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特許7579190競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キットの安定化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キットの安定化方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20241030BHJP
【FI】
G01N33/53 A
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2021053295
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2021162592
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2020061065
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000162478
【氏名又は名称】ミナリスメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】大村 静香
(72)【発明者】
【氏名】加藤 由香
(72)【発明者】
【氏名】山口 雄平
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-143691(JP,A)
【文献】特表2018-513983(JP,A)
【文献】特開2017-142241(JP,A)
【文献】特開平07-270412(JP,A)
【文献】特開平04-027867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53,33/543
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ステロイドホルモン抗体を含む第一試薬と、標識化ステロイドホルモンを含む第二試薬とを含む、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キットの安定化方法であって、
前記第二試薬において、前記標識化ステロイドホルモンと、10g/L以上の牛血清アルブミンとを、pHが7~8である水性媒体中で共存させることを特徴とする安定化方法。
【請求項2】
前記牛血清アルブミンの濃度が20~30g/Lである、請求項1記載の安定化方法。
【請求項3】
前記標識化ステロイドホルモンが、酵素により標識されたステロイドホルモンである、請求項1又は2に記載の安定化方法。
【請求項4】
前記酵素が、アルカリフォスファターゼ及びペルオキシダーゼからなる群から選ばれる少なくとも1つの酵素である、請求項記載の安定化方法。
【請求項5】
前記ステロイドホルモンがアルドステロンであ
前記抗ステロイドホルモン抗体が抗アルドステロン抗体であり、
前記標識化ステロイドホルモンが標識化アルドステロンである、請求項1~のいずれかに記載の安定化方法。
【請求項6】
抗ステロイドホルモン抗体を含む第一試薬と、標識化ステロイドホルモンを含む溶液である第二試薬とを含む、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キットの安定化方法であって、
前記第二試薬において、前記標識化ステロイドホルモンと、10g/L以上の牛血清アルブミンとを、水性媒体中で共存させることを特徴とし、
前記ステロイドホルモンが、鉱質コルチコイドであるアルドステロン若しくはフルドロコルチゾン酢酸エステル、又は、性ホルモンであるテストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、エストラジオール、エストリオール、エストロン若しくはプロゲステロンであり、
前記抗ステロイドホルモン抗体は前記ステロイドホルモンに対する抗体であり、前記標識化ステロイドホルモンは前記ステロイドホルモンが標識化されたものである、安定化方法。
【請求項7】
前記ステロイドホルモンがアルドステロンであり、
前記抗ステロイドホルモン抗体が抗アルドステロン抗体であり、
前記標識化ステロイドホルモンが標識化アルドステロンである、請求項6記載の安定化方法。
【請求項8】
前記牛血清アルブミンの濃度が20~30g/Lである、請求項6又は7記載の安定化方法。
【請求項9】
抗ステロイドホルモン抗体を含む第一試薬と;
pHが7~8である水性媒体、標識化ステロイドホルモン、及び、10g/L以上の牛血清アルブミンを含む第二試薬と、
を含む、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キット。
【請求項10】
前記牛血清アルブミンの濃度が20~30g/Lである、請求項記載のキット。
【請求項11】
前記標識化ステロイドホルモンが、アルカリフォスファターゼ及びペルオキシダーゼからなる群から選ばれる少なくとも1つの酵素により標識されたステロイドホルモンである、請求項9又は10記載のキット。
【請求項12】
前記抗ステロイドホルモン抗体が抗アルドステロンであ
前記抗ステロイドホルモン抗体が抗アルドステロン抗体であり、
前記標識化ステロイドホルモンが標識化アルドステロンである、請求項9~11のいずれかに記載のキット。
【請求項13】
抗ステロイドホルモン抗体を含む第一試薬と;
水性媒体、標識化ステロイドホルモン、及び、10g/L以上の牛血清アルブミンを含む第二試薬と、
を含む、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キットであって、
前記ステロイドホルモンが、鉱質コルチコイドであるアルドステロン若しくはフルドロコルチゾン酢酸エステル、又は、性ホルモンであるテストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、エストラジオール、エストリオール、エストロン若しくはプロゲステロンであり、
前記抗ステロイドホルモン抗体は前記ステロイドホルモンに対する抗体であり、前記標識化ステロイドホルモンは前記ステロイドホルモンが標識化されたものである、キット。
【請求項14】
前記ステロイドホルモンがアルドステロンであり、
前記抗ステロイドホルモン抗体が抗アルドステロン抗体であり、
前記標識化ステロイドホルモンが標識化アルドステロンである、請求項13記載のキット。
【請求項15】
前記牛血清アルブミンの濃度が20~30g/Lである、請求項13又は14記載のキット。
【請求項16】
標識化ステロイドホルモンと、10g/L以上の牛血清アルブミンとを、pHが7~8である水性媒体中で共存させることを特徴とする、標識化ステロイドホルモンの安定化方法。
【請求項17】
前記牛血清アルブミンの濃度が20~30g/Lである、請求項16記載の安定化方法。
【請求項18】
前記標識化ステロイドホルモンが、アルカリフォスファターゼ及びペルオキシダーゼからなる群から選ばれる少なくとも1つの酵素により標識されたステロイドホルモンである、請求項16又は17記載の安定化方法。
【請求項19】
前記ステロイドホルモンがアルドステロンであ
前記標識化ステロイドホルモンが標識化アルドステロンである、請求項16~18のいずれかに記載の安定化方法。
【請求項20】
標識化ステロイドホルモンと、10g/L以上の牛血清アルブミンとを、水性媒体中で共存させることを特徴とする、溶液中の標識化ステロイドホルモンの安定化方法であって、
前記標識化ステロイドホルモンが、標識化アルドステロン、標識化フルドロコルチゾン酢酸エステル、標識化テストステロン、標識化デヒドロエピアンドロステロン、標識化エストラジオール、標識化エストリオール、標識化エストロン又は標識化プロゲステロンである、安定化方法。
【請求項21】
前記標識化ステロイドホルモンが標識化アルドステロンである、請求項20記載の安定化方法。
【請求項22】
前記牛血清アルブミンの濃度が20~30g/Lである、請求項20又は21記載の安定化方法。
【請求項23】
検体中のステロイドホルモンと抗ステロイドホルモン抗体と標識化ステロイドホルモンとを反応させて、前記抗ステロイドホルモン抗体と前記標識化ステロイドホルモンとの免疫複合体を生成させ、生成した前記免疫複合体中の標識を測定する、競合法により検体中のステロイドホルモンを測定する方法、
に用いられる標識化ステロイドホルモン含有試薬であって、
標識化ステロイドホルモンと、10g/L以上の牛血清アルブミンとpHが7~8である水性媒体中で共存していることを特徴とする、標識化ステロイドホルモン含有試薬。
【請求項24】
前記牛血清アルブミンの濃度が20~30g/Lである、請求項23記載の試薬。
【請求項25】
前記標識化ステロイドホルモンが、アルカリフォスファターゼ及びペルオキシダーゼからなる群から選ばれる少なくとも1つの酵素により標識されたステロイドホルモンである、請求項23又は24記載の試薬。
【請求項26】
前記ステロイドホルモンがアルドステロンであ
前記抗ステロイドホルモン抗体が抗アルドステロン抗体であり、
前記標識化ステロイドホルモンが標識化アルドステロンである、請求項23~25のいずれかに記載の試薬。
【請求項27】
検体中のステロイドホルモンと抗ステロイドホルモン抗体と標識化ステロイドホルモンとを反応させて、前記抗ステロイドホルモン抗体と前記標識化ステロイドホルモンとの免疫複合体を生成させ、生成した前記免疫複合体中の標識を測定する、競合法により検体中のステロイドホルモンを測定する方法、
に用いられる標識化ステロイドホルモン含有試薬であって、
標識化ステロイドホルモンと、10g/L以上の牛血清アルブミンとが、水性媒体中で共存していることを特徴とし、
前記ステロイドホルモンが、鉱質コルチコイドであるアルドステロン若しくはフルドロコルチゾン酢酸エステル、又は、性ホルモンであるテストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、エストラジオール、エストリオール、エストロン若しくはプロゲステロンであり、
前記抗ステロイドホルモン抗体は前記ステロイドホルモンに対する抗体であり、前記標識化ステロイドホルモンは前記ステロイドホルモンが標識化されたものである、試薬。
【請求項28】
前記ステロイドホルモンがアルドステロンであり、
前記抗ステロイドホルモン抗体が抗アルドステロン抗体であり、
前記標識化ステロイドホルモンが標識化アルドステロンである、請求項27記載の試薬。
【請求項29】
前記牛血清アルブミンの濃度が20~30g/Lである、請求項27又は28記載の試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キットの安定化方法、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キット、標識化ステロイドホルモンの安定化方法、及び、標識化ステロイドホルモン含有試薬に関する。
本願は、2020年3月30日に、日本に出願された特願2020-061065号に基づき優先権を主張し、その内容を参照によりここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ステロイドホルモンは、分子量が300~400の、ステロイド骨格を有するホルモンで、その機能から、性ホルモン、糖質コルチコイド、鉱質コルチコイド等に分類される。ステロイドホルモンの臨床的な研究のため、生体中のステロイドホルモン量を測定する方法が研究され、ガスクロマトグラフィー-マススペクトロメトリー(GC-MS)法、液体クロマトグラフィー-マススペクトロメトリー(LC-MS)法、免疫学的測定法等が開発されてきた。GC-MS法やLC-MS法は高い分析能を有するが、これらの分析に用いる分析装置は高価であり、かつ、濃縮操作、抽出操作等の煩雑な操作が必要である等の問題がある。一方、免疫学的測定法は、簡便で短時間にステロイドホルモンを測定できることから、臨床研究においてよく用いられている。
【0003】
アルドステロンは、副腎皮質外層に属する球状層から分泌される、分子量約360の鉱質コルチコイドであり、その分泌は、主にレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系に依存している。アルドステロンは、電解質の恒常性、循環血液量、血圧の維持にきわめて重要なホルモンであり、腎臓遠位尿細管のミネラルコルチコイド受容体に作用して、ナトリウムの再吸収と共に水の再吸収を促進することで血圧を上昇させる機能を有している。
【0004】
アルドステロンは、原発性アルドステロン症、バーター症候群、リドル症候群、副腎における17α水酸化酵素欠損症、11β水酸化酵素欠損症等の水酸化酵素欠損症、及び、選択的低アルドステロン症等の鑑別診断に利用されている。また、日本内分泌学会ガイドライン及び日本高血圧学会ガイドラインにおいては、原発性アルドステロン症のスクリーニング方法として、アルドステロン濃度(Plasma Aldosterone Concentration:PAC)の、レニン活性(Plasma Renin Activity:PRA)又はレニン濃度(Active Renin Concentration:ARC)に対する比率であるアルドステロン/レニン比(Aldosterone to Renin Ratio:ARR)の測定が推奨されている。
【0005】
アルドステロンの測定方法としては、LC-MS法、免疫学的測定法等が知られており、免疫学的測定法として、ラジオイムノアッセイ法(RIA法)、酵素免疫測定法(EIA法)が知られている(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平2-057976号公報
【文献】特開2017-142241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
免疫学的測定法としては、サンドイッチ法、競合法等が知られている。通常、蛋白質等の高分子を測定対象とする場合にはサンドイッチ法が用いられ、ステロイドホルモンのような低分子化合物を測定対象とする場合には、競合法が用いられることが多い。
【0008】
サンドイッチ法は、例えば、検体中の測定対象成分と、固相に固定化された第一抗体と、標識化された第二抗体とを水性媒体中で反応させて、前記測定対象成分と、前記固相に固定化された第一抗体と、前記標識化された第二抗体とからなる免疫複合体を生成させ、次いで、生成した前記免疫複合体中の標識を測定することにより、検体中の測定対象成分を測定する方法である。サンドイッチ法を用いる測定キットにおいては、前記第一抗体の量や前記標識化第二抗体の量を多くすることで、前記キットの長期保存時の安定性を向上させることができる。
【0009】
一方、競合法では、例えば、検体中の測定対象成分と、固相に固定化された抗体と、標識化された競合物質とを、水性媒体中で反応させて、前記測定対象成分と前記固相に固定化された抗体とからなる免疫複合体1、及び、前記標識化された競合物質と前記固相に固定化された抗体とからなる免疫複合体2を生成させ、次いで、生成した前記免疫複合体2中の標識を測定する。この際、前記測定対象成分と前記競合物質とは、固相に固定化された抗体に競合的に結合することから、免疫複合体1及び2の生成量は逆相関するようになる。このように、前記免疫複合体2中の標識の測定結果から、前記免疫複合体1の生成量、すなわち、検体中の測定対象成分の量を測定できる。
【0010】
サンドイッチ法を用いる測定キットと同様に、競合法を用いる測定キットについても、長期保存時の安定性を向上させる必要がある。しかしながら、例えば、前記免疫反応において標識化競合物質を多く存在させた場合、免疫複合体2が優先的に生成され、免疫複合体1の生成量が微少となることから、検体中の測定対象成分の量を正確に測定することができない。そのため、競合法を用いる測定キットにおいては、標識化競合物質の量を多くすることにより、長期保存時の安定性を向上させることは困難である。
【0011】
本発明は、上記の問題点を解消するため、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キットの安定化方法;長期保存時の安定性に優れた、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キット;標識化ステロイドホルモンの安定化方法;及び、長期保存時の安定性に優れた、標識化ステロイドホルモン含有試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、本課題を解決すべく鋭意検討した結果、抗ステロイドホルモン抗体を含む第一試薬と、標識化ステロイドホルモンを含む第二試薬とを含む、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キットについて、前記第二試薬において、前記標識化ステロイドホルモンと牛血清アルブミンとを水性媒体中で共存させることにより、当該キットの長期保存時の安定性が向上することを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の[1]~[28]に関する。
【0013】
[1]抗ステロイドホルモン抗体を含む第一試薬と、標識化ステロイドホルモンを含む第二試薬とを含む、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キットの安定化方法であって、
前記第二試薬において、前記標識化ステロイドホルモンと、10g/L以上の牛血清アルブミンとを、水性媒体中で共存させることを特徴とする安定化方法。
[2]前記牛血清アルブミンの濃度が20~30g/Lである、[1]記載の安定化方法。
[3]前記水性媒体のpHが7~8である、[1]又は[2]記載の安定化方法。
[4]前記標識化ステロイドホルモンが、酵素により標識されたステロイドホルモンである、[1]~[3]のいずれかに記載の安定化方法。
[5]前記酵素が、アルカリフォスファターゼ及びペルオキシダーゼからなる群から選ばれる少なくとも1つの酵素である、[4]記載の安定化方法。
[6]前記ステロイドホルモンが鉱質コルチコイドである、[1]~[5]のいずれかに記載の安定化方法。
[7]前記鉱質コルチコイドがアルドステロンである、[6]記載の安定化方法。
【0014】
[8]抗ステロイドホルモン抗体を含む第一試薬と;
水性媒体、標識化ステロイドホルモン、及び、10g/L以上の牛血清アルブミンを含む第二試薬と、
を含む、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キット。
[9]前記牛血清アルブミンの濃度が20~30g/Lである、[8]記載のキット。
[10]前記水性媒体のpHが7~8である、[8]又は[9]記載のキット。
[11]前記標識化ステロイドホルモンが、酵素により標識されたステロイドホルモンである、[8]~[10]のいずれかに記載のキット。
[12]前記酵素が、アルカリフォスファターゼ及びペルオキシダーゼからなる群から選ばれる少なくとも1つの酵素である、[11]記載のキット。
[13]前記ステロイドホルモンが鉱質コルチコイドである、[9]~[12]のいずれかに記載のキット。
[14]前記鉱質コルチコイドがアルドステロンである、[13]記載のキット。
【0015】
[15]標識化ステロイドホルモンと、10g/L以上の牛血清アルブミンとを、水性媒体中で共存させることを特徴とする、標識化ステロイドホルモンの安定化方法。
[16]前記牛血清アルブミンの濃度が20~30g/Lである、[15]記載の安定化方法。
[17]前記水性媒体のpHが7~8である、[15]又は[16]記載の安定化方法。
[18]前記標識化ステロイドホルモンが、酵素により標識されたステロイドホルモンである、[15]~[17]のいずれかに記載の安定化方法。
[19]前記酵素が、アルカリフォスファターゼ及びペルオキシダーゼからなる群から選ばれる少なくとも1つの酵素である、[18]記載の安定化方法。
[20]前記ステロイドホルモンが鉱質コルチコイドである、[15]~[19]のいずれかに記載の安定化方法。
[21]前記鉱質コルチコイドがアルドステロンである、[20]記載の安定化方法。
【0016】
[22]検体中のステロイドホルモンと抗ステロイドホルモン抗体と標識化ステロイドホルモンとを反応させて、前記抗ステロイドホルモン抗体と前記標識化ステロイドホルモンとの免疫複合体を生成させ、生成した前記免疫複合体中の標識を測定する、競合法により検体中のステロイドホルモンを測定する方法、
に用いられる標識化ステロイドホルモン含有試薬であって、
標識化ステロイドホルモンと、10g/L以上の牛血清アルブミンとを、水性媒体中で共存させることを特徴とする、標識化ステロイドホルモン含有試薬。
[23]前記牛血清アルブミンの濃度が20~30g/Lである、[22]記載の試薬。
[24]前記水性媒体のpHが7~8である、[22]又は[23]記載の試薬。
[25]前記標識化ステロイドホルモンが、酵素により標識されたステロイドホルモンである、[22]~[24]のいずれかに記載の試薬。
[26]前記酵素が、アルカリフォスファターゼ及びペルオキシダーゼからなる群から選ばれる少なくとも1つの酵素である、[25]記載の試薬。
[27]前記ステロイドホルモンが鉱質コルチコイドである、[22]~[26]のいずれかに記載の試薬。
[28]前記鉱質コルチコイドがアルドステロンである、[27]記載の試薬。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キットの安定化方法;長期保存時の安定性に優れた、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キット;標識化ステロイドホルモンの安定化方法;及び、長期保存時の安定性に優れた、標識化ステロイドホルモン含有試薬が提供される。また、発明により、測定シグナルを低下させることなく、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キットを安定化する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キットの安定化方法、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キット、標識化ステロイドホルモンの安定化方法、及び、標識化ステロイドホルモン含有試薬の実施形態を説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本開示の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより開示の範囲が狭く解釈されることはない。
なお、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。また、溶液中の各成分の量は、溶液中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、反応中又は試薬中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0019】
(1)競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キットの安定化方法
実施形態の、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キットの安定化方法(以下、実施形態の測定用キットの安定化方法という。)は、抗ステロイドホルモン抗体を含む第一試薬と、標識化ステロイドホルモンを含む第二試薬とを含む、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キットの安定化方法であって、前記第二試薬において、前記標識化ステロイドホルモンと、10g/L以上の牛血清アルブミンとを、水性媒体中で共存させることを特徴とする安定化方法である。
【0020】
実施形態の測定用キットの安定化方法において、「安定」とは、実施形態の測定用キットを長期間保存した後に後述の測定方法に用いた場合でも、保存する前と比較して、後述の測定方法における工程[2]で生成される免疫複合体2中の標識物質に由来するシグナルが低下しにくいことを意味し、例えば、実施形態の測定用キットの安定化方法における、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キットを5℃で140日保存した後に、後述の測定方法に用いた場合でも、保存する前と比較して、前記免疫複合体2中の標識物質に由来するシグナルが70%以上であることをいう。
前記免疫複合体2中の標識物質に由来するシグナルは、例えば以下の方法により測定できる。
【0021】
[1]ステロイドホルモンを含まない検体と、抗ステロイドホルモン抗体を含む第一試薬と、標識化ステロイドホルモンを含む第二試薬を反応させ、標識化ステロイドホルモンと、抗ステロイドホルモン抗体とからなる免疫複合体2を生成させる工程;及び
[2]工程[1]で生成した免疫複合体2中の標識物質を測定する工程。
【0022】
実施形態の測定用キットを長期間保存する前後において、前記標識物質に由来するシグナル(発光量等)の測定を行い、保存前のシグナルに対する保存後のシグナルの比率を算出する。ここで、例えば、その比率が70%よりも高い場合、実施形態の測定用キットは安定である、と評価することができる。
【0023】
実施形態の測定用キットの安定化方法における検体としては、実施形態の測定用キットを用いる測定を可能とする検体であれば特に制限はなく、例えば全血、血漿、血清、尿、髄液、唾液、羊水、汗、膵液等が挙げられ、全血、血漿、血清、尿等が好ましい。
【0024】
実施形態の測定用キットの安定化方法におけるステロイドホルモンとしては、実施形態の測定用キットの安定化方法を可能とするステロイドホルモンであれば特に制限はなく、例えば、鉱質コルチコイド、糖質コルチコイド、性ホルモン等が挙げられ、鉱質コルチコイドが好ましい。鉱質コルチコイドとしては、例えばアルドステロン、フルドロコルチゾン酢酸エステル等が挙げられる。糖質コルチコイドとしては、例えばコルチゾール、コルチコステロン、コルチゾン等が挙げられる。性ホルモンとしては、例えば、男性ホルモン(アンドロゲン)、女性ホルモン等が挙げられる。男性ホルモンとしては、例えばテストステロン、デヒドロエピアンドロステロン等が挙げられる。女性ホルモンとしては、例えばエストラジオール、エストリオール、エストロン、プロゲステロン等が挙げられる。
【0025】
実施形態の測定用キットの安定化方法における、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キット(以下、実施形態の測定用キットという。)は、抗ステロイドホルモン抗体を含む第一試薬と、標識化ステロイドホルモンを含む第二試薬とを含む。また、前記キットは、例えば後述の不溶性担体等を含む第三試薬又はその他の試薬を含んでいてもよい。
【0026】
前記第一試薬に含まれる抗ステロイドホルモン抗体は、ステロイドホルモンに結合し、実施形態の測定用キットの安定化方法を可能とする抗体であれば特に制限はなく、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれも使用可能である。また、実施形態においては、全長の抗体のみならず、抗体フラグメントを用いることもできる。抗体フラグメントとしては、例えば、抗体をパパイン処理により得られるFab、ペプシン処理により得られるF(ab’)、ペプシン処理-還元処理により得られるFab’等のFc部分が除去された抗体フラグメント等が挙げられる。
【0027】
前記抗ステロイドホルモン抗体は、ステロイドホルモンそのもの、又は、ステロイドホルモン中のエピトープに相当する部分構造を有する化合物を抗原として用いる通常の抗体の製造方法により製造することができるが、市販品としても入手可能である。抗ステロイドホルモン抗体の市販品としては、例えば、任意のステロイドホルモンに対するポリクローナル抗体(アブカム社製)等が挙げられる。
抗ステロイドホルモン抗体の濃度としては、実施形態の測定用キットの安定化方法を可能とする濃度であれば特に制限はなく、通常、0.1~1000ng/mLであり、1~100ng/mLが好ましい。
【0028】
前記抗ステロイドホルモン抗体は不溶性担体に固定化されていても、固定化されていなくてもよいが、固定化されていることが好ましい。抗ステロイドホルモン抗体が不溶性担体に固定化されている場合、抗ステロイドホルモン抗体が固定化された不溶性担体は抗原抗体反応の反応液中で生成されてもよく、この場合、一組の親和性物質の片方(A)が結合した抗ステロイドホルモン抗体と、一組の親和性物質のもう一方(a)が結合した不溶性担体とを抗原抗体反応の反応液中で反応させることにより、抗ステロイドホルモン抗体が固定化された不溶性担体を抗原抗体反応の反応液中で生成させることができる。A-aの組み合わせとしては、例えば以下の組み合わせ等が挙げられる。
・ビオチンとアビジン類(アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジン等)との組み合わせ;
・アビジン類(アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジン等)とビオチンとの組み合わせ;
・抗ステロイドホルモン抗体のFc領域と、Fc領域と結合する抗体との組み合わせ。
【0029】
実施形態における不溶性担体としては、抗ステロイドホルモン抗体及び競合物質を固定化することができ、実施形態の測定用キットの安定化方法を可能とする不溶性担体であれば特に制限はなく、例えばマイクロタイタープレート等のポリスチレンプレート、ガラス製又は合成樹脂製の粒状物(ビーズ)、ガラス製又は合成樹脂製の球状物(ボール)、ラテックス、磁性粒子、ニトロセルロース膜等の各種メンブレン、合成樹脂製の試験管等が挙げられる。
また、抗原抗体反応の反応液中で抗ステロイドホルモン抗体が固定化された不溶性担体が生成される場合、不溶性担体は、第一試薬、第二試薬又は他の試薬に含まれる。
【0030】
前記第一試薬には、必要に応じて、水性媒体、防腐剤、塩類、糖類、界面活性剤、蛋白質、干渉物質消去剤等が含有されてもよい。
水性媒体としては、実施形態の測定用キットの安定化方法を可能とする水性媒体であれば特に制限はなく、例えば、脱イオン水、蒸留水、緩衝液等が挙げられ、緩衝液が好ましい。また、緩衝液のpHとしては、実施形態の測定用キットの安定化方法を可能とするpHであれば特に制限はなく、例えばpH4以上、pH5以上、pH6以上又はpH7以上であってよく、pH8以下又はpH9以下であってよく、pH6~8が好ましく、pH7~8がより好ましい。
なお、本開示では、ある量について、上限値の例と下限値の例とからそれぞれ任意の数値を選択し、それらを組み合わせて得られる数値範囲も、本開示に例示されているものとみなす。濃度、期間、温度等の他の数値についても同様である。
【0031】
緩衝液の調製に用いられる緩衝剤としては、例えば2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、ピペラジン-N,N’-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、2-[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エタンスルホン酸(BES)、N-(2-ヒドロキシエチル)-N’-(2-スルホエチル)ピペラジン(HEPES)、ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis-Tris)、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸(TES)、3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(EPPS)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸(CHES)、N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPS)等が挙げられる。
緩衝剤の濃度としては、実施形態の測定用キットの安定化方法を可能とする濃度であれば特に制限はなく、通常、0.001~2.0mol/Lであり、0.005~1.0mol/Lが好ましい。
【0032】
防腐剤としては、例えばアジ化ナトリウム、抗生物質等があげられる。塩類としては、例えば塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、炭酸カリウム、ギ酸カリウム、酢酸カリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等が挙げられる。糖類としては、トレハロース、シュークロース等が挙げられる。界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。タンパク質としては、牛血清アルブミン等が挙げられる。干渉物質消去剤としては、例えばアスコルビン酸の影響を消去するためのアスコルビン酸オキシダーゼ等が挙げられる。
【0033】
標識化ステロイドホルモンにおいて使用される標識物質としては、実施形態の測定用キットの安定化方法を可能とする標識物質であれば特に制限はなく、例えば、酵素、蛍光物質、発光物質、放射性同位元素、ビオチン、ジゴキシゲニン、タグ配列を含むポリペプチド、金属コロイド粒子、着色ラテックス粒子等が挙げられる。
【0034】
酵素としては、例えば、アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ等が挙げられる。
【0035】
蛍光物質としては、例えば、フルオレッセインイソチオシアナート(FITC)、ローダミンB-イソチオシアナート(RITC)等が挙げられる。その他の蛍光物質としては、例えばquantum dot(Science, 281, 2016-2018, 1998)、フィコエリスリン等のフィコビリ蛋白質、GFP(Green fluorescent Protein)、RFP(Red fluorescent Protein)、YFP(Yellow fluorescent Protein)、BFP(Blue fluorescent Protein)等の蛍光を発する蛋白質が挙げられる。
【0036】
発光物質としては、例えば、アクリジニウム及びその誘導体、ルテニウム錯体化合物、ロフィン等が挙げられる。ルテニウム錯体化合物としては、電子供与体と共に電気化学的に発光する、Clin.Chem. 37, 9, 1534-1539, 1991に示されたものが好ましい。
放射性同位元素としては、例えば、H、14C、35S、32P、125I、131I等が挙げられる。
【0037】
タグ配列を含むポリペプチドとしては、FLAGペプチド(FLAGタグ、Asp-Tyr-Lys-Asp-Asp-Asp-Asp-Lys)、ポリヒスチジン(Hisタグ、His-His-His-His-His-His)、mycエピトープペプチド(mycタグ、Glu-Gln-Lys-Leu-Ile-Ser-Glu-Glu-Asp-Leu)、ヘマグルチニンエピトープペプチド(HAタグ、Tyr-Pro-Tyr-Asp-Val-Pro-Asp-Tyr-Ala)等が挙げられる。
【0038】
ステロイドホルモンの標識物質による標識化は、ステロイドホルモンが有する官能基と、標識物質が有する官能基との間でリンカーを介して又は介さず共有結合を生じる反応によって行うことができる。官能基としては、カルボキシル基やアミノ基、グリシジル基、スルフヒドリル基、水酸基、アミド基、イミノ基、ヒドロキシサクシニルエステル基、マレイミド基、イソチオシアナート基等が挙げられる。
【0039】
ステロイドホルモンの標識物質による標識化において、ステロイドホルモンが標識物質と結合するステロイドホルモン中の位置は、ステロイドホルモンの構造によって適宜選択することができる。例えば測定対象物であるステロイドホルモンがアルドステロンであり、標識化ステロイドホルモンとして、標識化アルドステロンを用いる場合、標識物質は、アルドステロンの3位、4位、6位又は21位等の位置に結合させることができる。
【0040】
リンカーを介さない結合方法としては例えば、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド(EDC)等のカルボジイミド化合物を用いる方法等が挙げられる。この場合、NHS又はその誘導体等の活性エステルを使用することも可能である。イソチオシアナート基とアミノ基の間の縮合反応は、他の試薬を必要とせず、中性~弱アルカリ性の条件で混合するだけで進行するため、好ましい。
【0041】
リンカーとしては、ステロイドホルモンが有する官能基と、標識物質が有する官能基とを結合させ得る分子であればいかなるリンカーでもよい。好ましい態様としては、例えば、ステロイドホルモンのカルボキシル基と反応することができる第1の官能基と、標識
物質の官能基と反応することができる第2の官能基とを同一分子内に有する分子等が挙げられ、第1の官能基と第2の官能基とが異なっていることが好ましい。リンカーの官能基としては、例えば前述の官能基等が挙げられる。
【0042】
放射性同位元素を化学的に結合させる方法としては、例えば文献(AntibodyImmunoconj. Radiopharm., 3, 60, 1990)記載の方法等
が挙げられる。
【0043】
標識物質が酵素、アビジン、蛍光を発する蛋白質、フィコビリ蛋白質、タグ配列を含むポリペプチド等のポリペプチドである場合には、公知の遺伝子組換え技術(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)にしたがって、標識物質と抗ステロイドホルモン抗体との融合蛋白質をコードするDNAを含む発現ベクターを作製し、発現ベクターを適当な宿主に導入して、宿主を培養することにより製造することができる。融合蛋白質をコードするDNAは、抗体及び標識物質をそれぞれコードするDNAをPCR等でクローニングし、それぞれのDNAをリガーゼ反応で連結することにより得ることができる。
【0044】
抗ステロイドホルモン抗体と標識化ステロイドホルモンとの免疫複合体中の標識物質の測定は、用いる標識物質により適宜、選択することができる。
【0045】
標識物質が発色物質、すなわち、ある波長の光を吸収する物質の場合には、分光光度計やマルチウェルプレートリーダー等を用いて吸光度を測定することができる。
標識物質が蛍光物質の場合には、蛍光光度計や蛍光マルチウェルプレートリーダー等を用いて蛍光強度を測定することができる。
標識物質が発光物質の場合には、発光光度計や発光マルチウェルプレートリーダー等を用いて、発光強度を測定することができる。
標識物質が放射性同位元素である場合、放射活性をシンチレーションカウンター、γ-ウェルカウンター等により、放射活性を測定することができる。
【0046】
標識物質が酵素である場合、標識量は、酵素活性を測定することにより定量することができる。例えば、酵素の基質を当該酵素と反応させ、生成した物質を測定することにより、標識量を測定することができる。
【0047】
酵素がアルカリフォスファターゼである場合には、例えば、発光法等によりアルカリフォスファターゼ活性を測定することができる。発光法によりアルカリフォスファターゼ活性を測定する方法としては、例えばアルカリフォスファターゼとその基質とを反応させ、生成した発光の発光強度を発光光度計や発光マルチウェルプレートリーダー等で測定する方法等が挙げられる。
【0048】
アルカリフォスファターゼの基質としては、例えば3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’-ホスホリルオキシ)フェニル-1,2-ジオキセタン・二ナトリウム塩(AMPPD)、2-クロロ-5-{4-メトキシスピロ[1,2-ジオキセタン-3,2’-(5’-クロロ)トリシクロ[3.3.1.13.7]デカン]-4-イル}フェニルホスフェート・二ナトリウム塩(CDP-StarTM)、3-{4-
メトキシスピロ[1,2-ジオキセタン-3,2’-(5’-クロロ)トリシクロ[3.3.1.13.7]デカン]-4-イル}フェニルホスフェート・二ナトリウム塩(CSPDTM)、[10-メチル-9(10H)-アクリジニルイデン]フェノキシメチルリン
酸・二ナトリウム塩(LumigenTM APS-5)等が挙げられる。
【0049】
酵素がペルオキシダーゼである場合には、例えば吸光度法、蛍光法等によりペルオキシダーゼ活性を測定することができる。吸光度法によりペルオキシダーゼ活性を測定する方法としては、例えばペルオキシダーゼと、その基質である過酸化水素及び酸化発色型色原体の組み合わせとを反応させ、反応液の吸光度を分光光度計やマルチウェルプレートリーダー等で測定する方法等が挙げられる。酸化発色型色原体としては、例えばロイコ型色原体、酸化カップリング発色型色原体等が挙げられる。
【0050】
ロイコ型色原体は、過酸化水素及びペルオキシダーゼ等の過酸化活性物質の存在下、単独で色素へ変換される物質である。具体的には、テトラメチルベンジジン、おo-フェニレンジアミン、10-N-カルボキシメチルカルバモイル-3,7-ビス(ジメチルアミノ)-10H-フェノチアジン(CCAP)、10-N-メチルカルバモイル-3,7-ビス(ジメチルアミノ)-10H-フェノチアジン(MCDP)、N-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミン ナトリウム塩(DA-64)、10-N-カルボキシメチルカルバモイル-3,7-ビス(ジメチルアミノ)-10H-フェノチアジンナトリウム塩(DA-67)、4,4’-ビス(ジ
メチルアミノ)ジフェニルアミン、ビス[3-ビス(4-クロロフェニル)メチル-4-ジメチルアミノフェニル]アミン(BCMA)等が挙げられる。
【0051】
酸化カップリング発色型色原体は、過酸化水素及びペルオキシダーゼ等の過酸化活性物質の存在下、2つの化合物が酸化的カップリングして色素を生成する物質である。2つの化合物の組み合わせとしては、カプラーとアニリン類(トリンダー試薬)との組み合わせ、カプラーとフェノール類との組み合わせ等が挙げられる。
【0052】
カプラーとしては、例えば4-アミノアンチピリン(4-AA)、3-メチル-2-ベンゾチアゾリノンヒドラジン等が挙げられる。
【0053】
アニリン類としては、N-(3-スルホプロピル)アニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(TOOS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン(MAOS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン(DAOS)、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(TOPS)、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン(HDAOS)、N,N-ジメチル-3-メチルアニリン、N,N-ビス(3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)アニリン、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-(3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)アニリン、N-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N’-サクシニルエチレンジアミン(EMSE)、N-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N’-アセチルエチレンジアミン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-4-フルオロ-3,5-ジメトキシアニリン(F-DAOS)等が挙げられる。
【0054】
フェノール類としては、フェノール、4-クロロフェノール、3-メチルフェノール、3-ヒドロキシ-2,4,6-トリヨード安息香酸(HTIB)等が挙げられる。
【0055】
蛍光法によりペルオキシダーゼ活性を測定する方法としては、例えばペルオキシダーゼと、その基質である過酸化水素及び蛍光物質の組み合わせとを反応させ、蛍光光度計や蛍光マルチウェルプレートリーダー等で生成した蛍光強度を測定する方法等が挙げられる。当該蛍光物質としては、例えば4-ヒドロキシフェニル酢酸、3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、クマリン等が挙げられる。
【0056】
発光法によるペルオキシダーゼ活性を測定する方法としては、例えばペルオキシダーゼと、その基質である過酸化水素及び発光物質の組み合わせとを反応させ、発光光度計や発光マルチウェルプレートリーダー等で生成した発光強度を測定する方法等が挙げられる。当該発光物質としては、例えばルミノール化合物、ルシゲニン化合物等が挙げられる。
【0057】
酵素がβ-D-ガラクトシダーゼである場合には、例えば吸光度法(比色法)、発光法又は蛍光法等によりβ-D-ガラクトシダーゼ活性を測定することができる。吸光度法(比色法)によりβ-D-ガラクトシダーゼ活性を測定する方法としては、例えばβ-D-ガラクトシダーゼとその基質とを反応させ、反応液の吸光度を分光光度計やマルチウェルプレートリーダー等で測定する方法等が挙げられる。β-D-ガラクトシダーゼの基質としては、例えば、o-ニトロフェル-β-D-ガラクトピラノシド等が挙げられる。発光法によりβ-D-ガラクトシダーゼ活性を測定する方法としては、例えばβ-D-ガラクトシダーゼとその基質とを反応させ、反応液の発光強度を発光光度計や発光マルチウェルプレートリーダー等で測定する方法等が挙げられる。β-D-ガラクトシダーゼの基質としては、例えばガラクトン-プラス[Galacton-Plus、アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)社製]及びその類似化合物等が挙げられる。蛍光法によりβ-D-ガラクトシダーゼ活性を測定する方法としては、例えば、β-D-ガラクトシダーゼとその基質とを反応させ、反応液の蛍光強度を蛍光光度計や蛍光マルチウェルプレートリーダー等で測定する方法等が挙げられる。β-D-ガラクトシダーゼの基質としては、例えば4-メチルウンベリフェリル-β-D-ガラクトピラノシド等が挙げられる。
【0058】
酵素がルシフェラーゼである場合には、例えば発光法等によりルシフェラーゼ活性を測定することができる。発光法によりルシフェラーゼ活性を測定する方法としては、例えばルシフェラーゼとその基質とを反応させ、反応液の発光強度を発光光度計や発光マルチウェルプレートリーダー等で測定する方法等が挙げられる。ルシフェラーゼの基質としては、例えばルシフェリン、セレンテラジン等が挙げられる。
【0059】
標識物質が蛍光物質、発光物質、放射性同位元素及び酵素以外の場合は、当該標識物質に特異的に結合する物質を蛍光物質、発光物質、放射性同位元素、酵素等で標識した標識体と、免疫複合体中の標識化ステロイドホルモンを構成している当該標識物質とを結合させ、当該標識物質に特異的に結合する物質を標識している蛍光物質、発光物質、放射性同位元素又は酵素を、前記の方法により測定することにより、当該標識物質を測定することができる。標識物質に特異的に結合する物質としては、標識物質に特異的に結合する抗体の他、標識物質がビオチンの場合は、アビジン類等が挙げられる。
【0060】
前記第二試薬に含まれる標識化ステロイドホルモンの濃度としては、実施形態の測定用キットの安定化方法を可能とする濃度であれば特に制限はなく、例えば、0.1μg/mL以上、0.2μg/mL以上、0.3μg/mL以上、0.4μg/mL以上、0.5μg/mL以上、0.6μg/mL以上、0.7μg/mL以上、0.8μg/mL以上、0.9μg/mL以上又は1μg/mL以上であってよく、2μg/mL以下、3μg/mL以下、4μg/mL以下、5μg/mL以下、6μg/mL以下、7μg/mL以下、8μg/mL以下、9μg/mL以下、10μg/mL以下、15μg/mL以下、20μg/mL以下、25μg/mL以下、30μg/mL以下、35μg/mL以下、40μg/mL以下、45μg/mL以下、50μg/mL以下、60μg/mL以上、70μg/mL以下、80μg/mL以下、90μg/mL以下、100μg/mL以下、150μg/mL以下、200μg/mL以下、250μg/mL以下、300μg/mL以下、350μg/mL以下、400μg/mL以下、450μg/mL以下、500μg/mL以下、600μg/mL以下、700μg/mL以下、800μg/mL以下、900μg/mL以下又は1mg/mL以下であってよく、0.1~100μg/mLが好ましい。
【0061】
前記第二試薬に含まれる牛血清アルブミンの濃度としては、実施形態の測定用キットの安定化方法を可能とする濃度であれば特に制限はなく、例えば、10g/L以上、15g/L以上、20g/L以上、25g/L以上、30g/L以上、35g/L以上、40g/L以上、45g/L以上又は50g/L以上であってよい。
また、牛血清アルブミンの濃度としては、測定機器使用時に、測定機器の試薬分注部材による第二試薬のサンプリング量に影響を及ぼす可能性を考慮し、粘性が高くなりすぎないように牛血清アルブミンの濃度を設定することが望ましい。その場合の牛血清アルブミンの濃度としては、例えば、30g/L以下、35g/L以下、40g/L以下、45g/L以下、50g/L以下、55g/L以下、60g/L以下、65g/L以下、70g/L以下、75g/L以下又は80g/L以下であってよい。
上記の数値範囲は自由に組み合わせることができる。例えば、前記第二試薬の牛血清アルブミンの濃度は、10~30g/Lであってよく、20~30g/Lであってよい。
【0062】
前記第二試薬に含まれる水性媒体としては、実施形態の測定用キットの安定化方法を可能とする水性媒体であれば特に制限はなく、例えば、前述の脱イオン水、蒸留水、緩衝液等が挙げられ、緩衝液が好ましい。また、緩衝液のpHとしては、実施形態の測定用キットの安定化方法、及び、実施形態の測定用キットを用いる測定を可能とするpHであれば特に制限はなく、例えばpH4以上、pH5以上、pH6以上又はpH7以上であってよく、pH8以下又はpH9以下であってよく、pH6~8が好ましく、pH7~8がより好ましい。
緩衝液の作製に用いられる緩衝剤及びその濃度としては、実施形態の測定用キットの安定化方法を可能とする水性媒体であれば特に制限はなく、例えば、前記の緩衝剤及びその濃度が挙げられる。
【0063】
前記第二試薬には、必要に応じて、前記の防腐剤、塩類、糖類、界面活性剤、蛋白質、干渉物質消去剤等が含有されてもよい。
【0064】
実施形態の測定用キットの安定化方法における、実施形態の測定用キットの保存期間としては、実施形態の測定用キットの安定化方法を可能とする保存期間であれば特に制限はなく、例えば、1日以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、1週以上、2週以上、3週以上、4週以上、1ヶ月以上、2ヶ月以上、3ヶ月以上、4ヶ月以上、5ヶ月以上、6ヶ月以上、7ヶ月以上、8ヶ月以上、9ヶ月以上、10ヶ月以上、11ヶ月以上又は1年以上であってよく、1.5年以下、2年以下、2.5年以下又は3年以下であってよく、4週~1.5年が好ましい。
実施形態の測定用キットの安定化方法における、実施形態の測定用キットの保存温度としては、実施形態の測定用キットの安定化方法を可能とする保存温度であれば特に制限はなく、例えば、5℃以上であってよく、10℃以下、15℃以下、20℃以下、25℃以下、30℃以下、35℃以下、40℃以下、45℃以下又は50℃℃以下であってよく、5℃~30℃が好ましい。
【0065】
実施形態の測定用キットは、以下の工程を含む検体中のステロイドホルモンの測定方法に用いることができる。
【0066】
[1]水性媒体中で、検体と、抗ステロイドホルモン抗体を含む第一試薬とを反応させ、検体中のステロイドホルモンと、抗ステロイドホルモン抗体とからなる免疫複合体1を生成させる工程;
[2]工程[1]の反応液に、標識化ステロイドホルモンを含む第二試薬を添加し反応させ、標識化ステロイドホルモンと、抗ステロイドホルモン抗体とからなる免疫複合体2を生成させる工程;
[3]工程[2]で生成された免疫複合体2中の標識物質を測定する工程。
【0067】
前記工程[3]の後に、さらに以下の工程を含むことにより、検体中のステロイドホルモン濃度を決定することができる。
[4]検体の代わりに既知濃度のステロイドホルモンを用いて前記工程[1]~[3]を行い、ステロイドホルモン濃度と標識物質の測定値との関係を表す検量線を作成する工程;及び
[5]工程[4]で作成された検量線と、工程[3]で測定された標識物質の測定値とから、検体中のステロイドホルモン濃度を決定する工程。
【0068】
前記測定方法における検体、ステロイドホルモン、水性媒体、抗ステロイドホルモン抗体、標識化ステロイドホルモン及び標識物質は、実施形態の測定用キットを用いる測定を可能とするものであれば特に制限はなく、例えば、前記の検体、ステロイドホルモン、水性媒体、抗ステロイドホルモン抗体標識化ステロイドホルモン及び標識物質が挙げられる。
【0069】
前記測定方法における水性媒体、抗ステロイドホルモン抗体、標識化ステロイドホルモン及び標識物質の反応液中の濃度は、実施形態の測定用キットを用いる測定を可能とする濃度であれば特に制限はなく、前記第一試薬中の濃度及び前記第二試薬中の濃度、並びに、検体と第一試薬と第二試薬との混合比に従い、適宜設定することができる。
【0070】
前記測定方法における工程[1]及び[2]における反応の反応温度は、実施形態の測定用キットを用いる測定を可能とする温度であれば特に制限はなく、通常、0~50℃であり、4~45℃が好ましく、20~40℃が特に好ましい。また、前記反応の反応時間は、実施形態の測定用キットを用いる測定を可能とする温度であれば特に制限はなく、通常、1分間~2時間であり、2分間~1時間が好ましい。
【0071】
牛血清アルブミンを含む実施形態の測定用キットをそのまま前記測定方法に用いる場合は、前記抗体[1]及び/又は工程[2]に牛血清アルブミンが存在する。この場合おける、牛血清アルブミンとしては、実施形態の測定用キットを用いる測定を可能とする牛血清アルブミンであれば特に制限はなく、例えば、前述の牛血清アルブミンが挙げられる。
【0072】
(2)競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キット
実施形態の、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キット(実施形態の測定用キット)は、抗ステロイドホルモン抗体を含む第一試薬と;水性媒体、標識化ステロイドホルモン、及び、10g/L以上の牛血清アルブミンを含む第二試薬と、を含む、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キットであり、例えば、前記の検体中のステロイドホルモンの測定方法に用いられるキットである。
【0073】
実施形態の測定用キットにおける、検体、ステロイドホルモン、第一試薬、抗ステロイドホルモン抗体、牛血清アルブミンを含む第二試薬、水性媒体、標識化ステロイドホルモンとしては、実施形態の測定用キットを用いる測定を可能とするものであれば特に制限はなく、例えば、前記の検体、ステロイドホルモン、第一試薬、抗ステロイドホルモン抗体、牛血清アルブミンを含む第二試薬、水性媒体、標識化ステロイドホルモンが挙げられる。
【0074】
実施形態の測定用キットにおける、抗ステロイドホルモン抗体、標識化ステロイドホルモン、牛血清アルブミン、水性媒体としての緩衝液の作製に用いられる緩衝剤の濃度としては、実施形態の測定用キットを用いる測定を可能とする濃度であれば特に制限はなく、例えば、前記の実施形態の測定用キットにおける、抗ステロイドホルモン抗体、標識化ステロイドホルモン、牛血清アルブミン、水性媒体としての緩衝液の作製に用いられる緩衝剤の濃度が挙げられる。
実施形態の測定用キットにおける、水性媒体としての緩衝液のpHとしては、実施形態の測定用キットを用いる測定を可能とするpHであれば特に制限はなく、例えば、前記のpHが挙げられる。
【0075】
(3)標識化ステロイドホルモンの安定化方法
実施形態の、標識化ステロイドホルモンの安定化方法は、標識化ステロイドホルモンと、10g/L以上の牛血清アルブミンとを、水性媒体中で共存させることを特徴とする、標識化ステロイドホルモンの安定化方法であり、当該標識化ステロイドホルモンは、前記の検体中のステロイドホルモンの測定方法に用いられるものである。
【0076】
実施形態の標識化ステロイドホルモンの安定化方法において、「安定」とは、標識化ステロイドホルモンを長期間保存した後に前記の検体中のステロイドホルモンの測定方法に用いた場合でも、保存する前と比較して、前記測定方法における工程[2]で生成される免疫複合体2中の標識物質に由来するシグナルが低下しにくいことを意味し、例えば、標識化ステロイドホルモンを5℃で140日保存した後に前記測定方法に用いた場合でも、保存する前と比較して、前記免疫複合体2中の標識物質に由来するシグナルが70%以上であることをいう。
前記免疫複合体2中の標識物質に由来するシグナルは、例えば以下の方法により測定できる。
【0077】
[1]ステロイドホルモンを含まない検体と、抗ステロイドホルモン抗体と、標識化ステロイドホルモンを含む水性媒体とを反応させ、標識化ステロイドホルモンと、抗ステロイドホルモン抗体とからなる免疫複合体2を生成させる工程;及び
[2]工程[1]で生成された免疫複合体2中の標識物質を測定する工程。
【0078】
実施形態の標識化ステロイドホルモンを長期間保存する前後において、前記標識物質に由来するシグナルの測定を行い、保存前のシグナルに対する保存後のシグナルの比率を算出する。ここで、例えば、その比率が70%よりも高い場合、実施形態の測定用キットは安定である、と評価することができる。
【0079】
実施形態の標識化ステロイドホルモンの安定化方法における、標識化ステロイドホルモン及びその濃度としては、実施形態の標識化ステロイドホルモンの安定化方法を可能とする標識化ステロイドホルモン及びその濃度であれば特に制限はなく、例えば、前記の標識化ステロイドホルモン及びその濃度が挙げられる。
【0080】
実施形態の標識化ステロイドホルモンの安定化方法において、標識化ステロイドホルモンは、牛血清アルブミンと水性媒体中で共存させられる。
牛血清アルブミンの濃度としては、実施形態の標識化ステロイドホルモンの安定化方法を可能とする濃度であれば特に制限はなく、例えば、前記の牛血清アルブミンの濃度が挙げられる。
【0081】
水性媒体としては、実施形態の標識化ステロイドホルモンの安定化方法を可能とする水性媒体であれば特に制限はなく、例えば、前述の脱イオン水、蒸留水、緩衝液等が挙げられ、緩衝液が好ましい。また、緩衝液のpHとしては、実施形態の標識化ステロイドホルモンの安定化方法、及び、前記の検体中のステロイドホルモンの測定方法を可能とするpHであれば特に制限はなく、例えばpH4以上、pH5以上、pH6以上又はpH7以上であってよく、pH8以下又はpH9以下であってよく、pH6~8が好ましく、pH7~8がより好ましい。
緩衝液の作製に用いられる緩衝剤及びその濃度としては、実施形態の標識化ステロイドホルモンの安定化方法を可能とする水性媒体であれば特に制限はなく、例えば、前記の緩衝剤及びその濃度が挙げられる。
【0082】
前記水性媒体には、必要に応じて、前述の抗ステロイドホルモン抗体、不溶性担体、防腐剤、塩類、糖類、界面活性剤、蛋白質、干渉物質消去剤等が含有されてもよい。
【0083】
実施形態の標識化ステロイドホルモンの安定化方法における、標識化ステロイドホルモンの保存期間としては、実施形態の標識化ステロイドホルモンの安定化方法を可能とする保存期間であれば特に制限はなく、例えば、1日以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、1週以上、2週以上、3週以上、4週以上、1ヶ月以上、2ヶ月以上、3ヶ月以上、4ヶ月以上、5ヶ月以上、6ヶ月以上、7ヶ月以上、8ヶ月以上、9ヶ月以上、10ヶ月以上、11ヶ月以上又は1年以上であってよく、1.5年以下、2年以下、2.5年以下又は3年以下であってよく、4週~1.5年が好ましい。
実施形態の標識化ステロイドホルモンの安定化方法における、標識化ステロイドホルモンの保存温度としては、実施形態の標識化ステロイドホルモンの安定化方法を可能とする保存温度であれば特に制限はなく、例えば、5℃以上であってよく、10℃以下、15℃以下、20℃以下、25℃以下、30℃以下、35℃以下、40℃以下、45℃以下又は50℃以下であってよく、5℃~30℃が好ましい。
【0084】
(4)標識化ステロイドホルモン含有試薬
実施形態の、標識化ステロイドホルモン含有試薬は、検体中のステロイドホルモンと抗ステロイドホルモン抗体と標識化ステロイドホルモンとを反応させて、前記抗ステロイドホルモン抗体と前記標識化ステロイドホルモンとの免疫複合体を生成させ、生成した前記免疫複合体中の標識を測定する、競合法により検体中のステロイドホルモンを測定する方法、に用いられる標識化ステロイドホルモン含有試薬であって、標識化ステロイドホルモンと、10g/L以上の牛血清アルブミンとを、水性媒体中で共存させることを特徴とする、標識化ステロイドホルモン含有試薬である。
【0085】
実施形態の標識化ステロイドホルモン含有試薬における、検体、ステロイドホルモン、抗ステロイドホルモン抗体、標識化ステロイドホルモン、水性媒体としては、前記の検体中のステロイドホルモンの測定方法を可能とするものであれば特に制限はなく、例えば、前記の検体、ステロイドホルモン、抗ステロイドホルモン抗体、標識化ステロイドホルモン、水性媒体が挙げられる。
【0086】
実施形態の標識化ステロイドホルモン含有試薬における、抗ステロイドホルモン抗体、標識化ステロイドホルモン、牛血清アルブミン、水性媒体としての緩衝液の作製に用いられる緩衝剤の濃度としては、前記の検体中のステロイドホルモンの測定方法を可能とする濃度であれば特に制限はなく、例えば、標識化ステロイドホルモン含有試薬における、抗ステロイドホルモン抗体、標識化ステロイドホルモン、牛血清アルブミン、水性媒体としての緩衝液の作製に用いられる緩衝剤の濃度が挙げられる。
実施形態の標識化ステロイドホルモン含有試薬における、水性媒体としての緩衝液のpHとしては、前記の検体中のステロイドホルモンの測定方法を可能とすpHであれば特に制限はなく、例えば、前記のpHが挙げられる。
【0087】
前記水性媒体には、必要に応じて、前述の抗ステロイドホルモン抗体、不溶性担体、防腐剤、塩類、糖類、界面活性剤、蛋白質、干渉物質消去剤等が含有されてもよい。
【実施例
【0088】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
以下、使用した試薬・機器類の情報を下記に示す。
デタミナーCLアルドステロン(競合法による検体中のアルドステロンの測定用キット;日立化成ダイアグノスティックス・システムズ社製)のうちの「ビオチン化抗体」液、「SA結合粒子」液並びに「標準アルドステロン試薬A」、「標準アルドステロン試薬B」、「標準アルドステロン試薬C」及び「標準アルドステロン試薬D」、PIPES(同仁化学研究所社製)、MOPS(同仁化学研究所社製)、Tween20(モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン;東京化成工業社製)、牛血清アルブミン(BOVOGEN社製)、全自動化学発光免疫測定装置CL-JACK NX(日立化成ダイアグノスティックス・システムズ社製)。
【0090】
(実施例1)
以下の、ビオチン結合抗アルドステロン抗体を含む第一試薬、アルカリフォスファターゼ標識化アルドステロンを含む第二試薬、及び、ストレプトアビジン結合磁性粒子を含む第三試薬からなるアルドステロン測定用キットA、B、C、D、及びEを準備した。
【0091】
<第一試薬:ビオチン結合抗アルドステロン抗体溶液>
デタミナーCLアルドステロンの「ビオチン化抗体」液を、競合法による検体中のアルドステロンの測定用キットにおける、ビオチン結合抗アルドステロン抗体を含む第一試薬として準備した。
【0092】
<第二試薬:アルカリフォスファターゼ標識化アルドステロン溶液>
ALDOSTERONE 3-CMO(アルドステロン 3-カルボキシメチルオキシム;STERALOIDS社製)を、DMSO(シグマアルドリッチ社製)と水との3:1の混合溶媒中で、Sulfo-NHS(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)及びEDC[1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩;サーモフィッシャーサイエンティフィック社製]と混合し、25℃で15分間、反応させた後、さらにアルカリフォスファターゼ(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)と、4℃で16時間反応させた。反応混合物をセファデックスG-50カラム(GEヘルスケア・ジャパン社製)に供して未反応のALDOSTERONE 3-CMOを除去し、アルカリフォスファターゼ標識化アルドステロンを得た。得られたアルカリフォスファターゼ標識化アルドステロンを用いて、以下の組成からなる第二試薬を調製した。
【0093】
PIPES (第1表又は第2表参照のpH) 30mmol/L
アルカリフォスファターゼ標識化アルドステロン 1.5μg/mL
Tween20 10g/L
塩化マグネシウム・6水和物 30mmol/L
牛血清アルブミン (第1表又は第2表参照の濃度)
【0094】
<第三試薬:ストレプトアビジン結合磁性粒子懸濁液>
デタミナーCLアルドステロンの「SA結合粒子」液を、競合法による検体中のアルドステロンの測定用キットにおける、ストレプトアビジン結合磁性粒子を含む第三試薬として準備した。
【0095】
(比較例1)
実施例1のアルドステロン測定用キットAの第二試薬において、第二試薬の牛血清アルブミンの濃度を6g/Lとする以外は同様の方法により、ビオチン結合抗アルドステロン抗体を含む第一試薬、アルカリフォスファターゼ標識化アルドステロンを含む第二試薬、及び、ストレプトアビジン結合磁性粒子を含む第三試薬を準備し、前記第一試薬、前記第二試薬及び前記第三試薬からなるキットaを作製した。
【0096】
(実施例2)
以下の工程により、実施例1のアルドステロン測定用キットAの安定性を評価した。
(1)調製直後のキットにおける標識物質に由来するシグナルの決定
全自動化学発光免疫測定装置CL-JACK NXを用いて測定を行った。反応容器に、標準アルドステロン試薬A(凍乾品)を0.5mL精製水で溶解した溶液(アルドステロン濃度:0pg/mL。以下、標準品A)(10μL)、及び、調製直後の実施例1のビオチン結合抗アルドステロン抗体を含む第一試薬(50μL)を添加して攪拌し、37℃で18分間反応させた後、前記反応の反応液に、調製直後の実施例1のストレプトアビジン結合磁性粒子を含む第三試薬(30μL)、及び、調製直後の実施例1のキットAのアルカリフォスファターゼ標識化アルドステロンを含む第二試薬(30μL)を加えて攪拌し、37℃で8分間反応させた。磁性粒子を磁力で集めて、磁性粒子以外の反応溶液を除去した後、反応容器に洗浄液[0.1%Tween20を含有する50mmol/L MOPS緩衝液(pH7.35)]を添加し、磁性粒子を洗浄した。磁性粒子を磁力で集めて、磁性粒子以外の溶液を除去した後、反応容器に洗浄液を添加し、磁性粒子を洗浄した。この集磁、磁性粒子以外の溶液の除去、洗浄液による磁性粒子の洗浄という一連の操作を5回行った後、9-(4-クロロフェニルチオホスホリルオキシメチリデン)-10-メチルアクリダン・二ナトリウム塩を主成分とする発光基質液(70μL)を加えて攪拌し、生じた発光量(RLU)を測定し、調製直後のキットAにおける標準品A測定時の発光量を決定した。
また、標準品Aの代わりに、標準アルドステロン試薬B(凍乾品)を0.5mL精製水で溶解した溶液(アルドステロン濃度:50.1pg/mL。以下、標準品B)、標準アルドステロン試薬C(凍乾品)を0.5mL精製水で溶解した溶液(アルドステロン濃度:196.6pg/mL。以下、標準品C)、及び、標準アルドステロン試薬D(凍乾品)を0.5mL精製水で溶解した溶液(アルドステロン濃度:1653.9pg/mL。以下、標準品D)を用いること以外は同様の方法により、調製直後のキットAにおける標準品B、C及びDのそれぞれの測定時の発光量を決定した。
【0097】
(2)キットの長期保存
工程(1)の測定後、実施例1のキットAを5℃で4週間保存した。
(3)長期保存後のキットにおける標識物質に由来するシグナルの決定
調製直後の第一試薬、第二試薬及び第三試薬を用いる代わりに、工程(2)において5℃で4週間保存した後の第一試薬、第二試薬及び第三試薬を用いる以外は工程(1)と同様の方法により発光量を測定し、長期保存後のキットAにおける標準品A、B、C及びDのそれぞれの測定時の発光量を決定した。
(4)キットの安定性の評価
工程(1)で決定した調製直後のキットAにおける標準品A測定時の発光量を100とした際の、工程(3)で決定した長期保存後のキットAにおける標準品A測定時の発光量の比率、すなわち、標準品A測定時の発光量の残存率を算出した。また、同様の方法により、標準品B、C及びDのそれぞれの測定時の発光量の残存率を算出した。得られた標準品A、B、C及びDのそれぞれの測定時の発光量の残存率の平均値を、キットAにおける標識物質に由来するシグナルの残存率とし、キットAの安定性を評価した。その結果を第1表に示す。
【0098】
(実施例3)
実施例1のアルドステロン測定用キットAを用いる代わりに、実施例1のキットB~Dを用いる以外は、実施例2と同様の方法により、キットB~Dの安定性を評価した。その結果を第1表に示す。
【0099】
(比較例2)
実施例1のアルドステロン測定用キットAを用いる代わりに、比較例のキットaを用いる以外は、実施例2と同様の方法により、キットaの安定性を評価した。その結果を第1表に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
第1表から明らかなとおり、前記第二試薬における牛血清アルブミンの濃度が6g/Lである比較例1のキットaを用いた場合と比較して、第二試薬における牛血清アルブミンの濃度が10g/L以上である実施例1のキットA~Dを用いた場合では、標識物質に由来するシグナルの残存率が高く、70%以上であった。
したがって、第二試薬において標識化ステロイドホルモンと10g/L以上の牛血清アルブミンとを水性媒体中で共存させることにより、抗ステロイドホルモン抗体を含む第一試薬と標識化ステロイドホルモンを含む前記第二試薬とを含む、検体中のステロイドホルモンの測定用キットが、安定化されることが明らかとなった。
また、第1表から明らかなとおり、アルカリフォスファターゼ標識化アルドステロンを含む第二試薬のpHが6.5であり、かつ、前記第二試薬における牛血清アルブミンの濃度が6g/Lである比較例1のキットaを用いた場合と比較して、第二試薬のpHが7以上であり、かつ、前記第二試薬における牛血清アルブミンの濃度が10g/L以上である実施例1のキットDを用いた場合では、標識物質に由来するシグナルの残存率が高く、80%以上であった。したがって、第二試薬のpHを7以上にすること、かつ、前記第二試薬において標識化ステロイドホルモンと10g/L以上の牛血清アルブミンとを水性媒体中で共存させることにより、抗ステロイドホルモン抗体を含む第一試薬と標識化ステロイドホルモンを含む前記第二試薬とを含む、検体中のステロイドホルモンの測定用キットが、安定化されることが明らかとなった。
【0102】
(実施例4)
工程(2)における長期保存を5℃・4週間保存とする代わりに5℃・140日間保存とする以外は、実施例2と同様の方法により、実施例1のアルドステロン測定用キットC又はEの安定性を評価した。その結果を第2表に示す。
【0103】
(比較例3)
実施例1のアルドステロン測定用キットC又はEを用いる代わりに、比較例のキットaを用いる以外は、実施例4と同様の方法により、キットaの安定性を評価した。その結果を第2表に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
第2表から明らかなとおり、アルカリフォスファターゼ標識化アルドステロンを含む第二試薬における牛血清アルブミンの濃度が6g/Lである比較例1のキットaを用いた場合と比較して、第二試薬における牛血清アルブミンの濃度が20g/L以上である実施例1のキットC及びEを用いた場合では、標識物質に由来するシグナルの残存率が高く、70%以上であった。したがって、第二試薬において標識化ステロイドホルモンと20g/L以上の牛血清アルブミンとを水性媒体中で共存させることにより、抗ステロイドホルモン抗体を含む第一試薬と標識化ステロイドホルモンを含む前記第二試薬とを含む、検体中のステロイドホルモンの測定用キットが、安定化されることが明らかとなった。
【0106】
(実施例5)
上記比較例3で得た、調製直後のキットaにおける標準品A測定時の発光量を基準とした際の、実施例4で得た、調製直後のキットC又はEにおける標準品A測定時の発光量の比率を算出した。また、標準品B、C及びDのそれぞれの測定時の発光量の比率についても同様に算出した。その結果を第3表に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
一般に、ステロイドホルモンはアルブミンと相互作用すると考えられるため、第二試薬における牛血清アルブミンの濃度が高い実施例1のキットC及びEを用いた場合では、測定における磁性粒子を磁力で集めて磁性粒子以外の反応溶液を除去する工程において、標識化ステロイドホルモンが結合した牛血清アルブミンが反応溶液とともに除去されることにより、発光量(標識物質に由来するシグナル)が低下する懸念があった。しかしながら、第3表から明らかなとおり、アルカリフォスファターゼ標識化アルドステロンを含む第二試薬における牛血清アルブミンの濃度が6g/Lである比較例1のキットaを用いた場合と比較して、第二試薬における牛血清アルブミンの濃度が20g/L以上である実施例1のキットC及びEを用いた場合でも、各標準品の測定時の発光量に大きな変化は見られなかった。
したがって、第二試薬において標識化ステロイドホルモンと20g/L以上の牛血清アルブミンとを水性媒体中で共存させることにより、測定時の発光量(標識物質に由来するシグナル)を低下させることなく、抗ステロイドホルモン抗体を含む第一試薬と標識化ステロイドホルモンを含む前記第二試薬とを含む、検体中のステロイドホルモンの測定用キットが、安定化されることが明らかとなった。
【0109】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明により、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キットの安定化方法;長期保存時の安定性に優れた、競合法による検体中のステロイドホルモンの測定用キット;標識化ステロイドホルモンの安定化方法;及び、長期保存時の安定性に優れた、標識化ステロイドホルモン含有試薬が提供される。