(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】発光装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/02257 20210101AFI20241030BHJP
H01S 5/02253 20210101ALI20241030BHJP
【FI】
H01S5/02257
H01S5/02253
(21)【出願番号】P 2021073476
(22)【出願日】2021-04-23
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】319006036
【氏名又は名称】シャープ福山レーザー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】東坂 浩由
(72)【発明者】
【氏名】織田 洋樹
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-277395(JP,A)
【文献】特開2013-084810(JP,A)
【文献】特開2002-033519(JP,A)
【文献】国際公開第2020/012974(WO,A1)
【文献】特開2021-057408(JP,A)
【文献】特開2014-211470(JP,A)
【文献】特開2009-176764(JP,A)
【文献】特開2017-208288(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0272329(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109119886(CN,A)
【文献】特開2019-046826(JP,A)
【文献】特開2015-018872(JP,A)
【文献】特開昭60-018985(JP,A)
【文献】特開2007-103909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00- 5/50
H01L 33/48-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間と、前記内部空間と外部とを貫通する開口部と、が形成された本体部であって、少なくとも1つの半導体レーザ素子を前記内部空間内に搭載した、金属からなる本体部と、
前記開口部を覆うように前記本体部に接着されて、前記本体部の前記内部空間を気密封止する、封止ガラスと、を備え、
前記封止ガラスの前記本体部側の表面には、前記封止ガラスと前記本体部との接着領域において、前記封止ガラスの熱膨張係数と、前記本体部を構成する金属の熱膨張係数と、の間の熱膨張係数を有する金属からなる下地接合層が設けられており、
前記封止ガラスは、前記下地接合層と、ソルダを含む接合層と、を介して前記本体部に接着されている、発光装置。
【請求項2】
前記封止ガラスは、前記半導体レーザ素子の出射光が通過する位置にレンズ部を有する、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記下地接合層は、
前記封止ガラスの表面に形成された密着層と、
前記密着層上に形成されたバリア層と、
を有する、請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記密着層は、クロムまたはチタンを主成分とする金属からなり、
前記バリア層は、白金を主成分とする金属からなる、請求項3に記載の発光装置。
【請求項5】
前記本体部の外面には、前記開口部の周囲にザグリ部が設けられており、
前記封止ガラスは、前記ザグリ部の底面において、前記本体部と接着される、請求項1から4のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項6】
前記ザグリ部には、前記ザグリ部の周囲に沿って、前記ザグリ部の底面よりも掘り込まれた溝部が設けられている、請求項5に記載の発光装置。
【請求項7】
前記本体部の前記内部空間には、前記半導体レーザ素子が複数搭載されている、請求項1から6のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項8】
前記接合層は金、金と錫、または、錫と銀と銅、のいずれかを主成分とする金属からなる、請求項1から7のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項9】
前記本体部の主成分は銅である、請求項1から8のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項10】
前記本体部の少なくとも前記接着領域の表面は、金で覆われている、請求項1から9のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項11】
内部空間と、前記内部空間と外部とを貫通する開口部と、が形成された本体部であって、少なくとも1つの半導体レーザ素子を前記内部空間内に搭載した、金属からなる本体部上に、
封止ガラスを、前記開口部を覆うように前記本体部に接着することにより、前記本体部の前記内部空間を気密封止する、発光装置の製造方法であって、
前記封止ガラスの前記本体部側の表面には、予め、前記封止ガラスと前記本体部との接着領域がパターニングされた、下地層と、前記下地層上のソルダ層とが形成されており、
前記下地層は、前記封止ガラスの熱膨張係数と、前記本体部を構成する金属の熱膨張係数と、の間の熱膨張係数を有する金属からなるとともに、前記封止ガラスの表面に形成された密着層と、前記密着層上のバリア層と、前記バリア層上の接合金属層とを含み、
前記本体部の少なくとも前記接着領域の表面は、予め、金層で覆われており、
前記封止ガラスの前記本体部への接着は、前記接着領域が加熱されて、前記接合金属層と前記ソルダ層との間、及び、前記ソルダ層と前記金層との間で合金化が行われることにより実行される、発光装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光を出射する発光素子として半導体レーザ素子を利用した、発光装置が知られている。このような発光装置は、レーザ光を取り出す光透過窓を設けつつ、半導体レーザ素子を気密に封止する必要がある。特許文献1には、金属からなるキャップ本体に低融点ガラスを封着材として、光透過窓が封着された、このような発光装置に適用可能な半導体装置用キャップが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来技術は、半導体装置用キャップに対して光透過窓を接着する場合には適しているが、発光装置のパッケージ本体に対して光透過窓を封着するのには適していない。パッケージ本体の放熱性を高めるために、銅(Cu)を主成分とする金属でパッケージ本体を構成した場合、ガラスからなる光透過窓(封止ガラス)との熱膨張係数差が大きく、熱応力により光透過窓が破損してしまうという問題がある。
【0005】
本発明の一態様は、前記従来の問題点に鑑みなされたものであって、発光装置の本体部と封止ガラスとの熱膨張差が大きい場合であっても、封止ガラスを破損させずに発光装置本体を封止ガラスにより封止することができる発光装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る発光装置は、内部空間と、前記内部空間と外部とを貫通する開口部と、が形成された本体部であって、少なくとも1つの半導体レーザ素子を前記内部空間内に搭載した、金属からなる本体部と、前記開口部を覆うように前記本体部に接着されて、前記本体部の前記内部空間を気密封止する、封止ガラスと、を備え、前記封止ガラスの前記本体部側の表面には、前記封止ガラスと前記本体部との接着領域において、前記封止ガラスの熱膨張係数と、前記本体部を構成する金属の熱膨張係数と、の間の熱膨張係数を有する金属からなる下地接合層が設けられており、前記封止ガラスは、前記下地接合層と、ソルダを含む接合層と、を介して前記本体部に接着されている。
【0007】
また、本発明の一態様に係る発光装置の製造方法は、内部空間と、前記内部空間と外部とを貫通する開口部と、が形成された本体部であって、少なくとも1つの半導体レーザ素子を前記内部空間内に搭載した、金属からなる本体部上に、封止ガラスを、前記開口部を覆うように前記本体部に接着することにより、前記本体部の前記内部空間を気密封止する、発光装置の製造方法であって、前記封止ガラスの前記本体部側の表面には、予め、前記封止ガラスと前記本体部との接着領域がパターニングされた、下地層と、前記下地層上のソルダ層とが形成されており、前記下地層は、前記封止ガラスの熱膨張係数と、前記本体部を構成する金属の熱膨張係数と、の間の熱膨張係数を有する金属からなるとともに、前記封止ガラスの表面に形成された密着層と、前記密着層上のバリア層と、前記バリア層上の接合金属層とを含み、前記本体部の少なくとも前記接着領域の表面は、予め、金層で覆われており、前記封止ガラスの前記本体部への接着は、前記接着領域が加熱されて、前記接合金属層と前記ソルダ層との間、及び、前記ソルダ層と前記金層との間で合金化が行われることにより実行される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、発光装置の本体部と封止ガラスとの熱膨張差が大きい場合であっても、封止ガラスを破損させずに発光装置本体を封止ガラスにより封止することができる発光装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態1に係る発光装置の概略構成の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】前記発光装置の概略構成の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図3】前記発光装置の接着領域において合金化がなされる前の下地層及びソルダ層の概略構成を示す断面図である。
【
図4】前記発光装置の製造方法の一例の工程を説明する断面図である。
【
図5】
図4の続きの前記発光装置の製造方法の一例の工程を説明する断面図である。
【
図6】
図5の続きの前記発光装置の製造方法の一例の工程を説明する断面図である。
【
図7】
図6の続きの前記発光装置の製造方法の一例の工程を説明する断面図である。
【
図8】本発明の実施形態2に係る発光装置の概略構成の一例を模式的に示す断面図である。
【
図9】本発明の実施形態3に係る発光装置の概略構成の一例を模式的に示す断面図の部分拡大図である。
【
図10】溝部の効果を説明するための図であり、拡大
図1001は、溝部が形成されていない場合のレンズアレイが受けるソルダ層の応力を説明する図であり、拡大
図1002は、溝部が形成されている場合のレンズアレイが受ける応力を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態1〕
現在流通しているバタフライタイプのMCP(Multi Chip Package)においては、封止部材(キャップガラス等)で発光装置本体の内部空間の気密封止をし、その封止部材上にレンズアレイを接着剤にて固定しているものがある。
【0011】
それに対して本発明は、封止部材ではなく、レンズアレイ20で発光装置100の本体部10の内部空間11を気密封止する。これにより、レンズアレイ20とは別途の封止部材の搭載スペースの必要がなくなる。さらに封止部材が削減できるので、製造工程の1工程を削減できる。
【0012】
しかしながら、レンズアレイ20により本体部10の内部空間11を気密封止させる場合、下記の問題がある。すなわち、例えば、本体部10が銅であると、熱膨張係数が17.7×10-6[1/K]であり、レンズアレイ20(ガラス)の熱膨張係数が7.2×10-6[1/K]であるため、熱膨張差が大きくなる。そのため、ソルダ層40のみで直接本体部10にレンズアレイ20を封着すると、本体部10とレンズアレイ20との熱膨張差による熱応力をレンズアレイ20がそのまま受けてしまう。その結果、レンズアレイ20が破損してしまうというリスクがある。
【0013】
そこで本発明は、本体部10とレンズアレイ20との熱膨張差が大きくても、本体部10をレンズアレイ20で気密封止できるよう、下記の構成を備えている。すなわち、本発明に係る発光装置100は、レンズアレイ20とソルダ層40との間に本体部10を構成する金属の熱膨張係数と、レンズアレイ20の熱膨張係数との間の熱膨張係数を有する金属からなる下地層30を備えている。これにより、本体部10とレンズアレイ20との熱膨張差による熱応力を緩和することができ、レンズアレイ20破損のリスクを低減することができる。以下に詳しく説明する。
【0014】
(発光装置)
本発明の一実施形態について、
図1及び
図2に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態1に係る発光装置100の概略構成の一例を模式的に示す断面図である。
図2は、発光装置100の概略構成の一例を模式的に示す斜視図である。
【0015】
なお、
図1の断面図は、発光装置100から外部へ出射される出射光の出射方向Dと平行な面で切断した断面図であり、半導体レーザ素子1へのワイヤの接続状態が確認できるように切断面の位置を設定したものである。
図4から
図9についても同様である。発光装置100から外部へ出射される出射光の出射方向Dと平行な面は、半導体レーザ素子1の発熱を放熱する放熱面である、本体部10の本体底面14に平行な面である。また、
図2は、本体部10の内部空間11の内部を分かりやすく示すために、内部空間11上、及び、内部空間11の手前の本体部10を透明として、図示したものである。
【0016】
発光装置100は、複数の半導体レーザ素子1を有する。複数の半導体レーザ素子1の出射光は、レンズアレイ20によりそれぞれ単独のコリメート光となり、最終的に発光装置100を備える機器側のレンズで1つのレーザ光として集約されて利用される。発光装置100は、例えば、プロジェクター、屋内外の照明、車載用ヘッドランプ、投光器等のピーク出力を必要とする機器に用いることができる。
【0017】
図1及び
図2に示すように、発光装置100は、本体部10と、レンズアレイ20と、を備え、本体部10とレンズアレイ20との間の接着領域50により本体部10とレンズアレイ20とが接着している。
【0018】
(本体部)
本体部10は、金属からなる略直方体の筐体であり、筐体の内部には、内部空間11が形成されている。本体部10において、本体部10から外部へ出射される出射光の出射方向Dに位置する出射面(外面)12には、内部空間11と外部とを貫通するように開口部13が形成されている。開口部13の開口面積は、本体部10が備える半導体レーザ素子1からの出射光の大部分が通る大きさであることが望ましい。開口部13の形状は特に限定されない。本実施形態では、開口部13の形状は略長方形を採用している。また、
図2に示すように、本体部10には、位置決めに使用する位置決め孔15a及び位置決め孔15bが形成されていてもよい。位置決め孔15aは本体部10を出射方向Dと略平行な方向に貫通する貫通孔であり、位置決め孔15bは位置決め孔15a及び本体底面14に直交するように本体部10を貫通する貫通孔である。
【0019】
本体部10は銅(Cu)を主成分とする金属からなることが望ましい。本願において、主成分とするとは、原子組成百分率が50at%以上であることを示す。これにより、半導体レーザ素子1の発熱を効率よく本体底面14から外部へ排熱することができる。本体部10は、例えば、金(Au)を含む金属で表面が鍍金(メッキ)されている(図示無)。
【0020】
本体部10は、内部空間11に複数の半導体レーザ素子1を搭載している。半導体レーザ素子1の数は図示される例に限らず、内部空間11に、少なくとも1つの半導体レーザ素子1が搭載されていればよい。
【0021】
半導体レーザ素子1は、出射光としてレーザ光を出射する。本実施形態では、半導体レーザ素子1が有する積層構造の層に略平行な出射方向Dに、半導体レーザ素子1から出射光が出射され、後述するレンズアレイ20を介し、出射方向Dに本体部10から外部へ出射光が出射される。
【0022】
なお、半導体レーザ素子1から出射される出射光の出射方向と、本体部10から外部へ出射される出射光の出射方向は同じ方向でなくてもよい。ミラー等を用いて半導体レーザ素子1から出射される出射光を反射させることで、本体部10から外部へ出射光が、半導体レーザ素子1の積層方向に出射されるものであってもよい。これにより、バタフライタイプの発光装置にも本発明を適用させることができる。
【0023】
半導体レーザ素子1は、より具体的には、本体部10の内部空間11に以下のようにして搭載されている。例えば、まず、本体部10の切削過程で台座部3が本体部10と一体となって形成される。また、半導体レーザ素子1は絶縁体であるサブマウント2に実装され、台座部3にサブマウント2が接着される。これにより、本体部10の内部空間11に半導体レーザ素子1が搭載される。また、半導体レーザ素子1にて生じた熱を、サブマウント2から本体部10を介して効率的に外部に放熱することができる。
【0024】
複数の半導体レーザ素子1は、本体部10に直線上に配置されている。隣り合う半導体レーザ素子1は、サブマウント2を介してワイヤ5により電気的に接続されている。また、両端に位置する半導体レーザ素子1は、それぞれワイヤ5を通じてピン4に電気的に接続されている。ピン4は、半導体レーザ素子1を発光装置100の外部と電気的に接続するための端子である。ピン4は、例えば、ハーメチックシールにより本体部10に固定されることにより、本体部10と絶縁されている。
【0025】
レンズアレイ20(封止ガラス)は、後述する下地層30とソルダ層40と、を介して、開口部13を覆うように本体部10に接着されて、本体部10の内部空間11を気密封止する。レンズアレイ20の大きさは開口部13よりも大きく、レンズアレイ20で開口部13を覆うことができる。
【0026】
レンズアレイ20は、半導体レーザ素子1と同数のレンズ部21と、レンズ部21の周囲に位置する接続部22とを備えている。レンズアレイ20は、半導体レーザ素子1の出射光が通過する位置にレンズ部21を備えている。複数のレンズ部21は連続して直線上に形成され、さらにレンズ部21と接続部22とは一体的に形成されている。
【0027】
レンズ部21の形状は、特に限定されないが、各半導体レーザ素子1から入射するレーザ光を平行化(コリメート)できる形状を有している。レンズアレイ20はガラスや合成石英などの透光性を有する材料を用いて形成することができる。
【0028】
(接着領域)
接着領域50は、本体部10とレンズアレイ20とを接着している、下地接合層30X及び接合層40Xが形成されている領域である。接着領域50は、レンズアレイ20の表面23においては、レンズアレイ20の外縁に沿って、開口部13を形成する開口の周囲に対応する位置に形成されている。接着領域50は、本体部10側の出射面12においては、開口部13を形成する開口の周囲に沿ってレンズアレイ20の外縁に対応する位置に形成されている。
【0029】
接着領域50において、後述する下地層30とソルダ層40と本体部10の鍍金とが加熱されることにより一部が混じりあい一体となって合金化し、本体部10とレンズアレイ20とが接着される。前記合金化は、例えば、共晶化であってもよい。前記加熱後の接着領域50には、下地接合層30Xと接合層40Xとが形成されている。
【0030】
ここで、下地接合層30Xは、後述する下地層30のうち、前記合金化により、下地層30の一部がソルダ層40と一体化して分離できなくなっている状態の下地層30を示す。また、接合層40Xは、後述するソルダ層40のうち、前記合金化により、下地層30の一部と一体化して分離できなくなっている状態のソルダ層40を示す。詳しくは後述する。
【0031】
(下地層および下地接合層)
下地接合層30Xは、レンズアレイ20の熱膨張係数と、本体部10を構成する金属の熱膨張係数と、の間の熱膨張係数を有する金属からなる。下地接合層30Xは本体部10とレンズアレイ20と間の接着領域50において、レンズアレイ20の本体部10側の表面23に、レンズアレイ20の外縁に沿って設けられている。言い換えると、下地接合層30Xは、レンズアレイ20の表面23において、開口部13の周囲に対応する位置に設けられている。
【0032】
合金化前は、
図3に示すように、下地接合層30Xは下地層30として、密着層31と、バリア層32と、接合金属層33と、を有し、密着層31、バリア層32、接合金属層33の順に、レンズアレイ20から離れる方向に向かって順に積層されている。
図3は、発光装置100の接着領域において合金化がなされる前の下地層30及びソルダ層40の概略構成を示す断面図である。
【0033】
密着層31は、レンズアレイ20の表面23に形成され、レンズアレイ20と下地層30とを密着させるための、金属からなる層である。密着層31としては、例えば、クロム(Cr)またはチタン(Ti)を主成分とする金属を採用することができる。クロムの熱膨張係数は、11.3×10-6〔1/K〕であり、本実施形態の本体部10の主成分である銅の熱膨張係数と、レンズアレイ20の主成分であるガラスの熱膨張係数との間の熱膨張係数である。
【0034】
バリア層32は、密着層31と接合金属層33との間の密着層31上に形成され、合金化の際に、密着層31とソルダ層40とが混合することを防ぐための、金属からなる層である。これにより、下地層30とレンズアレイ20との密着を保つことができるので、レンズアレイ20により本体部10を確実に封止することができる。
【0035】
バリア層32としては、例えば、白金(Pt)を主成分とする金属を採用することができる。白金の熱膨張係数は、8.8×10-6〔1/K〕であり、銅の熱膨張係数とガラスの熱膨張係数との間の熱膨張係数である。
【0036】
接合金属層33は、加熱されることにより、ソルダ層40と少なくともその一部が合金化するための、金属からなる層である。接合金属層33としては、例えば、金を主成分とする金属を採用することができる。金の熱膨張係数は、14.2×10-6〔1/K〕であり、銅の熱膨張係数とガラスの熱膨張係数との間の熱膨張係数である。
【0037】
下地層30が加熱されてソルダ層40と合金化した後は、密着層31及びバリア層32は個別の層として判別できるが、接合金属層33はソルダ層40と一体化するので個別に判別できなくなる場合がある。本実施形態では、合金化後の下地層30を下地接合層30Xとしている。
【0038】
(ソルダ層および接合層)
接合層40Xは、加熱されることによって、ソルダ層40の少なくとも一部が下地層30の一部との間、及び本体部10の鍍金の一部との間で合金化して形成された層である。接合層40Xは、本体部10とレンズアレイ20とを接着させる。ソルダ層40は、ソルダを含み、さらに例えば、金、金と錫(Sn)、または、錫と銀(Ag)と銅、のいずれかを主成分とする金属からなる。金の熱膨張係数は、14.2×10-6〔1/K〕であり、銅の熱膨張係数とガラスの熱膨張係数との間の熱膨張係数である。
【0039】
ソルダ層40は加熱され、接合金属層33と合金化した後は、接合金属層33とソルダ層40とが一体化して個別に判別できなくなる場合もある。本実施形態では、合金化後のソルダ層40を接合層40Xとしている。合金化前の下地層30とソルダ層40とは、合金化後において、下地接合層30Xと接合層40Xとなり、接着領域50において、本体部10とレンズアレイ20とを接着する。
【0040】
(各層の材質及び厚さの例)
本体部10の主成分が銅である場合、各層の材質及び厚さは、例えば以下とすることができる。クロムを主成分とする金属を密着層31として、当該密着層31の厚さを0.1μm以上とする。白金を主成分とする金属をバリア層32として、当該バリア層32の厚さを0.2μm以上とする。金を主成分とする金属を接合金属層33として、当該接合金属層33の厚さを0.5μm以上とする。金錫を含む金属をソルダ層40として、当該ソルダ層40の厚さを15μm以上とする。また、本体部10には、金鍍金(金層)を数μm施す。
【0041】
(発光装置の製造方法)
図4から
図7に基づき、発光装置100の製造方法について説明する。
図4は発光装置100の製造方法の一例をの工程を説明する断面図である。
図5から
図8はそれぞれ前図の続きを示す断面図である。
【0042】
まず、内部空間11と、内部空間11と外部とを貫通する開口部13と、が形成された、金属からなる本体部10の内部空間11に、少なくとも1つの半導体レーザ素子1を搭載する(搭載ステップ)。本体部10は予め金層で鍍金されており、搭載ステップは、ピン4が本体部10に設置された状態で行われる。
【0043】
具体的には、本体部10と一体となって形成された台座部3に、予めサブマウント2に実装された複数の半導体レーザ素子1が搭載されることにより、複数の半導体レーザ素子1が本体部10に搭載される。台座部3の本体底面14からの高さは、本体部10に搭載された半導体レーザ素子1からの出射光の大部分が開口部13を通過するように設計され、本体部10に台座部3が形成される。
【0044】
次に、
図5に示すように、各半導体レーザ素子1及びピン4をワイヤ5で電気的に接続する。
【0045】
同図に示すように、レンズアレイ20の本体部10側の表面23には、予め、レンズアレイ20と本体部10との接着領域50がパターニングされた、下地層30と、下地層30上のソルダ層40とを形成する。(下地層形成ステップ)。具体的には、レンズアレイ20の表面23に密着層31を形成し、密着層31上にバリア層32を形成し、バリア層32上に接合金属層33を形成することで、下地層30を形成し、接合金属層33上にソルダ層40を形成する。
【0046】
下地層30及びソルダ層40は、共に本体部10側に設けられてもよく、ソルダ層40のみが本体部10に設けられてもよい。レンズアレイ20と本体部10との間のレンズアレイ20側に下地層30が設けられ、本体部10側にソルダ層40が設けられていればよい。
【0047】
次に、
図6に示すように、各半導体レーザ素子1の出射光が通過する位置にレンズ部21が固定されるように、本体部10に対してレンズアレイ20を位置決めし、接着領域50を加熱する。前記加熱方法は特に指定されず、下地層30及びソルダ層40のみを加熱してもよく、発光装置100全体を加熱してもよい。加熱方法は、具体的には、例えば、以下の(1)および(2)の方法がある。(1)本体部10をソルダ層40の融点まで加熱する方法。この場合、前記加熱を行い、常温のレンズアレイ20を本体部10に搭載する。(2)本体部10にレンズアレイ20を搭載した状態で、高出力レーザを外部から接着領域50にピンポイントで照射し、接着領域50のみを加熱する方法。
【0048】
加熱により、接合金属層33とソルダ層40との間、及び、ソルダ層40と金層との間で合金化が行われ、接着領域50において、レンズアレイ20が本体部10に接着される。これにより、
図7に示すように、本体部10とレンズアレイ20との間の接着領域50には下地接合層30Xと接合層40Xとが形成される。その結果、レンズアレイ20が開口部13を覆うように本体部10に接着されて、本体部10の内部空間11がレンズアレイ20により気密封止され(気密封止ステップ)、発光装置100が完成する。
【0049】
〔実施形態2〕
本発明の実施形態2について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、前記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0050】
図8は、本発明の実施形態2に係る発光装置101の概略構成の一例を模式的に示す断面図である。なお、
図8では、説明を容易にするために、本体部10とレンズアレイ20とが接着される前の状態を図示している。実際には、レンズアレイ20が矢印の方向に移動して本体部10に載置され、接着領域50において、下地層30の一部とソルダ層40の少なくとも一部が合金化した状態が、発光装置101である。
図9も同様である。
図8に示すように、発光装置101は発光装置100と比較して、本体部10にザグリ部16を備えていることが異なり、その他の構成は同じである。
【0051】
本体部10の出射面12には、開口部13の周囲にザグリ部16が設けられている。ザグリ部16は、出射面12に対して凹み、ザグリ部16の底面16aは、出射面12と略平行である。レンズアレイ20は、ザグリ部16の底面16aにおいて、本体部10と接着される。
【0052】
これにより、予めレンズアレイ20の位置決めを考慮してザグリ部16を形成することにより、ザグリ部16にレンズアレイ20を接着させることで本体部10を気密封止することができる。そのため、本体部10を封止する際のレンズアレイ20の位置決めが容易となる。また、発光装置101の半導体レーザ素子1の出射光の出射方向Dに対する厚さを薄くすることができるので、発光装置101を小さくすることができる。
【0053】
〔実施形態3〕
本発明の実施形態3について、以下に説明する。実施形態3は実施形態2の変形例である。
図9は、本発明の実施形態3に係る発光装置102の概略構成の一例を模式的に示す断面図の一部拡大図である。具体的には、
図9は、
図8の一点鎖線部Yに相応する部分を拡大した拡大図である。
図9に示すように、発光装置102は発光装置101と比較して、本体部10のザグリ部16にさらに溝部17を備えていることが異なり、その他の構成は同じである。
【0054】
ザグリ部16には、ザグリ部16の周囲に沿って、ザグリ部16の底面16aよりも掘り込まれた溝部17が設けられている。言い換えると、ザグリ部16と本体部10との間には、半導体レーザ素子1の出射光の出射方向Dとは反対方向に凹となる溝部17が設けられている。
【0055】
図10は、溝部17の効果を説明するための図である。拡大
図1001は、溝部17が形成されていない場合のレンズアレイ20が受けるソルダ層40の応力Hを説明する図であり、拡大
図1002は、溝部17が形成されている場合のレンズアレイ20が受けるソルダ層40の応力Hを説明する図である。
【0056】
本体部10とレンズアレイ20との接着は、合金化による広範囲での接着となるため、下地層30及びソルダ層40は厚い方が、各部材の反りや、接着面のラフネスを吸収でき、安定した接着が実現できる。
【0057】
一方、単純なザグリ構造では、拡大
図1001に示すように、下地層30及びソルダ層40が厚いほど、本体部10とレンズアレイ20との接着時に、ソルダが、レンズアレイ20と本体部10との間を這い上がった這い上がりRが生じることが懸念される。
【0058】
這い上がりRが生じると、レンズアレイ20と本体部10との間が這い上がりRで満たされる。これにより、接着領域50の加熱後に熱が冷めて本体部10が縮む際の応力Hをレンズアレイ20底面からだけではなく、レンズアレイ20と本体部10との間のレンズアレイ20の側面からも受けるため、レンズアレイ20がより割れやすくなってしまう。
【0059】
それに対して、溝部17が設けられていれば、拡大
図1002に示すように、溝部17にソルダ層40が溜まるため、這い上がりRが生じない。そのため、本体部10が縮む際の応力Hの影響がレンズアレイ20底面のみからとなり、レンズアレイ20の破損のリスクを低減することができる。
【0060】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る発光装置(100・101・102)は、内部空間(11)と、前記内部空間と外部とを貫通する開口部(13)と、が形成された本体部(10)であって、少なくとも1つの半導体レーザ素子(1)を前記内部空間内に搭載した、金属からなる本体部と、前記開口部を覆うように前記本体部に接着されて、前記本体部の前記内部空間を気密封止する、封止ガラス(レンズアレイ20)と、を備え、前記封止ガラスの前記本体部側の表面には、前記封止ガラスと前記本体部との接着領域(50)において、前記封止ガラスの熱膨張係数と、前記本体部を構成する金属の熱膨張係数と、の間の熱膨張係数を有する金属からなる下地接合層(30X)が設けられており、前記封止ガラスは、前記下地接合層と、ソルダを含む接合層(40X)と、を介して前記本体部に接着されている。
【0061】
前記構成によれば、封止ガラスの本体部側の表面には下地接合層が設けられており、下地接合層とソルダを含む接合層とを介して、封止ガラスが本体部の開口部を覆うように接着されることにより、封止ガラスが本体部の内部空間を気密封止する。
【0062】
また、下地接合層は、封止ガラスの熱膨張係数と、本体部を構成する金属の熱膨張係数と、の間の熱膨張係数を有する金属からなる。そのため、封止ガラスと本体部とが加熱されて接着する際に、下地接合層により封止ガラスと本体部の熱膨張差による熱応力を緩和することができる。その結果、封止ガラスと発光装置の本体部との熱膨張差が大きい場合であっても、封止ガラスを破損させずに発光装置の本体部の内部空間を封止ガラスにより封止できる。
【0063】
本発明の態様2に係る発光装置(100・101・102)は、上記態様1において、前記封止ガラス(レンズアレイ20)は、前記半導体レーザ素子(1)の出射光が通過する位置にレンズ部を有していてもよい。
【0064】
前記構成によれば、レンズアレイで本体部を封止することができるため、封止後のレンズアレイの設置場所を検討する必要がない。また、別途封止部材を設ける必要がなくなり、封止部材を削減できる。
【0065】
本発明の態様3に係る発光装置(100・101・102)は、上記態様1または2において、前記下地接合層(40X)は、前記封止ガラス(レンズアレイ20)の表面に形成された密着層(31)と、前記密着層上に形成されたバリア層(32)と、を有していてもよい。
【0066】
前記構成によれば、バリア層の材質を適切に選定することで、封止ガラスと本体部とを加熱して接着する際に、バリア層により、密着層にソルダ層が混ざることを防ぐことができる。その結果、下地接合層と封止ガラスとの密着を保つことができるので、封止ガラスにより本体部を確実に封止することができる。
【0067】
本発明の態様4に係る発光装置(100・101・102)は、上記態様3において、前記密着層(31)は、クロムまたはチタンを主成分とする金属からなり、前記バリア層(32)は、白金を主成分とする金属からなってもよい。前記構成によれば、密着層および下地層として好適に使用することができる。
【0068】
本発明の態様5に係る発光装置(101)は、上記態様1から4のいずれかにおいて、前記本体部(10)の外面(出射面12)には、前記開口部(13)の周囲にザグリ部(16)が設けられており、前記封止ガラス(レンズアレイ20)は、前記ザグリ部の底面(16a)において、前記本体部と接着されていてもよい。
【0069】
前記構成によれば、ザグリ部の底面に封止ガラスを接着させることにより本体部の内部空間を封止することができるので、封止ガラスの位置決めが容易となる。また、発光装置の半導体レーザ素子の厚さを薄くすることができるので、発光装置を小さくすることができる。
【0070】
本発明の態様6に係る発光装置(102)は、上記態様5において、前記ザグリ部(16)には、前記ザグリ部の周囲に沿って、前記ザグリ部の底面(16a)よりも掘り込まれた溝部(17)が設けられていてもよい。
【0071】
前記構成によれば、封止の際に、ソルダ層が本体部と封止ガラスとの間を這い上がるのを防ぐことができるので、封止の際に、封止ガラスが側面から応力を受けないようにすることができる。これにより、封止ガラスが破損するリスクをさらに軽減することができる。
【0072】
本発明の態様7に係る発光装置(100・101・102)は、上記態様1から6のいずれかにおいて、前記本体部(10)の前記内部空間(11)には、前記半導体レーザ素子(1)が複数搭載されていてもよい。
【0073】
前記構成によれば、半導体レーザ素子が複数搭載された発光装置においても、封止ガラスを破損させずに発光装置本体を封止ガラスで封止できる発光装置を実現することができる。
【0074】
本発明の態様8に係る発光装置(100・101・102)は、上記態様1から7のいずれかにおいて、前記接合層(40X)は金、金と錫、または、錫と銀と銅、のいずれかを主成分とする金属からなっていてもよい。前記構成によれば、接合層として好適に使用することができる。
【0075】
本発明の態様9に係る発光装置(100・101・102)は、上記態様1から8のいずれかにおいて、前記本体部(10)の主成分は銅であってもよい。前記構成によれば、本体部の主成分を銅とすることで、半導体レーザ素子からの放熱を好適に行うことができる。
【0076】
本発明の態様10に係る発光装置(100・101・102)は、上記態様1から9のいずれかにおいて、前記本体部(10)の少なくとも前記接着領域(50)の表面は、金で覆われていてもよい。前記構成によれば、ソルダ層との接合を好適に行うことができる。
【0077】
本発明の態様11に係る発光装置(100・101・102)の製造方法は、内部空間(11)と、前記内部空間と外部とを貫通する開口部(13)と、が形成された本体部(10)であって、少なくとも1つの半導体レーザ素子(1)を前記内部空間内に搭載した、金属からなる本体部上に、封止ガラス(レンズアレイ20)を、前記開口部を覆うように前記本体部に接着することにより、前記本体部の前記内部空間を気密封止する、発光装置の製造方法であって、前記封止ガラスの前記本体部側の表面(23)には、予め、前記封止ガラスと前記本体部との接着領域(50)がパターニングされた、下地層(30)と、前記下地層上のソルダ層(40)とが形成されており、前記下地層は、前記封止ガラスの熱膨張係数と、前記本体部を構成する金属の熱膨張係数と、の間の熱膨張係数を有する金属からなるとともに、前記封止ガラスの表面に形成された密着層(31)と、前記密着層上のバリア層(32)と、前記バリア層上の接合金属層(33)とを含み、前記本体部の少なくとも前記接着領域の表面は、予め、金層で覆われており、前記封止ガラスの前記本体部への接着は、前記接着領域が加熱されて、前記接合金属層と前記ソルダ層との間、及び、前記ソルダ層と前記金層との間で合金化が行われることにより実行される。前記構成によれば、態様1と同様の効果を奏することができる。
【0078】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 半導体レーザ素子
10 本体部
11 内部空間
12 出射面(外面)
13 開口部
16a 底面
16 ザグリ部
17 溝部
20 レンズアレイ(封止ガラス)
21 レンズ部
23 表面
30 下地層
30X 下地接合層(下地層)
31 密着層
32 バリア層
33 接合金属層
40 ソルダ層(接合層)
40X 接合層
50 接着領域
100、101、102 発光装置