(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】溶融成形型
(51)【国際特許分類】
G01C 19/5691 20120101AFI20241030BHJP
C03B 23/035 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
G01C19/5691
C03B23/035
(21)【出願番号】P 2021107971
(22)【出願日】2021-06-29
【審査請求日】2024-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島岡 敬一
(72)【発明者】
【氏名】藤塚 徳夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 忠司
(72)【発明者】
【氏名】船橋 博文
(72)【発明者】
【氏名】原田 翔太
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 優輝
(72)【発明者】
【氏名】後藤 勝昭
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 啓太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貴彦
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0079129(US,A1)
【文献】特開2012-42452(JP,A)
【文献】特開昭61-281032(JP,A)
【文献】特表2020-528582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 19/00 - 19/72
C03B 23/00 - 40/02
B29C 51/10
51/36
B81B 1/00 - 7/04
B81C 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏面と、
前記裏面と平行な表面と、
前記表面に形成されている穴部であって、前記表面に垂直な軸を中心とした円柱がくり抜かれた形状を有するとともに穴底面を備えている前記穴部と、
前記軸を中心として前記穴底面から上方へ伸びている支柱と、
前記穴部の周囲を取り囲むように形成されている第1溝と、
を備える溶融成形型であって、
前記第1溝は、
前記溶融成形型の外周面または前記穴部の少なくとも一方に連通しているとともに、前記裏面および前記表面には連通しておらず、
前記表面に垂直な方向の幅が前記表面に平行な方向の幅よりも小さい、溶融成形型。
【請求項2】
前記第1溝の内部に配置されている温度センサをさらに備える、請求項1に記載の溶融成形型。
【請求項3】
前記溶融成形型は、嵌め合いによって一体となる下側成形型と上側成形型とを備えており、
前記下側成形型の上面と前記上側成形型の下面とが距離を有して対向している領域に、前記第1溝が形成されている、請求項1または2に記載の溶融成形型。
【請求項4】
前記下側成形型は、前記上側成形型よりも熱伝導率が低い材料である、請求項3に記載の溶融成形型。
【請求項5】
前記第1溝は、前記穴部に連通しているとともに、前記溶融成形型の前記外周面に連通しておらず、
前記溶融成形型は、前記穴底面から前記裏面に貫通している1つ以上の排気孔をさらに備える、請求項1~3の何れか1項に記載の溶融成形型。
【請求項6】
前記穴部の周囲を取り囲むように形成されている第2溝をさらに備え、
前記第2溝は、
前記裏面に連通しているとともに、前記溶融成形型の外周面、前記穴部および前記表面には連通しておらず、
前記表面に平行な方向の幅が前記表面に垂直な方向の幅よりも小さい、
請求項1~5の何れか1項に記載の溶融成形型。
【請求項7】
前記穴部の内部に配置されており、前記軸を中心とした円筒形状を有する円筒部材をさらに備え、
前記円筒部材の外周面と前記穴部の内周面との間には一定の隙間が形成されている、請求項1~6の何れか1項に記載の溶融成形型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、振動子の溶融成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高精度化が可能であるジャイロとして、溶融シリカを振動子に用いたBird-bath Resonator Gyroscope (BRG)が開示されている。具体的には、表面に穴部が形成されている成形型に、穴部を塞ぐように石英板を配置する。穴部の内部を減圧しながら、石英板の上面をバーナで加熱する。穴部の内部に入り込むように石英板を溶融変形させることで、半球形状の振動子を作製することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2018/079129号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加熱された石英板の熱は、石英板と成形型の表面との接触面を介して、成形型へ排熱される。これにより石英板には、穴部の中心から外周に向かって温度が低下する温度勾配が発生する。この温度勾配が、振動子の加工形状に影響してしまう場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する溶融成形型の一実施形態は、裏面を備える。溶融成形型は、裏面と平行な表面を備える。溶融成形型は、表面に形成されている穴部であって、表面に垂直な軸を中心とした円柱がくり抜かれた形状を有するとともに穴底面を備えている穴部を備える。溶融成形型は、軸を中心として穴底面から上方へ伸びている支柱を備える。溶融成形型は、穴部の周囲を取り囲むように形成されている第1溝を備える。第1溝は、溶融成形型の外周面または穴部の少なくとも一方に連通しているとともに、裏面および表面には連通していない。第1溝は、表面に垂直な方向の幅が表面に平行な方向の幅よりも小さい。
【0006】
第1溝によって、溶融成形型の上部から下部への熱伝導経路を小さくすることができる。成溶融成形型への排熱を抑制することができる。これにより、穴部の中心から外周に向かって温度が低下する温度勾配が被加工材料に発生してしまうことを抑制できる。
【0007】
溶融成形型は、第1溝の内部に配置されている温度センサをさらに備えていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0008】
溶融成形型は、嵌め合いによって一体となる下側成形型と上側成形型とを備えていてもよい。下側成形型の上面と上側成形型の下面とが距離を有して対向している領域に、第1溝が形成されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0009】
下側成形型は、上側成形型よりも熱伝導率が低い材料であってもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0010】
第1溝は、穴部に連通しているとともに、溶融成形型の外周面に連通していなくてもよい。溶融成形型は、穴底面から裏面に貫通している1つ以上の排気孔をさらに備えていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0011】
溶融成形型は、穴部の周囲を取り囲むように形成されている第2溝をさらに備えていてもよい。第2溝は、裏面に連通しているとともに、溶融成形型の外周面、穴部および表面には連通していなくてもよい。第2溝は、表面に平行な方向の幅が表面に垂直な方向の幅よりも小さくてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0012】
溶融成形型は、穴部の内部に配置されており、軸を中心とした円筒形状を有する円筒部材をさらに備えていてもよい。円筒部材の外周面と穴部の内周面との間には一定の隙間が形成されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図5】従来の成形型1020を用いて振動子31を作製する場合の断面図である。
【
図6】本実施例の成形型20を用いて振動子31を作製する場合の断面図である。
【
図10】実施例4の成形装置401の上面図である。
【
図11】実施例4の成形装置401の断面図である。
【
図12】円筒ライナ421の形成方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0014】
図1および
図2に、実施例1の成形装置1を示す。
図1は上面図である。
図2は、
図1のII-II線における断面図である。成形装置1は、プレート10、成形型20、石英板30、熱電対40、バーナ50、を備える。なお
図1では、バーナ50の記載を省略している。
【0015】
プレート10は、成形型20を設置するためのステンレス製の台である。プレート10は開口部10aを備えている。開口部10aは、不図示の真空ポンプにより真空とすることができる。
【0016】
成形型20は、溶融シリカを用いて半球形状の振動子31を成形するための型である。振動子31については後述する。成形型20は、下側成形型20Lと上側成形型20Uとを備えている。下側成形型20Lと上側成形型20Uとは、嵌め合いによって一体とすることができる。本実施例では、下側成形型20Lが有する円形の溝20Ltに、上側成形型20Uが有する円筒形状の突起20Upがはめ込まれることで、両者は一体化している。下側成形型20Lは、上側成形型20Uよりも熱伝導率が低い材料で形成されている。本実施例では、下側成形型20Lの材料は窒化ホウ素(BN))であり、上側成形型20Uの材料はグラファイトである。
【0017】
本実施例では、成形型20は、中心軸CAを備えた円板形状である。成形型20は、裏面20r、表面20s、穴部20h、支柱20p、排気口20e、平行溝20t1を備える。裏面20rおよび表面20sは、中心軸CAに垂直な平坦面である。表面20sは、裏面20rと平行である。表面20sの一部には、穴部20hが形成されている。穴部20hは、石英板30が溶融変形するための変形空間である。本実施例では、穴部20hは、中心軸CAを中心とした円柱がくり抜かれた形状を有している。穴部20hは、底面20bを備えている。穴部20hの中央には、底面20bから垂直上方に伸びている支柱20pが配置されている。支柱20pは、中心軸CAを中心軸とする円柱である。底面20bには、裏面20rに貫通している複数の排気口20eが形成されている。排気口20eは開口部10aに連通している。
【0018】
平行溝20t1は、表面20sと略平行に延びている溝である。平行溝20t1は、穴部20hの周囲を取り囲むように形成されている。本実施例では、下側成形型20Lの上面20Luと上側成形型20Uの下面20Urとが距離を有して対向している領域に、平行溝20t1が形成されている。換言すると、分割された下側成形型20Lと上側成形型20Uの間の隙間によって、平行溝20t1が形成されている。これにより、一体の成形型に平行溝を形成する場合に比して、平行溝20t1を精度よく低コストで形成することが可能である。
【0019】
平行溝20t1は、成形型20の外周面20cに連通している(領域R1参照)。また平行溝20t1は、裏面20rおよび表面20sには連通していない。平行溝20t1は、表面20sに垂直な方向の幅W1と、表面20sに平行な方向の幅W2を備えている。幅W1は幅W2よりも小さい。
【0020】
平行溝20t1の内部には、熱電対40が配置されている。これにより、上側成形型20Uの穴部20h近傍に位置している、領域TRの温度を測定することができる。
【0021】
上側成形型20Uの下面20Urの外周部には、3つのスペーサ20Usが配置されている。スペーサ20Usは、上側成形型20Uと一体に形成されていてもよいし、別部品で構成されていてもよい。スペーサ20Usの高さH1は、平行溝20t1の幅W1と同等である。スペーサ20Usの下面は、下側成形型20Lの上面20Luに接触している。これにより、上側成形型20Uの外周を支持することができるため、剛性を高めることができる。熱衝撃等による成形型20の破損を防止することが可能となる。なおスペーサ20Usの数は3つ以上であれば、自由に設定可能である。これにより、上側成形型20Uの外周を面で支持することができる。
【0022】
表面20sには、穴部20hを覆うように、石英板30が配置されている。石英板30は、振動子を形成するための被加工材料である。石英板30の厚さは、例えば100μm以下である。本実施例では石英板30は正方形であるが、長方形や円形であってもよい。バーナ50は、火炎により石英板30を加熱する手段である。バーナ50は、中心軸CAに沿って上下に移動可能である。
【0023】
(製造工程)
図2および
図3を用いて、振動子の製造工程を説明する。ステップS1において、プレート10上に成形型20を設置する。ステップS2において、表面20sに石英板30を配置する。ステップS3において、所望の真空度で開口部10aの真空引きを行う。排気口20eを介して、穴部20hも真空引きされる。石英板30が表面20sに吸着され、固定される。これにより、
図2に示す状態となる。
【0024】
ステップS4において、加熱工程が行われる。具体的には、バーナ50に着火し、所望の速度で下降させる。ステップS5において、測定工程が行われる。熱電対40を用いて、上側成形型20Uの領域TRの温度を測定する。ステップS6において、温度測定値に基づいて、加工パラメータを制御する。具体的には、バーナ50のガス流量、バーナ50と石英板30との距離、減圧圧力、加熱時間などの各種の加工パラメータを、温度測定値に基づいてフィードバック制御する。これにより、
図3に示すように、石英板30を所望の形状に溶融変形させることができる。
【0025】
ステップS7において、加工終点を検出することに応じて、バーナ50を上昇させ、消火する。石英板30が所望の温度になるまで冷却した後に、穴部20hを大気開放する。成形型20から溶融加工した石英板30を取り出す。
【0026】
なお、ステップS6は省略してもよい。この場合、ステップS7において、熱電対40による温度測定値に基づいて、加工終点を検出してもよい。
【0027】
ステップS8において、石英板30の未成形領域URをCMP法などによって除去することで、振動子31が完成する。ステップS9において、Bird-bath Resonator Gyroscope (BRG)を組み立てる。
図4(A)に、BRG60の上面図を示す。また
図4(B)に、
図4(A)のB-B線における断面図を示す。BRG60は、振動子31、ガラス基板61、シリコン電極62、を備える。振動子31は、アンカー31aおよびリム31rを備えている。アンカー31aは、ガラス基板61の固定部61fに固定されている。シリコン電極62は、リム31rの周囲を取り囲むように配置されている。
【0028】
BRG60の動作を説明する。振動子31とシリコン電極62との間に所望の周波数で電圧を印加し、振動子31を共振駆動させる。この状態でBRG60にz軸周りの回転が作用すると、振動モードが変化する。その変化に伴う振動子31とシリコン電極62の間の静電容量を計測することにより、回転角を高精度に検出することができる。
【0029】
(効果)
課題を説明する。BRG60の感度を高めるためには、振動子31のリム31rの傾斜角θ(
図4(B)参照)を90°に近づける必要がある。リム31rとシリコン電極62の側面とを平行にするとともに距離を小さくすることで、回転角の作用による静電容量の変化を大きくするためである。ここで比較例として、
図5に示す従来の成形型1020を用いて振動子31を作製する場合を説明する。従来の成形型1020は、平行溝20t1を備えない型である。白矢印は、成形型1020内の熱伝導を示しており、矢印の面積が大きいほど伝熱量が大きい。従来の成形型1020では、成形型1020全体がプレート10への熱伝導経路となるため、熱伝導経路の幅HW1は非常に広い。従って白矢印に示すように、石英板30の熱のうちの大きな部分が、成形型1020を介してプレート10へ排熱されてしまう。その結果、石英板30は、穴部20hの外周に向かって温度が低下する温度勾配を有することとなり、未変形領域NR(石英の軟化温度以上に加熱されず、石英板30が変形しない領域)が形成されてしまう。よって傾斜角θが90°よりも小さくなってしまう。次に、
図6に示す本実施例の成形型20を用いて振動子31を作製する場合を説明する。本実施例の成形型20は、平行溝20t1を備えている。黒矢印は、平行溝20t1内の空気の熱伝導を示しており、矢印の面積が大きいほど伝熱量が大きい。平行溝20t1内の空気の熱伝導率は、グラファイトの熱伝導率に比して極めて低い。よって黒矢印に示すように、平行溝20t1が配置されている領域では、配置されていない領域に比して伝熱量を減少させることができる。すなわち、平行溝20t1により断熱することができる。その結果、平行溝20t1が形成されていない領域がプレート10への熱伝導経路となるため、熱伝導経路の幅HW2(
図6)を幅HW1(
図5)よりも狭くすることができる。成形型20を介したプレート10への排熱量を減少させることができるため、石英板30に発生する温度勾配を抑制できる。未変形領域NRの形成が抑えられるため、傾斜角θを90°に近づけることが可能となる。
【0030】
下側成形型20L(窒化ホウ素)は、上側成形型20U(グラファイト)よりも熱伝導率が低い材料で形成されている。これにより、上側成形型20Uからプレート10への熱伝導を抑制することが可能となる。
【0031】
平行溝20t1を、熱電対40を挿入するための通路として流用することができる。これにより、上側成形型20Uの領域TRの温度情報に基づいて工程管理を行うことができるため、工程管理の精度を高めることが可能になる。振動子の加工形状ばらつきを抑制できるため、歩留まりが向上し、製造コストの削減が可能となる。
【実施例2】
【0032】
図7および
図8に、実施例2の成形装置201の上面図および断面図を示す。実施例2は、下側成形型220Lと上側成形型220Uとの嵌合部が、成形型220の外周に配置されている点が、実施例1と異なっている。実施例1の成形装置1と共通する部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。
【0033】
成形型220は、下側成形型220Lと上側成形型220Uとを備えている。下側成形型220Lは、外周を取り囲む円形の溝220Ltを備えている。上側成形型220Uは、外周を取り囲む円筒形状の突起220Upを備えている。溝220Ltに突起220Upが嵌合することで、下側成形型220Lと上側成形型220Uとは一体化している。
【0034】
平行溝220t1は、穴部20hに連通している(
図8、領域R21参照)。また平行溝220t1は、成形型220の外周面20c、裏面20rおよび表面20sには連通していない。平行溝220t1の内部には、突起220Upを貫通して熱電対40が配置されている。熱電対40の貫通部は、シール等により気密が保たれている。なお、実施例2の平行溝220t1のその他の構成は、実施例1の平行溝20t1と同様であるため、説明を省略する。
【0035】
上側成形型220Uの下面20Urの内周部には、3つのスペーサ220Usが配置されている。実施例2の220Usの構成は、実施例1のスペーサ20Usと同様であるため、詳細な説明を省略する。3つのスペーサ220Usにより、上側成形型220Uの内周を面で支持することができるため、剛性を高めることが可能となる。
【0036】
(効果)
平行溝220t1の外周側の気密は、溝220Ltと突起220Upとの嵌合により保たれている。また平行溝220t1は、穴部20hに連通している。従って、穴部20hの真空引きを行うことにより、平行溝220t1の内部を真空状態とすることができる。平行溝220t1内に空気が存在する場合に比して、平行溝220t1が配置されている領域での伝熱量を、さらに低減することが可能となる。振動子31の傾斜角θを90°に近づけることが可能となる。
【実施例3】
【0037】
図9に、実施例3の成形装置301の断面図を示す。実施例3は、下側成形型220Lが垂直溝220t2を備えている点が、実施例2と異なっている。実施例2の成形装置201と共通する部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。
【0038】
下側成形型220Lは、垂直溝220t2を備えている。垂直溝220t2は、表面20sと略垂直に延びている溝である。垂直溝220t2は、穴部20hの周囲を取り囲むように形成されている。垂直溝220t2は、裏面20rを介して開口部10aに連通している。また垂直溝220t2は、成形型220の外周面20c、穴部20hおよび表面20sには連通していない。垂直溝220t2は、表面20sに平行な方向の幅W31と、表面20sに垂直な方向の幅W32と、を備えている。幅W31は幅W32よりも小さい。
【0039】
(効果)
垂直溝220t2により、穴部20hの周囲を断熱することができる。その結果、垂直溝220t2が形成されていない領域がプレート10への熱伝導経路となるため、熱伝導経路をさらに狭くすることが可能となる。成形型20を介したプレート10への排熱量をさらに減少させることができるため、振動子31の傾斜角θを90°に近づけることが可能となる。
【0040】
開口部10aの真空引きを行うことにより、垂直溝220t2の内部を真空状態とすることができる。垂直溝220t2内に空気が存在する場合に比して、垂直溝220t2の断熱効果をさらに高めることが可能となる。
【実施例4】
【0041】
図10および
図11に、実施例4の成形装置401の上面図および断面図を示す。
図11は、
図10のXI-XI線における断面図である。なお
図10では、石英板30およびバーナ50の記載を省略している。また
図11では、変形後の石英板30を記載している。
【0042】
成形装置401は、プレート410、成形型ベース420、支柱420p、円筒ライナ421、石英板30、を備える。プレート410は、ステンレス製である。プレート410は、下側プレート410Lと上側プレート410Uとを備えている。下側プレート410Lは、開口部410aを備えている。開口部410aは、排気管410pを介して不図示の真空ポンプへ接続している。
【0043】
上側プレート410Uは、表面410sに係合溝410t1~410t3を備えている。係合溝410t1には、成形型ベース420の下面が係合している。係合溝410t2には、円筒ライナ421の下面が係合している。係合溝410t3には、支柱420pの下面が係合している。また上側プレート410Uは、上側プレート410Uの裏面410rに貫通している吸気孔410v1~410v3を備えている。吸気孔410v1の上端は、成形型ベース420の裏面に接触している。吸気孔410v2の上端は、円筒ライナ421の裏面に接触している。吸気孔410v3の上端は、支柱420pの裏面に接触している。これにより、開口部410aを真空引きすることで、成形型ベース420、円筒ライナ421、支柱420pを上側プレート410Uに吸着固定することができる。また上側プレート410Uは、裏面410rに貫通している排気口410eを備えている。排気口410eは、穴部421hと開口部410aとを連通している。
【0044】
成形型ベース420は、下側成形型ベース420Lと上側成形型ベース420Uとを備えている。下側成形型ベース420Lと上側成形型ベース420Uとの間には、平行溝420t1が形成されている。下側成形型ベース420Lおよび上側成形型ベース420Uの構造は、実施例2の下側成形型220Lおよび上側成形型220Uの構造と同様であるため、説明を省略する。
【0045】
成形型ベース420は、中心軸CAを中心とした円柱がくり抜かれた形状を有する、穴部420aを備える。穴部420aの内部には、円筒ライナ421が配置されている。円筒ライナ421は、中心軸CAを中心とした円筒形状を有する円筒部材である。円筒ライナ421の内部には、石英板30が溶融変形するための変形空間である、穴部421hが形成されている。円筒ライナ421の内壁の上側には、加工基準面421mが形成されている。円筒ライナ421の外周面と穴部420aの内周面との間には、一定の隙間G1が形成されている。
【0046】
成形装置401では各パーツに要求される機能に応じて、材料を適切に選択することができる。例えば、石英板30に接触する円筒ライナ421や支柱420pは、耐熱衝撃性に優れるとともに熱伝導率が30W/(m・K)以上の材料を用いてもよい。また、石英板30に接触しないパーツは、熱伝導率が10W/(m・K)未満で酸化損耗のない酸化物を用いてもよい。石英板30に接触しないパーツの熱伝導率を低下させることができるため、プレート410への熱伝導を抑制することが可能となる。本実施例では、円筒ライナ421および支柱420pは、グラファイト又はBNである。また成形型ベース420は、コージェライトである。
【0047】
(円筒ライナ421の形成方法および機能)
図12(A)~(C)を用いて円筒ライナ421の形成方法を説明する。
図12(A)~(C)は、中心軸CAを通る断面図である。第1基準モールド71および第2基準モールド72は、中心軸CAを中心とした同心円形状を有している。
図12(A)に示すように、第1基準モールド71内に原料粉末73(例:窒化ホウ素)を入れ、第2基準モールド72によって圧粉成形する。この状態で焼成することで、
図12(B)に示すように、焼結体73sが得られる。
図12(C)に示すように、開口部73aを加工することで、円筒ライナ421が完成する。
【0048】
円筒ライナ421は、加工基準面421mを備えている。加工基準面421mは、振動子31のリム31rの理想的形状に沿った曲面である。
図11に示すように、溶融成形後の石英板30は、加工基準面421mに接触する。これにより、加工基準面421mに沿わせて振動子31を成形することができるため、リム31rの形状の再現性を高めることができる。
【0049】
本実施例では、加工基準面421mを第2基準モールド72によって圧粉成形している。これにより、切削加工等により加工基準面421mを成形する場合に比して、加工基準面421mの加工精度ばらつきを抑制できる。その結果、振動子31のリム31rの形状の再現性を高めることが可能となる。
【0050】
(効果)
円筒ライナ421の外周面と穴部420aの内周面との間に隙間G1が形成されていることにより、円筒ライナ421と成形型ベース420との間の熱膨張量の差を吸収することができる。円筒ライナ421や成形型ベース420の破損を防止することが可能となる。また隙間G1によって、円筒ライナ421から成形型ベース420への熱伝導を抑制することができるため、成形型ベース420への排熱を抑制することが可能となる。
【0051】
成形型ベース420、支柱420p、円筒ライナ421を別体パーツとすることで、劣化したパーツのみを交換することができる。成形装置401のライフサイクルを延長することが可能となる。
【0052】
(実施例4の変形例)
円筒ライナ421の断面形状は、加工基準面421mを備えない形状であってもよい。隙間G1を真空状態にしてもよい。
【0053】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0054】
(変形例)
【0055】
成形型は、上側成形型20U(または220U)と下側成形型20L(または220L)とに分割する形態に限られず、一体成型されていてもよい。
【0056】
平行溝20t1や220t1は、表面20sと平行に限られない。表面20sに対して傾斜したり蛇行していてもよい。
【0057】
成形型20、220の材料は窒化ホウ素やグラファイトに限られない。所定の熱衝撃耐性や熱伝導率を有する材料であれば、様々な材料を用いることが可能である。
【0058】
スペーサ20Usおよび220Usを備えていない構成であってもよい。
【0059】
振動子の材料は、石英板30に限られない。溶融変形する誘電体であれば、何れの材料であってもよい。
【0060】
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【0061】
平行溝20t1および220t1は、第1溝の一例である。熱電対40は、温度センサの一例である。垂直溝220t2は、第2溝の一例である。
【符号の説明】
【0062】
1、201、301、401:成形装置 20、220:成形型 20L、220L:下側成形型 20U、220U:上側成形型 20r:裏面 20s:表面 20h、421h:穴部 20t1、220t1、420t1:平行溝 20e、410e:排気口