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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】エンジン装置及び船舶推進システム
(51)【国際特許分類】
   F02B 37/04 20060101AFI20241030BHJP
   B63H 3/00 20060101ALI20241030BHJP
   B63H 21/21 20060101ALI20241030BHJP
   F02D 19/06 20060101ALI20241030BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
F02B37/04 A
B63H3/00 Z
B63H21/21
F02D19/06 B
F02D29/02 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021073453
(22)【出願日】2021-04-23
(65)【公開番号】P2022167579
(43)【公開日】2022-11-04
【審査請求日】2023-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】503116899
【氏名又は名称】株式会社IHI原動機
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】小沢 啓二
(72)【発明者】
【氏名】結城 和広
(72)【発明者】
【氏名】倉井 智広
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 滉
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-179332(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2017/0074183(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 37/00
F02D 19/00
F02D 23/00
F02D 29/02
B63H 3/00
B63H 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体燃料を主な燃料とするエンジン装置であって、
燃焼室内へ空気を供給させる給気路と、
前記燃焼室からの排気を排出させる排気路と、
前記排気路から排出される排気により空気を圧縮して前記給気路に供給する過給機と、 前記過給機の下流側で前記給気路に接続された分岐路と、
前記分岐路に設けられていて圧縮空気を前記給気路に供給する空気圧縮機と、
前記分岐路における前記空気圧縮機の下流側に設けられた逆止弁と、
前記分岐路において前記空気圧縮機及び前記逆止弁の間に一端が接続された逃し流路と、
前記逃し流路に設けられていて開閉作動する逃し弁と、
を備えたことを特徴とするエンジン装置。
【請求項2】
前記逃し弁を給気圧力の検出値に基づいて開閉させる請求項に記載されたエンジン装置。
【請求項3】
エンジン装置を備えた船舶推進システムであって、
前記エンジン装置により直接的に駆動される固定ピッチプロペラと、
前記エンジン装置の制御を行う船内機器制御装置と、を備え、
前記エンジン装置は、
気体燃料を主な燃料とし、
燃焼室内へ空気を供給させる給気路と、
前記燃焼室からの排気を排出させる排気路と、
前記排気路から排出される排気により空気を圧縮して前記給気路に供給する過給機と、 前記過給機の下流側で前記給気路に接続された分岐路と、
前記分岐路に設けられていて圧縮空気を前記給気路に供給する空気圧縮機と、
前記分岐路における前記空気圧縮機の下流側に設けられた逆止弁と、
を備え、
前記船内機器制御装置は、前記空気圧縮機により過給を行った状態で前記エンジン装置の回転速度をアイドリング回転速度から連続的に上昇させる制御と、前記エンジン装置の運転中に前記空気圧縮機による過給を制限する制御と、を行うことを特徴とする船舶推進システム。
【請求項4】
エンジン装置を備えた船舶推進システムであって、
前記エンジン装置により直接的に駆動される可変ピッチプロペラと、
前記エンジン装置と前記可変ピッチプロペラの制御を行う船内機器制御装置と、を備え、
前記エンジン装置は、
気体燃料を主な燃料とし、
燃焼室内へ空気を供給させる給気路と、
前記燃焼室からの排気を排出させる排気路と、
前記排気路から排出される排気により空気を圧縮して前記給気路に供給する過給機と、 前記過給機の下流側で前記給気路に接続された分岐路と、
前記分岐路に設けられていて圧縮空気を前記給気路に供給する空気圧縮機と、
前記分岐路における前記空気圧縮機の下流側に設けられた逆止弁と、
を備え、
前記船内機器制御装置は前記空気圧縮機により過給を行った状態で前記エンジン装置の回転速度をアイドリング回転速度から連続的に上昇させると共に前記可変ピッチプロペラの翼角を低翼角から高翼角に変化させる制御と、前記エンジン装置の運転中に前記空気圧縮機による過給を制限する制御と、を行うことを特徴とする船舶推進システム。
【請求項5】
エンジン装置を備えた船舶推進システムであって、
前記エンジン装置により直接的に駆動されるシュナイダープロペラと、
前記エンジン装置と前記シュナイダープロペラの制御を行う船内機器制御装置と、を備え、
前記エンジン装置は、
気体燃料を主な燃料とし、
燃焼室内へ空気を供給させる給気路と、
前記燃焼室からの排気を排出させる排気路と、
前記排気路から排出される排気により空気を圧縮して前記給気路に供給する過給機と、 前記過給機の下流側で前記給気路に接続された分岐路と、
前記分岐路に設けられていて圧縮空気を前記給気路に供給する空気圧縮機と、
前記分岐路における前記空気圧縮機の下流側に設けられた逆止弁と、
を備え、
前記船内機器制御装置は前記空気圧縮機により過給を行った状態で前記エンジン装置の回転速度が一定のまま前記シュナイダープロペラの翼角を低翼角から高翼角に変化させる制御と、前記エンジン装置の運転中に前記空気圧縮機による過給を制限する制御と、を行うことを特徴とする船舶推進システム。
【請求項6】
エンジン装置を備えた船舶推進システムであって、
前記エンジン装置を主機関として駆動するプロペラと、補機関に設けた発電機と、を備え、
前記エンジン装置は、
気体燃料を主な燃料とし、
燃焼室内へ空気を供給させる給気路と、
前記燃焼室からの排気を排出させる排気路と、
前記排気路から排出される排気により空気を圧縮して前記給気路に供給する過給機と、 前記過給機の下流側で前記給気路に接続された分岐路と、
前記分岐路に設けられていて圧縮空気を前記給気路に供給する空気圧縮機と、
前記分岐路における前記空気圧縮機の下流側に設けられた逆止弁と、
を備え、
前記空気圧縮機は、電動式空気圧縮機であり、
前記発電機によって発電された電力により前記電動式空気圧縮機を駆動することを特徴とする船舶推進システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気エネルギを動力源とする排気タービンによってコンプレッサを駆動し、空気を圧縮する過給機を備えていて、気体燃料を燃料とするガスエンジン、または気体燃料及び液体燃料の双方を燃料とするデュアルフューエルエンジンを含むエンジン装置、及びこのエンジン装置を備えた船舶推進システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関として、例えば特許文献1に記載されたバイフューエルエンジンは、エンジンまたは駆動モータの出力軸により駆動するスーパーチャージャを給気通路に設けている。気体・液体の燃料種によって、スーパーチャージャによる過給の有無を切替えることで、制御の簡易化を図りながらバイフューエルエンジンの出力を増加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-238194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
気体燃料を主な燃料とするエンジン装置は、燃料過剰となった場合にノッキングが発生し部品が損傷する可能性があるため、燃料と空気の混合比を適切に制御する必要がある。気体燃料は電磁弁により供給されており、瞬間的(数十μs程度)に供給量の増加が可能である。一方、空気は排気エネルギによって駆動される過給機より供給される。供給量が増加するまでに、排気エネルギの増加、過給機回転速度の上昇、空気供給量の増加という三段階の工程が必要であるため、供給量増加までに時間(数十秒程度)を要する。両者の差により、急速に機関回転速度あるいは出力を上昇させる過渡運転では、燃料過剰によるノッキングが発生することがある。そのため、液体燃料を主な燃料とするエンジン装置に比べてノッキングを回避するために緩慢な動作にならざるを得ず、過渡特性が劣る。一方で、天然ガスなどの気体燃料はA重油などの液体燃料に比べ、燃料組成の違いからCOやSOxの排出量削減が期待される。また、気体燃料を主な燃料とするエンジン装置では希薄燃焼を行うことにより、NOxの排出量削減も期待される。
【0005】
船舶用機関においても排気に含まれる有害物質に対する規制が年々厳しくなっており、規制を満足するための手段として気体燃料での運転が可能なデュアルフューエルエンジンの導入が注目されている。しかし、上述の理由から、従来舶用機関に採用されているディーゼルエンジンに比べ過渡特性が劣るため、同等の操作性を実現するためには過渡特性の改善(回転速度あるいは出力上昇時間の短縮)が必要となる。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、気体燃料運転時においてエンジン装置の回転速度または出力上昇時の空気量不足を解消することでノッキングを抑制し、過渡特性を改善したエンジン装置及び船舶推進システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるエンジン装置は、気体燃料を主な燃料とするエンジン装置であって、燃焼室内へ空気を供給させる給気路と、燃焼室からの排気を排出させる排気路と、排気路から排出される排気により空気を圧縮して給気路に供給する過給機と、過給機の下流側で給気路に接続された分岐路と、分岐路に設けられていて圧縮空気を給気路に供給する空気圧縮機と、分岐路における空気圧縮機の下流側に設けられた逆止弁と、を備えたことを特徴とする。
分岐路の空気圧縮機から圧縮空気を給気路に供給することで、回転速度または出力の上昇などの際に発生する空気量不足を解消することができる。そのため、燃料過剰になることで発生するノッキングを抑制することができ、過渡特性を改善することができる。しかも、給気路の圧力が上昇して分岐路の空気圧より高くなった場合には逆止弁によって空気が分岐路に逆流することを阻止できる。
【0008】
また、給気路における過給機の下流側の給気圧力を検出する圧力センサと、圧力センサで検出した給気圧力の検出値に基づいて空気圧縮機から供給される圧縮空気を調整する制御装置と、を備えることが好ましい。
給気路の給気圧力を圧力センサで検出し、制御装置によって空気圧縮機から分岐路に供給する圧縮空気の供給時期を制御することで、過渡運転時などに発生する空気量不足を迅速に解消することができる。また、過給機から十分な空気量が供給され、空気量不足が解消した場合には、空気圧縮機からの圧縮空気の供給を停止することができる。
【0009】
分岐路において空気圧縮機と逆止弁の間に、一端が接続された逃し流路と、逃し流路に設けられていて開閉作動する逃し弁と、を備えることが好ましい。
ここでさらに好ましくは、逃し流路の他の一端を空気圧縮機の空気取入れ側に接続することで、空気圧縮機と逃し流路との間で空気が循環するように構成することができる。給気路の空気量が不足する場合には、逃し弁を閉弁することで空気圧縮機の圧縮空気を分岐路から給気路に供給して空気量を増加させることができる。給気路の空気量不足が解消した場合には、逃し弁を開弁することで圧縮空気を分岐路から逃し流路に切替えて循環させることができる。
【0010】
また、逃し弁は給気圧力の検出値に基づいて開閉させるようにしてもよい。機関仕様や機関回転速度、出力などの運転条件によって任意に給気圧力の閾値を設け、空気量の過不足を判断し、逃し弁の開閉を行うことで、空気圧縮機からの過給の有無を切替えることができる。
【0011】
本発明による船舶推進システムは、上述したいずれかに記載されたエンジン装置を備えた船舶推進システムであって、エンジン装置により直接的に駆動される固定ピッチプロペラ(Fixed Pitch Propeller 以下、FPP)と、エンジン装置と船内機器の制御を行う船内機器制御装置と、を備え、船内機器制御装置は、空気圧縮機により過給を行った状態でエンジン装置の回転速度をアイドリング回転速度から連続的に上昇させる制御と、エンジン装置の運転中に空気圧縮機による過給を制限する制御と、を行うことを特徴とする。
本発明による船舶推進システムでは、空気圧縮機を制御し過給を行うことでエンジン装置の過渡特性の改善を図ることができる。ここで、船内機器制御装置は上述したエンジン装置の制御装置と物理的に一体の装置として備えるだけでなく、別の独立した装置として構成してもよく、以降においても同様である。
【0012】
本発明による船舶推進システムは、上述したいずれかに記載されたエンジン装置を備えた船舶推進システムであって、エンジン装置により直接的に駆動される可変ピッチプロペラ(Controllable Pitch Propeller 以下、CPP)と、エンジン装置とCPPの制御を行う船内機器制御装置と、を備え、船内機器制御装置は、空気圧縮機により過給を行った状態でエンジン装置の回転速度をアイドリング回転速度から連続的に上昇させると共にCPPの翼角を低翼角から高翼角に変化させる制御と、エンジン装置の運転中に空気圧縮機による過給を制限する制御と、を行うことを特徴とする。
CPPは、回転速度と出力との関係が可変であり、FPP適用時と比較して同等の回転速度でもより低出力からの出力上昇も想定される。空気圧縮機によって過給を行い、適切な制御をすることで、低回転かつ低出力からの出力上昇という、より空気量不足が発生しやすい状態からの過渡特性も改善できる。
【0013】
本発明による船舶推進システムは、上述したいずれかに記載されたエンジン装置を備えた船舶推進システムであって、エンジン装置により直接的に駆動されるシュナイダープロペラ(Schneider Propeller 以下、SP)と、エンジン装置とSPの制御を行う船内機器制御装置と、を備え、船内機器制御装置は、空気圧縮機により過給を行った状態でエンジン装置の回転速度が一定のままSPの翼角を低翼角から高翼角に変化させる制御と、エンジン装置の運転中に空気圧縮機による過給を制限する制御と、を行うことを特徴とする。
SPは、回転速度と出力との関係が可変であり、FPP適用時と比較して同等の回転速度でより低出力からの出力上昇も想定される。空気圧縮機によって過給を行い、適切な制御をすることで、低回転かつ低出力からの出力上昇という、より空気量不足が発生しやすい状態からの過渡特性も改善できる。
【0014】
また、上述したいずれかに記載されたエンジン装置を備えた船舶推進システムであって、空気圧縮機は、電動式空気圧縮機であり、エンジン装置を主機関として駆動するプロペラと、補機関に設けた発電機と、を備え、発電機によって発電された電力により電動式空気圧縮機を駆動することを特徴とする。
本発明による船舶推進システムは、エンジン装置によってプロペラを駆動すると共に、補機関に設けた発電機によってエンジン装置に設けた電動式空気圧縮機を駆動することができ、本システムを船舶に採用することで、主機関の過渡特性改善を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、気体燃料運転時においてエンジンの装置の回転速度または出力の上昇時などに発生する空気量不足を、空気圧縮機によって圧縮空気を給気路に供給することで解消し、ノッキングを抑制して過渡特性を改善したエンジン装置及び船舶推進システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】エンジン装置の要部構成を示す模式図である。
図2】エンジン装置における空気圧縮機と配管の構成を示す模式図である。
図3】空気圧縮機による過給制御方法を示すタイムチャート図である。
図4】船舶推進システムの構成を示す模式図である。
図5】一般的な舶用三乗特性曲線とプロペラ種類毎の回転速度と出力との関係を示すグラフである。
図6】変形例1のエンジン装置の構成を示す模式図である。
図7】変形例2のエンジン装置の構成を示す模式図である。
図8】変形例3のエンジン装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態によるエンジン装置として、舶用内燃機関として用いるデュアルフューエルエンジンについて添付図面により説明する。
図1及び図2はデュアルフューエルエンジン装置1(以下、単にエンジン装置1ということがある)を示すものであり、特徴として液体燃料と気体燃料を運転中に切替えて使用可能な内燃機関である。
図1及び図2に示す舶用のデュアルフューエルエンジン装置1は、プロペラなどに連結された出力軸としてクランク軸2の機構を備えており、クランク軸2はシリンダーブロック3内に設置されたピストン4に連結されている。シリンダーブロック3内に設けたピストン4とエンジンヘッド5によって燃焼室6が形成されている。
【0018】
燃焼室6はエンジンヘッド5に装着されている吸気弁8及び排気弁9と、液体燃料運転時に液体燃料を供給する燃料噴射弁10とによって密閉されている。また、エンジンヘッド5には気体燃料運転時に使用するパイロット油噴射弁11が設置されている。エンジンヘッド5の吸気弁8を設置した吸気口には給気路13が接続され、排気弁9を設置した排気口には排気路14が接続されている。給気路13には気体燃料運転時に燃料の噴射を制御する電磁弁15が設置され、その上流側にはエアクーラ16、排気路14に連通する過給機17が設置されている。
【0019】
エンジン装置1は、液体燃料と気体燃料とに切替えて運転できるようになっている。液体燃料の運転時には、例えばA重油などの液体燃料を燃料噴射弁10から燃焼室6内の圧縮空気に噴射して着火し燃焼させる。また、気体燃料の運転時では、天然ガスなどの気体燃料を空気と予混合させるため電磁弁15で給気路13へ噴射し、混合気を燃焼室6内に供給する。そして、圧縮した混合気にパイロット油噴射弁11から少量の液体燃料を噴射して着火源とすることで混合気を燃焼させる。
【0020】
エンジン装置1は、液体燃料にて始動を行う。エンジン装置1に必要なガス圧力が供給されていることが確認された後、燃料を液体燃料から気体燃料に切替える。
気体燃料の供給に際し、図1に示す天然ガスなどの気体燃料が貯蔵されたLNGタンク20から気体燃料が気化器21に供給され、更に圧力はレギュレータ22により必要な圧力に減圧される。この際の圧力は圧力計23で検出され、レギュレータ22のバルブ開度を変更することによって調整される。気体燃料は電磁弁15から給気路13に噴射され、給気路13でエアクーラ16によって冷却された空気と混合されて燃焼室6に供給される。
停止の際には再び液体燃料による運転に切替えてから停止を行う。始動時と停止時以外は液体燃料と気体燃料を切替え可能である。
【0021】
給気路13において、過給機17と給気路13と、を接続するバイパス路26が設置され、このバイパス路26には開度を調整可能な補助電磁弁27が設置されている。給気路13に設置された圧力センサ28にて測定する給気圧力に応じて、補助電磁弁27の開度を調整し過剰な空気を一部バイパスすることで、給気圧力を運転条件に応じた適正な圧力に調整することができる。
【0022】
本実施形態では、図2に示す空気圧縮機として電動式空気圧縮機25を採用しており、電動式空気圧縮機25とはスーパーチャージャなどのコンプレッサ31と駆動モータM1を組合せた装置である。
給気路13において、エアクーラ16と電磁弁15の間には分岐路30が接続されている。この分岐路30には圧縮空気を給気路13に供給するための電動式空気圧縮機25が設置されている。電動式空気圧縮機25の下流側には、分岐路30の圧力よりも給気路13の給気圧力の方が高い場合に給気路13の空気が分岐路30に逆流することを阻止する逆止弁32が設置されている。
【0023】
図2に示す分岐路30において、電動式空気圧縮機25の空気取り入れ口と電動式空気圧縮機25の下流側であって逆止弁32の上流側と、を接続する逃し流路36が設置されている。逃し流路36にはその流路を開閉可能な逃し弁37が設置されている。逃し弁37の下流側において、逃し流路36は、電動式空気圧縮機25の空気取り入れ口に接続される。逃し弁37が開弁した状態では電動式空気圧縮機25の圧縮空気は電動式空気圧縮機25と分岐路30と逃し流路36と、を循環する構造である。
【0024】
電動式空気圧縮機25による圧縮空気の過給制御方法を図3に示すタイムチャートに基づいて説明する。ここでは、給気路13の圧力を給気圧力Pとする。電動式空気圧縮機25の駆動モータM1と圧力センサ28は制御装置33に電気的に接続されている。制御装置33は、圧力センサ28で検出する給気路13の圧力である給気圧力Pに応じて逃し弁37の開閉を制御する。また、本実施形態においては逃し弁37が頻繁に開閉を繰り返すことを防止するため、開閉の閾値には図3に示す応差(第一給気圧力値P1、第二給気圧力値P2)を設けている。なお、逃し弁37の開閉制御及び駆動モータM1の動作開始時期(制御有効モード)は制御装置33の設定によって選択可能であり、気体燃料運転(GEモード)を選択している。
【0025】
エンジン装置1を液体燃料運転(DEモード)にて始動(エンジン装置ON:RUN)した時は、電動式空気圧縮機25の駆動モータM1は停止状態(OFF)、逃し弁37は開弁(OFF)状態である(時刻t1)。エンジン装置1の燃料を液体燃料から気体燃料に切替えると、電動式空気圧縮機25の駆動モータM1が駆動状態(ON)に切替わると共に、逃し弁37の開閉制御が開始する(時刻t2)。
給気圧力Pが第一給気圧力値P1より低い場合、制御装置33は、十分な量の排気が過給機17に供給されておらず、空気量が不足すると判断する。そこで、制御装置33は逃し弁37を閉弁(ON)し電動式空気圧縮機25から給気路13に圧縮空気を供給する。給気圧力Pにより空気量の不足を判断し、電動式空気圧縮機25から圧縮空気を供給することで、空気量が不足する回転速度や出力上昇時に備えて圧縮空気を供給することができる。圧縮空気の供給により、燃料過剰になることで発生するノッキングを抑制でき、過渡特性を改善することができる。
【0026】
エンジン装置1の回転速度または出力が上昇すると、排気路14の排気量が増加し、過給機17の回転速度が上昇する。そのため、過給機17から給気路13に供給される空気量が増加し、給気路13の給気圧力Pは第二給気圧力値P2より高くなる。給気圧力Pが第二給気圧力値P2より高い場合、制御装置33は、十分な空気量が供給できていると判断する。電動式空気圧縮機25による過給は不要となるため、制御装置33は逃し弁37を開弁(OFF)する(時刻t3,t5)。
電動式空気圧縮機25から供給される圧縮空気は、分岐路30から逃し流路36に流れ込み逃し弁37を通って電動式空気圧縮機25の空気取り入れ口に戻る。電動式空気圧縮機25から供給される圧縮空気を逃し流路36と逃し弁37によって循環させることで、分岐路30から給気路13に供給される圧縮空気を制限する。これにより、駆動モータM1の駆動、停止を切替えることなく、給気路13への圧縮空気の供給と停止と、を切替えることができる。
また、逃し弁37により圧縮空気を循環させることで、電動式空気圧縮機25の出口圧力が過大になることを抑制できる。この状態で、逃し流路36内の空気圧が給気路13の給気圧力Pより低くなったとしても、逆止弁32によって逃し流路36内に過給機17からの圧縮空気が逆流することを阻止できる。
【0027】
エンジン装置1の操作により回転速度または出力が低下すると、排気路14の排気量が減少し、過給機17の回転速度が低下する。そのため、過給機17から給気路13に供給される空気量が減少し、給気路13の給気圧力Pは第一給気圧力値P1より低くなる。給気圧力Pが再び第一給気圧力値P1より低くなると、制御装置33は空気量が不足すると判断し、逃し弁37を閉弁(ON)する(時刻t4,t6)。これによって、再び電動式空気圧縮機25から給気路13に圧縮空気を供給する。
エンジン装置1の停止のために燃料を気体燃料から液体燃料に切替えた時は、電動式空気圧縮機25の駆動モータM1を停止(OFF)させ、逃し弁37を開弁(OFF)した後に逃し弁の開閉制御を終了する(時刻t7)。
【0028】
本実施形態によるエンジン装置1を例えば船舶のタグボートの主機関に適用した場合、タグボートは待機状態と曳航時の切替えなど、回転速度または出力の変化が急速である。過給制御を電動式空気圧縮機25の駆動モータM1の駆動、停止で実施すると、電動式空気圧縮機25の停止状態から起動に時間がかかり、過給開始までにタイムラグが発生する。エンジン装置1の気体燃料運転時において電動式空気圧縮機25を常時駆動状態とし、逃し弁37の開閉切替えにより圧縮空気の供給を制御することで、応答遅れを生じることがなく必要なタイミングで迅速に圧縮空気を供給できる。
【0029】
本実施形態によるエンジン装置1を2機2軸船などの船舶に適用した場合の船舶推進システムについて図4により説明する。
船舶推進システム41を備えた船舶40は、図4に示す2組の主機関42と2組の補機関43をそれぞれ備えている。主機関42は船舶40の推進用のプロペラ44を駆動する機関であり、補機関43は発電機47を駆動する機関である。主機関42はエンジン装置1と電動式空気圧縮機25と制御装置33と、を組合せた装置である。補機関43には発電機47が接続され、補機関43を駆動することで発電する。船舶推進システム41は、その電力により主機関42に設けた電動式空気圧縮機25や船内機器48を駆動する。船舶40は船内機器制御装置49を備え、船内機器制御装置49によって主機関42やプロペラ44など上述した全ての装置を制御する。
【0030】
船舶推進システム41のプロペラ44として、FPP、CPPまたはSPを適用することができる。プロペラ44は主機関42のエンジン装置1によって直接的に駆動される。上述の説明において、「直接的に駆動」とは、エンジン装置1の出力を機械的にプロペラ44に伝達して駆動することを意味し、減速機やクラッチを介する場合を含むものとする。
【0031】
本実施形態によるエンジン装置1の回転速度と出力との関係を図5より説明する。プロペラ44にFPPを用いる場合は、回転速度に応じて舶用三乗特性曲線上で出力が変化する。タグボードのような回転速度または出力の変化が急速な船舶において、エンジン装置1の性能を超える過渡運転を要求された場合、空気量不足によるノッキングが発生する。そこで、上述したように給気圧力を検知し電動式空気圧縮機25から圧縮空気を供給することで空気量不足を解消し、ノッキングを抑制して過渡特性を改善することができる。
【0032】
CPP及びSPは、プロペラ44の回転速度によらず、翼角を任意に変更可能である。そのため、プロペラ44の回転速度を変えずに出力を変更することができる。また、翼角を固定し、プロペラ44の回転速度を変えることで舶用三乗特性曲線と類似した出力上昇も可能である。さらに、プロペラ44の回転速度と翼角と、を並行して変更する出力上昇も可能である。このように、プロペラ44としてCPPまたはSPを用いた場合は、回転速度と翼角との制御方法によって様々な出力上昇が可能となる。
【0033】
プロペラ44にCPPを用いる場合は、上述したように様々な出力上昇が可能である。そのため、プロペラの翼角を変更できないFPP適用時と比較して、より低出力からの出力上昇も想定される。そのような条件下で、船内機器制御装置49によりエンジン装置1の回転速度をアイドリング回転速度から連続的に上昇させると共に翼角を低翼角から高翼角に変化させる。低出力かつ低回転から急速に出力を上昇させると、空気量不足によるノッキングが発生する。そこで、上述したように給気圧力を検知し電動式空気圧縮機25から圧縮空気を供給することで空気量不足を解消し、ノッキングを抑制して過渡特性を改善することができる。
【0034】
プロペラ44にSPを用いる場合の操船例として、回転速度600min-1の低出力時から舶用三乗特性曲線の出力相当まで出力を上昇させることができ、また同回転速度で出力を低下させることが挙げられる。これらは異なる回転速度、例えば700min-1でも行うことができ、さらに同出力を維持しながら回転速度を変化させることも可能である。
船内機器制御装置49によりエンジン装置1の回転速度を一定に維持したまま、翼角を低翼角から高翼角に変化させると、急速に出力が上昇するため、空気量不足によるノッキングが発生する。そこで、上述したように給気圧力を検知し電動式空気圧縮機25から圧縮空気を供給することで空気量不足を解消し、ノッキングを抑制して過渡特性を改善することができる。
【0035】
上述したエンジン装置1における電動式空気圧縮機25の変形例について、図6図8により説明する。
図6に示す変形例1のエンジン装置1は、実施形態から逃し流路36と逃し弁37と、を除いたものである。実施形態では過給の制御を逃し弁37の開閉にて切替えるが、変形例1では、駆動モータM1の駆動と停止にて実施する。空気量の不足などの判断条件は実施形態と同様である。実施形態より簡易な構造で過渡特性の改善が可能になる。
図7に示す変形例2のエンジン装置1Aは、実施形態の電動式空気圧縮機25に代えて、機械式空気圧縮機25Aが備えられている。変形例2の如く、空気圧縮機の駆動方式については、駆動モータM1の代わりにクランク軸の回転をベルトやギヤなどの動力伝達機構を介して伝達させる構成を用いてもよい。
図8に示す変形例3のエンジン装置1Aは、変形例1の電動式空気圧縮機25に代えて、機械式空気圧縮機25Aが備えられている。
【0036】
なお、エンジン装置1、1Aとしてデュアルフューエルエンジンの適用例を説明したが、本発明はガスエンジンにも適用できる。
また、上述した実施形態における、逃し弁37の開閉制御、または変形例1における駆動モータM1の駆動、停止の制御は給気圧力に応じて行ったが、排気の酸素濃度、過給機の回転速度、エンジン装置の回転速度や出力などを各種センサから検出し、それに応じて制御装置33により制御させることとしてもよい。例えば、始動と同時に空気圧縮機を駆動し、機関の回転速度や出力が任意の数値以上になった場合に空気圧縮機による過給を停止することとしてもよい。あるいは、センサや制御装置を用いなくてもよい。例えば、安全弁や背圧弁のように弁単体が機械的に自動で開閉する構成とすることや手動操作としてもよい。
さらに、逃し弁37の開閉制御及び駆動モータ動作開始時期は、上述したように制御装置33の設定によって変更可能である。例えば、液体燃料運転時、気体燃料運転時、あるいは液体燃料運転時及び気体燃料運転時の双方で開始としてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1、1A エンジン装置
3 シリンダーブロック
6 燃焼室
13 給気路
14 排気路
15 電磁弁
17 過給機
25 電動式空気圧縮機
25A 機械式空気圧縮機
26 バイパス路
28 圧力センサ
30 分岐路
31 コンプレッサ
32 逆止弁
33 制御装置
36 逃し流路
37 逃し弁
41 船舶推進システム
42 主機関
43 補機関
44 プロペラ
47 発電機
M1 駆動モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8