(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】補助ブレーキを備えた鞍乗型車両
(51)【国際特許分類】
B62L 1/00 20060101AFI20241030BHJP
B62J 45/00 20200101ALI20241030BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20241030BHJP
F16D 67/06 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
B62L1/00 Z
B62J45/00
B60T7/12 B
F16D67/06 Z
(21)【出願番号】P 2021111034
(22)【出願日】2021-07-02
【審査請求日】2024-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【氏名又は名称】笹沼 崇
(72)【発明者】
【氏名】下園 隼人
(72)【発明者】
【氏名】大岸 聡史
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-067167(JP,U)
【文献】特開2014-196096(JP,A)
【文献】特開2010-221887(JP,A)
【文献】実開昭50-125947(JP,U)
【文献】中国実用新案第201010011(CN,Y)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62L 1/00
B62J 45/00
B60T 7/12
F16D 67/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を駆動する駆動源と、
前記駆動源から駆動輪に動力を伝達するドライブチェーンまたはタイミングベルトからなる動力伝達部材と、
前記駆動源の出力軸に
設けられて、前記駆動源を減速させることで車両を制動する補助ブレーキと、
前記駆動源の出力軸に設けられて、前記動力伝達部材が掛けられる上流側接続部材と、を備え、
前記補助ブレーキが電磁ブレーキである鞍乗型車両。
【請求項2】
請求項1に記載の鞍乗型車両において
、前記補助ブレーキは、前記上流側接続部材よりも車幅方向外側に設けられている鞍乗型車両。
【請求項3】
請求項2に記載の鞍乗型車両において、前記駆動源に対して、前記上流側接続部材を挟むように、前記補助ブレーキが配置されている鞍乗型車両。
【請求項4】
車輪を駆動する駆動源と、
前記駆動源の出力軸に、前記駆動源を減速させることで車両を制動する補助ブレーキと、
前記駆動源から駆動輪に動力を伝達する動力伝達部材と、
前記駆動源の出力軸に設けられて、前記動力伝達部材に接続される上流側接続部材と、
前記上流側接続部材に隣接して前記駆動源に固定される隣接部材と、を備え、
前記補助ブレーキの少なくとも一部は、前記隣接部材とともに前記駆動源に共締めされている鞍乗型車両。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の鞍乗型車両において、さらに、
前記駆動源を支持する車体フレームと、
前記駆動輪を前記車体フレームに揺動自在に支持させるスイングアームと、を備
え、
前記スイングアームよりも前側に、前記補助ブレーキが配置されている鞍乗型車両。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の鞍乗型車両において、前記補助ブレーキは、前記駆動源の出力軸と一体に回転する回転部材である円筒形状のロータと、静止部材である円筒形状のステータとを有し、
円筒形状の前記ステータの中空孔に、円筒形状の前記ロータの一部が挿通されている鞍乗型車両。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の鞍乗型車両において、前記駆動源は、駆動軸を有する駆動源本体と、前記駆動軸の減速比を切り替え可能な変速機とを有し、
前記変速機の出力軸に前記補助ブレーキが設けられている鞍乗型車両。
【請求項8】
車輪を駆動する駆動源と、
前記駆動源の出力軸に、前記駆動源を減速させることで車両を制動する補助ブレーキと、
前記補助ブレーキを制御する制御装置と、を備え、
前記補助ブレーキは、車体状態に基づいて、運転者による制動指令とは異なるタイミングで制動動作
し、
前記制御装置は、車両の姿勢が変化したときに前記補助ブレーキによって前記駆動源の出力軸を制動する鞍乗型車両。
【請求項9】
請求項8に記載の鞍乗型車両において、前記制御装置は、予め定める条件を満足すると前記補助ブレーキをON状態からOFF状態へ切り替える鞍乗型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メインブレーキに加えて設けられる補助ブレーキを備えた鞍乗型車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車のような鞍乗型車両では、一般に、フロントブレーキ、リヤブレーキ等の車輪ブレーキにより、車両の制動操作が行われる(例えば、特許文献1)。このような鞍乗型車両では、コーナー進入時に車輪用ブレーキがON操作され、車速が減速する。その後、車輪用ブレーキがOFF操作され、コーナリングが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、自動二輪車のような鞍乗型車両では、車輪ブレーキのOFF操作時、すなわち、ブレーキを離したタイミングで、車体の挙動が変わる。具体的には、車輪用ブレーキを操作すると、車体の重心が変わったり、運転者が把持するグリップに振動が伝わったりすることがある。
【0005】
本発明は、車体の挙動が変わるのを抑制して、運転者の操作フィーリング低減を抑制できる鞍乗型車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の鞍乗型車両は、車輪を駆動する駆動源と、前記駆動源の出力軸に前記駆動源を減速させることで車両を制動する補助ブレーキとを備えている。前記補助ブレーキは、例えば、電磁ブレーキである。
【0007】
この構成によれば、駆動源の出力軸に補助ブレーキを設けることで、車体(ライダ)の姿勢への影響を小さくすることができる。これにより、効果的なブレーキ補助を実現できる。また、入力軸よりも出力軸の方が減速されているので、入力軸に補助ブレーキを設ける場合と比べて、適用できるブレーキの種類が多い。
【0008】
本発明において、さらに、前記駆動源から駆動輪に動力を伝達する動力伝達部材と、前記駆動源の出力軸に設けられて前記動力伝達部材に接続される上流側接続部材とを備え、前記補助ブレーキは、前記上流側接続部材よりも車幅方向外側に設けられていてもよい。ここで、動力伝達部材は、例えば、チェーン、ベルト等であり、上流側接続部材は、例えば、スプロケット、プーリ等である。この構成によれば、上流側接続部材と駆動源との位置関係を異ならせることなく、補助ブレーキを設けることができる。したがって、既存のエンジンに補助ブレーキを容易に適用できる。
【0009】
本発明において、さらに、前記駆動源から駆動輪に動力を伝達する動力伝達部材と、前記駆動源の出力軸に設けられて、前記動力伝達部材に接続される上流側接続部材と、前記上流側接続部材に隣接して前記駆動源に固定される隣接部材とを備え、前記補助ブレーキの少なくとも一部は、前記隣接部材とともに前記駆動源に共締めされていてもよい。ここで、隣接部材は、動力伝達部材を案内するガイド部材や、動力伝達部材および/または上流側接続部材を外側方から覆うカバー部材等を含む。この構成によれば、隣接部材を駆動源に固定するための固定部分を利用して、補助ブレーキを駆動源に固定することができる。したがって、補助ブレーキ専用の固定部を駆動源に新たに設ける必要がない。
【0010】
本発明において、さらに、前記駆動源の動力を駆動輪に伝達する動力伝達部材と、前記駆動源を支持する車体フレームと、前記駆動輪を前記車体フレームに揺動自在に支持させるスイングアームとを備えていてもよい。この構成によれば、スイングアームより下流側、すなわち駆動輪側に補助ブレーキを備える場合と比べて、補助ブレーキ操作時の車体挙動への影響を抑えることができる。
【0011】
本発明において、前記駆動源は、駆動軸を有する駆動源本体と、前記駆動軸の減速比を切り替え可能な変速機とを有し、前記変速機の出力軸に前記補助ブレーキが設けられていてもよい。この構成によれば、変速機の出力軸は減速されているので、補助ブレーキによる高回転での制動を防ぐことができる。
【0012】
本発明において、前記補助ブレーキは、車体状態に基づいて、運転者による制動指令とは異なるタイミングで制動動作してもよい。この場合、車両の姿勢が変化したとき、または、車速が所定値以下になった場合に前記補助ブレーキによって前記駆動源の出力軸を制動動作してもよい。さらに、予め定める条件を満足すると前記補助ブレーキがON状態からOFF状態へ切り替えられてもよい。この構成によれば、必要な場面にのみ補助ブレーキを効かせることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の鞍乗型車両によれば、車体の挙動が変わるのを抑制して、運転者の操作フィーリング低減を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る鞍乗型車両の一種である自動二輪車を示す側面図である。
【
図2】同自動二輪車のエンジンを示す側面図である。
【
図3】同エンジンの補助ブレーキの取付構造を示す分解斜視断面図である。
【
図5】(a)~(c)は、同補助ブレーキの取付構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係る鞍乗型車両の一種である自動二輪車の前部を示す側面図である。本明細書において、「右」、「左」は、車両に乗車した運転者から見た「右」、「左」をいう。また、「前」「後」とは、車両の進行方向の「前」「後」をいう。
【0016】
本実施形態の自動二輪車の車体フレームFRは、前半部を構成するメインフレーム1と、後半部を構成するリヤフレーム2とを有している。メインフレーム1は、前端のヘッドパイプ4から後方斜め下方に延びたのち、下方に湾曲して上下方向に延びている。リヤフレーム2は、メインフレーム1の後部から後方に延びている。
【0017】
ヘッドパイプ4にステアリングシャフト(図示せず)が挿通され、このステアリングシャフトを介してフロントフォーク6が支持されている。フロントフォーク6の下端部に前輪8が支持され、フロントフォーク6の上端部にハンドル10が取り付けられている。フロントフォーク6が、前輪8に作用する衝撃を吸収するフロントサスペンションを構成する。
【0018】
メインフレーム1の後端部に、スイングアームブラケット12が設けられている。スイングアームブラケット12に、スイングアーム14が上下揺動自在に支持されている。スイングアーム14の後端部に、後輪16が取り付けられている。つまり、スイングアーム14は後輪16を車体フレームFRに対して揺動自在に支持している。スイングアーム14と車体フレームFRとの間に、後輪16に作用する衝撃を吸収するリヤサスペンション(図示せず)が懸架されている。
【0019】
メインフレーム1の下方でスイングアームブラケット12の前方に、駆動源であるエンジンEが配置され、車体フレームFRに支持されている。エンジンEの動力が動力伝達部材18を介して後輪16に伝達され、後輪16が駆動する。つまり、本実施形態では、後輪16が駆動輪である。本実施形態では、動力伝達部材18としてドライブチェーンが用いられているが、これに限定されず、例えば、タイミングベルトであってもよい。
【0020】
メインフレーム1の上部に燃料タンク22が配置され、リヤフレーム2に操縦者が着座するシート24が装着されている。燃料タンク22は、エンジンEの真上で、ヘッドパイプ4の後方かつシート24の前方に配置されている。
【0021】
図2に示すように、本実施形態のエンジンEは、クランク軸26を回転自在に支持するクランクケース28と、クランクケース28から上方に突出するシリンダ30とを有している。クランク軸26がエンジンE(駆動源)の駆動軸を構成する。本実施形態では、クランク軸26の軸心26aは車幅方向(左右方向)に延びている。これらクランク軸26、クランクケース28およびシリンダ30により、エンジン本体EBが構成されている。
【0022】
本実施形態のエンジンEは、変速機32を有している。変速機32は、クランク軸26(駆動軸)の減速比を切り替え可能に構成されている。変速機32は、クランク軸26の後方に配置されている。本実施形態では、クランクケース28が変速機ケースを兼用している。変速機32は、クランク軸26の回転が入力される入力軸(図示せず)と、入力された回転の減速比を切り替えて出力する出力軸34(
図3)とを有している。つまり、変速機32の出力軸34がエンジンE(駆動源)の出力軸を構成する。出力軸34(
図3)の軸心34aは車幅方向に延びている。
【0023】
エンジンEの出力軸、すなわち変速機32の出力軸34に補助ブレーキ40が設けられている。補助ブレーキ40は、メインブレーキに加えて設けられ、運転者の操作によらず、エンジンEを減速させることで車両を制動する。
図3に示すように、補助ブレーキ40は、出力軸34の車幅方向外端部(左端部)に設けられている。詳細には、出力軸34におけるチェーン18が掛けられるスプロケット35よりも車幅方向外側に、補助ブレーキ40が設けられている。
【0024】
スプロケット35は、駆動源の出力軸34に設けられて動力伝達部材18(
図1)に接続される上流側接続部材35を構成する。上流側接続部材35は、スプロケットに限定されず、例えば、プーリであってもよい。このように、車幅方向外側に補助ブレーキ40を設けることで、外側の空きスペースを有効活用できるうえに、従来構造を変えることなく、既存のエンジンに補助ブレーキ40を追加し易い。また、車体の外側なので、ブレーキ摩擦板が冷え易い。
【0025】
補助ブレーキ40は、
図1に示すように、着脱自在なチェーンカバー38により外側方から覆われている。すなわち、補助ブレーキ40は外側から視認できない。
図2では、説明のため、チェーンカバー38が省略されている。
【0026】
本実施形態の補助ブレーキ40は、電磁ブレーキである。詳細には、本実施形態の補助ブレーキ40は、通電時に制動力が働く励磁作動型の電磁ブレーキである。ただし、補助ブレーキ40は、通電が遮断された時に制動力が働く無励磁作動型の電磁ブレーキであってもよい。また、補助ブレーキ40は電磁ブレーキに限定されず、例えば、油圧アクチュエータ、電動アクチュエータ等でブレーキ摩擦板を移動させるものであってもよい。
【0027】
図4に示すように、補助ブレーキ40は、回転部材であるロータ(ハブ)42と、静止部材であるステータ44とを有している。ロータ42は、一端側(車幅方向内側)に環状のフランジ42aが形成された円筒形状である。ロータ42の中空部にキー溝46が形成されている。エンジンEの出力軸34に形成されたキー45(
図3)がこのキー溝46に係合することで、ロータ42がエンジンEの出力軸34と一体に回転する。
【0028】
ロータ42のフランジ42aに、ねじ孔42bが形成されている。ねじ孔42bは周方向に離間して4つ設けられている。ただし、ねじ孔42bの数はこれに限定されない。このねじ孔42を介して、ロータ42に環状のライニング48が取り付けられている。ライニング48は、摩擦材の一種である。詳細には、フランジ42aの他端面(車幅方向外側面)にライニング48が当接され、車幅方向外側からねじ孔42bにねじ体50が締め付けられている。これにより、ライニング48がロータ42と一体に回転する。
【0029】
ロータ42のフランジ42aに、貫通孔42cが形成されている。貫通孔42cは周方向に離間して4つ設けられている。ただし、貫通孔42cの数はこれに限定されない。本実施形態では、貫通孔42cとねじ孔42が周方向に交互に形成されている。
【0030】
ロータ42に環状のブレーキアーマチュア52が取り付けられている。ブレーキアーマチュア52は、磁性体の一種である。ブレーキアーマチュア52は、つば付き円筒形の定荷重ばねのようなばね部材54によりライニング48に取り付けられている。詳細には、ばね部材54の一端部54a(車幅方向内側部)がライニング48に係止され、ばね部材54の他端部54b(車幅方向外側部)がブレーキアーマチュア52に係止されている。これにより、ブレーキアーマチュア52が、軸方向AXに移動可能な状態で、ロータ42と一体に回転する。
【0031】
ステータ44は、円筒形状の本体部44aと、その他端側(車幅方向外側)に形成された環状のフランジ44bとを有している。ステータ44の本体部44aの中空孔44dの内径はロータ42の円筒部分の外径よりも大きく設定されおり、ステータ44の中空孔44dにロータ42の円筒部分の一部が挿通されている。ロータ42とステータ44は、ロータ42のブレーキアーマチュア52の他端面(外側端面)と、ステータ44の本体部44aの一端面(内側端面)との間に、所定の軸方向ギャップGが形成されるように位置決めされている。
【0032】
ステータ44の本体部44aにコイル56が設けられている。また、ステータ44の本体部44aに、コイル56に電気を供給するケーブル58の一端が接続されている。ケーブル58の他端は電源59に接続されている。コイル56への電気の供給のON/OFFは、後述の制御装置60により行われる。ケーブル58からコイル56に電流が流れると、ステータ44が電磁石として機能する。
【0033】
ステータ44のフランジ44bに、挿通孔44cが形成されている。
図3に示すように、挿通孔44cは周方向に離間して4つ設けられている。ただし、挿通孔44cの数はこれに限定されない。この挿通孔44cを用いて、ステータ44がエンジンEに取り付けられている。
【0034】
詳細には、挿通孔44cに挿通される締結部材62を用いて、ステータ44がホルダ64に取り付けられおり、ホルダ64がエンジンEのクランクケース28に取り付けられている。ホルダ64は、円筒状のホルダ本体64aと、ホルダ本体64aから径方向延びる取付部64bとを有し、ホルダ本体64aの内部に補助ブレーキ40を保持する。
図3では、4本の締結部材62のうちの1本のみが示されている。
【0035】
本実施形態では、ホルダ64は、チェーンガイド66と共に、クランクケース28のボス部65に共締めされている。ボス部65は、チェーンガイド66を取り付けるためのもので、補助ブレーキ40を備えない既存のエンジンにも設けられている。本実施形態では、チェーンガイド66は、クランクケース28に設けられた4つのボス部65に締結されており、そのうちの3個所で補助ブレーキ40が共締めされている。
【0036】
チェーンガイド66は、チェーン18(
図1)を案内するガイド部材であり、上流側接続部材(スプロケット35)に隣接して駆動源(エンジンE)に固定される隣接部材を構成する。隣接部材66は、チェーンガイド66に限定されず、例えば、スプロケット35を外側方から覆うスプロケットカバー、チェーンを外側方から覆うチェーンカバー等であってもよい。
【0037】
図3,5を用いて、補助ブレーキ40の支持構造を説明する。まず、
図3に示す補助ブレーキ40のロータ42(
図4)をエンジンEの出力軸34に挿入し、ロータ42のキー溝(
図4)に出力軸34のキー45を係合させる。この状態で、ナット部材69が車幅方向外側から出力軸34に締結される。これにより、ロータ42が、抜け止めされると共に、出力軸34に相対回転不能に連結される。
【0038】
図5(a)に示すように、チェーンガイド66をクランクケース28の外側面に配置して、チェーンガイド66に設けられた挿通孔66aに車幅方向外側からボルトのような締結部材68を挿通し、ボス部65のねじ孔65a(
図3)に締め付ける。このとき、4つの挿通孔66aのうち、補助ブレーキ40との共締めに使用されない1箇所(
図5(a)の最も下方)のみに締結部材68が挿通される。これにより、チェーンガイド66がクランクケース28に対して仮止めされる。なお、ロータ42は出力軸34に取り付けられているが、
図5(a)~(c)ではロータ42は省略されている。
【0039】
つぎに、
図5(b)に示すように、ホルダ64をチェーンガイド66の外側面に配置して、ボルトのような締結部材70でホルダ64とチェーンガイド66をクランクケース28に共締めする。具体的には、ホルダ64の取付部64bに設けられた挿通孔64cおよびチェーンガイド66の挿通孔66a(
図5(a))の順に車幅方向外側から締結部材70が挿通され、ボス部65のねじ孔65a(
図3)に締め付けられる。同図に示すように、ホルダ本体64の他端面(車幅方向外側端面)には、ステータ44の挿通孔44c(
図4)に対応した4つのねじ孔64dが形成されている。
【0040】
さらに、
図4の補助ブレーキ40のステータ44をホルダ64のホルダ本体64に装着し、
図5(c)に示すように、ボルトのような締結部材72によりホルダ64とステータ44を締結する。具体的には、ステータ44の挿通孔44cに車幅方向外側から締結部材72が挿通され、ホルダ本体64のねじ孔64dに締め付けられる。このとき、ステータ44のフランジ44bとホルダ64のホルダ本体64との間にシム(図示せず)が介装され、ロータ42とステータ44との間に所定の軸方向ギャップG(
図4)が形成されるように位置決めされる。
【0041】
つぎに、
図4を用いて、補助ブレーキ40の動作を説明する。
図4は、電源59がOFFの状態(非制動状態)を示している。電源59がONとなると、ケーブル58を介してコイル56に電流が流れる。これにより、ステータ44が電磁石として機能する。ステータ44の磁力により、ブレーキアーマチュア52がステータ44側に引き寄せられる。
【0042】
このとき、ばね部材54の作用により、ブレーキアーマチュア52が、軸方向ギャップGの分だけステータ側に移動し、磁力によってステータ44に密着する。その結果、ばね部材54を介してブレーキアーマチュア52に連結されたライニング48(摩擦材)によって摩擦力が発生し、制動状態となる。電源がOFFになると磁力がなくなり、ばね部材54の復元力でブレーキアーマチュア52が元の場所に戻り、補助ブレーキ40は解放状態(非制動状態)になる。
【0043】
つづいて、補助ブレーキ40の動作(ON/OFF)のタイミングについて説明する。補助ブレーキ40は、車体の状態に基づいて、運転者による制動指令とは異なるタイミングで制動動作(ON操作)する。車体の状態は、例えば、車両の姿勢が変化したとき、車速が所定値以下なったとき等である。車両の姿勢の変化は、例えば、車両がコーナーに進入したときである。これらの判定は、車体に取り付けられた各種センサで実行される。例えば、車両の姿勢の変化は、バンク角センサ、サスペンションのストロークセンサで検出できる。車速が所定値以下なることは、車速センサで検出できる。
【0044】
例えば、フロントサスペンションが大きく伸びたことをストロークセンサが検知した場合に、補助ブレーキ40をONしてもよい。また、リアサスペンションが大きく縮んだことをストロークセンサが検知した場合に、補助ブレーキ40をONしてもよい。これに加えて、車速が所定値以下となった場合またはエンジン回転数が所定値以下となった場合に補助ブレーキ40をONしてもよい。あるいは、車体が大きく傾斜したことをバンク角センサが検知した場合に、補助ブレーキ40をONしてもよい。これらは単なる一例であり、補助ブレーキ40の動作(ON/OFF)のタイミングはこれらに限定されない。
【0045】
さらに、予め定める条件を満足することで、補助ブレーキ40がON状態からOFF状態へ切り替えられる。例えば、補助ブレーキ40のON状態が所定時間経過した場合に、補助ブレーキ40をOFFする。
【0046】
補助ブレーキ40のON/OFF操作は、制御装置60により行われる。つまり、車体の状況(各種センサの信号)が制御装置60に入力され、制御装置60からの信号により電源59がON/OFFされる。
【0047】
制御装置60は、例えば、プログラムと、これを実行する演算処理装置からなる。制御装置60は、エンジンEまたは車両の電子制御ユニット(ECU)に含まれていてもよく、専用の装置として設けられてもよい。
【0048】
図1の前輪8のブレーキをON/OFFすると、フロントサスペンション(フロントフォーク6)が大きく伸び縮みして、車体の重心が変わったり、ハンドル10のグリップ振動が伝わったりすることがある。また、後輪16のブレーキをON/OFFすると、スイングアーム14やこれに懸架されたリアサスペンション(図示せず)が大きく伸び縮みして、車体の重心が変わることがある。
【0049】
上記構成によれば、
図3に示すエンジンEの出力軸34に補助ブレーキ40が設けられているので、車体(ライダ)の姿勢への影響を小さくすることができる。このように、フロントフォーク6やスイングアーム14よりも車輪8,16側にブレーキを備える場合と比べて、ブレーキを操作しても、フロントフォーク6やスイングアーム14に与える影響が小さく、補助ブレーキ40操作時の車体挙動への影響を抑えることができる。これにより、運転者の操作フィーリング低減を抑制できるうえに、効果的なブレーキ補助を実現できる。また、減速機32の入力軸(図示せず)よりも出力軸34の方が減速されているので、補助ブレーキ40による高回転での制動を防ぐことができるから、入力軸に補助ブレーキ40を設ける場合と比べて、適用できるブレーキの種類が多い。
【0050】
また、出力軸34におけるスプロケット35よりも車幅方向外側に補助ブレーキ40が設けられている。これにより、スプロケット35とクランクケース28との位置関係を異ならせることなく、補助ブレーキ40を設けることができる。したがって、既存のエンジンEに補助ブレーキ40を容易に適用できる。
【0051】
さらに、補助ブレーキ40が、チェーンガイド66とともにエンジンEに共締めされている。このように、チェーンガイド66をエンジンEに固定するための既存のボス部65を利用して、補助ブレーキ40をエンジンEに固定することができる。したがって、補助ブレーキ専用の固定部を駆動源に新たに設ける必要がなく、既存のエンジンEに補助ブレーキ40を容易に適用できる。
【0052】
図4に示す補助ブレーキ40は、車体状態に基づいて、運転者による制動指令とは異なるタイミングで制動動作される。詳細には、車両の姿勢が変化したとき、または、車速が所定値以下になった場合に補助ブレーキ40によってエンジンEの出力軸34が制動動作される。さらに、予め定める条件を満足すると補助ブレーキ40がON状態からOFF状態へ切り替えられる。これにより、必要な場面にのみ補助ブレーキ40を効かせることができる。
【0053】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。例えば、上記実施形態では、自動二輪車について説明したが、本発明は自動二輪車以外の鞍乗型車両、例えば、三輪車、四輪バギー等にも適用可能である。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
14 スイングアーム
16 後輪(駆動輪)
18 ドライブチェーン(動力伝達部材)
32 変速機
34 変速機の出力軸(駆動源の出力軸)
35 スプロケット(上流側接続部材)
40 補助ブレーキ(電磁ブレーキ)
60 制御装置
66 チェーンガイド(隣接部材)
E エンジン(駆動源)
EB エンジン本体(駆動源本体)
FR 車体フレーム