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特許7579213シール部材の固定構造、シール部材の固定方法および緩衝器
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  • 特許-シール部材の固定構造、シール部材の固定方法および緩衝器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】シール部材の固定構造、シール部材の固定方法および緩衝器
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/36 20060101AFI20241030BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20241030BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20241030BHJP
   F16J 15/3268 20160101ALI20241030BHJP
   F16B 4/00 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
F16F9/36
F16J15/3232 101
F16J15/18 A
F16J15/3268
F16B4/00 P
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021105843
(22)【出願日】2021-06-25
(65)【公開番号】P2023004256
(43)【公開日】2023-01-17
【審査請求日】2024-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】黒木 亮介
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-070920(JP,A)
【文献】特開2010-281373(JP,A)
【文献】米国特許第05167419(US,A)
【文献】特開2008-101640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/36
F16J 15/3232
F16J 15/18
F16J 15/3268
F16B 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のインサートメタルと前記インサートメタルに一体に設けられたシール部とを有してチューブの内周に前記インサートメタルの外周を嵌合させて前記チューブ内を密閉するシール部材を前記チューブの管端を内周側へ加締めて固定するシール部材の固定構造であって、
前記インサートメタルは、前記チューブに対して外方を向く外側端の外周側に最外周まで形成された環状凹部によって設けられる段差部と、前記外側端における段差部の外周に設けられた面取部とを有し、
前記面取部の軸方向長さは、前記段差部の軸方向長さより長い
ことを特徴とするシール部材の固定構造。
【請求項2】
前記チューブは、アルミニウム合金製である
ことを特徴とする請求項1に記載のシール部材の固定構造。
【請求項3】
環状のインサートメタルと前記インサートメタルに一体に設けられたシール部とを有してチューブの内周に前記インサートメタルの外周を嵌合させて前記チューブ内を密閉するシール部材を前記チューブの管端を内周側へ加締めて固定するシール部材の固定方法であって、
前記インサートメタルの前記チューブに対して外方を向く外側端に外周側に最外周まで形成される段差部と前記段差部の外周に前記段差部の軸方向長さより長い軸方向長さを持つ面取部とが設けられたシール部材を前記チューブ内に挿入し、
前記チューブの管端を内周側へ加締めて前記チューブに前記シール部材を固定する
ことを特徴とするシール部材の固定方法。
【請求項4】
チューブ内に軸方向へ移動可能に挿入されるロッドと、
環状であって前記チューブの内周に嵌合されるとともに前記ロッドの外周に摺接して前記ロッドの移動を案内するロッドガイドと、
前記チューブの内周に嵌合される環状のインサートメタルと、前記インサートメタルの内周側に一体に設けられて前記ロッドの外周に摺接する内周シール部と、前記インサートメタルの外周側に一体に設けられて前記チューブの内周に当接する外周シール部とを有して、前記ロッドガイドのチューブに対して外方を向く外側端に前記インサートメタルを当接させて前記チューブ内を密閉するシール部材とを備え、
前記インサートメタルは、前記チューブに対して外方を向く外側端の外周側に最外周まで形成された形成された環状凹部によって設けられる段差部と、前記外側端における段差部の外周に設けられた面取部とを有し、
前記面取部の軸方向長さは、前記段差部の軸方向長さより長く、
前記シール部材は、前記チューブの管端を内周側へ加締めて前記チューブに固定されている
ことを特徴とする緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール部材の固定構造、シール部材の固定方法および緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、緩衝器にあっては、たとえば、シリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されシリンダ内を二つの作動室に区画するピストンと、ピストンに一端が連結されるロッドとを備えて構成され、伸縮する際に作動室間を行き来する作動油の流れに抵抗を与えて作動室間に差圧を生じせしめて減衰力を発生し、制振対象の振動を抑制するようになっている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
また、この緩衝器にあっては、ロッドの外周に摺接するシール部材を備えており、このシール部材にてシリンダ内の作動油のロッド周りからの漏洩を防止して、シリンダ内を油密に保っている。
【0004】
具体的には、シール部材は、環状のインサートメタルと、インサートメタルの内周側に一体化されるゴム製の内周シールと、インサートメタルの外周側に一体化されるゴム製の外周シールとを備えている。そして、複筒型緩衝器を例にとれば、シール部材は、ロッドを軸支するロッドガイドに積層されてシリンダを収容するアウターチューブの内周に挿入された後、アウターチューブの管端を内周側へ加締めることでアウターチューブに固定される。
【0005】
このように固定されたシール部材は、内周シールをロッドの外周に摺接させるとともに外周シールをアウターチューブの内周に密着させて、アウターチューブ内を密閉してシリンダおよびアウターチューブ内からの油漏れを防止している。
【0006】
シール部材は、内周シールと外周シールとを形成する金型にインサートメタルを挿入した後、金型内にゴム材を充填してインサートメタルに内周シールと外周シールを一体化させるインサート成型によって得られる。インサート成型前にインサートメタルに接着剤を塗布する必要があるが、内周シールと外周シールの設置部分にのみ接着剤を塗布するのは面倒であるため、インサートメタル全体を液状の接着剤に浸漬して接着剤を塗布する関係でインサートメタルの全体に接着剤が塗布される。すると、インサート成型後に得られたシール部材では、インサートメタルの内周シールと外周シールの設置部分以外に薄いゴム膜が形成される。
【0007】
このようにして得られたシール部材は、アウターチューブの内周に嵌合された後に、軸力を負荷された上で、アウターチューブの管端の全周をロール加締め加工によって内周側に倒しこんでインサートメタルの外方を向く外側面の外周側に密着させることで、アウターチューブに固定される。
【0008】
このようなアウターチューブの加締め加工によってシール部材を固定する際に、アウターチューブの管端の内周側への折り込みが進む過程において、インサートメタルの外側端に付着したゴム膜が前記管端の接近によって内周側に糸状のゴム片となって押し出され、ゴム片が千切れて内周シール部とロッドとの間に入り込んでしまう場合がある。このような状態となると、ロッドの外周回りのシール性能が悪化してしまうため、インサートメタルの外側端の外周に環状凹部の形成によって段差部が設けられている。
【0009】
このように段差部を設けると、アウターチューブの管端を加締め加工した後に、当該管端と段差部の内周側の隅にゴム片を収容するスペースが生まれ、ゴム片がインサートメタルの内周側へ移動するのを抑制でき、シール部材の良好なシール性を担保できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2002-070920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このようにアウターチューブの管端を加締めてシール部材を固定する場合、アウターチューブがインサートメタルの外側端の外周の縁を起点に直角に折り曲げられるとともに段差部の内周側の角部に乗り上げる。そのため、図4に示すように、アウターチューブ100の管端が加締められて形成された加締部100aの内周がインサートメタル101の外側端の外周部の近傍ではインサートメタル101に密着できずに剥離して空隙Aができてしまう。
【0012】
このようにアウターチューブ100における加締部100aがインサートメタル101の外側端の外周部から剥離するとアウターチューブ100加締部100aの強度が低下して、シール部材の外周におけるシール性が悪化してしまう可能性がある。
【0013】
そこで、本発明は、加締部の強度低下を招かず良好なシール性を担保できるシール部材の固定構造、シール部材の固定方法および緩衝器の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記した課題を解決するために、本発明のシール部材の固定構造は、環状のインサートメタルとインサートメタルに一体に設けられたシール部とを有してチューブの内周にインサートメタルの外周を嵌合させてチューブ内を密閉するシール部材をチューブの管端を内周側へ加締めて固定するシール部材の固定構造であって、インサートメタルは、チューブに対して外方を向く外側端の外周側に最外周まで形成された環状凹部によって設けられる段差部と、外側端における段差部の外周に設けられた面取部とを有し、面取部の軸方向長さは、段差部の軸方向長さより長いことを特徴としている。
【0015】
このように構成されたシール部材の固定構造によれば、段差部の軸方長さより面取部の軸方向長さの方が長いため、チューブの管端を加締めて加締部を形成する加工を行うと、加締部は段差部の影響を受けずにインサートメタルの外側端の外周の面取部に倣って変形して、インサートメタルの外周部において加締部の折れ曲がりの起点の内周が剥離せずにインサートメタルに密着する。
【0016】
また、シール部材の固定構造において、チューブがアルミニウム合金製とされてもよい。このように構成されたシール部材の固定構造によれば、チューブを鋼材に比較して柔らかいアルミニウム合金製としても強度を確保しつつも、シール部材の固定構造を適用した緩衝器等を軽量化できる。
【0017】
さらに、前記した課題を解決するために、本発明のシール部材の固定方法は、環状のインサートメタルとインサートメタルに一体に設けられたシール部とを有してチューブの内周にインサートメタルの外周を嵌合させてチューブ内を密閉するシール部材をチューブの管端を内周側へ加締めて固定するシール部材の固定方法であって、インサートメタルのチューブに対して外方を向く外側端に外周側に最外周まで形成される段差部と段差部の外周に段差部の軸方向長さより長い軸方向長さを持つ面取部とが設けられたシール部材をチューブ内に挿入し、チューブの管端を内周側へ加締めてチューブにシール部材を固定するシール部材の固定方法である。
【0018】
このように構成されたシール部材の固定方法によれば、段差部の軸方長さより面取部の軸方向長さの方が長いため、チューブの管端を加締めて加締部を形成する加工を行うと、加締部は段差部の影響を受けずにインサートメタルの外側端の外周の面取部に倣って変形して、インサートメタルの外周部において加締部の折れ曲がりの起点の内周が剥離せずにインサートメタルに密着する。
【0019】
また、前記した課題を解決するために、本発明の緩衝器は、チューブ内に軸方向へ移動可能に挿入されるロッドと、環状であってチューブの内周に嵌合されるとともにロッドの外周に摺接してロッドの移動を案内するロッドガイドと、チューブの内周に嵌合される環状のインサートメタルと、インサートメタルの内周側に一体に設けられてロッドの外周に摺接する内周シール部と、インサートメタルの外周側に一体に設けられてチューブの内周に当接する外周シール部とを有して、ロッドガイドのチューブに対して外方を向く外側端にインサートメタルを当接させてチューブ内を密閉するシール部材とを備え、インサートメタルがチューブに対して外方を向く外側端の外周側に最外周まで形成された形成された環状凹部によって設けられる段差部と外側端における段差部の外周に設けられた面取部とを有し、面取部の軸方向長さが段差部の軸方向長さより長く、シール部材がチューブの管端を内周側へ加締めて前記チューブに固定されることを特徴としている。
【0020】
このように構成された緩衝器によれば、段差部の軸方長さより面取部の軸方向長さの方が長いため、チューブの管端を加締めて加締部を形成する加工を行うと、加締部は段差部の影響を受けずにインサートメタルの外側端の外周の面取部に倣って変形して、インサートメタルの外周部において加締部の折れ曲がりの起点の内周が剥離せずにインサートメタルに密着する。
【発明の効果】
【0021】
本発明のシール部材の固定構造、シール部材の固定方法および緩衝器によれば、加締部の強度低下を招かず良好なシール性を担保できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一実施の形態におけるシール部材の固定構造が適用された緩衝器の縦断面図である。
図2】一実施の形態におけるシール部材の固定構造が適用された緩衝器の一部拡大縦断面図である。
図3】一実施の形態におけるシール部材の固定方法を説明する図である。
図4】従来のシール部材の固定構造の拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図に基づいて本発明を説明する。一実施の形態におけるシール部材1の固定構造は、図1に示すように、緩衝器Dに適用されており、緩衝器Dにおけるチューブとしてのシリンダ2内に出入りするロッド3の外周に摺接するとともにシリンダ2の内周に当接して、シリンダ2内を密閉している。
【0024】
以下、各部について詳細に説明する。まず、緩衝器Dの構造について説明する。緩衝器Dは、この場合、単筒型の緩衝器として構成されており、チューブとしてのシリンダ2と、シリンダ2内に軸方向に移動可能に挿入されるロッド3と、環状であってシリンダ2の内周に嵌合されるとともにロッド3の外周に摺接してロッド3の移動を案内するロッドガイド4と、シリンダ2の内周に嵌合されてロッドガイド4の反シリンダ側面に積層される環状のシール部材1とを備えている。
【0025】
また、緩衝器Dは、前記構成に加えて、シリンダ2内に摺動自在に挿入されるとともにシリンダ2内に気体が充填される気室Gと液体が充填される液室Lとを区画するフリーピストン5と、シリンダ2内に摺動自在に挿入されるとともにシリンダ2内の液室Lを伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン6と、ピストン6に設けられて伸側室R1と圧側室R2とを連通する通路7と、通路7を通過する液体の流れに抵抗を与える減衰バルブ8とを備えて構成されている。
【0026】
シリンダ2は、本実施の形態の緩衝器Dでは、アルミニウム合金製の筒であって、図1中下端が閉塞されて有底筒状とされており、図1中上方の管端が加締められてシリンダ2内に収容されたシール部材1とロッドガイド4とを固定している。なお、シリンダ2が底部も開放された筒である場合、キャップでシリンダ2の底部の開口部を閉塞すればよい。
【0027】
ロッドガイド4は、環状であって、図1中上端となるシリンダ2に対して反シリンダ側となる外方を向く外側端4aの内周側に設けた凹部4bと、図1中上端となる外側端4aの外周の全周に亘って設けられた環状の凹部4cと、内周に設けられてロッド3の外周に摺接する筒状のブッシュ4dとを備えて構成されている。また、ロッドガイド4は、シリンダ2の内周に嵌合されるスナップリング9によって図1中下方への移動が規制された状態でシリンダ2の図1中上端の内周に嵌合され、シリンダ2の上端開口部を閉塞している。また、ロッドガイド4の内周にはロッド3が挿入されており、ロッドガイド4は、内周の筒側のブッシュ4dをロッド3の外周に摺接させてロッド3の図1中上下方向となる軸方向の移動を案内する。
【0028】
つづいて、このロッドガイド4の図1中上方に配置されるシール部材1は、図1および図2に示すように、環状のインサートメタル11と、インサートメタル11の内周に一体的に設けられた環状の内周シール12と、インサートメタル11の外周側に一体に設けられた環状の外周シール部13とを備えてている。そして、シール部材1は、ロッドガイド4の反シリンダ側面となる外側端4aに当接しつつシリンダ2の内周に嵌合されるとともに内周にロッド3が挿通されており、内周シール12をロッド3の外周に摺接させるとともに外周シール13をシリンダ2の内周に当接させて、シリンダ2内を密閉している。
【0029】
インサートメタル11は、断面が凡そ矩形の環状プレートとされており、シリンダ2に対して外方を向く端面(図1中上端面)である外側端11aの外周側に全周に亘って最外周まで形成された環状凹部で設けられる段差部11bと、外側端11aの最外周となる段差部11aの外周に全周に亘って形成された面取部11cとを備えている。そして、インサートメタル11は、反シリンダ側の外側端11aを大気側に向けてシリンダ2の内周に嵌合される。
【0030】
段差部11bは、インサートメタル11の外側端11aの外周の途中から最外周にかけて環状凹部を設けることで形成されており、段差部11bの最外周は、インサートメタル11の外側端11aにおける最外周でもある。そして、面取部11cは、本実施の形態では、インサートメタル11の外側端の最外周をC面取りして形成されているが、R面取りして形成されてもよい。また、面取部11cの図1中で上下方向長さとなる軸方向長さL1は、段差部11bの図1中で上下方向長さとなる軸方向長さL2よりも長くなるように設定されている。つまり、図2に示すように、面取部11cの軸方向長さをL1とし、段差部11bの軸方向長さをL2とすると、L1>L2を満たすように面取部11cと段差部11bの寸法が設定されている。
【0031】
内周シール部12は、環状であって、インサートメタル11の内周の全周にゴム材をインサート成型することでインサートメタル11に一体化されており、ロッド3の外周に摺接して主としてシリンダ2内からの液体の漏洩を防止する第1リップ12aと、第1リップ12aの反シリンダ側に設けられておりロッド3の外周に摺接して主としてシリンダ2内への水や埃等の侵入を防止する第2リップ12bとを備えている。そして、内周シール12は、シール部材1がロッドガイド4の外側端4aに積層されてシリンダ2内に挿入されると、第1リップ12aがロッドガイド4の内周に設けられた凹部4b内に収容される。また、内周シール12は、シール部材1がシリンダ2内に挿入されると、第1リップ12aと第2リップ12bの双方をロッド3の外周に摺接させてロッド3の周囲をシールする。
【0032】
外周シール13は、シール部材1がロッドガイド4の外側端4aに積層されてシリンダ2内に挿入されると、ロッドガイド4の外周に設けられた凹部4cとシリンダ2との間の環状隙間に侵入して、ロッドガイド4とシリンダ2との双方に密着してシリンダ2とロッドガイド4との間をシールする。
【0033】
このように構成されたシール部材1は、シリンダ2内にロッドガイド4とともに挿入されるとともに、シリンダ2の図1中上端の管端をロール加締めすることで内側へ向けて折り曲げられて形成される加締部2aとスナップリング9とでロッドガイド4と共に挟持されてシリンダ2に固定されている。
【0034】
つづいて、フリーピストン5は、シリンダ2内に摺動自在に挿入されるとともにシリンダ2内を気室Gと液室Lとに区画しており、シリンダ2に対して軸方向へ移動すると気室Gと液室Lとの一方を拡大させるとともに他方を縮小させる。また、ピストン6は、シリンダ2内に摺動自在に挿入されるとともにロッド3の先端に連結されており、シリンダ2内における液室Lを伸側室R1と圧側室R2とに区画している。
【0035】
ピストン6には、伸側室R1と圧側室R2とを連通する通路7と、通路7を通過する液体の流れに抵抗を与える減衰バルブ8とが設けられている。なお、減衰バルブ8は、本実施の形態では、液体が伸側室R1から圧側室R2へ向かう流れと圧側室R2から伸側室R1へ向かう流れとの双方向の流れを許容するバルブとされているが、ピストン6に複数の通路を設置される場合、伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容する一方通行のバルブを通路の一部に設けて、圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れのみを許容する一方通行のバルブを残りの通路に設けるようにしてもよい。なお、シリンダ2内に充填される液体は、作動油のほか、水、水溶液、電気粘性流体、磁気粘性流体等、緩衝器に適用可能なものを採用することが可能であって、液体が電気粘性流体或いは磁気粘性流体である場合には減衰バルブ8に代えて通路7に電界或いは磁界を作用させる減衰力発生手段を設ければよい。また、気室G内に充填される気体は、空気でもよいが窒素などの不活性ガスとされるのが好ましい。
【0036】
緩衝器Dは、前述したように、単筒型緩衝器とされており、伸長する場合、ピストン6に設けた通路7を介して圧縮される図1中上方の伸側室R1から拡大される図1中下方の圧側室R2へ移動する液体の流れに減衰バルブ8によって抵抗を与えて伸側の減衰力を発生する。反対に、緩衝器Dは、収縮する場合、ピストン6に設けた通路7を介して圧縮される図1中下方の圧側室R2から拡大される図1中上方の伸側室R1へ移動する液体の流れに減衰バルブ8によって抵抗を与えて圧側の減衰力を発生する。
【0037】
また、この緩衝器Dにあっては、伸縮行程時において、シリンダ2内に侵入或いはシリンダ2から退出するロッド3の体積分の容積を気室Gが膨張或いは収縮することで補償している。
【0038】
なお、前述した緩衝器Dは、一例であって、シリンダ2の外周にアウターチューブを設けて、シリンダ2とアウターチューブとの間の環状隙間にシリンダ2内に出入りするロッド3の体積補償を行うリザーバを設ける複筒型緩衝器とされてもよし、ロッド3がピストン6を貫通して、シリンダ2の両端から外部へ突出する両ロッド型の緩衝器とされてもよい。このように、緩衝器Dが複筒型の緩衝器とされる場合、アウターチューブをチューブとしてシール部材1をアウターチューブの管端を加締めることで固定するようにし、シール部材1でアウターチューブ内を密閉すればよい。
【0039】
以上のように構成された緩衝器Dを組み立てるには、以下のようにする。まず、シール部材1のインサートメタル11には、前述したように、反シリンダ側となる外側端11aに段差部11bを設けるとともに、面取部11cを設ける。具体的には、インサートメタル11の外側端11aの外周部を切削加工によって、段差部11bを形成した後、インサートメタル11の外側端11aの最外周を切削によってC面取りを施して面取部11cを形成する。段差部11bと面取部11cをインサートメタル11に形成する順序は逆でもよい。なお、インサートメタル11を板材から打ち抜きするプレス加工によって成型する場合には、段差部11bと面取部11cを型で打ち抜いて同時に成型するようにしてもよい。また、インサートメタル11を焼結などによって成型する場合は、段差部11bと面取部11cとを形成できる金型の利用によって、焼結成型と同時に段差部11bと面取部11cとを成型してもよい。
【0040】
インサートメタル11が得られたら、インサートメタル11に接着剤を塗布した後、内周シール部12と外周シール部13とを形作る図示しない金型内にインサートメタル11を挿入して、金型内にゴム材を注入して焼き付ける。すると、インサートメタル11にゴム材でなる内周シール部12と外周シール部13とがインサート成型によって一体化されてシール部材1が得られる。
【0041】
そして、フリーピストン5をシリンダ2内へ挿入し、ロッド3にピストン6を組付けたものをシリンダ2内へ挿入した後、スナップリング9がシリンダ2へ装着される。
【0042】
つづいて、前述のようにして得られたシール部材1は、図3に示すように、予めシリンダ2の内周に取り付けられたスナップリング9にロッドガイド4が当接するまでロッドガイド4をシリンダ2内に挿入した後にシリンダ2内に挿入される。
【0043】
具体的には、シール部材1は、インサートメタル11の外周をシリンダ2の内周に嵌合させて、インサートメタル11のシリンダ側を向く内側面11dとロッドガイド4の外側端4aに当接させて、シリンダ2内に挿入される。なお、シール部材1のシリンダ2内への挿入は、ロッドガイド4に重ねた状態でロッドガイド4とともに行われてもよい。
【0044】
シール部材1がシリンダ2内にロッドガイド4とともに挿入されると、シール部材1がシリンダ2の上端から所定の長さだけ奥に入り込み、シリンダ2の管端部分がインサートメタル11の外側端11aより軸方向で突出する。
【0045】
このように、シリンダ2内にシール部材1が挿入された状態で、シリンダ2の管端の全周あるいは数か所を内周側へ向けて少し折り曲げて仮加締めを行う。
【0046】
すると、シール部材1は、仮加締めによってシリンダ2の内周側に折り曲げられた管端によってシリンダ2に仮固定される。その後、シール部材1にロッドガイド4側へ向けて軸力を負荷しつつ、シリンダ2の管端の全周に亘って外周側からロール加締め加工することで、図3中破線で示すように、管端をシリンダ2の内側へ向けて折り曲げて加締部2aを形成して、加締部2aとスナップリング9との間でシール部材1とロッドガイド4とが挟持されてシリンダ2に固定される。
【0047】
ここで、シリンダ2の加締部2aは、図2に示すように、インサートメタル11の外側端11aの外周の面取部11cを起点に折り曲げ変形する。そして、加締部2aの先端は、インサートメタル11の外周面11aの面取部11cよりも内周側に形成される段差部11bの内周壁の角部11eに乗り上げて内周側へ到達する。このように、シリンダ2の管端を加締めて形成される加締部2aは、段差部11bの内周の角部11eに乗り上げるものの、段差部11bの軸方長さL2より面取部11cの軸方向長さL1の方が長いため、段差部11bの影響を受けずにインサートメタル11の外側端11aの外周の面取部11cに倣って変形するため、剥離を生じずに段差部11bの図2中上面に密着する。
【0048】
なお、シリンダ2の管端の加締め加工が進行して当該管端が徐々に内周側へ折り込まれていく際に、インサートメタル11の段差部11bの上面に形成されるゴム膜が内周側へ向けて押し出されて糸状のゴム片が発生する。ところが、加締め加工後の加締部2aと段差部11bの内周の壁面との間の隅にゴム片を収容する隙間Sが形成されてゴム片を閉じ込めてゴム片がインサートメタル11の内周側へ移動するのを規制するため、シール部材1のシール性を損なうことはない。
【0049】
以上のように、本実施の形態のシール部材1の固定構造は、環状のインサートメタル11とインサートメタル11に一体に設けられた内周シール部(シール部)12および外周シール部(シール部)13とを有してシリンダ(チューブ)2の内周にインサートメタル11の外周を嵌合させてシリンダ(チューブ)2内を密閉するシール部材1をシリンダ(チューブ)2の管端を内周側へ加締めて固定するシール部材1の固定構造であって、インサートメタル11がシリンダ(チューブ)2に対して外方を向く外側端11aの外周側に最外周まで形成された環状凹部によって設けられる段差部11bと外側端11aにおける段差部11bの外周に設けられた面取部11cとを備えており、面取部11cの軸方向長さL1が段差部11bの軸方向長さL2より長くなっている。
【0050】
このように構成されたシール部材1の固定構造によれば、段差部11bの軸方長さL2より面取部11cの軸方向長さL1の方が長いため、シリンダ(チューブ)2の管端を加締めて加締部2aを形成する加工を行うと、加締部2aは段差部11bの影響を受けずにインサートメタル11の外側端11aの外周の面取部11cに倣って変形して、インサートメタル11の外周部において加締部2aの折れ曲がりの起点の内周が剥離せずにインサートメタル11に密着する。したがって、本実施の形態のシール部材1の固定構造によれば、シリンダ(チューブ)2の加締部2aが剥離せずにインサートメタル11に密着するので、加締部2aにおける強度低下を招くこともなく、シール部材1の良好なシール性を担保できる。
【0051】
また、本実施の形態のシール部材1の固定構造では、シリンダ(チューブ)2が鋼材で形成される場合に比較して柔らかいアルミニウム合金製とされても、前述したように、シリンダ2の管端を加締めて形成される加締部2aがインサートメタル11の外側端11aの外周部に密着するので強度が保証される。したがって、本実施の形態のシール部材1の固定構造によれば、シリンダ(チューブ)2を鋼材に比較して柔らかいアルミニウム合金製としても強度を確保しつつも、シール部材1の固定構造を適用した緩衝器D等を軽量化できる。
【0052】
さらに、本実施の形態のシール部材1の固定方法は、環状のインサートメタル11とインサートメタル11に一体に設けられた内周シール部(シール部)12および外周シール部(シール部)13とを有してシリンダ(チューブ)2の内周にインサートメタル11の外周を嵌合させてシリンダ(チューブ)2内を密閉するシール部材1をシリンダ(チューブ)2の管端を内周側へ加締めて固定するシール部材1の固定方法であって、インサートメタル11のシリンダ(チューブ)2に対して外方を向く外側端11aの外周側に最外周まで形成される段差部11bと段差部11bの外周に段差部11bの軸方向長さL2より長い軸方向長さL1を持つ面取部11cとが設けられたシール部材1をシリンダ(チューブ)2内に挿入し、シリンダ(チューブ)2の管端を内周側へ加締めてシリンダ(チューブ)2にシール部材1を固定する固定方法となっている。
【0053】
このように構成されたシール部材1の固定方法によれば、段差部11bの軸方長さL2より面取部11cの軸方向長さL1の方が長いため、シリンダ(チューブ)2の管端を加締めて加締部2aを形成する加工を行うと、加締部2aは、段差部11bの影響を受けずにインサートメタル11の外側端11aの外周の面取部11cに倣って変形して、インサートメタル11の外周部において加締部2aの折れ曲がりの起点の内周が剥離せずにインサートメタル11に密着する。したがって、本実施の形態のシール部材1の固定方法によれば、シリンダ(チューブ)2の加締部2aが剥離せずにインサートメタル11に密着するので、加締部2aにおける強度低下を招くこともなく、シール部材1の良好なシール性を担保できる。
【0054】
さらに、本実施の形態における緩衝器Dは、シリンダ(チューブ)2内に軸方向へ移動可能に挿入されるロッド3と、環状であってシリンダ(チューブ)2の内周に嵌合されるとともにロッド3の外周に摺接してロッド3の移動を案内するロッドガイド4と、シリンダ(チューブ)2の内周に嵌合される環状のインサートメタル11とインサートメタル11の内周側に一体に設けられてロッド3の外周に摺接する内周シール部12とインサートメタル11の外周側に一体に設けられてシリンダ(チューブ)2の内周に当接する外周シール部13とを有してロッドガイド4のシリンダ(チューブ)2に対して外方を向く外側端4aにインサートメタル11を当接させてシリンダ(チューブ)2内を密閉するシール部材1とを備え、インサートメタル11がシリンダ(チューブ)2に対して外方を向く外側端11aの外周に形成された環状凹部によって設けられる段差部11bと外側端11aにおける段差部11bの外周に設けられた面取部11cとを有し、面取部11cの軸方向長さL1が段差部11bの軸方向長さL1より長く、シール部材1がシリンダ(チューブ)2の管端を内周側へ加締めてシリンダ(チューブ)2に固定されている。
【0055】
このように構成された緩衝器Dによれば、段差部11bの軸方長さL2より面取部11cの軸方向長さL1の方が長いため、シリンダ(チューブ)2の管端を加締めて加締部2aを形成する加工を行うと、加締部2aは段差部11bの影響を受けずにインサートメタル11の外側端11aの外周の面取部11cに倣って変形して、インサートメタル11の外周部において加締部2aの折れ曲がりの起点の内周が剥離せずにインサートメタル11に密着する。したがって、本実施の形態の緩衝器Dによれば、シリンダ(チューブ)2の加締部2aが剥離せずにインサートメタル11に密着するので、加締部2aにおける強度低下を招くこともなく、シール部材1が良好なシール性を保つため、長期間に亘って安定した減衰力を発揮できる。
【0056】
なお、前述したが、本実施の形態の緩衝器Dが単筒型緩衝器とされているため、シリンダ2をチューブとしているが、複筒型緩衝器とされる場合にはシリンダの外周を覆ってシリンダとの間にリザーバを形成するアウターチューブをチューブとしてもよい。また、シール部材1におけるインサートメタル11の外側端11aに段差部11bと面取部11cを備えていればよく、シール部材1におけるシール部はチューブ内を密閉可能であればよいので、インサートメタル11に対するシール部の設置箇所、形状および設置数は適宜設計変更できる。また、本発明におけるシール部材1の固定構造および固定方法は、緩衝器D以外にも流体圧アクチュエータやその他の流体圧機器に利用できる。また、緩衝器Dの説明に当たり、作動流体を液体として説明しているが、気体のみを作動流体としてもよいし、シール部材1の固定構造および固定方法が適用される流体圧アクチュエータやその他の流体圧機器における作動流体は液体に限られない。
【0057】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0058】
1・・・シール部材、2・・・シリンダ(チューブ)、3・・・ロッド、4・・・ロッドガイド、4a・・・ロッドガイドの外側端、11・・・インサートメタル、11a・・・外側端、11b・・・段差部、11c・・・面取部、12・・・内周シール部(シール部)、13・・・外周シール部(シール部)、D・・・緩衝器、L1・・・面取部の軸方向長さ、L2・・・段差部の軸方向長さ、
図1
図2
図3
図4