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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
   B25B 23/157 20060101AFI20241030BHJP
   B25B 23/14 20060101ALI20241030BHJP
   B25B 21/00 20060101ALI20241030BHJP
   F16D 27/01 20060101ALI20241030BHJP
   F16D 27/02 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
B25B23/157 C
B25B23/14 640C
B25B21/00 510C
B25B23/14 610A
F16D27/01
F16D27/02 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021030833
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022131731
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】百枝 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】無類井 格
(72)【発明者】
【氏名】中村 暁斗
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0192860(US,A1)
【文献】特開平11-077554(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0283222(US,A1)
【文献】特開2011-093071(JP,A)
【文献】特開2012-006138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B21/00-23/18
B25F1/00-5/02
F16D27/01
F16D27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端工具を保持するように構成された保持部と、
モータと、
前記モータのトルクを前記保持部へ伝達する伝達機構と、
前記モータから前記保持部に伝達されるトルクを検出するトルク検出部と、
前記モータのトルクが前記保持部へ伝達される伝達状態と、前記モータのトルクが前記保持部へ伝達されない遮断状態と、を切替可能なクラッチ機構と、
前記トルク検出部で検出されたトルクに関する所定条件が満たされると前記クラッチ機構を前記伝達状態から前記遮断状態に切り替える制御部と、を備え
前記クラッチ機構は、前記モータの回転に応じて回転する第1回転部と、前記保持部が直接又は間接的に連結される第2回転部と、少なくとも1つの連結部と、を含み、
前記伝達状態は、前記第1回転部と前記第2回転部とが前記少なくとも1つの連結部を介して連結され前記第1回転部のトルクが前記第2回転部へ伝達される状態であり、
前記遮断状態は、前記第1回転部と前記第2回転部とが分離され前記第1回転部のトルクが前記第2回転部へ伝達されない状態であり、
前記少なくとも1つの連結部は、磁極を含む電磁石と、前記磁極と対向する永久磁石と、を有し、
前記磁極は、前記第1回転部に保持されており、前記永久磁石は、前記第2回転部に保持されており、
前記制御部は、前記電磁石の通電状態を切り替えることで、前記クラッチ機構の前記伝達状態と前記遮断状態とを切り替え、
前記少なくとも1つの連結部は、前記電磁石が通電されているとき弾性エネルギーを蓄積する弾性部材を更に有し、
前記クラッチ機構は、前記弾性部材の前記弾性エネルギーによって前記伝達状態と前記遮断状態とのうち一方から他方へ切り替わり、
前記第1回転部は、前記第2回転部と対向する面に第1凹部を有し、
前記第2回転部は、前記第1回転部と対向する面に第2凹部を有し、
前記クラッチ機構が前記伝達状態のとき、前記第1凹部及び前記第2凹部は互いに対向する位置にあり、
前記磁極は前記第1凹部に挿入され、
前記永久磁石及び前記弾性部材は、前記第2凹部に挿入される、
電動工具。
【請求項2】
前記所定条件は、前記トルク検出部で検出されたトルクが閾値を超えるという条件を含む、
請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記トルク検出部は、
前記モータに流れるトルク電流を測定する電流測定部と、
前記電流測定部で測定されたトルク電流に基づいて、前記モータから前記保持部に伝達されるトルクを算出する算出部と、を有する、
請求項1又は2に記載の電動工具。
【請求項4】
前記制御部は、前記クラッチ機構が前記遮断状態であって、前記モータが回転している間、前記クラッチ機構を前記遮断状態から前記伝達状態へ切り替える制御を実行しない、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項5】
前記伝達機構は、前記モータの回転速度を減速し、
前記クラッチ機構は、前記モータと前記伝達機構との間に配置されている、
請求項1~4のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項6】
前記制御部は、前記磁極と前記永久磁石との間に電磁反発力を発生させることで、前記クラッチ機構を前記伝達状態から前記遮断状態に切り替える、
請求項1~5のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項7】
前記クラッチ機構は、前記電磁石に所定の大きさ以上の電流が通電されているとき前記遮断状態となり、前記電磁石が通電されていないとき又は前記電磁石に前記所定の大きさよりも小さい電流が通電されているとき前記伝達状態となる、
請求項1~6のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項8】
前記クラッチ機構は、
前記モータのトルクを前記第1回転部へ伝達する入力軸と、
前記入力軸と同軸上に配置されており前記第2回転部の回転を前記保持部へ伝達する出力軸と、を更に含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項9】
前記クラッチ機構は、前記連結部を複数含み、
前記複数の連結部は、前記入力軸及び前記出力軸のうち少なくとも一方を囲むように配置されている、
請求項8に記載の電動工具。
【請求項10】
前記クラッチ機構は、前記伝達状態において前記第1回転部及び前記第2回転部を嵌合により連結させる嵌合構造を有する、
請求項1~9のいずれか一項に記載の電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に電動工具に関し、より詳細には、クラッチ機構を備える電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の電動回転工具(電動工具)は、モータ部(モータ)と、モータ部を制御する制御回路部と、を具備する。制御回路部は、電流検出手段によって検出したモータ部の駆動電流、又は、回転数検出手段によって検出したモータ部の回転数から締付トルクを算出し、算出した締付トルクが予め設定した締付トルク以上となった時に、モータ部の運転を停止させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-202317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の電動工具では、モータの慣性力により、モータが停止するまでに時間を要するため、予め設定した締付トルクよりも大きい締付トルクでねじ、ボルト又はナット等の締付対象を締めてしまう可能性があった。
【0005】
本開示は、トルク(締付トルク)に応じた電動工具の制御の精度を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る電動工具は、保持部と、モータと、伝達機構と、トルク検出部と、クラッチ機構と、制御部と、を備える。前記保持部は、先端工具を保持するように構成されている。前記伝達機構は、前記モータのトルクを前記保持部へ伝達する。前記トルク検出部は、前記モータから前記保持部に伝達されるトルクを検出する。前記クラッチ機構は、前記モータのトルクが前記保持部へ伝達される伝達状態と、前記モータのトルクが前記保持部へ伝達されない遮断状態と、を切替可能である。前記制御部は、前記トルク検出部で検出されたトルクに関する所定条件が満たされると前記クラッチ機構を前記伝達状態から前記遮断状態に切り替える。前記クラッチ機構は、前記モータの回転に応じて回転する第1回転部と、前記保持部が直接又は間接的に連結される第2回転部と、少なくとも1つの連結部と、を含む。前記伝達状態は、前記第1回転部と前記第2回転部とが前記少なくとも1つの連結部を介して連結され前記第1回転部のトルクが前記第2回転部へ伝達される状態である。前記遮断状態は、前記第1回転部と前記第2回転部とが分離され前記第1回転部のトルクが前記第2回転部へ伝達されない状態である。前記少なくとも1つの連結部は、磁極を含む電磁石と、前記磁極と対向する永久磁石と、を有する。前記磁極は、前記第1回転部に保持されており、前記永久磁石は、前記第2回転部に保持されている。前記制御部は、前記電磁石の通電状態を切り替えることで、前記クラッチ機構の前記伝達状態と前記遮断状態とを切り替える。前記少なくとも1つの連結部は、前記電磁石が通電されているとき弾性エネルギーを蓄積する弾性部材を更に有する。前記クラッチ機構は、前記弾性部材の前記弾性エネルギーによって前記伝達状態と前記遮断状態とのうち一方から他方へ切り替わる。前記第1回転部は、前記第2回転部と対向する面に第1凹部を有し、前記第2回転部は、前記第1回転部と対向する面に第2凹部を有する。前記クラッチ機構が前記伝達状態のとき、前記第1凹部及び前記第2凹部は互いに対向する位置にある。前記磁極は前記第1凹部に挿入される。前記永久磁石及び前記弾性部材は、前記第2凹部に挿入される。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、トルクに応じた電動工具の制御の精度を高めることができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態に係る電動工具の模式的な断面図である。
図2図2は、同上の電動工具の回路ブロック図である。
図3図3は、同上の電動工具のクラッチ機構の断面図であって、図3においてクラッチ機構は伝達状態である。
図4図4は、同上の電動工具のクラッチ機構の断面図であって、図4においてクラッチ機構は遮断状態である。
図5図5は、同上の電動工具の第1回転部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態に係る電動工具について、図面を用いて説明する。ただし、下記の実施形態は、本開示の様々な実施形態の1つに過ぎない。下記の実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、下記の実施形態において説明する各図は、模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0010】
(実施形態)
(概要)
図1図2に示すように、本実施形態の電動工具1は、保持部11と、モータ15と、伝達機構3と、トルク検出部6と、クラッチ機構C1と、制御部49と、を備える。保持部11は、先端工具12を保持するように構成されている。伝達機構3は、モータ15のトルクを保持部11へ伝達する。トルク検出部6は、モータ15から保持部11に伝達されるトルクを検出する。クラッチ機構C1は、モータ15のトルクが保持部11へ伝達される伝達状態と、モータ15のトルクが保持部11へ伝達されない遮断状態と、を切替可能である。制御部49は、トルク検出部6で検出されたトルクに関する所定条件が満たされるとクラッチ機構C1を伝達状態から遮断状態に切り替える。本実施形態では、所定条件は、トルク検出部6で検出されたトルクが閾値を超えるという条件を含む。
【0011】
本実施形態によれば、制御部49はトルク検出部6で検出されたトルクに応じてクラッチ機構C1を伝達状態から遮断状態に切り替える。つまり、制御部49の電子的な制御により、クラッチ機構C1が伝達状態から遮断状態に切り替わる。
【0012】
クラッチ機構C1を伝達状態から遮断状態に切り替える制御と並行して、モータ15は、停止するように制御される。ただし、モータ15は、慣性エネルギーにより暫く回転し続ける。遮断状態では、モータ15が保持部11及び保持部11に保持された先端工具12から切り離されるので、モータ15の慣性エネルギーにより保持部11及び先端工具12が回転し続けることを抑制できる。
【0013】
電子的な制御によらずに、トルクによる機械的作用により伝達状態から遮断状態に切り替わるクラッチ機構は、メカニカルクラッチと呼ばれる。メカニカルクラッチでは、トルクが閾値を超えた場合に、伝達状態から遮断状態に切り替わる。ただし、メカニカルクラッチでは、トルクが閾値を十分に超過したときは確実に遮断状態に切り替わるものの、トルクが閾値に到達した瞬間には遮断状態に切り替わらない可能性がある。
【0014】
これに対して、本実施形態の電動工具1では、トルク検出部6で検出されたトルクに応じた電子的な制御により、クラッチ機構C1を遮断状態に切り替えるので、クラッチ機構C1を迅速に遮断状態に切り替えることができる。クラッチ機構C1が遮断状態に切り替わることで、保持部11及び先端工具12の回転が抑制される。このように、本実施形態の電動工具1では、トルクに応じた保持部11及び先端工具12の回転制御の精度を高められる。よって、過剰なトルクでねじ、ボルト又はナット等の締付対象を締めてしまう可能性を低減できる。
【0015】
本実施形態のクラッチ機構C1は、電磁石91を含み、電磁石91の通電状態を変化させることにより、伝達状態と遮断状態とを切り替える。ただし、クラッチ機構C1の構成は、電磁石91を備える構成に限定されない。クラッチ機構C1は、アクチュエータと共に使用されるメカニカルクラッチであってもよい。アクチュエータは、制御部49による電子的な制御に応じて、メカニカルクラッチを駆動し、メカニカルクラッチを伝達状態から遮断状態に切り替えればよい。電動工具1は、このようなアクチュエータを更に備えていてもよい。アクチュエータは、例えば、制御部49の制御に応じて伸縮するシリンダーを含む。
【0016】
(詳細)
(1)全体構成
以下、電動工具1の構成について、より詳細に説明する。本実施形態では、モータ15と伝達機構3とが並んでいる方向を左右方向と規定し、モータ15から見て伝達機構3が配置された側を右と規定し、伝達機構3から見てモータ15が配置された側を左と規定する。ただし、これらの規定は、電動工具1の使用方向を限定する趣旨ではない。
【0017】
電動工具1は、例えば、電動のドライバ、ドリル、ドリルドライバ又はレンチとして用いられる。あるいは、電動工具1は、電動の鋸、かんな、ニブラ、ホールソー又はグラインダ等として用いられる。本実施形態では、代表例として、電動工具1がねじ、ボルト又はナット等の締付対象をねじ締めするためのドライバとして用いられる場合について説明する。
【0018】
図1に示すように、電動工具1は、ハウジング2と、モータ15と、電源部B1と、操作部16と、電力制御ブロック4と、駆動回路部5と、クラッチ機構C1と、伝達機構3と、チャック10と、先端工具12と、を備える。
【0019】
(2)ハウジング
ハウジング2は、胴体部21と、グリップ部22と、装着部23と、を有している。胴体部21の形状は、筒状である。グリップ部22は、胴体部21の側面から突出している。グリップ部22の形状は、筒状である。装着部23は、グリップ部22の先端部に設けられている。言い換えれば、胴体部21と装着部23との間が、グリップ部22にて連結されている。装着部23には、電源部B1が着脱自在に装着される。
【0020】
胴体部21には、駆動回路部5と、モータ15と、クラッチ機構C1と、伝達機構3と、が収容されている。グリップ部22は、操作部16を保持している。装着部23には、電力制御ブロック4が収容されている。
【0021】
(3)チャック
図1に示すように、チャック10は、外装部101と、保持部11と、を有する。
【0022】
外装部101の形状は、円柱状である。外装部101は、胴体部21の先端に取り付けられている。外装部101の内側には、保持部11が配置されている。外装部101は、保持部11を回転自在に保持している。
【0023】
保持部11の形状は、円筒状である。保持部11は、伝達機構3の出力軸に取り付けられている。保持部11は、モータ15から伝達機構3を介して伝達されたトルクにより回転する。保持部11には、先端工具12が着脱自在に取り付けられる。先端工具12は、保持部11と一緒に回転する。電動工具1は、モータ15のトルクで保持部11を回転させることで、先端工具12を回転させる。
【0024】
(4)先端工具
先端工具12(ビットとも言う)は、例えば、ドライバビット又はドリルビット等である。各種の先端工具12のうち用途に応じた先端工具12が、保持部11に取り付けられて用いられる。
【0025】
なお、本実施形態では、先端工具12を用途に応じて交換可能であるが、先端工具12が交換可能であることは必須ではない。例えば、電動工具1は、特定の先端工具12のみ用いることができる電動工具システムであってもよい。
【0026】
(5)伝達機構
図1に示すように、伝達機構3は、保持部11とモータ15との間に配置されている。伝達機構3は、複数のギアを含む。伝達機構3は、モータ15のトルクを保持部11へ伝達する。より詳細には、伝達機構3は、モータ15のトルクをクラッチ機構C1を介して受け取り、保持部11へ伝達する。伝達機構3は、モータ15の回転速度を減速する。より詳細には、伝達機構3は、モータ15の回転速度を所定の減速比で減速して出力する。つまり、伝達機構3の出力軸の回転速度は、入力軸の回転速度よりも小さい。
【0027】
伝達機構3の複数のギアは、ギア31を含む。ギア31は、クラッチ機構C1に設けられた後述のギア83と噛み合っている。これにより、伝達機構3は、伝達機構3からトルクを受け取る。
【0028】
(6)モータ
モータ15は、ブラシレスモータである。特に、本実施形態のモータ15は、同期電動機であり、より詳細には、永久磁石同期電動機(PMSM(Permanent Magnet Synchronous Motor))である。図2に示すように、モータ15は、永久磁石131を含む回転子13と、モータコイル141を含む固定子14と、を有する。回転子13は、トルクを出力する回転軸132(図1参照)を更に含む。モータコイル141と永久磁石131との電磁的相互作用により、回転子13は、固定子14に対して回転する。
【0029】
(7)クラッチ機構
図1に示すように、クラッチ機構C1は、保持部11とモータ15との間に配置されている。より詳細には、クラッチ機構C1は、モータ15と伝達機構3との間に配置されている。クラッチ機構C1が伝達状態のときは、クラッチ機構C1は、モータ15のトルクを伝達機構3へ伝達する。これにより、モータ15のトルクは、クラッチ機構C1及び伝達機構3を介して保持部11へ伝達される。一方で、クラッチ機構C1が遮断状態のときは、クラッチ機構C1は、モータ15のトルクを伝達機構3へ伝達しない。これにより、モータ15のトルクは、保持部11へ伝達されない。
【0030】
クラッチ機構C1は、第1回転部71と、第2回転部81と、少なくとも1つ(図1では2つ)の連結部9と、を含む。第1回転部71は、モータ15の回転に応じて回転する。第2回転部81には、保持部11が直接又は間接的に連結される。本実施形態の第2回転部81には、伝達機構3を介して保持部11が間接的に連結される。
【0031】
クラッチ機構C1の伝達状態は、第1回転部71と第2回転部81とが少なくとも1つの連結部9を介して連結され第1回転部71のトルクが第2回転部81へ伝達される状態である。クラッチ機構C1の遮断状態は、第1回転部71と第2回転部81とが分離され第1回転部71のトルクが第2回転部81へ伝達されない状態である。
【0032】
図3図4に示すように、クラッチ機構C1は、ステータ部70と、第1軸受72と、第2軸受82と、を更に含む。
【0033】
ステータ部70は、ハウジング2に固定されている。ステータ部70の形状は、筒状である。ステータ部70の内面には、第1軸受72が固定されている。
【0034】
第1回転部71は、第1軸受72に保持されている。これにより、第1回転部71は、ステータ部70に対して回転自在である。第1回転部71は、モータ15の回転軸132に連結されている。これにより、第1回転部71は、モータ15の回転に応じて回転する。回転軸132は、第1回転部71の中心軸上に配置されている。
【0035】
第1回転部71は、筒状部材711と、対向部材712と、を含む。筒状部材711の形状は、円筒状である。対向部材712は、筒状部材711の先端につながっている。対向部材712の形状は、円盤状である。対向部材712は、第2回転部81に対向している。対向部材712は、第2回転部81と対向する面に、複数(図3では2つ)の第1凹部713を有する。
【0036】
第2回転部81は、第1回転部71の右に配置されている。第2回転部81は、第1回転部71と伝達機構3との間に配置されている。第1回転部71は、モータ15と第2回転部81との間に配置されている。
【0037】
第2回転部81の形状は、円盤状である。第2回転部81は、第1回転部71と対向する面に、複数(図3では2つ)の第2凹部813を有する。
【0038】
第2回転部81には、第2軸受82が固定されている。第2軸受82は、モータ15の回転軸132を保持している。クラッチ機構C1が遮断状態のときは、回転軸132は、第2回転部81に対して回転する。一方で、クラッチ機構C1が伝達状態のときは、第2回転部81は回転軸132と同じ回転数で回転する。
【0039】
クラッチ機構C1は、ギア83を更に含む。ギア83は、第2回転部81と一体に形成されている。ギア83は、第2回転部81のうち、第1回転部71側とは反対側の面に設けられている。ギア83は、伝達機構3のギア31(図1参照)と噛み合っている。これにより、第2回転部81のトルクが伝達機構3へ伝達される。
【0040】
第1回転部71と第2回転部81とは、互いに対向している。第1回転部71と第2回転部81とは、僅かに間隔をあけて対向している。なお、第1回転部71と第2回転部81とが、少なくとも一部の領域において接していてもよい。また、電動工具1は、スペーサを更に備えていてもよく、スペーサは、第1回転部71又は第2回転部81に固定され、第1回転部71と第2回転部81との間に挟まれていてもよい。
【0041】
モータ15の回転軸132は、クラッチ機構C1の入力軸として用いられる。つまり、回転軸132は、モータ15の構成とクラッチ機構C1の構成とを兼ねる。回転軸132は、モータ15のトルクを第1回転部71へ伝達する。
【0042】
ギア83は、クラッチ機構C1の出力軸として用いられる。ギア83は、第2回転部81の回転を保持部11へ伝達する。より詳細には、ギア83は、第2回転部81の回転を伝達機構3を介して保持部11へ伝達する。
【0043】
ギア83(出力軸)は、回転軸132(入力軸)と同軸上に配置されている。これにより、入力軸及び出力軸の軸ブレを抑制できる。
【0044】
第1回転部71に設けられた複数の第1凹部713と、第2回転部81に設けられた複数の第2凹部813とは、一対一で対応している。クラッチ機構C1が伝達状態のとき、それぞれ対応する第1凹部713及び第2凹部813は、互いに対向する位置にある。
【0045】
複数の連結部9の各々は、電磁石91と、永久磁石ブロック92と、を有する。電磁石91は、磁極911と、コイル912と、含む。永久磁石ブロック92は、永久磁石921と、弾性部材922と、を有する。
【0046】
すなわち、連結部9は、電磁石91と、永久磁石921と、を有し、電磁石91は磁極911を含む。磁極911は、鉄(例えば、電磁軟鉄)等の磁性体を材料として形成されている。永久磁石921は、磁極911と対向する。
【0047】
磁極911は、第1回転部71に保持されている。永久磁石921は、第2回転部81に保持されている。制御部49(図2参照)は、電磁石91の通電状態を切り替えることで、クラッチ機構C1の伝達状態と遮断状態とを切り替える。すなわち、電磁石91のコイル912の通電状態に応じて、磁極911と永久磁石921との間に働く電磁気力が変化する。これに応じて、クラッチ機構C1の伝達状態と遮断状態とが切り替わる。
【0048】
より詳細には、制御部49が、コイル912に通電されている電流の大きさが所定の大きさ以上となるように制御しているとき、磁極911と永久磁石921との間に電磁反発力が発生する。これにより、第1回転部71と第2回転部81とが分離される遮断状態となる。つまり、制御部49は、磁極911と永久磁石921との間に電磁反発力を発生させることで、クラッチ機構C1を伝達状態から遮断状態に切り替える。
【0049】
また、制御部49がコイル912を通電されていない状態にしているとき、又は、コイル912に通電されている電流の大きさが所定の大きさよりも小さいとき、電磁反発力が比較的小さいので、第1回転部71のトルクが第2回転部81へ伝達される伝達状態が維持される。
【0050】
このように、クラッチ機構C1は、電磁石91(コイル912)に所定の大きさ以上の電流が通電されているとき遮断状態となる。クラッチ機構C1は、電磁石91(コイル912)が通電されていないとき又は電磁石91(コイル912)に所定の大きさよりも小さい電流が通電されているとき伝達状態となる。
【0051】
複数の電磁石91の複数の磁極911は、第1回転部71の複数の第1凹部713と一対一で対応している。各磁極911は、対応する第1凹部713に挿入されている。複数の電磁石91の複数のコイル912は、ステータ部70に固定されている。複数のコイル912は、複数の磁極911が配置された領域よりも左の領域に配置されている。
【0052】
複数の永久磁石ブロック92は、第2回転部81の複数の第2凹部813と一対一で対応している。各永久磁石ブロック92の永久磁石921及び弾性部材922は、対応する第2凹部813に挿入されている。永久磁石921の形状は、筒状である。第2回転部81は、複数の第2凹部813の各々の底面から突出した軸部84を含み、軸部84は、永久磁石921の内側に挿入されている。永久磁石921は、軸部84に沿って移動可能である。
【0053】
弾性部材922は、永久磁石921の右に配置されている。弾性部材922は、第2凹部813の底面と永久磁石921との間に配置されている。弾性部材922は、圧縮ばねである。より詳細には、弾性部材922は、圧縮コイルばねである。弾性部材922は、軸部84を囲むように配置されている。弾性部材922は、永久磁石921に対して左向きの力を加える。つまり、弾性部材922は、永久磁石921に対して、第1回転部71側へ押す力を加える。
【0054】
複数の連結部9は、回転軸132(入力軸)及びギア83(出力軸)のうち少なくとも一方を囲むように配置されている。図5は、第1回転部71を右から見た図である。複数の連結部9の複数の磁極911は、回転軸132を囲むように円状に配置されている。また、複数のコイル912(図3参照)も、回転軸132を囲むように円状に配置されている。
【0055】
複数の永久磁石ブロック92も、回転軸132を囲むように円状に配置されている。また、左右方向から見て、複数の永久磁石ブロック92は、ギア83を囲むように円状に配置されている。
【0056】
以下、クラッチ機構C1の動作について説明する。
【0057】
コイル912が通電されていないとき又はコイル912に所定の大きさよりも小さい電流が通電されているとき、クラッチ機構C1の伝達状態が維持される。クラッチ機構C1が伝達状態のとき、図3に示すように、永久磁石921は、第1回転部71の第1凹部713に挿入されている。このとき、永久磁石921は、磁極911に接した状態である。より詳細には、永久磁石921は、磁極911と弾性部材922とに挟まれた状態である。弾性部材922の弾性エネルギーにより、永久磁石921の位置が保たれる。複数の連結部9の各々において、永久磁石921が第1凹部713に挿入されることで、第1回転部71と第2回転部81とが連結される。よって、クラッチ機構C1が伝達状態のとき、第1回転部71と第2回転部81とが同じ回転数で回転する。
【0058】
このように、第1凹部713には永久磁石921が嵌まる。すなわち、クラッチ機構C1は、嵌合構造を有し、嵌合構造は、第1凹部713及び永久磁石921により構成されている。嵌合構造は、クラッチ機構C1の伝達状態において第1回転部71及び第2回転部81を嵌合により連結させる。
【0059】
クラッチ機構C1が伝達状態のとき、コイル912に所定の大きさ以上の電流が通電されると、磁極911と永久磁石921との間に電磁反発力が発生する。これにより、永久磁石921が右へ移動する。つまり、永久磁石921は、弾性部材922を圧縮させながら磁極911から離れ、図4に示すように、第1回転部71の第1凹部713の外へ移動する。より詳細には、永久磁石921は、第2回転部81の第2凹部813に収まる。複数の連結部9の各々において、永久磁石921が第1凹部713の外へ移動することで、第1回転部71と第2回転部81との連結が解除される。すなわち、クラッチ機構C1が遮断状態となる。
【0060】
クラッチ機構C1が遮断状態のとき、モータ15の回転軸132の回転に伴って第1回転部71のみが回転し、第2回転部81は回転しない。また、伝達機構3を介して第2回転部81に連結された保持部11及び先端工具12も回転しない。より詳細には、クラッチ機構C1が伝達状態から遮断状態に切り替わると、第2回転部81、伝達機構3の複数のギア、保持部11及び先端工具12は、慣性エネルギーにより暫く回転を続け、慣性エネルギーが失われることで、停止する。
【0061】
上記のように、複数の連結部9の各々は、弾性部材922を更に有し、弾性部材922は、電磁石91が通電されているとき弾性エネルギーを蓄積する。すなわち、永久磁石921が弾性部材922を圧縮させることで、弾性部材922が弾性エネルギーを蓄積する。クラッチ機構C1は、弾性部材922の弾性エネルギーによって伝達状態と遮断状態とのうち一方から他方へ切り替わる。本実施形態では、弾性部材922の弾性エネルギーによってクラッチ機構C1が遮断状態から伝達状態に切り替わる。つまり、各永久磁石921が磁極911と対向するように第1回転部71及び第2回転部81の各々の回転角を調整すると、各永久磁石921は、弾性部材922の弾性エネルギーにより移動し、第1凹部713へ挿入される。これをもって、クラッチ機構C1が遮断状態から伝達状態に切り替わったことになる。
【0062】
第1回転部71及び第2回転部81の各々の回転角の調整は、例えば、第1回転部71又は第2回転部81に連結された操作用部位をユーザが操作することでなされてもよい。
あるいは、上記回転角の調整は、第1回転部71又は第2回転部81を電気エネルギー等の動力源を用いて回転させる駆動機構を、ユーザが起動することによりなされてもよい。駆動機構による第1回転部71又は第2回転部81の回転速度は、モータ15の回転速度と比較して小さい。
【0063】
(8)電源部
図1に示す電源部B1は、モータ15、電磁石91及び電力制御ブロック4等に電流を供給する。電源部B1は、例えば、電池パックである。電源部B1は、例えば、1又は複数の2次電池を含む。
【0064】
(9)操作部
操作部16は、モータ15の回転を制御するための操作を受け付ける。操作部16を引く操作により、モータ15のオンオフを切替可能である。また、操作部16を引く操作の引込み量で、モータ15の回転速度を調整可能である。その結果として、操作部16を引く操作の引込み量で、保持部11の回転速度を調整可能である。上記引込み量が大きいほど、モータ15の回転速度が速くなる。電力制御ブロック4は、操作部16を引く操作の引込み量に応じて、モータ15を回転又は停止させ、また、モータ15の回転速度を制御する。
【0065】
(10)駆動回路部
図1に示すように、駆動回路部5は、モータ15に隣接して設けられている。駆動回路部5は、電力制御ブロック4による制御に応じて、モータ15へ電力を供給する。駆動回路部5は、インバータ回路部51(図2参照)を含む。インバータ回路部51は、電源部B1から供給される電力を所望の電圧の電力に変換し、変換後の電力をモータ15に供給する。
【0066】
(11)モータ回転測定部
電動工具1は、モータ回転測定部27(図2参照)を更に備える。モータ回転測定部27は、モータ15(回転子13)の回転角を測定する。モータ回転測定部27としては、例えば、光電式エンコーダ又は磁気式エンコーダを採用することができる。
【0067】
(12)電力制御ブロック
図2に示すように、電力制御ブロック4は、インバータ回路部51と共に用いられ、フィードバック制御によりモータ15の動作を制御する。
【0068】
電力制御ブロック4は、1以上のプロセッサ及びメモリを有するコンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムを、コンピュータシステムのプロセッサが実行することにより、電力制御ブロック4の少なくとも一部の機能が実現される。プログラムは、メモリに記録されていてもよいし、インターネット等の電気通信回線を通して提供されてもよく、メモリカード等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0069】
電力制御ブロック4は、指令値生成部41と、速度制御部42と、電流制御部43と、第1の座標変換器44と、第2の座標変換器45と、磁束制御部46と、推定部47と、制御部49と、算出部63と、を有する。なお、電力制御ブロック4の各構成は、電力制御ブロック4によって実現される機能を示しているに過ぎず、必ずしも実体のある構成を示しているわけではない。
【0070】
また、電動工具1は、複数(図2では2つ)の電流センサ61、62を備える。複数の電流センサ61、62はそれぞれ、例えば、ホール素子電流センサ又はシャント抵抗素子を含む。複数の電流センサ61、62は、電源部B1(図1参照)からインバータ回路部51を介してモータ15に供給される電流を測定する。ここで、モータ15には、3相電流(U相電流、V相電流及びW相電流)が供給されており、複数の電流センサ61、62は、少なくとも2相の電流を測定する。図2では、電流センサ61がU相電流を測定して電流測定値i1を出力し、電流センサ62がV相電流を測定して電流測定値i1を出力する。
【0071】
推定部47は、モータ回転測定部27で測定されたモータ15の回転角θ1を時間微分して、モータ15の角速度ω1を算出する。
【0072】
トルク検出部6は、電流測定部60と、上述の算出部63と、を有する。電流測定部60は、上述の2つの電流センサ61、62と、上述の第2の座標変換器45と、を含む。電流測定部60は、モータ15に流れるd軸電流(励磁電流)及びq軸電流(トルク電流)を測定する。すなわち、2つの電流センサ61、62で測定された2相の電流が第2の座標変換器45で変換されることで、d軸電流の電流測定値id1及びq軸電流の電流測定値iq1が算出される。
【0073】
第2の座標変換器45は、複数の電流センサ61、62で測定された電流測定値i1、i1を、モータ回転測定部27で測定されたモータ15の回転角θ1に基づいて座標変換し、電流測定値id1、iq1を算出する。すなわち、第2の座標変換器45は、2相の電流に対応する電流測定値i1、i1を、磁界成分(d軸電流)に対応する電流測定値id1と、トルク成分(q軸電流)に対応する電流測定値iq1とに変換する。
【0074】
算出部63は、電流測定部60で測定されたトルク電流(電流測定値iq1)に基づいて、モータ15から保持部11に伝達されるトルクを算出する。例えば、算出部63は、トルク電流を表す電流測定値iq1に所定の定数を乗じることで、モータ15から保持部11に伝達されるトルクを算出する。
【0075】
モータ15から保持部11に伝達されるトルクとは、モータ15のトルクであってもよいし、保持部11のトルクであってもよいし、モータ15のトルクを保持部11に伝達する構成(クラッチ機構C1又は伝達機構3)のトルクであってもよい。
【0076】
制御部49は、電磁石91のコイル912(図1参照)の通電状態を切り替える。これにより、制御部49は、クラッチ機構C1を伝達状態から遮断状態に切り替える。
【0077】
制御部49は、トルク検出部6で検出されたトルク(以下、「検出トルク」と称す)に関する所定条件が満たされるとクラッチ機構C1を伝達状態から遮断状態に切り替える。また、制御部49は、所定条件が満たされるとモータ15を停止させる。所定条件は、検出トルクが閾値を超えるという条件を含む。
【0078】
所定条件は、例えば、検出トルクが閾値を超えるという条件であってもよい。あるいは、所定条件は、例えば、検出トルクが閾値を超えた状態が所定時間以上継続するという条件であってもよい。あるいは、トルク検出部6が所定の時間間隔ごとにトルクを検出し、所定条件は、検出トルクが閾値を超えた回数が所定回数以上であるという条件であってもよい。
【0079】
制御部49は、クラッチ機構C1が遮断状態であって、モータ15が回転している間、クラッチ機構C1を遮断状態から伝達状態へ切り替える制御を実行しない。つまり、クラッチ機構C1が遮断状態になった後、モータ15が回転している間は、制御部49は、コイル912に所定の大きさ以上の電流を通電した状態を維持する。これにより、モータ15が停止するまで、遮断状態を維持し、先端工具12の回転を防止できる。
【0080】
指令値生成部41は、モータ15の角速度の指令値cω1を生成する。指令値生成部41には、例えば、操作部16を引く操作の引込み量に応じた指令値cω0が、操作部16から入力される。指令値生成部41は、指令値cω0に応じた指令値cω1を生成する。すなわち、指令値生成部41は、上記引込み量が大きいほど、角速度の指令値cω1を大きくする。
【0081】
速度制御部42は、指令値生成部41で生成された指令値cω1と推定部47で算出された角速度ω1との差分に基づいて、指令値ciq1を生成する。指令値ciq1は、モータ15のトルク電流(q軸電流)の大きさを指定する指令値である。すなわち、電力制御ブロック4は、モータコイル141に供給されるトルク電流(q軸電流)を指令値ciq1に近づけるように制御する。速度制御部42は、指令値cω1と角速度ω1との差分を所定値よりも小さくするように指令値ciq1を決定する。
【0082】
磁束制御部46は、推定部47で算出された角速度ω1と、電流測定値iq1と、に基づいて、指令値cid1を生成する。指令値cid1は、モータ15の励磁電流(d軸電流)の大きさを指定する指令値である。すなわち、電力制御ブロック4は、モータコイル141に供給される励磁電流(d軸電流)を指令値cid1に近づけるようにモータ15の動作を制御する。
【0083】
本実施形態では、磁束制御部46で生成される指令値cid1は、励磁電流の大きさを0にするための指令値である。ただし、磁束制御部46は、常時励磁電流の大きさを0にするための指令値cid1を生成してもよいし、必要に応じて、励磁電流の大きさを0よりも大きく又は小さくするための指令値cid1を生成してもよい。励磁電流の指令値cid1が0より小さくなると、モータ15にマイナスの励磁電流(弱め磁束電流)が流れ、弱め磁束により、回転子13を駆動する磁束が弱まる。
【0084】
電流制御部43は、磁束制御部46で生成された指令値cid1と第2の座標変換器45で算出された電流測定値id1との差分に基づいて、指令値cvd1を生成する。指令値cvd1は、モータ15のd軸電圧の大きさを指定する指令値である。電流制御部43は、指令値cid1と電流測定値id1との差分を所定値よりも小さくするように指令値cvd1を決定する。
【0085】
また、電流制御部43は、速度制御部42で生成された指令値ciq1と第2の座標変換器45で算出された電流測定値iq1との差分に基づいて、指令値cvq1を生成する。指令値cvq1は、モータ15のq軸電圧の大きさを指定する指令値である。電流制御部43は、指令値ciq1と電流測定値iq1との差分を所定値よりも小さくするように指令値cvq1を生成する。
【0086】
第1の座標変換器44は、指令値cvd1、cvq1を、モータ回転測定部27で測定されたモータ15の回転角θ1に基づいて座標変換し、指令値cv1、cv1、cv1を算出する。すなわち、第1の座標変換器44は、磁界成分(d軸電圧)に対応する指令値cvd1と、トルク成分(q軸電圧)に対応する指令値cvq1とを、3相電圧に対応する指令値cv1、cv1、cv1に変換する。指令値cv1はU相電圧に、指令値cv1はV相電圧に、指令値cv1はW相電圧に対応する。
【0087】
インバータ回路部51は、指令値cv1、cv1、cv1に応じた3相電圧をモータ15に供給する。インバータ回路部51は、例えば、PWM(Pulse Width Modulation)制御により、モータ15に供給される電力を制御する。
【0088】
モータ15は、インバータ回路部51から供給された電力(3相電圧)により駆動され、トルクを発生させる。
【0089】
この結果、電力制御ブロック4は、モータコイル141に流れる励磁電流が、磁束制御部46で生成された指令値cid1に対応した大きさとなるように励磁電流を制御する。また、電力制御ブロック4は、モータ15の角速度が、指令値生成部41で生成された指令値cω1に対応した角速度となるようにモータ15の角速度を制御する。
【0090】
モータ15への供給電力の電力制御ブロック4による制御は、ベクトル制御による制御である。ベクトル制御は、モータコイル141に供給される電流を、磁束を発生する電流成分(励磁電流)とトルクを発生する電流成分(トルク電流)とに分解し、それぞれの電流成分を独立に制御するモータ制御方式の一種である。
【0091】
トルク電流の電流測定値iq1は、ベクトル制御と、モータ15から保持部11に伝達されるトルクの算出と、に用いられる。そのため、ベクトル制御のための回路の一部とトルクの算出のための回路の一部とを共有することができる。これにより、電動工具1に備えられる回路の面積及び寸法の低減、並びに、回路に要するコストの低減を図ることができる。
【0092】
(実施形態の変形例)
以下、実施形態の変形例を列挙する。以下の変形例は、適宜組み合わせて実現されてもよい。
【0093】
先端工具12は、電動工具1の構成に含まれていなくてもよい。
【0094】
電源部B1は、電動工具1の構成に含まれていなくてもよい。
【0095】
弾性部材922は、引張ばね(例えば、引張コイルばね)であってもよい。この場合、制御部49は、磁極911と永久磁石921との間に電磁吸引力を発生させることで、クラッチ機構C1を伝達状態に維持する。制御部49が電磁吸引力を低減させる又は無くすと、引っ張りばねの弾性エネルギーにより永久磁石921が第1凹部713の外へ移動し、クラッチ機構C1が伝達状態から遮断状態に切り替わる。
【0096】
実施形態では、第1回転部71の第1凹部713に永久磁石921が挿入されることで、第1回転部71と第2回転部81とが同じ回転数で回転するように連結されている。ただし、第1凹部713に永久磁石921が挿入されることは、必須ではない。第1回転部71と第2回転部81とは、永久磁石921と磁極911との間に作用する磁気吸引力のみにより連結されていてもよい。
【0097】
保持部11は、伝達機構3の一部と一体に形成されていてもよい。
【0098】
第1回転部71は、モータ15の回転子13と一体に形成されていてもよい。
【0099】
実施形態において、第1回転部71及び第2回転部81を嵌合により連結させる嵌合構造は、第1凹部713及び永久磁石921により構成されている。これとは別の第1例として、嵌合構造は、第1回転部71に設けられた凹部(第1凹部713又は他の凹部)と、第2回転部81に設けられた凸部と、により構成されていてもよい。あるいは、第2例として、嵌合構造は、第2回転部81に設けられた凹部(第2凹部813又は他の凹部)と、第1回転部71に設けられた凸部と、により構成されていてもよい。第1例又は第2例の場合、電磁石91と永久磁石921との間に働く電磁気力により第1回転部71と第2回転部81との相対位置が変化することで、凹部と凸部とが嵌まり合えばよい。
【0100】
クラッチ機構C1の配置は、実施形態に示した配置に限定されない。クラッチ機構C1は、例えば、伝達機構3と保持部11との間に配置されていてもよい。
【0101】
トルク検出部6は、トルクセンサであってもよい。トルクセンサとしては、抵抗式歪みセンサ又は磁歪式歪みセンサ等を採用できる。
【0102】
(まとめ)
以上説明した実施形態等から、以下の態様が開示されている。
【0103】
第1の態様に係る電動工具(1)は、保持部(11)と、モータ(15)と、伝達機構(3)と、トルク検出部(6)と、クラッチ機構(C1)と、制御部(49)と、を備える。保持部(11)は、先端工具(12)を保持するように構成されている。伝達機構(3)は、モータ(15)のトルクを保持部(11)へ伝達する。トルク検出部(6)は、モータ(15)から保持部(11)に伝達されるトルクを検出する。クラッチ機構(C1)は、モータ(15)のトルクが保持部(11)へ伝達される伝達状態と、モータ(15)のトルクが保持部(11)へ伝達されない遮断状態と、を切替可能である。制御部(49)は、トルク検出部(6)で検出されたトルクに関する所定条件が満たされるとクラッチ機構(C1)を伝達状態から遮断状態に切り替える。
【0104】
上記の構成によれば、制御部(49)はトルク検出部(6)で検出されたトルクに応じてクラッチ機構(C1)を遮断状態に切り替える。そのため、制御部(49)の電子的な制御によらずに、トルクによる機械的作用によりクラッチ機構(C1)が遮断状態に切り替わる場合と比較して、トルクに応じた制御の精度を高められる。
【0105】
また、第2の態様に係る電動工具(1)では、第1の態様において、所定条件は、トルク検出部(6)で検出されたトルクが閾値を超えるという条件を含む。
【0106】
上記の構成によれば、閾値を超えたトルクで締付対象を締めてしまう可能性を低減させることができる。
【0107】
また、第3の態様に係る電動工具(1)では、第1又は2の態様において、トルク検出部(6)は、電流測定部(60)と、算出部(63)と、を有する。電流測定部(60)は、モータ(15)に流れるトルク電流を測定する。算出部(63)は、電流測定部(60)で測定されたトルク電流に基づいて、モータ(15)から保持部(11)に伝達されるトルクを算出する。
【0108】
上記の構成によれば、トルク電流に基づいてトルクを算出できる。
【0109】
また、第4の態様に係る電動工具(1)では、第1~3の態様のいずれか1つにおいて、制御部(49)は、クラッチ機構(C1)が遮断状態であって、モータ(15)が回転している間、クラッチ機構(C1)を遮断状態から伝達状態へ切り替える制御を実行しない。
【0110】
上記の構成によれば、モータ(15)が停止するまで、遮断状態を維持し、先端工具(12)の回転を防止できる。
【0111】
また、第5の態様に係る電動工具(1)では、第1~4の態様のいずれか1つにおいて、伝達機構(3)は、モータ(15)の回転速度を減速する。クラッチ機構(C1)は、モータ(15)と伝達機構(3)との間に配置されている。
【0112】
伝達機構(3)はモータ(15)の回転速度を減速するので、モータ(15)のトルクは伝達機構(3)のトルクよりも小さい。よって、上記の構成によれば、伝達機構(3)と保持部(11)との間にクラッチ機構(C1)が配置されている場合と比較して、クラッチ機構(C1)が伝達状態である際のクラッチ機構(C1)の負荷を低減できる。
【0113】
また、第6の態様に係る電動工具(1)では、第1~5の態様のいずれか1つにおいて、クラッチ機構(C1)は、第1回転部(71)と、第2回転部(81)と、少なくとも1つの連結部(9)と、を含む。第1回転部(71)は、モータ(15)の回転に応じて回転する。第2回転部(81)には、保持部(11)が直接又は間接的に連結される。伝達状態は、第1回転部(71)と第2回転部(81)とが少なくとも1つの連結部(9)を介して連結され第1回転部(71)のトルクが第2回転部(81)へ伝達される状態である。遮断状態は、第1回転部(71)と第2回転部(81)とが分離され第1回転部(71)のトルクが第2回転部(81)へ伝達されない状態である。
【0114】
上記の構成によれば、クラッチ機構(C1)によりトルクの伝達と遮断とを切り替えられる。
【0115】
また、第7の態様に係る電動工具(1)では、第6の態様において、少なくとも1つの連結部(9)は、磁極(911)を含む電磁石(91)と、磁極(911)と対向する永久磁石(921)と、を有する。磁極(911)は、第1回転部(71)に保持されている。永久磁石(921)は、第2回転部(81)に保持されている。制御部(49)は、電磁石(91)の通電状態を切り替えることで、クラッチ機構(C1)の伝達状態と遮断状態とを切り替える。
【0116】
上記の構成によれば、電磁気力によりクラッチ機構(C1)の伝達状態と遮断状態とを切り替えられる。
【0117】
また、第8の態様に係る電動工具(1)では、第7の態様において、制御部(49)は、磁極(911)と永久磁石(921)との間に電磁反発力を発生させることで、クラッチ機構(C1)を伝達状態から遮断状態に切り替える。
【0118】
上記の構成によれば、クラッチ機構(C1)を伝達状態から遮断状態へと迅速に切り替えることができる。
【0119】
また、第9の態様に係る電動工具(1)では、第7又は8の態様において、クラッチ機構(C1)は、電磁石(91)に所定の大きさ以上の電流が通電されているとき遮断状態となり、電磁石(91)が通電されていないとき又は電磁石(91)に所定の大きさよりも小さい電流が通電されているとき伝達状態となる。
【0120】
上記の構成によれば、伝達状態における消費電力を低減できる。
【0121】
また、第10の態様に係る電動工具(1)では、第7~9の態様のいずれか1つにおいて、少なくとも1つの連結部(9)は、弾性部材(922)を更に有する。弾性部材(922)は、電磁石(91)が通電されているとき弾性エネルギーを蓄積する。クラッチ機構(C1)は、弾性部材(922)の弾性エネルギーによって伝達状態と遮断状態とのうち一方から他方へ切り替わる。
【0122】
上記の構成によれば、弾性部材(922)に蓄えられた弾性エネルギーを用いて、クラッチ機構(C1)の伝達状態と遮断状態とを切り替えられる。
【0123】
また、第11の態様に係る電動工具(1)では、第6~10の態様のいずれか1つにおいて、クラッチ機構(C1)は、入力軸(回転軸132)と、出力軸(ギア83)と、を更に含む。入力軸は、モータ(15)のトルクを第1回転部(71)へ伝達する。出力軸は、入力軸と同軸上に配置されている。出力軸は、第2回転部(81)の回転を保持部(11)へ伝達する。
【0124】
上記の構成によれば、入力軸と出力軸とが同軸上に配置されているため、入力軸及び出力軸の軸ブレを抑制できる。
【0125】
また、第12の態様に係る電動工具(1)では、第11の態様において、クラッチ機構(C1)は、連結部(9)を複数含む。複数の連結部(9)は、入力軸及び出力軸のうち少なくとも一方を囲むように配置されている。
【0126】
上記の構成によれば、複数の連結部(9)が環状に配置されているため、クラッチ機構(C1)の動作時に力の偏りが抑制される。これにより、クラッチ機構(C1)が傾く可能性を低減できる。また、クラッチ機構(C1)が傾いてクラッチ機構(C1)が動作し難い状態となる可能性を低減できる。
【0127】
また、第13の態様に係る電動工具(1)では、第6~12の態様のいずれか1つにおいて、クラッチ機構(C1)は、嵌合構造(第1凹部713及び永久磁石921)を有する。嵌合構造は、伝達状態において第1回転部(71)及び第2回転部(81)を嵌合により連結させる。
【0128】
上記の構成によれば、クラッチ機構(C1)の伝達状態が比較的安定的な状態となる。
【0129】
第1の態様以外の構成については、電動工具(1)に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
【符号の説明】
【0130】
1 電動工具
3 伝達機構
6 トルク検出部
9 連結部
11 保持部
12 先端工具
15 モータ
49 制御部
60 電流測定部
63 算出部
71 第1回転部
81 第2回転部
83 ギア
91 電磁石
132 回転軸
713 第1凹部
911 磁極
921 永久磁石(嵌合構造)
922 弾性部材
C1 クラッチ機構
図1
図2
図3
図4
図5