する。ここで、リングギア110にかかる外部負荷の取得は、その外部負荷を推定することも含む。例えば、負荷情報取得部310は、風センサ150が検出した風向き及び風速に基づいて外部負荷を推定する。ただし、これに限定されず、負荷情報取得部310は、駆動部120に設けられたセンサ(以下、「負荷センサ」という。)から外部負荷を取得してもよい。例えば、負荷センサは、締結ボルトに生ずる歪みに応じた信号を出力する歪みセンサである。ただし、負荷センサは、これに限定されず、上記外部負荷を直接的又は間接的に検出できればどのようなセンサであってもよい。
【0039】
制御部320は、ヨー制御指令部300から旋回指令を取得した場合には、リングギア110を静止状態から回転状態に移行させる。制御部320は、リングギア110を静止状態から回転状態に移行させる際に、駆動部120によってリングギア110に発生させた回転トルクが、負荷情報取得部310が取得した外部負荷よりも大きくなったときに制動部の制動力を解除する。ここで、制動部の制動力は、第1制動力であってもよいし、第2制動力であってもよいし、第1制動力と第2制動力とを合わせた力であってもよい。本実施形態では、制動部の制動力とは、第1制動力と第2制動力とを合わせた力である場合について説明する。なお、制動部の制動力を解除するとは、第1制動力と第2制動力との両方又はいずれかを解除することである。第1制動力と第2制動力との両方を解除する場合には、第1制動力の解除のタイミングと第2制動力の解除のタイミングとは、同時であってもよいし、異なってもよい。例えば、制御部320は、リングギア110を静止状態から回転状態に移行させる場合には、まず第2制動力を解除し、その後に負荷情報取得部310が取得した外部負荷よりも大きくなったときに第1制動力を解除してもよい。換言すれば、制御部320は、第2制動力を解除した後、回転トルクが外部負荷よりも大きくなるまで第1制動力を維持してもよい。
【0040】
以下において、ナセル10の旋回が停止している状態からナセル10の旋回を開始させる際の風車装置1の動作の流れについて、図3を用いて説明する。図3は、第1の実施形態におけるナセル10の旋回を開始させる際の風車装置1の動作のフローチャートである。
【0041】
ナセル10の旋回が停止している状態とは、制動部の制動力によってリングギア110が静止している状態(以下、「静止状態」という。)である。この状態において、ヨー制御指令部300によって旋回指令が生成されると(ステップS101)、制御装置160は、リングギア110を静止状態から回転状態に移行させる処理を実行する。例えば、旋回指令が生成されると、制御部320は、駆動部120のモータ200に電圧を印加することでリングギア110に回転トルクを発生させる(ステップS102)。ここで、回転トルクを発生させた際には、風によるモーメントなどの外部要因によって発生する上記外部負荷は、回転トルクよりも大きい場合がある。ただし、そのような場合であっても、制動部による制動力は継続してリングギア110に発生しているため、ナセル10が旋回方向とは逆方向には回転することを抑制することができる。
【0042】
負荷情報取得部310は、リングギア110にかかる外部負荷を一定周期ごとに取得する(ステップS103)。なお、図3に示す例では、負荷情報取得部310が外部負荷の取得を開始するタイミングは、ステップS102の後であるが、ステップS102の前であってもよい。
【0043】
制御部320は、モータ200に印加する電圧を徐々に上昇させて、回転トルクを大きくしていく。そして、制御部320は、駆動部120によってリングギア110に発生させた回転トルクが、負荷情報取得部310が取得した外部負荷よりも大きいか否かを判定する(ステップS104)。制御部320は、回転トルクが外部負荷以下であると判定した場合には、例えばステップS103に移行する。一方、制御部320は、回転トルクが外部負荷よりも大きいと判定した場合には、制動部の制動力を解除する(ステップS105)。これにより、制動部の制動力を解除した際には、回転トルクが外部負荷よりも大きいため、ナセル10が旋回方向とは逆方向に回転することを防止することができる。このように、風車装置1は、ナセル10の旋回を開始させる際に、ナセル10が旋回方向とは逆方向に回転することを防止することができる。
【0044】
図4は、第1の実施形態におけるナセル10の旋回を開始させる際の風車装置1の動作のタイミングチャートである。図4では、第1制動力を解除するタイミングと、第2制動力を解除するタイミングとが異なる場合の一例を示している。
【0045】
時間t1において、風車装置1は、第1ブレーキによる第1制動力Thbと第2ブレーキにより第2制動力Tbとを合わせた制動力をリングギア110に発生させることでナセル10の旋回を停止させている。ここで、図4に示す例では、旋回方向とは逆方向の風によるモーメントが発生しており、第1制動力Thb<外部負荷TLであるため、出力軸220にトルクTpが付加される。
【0046】
制御部320は、時刻t1の後にリングギア110を静止状態から回転状態に移行させる際には、まず時刻t2において第2ブレーキ140を制御して第2制動力を解除する。第2制動力が解除されると、出力軸220のねじれが解放されるため、出力軸220のトルクTpが0又は0に近い値となる。制御部320は、第2制動力が解除した後の時刻t3においてモータ200に電圧を印加させて回転トルクを発生させる。制御部320は、回転トルクを徐々に大きくしていき、回転トルクが負荷情報取得部310によって取得された外部負荷よりも大きくなるまで第1制動力を維持する。制御部320は、回転トルクが負荷情報取得部310によって取得された外部負荷よりも大きくなった時刻t4において第1制動力を解除する。
【0047】
ここで、時刻t3と時刻t4との間の期間では、回転トルク≧外部負荷-第1制動力の関係が維持される場合には、ナセル10は、旋回方向とは逆方向には回転しない。また、第1制動力を解除する際には、回転トルク(Tr)>外部負荷(TL)の関係が成立しているため、時刻t4以降においても、ナセル10は、旋回方向とは逆方向には回転しない。なお、図4に示す例では、回転トルクを発生させる前に第1制動力を発生させたままで第2制動力を解除している。これは、第1制動力が解除されている状態で回転力を発生させた後に第2制動力が解除されると出力軸220のねじれ分のトルクによって旋回方向とは逆方向にリングギア110が勢いよく回転してしまうことを抑制するためである。
【0048】
以上のように、第1の実施形態に係る風車装置1は、リングギア110と、駆動部120と、制動部(例えば、第1ブレーキ130と第2ブレーキ140)と、負荷情報取得部310と、制御部320と、を備える。リングギア110は、風車装置1のタワー20に固定されている。駆動部120は、リングギア110と噛み合うピニオンギアを有する。駆動部120は、ピニオンギア230を回転させる。制動部は、リングギア110の回転を抑制するための制動力を発生させる。負荷情報取得部310は、リングギア110にかかる外部負荷を取得する。制御部320は、リングギア110を静止状態から回転状態に移行させる際に、駆動部120によってリングギア110に発生させた回転トルクが、負荷情報取得部310が取得した外部負荷よりも大きくなったときに制動部の制動力を解除する。
【0049】
このような構成により、ナセル10を旋回させる際にナセル10が旋回方向とは逆方向に回転することを防止することができる。
【0050】
また、第1の実施形態において、制動部は、リングギア110に制動力を発生させる第1ブレーキ130と、駆動部120に制動力を発生させる第2ブレーキ140とを有してもよい。この制動部の制動力は、第1ブレーキ130による第1制動力と、第2ブレーキ140による第2制動力とを合わせた力であってもよい。この場合において、制御部320は、第2制動力を解除した後、推定された回転トルクが外部負荷よりも大きくなるまで第1制動力を維持してもよい。これにより、出力軸220のねじれをモータ200の回転させる前に開放させることができ、ナセル10が旋回方向とは逆方向に回転することをより確実に防止することができる。
【0051】
また、第1の実施形態において、負荷情報取得部310は、風向き及び風速に基づいてリングギア110にかかる外部負荷を推定してもよい。これにより、風車装置1は、外部負荷を推定する専用のセンサがなくても外部負荷を取得することができる。
【0052】
また、第1の実施形態において、負荷情報取得部310は、駆動部120に設けられたセンサからリングギア110にかかる外部負荷を取得してもよい。これにより、風車装置1は、正確な外部負荷を取得することができる。
【0053】
また、第1の実施形態において、制御部320は、負荷情報取得部310が取得した外部負荷が所定の閾値以下であるときに駆動部120を駆動させてもよい。この所定の閾値は、外部負荷がかかっていないとみなすことができる値に設定されている。これにより、風車装置1は、外部負荷がかかっていないことを確認してから駆動部120を駆動することができる。
【0054】
<第2の実施形態>
以下に、第2の実施形態に係る風車装置1Aについて説明する。以下の説明において、第1の実施形態で説明した内容と同様の機能を有する部分については、同様の名称および符号を付するものとし、その機能に関する具体的な説明は省略する。
【0055】
図5は、第2の実施形態に係る風車装置1Aが備える駆動装置ユニット100Aの構成例を示す図である。第2の実施形態に係る風車装置1Aは、図1に示した第1の実施形態と比較すると、回転トルク推定部400を有する点が異なり、この相違点を中心に説明する。
【0056】
図5に示すように、第2の実施形態に係る駆動装置ユニット100Aの構成例を示す図である。駆動装置ユニット100Aは、例えば、リングギア110と、駆動部120と、第1ブレーキ130と、第2ブレーキ140と、風センサ150と、制御装置160Aとを備える。
【0057】
制御装置160Aは、例えば、ナセル10に内蔵される。制御装置160Aは、例えば、ヨー制御指令部300と、負荷情報取得部310と、回転トルク推定部400と、制御部320Aと、を備える。これらの構成要素は、これらの構成要素は、例えば、CPU等のハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、これらの構成要素のうち一部または全部は、LSIやASIC、FPGA、GPU等のハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDDやフラッシュメモリ等の記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROM等の着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることで記憶装置にインストールされてもよい。記憶装置は、例えば、HDD、フラッシュメモリ、EEPROM、ROM、またはRAM等により構成される。
【0058】
回転トルク推定部400は、駆動部120の稼働情報に基づいて現在の駆動部120が発生可能な最大の回転トルク(以下、「最大回転トルク」という。)を推定する。
【0059】
制御部320Aは、回転トルク推定部400が推定した最大回転トルクが、負荷情報取得部310で取得された外部負荷と第1ブレーキ130によって常に一定の制動力を発生させる第1制動力との合計より大きくなる場合には、駆動部120を駆動させる。例えば、制御部320Aは、第2ブレーキを解放した後、推定された最大回転トルクが負荷情報取得部310で取得された外部負荷と第1ブレーキ130による第1制動力との合計より大きくなる場合にモータ200を駆動して最大回転トルクを発生させる。これにより、第1制動力が保持されたままリングギア110を回転状態に移行させることができる。そのため、風車装置1Aは、ナセル10を旋回させる際にナセル10が旋回方向とは逆方向に回転することを防止することができる。
【0060】
以下に、第2の実施形態において、ナセル10の旋回が停止している状態からナセル10の旋回を開始させる際の風車装置1Aの動作の流れについて、図6を用いて説明する。図6は、第2の実施形態におけるナセル10の旋回を開始させる際の風車装置1Aの動作のフローチャートである。
【0061】
ナセル10の旋回が停止している状態において、ヨー制御指令部300によって旋回指令が生成されると(ステップS201)、制御装置160Aは、リングギア110を静止状態から回転状態に移行させる処理を実行する。例えば、旋回指令が生成されると、制御部320Aは、第2ブレーキ140を制御して第2制動力を解除する(ステップS202)。制御部320によって第2制動力を解除されると、負荷情報取得部310は、リングギア110にかかる外部負荷を一定周期ごとに取得する(ステップS203)。なお、図6に示す例では、負荷情報取得部310が外部負荷の取得を開始するタイミングは、ステップS202の後であるが、ステップS202の前であってもよい。
【0062】
回転トルク推定部400は、駆動部120の稼働情報に基づいて現在の駆動部120が発生可能な最大回転トルクを推定する(ステップS204)。なお、図6に示す例では、回転トルク推定部400が最大回転トルクを推定するタイミングは、ステップS203の後であるが、ステップS203と同時であってもよいし、ステップS203の前であってもよい。
【0063】
制御部320Aは、第2制動力を解除した後に、回転トルク推定部400が推定した最大回転トルクが、負荷情報取得部310で取得された外部負荷と常に一定の制動力を発生させる第1制動力との合計値よりも大きいか否かを判定する(ステップS205)。制御部320Aは、推定された最大回転トルクが、上記合計値よりも大きいと判定した場合には、その最大回転トルクが生成されるようにモータ200を駆動する(ステップS206)。一方、制御部320Aは、推定された最大回転トルクが、上記合計値以下である場合には、ステップS203に移行する。なお、ステップS206の後に、制御部320Aは、最大回転トルクが負荷情報取得部310で取得された外部負荷よりも大きくなった場合には、第1制動力を解除してもよい。
【0064】
以上のように、第2の実施形態に係る風車装置1Aは、第1の実施形態と比較して、回転トルク推定部400を更に備える。風車装置1Aにおける第1ブレーキ130は、常に一定の制動力を発生させる。回転トルク推定部400は、駆動部120の稼働情報に基づいて現在の駆動部120が発生可能な最大回転トルクを推定する。制御部320Aは、推定された最大回転トルクが外部負荷と第1制動力との合計より大きくなる場合には駆動部120を駆動させる。
【0065】
このような構成により、第1制動力が保持されたままリングギア110を回転状態に移行させることができる。そのため、ナセル10を旋回させる際にナセル10が旋回方向とは逆方向に回転することを防止することができる。また、最大回転トルクが外部負荷と第1制動力との合計より大きくなると判定した場合に駆動部120の駆動を開始させるため、無駄な第1制動力や回転力の発生を抑制し、第1ブレーキ130やモータ200の劣化を軽減可能である。
【0066】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、リングギア110を静止状態から回転状態に移行させる際に、駆動部120によってリングギア110に発生させた回転トルクが、負荷情報取得部310が取得した外部負荷よりも大きくなったときに制動部の制動力を解除する。これにより、ナセル10を旋回させる際にナセル10が旋回方向とは逆方向に回転することを防止することができる。
【0067】
以上に示した実施形態に係る制御装置160,160Aの機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、オペレーティングシステム(OS:Operating System)あるいは周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。
【0068】
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、DVD(Digital Versatile Disc)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0069】
さらに、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークあるいは電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合の情報処理装置やクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0070】
また、上記のプログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)あるいは電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
【0071】
また、上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、上記のプログラムは、前述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0072】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0073】
1,1A…風車装置、10…ナセル、20…タワー、30…ブレード、40…ハブ、100,100A…駆動装置ユニット、110…リングギア、120,120A…駆動部120…第1ブレーキ、140…第2ブレーキ、150…風センサ、160,160A…制御装置、300…ヨー制御指令部300、310…負荷情報取得部、320,320A…制御部、400…回転トルク推定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6