(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】シートベルト用リトラクタ
(51)【国際特許分類】
B60R 22/405 20060101AFI20241030BHJP
【FI】
B60R22/405
(21)【出願番号】P 2021057754
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000117135
【氏名又は名称】芦森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 秀樹
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-338614(JP,A)
【文献】特開2008-074137(JP,A)
【文献】特開2016-188035(JP,A)
【文献】特開2014-177268(JP,A)
【文献】特開平07-144607(JP,A)
【文献】米国特許第05839790(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/00 - 22/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する一対の側壁を有するハウジングと、
ウエビングを巻き取る、前記一対の側壁の間に前記ウエビングの巻取方向と引出方向に回転可能に収容された巻取ドラムと、
前記巻取ドラムの端面から突出する支持軸に軸支され、通常時は前記巻取ドラムと一体回転し、車両の緊急時には前記引出方向への回転が阻止されることで前記引出方向へ回転する前記巻取ドラムと相対回転するクラッチと、
前記クラッチに対して前記巻取ドラムが前記引出方向に相対回転することにより作動して、前記巻取ドラムの前記引出方向への回転を阻止するパウルと、
前記巻取ドラムと前記クラッチとの間に介在する、一端部が前記巻取ドラムに取り付けられると共に他端部が前記クラッチに取り付けられて、前記クラッチに対して前記巻取ドラムを前記巻取方向に回転する方向に付勢し、前記クラッチに対して前記巻取ドラムが前記引出方向に相対回転することで圧縮されるコイルスプリングと、を備え、
前記クラッチは、前記コイルスプリングおよび前記巻取ドラムの端面を覆う円盤部を有し、
前記円盤部には、当該円盤部の前記巻取ドラムとは反対側への露出用の開口として、前記コイルスプリングの中心軸上では前記コイルスプリングを露出せずに前記支持軸と直交する平面上で前記コイルスプリングの中心軸に対して径方向両側にある空間の一方または他方を露出する少なくとも1つの第1開口と、前記コイルスプリングの一端部または他端部を露出する少なくとも1つの第2開口が設けられていることを特徴とするシートベルト用リトラクタ。
【請求項2】
前記コイルスプリングの中心軸方向での前記第2開口の大きさは、前記コイルスプリングの外径以下であることを特徴とする請求項1に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項3】
前記巻取ドラムまたは前記クラッチの少なくとも一方には、前記コイルスプリングの一端部または他端部内に挿入されて前記コイルスプリングを支持するボスが設けられ、前記コイルスプリングの中心軸方向での、前記ボスの先端から前記ボスの突出方向に向かう前記第2開口の大きさは、前記コイルスプリングの外径以下であることを特徴とする請求項1に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項4】
前記コイルスプリングの中心軸上で前記円盤部が前記コイルスプリングと重なり合う長さは、前記コイルスプリングの長さの1/3以上であることを特徴とする請求項1に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項5】
前記少なくとも1つの第1開口は、前記コイルスプリングの中心軸に対して径方向両側に位置する2つの第1開口を有することを特徴とする請求項1または2に記載のシートベルト用リトラクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載され、シートベルトとしてのウエビングの引き出しおよび巻き取りを行うシートベルト用リトラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両衝突時などの緊急時にウエビングの引き出しを阻止するシートベルト用リトラクタが知られている。シートベルト用リトラクタでは、ウエビングを巻き取る巻取ドラムがハウジングの一対の側壁の間に回転可能に収容される。
【0003】
例えば、特許文献1には、
図14に示す巻取ドラム(特許文献1では「スプール」と称呼)110およびクラッチ(特許文献1では「Vギヤ」と称呼)120を有するシートベルト用リトラクタ100が開示されている。なお、
図14では、ハウジングなどが省略されている。
【0004】
巻取ドラム110の端面からは支持軸111が突出しており、クラッチ120はこの支持軸111に軸支されている。巻取ドラム110とクラッチ120との間にはコイルスプリング130が介在している。巻取ドラム110には、コイルスプリング130の一端部内に挿入されるボス112が設けられ、クラッチ120には、コイルスプリング130の他端部内に挿入されるボス121が設けられている。コイルスプリング130は、湾曲した状態でボス112,121の間に掛け渡されている。
【0005】
コイルスプリング130は、巻取ドラム110をクラッチ120に対して巻取方向Aに回転する方向に付勢するとともに、クラッチ120を巻取ドラム110に対して引出方向Bに回転する方向に付勢する。このコイルスプリング130の付勢力によって、通常時はクラッチ120が巻取ドラム110と一体回転する。
【0006】
一方、クラッチ120は、車両の緊急時に図略のロック機構によって引出方向Bへの回転が阻止される。これにより、巻取ドラム110がクラッチ120と相対回転しながら引出方向Bへ回転するとともにコイルスプリング130を圧縮する。巻取ドラム110には図略のパウル(特許文献1では「ロックプレート」と称呼)が移動可能に保持されている。クラッチ120に対する巻取ドラム110の相対回転によってパウルが作動してハウジング(特許文献1では「フレーム」と称呼)に形成された内歯に係合することで、巻取ドラム110の引出方向Bへの回転が阻止される。
【0007】
クラッチ120は、コイルスプリング130および巻取ドラム110の端面を覆っている。クラッチ120には、クラッチ120の巻取ドラム110とは反対側への露出用の開口として、コイルスプリング130の中央から一端部までの約半分を露出する第1開口122と、コイルスプリング130の他端部を露出する第2開口123が設けられている。クラッチ120は、コイルスプリング130の長さの約1/4でコイルスプリング130と重なり合っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図14に示すシートベルト用リトラクタ100のように、クラッチ120に第1開口122および第2開口123が設けられていれば、第1開口122および第2開口123を通じてコイルスプリング130が正しく組付けられているかを確認することができる。
【0010】
しかし、第1開口122はコイルスプリング130の約半分をクラッチ120の巻取ドラム110とは反対側に露出する大きな開口であるために、クラッチ120と巻取ドラム110との相対回転によりコイルスプリング130が圧縮または伸長する際に、コイルスプリング130が第1開口122の縁に引っかかって付勢力が変化したり、第1開口122を通じて脱落したりするおそれがある。
【0011】
そこで、本発明は、クラッチがコイルスプリングを覆う面積を大きく確保しつつコイルスプリングが正しく組付けられているかを確認することができるシートベルト用リトラクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明のシートベルト用リトラクタは、互いに対向する一対の側壁を有するハウジングと、ウエビングを巻き取る、前記一対の側壁の間に前記ウエビングの巻取方向と引出方向に回転可能に収容された巻取ドラムと、前記巻取ドラムの端面から突出する支持軸に軸支され、通常時は前記巻取ドラムと一体回転し、車両の緊急時には前記引出方向への回転が阻止されることで前記引出方向へ回転する前記巻取ドラムと相対回転するクラッチと、前記クラッチに対して前記巻取ドラムが前記引出方向に相対回転することにより作動して、前記巻取ドラムの前記引出方向への回転を阻止するパウルと、前記巻取ドラムと前記クラッチとの間に介在する、一端部が前記巻取ドラムに取り付けられると共に他端部が前記クラッチに取り付けられて、前記クラッチに対して前記巻取ドラムを前記巻取方向に回転する方向に付勢し、前記クラッチに対して前記巻取ドラムが前記引出方向に相対回転することで圧縮されるコイルスプリングと、を備え、前記クラッチは、前記コイルスプリングおよび前記巻取ドラムの端面を覆う円盤部を有し、前記円盤部には、当該円盤部の前記巻取ドラムとは反対側への露出用の開口として、前記コイルスプリングの中心軸上では前記コイルスプリングを露出せずに前記支持軸と直交する平面上で前記コイルスプリングの中心軸に対して径方向両側にある空間の一方または他方を露出する少なくとも1つの第1開口と、前記コイルスプリングの一端部または他端部を露出する少なくとも1つの第2開口が設けられていることを特徴とする。
【0013】
上記の構成によれば、クラッチの円盤部に設けられた第1開口はコイルスプリングの中心軸上ではコイルスプリングを円盤部の巻取ドラムとは反対側に露出しない。これにより、クラッチがコイルスプリングを覆う面積を大きく確保しても、コイルスプリングが誤って組付けられた場合には、第1開口を通じてコイルスプリングが視認されるようになるか、第1開口を通じて視認されるコイルスプリングの範囲が変化する。さらに、クラッチの円盤部にはコイルスプリングの一端部および/または他端部を円盤部の巻取ドラムとは反対側に露出する第2開口が設けられているので、第2開口を通じてコイルスプリングの有無を確認することができる。従って、クラッチがコイルスプリングを覆う面積を大きく確保しつつ、コイルスプリングが正しく組付けられているかを確認することができる。
【0014】
前記コイルスプリングの中心軸方向での前記第2開口の大きさは、前記コイルスプリングの外径以下であってもよい。前記巻取ドラムまたは前記クラッチの少なくとも一方には、前記コイルスプリングの一端部または他端部内に挿入されて前記コイルスプリングを支持するボスが設けられ、前記コイルスプリングの中心軸方向での、前記ボスの先端から前記ボスの突出方向に向かう前記第2開口の大きさは、前記コイルスプリングの外径以下であってもよい。前記コイルスプリングの中心軸上で前記円盤部が前記コイルスプリングと重なり合う長さは、前記コイルスプリングの長さの1/3以上であってもよい。これらの構成によれば、円盤部に設けられた第2開口は、限られた範囲内でコイルスプリングの一端部および/または他端部を、円盤部の巻取ドラムとは反対側に露出するので、クラッチがコイルスプリングを覆う面積を大きく確保することができる。
【0015】
前記少なくとも1つの第1開口は、前記コイルスプリングの中心軸に対して径方向両側に位置する2つの第1開口を有してもよい。第1開口が1つである場合には、コイルスプリングが第1開口から離れる方向にずれた状態で組付けられることが可能なときに、その誤った組付けを確認することができない。これに対し、2つの第1開口がコイルスプリングの中心軸に対して径方向両側に位置すれば、コイルスプリングの誤った組付けがどのような状態であっても、それを確認することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、クラッチがコイルスプリングを覆う面積を大きく確保しつつコイルスプリングが正しく組付けられているかを確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るシートベルト用リトラクタの斜視図である。
【
図2】
図1に示すシートベルト用リトラクタの分解斜視図である。
【
図6】
図1に示すシートベルト用リトラクタの、メカニズムカバーを取り外した状態を左から見た図である(車両センサは断面で示す)。
【
図7】(a)および(b)は巻取ドラムを左から見た図であり、(a)はパウルが非係合位置にある状態を示し、(b)はパウルが係合位置にある状態を示す。
【
図8】(a)および(b)は巻取ドラムユニットを左から見た図であり、(a)はクラッチが巻取ドラムと一体回転する状態を示し、(b)は巻取ドラムがクラッチに対して引出方向に相対回転した状態を示す。
【
図9】(a)および(b)はコイルスプリングが誤って組付けられたときの巻取ドラムユニットを左から見た図である。
【
図10】第1変形例における巻取ドラムユニットを左から見た図である。
【
図11】第2変形例における巻取ドラムユニットを左から見た図である。
【
図12】第3変形例における巻取ドラムユニットを左から見た図である。
【
図13】第4変形例における巻取ドラムユニットを左から見た図である。
【
図14】従来のシートベルト用リトラクタにおける巻取ドラムおよびクラッチの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1および
図2に、本発明の一実施形態に係るシートベルト用リトラクタ1を示す。このシートベルト用リトラクタ1は、車両に搭載され、シートベルトとしてのウエビング10の引き出しおよび巻き取りを行うとともに、車両衝突時などの緊急時にウエビング10の引き出しを阻止するものである。
【0019】
具体的に、シートベルト用リトラクタ1は、ハウジングユニット1A、巻取ドラムユニット1B、メカニズムカバーユニット1Cおよび巻取バネユニット1Dを有する。以下、説明の便宜上、巻取ドラムユニット1Bの軸(回転軸)方向を左右方向(特に、メカニズムカバーユニット1C側を左方、巻取バネユニット1D側を右方)というとともに、左右方向と直交する
図1の左下方向を前方、その反対側を後方という。また、左右方向および前後方向と直交する
図1の上側を上方、下側を下方という。
【0020】
ハウジングユニット1Aは、板金製のハウジング2と、ハウジング2に取り付けられた樹脂製のプロテクタ26を有する。プロテクタ26は矩形筒状であり、このプロテクタ26の内側にウエビング10が挿通される。
【0021】
ハウジング2は、断面コ字状に形成されており、左右方向で互いに対向する一対の側壁21,22と、側壁21,22の後辺の下部同士を連結する下側背板23と、側壁21,22の後辺の上部同士を連結する上側背板24を有する。上述したプロテクタ26は上側背板24に取り付けられる。
【0022】
側壁21,22の前辺の上部同士は連結バー25で連結されている。側壁21,22には、巻取ドラムユニット1Bが挿通される開口21a,22aがそれぞれ設けられている。
【0023】
巻取ドラムユニット1Bは、ウエビング10を巻き取る巻取ドラム4と、巻取ドラム4の左側端面に取り付けられた略円盤状のクラッチ5を有する。巻取ドラム4は、ハウジング2の側壁21,22の間にウエビング10の巻取方向Aと引出方向Bに回転可能に収容されている(巻取方向Aおよび引出方向Bについては、
図6参照)。
【0024】
巻取ドラム4は、アルミニウム合金などのダイキャストにより製造されたものであり、略円柱状のドラム本体41と、ドラム本体41よりも大径の略円盤状の左側端部42および右側端部43を有する。左側端部42はハウジング2の左側側壁21の開口21a内に嵌まり込む部分であり、右側端部43はハウジング2の右側側壁22の開口22a内に嵌まり込む部分である。クラッチ5は、開口21aよりも大きく、左側側壁21の外側に位置する。
【0025】
ハウジング2の左側側壁21の開口21aの周縁には、内歯21bが形成されている。この開口21a内に嵌まり込む巻取ドラム4の左側端部42には、
図7(a)に示すようにパウル7が保持されている。左側端部42には、当該左側端部42の周面に開口する凹部42aが設けられており、この凹部42a内にパウル7が挿入されている。
【0026】
パウル7には、複数(図例では3つ)の係合爪72が形成されている。パウル7は、
図7(b)に示す係合爪72が内歯21bと噛み合う係合位置と、
図7(a)に示す係合爪72が内歯21bから径方向内側に離間する非係合位置との間で移動する。
【0027】
パウル7は、左方へ突出する操作軸71を有している。パウル7は、操作軸71がクラッチ5で操作されることにより、非係合位置と係合位置との間で移動する。
【0028】
図3および
図4に示すように、巻取ドラム4の左側端面(左側端部42の外側面)からは巻取ドラム4の軸(回転軸)に沿って支持軸44が突出しており、巻取ドラム4の右側端面(右側端部43の外側面)からは巻取ドラム4の軸に沿って支持軸45が突出している。
【0029】
図2に戻って、巻取バネユニット1Dは、ハウジング2の右側側壁22に取り付けられる。巻取バネユニット1Dは、巻取ドラム4の支持軸45を回転可能に支持するとともに、支持軸45に巻取ドラム3を巻取方向Aに回転する付勢力を付与する。なお、巻取バネユニット1Dの構成は公知であるため、詳細な説明は省略する。
【0030】
メカニズムカバーユニット1Cは、ハウジング2の左側側壁21に取り付けられる。メカニズムカバーユニット1Cは、巻取ドラム4の支持軸44を後述するキャップ35を介して回転可能に支持する。
【0031】
メカニズムカバーユニット1Cは、クラッチ5およびハウジング2の左側側壁21を覆うメカニズムカバー31と、このメカニズムカバー31に取り付けられた車両センサ32を有する。左側側壁21には、開口21aの下方に、車両センサ32用の開口21cも設けられている。車両センサ32は、車両の加速度が大きく変化したこと(第1緊急時(例えば、車両衝突時))を検知するためのものである。
【0032】
メカニズムカバー31には、クラッチ5よりも小径の内周面を規定する内歯31aが形成されている。この内歯31aは、
図6に示すように、クラッチ5に取り付けられたロッキングアーム33と係合するためのものである。ロッキングアーム33は、後述するコイルスプリング34と共に、ウエビング10が急激に引き出されたこと(第2緊急時)を検知するためのウエビングセンサを構成する。
【0033】
クラッチ5は、上述した支持軸44に軸支されている。クラッチ5は、樹脂製であり、支持軸44に貫通されるとともに巻取ドラム4の左側端面(左側端部42の外側面)を覆う円盤部51と、円盤部51の周縁に沿う周壁52を有する。
図8(a)に示すように、円盤部51は、巻取ドラム4の左側端部42よりも大径である。
【0034】
本実施形態では、
図3および
図4に示すように、円盤部51がフラットな板状であり、円盤部51の裏面から周壁52の右側(巻取ドラム4側)の端面までの距離よりも、円盤部51の表面から周壁52の左側の端面までの距離が長い。ただし、クラッチ5の形状は適宜変更可能である。
【0035】
円盤部51の中心には筒状部53が設けられており、この筒状部53内に支持軸44が嵌合する。支持軸44の先端は筒状部53よりも左方に突出しており、この先端に、筒状部53の内径よりも大きな直径のキャップ35が取り付けられる。また、円盤部51には、
図6に示すように、上述したパウル7の操作軸71を操作するためのガイド穴61が設けられている。
【0036】
図3および
図4に示すように、巻取ドラム4とクラッチ5との間には、コイルスプリング8が介在する。本実施形態では、巻取ドラム4の左側端部42に、当該左側端部42の外側面(巻取ドラム4の左側端面)に開口する凹部42bが設けられており、この凹部42b内にコイルスプリング8が配置される。クラッチ5の円盤部51は、凹部42bと共にコイルスプリング8の収容室を形成するものであり、コイルスプリング8を覆う。
【0037】
凹部42bは、コイルスプリング8の外径と同程度の幅の嵌合部42c(
図8(a)参照)を有し、この嵌合部42cにコイルスプリング8の一端部が挿入されてコイルスプリング8の端が嵌合部42cの一面に当接することで、コイルスプリング8の一端部が巻取ドラム4に取り付けられる。
【0038】
一方、
図4に示すように、クラッチ5の円盤部51の裏面には、コイルスプリング8の他端部を支持するための支持部58が設けられている。この支持部58にコイルスプリング8の他端部が支持されることで、コイルスプリング8の他端部がクラッチ5に取り付けられる。
【0039】
本実施形態では、
図5に示すように、支持部58が箱状をなし、この支持部58内にコイルスプリング8の他端部が挿入される。より詳しくは、支持部58は、コイルスプリング8の端と当接する主板58aと、円盤部51に沿う方向でコイルスプリング8の他端部を挟み込む一対の側板58b,58cと、コイルスプリング8の他端部の右側(巻取ドラム4側)に位置する底板58dを有する。
【0040】
ただし、支持部58は、必ずしも箱状である必要はなく、
図14に示す従来のシートベルト用リトラクタ100と同様に、コイルスプリング8の他端部内に挿入されてコイルスプリング8の他端部を支持するボス121であってもよい。
【0041】
図8(a)に示すように、コイルスプリング8は、湾曲した状態で嵌合部42cと支持部58との間に掛け渡される。コイルスプリング8は、巻取ドラム4をクラッチ5に対して巻取方向Aに回転する方向に付勢するとともに、クラッチ5を巻取ドラム4に対して引出方向Bに回転する方向に付勢する。このコイルスプリング8の付勢力によって、通常時はクラッチ5が巻取ドラム4と一体回転する。
【0042】
クラッチ5の周壁52の外周面には、車両センサ32と係合するための外歯52aが形成されている。車両の加速度が大きく変化すると、車両センサ32が
図6中に二点鎖線で示すように作動して外歯52aと係合する。これにより、クラッチ5の引出方向Bへの回転が阻止される。
【0043】
上述したロッキングアーム33は、略弓状の形状を有している。円盤部51の表面には、ロッキングアーム33の略中央を揺動可能に支持するための揺動軸54が設けられている。また、円盤部51の表面には、ロッキングアーム33の一端部と対向するバネ受け55が設けられており、このバネ受け55とロッキングアーム33の一端部との間にコイルスプリング34が配置されている。さらに、円盤部51の表面には、ロッキングアーム33の他端部を挟み込むようにストッパー56,57が設けられている。
【0044】
ウエビング10が急激に引き出されると、慣性力によってクラッチ5に対するロッキングアーム33の回転遅れが生じることによりロッキングアーム33が揺動し、
図6中に二点鎖線で示すようにロッキングアーム33の他端部がストッパー56から離れて、メカニズムカバー31の内歯31aと係合するとともにストッパー57と当接する。これにより、クラッチ5の引出方向Bへの回転が阻止される。
【0045】
車両センサ32と外歯52aとの係合またはロッキングアーム33と内歯31aとの係合によってクラッチ5の引出方向Bへの回転が阻止されると(すなわち、第1緊急時または第2緊急時)、
図8(b)に示すように、巻取ドラム4がクラッチ5と相対回転しながら引出方向Bへ回転するとともにコイルスプリング8を圧縮する。本実施形態では、このときコイルスプリング8が直線状になる。
【0046】
クラッチ5に対して巻取ドラム4が引出方向Bに相対回転すると、パウル7の操作軸71がガイド穴61で操作されることによりパウル7が作動し、パウル7が
図7(a)に示す非係合位置から
図7(b)に示す係合位置に移動する。これにより、巻取ドラム4の引出方向Bへの回転が阻止される。
【0047】
図8(a)に示すように、クラッチ5の円盤部51には、当該円盤部51の巻取ドラム4とは反対側への露出用の開口として、2つの第1開口62,63と1つの第2開口64が設けられている。第1開口62,63と第2開口64は、円盤部51の巻取ドラム4側を、円盤部51の巻取ドラム4とは反対側から視認可能に露出する。第1開口62,63は、コイルスプリング8の中心軸80に対して径方向両側に位置しており、第2開口64はコイルスプリング8の他端部に対応する位置に位置している。
【0048】
第1開口62は、支持軸44と直交する平面上でコイルスプリング8の中心軸に対して径方向両側にある空間(本実施形態では、どちらの空間も凹部42b内の空間の一部)の一方を円盤部51の巻取ドラム4とは反対側に露出するものであり、第1開口63は、支持軸44と直交する平面上でコイルスプリング8の中心軸80に対して径方向両側にある空間の他方を円盤部51の巻取ドラム4とは反対側に露出するものである。第1開口62,63の双方共に、コイルスプリング8の中心軸80上ではコイルスプリング8を円盤部51の巻取ドラム4とは反対側に露出しない。
【0049】
このため、クラッチ5と巻取ドラム4との相対回転によりコイルスプリング8が圧縮または伸長する際に、コイルスプリング8が左側(円盤部51側)に移動しても、円盤部51に接触するので、第1開口62,63の縁に引っかかるのを防止することができる。
【0050】
本実施形態では、第1開口62,63の双方が、コイルスプリング8の中心軸80に平行な長方形状である。また、本実施形態では、第1開口62,63の間の距離が、コイルスプリング8の外径とほぼ等しい。このため、巻取ドラム4の軸方向から見たときには、第1開口62,63を通じてコイルスプリング8が視認されない。
【0051】
第2開口64は、コイルスプリング8の他端部を円盤部51の巻取ドラム4とは反対側に露出するものである。本実施形態では、コイルスプリング8の中心軸80方向での第2開口64の大きさが、コイルスプリング8の外径以下である。このため、コイルスプリング8が第2開口64を通じて脱落することを防止できる。
【0052】
上述したように、コイルスプリング8の他端部を支持する支持部58が、
図14に示す従来のシートベルト用リトラクタ100と同様に、コイルスプリング8の他端部内に挿入されるボス121である場合には、コイルスプリング8の中心軸80方向での、ボス121の先端からボス121の突出方向に向かう第2開口64の大きさはコイルスプリング8の外径以下であってもよい。この場合でも、コイルスプリング8が第2開口64を通じて脱落することを防止できる。コイルスプリング8の他端部内にボス121が挿入される場合には、第2開口64は、ボス121の存する領域では、コイルスプリング8の他端部を円盤部51の巻取ドラム4とは反対側に露出しても露出しなくてもよい。すなわち、コイルスプリング8の中心軸80方向での第2開口64の全体の大きさは、コイルスプリング8の外径と等しくてもよいし、それよりも大きくてもよい。
【0053】
いずれにしても、コイルスプリング8の中心軸80上で円盤部51がコイルスプリング8と重なり合う長さは、コイルスプリング8の長さの1/3以上であることが望ましい。
【0054】
以上説明したように、本実施形態のシートベルト用リトラクタ1では、クラッチ5の円盤部51に設けられた第1開口62,63はコイルスプリング8の中心軸80上ではコイルスプリング8を円盤部51の巻取ドラム4とは反対側に露出せず、円盤部51に設けられた第2開口64は限られた範囲内でコイルスプリング8の他端部を円盤部51の巻取ドラム4とは反対側に露出するので、クラッチ5がコイルスプリング8を覆う面積を大きく確保することができる。
【0055】
しかも、
図9(a)および(b)に示すようにコイルスプリング8が誤って組付けられた場合には、第1開口62または第1開口63を通じてコイルスプリング8が視認されるようになる。さらに、第2開口64を通じてコイルスプリング8の有無を確認することができる。従って、コイルスプリング8が正しく組付けられているかを確認することができる。
【0056】
(変形例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0057】
例えば、
図10に示す第1変形例のように、第1開口62,63の間の距離が、コイルスプリング8の外径よりも小さくてもよい。換言すれば、第1開口62,63を通じてコイルスプリング8の一部が視認されてもよい。この場合、コイルスプリング8が誤って組付けられたときは、第1開口62,63を通じて視認されるコイルスプリング8の範囲が変化する。
【0058】
また、
図11に示す第2変形例のように、コイルスプリング8の軸方向における第1開口62の位置と第1開口63の位置がずれていてもよいし、第1開口62,63の大きさが互いに異なってもよい。また、
図12に示す第3変形例のように、第1開口62,63の一方が第2開口64と連続してもよい。さらに、
図13に示す第4変形例のように、第1開口62,63の双方がコイルスプリング8の中心軸80に対して径方向片側に位置してもよい。
【0059】
あるいは、図示は省略するが、クラッチ5の円盤部51には第1開口62,63のどちらか一方だけが設けられてもよい。ただし、第1開口62,63の双方がコイルスプリング8の中心軸80に対して径方向片側に位置する場合や、第1開口が1つである場合には、コイルスプリング8が第1開口から離れる方向にずれた状態で組付けられることが可能なときに、その誤った組付けを確認することができない。これに対し、前記実施形態または第1~第3変形例のように2つの第1開口62,63がコイルスプリング8の中心軸80に対して径方向両側に位置すれば、コイルスプリング8の誤った組付けがどのような状態であっても、それを確認することができる。
【0060】
また、図示は省略するが、第2開口64が、コイルスプリング8の巻取ドラム4に取り付けられる一端部を円盤部51の巻取ドラム4とは反対側に露出するように、クラッチ5の円盤部51に設けられてもよい。この場合でも、コイルスプリング8の中心軸80方向での第2開口64の大きさは、コイルスプリング8の外径以下である。このため、コイルスプリング8が第2開口64を通じて脱落することを防止できる。この場合、上述した実施形態では、巻取ドラム4の軸方向から見たときに、ロッキングアーム33がコイルスプリング8の一端部と重なるが、ロッキングアーム33が取り付けられる前の状態において、第2開口64を通じてコイルスプリング8の有無を確認することができる。
【0061】
あるいは、クラッチ5の円盤部51には、コイルスプリング8の一端部を露出する第2開口64と、コイルスプリング8の他端部を露出する第2開口64の双方が設けられてもよい。コイルスプリング8の一端部を露出する第2開口64と、コイルスプリング8の他端部を露出する第2開口64の双方が設けられる場合でも、コイルスプリング8の中心軸80上で円盤部51がコイルスプリング8と重なり合う長さは、コイルスプリング8の長さの1/3以上であることが望ましい。
【0062】
第2開口64がコイルスプリング8の一端部を露出する場合、巻取ドラム4には、嵌合部42cの代わりに、
図14に示す従来のシートベルト用リトラクタ100と同様に、コイルスプリング8の一端部内に挿入されてコイルスプリング8の一端部を支持するボス112が設けられてもよい。この場合、コイルスプリング8の中心軸80方向での、ボス112の先端からボス112の突出方向に向かう第2開口64の大きさはコイルスプリング8の外径以下であってもよい。この場合でも、コイルスプリング8が第2開口64を通じて脱落することを防止できる。
【0063】
コイルスプリング8の一端部内にボス112が挿入される場合には、第2開口64は、ボス112の存する領域では、コイルスプリング8の一端部を円盤部51の巻取ドラム4とは反対側に露出しても露出しなくてもよい。すなわち、コイルスプリング8の中心軸80方向での第2開口64の全体の大きさは、コイルスプリング8の外径と等しくてもよいし、それよりも大きくてもよい。
【0064】
第2開口64がコイルスプリング8の一端部を露出する場合、嵌合部42cが採用されるかボス112が採用されるかに拘らず、また、クラッチ5の円盤部51にコイルスプリング8の他端部を露出する第2開口64が設けられるか否かに拘らず、コイルスプリング8の中心軸80上で円盤部51がコイルスプリング8と重なり合う長さは、コイルスプリング8の長さの1/3以上であることが望ましい。
【0065】
巻取ドラム4は、必ずしも一体物である必要はない。例えば、巻取ドラム4は、ドラム本体41および右側端部43に相当する、軸方向の一方に開口する中心穴が設けられた鋳造品と、前記中心穴の底で一端部が鋳造品に結合されたトーションバーと、左側端部42に相当する、トーションバーの他端部が結合された部品とを有して構成されてもよい。この場合、緊急時にパウル7が係合位置に移動すると、左側端部42に相当する部品の巻取ドラム4の引出方向Bへの回転が阻止され、乗員からウエビング10に作用するウエビング10の引出力が所定値を超えると、トーションバーが捩れてドラム本体41と右側端部43に相当する鋳造品が巻取ドラム4の引出方向Bへ回転することにより、ウエビング10が所定の引出力で引き出されて乗員の衝撃エネルギーが吸収される。また、巻取ドラム4が上記のように構成される場合、トーションバーの一部が支持軸44を構成してもよいし、支持軸45がドラム本体41及び右側端部43に相当する鋳造品と一体ではなく別の部品で構成されてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 シートベルト用リトラクタ
10 ウエビング
2 ハウジング
21,22 側壁
4 巻取ドラム
44,45 支持軸
5 クラッチ
51 円盤部
52 周壁
62,63 第1開口
64 第2開口
7 パウル
8 コイルスプリング
80 中心軸
112,121 ボス